説明

電動車両

【課題】負荷がかかった状態でも発進しやすいと共に、押し歩き時に電動モータの回転抵抗が生じない電動車両を提供する。
【解決手段】車体フレーム2に設けられたスイングアームピボット11によって揺動可能に軸支されると共に、後輪WRを回転可能に軸支するスイングアーム12と、車体側面視で後輪WRとオーバーラップするようにスイングアーム12内に配設されると共に、減速機構70を介して後輪WRに回転駆動力を供給する電動モータ50とを備える電動車両1において、電動モータ50と減速機構70との間に、電動モータ50が所定回転以上になると、回転駆動力の伝達を切断状態から接続状態に切り換える断接機構を設ける。断接機構を遠心クラッチ40とする。スイングアーム12を車幅方向左側のみの片持ち式で構成して、車幅方向左側から、遠心クラッチ40、電動モータ50、減速機構70の順に配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両に係り、特に、電動モータによって駆動輪を駆動する電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動モータによって駆動輪を駆動する電動車両が知られている。
【0003】
特許文献1には、後輪を回転自在に支持するスイングアームの内部に電動モータを配設し、この電動モータと後輪の車軸との間に、1段階の減速を行う減速ギヤ列を介在させるようにした電動車両が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、後輪を回転自在に支持するスイングアームの内部に電動モータを配設し、この電動モータと後輪の車軸との間に、減速ギヤ列および一方向クラッチを介在させるようにした電動車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−358982号公報
【特許文献2】特開2003−127966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電動モータの特性として、回転を開始した後の回転制御が容易である一方、電動モータの始動トルクより大きな負荷がかかった状態からは回転し始めることができないことが知られている。このような課題は、電動モータの出力が十分に大きければ解決されるが、2輪車等の小型車両、特に、後輪を回転自在に軸支すると共に車体フレームに揺動自在に取り付けられるスイングアーム内に電動モータを収納するようにした電動2輪車では、取付スペースや重量増の関係であまり大きな電動モータを使用することができず、前記したような現象が生じることがあった。
【0007】
特許文献1に記載された電動車両では、電動モータと駆動輪とが減速ギヤ列を介して直結されているため、車重が大きい場合や、坂道等では、上記した電動モータの特性によって発進がしにくくなる可能性があった。また、電動モータに回転駆動力を発生させずに車両を押し歩きする際に、電動モータの回転抵抗が発生して押し歩きが重くなるという課題もあった。
【0008】
また、特許文献2に記載された電動車両では、一方向クラッチが設けられているので、車両を前進させる方向に押し歩く際の回転抵抗はないものの、車両の発進時には上記の発進しにくい状況が発生すると共に、後進させる際には一方向クラッチが後輪とモータを接続させるので、回転抵抗が発生するという課題があった。また、坂道等の発進時においては、特許文献1に記載された電動車両と同様の課題があった。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、負荷がかかった状態でも発進しやすいと共に、押し歩き時に電動モータの回転抵抗が生じない電動車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、前記電動モータと前記後輪との間に、車両の発進時に前記電動モータが所定回転以上になるまで、回転駆動力の伝達を切断する断接機構が設けられている点に第1の特徴がある。
【0011】
また、前記電動モータの回転駆動力は、前記断接機構を介して前記減速機構に伝達され、該減速機構から前記後輪に伝達される点に第2の特徴がある。
【0012】
また、前記断続機構が、遠心クラッチである点に第3の特徴がある。
【0013】
また、前記電動モータは、前記スイングアームに固定されたステータおよび円筒状のモータ駆動軸に固定されたロータとから構成されたインナロータ式モータであり、前記遠心クラッチは、前記遠心クラッチのクラッチシューが設けられるドライブプレートと、前記クラッチシューの摩擦抵抗力により被動回転されるクラッチアウタとから構成されており、前記モータ駆動軸の一端部に前記ドライブプレートが固定され、前記モータ駆動軸に、前記クラッチアウタが固定された出力軸が回転自在に挿通されており、前記出力軸によって前記減速機構に回転駆動力を伝達するように構成されていることを特徴とする点に第4の特徴がある。
【0014】
また、前記スイングアームが、車幅方向左側のみの片持ち式であり、前記スイングアームの車幅方向左側から、前記遠心クラッチ、前記電動モータ、前記減速機構の順に配設されている点に第5の特徴がある。
【0015】
また、前記スイングアームが、車幅方向左側のみの片持ち式であり、前記スイングアームの車幅方向左側から、前記減速機構、前記電動モータ、前記遠心クラッチの順に配設されている点に第6の特徴がある。
【0016】
さらに、前記スイングアームに固定されて、前記ステータを覆うステータカバーを備え、前記ステータカバーに軸受部が設けられており、前記出力軸は、前記電動モータの車幅方向の一方側で前記スイングアームに形成された軸受部および前記ステータカバーに設けられた軸受部によって、前記電動モータの車幅方向左右で2点支持されている点に第7の特徴がある。
【発明の効果】
【0017】
第1の特徴によれば、電動モータと後輪との間に、車両の発進時に電動モータが所定回転以上になるまで、回転駆動力の伝達を切断する断接機構が設けられているので、電動モータが停止状態から回転し始める際には、回転駆動力の伝達が切断状態にある。これにより、坂道や車重が大きい場合等での発進時であっても電動モータが無負荷状態でスムーズに回転し始め、その後、モータトルクのある所定回転以上になると回転駆動力が伝達され始め、スムーズに発進することが可能となる。また、電動モータが所定回転以上になるまでは断接機構が切断状態にあるので、車体の押し歩き時に電動モータの回転抵抗による重さも発生しなくなる。
【0018】
第2の特徴によれば、電動モータの回転駆動力は、断接機構を介して減速機構に伝達され、該減速機構から後輪に伝達されるので、所定回転未満で電動モータを回す際に回転駆動力が減速機構に伝達されることがなく、電動モータをスムーズに回転させることが可能となる。
【0019】
第3の特徴によれば、断続機構が遠心クラッチであるので、簡単な構成によって断接機構を得ることができる。
【0020】
第4の特徴によれば、電動モータは、スイングアームに固定されたステータおよび円筒状のモータ駆動軸に固定されたロータとから構成されたインナロータ式モータであり、遠心クラッチは、遠心クラッチのクラッチシューが設けられるドライブプレートと、クラッチシューの摩擦抵抗力により被動回転されるクラッチアウタとから構成されており、モータ駆動軸の一端部にドライブプレートが固定され、モータ駆動軸に、クラッチアウタが固定された出力軸が回転自在に挿通されており、出力軸によって減速機構に回転駆動力を伝達するように構成されているので、電動モータの車幅方向左側(右側)に出力した回転駆動力を、遠心クラッチを介することにより、電動モータの車幅方向右側(左側)に設けられた減速機構に伝達することが可能となり、スイングアーム内のスペースを有効利用して、電動モータから後輪へ回転駆動力を伝達することができる。
【0021】
第5の特徴によれば、スイングアームが車幅方向左側のみの片持ち式であり、スイングアームの車幅方向左側から、遠心クラッチ、電動モータ、減速機構の順に配設されているので、重量物である電動モータを車体中央寄りに配置することができる。また、電動モータより外径の小さい遠心クラッチが車体左側端に配置されるので、スイングアームの車体側方への張り出し量を小さくすることができる。さらに、電動モータ、減速機構、断接機構が後輪の側方に集中配置され、スイングアーム内のスペースを有効利用することが可能となる。
【0022】
第6の特徴によれば、スイングアームが車幅方向左側のみの片持ち式であり、スイングアームの車幅方向左側から、減速機構、電動モータ、遠心クラッチの順に配設されているので、電動モータの車幅方向外側に減速機構を配置することができ、スイングアームの車体側方への張り出し量を小さくすることができる。また、片持ち式アームの内部に、電動モータ、減速機構、遠心クラッチが配設されることとなり、マスの集中が図られると共に、後輪の着脱が容易な電動車両を得ることができる。さらに、電動モータ、減速機構、断接機構が後輪の側方に集中配置され、スイングアーム内のスペースを有効利用することが可能となる。
【0023】
第7の特徴によれば、スイングアームに固定されてステータを覆うステータカバーを備え、ステータカバーに軸受部が設けられており、出力軸は、電動モータの車幅方向の一方側でスイングアームに形成された軸受部およびステータカバーに設けられた軸受部によって、電動モータの車幅方向左右で2点支持されているので、電動モータの左右において出力軸の2点支持が可能となり、例えば、片側1点支持構造の場合に比して、小さな軸受を使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動車両の側面図である。
【図2】電動車両の斜視図である。
【図3】スイングアームの側面図である。
【図4】スイングアームの断面図である。
【図5】図4の一部拡大図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るスイングアームの断面図である。
【図7】低電圧バッテリの取付構造を示す斜視図である。
【図8】図1の一部拡大図である。
【図9】センタースタンドを格納した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電動車両1の側面図である。また、図2は、外装部品を取り外した状態の電動車両1の後方斜視図である。電動車両1は、低床フロアを有するスクータ型の自動二輪車であり、スイングアーム12に内設された電動モータ50の回転駆動力で後輪WRを駆動するように構成されている。なお、電動モータ50に電力を供給する高電圧バッテリ31は、車体に設けられた不図示の充電口に外部電源を接続することによって充電される。
【0026】
メインフレーム2の前方側端部には、ステアリングステム7aを回転自在に軸支するヘッドパイプ3が結合されている。ステアリングステム7aの上部には操向ハンドル7が取り付けられ、一方の下部には、左右一対のフロントフォーク4が取り付けられている。フロントフォーク4の下端部には、前輪WFが回転自在に軸支されている。
【0027】
メインフレーム2の下方には、左右一対のサイドフレーム5が連結されており、この左右のサイドフレーム5に挟まれるように、電動モータ50に電力を供給する高電圧バッテリ31(例えば、72V)が配設されている。サイドフレーム5は、その後方側で車体上方に屈曲して、荷室17等を支持するリヤフレーム6に連結されている。
【0028】
サイドフレーム5の後部には、スイングアームピボット11が形成されたピボットプレート20が取り付けられている。スイングアームピボット11には、車幅方向左側のアームのみで後輪WRを支持する片持ち式のスイングアーム12の前端部が揺動自在に軸支されている。スイングアーム12の後部には、後輪WRが車軸19によって回転自在に軸支されており、スイングアーム12の後方端部は、リヤショックユニット13によってリヤフレーム6に吊り下げられている。
【0029】
スイングアーム12の下部には、高電圧バッテリ31から供給される直流電流を、交流電流に変換して電動モータ50へ供給するモータドライバ(または、PDU:パワー・ドライブ・ユニット)35が配設されている。モータドライバ35からの供給電力は、3本の電力供給ラインLを介して電動モータ50に供給される。電動モータ50の後方側には、後述する減速機構の第1減速歯車46および第2減速歯車47が配設されており、後輪WRは、車軸19によって駆動される。また、モータドライバ35の近傍には、平滑コンデンサ36が配設されている。
【0030】
操向ハンドル7の車体前方側には、外装部品としてのフロントカウル9が設けられており、フロントカウルの上部には、速度計等を含むメータユニット8が取り付けられている。フロントカウル9の車体前方側には前照灯10が設けられている。また、高電圧バッテリ31の上部には、乗員が足を乗せる低床フロアが形成されており、リヤフレーム6の外方にはシートカウル15が設けられている。シートカウル15の上部には、車体前方側のヒンジで開閉するシート14が取り付けられている。また、シートカウル15の後端部には、尾灯装置16が取り付けられている。ピボットプレート20には、車幅方向に離間した2本の脚部を有するセンタースタンド18が取り付けられている。センタースタンド18は、ピボットプレート20の車幅方向内側でロアフレーム5に結合されるスタンドブラケット150に回動自在に軸支されている。
【0031】
ヘッドパイプ3の車幅方向右側には、前照灯10等の補機類や制御装置等に電力を供給する低電圧バッテリ30(例えば、12V)が配設されている。低電圧バッテリ30は、高電圧バッテリ31の電力によって充電させることができる。シートカウル15の内側で荷室17の前方には、高電圧バッテリ31の高電圧(72V)を低電圧(12V)に変換するDC−DCコンバータ32と、ヒューズやリレー等を収納するコンタクターボックス33が配設されている。さらに、車幅方向右側のリヤフレーム6の外側には、モータドライバ35等を制御する制御装置(MGU:マネージングユニット)34が、取付ステー34aを介して取り付けられている。
【0032】
図7を参照して、低電圧バッテリ30の取付構造を説明する。低電圧バッテリ30は、バッテリケース30aに収められてヘッドパイプ3の側方に配置されている。バッテリケース30aは、メインフレーム2に溶着された下側ステー3bおよびヘッドパイプ3に溶着された上側ステー3aに固定されている。上側ステー3aには、ネジ孔を有するボスが形成されており、バッテリケース30aに低電圧バッテリ30を収納した後、バッテリケース30aの下部から延出する押さえ板30bの上部を締結ネジ30cで上側ステー3aに固定することにより、低電圧バッテリ30が所定の位置に配設されることとなる。
【0033】
図8を参照して、DC−DCコンバータ32等の取付構造を説明する。DC−DCコンバータ32およびコンタクターボックス33の車体後方側には、左右のリヤフレーム6を連結するクロスメンバ6aが配設されている。クロスメンバ6には、DC−DCコンバータ32を支持する上下対称形状の取付ステー92と、コンタクターボックス33を支持するために下方側に延出する取付ステー94と、荷室17の前端部を支持するために後方側に延出する取付ステー96とが取り付けられている。
【0034】
DC−DCコンバータ32は、前記取付ステー92に対して車体後方側から螺合する取付ネジ93によって固定されており、コンタクターボックス33は、前記取付ステー94に対して車体後方側から螺合する取付ネジ95によって固定されている。また、荷室17は、その前端部に取付ボス97および前記取付ステー96に対して上方から螺合する取付ネジ98によって固定されている。なお、クロスメンバ6aには、荷室17の支持部を複数設けることが可能である。また、DC−DCコンバータ32およびコンタクターボックス33の車体前方側には、外装部材90の一部を開閉自在とした整備用リッド91が設けられている。
【0035】
図3は、スイングアーム12の側面図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。モータドライバ35は、スイングアーム12の下面側に設けられた収納スペースに収納されている。この収納スペースは、車体下方側からネジ等を用いてカバー部材21を取り付けることにより閉空間を形成するように構成されている。カバー部材21の下部には、車体後方側に水分を排出する排水孔21aが形成されている。
【0036】
図1に示したように、電動車両1は、その回動軸を車体フレームに有するセンタースタンド18を備えている。このセンタースタンド18は、その格納時に、車幅方向左側の脚部がケース部材の下面に当接するように構成されている。これにより、走行時には、センタースタンド18によって、カバー部材21を走行中の石はね等から防護することが可能となり、カバー部材21を必要以上に厚くする必要がなくなり、スイングアーム12の軽量化を図ることができる。
【0037】
図9を参照して、センタースタンド18の車幅方向左側の脚部には、取付ネジ153によってラバー部材152が取り付けられている。センタースタンド18には、バネ等によって格納方向への付勢力が加えられており、その格納時には、ラバー部材152がスタンドストッパ151に当接した状態が保持されることとなる。
【0038】
電動モータ50は、車体側面視で後輪WRの投影領域と重なる、すなわち、オーバーラップするように、スイングアーム12内のスペースに配設されている。モータドライバ35と電動モータ50との間には、電源供給ラインLとしての、U相配線27、V相配線28、W相配線29が配索されている。電動モータ50の後方側には、減速機構の第1減速歯車46および第2減速歯車47が配設されており、後輪WRは、減速ギヤ24の回転軸である車軸19(図1参照)によって駆動される。なお、スイングアーム12の後端部には、リヤショックユニット13の下端部を揺動自在に軸支するリヤショックユニット取付部25が設けられている。
【0039】
なお、モータドライバ35の側方には、電圧波形の振動を除去するための平滑コンデンサ36が配設されている。平滑コンデンサ36は、取付ステー26を介してスイングアーム12の内壁面に固定されている。
【0040】
図4は、車体上方から見たスイングアーム12の断面図である。また、図5は、図4の一部拡大図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。スイングアーム12は、左右一対のピボットプレート20に対して、スイングアームピボット(ピボット軸)11を介して揺動自在に軸支されている。ピボット軸11は、ネジ頭64を有する長尺のボルトであり、ブッシュ62を介してスイングアーム12側のボス61に支持される円筒カラー63に挿嵌されて、車幅方向右側のナット89によって固定されている。なお、ブッシュ62は、円筒カラー63に熱固着されており、また、ブッシュ62の外周側には、厚みの小さいカラー部材が熱固着されている。そして、該カラー部材およびブッシュ62が、前記ボス61の貫通孔に圧入されることで、スイングアーム12の車幅方向の位置が規定されることとなる。
【0041】
スイングアーム12の車体前方側には、モータドライバ35を収納する幅広ケース部80が形成されている。カバー部材21(図3参照)は、この幅広ケース部80の車体下面側に取り付けられている。幅広ケース部80の車体上部には、モータドライバ35を冷却するための複数の放熱フィン81が設けられており、この放熱フィン81の車体上方側に、強制送風により冷却効果を高めるための電動ファン82が配設されている。
【0042】
本実施形態に係るスイングアーム12は、左側のアーム部のみで後輪WRを軸支する片持ち式であり、このアーム部の車体後方側の位置に、電動モータ50、回転駆動力の断接機構としての遠心クラッチ40、減速機構70が集中配置されている。
【0043】
電動モータ50は、スイングアーム12の内壁に固定され、ステータコイル71を有するステータ51と、モータ駆動軸53に固定されたロータ52とからなるインナーロータ式とされる。円筒状のモータ駆動軸53の図示左方側は、電動モータ50を覆うようにスイングアーム12の内壁に取り付けられたステータカバー58の軸受59によって軸支されている。また、モータ駆動軸53の図示右側端部には、モータ回転数センサ72の被検出体としての磁性体55を支持する円筒状のカラー54が取り付けられている。検知部73を有するモータ回転数センサ72は、取付ネジ74によってスイングアーム12の内壁面に固定されている。
【0044】
出力軸43は、電動モータ50の図示右側で、スイングアーム12の伝動ケース68に嵌合された軸受60によって支持されている。また、前記したように、電動モータ50の図示左方では、モータ駆動軸53が軸受59によって支持されている。これにより、モータ駆動軸53および出力軸43が、電動モータ50の車幅方向左右で2点支持されることとなり、例えば、片側1点支持の構造に比して、軸受59,60を小さくすることが可能となる。なお、軸受60の図示左方には、オイルシール77が配置されている。
【0045】
遠心クラッチ40は、クラッチシュー44が設けられるドライブプレート42と、クラッチシュー44の摩擦抵抗力により被動回転されるクラッチアウタ41とから構成されている。ドライブプレート42は、モータ駆動軸53の図示左側端部に固定されており、一方、クラッチアウタ41は、モータ駆動軸53に回転自在に挿通される出力軸43に対してナット66によって固定されている。なお、モータ駆動軸53と出力軸43とは、2つのニードルローラベアリング75,76によって相互回転可能に構成されている。
【0046】
そして、遠心クラッチ40は、モータ駆動軸53が所定回転以上になる、すなわち、ドライブプレート42が所定回転以上になると、クラッチシュー44が径方向外側に移動して摩擦抵抗力を発生することで、クラッチアウタ41を被動回転させるように構成されている。これにより、電動モータ50の回転駆動力が出力軸43に伝達されることとなる。
【0047】
出力軸43に伝達された回転駆動力は、減速機構70を介して最終出力軸48(車軸19)に伝達される。詳しくは、出力軸43の図示右側端部に形成された減速ギヤ43aに歯合する第1減速歯車46、該第1減速歯車46に固定されると共に減速機ケース67に嵌合された軸受79および伝動ケース68に嵌合された軸受78によって回転自在に軸支される第1減速軸45、第1減速軸45に形成された減速ギヤ45aに歯合する第2減速歯車47を介して、該第2減速歯車47に固定されると共に伝動ケース68に嵌合された軸受86および減速機ケース67に嵌合された軸受88によって回転自在に軸支される最終出力軸48に伝達されることとなる。
【0048】
最終出力軸48の図示右側端部には、後輪WRのホイール56が、カラー69を介してナット72により固定されている。ホイール56の内径側には、ライナー85を有するブレーキドラムが形成されており、その内側には、アンカピン84を軸にしてブレーキカム49によって駆動される上下一対のブレーキシュー83が収納されている。なお、軸受88の図示左方側には、オイルシール87が配置されている。また、平滑コンデンサ36や遠心クラッチ40の車幅方向外側には、一体式のスイングアームケース65が取り付けられている。
【0049】
上記したように、本発明に係る電動車両によれば、電動モータ50と減速機構70との間に、電動モータ50が所定回転以上になると回転駆動力の伝達を開始する遠心クラッチ40を設けたので、電動モータ50が所定回転以上になるまでは、電動モータ50に負荷がかかることがなく、電動モータ50がスムーズに回転を開始することができる。これにより、車重が大きい場合や坂道での発進時であってもスムーズに発進できる。さらに、また、電動モータ50が所定回転以上になるまでは遠心クラッチ40が切断状態にあるので、車体の押し歩き時に電動モータ50の回転抵抗による重さが発生することがなくなる。
【0050】
また、図示するように、回転駆動力伝達系の構成部品は、車幅方向左側から、遠心クラッチ40、電動モータ50、減速機構70の順に配置されている。これにより、ホイール56の図示左側の凹状スペースに減速機構70を配置して、電動モータ50を車幅方向中心寄りに配置することができる。また、電動モータ50の図示左方に遠心クラッチ40を配置することで、電動モータ50より外径の小さい遠心クラッチ40が車体左側端に配置されることとなり、スイングアーム12の車体側方への張り出し量を低減できる。
【0051】
なお、第2減速歯車47の図示右側には、第2減速歯車47の回転速度に基づいて車速を検知する非接触式の車速センサ57が車幅方向で対向するように近接配置されている。
【0052】
図6は、本発明の第2実施形態に係るスイングアーム12aの断面図である。この第2実施形態では、電動モータ100、遠心クラッチ150、減速機構130の車幅方向配置が前記第1実施形態と異なる点に特徴がある。具体的には、車幅方向左側から、減速機構130、電動モータ100、遠心クラッチ150の順に配置されている。
【0053】
電動モータ100は、スイングアーム12aの内壁に固定されたステータ101と、モータ駆動軸103に固定されると共に、ステータコイル110を有するロータ102とからなるインナーロータ式とされる。遠心クラッチ150は、クラッチシュー153が設けられるドライブプレート151と、クラッチシュー153の摩擦抵抗力により被動回転されるクラッチアウタ152とから構成されている。ドライブプレート151は、モータ駆動軸103の図示右側端部に固定されており、一方、クラッチアウタ152は、モータ駆動軸103に回転自在に挿通される出力軸104に固定されている。モータ駆動軸103と出力軸104とは、ニードルローラーベアリング114およびボールベアリング113によって相互回転自在に軸支されている。また、出力軸104は、不図示の伝動ケースに嵌合された軸受112,116によって支持されている。軸受116の図示右方側には、オイルシール115が配置されている。モータ駆動軸53の図示左側端部には、モータ回転数センサ122の被検出体としての磁性体123が取り付けられている。
【0054】
そして、遠心クラッチ150は、モータ駆動軸103が所定回転以上になる、すなわち、ドライブプレート151が所定回転以上になると、クラッチシュー153が径方向外側に移動して摩擦抵抗力を発生することで、クラッチアウタ152を被動回転させるように構成されている。これにより、電動モータ100の回転駆動力が出力軸104に伝達されることとなる。
【0055】
出力軸104に伝達された回転駆動力は、減速機構130を介して最終出力軸108に伝達される。詳しくは、出力軸104の図示左側端部に形成された減速ギヤ104aに歯合する第1減速歯車105、該第1減速歯車105に固定された第1減速軸106、該第1減速軸106に形成された減速ギヤ106aに歯合する第2減速歯車107を介して、該第2減速歯車107に固定されると共に減速機ケース111に嵌合された軸受117,119によって回転自在に軸支された最終出力軸108に伝達されることとなる。最終出力軸108の図示右側端部には、後輪WRのホイール109が、カラー120を介してナット121により固定されている。軸受119の図示左方側には、オイルシール118が配置されている。ホイール109の内径側には、ライナー127を有するブレーキドラムが形成されており、その内側には、アンカピン126を軸にしてブレーキカム124によって駆動される上下一対のブレーキシュー125が収納されている。
【0056】
上記したように、本発明の第2実施形態に係る電動車両によれば、後輪WRの凹部のスペースに遠心クラッチ150を配置して、電動モータ100を車幅方向中心寄りに配置することができる。また、電動モータ100の図示左方に減速機構130が配設されることにより、スイングアームの車体側方への張り出し量を小さくすることができる、
【0057】
なお、スイングアーム、電動モータ、減速機構、遠心クラッチ等の形状や構造は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、電動モータと減速機構との間の断接機構は電磁クラッチ等で構成してもよい。また、スイングアームの片持ちアーム部は、車幅方向右側に形成してもよい。本発明に係る電動車両は、自動二輪車に限られず、三輪車や四輪車であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…電動車両、2…メインフレーム、3…ヘッドパイプ、5…サイドフレーム、11…スイングアームピボット、12…スイングアーム、17…荷室、18…センタースタンド、20…ピボットプレート、30…低電圧バッテリ、31…高電圧バッテリ、32…DC−DCコンバータ、33…コンタクターボックス、34…制御装置(MGU)、35…モータドライバ、40…遠心クラッチ(断接機構)、41…クラッチアウタ、42…ドライブプレート、43…出力軸、44…クラッチシュー、50…電動モータ、51…ステータ、52…ロータ、53…モータ駆動軸、70…減速機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームに揺動可能に軸支されると共に後輪を回転可能に軸支するスイングアームと、車体側面視で前記後輪とオーバーラップするように前記スイングアーム内に配設されると共に、後輪に回転駆動力を供給する電動モータとを備える電動車両において、
前記電動モータと前記後輪との間に、車両の発進時に前記電動モータが所定回転以上になるまで、回転駆動力の伝達を切断する断接機構が設けられていることを特徴とする電動車両。
【請求項2】
前記電動モータの回転駆動力は、前記断接機構を介して前記減速機構に伝達され、該減速機構から前記後輪に伝達されることを特徴とする請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記断続機構が、遠心クラッチであることを特徴とする請求項1または2に記載の電動車両。
【請求項4】
前記電動モータは、前記スイングアームに固定されたステータおよび円筒状のモータ駆動軸に固定されたロータとから構成されたインナロータ式モータであり、
前記遠心クラッチは、前記遠心クラッチのクラッチシューが設けられるドライブプレートと、前記クラッチシューの摩擦抵抗力により被動回転されるクラッチアウタとから構成されており、
前記モータ駆動軸の一端部に前記ドライブプレートが固定され、
前記モータ駆動軸に、前記クラッチアウタが固定された出力軸が回転自在に挿通されており、
前記出力軸によって前記減速機構に回転駆動力を伝達するように構成されていることを特徴とすることを特徴とする請求項3に記載の電動車両。
【請求項5】
前記スイングアームが、車幅方向左側のみの片持ち式であり、
前記スイングアームの車幅方向左側から、前記遠心クラッチ、前記電動モータ、前記減速機構の順に配設されていることを特徴とする請求項3または4に記載の電動車両。
【請求項6】
前記スイングアームが、車幅方向左側のみの片持ち式であり、
前記スイングアームの車幅方向左側から、前記減速機構、前記電動モータ、前記遠心クラッチの順に配設されていることを特徴とする請求項3または4に記載の電動車両。
【請求項7】
前記スイングアームに固定されて、前記ステータを覆うステータカバーを備え、
前記ステータカバーに軸受部が設けられており、
前記出力軸は、前記電動モータの車幅方向の一方側で前記スイングアームに形成された軸受部および前記ステータカバーに設けられた軸受部によって、前記電動モータの車幅方向左右で2点支持されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−233372(P2010−233372A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79175(P2009−79175)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】