説明

アクチュエータおよび画像形成装置

【課題】振動部と磁性体とを設計する際の設計自由度を確保することができ、振動部と磁性体とを接合した際の接合強度および寸法精度が高いアクチュエータ、および、かかるアクチュエータを有する画像形成装置を提供すること。
【解決手段】アクチュエータ1は、回動可能に支持された可動板21と、可動板21に設けられた磁石212と、磁石212の近傍で、通電により磁界を発生させるコイル212とを備えている。磁石212は、可動板21に接合膜5aを介して接合されており、接合膜5aは、シロキサン結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、Si骨格に結合する脱離基とを含み、接合膜5aは、その少なくとも一部の領域にエネルギを付与したことにより、接合膜5aの表面付近に存在する脱離基がSi骨格から脱離し、接合膜5aの表面の領域に発現した接着性によって、可動板21と磁石212とを接合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータおよび画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回動軸とその回動軸の外周側に設置された永久磁石とで構成された可動子と、永久磁石を回動軸の周方向に囲むように配置されたコイルとを有する、電磁駆動式のアクチュエータが知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載のアクチュエータは、コイルに通電した際、そのコイル付近に磁界が発生してコイルと永久磁石との間に斥力または引力が生じ、その力によって、可動子を回動軸回りに回動させるよう構成されている。
【0003】
ところで、このアクチュエータの可動子では、回動軸と永久磁石とは、これらを接着剤(例えば、感光性接着剤や弾性接着剤)で接着することによって組み立てられている。
しかしながら、回動軸と永久磁石との間に接着剤を供給する際に、接着剤の供給量を厳密に制御することは極めて困難である。このため、供給する接着剤の量を均一にすることができず、回動軸と永久磁石との距離が不均一になる、すなわち、寸法精度が悪くなると言う問題が生じる。また、アクチュエータが設置される(使用される)環境によっては、接着剤に変質・劣化が生じる。このため、接合強度が低下するという問題もある。
一方、部材同士を固体接合法によって接合する方法も知られている。この固体接合は、接着剤等の接着層を介在させることなく、部材同士を直接接合する方法であり、例えば、シリコン直接接合法、陽極接合法等の方法が知られている。
【0004】
ところが、固体接合には、以下に記載するような、アクチュエータを設計する際における制限(問題)が生じる。
・接合可能な部材の材質が限られる。
・接合プロセスにおいて高温(例えば、700〜800℃程度)での熱処理を伴うため、部材の材質によっては、当該部材に変形が生じるおそれがある。
・接合プロセスにおける雰囲気が減圧雰囲気に限られる。
・一部の領域を部分的に接合することができない。
【0005】
【特許文献1】特開2006−304469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、振動部と磁性体とを設計する際の設計自由度を確保することができ、振動部と磁性体とを接合した際の接合強度および寸法精度が高いアクチュエータ、および、かかるアクチュエータを有する画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のアクチュエータは、板状をなす可動板と、該可動板を介して互いに対向配置され、前記可動板に連結されて、前記可動板をその面と平行な軸回りに回動可能に支持する一対の連結部とを有する振動部と、
前記可動板を前記軸回りに回動させる駆動手段とを備え、
前記駆動手段は、通電により磁界を発生させる導体と、前記導体の近傍に該導体から離間して配置され、前記導体で発生した磁界から力を受ける少なくとも1つの磁性体とを有し、
前記磁性体は、前記振動部に接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記振動部と前記磁性体とを接合していることを特徴とする。
これにより、振動部と磁性体とを設計する際の設計自由度を確保することができ、振動部と磁性体とを接合した際の接合強度および寸法精度が高いアクチュエータが得られる。
【0008】
本発明のアクチュエータでは、前記接合膜を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%であることが好ましい。
これにより、接合膜は、Si原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜自体がより強固なものとなる。このため、接合膜は、振動部および磁性体に対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
【0009】
本発明のアクチュエータでは、前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3であることが好ましい。
これにより、接合膜の安定性が高くなり、振動部と磁性体とをより強固に接合することができるようになる。
本発明のアクチュエータでは、前記Si骨格の結晶化度は、45%以下であることが好ましい。
これにより、Si骨格は十分にランダムな原子構造を含むものとなる。このため、Si骨格の特性が顕在化し、接合膜の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
【0010】
本発明のアクチュエータでは、前記脱離基は、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子が前記Si骨格に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものであることが好ましい。
これらの脱離基は、エネルギの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基は、接合膜の接着性をより高度なものとすることができる。
【0011】
本発明のアクチュエータでは、前記脱離基は、アルキル基であることが好ましい。
アルキル基は化学的な安定性が高いため、脱離基としてアルキル基を含む接合膜は、耐候性(使用される環境に対して)に優れたものとなる。
本発明のアクチュエータでは、前記接合膜は、プラズマ重合法により形成されたものであることが好ましい。
これにより、接合膜は緻密で均質なものとなる。そして、振動部と磁性体とを特に強固に接合し得るものとなる。さらに、プラズマ重合法で作製された接合膜は、エネルギが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、アクチュエータの製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0012】
本発明のアクチュエータでは、前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、接合膜自体が優れた機械的特性を有するものとなる。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示す接合膜が得られる。したがって、この接合膜により、振動部と磁性体とをより強固に接合することができる。また、非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行える接合膜となる。さらに、接合膜が優れた撥液性を示すため、耐久性に優れた信頼性の高いアクチュエータが得られる。
【0013】
本発明のアクチュエータでは、前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものであることが好ましい。
これにより、接着性に特に優れる接合膜が得られる。
本発明のアクチュエータでは、前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmであることが好ましい。
これにより、振動部と磁性体との間の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
【0014】
本発明のアクチュエータでは、前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものであることが好ましい。
これにより、従来に比べて寸法精度が格段に高いアクチュエータが得られる。また、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
本発明のアクチュエータでは、前記振動部の前記接合膜と接している面には、予め、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されていることが好ましい。
これにより、振動部と接合膜との間の接合強度をより高めることができ、ひいては、振動部と磁性体との接合強度を高めることができる。
【0015】
本発明のアクチュエータでは、前記磁性体の前記接合膜と接している面には、予め、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されていることが好ましい。
これにより、磁性体と接合膜との間の接合強度をより高めることができ、ひいては、振動部と磁性体との接合強度を高めることができる。
本発明のアクチュエータでは、前記表面処理は、プラズマ処理であることが好ましい。
これにより、接合膜を形成するために、振動部または磁性体の表面を特に最適化することができる。
【0016】
本発明のアクチュエータでは、前記振動部と前記接合膜との間に、中間層を有することが好ましい。
これにより、振動部と接合膜との間の接合強度が高まる。
本発明のアクチュエータでは、前記磁性体と前記接合膜との間に、中間層を有することが好ましい。
これにより、磁性体と接合膜との間の接合強度が高まる。
【0017】
本発明のアクチュエータでは、前記中間層は、酸化物系材料を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、振動部と接合膜との間、および、磁性体と接合膜との間において、それぞれ接合強度を高めることができる。
本発明のアクチュエータでは、前記エネルギの付与は、前記接合膜にエネルギ線を照射する方法、前記接合膜を加熱する方法、および、前記接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行われることが好ましい。
これにより、接合膜に対して比較的簡単に効率よくエネルギを付与することができる。
【0018】
本発明のアクチュエータでは、前記エネルギ線は、波長150〜300nmの紫外線であることが好ましい。
これにより、付与されるエネルギ量が最適化されるので、接合膜中のSi骨格が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、Si骨格と脱離基との間の結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜に接着性を発現させることができる。
【0019】
本発明のアクチュエータでは、前記加熱の温度は、25〜100℃であることが好ましい。
これにより、振動部または磁性体等が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合膜を確実に活性化させることができる。
本発明のアクチュエータでは、前記圧縮力は、0.2〜10MPaであることが好ましい。
これにより、振動部または磁性体に損傷等が生じるのを避けつつ、単に圧縮するのみで、接合膜に十分な接着性を発現させることができる。
【0020】
本発明のアクチュエータは、板状をなす可動板と、該可動板を介して互いに対向配置され、前記可動板に連結されて、前記可動板をその面と平行な軸回りに回動可能に支持する一対の連結部とを有する振動部と、
前記可動板を前記軸回りに回動させる駆動手段とを備え、
前記駆動手段は、通電により磁界を発生させる導体と、前記導体の近傍に該導体から離間して配置され、前記導体で発生した磁界から力を受ける少なくとも1つの磁性体とを有し、
前記磁性体は、前記振動部と接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、金属原子と、該金属原子に結合する酸素原子と、前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方に結合する脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記振動部と前記磁性体とを接合していることを特徴とする。
これにより、振動部と磁性体とを設計する際の設計自由度を確保することができ、振動部と磁性体とを接合した際の接合強度および寸法精度が高いアクチュエータが得られる。
【0021】
本発明のアクチュエータは、板状をなす可動板と、該可動板を介して互いに対向配置され、前記可動板に連結されて、前記可動板をその面と平行な軸回りに回動可能に支持する一対の連結部とを有する振動部と、
前記可動板を前記軸回りに回動させる駆動手段とを備え、
前記駆動手段は、通電により磁界を発生させる導体と、前記導体の近傍に該導体から離間して配置され、前記導体で発生した磁界から力を受ける少なくとも1つの磁性体とを有し、
前記磁性体は、前記振動部と接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記接合膜から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記振動部と前記磁性体とを接合していることを特徴とする。
これにより、振動部と磁性体とを設計する際の設計自由度を確保することができ、振動部と磁性体とを接合した際の接合強度および寸法精度が高いアクチュエータが得られる。
【0022】
本発明のアクチュエータでは、前記振動部は、シリコン材料を主材料として構成されていることが好ましい。
この材料は、加工性に優れるため、寸法精度の高い振動部が得られる。このため、高精度のアクチュエータが得られる。
本発明のアクチュエータでは、前記磁性体は、永久磁石および軟磁性体材料のうちの少なくとも一方であることが好ましい。
これにより、磁性体は、導体に通電した際に当該導体付近に生じる磁界によって、力を受ける。よって、可動板が確実に回動する。
【0023】
本発明のアクチュエータでは、前記各連結部は、それぞれ、棒状をなし、その一端部が前記可動板の縁部に連結された軸部材で構成されていることが好ましい。
これにより、可動板が各軸部材の捩れ変形を伴って回動する。
本発明のアクチュエータでは、前記磁性体は、前記可動板の片面に設置されていることが好ましい。
これにより、磁性体を設計する際の設計自由度を確保することができる。
【0024】
本発明のアクチュエータでは、複数の前記磁性体が、前記可動板の回動軸を介して、対をなすように配置されていることが好ましい。
これにより、各磁性体は、それぞれ、導体に通電した際に当該導体付近に生じる磁界によって、力を受ける。よって、可動板が確実に回動する。
本発明のアクチュエータでは、前記各連結部は、それぞれ、棒状をなし、その一端部が前記可動板の縁部に連結された軸部材と、該軸部材の途中に設けられ、板状をなす駆動板とで構成されていることが好ましい。
これにより、可動板が各軸部材の捩れ変形を伴って回動し、その際の可動板に対する回動制御が容易となる。
【0025】
本発明のアクチュエータでは、前記磁性体は、前記各駆動板の片面または両面に設置されていることが好ましい。
これにより、磁性体を設計する際の設計自由度を確保することができる。
本発明のアクチュエータでは、前記磁性体は、その前記接合膜に接合される部分が平面状をなしていることが好ましい。
これにより、磁性体の接合膜と接触する接触面積が比較的大きくなり、これに伴って、磁性体と接合膜との接合強度も高まる。
【0026】
本発明のアクチュエータでは、前記接合膜は、平面視で前記磁性体を包含する領域に形成されていることが好ましい。
これにより、接合膜に磁性体を接合した際、その接合強度が比較的高くなり、また、接合工程で接合膜に対する磁性体の位置決めが行ない易くなり、よって、その作業性が向上する。
【0027】
本発明のアクチュエータでは、前記接合膜は、平面視で前記磁性体の外形形状と同じ形状となるように形成されていることが好ましい。
これにより、可動板が回動する際、接合膜による慣性の影響を抑制することができる。
本発明のアクチュエータでは、前記導体は、平面視で前記磁性体を包囲するリング状をなすものであることが好ましい。
これにより、磁性体は、導体に通電した際に当該導体付近に生じる磁界によって、力を受ける。よって、可動板が確実に回動する。
【0028】
本発明のアクチュエータでは、前記導体は、コイル状をなすものであることが好ましい。
これにより、磁性体は、導体に通電した際に当該導体付近に生じる磁界によって、力を受ける。よって、可動板が確実に回動する。
本発明のアクチュエータでは、前記可動板に設けられ、光を反射する光反射部をさらに備えることが好ましい。
これにより、アクチュエータを光スキャナ、光アッテネータ、光スイッチ等の光学デバイスに適用することができる。
【0029】
本発明のアクチュエータでは、前記光反射部で反射した光を走査する光スキャナであることが好ましい。
これにより、アクチュエータを光スキャナとして用いることができる。
本発明の画像形成装置は、本発明のアクチュエータと、
前記アクチュエータの前記可動板に向けて光を照射する光源とを備えることを特徴とする。
これにより、振動部と磁性体とを設計する際の設計自由度を確保することができ、振動部と磁性体とを接合した際の接合強度および寸法精度が高いアクチュエータを有する画像形成装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明のアクチュエータおよび画像形成装置を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明のアクチュエータの第1実施形態を示す斜視図、図2は、図1に示すアクチュエータの平面図、図3は、図2中のA−A線断面図、図4は、図1に示すアクチュエータにおける接合膜のエネルギ付与前の状態を示す部分拡大図、図5は、図1に示すアクチュエータにおける接合膜のエネルギ付与後の状態を示す部分拡大図、図6〜図8は、それぞれ、図1に示すアクチュエータの製造方法(製造工程)を説明するための図、図9は、図1に示すアクチュエータにおける接合膜の作製に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す図である。なお、以下では、説明の都合上、図1、図3、図6〜図9中(図10、図12、図14も同様)の上側を「上」または「上方」、下側を「下」または「下方」と言う。
【0031】
図1〜図3に示すように、アクチュエータ1は、基体2と、この基体2を下方から支持する支持体3と、基体2に設置された磁性体(本実施形態では、永久磁石(以下単に「磁石」と言う)212)と、支持体3に設置され、導電性を有するコイル(導体)4とを有している。以下、各部の構成について説明する。
図1に示すように、基体2は、板状をなす可動板21と、可動部21の外周側に配置された支持部24と、可動板21と支持部24とを連結する一対の連結部としての軸部材22、23とを有している。
【0032】
支持部24は、可動板21を囲むように枠状に形成されたもの、すなわち、内側に開口部243が形成され、当該開口部243に可動板21が配置されたものである。この支持部24は、平面視で長方形をなしている。
可動板21は、本実施形態では平面視形状が長方形(四角形)をなし、その中心を通る、短辺と平行な(可動板21の面と平行な)回動軸215回りに回動するものである。また、可動板21は、図2に示す構成では、その短辺が支持部24の長辺と平行となるように配されている。
【0033】
可動板21の上面には、光を反射する光反射部(ミラー)211が設けられている。これにより、アクチュエータ1を、光反射部211で反射した光を走査する光スキャナに適用することができる。また、光スキャナの他に光アッテネータ、光スイッチ等の光学デバイスにもアクチュエータ1を適用することができる。なお、本実施形態では、アクチュエータ1を光スキャナに適用した場合について述べる。
【0034】
図1、図2に示すように、可動板21は、その縁部が軸部材22、23を介して支持部24の内側縁部に連結、支持されている。軸部材22と軸部材23とは、それぞれ棒状をなし、可動板21を介して互いに対向して、当該可動板21の回動軸215と同軸上に配置されている。すなわち、棒状をなす軸部材22、23は、それぞれ、内側の端部(一端部)が可動板21の長辺の中央部に連結され、外側の端部(他端部)が支持部24の各短辺側に位置する開口部243の縁部の中央部に連結されている。
アクチュエータ1では、可動板21は、各軸部材22、23の捩れ変形を伴って、支持部24に対して回動可能となっている。このように、アクチュエータ1では、可動板21と1対の軸部材22、23とにより、1自由度の振動系(振動部)20が構成されていると言うことができる。
【0035】
なお、基体2を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンのようなシリコン材料、ステンレス鋼、チタン、アルミニウムのような金属材料が挙げられ、これらの中でも、特にシリコン材料であるのが好ましい。このような材料は、加工性に優れるため、寸法精度の高い基体2が得られる。このため、高精度のアクチュエータ1が得られる。また、加工性に優れていることから、基体2の母材2’に対して例えばエッチングを施すことができ、よって、可動板21と1対の軸部材22、23と支持部24とを一体的に形成することができる。
【0036】
図2、図3に示すように、可動板21(振動部20)の下面(片面)には、磁石212が接合膜5aを介して接合されている。なお、接合膜5aについては、後に詳述する。
磁石212は、棒磁石であり、その長手方向の長さが可動部21の長辺の長さよりも短く、幅方向の長さが可動部21の短辺の長さよりも短いものである。また、この磁石212は、その一端側(図2中上側)がS極、他端側(図2中下側)がN極となるように、すなわち、回動軸215に対して直行する方向に配置されている。
磁石212は、前述したように可動板21の光反射部211とは反対側の面(下面)に設けられているため、設計上、光照射部211の存在による制限が低減され、よって、磁石212の設計の自由度が低下するのが抑制または防止される。
【0037】
図3に示すように、磁石212は、その横断面形状が扁平形状(長方形)をなしている。これにより、磁石212の接合膜5aに接合される部分が平面状をなし、よって、接合膜5aと接触する接触面積が比較的大きくなり、これに伴って、磁石212と接合膜5aとの接合強度も高まる。
なお、磁石212は、強磁性体を主材料として構成されており、この強磁性体材料としては、特に限定されないが、各種硬磁性体材料が好適に用いられる。各種硬磁性体材料は、一般的に金属酸化物系のものが多く、これらは、その表面に水酸基を有している。この水酸基により、接合膜5aに対する親和性が高まる。このため、接合膜5aと磁石212との接合強度が向上する。
【0038】
基体2の下面には、接合膜5bを介して、支持体3が接合されている。この支持体3は、支持部24の縁部に沿って枠状をなす枠状体31と、枠状体31の下面に接合膜6aを介して接合された基板32とで構成された積層構造をなすものである。なお、接合膜5b、6aについては、前記接合膜5aとともに後に詳述する。
枠状体31には、支持部24の開口部243に連通する開口部311が形成されている。図2に示すように、開口部311は、平面視で、振動系20を包含するように形成されている。この開口部311の内側の空間が、基体2の振動系20の振動、すなわち可動板21が回動(振動)する際に、支持体3(基板32)に接触するのを防止する逃げ部を構成する。このような逃げ部を設けることにより、アクチュエータ1全体の大型化を防止しつつ、可動板21の振れ角(振幅)をより大きく設定することができる。
また、基板32は、枠状体31の形状と対応するように形成されている。この基板32によって、開口部311が下方から封止されている。
枠状体31および基板32の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、基体2と同様の材料を用いることができる。
【0039】
図3に示すように、支持体3の基板32の上面には、接合膜6bを介して、コイル4が接合されている。このようにコイル4が配置されていることにより、当該コイル4は、磁石212の近傍に振動系20および磁石212から離間した状態となる。また、コイル4は、交流電圧を印加可能な電源回路(図示せず)に電気的に接続されている。
図2に示すように、コイル4は、平面視で磁石212を包囲する、すなわち、長方形をなす可動板21の4辺に沿ったリング状をなしている。
【0040】
アクチュエータ1では、前記電源回路によって、コイル4に電圧が印加され、コイル4が通電状態となる。このとき、コイル4付近に磁界が発生する。この磁界によって(磁界の方向にもよるが)、例えば、磁石212に、当該磁石212のS極がコイル4に接近する方向に引き付けられる力(引力)と、N極がコイル4から離間する方向に押し出される力(斥力)とが作用する。これにより、可動板21が回動軸215回りに回動する。また、前記電源回路は、前述したように交流電圧を印加可能であるため、コイル4を流れる電流の向きが反転した際、磁界の向きも反転する。これにより、前記とは逆の向きの力が磁石212に作用し、可動板21が前記とは反対回りに回動する。このように、アクチュエータ1では、コイル4を流れる電流の方向が交互に切り換わるため、可動板21は、図1中矢印方向に揺動する(振動する)。また、電圧の大きさを適宜変更することにより、可動板21の回動角度を調整することができる。
【0041】
なお、アクチュエータ1では、磁石212とコイル4とで、可動板21を回動軸215回りに回動させる駆動手段が構成されていると言うことができる。
また、コイル4の構成材料としては、導電性を有するものであれば、特に限定されず、例えば、金属材料が挙げられ、そのうちの銅が好ましい。銅は、加工性に優れているため、例えば1枚の銅板(銅箔)や1本の銅線を加工して、コイル4を容易に作製することができる。また、銅は、比較的電気抵抗が小さい材料であるため、通電して用いられるコイル4に良好に適用することができ、通電した際にコイル4付近に磁界が確実に生じ、その磁界が磁石212にまで確実に及ぶ。
【0042】
次に、接合膜5a、5b、6a、6bに共通して用いられる接合膜について説明する。なお、接合膜5a、5b、6a、6bの構成(特徴)は、ほぼ同一であるため、以下では、可動板21と磁石212とを接合する接合膜5aを代表的に説明する。
接合膜5aのエネルギを付与する前の状態は、図4に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格301と、このSi骨格301に結合する脱離基303とを含むものである。
【0043】
そして、この接合膜5aにエネルギを付与すると、図5に示すように、一部の脱離基303がSi骨格301から脱離し、代わりに活性手304が生じる。これにより、接合膜5aの表面に接着性が発現する。このようにして接着性が発現した接合膜5aにより、可動板21と磁石212とが接合されている。
このような接合膜5aは、シロキサン結合302を含みランダムな原子構造を有するSi骨格301の影響によって、変形し難い強固な膜となる。このため、可動板21と磁石212との間の距離、すなわち、接合膜5aの厚さを高い寸法精度で一定に保持することができ、可動板21が安定して回動することができる。
【0044】
また、接合膜5aを用いて可動板21と磁石212とを接合したことにより、従来、接着剤を用いて接合した場合に、接着剤がはみ出すといった問題が生じることが防止される。したがって、はみ出した接着剤を除去する手間も省略できるという利点もある。
さらに、接合膜5aは、化学的に安定なSi骨格301の作用により、耐熱性に優れている。このため、たとえアクチュエータ1が高温下に曝されたとしても、接合膜5aの変質・劣化を確実に防止することができる。
【0045】
また、このような接合膜5aは、流動性を有しない固体状のものとなる。このため、従来の流動性を有する液状または粘液状の接着剤に比べて、接着層(接合膜5a)の厚さや形状がほとんど変化しない。このため、接合膜5aを用いて製造されたアクチュエータ1の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合を可能にするものである。
【0046】
このような接合膜5aとしては、特に、接合膜5aを構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%程度であるのが好ましく、20〜80原子%程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜5aは、Si原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜5a自体がより強固なものとなる。また、かかる接合膜5aは、可動板21および磁石212に対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
【0047】
また、接合膜5a中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜5aの安定性が高くなり、可動板21と磁石212とをより強固に接合することができるようになる。
なお、接合膜5a中のSi骨格301の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。これにより、Si骨格301は十分にランダムな原子構造を含むものとなる。このため、前述したSi骨格301の特性が顕在化し、接合膜5aの寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
【0048】
また、Si骨格301に結合する脱離基303は、前述したように、Si骨格301から脱離することによって、接合膜5aに活性手304を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギが付与されないときには、脱離しないようSi骨格301に確実に結合しているものである必要がある。
【0049】
かかる観点から、脱離基303には、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子を含み、これらの各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものが好ましく用いられる。かかる脱離基303は、エネルギの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜5aの接着性をより高度なものとすることができる。
【0050】
なお、上記のような各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、ビニル基、アリル基のようなアルケニル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、メルカプト基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0051】
これらの各基の中でも、脱離基303は、特にアルキル基であるのが好ましい。アルキル基は化学的な安定性が高いため、アルキル基を含む接合膜5aは、耐候性に(アクチュエータ1が使用される環境に対して)優れたものとなる。
このような特徴を有する接合膜5aの構成材料としては、例えば、ポリオルガノシロキサンのようなシロキサン結合を含む重合物等が挙げられる。
【0052】
ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜5aは、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜5aは、可動板21と磁石212とをより強固に接合することができる。
また、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性(非接着性)を示すが、エネルギを付与されることにより、容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化し、接着性を発現するが、この非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有する。
【0053】
なお、この撥水性(非接着性)は、主に、ポリオルガノシロキサン中に含まれたアルキル基による作用である。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜5aは、エネルギを付与された領域に接着性が発現するとともに、エネルギを付与しなかった領域においては、前述したアルキル基による優れた撥液性が得られるという利点も有する。したがって、エネルギを付与する領域を制御することにより、接合膜5aの可動板21および磁石212に接触しない領域に、優れた撥液性を発現させることができる。その結果、例えば湿度が比較的高い場所でアクチュエータ1が使用された場合でも、当該アクチュエータ1(接合膜5a)は、耐久性(耐水性)に優れた信頼性の高いものとなっている。
【0054】
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜5aは、接着性に特に優れることから、アクチュエータ1に対して特に好適に適用できるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0055】
また、接合膜5aの平均厚さは、1〜1000nm程度であるのが好ましく、2〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜5aの平均厚さを前記範囲内とすることにより、可動板21と磁石212との間の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜5aの平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜5aの平均厚さが前記上限値を上回った場合は、アクチュエータ1の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
【0056】
さらに、接合膜5aの平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜5aにある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、可動板21の接合面(接合膜5aに隣接する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜5aを被着させることができる。その結果、接合膜5aは、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、接合膜5aが形成された可動板21に磁石212を貼り合わせた際に、接合膜5aの磁石212に対する密着性を高めることができる。
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜5aの厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜5aの厚さをできるだけ厚くすればよい。
【0057】
このような接合膜5aは、いかなる方法で作製されたものでもよく、プラズマ重合法、CVD法、PVD法のような各種気相成膜法や、各種液相成膜法等により作製した膜にエネルギを付与することによって作製することができるが、これらの中でも、エネルギ付与前の膜として、プラズマ重合法により作製された膜を用いるのが好ましい。プラズマ重合法によれば、最終的に、緻密で均質な接合膜5aを効率よく作製することができる。これにより、プラズマ重合法で作製された接合膜5aは、可動板21と磁石212とを特に強固に接合し得るものとなる。さらに、プラズマ重合法で作製され、エネルギが付与される前の接合膜5aは、エネルギが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持することができる。このため、アクチュエータ1の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0058】
なお、接合膜5aは、平面視で磁石212を包含する領域に形成されている、すなわち、平面視での面積が磁石212の面積よりも大きく形成されているのが好ましい。これにより、接合膜5aに磁石212を接合した際その接合強度が比較的高くなり、また、接合膜5aに磁石212を接合する接合工程で接合膜5aに対する磁石212の位置決めが行ない易くなり、よって、その作業性が向上する。
【0059】
次に、一例として、基体2となる母材2’上に、プラズマ重合法により、接合膜5aを作製して、母材2’(可動板21)と磁石212とを接合する方法、およびこの方法を含むアクチュエータ1を作製する方法について説明する。プラズマ重合法は、例えば、強電界中に、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを供給することにより、原料ガス中の分子を重合させ、重合物を母材2’上に堆積させ、膜を得る方法である。
【0060】
以下、接合膜5aをプラズマ重合法にて形成する方法について詳述するが、まず、接合膜5aの形成方法を説明するのに先立って、母材2’上にプラズマ重合法によって接合膜5aを作製する際に用いるプラズマ重合装置について説明し、その後、接合膜5aの形成方法について説明する。
図9に示すプラズマ重合装置900は、チャンバー901と、母材2’(基体2)を支持する第1の電極930と、第2の電極940と、各電極930、940間に高周波電圧を印加する電源回路980と、チャンバー901内にガスを供給するガス供給部990と、チャンバー901内のガスを排気する排気ポンプ970とを備えている。これらの各部のうち、第1の電極930および第2の電極940がチャンバー901内に設けられている。以下、各部について詳細に説明する。
チャンバー901は、内部の気密を保持し得る容器であり、内部を減圧(真空)状態にして使用されるため、内部と外部との圧力差に耐え得る耐圧性能を有するものとされる。
【0061】
図9に示すチャンバー901は、軸線が水平方向に沿って配置されたほぼ円筒形をなすチャンバー本体と、チャンバー本体の左側開口部を封止する円形の側壁と、右側開口部を封止する円形の側壁とで構成されている。
チャンバー901の図9中上方には供給口903が、下方には排気口904が、それぞれ設けられている。そして、供給口903にはガス供給部990が接続され、排気口904には排気ポンプ970が接続されている。
【0062】
なお、本実施形態では、チャンバー901は、導電性の高い金属材料で構成されており、接地線902を介して電気的に接地されている。
第1の電極930は、板状をなしており、母材2’を支持している。
この第1の電極930は、チャンバー901の側壁の内壁面に、水平方向に沿って設けられている。また、第1の電極930は、チャンバー901を介して電気的に接地されている。
【0063】
第1の電極930の母材2’を支持する面には、静電チャック(吸着機構)939が設けられている。
この静電チャック939により、図9に示すように、母材2’を保持することができる。また、母材2’に多少の反りがあっても、静電チャック939に吸着させることにより、その反りを矯正した状態で母材2’をプラズマ処理に供することができる。
【0064】
第2の電極940は、母材2’を介して、第1の電極930と対向して設けられている。なお、第2の電極940は、チャンバー901の側壁の内壁面から離間した(絶縁された)状態で設けられている。
この第2の電極940には、配線984を介して高周波電源982が接続されている。また、配線984の途中には、マッチングボックス(整合器)983が設けられている。これらの配線984、高周波電源982およびマッチングボックス983により、電源回路980が構成されている。
【0065】
このような電源回路980によれば、第1の電極930は接地されているので、第1の電極930と第2の電極940との間に高周波電圧が印加される。これにより、第1の電極930と第2の電極940との間隙には、高い周波数で向きが反転する電界が誘起される。
ガス供給部990は、チャンバー901内に所定のガスを供給するものである。
【0066】
図9に示すガス供給部990は、液状の膜材料(原料液)を貯留する貯液部991と、液状の膜材料を気化してガス状に変化させる気化装置992と、キャリアガスを貯留するガスボンベ993とを有している。また、これらの各部とチャンバー901の供給口903とが、それぞれ配管994で接続されており、ガス状の膜材料(原料ガス)とキャリアガスとの混合ガスを、供給口903からチャンバー901内に供給するように構成されている。
【0067】
貯液部991に貯留される液状の膜材料は、プラズマ重合装置900により、重合して母材2’の表面に重合膜を形成する原材料となるものである。
このような液状の膜材料は、気化装置992により気化され、ガス状の膜材料(原料ガス)となってチャンバー901内に供給される。なお、原料ガスについては、後に詳述する。
【0068】
ガスボンベ993に貯留されるキャリアガスは、電界の作用により放電し、およびこの放電を維持するために導入するガスである。このようなキャリアガスとしては、例えば、Arガス、Heガス等が挙げられる。
また、チャンバー901内の供給口903の近傍には、拡散板995が設けられている。
拡散板995は、チャンバー901内に供給される混合ガスの拡散を促進する機能を有する。これにより、混合ガスは、チャンバー901内に、ほぼ均一の濃度で分散することができる。
【0069】
排気ポンプ970は、チャンバー901内を排気するものであり、例えば、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ等で構成される。このようにチャンバー901内を排気して減圧することにより、ガスを容易にプラズマ化することができる。また、大気雰囲気との接触による母材2’の汚染・酸化等を防止するとともに、プラズマ処理による反応生成物をチャンバー901内から効果的に除去することができる。
また、排気口904には、チャンバー901内の圧力を調整する圧力制御機構971が設けられている。これにより、チャンバー901内の圧力が、ガス供給部160の動作状況に応じて、適宜設定される。
【0070】
次に、母材2’上に接合膜5aを形成する方法について説明する。
[1]
まず、基体2を製作するための母材として、母材2’を用意する。母材2’は、後述する工程において加工を施すことにより、基体2になり得るものである。この母材2’をプラズマ重合装置900のチャンバー901内に収納して封止状態とした後、排気ポンプ970の作動により、チャンバー901内を減圧状態とする。
【0071】
次に、ガス供給部990を作動させ、チャンバー901内に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを供給する。供給された混合ガスは、チャンバー901内に充填される。
ここで、混合ガス中における原料ガスの占める割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合を20〜70%程度に設定するのが好ましく、30〜60%程度に設定するのがより好ましい。これにより、重合膜の形成(成膜)の条件の最適化を図ることができる。
また、供給するガスの流量は、ガスの種類や目的とする成膜速度、膜厚等によって適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、原料ガスおよびキャリアガスの流量を、それぞれ、1〜100ccm程度に設定するのが好ましく、10〜60ccm程度に設定するのがより好ましい。
【0072】
次いで、電源回路980を作動させ、一対の電極930、940間に高周波電圧を印加する。これにより、一対の電極930、940間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギにより原料ガス中の分子が重合し、重合物が母材2’上に付着・堆積する。これにより、図6(a)に示すように、母材2’上にプラズマ重合膜で構成された接合膜5’が形成される。この接合膜5’は、後述する工程において加工を施すことにより、一部が接合膜5a、5bとなり得るものである。
【0073】
原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜、すなわち接合膜5’は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、すなわちポリオルガノシロキサンで構成されることとなる。
【0074】
プラズマ重合の際、一対の電極930、940間に印加する高周波の周波数は、特に限定されないが、1kHz〜100MHz程度であるのが好ましく、10〜60MHz程度であるのがより好ましい。
また、高周波の出力密度は、特に限定されないが、0.01〜10W/cm程度であるのが好ましく、0.1〜1W/cm程度であるのがより好ましい。
【0075】
また、成膜時のチャンバー901内の圧力は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。
原料ガス流量は、0.5〜200sccm程度であるのが好ましく、1〜100sccm程度であるのがより好ましい。一方、キャリアガス流量は、5〜750sccm程度であるのが好ましく、10〜500sccm程度であるのがより好ましい。
【0076】
処理時間は、1〜10分程度であるのが好ましく、4〜7分程度であるのがより好ましい。なお、成膜される接合膜5’(接合膜5a)の厚さは、主に、この処理時間に比例する。したがって、この処理時間を調整することのみで、接合膜5’の厚さを容易に調整することができる。このため、従来は、接着剤を用いて可動板21と磁石212とを接着した場合、接着剤の厚さを厳密に制御することができなかったが、接合膜5’によれば、当該接合膜5’の厚さを厳密に制御することができるので、可動板21と磁石212との距離を厳密に制御することができる。
また、母材2’の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25〜100℃程度であるのがより好ましい。
以上のようにして、接合膜5’を得ることができる。
【0077】
[2]
次に、接合膜5’が形成された母材2’を一旦チャンバー901内から取り出す。そして、図6(b)に示すように、この母材2’に開口部243を形成する。この開口部243が形成されることにより、母材2’は、振動系20を有する基体2となる。なお、開口部243の形成は、ドライエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等の物理的エッチング法、ウエットエッチング等の化学的エッチング法等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
[3]
次に、開口部243が形成された母材2’を再度チャンバー901内に設置する。そして、接合膜5’に対してエネルギを付与する。
エネルギが付与されると、接合膜5’では、図4に示すように、脱離基303がSi骨格301から脱離する。そして、脱離基303が脱離した後には、図5に示すように、接合膜5aの表面51および内部に活性手304が生じる。これにより、接合膜5’の表面51に、磁石212との接着性が発現する。
【0079】
ここで、接合膜5’に付与するエネルギは、いかなる方法で付与されてもよく、例えば、(I)接合膜5’にエネルギ線を照射する方法、(II)接合膜5’を加熱する方法、(III)接合膜5’に圧縮力を付与する(物理的エネルギを付与する)方法が代表的に挙げられ、この他、プラズマに曝す(プラズマエネルギを付与する)方法、オゾンガスに曝す(化学的エネルギを付与する)方法等が挙げられる。
このうち、接合膜5’にエネルギを付与する方法として、特に、上記(I)、(II)、(III)の各方法のうち、少なくとも1つの方法を用いるのが好ましい。これらの方法は、接合膜5’に対して比較的簡単に効率よくエネルギを付与することができるので、エネルギ付与方法として好適である。
【0080】
以下、上記(I)、(II)、(III)の各方法について詳述する。
(I)接合膜5’にエネルギ線を照射する場合、エネルギ線としては、例えば、紫外線、レーザ光のような光、X線、γ線、電子線、イオンビームのような粒子線等、またはこれらのエネルギ線を組み合わせたものが挙げられる。
これらのエネルギ線の中でも、特に、波長150〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましい(図6(c)参照)。かかる紫外線によれば、付与されるエネルギ量が最適化されるので、接合膜5’中のSi骨格301が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、Si骨格301と脱離基303との間の結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜5’の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜5’に接着性を発現させることができる。
【0081】
また、紫外線によれば、広い範囲をムラなく短時間に処理することができるので、脱離基303の脱離を効率よく行わせることができる。さらに、紫外線には、例えば、UVランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、160〜200nm程度とされる。
また、UVランプを用いる場合、その出力は、接合膜5’の面積に応じて異なるが、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。なお、この場合、UVランプと接合膜5’との離間距離は、3〜3000mm程度とするのが好ましく、10〜1000mm程度とするのがより好ましい。
【0082】
また、紫外線を照射する時間は、接合膜5’の表面付近の脱離基303を脱離し得る程度の時間、すなわち、接合膜5’の内部の脱離基303を多量に脱離させない程度の時間とするのが好ましい。具体的には、紫外線の光量、接合膜5’の構成材料等に応じて若干異なるものの、0.5〜30分程度であるのが好ましく、1〜10分程度であるのがより好ましい。
【0083】
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
一方、レーザ光としては、例えば、エキシマレーザ(フェムト秒レーザ)、Nd−YAGレーザ、Arレーザ、COレーザ、He−Neレーザ等が挙げられる。
また、接合膜5’に対するエネルギ線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよく、具体的には、大気、酸素のような酸化性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられるが、特に大気雰囲気中で行うのが好ましい。これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギ線の照射をより簡単に行うことができる。
このように、エネルギ線を照射する方法によれば、接合膜5’に対して選択的にエネルギを付与することが容易に行えるため、例えば、エネルギの付与による基体2の変質・劣化を防止することができる。
【0084】
また、エネルギ線を照射する方法によれば、付与するエネルギの大きさを、精度よく簡単に調整することができる。このため、接合膜5’から脱離する脱離基303の脱離量を調整することが可能となる。このように脱離基303の脱離量を調整することにより、接合膜5aと磁石212との間の接合強度を容易に制御することができる。
すなわち、脱離基303の脱離量を多くすることにより、接合膜5’の表面および内部に、より多くの活性手が生じるため、接合膜5’に発現する接着性をより高めることができる。一方、脱離基303の脱離量を少なくすることにより、接合膜5’の表面および内部に生じる活性手を少なくし、接合膜5’に発現する接着性を抑えることができる。
なお、付与するエネルギの大きさを調整するためには、例えば、エネルギ線の種類、エネルギ線の出力、エネルギ線の照射時間等の条件を調整すればよい。
さらに、エネルギ線を照射する方法によれば、短時間で大きなエネルギを付与することができるので、エネルギの付与をより効率よく行うことができる。
【0085】
(II)接合膜5’を加熱する場合(図示せず)、加熱温度を25〜100℃程度に設定するのが好ましく、50〜100℃程度に設定するのがより好ましい。かかる範囲の温度で加熱すれば、基体2等が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合膜5’を確実に活性化させることができる。
また、加熱時間は、接合膜5’の分子結合を切断し得る程度の時間であればよく、具体的には、加熱温度が前記範囲内であれば、1〜30分程度であるのが好ましい。
【0086】
また、接合膜5’は、いかなる方法で加熱されてもよいが、例えば、ヒータを用いる方法、赤外線を照射する方法、火炎に接触させる方法等の各種加熱方法で加熱することができる。
なお、基体2(可動板21)と磁石212との熱膨張率がほぼ等しい場合には、上記のような条件で接合膜5’を加熱すればよいが、基体2と磁石212との熱膨張率が互いに異なっている場合には、後に詳述するが、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
【0087】
(III)本実施形態では、可動板21と磁石212とを貼り合わせる前に、接合膜5’に対してエネルギを付与する場合について説明しているが、かかるエネルギの付与は、可動板21と磁石212とを重ね合わせた後に行われるようにしてもよい。すなわち、母材2’上に接合膜5’を形成して、さらに開口部243を形成した後、エネルギを付与する前に、接合膜5’(接合膜5a)と磁石212とが密着するように、可動板21と磁石212とを重ね合わせて、仮接合体とする。そして、この仮接合体中の接合膜5aに対してエネルギを付与することにより、接合膜5aに接着性が発現し、接合膜5aを介して可動板21と磁石212とが接合(接着)される。
【0088】
この場合、仮接合体中の接合膜5aに対するエネルギの付与は、前述した(I)、(II)の方法でもよいが、接合膜5aに圧縮力を付与する方法を用いてもよい。
この場合、可動板21と磁石212とが互いに近づく方向に、0.2〜10MPa程度の圧力で圧縮するのが好ましく、1〜5MPa程度の圧力で圧縮するのがより好ましい。これにより、単に圧縮するのみで、接合膜5aに対して適度なエネルギを簡単に付与することができ、接合膜5aに十分な接着性が発現する。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、可動板21(基体2)および磁石212の各構成材料によっては、これらの部材に損傷等が生じるおそれがある。
【0089】
また、圧縮力を付与する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、圧縮力を付与する時間は、圧縮力の大きさに応じて適宜変更すればよい。具体的には、圧縮力の大きさが大きいほど、圧縮力を付与する時間を短くすることができる。
なお、仮接合体の状態では、可動板21と磁石212との間が接合されていないので、これらの相対的な位置を容易に調整する(ずらす)ことができる。したがって、一旦、仮接合体を得た後、可動板21と磁石212との相対位置を微調整することにより、最終的に得られるアクチュエータ1の組み立て精度(寸法精度)を確実に高めることができる。
【0090】
以上のような(I)、(II)、(III)の各方法により、接合膜5’にエネルギを付与することができる。
なお、接合膜5’の全面にエネルギを付与するようにしてもよいが、一部の領域のみに付与するようにしてもよい。このようにすれば、接合膜5’の接着性が発現する領域を制御することができ、この領域の面積・形状等を適宜調整することによって、接合界面に発生する応力の局所集中を緩和することができる。これにより、例えば、基体2と磁石212の熱膨張率差が大きい場合でも、これらを確実に接合することができる。
【0091】
ここで、前述したように、エネルギが付与される前の状態の接合膜5’は、図4に示すように、Si骨格301と脱離基303とを有している。かかる接合膜5’にエネルギが付与されると、脱離基303(本実施形態では、メチル基)がSi骨格301から脱離する。これにより、図5に示すように、接合膜5aの表面51に活性手304が生じ、活性化される。その結果、接合膜5’の表面51に接着性が発現する。
【0092】
ここで、接合膜5aを「活性化させる」とは、接合膜5’の表面51および内部の脱離基303が脱離して、Si骨格301において終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
【0093】
したがって、活性手304とは、未結合手(ダングリングボンド)、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。このような活性手304によれば、磁石212に対して、特に強固な接合が可能となる。
なお、後者の状態(未結合手が水酸基によって終端化された状態)は、例えば、接合膜5aに対して大気雰囲気中でエネルギ線を照射することにより、大気中の水分が未結合手を終端化することによって、容易に生成することができる。
【0094】
[4]
次に、磁石212を用意する。そして、図6(d)に示すように、この磁石212を前記接着性が発現してなる接合膜5’と密着するように、各部材同士を貼り合わせる。このとき、接合膜5’は、磁石212と接合した部分が接合膜5aとなる。このような接合により、図6(d)に示すように、可動板21と磁石212とが、接合膜5aを介して接合(接着)される。
【0095】
ここで、上記のようにして接合される基体2(可動板21)と磁石212の各熱膨張率は、ほぼ等しいのが好ましい。基体2と磁石212の熱膨張率がほぼ等しければ、これらを貼り合せた際に、その接合界面に熱膨張に伴う応力が発生し難くなる。その結果、最終的に得られるアクチュエータ1において、剥離等の不具合が発生するのを確実に防止することができる。
【0096】
また、基体2および磁石212の各熱膨張率が互いに異なる場合でも、基体2と磁石212とを貼り合わせる際の条件を以下のように最適化することにより、基体2と磁石212とを高い寸法精度で強固に接合することができる。
すなわち、基体2と磁石212の熱膨張率が互いに異なっている場合には、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
【0097】
具体的には、基体2と磁石212との熱膨張率差にもよるが、基体2と磁石212の温度が25〜50℃程度である状態下で、基体2と磁石212とを貼り合わせるのが好ましく、25〜40℃程度である状態下で貼り合わせるのがより好ましい。このような温度範囲であれば、基体2と磁石212の熱膨張率差がある程度大きくても、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、アクチュエータ1における反りや剥離等の発生を確実に防止することができる。
【0098】
また、この場合、基体2と磁石212との間の熱膨張係数の差が、5×10−5/K以上あるような場合には、上記のようにして、できるだけ低温下で接合を行うことが特に推奨される。なお、接合膜5a(接合膜5’)を用いることにより、上述したような低温下でも、可動板21と磁石212とを強固に接合することができる。
また、基体2と磁石212は、互いに剛性が異なっているのが好ましい。これにより、基体2と磁石212とをより強固に接合することができる。
【0099】
なお、基体2の接合膜5a(接合膜5bも同様)を成膜する領域には、予め、接合膜5aとの密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。これにより、基体2と接合膜5aとの間の接合強度をより高めることができ、最終的には、基体2と磁石212との接合強度を高めることができる。
かかる表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、基体2の接合膜5aを成膜する領域を清浄化するとともに、該領域を活性化させることができる。
【0100】
また、これらの各表面処理の中でもプラズマ処理を用いることにより、接合膜5aを形成するために、基体2の表面を特に最適化することができる。
なお、表面処理を施す基体2が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
また、基体2の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜5aの接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる基体2の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料を主材料とするものが挙げられる。
【0101】
このような材料で構成された基体2は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、比較的活性の高い水酸基が結合している。したがって、このような材料で構成された基体2を用いると、上記のような表面処理を施さなくても、基体2と接合膜5aとを強固に密着させることができる。
【0102】
なお、この場合、基体2の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合膜5aを成膜する領域の表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
さらに、基体2の接合膜5aを成膜する領域に、以下の基や物質を有する場合には、上記のような表面処理を施さなくても、基体2と接合膜5aとの接合強度を十分に高くすることができる。
【0103】
このような基や物質としては、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、イミダゾール基のような官能基、ラジカル、開環分子、2重結合、3重結合のような不飽和結合、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン、過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基または物質が挙げられる。
また、このようなものを有する表面が得られるように、上述したような各種表面処理を適宜選択して行うのが好ましい。
【0104】
また、表面処理に代えて、基体2の少なくとも接合膜5aを成膜する領域には、予め、中間層を形成しておくのが好ましい。
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、例えば、接合膜5aとの密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能等を有するものが好ましい。このような中間層を介して基体2上に接合膜5aを成膜することにより、基体2と接合膜5aとの接合強度を高め、信頼性の高い接合体、すなわちアクチュエータ1を得ることができる。
【0105】
かかる中間層の構成材料としては、例えば、アルミニウム、チタンのような金属系材料、金属酸化物、シリコン酸化物のような酸化物系材料、金属窒化物、シリコン窒化物のような窒化物系材料、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンのような炭素系材料、シランカップリング剤、チオール系化合物、金属アルコキシド、金属−ハロゲン化合物のような自己組織化膜材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0106】
また、これらの各材料で構成された中間層の中でも、酸化物系材料で構成された中間層によれば、基体2と接合膜5aとの間の接合強度を特に高めることができる。
一方、磁石212の接合膜5aと接触する領域にも、予め、接合膜5aとの密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。これにより、磁石212と接合膜5aとの間の接合強度をより高めることができる。
【0107】
なお、この表面処理には、基体2に対して施す前述したような表面処理と同様の処理を適用することができる。
また、表面処理に代えて、磁石212の接合膜5aと接触する領域に、予め、接合膜5aとの密着性を高める機能を有する中間層を形成しておくのが好ましい。これにより、磁石212と接合膜5aとの間の接合強度をより高めることができる。
【0108】
かかる中間層の構成材料には、前述の基体2に形成する中間層の構成材料と同様のものを用いることができる。
ここで、本工程において、接合膜5aを介して基体2と磁石212とが接合されるメカニズムについて説明する。
例えば、磁石212の基体2との接合に供される領域に、水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、接合膜5aと磁石212とが接触するように、基体2と磁石212とを貼り合わせたとき、接合膜5aの表面51に存在する水酸基と、磁石212の前記領域に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、接合膜5aを介して基体2と磁石212とが接合されると推察される。
【0109】
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から切断される。その結果、接合膜5aと磁石212との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、接合膜5aを介して基体2と磁石212とがより強固に接合されると推察される。
なお、前記工程[3]で活性化された接合膜5aの表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[3]の終了後、できるだけ早く本工程[4]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[3]の終了後、60分以内に本工程[4]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜5aの表面が十分な活性状態を維持しているので、本工程で接合膜5aを備える可動板21と磁石212とを貼り合わせたとき、これらの間に十分な接合強度を得ることができる。
このようにして接合された基体2と磁石212との間は、その接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度であれば、接合界面の剥離を十分に防止し得るものとなる。そして、信頼性の高いアクチュエータ1が得られる。
【0110】
[5]
一方、図7(e)に示すように、基板32を用意し、この基板32上に接合膜6’を形成する。この接合膜6’は、後述する工程において加工を施すことにより、接合膜6a、6bとなり得るものである。なお、接合膜6’の形成方法は、前述した接合膜5’の形成方法と同様である。
【0111】
[6]
次に、接合膜6’に対してエネルギを付与する。これにより、接合膜6’に、枠状体31となる母材31’との接着性が発現する。そして、接着性が発現してなる接合膜6’と母材31’とが密着するように、母材31’と基板32を貼り合わせる。これにより、図7(f)に示すように、母材31’と基板32とが、接合膜6’を介して接合(接着)される。なお、接合膜6’に対するエネルギの付与は、前述した接合膜5’に対するエネルギの付与方法と同様の方法で行うことができる。
【0112】
[7]
次に、図7(g)に示すように、母材31’に開口部311を形成する。開口部311の形成は、ドライエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等の物理的エッチング法、ウエットエッチング等の化学的エッチング法等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
本工程により、母材31’から枠状体31が形成される。また、接合膜6’の枠状体31と接合した部分が接合膜6aとなる。
【0113】
[8]
次に、開口部311を介して露出した接合膜6’に対してエネルギを付与する。これにより、接合膜6’に接着性が発現する。なお、このエネルギの付与は、前述した接合膜5’に対するエネルギの付与方法と同様の方法で行うことができる。
そして、図7(h)に示すように、コイル4を用意し、このコイル4を前記接着性が発現してなる接合膜6’と密着するように、各部材同士を貼り合わせる。このとき、接合膜6’は、磁石212と接合した部分が接合膜6bとなる。このような接合により、図7(h)に示すように、基板32とコイル4とが、接合膜6bを介して接合(接着)される。
【0114】
[9]
次に、図8(i)に示すように、前記工程[4]で得られた(図6(d)に示す状態の)基体2(構造体)を反転させ、前記工程[8]で得られた(図7(h)に示す状態)支持体3に対向させる。この状態から、基体2を支持体3に接近させ、これらを接合する。これにより、接合膜6’の枠状体31と接合した部分が接合膜6bとなり、当該接合膜6bを介して、基体2と支持体3とが接合する(図8(j)参照)。
以上のような工程を経て、アクチュエータ1が製造される。
このような光スキャナ(アクチュエータ1)は、例えば、レーザプリンタ、イメージング用ディスプレイ、バーコードリーダー、走査型共焦点顕微鏡などの画像形成装置に好適に適用することができる。
【0115】
以下、本発明のアクチュエータを備えた画像形成装置の具体例を説明する。
まず、電子写真方式を採用するプリンタに本発明の画像形成装置を適用した例を説明する。
図21は、本発明の画像形成装置(プリンタ)の一例を示す全体構成の模式的断面図、図22は、図21に示す画像形成装置に備えられた露光ユニットの概略構成を示す図である。
【0116】
図21に示す画像形成装置110(プリンタ)は、露光・現像・転写・定着を含む一連の画像形成プロセスによって、トナーからなる画像を紙やOHPシートなどの記録媒体Pに記録するものである。このような画像形成装置110は、図21に示すように、図示矢印方向に回転する感光体111を有し、その回転方向に沿って順次、帯電ユニット112、露光ユニット113、現像ユニット114、転写ユニット115、クリーニングユニット116が配設されている。また、画像形成装置110は、図21中下部に、紙などの記録媒体Pを収容する給紙トレイ117が設けられ、上部に、定着装置118が設けられている。
【0117】
このような画像形成装置110では、まず、図示しないホストコンピュータからの指令により、感光体111、現像ユニット114に設けられた現像ローラ(図示せず)、および中間転写ベルト151が回転を開始する。そして、感光体111は、回転しながら、帯電ユニット112により順次帯電される。
感光体111の帯電された領域は、感光体111の回転に伴って露光位置に至り、露光ユニット113によって、第1色目、例えばイエローYの画像情報に応じた潜像が前記領域に形成される。
【0118】
感光体111上に形成された潜像は、感光体111の回転に伴って現像位置に至り、イエロー現像のための現像装置144によってイエロートナーで現像される。これにより、感光体111上にイエロートナー像が形成される。このとき、現像ユニット114は、現像装置144が選択的に前記現像位置にて感光体111と対向している。なお、この選択は、保持体145の軸146回りの回転により、現像装置141、142、143、144の相対位置関係を維持しつつそれぞれの位置を変えることで行う。
【0119】
感光体111上に形成されたイエロートナー像は、感光体111の回転に伴って一次転写位置(すなわち、感光体111と一次転写ローラ152との対向部)に至り、一次転写ローラ152によって、中間転写ベルト151に転写(一次転写)される。このとき、一次転写ローラ152には、トナーの帯電極性とは逆の極性の一次転写電圧(一次転写バイアス)が印加される。なお、この間、二次転写ローラ155は、中間転写ベルト151から離間している。
【0120】
前述の処理と同様の処理が、第2色目、第3色目および第4色目について繰り返して実行されることにより、各画像信号に対応した各色のトナー像が、中間転写ベルト151に重なり合って転写される。これにより、中間転写ベルト151上にはフルカラートナー像が形成される。
一方、記録媒体Pは、給紙トレイ117から、給紙ローラ171、レジローラ172によって二次転写位置(すなわち、二次転写ローラ155と駆動ローラ154との対向部)へ搬送される。
【0121】
中間転写ベルト151上に形成されたフルカラートナー像は、中間転写ベルト151の回転に伴って二次転写位置に至り、二次転写ローラ155によって記録媒体Pに転写(二次転写)される。このとき、二次転写ローラ155は中間転写ベルト151に押圧されるとともに二次転写電圧(二次転写バイアス)が印加される。また、中間転写ベルト151は、駆動ローラ154を回転させることで一次転写ローラ152および従動ローラ153を従動回転させながら回転する。
【0122】
記録媒体Pに転写されたフルカラートナー像は、定着装置118によって加熱および加圧されて記録媒体Pに融着される。その後、片面プリントの場合には、記録媒体Pは、排紙ローラ対173によって画像形成装置110の外部へ排出される。
一方、感光体111は一次転写位置を経過した後に、クリーニングユニット116のクリーニングブレード161によって、その表面に付着しているトナーが掻き落とされ、次の潜像を形成するための帯電に備える。掻き落とされたトナーは、クリーニングユニット116内の残存トナー回収部に回収される。
【0123】
両面プリントの場合には、定着装置118によって一方の面に定着処理された記録媒体Pを一旦排紙ローラ対173により挟持した後に、排紙ローラ対173を反転駆動するとともに、搬送ローラ対174、176を駆動して、当該記録媒体Pを搬送路175を通じて表裏反転して二次転写位置へ帰還させ、前述と同様の動作により、記録媒体Pの他方の面に画像を形成する。
【0124】
このような画像形成装置に備えられた露光ユニット113は、図示しないパーソナルコンピュータなどのホストコンピュータから画像情報を受けこれに応じて、一様に帯電された感光体111上に、レーザを選択的に照射することによって、静電的な潜像を形成する装置である。
より具体的に説明すると、図22に示すように、露光ユニット113は、光スキャナであるアクチュエータ1と、アクチュエータ1の光反射部211に向けてレーザ光Lを照射するレーザ光源(光源)131と、コリメータレンズ132と、fθレンズ133とを有している。
【0125】
露光ユニット113では、レーザ光源131からコリメータレンズ132を介してアクチュエータ1(光反射部211)にレーザ光Lが照射される。そして、光反射部211で反射したレーザ光Lがfθレンズ133を介して感光体111上に照射される。
その際、アクチュエータ1の駆動(可動板21の回動軸215回りの回動)により、光反射部211で反射した光(レーザL)は、感光体111の軸線方向に走査(主走査)される。一方、感光体111の回転により、光反射部211で反射した光(レーザL)は、感光体111の周方向に走査(副走査)される。また、レーザ光源131から出力されるレーザ光Lの強度は、図示しないホストコンピュータから受けた画像情報に応じて変化する。
このようにして露光ユニット113は、感光体111上を選択的に露光して画像形成(描画)を行う。
【0126】
次に、イメージング用ディスプレイ(表示装置)に本発明の画像形成装置を適用した例を説明する。
図23は、本発明の画像形成装置(イメージングディスプレイ)の一例を示す概略図である。
図23に示す画像形成装置119は、光スキャナであるアクチュエータ1と、R(赤)、G(緑)、B(青)の3色の光を照射する光源191、192、193と、クロスダイクロイックプリズム(Xプリズム)194と、ガルバノミラー195と、固定ミラー196と、スクリーン197とを備えている。
【0127】
このような画像形成装置119では、光源191、192、193からクロスダイクロイックプリズム194を介してアクチュエータ1(光反射部211)に各色の光が照射される。このとき、光源191からの赤色の光と、光源192からの緑色の光と、光源193からの青色の光とが、クロスダイクロイックプリズム194にて合成される。
そして、可動部21の光反射部211で反射した光(3色の合成光)は、ガルバノミラー195で反射した後に、固定ミラー196で反射し、スクリーン197上に照射される。
【0128】
その際、アクチュエータ1の駆動(可動板21の回動軸215回りの回動)により、光反射部211で反射した光は、スクリーン197の横方向に走査(主走査)される。一方、ガルバノミラー195の回動軸215と直交する軸線Y回りの回転により、光反射部211で反射した光は、スクリーン197の縦方向に走査(副走査)される。また、各光源191、192、193から出力される光の強度は、図示しないホストコンピュータから受けた画像情報に応じて変化する。
このようにして画像形成装置119は、スクリーン197上に画像形成(描画)を行う。
【0129】
<第2実施形態>
図10は、本発明のアクチュエータの第2実施形態を示す横断面図である。
以下、この図を参照して本発明のアクチュエータおよび画像形成装置の第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、接合膜の形成状態(形状)が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0130】
図10に示すアクチュエータ1Aでは、可動板21と磁石212とを接合する接合膜5aが平面視で磁石212の外形形状と同じ形状、すなわち、長方形となるように形成されたものとなっている。この接合膜5aは、前記第1実施形態の接合膜5aよりもその大きさや質量等が小さくなるため、可動板21が回動する際、当該接合膜5aによる慣性の影響を抑制することができる。
【0131】
なお、接合膜5aの形成方法としては、特に限定されないが、例えば、磁石212の平面視での形状に対応する形状の窓部を有するマスクを用い、このマスク上から接合膜5aを成膜する方法が挙げられる。
また、アクチュエータ1Aでは、接合膜5b、6aが平面視で枠状体31の外形形状と同じ形状(リング状)となるように形成され、接合膜6bが平面視でコイル4の外形形状と同じ形状(リング状)となるように形成されている。これらの接合膜5b、6a、6bについても、接合膜5aの形成方法と同様に成膜することができる。
【0132】
<第3実施形態>
図11は、本発明のアクチュエータの第3実施形態を示す平面図、図12は、図11中のB−B線断面図である。
以下、これらの図を参照して本発明のアクチュエータの第3実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、磁性体の構成および設置箇所が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0133】
図11、12に示すアクチュエータ1Bでは、可動板21の下面に2枚(一対)の軟磁性体212a、212bが接合膜5aを介して接合されている。軟磁性体212aと軟磁性体212bとは、可動板21の回動軸215を介して対向配置されている、すなわち、可動板21の回動軸215に関して対称的に配置されている。また、各軟磁性体212a、212bは、それぞれ、可動板21の長手方向(図11中上下方向)の端部付近に配置されている。このような各軟磁性体212a、212bは、それぞれ、平面視で長方形をなす板部材で構成されている。なお、各軟磁性体212a、212bは、それぞれ、軟磁性体材料を主材料として構成されており、その軟磁性体材料としては、特に限定されないが、例えば、Fe、各種Fe合金(ケイ素鉄、パーマロイ、アモルファス、センダストなど)、軟磁性フェライトなどが挙げられる。これらの軟磁性体材料は、一般的に表面に水酸基を有している。この水酸基により、接合膜5aに対する親和性が高まる。このため、接合膜5aと軟磁性体212a、212bとの接合強度が向上する。
【0134】
支持体3の基板32には、コイル4a、4bが接合膜6bを介して接合されている。コイル4aは、支持体3の基板32の軟磁性体212aに対応した位置(軟磁性体212aの下方)に配置され、コイル4bは、支持体3の基板32の軟磁性体212bに対応した位置(軟磁性体212bの下方)に配置されている(図12参照)。また、コイル4aは、平面視で軟磁性体212aを包囲するリング状をなしており、これと同様に、コイル4bも、平面視で軟磁性体212bを包囲するリング状をなしている(図11参照)。
【0135】
また、各コイル4a、4bには、直流電圧を印加可能な電源回路(図示せず)が接続されている。この電源回路は、スイッチを有し、そのスイッチの切り換えにより、コイル4aおよび4bのうちの一方のコイルに電圧を印加している間は、他方のコイルには電圧を印加しないよう構成されている。
アクチュエータ1Bでは、前記電源回路によって、例えばコイル4aおよび4bのうちのコイル4aに電圧が印加された際、このコイル4aが通電状態となる。このとき、コイル4a付近に磁界が発生する。この磁界は、軟磁性体212aおよび212bのうち、コイル4aに対して近位に配置された軟磁性体212aに優先的に作用する。これにより、軟磁性体212aに、コイル4aに接近する方向に引き付けられる力(引力)が生じ、よって、可動板21が回動軸215回りに回動する、すなわち、コイル4a側に傾斜する。また、電源回路のスイッチを切り換えた際、今度は、コイル4bに電圧が印加され、このコイル4bが通電状態となる。このとき、コイル4b付近に磁界が発生する。これにより、前記とは逆に、軟磁性体212bに、コイル4bに接近する方向に引き付けられる力(引力)が生じる。これにより、可動板21が前記とは逆方向に回動軸215回りに回動する、すなわち、コイル4b側に傾斜する。このように、アクチュエータ1Bでは、電源回路のスイッチを切り換えることにより、可動板21が揺動する(振動する)。また、電圧の大きさを適宜変更することにより、可動板21の回動角度を調整することができる。
なお、軟磁性体は、一対設置されているのに限定されず、例えば、複数対設置されていてもよい。
【0136】
<第4実施形態>
図13は、本発明のアクチュエータの第4実施形態を示す平面図、図14は、図13中のC−C線断面図である。
以下、これらの図を参照して本発明のアクチュエータの第4実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、可動板と支持部とを連結する連結部の構成と磁石(磁性体)の設置箇所とが異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0137】
図13に示すアクチュエータ1Cでは、可動板21と支持部24とを連結する2つの連結部のうちの一方(図13中左側)の連結部は、軸部材22と当該軸部材22の途中に設けられた駆動板25aとで構成されており、他方(図13中右側)の連結部は、軸部材23と当該軸部材22の途中に設けられた駆動板25bとで構成されている。
軸部材22、23は、前記第1実施形態で説明した軸部材22、23と同様であるため、本実施形態ではその説明を省略する。
【0138】
駆動板25a、25bは、それぞれ、平面視で長方形(四角形)の板状をなす部位である。駆動板25aは、軸部材22と一体的に形成されている。この駆動板25aの下面(片面)には、磁石212が接合膜5aを介して、接合されている(図14参照)。また、駆動板25bは、軸部材23と一体的に形成されている。この駆動板25bの下面には、磁石212が接合膜5aを介して、接合されている(図14参照)。各磁石212は、それぞれ、その一端側(図13中上側)がS極、他端側(図13中下側)がN極となるように、すなわち、回動軸215に対して直行する方向に配置されている。
【0139】
支持体3の基板32には、2つのコイル4が接合膜6bを介して接合されている。これらのコイル4のうち、一方のコイル4は、支持体3の基板32の駆動板25a側の磁石212に対応した位置(駆動板25a側の磁石212の下方)に配置され、他方のコイル4は、支持体3の基板32の駆動板25b側の磁石212に対応した位置(駆動板25b側の磁石212の下方)に配置されている(図14参照)。また、各コイル4は、それぞれ、平面視で磁石212を包囲するリング状をなしている(図13参照)。また、各コイル4は、交流電圧を印加可能な電源回路(図示せず)に電気的に接続されている。
【0140】
アクチュエータ1Cでは、前記電源回路によって、各コイル4に電圧が印加され、各コイル4が通電状態となる。このとき、各コイル4付近に磁界が発生する。この磁界によって(磁界の方向にもよるが)、例えば、各磁石212に、当該磁石212のS極がコイル4に接近する方向に引き付けられる力(引力)と、N極がコイル4から離間する方向に押し出される力(斥力)とが作用する。これにより、駆動板25a、25bが回動軸215回りに回動する。このような各駆動板25a、25bの回動が軸部材22、23を介して可動板21に伝達されて、当該可動板21が回動軸215回りに回動する。また、前記電源回路は、前述したように交流電圧を印加可能であるため、各コイル4を流れる電流の向きが反転した際、磁界の向きも反転する。これにより、前記とは逆の向きの力が各磁石212に作用し、可動板21が前記とは反対回りに回動する。このように、アクチュエータ1Cでは、各コイル4を流れる電流の方向が交互に切り換わるため、可動板21が揺動する(振動する)。
【0141】
また、電圧の大きさを適宜変更することにより、可動板21の回動角度を調整することができる。また、各駆動板25a、25bは、それぞれ、可動板21よりもその大きさが小さくなっている。これにより、各駆動板25a、25bをそれぞれ容易に回動させることができ、よって、可動板21を効率的にかつ高精度に回動させることができる。なお、2つのコイル4に通電する際、これらのコイル4の通電方向は、互いに同方向となるように、すなわち、2つの磁石212に作用する力が互いに相殺しないように通電される。
また、磁石212は、駆動板25a(駆動板25bも同様)の下面に配置されているが、これに限定されず、例えば、駆動板25aの上面または両面に配置されていてもよい。
【0142】
<第5実施形態>
図15は、本発明のアクチュエータの第5実施形態を示す横断面図である。なお、以下の説明では、図15中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、この図を参照して本発明のアクチュエータの第5実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、磁性体の構成が異なること以外は前記第4実施形態と同様である。
【0143】
図15に示すアクチュエータ1Dは、各磁石212の周りには、ヨーク214がさらに設置された(配置された)構成となっている。各ヨーク214は、それぞれ、磁石212を囲むリング状をなし、接合膜5aを介して、駆動板25a(駆動板25bも同様)に接合されている。このような各ヨーク214によって、当該ヨーク214に対応するコイル4に向かう磁路が形成される。これにより、各駆動板25aに対して、力(斥力、引力)が効率良く作用し、よって、可動板21がより確実に回動する。
【0144】
<第6実施形態>
図16は、本発明のアクチュエータ(第6実施形態)における接合膜のエネルギ付与前の状態を示す部分拡大図、図17は、本発明のアクチュエータ(第6実施形態)における接合膜のエネルギ付与後の状態を示す部分拡大図である。なお、以下の説明では、図16および図17中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0145】
以下、これらの図を参照して本発明のアクチュエータの第6実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、各接合膜の構成が異なること以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかるアクチュエータは、各接合膜5a、5b、6a、6bがそれぞれエネルギ付与前の状態で、金属原子と、この金属原子に結合する酸素原子と、これら金属原子および酸素原子の少なくとも一方に結合する脱離基303とを含むものである。換言すれば、エネルギ付与前の各接合膜5a、5b、6a、6bは、それぞれ、金属酸化物で構成される金属酸化物膜に脱離基303を導入した膜であると言うことができる。
【0146】
このような各接合膜5a、5b、6a、6bは、エネルギが付与されると、脱離基303が金属原子および酸素原子の少なくとも一方から脱離し、各接合膜5a、5b、6a、6bの少なくとも表面付近に、活性手304が生じるものである。そして、これにより、各接合膜5a、5b、6a、6bの表面に、前記第1実施形態と同様の接着性が発現する。
【0147】
以下、本実施形態にかかる各接合膜5a、5b、6a、6bについて説明するが、これらの構成は共通であるため、接合膜5aを代表に説明する。
接合膜5aは、金属原子と、この金属原子と結合する酸素原子とで構成されるもの、すなわち金属酸化物に脱離基303が結合したものであることから、変形し難い強固な膜となる。このため、接合膜5a自体が寸法精度の高いものとなり、最終的に得られるアクチュエータ1においても、寸法精度が高いものが得られる。
【0148】
さらに、接合膜5aは、流動性を有さない固体状をなすものである。このため、従来から用いられている、流動性を有する液状または粘液状(半固形状)の接着剤に比べて、接着層(接合膜5a)の厚さや形状がほとんど変化しない。したがって、接合膜5aを用いて得られたアクチュエータ1の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
【0149】
また、本発明では、接合膜5aは、導電性を有するものであるのが好ましい。これにより、アクチュエータ1において、意図しない帯電を抑制または防止することができる。なお、接合膜(接合膜6b)が導電性を有する場合、接合膜6bと当該接合膜6bに接合されるコイル4とは、これらの間に絶縁膜が介在し、絶縁されている。これにより、コイル4に通電した際に短絡が生じるのを防止することができる。前記絶縁膜は、コイル4を構成する素線の外周に形成されている。また、絶縁膜の構成材料としては、絶縁性を有していれば特に限定されないが、樹脂等が挙げられる。
また、接合膜5aが導電性を有する場合、接合膜5aの抵抗率は、構成材料の組成に応じて若干異なるものの、1×10−3Ω・cm以下であるのが好ましく、1×10−4Ω・cm以下であるのがより好ましい。
【0150】
なお、脱離基303は、少なくとも接合膜5aの表面51付近に存在していればよく、接合膜5aのほぼ全体に存在していてもよいし、接合膜5aの表面51付近に偏在していてもよい。なお、脱離基303が表面51付近に偏在する構成とすることにより、接合膜5aに金属酸化物膜としての機能を好適に発揮させることができる。すなわち、接合膜5aに、接合を担う機能の他に、導電性等の特性に優れた金属酸化物膜としての機能を好適に付与することができるという利点も得られる。換言すれば、脱離基303が、接合膜5aの導電性や透光性等の特性を阻害してしまうのを確実に防止することができる。
以上のような接合膜5aとしての機能が好適に発揮されるように、金属原子が選択される。
【0151】
具体的には、金属原子としては、特に限定されないが、例えば、Li、Be、B、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、TiおよびPb等が挙げられる。中でも、In(インジウム)、Sn(スズ)、Zn(亜鉛)、Ti(チタン)およびSb(アンチモン)のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いるのが好ましい。接合膜5aを、これらの金属原子を含むもの、すなわちこれらの金属原子を含む金属酸化物に脱離基303を導入したものとすることにより、接合膜5aは、優れた導電性を発揮するものとなる。
より具体的には、金属酸化物としては、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アンチモン錫酸化物(ATO)、フッ素含有インジウム錫酸化物(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)および二酸化チタン(TiO)等が挙げられる。
【0152】
なお、金属酸化物としてインジウム錫酸化物(ITO)を用いる場合には、インジウムとスズとの原子比(インジウム/スズ比)は、99/1〜80/20であるのが好ましく、97/3〜85/15であるのがより好ましい。これにより、前述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
また、接合膜5a中の金属原子と酸素原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。金属原子と酸素原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜5aの安定性が高くなり、可動板21と磁石212とをより強固に接合することができるようになる。
【0153】
また、脱離基303は、前述したように、金属原子および酸素原子の少なくとも一方から脱離することにより、接合膜5aに活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギが付与されないときには、脱離しないよう接合膜5aに確実に結合しているものが好適に選択される。
【0154】
かかる観点から、脱離基303には、水素原子、炭素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子およびハロゲン原子、またはこれらの各原子で構成される原子団のうちの少なくとも1種が好適に用いられる。かかる脱離基303は、エネルギの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、可動板21と磁石212との接着性をより高度なものとすることができる。
【0155】
なお、上記の各原子で構成される原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基およびスルホン酸基等が挙げられる。
以上のような各原子および原子団の中でも、脱離基303は、特に、水素原子であるのが好ましい。水素原子で構成される脱離基303は、化学的な安定性が高いため、脱離基303として水素原子を備える接合膜5aは、耐候性に優れたものとなる。
【0156】
以上のことを考慮すると、接合膜5aとしては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アンチモン錫酸化物(ATO)、フッ素含有インジウム錫酸化物(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)または二酸化チタン(TiO)の金属酸化物に、脱離基303として水素原子が導入されたものが好適に選択される。
かかる構成の接合膜5aは、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、このような接合膜5aは、可動板21に対して特に強固に接着するとともに、磁石212に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、可動板21と磁石212とを強固に接合することができる。
【0157】
また、接合膜5aの平均厚さは、1〜1000nm程度であるのが好ましく、2〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜5aの平均厚さを前記範囲内とすることにより、アクチュエータ1の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、可動板21と磁石212とをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜5aの平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜5aの平均厚さが前記上限値を上回った場合は、アクチュエータ1の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
【0158】
さらに、接合膜5aの平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜5aにある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、可動板21の接合面(接合膜5aを成膜する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜5aを被着させることができる。その結果、接合膜5aは、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、可動板21と磁石212とを貼り合わせた際に、接合膜5aの磁石212に対する密着性を高めることができる。
【0159】
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜5aの厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜5aの厚さをできるだけ厚くすればよい。
また、接合膜5aは、磁性を有するものであるのが好ましい。これにより、磁石212との接合強度が向上する。
【0160】
以上説明したような接合膜5aは、接合膜5aのほぼ全体に脱離基303を存在させる場合には、例えば、A:脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気下で、物理的気相成膜法により、金属原子と酸素原子とを含む金属酸化物材料を成膜することにより形成することができる。また、脱離基303を接合膜5aの表面51付近に偏在させる場合には、例えば、B:金属原子と前記酸素原子とを含む金属酸化物膜を成膜した後、この金属酸化物膜の表面付近に含まれる金属原子および酸素原子の少なくとも一方に脱離基303を導入することにより形成することができる。
【0161】
以下、AおよびBの方法を用いて、可動板21(母材2’)上に接合膜5a(接合膜5’)を成膜する場合について、詳述する。
<A> Aの方法では、接合膜5aは、上記のように、脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気下で、物理的気相成膜法(PVD法)により、金属原子と酸素原子とを含む金属酸化物材料を成膜することにより形成される。このようにPVD法を用いる構成とすれば、金属酸化物材料を可動板21に向かって飛来させる際に、比較的容易に金属原子および酸素原子の少なくとも一方に脱離基303を導入することができる。このため、接合膜5aのほぼ全体にわたって脱離基303を導入することができる。
【0162】
さらに、PVD法によれば、緻密で均質な接合膜5aを効率よく成膜することができる。これにより、PVD法で成膜された接合膜5aは、磁石212に対して特に強固に接合し得るものとなる。さらに、PVD法で成膜された接合膜5aは、エネルギが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、アクチュエータ1の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0163】
また、PVD法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法等が挙げられるが、中でも、スパッタリング法を用いるのが好ましい。スパッタリング法によれば、金属原子と酸素原子との結合が切断することなく、脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気中に、金属酸化物の粒子を叩き出すことができる。そして、金属酸化物の粒子が叩き出された状態で、脱離基303を構成する原子成分を含むガスと接触させることができるため、金属酸化物(金属原子または酸素原子)への脱離基303の導入をより円滑に行うことができる。
【0164】
以下、PVD法により接合膜5aを成膜する方法として、スパッタリング法(イオンビームスパッタリング法)により、接合膜5aを成膜する場合を代表に説明する。
まず、接合膜5aの成膜方法を説明するのに先立って、可動板21(母材2’)上にイオンビームスパッタリング法により接合膜5a(接合膜5’)を成膜する際に用いられる成膜装置800について説明する。
【0165】
図18は、本実施形態にかかる接合膜の作製に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図、図19は、図18に示す成膜装置が備えるイオン源の構成を示す模式図である。なお、以下の説明では、図18中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図18に示す成膜装置800は、イオンビームスパッタリング法による接合膜5aの形成がチャンバー(装置)内で行えるように構成されている。
【0166】
具体的には、成膜装置800は、チャンバー(真空チャンバー)811と、このチャンバー811内に設置され、可動板21(成膜対象物)を保持する基板ホルダー(成膜対象物保持部)812と、チャンバー811内に設置され、チャンバー811内に向かってイオンビームBを照射するイオン源(イオン供給部)815と、イオンビームBの照射により、金属原子と酸素原子とを含む金属酸化物(例えば、ITO)を発生させるターゲット(金属酸化物材料)816を保持するターゲットホルダー(ターゲット保持部)817とを有している。
【0167】
また、チャンバー811には、チャンバー811内に、脱離基303を構成する原子成分を含むガス(例えば、水素ガス)を供給するガス供給手段860と、チャンバー811内の排気をして圧力を制御する排気手段830とを有している。
なお、本実施形態では、基板ホルダー812は、チャンバー811の天井部に取り付けられている。この基板ホルダー812は、回動可能となっている。これにより、可動板21上に接合膜5aを均質かつ均一な厚さで成膜することができる。
【0168】
図19に示すように、イオン源(イオン銃)815は、開口(照射口)850が形成されたイオン発生室856と、イオン発生室856内に設けられたフィラメント857と、グリッド853、854と、イオン発生室856の外側に設置された磁石855とを有している。
また、図18に示すように、イオン発生室856には、その内部にガス(スパッタリング用ガス)を供給するガス供給源819が接続されている。
【0169】
このイオン源815では、イオン発生室856内に、ガス供給源819からガスを供給した状態で、フィラメント857を通電加熱すると、フィラメント857から電子が放出され、放出された電子が磁石855の磁場によって運動し、イオン発生室856内に供給されたガス分子と衝突する。これにより、ガス分子がイオン化する。このガスのイオンIは、グリッド853とグリッド854との間の電圧勾配により、イオン発生室856内から引き出されるとともに加速され、開口850を介してイオンビームBとしてイオン源815から放出(照射)される。
【0170】
イオン源815から照射されたイオンビームBは、ターゲット816の表面に衝突し、ターゲット816からは粒子(スパッタ粒子)が叩き出される。このターゲット816は、前述したような金属酸化物材料で構成されている。
この成膜装置800では、イオン源815は、その開口850がチャンバー811内に位置するように、チャンバー811の側壁に固定(設置)されている。なお、イオン源815は、チャンバー811から離間した位置に配置し、接続部を介してチャンバー811に接続した構成とすることもできるが、本実施形態のような構成とすることにより、成膜装置800の小型化を図ることができる。
【0171】
また、イオン源815は、その開口850が、基板ホルダー812と異なる方向、本実施形態では、チャンバー811の底部側を向くように設置されている。
なお、イオン源815の設置個数は、1つに限定されるものではなく、複数とすることもできる。イオン源815を複数設置することにより、接合膜5aの成膜速度をより速くすることができる。
【0172】
また、ターゲットホルダー817および基板ホルダー812の近傍には、それぞれ、これらを覆うことができる第1のシャッター820および第2のシャッター821が配設されている。
これらシャッター820、821は、それぞれ、ターゲット816、可動板21および接合膜5aが、不要な雰囲気等に曝されるのを防ぐためのものである。
【0173】
また、排気手段830は、ポンプ832と、ポンプ832とチャンバー811とを連通する排気ライン831と、排気ライン831の途中に設けられたバルブ833とで構成されており、チャンバー811内を所望の圧力に減圧し得るようになっている。
さらに、ガス供給手段860は、脱離基303を構成する原子成分を含むガス(例えば、水素ガス)を貯留するガスボンベ864と、ガスボンベ864からこのガスをチャンバー811に導くガス供給ライン861と、ガス供給ライン861の途中に設けられたポンプ862およびバルブ863とで構成されており、脱離基303を構成する原子成分を含むガスをチャンバー811内に供給し得るようになっている。
以上のような構成の成膜装置800を用いて、以下のようにして接合膜5aが形成される。
【0174】
ここでは、可動板21上に接合膜5aを成膜する方法について説明する。
まず、可動板21(母材2’)を用意し、この可動板21を成膜装置800のチャンバー811内に搬入し、基板ホルダー812に装着(セット)する。
次に、排気手段830を動作させ、すなわちポンプ832を作動させた状態でバルブ833を開くことにより、チャンバー811内を減圧状態にする。この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
【0175】
さらに、ガス供給手段860を動作させ、すなわちポンプ862を作動させた状態でバルブ863を開くことにより、チャンバー811内に脱離基303を構成する原子成分を含むガスを供給する。これにより、チャンバー内をかかるガスを含む雰囲気下(水素ガス雰囲気下)とすることができる。
脱離基303を構成する原子成分を含むガスの流量は、1〜100ccm程度であるのが好ましく、10〜60ccm程度であるのがより好ましい。これにより、金属原子および酸素原子の少なくとも一方に確実に脱離基303を導入することができる。
また、チャンバー811内の温度は、25℃以上であればよいが、25〜100℃程度であるのが好ましい。かかる範囲内に設定することにより、金属原子または酸素原子と、前記原子成分を含むガスとの反応が効率良く行われ、金属原子および酸素原子に確実に、前記原子成分を含むガスを導入することができる。
【0176】
次に、第2のシャッター821を開き、さらに第1のシャッター820を開いた状態にする。
この状態で、イオン源815のイオン発生室856内にガスを導入するとともに、フィラメント857に通電して加熱する。これにより、フィラメント857から電子が放出され、この放出された電子とガス分子が衝突することにより、ガス分子がイオン化する。
【0177】
このガスのイオンIは、グリッド853とグリッド854とにより加速されて、イオン源815から放出され、陰極材料で構成されるターゲット816に衝突する。これにより、ターゲット816から金属酸化物(例えば、ITO)の粒子が叩き出される。このとき、チャンバー811内が脱離基303を構成する原子成分を含むガスを含む雰囲気下(例えば、水素ガス雰囲気下)であることから、チャンバー811内に叩き出された粒子に含まれる金属原子および酸素原子に脱離基303が導入される。そして、この脱離基303が導入された金属酸化物が可動板21上に堆積することにより、接合膜5aが形成される。
【0178】
なお、本実施形態で説明したイオンビームスパッタリング法では、イオン源815のイオン発生室856内で、放電が行われ、電子eが発生するが、この電子eは、グリッド853により遮蔽され、チャンバー811内への放出が防止される。
さらに、イオンビームBの照射方向(イオン源815の開口850)がターゲット816(チャンバー811の底部側と異なる方向)に向いているので、イオン発生室856内で発生した紫外線が、成膜された接合膜5aに照射されるのがより確実に防止されて、接合膜5aの成膜中に導入された脱離基303が脱離するのを確実に防止することができる。
以上のようにして、ほぼ全体にわたって脱離基303が存在する接合膜5aを成膜することができる。
【0179】
<B> 一方、Bの方法では、接合膜5aは、上記のように、金属原子と酸素原子とを含む金属酸化物膜を成膜した後、この金属酸化物膜の表面付近に含まれる金属原子および酸素原子の少なくとも一方に脱離基303を導入することにより形成される。かかる方法によれば、比較的簡単な工程で、金属酸化物膜の表面付近に脱離基303を偏在させた状態で導入することができ、接合膜および金属酸化物膜としての双方の特性に優れた接合膜5aを形成することができる。
【0180】
ここで、金属酸化物膜は、いかなる方法で成膜されたものでもよく、例えば、PVD法(物理的気相成膜法)、CVD法(化学的気相成膜法)、プラズマ重合法のような各種気相成膜法や、各種液相成膜法等により成膜することができるが、中でも、特に、PVD法により成膜するのが好ましい。PVD法によれば、緻密で均質な金属酸化物膜を効率よく成膜することができる。
【0181】
また、PVD法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法およびレーザーアブレーション法等が挙げられるが、中でも、スパッタリング法を用いるのが好ましい。スパッタリング法によれば、金属原子と酸素原子との結合が切断することなく、雰囲気中に金属酸化物の粒子を叩き出して、可動板21上に供給することができるため、特性に優れた金属酸化物膜を成膜することができる。
【0182】
さらに、金属酸化物膜の表面付近に脱離基303を導入する方法としては、各種方法が用いられ、例えば、B1:脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気下で金属酸化物膜を熱処理(アニーリング)する方法、B2:イオン・インプランテーション等が挙げられるが、中でも、特に、B1の方法を用いるのが好ましい。B1の方法によれば、比較的容易に、脱離基303を金属酸化物膜の表面付近に選択的に導入することができる。また、熱処理を施す際の、雰囲気温度や処理時間等の処理条件を適宜設定することにより、導入する脱離基303の量、さらには脱離基303が導入される金属酸化物膜の厚さの制御を的確に行うことができる。
【0183】
以下、金属酸化物膜をスパッタリング法(イオンビームスパッタリング法)により成膜し、次に、得られた金属酸化物膜を、脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気下で熱処理(アニーリング)することにより、接合膜5aを得る場合を代表に説明する。
なお、Bの方法を用いて接合膜5aの成膜する場合も、Aの方法を用いて接合膜5aを成膜する際に用いられる成膜装置800と同様の成膜装置が用いられるため、成膜装置に関する説明は省略する。
【0184】
[i] まず、可動板21を用意する。そして、この可動板21を成膜装置800のチャンバー811内に搬入し、基板ホルダー812に装着(セット)する。
[ii] 次に、排気手段830を動作させ、すなわちポンプ832を作動させた状態でバルブ833を開くことにより、チャンバー811内を減圧状態にする。この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
また、このとき、加熱手段を動作させ、チャンバー811内を加熱する。チャンバー811内の温度は、25℃以上であればよいが、25〜100℃程度であるのが好ましい。かかる範囲内に設定することにより、膜密度の高い金属酸化物膜を成膜することができる。
【0185】
[iii] 次に、第2のシャッター821を開き、さらに第1のシャッター820を開いた状態にする。
この状態で、イオン源815のイオン発生室856内にガスを導入するとともに、フィラメント857に通電して加熱する。これにより、フィラメント857から電子が放出され、この放出された電子とガス分子が衝突することにより、ガス分子がイオン化する。
【0186】
このガスのイオンIは、グリッド853とグリッド854とにより加速されて、イオン源815から放出され、陰極材料で構成されるターゲット816に衝突する。これにより、ターゲット816から金属酸化物(例えば、ITO)の粒子が叩き出され、可動板21上に堆積して、金属原子と、この金属原子に結合する酸素原子とを含む金属酸化物膜が形成される。
【0187】
なお、本実施形態で説明したイオンビームスパッタリング法では、イオン源815のイオン発生室856内で、放電が行われ、電子eが発生するが、この電子eは、グリッド853により遮蔽され、チャンバー811内への放出が防止される。
さらに、イオンビームBの照射方向(イオン源815の開口850)がターゲット816(チャンバー811の底部側と異なる方向)に向いているので、イオン発生室856内で発生した紫外線が、成膜された接合膜5aに照射されるのがより確実に防止されて、接合膜5aの成膜中に導入された脱離基303が脱離するのを確実に防止することができる。
【0188】
[iv] 次に、第2のシャッター821を開いた状態で、第1のシャッター820を閉じる。
この状態で、加熱手段を動作させ、チャンバー811内をさらに加熱する。チャンバー811内の温度は、金属酸化物膜の表面に効率良く脱離基303が導入される温度に設定され、100〜600℃程度であるのが好ましく、150〜300℃程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、次工程[v]において、可動板21および金属酸化物膜を変質・劣化させることなく、金属酸化物膜の表面に効率良く脱離基303を導入することができる。
【0189】
[v] 次に、ガス供給手段860を動作させ、すなわちポンプ862を作動させた状態でバルブ863を開くことにより、チャンバー811内に脱離基303を構成する原子成分を含むガスを供給する。これにより、チャンバー811内をかかるガスを含む雰囲気下(水素ガス雰囲気下)とすることができる。
このように、前記工程[iv]でチャンバー811内が加熱された状態で、チャンバー811内を、脱離基303を構成する原子成分を含むガスを含む雰囲気下(例えば、水素ガス雰囲気下)とすると、金属酸化物膜の表面付近に存在する金属原子および酸素原子の少なくとも一方に脱離基303が導入されて、接合膜5aが形成される。
脱離基303を構成する原子成分を含むガスの流量は、1〜100ccm程度であるのが好ましく、10〜60ccm程度であるのがより好ましい。これにより、金属原子および酸素原子の少なくとも一方に確実に脱離基303を導入することができる。
【0190】
なお、チャンバー811内は、前記工程[ii]において、排気手段830を動作させることにより調整された減圧状態を維持しているのが好ましい。これにより、金属酸化物膜の表面付近に対する脱離基303の導入をより円滑に行うことができる。また、前記工程[ii]の減圧状態を維持したまま、本工程においてチャンバー811内を減圧する構成とすることにより、再度減圧する手間が省けることから、成膜時間および成膜コスト等の削減を図ることができるという利点も得られる。
【0191】
この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
また、熱処理を施す時間は、15〜120分程度であるのが好ましく、30〜60分程度であるのがより好ましい。
【0192】
導入する脱離基303の種類等によっても異なるが、熱処理を施す際の条件(チャンバー811内の温度、真空度、ガス流量、処理時間)を上記範囲内に設定することにより、金属酸化物膜の表面付近に脱離基303を選択的に導入することができる。
以上のようにして、表面51付近に脱離基303が偏在する接合膜5aを成膜することができる。
以上のような本実施形態にかかるアクチュエータにおいても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0193】
<第7実施形態>
次に、本発明のアクチュエータの第7実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、各接合膜の構成が異なること以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかるアクチュエータは、各接合膜5a、5b、6a、6bがそれぞれエネルギ付与前の状態で、金属原子と、有機成分で構成される脱離基303を含むものである。
このような各接合膜5a、5b、6a、6bは、エネルギが付与されると、脱離基303が各接合膜5a、5b、6a、6bから脱離し、各接合膜5a、5b、6a、6bの少なくとも表面付近に、活性手304が生じるものである。そして、これにより、各接合膜5a、5b、6a、6bの表面に、前記第2実施形態と同様の接着性が発現する。
【0194】
以下、本実施形態にかかる各接合膜5a、5b、6a、6bについて説明するが、これらの構成は共通であるため、接合膜5aを代表に説明する。
接合膜5aは、可動板21上に設けられ、金属原子と、有機成分で構成される脱離基303を含むものである。
このような接合膜5aは、エネルギが付与されると、脱離基303の結合手が切れて接合膜5aの少なくとも表面51付近から脱離し、図17に示すように、接合膜5aの少なくとも表面51付近に、活性手304が生じるものである。そして、これにより、接合膜5aの表面51に接着性が発現する。かかる接着性が発現すると、接合膜5aを備えた可動板21は、磁石212に対して、高い寸法精度で強固に効率よく接合可能なものとなる。
【0195】
また、接合膜5aは、金属原子と、有機成分で構成される脱離基303とを含むもの、すなわち有機金属膜であることから、変形し難い強固な膜となる。このため、接合膜5a自体が寸法精度の高いものとなり、最終的に得られるアクチュエータ1においても、寸法精度が高いものが得られる。
このような接合膜5aは、流動性を有さない固体状をなすものである。このため、従来から用いられている、流動性を有する液状または粘液状(半固形状)の接着剤に比べて、接着層(接合膜5a)の厚さや形状がほとんど変化しない。したがって、このような接合膜5aを用いて得られたアクチュエータ1の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
【0196】
また、本発明では、接合膜5aは、導電性を有するものであるのが好ましい。これにより、アクチュエータ1において、意図しない帯電を抑制または防止することができる。なお、接合膜(接合膜6b)が導電性を有する場合、接合膜6bと当該接合膜6bに接合されるコイル4とは、これらの間に絶縁膜が介在し、絶縁されている。これにより、コイル4に通電した際に短絡が生じるのを防止することができる。前記絶縁膜は、コイル4を構成する素線の外周に形成されている。また、絶縁膜の構成材料としては、絶縁性を有していれば特に限定されないが、樹脂等が挙げられる。
以上のような接合膜5aとしての機能が好適に発揮されるように、金属原子および脱離基303が選択される。
【0197】
具体的には、金属原子としては、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、各種ランタノイド元素、各種アクチノイド元素のような遷移金属元素、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Rb、Sr、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Tl、Pd、Bi、Poのような典型金属元素等が挙げられる。
【0198】
ここで、遷移金属元素は、各遷移金属元素間で、最外殻電子の数が異なることのみの差異であるため、物性が類似している。そして、遷移金属は、一般に、硬度や融点が高く、電気伝導性および熱伝導性が高い。このため、金属原子として遷移金属元素を用いた場合、接合膜5aに発現する接着性をより高めることができる。また、それとともに、接合膜5aの導電性をより高めることができる。
【0199】
また、金属原子として、Cu、Al、ZnおよびFeのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いた場合、接合膜5aは、優れた導電性を発揮するものとなる。また、接合膜5aを後述する有機金属化学気相成長法を用いて成膜する場合には、これらの金属を含む金属錯体等を原材料として用いて、比較的容易かつ均一な膜厚の接合膜5aを成膜することができる。
【0200】
また、脱離基303は、前述したように、接合膜5aから脱離することにより、接合膜5aに活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギが付与されないときには、脱離しないよう接合膜5aに確実に結合しているものが好適に選択される。
【0201】
具体的には、脱離基303としては、炭素原子を必須成分とし、水素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子およびハロゲン原子のうちの少なくとも1種を含む原子団が好適に選択される。かかる脱離基303は、エネルギの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜5aの接着性をより高度なものとすることができる。
より具体的には、原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、カルボキシル基の他、前記アルキル基の末端がイソシアネート基、アミノ基およびスルホン酸基等で終端しているもの等が挙げられる。
以上のような原子団の中でも、脱離基303は、特に、アルキル基であるのが好ましい。アルキル基で構成される脱離基303は、化学的な安定性が高いため、脱離基303としてアルキル基を備える接合膜5aは、耐候性に優れたものとなる。
【0202】
また、かかる構成の接合膜5aにおいて、金属原子と酸素原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。金属原子と炭素原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜5aの安定性が高くなり、可動板21と磁石212とをより強固に接合することができるようになる。また、接合膜5aを優れた導電性を発揮するものとすることができる。
【0203】
また、接合膜5aの平均厚さは、1〜1000nm程度であるのが好ましく、50〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜5aの平均厚さを前記範囲内とすることにより、アクチュエータ1の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、可動板21と磁石212とをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜5aの平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜5aの平均厚さが前記上限値を上回った場合は、アクチュエータ1の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
【0204】
さらに、接合膜5aの平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜5aにある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、可動板21の接合面(接合膜5aを成膜する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜5aを被着させることができる。その結果、接合膜5aは、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、可動板21と磁石212とを貼り合わせた際に、接合膜5aの磁石212に対する密着性を高めることができる。
【0205】
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜5aの厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜5aの厚さをできるだけ厚くすればよい。
また、接合膜5aは、磁性を有するものであるのが好ましい。これにより、磁石212との接合強度が向上する。
【0206】
以上説明したような接合膜5aは、いかなる方法で成膜してもよいが、例えば、IIa:金属原子で構成される金属膜に、脱離基(有機成分)303を含む有機物を、金属膜のほぼ全体または表面付近に選択的に付与(化学修飾)して接合膜5aを形成する方法、IIb:金属原子と、脱離基(有機成分)303を含む有機物とを有する有機金属材料を原材料として有機金属化学気相成長法を用いて接合膜5aを形成する方法(積層させる方法あるいは、単原子層からなる接合層を形成)、IIc:金属原子と脱離基303を含む有機物とを有する有機金属材料を原材料として適切な溶媒に溶解させスピンコート法などを用いて接合膜を形成する方法等が挙げられる。これらの中でも、IIbの方法により接合膜5aを成膜するのが好ましい。かかる方法によれば、比較的簡単な工程で、かつ、均一な膜厚の接合膜5aを形成することができる。
【0207】
以下、IIbの方法、すなわち金属原子と、脱離基(有機成分)303を含む有機物とを有する有機金属材料を原材料として有機金属化学気相成長法を用いて接合膜5aを形成する方法により、接合膜5aを得る場合を代表的に説明する。
まず、接合膜5aの成膜方法を説明するのに先立って、接合膜5aを成膜する際に用いられる成膜装置400について説明する。
【0208】
図20は、本実施形態において、接合膜の作製に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図20中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図20に示す成膜装置400は、可動板21(母材2’)に対する、有機金属化学気相成長法(以下、「MOCVD法」と省略することもある。)による接合膜5a(接合膜5’)の形成をチャンバー411内で行えるように構成されている。
【0209】
具体的には、成膜装置400は、チャンバー(真空チャンバー)411と、このチャンバー411内に設置され、可動板21(成膜対象物)を保持する基板ホルダー(成膜対象物保持部)412と、チャンバー411内に、気化または霧化した有機金属材料を供給する有機金属材料供給手段460と、チャンバー411内を低還元性雰囲気下とするためのガスを供給するガス供給手段470と、チャンバー411内の排気をして圧力を制御する排気手段430と、基板ホルダー412を加熱する加熱手段(図示せず)とを有している。
【0210】
基板ホルダー412は、本実施形態では、チャンバー411の底部に取り付けられている。この基板ホルダー412は、モータの作動により回動可能となっている。これにより、可動板21上に接合膜5aを均質かつ均一な厚さで成膜することができる。
また、基板ホルダー412の近傍には、それぞれ、これらを覆うことができるシャッター421が配設されている。このシャッター421は、可動板21および接合膜5aが不要な雰囲気等に曝されるのを防ぐためのものである。
【0211】
有機金属材料供給手段460は、チャンバー411に接続されている。この有機金属材料供給手段460は、固形状の有機金属材料を貯留する貯留槽462と、気化または霧化した有機金属材料をチャンバー411内に送気するキャリアガスを貯留するガスボンベ465と、キャリアガスと気化または霧化した有機金属材料をチャンバー411内に導くガス供給ライン461と、ガス供給ライン461の途中に設けられたポンプ464およびバルブ463とで構成されている。かかる構成の有機金属材料供給手段460では、貯留槽462は、加熱手段を有しており、この加熱手段の作動により固形状の有機金属材料を加熱して気化し得るようになっている。そのため、バルブ463を開放した状態で、ポンプ464を作動させて、キャリアガスをガスボンベ465から貯留槽462に供給すると、このキャリアガスとともに気化または霧化した有機金属材料が、供給ライン461内を通過してチャンバー411内に供給されるようになっている。
【0212】
なお、キャリアガスとしては、特に限定されず、例えば、窒素ガス、アルゴンガスおよびヘリウムガス等が好適に用いられる。
また、本実施形態では、ガス供給手段470がチャンバー411に接続されている。ガス供給手段470は、チャンバー411内を低還元性雰囲気下とするためのガスを貯留するガスボンベ475と、前記低還元性雰囲気下とするためのガスをチャンバー411内に導くガス供給ライン471と、ガス供給ライン471の途中に設けられたポンプ474およびバルブ473とで構成されている。かかる構成のガス供給手段470では、バルブ473を開放した状態で、ポンプ474を作動させると、前記低還元性雰囲気下とするためのガスが、ガスボンベ475から、供給ライン471を介して、チャンバー411内に供給されるようになっている。ガス供給手段470をかかる構成とすることにより、チャンバー411内を有機金属材料に対して確実に低還元な雰囲気とすることができる。その結果、有機金属材料を原材料としてMOCVD法を用いて接合膜5aを成膜する際に、有機金属材料に含まれる有機成分の少なくとも一部を脱離基303として残存させた状態で接合膜5aが成膜される。
【0213】
チャンバー411内を低還元性雰囲気下とするためのガスとしては、特に限定されないが、例えば、窒素ガスおよびヘリウム、アルゴン、キセノンのような希ガス、一酸化窒素、一酸化二窒素等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、有機金属材料として、後述する2,4−ペンタジオネート−銅(II)や[Cu(hfac)(VTMS)]等のように分子構造中に酸素原子を含有するものを用いる場合には、低還元性雰囲気下とするためのガスに、水素ガスを添加するのが好ましい。これにより、酸素原子に対する還元性を向上させることができ、接合膜5aに過度の酸素原子が残存することなく、接合膜5aを成膜することができる。その結果、この接合膜5aは、膜中における金属酸化物の存在率が低いものとなり、優れた導電性を発揮することとなる。
【0214】
また、キャリアガスとして前述した窒素ガス、アルゴンガスおよびヘリウムガスのうちの少なくとも1種を用いる場合には、このキャリアガスに低還元性雰囲気下とするためのガスとしての機能をも発揮させることができる。
また、排気手段430は、ポンプ432と、ポンプ432とチャンバー411とを連通する排気ライン431と、排気ライン431の途中に設けられたバルブ433とで構成されており、チャンバー411内を所望の圧力に減圧し得るようになっている。
以上のような構成の成膜装置400を用いてMOCVD法により、以下のようにして可動板21上に接合膜5aが形成される。
【0215】
[i] まず、可動板21(母材2’)を用意する。そして、この可動板21を成膜装置400のチャンバー411内に搬入し、基板ホルダー412に装着(セット)する。
[ii] 次に、排気手段430を動作させ、すなわちポンプ432を作動させた状態でバルブ433を開くことにより、チャンバー411内を減圧状態にする。この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
【0216】
また、ガス供給手段470を動作させ、すなわちポンプ474を作動させた状態でバルブ473を開くことにより、チャンバー411内に、低還元性雰囲気下とするためのガスを供給して、チャンバー411内を低還元性雰囲気下とする。ガス供給手段470による前記ガスの流量は、特に限定されないが、0.1〜10sccm程度であるのが好ましく、0.5〜5sccm程度であるのがより好ましい。
【0217】
さらに、このとき、加熱手段を動作させ、基板ホルダー412を加熱する。基板ホルダー412の温度は、形成する接合膜5aの種類、すなわち、接合膜5aを形成する際に用いる原材料の種類によっても若干異なるが、80〜600℃程度であるのが好ましく、100〜450℃程度であるのがより好ましく、200〜300℃程度であるのがさらに好ましい。かかる範囲内に設定することにより、後述する有機金属材料を用いて、優れた接着性を有する接合膜5aを成膜することができる。
【0218】
[iii] 次に、シャッター421を開いた状態にする。
そして、固形状の有機金属材料を貯留された貯留槽462が備える加熱手段を動作させることにより、有機金属材料を気化させた状態で、ポンプ464を動作させるとともに、バルブ463を開くことにより、気化または霧化した有機金属材料をキャリアガスとともにチャンバー内に導入する。
【0219】
このように、前記工程[ii]で基板ホルダー412が加熱された状態で、チャンバー411内に、気化または霧化した有機金属材料を供給すると、可動板21上で有機金属材料が加熱されることにより、有機金属材料中に含まれる有機物の一部が残存した状態で、可動板21上に接合膜5aを形成することができる。
すなわち、MOCVD法によれば、有機金属材料に含まれる有機物の一部が残存するように金属原子を含む膜を形成すれば、この有機物の一部が脱離基303としての機能を発揮する接合膜5aを可動板21上に形成することができる。
【0220】
このようなMOCVD法に用いられる、有機金属材料としては、特に限定されないが、例えば、2,4−ペンタジオネート−銅(II)、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)、トリス(4−メチル−8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq)、(8−ヒドロキシキノリン)亜鉛(Znq)、銅フタロシアニン、Cu(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)(ビニルトリメチルシラン)[Cu(hfac)(VTMS)]、Cu(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)(2−メチル−1−ヘキセン−3−エン)[Cu(hfac)(MHY)]、Cu(パーフルオロアセチルアセトネート)(ビニルトリメチルシラン)[Cu(pfac)(VTMS)]、Cu(パーフルオロアセチルアセトネート)(2−メチル−1−ヘキセン−3−エン)[Cu(pfac)(MHY)]等、各種遷移金属元素を含んだアミド系、アセチルアセトネート系、アルコキシ系、シリコンを含むシリル系、カルボキシル基をもつカルボニル系のような金属錯体、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、ジエチル亜鉛のようなアルキル金属や、その誘導体等が挙げられる。これらの中でも、有機金属材料としては、金属錯体であるのが好ましい。金属錯体を用いることにより、金属錯体中に含まれる有機物の一部を残存した状態で、接合膜5aを確実に形成することができる。
【0221】
また、本実施形態では、ガス供給手段470を動作させることにより、チャンバー411内を低還元性雰囲気下となっているが、このような雰囲気下とすることにより、可動板21上に純粋な金属膜が形成されることなく、有機金属材料中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で成膜することができる。すなわち、接合膜および金属膜としての双方の特性に優れた接合膜5aを形成することができる。
【0222】
気化または霧化した有機金属材料の流量は、0.1〜100ccm程度であるのが好ましく、0.5〜60ccm程度であるのがより好ましい。これにより、均一な膜厚で、かつ、有機金属材料中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で、接合膜5aを成膜することができる。
以上のように、接合膜5aを成膜した際に膜中に残存する残存物を脱離基303として用いる構成とすることにより、形成した金属膜等に脱離基を導入する必要がなく、比較的簡単な工程で接合膜5aを成膜することができる。
【0223】
なお、有機金属材料を用いて形成された接合膜5aに残存する前記有機物の一部は、その全てが脱離基303として機能するものであってもよいし、その一部が脱離基303として機能するものであってもよい。
以上のようにして、接合膜5aを成膜することができる。
以上のような本実施形態にかかるアクチュエータ1においても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0224】
以上、本発明のアクチュエータおよび画像形成装置を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、アクチュエータおよび画像形成装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
また、本発明のアクチュエータおよび画像形成装置は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【0225】
また、前記第4実施形態のアクチュエータは、前記第3実施形態のように、各駆動板にそれぞれ2つの軟磁性体が接合された構成であってもよい。
また、前記第4実施形態では、可動板にも磁性体が配置されていてもよい。
また、接合膜は、それを成膜する際、可動板および磁性体のうちの可動板に成膜されるが、これに限定されず、例えば、可動板および磁性体の双方に成膜されていてもよいし、コイルに成膜されていてもよい。
【0226】
また、アクチュエータは、可動板がその面と平行な1つの回動軸(第1の回動軸)回りに回動するよう構成されているが、これに限定されず、さらに、可動板の面と平行であり、かつ、前記第1の回動軸と直交する第2の回動軸回りにも回動するよう構成されていてもよい。
また、可動板や駆動板の平面視での形状は、長方形であるが、これに限定されず、例えば、正方形、六角形、円形、楕円形、長円形等であってもよい。
【0227】
また、前記第3実施形態では、アクチュエータは、可動板に2つの軟磁性体が接合された構成となっているが、これに限定されず、例えば、可動板に2つの磁石が接合された構成となっていてもよい。
また、コイルは、平面的に巻回されたものに限定されず、例えば、立体的に(基体の厚さ方向の軸回りに)巻回されたものであってもよい。
また、通電によって磁界が発生する導体は、円形電流が生じるもの(コイル)に限定されず、直線電流が生じるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0228】
【図1】本発明のアクチュエータの第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示すアクチュエータの平面図である。
【図3】図2中のA−A線断面図である。
【図4】図1に示すアクチュエータにおける接合膜のエネルギ付与前の状態を示す部分拡大図である。
【図5】図1に示すアクチュエータにおける接合膜のエネルギ付与後の状態を示す部分拡大図である。
【図6】図1に示すアクチュエータの製造方法(製造工程)を説明するための図である。
【図7】図1に示すアクチュエータの製造方法(製造工程)を説明するための図である。
【図8】図1に示すアクチュエータの製造方法(製造工程)を説明するための図である。
【図9】図1に示すアクチュエータにおける接合膜の作製に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す図である。
【図10】本発明のアクチュエータの第2実施形態を示す横断面図である。
【図11】本発明のアクチュエータの第3実施形態を示す平面図である。
【図12】図11中のB−B線断面図である。
【図13】本発明のアクチュエータの第4実施形態を示す平面図である。
【図14】図13中のC−C線断面図である。
【図15】本発明のアクチュエータの第5実施形態を示す横断面図である。
【図16】本発明のアクチュエータ(第6実施形態)における接合膜のエネルギ付与前の状態を示す部分拡大図である。
【図17】本発明のアクチュエータ(第6実施形態)における接合膜のエネルギ付与後の状態を示す部分拡大図である。
【図18】接合膜の作製に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図である。
【図19】図18に示す成膜装置が備えるイオン源の構成を示す模式図である。
【図20】接合膜の作製に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図である。
【図21】本発明の画像形成装置(プリンタ)の一例を示す全体構成の模式的断面図である。
【図22】図21に示す画像形成装置に備えられた露光ユニットの概略構成を示す図である。
【図23】本発明の画像形成装置(イメージングディスプレイ)の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0229】
1、1A、1B、1C、1D…アクチュエータ 2…基体 2’…母材 20…振動系(振動部) 21…可動板 211…光反射部(ミラー) 212…永久磁石(磁石) 212a、212b…軟磁性体 213…軟磁性体 214…ヨーク 215…回動軸 22、23…軸部材 24…支持部 243…開口部 25a、25b…駆動板 3…支持体 31…枠状体 31’…母材 311…開口部 32…基板 4、4a、4b…コイル(導体) 5a、5b、5’、6a、6b、6’…接合膜 51…表面 110、119…画像形成装置 111…感光体 112…帯電ユニット 113…露光ユニット 114…現像ユニット 115…転写ユニット 116…クリーニングユニット 117…給紙トレイ 118…定着装置 131…レーザ光源 132…コリメータレンズ 133…fθレンズ 141、142、143、144…現像装置 145…保持体 146…軸 151…中間転写ベルト 152…一次転写ローラ 153…従動ローラ 154…駆動ローラ 155…二次転写ローラ 161…クリーニングブレード 171…給紙ローラ 172…レジローラ 173…排紙ローラ対 174、176…搬送ローラ対 175…搬送路 191、192、193…光源 194…クロスダイクロイックプリズム 195…ガルバノミラー 196…固定ミラー 197…スクリーン 301…Si骨格 302…シロキサン(Si−O)結合 303…脱離基 304…活性手 400…成膜装置 411…チャンバー 412…基板ホルダー 421…シャッター 430…排気手段 431…排気ライン 432…ポンプ 433…バルブ 460…有機金属材料供給手段 461…ガス供給ライン 462…貯留槽 463…バルブ 464…ポンプ 465…ガスボンベ 470…ガス供給手段 471…ガス供給ライン 473…バルブ 474…ポンプ 475…ガスボンベ 800…成膜装置 811…チャンバー 812…基板ホルダー 815…イオン源 816…ターゲット 817…ターゲットホルダー 819…ガス供給源 820…第1のシャッター 821…第2のシャッター 830…排気手段 831…排気ライン 832…ポンプ 833…バルブ 850…開口 853、854…グリッド 855…磁石 856…イオン発生室 857…フィラメント 860…ガス供給手段 861…ガス供給ライン 862…ポンプ 863…バルブ 864…ガスボンベ 900…プラズマ重合装置 901…チャンバー 902…接地線 903…供給口 904…排気口 930…第1の電極 939…静電チャック 940…第2の電極 970…排気ポンプ 971…圧力制御機構 980…電源回路 982…高周波電源 983…マッチングボックス 984…配線 990…ガス供給部 991…貯液部 992…気化装置 993…ガスボンベ 994…配管 995…拡散板 B…イオンビーム L…レーザ光 P…記録媒体 Y…軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状をなす可動板と、該可動板を介して互いに対向配置され、前記可動板に連結されて、前記可動板をその面と平行な軸回りに回動可能に支持する一対の連結部とを有する振動部と、
前記可動板を前記軸回りに回動させる駆動手段とを備え、
前記駆動手段は、通電により磁界を発生させる導体と、前記導体の近傍に該導体から離間して配置され、前記導体で発生した磁界から力を受ける少なくとも1つの磁性体とを有し、
前記磁性体は、前記振動部に接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記振動部と前記磁性体とを接合していることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記接合膜を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%である請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3である請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記Si骨格の結晶化度は、45%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記脱離基は、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子が前記Si骨格に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものである請求項1ないし4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記脱離基は、アルキル基である請求項5に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記接合膜は、プラズマ重合法により形成されたものである請求項1ないし6のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されている請求項7に記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものである請求項8に記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmである請求項1ないし9のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項11】
前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものである請求項1ないし10のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項12】
前記振動部の前記接合膜と接している面には、予め、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されている請求項1ないし11のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項13】
前記磁性体の前記接合膜と接している面には、予め、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されている請求項1ないし12のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項14】
前記表面処理は、プラズマ処理である請求項12または13に記載のアクチュエータ。
【請求項15】
前記振動部と前記接合膜との間に、中間層を有する請求項1ないし14のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項16】
前記磁性体と前記接合膜との間に、中間層を有する請求項1ないし15のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項17】
前記中間層は、酸化物系材料を主材料として構成されている請求項15または16に記載のアクチュエータ。
【請求項18】
前記エネルギの付与は、前記接合膜にエネルギ線を照射する方法、前記接合膜を加熱する方法、および、前記接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行われる請求項1ないし17のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項19】
前記エネルギ線は、波長150〜300nmの紫外線である請求項18に記載のアクチュエータ。
【請求項20】
前記加熱の温度は、25〜100℃である請求項18または19に記載のアクチュエータ。
【請求項21】
前記圧縮力は、0.2〜10MPaである請求項18ないし20のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項22】
板状をなす可動板と、該可動板を介して互いに対向配置され、前記可動板に連結されて、前記可動板をその面と平行な軸回りに回動可能に支持する一対の連結部とを有する振動部と、
前記可動板を前記軸回りに回動させる駆動手段とを備え、
前記駆動手段は、通電により磁界を発生させる導体と、前記導体の近傍に該導体から離間して配置され、前記導体で発生した磁界から力を受ける少なくとも1つの磁性体とを有し、
前記磁性体は、前記振動部と接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、金属原子と、該金属原子に結合する酸素原子と、前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方に結合する脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記振動部と前記磁性体とを接合していることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項23】
板状をなす可動板と、該可動板を介して互いに対向配置され、前記可動板に連結されて、前記可動板をその面と平行な軸回りに回動可能に支持する一対の連結部とを有する振動部と、
前記可動板を前記軸回りに回動させる駆動手段とを備え、
前記駆動手段は、通電により磁界を発生させる導体と、前記導体の近傍に該導体から離間して配置され、前記導体で発生した磁界から力を受ける少なくとも1つの磁性体とを有し、
前記磁性体は、前記振動部と接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記接合膜から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記振動部と前記磁性体とを接合していることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項24】
前記振動部は、シリコン材料を主材料として構成されている請求項1ないし23のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項25】
前記磁性体は、永久磁石および軟磁性体材料のうちの少なくとも一方である請求項1ないし24のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項26】
前記各連結部は、それぞれ、棒状をなし、その一端部が前記可動板の縁部に連結された軸部材で構成されている請求項1ないし25のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項27】
前記磁性体は、前記可動板の片面に設置されている請求項26に記載のアクチュエータ。
【請求項28】
複数の前記磁性体が、前記可動板の回動軸を介して、対をなすように配置されている請求項27に記載のアクチュエータ。
【請求項29】
前記各連結部は、それぞれ、棒状をなし、その一端部が前記可動板の縁部に連結された軸部材と、該軸部材の途中に設けられ、板状をなす駆動板とで構成されている請求項1ないし28のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項30】
前記磁性体は、前記各駆動板の片面または両面に設置されている請求項29に記載のアクチュエータ。
【請求項31】
前記磁性体は、その前記接合膜に接合される部分が平面状をなしている請求項1ないし30のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項32】
前記接合膜は、平面視で前記磁性体を包含する領域に形成されている請求項1ないし31のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項33】
前記接合膜は、平面視で前記磁性体の外形形状と同じ形状となるように形成されている請求項1ないし31のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項34】
前記導体は、平面視で前記磁性体を包囲するリング状をなすものである請求項1ないし33のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項35】
前記導体は、コイル状をなすものである請求項1ないし34のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項36】
前記可動板に設けられ、光を反射する光反射部をさらに備える請求項1ないし35のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項37】
前記光反射部で反射した光を走査する光スキャナである請求項36に記載のアクチュエータ。
【請求項38】
請求項1ないし37のいずれかに記載のアクチュエータと、
前記アクチュエータの前記可動板に向けて光を照射する光源とを備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2009−134194(P2009−134194A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311793(P2007−311793)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】