説明

車両用動力伝達装置の制御装置

【課題】電動機と自動変速部とを含む車両用動力伝達装置において、変速制御値の学習を好適に行い変速ショックを低減できる制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド制御手段52は自動変速部20の変速中に、自動変速部20の入力回転速度N18が所定の変化率Aniで変化するように電動機M1,M2によりその入力回転速度N18を変化させ制御するので、クラッチツウクラッチ変速だけの場合と比較して上記入力回転速度N18を一層所定の変化率Aniに近付けて変化させ変速ショックを低減できる。また変速制御学習手段70は、ハイブリッド制御手段52により上記入力回転速度N18が制御されたとした場合に入力回転速度N18が所定の変化率Aniで変化するように、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧(変速制御値)を学習により変更するので、その係合圧は、ハイブリッド制御手段52による入力回転速度N18の制御を前提として好適に学習される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用動力伝達装置の制御装置に係り、変速制御における制御値を学習補正する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと駆動輪との間に連結され第1電動機の運転状態が制御されることにより差動状態が制御される差動機構と、その差動機構と上記駆動輪との間に連結された自動変速機と、その自動変速機の入力側に連結された第2電動機とを、備えた車両用動力伝達装置が、従来から知られている。この車両用動力伝達装置はハイブリッド車両に好適に用いられ、例えば、特許文献1の車両用動力伝達装置がそれである。この特許文献1の車両用動力伝達装置の制御装置では、前記自動変速機で変速が実行される場合、そのイナーシャ相において、基本的には、上記自動変速機の入力回転速度が所定の理想的変化で変化させられるように、その自動変速機が備えるクラッチやブレーキの係合もしくは解放がなされる変速油圧制御が実行されるが、その変速油圧制御に併せて上記第1電動機及び/又は第2電動機の作動により上記自動変速機の入力回転速度が上記所定の理想的変化で変化させられるように、上記第1電動機及び/又は第2電動機が制御される。
【特許文献1】特開2006−327508号公報
【特許文献2】特開2006−321390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1の車両用動力伝達装置の制御装置では、通常の油圧制御の自動変速機と同様に、変速が実行される度に係合圧などの変速制御値が学習補正されるが、上述したように、この制御装置では、前記自動変速機の変速中に、その時のその自動変速機の入力回転速度に応じて上記第1電動機及び/又は第2電動機によっても上記入力回転速度が変化させられることがある。そのため、例えば上記制御装置では、上記自動変速機の変速において上記第1電動機及び/又は第2電動機により自動変速機の入力回転速度が変化させられたか否かによって、上記変速制御値の学習補正方法が変更され、それぞれの学習補正方法に対応した学習値マップが形成される。
【0004】
しかし、複数形成された上記学習値マップが適切に活用されるためには、次回変速には複数の上記学習値マップのうち何れが最も適するかが、その変速開始前に判断される必要がある。そして、その複数の学習値マップの何れを用いて前記変速油圧制御を実行するかを前記自動変速機の変速開始前に判断するためには、上記変速開始前に、上記複数の学習値マップが形成されたときの前提となった条件の一つである上記第1電動機及び/又は第2電動機による上記入力回転速度の制御がその変速で実行されるか否かが確定している必要があるが、それを変速開始前に確定させることが変速ショック低減の観点から適切とは言えない場合も考えられた。すなわち、変速ショック低減のために、複数の学習値マップとして記憶された前記変速制御値の学習結果を適切に活用できないことが考えられた。なお、このような課題は未公知である。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、電動機と自動変速部とを含む車両用動力伝達装置において、変速制御値の学習を好適に行い変速ショックを低減できる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、請求項1に係る発明は、(a)動力伝達経路の一部を構成しアクチュエータ装置が作動することにより変速する自動変速部と、その自動変速部の入力回転速度を変化させ得るようにその自動変速部に連結された電動機とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b)前記自動変速部の変速中に、その自動変速部の入力回転速度が所定の変化率で変化するように前記電動機によりその入力回転速度を制御する電動機制御手段と、(c)前記電動機制御手段により前記入力回転速度が所定の制約の範囲内で制御されたとした場合にその入力回転速度が前記所定の変化率で変化するように、前記アクチュエータ装置の変速作動のための変速制御値を学習により変更する変速制御学習手段とを、含むことを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明では、(a)前記電動機に対し充放電を行う蓄電装置が設けられており、(b)前記所定の制約とは、前記蓄電装置の充放電電力が予め定められた充放電電力許容範囲内となるように前記電動機が作動させられることであることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明では、前記所定の制約とは、前記電動機の温度が、その電動機の許容される温度として予め定められた電動機温度制限値以下でその電動機が作動させられることであることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明では、前記変速制御学習手段は、前記電動機による前記自動変速部の入力回転速度の制御がないとした場合に前記所定の変化率でその入力回転速度を変化させるために必要なその入力回転速度の補正量を算出し、且つ、その入力回転速度の補正量に対し所定の補正割合を考慮して得たアクチュエータ補正量の補正がなされるように前記変速制御値を学習により変更することを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明では、前記変速制御学習手段は、前記電動機による前記自動変速部の入力回転速度の制御がないとした場合に前記所定の変化率でその入力回転速度を変化させるために必要なその入力回転速度の補正量を算出し、且つ、前記所定の制約が大きいほど大きくなる1未満の所定の補正割合をその入力回転速度の補正量に乗じて得たアクチュエータ補正量の補正がなされるように、前記変速制御値を学習により変更することを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明では、(a)前記アクチュエータ装置は油圧により作動する油圧式摩擦係合装置であり、(b)前記変速制御値は変速中のそのアクチュエータ装置の係合圧であることを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明では、前記電動機制御手段は、前記電動機の出力トルクを変化させることにより、前記自動変速部の入力回転速度を制御することを特徴とする。
【0013】
請求項8に係る発明では、(a)前記自動変速部に連結され前記動力伝達経路の一部を構成し、前記電動機の運転状態が制御されることにより電気的な無段変速機として作動する電気的無段変速部が設けられており、(b)その電気的無段変速部が電気的な無段変速機として作動する場合において、その電気的無段変速部の入力回転速度もしくはその電気的無段変速部の出力回転速度が、予め定められた理想状態になるように前記電動機により制御されることを特徴とする。
【0014】
請求項9に係る発明では、(a)前記電気的無段変速部は前記自動変速部の入力側に連結されており、(b)前記電動機制御手段は、その電気的無段変速部の出力回転速度の変化率が所定の目標出力回転速度変化率となるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記電動機制御手段は、前記自動変速部の変速中に、その自動変速部の入力回転速度が所定の変化率で変化するように前記電動機によりその入力回転速度を制御するので、前記アクチュエータ装置の変速作動のみによる場合と比較して、上記自動変速部の入力回転速度をより一層上記所定の変化率に近付けて変化させることができ、それにより変速ショックが低減される。また、前記変速制御学習手段は、上記電動機制御手段により上記入力回転速度が所定の制約の範囲内で制御されたとした場合にその入力回転速度が上記所定の変化率で変化するように、上記アクチュエータ装置の変速作動のための変速制御値を学習により変更するので、前記変速制御値は、上記電動機制御手段により上記入力回転速度が制御されることを前提として好適に学習される。更に、前記自動変速部の入力回転速度の電動機による制御に前記所定の制約があったとしても、その変速制御値の学習により変速ショックを低減することが可能である。
【0016】
ここで、上記電動機は1つの電動機であることに限定されるものではなく、2以上の電動機であってもよい。
【0017】
また、好適には、前記自動変速部の入力回転速度についての前記所定の変化率とは、上記自動変速部の変速中において上記入力回転速度が理想的に変化するように、例えば、上記自動変速部の変速フィーリングが良く且つ変速ショックが抑制されるように設定された自動変速部の変速中の理想的な過渡状態を実現するための上記入力回転速度の変化率である。
【0018】
また、好適には、前記所定の制約とは、前記電動機制御手段が前記自動変速部の変速中に前記電動機によりその自動変速部の入力回転速度を制御する場合において、上記電動機をその定格出力よりも低い出力でしか駆動できないようにするその電動機の駆動に関する制約である。
【0019】
請求項2に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記所定の制約とは、前記蓄電装置の充放電電力が予め定められた充放電電力許容範囲内となるように前記電動機が作動させられることであるので、その蓄電装置及びそれに関連する電気部品の耐久性を維持しつつ、上記変速制御値の学習により変速ショックを低減することが可能である。
【0020】
ここで、好適には、上記予め定められた充放電電力許容範囲とは、上記蓄電装置の耐久性維持を図るために設定されたその蓄電装置の充放電電力の許容範囲である。
【0021】
請求項3に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記所定の制約とは、前記電動機の温度が、その電動機の許容される温度として予め定められた電動機温度制限値以下でその電動機が作動させられることであるので、その電動機及びそれに関連する部品の耐久性を維持しつつ、上記変速制御値の学習により変速ショックを低減することが可能である。
【0022】
ここで、好適には、前記電動機温度制限値とは、前記電動機の耐久性低下等を防止するためにその電動機を作動させるときに許容される温度として設定されたその電動機温度の上限値である。
【0023】
請求項4に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記変速制御学習手段は、前記電動機による前記自動変速部の入力回転速度の制御がないとした場合に前記所定の変化率でその入力回転速度を変化させるために必要なその入力回転速度の補正量を算出し、且つ、その入力回転速度の補正量に対し所定の補正割合を考慮して得たアクチュエータ補正量の補正がなされるように前記変速制御値を学習により変更するので、前記電動機制御手段による前記自動変速部の入力回転速度の制御が無かったとしても、上記所定の補正割合に応じたある程度以上の変速品質を確保できる。
【0024】
ここで、好適には、前記所定の補正割合とは、前記自動変速部の変速で上記入力回転速度を前記所定の変化率で変化させるために設定されたパラメータである。
【0025】
また、好適には、前記変速制御学習手段は、前記電動機による前記自動変速部の入力回転速度の制御がないとした場合に前記所定の変化率でその入力回転速度を変化させるために必要なその入力回転速度の補正量を算出し、且つ、その入力回転速度の補正量を基準として所定の補正割合に応じて得たアクチュエータ補正量の補正がなされるように前記変速制御値を学習により変更する。
【0026】
また、好適には、前記変速制御学習手段は、前記電動機による前記自動変速部の入力回転速度の制御がないとした場合に前記所定の変化率でその入力回転速度を変化させるために必要なその入力回転速度の補正量を算出し、且つ、その入力回転速度の補正量に1未満の所定の補正割合を乗じて得たアクチュエータ補正量の補正がなされるように前記変速制御値を学習により変更する。
【0027】
請求項5に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記変速制御学習手段は、前記電動機による前記自動変速部の入力回転速度の制御がないとした場合に前記所定の変化率でその入力回転速度を変化させるために必要なその入力回転速度の補正量を算出し、且つ、前記所定の制約が大きいほど大きくなる1未満の所定の補正割合をその入力回転速度の補正量に乗じて得たアクチュエータ補正量の補正がなされるように、前記変速制御値を学習により変更するので、上記所定の制約があった場合にも、その所定の制約の大きさに応じて適切に上記変速制御値が学習により変更される。
【0028】
請求項6に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記アクチュエータ装置は油圧により作動する油圧式摩擦係合装置であり、前記変速制御値は変速中のそのアクチュエータ装置の係合圧であるので、その係合圧が適切に学習により変更され、変速ショックが低減される。
【0029】
請求項7に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記電動機制御手段は、前記電動機の出力トルクを変化させることにより、前記自動変速部の入力回転速度を制御するので、その電動機の出力トルクに対応した電流値を制御することにより容易に入力回転速度を制御できる。
【0030】
請求項8に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、(a)前記自動変速部に連結され前記動力伝達経路の一部を構成し、前記電動機の運転状態が制御されることにより電気的な無段変速機として作動する電気的無段変速部が設けられており、(b)その電気的無段変速部が電気的な無段変速機として作動する場合において、その電気的無段変速部の入力回転速度もしくはその電気的無段変速部の出力回転速度が、予め定められた理想状態になるように前記電動機により制御される。従って、上記電気的無段変速部と前記自動変速部とのそれぞれで変速されることにより、上記車両用動力伝達装置全体としての変速比を幅広く変化させることができる。
【0031】
ここで、好適には、前記予め定められた理想状態とは、前記自動変速部の変速中にそれの入力回転速度を前記所定の変化率で変化させつつ搭乗者の快適性を損なわないようにエンジン等の駆動力源の回転速度を変化させることができる上記電気的無段変速部の差動状態である。
【0032】
請求項9に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、(a)前記電気的無段変速部は前記自動変速部の入力側に連結されており、(b)前記電動機制御手段は、その電気的無段変速部の出力回転速度の変化率が所定の目標出力回転速度変化率となるように制御するので、エンジンなどの駆動力源の回転速度と上記自動変速部の入力回転速度との差が上記電気的無段変速部の変速により吸収され、そのため、前記電動機制御手段は、その駆動力源の回転速度変化の影響を抑えて、前記電動機により上記自動変速部の入力回転速度を制御することができる。
【0033】
ここで、好適には、前記所定の目標出力回転速度変化率とは、前記所定の変化率に対応し上記自動変速部の入力回転速度がその所定の変化率で変化するときの上記電気的無段変速部の出力回転速度の変化率である。
【0034】
また好適には、駆動力源であるエンジンと駆動輪との間の動力伝達経路において、エンジン、前記電気的無段変速部、前記自動変速部、駆動輪の順に連結されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0036】
本発明の制御装置は好適にはハイブリッド車両に用いられる。図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」と表す)を説明する骨子図である。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)を介して直接に連結された差動部11と、その差動部11と駆動輪38(図6参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38(図6参照)との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して左右の駆動輪38へ伝達する。
【0037】
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。
【0038】
本発明の電気的無段変速部に対応する差動部11は、自動変速部20に動力伝達可能に連結されており、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成している。そして、差動部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。そして、図1から判るように、第2電動機M2は直接に自動変速部20の入力回転速度(伝達部材18の回転速度)N18を変化させ得るように自動変速部20に連結されており、第1電動機M1は差動部遊星歯車装置24を介して自動変速部20の入力回転速度(伝達部材18の回転速度)N18を変化させ得るように自動変速部20に連結されているので、第1電動機M1と第2電動機M2とはそれぞれ、本発明の電動機に対応する。以下、これら第1電動機M1及び第2電動機M2を特に区別しない場合には、単に「電動機M」と表す。
【0039】
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0040】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は差動部サンギヤS0とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動状態とされると、差動部11は、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び第2電動機M2の運転状態が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度N18との差動状態が制御され、電気的な無段変速機として作動する。
【0041】
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合させられて差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが一体的に係合させられると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて差動部サンギヤS0がケース12に連結させられると、動力分配機構16は差動部サンギヤS0が非回転状態とさせられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、差動部リングギヤR0は差動部キャリヤCA0よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0042】
このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態と非差動状態すなわちロック状態とに、すなわち差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動する電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と、電気的な無段変速作動しない変速状態例えば無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動をしないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。
【0043】
自動変速部20は、それが有するクラッチCやブレーキBなどの油圧制御で作動するアクチュエータ装置が作動することによりその変速比γA(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)を段階的に変化させ変速することができる有段式の自動変速機として機能し、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成する変速部である。そして、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備えている。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
【0044】
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち差動部11(伝達部材18)と駆動輪38との間の動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0045】
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は、従来の車両用有段式自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧ピストン等の油圧作動機構により押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧作動機構によって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するための油圧制御により作動するアクチュエータ装置である。
【0046】
以上のように構成された動力伝達装置10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、動力伝達装置10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
【0047】
例えば、動力伝達装置10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2,B3が解放される。
【0048】
しかし、動力伝達装置10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
【0049】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Nを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0050】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0051】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(差動部サンギヤS0)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部(有段変速部)20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0052】
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、車速Vに拘束される差動部リングギヤR0の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度が上昇或いは下降させられる。また、切換クラッチC0の係合により差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度Nと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合によって差動部サンギヤS0の回転が停止させられると動力分配機構16は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度Nよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
【0053】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0054】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度Nと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度Nよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
【0055】
図4は、本発明に係る動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1電動機M1、第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0056】
電子制御装置40には、図4に示す各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPを示す信号、シフトポジションPSHを表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」という)を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」という)を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、ギヤ比列設定値を示す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、自動変速部20の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル41の操作量(アクセル開度)Accを示すアクセル開度信号、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各車輪の車輪速を示す車輪速信号、エンジン8の空燃比A/Fを示す信号などが、それぞれ供給される。なお、図6に示すように第1電動機M1及び第2電動M2は動力伝達装置10の筐体としてのケース12内に備えられており、動力伝達装置10(自動変速部20)の作動油は第1電動機M1及び第2電動M2に噴霧されるなどしてそれらの冷却液としても機能しているため、自動変速部20の上記作動油温を検出することにより第1電動機M1及び第2電動M2の温度を検出できる。
【0057】
また、図4の上記電子制御装置40からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置43(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管95に備えられた電子スロットル弁96の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ97への駆動信号や燃料噴射装置98によるエンジン8の各気筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置99によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧作動機構を制御するために油圧制御回路42(図6参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0058】
図5は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置48の一例を示す図である。このシフト操作装置48は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー49を備えている。
【0059】
そのシフトレバー49は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0060】
上記シフトレバー49の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路42が電気的に切り換えられる。
【0061】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0062】
具体的には、シフトレバー49が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー49が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー49が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー49が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0063】
図6は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段54は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段54は、記憶手段56に予め記憶された図7の実線および一点鎖線に示す関係(変速線図、変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の変速を実行する。このとき、有段変速制御手段54は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を除いた油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令)を油圧制御回路42へ出力する。なお、アクセル開度Accと自動変速部20の要求出力トルクTOUT(図7の縦軸)とはアクセル開度Accが大きくなるほどそれに応じて上記要求出力トルクTOUTも大きくなる対応関係にあることから、図7の変速線図の縦軸はアクセル開度Accであっても差し支えない。
【0064】
ハイブリッド制御手段52は、動力伝達装置10の前記無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセルペダル操作量(アクセル開度)Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NとエンジントルクTとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0065】
ハイブリッド制御手段52は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度Nと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は、例えば図8に示すようなエンジン回転速度Nとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)Tとをパラメータとする二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に定められたエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線LEF(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線LEFにエンジン8の動作点PEG(以下、「エンジン動作点PEG」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTとエンジン回転速度Nとなるように動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点PEGとは、エンジン回転速度N及びエンジントルクTなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。
【0066】
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0067】
ハイブリッド制御手段52は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ97により電子スロットル弁96を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置98による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置99による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置43に出力して必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、ハイブリッド制御手段52は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度信号Accに基づいてスロットルアクチュエータ97を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。
【0068】
前記図7の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図7に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段56に予め記憶されている。
【0069】
そして、ハイブリッド制御手段52は、例えば図7の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行は、図7から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT時すなわち低エンジントルクT時、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0070】
ハイブリッド制御手段52は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御例えば空転させて、差動部11の差動作用によりエンジン回転速度Nを零乃至略零に維持する。
【0071】
ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン8の作動状態を運転状態と停止状態との間で切り換える、すなわちエンジン8の始動および停止を行うエンジン始動停止制御手段66を備えている。このエンジン始動停止制御手段66は、ハイブリッド制御手段52により例えば図7の駆動力源切換線図から車両状態に基づいてモータ走行とエンジン走行と切換えが判断された場合に、エンジン8の始動または停止を実行する。
【0072】
例えば、エンジン始動停止制御手段66は、図7の実線Bの点a→点bに示すように、アクセルペダル41が踏込操作されて要求出力トルクTOUTが大きくなり車両状態がモータ走行領域からエンジン走行領域へ変化した場合には、第1電動機M1に通電して第1電動機回転速度NM1を引き上げることで、すなわち第1電動機M1をスタータとして機能させることで、エンジン回転速度Nを引き上げ、所定のエンジン回転速度N’例えば自律回転可能なエンジン回転速度Nで点火装置99により点火させるようにエンジン8の始動を行って、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行からエンジン走行へ切り換える。このとき、エンジン始動停止制御手段66は、第1電動機回転速度NM1を速やかに引き上げることでエンジン回転速度Nを速やかに所定のエンジン回転速度N’まで引き上げてもよい。これにより、良く知られたアイドル回転速度NEIDL以下のエンジン回転速度領域における共振領域を速やかに回避できて始動時の振動が抑制される。
【0073】
また、エンジン始動停止制御手段66は、図7の実線Bの点b→点aに示すように、アクセルペダル41が戻されて要求出力トルクTOUTが小さくなり車両状態がエンジン走行領域からモータ走行領域へ変化した場合には、燃料噴射装置98により燃料供給を停止させるように、すなわちフューエルカットによりエンジン8の停止を行って、ハイブリッド制御手段52によるエンジン走行からモータ走行へ切り換える。このとき、エンジン始動停止制御手段66は、第1電動機回転速度NM1を速やかに引き下げることでエンジン回転速度Nを速やかに零乃至略零まで引き下げてもよい。これにより、上記共振領域を速やかに回避できて停止時の振動が抑制される。或いは、エンジン始動停止制御手段66は、フューエルカットより先に、第1電動機回転速度NM1を引き下げてエンジン回転速度Nを引き下げ、所定のエンジン回転速度N’でフューエルカットするようにエンジン8の停止を行ってもよい。
【0074】
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置60からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動してエンジン8の動力を補助するトルクアシストが可能である。よって、本実施例ではエンジン8と第2電動機M2との両方を走行用の駆動力源とする車両の走行はモータ走行ではなくエンジン走行に含まれるものとする。
【0075】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止状態又は低車速状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によってエンジン8の運転状態を維持させることができる。例えば、車両停止時に蓄電装置60の充電残量SOCが低下して第1電動機M1による発電が必要となった場合には、エンジン8の動力により第1電動機M1が発電させられてその第1電動機M1の回転速度が引き上げられ、車速Vで一意的に決められる第2電動機回転速度NM2が車両停止状態により零(略零)となっても動力分配機構16の差動作用によってエンジン回転速度Nが自律回転可能な回転速度以上に維持される。
【0076】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度Nを任意の回転速度に維持させられる。例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段52はエンジン回転速度Nを引き上げる場合には、車速Vに拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。
【0077】
増速側ギヤ段判定手段62は、動力伝達装置10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて記憶手段56に予め記憶された前記図7に示す変速線図に従って動力伝達装置10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
【0078】
切換制御手段50は、車両状態に基づいて前記差動状態切換装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、前記無段変速状態と前記有段変速状態とを、すなわち前記差動状態と前記ロック状態とを選択的に切り換える。例えば、切換制御手段50は、記憶手段56に予め記憶された前記図7の破線および二点鎖線に示す関係(切換線図、切換マップ)から車速Vおよび要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、動力伝達装置10(差動部11)の変速状態を切り換えるべきか否かを判断して、すなわち動力伝達装置10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは動力伝達装置10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定することにより動力伝達装置10の切り換えるべき変速状態を判断して、動力伝達装置10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える変速状態の切換えを実行する。
【0079】
具体的には、切換制御手段50は有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段54に対しては、予め設定された有段変速時の変速を許可する。このときの有段変速制御手段54は、記憶手段56に予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速を実行する。例えば記憶手段56に予め記憶された図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、動力伝達装置10全体すなわち差動部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
【0080】
例えば、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段が判定される場合には、動力伝達装置10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段50は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、動力伝達装置10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段50は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。このように、切換制御手段50によって動力伝達装置10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、差動部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、動力伝達装置10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
【0081】
しかし、切換制御手段50は、動力伝達装置10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、動力伝達装置10全体として無段変速状態が得られるために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段54には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは記憶手段56に予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段54により、図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段50により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0082】
ここで前記図7について詳述すると、図7は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段56に予め記憶された関係(変速線図、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図7の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。
【0083】
また、図7の破線は切換制御手段50による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1および判定出力トルクT1を示している。つまり、図7の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図7の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図7は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。なお、この切換線図を含めて変速マップとして記憶手段56に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。
【0084】
上記変速線図、切換線図、或いは駆動力源切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。この場合には、切換制御手段50は、車両状態例えば実際の車速が判定車速V1を越えたときに動力伝達装置10を有段変速状態とする。また、切換制御手段50は、車両状態例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクT1を越えたときに動力伝達装置10を有段変速状態とする。
【0085】
また、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段50は動力伝達装置10を優先的に有段変速状態としてもよい。
【0086】
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクT、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度Nとに基づいて算出されるエンジントルクTなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクT、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
【0087】
また、例えば判定車速V1は、高速走行において動力伝達装置10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において動力伝達装置10が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、例えば第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されている。
【0088】
図7の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。
【0089】
これによって、例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、動力伝達装置10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上する。また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度Nの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度Nの変化が楽しめる。
【0090】
このように、本実施例の差動部11(動力伝達装置10)は無段変速状態と有段変速状態(定変速状態)とに選択的に切換え可能であって、前記切換制御手段50により車両状態に基づいて差動部11の切り換えるべき変速状態が判断され、差動部11が無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられる。また、本実施例では、ハイブリッド制御手段52により車両状態に基づいてモータ走行或いはエンジン走行が実行されるが、このエンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン始動停止制御手段66によりエンジン8の始動または停止が行われる。
【0091】
ところで、自動変速部20は、複数の摩擦係合装置(アクチュエータ装置)C1,C2,C3,B1,B2の係合及び解放に応じて複数の変速段(ギヤ段)を選択的に成立させる所謂クラッチツウクラッチ変速を行う有段変速機であるので、基本的には、その変速のイナーシャ相における自動変速部20の入力回転速度N18(伝達部材18の回転速度N18)は上記摩擦係合装置の係合圧を変化させることによって所定の変化率Aniで変化させられる。しかし実際には、上記イナーシャ相において、上記係合圧の調整だけで完全に上記入力回転速度N18が上記所定の変化率Aniで変化するものではなく、本実施例の動力伝達装置10では、その自動変速部20の入力回転速度N18を変化させ得るように第1電動機M1と第2電動機M2とが設けられているので、上記自動変速部20のイナーシャ相中には、上記係合圧の油圧制御だけの場合と比較して更に理想的に上記入力回転速度N18が上記所定の変化率Aniで変化させられるように、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2が上記係合圧の油圧制御に対し補足的に作動させられる。自動変速部20の入力回転速度N18についての上記所定の変化率Aniとは、車速Vと自動変速部20の変速比γAとで一意的に定められる上記入力回転速度N18が理想的に変化するように、例えば、自動変速部20の変速中に、フィーリングが良いとされているような上記入力回転速度N18の変化率AN18(=dN18/dt。以下、「入力回転速度変化率AN18」と表す。)が大きい速やかな変速応答性と、変速ショックが抑制し易いとされているような入力回転速度変化率AN18が小さい緩やかな変速応答性とが両立するように、予め実験的に設定された自動変速部20の理想的な変化状態を実現する自動変速部20の入力回転速度変化率AN18である。また、上記のように第1電動機M1及び/又は第2電動機M2により上記入力回転速度N18を変化させる制御が、上記自動変速部20の変速のイナーシャ相中に実行されることを前提として、その変速中の上記摩擦係合装置(アクチュエータ装置)の係合圧などで例示される変速作動のための変速制御値が学習により変更される。以下に、その制御機能の要部について説明する。
【0092】
図6に戻り、有段変速制御手段54は、自動変速部20の変速中(変速過渡期間内)、詳細には、その変速のイナーシャ相中には、自動変速部20の入力回転速度N18(伝達部材18の回転速度N18)が前記所定の変化率Aniで変化するように、有段変速制御手段54から油圧制御回路42へ出力される油圧指令(変速出力)に用いられる自動変速部20の変速に関与する前記摩擦係合装置(アクチュエータ装置)の係合圧を制御する。すなわち、有段変速制御手段54は、前述した機能に加えて、上記係合圧を制御する係合圧制御手段としての機能をも有している。
【0093】
詳細に言うと、差動部11が切換クラッチC0又は切換ブレーキB0の係合された非無段変速状態である場合には、自動変速部20の入力回転速度N18及びエンジン回転速度Nは車速Vと自動変速部20の変速比γAとで一意的に定められるので、有段変速制御手段54は、上記入力回転速度N18が所定の変化率Aniで変化するように、或いは、エンジン回転速度Nが上記所定の変化率Aniと一対一で対応する所定のエンジン回転速度変化率で変化するように、前記摩擦係合装置の係合圧を制御する。しかし、差動部11が切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の解放された無段変速状態である場合には、エンジン回転速度Nは差動部11の差動作用によって自由回転状態とされるので、有段変速制御手段54は、差動部11が無段変速状態であるときには車速Vと自動変速部20の変速比γAとで一意的に定められる上記入力回転速度N18が所定の変化率Aniで変化するように、上記摩擦係合装置の係合圧を制御する。
【0094】
ここで、有段変速制御手段54は、自動変速部20の入力回転速度N18が所定の変化率Aniで変化するように上記摩擦係合装置の係合圧を制御するが、そのために有段変速制御手段54は変速中に上記入力回転速度N18のフィードバック制御を実行するのではなく、後述の変速制御学習手段70が上記係合圧を学習により変更するので、その学習結果に基づいて有段変速制御手段54は上記係合圧を制御する。すなわち、有段変速制御手段54は、後述の変速制御学習手段70が学習により変更した上記摩擦係合装置の係合圧を発生させることで、自動変速部20の入力回転速度N18が所定の変化率Aniで変化するように上記摩擦係合装置の係合圧を制御する。
【0095】
ハイブリッド制御手段52は、変速ショックの低減を図るためトルクダウン制御手段68を含んでおり、そのトルクダウン制御手段68は駆動輪38へ伝達されるトルクを低減する。例えば、トルクダウン制御手段68は、電子スロットル弁96の開度を絞ったり、燃料噴射装置98による燃料供給量を減少させたり、点火装置99によるエンジン8の点火時期を遅角させたりして、エンジントルクTを低下させるエンジントルクダウン制御により、駆動輪38へ伝達されるトルク例えば自動変速部20の入力トルク(以下、「自動変速部入力トルク」と表す)或いはまた自動変速部20の出力トルク(以下、「自動変速部出力トルク」と表す)を低減する。また、トルクダウン制御手段68は、一時的に逆駆動トルクや蓄電装置60に充電が行われる回生制動トルクを発生させるようにインバータ58により第2電動機M2を制御させ、或いは、第2電動機M2が正回転方向にその出力トルクTM2(以下、「第2電動機トルクTM2」と表す)を発生させているときにはその第2電動機トルクTM2を低下させる電動機トルクダウン制御を、上記エンジントルクダウン制御に加えて或いは単独で実行することにより駆動輪38へ伝達されるトルクを低減する。このトルクダウン制御手段68による駆動輪38へ伝達されるトルクの低減は、少なくとも自動変速部20の変速過程におけるイナーシャ相中にて実行される。そして、好適には、自動変速部20のアップシフトにおいて実行される。
【0096】
ハイブリッド制御手段52は、前述した機能に加えて、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速中、詳細には、その変速のイナーシャ相中に、自動変速部20の入力回転速度N18が前記所定の変化率Aniで変化するように、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によりその入力回転速度N18を積極的(強制的)に変化させ制御する変速時電動機制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段52は、上記変速中にその変速時電動機制御を実行する電動機制御手段としての機能をも有している。その変速時電動機制御は、上記自動変速部20の変速中においてリアルタイムに実行される制御であって、第2電動機M2の回転速度センサなどにより検出される上記入力回転速度N18がフィードバックされ、その入力回転速度N18の実際の変化率AN18と上記所定の変化率Aniとの差が零になるようにするフィードバック制御である。そして、電動機Mの出力には定格出力などがあることから電動機Mにより自動変速部20の入力回転速度N18を変化させ得る限度があるので、例えば、上記入力回転速度N18の実際の変化率AN18と上記所定の変化率Aniとの差が、第1電動機M1及び第2電動機M2の定格出力などに基づいて予め定められた電動機制御可能範囲内である場合において、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速中に前記変速時電動機制御を実行する。
【0097】
なお、好適には、ハイブリッド制御手段52は、自動変速部20の変速中に実行される前記変速時電動機制御では、電動機Mの制御電流を調整しそれによりその電動機Mの出力トルクを変化させることにより、自動変速部20の入力回転速度N18を制御する。また、図1に示すように、動力伝達経路において差動部11は自動変速部20の入力側に連結されているので、自動変速部20側にではなく差動部11側に着目すれば、差動部11が前記ロック状態と非ロック状態との何れであっても、ハイブリッド制御手段52は、上記入力回転速度N18を電動機Mにより制御する上記変速時電動機制御において、差動部11の出力回転速度の変化率が、前記所定の変化率Aniに対応し上記入力回転速度N18がその所定の変化率Aniで変化するときの上記出力回転速度の変化率である所定の目標出力回転速度変化率となるように、その出力回転速度を制御すると言える。
【0098】
また、好適には、ハイブリッド制御手段52は、切換クラッチC0が係合されている場合には、差動部11の回転要素RE1,RE2,RE3は一体回転するので、第1電動機M1と第2電動機M2との一方または両方の作動により上記変速時電動機制御を実行し、切換ブレーキB0が係合されている場合には、第1電動機M1は回転不可能であるので、第2電動機M2の作動により上記変速時電動機制御を実行する。また、好適には、ハイブリッド制御手段52は、切換クラッチC0と切換ブレーキB0との両方が解放され差動部11が電気的な無段変速機として作動する場合においては、差動部11の入力回転速度(入力軸14の回転速度)もしくは差動部11の出力回転速度(伝達部材回転速度N18)が、予め定められた理想状態になるように第1電動機M1及び第2電動機M2により制御する。その予め定められた理想状態とは、自動変速部20の変速中に伝達部材回転速度N18を前記所定の変化率Aniで変化させつつ搭乗者の快適性を損なわないようにエンジン回転速度Nを変化させることができる差動部11の差動状態である。例えば、自動変速部20の変速中にエンジン回転速度Nが上昇下降を繰り返せば搭乗者の快適性を損なうと考えられるので、その変速中におけるエンジン回転速度Nの変化方向が反転しないようにすることで搭乗者の快適性を損なわないようにする。
【0099】
変速制御学習手段70は、前述した有段変速制御手段54による前記係合圧の制御のために、自動変速部20の前記変速制御値である前記摩擦係合装置の係合圧を学習により変更する。具体的には、自動変速部20の変速中にはハイブリッド制御手段(電動機制御手段)52により前記変速時電動機制御が実行されるので、その実行を前提とし、ハイブリッド制御手段52により自動変速部20の入力回転速度N18が制御されたとした場合にその入力回転速度N18が前記所定の変化率Aniで変化するように、自動変速部20の摩擦係合装置(アクチュエータ装置)の係合圧を学習により変更する。言い方を変えれば、ハイブリッド制御手段52の前記変速時電動機制御が自動変速部20の変速油圧制御と併せて実行されたことにより、自動変速部20の入力回転速度N18が前記所定の変化率Aniで変化した場合、或いは、その入力回転速度N18が、上記所定の変化率Aniを基準としたそれと変速ショック低減効果の変わらない所定の許容範囲内で変化した場合には、次回変速でも上記変速時電動機制御が実行されることを前提とすれば、次回変速から上記係合圧を変更すべき必要性は特に無いので、変速制御学習手段70は上記係合圧を変更しないということである。また、変速制御学習手段70は、上記学習後の係合圧を自動変速部20の次回以降の変速に適用し、そのために、その学習後の係合圧を図9に示すようなその係合圧の油圧学習値マップ(変速制御値マップ)として記憶する。以下、変速制御学習手段70による前記係合圧(変速制御値)の学習について詳しく説明する。
【0100】
上記図9は、油圧学習値マップの一例であって、アップシフトとダウンシフトとで区別されており、(a)はアップシフト用であり、(b)はダウンシフト用である。また、図9に示す油圧学習値マップは、エンジントルク1〜7で示すようにその大きさで層別(区別)され、且つ1→2、2→3等の変速の種類毎に区別された上記係合圧の各油圧学習値から構成されており、記憶手段56に記憶されている。例えばエンジントルク1の1→2アップシフトにおいては、解放側係合装置の油圧学習値はPb3u121であり、係合側係合装置の油圧学習値はPb2u121である。また、この油圧学習値マップは、予め実験的に求められた各油圧学習値のデフォルト値が例えば記憶手段56に記憶されており、変速制御学習手段70による学習が進むに従ってデフォルト値が更新され最新の油圧学習値に書き換えられる。上記エンジントルクは、例えばスロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度Nと推定エンジントルクT’との予め実験的に求められて記憶された関係から、実際のスロットル弁開度θTHとエンジン回転速度Nとに基づいて変速制御学習手段70により算出される。
【0101】
変速発生判断手段72は、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速が発生したか否かを判断する。例えば、変速発生判断手段72は、自動変速部20の入力回転速度N18の変化や有段変速制御手段54の油圧制御回路42に対する前記変速出力指令などに基づき、その判断を行う。
【0102】
学習前提条件成立判定手段74は、自動変速部20の変速が発生したと変速発生判断手段72により判断された場合に、前記変速制御学習手段70による係合圧の学習をする為の学習前提条件が成立したか否かを判定する。例えば、学習前提条件成立判定手段74は、自動変速部20の変速中のエンジントルクTの変化が所定値以内であり、エンジン8の暖機が完了しているとされるエンジン水温TEMPであり、自動変速部20の作動油温が予め定められた適正値以内であるような変速が正常に実行されて終了した場合に、上記学習前提条件が成立した旨を肯定する判定を行う。エンジントルクT変化の上記所定値は、変速中のエンジントルクTが、図9に示す油圧学習値マップにおけるエンジントルク1〜7で示すような層別のいずれか一つに入っているとされる予め定められた判定値である。
【0103】
電動機駆動制約判断手段76は、ハイブリッド制御手段52が自動変速部20の変速中に実行する前記変速時電動機制御に対して所定の制約が生じているか否かを判断する。その所定の制約とは、前記電動機制御可能範囲を、電動機Mの定格出力などの基本特性に基づいて予め設定された範囲よりも一層狭くする電動機の駆動に関する制約である。例えば、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2をその定格出力でモータとして若しくはジェネレータとして作動させた場合に蓄電装置60の充電残量SOCが許容範囲から外れるおそれがある場合、或いは、蓄電装置60が極めて低温であるために蓄電装置60の充放電能力が常温時と比較して低下している場合には、第1電動機M1及び第2電動機M2に対しインバータ58を介して充放電を行う蓄電装置60(図6参照)の充放電電力が予め定められた充放電電力許容範囲内となるように第1電動機M1及び第2電動機M2が作動させられるという前記所定の制約が発生する。上記充放電電力許容範囲は、蓄電装置60の耐久性維持を図るために設定された蓄電装置60の充放電電力の許容範囲であり、例えば、蓄電装置60が極低温化すれば小さくなる。また、別の例として、第1電動機M1及び第2電動機M2の温度が、その第1電動機M1及び第2電動機M2の許容される温度として予め定められた電動機温度制限値に近い高温である場合には、その第1電動機M1及び第2電動機M2の温度が、上記電動機温度制限値以下で第1電動機M1及び第2電動機M2が作動させられるという前記所定の制約が発生する。上記電動機温度制限値は例えば、第1電動機M1及び第2電動機M2の耐久性維持を目的として設定されている。これらの例からすれば、電動機駆動制約判断手段76は前記所定の制約が生じているか否かを、蓄電装置60の温度もしくは充電残量SOCや、第1電動機M1及び第2電動機M2の温度に対応した自動変速部20の作動油の温度などに基づいて判断する。
【0104】
前記変速制御学習手段70は、有段変速制御手段54による自動変速部20の変速時に、差動部11が無段変速状態であるときには変速中の実際の伝達部材18の回転速度N18(以下、「伝達部材回転速度N18」と表す)の変化を監視し、或いは差動部11が非無段変速状態であるときには変速中の実際の伝達部材回転速度N18の変化或いは変速中の実際のエンジン回転速度Nの変化を監視し、自動変速部20の入力回転速度N18(伝達部材回転速度N18)が前記所定の変化率Aniに対しどれほど乖離して変化したかを記憶する。そして、前記学習前提条件が成立したことを肯定する判定が学習前提条件成立判定手段74によってなされた場合において、その実際の入力回転速度N18の変化ついての記憶に基づき変速制御学習手段70は、ハイブリッド制御手段52により自動変速部20の入力回転速度N18が制御されたとした場合にその入力回転速度N18が前記所定の変化率Aniで変化するように、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧(前記変速制御値)を学習により変更する学習制御を実行する。すなわち、変速制御学習手段70は、次の変速において上記所定の変化率Aniで上記入力回転速度N18が変化するように、直前の変速に用いた摩擦係合装置の係合圧を高くしたり、低くしたり設定する調整を行う。更に、変速制御学習手段70は、図9に示すような油圧学習値マップにおいて、学習の対象となった変速時のエンジントルクTと変速の種類とに対応する油圧値を、今回の学習制御による係合圧の補正後(調整後)の油圧値に書き換えて新たに学習値として記憶する。
【0105】
但し、前記変速時電動機制御に対して前記所定の制約が生じている旨を肯定する判断が電動機駆動制約判断手段76によってなされた場合には、その変速時電動機制御には上記所定の制約が設けられていることとなるので、変速制御学習手段70は、上記所定の制約を考慮した上記学習制御を実行する。すなわち、電動機駆動制約判断手段76がその判断を肯定し、且つ、学習前提条件成立判定手段74がその判定を肯定した場合において、変速制御学習手段70は、ハイブリッド制御手段52により自動変速部20の入力回転速度N18が上記所定の制約の範囲内で制御されたとした場合にその入力回転速度N18が前記所定の変化率Aniで変化するように、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧(前記変速制御値)を学習により変更する学習制御を実行する。
【0106】
変速制御学習手段70は、ハイブリッド制御手段52が前記変速時電動機制御を実行した自動変速部20の変速中の実際の入力回転速度N18の変化に基づいて、上記学習制御を実行するが、その実際の入力回転速度N18の変化から上記変速時電動機制御の実行による強制的な入力回転速度N18の変化分を差し引いたものを算出し、その強制的な変化分を差し引いた入力回転速度N18の変化に上記変速時電動機制御が実行されることを加味して、上記学習制御を実行してもよい。例えば、第1電動機M1及び第2電動機M1の入出力電力やそれらの回転速度NM1,NM2などをパラメータとした上記変速時電動機制御の実行による強制的な入力回転速度N18の変化量を算出(推定)するための制御量マップを予め実験などにより求めて、その制御量マップを変速制御学習手段70に記憶させておく。そして、変速制御学習手段70は、その制御量マップを用いて、電動機Mによる上記自動変速部20の入力回転速度N18の制御(変速時電動機制御)がないとした場合に前記所定の変化率Aniでその入力回転速度N18を変化させるために必要なその入力回転速度N18の補正量(必要補正量)を算出する。次に、変速制御学習手段70は、その算出した入力回転速度N18の補正量に対し所定の補正割合を考慮して得た補正量を、前記係合圧の変更により補正されるべきアクチュエータ補正量として求める。言い換えれば、変速制御学習手段70は、上記算出した入力回転速度N18の補正量を基準として上記所定の補正割合に応じて得た補正量を、具体的には、上記算出した入力回転速度N18の補正量に1未満の所定の補正割合を乗じて得た補正量を、上記アクチュエータ補正量として求める。その上で、変速制御学習手段70は、そのアクチュエータ補正量の補正がなされるように、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧(前記変速制御値)を学習により変更する学習制御を実行する。従って、その学習制御において、上記変速時電動機制御で電動機Mにより制御可能な上記入力回転速度N18の補正量をΔNimotとし、上記算出された入力回転速度N18の必要補正量をΔNiFとすれば、学習による上記係合圧の変更量ΔPFは、下記式(1)のように、(ΔNiF−ΔNimot)の関数として表される。
ΔPF=f(ΔNiF−ΔNimot) ・・・(1)
【0107】
また前記所定の制約を考慮した場合を例示すれば、電動機駆動制約判断手段76がその判断を肯定した場合において、変速制御学習手段70は、上記所定の補正割合を1未満の範囲で上記所定の制約が大きいほど大きくなるように変化させ、そして、上記と同様に、上記制御量マップを用いて上記入力回転速度N18の補正量を算出した上で、その変化させた所定の補正割合を上記算出した入力回転速度N18の補正量に乗じて得た補正量(アクチュエータ補正量)の補正がなされるように、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧(前記変速制御値)を学習により変更する学習制御を実行する。例えば、上記アクチュエータ補正量と上記所定の制約との関係は図10の実線Lのようになり、その所定の制約が大きいほどそのアクチュエータ補正量は大きくなる。一方、上記学習制御後の次回変速において実行される前記変速時電動機制御で電動機Mにより補正される入力回転速度N18の補正量と上記所定の制約との関係は図10の実線Lのようになり、その所定の制約が大きいほど上記電動機Mにより補正される入力回転速度N18の補正量は小さくなる。従って、この図10から、前記所定の制約が大きいほど、前記アクチュエータ補正量との比較で相対的に、自動変速部20の変速中において上記電動機Mにより上記入力回転速度N18を補正すべき割合が低下していることが判る。なお、前記所定の補正割合とは、自動変速部20の次回変速で上記入力回転速度N18を前記所定の変化率Aniで変化させるために上記係合圧補正量を決定する実験的に設定されたパラメータ(正の値)である。そして、自動変速部20の変速中に前記学習制御後の係合圧制御だけが実行され前記変速時電動機制御が実行されなかったとしても、上記所定の変化率Aniに対する上記入力回転速度N18の変化のずれが上記変速時電動機制御の実行により修正可能な範囲内に収まるように、上記所定の補正割合は設定されている。
【0108】
図11は、電子制御装置40の制御作動の要部、すなわち、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧(変速制御値)が学習により変更される制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0109】
先ず、変速発生判断手段72に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、自動変速部20の変速が発生したか否かが判断される。このSA1の判断が肯定された場合、すなわち、自動変速部20の変速が発生した場合には、SA2に移る。一方、このSA1の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。
【0110】
学習前提条件成立判定手段74に対応するSA2においては、後述のSA4又はSA5にて前記係合圧の学習をする為の前記学習前提条件が成立したか否かが判定される。例えば、自動変速部20の変速中のエンジントルクTの変化が所定値以内であり、エンジン8の暖機が完了しているとされるエンジン水温TEMPであり、自動変速部20の作動油温が予め定められた適正値以内であるような変速が正常に実行されて終了した場合に、上記学習前提条件が成立した旨が肯定される。このSA2の判定が肯定された場合、すなわち、上記学習前提条件が成立した旨が肯定された場合には、SA3に移る。一方、このSA2の判定が否定された場合には、本フローチャートは終了する。
【0111】
電動機駆動制約判断手段76に対応するSA3においては、自動変速部20の変速中に実行される前記変速時電動機制御に対して前記所定の制約が生じているか否かが判断される。例えば、蓄電装置60の充放電電力に対する制限や電動機Mの温度などに起因して上記所定の制約は発生する。このSA3の判断が肯定された場合、すなわち、上記所定の制約が生じている場合には、SA5に移る。一方、このSA3の判断が否定された場合には、SA4に移る。
【0112】
変速制御学習手段70に対応するSA4においては、自動変速部20の変速中に係合圧制御に併せて前記変速時電動機制御が実行されたとした場合に自動変速部20の入力回転速度N18が前記所定の変化率Aniで変化するように、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧(前記変速制御値)を学習により変更する前記学習制御が実行される。そして、図9に示すような油圧学習値マップにおいて、学習の対象となった変速時のエンジントルクTと変速の種類とに対応する油圧値が、今回の学習制御による係合圧の補正後(調整後)の油圧値に書き換えられて新たに学習値として記憶される。このようにして、自動変速部20の次回の変速から上記学習制御後の係合圧で上記摩擦係合装置の係合圧制御が実行されるので、このSA4の学習制御により、前記所定の制約は無いものとした自動変速部20の変速進行中の特性である基本変速過渡特性が設定され更新されることとなる。
【0113】
変速制御学習手段70に対応するSA5においては、前記変速時電動機制御において電動機Mにより自動変速部20の入力回転速度N18が前記所定の制約の範囲内で制御されたとした場合にその入力回転速度N18が前記所定の変化率Aniで変化するように、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧(前記変速制御値)を学習により変更する前記学習制御が実行される。そして、前記SA4と同様に、図9の油圧学習値マップが書き換えられる。このようにして、上記変速時電動機制御に対する上記所定の制約に基づいて、このSA5の学習制御により、上記所定の制約が存在することを前提とした自動変速部20の変速進行中の変速過渡特性が設定され更新されることとなる。なお、好適には、図9の油圧学習値マップは、前記SA4で上記所定の制約が無い場合に更新されるものと、SA5で上記所定の制約が有る場合に更新されるものとで、それぞれ別個に前記記憶手段56に記憶されている。
【0114】
図12は、切換クラッチC0が係合された差動部11のロック状態であるときに、アクセルペダル41が踏込まれ、自動変速部20においてそのギヤ段が第2速から第3速へとアップシフトされた場合を例として、本実施例における変速作動を説明するためのタイムチャートである。このタイムチャートでは、切換クラッチC0の係合により差動部11の回転要素RE1,RE2,RE3は一体回転するので、エンジン回転速度N、自動変速部20の入力回転速度N18、第1電動機回転速度NM1、及び、第2電動機回転速度NM2は何れも同一になる。また、上記第2速から第3速へのアップシフトでは図2に示されているように、第1ブレーキB1が係合側係合要素であり、第2ブレーキB2が解放側係合要素である。
【0115】
図12のtA1時点は、油圧制御回路42へ自動変速部20の変速を開始させる変速出力(変速出力指令)がなされたことを示している。つまり、tA1時点は自動変速部20の変速開始時点である。また、tA2時点は自動変速部20の変速のイナーシャ相開始時点であり、tA3時点は自動変速部20の変速終了時点である。従って、tA1時点から解放側の油圧値PB2が低下し始め、そのtA1時点から少し遅れて係合側の油圧値PB1が上昇し始め、tA1時点とtA3時点との間で自動変速部20のクラッチツウクラッチ変速が実行されていることが示されている。そして、自動変速部20の変速のイナーシャ相であるtA2時点とtA3時点との間では、自動変速部20の入力回転速度N18が前記所定の変化率Aniで下降するように電動機Mにより補足的に制御されている。また、tA2時点とtA3時点との間では、第2電動機トルクTM2を低下させる前記電動機トルクダウン制御が実行されている。ここで、図12の自動変速部20の入力回転速度N18のタイムチャート内には一点鎖線で前記電動機制御可能範囲が示されており、上記入力回転速度N18の実際の変化率AN18と上記所定の変化率Aniとの差が、その電動機制御可能範囲内であれば、変速中にリアルタイムで上記入力回転速度N18を調整できる前記変速時電動機制御の実行により、上記実際の変化率AN18と上記所定の変化率Aniとの差が零に向けて収束する。
【0116】
図13は、切換クラッチC0が係合された差動部11のロック状態であるときに、アクセルペダル41が踏込まれ、自動変速部20においてそのギヤ段が第3速から第2速へとダウンシフトされた場合を例として、本実施例における変速作動を説明するためのタイムチャートである。このタイムチャートでは、図12と同様に、エンジン回転速度N、自動変速部20の入力回転速度N18、第1電動機回転速度NM1、及び、第2電動機回転速度NM2は何れも同一になる。また、上記第3速から第2速へのダウンシフトでは図2に示されているように、第2ブレーキB2が係合側係合要素であり、第1ブレーキB1が解放側係合要素である。
【0117】
図13のtB1時点は、油圧制御回路42へ前記変速出力(変速出力指令)がなされたことを示している。つまり、tB1時点は自動変速部20の変速開始時点である。また、tB2時点は自動変速部20の変速のイナーシャ相開始時点であり、tB3時点は自動変速部20の変速終了時点である。従って、tB1時点から解放側の油圧値PB1が低下し始め、そのtB1時点から少し遅れて係合側の油圧値PB2が上昇し始め、tB1時点とtB3時点との間で自動変速部20のクラッチツウクラッチ変速が実行されていることが示されている。そして、自動変速部20の変速のイナーシャ相であるtB2時点とtB3時点との間では、自動変速部20の入力回転速度N18が前記所定の変化率Aniで上昇するように電動機Mにより補足的に制御されている。ここで、図13の自動変速部20の入力回転速度N18のタイムチャート内には一点鎖線で前記電動機制御可能範囲が示されており、上記入力回転速度N18の実際の変化率AN18と上記所定の変化率Aniとの差が、その電動機制御可能範囲内であれば、変速中にリアルタイムで上記入力回転速度N18を調整できる前記変速時電動機制御の実行により、上記実際の変化率AN18と上記所定の変化率Aniとの差が零に向けて収束する。
【0118】
本実施例では次のような効果(A1)乃至(A12)がある。(A1)本実施例によれば、ハイブリッド制御手段(電動機制御手段)52は、自動変速部20の変速のイナーシャ相中に、自動変速部20の入力回転速度N18が前記所定の変化率Aniで変化するように、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によりその入力回転速度N18を積極的(強制的)に変化させ制御する前記変速時電動機制御を実行するので、自動変速部20のクラッチツウクラッチ変速のみによる場合と比較して、自動変速部20の入力回転速度N18をより一層上記所定の変化率Aniに近付けて変化させることができ、それにより変速ショックが低減される。また、前記学習前提条件が成立したことを肯定する判定が学習前提条件成立判定手段74によってなされた場合において、変速制御学習手段70は、ハイブリッド制御手段(電動機制御手段)52により自動変速部20の入力回転速度N18が制御されたとした場合にその入力回転速度N18が前記所定の変化率Aniで変化するように、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧(前記変速制御値)を学習により変更する前記学習制御を実行する。従って、上記摩擦係合装置の係合圧は、ハイブリッド制御手段52により上記入力回転速度N18が制御されることを前提として好適に学習される。そして、ハイブリッド制御手段52による上記入力回転速度N18の変速中の制御である前記変速時電動機制御があるか否かにより上記係合圧の学習値が分けて複数パターン記憶される場合と比較して、上記学習制御後の係合圧で変速制御が実行される場面を想定すれば、その係合圧の学習結果を適切に活用することが可能である。
【0119】
(A2)本実施例によれば、前記変速時電動機制御に対して前記所定の制約が生じている旨を電動機駆動制約判断手段76が肯定し、且つ、学習前提条件成立判定手段74がその判定を肯定した場合において、変速制御学習手段70は、ハイブリッド制御手段52により自動変速部20の入力回転速度N18が上記所定の制約の範囲内で制御されたとした場合にその入力回転速度N18が前記所定の変化率Aniで変化するように、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧(前記変速制御値)を学習により変更する前記学習制御を実行する。従って、自動変速部20の入力回転速度N18の電動機Mによる制御に上記所定の制約があったとしても、上記係合圧(前記変速制御値)の学習により変速ショックを低減することが可能である。
【0120】
(A3)本実施例によれば、例えば、蓄電装置60が極めて低温であるために蓄電装置60の充放電能力が常温時と比較して低下している場合等には、第1電動機M1及び第2電動機M2に対しインバータ58を介して充放電を行う蓄電装置60(図6参照)の充放電電力が前記充放電電力許容範囲内となるように第1電動機M1及び第2電動機M2が作動させられるという前記所定の制約が発生する。このことから、上記所定の制約とは、具体的な一例として、蓄電装置60の充放電電力が上記充放電電力許容範囲内となるように第1電動機M1及び第2電動機M2が作動させられることであると言える。そして、電動機駆動制約判断手段76は、前記変速時電動機制御に対して上記所定の制約が生じているか否かを判断し、その判断に基づき、変速制御学習手段70は、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧を学習により変更する前記学習制御を実行するので、蓄電装置60及びそれに関連する電気部品の耐久性を維持しつつ、上記係合圧の学習により変速ショックを低減することが可能である。
【0121】
(A4)本実施例によれば、例えば、第1電動機M1及び第2電動機M2の温度が、その第1電動機M1及び第2電動機M2の許容される温度として予め定められた前記電動機温度制限値に近い高温である場合には、その第1電動機M1及び第2電動機M2の温度が、上記電動機温度制限値以下で第1電動機M1及び第2電動機M2が作動させられるという前記所定の制約が発生する。このことから、上記所定の制約とは、具体的な一例として、第1電動機M1及び第2電動機M2の温度が、上記電動機温度制限値以下で第1電動機M1及び第2電動機M2が作動させられることであると言える。そして、電動機駆動制約判断手段76は、前記変速時電動機制御に対して上記所定の制約が生じているか否かを判断し、その判断に基づき、変速制御学習手段70は、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧を学習により変更する前記学習制御を実行するので、第1電動機M1及び第2電動機M2更にそれらに関連する部品の耐久性を維持しつつ、上記係合圧の学習により変速ショックを低減することが可能である。
【0122】
(A5)本実施例によれば、前記係合圧(前記変速制御値)の学習に際し、例えば、変速制御学習手段70は、予め記憶された前記制御量マップを用いて、電動機Mによる上記自動変速部20の入力回転速度N18の制御(変速時電動機制御)がないとした場合に前記所定の変化率Aniでその入力回転速度N18を変化させるために必要なその入力回転速度N18の補正量(必要補正量)を算出し、その上で、変速制御学習手段70は、その算出した入力回転速度N18の補正量に対し所定の補正割合を考慮して得た補正量(アクチュエータ補正量)の補正がなされるように、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧を学習により変更する学習制御を実行してもよい。そのようにすれば、ハイブリッド制御手段(電動機制御手段)52による自動変速部20の入力回転速度N18の制御が無かったとしても、上記所定の補正割合に応じたある程度以上の変速品質を確保できる。
【0123】
(A6)本実施例によれば、前記係合圧(前記変速制御値)の学習に際し、例えば、電動機駆動制約判断手段76がその判断を肯定した場合においては、変速制御学習手段70は、前記所定の補正割合を1未満の範囲で前記所定の制約が大きいほど大きくなるように変化させ、そして、前記と同様に、前記制御量マップを用いて前記入力回転速度N18の補正量を算出した上で、その変化させた所定の補正割合を上記算出した入力回転速度N18の補正量に乗じて得た補正量(アクチュエータ補正量)の補正がなされるように、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧を学習により変更する学習制御を実行してもよい。そのようにすれば、上記所定の制約があった場合にも、その所定の制約の大きさに応じて適切に上記係合圧が学習により変更される。
【0124】
(A7)本実施例によれば、変速制御学習手段70が学習により変更する前記変速制御値は、具体的には、前記摩擦係合装置の係合圧であるので、その係合圧が適切に学習により変更され、変速ショックが低減される。
【0125】
(A8)本実施例によれば、ハイブリッド制御手段(電動機制御手段)52は、自動変速部20の変速中に実行される前記変速時電動機制御では、電動機Mの出力トルクを変化させることにより、自動変速部20の入力回転速度N18を制御するので、その電動機Mの出力トルクに対応した電流値を制御することにより容易に上記入力回転速度N18を制御できる。
【0126】
(A9)本実施例によれば、動力伝達装置10に設けられた差動部(電気的無段変速部)11は、自動変速部20に連結され動力伝達経路の一部を構成しており、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより電気的な無段変速機として作動する。そして、その差動部11が電気的な無段変速機として作動する場合において、差動部11の入力回転速度(入力軸14の回転速度)もしくは出力回転速度(伝達部材回転速度N18)が、前記理想状態になるように第1電動機M1及び第2電動機M2により制御される。従って、差動部11と自動変速部20とのそれぞれで変速されることにより、動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTを幅広く変化させることができる。
【0127】
(A10)本実施例によれば、図1に示すように、動力伝達経路において無段変速可能な差動部11が自動変速部20の入力側に連結されており、差動部11が前記非ロック状態であってもハイブリッド制御手段(電動機制御手段)52は、自動変速部20の入力回転速度N18を電動機Mにより制御する前記変速時電動機制御において、差動部11の出力回転速度の変化率が、前記所定の変化率Aniに対応する前記目標出力回転速度変化率となるように制御するので、エンジン回転速度Nと自動変速部20の入力回転速度N18との差が差動部11の差動作用すなわち無断変速により吸収され、そのため、ハイブリッド制御手段52は、エンジン回転速度N変化の影響を抑えて、電動機Mにより自動変速部20の入力回転速度N18を制御することができる。
【0128】
(A11)本実施例によれば、トルクダウン制御手段68は、少なくとも自動変速部20の変速過程におけるイナーシャ相中にて、前記エンジントルクダウン制御及び/又は電動機トルクダウン制御を実行するので、変速ショックの抑制を図ることができる。
【0129】
(A12)本実施例によれば、変速制御学習手段70は、自動変速部20の摩擦係合装置の係合圧(変速制御値)を学習により変更する前記学習制御を、前記学習前提条件が成立したことを学習前提条件成立判定手段74が肯定した場合に実行するので、その学習制御により却って変速ショックが増大してしまうという事態を排除できる。
【0130】
続いて、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0131】
図14は本発明の他の実施例における車両用動力伝達装置110(以下、「動力伝達装置110」と表す)の構成を説明する骨子図であり、図15はその動力伝達装置110の変速段と油圧式摩擦係合装置の係合の組み合わせとの関係を示す係合表であり、図16はその動力伝達装置110の変速作動を説明する共線図である。
【0132】
動力伝達装置110は、前述の実施例と同様に第1電動機M1、動力分配機構16、および第2電動機M2を備えている差動部11と、その差動部11と出力軸22との間で伝達部材18を介して直列に連結されている前進3段の自動変速部112とを備えている。動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを有している。自動変速部112は、例えば「0.532」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置26と、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置28とを備えている。第1遊星歯車装置26の第1サンギヤS1と第2遊星歯車装置28の第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1遊星歯車装置26の第1キャリヤCA1と第2遊星歯車装置28の第2リングギヤR2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第1リングギヤR1は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されている。
【0133】
以上のように構成された動力伝達装置110では、例えば、図15の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第4速ギヤ段(第4変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、動力伝達装置110では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部112とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部112とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置110は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
【0134】
例えば、動力伝達装置110が有段変速機として機能する場合には、図15に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.804」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.531」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第2ブレーキB2の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.393」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2が解放される。
【0135】
しかし、動力伝達装置110が無段変速機として機能する場合には、図15に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部112が有段変速機として機能することにより、自動変速部112の第1速、第2速、第3速の各ギヤ段に対しその自動変速部112の入力回転速度N18すなわち伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置110全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0136】
図16は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と変速部(有段変速部)或いは第2変速部として機能する自動変速部112とから構成される動力伝達装置110において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放される場合、および切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられる場合の動力分配機構16の各要素の回転速度は前述の場合と同様である。
【0137】
図16における自動変速部112の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第1リングギヤR1をそれぞれ表している。また、自動変速部112において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は自動変速部112の出力軸22に連結され、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0138】
自動変速部112では、図16に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7(R1)の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5(CA2)の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第6回転要素RE6(CA1,R2)の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第3速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度Nと同じ回転速度で第7回転要素RE7に差動部11からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度Nよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。
【0139】
本実施例の動力伝達装置110においても、電気的無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と、変速部(有段変速部)或いは第2変速部として機能する自動変速部112とから構成され、図6を用いて前述したような制御機能が適用されるので、前述の第1実施例と同様の効果が得られる。
【0140】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0141】
例えば、前述の実施例では、変速制御学習手段70が学習により変更する自動変速部20,112の前記変速制御値を、自動変速部20,112が備える前記摩擦係合装置の係合圧として説明したが、その変速制御値は、その係合圧の変化率であっても係合時間であってもよい。
【0142】
また前述の実施例においては、自動変速部20,112は、それが有する摩擦係合装置の掴み替えにより変速する所謂クラッチツウクラッチ変速を行う有段の自動変速機として機能する変速部であるが、無段のCVTであってもよい。例えば、自動変速部20,112が上記CVTであったとすれば、本発明のアクチュエータ装置は摩擦係合装置ではなく、変速比を変化させる油圧シリンダもしくは電動シリンダになる。
【0143】
また、前述の実施例におけるクラッチCやブレーキB等の油圧式摩擦係合装置B0,B1,B2,B3,C0,C1,C2は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチ等の磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。そして、前述の実施例において、例えば、上記クラッチCおよびブレーキBが電磁クラッチ等の電動のアクチュエータ装置に置き換われば、変速制御学習手段70が実行する前記学習制御によって変更される前記変速制御値は具体的には、その電動のアクチュエータ装置に供給される電流値などになる。要するに、本発明のアクチュエータ装置は摩擦係合装置に限られるものではなく、また、本発明の変速制御値は上記摩擦係合装置の係合圧に限られるものではない。
【0144】
また、前述の実施例において、動力伝達装置10,110はハイブリッド車両に好適に用いられるものであったが、本発明はハイブリッド車両に限定して適用されるものではなく、通常のエンジン車両に適用されてもよい。
【0145】
また前述の実施例においては、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0146】
また、前述の実施例の動力伝達装置10,110においてエンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0147】
また、前述の実施例の動力伝達装置10,110において第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0148】
また前述の実施例では、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20,112が連結されているが、自動変速部20,112の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20,112は、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
【0149】
また、前述の実施例の図1によれば、差動部11と自動変速部20,112は直列に連結されているが、動力伝達装置10全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20,112とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0150】
また、前述の実施例において動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0151】
また前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪38への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2つの遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
【0152】
また前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0153】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0154】
また、前述の実施例においてエンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0155】
また、前述の実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0156】
また、前述の実施例において自動変速部20,112は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20,112が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20,112とは、たとえば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0157】
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0158】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪38までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10,110の構成であってもよい。
【0159】
また前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とは別個に動力伝達装置10,110に備えられていてもよい。
【0160】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用動力伝達装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の車両用動力伝達装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の車両用動力伝達装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図6】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1の車両用動力伝達装置において、車速と出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、動力伝達装置の変速状態の切換判断の基となる予め記憶された切換線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図8】図1のエンジンの最適燃費率曲線を表す図である。
【図9】図6の変速制御学習手段70による係合圧(変速制御値)の学習について説明するために用いる油圧学習値マップの一例であって、アップシフトとダウンシフトとで区別されており、(a)はアップシフト用であり、(b)はダウンシフト用である。
【図10】図1の車両用動力伝達装置において、自動変速部の入力回転速度変化に対する、自動変速部が備える摩擦係合装置の係合圧変更による補正量及び電動機による補正量と、その電動機による補正に対する所定の制約との関係を概念的に例示した図である。
【図11】図4の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、自動変速部の摩擦係合装置の係合圧(変速制御値)が学習により変更される制御作動を説明するフローチャートでる。
【図12】図1の車両用動力伝達装置において、切換クラッチが係合された差動部のロック状態であるときに、アクセルペダルが踏込まれ、自動変速部においてそのギヤ段が第2速から第3速へとアップシフトされた場合を例として、前述の実施例における変速作動を説明するためのタイムチャートである。
【図13】図1の車両用動力伝達装置において、切換クラッチが係合された差動部のロック状態であるときに、アクセルペダルが踏込まれ、自動変速部においてそのギヤ段が第3速から第2速へとダウンシフトされた場合を例として、前述の実施例における変速作動を説明するためのタイムチャートである。
【図14】本発明が好適に適用される車両用動力伝達装置の他の構成例を説明する骨子図であって、図1に相当する第2実施例の骨子図である。
【図15】図14の車両用動力伝達装置の有段変速状態における変速段とそれを達成するための油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表であって、図2に相当する第2実施例の作動図表である。
【図16】図14の車両用動力伝達装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図であって、図3に相当する第2実施例の共線図である。
【符号の説明】
【0162】
8:エンジン
10,110:動力伝達装置(車両用動力伝達装置)
11:差動部(電気的無段変速部)
16:動力分配機構
20,112:自動変速部
38:駆動輪
40:電子制御装置(制御装置)
52:ハイブリッド制御手段(電動機制御手段)
60:蓄電装置
70:変速制御学習手段
M1:第1電動機(電動機)
M2:第2電動機(電動機)
C1:第1クラッチ(アクチュエータ装置、油圧式摩擦係合装置)
C2:第2クラッチ(アクチュエータ装置、油圧式摩擦係合装置)
B1:第1ブレーキ(アクチュエータ装置、油圧式摩擦係合装置)
B2:第2ブレーキ(アクチュエータ装置、油圧式摩擦係合装置)
B3:第3ブレーキ(アクチュエータ装置、油圧式摩擦係合装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達経路の一部を構成しアクチュエータ装置が作動することにより変速する自動変速部と、該自動変速部の入力回転速度を変化させ得るように該自動変速部に連結された電動機とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記自動変速部の変速中に、該自動変速部の入力回転速度が所定の変化率で変化するように前記電動機により該入力回転速度を制御する電動機制御手段と、
前記電動機制御手段により前記入力回転速度が所定の制約の範囲内で制御されたとした場合に該入力回転速度が前記所定の変化率で変化するように、前記アクチュエータ装置の変速作動のための変速制御値を学習により変更する変速制御学習手段と
を、含むことを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記電動機に対し充放電を行う蓄電装置が設けられており、
前記所定の制約とは、前記蓄電装置の充放電電力が予め定められた充放電電力許容範囲内となるように前記電動機が作動させられることである
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記所定の制約とは、前記電動機の温度が、該電動機の許容される温度として予め定められた電動機温度制限値以下で該電動機が作動させられることである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記変速制御学習手段は、前記電動機による前記自動変速部の入力回転速度の制御がないとした場合に前記所定の変化率で該入力回転速度を変化させるために必要な該入力回転速度の補正量を算出し、且つ、該入力回転速度の補正量に対し所定の補正割合を考慮して得たアクチュエータ補正量の補正がなされるように前記変速制御値を学習により変更する
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記変速制御学習手段は、前記電動機による前記自動変速部の入力回転速度の制御がないとした場合に前記所定の変化率で該入力回転速度を変化させるために必要な該入力回転速度の補正量を算出し、且つ、前記所定の制約が大きいほど大きくなる1未満の所定の補正割合を該入力回転速度の補正量に乗じて得たアクチュエータ補正量の補正がなされるように、前記変速制御値を学習により変更する
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記アクチュエータ装置は油圧により作動する油圧式摩擦係合装置であり、
前記変速制御値は変速中の該アクチュエータ装置の係合圧である
ことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記電動機制御手段は、前記電動機の出力トルクを変化させることにより、前記自動変速部の入力回転速度を制御する
ことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記自動変速部に連結され前記動力伝達経路の一部を構成し、前記電動機の運転状態が制御されることにより電気的な無段変速機として作動する電気的無段変速部が設けられており、
該電気的無段変速部が電気的な無段変速機として作動する場合において、該電気的無段変速部の入力回転速度もしくは該電気的無段変速部の出力回転速度が、予め定められた理想状態になるように前記電動機により制御される
ことを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項9】
前記電気的無段変速部は前記自動変速部の入力側に連結されており、
前記電動機制御手段は、該電気的無段変速部の出力回転速度の変化率が所定の目標出力回転速度変化率となるように制御する
ことを特徴とする請求項8に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−18215(P2010−18215A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182114(P2008−182114)
【出願日】平成20年7月12日(2008.7.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】