説明

運転支援装置、方法およびプログラム

【課題】無駄な消費エネルギーを的確に提示することが困難であった。
【解決手段】回生ブレーキによる制動および摩擦ブレーキによる制動を行うことが可能な車両において前記摩擦ブレーキによる制動が行われたことを特定し、前記車両の周囲の状況を示す情報を取得し、前記車両の周囲の状況に対応するために必要とされる必要制動力を特定し、前記必要制動力が前記回生ブレーキの最大制動力以下である状態で前記摩擦ブレーキによる制動が行われた場合に当該摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーを特定し、当該消費されたエネルギーを示す情報を案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転中に回収可能なエネルギーを正確に案内する運転支援装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回生ブレーキによってエネルギーを回収可能な車両において行われた摩擦ブレーキを発生させるためのブレーキ操作を評価する技術が知られている。例えば、特許文献1においては、ブレーキ操作から要求される制動力を回生ブレーキと摩擦ブレーキとによって発生させるにあたり、当該ブレーキ操作によって回生制動力の理想値を超える制動力が要求されていた場合にその超過分を摩擦ブレーキによって発生させる構成が開示されている。また、当該超過分を摩擦ブレーキによって発生させた場合には、回生制動力の理想値を超える制動力を発生させるために摩擦ブレーキが補助的に利用されたことを運転者に対して示すことで、急なブレーキ操作が行われたことを運転者に認識させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−189074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術においては、回生制動力の理想値を超える制動力を摩擦ブレーキによって発生させた場合、当該摩擦ブレーキによる制動が必要になるようなブレーキ操作が好ましくない操作であったと認識させる構成となっている。
【0005】
しかし、車両が実際に道路上を走行する際には当該車両の周囲の状況が変化した場合など、車両の周囲の状況に対応するために運転者がブレーキ操作を行って摩擦ブレーキを作動させることが多い。このような摩擦ブレーキによる制動を行うことが必須であれば、当該摩擦ブレーキによる制動によるエネルギー消費は必須であるが、摩擦ブレーキによる制動を行うことが必須でないならば、当該摩擦ブレーキによる制動によって消費されたエネルギーは無駄である。従って、摩擦ブレーキによる制動が行われたとしても、その摩擦ブレーキを発生させるための操作の全てが好ましくない操作であるとは限らない。
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、摩擦ブレーキによって無駄な消費エネルギーが発生したことを運転者に認識させる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明においては、車両の周囲の状況に対応するために必要とされる必要制動力を特定し、当該必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である状態で摩擦ブレーキによる制動が行われた場合には、摩擦ブレーキによる制動が行われたことによって消費されたエネルギーを特定し、案内する。すなわち、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である場合、回生ブレーキのみを利用して車両を制動させることによって車両の周囲の状況に対応するための制動を行うことができる。従って、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である場合には、車両の周囲の状況に対応するために摩擦ブレーキによる制動を行うことが必須ではなく、摩擦ブレーキによる制動を行わなくても車両の周囲の状況に応じて車両を制動させることができる。
【0007】
そこで、本発明においては、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である状態で摩擦ブレーキによる制動が行われた場合、摩擦ブレーキによる制動が行われたことによって消費されたエネルギーが無駄であるとみなし、当該摩擦ブレーキによる制動が行われたことによって消費されたエネルギーを示す情報を案内する。この結果、運転者は摩擦ブレーキによって無駄な消費エネルギーを発生させ、回生ブレーキによって回収可能なエネルギーが無駄に消費されたことを認識することができる。
【0008】
ここで、摩擦制動特定手段は、摩擦ブレーキによる制動が行われたことを特定することができればよく、摩擦ブレーキが作動していることをセンサで検出してもよいし、摩擦ブレーキを制御する制御部が摩擦ブレーキによる制動を行う指示を行っているか否かを判定してもよい。また、車両に作用している制動力と摩擦ブレーキ以外のブレーキによる制動力との差分に基づいて摩擦ブレーキによる制動が行われているとみなす構成でもよく、種々の構成を採用可能である。
【0009】
周囲状況情報取得手段は、車両の周囲の状況を示す情報を取得することができればよい。すなわち、運転者は車両の周囲の種々の状況に応じて運転操作を行う必要があり、車両の周囲における各種の状況は車両において必要とされる制動力に影響を与え得る。従って、ここでは、当該車両の周囲の状況を示す情報から必要制動力を特定可能であればよい。なお、車両の周囲の状況を示す情報は、車両に搭載された車両の外部の情報を取得する外部情報取得部によって取得すればよい。外部情報取得部は、カメラやミリ波レーダー、赤外線レーダーなどであってもよいし、車両の周囲の状況を示す情報を取得する通信部であってもよい。
【0010】
車両の周囲の状況は、車両において必要とされる制動力に影響を与え得る状況であればよく、車両外の地物(他の車両や道路、道路上の設置物等)の状況であってもよい。また、車両外の環境(天候等)を当該状況としてもよいし、車両と車両外の地物との相対的な関係(相対位置関係や相対車速等)を当該状況としてもよい。むろん、これらの各状況を組み合わせて車両の周囲の状況を定義してもよい。
【0011】
必要制動力特定手段は、車両の周囲の状況に対応するために必要とされる必要制動力を特定することができればよい。すなわち、車両の周囲の状況に応じて運転者が行うべき運転操作が制動操作である場合、その制動操作によって発生させるべき必要制動力を予め特定し、あるいは当該必要制動力の算出法を予め特定しておく。そして、車両の周囲の状況を示す情報に基づいて必要制動力を特定する。なお、必要制動力は、車両の周囲の状況に対応するために制動を行うことが必須の場合の制動力であればよく、車両の周囲の地物と車両との関係によって制動の必要性が判定されればよい。すなわち、車両の周囲の地物と車両との距離および車両の車速に基づいて車両の周囲の地物から特定される目標位置において目標車速以下になるように減速させるために制動することが必要である場合に、その制動力を必要制動力として取得すればよい。
【0012】
消費エネルギー案内手段は、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である状態で摩擦ブレーキによる制動が行われた場合に当該摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーを示す情報を案内することができればよい。すなわち、回生ブレーキの最大制動力を取得し、必要制動力と当該回生ブレーキの最大制動力とを比較することによって、摩擦ブレーキによる制動を行うことが必須の状態であるか否かを判定し、判定結果に応じて摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーを示す情報を案内することができればよい。
【0013】
なお、必要制動力と回生ブレーキの最大制動力とは直接的に比較されてもよいし、間接的に(実質的に等価な判定を行うように)比較されてもよい。例えば、回生ブレーキの最大制動力で車両を減速させることによって、車両の周囲の状況に応じて設定される目標位置にて目標車速以下に減速させることができる場合に、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下であるとみなす構成としてもよい。
【0014】
なお、回生ブレーキの最大制動力は、車両において回生ブレーキによって発生させることが可能な最大の制動力であればよく、車両が搭載しているバッテリやモーターの性能から特定される制動力の最大値を発生させることが可能な車両であれば当該性能上の最大値が回生ブレーキの最大制動力になる。また、バッテリやモーターの性能には余裕を持たせつつ実際に回生ブレーキによって発生させることが可能な制動力に事実上の上限が設けられている場合に、当該事実上の上限を回生ブレーキの最大制動力としてもよい。例えば、バッテリやモーターの性能を維持するために予め充電電力に上限値を設定し、モーターによって当該充電電力を発生させてバッテリに対して充電することで発生する制動力を回生ブレーキの最大制動力としてもよい。また、車両の車速、車両状態、ブレーキ操作量等に応じて回生ブレーキによって発生させることが可能な制動力の上限値が変化する場合に、当該上限値を回生ブレーキの最大制動力としてもよい。むろん、バッテリの充電量が多くなってバッテリにおいて受け入れ可能な電力が低下し、当該受け入れ可能な電力が上述の充電電力の上限値を下回った場合には、バッテリにおいて受け入れ可能な電力を充電して発生させることができる制動力が回生ブレーキの最大制動力となる。
【0015】
案内は、摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーを示す情報を提示することで運転者に対して無駄な消費エネルギーが発生したことを認識させる案内であればよい。従って、所定の期間(あるいは所定の距離)あたりに摩擦ブレーキによって消費されたエネルギー自体を表示する構成であってもよいし、摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーのうち、必要制動力を超える制動力を発生させるために利用されたエネルギーを表示する構成であってもよい。また、回生ブレーキによって回収済みのエネルギーと回収可能であったエネルギーとを対比して表示することで、摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーを示す情報を表示する構成であってもよい。
【0016】
さらに、車両の周囲の状況は、車両の前方の地物に基づいて定義されてもよい。すなわち、運転者は前方の視野内の地物に応じた運転操作を行うため、運転者の前方の視野内に車両を減速させるべき理由となる地物が存在するか否かに基づいて制動操作を誘発するような状況が車両の周囲に生じているか否かを特定することができる。そこで、車両の前方の地物を示す情報を取得するとともに当該情報に基づいて運転者の視野内に車両を減速させるべき理由となる地物が現れたか否かを判定し、当該地物が現れた時点以後、車両が当該地物に対応する位置まで走行する場合の走行区間において車両の車速を目標車速以下にするために必要とされる制動力を必要制動力として取得する構成とする。この構成によれば、運転者が視野内の地物に応じて運転者が摩擦ブレーキを操作して制動を行った場合に、当該摩擦ブレーキによる制動が地物に対応するために必要な制動であったか否かを判定し、当該摩擦ブレーキによる制動によって無駄な消費エネルギーが発生したか否かを判定させるための案内を行うことができる。
【0017】
なお、ここでは、運転者の視野内の地物の状況に対応するために運転者が制動操作を行って車両が地物に対応する位置に到達する以前に目標車速以下に減速させる必要がある場合に、その制動操作によって発生させるべき制動力を必要制動力として取得することができればよい。すなわち、車両を減速させるべき理由となる地物が運転者の視野内に現れた時点における当該地物と車両との関係を特定し、その後に制動を行った場合の地物と車両との関係の変化を推測することによって、地物に対応する位置に車両が到達する以前において車両の車速を目標車速以下にするために必要な必要制動力を特定すればよい。例えば、車両を減速させるべき理由となる地物が静止地物であれば当該静止地物の位置や当該静止地物まで所定距離の位置を地物に対応する位置として走行区間を定義して必要制動力を特定すればよい。また、車両を減速させるべき理由となる地物が車両等の可動地物である場合は、当該可動地物の動作を推定し、車両と可動地物との距離が所定距離となる位置を地物に対応する位置として走行区間を定義して必要制動力を特定すればよい。
【0018】
さらに、車両の周囲の状況は、車両の前方の道路勾配に基づいて定義されてもよい。例えば、車両の前方の道路勾配を示す情報によれば、道路勾配に起因して車両が加速することを防止するための制動力を特定し、必要制動力とする構成を採用可能である。この構成によれば、道路勾配に対応した走行をするために運転者が摩擦ブレーキを操作して制動を行った場合に、当該摩擦ブレーキによる制動によって無駄な消費エネルギーが発生したか否かを判定させるための案内を行うことができる。
【0019】
なお、ここでは、道路勾配に起因して車両が加速することを防止するために車両に作用させるべき制動力を道路勾配によって特定することができればよい。すなわち、下り勾配区間においては当該下り勾配区間の勾配に起因して車両に加速力が作用し、加速を防止するためには加速力と同じ大きさかつ逆向きの制動力を車両に作用させる必要があるため、当該加速力と同じ大きさかつ逆向きの制動力を必要制動力として取得する。この構成によれば、下り勾配区間で車両における加速を防止した状態で、摩擦ブレーキによる制動によって無駄な消費エネルギーが発生したか否かを判定させるための案内を行うことができる。
【0020】
さらに、車両の周囲の状況は、車両の前方を走行する他車両の状態に基づいて定義されてもよい。すなわち、車両の前方の所定距離以内に走行中の他車両が存在する場合、車両の運転者は他車両との車間距離を維持するために制動操作を行う必要が生じる場合がある。そこで、他車両の状態を示す情報に基づいて、車両と当該車両の前方の他車両との車間距離を調整するために必要とされる制動力を必要制動力として取得する。この構成によれば、車間距離を調整するために摩擦ブレーキによる制動が行われた場合に、当該摩擦ブレーキによる制動によって無駄な消費エネルギーが発生したか否かを判定させるための案内を行うことができる。
【0021】
なお、ここでは、車両と当該車両の前方の他車両との車間距離を調整するために車両を減速させる必要がある場合に発生させるべき制動力を必要制動力として取得することができればよい。すなわち、運転者は、車間距離が所定の距離以下となった場合には車両に制動力を作用させることで車間距離が長くなるように調整する。そこで、この調整を行うために必要な必要制動力を、車両の車速や当該車両の前方の他車両の車速、車間距離等に応じて特定すればよい。
【0022】
さらに、本発明のように車両の周囲の状況に対応するために必要とされる必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である状態で摩擦ブレーキによる制動が行われた場合に、当該摩擦ブレーキによる制動によって消費されたエネルギーを無駄な消費エネルギーとみなす手法は、プログラムや方法としても適用可能である。また、以上のような装置、プログラム、方法は、単独の装置として実現される場合もあれば、車両に備えられる各部と共有の部品を利用して実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。例えば、以上のような装置を備えたナビゲーション装置や方法、プログラムを提供することが可能である。また、一部がソフトウェアであり一部がハードウェアであったりするなど、適宜、変更可能である。さらに、装置を制御するプログラムの記録媒体としても発明は成立する。むろん、そのソフトウェアの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても全く同様に考えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】運転支援装置を含むナビゲーション装置のブロック図である。
【図2】運転支援処理を示すフローチャートである。
【図3】必要制動力特定処理を示すフローチャートである。
【図4】(4A)および(4B)はカーブ区間における運転支援処理の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)ナビゲーション装置の構成:
(2)運転支援処理:
(3)他の実施形態:
【0025】
(1)ナビゲーション装置の構成:
図1は、本発明にかかる運転支援装置を含むナビゲーション装置10の構成を示すブロック図である。ナビゲーション装置10は、CPU,RAM,ROM等を備える制御部20、記録媒体30を備えており、記録媒体30やROMに記憶されたプログラムを制御部20で実行することができる。本実施形態においては、このプログラムとして運転支援プログラム21を実行可能である。運転支援プログラム21は、制御部20がナビゲーション処理を実行している状態において実行される。
【0026】
本実施形態における車両は、GPS受信部41と車速センサ42とジャイロセンサ43と制動制御部44と摩擦制動部44aとモーター44bとバッテリ44cとカメラ45とユーザーI/F部46とを備えており、各部を必要に応じて利用して制御部20が運転支援プログラム21による機能を実現する。
【0027】
GPS受信部41は、GPS衛星からの電波を受信し、図示しないインタフェースを介して車両の現在位置を算出するための情報を出力する。制御部20は、この信号を取得して車両の現在位置を取得する。車速センサ42は、車両が備える車輪の回転速度に対応した信号を出力する。制御部20は、図示しないインタフェースを介してこの信号を取得し、車両の現在車速を取得する。ジャイロセンサ43は、車両に作用する角速度に対応した信号を出力する。制御部20は図示しないインタフェースを介してこの信号を取得し、車両の走行方向を取得する。車速センサ42およびジャイロセンサ43は、GPS受信部41の出力信号から特定される車両の現在位置を補正するなどのために利用される。また、車両の現在位置は、当該車両の走行軌跡に基づいて適宜補正される。
【0028】
摩擦制動部44aは、車輪に搭載された摩擦ブレーキによる制動力を調整するホイールシリンダの圧力を制御する装置であり、制動制御部44からの制御信号に応じて摩擦ブレーキによる制動力を調整することができる。モーター44bは、回転子を備えるとともに当該回転子が図示しないギアを介して車輪を駆動する車軸に接続されており、車輪の回転に応じてモーター44bの回転子が回転することによって発電し、発電した電力によってバッテリ44cを充電することが可能である。
【0029】
バッテリ44cは、モーター44bに接続されており、モーター44bが発電した電力によって充電され、蓄電した電力をモーター44bに対して供給して当該モーター44bを駆動する。この場合、モーター44bがバッテリ44cから電力の供給を受けて回転すると、当該回転は図示しないギアを介して車輪に伝達されて車両が前進あるいは後進する。なお、本実施形態にかかる車両はさらに図示しないエンジンを備えており、エンジンとモーター44bとのいずれかまたは双方によって駆動されるハイブリッド車両であるが、むろん、エンジンを備えない電気自動車に対して本発明を適用しても良い。
【0030】
なお、バッテリ44cは図示しないインタフェースを介して制御部20と接続されており、制御部20がバッテリ44cに対して制御信号を出力するとバッテリ44cからバッテリ44cの状態(電圧等)を示す信号を出力する。制御部20は、当該信号に基づいてバッテリ44cの状態を特定する。
【0031】
摩擦制動部44aは図示しないインタフェースを介して制動制御部44と接続されており、制動制御部44が出力する制御信号によって摩擦ブレーキの制動力が調整される。また、モーター44bは図示しないインタフェースを介して制動制御部44と接続されており、制動制御部44はモーター44bに対して制御信号を出力することによってその発電の状態を制御することで回生ブレーキを発生させ、当該回生ブレーキの制動力を調整することができる。本実施形態において、制動制御部44は制御部20に接続されており、制動制御部44は制御部20が出力する制御信号に応じて摩擦ブレーキの制動力と回生ブレーキの制動力とを決定する。
【0032】
本実施形態において、制御部20は、図示しない制動力調整ペダルの操作量に対応する制動力(以下、指示制動力と呼ぶ)を特定し、当該指示制動力を示す制御信号を制動制御部44に対して出力する。制動制御部44は摩擦ブレーキの制動力と回生ブレーキの制動力との和が指示制動力となるように摩擦ブレーキの制動力と回生ブレーキの制動力とを決定する。このとき、制動制御部44は、回生ブレーキを優先的に利用し、指示制動力が回生ブレーキによって発生可能な最大制動力を超える場合に摩擦ブレーキを利用するように摩擦ブレーキの制動力と回生ブレーキの制動力とを決定する。
【0033】
なお、制動力調整ペダルの操作量に対応する指示制動力および制動力調整ペダルの操作量に対応して車両の推進軸(例えば、FR車におけるプロペラシャフト)で発生するトルク(以下、指示トルクと呼ぶ)は予め規定されたマップによって特定される。すなわち、本実施形態においては、予め制動力調整ペダルの操作量と車両の現在車速に対して指示制動力や指示トルクを対応付けたマップを作成しておく。そして、制動力調整ペダルが操作されると、制御部20は、当該マップを参照して当該制動力調整ペダルの操作量および車両の現在車速に対応する指示制動力および指示トルクを特定する。
【0034】
本実施形態において、回生ブレーキによって発生可能な最大制動力は、バッテリ44cの性能およびバッテリ44cの充電量に応じて決められている。すなわち、バッテリ44cの性能を維持するために必要な充電電力の上限値が予め設定してあり、通常は、当該充電電力の上限値をバッテリ44cに充電する状態で発生する回生ブレーキの制動力が最大制動力となる。また、バッテリ44cの充電量が多くなってバッテリ44cにおいて受け入れ可能な電力が低下し、当該受け入れ可能な電力が上述の充電電力の上限値を下回った場合には、バッテリ44cにおいて受け入れ可能な電力を充電して発生させることができる制動力が回生ブレーキの最大制動力となる。
【0035】
カメラ45は、車両の周囲(本例においては車両の前方)を視野に含むように車両に対して取り付けられており、撮影した画像を示す画像データを出力する。制御部20は、図示しないインタフェースを介してこの画像データを取得して画像変換し、運転者の視野内に車両を減速させるべき理由となる地物が現れたか否かを判定する。
【0036】
ユーザーI/F部46は、運転者の指示を入力し、また運転者に各種の情報を提供するためのインタフェース部であり、図示しないタッチパネルディスプレイやスイッチ、スピーカー等を備えている。制御部20は、ユーザーI/F部46に対して制御信号を出力することによって各種の案内を出力させる。
【0037】
運転支援プログラム21は、摩擦ブレーキによる制動によって無駄に消費されたエネルギーを案内する機能を実現するため、摩擦制動特定部21aと周囲状況情報取得部21bと必要制動力特定部21cと消費エネルギー案内部21dとを備えている。また、記録媒体30には地図情報30aが予め記録されている。
【0038】
地図情報30aは、車両が走行する道路上に設定されたノードを示すノードデータ,ノード間の道路の形状を特定するための形状補間点データ,ノード同士の連結を示すリンクデータ等を含んでいる。また、ノードデータおよび形状補間点データには、ノードや形状補間点に相当する道路上の位置の高度を示す情報が含まれ、リンクデータには勾配が変化する勾配区間であるか否かを示す情報が含まれている。さらに、地図情報30aには、一時停止線など、道路上に存在する地物の位置を示す情報が含まれている。本実施形態において制御部20は、地図情報30aに基づいて車両の現在位置や走行中の道路、車両の周辺の道路形状等を特定することができる。すなわち、制御部20は、GPS受信部41,車速センサ42,ジャイロセンサ43の出力信号に基づいて車両の現在位置を特定し、当該車両の現在位置および地図情報30aに基づいて車両が走行中の道路を特定する。また、制御部20は、走行中の道路の前方における所定範囲の道路上に設定されたノードデータおよび形状補間点データを参照し、道路の曲率を特定するとともに当該道路の曲率が所定値以上となっている区間をカーブ区間として特定する。
【0039】
摩擦制動特定部21aは、摩擦ブレーキによる制動が行われたことを特定する機能を制御部20に実現させるモジュールである。本実施形態において、制御部20は、摩擦制動特定部21aの処理により、車両に作用している制動パワーから回生ブレーキによる制動パワーを減じた残余が摩擦ブレーキによる制動パワーであるとみなし、当該残余が0より大きい場合に摩擦ブレーキによる制動が行われたとみなす構成としている。
【0040】
周囲状況情報取得部21bは、車両の周囲の状況を示す情報を取得する機能を制御部20に実現させるモジュールである。本実施形態において、車両の前方に存在する一時停止線を示す情報を、車両の周囲の状況を示す情報として取得する構成としている。すなわち、運転者は車両の周囲の種々の状況に応じて運転操作を行う必要があり、車両の周囲における各種の状況は車両において必要とされる制動力に影響を与え得る。本実施形態においては、車両の前方に一時停止線が存在する場合に、当該一時停止線の位置を車両の周囲の状況を示す情報とする構成を採用しており、制御部20は、周囲状況情報取得部21bの処理により、カメラ45が出力する画像データを取得する。
【0041】
必要制動力特定部21cは、車両の周囲の状況に対応するために必要とされる必要制動力を特定する機能を制御部20に実現させるモジュールである。本実施形態においては、車両の運転者の視野内に一時停止線が現れた場合に、当該一時停止線が車両を減速させるべき理由となる地物であるみなす構成を採用している。このため、制御部20は、車両の周囲の状況を示す情報である上述の画像データを画像変換し、変換後の画像を解析して一時停止線の画像の特徴に一致する特徴を持つ画像が運転者の視野内に相当する画像内に存在するか否かを判定する。そして、制御部20は、運転者の視野内に相当する画像内に一時停止線の画像の特徴に一致する特徴を持つ画像が存在しない状況から存在する状況になった場合に、画像内における当該一時停止線の画像の位置に基づいて一時停止線の位置を特定し、車両を減速させるべき理由となる地物である一時停止線を示す情報として取得する。
【0042】
さらに、車両を減速させるべき理由となる地物である一時停止線を示す情報が取得された場合、制御部20は、当該一時停止線が運転者の視野内に現れた時点以後、車両が当該一時停止線の位置まで走行する場合の走行区間において前記車両の車速を目標車速以下にするために必要とされる制動力を必要制動力として取得する。本実施形態において目標車速は0km/hであり、制御部20は、一時停止線が現れた時点における車両の現在位置から、当該一時停止線の位置までの区間を走行区間とし、当該走行区間を走行する過程において車両の車速を現在車速から0km/hまで減速させるために必要な制動力を必要制動力として特定する。
【0043】
消費エネルギー案内部21dは、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である状態で前記摩擦ブレーキによる制動が行われた場合に当該摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーを示す情報を案内する機能を制御部20に実現させるモジュールである。すなわち、本実施形態においては、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である状態で摩擦ブレーキによる制動が行われた場合、摩擦ブレーキによる制動が行われたことによって消費されたエネルギーが無駄であるとみなし、当該摩擦ブレーキによる制動が行われたことによって消費されたエネルギーを示す情報を案内する。
【0044】
この案内を行うため、制御部20は、消費エネルギー案内部21dの処理により、回生ブレーキの最大制動力を特定する。すなわち、制御部20は、バッテリ44cが単位時間あたりに受け入れ可能な電力の最大値を当該バッテリ44cに充電する状態で発生する回生ブレーキの制動力と、モーター44bにおいて発生させることが可能な最大発生電力をバッテリ44cに充電する状態で発生する回生ブレーキの制動力とを比較する。そして、両者のうちの小さい方を回生ブレーキの最大制動力とする。
【0045】
さらに、制御部20は、必要制動力と回生ブレーキの最大制動力とを比較し、摩擦制動特定部21aの処理によって特定された摩擦ブレーキによる制動が、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である状態で行われた場合に、当該摩擦ブレーキによる制動力で消費するエネルギーを無駄な消費エネルギーとして特定する。そして、所定期間内に消費された無駄な消費エネルギーを累積し、累積された無駄な消費エネルギーを表示させるための制御信号をユーザーI/F部46に対して出力する。この結果、所定期間内に消費された無駄な消費エネルギーを示す情報がユーザーI/F部46から出力され、運転者は摩擦ブレーキによって無駄な消費エネルギーを発生させ、回生ブレーキによって回収可能なエネルギーが無駄に消費されたことを認識することができる。
【0046】
(2)運転支援処理:
次に、本実施形態にかかる運転支援処理を詳細に説明する。図2は、運転支援処理を示すフローチャートであり、当該運転支援処理は車両の走行中に所定の間隔(例えば100ms間隔)で実行される。
【0047】
運転支援処理において、まず制御部20は、スロットルがオフであるか否かを判定する(ステップS100)。すなわち、制御部20は、車両に搭載されたスロットルバルブの開度を検出する図示しないセンサの出力信号を取得し、当該出力信号が、スロットルバルブが閉じられていることを示している場合にスロットルがオフであると判定する。そして、ステップS100において、スロットルがオフであると判定されない場合にはステップS105以降の処理をスキップする。
【0048】
ステップS100において、スロットルがオフであると判定された場合、制御部20は、摩擦制動特定部21aの処理により、ステップS105〜S115において摩擦ブレーキの制動パワーを特定する。本実施形態において制御部20は、まず、車両に作用している制動パワーを特定する(ステップS105)。すなわち、制御部20は、車速センサ42の出力信号に基づいて車両の現在車速を取得し、図示しない制動力調整ペダルの操作量を検出するセンサの出力信号に基づいて当該制動力調整ペダルの操作量を取得する。また、上述のマップを参照して当該制動力調整ペダルの操作量に対応する指示トルクTを特定する。さらに、制御部20は、タイヤの半径、ディファレンシャルギア比,現在車速に基づいて、現在車速に対応する推進軸の回転数Rを特定する。そして、車両に作用している制動パワーPbをPb=R×Tとして特定する。
【0049】
次に、制御部20は、回生ブレーキの制動パワーおよび最大制動力を特定する(ステップS110)。本実施形態においては、バッテリの状態に基づいて回生ブレーキの制動パワーを特定する構成としている。すなわち、制御部20は、バッテリ44cに制御信号を出力し、当該制御信号に応じてバッテリ44cから出力される信号を取得してバッテリ44cの電流I、電圧E、内部抵抗rの値を取得し、回生ブレーキの制動パワーPeをPe=I×E−I2×Rとして特定する。また、制御部20は、バッテリ44cの性能を維持するために必要な充電電力の上限値を当該バッテリ44cに充電する状態で発生する回生ブレーキの制動力と、バッテリ44cにおいて受け入れ可能な電力を充電する状態で発生する回生ブレーキの制動力とを比較する。そして、両者のうちの小さい方を回生ブレーキの最大制動力とする。
【0050】
次に、制御部20は、摩擦ブレーキの制動パワーおよび制動力を特定する(ステップS115)。本実施形態においては、車両に作用している制動パワーから回生ブレーキによる制動パワーを減じた残余が摩擦ブレーキによる制動パワーであるとみなしているため、制御部20は、摩擦ブレーキの制動パワーPfをPf=Pb−Peとして特定する。
【0051】
次に、制御部20は、摩擦制動特定部21aの処理により、摩擦ブレーキの制動パワーが0より大きいか否かを判定する(ステップS120)。すなわち、本実施形態においては、摩擦ブレーキの制動パワーが0より大きい場合に摩擦ブレーキによる制動が行われたとみなす構成としている。そこで、ステップS120において、摩擦ブレーキの制動パワーが0より大きいと判定された場合にはステップS125〜S135において無駄な消費エネルギーを案内させるための処理を行い、ステップS120において、摩擦ブレーキの制動パワーが0より大きいと判定されない場合にはステップS125〜S135をスキップする。
【0052】
ステップS125において、制御部20は、周囲状況情報取得部21bおよび必要制動力特定部21cの処理により、車両の周囲の状況に対応するために必要とされる必要制動力を取得する。本実施形態において、必要制動力は図3に示す必要制動力取得処理によって特定される。当該必要制動力特定処理は、車両の走行中に所定の間隔(例えば100ms間隔)で実行されている。当該必要制動力特定処理において、制御部20は、周囲状況情報取得部21bおよび必要制動力特定部21cの処理により、カメラ45が出力する画像データに基づいて、車両の前方における運転者の視野内に存在する一時停止線を検出したか否かを判定し(ステップS200)、一時停止線が検出されなければ処理を終了する。運転者の視野内に一時停止線が検出されると、車両を停止させるべき理由となる地物が運転者の視野内に現れたことになるため、制御部20は、必要制動力特定部21cの処理により、当該一時停止線の位置を特定して車両の前方に存在する一時停止線を示す情報とする(ステップS205)。
【0053】
さらに、制御部20は、必要制動力特定部21cの処理により、GPS受信部41,車速センサ42,ジャイロセンサ43の出力信号に基づいて当該一時停止線が現れた時点における車両の現在位置を特定する(ステップS210)。さらに、制御部20は、車両の現在位置から一時停止線の位置までの区間を走行区間とし、当該走行区間を走行する過程において車両の車速を現在車速から一時停止線における目標車速である0km/hまで減速させるために必要な制動力を必要制動力として特定する(ステップS205)。
【0054】
ここでは、各種の手法によって必要制動力を特定可能であり、例えば、等加速度運動を想定し、走行区間の距離をL、現在車速をV0、目標車速をV1とすれば、距離Lにて現在車速V0を目標車速V1とするための必要加速度a(車両の進行方向を正の方向とした場合の加速度)をa=(V12−V02)/(2L1)として取得することができ、必要制動力をM×a(Mは車両の重量)として取得することができる。本実施形態においては、以上のような図3に示す処理の結果取得されている必要制動力を、ステップS125で取得することになる。なお、ステップS125において必要制動力が取得されない場合には運転支援処理は中断される。
【0055】
次に、制御部20は、消費エネルギー案内部21dの処理により、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下であるか否かを判定し(ステップS130)、ステップS130にて必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下であると判定された場合、制御部20は、消費エネルギー案内部21dの処理により、ステップS115で特定された摩擦ブレーキの制動パワーを累積する(ステップS135)。一方、ステップS130にて必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下であると判定されない場合にはステップS135をスキップする。
【0056】
すなわち、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である場合には、摩擦ブレーキを利用せず回生ブレーキを利用して車両を減速させて一時停止線の位置において車両を停止させることができる。このため、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である場合に、摩擦ブレーキが利用された場合には、当該摩擦ブレーキによる制動で消費されたエネルギーは無駄な消費エネルギーである。そこで、本実施形態においては、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である場合には、摩擦ブレーキの制動パワーを、当該摩擦ブレーキが利用された期間について累積し、無駄な消費エネルギーを示す情報を特定することとしている。
【0057】
次に、制御部20は、スロットルがオンの状態または車両が停止した状態であるか否かを判定する(ステップS140)。すなわち、制御部20は、スロットルバルブの開度を検出する図示しないセンサの出力信号を取得し、当該出力信号が、スロットルバルブが開けられていることを示している場合にスロットルがオンの状態であると判定する。また、制御部20は、車速センサ42の出力信号を取得し、当該出力信号が、車両が停止していることを示す値である場合に車両が停止した状態であると判定する。そして、ステップS140において、スロットルがオンの状態または車両が停止した状態であると判別されない場合にはステップS105以降の処理を繰り返す。すなわち、スロットルがオンの状態は車両において制動を終了して再び加速が行われている状態であり、車両が停止した状態は車両における制動が終了した状態であるため、車両における制動が一旦終了するまでステップS105以降の処理を繰り返すことになる。
【0058】
一方、ステップS140において、スロットルがオンの状態または車両が停止した状態であると判定された場合、制御部20は、消費エネルギー案内部21dの処理により、無駄な消費エネルギーを案内する(ステップS145)。すなわち、制御部20は、ステップS135の処理によって取得された制動パワーの累積値から所定の期間毎(例えば、5分毎)の制動パワーの累積値を特定し、当該所定の期間毎の無駄な消費エネルギーを取得する。そして、制御部20は、当該所定の期間毎の無駄な消費エネルギーを表示するための制御信号をユーザーI/F部46に対して出力する。この結果、ユーザーI/F部46においては、所定の期間毎の無駄な消費エネルギーが表示され、運転者は所定の期間毎に発生した無駄な消費エネルギーを認識することができる。
【0059】
図4A,4Bは、車両の前方に一時停止線が存在する道路における運転支援処理の例を示す図である。各図においてナビゲーション装置10が搭載された車両を車両C0として示し、車両C0の前方に存在する一時停止線を一時停止線Sとして示している。また、車両C0におけるカメラ45の撮像範囲は破線の直線で挟まれた範囲αであり、運転者の視野は当該範囲αに含まれる。さらに、本例におけるカーブ区間において曲率中心側には図示しない遮蔽物が存在し、道路の端よりも曲率中心側は先が見通せない状態となっている。すなわち、運転者の視野範囲αのうち、一点鎖線より曲率中心側は遮蔽されていることになる。
【0060】
図4A,4Bのそれぞれにおいては、各種の制動力を棒グラフによって示している。すなわち、右端から順に、制動力調整ペダルの操作量に対応して特定される指示制動力、当該指示制動力に対応する摩擦ブレーキおよび回生ブレーキの制動力、回生ブレーキの最大制動力、必要制動力を示している。これらの棒グラフにおいては縦方向の長さが制動力の大きさに対応している。
【0061】
図4A,4Bに示す例においては、各例における指示制動力が同じ値であり、摩擦ブレーキによる制動力,回生ブレーキによる制動力、回生ブレーキの最大制動力も同じ値である場合について示している。一方、図4A,4Bに示す例において、車両C0の現在車速が等しい場合、図4Aにおける車両C0と一時停止線Sとの距離は図4Bにおける車両C0と一時停止線Sとの距離よりも短いため、必要制動力は図4Aの方が大きくなる。
【0062】
図4Aにおいては、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力よりも大きい場合を示している。この場合、車両C0を運転する運転者が一時停止線Sに対応するために必要な制動を行うためには、摩擦ブレーキによる制動を行うことが必須となる。そこで、本実施形態においては、図4Aのような例において摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーを無駄なエネルギーとみなさない。
【0063】
一方、図4Bにおいては、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である場合を示している。この場合、車両C0を運転する運転者が一時停止線Sに対応するために必要な制動を行うためには、摩擦ブレーキによる制動を行うことが必須ではない。そこで、本実施形態においては、図4Aのような例において摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーを無駄なエネルギーとみなして累積する。そして、制御部20は、運転者が一時停止線Sに対応するための制動動作を終了した時点(再加速あるいは停止が行われた時点)で累積された無駄なエネルギーを案内する。この結果、運転者は、カーブ区間における制動によって無駄なエネルギーを発生させるようなブレーキ操作を行ったことを認識することができる。
【0064】
(3)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、車両の周囲の状況に対応するために必要とされる必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である状態で摩擦ブレーキによる制動が行われた場合に、当該摩擦ブレーキによる制動によって消費されたエネルギーを無駄な消費エネルギーとみなすことができる限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。
【0065】
例えば、摩擦ブレーキによる制動が行われたことを特定するための構成としては種々の構成を採用可能であり、摩擦ブレーキが作動していることをセンサで検出してもよいし、摩擦ブレーキを制御する制動制御部44や摩擦制動部44aが摩擦ブレーキによる制動を行う指示を行っているか否かを判定してもよい。
【0066】
さらに、必要制動力は、車両の周囲の状況に応じて運転者が行うべき運転操作が制動操作である場合にその制動操作によって発生させるべき制動力として予めマップ等によって特定された値であってもよい。また、車両を制動させる理由となる地物は一時停止線に限定されず、各種の地物を想定することができる。このため、必要制動力は、車両の周囲の状況に対応するために制動を行うことが必須の場合の制動力であればよく、車両の周囲の地物と車両との関係によって制動の必要性が判定され、必要制動力が特定されればよい。すなわち、車両の周囲の地物と車両との距離および車両の車速に基づいて車両の周囲の地物から特定される目標位置において目標車速以下になるように減速させるために制動することが必要である場合に、その制動力を必要制動力として取得すればよい。
【0067】
また、車両の周囲の状況は、車両において必要とされる制動力に影響を与え得る状況であればよく、一時停止線のほか、道路や道路上の地物など各種の地物の状況であってもよい。また、車両外の環境(天候等)を当該状況としてもよいし、車両と車両外の地物との相対的な関係(相対位置関係や相対車速等)を当該状況としてもよい。むろん、これらの各状況を組み合わせて車両の周囲の状況を定義してもよい。なお、車両の周囲の状況を示す情報は、車両に搭載された車両の外部の情報を取得する外部情報取得部によって取得すればよく、カメラの他、ミリ波レーダー、赤外線レーダーなどであってもよいし、車両の周囲の状況を示す情報を取得する通信部等によって外部情報取得部を構成可能である。
【0068】
例えば、車両の周囲の状況を示す情報として、先行車両におけるブレーキ操作の状況を示す情報を取得する構成を採用してもよい。この構成においては、先行車両がブレーキ操作を行うことに伴って車両において制動が必要になった場合に、車両を減速させるべき理由となる地物である先行車両が運転者の視野内に現れたとみなす。そして、当該先行車両に対応する(例えば、先行車両の位置以前に目標車速まで減速する)ために必要な制動力を必要制動力として取得する。この構成によれば、先行車両の急減速に対応するために無駄な消費エネルギーが発生したか否かを車両の運転者に認識させることが可能になる。
【0069】
さらに、車両の周囲の状況を示す情報として、割り込みを行っている先行車両の存在や右左折等を待つために停止中の先行車両の存在、駐停車車両の存在、渋滞等による低速走行中の先行車両の存在、歩行者の存在、移動物(自転車等)の存在、車線を逸脱している対向車の存在、追い越し車両の存在等を示す情報を取得する構成を採用してもよい。これらの構成においては、各先行車両や駐停車車両等の地物が車両を減速させるべき理由となる地物であり、各地物が運転者の視野内に現れた時点において、各地物に対応するために必要な制動力を必要制動力として取得する。これらの構成によれば、各地物が車両を減速させるべき理由となった場合に無駄な消費エネルギーが発生したか否かを車両の運転者に認識させることが可能になる。
【0070】
さらに、車両の周囲の状況を示す情報として、車線が変化する道路(例えば車線数や車線の進行方向等が変化する道路)の存在や前方道路上の停止線の存在、信号機の存在、交通規制(通行止め等)の存在、踏切の存在、料金所の存在、道路分岐点(合流地点や退出地点)の存在、優先進行方向が確定している道路の存在等を示す情報を取得する構成を採用してもよい。すなわち、予め地図情報30aに車線や信号機等の情報を含め、また、通信部によって交通規制等の情報を取得する構成とし、制御部20が地図情報30aからこれらの地物を示す情報を取得する構成とする。これらの構成においては、車線が変化する道路や停止線等の地物が車両を減速させるべき理由となる地物であり、各地物が運転者の視野内に現れた時点において、各地物に対応するために必要な制動力を必要制動力として取得する。これらの構成によれば、各地物が車両を減速させるべき理由となった場合に無駄な消費エネルギーが発生したか否かを車両の運転者に認識させることが可能になる。むろん、地図情報30aに対して、車両を減速させるべき理由となる地物が視認可能となる位置を示す情報や遮蔽物の位置および遮蔽される範囲を示す情報を含め、これらの情報に基づいて車両を減速させるべき理由となる地物を特定する構成であってもよい。
【0071】
なお、以上のような例においては、運転者の視野内の地物の状況に対応するために運転者が制動操作を行って車両が地物に対応する位置に到達する以前に目標車速以下に減速させる必要がある場合に、その制動操作によって発生させるべき制動力を必要制動力として取得することができればよい。すなわち、車両を減速させるべき理由となる地物が運転者の視野内に現れた時点における当該地物と車両との関係を特定し、その後に制動を行った場合の地物と車両との関係の変化を推測することによって、地物に対応する位置に車両が到達する以前において車両の車速を目標車速以下にするために必要な必要制動力を特定すればよい。例えば、車両を減速させるべき理由となる地物が静止地物であれば当該静止地物の位置や当該静止地物まで所定距離の位置を地物に対応する位置として走行区間を定義して必要制動力を特定すればよい。また、車両を減速させるべき理由となる地物が車両等の可動地物である場合は、当該可動地物の動作を推定し、車両と可動地物との距離が所定距離となる位置を地物に対応する位置として走行区間を定義して必要制動力を特定すればよい。
【0072】
さらに、車両の周囲の状況を示す情報として、車両の前方の道路勾配を示す情報を取得する構成を採用してもよい。すなわち、運転者が車両の前方の道路勾配に起因して車両が加速することを防止するための制動力は道路勾配を示す情報に基づいて特定することができる。そこで、制御部20が地図情報30aから車両の前方の道路勾配を示す情報を取得し、勾配区間において加速を防止するために必要とされる制動力を必要制動力として取得する構成とする。この構成によれば、道路勾配に対応した走行をするために運転者が摩擦ブレーキを操作して制動を行った場合に、当該摩擦ブレーキによる制動によって無駄な消費エネルギーが発生したか否かを判定させるための案内を行うことができる。
【0073】
なお、ここでは、道路勾配に起因して車両が加速することを防止するために車両に作用させるべき制動力を道路勾配によって特定することができればよい。すなわち、下り勾配区間においては当該下り勾配区間の勾配に起因して車両に加速力が作用し、加速を防止するためには加速力と同じ大きさかつ逆向きの制動力を車両に作用させる必要があるため、当該加速力と同じ大きさかつ逆向きの制動力を必要制動力として取得する。この構成によれば、下り勾配区間で車両における加速を防止した状態で、摩擦ブレーキによる制動によって無駄な消費エネルギーが発生したか否かを判定させるための案内を行うことができる。
【0074】
さらに、車両の周囲の状況を示す情報として、車両の前方を走行する他車両の状態を示す情報を取得する構成を採用してもよい。すなわち、車両の前方の所定距離以内に走行中の他車両が存在する場合、車両の運転者は他車両との車間距離を維持するために制動操作を行う必要が生じる場合がある。そこで、他車両の状態を示す情報に基づいて、車両と当該車両の前方の他車両との車間距離を調整するために必要とされる制動力を必要制動力として取得する。この構成によれば、車間距離を調整するために摩擦ブレーキによる制動が行われた場合に、当該摩擦ブレーキによる制動によって無駄な消費エネルギーが発生したか否かを判定させるための案内を行うことができる。
【0075】
なお、ここでは、車両と当該車両の前方の他車両との車間距離を調整するために車両を減速させる必要がある場合に発生させるべき制動力を必要制動力として取得することができればよい。すなわち、運転者は、車間距離が所定の距離以下となった場合には車両に制動力を作用させることで車間距離が長くなるように調整する。そこで、この調整を行うために必要な必要制動力を、車両の車速や当該車両の前方の他車両の車速、車間距離等に応じて特定すればよい。
【0076】
さらに、上述の実施形態のように必要制動力と回生ブレーキの最大制動力とが直接的に比較されてもよいが、直接的な比較と実質的に等価な判定を行うように両者が間接的に比較されてもよい。例えば、回生ブレーキの最大制動力で車両を減速させることによって、車両の周囲の状況に応じて設定される目標位置にて目標車速以下に減速させることができる場合に、必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下であるとみなす構成としてもよい。
【0077】
さらに、回生ブレーキの最大制動力は、車両において回生ブレーキによって発生させることが可能な最大の制動力であればよく、バッテリ44cやモーター44bの性能から特定される制動力の最大値を発生させることが可能な車両であれば当該性能上の最大値を回生ブレーキの最大制動力としてもよい。また、車両の車速、車両状態、ブレーキ操作量等に応じて回生ブレーキによって発生させることが可能な制動力の上限値が変化する場合に、当該上限値を回生ブレーキの最大制動力としてもよい。
【0078】
さらに、無駄な消費エネルギーの案内においては、所定の距離あたりに摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーを表示する構成であってもよいし、摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーのうち、必要制動力を超える制動力を発生させるために利用されたエネルギーを表示する構成であってもよい。また、回生ブレーキによって回収済みのエネルギーと回収可能であったエネルギーとを対比して表示する構成であってもよい。
【0079】
さらに、車両を減速させる際に目標とする目標車速は0km/hに限定されず、0km/hより大きい車速であってもよい。例えば、徐行区間となっている道路における制限車速を目標車速としてもよいし、一時停止線などの地物との関係で運転者の心理的な負担がなくなる車速を目標車速としてもよく、種々の構成を採用可能である。なお、これらの構成において、目標車速は地物を示すデータに対応付けておけばよい。
【0080】
さらに、車両において、必ず摩擦ブレーキが強制的に介入するように設定されている自動減速制御が実行される場合など、回生ブレーキによる制動力が最大制動力に達しているか否かにかかわらず摩擦ブレーキが行われる構成を採用する場合もある。このような場合には、車両の周囲の状況に対応するために必要とされる必要制動力が回生ブレーキの最大制動力以下である状態で摩擦ブレーキによる制動が行われたとしても、その摩擦ブレーキによって発生した制動力のうち、強制的な介入によって発生した制動力は無駄に消費されたエネルギーとみなさず、消費されたエネルギーから除外する構成としてもよい。すなわち、強制的な摩擦ブレーキの介入によって発生した制動力を除外しても摩擦ブレーキによって発生した制動力が0よりも大きい場合にはその制動力によって消費されたエネルギーを無駄であるとみなして案内する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0081】
10…ナビゲーション装置、20…制御部、21…運転支援プログラム、21a…摩擦制動特定部、21b…周囲状況情報取得部、21c…必要制動力特定部、21d…消費エネルギー案内部、30…記録媒体、30a…地図情報、41…GPS受信部、42…車速センサ、43…ジャイロセンサ、44…制動制御部、44a…摩擦制動部、44b…モーター、44c…バッテリ、45…カメラ、46…ユーザーI/F部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回生ブレーキによる制動および摩擦ブレーキによる制動を行うことが可能な車両において前記摩擦ブレーキによる制動が行われたことを特定する摩擦制動特定手段と、
前記車両の周囲の状況を示す情報を取得する周囲状況情報取得手段と、
前記車両の周囲の状況に対応するために必要とされる必要制動力を特定する必要制動力特定手段と、
前記必要制動力が前記回生ブレーキの最大制動力以下である状態で前記摩擦ブレーキによる制動が行われた場合に当該摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーを特定し、当該消費されたエネルギーを示す情報を案内する消費エネルギー案内手段と、
を備える運転支援装置。
【請求項2】
前記周囲状況情報取得手段は、前記車両の前方の地物を示す情報を前記車両の周囲の状況を示す情報として取得し、
前記必要制動力特定手段は、前記車両の前方の地物を示す情報に基づいて、前記運転者の視野内に前記車両を減速させるべき理由となる地物が現れた時点以後、前記車両が当該地物に対応する位置まで走行する場合の走行区間において前記車両の車速を目標車速以下にするために必要とされる制動力を前記必要制動力として取得する、
請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記周囲状況情報取得手段は、前記車両の前方の道路勾配を示す情報を前記車両の周囲の状況を示す情報として取得し、
前記必要制動力特定手段は、前記車両の前方の道路勾配を示す情報に基づいて、前記道路勾配に起因して前記車両が加速することを防止する制動力を前記必要制動力として取得する、
請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記周囲状況情報取得手段は、前記車両の前方を走行する他車両の状態を示す情報を前記車両の周囲の状況を示す情報として取得し、
前記必要制動力特定手段は、前記他車両の状態を示す情報に基づいて、前記車両と前記他車両との車間距離を調整するために必要とされる制動力を前記必要制動力として取得する、
請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項5】
回生ブレーキによる制動および摩擦ブレーキによる制動を行うことが可能な車両において前記摩擦ブレーキによる制動が行われたことを特定する摩擦制動特定工程と、
前記車両の周囲の状況を示す情報を取得する周囲状況情報取得工程と、
前記車両の周囲の状況に対応するために必要とされる必要制動力を特定する必要制動力特定工程と、
前記必要制動力が前記回生ブレーキの最大制動力以下である状態で前記摩擦ブレーキによる制動が行われた場合に当該摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーを特定し、当該消費されたエネルギーを示す情報を案内する消費エネルギー案内工程と、
を含む運転支援方法。
【請求項6】
回生ブレーキによる制動および摩擦ブレーキによる制動を行うことが可能な車両において前記摩擦ブレーキによる制動が行われたことを特定する摩擦制動特定機能と、
前記車両の周囲の状況を示す情報を取得する周囲状況情報取得機能と、
前記車両の周囲の状況に対応するために必要とされる必要制動力を特定する必要制動力特定機能と、
前記必要制動力が前記回生ブレーキの最大制動力以下である状態で前記摩擦ブレーキによる制動が行われた場合に当該摩擦ブレーキによって消費されたエネルギーを特定し、当該消費されたエネルギーを示す情報を案内する消費エネルギー案内機能と、
をコンピュータに実現させる運転支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−116289(P2011−116289A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276678(P2009−276678)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】