説明

窒化物半導体装置および窒化物半導体装置製造方法

【課題】窒素不足に起因する移動度の低下を抑制し、窒素不足に起因するリーク電流を低減することができる窒化物半導体装置、その製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物半導体装置1は、基板10と、バッファ層11と、窒化物半導体層(第1窒化物半導体層12、第2窒化物半導体層13、第3窒化物半導体層14)と、第1電極22と、第2電極23と、制御電極25とを備える。第1電極22と第2電極23との間で第3窒化物半導体層14の表面から第2窒化物半導体層13に渡って凹状に形成されたリセス部16を備え、リセス部16は、絶縁性窒化物で形成された窒化物絶縁膜17を備え、制御電極25は、導電性窒化物で形成され窒化物絶縁膜17(ゲート絶縁膜)に重ねて配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重窒化物半導体層とリセス部とを有する窒化物半導体装置、および窒化物半導体装置製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体材料は、高い絶縁破壊電界、高い飽和電子速度を有している。したがって、窒化物半導体材料を用いた半導体素子は、高耐圧で大電流動作が可能な電力用素子として有望視されている。中でもAlGaN/GaNヘテロ接合を用いた電界効果トランジスタやダイオードは、ヘテロ接合界面に形成される2次元電子ガス層を用いることによって低いオン抵抗を実現できることから、動作時の損失を低減することのできる素子として注目されている。
【0003】
電界効果トランジスタをパワースイッチング用途に用いる場合、ゲート電極に電圧を印加しない状態で電界効果トランジスタに電流が流れない、いわゆるノーマリーオフ動作をすることが必要とされている。
【0004】
ノーマリーオフ動作をする窒化物半導体装置の従来例を図9によって説明する。
【0005】
図9は、従来例に係る窒化物半導体装置の断面を示す断面図である。
【0006】
従来例に係る窒化物半導体装置は、サファイア基板101にAlNバッファ層102が積層され、AlNバッファ層102にGaN層103、AlN層104、n型AlGaN層105、n型GaNキャップ層106が積層されている。n型GaNキャップ層106には凹部が形成され、凹部に対応させてゲート電極としてのPdSi電極108がSiN膜107を介して形成されている。また、ソース電極、ドレイン電極となるTi/Al電極109、素子分離領域110を備える。このような窒化物半導体装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【0007】
AlGaN/GaNヘテロ界面を利用した電界効果トランジスタでは、キャリアは、ヘテロ接合界面の2次元電子ガス層を走行する。ノーマリーオフ特性を実現するには、ヘテロ接合界面のシートキャリア濃度を増加させないことが望ましく、従来例では、ゲート電極に対応するAlGaN層/GaN層に対してドライエッチングを施し、絶縁膜を形成することによってチャネル層でのシートキャリアの増大を防止し、ノーマリーオフ型の電界効果トランジスタの閾値電圧が低下することを防止している。
【0008】
従来例に係る窒化物半導体装置では、ゲート電極(PdSi電極108)に対応するAlGaN層/GaN層のリセスエッチングは、ドライエッチングを用いていることから、ゲート電極に対応する窒化物半導体層(AlGaN層/GaN層)に、窒素抜けが生じる。また、エッチングした後のGaN層(n型GaNキャップ層106)と絶縁膜層(SiN膜107)の界面は、キャリアが走行するチャネル層となっているので、窒素抜けによる移動度の低下が生じる。つまり、移動度の低下に伴い窒化物半導体装置の高速性が低下するという問題がある。
【0009】
また、従来例に係る窒化物半導体装置では、ゲート絶縁膜としてSiN(SiN膜107)、ゲート電極としてPdSi(PdSi電極108)を用いているが、GaN層の窒素抜けに対する窒素の補填をSiN(Si34)から行なうと、SiNに窒素不足が生じる。窒素が不足したSiNは、絶縁性が低下することからリーク電流が大きくなり、トランジスタ特性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−270521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、絶縁性窒化物で形成された窒化物絶縁膜をリセス部に形成し、導電性窒化物で形成された制御電極を窒化物絶縁膜に重ねる構造とすることにより、窒化物半導体層に対する窒素の補填、窒化物絶縁膜に対する窒素の補填を図り、窒素不足に起因する移動度の低下を抑制し、窒素不足に起因するリーク電流を低減することができる窒化物半導体装置を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、本発明に係る窒化物半導体装置を製造する窒化物半導体装置製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る窒化物半導体装置は、第1窒化物半導体層と、該第1窒化物半導体層に積層された第2窒化物半導体層と、該第2窒化物半導体層に積層された第3窒化物半導体層と、該第3窒化物半導体層の表面に配置された第1電極と、前記第1電極に対向して前記第3窒化物半導体層の表面に配置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間でのキャリアの走行を制御する制御電極とを備える窒化物半導体装置であって、前記第1電極と前記第2電極との間で前記第3窒化物半導体層の表面から前記第2窒化物半導体層に渡って凹状に形成されたリセス部を備えてあり、該リセス部は、絶縁性窒化物で形成された窒化物絶縁膜を備え、前記制御電極は、導電性窒化物で形成され前記窒化物絶縁膜に重ねて配置されていることを特徴とする。
【0014】
この構成により、リセス部が形成された第2窒化物半導体層で生じる窒素抜けに対する窒素の補填を窒化物絶縁膜から施し、窒化物絶縁膜での窒素抜けに対する窒素の補填を制御電極から施して第2窒化物半導体層での窒素不足を抑制することが可能となるので、第2窒化物半導体層の窒素不足に起因する移動度の低下を抑制し、また、窒化物絶縁膜の窒素不足に起因するリーク電流を低減して優れた高速性およびノーマリーオフ特性を有する窒化物半導体装置とすることができる。
【0015】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記第3窒化物半導体層の禁制帯幅は、前記第2窒化物半導体層の禁制帯幅に比べて広いことを特徴とする。
【0016】
この構成により、第2窒化物半導体層と第3窒化物半導体層とによるヘテロ接合界面に対応させてキャリアとしての2次元電子ガスを第3窒化物半導体層に形成し、オフ状態での2次元電子ガスをリセス部で遮断することが可能となるので、リーク電流を低減してノーマリーオフ特性を向上させた電界効果トランジスタとすることができる。
【0017】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記窒化物絶縁膜は、前記第3窒化物半導体層の表面に延長され窒化物表面保護膜とされていることを特徴とする。
【0018】
この構成により、第3窒化物半導体層の表面を窒化物絶縁膜(窒化物表面保護膜)で容易に保護することが可能となり、信頼性を向上させた窒化物半導体装置とすることができる。
【0019】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記リセス部は、前記窒化物絶縁膜と重なる位置に絶縁性酸化物で形成された酸化物絶縁膜を備えることを特徴とする。
【0020】
この構成により、絶縁破壊強度の高い酸化物絶縁膜をゲート絶縁膜として窒化物絶縁膜に重ねることが可能となることから、ゲート絶縁破壊強度の高い窒化物半導体装置とすることができる。
【0021】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記酸化物絶縁膜は、前記窒化物絶縁膜と前記リセス部の底面との間に配置されていることを特徴とする。
【0022】
この構成により、窒化物絶縁膜および酸化物絶縁膜をリセス部に容易かつ高精度に形成することが可能となる。
【0023】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記窒化物絶縁膜は、前記第3窒化物半導体層の表面に延長され窒化物表面保護膜とされていることを特徴とする。
【0024】
この構成により、第3窒化物半導体層の表面を窒化物絶縁膜(窒化物表面保護膜)で容易に保護することが可能となり、信頼性を向上させた窒化物半導体装置とすることができる。
【0025】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記酸化物絶縁膜は、前記第3窒化物半導体層の表面に延長され酸化物表面保護膜とされていることを特徴とする。
【0026】
この構成により、第3窒化物半導体層の表面を酸化物絶縁膜(酸化物表面保護膜)で容易に保護することが可能となり、信頼性を向上させた窒化物半導体装置とすることができる。
【0027】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記窒化物絶縁膜は、前記酸化物絶縁膜と前記リセス部の底面との間に配置されていることを特徴とする。
【0028】
この構成により、窒化物絶縁膜および酸化物絶縁膜をリセス部に容易かつ高精度に形成することが可能となる。
【0029】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記酸化物絶縁膜は、前記第3窒化物半導体層の表面に延長され酸化物表面保護膜とされていることを特徴とする。
【0030】
この構成により、第3窒化物半導体層の表面を酸化物絶縁膜(酸化物表面保護膜)で容易に保護することが可能となり、信頼性を向上させた窒化物半導体装置とすることができる。
【0031】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記窒化物絶縁膜は、前記第3窒化物半導体層の表面に延長され窒化物表面保護膜とされていることを特徴とする。
【0032】
この構成により、第3窒化物半導体層の表面を窒化物絶縁膜(窒化物表面保護膜)で容易に保護することが可能となり、信頼性を向上させた窒化物半導体装置とすることができる。
【0033】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記絶縁性酸化物は、Al23であることを特徴とする。
【0034】
この構成により、酸化物絶縁膜の界面準位を抑制して電子が酸化物絶縁膜にトラップされることを抑制した窒化物半導体装置とすることができる。
【0035】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記絶縁性窒化物は、Si34であることを特徴とする。
【0036】
この構成により、窒化物絶縁膜の界面準位を抑制して電子が窒化物絶縁膜にトラップされることを抑制した窒化物半導体装置とすることができる。
【0037】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記導電性窒化物は、金属窒化物であることを特徴とする。
【0038】
この構成により、容易に導電性窒化物を形成することが可能となる。
【0039】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記金属窒化物は、窒化タングステンであることを特徴とする。
【0040】
この構成により、安定して作用する制御電極を有する窒化物半導体装置とすることが可能となる。
【0041】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記第1電極および前記第2電極は、前記第3窒化物半導体層または第2窒化物半導体層に接合されていることを特徴とする。
【0042】
この構成により、第1電極を例えばソース電極、第2電極を例えばドレイン電極、制御電極をゲート電極として機能させる高電子移動度電界効果トランジスタとすることができる。
【0043】
本発明に係る窒化物半導体装置では、前記第1窒化物半導体層は、前記第2窒化物半導体層に比べて格子定数が小さく、前記第2窒化物半導体層に比べて禁制帯幅が広いことを特徴とする。
【0044】
この構成により、第1窒化物半導体層と第2窒化物半導体層とによるヘテロ接合界面に対応させて第1窒化物半導体層に2次元電子ガス層を発生させることが可能となり、2次元電子ガス層に伴う電荷、およびヘテロ接合界面での導電帯の不連続によって、電子に対する障壁が構成されることとなる。したがって、オフ状態の場合に、ソース電極・ドレイン電極間(第1電極・第2電極間)に高いバイアスを印加したとき、第3窒化物半導体層と第2窒化物半導体層とによるヘテロ接合界面から基板の方に離れた領域(例えば、バッファ層、基板)を介して流れる電子の経路を遮断することができる。つまり、ソース電極・ドレイン電極間に流れるリーク電流を抑制することが可能となる。
【0045】
本発明に係る窒化物半導体装置製造方法は、第1窒化物半導体層と、該第1窒化物半導体層に積層された第2窒化物半導体層と、該第2窒化物半導体層に積層された第3窒化物半導体層と、該第3窒化物半導体層の表面に配置された第1電極と、前記第1電極に対向して前記第3窒化物半導体層の表面に配置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間でのキャリアの走行を制御する制御電極とを備える窒化物半導体装置を製造する窒化物半導体装置製造方法であって、前記第1窒化物半導体層、前記第2窒化物半導体層、前記第3窒化物半導体層をこの順に積層する窒化物半導体層積層工程と、前記第3窒化物半導体層をエッチングして前記第3窒化物半導体層の表面から前記第2窒化物半導体層に渡る凹状のリセス部を形成するリセス部形成工程と、前記リセス部に絶縁性窒化物で形成される窒化物絶縁膜を積層する窒化物絶縁膜積層工程と、前記第1電極および前記第2電極を形成する電極形成工程と、前記窒化物絶縁膜に重ねて導電性窒化物を積層して前記制御電極を形成する制御電極形成工程とを備えることを特徴とする。
【0046】
この構成により、リセス部、リセス部に形成される窒化物絶縁膜、キャリアの注入、取り出しに対応する第1電極および第2電極、窒化物絶縁膜に重なる制御電極を容易かつ高精度に形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係る窒化物半導体装置は、第1窒化物半導体層と、第1窒化物半導体層に積層された第2窒化物半導体層と、第2窒化物半導体層に積層された第3窒化物半導体層と、第3窒化物半導体層の表面に配置された第1電極と、第1電極に対向して第3窒化物半導体層の表面に配置された第2電極と、第1電極と第2電極との間でのキャリアの走行を制御する制御電極とを備える窒化物半導体装置であって、第1電極と第2電極との間で第3窒化物半導体層の表面から第2窒化物半導体層に渡って凹状に形成されたリセス部を備えてあり、リセス部は、絶縁性窒化物で形成された窒化物絶縁膜を備え、制御電極は、導電性窒化物で形成され窒化物絶縁膜に重ねて配置されていることを特徴とする。
【0048】
したがって、リセス部が形成された第2窒化物半導体層で生じる窒素抜けに対する窒素の補填を窒化物絶縁膜から施し、窒化物絶縁膜での窒素抜けに対する窒素の補填を制御電極から施して第2窒化物半導体層での窒素不足を抑制することが可能となるので、第2窒化物半導体層の窒素不足に起因する移動度の低下を抑制し、また、窒化物絶縁膜の窒素不足に起因するリーク電流を低減して優れた高速性およびノーマリーオフ特性を有する窒化物半導体装置とすることができるという効果を奏する。
【0049】
本発明に係る窒化物半導体装置製造方法は、第1窒化物半導体層と、第1窒化物半導体層に積層された第2窒化物半導体層と、第2窒化物半導体層に積層された第3窒化物半導体層と、第3窒化物半導体層の表面に配置された第1電極と、第1電極に対向して第3窒化物半導体層の表面に配置された第2電極と、第1電極と第2電極との間でのキャリアの走行を制御する制御電極とを備える窒化物半導体装置を製造する窒化物半導体装置製造方法であって、第1窒化物半導体層、第2窒化物半導体層、第3窒化物半導体層をこの順に積層する窒化物半導体層積層工程と、第3窒化物半導体層をエッチングして第3窒化物半導体層の表面から第2窒化物半導体層に渡る凹状のリセス部を形成するリセス部形成工程と、リセス部に絶縁性窒化物で形成される窒化物絶縁膜を積層する窒化物絶縁膜積層工程と、第1電極および第2電極を形成する電極形成工程と、窒化物絶縁膜に重ねて導電性窒化物を積層して制御電極を形成する制御電極形成工程とを備えることを特徴とする。
【0050】
したがって、リセス部、リセス部に形成される窒化物絶縁膜、キャリアの注入、取り出しに対応する第1電極および第2電極、窒化物絶縁膜に重なる制御電極を容易かつ高精度に形成することが可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1A】本発明の実施の形態1に係る窒化物半導体装置の断面を示す断面図である。
【図1B】図1Aに示した窒化物半導体装置を拡大して第3窒化物半導体層の積層状態の断面を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る窒化物半導体装置に適用することが可能な絶縁性窒化物および導電性窒化物を例示する一覧図表である。
【図3A】本発明の実施の形態2に係る窒化物半導体装置(実施例1)の断面を示す断面図である。
【図3B】図3Aに示した窒化物半導体装置(実施例1)を拡大して第3窒化物半導体層の積層状態の断面を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る窒化物半導体装置に適用することが可能な絶縁性酸化物を例示する一覧図表である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る窒化物半導体装置(実施例2)の断面を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る窒化物半導体装置(実施例3)の断面を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る窒化物半導体装置(実施例4)の断面を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係る窒化物半導体装置を拡大して第1窒化物半導体層の変形例の断面を示す断面図である。
【図9】従来例に係る窒化物半導体装置の断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0053】
<実施の形態1>
図1Aないし図2に基づいて、本実施の形態に係る窒化物半導体装置、およびその製造方法について説明する。
【0054】
図1Aは、本発明の実施の形態1に係る窒化物半導体装置の断面を示す断面図である。
【0055】
図1Bは、図1Aに示した窒化物半導体装置を拡大して第3窒化物半導体層の積層状態の断面を示す断面図である。
【0056】
図2は、本発明の実施の形態1に係る窒化物半導体装置に適用することが可能な絶縁性窒化物および導電性窒化物を例示する一覧図表である。
【0057】
本実施の形態に係る窒化物半導体装置1は、基板10と、バッファ層11とを備え、バッファ層11に窒化物半導体層(第1窒化物半導体層12、第2窒化物半導体層13、第3窒化物半導体層14)が形成されている。基板10は、例えばシリコン(Si)結晶基板であり、シリコンは、放熱性、加工性に優れていることから、放熱性に優れた生産性の良い窒化物半導体装置1とすることができる。基板10としては、シリコン結晶基板の他に、炭化珪素(SiC)、サファイアなどを適用することが可能である。
【0058】
バッファ層11は、基板10(シリコン結晶基板)に対する結晶整合性を考慮して選択することが可能であり、例えばアンドープの薄いAlN層にアンドープの厚いGaN層を積層した多重窒化物半導体層で構成されている。
【0059】
第1窒化物半導体層12は、不純物としてMgを1×1019/cm3の濃度でドーピングした厚さ100nmのp型GaN(p−GaN)層である。第2窒化物半導体層13は、厚さ100nmのアンドープGaN(i−GaN)層である。第3窒化物半導体層14は、表面側から順に、厚さ1nmのGaN/厚さ26nmのAl0.3Ga0.7N/厚さ3nmのAlNで構成された積層構造とされ、GaN/Al0.3Ga0.7N/AlNの積層構造は、いずれの層もアンドープとされた多重窒化物半導体層である。つまり、第3窒化物半導体層14は、アンドープの第3窒化物半導体下層14f、第3窒化物半導体中層14s、第3窒化物半導体上層14tの積層構造(図1B)とされている。
【0060】
第3窒化物半導体層14の表面には、第1電極22と第2電極23とが相互に対向して形成されている。第1電極22および第2電極23は、共に表面側から順に、厚さ30nmのTi/厚さ200nmのAlの積層構造とされている。第1電極22は例えばソース電極として機能させ、第2電極23は例えばドレイン電極として機能させることができる。また、第1電極22および第2電極23の間には、ゲート電極として機能する制御電極25が形成されている。
【0061】
上述したとおり、窒化物半導体装置1は、第1窒化物半導体層12と、第1窒化物半導体層12に積層された第2窒化物半導体層13と、第2窒化物半導体層13に積層された第3窒化物半導体層14と、第3窒化物半導体層14の表面に配置された第1電極22と、第1電極22に対向して第3窒化物半導体層14の表面に配置された第2電極23と、第1電極22と第2電極23との間でのキャリアの走行を制御する制御電極25とを備える。
【0062】
また、本実施の形態に係る窒化物半導体装置1は、第1電極22と第2電極23との間で第3窒化物半導体層14の表面から第2窒化物半導体層13に渡って凹状に形成されたリセス部16を備えてあり、リセス部16は、絶縁性窒化物で形成された窒化物絶縁膜17を備え、制御電極25は、導電性窒化物で形成され窒化物絶縁膜17(ゲート絶縁膜)に重ねて配置されている。
【0063】
この構成により、リセス部16が形成された第2窒化物半導体層13での窒素抜けに対する窒素の補填を窒化物絶縁膜17から施し、窒化物絶縁膜17での窒素抜けに対する窒素の補填を制御電極25(導電性窒化物)から施して第2窒化物半導体層13での窒素不足を抑制することが可能となるので、第2窒化物半導体層13の窒素不足に起因する移動度の低下を抑制し、また、窒化物絶縁膜17の窒素不足に起因するリーク電流を低減して優れた高速性およびノーマリーオフ特性を有する窒化物半導体装置1とすることができる。
【0064】
なお、リセス部16は、第3窒化物半導体層14を貫通し、第2窒化物半導体層13を途中までエッチングした状態となるように形成されている。
【0065】
制御電極25を構成する導電性窒化物は、金属窒化物であることが望ましい。この構成により、容易に導電性窒化物を形成することが可能となる。また、金属窒化物は、窒化タングステンW2Nであることが望ましい。この構成により、安定して作用する制御電極25を有する窒化物半導体装置1とすることが可能となる。本実施の形態では、制御電極25は、導電性窒化物であるW2Nを厚さ300nmとして形成されている。
【0066】
なお、窒化タングステンW2N、あるいはタングステンWは、ショットキー障壁が高いので、優れたショットキー特性を有している。したがって、窒化タングステンW2Nから窒素Nが抜けてタングステンWに変化したときでも、ショットキー特性が劣化することはない。つまり、窒化タングステンから窒素が抜けたときでも、正常なトランジスタ特性を維持することができる。
【0067】
第3窒化物半導体層14の表面には、制御電極25の下層(ゲート絶縁膜)として形成された窒化物絶縁膜17が延長された窒化物表面保護膜20が形成されている。つまり、窒化物絶縁膜17は、第3窒化物半導体層14の表面に延長され窒化物表面保護膜20とされている。この構成により、第3窒化物半導体層14の表面を窒化物絶縁膜17(窒化物表面保護膜20)で容易に保護することが可能となり、信頼性を向上させた窒化物半導体装置1とすることができる。本実施の形態では、窒化物絶縁膜17(窒化物表面保護膜20)は、厚さ20nmの窒化シリコン(Si34)で形成されている。
【0068】
窒化物絶縁膜17(窒化物表面保護膜20)を構成する絶縁性窒化物としては、界面準位が少ないことから、窒化シリコンSi34が望ましい。この構成により、窒化物絶縁膜17の界面準位を抑制して電子が窒化物絶縁膜17にトラップされることを抑制した窒化物半導体装置1とすることができる。
【0069】
第1電極22および第2電極23は、第3窒化物半導体層14または第2窒化物半導体層13に接合されていることが望ましい。この構成により、第1電極22を例えばソース電極、第2電極23を例えばドレイン電極、制御電極25をゲート電極として機能させる高電子移動度電界効果トランジスタとすることができる。
【0070】
なお、第3窒化物半導体層14の禁制帯幅は、第2窒化物半導体層13の禁制帯幅に比べて広い構成としてある。この構成により、第2窒化物半導体層13と第3窒化物半導体層14とによるヘテロ接合界面に対応させてキャリアとしての2次元電子ガス層(2DEG)を第3窒化物半導体層14に形成し、オフ状態での2次元電子ガス層をリセス部16で遮断することが可能となるので、リーク電流を低減してノーマリーオフ特性を向上させた電界効果トランジスタ(窒化物半導体装置1)とすることができる。
【0071】
なお、制御電極25にプラスの電圧を印加することによって、リセス部16の底面16bと第2窒化物半導体層13との界面に対応する第2窒化物半導体層13でキャリアとしての電子を発生させることが可能となるので、第1電極22と第2電極23との間に電流が流れることからオン状態となる。
【0072】
一般的に、GaN(第2窒化物半導体層13)の禁制帯幅は、3.4eV程度、第3窒化物半導体層14を構成するAlN(第3窒化物半導体下層14f)の禁制帯幅は、5.9〜6.2eV程度、AlGaN(第3窒化物半導体中層14s)の禁制帯幅は、3.4〜5.9(〜6.2)、GaN(第3窒化物半導体上層14t)の禁制帯幅は、3.4eV程度である。
【0073】
したがって、第2窒化物半導体層13をGaNで構成したときは、第3窒化物半導体層14として少なくともGaNより広い禁制帯幅を実現できる窒化物半導体(例えば、AlGaN)とすることが望ましい。
【0074】
窒化物絶縁膜17(窒化物表面保護膜20)に適用できる絶縁性窒化物としては、窒化シリコンSi34の他に、例えばAlNがある(図2)。また、制御電極25に適用できる導電性窒化物としては、W2Nの他に、例えばNbN、ZrN、HfN、LaN、TaN、Mo2N、TiN、ScN、VN、CrNなどがある(図2)。なお、図2に示す図表での自由エネルギーは、実施の形態2で説明する酸化物絶縁膜(絶縁性酸化物。図4参照)の自由エネルギーとの関連で示すものである。
【0075】
以下に、窒化物半導体装置1の製造方法について説明する。
【0076】
本実施の形態に係る窒化物半導体装置1の製造方法は、第1窒化物半導体層12と、第1窒化物半導体層12に積層された第2窒化物半導体層13と、第2窒化物半導体層13に積層された第3窒化物半導体層14と、第3窒化物半導体層14の表面に配置された第1電極22と、第1電極22に対向して第3窒化物半導体層14の表面に配置された第2電極23と、第1電極22と第2電極23との間でのキャリアの走行を制御する制御電極25とを備える窒化物半導体装置1を製造する窒化物半導体装置製造方法である。
【0077】
本実施の形態に係る窒化物半導体装置1の製造方法は、基板10にバッファ層11を積層した後、次の工程を備える。
【0078】
第1窒化物半導体層12、第2窒化物半導体層13、第3窒化物半導体層14をこの順に積層する窒化物半導体層積層工程と、第3窒化物半導体層14をエッチングして第3窒化物半導体層14の表面から第2窒化物半導体層13に渡る凹状のリセス部16を形成するリセス部形成工程と、リセス部16に絶縁性窒化物で形成される窒化物絶縁膜17を積層する窒化物絶縁膜積層工程と、第1電極22および第2電極23を形成する電極形成工程と、窒化物絶縁膜17に重ねて導電性窒化物を積層して制御電極25を形成する制御電極形成工程とを備える。
【0079】
この構成により、リセス部16、リセス部16に形成される窒化物絶縁膜17、キャリアの注入、取り出しに対応する第1電極22および第2電極23、窒化物絶縁膜17に重なる制御電極25を容易かつ高精度に形成することが可能となる。
【0080】
リセス部16、窒化物表面保護膜20、第1電極22、第2電極23、制御電極25の形成(パターニング)は、周知の積層技術(パターニング技術)を適用して行なうことができるので詳細な説明は省略する。なお、本実施の形態では、第3窒化物半導体層14に積層された窒化物絶縁膜17は、そのまま窒化物表面保護膜20として適用することができる。
【0081】
例えば、窒化物絶縁膜17(窒化物表面保護膜20)をリセス部16、第3窒化物半導体層14に積層する窒化物絶縁膜積層工程は、通常の窒化物絶縁膜形成技術を適用することが可能である。
【0082】
具体的には、表面側から第3窒化物半導体層14および第2窒化物半導体層13をドライエッチングしてリセス部16を形成(リセス部形成工程)した後、全面(リセス部16および第3窒化物半導体層14)に20nmの窒化シリコンSi34(窒化物絶縁膜17、窒化物表面保護膜20)をプラズマCVDによってリセス部16の底面16b、第3窒化物半導体層14の表面に堆積する(窒化物絶縁膜形成工程)。
【0083】
なお、窒化シリコンSi34は、絶縁性窒化物の中でも窒化物半導体層に対する界面準位が少ないことから、適用材料として優れている。また、第2窒化物半導体層13には、エッチングダメージが入っており、窒素抜けが生じた状態となっている。しかし、リセス部16に形成される窒化物絶縁膜17、窒化物絶縁膜17に積層される制御電極25によって窒素が補填されることから、実質的にエッチングダメージを解消することが可能となる。
【0084】
本実施の形態での窒化タングステン(W2N)の積層、形成は、スパッタ法を適用して実施した。具体的には、フォトレジストを全面に塗布した後、ゲート電極(制御電極25)のパターニングを行なう(制御電極25に対応する領域を開口する)。その後、スパッタによって、窒化タングステンを300nm堆積する。窒化タングステンを堆積した後、レジストをリフトオフすることによってレジストの上に形成された窒化タングステンを除去する。つまり、レジストの除去によって制御電極25以外の窒化タングステンは除去されるので、制御電極25を形成することが可能となる(制御電極形成工程)。
【0085】
その後、ランプアニールによって、例えば5℃/秒の昇温レートで窒素雰囲気中400℃まで昇温し、400℃で10分間の熱処理を施す(制御電極活性化工程)。つまり、窒化タングステンに熱処理を施して活性化させ、窒化物絶縁膜17での窒素抜け、第2窒化物半導体層13での窒素抜けに対して窒素Nを補填することが可能となり、窒素抜けの状態を解消した窒化物半導体装置1となり、安定したトランジスタ特性(高速性、良好な絶縁特性)を確保することができる。
【0086】
<実施の形態2>
図3Aないし図7に基づいて、本実施の形態に係る窒化物半導体装置(実施例1〜実施例4)、およびその製造方法について説明する。本実施の形態に係る窒化物半導体装置の基本的な構成は、実施の形態1の窒化物半導体装置1と同様であるので、符号を援用し、主に異なる事項について説明する。
【0087】
図3Aは、本発明の実施の形態2に係る窒化物半導体装置(実施例1)の断面を示す断面図である。
【0088】
図3Bは、図3Aに示した窒化物半導体装置(実施例1)を拡大して第3窒化物半導体層の積層状態の断面を示す断面図である。なお、図3Bは、実施の形態1(図1B)と同様の状態を示しているので説明は省略する。
【0089】
図4は、本発明の実施の形態2に係る窒化物半導体装置に適用することが可能な絶縁性酸化物を例示する一覧図表である。
【0090】
本実施の形態に係る窒化物半導体装置1(実施例1)では、リセス部16は、窒化物絶縁膜17と重なる位置に絶縁性酸化物で形成された酸化物絶縁膜18を備える。この構成により、絶縁破壊強度の高い酸化物絶縁膜18をゲート絶縁膜として窒化物絶縁膜17に重ねることが可能となることから、ゲート絶縁破壊強度の高い窒化物半導体装置1とすることができる。絶縁性酸化物は、微細加工に適用することを考慮して誘電率の高いものとすることが望ましい。
【0091】
なお、酸化物絶縁膜18は、窒化物絶縁膜17とリセス部16の底面16bとの間に配置されている(実施例1)。この構成により、窒化物絶縁膜17および酸化物絶縁膜18をリセス部16に容易かつ高精度に形成することが可能となる。
【0092】
また、窒化物絶縁膜17は、第3窒化物半導体層14の表面に延長され窒化物表面保護膜20とされている(実施例1)。この構成により、第3窒化物半導体層14の表面を窒化物絶縁膜17(窒化物表面保護膜20)で容易に保護することが可能となり、信頼性を向上させた窒化物半導体装置1とすることができる。
【0093】
上述したとおり、本実施の形態に係る窒化物半導体装置1(実施例1)では、第2窒化物半導体層13と制御電極25との間に配置されたゲート絶縁膜は、窒化物絶縁膜17と酸化物絶縁膜18の積層構造とされている。
【0094】
窒化物絶縁膜17は、酸化物絶縁膜18に比較して、自由エネルギー(生成エネルギー)が低い。したがって、酸化物絶縁膜18から酸素が抜ける前に、窒化物絶縁膜17から窒素が分解されることになる。例えば、窒化物絶縁膜17を構成する窒化シリコン(Si34)の自由エネルギーは、マイナス56kcal/mol(図2)であるのに対し、酸化物絶縁膜18を構成するアルミナ(Al23)の自由エネルギーは、マイナス378kcal/mol(図4)である。
【0095】
したがって、窒化物絶縁膜17で例えばシリコンSiと結合している窒素Nは、酸化物絶縁膜18とは反応しないで分離することとなる。分離した窒素Nは、窒素抜けした第2窒化物半導体層13に対して補填される。
【0096】
また、導電性窒化物で構成されている制御電極25は、酸化物絶縁膜18に比較して、自由エネルギー(生成エネルギー)が低い。例えば、制御電極25を構成する窒化タングステン(W2N)の自由エネルギーは、マイナス11kcal/mol(図2)であるのに対し、酸化物絶縁膜18を構成するアルミナ(Al23)の自由エネルギーは、マイナス378kcal/mol(図4)である。
【0097】
したがって、制御電極25で例えばタングステンWと結合している窒素Nは、酸化物絶縁膜18とは反応しないで分離することとなる。分離した窒素Nは、窒素抜けした窒化物絶縁膜17、あるいは窒素抜けした第2窒化物半導体層13に対して補填される。つまり、第2窒化物半導体層13からの窒素抜けは窒化物絶縁膜17から補填し、窒化物絶縁膜17からの窒素抜けは制御電極25から補填することが可能となる。
【0098】
このとき、窒素Nの分離は、窒化物絶縁膜17を構成する絶縁性窒化物、酸化物絶縁膜18を構成する絶縁性酸化物、制御電極25を構成する導電性窒化物の自由エネルギーの大小関係(相関)によって定まることから、窒化物絶縁膜17、酸化物絶縁膜18、および制御電極25の間での堆積の位置関係による依存性は生じない。
【0099】
なお、絶縁性酸化物としては、Al23の他に、例えばSiO2、HfO2、Ta25、ZrO2などがある(図4)。
【0100】
図5は、本発明の実施の形態2に係る窒化物半導体装置(実施例2)の断面を示す断面図である。
【0101】
本実施の形態に係る窒化物半導体装置1(実施例2)では、リセス部16は、窒化物絶縁膜17と重なる位置に絶縁性酸化物で形成された酸化物絶縁膜18を備える。この構成により、絶縁破壊強度の高い酸化物絶縁膜18をゲート絶縁膜として窒化物絶縁膜17に重ねることが可能となることから、ゲート絶縁破壊強度の高い窒化物半導体装置1とすることができる。つまり、実施例1と同様である。
【0102】
なお、酸化物絶縁膜18は、窒化物絶縁膜17とリセス部16の底面16bとの間に配置されている(実施例2)。この構成により、窒化物絶縁膜17および酸化物絶縁膜18をリセス部16に容易かつ高精度に形成することが可能となる。
【0103】
また、酸化物絶縁膜18は、第3窒化物半導体層14の表面に延長され酸化物表面保護膜21とされている(実施例2)。この構成により、第3窒化物半導体層14の表面を酸化物絶縁膜18(酸化物表面保護膜21)で容易に保護することが可能となり、信頼性を向上させた窒化物半導体装置1とすることができる。
【0104】
上述したとおり、実施例1(図3A)、実施例2(図5)では、酸化物絶縁膜18は、リセス部16の底面16bに直接積層した状態で形成されている。つまり、酸化物絶縁膜18は、窒化物絶縁膜17と第2窒化物半導体層13に挟まれた状態として形成されている。
【0105】
図6は、本発明の実施の形態2に係る窒化物半導体装置(実施例3)の断面を示す断面図である。
【0106】
本実施の形態に係る窒化物半導体装置1(実施例3)では、リセス部16は、窒化物絶縁膜17と重なる位置に絶縁性酸化物で形成された酸化物絶縁膜18を備える。つまり、実施例1、実施例2と同様である。
【0107】
なお、窒化物絶縁膜17は、酸化物絶縁膜18とリセス部16の底面16bとの間に配置されている(実施例3)。この構成により、窒化物絶縁膜17および酸化物絶縁膜18をリセス部16に容易かつ高精度に形成することが可能となる。
【0108】
また、酸化物絶縁膜18は、第3窒化物半導体層14の表面に延長され酸化物表面保護膜21とされている(実施例3)。この構成により、第3窒化物半導体層14の表面を酸化物絶縁膜18(酸化物表面保護膜21)で容易に保護することが可能となり、信頼性を向上させた窒化物半導体装置1とすることができる。
【0109】
図7は、本発明の実施の形態2に係る窒化物半導体装置(実施例4)の断面を示す断面図である。
【0110】
本実施の形態に係る窒化物半導体装置1(実施例4)では、リセス部16は、窒化物絶縁膜17と重なる位置に絶縁性酸化物で形成された酸化物絶縁膜18を備える。つまり、実施例1、実施例2、実施例3と同様である。
【0111】
なお、窒化物絶縁膜17は、酸化物絶縁膜18とリセス部16の底面16bとの間に配置されている(実施例4)。つまり、実施例3と同様である。
【0112】
また、窒化物絶縁膜17は、第3窒化物半導体層14の表面に延長され窒化物表面保護膜20とされている(実施例4)。つまり、実施例1と同様である。
【0113】
上述した実施例1ないし実施例4では、酸化物絶縁膜18(酸化物表面保護膜21)を構成する絶縁性酸化物としては、界面準位が少ないことから、アルミナAl23が望ましい。この構成により、酸化物絶縁膜18の界面準位を抑制して電子が酸化物絶縁膜18にトラップされることを抑制した窒化物半導体装置1とすることができる。
【0114】
上述した実施例1ないし実施例4では、窒化物絶縁膜17(窒化物表面保護膜20)を構成する絶縁性窒化物としては、界面準位が少ないことから、窒化シリコンSi34が望ましい。この構成により、窒化物絶縁膜17の界面準位を抑制して電子が窒化物絶縁膜17にトラップされることを抑制した窒化物半導体装置1とすることができる。つまり、実施の形態1と同様である。
【0115】
上述した実施例1ないし実施例4では、制御電極25を構成する導電性窒化物は、金属窒化物であることが望ましい。この構成により、容易に導電性窒化物を形成することが可能となる。また、金属窒化物は、窒化タングステンW2Nであることが望ましい。この構成により、安定して作用する制御電極25を有する窒化物半導体装置1とすることが可能となる。本実施の形態では、制御電極25は、導電性窒化物であるW2Nを厚さ300nmとして形成されている。つまり、実施の形態1と同様である。
【0116】
上述した実施例1ないし実施例4では、第1電極22および第2電極23は、第3窒化物半導体層14または第2窒化物半導体層13に接合されていることが望ましい。この構成により、第1電極22を例えばソース電極、第2電極23を例えばドレイン電極、制御電極25をゲート電極として機能させる高電子移動度電界効果トランジスタとすることができる。つまり、実施の形態1と同様である。
【0117】
以下に、窒化物半導体装置1の製造方法について説明する。
【0118】
本実施の形態に係る窒化物半導体装置1の製造方法は、第1窒化物半導体層12と、第1窒化物半導体層12に積層された第2窒化物半導体層13と、第2窒化物半導体層13に積層された第3窒化物半導体層14と、第3窒化物半導体層14の表面に配置された第1電極22と、第1電極22に対向して第3窒化物半導体層14の表面に配置された第2電極23と、第1電極22と第2電極23との間でのキャリアの走行を制御する制御電極25とを備える窒化物半導体装置1を製造する窒化物半導体装置製造方法である。
【0119】
本実施の形態に係る窒化物半導体装置1の製造方法は、基板10にバッファ層11を積層した後、次の工程を備える。
【0120】
第1窒化物半導体層12、第2窒化物半導体層13、第3窒化物半導体層14をこの順に積層する窒化物半導体層積層工程と、第3窒化物半導体層14をエッチングして第3窒化物半導体層14の表面から第2窒化物半導体層13に渡る凹状のリセス部16を形成するリセス部形成工程と、リセス部16に絶縁性窒化物で形成される窒化物絶縁膜17を積層する窒化物絶縁膜積層工程と、リセス部16で窒化物絶縁膜17と重なる位置に絶縁性酸化物で形成された酸化物絶縁膜18を形成する酸化物絶縁膜形成工程と、第1電極22および第2電極23を形成する電極形成工程と、窒化物絶縁膜17に重ねて導電性窒化物を積層して制御電極25を形成する制御電極形成工程とを備える。
【0121】
つまり、実施の形態1の窒化物半導体装置の製造方法に対して、酸化物絶縁膜形成工程が追加された製造方法となっている。その他の工程は、実施の形態1と同様であるので主に異なる事項について説明する。
【0122】
実施例1、実施例2では、ドライエッチングでリセス部16を形成(リセス部形成工程)した後、ECRスパッタでリセス部16にAl23(絶縁性酸化物)を50nmの厚さで堆積し、酸化物絶縁膜18を形成する(酸化物絶縁膜形成工程)。Al23は、絶縁破壊電界強度が6MV/cmであり、ゲート絶縁破壊強度の高い窒化物半導体装置1とすることができる。
【0123】
酸化物絶縁膜18を形成した後、プラズマCVDで酸化物絶縁膜18にSi34(絶縁性窒化物)を10nmの厚さで堆積し、窒化物絶縁膜17を形成する(窒化物絶縁膜積層工程)。
【0124】
その後、スパッタ装置でW2N(導電性窒化物)を300nmの厚さで堆積し、制御電極25を形成する(制御電極形成工程)。その後、熱処理を施して導電性窒化物を活性化する。
【0125】
実施例3、実施例4では、ドライエッチングでリセス部16を形成(リセス部形成工程)した後、プラズマCVDでリセス部16にSi34(絶縁性窒化物)を10nmの厚さで堆積し、窒化物絶縁膜17を形成する(窒化物絶縁膜積層工程)。Si34は、界面準位が少ないことから、移動度の高い窒化物半導体装置1とすることができる。
【0126】
窒化物絶縁膜17を形成した後、ECRスパッタで窒化物絶縁膜17にAl23(絶縁性酸化物)を50nmの厚さで堆積し、酸化物絶縁膜18を形成する(酸化物絶縁膜形成工程)。Al23は、絶縁破壊電界強度が6MV/cm、誘電率が9程度であり、ゲート絶縁破壊強度の高い窒化物半導体装置1とすることができる。
【0127】
その後、スパッタ装置でW2N(導電性窒化物)を300nmの厚さで堆積し、制御電極25を形成する(制御電極形成工程)。その後、熱処理を施して導電性窒化物を活性化する。
【0128】
実施例1ないし実施例4での、窒化物絶縁膜17、酸化物絶縁膜18に対するパターニングは、周知のパターニング技術を適用して行なうことが可能である。具体的には、実施例1での酸化物絶縁膜18、実施例2での窒化物絶縁膜17、実施例3での窒化物絶縁膜17、実施例4での酸化物絶縁膜18に対してパターニングを施すこととなる。
【0129】
<実施の形態3>
図8に基づいて、本実施の形態に係る窒化物半導体装置について説明する。本実施の形態に係る窒化物半導体装置の基本的な構成は、実施の形態1、実施の形態2の窒化物半導体装置1と同様であるので、符号を援用し、主に異なる事項について説明する。なお、本実施の形態に係る窒化物半導体装置は、実施の形態1、実施の形態2に対しても適用することが可能である。
【0130】
図8は、本発明の実施の形態3に係る窒化物半導体装置を拡大して第1窒化物半導体層の変形例の断面を示す断面図である。
【0131】
本実施の形態に係る窒化物半導体装置1では、第1窒化物半導体層12は、第2窒化物半導体層13に比べて格子定数が小さく、第2窒化物半導体層13に比べて禁制帯幅が広い構成としてある。つまり、本実施の形態に係る窒化物半導体装置1では、第1窒化物半導体層12の変形例を示す。
【0132】
この構成により、第1窒化物半導体層12と第2窒化物半導体層13とによるヘテロ接合界面に対応させて第1窒化物半導体層12に2次元電子ガス層を発生させることが可能となり、2次元電子ガス層に伴う電荷、およびヘテロ接合界面での導電帯の不連続によって、電子に対する障壁が構成されることとなる。したがって、オフ状態の場合に、ソース電極・ドレイン電極間(第1電極22・第2電極23間)に高いバイアスを印加したとき、第3窒化物半導体層14と第2窒化物半導体層13とによるヘテロ接合界面から基板10の方に離れた領域(例えば、バッファ層11、基板10)を介して流れる電子の経路を遮断することができる。つまり、ソース電極・ドレイン電極間に流れるリーク電流を抑制することが可能となる。
【0133】
具体的には、第2窒化物半導体層13がi−GaNであるとき、例えば、第1窒化物半導体層12としては、Al0.05Ga0.95Nとすることが望ましい。
【符号の説明】
【0134】
1 窒化物半導体装置
10 基板
11 バッファ層
12 第1窒化物半導体層
13 第2窒化物半導体層
14 第3窒化物半導体層
14f 第3窒化物半導体下層
14s 第3窒化物半導体中層
14t 第3窒化物半導体上層
16 リセス部
16b 底面
17 窒化物絶縁膜
18 酸化物絶縁膜
20 窒化物表面保護膜
21 酸化物表面保護膜
22 第1電極
23 第2電極
25 制御電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1窒化物半導体層と、該第1窒化物半導体層に積層された第2窒化物半導体層と、該第2窒化物半導体層に積層された第3窒化物半導体層と、該第3窒化物半導体層の表面に配置された第1電極と、前記第1電極に対向して前記第3窒化物半導体層の表面に配置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間でのキャリアの走行を制御する制御電極とを備える窒化物半導体装置であって、
前記第1電極と前記第2電極との間で前記第3窒化物半導体層の表面から前記第2窒化物半導体層に渡って凹状に形成されたリセス部を備えてあり、
該リセス部は、絶縁性窒化物で形成された窒化物絶縁膜を備え、
前記制御電極は、導電性窒化物で形成され前記窒化物絶縁膜に重ねて配置されていること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化物半導体装置であって、
前記第3窒化物半導体層の禁制帯幅は、前記第2窒化物半導体層の禁制帯幅に比べて広いこと
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の窒化物半導体装置であって、
前記窒化物絶縁膜は、前記第3窒化物半導体層の表面に延長され窒化物表面保護膜とされていること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の窒化物半導体装置であって、
前記リセス部は、前記窒化物絶縁膜と重なる位置に絶縁性酸化物で形成された酸化物絶縁膜を備えること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項5】
請求項4に記載の窒化物半導体装置であって、
前記酸化物絶縁膜は、前記窒化物絶縁膜と前記リセス部の底面との間に配置されていること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項6】
請求項5に記載の窒化物半導体装置であって、
前記窒化物絶縁膜は、前記第3窒化物半導体層の表面に延長され窒化物表面保護膜とされていること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項7】
請求項5に記載の窒化物半導体装置であって、
前記酸化物絶縁膜は、前記第3窒化物半導体層の表面に延長され酸化物表面保護膜とされていること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項8】
請求項4に記載の窒化物半導体装置であって、
前記窒化物絶縁膜は、前記酸化物絶縁膜と前記リセス部の底面との間に配置されていること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項9】
請求項8に記載の窒化物半導体装置であって、
前記酸化物絶縁膜は、前記第3窒化物半導体層の表面に延長され酸化物表面保護膜とされていること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項10】
請求項8に記載の窒化物半導体装置であって、
前記窒化物絶縁膜は、前記第3窒化物半導体層の表面に延長され窒化物表面保護膜とされていること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項11】
請求項4から請求項10までのいずれか一つに記載の窒化物半導体装置であって、
前記絶縁性酸化物は、Al23であること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか一つに記載の窒化物半導体装置であって、
前記絶縁性窒化物は、Si34であること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれか一つに記載の窒化物半導体装置であって、
前記導電性窒化物は、金属窒化物であること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項14】
請求項13に記載の窒化物半導体装置であって、
前記金属窒化物は、窒化タングステンであること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項15】
請求項1から請求項14までのいずれか一つに記載の窒化物半導体装置であって、
前記第1電極および前記第2電極は、前記第3窒化物半導体層または第2窒化物半導体層に接合されていること
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項16】
請求項1から請求項15までのいずれか一つに記載の窒化物半導体装置であって、
前記第1窒化物半導体層は、前記第2窒化物半導体層に比べて格子定数が小さく、前記第2窒化物半導体層に比べて禁制帯幅が広いこと
を特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項17】
第1窒化物半導体層と、該第1窒化物半導体層に積層された第2窒化物半導体層と、該第2窒化物半導体層に積層された第3窒化物半導体層と、該第3窒化物半導体層の表面に配置された第1電極と、前記第1電極に対向して前記第3窒化物半導体層の表面に配置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間でのキャリアの走行を制御する制御電極とを備える窒化物半導体装置を製造する窒化物半導体装置製造方法であって、
前記第1窒化物半導体層、前記第2窒化物半導体層、前記第3窒化物半導体層をこの順に積層する窒化物半導体層積層工程と、
前記第3窒化物半導体層をエッチングして前記第3窒化物半導体層の表面から前記第2窒化物半導体層に渡る凹状のリセス部を形成するリセス部形成工程と、
前記リセス部に絶縁性窒化物で形成される窒化物絶縁膜を積層する窒化物絶縁膜積層工程と、
前記第1電極および前記第2電極を形成する電極形成工程と、
前記窒化物絶縁膜に重ねて導電性窒化物を積層して前記制御電極を形成する制御電極形成工程とを備えること
を特徴とする窒化物半導体装置製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−267936(P2010−267936A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120359(P2009−120359)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】