説明

車両の制御装置および車両

【課題】電動式オイルポンプを保護しつつ、走行許可状態をなるべく維持させる車両の制御装置および車両を提供する。
【解決手段】制御装置27は、シフトレバーがニュートラルポジションにある間はモータジェネレータMG2を停止させ、油圧制御装置31中の電動式オイルポンプの状態が第1の回転数での運転を継続することが好ましくない状態になった場合には、電動式オイルポンプの回転数を第1の回転数から第1の回転数よりも低い第2の回転数に変更する。好ましくは、制御装置27は、車両が所定の警告条件を満たすときに運転者にシフトレバー位置をニュートラルポジションから他の位置へ変更するように警告する。より好ましくは、制御装置27は、警告後にシフトレバー位置がニュートラルポジションから他の位置へ変更されない場合は、車両を走行不許可状態に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の制御装置および車両に関し、特に電動式オイルポンプおよび機械式オイルポンプを併用して発生させた油圧を用いる車両の制御装置および車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005−207304号公報(特許文献1)は、モータからの駆動力が油圧制御式変速機を介して駆動輪に伝達されるとともに、この油圧を発生する電動式オイルポンプと、エンジンにより駆動され油圧を発生する機械式オイルポンプとを有するハイブリッド車両について開示する。
【特許文献1】特開2005−207304号公報
【特許文献2】特開2002−225578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電動式オイルポンプは油圧発生能力が高ければ重量が増し、また消費電力も大きくなる。したがって、ハイブリッド車両の場合には、電動式オイルポンプの能力に余裕を持たせるよりも、能力不足の時にエンジンを運転して機械式オイルポンプで油圧を補うほうが良い場合が多い。
【0004】
このような場合、電動式オイルポンプが連続作動をして過熱等により作動限界に近づくとエンジン起動をして機械式オイルポンプを作動させる必要があるが、シフトレバー位置がN(ニュートラル)ポジションに設定されていると、エンジンを起動できず電動式オイルポンプの負荷を軽減できないときがある。
【0005】
すなわち、シフトレバー位置がニュートラルポジションでシフトレンジがNレンジに設定されている場合には、駆動力が車輪に伝わることがあってはならないので、車輪を駆動可能なモータは電源が切られた状態にされている。エンジンを起動するのに車輪を駆動可能なモータを使用するハイブリッド車両では、したがってNレンジではエンジンをクランキングするためのモータを動かすことができない。
【0006】
この発明の目的は、電動式オイルポンプを保護しつつ、走行許可状態をなるべく維持させる車両の制御装置および車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、要約すると、車両の制御装置であって、車両は、駆動輪と、駆動輪の駆動トルクを発生する第1の回転電機と、モータから駆動輪に駆動トルクを伝達する油圧式変速機と、油圧式変速機に対して元油圧を発生させる電動式オイルポンプと、駆動輪を駆動するために運転される内燃機関と、内燃機関から機械的動力を受けて回転し、元油圧を発生させる機械式オイルポンプと、走行レンジを切換えるシフトレバーとを含む。制御装置は、シフトレバーがニュートラルポジションにある間は第1の回転電機を停止させ、電動式オイルポンプの状態が第1の回転数での運転を継続することが好ましくない状態になった場合には、電動式オイルポンプの回転数を第1の回転数から第1の回転数よりも低い第2の回転数に変更する。
【0008】
好ましくは、制御装置は、車両が所定の警告条件を満たすときに運転者にシフトレバー位置をニュートラルポジションから他の位置へ変更するように警告する。所定の警告条件は、電動式オイルポンプの状態が第1の回転数での運転を継続することが好ましくない状態になったことを含む。
【0009】
より好ましくは、制御装置は、警告後にシフトレバー位置がニュートラルポジションから他の位置へ変更されない場合は、車両を走行不許可状態に設定する。
【0010】
好ましくは、車両は、内燃機関の始動時に始動トルクを発生させる第2の回転電機と、内燃機関のクランクシャフト、第1の回転電機の回転軸、第2の回転電機の回転軸に3つの入力軸が機械的に結合される動力分割機構とをさらに備える。動力分割機構は、3つの入力軸のうちいずれか2つの入力軸の回転が定まると、他の1つの入力軸の回転は自ずと定まり、制御装置は、シフトレバーがニュートラルポジションにある間は第2の回転電機を停止させ、内燃機関の始動ができない状態に車両を設定する。
【0011】
この発明は、さらに他の局面では、上記いずれかに記載の車両の制御装置を搭載する車両である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電動式オイルポンプを保護しつつ、車両に走行許可状態をなるべく維持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号付してその説明は繰返さない。
【0014】
[車両の構成]
図1は、本発明の実施の形態に係るハイブリッド車両の構成を示した概略図である。
【0015】
図1を参照して、本実施の形態に係るハイブリッド車両は、主動力源1と、アシスト動力源5と、変速機6と出力軸2とデファレンシャル3と、駆動輪4とを含む。
【0016】
主動力源1のトルクは出力軸2に伝達され、出力軸2からデファレンシャル3を介して駆動輪4にトルクが伝達される。
【0017】
一方、走行のための駆動力を出力する力行制御あるいはエネルギーを回収する回生制御の可能なアシスト動力源5が設けられており、このアシスト動力源5が変速機6を介して出力軸2に連結されている。したがってアシスト動力源5と出力軸2との間で伝達するトルクを変速機6で設定する変速比に応じて増減するようになっている。
【0018】
上記の変速機6は、設定する変速比が“1”以上となるように構成することができ、このように構成することにより、アシスト動力源5でトルクを出力する力行時に、アシスト動力源5で出力したトルクを増大させて出力軸2に伝達できるので、アシスト動力源5を低容量もしくは小型のものとすることができる。
【0019】
しかしながら、アシスト動力源5の運転効率を良好な状態に維持することが好ましいので、例えば車速に応じて出力軸2の回転数が増大した場合には、変速比を低下させてアシスト動力源5の回転数を低下させる。また、出力軸2の回転数が低下した場合には、変速比を増大させることがある。
【0020】
図2は、図1の主動力源1および変速機6の構成を詳細に示した図である。
図2を参照して、主動力源1は、内燃機関(以下、エンジンと記す)10と、モータジェネレータMG1と、これらエンジン10とモータジェネレータMG1との間でトルクを合成もしくは分配する遊星歯車機構12とを含む。
【0021】
エンジン10は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。エンジン10の制御は、例えば、マイクロコンピュータを主体とする電子制御装置(E−ECU)13によっておこなうように構成されている。
【0022】
また、モータジェネレータMG1は、インバータ14を介してバッテリーなどの蓄電装置15に接続されている。モータジェネレータMG1の一例として、電動機としての機能と発電機としての機能とを生じる永久磁石式同期電動機を用いることができる。
【0023】
インバータ14を制御することにより、モータジェネレータMG1の出力トルクあるいは回生トルクを適宜に設定するようになっている。インバータ14の制御をおこなうために、マイクロコンピュータを主体とする電子制御装置(MG1−ECU)16が設けられている。なお、モータジェネレータMG1のステータ(図示せず)は固定されており、回転しないようになっている。
【0024】
遊星歯車機構12は、外歯歯車であるサンギヤ17と、サンギヤ17に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ18と、これらサンギヤ17とリングギヤ18とに噛合しているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持しているキャリヤ19とを含み、これらを三つの回転要素として差動作用を生じる公知の歯車機構である。エンジン10の出力軸がダンパ20を介して第1の回転要素であるキャリヤ19に連結されている。言い換えれば、キャリヤ19が遊星歯車機構12の入力要素となっている。
【0025】
これに対して第2の回転要素であるサンギヤ17にモータジェネレータMG1のロータが連結されている。したがってサンギヤ17が遊星歯車機構12のいわゆる反力要素となっており、また第3の回転要素であるリングギヤ18が遊星歯車機構12の出力要素となっている。そして、リングギヤ18は、出力軸(すなわちプロペラシャフト)2に連結されている。
【0026】
一方、変速機6は、図2に示す例では、一組のラビニョ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわちそれぞれ外歯歯車である第1サンギヤ(S1)21と第2サンギヤ(S2)22とが設けられており、第1サンギヤ21に第1のピニオン23が噛合するとともに、第1のピニオン23が第2のピニオン24に噛合し、第2のピニオン24が各サンギヤ21,22と同心円上に配置されたリングギヤ(R)25に噛合している。
【0027】
なお、各ピニオン23,24は、キャリヤ(C)26によって自転かつ公転自在に保持されている。また、第2サンギヤ22が第2のピニオン24に噛合している。したがって第1サンギヤ21とリングギヤ25とは、各ピニオン23,24と共にダブルピニオン型遊星歯車機構を構成し、また第2サンギヤ22とリングギヤ25とは、第2のピニオン24と共にシングルピニオン型遊星歯車機構を構成している。
【0028】
そして、第1サンギヤ21を選択的に固定するブレーキB1と、リングギヤ25を選択的に固定するブレーキB2とが設けられている。これらのブレーキB1,B2は摩擦力によって係合力を生じるいわゆる摩擦係合装置であり、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置を採用することができる。そして、これらのブレーキB1,B2は、油圧による係合力に応じてそのトルク容量が連続的に変化するように構成されている。さらに、第2サンギヤ22にアシスト動力源であるモータジェネレータMG2が連結され、またキャリヤ26が出力軸2に連結されている。
【0029】
したがって、上記の変速機6は、第2サンギヤ22がいわゆる入力要素であり、またキャリヤ26が出力要素となっており、ブレーキB1を係合させることにより変速比が“1”より大きい高速段が設定され、ブレーキB1に替えてブレーキB2を係合させることにより、高速段より変速比の大きい低速段が設定されるように構成されている。この各変速段の間での変速は、車速や要求駆動力(もしくはアクセル開度)などの走行状態に基づいて実行される。より具体的には、変速段領域を予めマップ(変速線図)として定めておき、検出された運転状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御される。その制御をおこなうためのマイクロコンピュータを主体とした電子制御装置(T−ECU)27が設けられている。
【0030】
なお、図1のアシスト動力源5として、図2に示す例ではトルクを出力する力行およびエネルギーを回収する回生の可能なモータジェネレータMG2が採用されている。このモータジェネレータMG2としては、一例として永久磁石式同期電動機を用いることができる。モータジェネレータMG2のロータは第2サンギヤ22に接続されている。なお、モータジェネレータMG2のステータ(図示せず)は固定されており、回転しないようになっている。さらにモータジェネレータMG2は、インバータ28を介してバッテリー29に接続されている。
【0031】
マイクロコンピュータを主体とする電子制御装置(MG2−ECU)30は、インバータ28を制御することにより、力行および回生ならびにそれぞれの場合におけるモータジェネレータMG2のトルクを制御する。
【0032】
なお、バッテリー29および電子制御装置30は、モータジェネレータMG1についてのインバータ14およびバッテリー(蓄電装置)15と統合することもできる。また、図2に示される複数の電子制御装置は、必ずしも複数必要なわけではなく、数を減らした複数個または1つの電子制御装置にまとめることもできる。
【0033】
図3は、図2のシングルピニオン型遊星歯車機構12の共線図である。
図3を参照して、キャリヤ(C)19に入力されるエンジン10の出力するトルクに対して、モータジェネレータMG1による反力トルクをサンギヤ(S)17に入力すると、これらのトルクを加減算した大きさのトルクが、出力要素となっているリングギヤ(R)18に現れる。
【0034】
その場合、モータジェネレータMG1のロータがそのトルクによって回転し、モータジェネレータMG1は発電機として機能する。また、リングギヤ18の回転数(出力回転数)を一定とした場合、モータジェネレータMG1の回転数を大小に変化させることにより、エンジン10の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる。すなわち、エンジン10の回転数を例えば燃費が最もよい回転数に設定する制御を、モータジェネレータMG1を制御することによっておこなうことができる。
【0035】
さらに、図3の一点鎖線で示すように、走行中にエンジン10を停止させていれば、モータジェネレータMG1が逆回転しており、その状態からモータジェネレータMG1を電動機として機能させて正回転方向にトルクを出力させると、キャリヤ19に連結されているエンジン10にこれを正回転させる方向のトルクが作用し、したがってモータジェネレータMG1によってエンジン10を始動(モータリングもしくはクランキング)することができる。
【0036】
その場合、出力軸2にはその回転を止める方向のトルクが作用する。したがって走行のための駆動トルクは、モータジェネレータMG2の出力するトルクを制御することにより維持でき、同時にエンジン10の始動を円滑におこなうことができる。なお、この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
【0037】
図4は、図2の変速機6を構成する歯車機構の共線図である。
図4を参照して、ブレーキB2によってリングギヤ25を固定すれば、低速段Lが設定され、モータジェネレータMG2の出力したトルクが変速比に応じて増幅されて出力軸2に付加される。これに対してブレーキB1によって第1サンギヤ21を固定すれば、低速段Lより変速比の小さい高速段Hが設定される。この高速段Hにおける変速比も“1”より大きいので、モータジェネレータMG2の出力したトルクがその変速比に応じて増大させられて出力軸2に付加される。
【0038】
なお、各変速段L,Hが定常的に設定されている状態では、出力軸2に付加されるトルクは、モータジェネレータMG2の出力トルクを変速比に応じて増大させたトルクとなるが、変速過渡状態では各ブレーキB1,B2でのトルク容量や回転数変化に伴う慣性トルクなどの影響を受けたトルクとなる。また、出力軸2に付加されるトルクは、モータジェネレータMG2の駆動状態では、正トルクとなり、被駆動状態では負トルクとなる。
【0039】
図5は、図2における油圧制御装置31の構成を示すブロック図である。
図5に示す油圧制御装置31は、図2の各ブレーキB1,B2に対して油圧を吸排してその係合・開放の制御を行なう。油圧制御装置31は、エンジンの回転に伴い発生するトルクTEによって回転される機械式オイルポンプ32と、T−ECU27からの回転数指令INEOPを受ける駆動回路40と、駆動回路40によって回転数が制御される電動式オイルポンプ33と、逆止弁35,36と、油圧回路34とを含む。
【0040】
油圧回路34は、オイルポンプ32,33で発生された油圧をライン圧に調圧するとともに、そのライン圧を元圧として調圧した油圧をブレーキB1,B2に対して吸排し、かつ図示しないが適宜の箇所に潤滑のためのオイルを供給する。
【0041】
機械式オイルポンプ32は、エンジン10によって駆動されて油圧を発生するポンプであって、たとえばダンパ20の出力側に同軸上に配置され、エンジン10からトルクTEを受けて動作するようになっている。
【0042】
これに対して電動式オイルポンプ33は、駆動回路40に含まれるモータによって駆動されるポンプであって、ケーシング(図示せず)の外部などの適宜の箇所に取付けられ、バッテリなどの蓄電装置から電力を受けて動作し、油圧を発生するようになっている。
【0043】
油圧回路34は、複数のソレノイドバルブや切換バルブあるいは調圧バルブを備えており、調圧や油圧の吸排を電気的に制御できるように構成されている。なお図5においては、ライン圧指令ILPに応じてライン圧の高/低を切換えるソレノイドバルブ37と、ソレノイドバルブ37の出力するライン圧をブレーキB1,B2に選択的に供給する切換弁38と、ライン圧がしきい値まで上昇すると油圧検出信号PONを出力する油圧スイッチ39とが代表的に示されている。
【0044】
なお、各オイルポンプ32,33の吐出側にはそれぞれのオイルポンプ32,33の吐出圧で開き、これとは反対方向には閉じる逆止弁35,36が設けられ、かつ油圧回路34に対してこれらのオイルポンプ32,33は互いに並列に接続されている。ソレノイドバルブ37は、ライン圧指令ILPに応じて吐出量を増大させてライン圧を高くする状態およびこれとは反対に吐出量を減じてライン圧を低くする状態の2つの状態にライン圧を制御するように構成されている。
【0045】
上述したハイブリッド車両は、主動力源1とアシスト動力源5との二つの動力源を備えているので、これらを有効に利用して低燃費で排ガス量の少ない運転がおこなわれる。またエンジン10を駆動する場合であっても、モータジェネレータMG1によって最適燃費となるようにエンジン10の回転数が制御される。さらに、制動時には車両の有する慣性エネルギーが電力として回生される。そして、モータジェネレータMG2を駆動してトルクアシストする場合、車速が遅い状態では変速機6を低速段Lに設定して出力軸2に付加するトルクを大きくし、車速が増大した状態では、変速機6を高速段Hに設定してモータジェネレータMG2の回転数を相対的に低下させて損失を低減し、効率の良いトルクアシストが実行される。
【0046】
上述したハイブリッド車は、エンジン10の動力による走行、エンジン10とモータジェネレータMG2とを使用した走行、モータジェネレータMG2のみを使用した走行のいずれもが可能であって、これらの走行形態は、アクセル開度などの駆動要求量や車速などに基づいて判断され、選択される。
【0047】
例えばバッテリーの充電量が充分にあって、駆動要求量が相対的に小さい場合、あるいは静粛な発進が手動選択された場合などでは、モータジェネレータMG2を使用した電気自動車に類した走行(以下、仮にEV走行と記す)の形態が選択され、エンジン10は停止させられる。
【0048】
その状態からアクセルペダルが大きく踏み込まれるなど駆動要求量が増大した場合、あるいはバッテリーの充電量が低下した場合、もしくは静粛な発進から通常走行に手動切換えされた場合には、エンジン10が始動されてエンジン10を使用した走行(以下、仮にE/G走行と記す)の形態に切換えられる。
【0049】
エンジン10の始動は、上記の例では、モータジェネレータMG1をモータとして機能させ、トルクを遊星歯車機構12を介してエンジン10に伝達してモータリング(クランキング)することによりおこなわれる。
【0050】
その場合、図3に示すように、モータジェネレータMG1によってサンギヤ17にこれを正回転させる方向にトルクを加えると、リングギヤ18にはこれを逆回転させる方向にトルクが作用する。リングギヤ18は出力軸2に連結されているから、エンジン10の始動に伴うトルクが、車両を減速させる方向のトルクとなる。そこで、エンジン10の始動時には、このようないわゆる反力トルクを相殺するように、モータジェネレータMG2によってトルクを出力させる。
【0051】
したがってエンジン10の始動時には、モータジェネレータMG2の出力トルクが増大することにより、変速機6に掛かるトルク、より具体的には、その時点で係合して変速段を設定しているいずれかのブレーキB1,B2に掛かるトルクが過渡的に増大する。
【0052】
このようにブレーキB1,B2の油圧は、エンジン始動時においても必要である。もちろん、車両発進時にはさらに重要である。
【0053】
ところで、シフトレバーを運転者がニュートラルポジションにしたまま長時間放置したりすることも考えられる。シフトレバー位置がニュートラルポジションでシフトレンジがNレンジに設定されている場合には、駆動力が車輪に伝わることがあってはならないので、車輪を駆動可能なモータは電源が切られた状態にされている。したがって、エンジンを起動するのに車輪を駆動可能なモータを使用するハイブリッド車両では、Nレンジではエンジンをクランキングするためのモータを動かすことができない。
【0054】
しかし、シフトレバー位置をニュートラルポジションから走行レンジに切換直後にアクセルを一杯に踏込んで加速をする場合なども想定でき、応答性良くモータジェネレータMG2のトルクを駆動輪に十分に伝達できるように、シフトレバー位置がニュートラルポジションにある場合でもある程度油圧を高めた状態を保っておく必要がある。
【0055】
[電動式オイルポンプの制御]
図6は、本発明の実施の形態において制御装置(T−ECU)27が実行する制御の制御構造を示したフローチャートである。このフローチャートの処理は、所定のメインルーチンから一定時間毎または所定の条件を満たす毎に呼び出されて実行される。
【0056】
図7は、本発明の実施の形態における動作を説明するための動作波形図である。
図6、図7を参照して、まず初期状態においては制御装置27は、ステップS1において車両がEV走行中(エンジン停止中で走行)であり、かつシフトレバー位置がニュートラルポジションで、走行レンジがNレンジに設定されているか否かを判断する。
【0057】
EV走行中でないか、または走行レンジがNレンジで無い場合には、処理はステップS8に進み、制御はメインルーチンに移される。
【0058】
ステップS1においてEV走行中かつNレンジであると判断された場合には、続いてステップS2において電動式オイルポンプの連続動作不可の仮判定が行なわれる。この判定の条件は、たとえば、電動式オイルポンプの連続動作時間が所定時間を超えたこと、電動式オイルポンプの温度(または、電動式オイルポンプを駆動する駆動回路40に内蔵されるサーミスタで検知した温度)が所定温度を超えたことなどを含む。
【0059】
時刻t1までは、ステップS1、ステップS2の処理が繰返されている。時刻t1において、電動式オイルポンプの連続動作が不可と仮判定された場合には、ステップS3に処理が進む。ステップS3では、電動式オイルポンプの回転数低減指令が発せられ、指令回転数がX1からX2に減少される。そして、油圧が低下することに伴い、モータジェネレータMG2のトルクが制限される。このトルク制限により、変速機6でのブレーキB1またはB2にすべりを生じることが防止される。
【0060】
ステップS3の処理の後は、ステップS4において警告を運転者に行なうか否かの判定がなされる。たとえば、時刻t1において電動式オイルポンプの回転数を低減させてから所定時間が経過したことや、回転数を低減させても電動式オイルポンプ周辺に温度上昇が続いていることなどが判定条件として考えられる。時刻t1〜t2の間はステップS1〜ステップS4の処理が繰返し行なわれている。
【0061】
時刻t2においてステップS4の警告条件を満たしたと判定されると処理はステップS5に進み、運転者への警告がなされる。たとえば、運転席の表示画面に、「シフトレバーをNポジションからPポジションに移してください」などのメッセージが警告音や音声などとともに表示される。そしてステップS5に続いて、ステップS6において電動式オイルポンプ連続動作不可の判定が行なわれる。たとえば、ステップS2の仮判定よりも厳しい温度条件を判定条件としてもよく、時刻t2で警告がなされてから所定時間が経過してもシフトレバー位置がニュートラルから他の位置に移動されていないことを判定条件としてもよい。
【0062】
時刻t2〜t3の間はステップS1〜ステップS6の処理が繰返されている。その後時刻t3においてステップS6からステップS7に処理が進み、電動式オイルポンプの回転数が0rpmに設定され、電動式オイルポンプは停止状態となり油圧を発生しない状態となる。油圧の抜けに伴い、ステップS7において車両は走行不許可状態(READYOFF状態)に設定され、ステップS8において制御はメインルーチンに移される。
【0063】
ステップS7で車両が走行不許可状態にされた場合は、運転者がイグニッションキースイッチ等で車両に再び起動処理を行なうまでは、走行不許可状態のまま車両は停止していることになる。
【0064】
以上説明してきたように、本実施の形態に係る車両は、図2、図5に示したように、駆動輪と、駆動輪の駆動トルクを発生するモータジェネレータMG2と、モータから駆動輪に駆動トルクを伝達する油圧式変速機6と、油圧式変速機6に対して元油圧を発生させる電動式オイルポンプ33と、駆動輪を駆動するために運転されるエンジン10と、エンジン10から機械的動力を受けて回転し、元油圧を発生させる機械式オイルポンプ32と、走行レンジを切換えるシフトレバーとを含む。制御装置27は、シフトレバーがニュートラルポジションにある間はモータジェネレータMG2を停止させ、電動式オイルポンプ33の状態が第1の回転数での運転を継続することが好ましくない状態になった場合には、電動式オイルポンプ33の回転数を第1の回転数から第1の回転数よりも低い第2の回転数に変更する。
【0065】
また、制御装置27は、車両が所定の警告条件を満たすときに運転者にシフトレバー位置をニュートラルポジションから他の位置へ変更するように警告する。所定の警告条件は、電動式オイルポンプ33の状態が第1の回転数での運転を継続することが好ましくない状態になったことを含む。
【0066】
そして、制御装置27は、警告後にシフトレバー位置がニュートラルポジションから他の位置へ変更されない場合は、車両を走行不許可状態に設定する。
【0067】
好ましくは、車両は、エンジン10の始動時に始動トルクを発生させるモータジェネレータMG1と、エンジン10のクランクシャフト、モータジェネレータMG2の回転軸、モータジェネレータMG1の回転軸に3つの入力軸が機械的に結合される動力分割機構である遊星歯車機構12とをさらに備える。動力分割機構は、3つの入力軸のうちいずれか2つの入力軸の回転が定まると、他の1つの入力軸の回転は自ずと定まり、制御装置27は、シフトレバーがニュートラルポジションにある間はモータジェネレータMG1を停止させ、エンジン10の始動ができない状態に車両を設定する。
【0068】
このようにすることで、本実施の形態では、ハイブリッド車両がEV走行を行なっているときにシフトレバーをニュートラルポジションに入れたまま長時間放置した場合に、電動式オイルポンプの保護を図りつつ、発進可能な状態をなるべく長時間維持することができる。
【0069】
また、運転者に警告を行なうことにより、エンジン始動可能となり機械式オイルポンプに切換を行なうことで電動式オイルポンプの過熱を避けることができる。
【0070】
さらには、走行不許可状態に車両を設定することで、電動式オイルポンプが故障することを防ぐことができる。
【0071】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態に係るハイブリッド車両の構成を示した概略図である。
【図2】図1の主動力源1および変速機6の構成を詳細に示した図である。
【図3】図2のシングルピニオン型遊星歯車機構12の共線図である。
【図4】図2の変速機6を構成する歯車機構の共線図である。
【図5】図2における油圧制御装置31の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態において制御装置(T−ECU)27が実行する制御の制御構造を示したフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態における動作を説明するための動作波形図である。
【符号の説明】
【0073】
1 主動力源、2 出力軸、3 デファレンシャル、4 駆動輪、5 アシスト動力源、6 変速機、10 エンジン、12 遊星歯車機構、14,28 インバータ、15 蓄電装置、17,21,22 サンギヤ、18,25 リングギヤ、19,26 キャリヤ、20 ダンパ、23,24 ピニオン、27 制御装置、29 バッテリー、30 電子制御装置、31 油圧制御装置、32 機械式オイルポンプ、33 電動式オイルポンプ、34 油圧回路、35,36 逆止弁、37 ソレノイドバルブ、38 切換弁、39 油圧スイッチ、40 駆動回路、B1,B2 ブレーキ、MG1,MG2 モータジェネレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御装置であって、
前記車両は、
駆動輪と、
前記駆動輪の駆動トルクを発生する第1の回転電機と、
前記モータから前記駆動輪に駆動トルクを伝達する油圧式変速機と、
前記油圧式変速機に対して元油圧を発生させる電動式オイルポンプと、
前記駆動輪を駆動するために運転される内燃機関と、
前記内燃機関から機械的動力を受けて回転し、前記元油圧を発生させる機械式オイルポンプと、
走行レンジを切換えるシフトレバーとを含み、
前記制御装置は、前記シフトレバーがニュートラルポジションにある間は前記第1の回転電機を停止させ、前記電動式オイルポンプの状態が第1の回転数での運転を継続することが好ましくない状態になった場合には、前記電動式オイルポンプの回転数を前記第1の回転数から前記第1の回転数よりも低い第2の回転数に変更する、車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、車両が所定の警告条件を満たすときに運転者に前記シフトレバー位置を前記ニュートラルポジションから他の位置へ変更するように警告し、
前記所定の警告条件は、前記電動式オイルポンプの状態が前記第1の回転数での運転を継続することが好ましくない状態になったことを含む、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、警告後に前記シフトレバー位置が前記ニュートラルポジションから他の位置へ変更されない場合は、車両を走行不許可状態に設定する、請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車両は、
前記内燃機関の始動時に始動トルクを発生させる第2の回転電機と、
前記内燃機関のクランクシャフト、前記第1の回転電機の回転軸、前記第2の回転電機の回転軸に3つの入力軸が機械的に結合される動力分割機構とをさらに備え、
前記動力分割機構は、前記3つの入力軸のうちいずれか2つの入力軸の回転が定まると、他の1つの入力軸の回転は自ずと定まり、
前記制御装置は、前記シフトレバーがニュートラルポジションにある間は前記第2の回転電機を停止させ、前記内燃機関の始動ができない状態に車両を設定する、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の制御装置を搭載する車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−196757(P2007−196757A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15340(P2006−15340)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】