説明

車両用運転支援装置

【課題】狭路等における後退走行時において、運転者の負担を軽減して後退走行を容易にすることができる車両用運転支援装置を提供すること。
【解決手段】車両の運転を支援する車両用運転支援装置1であって、車両の前進走行軌跡に関する情報を検出する情報検出手段2aと、前進走行軌跡に関する情報を記憶する記憶手段2bと、前進走行軌跡に関する情報をもとに前進走行軌跡上の所定の地点に戻る後退走行軌跡を算出する算出手段2dと、後退走行軌跡をもとに後退走行時の操舵制御を行う制御手段2fと、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転を支援する車両用運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転を支援する車両用運転支援装置としては、例えば、特許文献1に記載されたようなものがある。この特許文献1に記載された車両用運転支援装置においては、車両の後方を撮像するカメラと、操舵角を検出するセンサと、操舵角に基づいて後退走行時の車両の予想軌跡を演算する演算部と、カメラにより撮像された画像と後退時の車両の予想軌跡を重畳させて表示するモニタとが備えられており、運転者は後退走行時の車両の予想軌跡を認識しながら後退走行を行うことができる。
【特許文献1】特開2000−272445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、このような車両用運転支援装置においては、対向車両とのすれ違いが困難な狭路において、対向車両に進路を譲るために後退走行する場合や、行き止まりの挟路において後退走行する場合等において、モニタに表示される車両後方の画像に車両の予想軌跡が重畳して表示され、運転者はその予想軌跡に基づいて操舵操作することができるものの、操舵操作そのものは依然としてマニュアルにて行わなければならず、後退走行時には操舵輪が進行方向後方に位置することになり車両挙動が不安定となってその操舵操作には慣れが必要であるため、運転者の負担が大きくなるという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に鑑み、狭路等における後退走行時において、運転者の負担を軽減して後退走行を容易にすることができる車両用運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題を解決するため、本発明による車両用運転支援装置は、
車両の運転を支援する車両用運転支援装置であって、
車両の前進走行軌跡に関する情報を検出する情報検出手段と、
当該前進走行軌跡に関する情報を記憶する記憶手段と、
前記前進走行軌跡に関する情報をもとに前記前進走行軌跡上の所定の地点に戻る後退走行軌跡を算出する算出手段と、
前記後退走行軌跡をもとに後退走行時の操舵制御を行う制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0006】
なお、前進走行軌跡に関する情報とは、走行距離と曲率の相関関係と、走行距離を求めるための車速、ヨーレート、GPSによる自車位置、曲率を求めるための操舵角等の情報を指す。
【0007】
ここで、
車両の後退を検出する後退検出手段を備え、
前記後退検出手段が車両の後退を検出した場合に、前記制御手段が後退走行時の操舵制御を行うことが好ましい。
【0008】
これにより、後退走行時のみにおいて前記制御手段により操舵角の制御を行うことができる。
【0009】
加えて、
前記前進走行軌跡に関する情報を、最新の前進走行時の前進走行軌跡に関する情報に更新する更新手段を備えることが好ましい。
【0010】
これにより、後退走行時において必要な最新の前進走行軌跡に関する情報のみを、前記記憶手段に記憶させることができ、前記記憶手段の記憶容量を最低限のものとすることができる。
【0011】
さらに、前記制御手段のオンオフを選択する選択手段を備えることが好ましい。
【0012】
これにより、前記前進走行軌跡をもとに前記後退走行軌跡を算出して後退走行時の操舵を自動的に行うかどうかを、運転者が任意に選択することができる。
【0013】
加えて、
前記情報検出手段が前記前進走行軌跡に関する情報の一つとして車速を検出するとともに、
当該車速が所定値以下である場合に、前記記憶手段が前記前進走行軌跡に関する情報を
記憶することが好ましい。
【0014】
これにより、車速が所定値以下である場合には、車両がすれ違い不可の狭路を走行していると見なして、狭路を前進走行している場合の前進走行軌跡に関する情報のみを記憶手段に記憶させることができ、前記記憶手段の記憶容量を最低限のものとすることができる。
【0015】
さらに、
車両の経路を案内する経路案内手段を備えるとともに、
前記情報検出手段が前記前進走行軌跡に関する情報の一つとして前記経路案内手段より前記前進走行中の道路に関する情報を検出して、
当該道路がすれ違い不可の挟路である場合に、前記記憶手段が前記前進走行軌跡に関する情報を記憶することが好ましい。
【0016】
これにより、狭路を前進走行している場合の前進走行軌跡に関する情報のみを記憶手段に記憶させることができ、前記記憶手段の記憶容量を最低限のものとすることができる。なお、経路案内手段とは具体的にはカーナビゲーション装置を指し、車両の現在位置をGPSにより認識し、目的地までの経路を探索用のデータベースにより探索することができるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、狭路等における後退走行時において、前進走行軌跡をもとに後退走行軌跡を算出して操舵操作を自動的に行うことにより、運転者の負担を軽減して後退走行を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明に係る車両用運転支援装置の一実施形態を示すブロック図である。
【0020】
車両用運転支援装置1は、車両の運転を支援する車両用運転支援装置であって、後退走行制御ECU2(Electronic Control Unit)と、車輪速センサ3と、操舵角センサ4と、EPSECU5(Electronic Control Unit)と、操舵トルクセンサ6と、シフト位置検出センサ7と、開始終了スイッチ8とから構成される。
【0021】
後退走行制御ECU2は例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが以下に述べる所定の処理を行うものであり、情報検出手段2aと、記憶手段2bと、更新手段2cと、算出手段2dと、後退検出手段2eと、制御手段2fとを備える。
【0022】
後退走行制御ECU2はCAN(Controller Area Network)等の通信規格によりEPSECU5に接続される。
【0023】
EPSECU5は、例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを相互に接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが図示しない電動パワーステアリング装置のアシスト力発生部内の電動モータを制御して操舵角の制御を行うものである。
【0024】
電動パワーステアリング装置は、本来機能としては、例えばラックアンドピニオン式のものであり、図示しないステアリングホイールに連結されたステアリングシャフトに、運転者の操作力及び運転者による操舵操作の有無を検出する操舵トルクセンサ6を備えるとともに、操舵トルクセンサ6より検出された運転者の操作力に応じてまたは後退走行制御ECU2の指令に基づいて電動モータを駆動してアシスト力を発生するアシスト力発生部と、電動モータのロータの回転角から操舵角を検出する操舵角センサ4を備える。
【0025】
これとともに、電動パワーステアリング装置はここでは図示しないステアリングシャフトに連結されるピニオン軸と車幅方向に延びるラック軸とを備え、ピニオン軸とラック軸とは相互に噛み合わされておりアシスト力をピニオン軸からラック軸に伝達し、運転者がステアリングホイールに与える操作力に基づいて、アシスト力発生部がアシスト力を発生するとラック軸は車幅方向にストロークされる。ラック軸の両端にはタイロッドが接続され、ラック軸の車幅方向のストロークにより、タイロッドに接続された図示しない前輪が操舵される。
【0026】
シフト位置検出センサ7は図示しないシフトレバーに設けられるものであり、シフト位置がリバース位置にある場合に、後退検出手段2eはシフト位置検出センサ7の検出結果に基づき車両の後退を検出する。
【0027】
開始終了スイッチ8は、制御手段2fのオンオフを選択する選択手段を構成し、運転者が車両用運転支援装置1による後退走行時の自動操舵を行うかどうかを選択するために設けられるものである。
【0028】
情報検出手段2aは車輪速センサ3および操舵角センサ4より車両の前進走行軌跡に関する情報(車速、操舵角)を検出する。記憶手段2bは情報検出手段2aの検出した前進走行軌跡に関する情報を、車速が閾値α以下(例えば15km/h以下)である場合にのみ狭路を車両が走行しているとみなして記憶する。更新手段2cは記憶手段2bに記憶された前進走行軌跡に関する情報を、最新の前進走行時の前進走行軌跡に関する情報に更新する。
【0029】
算出手段2cは、記憶手段2bに記憶された前進走行軌跡に関する情報をもとに、例えば、予め実験により求めた車速毎の曲率−操舵角のマップを用いて前進走行軌跡(走行距離−曲率)を算出し、前進走行軌跡上の所定の地点に戻る後退走行軌跡(走行距離−曲率)を算出する。後退検出手段2eはシフト位置検出センサ7の検出結果をもとに車両の後退を検出する。制御手段2fは、後退検出手段2eが車両の後退を検出し、かつ、後述する開始終了スイッチ8を運転者が操作した場合に、算出手段2dが後退走行軌跡(走行距離−曲率)をもとに予め実験により求めた車速毎の曲率−操舵角のマップを用いて操舵角を算出するとともにEPSECU5を算出した操舵角に基づいて制御して後退走行時の操舵制御を行う。
【0030】
以下、本発明による車両用運転支援装置の適用対象と制御内容を、具体的な狭路の概略図と走行軌跡に基づき、説明する。図2は、本発明による車両用運転支援装置の適用される狭路を示す模式図であり、図3は本発明による車両用運転支援装置の適用される狭路の前進走行軌跡を示す模式図であり、図4は本発明による車両用運転支援装置の適用される狭路の後退走行軌跡を示す模式図である。
【0031】
図2中左下の地点Aから道路の幅員が狭くなって、すれ違い不可の狭路が形成されており、地点Aから地点Bまでは直線路を構成し、地点Bから地点Cまでは前進方向右側にカーブする曲線路を構成している。さらに、地点Cから地点Dまでは直線路を構成し、地点Dから地点Eまでは前進方向左側にカーブする曲線路を構成している。さらに、地点Eから地点Fまでは直線路を構成し、地点Fから地点Gまでは前進方向右側にカーブする曲線路を構成し、地点Gから地点Hまでは再び直線路を構成している。
【0032】
このような狭路を車両が閾値α以下の速度で前進走行している場合に、地点Hが行き止まりである、あるいは地点Hにおいて対向車両と遭遇する等の理由により、幅員が大きくなる地点Aまで後退走行する必要が生じたとする。
【0033】
このような場合において、地点Aから地点Hに至るまでの前進走行時の前進走行軌跡に関する情報として、情報検出手段2aが車輪速センサ3より車速を、操舵角センサ4より操舵角をそれぞれ検出し、情報検出手段2aが検出した車速及び操舵角を、前進走行軌跡に関する情報として記憶手段2bが記憶しておく。そして、地点Hにおいて運転者がシフトレバーをリバース位置にして、シフト位置検出センサ7が、シフトレバーがリバース位置にあることを検出し、その検出結果に基づいて後退検出手段2eが車両の後退を検出し、運転者が開始終了スイッチ8を操作した場合に、算出手段2dおよび制御手段2fが以下の制御を行う。
【0034】
すなわち、算出手段2dが記憶手段2bに記憶された前進走行軌跡に関する情報をもとに、予め実験により求めた車速毎の曲率−操舵角のマップを用いて図3に示すような前進走行軌跡(走行距離−曲率)を算出し、前進走行軌跡上の地点Aに戻る図4に示すような後退走行軌跡(走行距離−曲率)を算出する。なお、ここでは後退走行軌跡を、前進走行軌跡と同一としている。なお、曲率は車両の前方右側にカーブする場合を正としている。
【0035】
さらに、算出手段2dが後退走行軌跡(走行距離−曲率)をもとに予め実験により求めた車速毎の曲率−操舵角のマップを用いて操舵角を算出するとともに、制御手段2fがEPSECU5を制御して後退走行時の操舵制御を行うのである。
【0036】
このように狭路における後退走行時において、前進走行軌跡をもとに後退走行軌跡を算出して操舵操作を自動的に行うことにより、運転者の負担を軽減して後退走行を容易にすることができる。
【0037】
さらに、本発明による車両用運転支援装置の制御内容をフローチャートに基づき説明する。図5は本発明による車両用運転支援装置の制御内容を示すフローチャートである。
【0038】
S1において、情報検出手段2aが、前進走行時の前進走行軌跡に関する情報として、車輪速センサ3および操舵角センサ4より車速及び操舵角を検出し、S2において情報検出手段2aが、車速が閾値α以下であるかを判定し、車速が閾値α以下である場合には狭路走行であると判定してS3にすすみ、車速が閾値αより大きい場合にはS1に戻る。
【0039】
S3において、記憶手段2bが、これらの車速及び操舵角を前進走行軌跡に関する情報として記憶する。S4において、後退検出手段2eが、運転者がシフトレバーをリバース位置にして、シフト位置検出センサ7が、シフトレバーがリバース位置にあることを検出した場合に、車両の後退を検出し、S5において、運転者が開始終了スイッチ8を操作した場合に、S6にすすんで、算出手段2dおよび制御手段2fがS6の制御を行う。S4において後退検出手段2eが後退を検出しない場合、および、S5において開始終了スイッチ8が操作されない場合はS1に戻る。
【0040】
S6において、算出手段2dが記憶手段2bに記憶された前進走行軌跡に関する情報(車速、操舵角)をもとに、予め実験により求めた車速毎の曲率−操舵角のマップを用いて前進走行軌跡(走行距離−曲率)を算出し、前進走行軌跡上の所定の地点に戻る後退走行軌跡(走行距離−曲率)を算出する。S7において、算出手段2dは前進走行軌跡に関する情報から前進走行軌跡及び後退走行軌跡が算出不可であるかを判定し、不可である場合には制御を終了し、不可でない場合にはS8にすすむ。なお、算出不可である場合とは、操舵角の情報に据え切りが入っている場合や、前進走行軌跡において前進、後退を交互に繰り返している場合などである。
【0041】
さらに、S8において、算出手段2dは後退走行軌跡(走行距離−曲率)をもとに予め実験により求めた車速毎の曲率−操舵角のマップを用いて操舵角を算出して、制御手段2fがEPSECU5を制御して後退走行時の操舵制御を行い、S9にすすむ。S9において、制御手段2fは後退走行が終了したと判定した場合(後退走行軌跡の終端まで走行、開始終了スイッチ8を運転者が操作、シフト位置検出センサがリバース位置以外)、または、操舵トルクセンサ6の操舵トルク検出結果により運転者によるマニュアルの操舵操作があると判定した場合には、制御を終了し、判定しない場合にはS8に戻って、操舵制御を継続する。
【0042】
本実施例1によれば、狭路における後退走行時において、前進走行軌跡をもとに後退走行軌跡を算出して操舵操作を自動的に行うことにより、運転者の負担を軽減して後退走行を容易にすることができる。また、白線認識によるレーンキーピングアシストシステムを用いて後退走行を行うことに比べて、白線が整備されていない狭路においても運転者の負担を軽減した後退走行を実現できる利点がある。
【0043】
また、前進走行軌跡に関する情報を最新のものに更新することにより、必要な最新の前進走行軌跡に関する情報のみを、記憶手段2bに記憶させることができ、記憶手段2bの記憶容量を最低限のものとすることができる。
【0044】
さらに、車速が所定値以下である場合には、車両がすれ違い不可の狭路を走行していると見なして、狭路走行時のみの前進走行軌跡に関する情報を記憶手段2bに記憶させることによっても、記憶手段2bの記憶容量を最低限のものとすることができる。
【0045】
なお、実施例1では、前進走行軌跡に関する情報として、車速及び操舵角を用いたが、カーナビゲーション装置のGPSによる自車位置情報を用いて前進走行軌跡及び後退走行軌跡を算出してそれを後退走行時の操舵制御に用いることもできる。以下にその構成について述べる。
【実施例2】
【0046】
図6は、本発明に係る車両用運転支援装置の他の実施形態を示すブロック図である。
【0047】
車両用運転支援装置21は、車両の運転を支援する車両用運転支援装置であって、後退走行制御ECU2と、車輪速センサ3と、操舵角センサ4と、EPSECU5と、操舵トルクセンサ6と、シフト位置検出センサ7と、開始終了スイッチ8と、カーナビゲーションECU9と、受信機10、データベース11、GPS受信アンテナ12、IMU13(イナーシャメジャメントユニット)、ABS(アンチロックブレーキシステム)14、ディスプレイ15、スピーカ16、タッチパネル17とから構成される。
【0048】
後退走行制御ECU2は例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが以下に述べる所定の処理を行うものであり、情報検出手段2aと、記憶手段2bと、更新手段2cと、算出手段2dと、後退検出手段2eと、制御手段2fとを備える。
【0049】
後退走行制御ECU2とEPSECU5およびカーナビゲーションECU9はCAN(Controller Area Network)等の通信規格により接続される。なお、実施例1に示したものと同一の構成要素については同一の符号を付して説明は省略する。
【0050】
カーナビゲーションECU9にはGPS受信アンテナ12と、IMU13と、操舵角センサ4と、ディスプレイ15と、スピーカ16と、タッチパネル17と、受信器10と、データベース11が接続され、さらに、ABS14がCANあるいはFrexRay等の通信規格により接続される。なお、カーナビゲーションECU9からタッチパネル17までの構成要素はカーナビゲーション装置すなわち経路案内手段を構成するものである。
【0051】
GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)受信アンテナ12は、地球上空に打ち上げられた複数の衛星の内三個の衛星からの電波を受信し、これらの電波をもとに、カーナビゲーションECU9は、三角測量の原理で自車位置つまりは経度と緯度を測定する。なお、経度と緯度に加え高度も測定する場合には四個の衛星を用いる。
【0052】
ここで、IMU13は車両のヨーレートを検出するものであり、操舵角センサ4は車両のパワーステアリング装置に設けられて操舵角を検出するものである。タッチパネル17は運転者が目的地等の探索条件を入力する入力装置であり、データベース11はCD−ROMやDVD−ROMあるいはハードディスク等の記憶媒体により構成され、表示用の地図情報と、探索用の地図情報を格納し記憶している。ディスプレイ15は入力された目的地をもとにカーナビゲーションECU9が探索した経路を表示用の地図情報とともに表示するものである。またカーナビゲーションECU9は探索用の地図情報により前進中の道路(経路)がすれ違い不可の狭路であるかどうかを判定する。ABS14は制動時の車輪のロックを防止する装置であり、その制御に用いるための車速を図示しない車輪速センサから取得している。
【0053】
上述したGPS受信アンテナ12を用いた自車位置の測定は、衛星からの電波を利用する特性上、高層ビルの谷間に自車が位置する場合やトンネル内を自車が走行している場合、あるいは、高架橋の下を自車が走行している場合などでは電波をGPS受信アンテナ12が受信できないため、自車位置が測定できないという問題が生じる。
【0054】
このため、上述したようなGPS受信アンテナ12が電波を受信できない場合には、カーナビゲーションECU9は、ABS14が検出した車速とIMU13が検出したヨーレート、操舵角センサ15が検出した操舵角をもとにして、自車の移動距離と方向を計算して自車位置を測定し、GPS受信アンテナ12を用いた自車位置の測定と併せて、トータルの自車位置の測定の精度を高めている。
【0055】
そして、カーナビゲーションECU9は、データベース11内の表示用の地図情報と、上述した方法により測定した自車位置と、タッチパネル17により入力された目的地と、受信器10により受信した渋滞区間等の情報とを併せてディスプレイ15に表示する。
【0056】
情報検出手段2aはカーナビゲーションECU9より車両の自車位置情報および前進走行中の道路に関する情報を検出する。
【0057】
記憶手段2bは、前進走行軌跡に関する情報として、情報検出手段2aの検出した自車位置を、道路がすれ違い不可の挟路である場合にのみ記憶する。更新手段2cは記憶手段2bに記憶された前進走行軌跡に関する情報を、最新の前進走行時の前進走行軌跡に関する情報に更新する。
【0058】
算出手段2cは、記憶手段2bに記憶された前進走行軌跡に関する情報をもとに、前進走行軌跡(走行距離−曲率)を算出し、前進走行軌跡上の所定の地点に戻る後退走行軌跡(走行距離−曲率)を算出する。後退検出手段2eはシフト位置検出センサ7の検出結果をもとに車両の後退を検出する。後退検出手段2eが車両の後退を検出し、かつ、後述する開始終了スイッチ8を運転者が操作した場合に、算出手段2dが後退走行軌跡(走行距離−曲率)をもとに予め実験により求めた車速毎の曲率−操舵角のマップを用いて操舵角を算出するとともに、制御手段2fは、EPSECU5を制御して後退走行時の操舵制御を行う。
【0059】
さらに、本発明による車両用運転支援装置の制御内容をフローチャートに基づき説明する。図7は本発明による車両用運転支援装置の制御内容を示すフローチャートである。
【0060】
S11において、情報検出手段2aが、前進走行時の前進走行軌跡に関する情報として、自車位置と前進走行中の道路に関する情報(経路情報)をカーナビゲーションECU9より検出し、S12において情報検出手段2aが、カーナビゲーションECU9からの道路情報をもとに道路がすれ違い不可の狭路であるかどうかを判定し、すれ違い不可の狭路であると判定する場合には、S13にすすみ、すれ違い不可の狭路であると判定しない場合には、S1に戻る。
【0061】
S13において、記憶手段2bが、この自車位置を前進走行軌跡に関する情報として記憶する。S14において、後退検出手段2eが、運転者がシフトレバーをリバース位置にして、シフト位置検出センサ7が、シフトレバーがリバース位置にあることを検出した場合に、車両の後退を検出し、S15において、運転者が開始終了スイッチ8を操作した場合に、S16にすすんで、算出手段2dおよび制御手段2fがS16の制御を行う。S14において後退検出手段2eが後退を検出しない場合、および、S15において開始終了スイッチ8が操作されない場合はS11に戻る。
【0062】
S16において、算出手段2dが記憶手段2bに記憶された前進走行軌跡に関する情報(自車位置)をもとに、前進走行軌跡(走行距離−曲率)を算出し、前進走行軌跡上の所定の地点に戻る後退走行軌跡(走行距離−曲率)を算出する。S17において、算出手段2dは前進走行軌跡に関する情報から前進走行軌跡及び後退走行軌跡が算出不可であるかを判定し、不可である場合には制御を終了し、不可でない場合にはS18にすすむ。
【0063】
さらに、S18において、算出手段2dは後退走行軌跡(走行距離−曲率)をもとに予め実験により求めた車速毎の曲率−操舵角のマップを用いて操舵角を算出して、制御手段2fがEPSECU5を制御して後退走行時の操舵制御を行い、S19にすすむ。S19において、制御手段2fは後退走行が終了したと判定した場合、または、操舵トルクセンサ6の操舵トルク検出結果により運転者によるマニュアルの操舵操作があると判定した場合には、制御を終了し、判定しない場合にはS18に戻って、操舵制御を継続する。
【0064】
実施例2によっても、狭路における後退走行時において、前進走行軌跡をもとに後退走行軌跡を算出して操舵操作を自動的に行うことにより、運転者の負担を軽減して後退走行を容易にすることができる。また、白線認識によるレーンキーピングアシストシステムを用いて後退走行を行うことに比べて、白線が整備されていない狭路においても運転者の負担を軽減した後退走行を実現できる利点がある。
【0065】
また、前進走行軌跡に関する情報を最新のものに更新することにより、必要な最新の前進走行軌跡に関する情報のみを、記憶手段2bに記憶させることができ、記憶手段2bの記憶容量を最低限のものとすることができる。
【0066】
また、実施例1に比べて、車速と操舵角から前進走行軌跡を求める計算を廃するとともに、車速による狭路走行の判定を廃することができるので、後退走行制御ECU2の制御内容を簡略化することができる。
【0067】
なお、実施例1における走行軌跡は前輪の操舵角をもとに求めたものであるため後輪軸中心となるが、実施例2における走行軌跡はGPSにより求めた自車位置であるため、GPS受信アンテナ12の設置位置となる。
【0068】
実施例1および2においては後退走行軌跡を前進走行軌跡と同一として制御の簡略化を最優先しているが、後退走行時における外輪差を考慮した後退走行軌跡とする場合には、実施例1においては後輪軸中心から車両前方右側端及び左側端の座標を求め、実施例2においては、GPS受信アンテナ12の設置位置から車両前方右側端及び左側端の座標を求めて、当該座標が走行する狭路から逸脱しないように適宜後退走行軌跡を修正することができる。この場合には、後退走行軌跡と前進走行軌跡が異なることになるので、後方撮像カメラと画像表示装置を別途設けて適宜運転者に報知することが好ましい。
【0069】
さらに、狭路を前進走行している場合でも、一般に運転者は狭路の左側を走行するケースが多いと考えられるので、後退走行軌跡を求めるにあたり、車両の前方左側端が狭路から逸脱するかどうかを、車両の前方右側端が狭路から逸脱するかどうかよりもよりシビアな基準値により管理することが好ましい。この場合には、車両前方左右端および車両後方左右端にクリアランスソナーを設けて、ガードレール等の障害物が所定値以下に接近した場合には運転者に警報を行うことが好ましい。
【0070】
また、実施例1の後退走行時においては、後退走行時の実操舵角を検出して、実操舵角より実後退走行軌跡を算出することができ、後退走行軌跡に対して実後退走行軌跡が逸脱する量が基準値以下に抑制できるように、後退走行軌跡を適宜修正することができる。この場合には、実後退走行軌跡の後退走行軌跡に対する車両の左側への逸脱量を管理する基準値βを、実後退走行軌跡の後退走行軌跡に対する車両の右側への逸脱量を管理する基準値γよりも小さくする。
【0071】
さらに、実施例2の後退走行においては、後退走行時のGPSによる自車位置を検出して、実後退走行軌跡を算出することができ、後退走行軌跡に対して実後退走行軌跡が逸脱する量が基準値以下に抑制できるように、後退走行軌跡を適宜修正することもできる。
【0072】
加えて、後退走行時における操舵制御においては、実操舵角を用いてフィードバック制御を行うことも可能である。また、タイヤ横剛性に起因する操舵遅れや、タイヤの滑りに起因する誤差を考慮して、後退走行軌跡を修正することも可能である。
【0073】
いずれの実施例においても、後退走行時の車速制御は運転者のアクセル及びブレーキの操作によるが、この車速制御の負担を低減するために、車速制限機能を後退走行ECUに具備させても良い。
【0074】
また、いずれの実施例においても、後退走行軌跡が算出不可である、あるいは、実後退走行軌跡と後退走行軌跡の誤差が大きくなりすぎる等により後退走行時の操舵制御ができなくなる場合には、適宜ブザー鳴動等により運転者に警報を行っても良い。
【0075】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0076】
例えば、本実施例中の後退走行制御ECUは現行のIPAECU(インテリジェントパーキングアシスト:駐車支援システム)に内蔵することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、車両用運転支援装置に関するものであり、特には狭路走行時における後退走行の運転者の負担を低減することができるので、乗用車、トラック、バス等の様々な車両に適用して有益なものである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る車両用運転支援装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明による車両用運転支援装置の適用される狭路を示す模式図である。
【図3】本発明による車両用運転支援装置の適用される狭路の前進走行軌跡を示す模式図である。
【図4】本発明による車両用運転支援装置の適用される狭路の後退走行軌跡を示す模式図である。
【図5】本発明に係る車両用運転支援装置の一実施形態の制御内容を示すフローチャートである。
【図6】本発明に係る車両用運転支援装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図7】本発明に係る車両用運転支援装置の一実施形態の制御内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0079】
1 車両用運転支援装置
2 後退走行制御ECU
3 車輪速センサ
4 操舵角センサ
5 EPSECU
6 操舵トルクセンサ
7 シフト位置検出センサ
8 開始終了スイッチ
9 カーナビゲーションECU
10 受信機
11 データベース
12 GPS受信アンテナ
13 IMU
14 ABS
15 ディスプレイ
16 スピーカ
17 タッチパネル
21 車両用運転支援装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転を支援する車両用運転支援装置であって、
車両の前進走行軌跡に関する情報を検出する情報検出手段と、
当該前進走行軌跡に関する情報を記憶する記憶手段と、
前記前進走行軌跡に関する情報をもとに前記前進走行軌跡上の所定の地点に戻る後退走行軌跡を算出する算出手段と、
前記後退走行軌跡をもとに後退走行時の操舵制御を行う制御手段と、を備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項2】
車両の後退を検出する後退検出手段を備え、
前記後退検出手段が車両の後退を検出した場合に、前記制御手段が後退走行時の操舵制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両用運転支援装置。
【請求項3】
前記前進走行軌跡に関する情報を、最新の前進走行時の前進走行軌跡に関する情報に更新する更新手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用運転支援装置。
【請求項4】
前記制御手段のオンオフを選択する選択手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項5】
前記情報検出手段が前記前進走行軌跡に関する情報の一つとして車速を検出するとともに、
当該車速が所定値以下である場合に、前記記憶手段が前記前進走行軌跡に関する情報を記憶することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項6】
車両の経路を案内する経路案内手段を備えるとともに、
前記情報検出手段が前記前進走行軌跡に関する情報の一つとして前記経路案内手段より前記前進走行中の道路に関する情報を検出して、
当該道路がすれ違い不可の挟路である場合に、前記記憶手段が前記前進走行軌跡に関する情報を記憶することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−56173(P2008−56173A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237833(P2006−237833)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】