説明

窒化ガリウムのエピタキシャル成長用基板

本発明の課題は、窒化ガリウムに基づいた層をエピタキシャル成長させるための基板として使用できる基板であり、その基板は、その面の少なくとも一方を、少なくとも一つの酸化亜鉛ベース層(13、24)を含む少なくとも一つの多層スタックでコートされた保持体(11、21)を含んでいる。その基板は、III -NタイプまたはII-VIタイプの半導体構造物でコートされており、そして保持体(11、21)と前記少なくとも一つの酸化亜鉛ベース層(13、24)の間に、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)およびアンチモン(Sb)から選択される少なくとも2種の元素の酸化物を含む少なくとも一つの中間層(12、23)が配置されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III -N形またはII-VI形の半導体、詳しくは、特に発光ダイオード(LED)またはトランジスタなどの電子部品に使用される、窒化ガリウム(GaN)に基づいた半導体の技術分野の発明である。本発明は、より詳しく述べると、特に、窒化ガリウムベースの層を成長させることができる新規タイプの基板に関する。
【0002】
窒化ガリウムは、約3.45 eVのギャップを有する半導体である。窒化ガリウムは、現在、青色から紫色までの波長範囲で発光する発光ダイオードを製造するのに使用されている。これらダイオードの必須要素は、最も簡単に述べると、基板上に堆積されたGaNベースの層を含むp-n接合部からなっている。そのGaNベース層は一般に、一般式:InxGayAl1-x-yN(式中、xとyは0から1まで変化する)で表される材料を含む層で構成されている。これらの層は、通常、非常に高い温度(1000℃-1200℃の間の温度)で、トリエチルガリウムもしくはトリメチルガリウムなどの有機金属前駆物質およびアンモニアを使用しMOCVD(metal organic chemical vapor deposition)法を利用してヘテロエピタクシーによって得られる。このように高い温度なので、使用できる基板は、サファイア(α-Al2O3、コランダムとも呼称さている)または炭化ケイ素(SiC)である。しかし、GaNとサファイアの間の格子の不整合が大きく(約14%)かつそれぞれの熱膨張係数の差が大きいので、このようにして得られるGaNは、結晶性が劣り、かつ多数の結晶欠陥(1010/cm2までの範囲の欠陥密度特に転位密度)があり、その結果、これらダイオードの発光強度(光とエネルギーの効率)と寿命はともに制約されている。
【0003】
ごく最近、堆積温度が低いため,結晶学の観点から好適で安価な基板を使用できる別の堆積法が提案されている。例えば、PLD(pulsed laser deposition)、PAMBE(plasma-assisted molecular beam epitaxy)、RPCVD(remote-plasma chemical vapor deposition)およびENABLE(energetic neutral atom beam lithography/epitaxy)法を挙げることができる。これらの方法は800℃より低い温度でGaNを堆積させることができ、そのうちいくつかは100℃より低い温度でも堆積させることができる。したがって、他のタイプの基板、特に格子のパラメータについてより適切な基板を利用できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,362,496B1号
【0005】
米国特許第6,362,496B1号(特許文献1)には、酸化亜鉛(ZnO)の層でコートされたホウケイ酸ガラスの基板で構成されている、低温でGaNを成長させる基板が開示されている。
【0006】
酸化亜鉛は、長さが約0.32 nmのすなわちGaNのa-軸の長さとほとんど同じ長さのa-軸を有するウルツ鉱(wurtzite)型の六方晶構造を有するという利点がある。このように、結晶学的構造と格子パラメータが類似しているため(相対的に2%のオーダー)、GaNのエピタキシャル成長は著しく促進される。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一目的は、GaNすなわちより一般的に述べればIII -Nタイプの半導体(GaNなど)またはII-VIタイプの半導体(ZnOなど)の結晶性を、特に、この物質を含む発光ダイオードの発光強度と寿命を増大するためさらに改善することである。
【0008】
本発明の別の目的は、半導体構造物を基板上に堆積させると、それらの特性を改善できる基板を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、経済的に製造することができかつ寸法の大きい基板を提供することである。
【0010】
この目的を達成するための本発明の一課題は、窒化ガリウムに基づいた層をエピタキシャル成長させる基板として使用することができ、かつ少なくとも一つの酸化亜鉛ベースの層を含む少なくとも一つの多層スタックでその面の少なくとも一方をコートされた保持体を含む基板であって、III -N形またはII-VI形の半導体構造物でコートされている基板である。この基板は、前記保持体と前記少なくとも一つの酸化亜鉛ベースの層との間に、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)およびアンチモン(Sb)から選択される少なくとも2種の元素の酸化物を含む少なくとも一つの中間層が配置されていることが特徴である。
【0011】
本発明の別の課題は、窒化ガリウムに基づいた層をエピタキシャル成長させる基板として使用することができ、かつ少なくとも一つの酸化亜鉛ベースの層を含む少なくとも一つの多層スタックでその面の少なくとも一方をコートされた保持体を含む基板である。本発明のこの基板は、前記保持体と前記少なくとも一つの酸化亜鉛ベースの層との間に、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)およびアンチモン(Sb)から選択される少なくとも2種の元素の酸化物を含む少なくとも一つの中間層が配置されていることが特徴である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の基板の図式図である。
【図2】本発明の基板の図式図である。
【図3】試料の端縁の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】試料の端縁の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
したがって、本発明の第一の目的物は半導体構造物でコートされた基板である。この基板は、以後、「コーテッド基板」と呼称する。本発明の第二の目的物は、第一目的物を製造するのに特別に適合させた、すなわちIII -N形またはII-VI形の半導体構造物をエピタキシャル成長させる特別の基板である。
【0014】
本発明の発明者らは、前記保持体と前記酸化亜鉛層の間にこのような中間層を介在させることによって、GaN層、すなわちより一般的にIII -N形またはII-VI形の半導体層の結晶性を改善できることを実際に証明したのである。
【0015】
この中間層は、特に結晶化材料の量を増大しおよび/または窒化ガリウムもしくは酸化亜鉛の成長をそのc軸にそって促進することによって、半導体層の結晶化特性を改善することができる。なお、この軸はより好ましくは、前記保持体の表面に垂直である。
【0016】
また、この副層が存在すると、ZnO/GaNまたはZnO/ZnOのスタックの電子伝導性を改善する働きをすることを発明者は明らかにした。その結果、これらの層中に電流が均一に分布し、量子収率が増大して発光強度が高くなり、および要素の昇温が低下してその寿命が増大する。
【0017】
前記保持体は、その面の一方だけコートされているほうが好ましい。この保持体上に堆積されたスタックは、好ましくは、単一のZnOベース層および/または単一の中間層を含んでいる。
【0018】
その保持体は、電子機器の分野で保持体として使用されるどのタイプの材料でもよく、例えば、サファイア、炭化ケイ素、ケイ素、銅などの金属、石英、酸化亜鉛(ZnO)、およびMgAl2O4とLiGaO2などのスピネルがある。本発明の効果は、ガラス質または無定形の材料にとって重要であることは明らかであり、前記保持体としては、シリカガラスかまたはシリカベースのガラスなどのガラス質または無定形の材料が好ましい。保持体は、ガラス-セラミック材料、すなわち少なくとも一つのガラス相と少なくとも一つの結晶相からなる材料でもよい。用語「シリカベースのガラス」は、シリカを、40重量%以上一般に50重量%以上の重量含有率で含有しているガラスを意味するものとする。高温および熱衝撃に耐えるガラス、例えばホウケイ酸ガラスが、コスト面から好ましい。好ましいガラスとしては、特に、フラットスクリーン、液晶ディスプレイ(LCD)またはプラズマディスプレイのパネル(PDP)を製造するため使う基板として採用されるガラスがある。電子機器の分野で使用されるこれらガラス基板は、適度のコストにて、大きい寸法で利用できるという利点がある。また、これらガラス基板の熱膨張係数は、サファイアの熱膨張係数よりGaNの熱膨張係数に近い。液晶ディスプレイを製造するのに採用されるガラスは、一般に、アルカリ金属の酸化物を全く含有しないアルミノホウケイ酸ガラスである。プラズマディスプレイパネルを製造するのに採用されるガラスは、一般に、アルカリ土類金属およびアルカリ金属のケイ酸塩からなるガラスである。保持体が、シリカベースのガラスである場合、前記ガラスのストレインポイント(strain point)は、すべての「低温」GaN堆積法に適合できるように、好ましくは550℃以上または600℃または650℃または700℃である。ガラスのストレインポイントは、ガラスの粘度が1014.5ポワズ(1013.5 Pa)に等しくなる温度である。
【0019】
上記中間層、保持体の上にそれと直接接触させて堆積させることができる。
【0020】
あるいは、少なくとも一つの副層を、保持体と中間層の間に配置することが好ましい。この副層は、前記スタックの一部を形成し、特に、保持体がアルカリ金属のイオンを含有しているときは、アルカリ金属イオンの移行に対するバリヤーとして働く副層である。用語「バリヤーとして働く」は、その層が、有意な量のアルカリ金属イオンが保持体から基板の表面まで移行するのを防止することを意味するものとする。保持体がアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム)イオンを含有しているとき、その場合、例えば、プラズマディスプレイパネルを製造する際に採用されるガラス基板は、これらイオンが、GaNベース層に移行しやすく、その半導体特性を阻害する。この移行は、特に、基板が高温に曝されるとき、したがって特にGaNベース層の堆積中に起こることがある。また、この移行は到達する温度は低いがはるかに長時間にわたる、電子部品(ダイオードまたはトランジスタ)の作動中にも起こる。アルカリ金属イオンの移行に対するバリヤーとして働く副層は、下記材料:SiOC、Si3N4、SiO2、TiNおよびAl2O3からなっているか、これら材料のうちの一種に基づいているか、またはこれら材料の一混合物に基づいている。
【0021】
好ましくは、中間層は、酸化亜鉛の結晶化に次いで窒化ガリウムの結晶化に直接作用するように、酸化亜鉛ベース層の下に、直接接触して配置される。
【0022】
好ましい基板は、その面の一方だけを、中間層からなるスタックでコートされた保持体、およびこの中間層上に直接堆積された酸化亜鉛ベース層からなっている。
【0023】
中間層は、酸化亜鉛ベース層が堆積される前は無定形である方が好ましい。用語「無定形の」は、X線回折法で、有意な量の結晶相を検出できないことを意味するものとする。無定形相の比率は、好ましくは、材料の全重量に対して90重量%以上、特に95重量%および99重量%である。単一の酸化物(SnO2、ZnO、In2O3、Ga2O3、Sb2O3、他の元素をドープされることがある)は、一般に、堆積工程中に、少なくともほとんど結晶化した形態で生成するときに除外されるが、窒化ゲルマニウムの結晶化を改善する効果を阻害する。
【0024】
しかし、中間層は、酸化亜鉛ベース層が、例えば熱処理またはイオンボンバードメントの作用下、堆積された後、少なくとも、部分的に、結晶化できる。これは、次のGaNベース層の結晶化に対するその作用に影響しない。これは、中間層のこの最終の工業的作用が、酸化亜鉛ベース層の堆積中のこの層に対する中間層の影響が原因のようであるからである。その結果、一旦、ZnOベース層が堆積されると、中間層の構造を変更しても、次の層の堆積には影響がないようである。
【0025】
好ましくは、中間層は、Sn/Zn、Sn/In、Sn/Ga、Sn/Sb、Zn/In、Zn/Ga、Zn/Sb、In/Ga、In/SbおよびGa/Sbの諸ペアから選択される金属の酸化物を含有している。また中間層は、三種の金属の酸化物、例えばSn/Zn/In、Sn/Zn/Sb、Sn/Zn/Ga、Zn/In/Sb、Zn/In/Ga、Sn/In/Sb、Sn/In/Gaなどの酸化物を含有していてもよい。
【0026】
中間層が、Sn、Zn、In、GaおよびSbから選択される二種の元素の酸化物を含有する場合、これら元素の一方の他方に対する重量比は、10/90と50/50の間で特に20/80と45/55の間で変化する。一方の元素が他方の元素に対して含有量が過度に低いこと(例えばドーピングの場合)は、結晶化がより容易に起こるので好ましいことではなく、これは発明者らに分かっているように、一般に望ましくない。
【0027】
好ましくは、中間層は、酸化亜鉛スズに基づいた層、特にSnZnOタイプの層である。用語「SnZnOタイプの層」は、一方のZnOと他方のSnOまたはSnO2との間の固溶体から形成される層を意味するものとする。この層は、化学量論的であるときもあり化学量論的でないときもあり、そして特に亜化学量論的(substoichiometric)であってもよい。しかし、定義された化合物の組成を有する固溶体、例えばZn2SnO4は、それらが堆積している間、同時に結晶化する傾向があるので好ましくない。ここでは、上記のように、中間層は、ZnOベースの層が堆積している間、無定形であることが好ましい。
【0028】
酸化亜鉛スズに基づいた層は、優れた熱安定性と化学安定性を示す。しかし、この安定性は、Al、Ga、In、B、Y、La、Ge、Si、P、As、Sb、Bi、Ce、Ti、Zr、NbおよびTaから選択される少なくとも一種の原子でドープすることによって改善される。中間層は、スパッタリングで、特に磁気で強化されたスパッタリング(通常マグネトロンスパッタリングと呼称されている方法)で製造される場合、上記ドーピングによって堆積しやすくなる。AlおよびSbの原子、特にSb原子は、会合するイオンのイオン半径が、SnおよびZnの原子と会合するイオンのイオン半径に近いので好ましい。ドーパント原子の含有量は、その層中の金属イオンの合計量の0.5重量%と5重量%の間、特に0.5重量%と2重量%の間が好ましい。
【0029】
好ましくは、ZnOベースの層は、ZnO、特に、その六方晶形(ウルツ型構造)で結晶化された多結晶ZnOからなる層である。これは、下に位置する窒化ガリウムベース層の結晶化を改善するため、上記形でZnOの結晶化を、できる限り促進することが必要であるからである。
【0030】
材料が、多数の結晶で構成され、したがって単一の結晶でない場合、前記結晶の配向(各結晶について同一であることがある)とは独立して、その材料は、本発明の文脈内では「多結晶」と呼称される。好ましくは、これらZnO結晶は、特に、基板の主表面に垂直のc-軸に沿って単一の配向をしている。
【0031】
上記ZnOベース層は、その電子伝導性が十分高い場合、多層スタック内の透明電極として採用できる。この目的を達成するため、上記ZnOベース層は、好ましくは、ZnO層であるか、またはその電子伝導性を増大するため、ドープされたZnO層、特にアルミニウム(Al)、インジウム(In)またはガリウム(Ga)の原子でドープされたZnO層である。ガリウムでドープするほうが、アルミニウムまたはインジウムでドープするより好ましい。というのは、アルミニウムとインジウムは、GaNベースの半導体構造物中に移行しやすく、短絡の危険を生じるからである。このようにして、上記定義のような保持体(特にシリカベースのガラスで製造された)の上に堆積されたスタックを製造することができ、前記スタックは、窒化ガリウムベース層のヘテロエピタキシャル成長層として働くZnO(特にZnOまたはドープされたZnO、例えばAl、GaまたはInでドープされたZnO)に基づいた層を含んでいる。このZnOベース層は、保持体の上に直接、または一つ以上の副層、例えば本発明の中間層の上に堆積させることができる。このZnOベース層は透明であるから、この基板は、基板の側部から発光するフリップチップダイオード構造物に使用できる。このとき、このZnOベース層は、三つの別個の機能、すなわち、ヘテロエピタキシーを実施しやすくする機能、電流を(オーム接触)で提供する機能および光を引き出す機能を有している。
【0032】
好都合なことに、このZnOベース層は、スタックの最終層なので、窒化ガリウムが続いてこの層の上に直接堆積されるほうが好ましいかぎり、大気と接触する層である。本発明の基板は、好ましくは、銀層またはニッケルおよび/またはクロムを含有する層などの金属層を含んでいない。
【0033】
好ましい基板は、その面の一方だけを、酸化スズ亜鉛に基づいた層を含みかつその層の上に酸化亜鉛ベースの層(特にZnO層)を直接堆積されたスタックでコートされたガラス製保持体からなり、アルカリ金属イオンの移行に対するバリヤーとして働く副層が、任意に、保持体と酸化スズ亜鉛に基づいた層の間に、これらの層に直接接触して配置されている。
【0034】
ZnOベース層(特にZnO層)の厚さは、好ましくは10 nmと500 nmの間である。厚さが比較的大きいと、特に微結晶の大きさが増大することによって、次に行なわれるGaNの成長がより良好に促進されることが観察されている。したがって、ZnOベース層の厚さは、好ましくは、100 nmと300 nmの間である。
【0035】
中間層の厚さは、好ましくは、2 nmと100 nmの間であり、特に10 nmと50 nmの間または20 nmと30 nmの間である。このような厚さによって、酸化亜鉛の結晶の成長が促進される。
【0036】
上記のように、本発明の課題は、一部が「コートされた基板」である。このコートされた基板は、本発明の基板であり、III -NタイプまたはII-VIタイプの半導体構造物でコートされている。
【0037】
III -Nタイプの半導体構造物は、好ましくは、式InxGayAl1-x-yN(式中、xとyは0から1まで変化する)に基づいた少なくとも一つの層、特に窒化ガリウム(GaN)に基づいた層を含んでいる。用語「GaNベースの層」は、一般に、ドープされていない窒化ガリウムまたはドープされた(n-ドープされたかまたはp-ドープされた) 窒化ガリウム、したがって上記一般式:InxGayAl1-x-yN(式中、yはゼロではなくより一般的に0.5より大きい)で表される層を意味するものとする。上記GaNベース層は、ドープされていないか、n-ドープされている(例えば、Si、Ge、Se、Teなどの原子でドープされている)かまたはp-ドープされている(例えば、Mg、Zn、Ca、Sr、Baなどの原子でドープされている)。
【0038】
III -Nタイプの半導体構造物は、好ましくは、少なくとも一つのn-ドープされたGaN層(例えばSi、Ge、Se、Teなどの原子でドープされた)およびp-ドープされたGaN層(例えば、Mg、Zn、Ca、Sr、Baなどの原子でドープされた)を含んでいる。次に、好ましくは、前記ZnOベース層を、少なくとも一つのn-ドープされたGaN層と直接接触させる。あるいは、無定形のアルミニウムおよび/または窒化ガリウムに基づいた緩衝層を、前記ZnOベース層と前記半導体構造物の間に配置してもよい。かような緩衝層は、GaNベース層の結晶化をさらに促進することを目的としている。
【0039】
II-VIタイプの半導体構造物は、好ましくは、少なくとも一つのZnOベース層を含んでいる。用語「ZnOベース層」は、酸化亜鉛を含むあらゆる層で、例えば、n-ドープされた(Al、Inなどを使用して)かまたはp-ドープされた酸化亜鉛を意味するものとする。これは、本発明の基板のZnOベース層が、それ自体ZnOに基づいている半導体構造物の理想的なエピタキシャル層を構成している。
【0040】
前記半導体構造物は、ナノ構造物からなるすくなくともひとつの不連続層、たとえばナノワイヤなどのナノ構造物、または ナノロッド、ナノピラーまたはナノワイヤという名称で一般に呼ばれている構造物を含んでいるかこれら構造物からなっている。これらの構造物は、一般に基板の表面にほぼ垂直の軸に沿って向いているワイヤまたは円柱の形を取っている。これらのワイヤまたは円柱は、好ましくは、直径が50-500 nmの間の大きさで、高さは500 nmと5ミクロンの間の大きさである。これらの構造物は、ダイオードの側面における光の損失を最小限にすることによって、光の誘導を改善するのに役立っている。また、これらの構造物はキャビティ効果を起こして光を増幅する。
【0041】
基板のZnOベース層は、好ましくは、この半導体構造物の少なくともひとつのGaNベース層またはZnOベース層と直接接触している。
【0042】
本発明の基板、特に本発明のコートされた基板は、発光ダイオードを製造するのに採用できる。これらの発光ダイオードは、例えば、レーザシステムに組み入れられ、および/または照明(道路標識、道路照明、都市照明、内部照明または自動車両の照明)、ディスプレイスクリーン、データ記憶装置などの分野に採用できる。
【0043】
コートされた基板が発光ダイオードを製造するのに採用されるとき、その半導体構造物は、好ましくは、ヘテロ接合、すなわち異なるエネルギーギャップを有し、好ましくは純粋化合物または一般式:InxGayAl1-x-yN(式中、xとyは0から1まで変化する)で表される合金から選択される各種化学組成物の半導体のアセンブリを含んでいるという意味で、ヘテロ構造物である。パラメータxとyが変化すると、前記半導体のギャップが直接影響をうける。得られる構造物は、一般に、単一量子井戸(SQW)タイプまたは多量子井戸タイプのものである。このようにして製造されたダイオードは、紫外線と可視光線の範囲、特に青色と緑色の範囲をカバーする広範囲の電磁スペクトル内で発光できる。このダイオードは、りん光物質に連結すると、白色光も発することができる。
【0044】
また、本発明の基板は、ダイオード以外の半導体構造物のタイプ、例えばバイポーラトランジスタ、FET(電界効果トランジスタ)特にMESFET(金属半導体電界効果トランジスタ)またはHFET(ヘテロ構造電界効果トランジスタ)のタイプなどのトランジスタ構造物の基板として有用である。GaNベース半導体構造物を採用するトランジスタは、特に、マイクロ波(一般に5-50 GHz)の用途および/または電力(一般に50 W)の用途に有利である。また、これらの半導体構造物は透明なことから、透明な電子装置を予想することができることを意味する。
【0045】
また、本発明の課題は、前記少なくとも一つの酸化亜鉛ベース層と前記少なくとも一つの中間層を、スパッタリングで堆積させる本発明の基板を得る方法である。マグネトロンスパッタリング法を採用することが有利である。任意の副層を、保持体と中間層の間に配置することを含めて、上記方法でスタックのすべての層を堆積させることが好ましい。スパッタリング法、特にマグネトロンスパッタリング法は、酸化亜鉛ベース層をc-軸に沿って成長させ、続いてGaNをこの同じ軸にそってエピタキシャル成長させるという利点を有している。このマグネトロン法は反応タイプまたは非反応タイプの方法である。
【0046】
スパッタリングで中間層を堆積させるステップは、好ましくは、上記理由から無定形層を生成する。
【0047】
好ましい方法は、上記のように、マグネトロン法によって、酸化スズ亜鉛に基づいた中間層をガラス保持体の上に堆積させ、次いで酸化亜鉛層を堆積させるステップで構成されている。使用されるガラスがアルカリ金属のイオンを含有している場合は、やはりマグネトロン法で、上記のようにアルカリ金属のイオンの移行に対するバリヤーとして働く副層、特にSi3N4層を堆積させることが好ましい。
【0048】
この堆積に続いて、前記酸化亜鉛ベース層の結晶化を促進するため熱処理を行なうことが好ましい。というのは、酸化亜鉛ベース層がより良好に結晶化するとスーパージェースント(superjacent)層の結晶化が改善されるからである。この熱処理は、一般に、200℃と1100℃の間、特に200℃と700℃の間の温度で行なわれる。
【0049】
あるいはまたは追加して、温度が150℃と400℃の間、特に200℃と300℃の間の熱基板上に前記層を堆積させることによって、ZnOの結晶化を改善することができる。
【0050】
また、スタックの一つ以上の層、特にZnOベース層に、イオンビーム、特にアルゴンイオンビームを作用させることができる。このイオンビームは、好ましくは、同じスパッタリング堆積チャンバー内に好都合に配置されているイオンガンまたはイオン源から発生させる。パワー、入射角および広がり角によって、ZnO層を滑らかにし(その耐薬品性、特にGaN成長中に採用されるアンモニアに対する耐性を増強するため)またはこれに反して、横のエピタキシーを促進して転位を減少させるかまたは除くため、ZnOの表面をテクスチャライズすることができる。
【0051】
本発明は、図1-4に示す下記の非限定の代表的な実施態様によって、より十分に理解されるであろう。
【0052】
図1と2は本発明の基板の図式図である。
【0053】
図3と4は下記試料の端縁の走査型電子顕微鏡写真である。
【0054】
図1は本発明の好ましい基板の図式断面図を示す。この基板は、ZnOベース層13でコートされた中間層12からなるスタックでコートされた保持体11で構成されている。
図2は本発明の別の好ましい基板の図式断面図を示す。この基板は、保持体21上に直接堆積されさらにそれ自体ZnOベース層24でコートされた中間層23によってコートされた、アルカリ金属イオンの移行に対するバリヤーとして働く層22を含むスタックでコートされた保持体21で構成されている。
【0055】
図1と2に示す基板について、保持体およびスタックの各種層は、本明細書の説明の一般部分に記載されているとおりである。好ましくは、保持体は、ガラス、特にプラズマディスプレイパネルを製造するためのタイプのガラスで製造される。中間層は酸化スズ亜鉛、特にAlまたはSbでドープされた酸化スズ亜鉛に基づいていることが有利である。ZnOベース層は、好ましくはZnO層である。アルカリ金属イオンの移行に対するバリヤーとして働く任意の層としては、Si3N4層が有利である。
【実施例】
【0056】
比較実施例
比較実施例の基板は、アルカリ金属イオンの移行に対するバリヤーとして働くSi3N4副層および酸化亜鉛層でコートされたガラス製保持体からなっている。
【0057】
そのスタックは下記の通りであった。幾何学的厚さは括弧内に示してある。
ガラス/ Si3N4(20 nm)/ZnO(200 nm)
【0058】
採用したガラスは、国際特許願公開第WO 98/40320号に記載されているようなプラズマディスプレイパネルを製造するためのガラスであった。
【0059】
このスタックは、マグネトロンスパッタリングで堆積させた。Si3N4層は、5 kW/100kHzの電力をかけたケイ素のターゲットを使用して堆積させた。圧力は2.5マイクロバールで、プラズマガスはアルゴン(40 sccm(標準立方センチメートル/分)の流量)と窒素(58 sccmの流量)の混合物であった。ZnO層は、2マイクロバールの圧力下、アルゴン(40 sccm)/酸素(18 sccm)混合物の雰囲気で、290V/50 kHzの電圧をかけた亜鉛ターゲットを使って堆積させた。
【0060】
さらに、これらの層各々のマグネトロンスパッタリングによる堆積は当業者には周知のことであり、堆積の詳細(使用したターゲット、圧力ガスなど)は結果に対して有意な影響はない。
【0061】
次いで、この基板は、RPCVD(remote-plasma chemical vapor deposition)法を使って、周知の方法によって、厚さ80 nm(C1で示す)または厚さ200 nm(C2で示す)のGaN層でコートした。堆積温度について、使用する基板の性質と適合できる他のタイプの堆積法は、勿論、結果に影響せずに利用可能である。
【0062】
本発明の実施例
本発明の実施例は、アンチモン(Sb)をドープされた混合酸化亜鉛スズの層を、Si3N4副層と酸化亜鉛層の間に、やはりマグネトロンスパッタリングで堆積させた点で、比較実施例とは異なっていた。
【0063】
SnZnO層は、アンチモンでドープしたスズ/亜鉛合金から製造したターゲット、2 kWの電力と50 kHzの周波数、2マイクロバールの圧力およびアルゴン(12 sccm)/酸素(45 sccm)の混合物を利用して堆積させた。
【0064】
上記混合酸化物の層は、約65重量%のSn、34重量%のZnおよび1重量%のSbの比率で金属を含有していた。
【0065】
本発明の各種試料は、ZnO層の厚さと酸化スズ亜鉛層の厚さが異なっていた。
【0066】
表1は、本発明の実施例1-4それぞれの層の厚さを示す。
【表1】

【0067】
結晶化への影響
GaNベース層の結晶化に対する本発明の影響を各種の方法で研究した。
第一の方法によって、GaNの結晶の配向を、X線回折図におけるGaNに付随する回折のピークの面積を測定することによって比較した。
【0068】
X線回折はθ/2θの立体配置で実施した。ZnOとGaNの間の格子パラメータの差は小さいので、一部オバーラップしたそれらのピークは、それらピークを分離するため数学的処理をおこなう必要があった。この数学的処理は、特に、ZnO層のみの回折特性に基づいていたので、これらピークはGaNを堆積させる前に測定した。
【0069】
表2は、(0002)結晶面に付随する回折ピークの面積を任意単位で示す。なお、この価は、結晶のc-軸に沿った配向に相当する。
【0070】
【表2】

【0071】
これらの結果は、中間層を付け加えたことによって、GaNのc-軸にそった配向が非常に大きく改善されたことを反映している。
【0072】
第二の方法に従って、走査型電子顕微鏡法を使い直接観察することによって、GaNの結晶の配向を比較した。
【0073】
図3と4は、100,000倍の倍率にて走査型電子顕微鏡で撮った実施例C2とC1の顕微鏡写真である。これらの顕微鏡写真は端縁の写真なのでZnO/GaNのスタックをみることができる。
【0074】
図3では、GaNの六方晶の結晶がそれらのc-軸に沿って成長する傾向があるが、その軸の方向は、基板に対して完全に垂直であるわけではない。
【0075】
しかし、図4では、GaNの結晶の成長方向は好ましくは基板に対して完全に垂直なので、欠陥が一層少ない。
【0076】
第三の方法に従って、四点法またはVan der Pauw methodを利用し公知の方式で、スタックの全電気固有抵抗を測定した。
【0077】
表3は、実施例C1、3および4について得た測定値である。
【表3】

【0078】
中間層を追加したことによる固有抵抗の低下は、電子伝導性が実質的に大きく増大していることを示し、構造の欠陥の量が一層少ないことを反映している。
【0079】
本発明の基板において、その保持体と酸化亜鉛層の間に中間層を介在させることによって、窒化ガリウム層の結晶特性を改善しかつその電子伝導性を増大することができる。その結果、これらの基板を使うことによって、発光ダイオードの発光強度と寿命が増大する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その面の少なくとも一方を、少なくとも一つの酸化亜鉛ベース層(13、24)を含む少なくとも一つの多層スタックでコートされた保持体(11、21)を備え、かつIII -NタイプまたはII-VIタイプの半導体構造物でコートされた、窒化ガリウムに基づいた層のエピタキシャル成長用基板として使用できる基板であって、
前記保持体(11、21)と前記少なくとも一つの酸化亜鉛ベース層(13、24)の間に、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)およびアンチモン(Sb)から選択される少なくとも2種の元素の酸化物を含む少なくとも一つの中間層(12、23)が配置されていることを特徴とする基板。
【請求項2】
その面の少なくとも一方を、少なくとも一つの酸化亜鉛ベース層(13、24)を含む少なくとも一つの多層スタックでコートされた保持体(11、21)を備えた、窒化ガリウムに基づいた層のエピタキシャル成長用基板として使用できる基板であって、
前記保持体(11、21)と前記少なくとも一つの酸化亜鉛ベース層(13、24)の間に、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)およびアンチモン(Sb)から選択される少なくとも2種の元素の酸化物を含む少なくとも一つの中間層(12、23)が配置されていることを特徴とする基板。
【請求項3】
保持体(11、21)がその面の一方だけコートされ、および前記多層が、単一の酸化亜鉛ベース層(13、24)および/または単一の中間層(12、23)だけを含んでいる請求項1または2に記載の基板。
【請求項4】
保持体(11、21)が、サファイア、炭化ケイ素、ケイ素、銅などの金属、石英、酸化亜鉛(ZnO)、MgAl2O4およびLiGaO2などのスピネル、シリカガラスまたはシリカベースのガラスなどのガラス質または無定形の物質から選択される物質である請求項1-3のいずれか一項に記載の基板。
【請求項5】
保持体(11、21)が、ストレインポイントが550℃以上または600℃以上または650℃以上または700℃以上であるシリカベースガラスである請求項1-4のいずれか一項に記載の基板。
【請求項6】
少なくとも一つの副層(22)が、保持体(21)と中間層(23)の間に配置されている請求項1-5のいずれか一項に記載の基板。
【請求項7】
副層(22)が、アルカリ金属イオンの移行に対するバリヤーとして働く副層であり、特に以下の物質すなわちSiOC、Si3N4、SiO2、TiNおよびAl2O3からなっているか、または前記物質の一つに基づいているかまたは前記物質の混合物の一つに基づいている請求項1-6のいずれか一項に記載の基板。
【請求項8】
中間層(12、23)が、酸化亜鉛ベース層(13、24)の下に,直接接触して配置されている請求項1-7のいずれか一項に記載の基板。
【請求項9】
中間層(12、23)は、酸化亜鉛ベース層(13、24)が堆積される前、無定形である請求項1-8のいずれか一項に記載の基板。
【請求項10】
中間層(12、23)が酸化スズ亜鉛に基づいた層である請求項1-9のいずれか一項に記載の基板。
【請求項11】
酸化スズ亜鉛に基づいた層(12、23)が、Al、Ga、In、B、Y、La、Ge、Si、P、As、Sb、Bi、Ce、Ti、Zr、NbおよびTaから選択された少なくとも一つの原子でドープされている請求項1-10のいずれか一項に記載の基板。
【請求項12】
酸化亜鉛ベース層(13、24)が、酸化亜鉛、特に、その六方晶系形に、ウルツ鉱構造で結晶化された多結晶酸化亜鉛からなる層である請求項1-11のいずれか一項に記載の基板。
【請求項13】
酸化亜鉛ベース層(13、24)が前記多層の最終層である請求項2-12のいずれか一項に記載の基板。
【請求項14】
酸化亜鉛ベース層(12、23)の厚さが、10 nmと500 nmの間の厚さであり、特に100 nmと300 nmの間の厚さである請求項1-13のいずれか一項に記載の基板。
【請求項15】
中間層(12、23)の厚さが、2 nmと100 nmの間の厚さであり、特に10 nmと50 nmの間または20 nmと30 nmの間の厚さである請求項1-14のいずれか一項に記載の基板。
【請求項16】
III -NタイプまたはII-VIタイプの半導体構造物でコートされた請求項2-15のいずれか一項に記載の基板。
【請求項17】
III -Nタイプの半導体構造物が窒化ガリウム(GaN)に基づいた少なくとも一つの層を含む請求項16または1に記載の基板。
【請求項18】
II-VIタイプの半導体構造物が酸化亜鉛(ZnO)に基づいた少なくとも一つの層を含む請求項16または1に記載の基板。
【請求項19】
半導体構造物が、ナノ構造物で製造された少なくとも一つの不連続層を含むかまたはその不連続層からなる請求項1または16-18に記載の基板。
【請求項20】
前記少なくとも一つの酸化亜鉛ベース層(13、24)および前記少なくとも一つの中間層(12、23)をスパッタリングで堆積させる、請求項1-19のいずれか一項に記載の基板を得る方法。
【請求項21】
中間層(12、23)を堆積させるステップが無定形層を生成する請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−533371(P2010−533371A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515582(P2010−515582)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051316
【国際公開番号】WO2009/013425
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】