説明

薄膜形成方法

【課題】 バリアメタル膜とCu膜との密着性を向上させた薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】 被処理物表面にPVD法によりバリアメタル膜を形成する工程と、このバリアメタル膜表面にCVD法によりCu膜を形成する工程と、前記バリア膜及びCu膜を積層したものを所定温度で熱処理する工程とを実施する。前記バリアメタル膜としてTi及びRuを含むものを用い、当該バリアメタル膜中のTiの組成比を5〜25原子%の範囲とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成方法に関し、特に、半導体装置の銅配線技術に利用され、バリアメタル膜とCu膜との密着性を向上できる薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置の銅配線技術においては、Siウエハなどの基板表面の絶縁膜中に配線用の溝やホールを形成した後、Cu膜の形成に先立って、絶縁膜へのCuの拡散を防止するためにTiまたはTaを含むバリアメタル膜を形成することが一般に知られている。このようにバリアメタル膜を形成する場合、その後に実施されるCMP工程などの諸工程において耐えられるようなバイアメタル層とCu層との密着性が求められる。
【0003】
そこで、PVD法たるスパッタリング法によりバリアメタル膜としてTi膜又はTa膜を形成した後、このバリアメタル膜表面に、スパッタリング法により窒化物膜または窒素原子を含むガスを吸着させて窒素原子を含む層を形成し、そして、CVD法によりCu膜を形成した後、所定の温度で熱処理することが特許文献1で知られている。
【特許文献1】国際公開WO2007/64012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載のものでは、バリアメタル膜を形成した後に窒化金属膜等からなる層を形成することで、この層が活性な金属吸着サイトを占有し、バリアメタル膜形成直後のその表面での酸素、フッ素化合物、水、アンモニア等の不純物との反応生成物層(例えば、不純物が酸素である場合、チタンとの反応によるチタン酸化物等のような層)の形成が抑制される。その結果、熱処理時にバリアメタルとCuとが効率よく相互拡散することで密着性が向上する。然し、このものでは、CMP工程などの諸工程で十分に耐えることができ、歩留まりが向上するようなバリアメタル層とCu層との密着性を得るには、熱処理時の加熱温度を350℃程度に設定する必要があった。
【0005】
他方で、近年の半導体装置の高集積化、微細化に伴い、低誘電率化が求められている層間絶縁膜として、例えば空孔が規則的に配列された多孔質薄膜を用いる場合、この多孔質薄膜の性能を維持するためには、上記熱処理時の温度を300℃以下、好ましくは250℃程度の温度まで低くすることが望まれている。
【0006】
そこで、本発明の課題は、上記点に鑑み、バリアメタル層に本来求められるバリア性を維持しつつ、300℃以下の低い温度で熱処理してもバリアメタル層とCu層との間で十分な密着性が得られるようにした薄膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の薄膜形成方法は、被処理物表面にPVD法によりバリアメタル膜を形成する工程と、このバリアメタル膜表面にCVD法によりCu膜を形成する工程と、前記バリア膜及びCu膜を積層したものを所定温度で熱処理する工程とを含み、前記バリアメタル膜としてTi及びRuを含むものを用い、当該バリアメタル膜中のTiの組成比を5〜25原子%の範囲とすることを特徴とする。
【0008】
また、本発明においては、前記PVD法はスパッタリング法であり、ターゲットとして、所定形状を有するTi製のターゲットのスパッタ面中央領域に、所定形状を有するRu製のターゲットを配置したものを用い、プラズマの形状を調節して前記組成比のバリアメタル膜を得るようにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バリアメタル膜として、Ti及びRuを含むものを用い、バリアメタル膜中のTiの組成比を所定の範囲に設定することで、250℃という低温で熱処理を行っても、本来求められるバリア性を維持しつつ十分な密着性が確保でき、また、形成される膜におけるCuのストレスマイグレーションがなく耐性も向上する。その際、Tiの組成比が5原子%より小さいと、本来バリアメタル層に求められるバリア性が不十分となり、他方で、25原子%を超えると、バリアメタル層とCu層との間の密着性が低下し、CMP処理等の後工程で剥離してしまう虞がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本実施の形態では、被処理物として、例えばSiウエハ表面にシリコン酸化物膜(絶縁膜)を形成した後、このシリコン酸化物膜中に配線用の溝やホールを形成したものが用いられる。そして、本発明の薄膜形成方法を実施して、これらの溝やホールに、被処理物表面にPVD法によりTiとRuとからなるバリアメタル膜を形成する工程と、このバリアメタル膜表面にCVD法によりCu膜を形成する工程と、バリア膜及びCu膜が積層されたものを所定温度で熱処理する工程とが実施される。
【0011】
バリアメタル膜は、当該バリアメタル膜中のTiの組成比が5〜25原子%の範囲となるように、公知の構造を有するマグネトロン方式のスパッタリング(PVD)装置により所定の膜厚(例えば、15nm)で形成される。図1に示すように、スパッタリング装置1は、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプなどの真空排気手段(図示せず)を介して所定の真空圧に保持できるスパッタ室2を有する。
【0012】
スパッタ室2には、アルゴンなどのスパッタガスを一定の流量で導入するガス導入手段3が設けられている。また、スパッタ室2下側には、マグネトロンスパッタ電極Cが配置される。このマグネトロンスパッタ電極Cは、所定形状のターゲット4と、このターゲット4のスパッタ面4aの背面側に配置された磁石組立体5とを有する。
【0013】
ここで、ターゲット4としては、バリアメタル膜中のTiの組成比(原子%)が上記範囲内で適宜調節できるように、公知の方法で平面視円形等の所定形状に製作したTiターゲット41の中央領域に、Tiターゲット41の外形に相似の凹部41aを設け、この凹部41aに、公知の方法で製作したRuターゲット42を、スパッタ面4aが同一平面上に位置するように嵌合することで作製したものが用いられる(図2(a)及び図2(b)参照)。なお、所定の重量比でTiとRuとを混合して作製した合金ターゲットを用いることもできる。
【0014】
他方、磁石組立体5は、公知の構造を有し、ターゲット4のスパッタ面4aの前方に閉ループのトンネル状の磁束Mを形成するように、複数の磁石5a、5bをターゲット4側の極性を適宜変えて配置したものである。
【0015】
そして、スパッタ室2を所定の圧力まで真空排気した後、上記被処理物Sをターゲット4と対向した位置に搬送する。次いで、ガス導入手段3を介してArを導入すると共に、スパッタ電源Eを介してターゲット4に負の直流電圧を印加する。これにより、被処理物S及びターゲット4に垂直な電界が形成され、ターゲット4の前方にプラズマが発生してターゲット4がスパッタされ、被処理物S表面に主としてRuからなり、かつ、Tiを含有するバリアメタル膜が形成される。
【0016】
このスパッタリングの際には、磁石組立体5を構成する各磁石5a、5bの配置を変更してターゲット4前方でのプラズマの形状を適宜調節することで、ターゲット4のスパッタ領域を変化させ(つまり、Tiのスパッタ領域を増減させ)、上記範囲の組成比を有するバリアメタル膜が形成される。
【0017】
次に、バリアメタル膜表面には、CVD装置によりCu膜が所定の膜厚(例えば、100nm)で形成される。CVD装置としては、公知の構造を有するものが利用されるため、ここでは詳細な説明を省略する。また、原料ガスについても特に制限はなく、銅含有有機化合物、例えばCu(hfac)(tmvs)を用いることができる。そして、原料ガスとしてCu(hfac)(tmvs)を用い、この原料ガスを処理室内に配置した被処理物に供給してCu膜の形成が行われる。原料ガスとしてCu(hfac)(tmvs)を用いる場合には、例えば、処理室内の圧力を100〜200Pa、被処理物の加熱温度を180〜220℃に設定すればよい。
【0018】
なお、Ruは還元され易いため、上記原料ガスが例えば水素ガスを含んでいるような場合には、バリアメタル膜を形成直後にバリアメタル層の表面にRuとの反応によるRuOxの層が形成されていたとしても、CVD処理の際に、還元によりRuOxの層が除去された状態でバリアメタル膜表面にCu層が形成できる。その結果、後述の熱処理時にバリアメタルとCuとがより効率よく相互拡散させることが可能になる。
【0019】
次に、バリアメタル膜表面に所定の膜厚のCu膜を形成した後、300℃以下の温度、好ましくは250℃で熱処理が行われる。熱処理装置としては、真空チャンバと、赤外線ランプなどの加熱手段とを具備する公知の構造の熱処理炉が用いられる。この場合、被処理物の加熱温度を250℃、加熱時間3分に設定すればよい。これにより、バリアメタルとCuとが効率よく相互拡散して相互に密着する。その際、バリアメタル膜としてTi及びRuからなる膜を用い、バリアメタル膜中のTiの組成比を所定の範囲としたことで、250℃という低温で熱処理を行ってもバリア性を維持しつつ十分な密着性を確保でき、また、形成される膜におけるCuのストレスマイグレーションがなく耐性も向上する。
【0020】
ここで、バリアメタル膜中のTiの組成比が5原子%より小さいと、本来バリアメタル層に求められるバリア性が不十分となり、他方で、25原子%を超えると、バリアメタル層とCu層との間の密着性が低下し、CMP処理等により剥離してしまう。
【0021】
なお、熱処理を行った後、Cu膜上にさらにPVD法、メッキ法、CVD法又はALD法により所定の膜厚のCu膜を形成し、次いで、250℃程度の温度で再度熱処理を行うようにしてもよい。他方、上記熱処理は、PVD法、メッキ法、CVD法又はALD法によりさらにCu膜を形成した後にのみ行ってもよい。
【0022】
また、本発明の薄膜形成方法を実施するために、多関節式の搬送アームを設けた搬送室に、上記構成を有するスパッタリング装置と、CVD装置と、熱処理炉とを連結して成膜装置を構成し、真空中で上記被対象物を順次搬送して、本発明の薄膜形成方法を実施して薄膜形成を行ってもよい。
【実施例1】
【0023】
被処理物として、公知の方法でシリコン酸化物膜(絶縁膜)を形成したSiウエハを用い、このSiウエハ表面に、図1に示すマグネトロンスパッタ装置によりRuとTiとからなるバリアメタル膜を形成した。スパッタリング条件として、スパッタ室の圧力を5×10−6Paまで真空排気した後にArガス流量を8sccm、スパッタ電源の投入電圧を400Vに設定し、バリアメタル膜を15nm厚さで形成した。
【0024】
次いで、バリアメタル膜上に、CVD法によりCu膜を形成した。原料ガスとしてCu(hfac)(tmvs)を用い、CVD装置の処理室内の圧力を150Pa、被処理物Sの加熱温度を200℃に設定し、100nm厚さでCu膜を形成した。
【0025】
次いで、被処理物S表面に上記のようにバリアメタル膜及びCu膜を所定の膜厚で積層したものを熱処理炉に収納し、熱処理を施した。熱処理炉内での熱処理温度を250℃、及び処理時間3分に設定した。
【0026】
図3は、バリアメタル膜中のTiの組成比(原子%)を変化させたときのバリアメタル膜及びCu膜の密着性と、バリア性とを評価した表である。
【0027】
ここで、密着性は、次のような所謂テープテスト法により評価した。即ち、上記のようにして得た膜に対し、ダイヤモンドカッターにより、水平方向及び垂直方向に一定の間隔でそれぞれ10本の切り欠き線を設け、次いで、これらの切り欠き線を設けた領域に粘着テープを貼付し、剥離させた。そして、切り欠き線で囲繞された膜のうち、5%以下の面積しかテープに付着しない場合には密着性良好と評価した。
【0028】
他方で、バイリ性は、次のように評価した。即ち、絶縁膜中への金属イオン拡散は、100乃至300℃程度の加熱下で電圧を印加すると(以下、「BTS処理」という)、一般に加速される。このため、バイアス電圧に対する電気容量変化を測定(C−V測定)すると、BTS処理前後でフラットバンド電圧VFBの位置がシフトする。よって、絶縁膜中あるいは界面に不純物イオンが含まれない場合、BTS処理によるフラットバンド電圧の変化量(ΔVFB)から、絶縁膜中のCuイオンの拡散しやすさを見積もることができる。
【0029】
具体的には、上記のようにバリア膜及びCu膜からなる積層膜を形成した基板を電気測定用加熱ステージに取付け、窒素雰囲気中で、200℃で12時間加熱し、吸着水を十分に除去した後、室温まで放冷し、そして、窒素雰囲気でC−V測定を行い、再び200℃まで昇温し(昇温速度7℃/min)、BTS処理した。C−V測定条件は、測定間隔1V、測定時間1秒、周波数1MHz、測定範囲−40V〜+40Vとした。他方、BTS処理条件は、加熱温度200℃、バイアス電圧+20V、1時間保持した。室温まで放冷(降温速度7℃/min)した後、再びC−V測定を行い、フラットバンド電圧のシフト量ΔVFBを算出し、このΔVFBがマイナス側にシフトしたものをバリア性不可と評価した。
【0030】
これによれば、Tiの組成比が5原子%以上の場合には、絶縁膜へのCuの拡散を防止するのに必要なバリア性を有していることが判る。然し、Tiの組成比が35原子%以上になると、テープテストにより殆どの膜が粘着テープに付着して剥がれ、十分な密着性が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の薄膜形成方法を実施する際にバリアメタル膜を形成するのに適したスパッタリング装置の模式的構成図。
【図2】(a)及び(b)は、図1に示すスパッタリング装置に用いるターゲットの説明図。
【図3】実施例1で得られた薄膜の密着性及びバリア性を評価した表。
【符号の説明】
【0032】
1 スパッタリング装置(PVD)
2 スパッタ室
3 ガス導入手段
4 ターゲット
41 Tiターゲット
42 Ruターゲット
5 磁石組立体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物表面にPVD法によりバリアメタル膜を形成する工程と、このバリアメタル膜表面にCVD法によりCu膜を形成する工程と、前記バリア膜及びCu膜を積層したものを所定温度で熱処理する工程とを含み、
前記バリアメタル膜としてTi及びRuを含むものを用い、当該バリアメタル膜中のTiの組成比を5〜25原子%の範囲とすることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
前記PVD法はスパッタリング法であり、ターゲットとして、所定形状を有するTi製のターゲットのスパッタ面中央領域に、所定形状を有するRu製のターゲットを配置したものを用い、プラズマの形状を調節して前記組成比のバリアメタル膜を得ることを特徴とする請求項1記載の薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−27061(P2009−27061A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190459(P2007−190459)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】