説明

磁気抵抗効果素子の製造方法

【課題】低RAでも高MR比を有する磁気抵抗効果素子の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】 酸化性ガスに対するゲッタ効果がMgOより大きい物質(但し、Ta、CuN、CoFe、Ru、CoFeB、Ti、Mg、Cr、及びZrの1以上からなる、金属又は半導体を除く)を含有するターゲットをスパッタリングして、成膜室の内壁に被着する第一工程と、前記第一工程後に、前記成膜室においてMgOターゲットに高周波電力を印加してスパッタリング法によりMgO層を形成する第二工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、MRAM(magnetic random access memory)や磁気ヘッドのセンサなどに利用される磁気抵抗効果素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MRAM(magnetic random access memory)や磁気ヘッドのセンサに磁気抵抗効果素子が用いられている。第1の強磁性層/絶縁体層/第2の強磁性層の基本構造を有する磁気抵抗効果素子は、第1の強磁性層と第2の強磁性層の磁化の向きが平行のとき電気抵抗は低抵抗、反平行のとき高抵抗となる性質を利用して、一方の強磁性層の磁化の向きを固定しておき、もう一方の強磁性層の磁化の向きが外部の磁場に応じて変化するようにしておくことで、外部磁場の向きを電気抵抗の変化として検出するものである。高い検出感度を得るためには、磁化の向きが平行のときと反平行のときでの電気抵抗値の変化量の指標であるMR比(Magnetoresistance rasio。磁気抵抗比)が高いことが要求される。発明者は、高いMR比が得られる構成として、磁気抵抗効果素子の絶縁体層としてスパッタ成膜した酸化マグネシウム(以下、MgOと記載するが、ストイキオメトリが「1:1」を意味するものではない。)を用いた磁気抵抗効果素子を提案した(例えば、非特許文献1及び特許文献1を参照)。
【0003】
【非特許文献1】APPLIED PHYSICS LETTERS 86、092502(2005)
【特許文献1】特願2004−259280
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MRAMの高密度化や磁気ヘッドの高分解能化のために素子サイズをさらに小さくすることが要請されている。素子サイズを小さくしたとき、良好な動作のためには、磁化の向きが平行のときの1μm当りの電気抵抗値(以下、RAと称す)を十分に下げる必要がある。絶縁体層のMgO膜の厚さを薄くすることで、磁気抵抗効果素子のRAは下げられる。しかし、MgO膜の厚さを薄くすると、MR比が大幅に低下してしまい、その結果、低いRAと高いMR比を両立させることが困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は、低RAでも高MR比を有する磁気抵抗効果素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法は、酸化性ガスに対するゲッタ効果がMgOより大きい物質(但し、Ta、CuN、CoFe、Ru、CoFeB、Ti、Mg、Cr、及びZrの1以上からなる、金属又は半導体を除く)を含有するターゲットをスパッタリングして、成膜室の内壁に被着する第一工程と、前記第一工程後に、前記成膜室においてMgOターゲットに高周波電力を印加してスパッタリング法によりMgO層を形成する第二工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法では、MgO層を形成する成膜室内部の構成部材の表面に酸素や水など(以下、酸化性ガスという。)に対しゲッタ効果の大きい物質が被着された状態で、基板にMgO層を成膜するようにした。それによって、MgOの膜厚が薄くても高MR比の磁気抵抗効果素子を得ることができ、その結果、低RAでも高MR比の磁気抵抗効果素子を得ることができた。MgO層の成膜中に成膜手段から放出される酸素や水などの酸化性ガスが、前記酸素や水などの酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質に取り込まれて除去され、前記成膜室内に前記ガスの残留が少ない状態で、MgO層が成膜できると考えられる。
【0008】
また、MgO成膜室内に被着させる酸素や水などの酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質として、対象となる磁気抵抗効果素子を構成する物質の中から選択すれば、MgO成膜室内の構成部材の表面に酸素や水などの酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質を被着させる手段と薄膜層を形成する手段を兼用でき、酸素や水などの酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質を被着させる専用の手段を設ける必要がない。また、MgO成膜室内の構成部材の表面に酸素や水などの酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質を被着する工程と薄膜層を形成する工程を同時に達成できるので、工程の短縮が図れる。
【0009】
種々検討した結果、磁気抵抗効果素子を構成する薄膜層の中で、MgO絶縁体層を成膜する工程が重要であり、MgO絶縁体層を成膜する成膜室内の構成部材表面に被着している物質の種類によって、磁気抵抗効果素子の特性が大きく影響されることを見出した。
【0010】
さらに検討の結果、成膜室内の構成部材表面に被着している物質が、酸素や水などの酸化性ガスに対してゲッタ効果の大きい物質であるとき、低RAであっても高MR比の磁気抵抗効果素子が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて得られたものである。
【0011】
また、本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法では、基板がフローティング電位にある状態で、或いは、基板と該基板を保持する基板保持部とを電気的に絶縁した状態で、MgO層を形成するようにしたことにより、MgOの膜厚が薄くても高MR比の磁気抵抗効果素子を得ることができ、その結果、低RAでも高MR比の磁気抵抗効果素子を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1、図2及び図3を参照して、本発明の第1の実施例を説明する。図1は、第1の実施例において製造する、MgO絶縁体層を有する磁気抵抗効果素子の薄膜構成の一例を示す図である。
【0013】
図1において、表面にSiO(二酸化シリコン)を形成したSi(シリコン)基板12上に、Ta(タンタル)からなる下部電極層9(膜厚10nm)、PtMn(白金マンガン)からなる反強磁性層8(膜厚15nm)、CoFe(コバルト鉄)層6(膜厚2.5nm)、Ru(ルテニウム)層5(膜厚0.85nm)、CoFeB(コバルト鉄ボロン)からなる第1の強磁性層2(膜厚3nm)、MgO(酸化マグネシウム)からなる絶縁体層4(膜厚1.0nm)、CoFeBからなる第2の強磁性層3(膜厚3nm)、Taからなる上部電極層10(膜厚10nm)、酸化防止のためのRu層11(膜厚7nm)が積層されている。
【0014】
次に、本発明の製造装置を図2によって説明する。図2は、本発明の第1の実施例の製造装置の成膜室の構成の一例を示す平面模式図であり、それぞれ真空に排気可能な、搬送室43、ロードロック室44、アンロードロック室45、第1成膜室21、第2成膜室41、第3成膜室42を有している。搬送室43には、ロードロック室44、アンロードロック室45がバルブを介して接続され、これにより、基板は大気圧の外部空間と真空の装置内の間を出し入れできる。また、搬送室43には、第1成膜室21、第2成膜室41及び第3成膜室42がバルブを介して接続されている。これによって、真空状態を維持したまま各成膜室の間を相互に移送できる。
【0015】
各成膜室には、前記磁気抵抗効果素子の前記各層を形成するための成膜手段が設けられている。すなわち、第1成膜室21には、第1のTa成膜手段46及びMgO成膜手段47が設けられており、第2成膜室41には、PtMn成膜手段48、CoFe成膜手段49及び第2のTa成膜手段50が設けられており、第3成膜室42には、Ru成膜手段51及びCoFeB成膜手段52が設けられている。基板は大気に晒されること無く各成膜室間を移送され、前記磁気抵抗効果素子の前記各層を形成する成膜手段によって順次成膜される。
【0016】
図3は、図2に示した製造装置の第1成膜室の内部構成を説明するための断面図である。第2成膜室、第3成膜室の内部構成は、それぞれに異なる物質を成膜すること以外は、第1成膜室と同じである。本実施例の成膜手段にはスパッタ法を採用した。第1成膜室21は、バルブ34を介して搬送室と接続し、バルブ34を閉にすることによって内部が気密に保持される。第1成膜室21の下部には、基板30を保持する基板保持部29が設けられている。基板保持部29の表面は窒化アルミニウムからなる絶縁体で覆われている。
【0017】
それぞれの成膜手段は、成膜物質のターゲットとターゲットへの電力供給部を主要な要素としている。第1成膜室21の上部には、MgOからなるターゲット24がターゲット取付部23に取り付けられている。また、仕切板22により区画されて、Taからなるターゲット26がターゲット取付部25に取り付けられている。ターゲット24(MgO)及びターゲット26(Ta)には、高周波電源(図に示さず)から高周波電力がターゲット取付部23、25を介して供給されるようになっている。
【0018】
また、ターゲット24(MgO)を遮蔽するシャッタ27、ターゲット26(Ta)を遮蔽するシャッタ28を有し、シャッタ31によって基板12が遮蔽されるようになっている。各シャッタ27、28,31は、ターゲット24(MgO)又はターゲット26(Ta)のスパッタリングに応じて図示の位置から個別に退避可能に構成されている。第1成膜室21には、成膜室内壁37の側面を覆うように円筒形の防着シールド36が設けられている。成膜室内壁、防着シールド、シャッタ、仕切板、などを以下「成膜室内構成部材」と称する。
【0019】
第1成膜室21の下方には、成膜室21内を真空排気するための真空排気手段35が設けられている。
【0020】
次に、この発明の第1の実施例によって図1に示した磁気抵抗効果素子の一例を成膜処理する方法について、図2を参照して説明する。
【0021】
表面にSiO(二酸化シリコン)を形成したSi(シリコン)基板12は、Taよりなる下部電極層9を成膜するために、第1成膜室21に搬入され、保持部29に保持される。保持部29の表面は窒化アルミニウムからなる絶縁物で覆われており、基板12は電気的にフローティングの状態で保持される。成膜前の第1成膜室21は、バックグラウンド圧力10−7Pa以下に排気されており、第1成膜室21内にAr(アルゴン)を導入し、所定の圧力にし、シャッタ27、シャッタ28及びシャッタ31を閉状態にし、Taターゲット26に高周波電力を印加して、Taのプリスパッタを行う。次に、シャッタ31、シャッタ28を開状態にし、Taターゲット26に高周波電力を印加することによって、基板12上にTa膜を形成する。このとき同時に、第1成膜室21内部の成膜室内構成部材である、成膜室内壁37、防着シールド36の内壁、仕切板22やシャッタなどの一部には、Taターゲット26からスパッタされたTaが被着される。Taターゲットからのスパッタ粒子が被着される領域は、ターゲットの位置や形状、成膜室内の成膜室内構成部材の位置や形状、成膜条件などによって異なる。所定の時間スパッタした後、シャッタ31を閉状態にし、Taターゲット26に印加する高周波電力をオフにする。
【0022】
Ta下部電極層9が成膜された基板12は、第1成膜室21から搬出され、PtMnの成膜手段48及びCoFe成膜手段49が設けられた第2成膜室41に移送され、保持部に保持される。PtMn成膜手段48を用いて、基板上にPtMn層8が形成され、次いで、CoFe成膜手段49を用いて、CoFe層6が形成される。次に、基板12は、第2成膜室41から搬出され、Ru成膜手段51及びCoFeB成膜手段52が設けられた第3成膜室42に移送され、保持部に保持される。Ru成膜手段51を用いて、基板上にRu層5が形成され、次いで、CoFeB成膜手段52を用いて、CoFeBからなる第1の強磁性層2が形成される。このようにして、図1に示すPtMn反強磁性層8、CoFe強磁性層6、Ru層5、CoFeB強磁性層2までが順次形成される。尚、成膜前の各成膜室内のバックグラウンド圧力は10−7Pa以下である。
【0023】
図1の第1の強磁性層2までが積層された基板12は、次にMgO層4を成膜するため、再び第1成膜室21内へ搬送され、基板保持部29に保持される。このとき、第1成膜室21内の成膜室内構成部材の表面は、基板上にTa層を形成した工程でスパッタされたTaが最表面に被着された状態になっている。このような成膜室内で、MgO成膜手段47によってMgO層を基板12上にスパッタ成膜する。シャッタ28、シャッタ27及びシャッタ31を閉状態にし、MgOターゲット24に高周波電力を印加することによって、MgOのプリスパッタを行う。次に、シャッタ27を開状態にし、所定の時間MgOをスパッタする。次に、シャッタ31を開状態にし、基板12上にMgO層4を成膜する。
【0024】
基板12は、第1成膜室21から搬出され、CoFeB成膜手段52の設けられた第3成膜室42に移動し、CoFeBからなる第2の強磁性層3が形成される。次に基板12は、第1のTa成膜手段46が配置されている第1成膜室21に再び搬入され、Ta上部電極層10が形成される。次に、Ru成膜手段51の設けられた第3成膜室42に移動し、Ru酸化防止層11が形成される。このようにして形成された図1に示す磁気抵抗効果素子は、MgO層の膜厚が薄くても高MR比の良好な特性を得ることができた。その結果、低RAでも高MR比の磁気抵抗効果素子を得ることができた。
【0025】
本発明の第1の実施例においては、磁気抵抗効果素子を構成する物質の中で、酸化性ガスに対しゲッタ効果の最も大きい物質(本実施例ではTa)の成膜手段をMgOの成膜手段の設けられた第1成膜室内に設けて、MgO膜を成膜する第1成膜室内では、磁気抵抗効果素子を構成する物質の中で酸化性ガスに対しゲッタ効果の最も大きい物質(本実施例ではTa)膜とMgO膜のみが成膜されるようにした。また、MgO層を形成する成膜室内の成膜室内構成部材の表面に被着されるTaの酸化性ガスに対するゲッタ効果は、MgOや第1の強磁性層を形成するCoFeBの酸化性ガスに対するゲッタ効果よりも大きい。
【0026】
図4は、磁気抵抗効果素子のMgO層の膜厚・MR比特性を本発明による製造方法と従来の製造方法とで比較した図であり、図5は、磁気抵抗効果素子のMgO層のRA・MR比特性を本発明による製造方法と従来の製造方法とで比較した図である。従来法では、Ta下部電極層及びTa上部電極層を第2成膜室41に設けられた第2のTa成膜手段50を用いて形成している。従来法では、MgO層を成膜する第1成膜室内の成膜室内構成部材の表面にMgOが被着された成膜室内でMgO層が成膜される。
【0027】
図4では、Taを被着した成膜室でMgO層を成膜する本発明の製造方法で製造した磁気抵抗効果素子のMgO膜厚・MR比特性を四角(□)で示し、前記Taを被着させずにMgO層を成膜した従来の製造方法で製造した磁気抵抗効果素子のMgO膜厚・MR比特性を黒塗り菱形(◆)で示している。従来の製造方法では、MgO層の膜厚が薄くなるに従いMR比が低下しているが、本発明の製造方法によれば、MgO層の膜厚を0.9nmにまで薄くしても高いMR比の磁気抵抗効果素子を得ることができた。
【0028】
図5も同様に、本発明の製造方法により製造した磁気抵抗効果素子のRA・MR比特性を四角(□)で示し、従来の製造方法により製造した磁気抵抗効果素子のRA・MR比特性を黒塗り菱形(◆)で示している。従来の製造方法では、RAが約150ΩμmのときのMR比は50%に満たないが、本発明の製造方法によれば、RAが約2ΩμmのときのMR比は約130%に達しており、低RAで、高MR比の磁気抵抗効果素子を得ることができた。
【0029】
本発明の第1の実施形態によれば、MgOを成膜するときの成膜室内の成膜室内構成部材の表面は酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きいTaで覆われており、MgO成膜時に放出される酸化性ガスに対しゲッタ効果を有するので、強磁性層2の表面の酸化や成膜されたMgO層4の膜質の劣化を防止できたと考えられる。
【0030】
従来の製造方法及び本発明の製造方法のどちらにおいても、磁気抵抗効果素子の各薄膜層は、バックグラウンド圧力10−7Pa以下に真空排気した成膜室内で形成した。MgO成膜室内の成膜室内構成部材表面に酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質であるTaを被覆させることなしには、バックグラウンド圧力を10−7Paにして、MgO絶縁体層を成膜して、磁気抵抗効果素子を形成しても、MgO膜の厚さが薄い場合のMR比の低下は改善されなかった。MgOは水を吸着し易い潮解性の物質であり、MgOの焼結体は多孔質の物質であるため、MgOターゲットには酸素や水等の酸化性ガスが吸着していると考えられる。バックグラウンド圧力を10−7Paまで排気してもターゲットに吸着した酸化性ガスは容易に排気されず、MgOのスパッタ開始と同時にイオンで叩かれたMgOターゲットから酸化性ガスがMgO成膜中の成膜空間に放出される。このため、処理基板上に形成された強磁性層の表面の酸化や成膜されるMgO絶縁体層の膜質の劣化を生じ、磁気抵抗効果素子の特性を悪化させたものと考えられる。
【0031】
酸素や水などの酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質は、Taに限定されるものではなく、Ti、Mg、Zr、Nb、Mo、W、Cr、Mn、Hf、V、B、Si、Al又はGeなどであってもよい。また、酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい2つ以上の物質からなる合金とすることもできる。
【0032】
上記の実施の形態では、MgO成膜室内に被着させる酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質として、磁気抵抗効果素子を構成する下部電極層9及び上部電極層10と同じ物質(Ta)を採択したので、酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質(Ta)をMgO成膜室内に被着させる工程は、Ta下部電極層9及びTa上部電極層10の成膜工程を行うことで同時に達成でき、殊更にそのための工程を設ける必要がない。また、この第1の実施例では磁気抵抗効果素子を構成する下部電極層9及び上部電極層10の双方のTaを、MgOを成膜する第1成膜室21で成膜しているので、MgO成膜室内にTaを比較的厚くかつ広い領域に付けることができ、大きなゲッタ効果が得られる。
【0033】
さらに、第1の実施例において、MgO層4を成膜する直前に、第1成膜室21内の成膜室内構成部材表面にTaを被着させる工程を挿入することもできる。このような工程を挿入することによって、磁気抵抗効果素子を構成するTa層を形成する工程で第1成膜室21内の成膜室内構成部材表面に被着されるTaに加えて、さらにTaを被着させることができるので、成膜室21内の成膜室内構成部材表面に被着させるTaの厚さやTaが被着させる領域を大きくできる。しかも、MgO層を形成する工程の直前に成膜室内にTaを被着させることができるので、MgO膜の成膜時に放出される酸化性ガスに対して高いゲッタ効果が得られると考えられる。
【0034】
また、基板12が第1成膜室21外にあるとき(例えば、第1の強磁性層2の成膜処理中など)、第1成膜室21内に設けられたTa成膜手段を利用して、シャッタ31を閉状態にしてTaをスパッタして成膜室21内の成膜室内構成部材の表面にTaを被着させる工程を行うようにしてもよい。このようにすれば、成膜室21内の成膜室内構成部材の表面に被着するTaの厚さを厚くでき、被着する領域を広くできるので、MgO膜の成膜時に放出される酸化性ガスに対するゲッタ効果を大きくすることができる。しかも、この工程は基板の成膜工程と並行して行われるので、工程時間を増やさずに済むメリットがある。また、この成膜室21内の成膜室内構成部材の表面にTaを被着させるスパッタ工程は、シャッタ31を閉状態とする動作の代わりにダミー基板を基板保持部に載置して行うこともできる。
【0035】
次に図6及び図7を参照して、第2の実施例を説明する。
【0036】
図6は、本発明の第2の実施例におけるMgO絶縁体層を有する磁気抵抗効果素子の薄膜構成の一例を示す図である。図1の下部電極層9に代わって、図6においては下部電極部64が形成される。下部電極部64は第1のTa層61a、CuN層62、第2のTa層61bからなっている。磁気抵抗効果素子の他の部分の薄膜構成は、第1の実施例の図1と変わらない。
【0037】
図7は、本発明の第2の実施例に用いられる製造装置の概略図である。図7では、第1の実施例に用いられる図2の製造装置において、第1成膜室に新たにCuN成膜手段65が設けられている。すなわち、第2の実施例の製造装置の特徴として、MgOを成膜する成膜手段を有する第1成膜室に、酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質の成膜手段(Ta)と酸化性ガスに対しゲッタ効果の小さい物質の成膜手段(CuN)が併設されている。
【0038】
次に、本発明の製造装置及び製造方法の第2の実施例によって磁気抵抗効果素子の一例を成膜処理する方法について、図6及び図7により説明する。
【0039】
SiO膜が形成されたSi基板12は、下部電極部64の第1のTa層61a(図6参照)を成膜するために、第1のTa成膜手段46が設けられている第1成膜室21で成膜を行う。このとき同時に、第1成膜室21内の成膜室内構成部材である、成膜室内壁37、防着シールド36、仕切板22やシャッタなどの表面の一部には、Taが被着される。次に第1成膜室21に設けられたCuN成膜手段62を用いて、下部電極部64のCuN層62(図6参照)を成膜する。このとき同時に、第1成膜室21内に、スパッタされたCuNが被着される。次に下部電極部64の第2のTa層61b(図6参照)を成膜するために、第1成膜室21に設けられている第1のTa成膜手段46を用いて、基板12上にTaを成膜する。このとき同時に、第1成膜室21内の成膜室内構成部材の最表面に、酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質であるTaが被着されることになる。次に、Ta下部電極部64が成膜された基板12は、実施例1と同様に、第1成膜室21から搬出されて、PtMn及びCoFeの各成膜手段が設けられた第2成膜室41、Ru及びCoFeBの各成膜手段が設けられた第3成膜室42を順に移動して、図1に示すPtMn反強磁性層8、CoFe層6、Ru層5、CoFeBからなる第1の強磁性層2までが順次成膜される。尚、成膜前の各成膜室内のバックグラウンド圧力は10−7Pa以下である。
【0040】
次に、基板12を第1成膜室21内へ搬入し、MgO成膜手段47によってMgO膜をスパッタ成膜する。MgO層4を成膜するとき、第1成膜室21の内部は、酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きいTaが表面に被着された状態になっている。
【0041】
次に、MgO層4まで成膜された基板12は、CoFeB成膜手段の設けられた第3成膜室42に移動し、CoFeBからなる第2の強磁性層3が成膜される。そして上部電極層10を成膜するために、第1成膜室21に再び搬送し、第1のTa成膜手段によって基板上にTaを成膜する。最後に、基板は、第3成膜室42に移動し、Ru成膜手段51によってRu層11を成膜して、図6に示す薄膜構成を有する磁気抵抗効果素子が形成される。
【0042】
本発明の第2の実施例においては、MgOを成膜する第1成膜室に、本実施例の磁気抵抗効果素子を構成する薄膜層を形成する物質の中で、酸化性ガスに対しゲッタ効果の最も大きい物質(本実施例ではTa)の成膜手段と酸化性ガスに対しゲッタ効果がより小さい物質(本実施例ではCuN)の成膜手段が併設されている。そして、第1成膜室内の成膜室内構成部材表面に酸化性ガスに対しゲッタ効果がより小さい物質が被着された後、酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質を被着させて、第1成膜室内に酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質が被着されている状態でMgO膜を成膜する。
【0043】
このようにして形成された図6に示す磁気抵抗効果素子は、MgO層の膜厚が薄くても高MR比の良好な特性を得ることができた。その結果、低RAでも高MR比の磁気抵抗効果素子を得ることができた。しかも、第1のTa層、CuN層、第2のTa層を連続して一つの成膜室で形成することができるので、基板搬送を簡略化でき、工程時間を短縮できた。
【0044】
本発明の第2の実施例では、MgO層を成膜する第1成膜室内に酸化性ガスに対しゲッタ効果の小さい物質の成膜手段と成膜室内の成膜室内構成部材表面に酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質を被着させる手段を有しており、酸化性ガスに対しゲッタ効果の小さい物質が被着された後、MgO層を成膜する直前に成膜室内の成膜室内構成部材表面に酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質が被着されているように、MgOを成膜する前に成膜室内の成膜室内構成部材表面に酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質(本実施例ではTa)を被着させる工程を有している。
【0045】
本発明の第2の実施例において、MgO層を成膜する成膜室内には、MgO膜の成膜手段、Taの成膜手段及びCuNの成膜手段が設けられている。これらの成膜手段によって被着される物質のなかで、酸化性ガスに対するゲッタ効果は、Taが最も大きい。また、MgO層を形成する成膜室内の成膜室内構成部材の表面に被着されるTaの酸化性ガスに対するゲッタ効果は、MgOや第1の強磁性層を形成するCoFeBの酸化性ガスに対するゲッタ効果よりも大きい。
【0046】
次に、図8及び図9を参照して、第3の実施例を説明する。
【0047】
図8は、本発明の第3の実施例におけるMgO絶縁体層を有する磁気抵抗効果素子の薄膜構成の一例を示す図である。本第3の実施例においては、図8に示すように、図1の磁気抵抗効果素子の薄膜構成において、MgO層4の下層にMg層66が設けられている。
【0048】
図9は、第3の実施例に用いられる製造装置の概略図である。図9の第3の実施例に用いられる製造装置は、第1の実施例に用いられる製造装置において、新たに第1成膜室にMgの成膜手段67が設けられている。
【0049】
表面にSiOを形成したSi基板12を、第1成膜室21に搬入し、基板12上にTaよりなる下部電極層9を形成する。このとき同時に、第1成膜室21内部の、成膜室内壁37、防着シールド36、仕切板22やシャッタなどの一部には、Taターゲット26からスパッタされたTaが被着される。
【0050】
次に、基板12は、PtMn及びCoFeの各成膜手段が設けられた第2成膜室41、Ru及びCoFeBの各成膜手段が設けられた第3成膜室42に順に移動して、図9に示すPtMn反強磁性層8、CoFe層6、Ru層5、CoFeBからなる第1の強磁性層2までが順次成膜される。
【0051】
尚、各薄膜層は、各成膜室内のバックグラウンド圧力を10−7Pa以下まで排気して、成膜した。
【0052】
強磁性層2までが順次積層された基板12は、再び第1成膜室21内に搬入され、Mg成膜手段67のMgターゲットをスパッタしてMg層66が成膜される。このとき同時に、第1成膜室21内部の、成膜室内壁37、防着シールド36、仕切板22やシャッタなどの一部には、MgターゲットからスパッタされたMgが被着する。Mgは酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質であり、酸素又は水などに対するゲッタ作用が大きい物質である。成膜室内がこの状態で、MgO成膜手段47のMgOターゲットをスパッタしてMgO層4を基板12上にスパッタ成膜する。
【0053】
MgO層4までが成膜された基板12は、第3成膜室42に移動し、CoFeBからなる第2の強磁性層3が成膜される。次に、基板は第1成膜室21に再び移動し、Ta上部電極層10が成膜される。次に、第3成膜室42に移動し、Ru層が成膜される。こうして、図8に示す薄膜構成を有する磁気抵抗効果素子が形成される。
【0054】
このようにして形成された磁気抵抗効果素子は、MgO層の膜厚が薄くても高MR比の良好な特性を得ることができた。その結果、低RAでも高MR比の磁気抵抗効果素子を得ることができた。
【0055】
本実施例においては、MgOを成膜する第1成膜室内の成膜室内構成部材表面に被着される酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質は、Mgである。
【0056】
MgO層はMg層の後に続けて成膜されるので、MgO成膜の直前に、Mgは第1成膜室内の成膜室内構成部材表面に被着されることになるので、本実施例においてMgOを成膜する第1成膜室内の成膜室内構成部材表面に被着されるMgは高いゲッタ効果が得られると考えられる。酸化性ガスに対するゲッタ効果の大きさは、物質の表面状態によっても変わり、Mg膜はMgO層を成膜する直前に成膜室内の成膜室内構成部材表面に被着されるため、被着されたMg膜の表面は清浄な状態にあり、より高いゲッタ効果が得られると考えられるからである。
【0057】
MgO層を形成する成膜室内でMg層形成し、それに加えてTa層も形成する本実施例においては、酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質であるMgとTaがMgO成膜室内の成膜室内構成部材表面に被着されるので、酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質をより厚く、より広い領域に被着させることができるので、より効果がある。しかし、Ta電極層をMgO成膜室で形成しなければならないというものではなく、Mg層のみをMgOの成膜室で形成し、Ta層はMgO層を成膜する成膜室とは別の成膜室で形成したとしても効果がある。
【0058】
次に図10を用いて、第4の実施例を説明する。図10は、図1に示された構成の磁気抵抗効果素子において、MgO層を基板12上に成膜する直前に、MgO層を成膜する第1成膜室内の成膜室内構成部材表面に種々の物質が被着された状態で、MgO膜を基板12上に成膜して磁気抵抗効果素子を形成し、MR比を測定し比較した図である。
【0059】
実施の方法を、MgOを成膜する第1成膜室内の成膜室内構成部材表面に被着させる物質としてTiに例を採って説明する。第1成膜室内にMgO成膜手段、Ta成膜手段に加えて、Ti成膜手段を設けた。基板12に第1の強磁性層2まで順次積層する。第1成膜室内の成膜室内構成部材表面にはTa下部電極層の形成時にTaが被着されている。MgO層4を成膜する直前に、第1成膜室21内にTiが被着される工程を挿入する。すなわち、第1の強磁性層2までが順次積層された基板12を第1成膜室21に搬送し基板保持部29に保持し、シャッタ31を閉状態として基板12を遮蔽した状態で、Tiのターゲットシャッタを開状態とし、Tiをスパッタして、成膜室内壁37、防着シールド36、シャッタ、仕切板22などの表面にTiを被着させる。次に、その状態で第1の実施例と同様にして基板12にMgO層4を成膜する。以下第1の実施例と同様に薄膜を積層して磁気抵抗効果素子を形成する。
【0060】
このようにして種々の物質が成膜室内の成膜室内構成部材表面に被着された状態で、MgO層を成膜して、磁気抵抗効果素子を形成し、MR比を測定した。その結果、MgOを被着させてMgO層をスパッタ成膜したときは、MR比約50%であったのに対し、CuN、CoFe、Ru、CoFeBを被着させてMgO層をスパッタ成膜したときは、MR比は約70%〜130%の値が得られた。Ta、Ti、Mg、Cr、Zrを被着させてMgO膜をスパッタ成膜したときは、MR比は約190%〜210%の高い値が得られることがわかった。MgOを成膜する成膜室内の成膜室内構成部材表面に被着する物質としては、MgOよりもゲッタ効果の大きい物質であれば素子特性を改善する効果がある。さらに、望ましくは、MgOを成膜する成膜室内の成膜室内構成部材表面に被着させる物質として、本発明第1、第2の実施例のTa、第3の実施例のMg以外に、Ti、Cr、Zr等を適宜採択すれば、素子特性を改善する効果が大きい。
【0061】
酸化性ガスに対するゲッタ効果の大きさは、その物質の酸素ガス吸着エネルギーの値を指標として比較できる。一方、MR比が高い値であったTi、Ta、Mg、Cr、Zrの酸素ガス吸着エネルギーの値は、145kcal/molよりも大きい。MgO成膜室内の成膜室内構成部材の表面に、その物質の酸素ガス吸着エネルギーの値が145kcal/molよりも大きい酸化性ガスに対するゲッタ効果の大きい物質を被着させることによって、MgO成膜時に放出される酸化性ガスが、MgO成膜室内の成膜室内構成部材の表面で、十分にゲッタリングされるようにした。これによって、強磁性層の表面の酸化や成膜されたMgO絶縁体層の膜質の劣化の小さい磁気抵抗効果素子を形成することができた。
【0062】
このことから、酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質を成膜室内部の成膜室内構成部材表面に被着された状態で絶縁体層MgO膜の成膜を行い、磁気抵抗効果素子を形成すれば、低RAであっても高MR比の良好なデバイス特性を得られるものと考えられる。したがって、本実施例によるTa、Ti、Mg、Cr、Zr以外の物質であっても、酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質であれば、MgO層の成膜処理中に放出される酸素や水等の酸化性ガスを十分にゲッタリングし、低RAであっても高MR比の磁気抵抗効果素子を得ることができると考えられる。例えば、酸素ガス吸着エネルギーの値が145kcal/molよりも大きいNb、Mo、W、Mn、Hf、V、B、Si、Al、Ge等でも効果があると考えられる。
【0063】
また、MgOを成膜する成膜室の内壁に被着する物質は、酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質を主要に含めばよい。
【0064】
MgO成膜室内の成膜室内構成部材表面に被着させる物質は、磁気抵抗効果素子を構成する物質の中に前記酸化性ガスに対するゲッタ効果の大きい物質がない場合、前記酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質を適宜選んで、MgO成膜室内にその成膜手段を設けることができる。
【0065】
また、MgO成膜室内の成膜室内構成部材表面に被着される物質は、その物質の酸素ガス吸着エネルギーの値が145kcal/mol以上の物質とすることによって、MgO成膜時に放出される酸素や水等の酸化性ガスが、MgO成膜室内の成膜室内構成部材の表面で、十分にゲッタリングされるようにした。
【0066】
MgO成膜室内に被着させるタイミングは、MgO成膜の直前であることがより望ましい。酸化性ガスに対するゲッタ効果の大きさは、物質の表面状態によって変わり、表面が清浄な状態であると、高いゲッタ効果が得られると考えられるからである。
【0067】
MgO成膜室内に被着される物質は、特にTa、Ti、Mg、Zr、Nb、Mo、W、Cr、Mn、Hf、V、B、Si、Al又はGeであることが望ましい。
【0068】
MgO成膜室内に被着される物質が、対象となる磁気抵抗効果素子を構成する薄膜層を形成する物質であるならば、MgO成膜室内に被着される手段と薄膜層を形成する手段を兼用でき、工程も兼ねることができるので、装置をコンパクトにでき、工程の短縮が図れる。
【0069】
次に図11乃至図13を参照して、第5の実施例を説明する。図11は、本発明の第4の実施例において製造する、MgO層を有する磁気抵抗効果素子の薄膜構成の一例を示す図、図12は、本発明の第4の実施例の製造装置の第1成膜室の内部構成を説明するための断面図、図13は、本発明の第4の実施例による磁気抵抗効果素子のMgO層のRA・MR比特性を示す図である。なお、図1、図3、図6及び図8と実質的に同一の機能及び同一の構成を有するものについては同じ符号を付して説明し、同一の部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0070】
図11に示すように、本実施例において製造するMgO層を有する磁気抵抗効果素子の薄膜構成は、表面にTh−Ox(単層熱酸化膜)を形成したSi(シリコン)基板120上に、第1のTa層61a(膜厚5.0nm)と第1のCuN層62a(膜厚20nm)と第2のTa層61b(膜厚3.0nm)と第2のCuN層62b(膜厚20nm)とからなる下部電極部640、Ta層68(膜厚3.0nm)及びRu層69(膜厚5.0nm)からなる下地層、IrMn(イリジウムマンガン)からなる反強磁性層80(膜厚7.0nm)、CoFe層6(膜厚2.5nm)、Ru層5(膜厚0.85nm)、CoFeBからなる第1の強磁性層2(膜厚3.0nm)、MgOからなる絶縁体層4(膜厚1.0nm)、CoFeBからなる第2の強磁性層3(膜厚3.0nm)、Ta層10a(膜厚8.0nm)とCu層10c(膜厚30nm)とTa層10b(膜厚5.0nm)からなる上部電極層、酸化防止のためのRu層11(膜厚7.0nm)が積層されている。なお、Ta層68及びRu層69からなる下地層は、反強磁性層を結晶成長させるためのものである。
【0071】
本実施例におけるMgO層を有する磁気抵抗効果素子の製造装置は、図2又は図7に示す成膜装置とほぼ同一の構成からなるが、その第1成膜室21に関しては、図12に示すように構成されている。第1の実施例においては、基板保持部29の表面が窒化アルミニウム(AlN)からなる絶縁体で覆われているものを説明したが、本実施例における製造装置では、基板保持部29と基板12との間に、基板載置台290が設けられており、この基板載置台290に基板12が直接載置されるものであることを特徴とする。基板載置台290は、少なくとも、基板保持部29と基板12とが接触する部分において絶縁可能な構成であればよく、例えば、ステンレス鋼板の表面にAl(アルミナ)等の絶縁物を溶射して基板載置台290を構成してもよく、基板載置台290自体を絶縁物によって構成してもよい。このようにして、基板12が電気的に完全に浮いた状態(フローティング状態)、即ち、基板12がフローティング電位となるようにする。また、基板12と、基板載置台290や基板保持部29とが、電気的に絶縁された状態であればよい。なお、本実施例に係る基板保持部29自体の表面は、絶縁体で覆われていなくてもよい。
【0072】
ここで、基板12をフローティング電位とするためには、前述のように基板12と基板載置台290とを絶縁することの他、例えば、基板載置台290と基板保持部29とを絶縁すること、基板保持部29と接地とを絶縁すること等の手段によっても実現することができ、基板12と接地との間のいずれかの部分で絶縁されていればよい。また、絶縁方法としては、一例として、絶縁物を介挿すること、基板載置台290や基板保持部29等の成膜室内構成部材自体を絶縁物によって構成すること、前記絶縁する部分(接触部分)のみを絶縁物で構成すること、又は、前記絶縁する部分同士を離間させること、のように種々の方法がある。
【0073】
本実施例におけるMgO層を有する磁気抵抗効果素子の製造方法は、前記のように、基板保持部29と基板12とを絶縁させて、基板12が電気的に完全に浮いた状態(フローティング状態)で、MgO層4を成膜することを特徴とするものである。なお、MgO層4を形成する第1成膜室21内部の成膜室内構成部材の表面に酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質(Taなど)が被着された状態で、基板12にMgO層4を成膜する工程その他の成膜工程は、既に説明した実施例と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0074】
ステンレス鋼板の表面にAlを溶射して基板載置台290を構成する場合は、約0.2mmの厚さでAlを溶射すれば、基板12はフローティング状態となる。また、基板載置台290自体を絶縁物としてのAlN板(厚さ約14mm)で構成することによっても、基板12をフローティング状態とすることができる。そこで、これらのように構成してMgO層を有する磁気抵抗効果素子を製造し、その磁気抵抗効果素子のMgO層のRA・MR比特性を比較した(図13)。図13において、(I)は、ステンレス鋼板で構成された基板載置台290を用いた場合の特性、(II)は、ステンレス鋼板の表面に約0.2mmの厚さのAlを溶射した基板載置台290を用いた場合の特性、(III)は、厚さ約14mmのAlN板からなる基板載置台290を用いた場合の特性を示している。なお、(III)の場合においてAlNを採択したのは熱伝導率が大きいためである。
【0075】
図13に示すように、例えば、RAが10Ω−μmにおいて、ステンレス鋼板で構成された基板載置台290を用いた場合(I)は、MR比が約50%まで低下していたが、ステンレス鋼板の表面にAlを溶射した基板載置台290を用いた場合(II)及びAlN板からなる基板載置台290を用いた場合(III)は、200%を超える高いMR比を実現することができた。したがって、本発明のように、絶縁物(基板載置台290)を介して基板12を基板保持部29に載置して成膜することによって、低いRA領域でも、MR比の低下が小さく、従来に比較して大きなMR比が得られるものであり、従来において困難とされている低RAと高MR比の両立を実現することができる。
【0076】
さらに、RAが5Ω−μmにおいて明らかなように、ステンレス鋼板の表面にAlを溶射した基板載置台290を用いた場合(II)よりも、AlN板からなる基板載置台290を用いた場合(III)の方が、より高いMR比を得ることができた。したがって、低RA高MR比の両立という課題をより一層解決しているものである。なお、本実施例により製造される磁気抵抗効果素子の薄膜構成(図11)は、IrMn(イリジウムマンガン)からなる反強磁性層80、下地層(Ta層68及びRu層69)等の点において、既に前述した各実施例による磁気抵抗効果素子の薄膜構成(図1、図6、図8)との相違があるが、各実施例において示した薄膜構成の磁気抵抗効果素子の製造装置又は製造方法においても、本実施例のように基板12をフローティング状態とすることによって、前記と同様の結果を得ることができる。
【0077】
次に図14を参照して、第6の実施例を説明する。図14は、本発明の第6の実施例の製造装置の第1成膜室の内部構成を説明するための断面図である。なお、図3及び図12と実質的に同一の機能及び同一の構成を有するものについては同じ符号を付して説明し、同一の部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0078】
前述した第5の実施例においては、MgO層4を形成する第1成膜室21内部の成膜室内構成部材の表面に酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質(Taなど)が被着された状態で、基板12にMgO層4を成膜する成膜装置又は成膜方法を説明したが、必ずしも前記物質が被着された状態である必要はない。すなわち、第6の実施例は、MgO層4を形成する第1成膜室21内部の成膜室内構成部材の表面に前記物質(Taなど)を被着させることなく、基板保持部29と基板12とを絶縁させて、基板12が電気的に完全に浮いた状態(フローティング電位にある状態)で、MgO層4を成膜することを特徴とする。従って、本実施例における製造装置では、基板保持部29と基板12との間に、前述した第5の実施例における基板載置台290と同様の基板載置台290が設けられ、この基板載置台290に基板12が直接載置される。本実施例では、MgO層4を形成する第1成膜室21内部の成膜室内構成部材の表面に前記物質(Taなど)を被着させないので、第1成膜室21内部は、図14に示すように、MgOのみをターゲットとして配置すればよく、ターゲットとしてのTa26、ターゲット取付部25、仕切板22、シャッタ27及び28等(図12参照)は特段設ける必要はない。この結果、図13に示すような、低いRA領域でもMR比の低下が小さく、従来に比較して大きなMR比が得られる。
【0079】
次に図15及び図16を参照して、第7の実施例を説明する。図15は、本発明の第7の実施例の製造装置の基板保持部近傍の構成を示す図であり、(a)は、マスクと基板とが接触している状態を示す図、(b)は、マスクと基板が離間している状態を示す図、図16は、本実施例による磁気抵抗効果素子のMgO層のRA・MR比特性を示す図である。なお、図3及び図12と実質的に同一の機能及び同一の構成を有するものについては同じ符号を付して説明し、同一の部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0080】
一般的に、基板を基板保持部に保持した状態で成膜を行う場合、基板の裏面側(基板保持部と接する側)に、成膜粒子が回り込んで膜が形成されてしまうことを防止するために、基板の周辺部を覆って押さえる金属製のマスクが採択されている(図15(a)符号295参照)。この点、本実施例では、図15(b)に示すように、MgO層4を形成する工程は、基板保持部29と基板12との間に、前述の基板載置台290を設け、基板載置台290に基板12を直接載置し、基板12がフローティング電位にある状態で、金属製のマスク295と基板12とを離間させて行うようにしたものである。なお、基板12を上記した他の方法によってフローティング電位にある状態としてもよい。マスク295と基板12とは、基板12の裏面へのスパッタ粒子の回り込みを防止可能な距離だけ離間されていればよく、例えば、0.5mmに設定する。このようにして、マスク295と基板12とを離間させることによって、マスク295と基板12とが電気的に絶縁された状態とする。
【0081】
本発明において、マスクとは、基板に対して成膜処理を行う場合において、基板の裏面側に成膜粒子が回り込んで膜が形成されてしまうことを防止するために、基板の周辺部を覆う構成部材をいう。
【0082】
MgO層4を形成する工程において、図15(a)に示すように基板12の周辺部にマスク295を接触させた場合、及び、図15(b)に示すようにマスク295と基板12とを離間させた場合の各々に基づいて、MgO層を有する磁気抵抗効果素子を製造し、その磁気抵抗効果素子のMgO層のRA・MR比特性を比較した(図16)。図16において、黒塗り三角(▲)は基板12の周辺部にマスク295を接触させた場合の特性、黒塗り丸(●)はマスク295と基板12とを離間させた場合の特性を示している。
例えば、RAが5Ω−μmにおいて、マスク295と基板12とを接触させた場合(▲)よりも、マスク295と基板12とを離間させた場合(●)の方が、より高いMR比を得ることができ、全体としてもマスク295と基板12とを離間させた場合(●)の方が、低RA高MR比の両立という課題をより解決しているものである。従って、金属製のマスク295と基板12とを離間させることによって、マスク295と基板12とが電気的に絶縁された状態となり、MgO成膜中においてMgO層に電流が流れることが防止され、その結果、MgO層の膜質の劣化防止、ひいては磁気抵抗効果素子の特性の悪化を回避することができたものと考えられる。
【0083】
本実施例においては、マスク295と基板12とを離間させることによって、マスク295と基板12とが電気的に絶縁された状態としたが、例えば、マスク295自体を絶縁物で構成すれば、図15(a)のように基板12とマスク295とが接触していても、マスク295と基板12とが電気的に絶縁された状態とすることができるので、前記と同様の効果を得ることができる。
【0084】
以上、添付図面を参照して本発明の第1から第7の実施例を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。
【0085】
例えば、本実施例の成膜装置は、3つの成膜室を有する装置として説明したが、それに限らない。また、成膜室内に2つ乃至は3つの成膜手段を有する装置として説明したが、それに限らない。また、本実施例の装置の成膜室形状に限定されない。
【0086】
また、本実施例の装置においては、酸素や水などの酸化性ガスに対しゲッタ効果の大きい物質を被着させる成膜室内の成膜室内構成部材は、成膜室内壁、防着シールド、仕切板やシャッタなどとして説明したが、それに限定されない。成膜室内部の成膜室内構成部材表面に被着させることが重要なのであって、他の構成でもよい。
【0087】
また、磁気抵抗効果素子の前記各層の形成方法は、スパッタ法によるものを説明したが、その他蒸着等の成膜方法によることも可能であり、成膜方法が特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の第1の実施例において製造する、MgO絶縁体層を有する磁気抵抗効果素子の薄膜構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施例の製造装置の成膜室の構成の一例を示す平面模式図である。
【図3】図2に示した製造装置の第1成膜室の内部構成を説明するための断面図である。
【図4】磁気抵抗効果素子のMgO層の膜厚・MR比特性を本発明による製造方法と従来の製造方法とで比較した図である。
【図5】磁気抵抗効果素子のMgO層のRA・MR比特性を本発明による製造方法と従来の製造方法とで比較した図である。
【図6】本発明の第2の実施例において製造する、MgO絶縁体層を有する磁気抵抗効果素子の薄膜構成の一例を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施例の製造装置の成膜質の構成の一例を示す平面模式図である。
【図8】本発明の第3の実施例において製造する、MgO絶縁体層を有する磁気抵抗効果素子の薄膜構成の一例を示す図である。
【図9】本発明の第3の実施例の製造装置の成膜質の構成の一例を示す平面模式図である。
【図10】図1に示された構成の磁気抵抗効果素子において、MgO層を基板12上に成膜する直前に、MgO層を成膜する第1成膜室内の成膜室内構成部材表面に種々の物質が被着された状態で、MgO層を基板12上に成膜して磁気抵抗効果素子を形成し、MR比を測定し比較した図である。
【図11】本発明の第5の実施例において製造する、MgO絶縁体層を有する磁気抵抗効果素子の薄膜構成の一例を示す図である。
【図12】本発明の第5の実施例の製造装置の第1成膜室の内部構成を説明するための断面図である。
【図13】本発明の第5の実施例による磁気抵抗効果素子のMgO層のRA・MR比特性を示す図である。
【図14】本発明の第6の実施例の製造装置の第1成膜室の内部構成を説明するための断面図である。
【図15】本発明の第7の実施例の製造装置の基板保持部近傍の構成を示す図であり、(a)は、マスクと基板とが接触している状態を示す図、(b)は、マスクと基板が離間している状態を示す図である。
【図16】本発明の第7の実施例による磁気抵抗効果素子のMgO層のRA・MR比特性を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
2 第1の強磁性層
3 第2の強磁性層
4 MgO層
5 Ru層
6 CoFe層
8 反強磁性層(PtMn)
9 下部電極層
10 上部電極層
10a 上部電極層(Ta)
10b 上部電極層(Ta)
10c 上部電極層(Cu)
11 酸化防止層
12、120 基板
21 第1成膜室
22 仕切板
23 ターゲット取付部
24 ターゲット(MgO)
25 ターゲット取付部
26 ターゲット(Ta)
27、28 シャッタ
29 基板保持部
31 シャッタ
34 バルブ
35 真空排気手段
36 防着シールド
37 成膜室内壁
41 第2成膜室
42 第3成膜室
43 搬送室
44 ロードロック室
45 アンロードロック室
46 第1のTa成膜手段
47 MgO成膜手段
48 PtMn成膜手段
49 CoFe成膜手段
50 Ta成膜手段
51 Ru成膜手段
52 CoFeB成膜手段
61a 第1のTa層
61b 第2のTa層
62 CuN層
62a 第1のCuN層
62b 第2のCuN層
64、640 下部電極層
65 CuN成膜手段
66 Mg層
67 Mg成膜手段
68 下地層(Ta)
69 下地層(Ru)
80 反強磁性層(IrMn)
290 基板載置台
295 マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化性ガスに対するゲッタ効果がMgOより大きい物質(但し、Ta、CuN、CoFe、Ru、CoFeB、Ti、Mg、Cr、及びZrの1以上からなる、金属又は半導体を除く)を含有するターゲットをスパッタリングして、成膜室の内壁に被着する第一工程と、
前記第一工程後に、前記成膜室においてMgOターゲットに高周波電力を印加してスパッタリング法によりMgO層を形成する第二工程と、を有すること
を特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−65181(P2009−65181A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260231(P2008−260231)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【分割の表示】特願2008−42175(P2008−42175)の分割
【原出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】