キャンバ角制御装置
【課題】走行する車両の安全性を確保することができるキャンバ角制御装置を提供すること。
【解決手段】キャンバ角付与装置4が故障し、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方のキャンバ角が異なると、車両1は、スラスト力の強い方向へ旋回させられるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれ安全性が低下してしまう。車両用制御装置100によれば、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように制御するので、その結果、双方の車輪2のスラスト力が等しくなり、車両1においてスラスト力が均衡することとなる。すなわち、車両1が旋回させられる力が抑制されるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することができる。よって、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【解決手段】キャンバ角付与装置4が故障し、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方のキャンバ角が異なると、車両1は、スラスト力の強い方向へ旋回させられるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれ安全性が低下してしまう。車両用制御装置100によれば、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように制御するので、その結果、双方の車輪2のスラスト力が等しくなり、車両1においてスラスト力が均衡することとなる。すなわち、車両1が旋回させられる力が抑制されるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することができる。よって、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられる複数の車輪のキャンバ角を制御するキャンバ角制御装置に関し、特に、走行する車両の安全性を確保することができるキャンバ角制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の走行状態に応じて各車輪のキャンバ角(車輪中心と走行路面とがなす角度)を調整し、車両の旋回性能などを向上させるキャンバ角制御装置が知られている。この種のキャンバ角制御装置に関し、次の特許文献1には、一の車輪にキャンバ角を調整するアクチュエータを複数配設しておき、その車輪において何れかのアクチュエータが故障した場合に、他の正常なアクチュエータによって故障したアクチュエータの機能を代替させて、車両を安全に走行させる技術が開示されている。
【特許文献1】特許第3563351号公報(第0024段落など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されたキャンバ角制御装置では、一の車輪に配設されたアクチュエータが全て故障した場合、その車輪のキャンバ角が制御できなくなり、例えば、前輪や後輪において双方の車輪のキャンバ角が異なるという状態が生じる。車輪にキャンバ角が付与されている場合、車輪には付与されたキャンバ角に応じて車両を旋回させるスラスト力が発生する。よって、双方の車輪のスラスト力が異なった状態で車両を走行させると、車両はスラスト力の大きい方向へ旋回させられるため、車両の直進性や旋回性が損なわれ安全性が低下するという問題点があった。
【0004】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、走行する車両の安全性を確保することができるキャンバ角制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために請求項1記載のキャンバ角制御装置は、車両の車輪にキャンバ角を付与するキャンバ角付与装置を作動させ、前記車両に設けられる複数の車輪のキャンバ角を制御するものであって、前記キャンバ角付与装置に異常があるか否かを前記車輪毎に判定する異常判定手段と、その異常判定手段により異常があると判定された場合、前記異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、前記異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する第1のフェールセーフ制御手段とを備えている。
【0006】
請求項2記載のキャンバ角制御装置は、請求項1記載のキャンバ角制御装置において、前記各車輪に付与するキャンバ角の指令値を取得するキャンバ角指令値取得手段と、そのキャンバ角指令値取得手段により取得された指令値に基づいて、前記キャンバ角付与装置を作動させ前記各車輪のキャンバ角を制御するキャンバ角制御手段と、そのキャンバ角制御手段により制御された前記各車輪のキャンバ角を検出するキャンバ角検出手段とを備え、前記異常判定手段は、前記キャンバ角指令値取得手段により取得され各車輪に付与されたキャンバ角の指令値と、前記キャンバ角検出手段により検出された各車輪のキャンバ角とに基づいて、前記キャンバ角付与装置に異常があるか否かを前記車輪毎に判定する。
【0007】
請求項3記載のキャンバ角制御装置は、請求項1または2記載のキャンバ角制御装置において、前記車輪は、幅方向に並設された少なくとも第1トレッドと第2トレッドとを備えると共に、前記第1トレッドは前記第2トレッドに比してグリップ力の高い特性に構成されると共に、前記第2トレッドは前記第1トレッドに比して転がり抵抗の小さい特性に構成され、前記車両の最大走行速度を所定値に制限する車速制限手段と、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪のキャンバ角に基づいて、その車輪の第2トレッドが所定量以上接地しているかを判定する接地量判定手段と、その接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させる第2のフェールセーフ制御手段とを備えている。
【0008】
請求項4記載のキャンバ角制御装置は、請求項3記載のキャンバ角制御装置において、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が固定されるロック状態であるかを判定するロック判定手段と、前記第2のフェールセーフ制御手段は、前記異常があると判定された車輪において前記ロック判定手段により車輪の状態がロック状態であると判定され、且つ、前記接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させる。
【0009】
請求項5記載のキャンバ角制御装置は、請求項1から4のいずれかに記載のキャンバ角制御装置において、前記車輪は、幅方向に並設された少なくとも第1トレッドと第2トレッドとを備えると共に、前記第1トレッドは前記第2トレッドに比してグリップ力の高い特性に構成されると共に、前記第2トレッドは前記第1トレッドに比して転がり抵抗の小さい特性に構成され、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が前記指令値以外に調整される動作不良状態であるかを判定する動作不良判定手段と、その動作不良判定手段により前記異常があると判定された車輪の状態が動作不良状態であると判定された場合、前記異常があると判定された車輪において前記第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御し、前記異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、前記異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する第3のフェールセーフ制御手段とを備えている。
【0010】
請求項6記載のキャンバ角制御装置は、請求項1から5のいずれかに記載のキャンバ角制御装置において、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角を固定不能な遊動状態であるかを判定する遊動状態判定手段と、その遊動状態判定手段により前記異常があると判定された車輪の状態が前記遊動状態であると判定された場合、前記異常があると判定された車輪以外の全ての車輪において前記第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御する第4のフェールセーフ制御手段とを備えている。
【0011】
請求項7記載のキャンバ角制御装置は、請求項1から6のいずれかに記載のキャンバ角制御装置において、前記異常判定手段により異常があると判定された状態における前記車輪と路面との間の摩擦係数を推定する摩擦係数推定手段と、前記摩擦係数推定手段により推定された摩擦係数に基づいて前記車両の停止距離を算出する停止距離算出手段と、前記停止距離算出手段により算出された前記車両の停止距離が、前記車輪と路面との間の摩擦係数が最大となる状態における最大摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離に対し、所定値以下の差となるための前記車両の車速を算出する許容車速算出手段と、前記車速算出手段によって算出された車速以下に前記車両の最大走行速度を制限する前記第2の車速制限手段と、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載のキャンバ角制御装置によれば、第1のフェールセーフ制御手段は、異常判定手段によってキャンバ角付与装置に異常があると判定された場合に、異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する。キャンバ角付与装置によって車輪にキャンバ角が付与された場合、車輪にはキャンバ角に応じて車両を旋回させるスラスト力が発生するが、第1のフェール制御手段によって、複数の車輪のキャンバ角が等しくなるように制御されると、各車輪に生じるスラスト力が等しくなり、車両において各車輪のスラスト力が均衡するので、車両が旋回させられる力が抑制される。したがって、車両の直進性や旋回性が損なわれることが抑制されるので、走行する車両の安全性を確保することができるという効果がある。
【0013】
請求項2記載のキャンバ角制御装置によれば、請求項1記載のキャンバ角制御装置の奏する効果に加え、異常判定手段は、キャンバ角指令値取得手段により取得され各車輪に付与されたキャンバ角の指令値と、キャンバ角検出手段により検出された各車輪のキャンバ角とに基づいて、キャンバ角付与装置に異常があるか否かを車輪毎に判定するので、その判定を、値を比較するという簡単な処理によって迅速に行うことができるという効果がある。
【0014】
請求項3記載のキャンバ角制御装置によれば、請求項1または2記載のキャンバ角制御装置の奏する効果に加え、第2のフェールセーフ制御手段は、接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合に、車速制限手段により制限される車両の最大走行速度を所定値以下に減少させるので、車両を安全な速度で走行させることができる。すなわち、異常のある車輪において転がり抵抗の小さい(グリップ力の小さい)第2トレッドが所定量以上接地している場合に、異常のない車輪のキャンバ角が、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように制御されると、異常のない車輪も、異常のある車輪と同様に第2トレッドが接地することとなり、グリップ力が低下して車両の制動力が低下してしまうところ、車両の最大走行速度を所定値以下に減少させることで、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、車両の安全性をより確実に確保することができるという効果がある。
【0015】
請求項4記載のキャンバ角制御装置によれば、請求項3記載のキャンバ角制御装置の奏する効果に加え、第2のフェールセーフ制御手段は、異常があると判定された車輪においてロック判定手段により車輪のキャンバ角が固定されるロック状態であると判定され、且つ、接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合に、車速制限手段により制限される車両の最大走行速度を所定値以下に減少させるので、車両を安全な速度で走行させることができる。すなわち、異常のある車輪において転がり抵抗の小さい第2トレッドが所定量以上接地した状態でロック状態となった場合に、異常のない車輪のキャンバ角が、ロック状態となった車輪のキャンバ角と等しくなるように制御されると、異常のない車輪も、異常のある車輪と同様に第2トレッドが接地することとなり、グリップ力が低下して車両の制動力が低下してしまうところ、車両の最大走行速度を所定値以下に減少させることで、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、異常のある車輪のキャンバ角がロック状態であっても、車両の安全性を確保することができるという効果がある。
【0016】
請求項5記載のキャンバ角制御装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載のキャンバ角制御装置の奏する効果に加え、第3のフェールセーフ制御手段は、異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が指令値以外に調整される動作不良状態であると判定された場合に、異常があると判定された車輪においてグリップ力の高い特性の第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御し、異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御するので、各車輪のグリップ力を向上させることができる。すなわち、異常があると判定された車輪が、車輪のキャンバ角は動くものの指令値以外に調整される動作不良状態である場合、その車輪は、グリップ力の高い特性の第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角が制御されるのでグリップ力が向上する。そして、異常のない車輪のキャンバ角が、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように制御されると、異常のない車輪も、異常のある車輪と同様に第1トレッドが接地する比率が多くなるので、グリップ力が向上して車両のグリップ力が向上し、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、異常のある車輪のキャンバ角が動作不良状態であっても、車両の安全性を確保することができるという効果がある。
【0017】
請求項6記載のキャンバ角制御装置によれば、請求項1から5のいずれかに記載のキャンバ角制御装置の奏する効果に加え、異常があると判定された車輪の状態がキャンバ角を固定不能な遊動状態であると判定された場合、異常があると判定された車輪以外の全ての車輪において第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御する第4のフェールセーフ制御手段とを備えているので、車両の制動または停止を確実に行って、その安全性を確保することができるという効果がある。
【0018】
即ち、この場合は、キャンバ角付与装置から異常のある車輪に駆動力を付与しても、そのキャンバ角を調整できない状態にあり、また、正常に動作する車輪のキャンバ角を、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように調整することもできない。そのため、スラスト力を均衡させることができないので、車両の直進性や旋回性を確保するということができない。
【0019】
そこで、この場合には、正常動作する全ての車輪のキャンバ角を調整して、その接地面を高グリップ側に設定することで、車両全体としての各車輪2のグリップ力を最大限確保した状態とすることができる。よって、車両の制動または停止を確実に行うことができるので、その安全性を確保することができる。
【0020】
請求項7記載のキャンバ角制御装置によれば、請求項1から6のいずれかに記載のキャンバ角制御装置の奏する効果に加え、キャンバ角付与装置に異常がある状態における車輪の摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離と、車輪の摩擦係数が最大となる状態における最大摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離との差が所定値以下となるための車速を許容車速算出手段によって算出すると共に、その許容車速算出手段によって算出された車速以下に車両の最高走行速度を第2の車速制限手段によって制限するので、車輪が路面との間で発揮できる摩擦係数の大きさに応じて、車両の最高走行速度を制限することができる。よって、グリップ力が比較的低い場合には制動または停止を確実に行える車速まで減速させて、車両の安全性を確保しつつ、グリップ力が比較的高い場合には、車速の不必要な制限を抑制して、走行性能や快適性も確保することができるという効果がある。
【0021】
例えば、キャンバ角付与装置の異常により、車輪の接地面が低転がり側となり、グリップ力が低下した場合でも、そのグリップ力の低下の度合いに応じて、車両の最大走行速度を制限することができる。そのため、例えば、グリップ力の低下の度合いが高い場合には、最大走行速度が比較的低速に設定して、車両を安全に制動または停止させることができる。一方、例えば、グリップ力の低下の度合いが低い場合には、最大走行速度を比較的高速に設定して、車両の最高速度に適度に余裕を持たせることで、走行性能や快適性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における車両用制御装置100が搭載される車両1の上面視を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。
【0023】
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFに支持される複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら各車輪2の回転駆動を行う車輪駆動装置3と、各車輪2の操舵駆動およびキャンバ角の調整を行うキャンバ角付与装置4とを主に備え、キャンバ角付与装置4を車両用制御装置100によって作動制御して車輪2のキャンバ角を調整することで(図5及び図6参照)、車輪2の特性を使い分けて、車両1の走行性能を確保しつつ消費エネルギーを低減させることができるように構成されている。
【0024】
詳細については後述するが、車輪2にキャンバ角が付与されると、車輪2には、キャンバ角に応じて車両1を旋回させるスラスト力が発生する。例えば、キャンバ角付与装置4が故障して、車輪2のキャンバ角が車両用制御装置100の指示通り(指令値通り)に調整されなくなると、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方の車輪2のキャンバ角が異なる状態、つまり、双方の車輪2のスラスト力が異なる状態が生じる。その状態で車両1を走行させると、車両1はスラスト力の大きい方向へ旋回させられるため、車両1の直進性や旋回性が損なわれ安全性が低下してしまう。
【0025】
車両用制御装置100は、このような場合に、キャンバ角を指令値通りに調整可能な車輪2のキャンバ角を、指令値通りに調整できない車輪2のキャンバ角と等しくなるように調整することで、双方のスラスト力を均衡させて、車両1が旋回させられる力を抑制する装置である。よって、キャンバ角付与装置4が故障して、車輪2のキャンバ角が調整できない場合でも、車両1の直進性や旋回性が損なわれることが抑制されるので、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0026】
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の進行方向前方側に位置する左右の前輪2FL,2FRと、進行方向後方側に位置する左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備え、車輪駆動装置3によってそれぞれ独立に回転可能に構成されている。
【0027】
車輪駆動装置3は、各車輪2を回転駆動するための装置であり、図1に示すように、合計4個の電動モータ(FL〜RRモータ3FL〜3RR)が各車輪2に(即ち、インホイールモータとして)配設されている。
【0028】
例えば、運転者がアクセルペダル52を操作した場合には、車輪駆動装置3が車両用制御装置100によって作動制御され、アクセルペダル52の操作量に応じた回転速度で各車輪2が回転駆動される。
【0029】
キャンバ角付与装置4は、各車輪2の操舵角およびキャンバ角を調整するための装置であり、図1に示すように、合計4個のアクチュエータ(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が各車輪2に対応して配設されている。このFL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRは、それぞれ独立して作動するように構成されているので、キャンバ角付与装置4は、各車輪2のキャンバ角をそれぞれ個別に調整することができる。
【0030】
例えば、運転者がステアリング54を操作した場合には、キャンバ角付与装置4の一部(例えば、FLアクチュエータ4FL及びFRアクチュエータ4FR)又は全部が車両用制御装置100によって作動制御され、ステアリング54の操作量に応じた操舵角で各車輪2が操舵駆動される。
【0031】
また、キャンバ角付与装置4は、車両1の走行状態(例えば、定速走行時または加減速時、或いは、直進時または旋回時)や走行路面の状態(例えば、舗装路または未舗装路)などの状態変化に応じて車両用制御装置100によって作動制御され、各車輪2のキャンバ角を調整する。
【0032】
ここで、図2を参照して、車輪駆動装置3及びキャンバ角付与装置4の詳細構成について説明する。図2(a)は、車輪2の断面図であり、図2(b)は、車輪2の操舵角およびキャンバ角の調整方法を模式的に説明する模式図である。
【0033】
なお、図2(a)では、車輪駆動装置3に駆動電力を供給するための配線などの図示が省略されている。また、図2(b)中の仮想軸Xf−Xb、仮想軸Yl−Yr及び仮想軸Zu−Zdは、それぞれ車両1の前後方向、左右方向および高さ方向に対応する。
【0034】
図2(a)に示すように、車輪2は、ゴム状弾性材から構成されるタイヤ2aと、アルミニウム合金などから構成されるホイール2bとを主に備えて構成され、ホイール2bの内周部には、車輪駆動装置3(FL〜RRモータ3FL〜3RR)がインホイールモータとして配設されている。
【0035】
タイヤ2aは、車両1の内側(図2(a)右側)に配置される第1トレッド21と、車両1の外側(図2(a)左側)に配置される第2トレッド22とを備え、第1トレッド21が第2トレッド22に比してグリップ力の高い特性(高グリップ性)に構成されると共に、第2トレッド22が第1トレッド21に比して転がり抵抗の小さい特性(低転がり抵抗)に構成されている。なお、車輪2(タイヤ2a)の詳細構成については、図4を参照して後述する。
【0036】
車輪駆動装置3は、図2(a)に示すように、その前面側(図2(a)左側)に突出された駆動軸3aがホイール2bに連結固定されており、駆動軸3aを介して、車輪2に回転駆動力を伝達可能に構成されている。また、車輪駆動装置3の背面には、キャンバ角付与装置4(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が連結固定されている。
【0037】
キャンバ角付与装置4は、複数(本実施の形態では3本)の油圧シリンダ4a〜4cを備えており、それら3本の油圧シリンダ4a〜4cのロッド部は、車輪駆動装置3の背面側(図2(a)右側)にジョイント部(本実施の形態ではユニバーサルジョイント)60を介して連結固定されている。なお、図2(b)に示すように、各油圧シリンダ4a〜4cは、周方向略等間隔(即ち、周方向120°間隔)に配置されると共に、1の油圧シリンダ4bは、仮想軸Zu−Zd上に配置されている。
【0038】
これにより、各油圧シリンダ4a〜4cが各ロッド部をそれぞれ所定方向に所定長さだけ伸長駆動または収縮駆動することで、車輪駆動装置3が仮想軸Xf−Xb,Zu−Xdを揺動中心として揺動駆動され、その結果、車輪2に所定のキャンバ角および操舵角が付与される。
【0039】
例えば、図2(b)に示すように、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4bのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4a,4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Xf−Xb回りに回転され(図2(b)矢印A)、車輪2にマイナス方向(ネガティブキャンバ方向)のキャンバ角(車輪2の中心線が仮想線Zu−Zdに対してなす角度)が付与される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4b及び油圧シリンダ4a,4cがそれぞれ伸縮駆動されると、車輪2にプラス方向(ポジティブキャンバ方向)のキャンバ角が付与される。
【0040】
また、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4aのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Zu−Zd回りに回転され(図2(b)矢印B)、車輪2にトーインの操舵角(車輪2の中心線が仮想線Zf−Zbに対してなす角度であり、車両1の進行方向とは無関係に定まる角度)が付与される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4a及び油圧シリンダ4cが伸縮駆動されると、車輪2にトーアウトの操舵角が付与される。
【0041】
なお、ここで例示した各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方法は、上述した通り、車輪2が中立位置にある状態から駆動する場合を説明するものであるが、これらの駆動方法を組み合わせて各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮駆動を制御することにより、車輪2に任意のキャンバ角および操舵角を付与することができる。
【0042】
また、本実施の形態では、油圧シリンダを用いて説明したが、油圧シリンダに限らず、モータを用いてシリンダを動かす電動シリンダや圧縮した気体の圧力を用いてシリンダを動かす空気シリンダ、或いは、気体の熱膨張を利用してシリンダを動かすシリンダなどを用いても良く、本実施の形態に限るものではない。
【0043】
図1に戻って説明する。アクセルペダル52及びブレーキペダル53は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル52,53の踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の車速や制動力が決定され、車輪駆動装置3の作動制御が行われる。
【0044】
ステアリング54は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(回転方向、回転角など)に応じて、車両1の旋回方向や旋回半径が決定され、キャンバ角付与装置4の作動制御が行われる。
【0045】
車両用制御装置100は、上述のように構成された車両1の各部を制御するための制御装置であり、例えば、各ペダル52,53の踏み込み状態を検出し、その検出結果に応じて車輪駆動装置3を作動制御することで、各車輪2の回転駆動を行う。或いは、ステアリング54の操作状態を検出し、その検出結果に応じてキャンバ角付与装置4を作動制御することで、各車輪2の操舵駆動およびキャンバ角の調整を行う。
【0046】
ここで、図3を参照して、車両用制御装置100の詳細構成について説明する。図3は、車両用制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置100は、図3に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、それらがバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の複数の装置が接続されている。
【0047】
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM72は、CPU71によって実行される制御プログラム(例えば、図8から図10に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性のメモリである。
【0048】
RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。RAM73には、車両1の走行状態に応じて決定される各車輪2のキャンバ角の指令値が記憶されるキャンバ角指令値メモリ73aと、その指令値に従って調整される各車輪2の調整前のキャンバ角が記憶される調整前キャンバ角メモリ73bと、その指令値に従って調整された各車輪2の調整後のキャンバ角が記憶される調整後キャンバ角メモリ73cと、車両1の最大走行速度を示す車速制限値が記憶される車速制限値メモリ73dとが設けられている。
【0049】
キャンバ角指令値メモリ73aは、CPU71により車両1の走行状態に応じて決定される各車輪2のキャンバ角の指令値が、各車輪2毎に記憶されるメモリである。このメモリに記憶される各車輪2のキャンバ角の指令値が変更された場合は、CPU71によってキャンバ角付与装置4が作動制御され、各指令値と等しくなるように各車輪2のキャンバ角が調整される。なお、車両1の走行状態は、後述する加速度センサ装置31や、各ペダル52,53の踏み込み状態や、ステアリング54の操作状態などによって検出される。
【0050】
調整前キャンバ角メモリ73bは、キャンバ角指令値メモリ73aに記憶されるキャンバ角の指令値に従って、各車輪2のキャンバ角が調整される場合に、その各車輪2の調整前のキャンバ角が、各車輪2毎に記憶されるメモリである。各車輪2のキャンバ角は、後述するキャンバ角センサ装置30によって測定され、その値が調整前キャンバ角メモリ73bに記憶される。
【0051】
調整後キャンバ角メモリ73cは、キャンバ角指令値メモリ73aに記憶されるキャンバ角の指令値に従って、各車輪2のキャンバ角が調整された場合に、その各車輪2の調整後のキャンバ角が、各車輪2毎に記憶されるメモリである。各車輪2のキャンバ角は、後述するキャンバ角センサ装置30によって測定され、その値が調整後キャンバ角メモリ73cに記憶される。
【0052】
なお、各車輪2のキャンバ角が調整される場合は、まず、調整前の各車輪2のキャンバ角が調整前キャンバ角メモリ73bに記憶される。次いで、キャンバ角付与装置4が作動制御されて、各車輪2のキャンバ角が調整されると、その調整された各車輪2のキャンバ角が、調整後キャンバ角メモリ73cに記憶される。各車輪2の調整前のキャンバ角と、調整後のキャンバ角とを記憶しておくことで、各車輪2に異常が発生した場合に、その角度を比較して、キャンバ角がロックされているのか、または、キャンバ角の制御に異常があるものの作動可能であるのかを判定することができる。
【0053】
車速制限値メモリ74dは、車両1の最大走行速度を示す車速制限値が記憶されるメモリである。車両1の車速制限値は、イグニッションスイッチ(図示せず)がオンされた場合に、ROM72より読み込まれ、車速制限値メモリ74dに記憶される。
【0054】
CPU71は、後述する加速度センサ装置31より車両1の加速度を取得して、その値を時間積分することで車速を算出する。ここで、算出した車速が、車速制限値メモリ74dに記憶される車速制限値を超える場合、CPU71は、車輪駆動装置3を制御して各車輪2の回転駆動力を減少させ、車速が車速制限値を超えないように制御する。なお、車速が車速制限値を超える場合に代えて、算出した車速が、車速制限値を超えようとする場合に、車輪駆動装置3を制御して各車輪2の回転駆動力を減少させるように構成されていても良い。
【0055】
車輪駆動装置3は、バッテリー(図示せず)から駆動電力が供給されることで各車輪2(図1参照)を回転駆動するための装置であり、各車輪2に回転駆動力を付与する4個のFL〜RRモータ3FL〜3RRと、それら各モータ3FL〜3RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0056】
キャンバ角付与装置4は、各車輪2の操舵角およびキャンバ角を調整するための装置であり、各車輪2(車輪駆動装置3)の操舵角およびキャンバ角を調整するための駆動力を付与する4個のFL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRと、それら各アクチュエータ4FL〜4RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0057】
なお、FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRは、3本の油圧シリンダ4a〜4cと、それら各油圧シリンダ4a〜4cにオイル(油圧)を供給する油圧ポンプ4d(図1参照)と、その油圧ポンプから各油圧シリンダ4a〜4cに供給されるオイルの供給方向を切り換える電磁弁(図示せず)とを主に備えて構成されている。
【0058】
CPU71からの指示に基づいて、キャンバ角付与装置4の制御回路が油圧ポンプを駆動制御すると、その油圧ポンプから供給されるオイル(油圧)によって、各油圧シリンダ4a〜4cが伸縮駆動される。また、電磁弁がオン/オフされると、各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方向(伸長または収縮)が切り替えられる。
【0059】
キャンバ角付与装置4の制御回路は、車輪2の操舵角およびキャンバ角を後述するステアリングセンサ装置54a及びキャンバ角センサ装置30によって監視し、CPU71から指示された目標値(伸縮量)に達した場合に、油圧シリンダ4a〜4cの伸縮駆動を停止する。なお、ステアリングセンサ装置54a及びキャンバ角センサ装置30による検出結果は、CPU71に出力され、CPU71は、その検出結果に基づいて各車輪2の操舵角およびキャンバ角を取得することができる。
【0060】
キャンバ角センサ装置30は、各車輪2のキャンバ角を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、対象物までの距離を測定する4個のFL〜RR距離センサ30FL〜30RRと、それら各距離センサ30FL〜30RRの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
【0061】
なお、本実施の形態では、各距離センサ30FL〜30RRがミリ波の伝搬時間やドップラー効果によって生じる周波数差に基づいて対象物までの距離を測定するミリ波レーダとして構成されている。これら各距離センサ30FL〜30RRは、車体フレームBF(図1参照)に配設され、各車輪駆動装置3の背面までの距離を測定する。CPU71は、キャンバ角センサ装置30から入力された各距離センサ30FL〜30RRの検出結果に基づいて、各車輪2のキャンバ角を次のように算出する。
【0062】
例えば、左の前輪2FLに着目すると、キャンバ角が付与された場合に車輪駆動装置3の回転中心となる線(図2の仮想線Xf−Xb)とFL距離センサ30FLとの車両1高さ方向のずれ量をgとし、FL距離センサ30FLによって検出された距離をdとすると、左の前輪2FLのキャンバ角θFLは、θFL=atan(d/g)となる。
【0063】
加速度センサ装置31は、車両1(車体フレームBF)の加速度を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、前後および左右方向加速度センサ31a,31bと、それら各加速度センサ31a,31bの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
【0064】
前後方向加速度センサ31aは、車体フレームBFの車両1前後方向の加速度を検出するセンサであり、左右方向加速度センサ31bは、車体フレームBFの車両1左右方向の加速度を検出するセンサである。なお、本実施の形態では、これら各加速度センサ31a,31bが圧電素子を利用した圧電型センサとして構成されている。
【0065】
CPU71は、加速度センサ装置31から入力された各加速度センサ31a,31bの検出結果(加速度値)を時間積分して、2方向(前後方向および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の車速を取得することができる。
【0066】
アクセルペダルセンサ装置52aは、アクセルペダル52の踏み込み状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル52の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
【0067】
ブレーキペダルセンサ装置53aは、ブレーキペダル53の踏み込み状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル53の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
【0068】
ステアリングセンサ装置54aは、ステアリング54の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング54の回転方向および回転角を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
【0069】
なお、本実施の形態では、各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。CPU71は、各センサ装置52a,53a,54aから入力された各角度センサの検出結果により、各ペダル52,53の踏み込み量およびステアリング54の回転角を取得すると共に、その検出結果を時間微分することで、各ペダル52,53の踏み込み速度およびステアリング54の回転速度を算出することができる。また、ステアリングセンサ装置54aから入力された角度センサの検出結果により、車輪2の操舵角を取得することができる。
図3に示す他の入出力装置36としては、例えば、各車輪2の回転速度を検出するための装置などが例示される。
【0070】
次いで、図4から図6を参照して、車輪2の詳細構成について説明する。図4は、車両1の上面視を模式的に示した模式図である。図5及び図6は、車両1の正面視を模式的に図示した模式図であり、図5では、車輪2にマイナス方向のキャンバ角が付与された状態が図示され、図6では、車輪2にプラス方向のキャンバ角が付与された状態が図示されている。
【0071】
上述したように、車輪2は、第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備え、図4に示すように、各車輪2において、第1トレッド21が車両1内側に配置され、第2トレッド22が車両1外側に配置されている。なお、本実施の形態では、両トレッド21,22の幅寸法(図4左右方向寸法)が同一に構成されている。
【0072】
ここで、例えば、図5に示すように、キャンバ角付与装置4が作動制御され、車輪2にマイナス方向のキャンバ角θL,θRが付与されると、車両1内側に配置される第1トレッド21の接地面積が増加すると共に、車両1外側に配置される第2トレッド22の接地面積が減少する。これにより、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、車両1の走行性能(例えば、旋回性能、加速性能あるいは制動性能など)を確保することができる。
【0073】
また、車輪2にキャンバ角が付与された状態で車両1を走行させると、車輪2には、スラスト力が発生する。ここでは、車輪2にマイナス方向のキャンバ角θL,θRが付与されているので、スラスト力Fth1,Fth2は、それぞれ車輪2から車両1内側に向かって発生する。
【0074】
このスラスト力Fth1,Fth2は、キャンバ角θL,θRの角度に応じて変化し、角度が大きくなるほどその力が大きくなるが、各車輪2のキャンバ角θL,θRが等しい場合、つまり、各車輪2のスラスト力Fth1,Fth2が等しい場合は、その力が均衡して、車両1は直進することとなる。なお、キャンバ角θL,θRが0度である場合、車輪2にはスラスト力が発生しない。
【0075】
一方、図6に示すように、キャンバ角付与装置4が作動制御され、車輪2にプラス方向のキャンバ角θL,θRが付与されると、車両1内側に配置される第1トレッド21の接地面積が減少すると共に、車両1外側に配置される第2トレッド22の接地面積が増加する。これにより、第2トレッド22の低転がり抵抗を利用して、車両1の消費エネルギーを低減させることができる。
【0076】
また、ここでは、車輪2にプラス方向のキャンバ角θL,θRが付与されているので、スラスト力Fth3,Fth4は、それぞれ車輪2から車両1外側に向かって発生する。なお、各車輪2のスラスト力Fth3,Fth4が等しい場合は、その力が均衡して、車両1は直進することとなる。
【0077】
次に、図7を参照して、車輪2において双方のキャンバ角が異なる場合について説明する。図7は、車両1の正面視を模式的に図示した模式図であり、前輪2FL,2FRにおいて双方のキャンバ角が異なる状態が図示されている。
【0078】
上述したように、車両1では、車両1の走行状態に応じて各車輪2のキャンバ角の指令値が決定される。各車輪2のキャンバ角の指令値が決定されると、CPU71によってキャンバ角付与装置4が作動制御され、その指令値と等しくなるように各車輪2のキャンバ角が調整される。ところが、キャンバ角付与装置4が故障すると、車輪2のキャンバ角を調整できなくなり、例えば、図7に示すように、前輪2FL,2FRにおいて双方のキャンバ角が異なるという状態が生じる。
【0079】
ここでは、キャンバ角付与装置4のFLアクチュエータ4FLが故障して、前輪2FLのキャンバ角が指令値通りに調整されないものとして説明する。キャンバ角を指令値通りに調整できない前輪2FLを、異常のある前輪2FLと称し、キャンバ角を指令値通りに調整可能な前輪2FRを、正常に動作する前輪2FRと称する。また、説明を分かり易くするために、異常のある前輪2FLには、マイナス方向のキャンバ角が付与され、正常に動作する前輪2FRには、キャンバ角が付与されていない(0度に調整されている)ものとして説明する。
【0080】
図7に示すように、異常のある前輪2FLには、マイナス方向のキャンバ角θLが付与されているので、スラスト力Fth5は、前輪2FLから車両1内側に向かって発生するが、前輪2FLには、キャンバ角θRが付与されていない(0度に調整されている)ので、スラスト力は発生しない。
【0081】
この状態で車両1を走行させた場合、車両1は、スラスト力Fth5の方向に旋回させられるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれ安全性が低下してしまう。これに対し、本実施形態では、車両用制御装置100によって、正常に動作する前輪2FLのキャンバ角θRを、異常のある前輪2FLのキャンバ角θLと等しくすることで、前輪2FL,2FRのスラスト力を等しくして、車両1が旋回させられる力を抑制する。すなわち、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制して、走行する車両1の安全性を確保する。
【0082】
次いで、図8を参照して、車両用制御装置100が実行するキャンバ制御処理について説明する。図8は、キャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理である。
【0083】
このキャンバ制御処理は、キャンバ角付与装置4が故障して、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方の車輪2キャンバ角が異なる場合に、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくなるように制御して、双方の車輪2のスラスト力を均衡させ、車両1が旋回させられる力を抑制するための処理である。
【0084】
CPU71は、キャンバ制御処理に関し、まず、キャンバ角センサ装置30により検出される各車輪2のキャンバ角をそれぞれ取得し、その取得した検出値を調整前キャンバ角メモリ73bに記憶する(S1)。
【0085】
次いで、車両1の走行状態を取得する(S2)。例えば、加速度センサ装置31によって検出される加速度を取得したり、取得した加速度から車速を算出する。また、各センサ装置52a,53a,54aによって検出される検出結果から、各ペダル52,53の踏み込み量や踏み込み速度、ステアリング54の回転速度などを取得する。
【0086】
そして、取得した車両1の走行状態に基づいて各車輪2に設定するキャンバ角の指令値を取得し、その指令値をそれぞれキャンバ角指令値メモリ73aに記憶する(S3)。
【0087】
ここで、キャンバ角の指令値とは、車両1を安全かつ快適に走行させるために、車両1の走行状態に応じて、各車輪2毎に決められている値であり、例えば、ROM72などに記憶されている。なお、この値は、車両1および車輪2(タイヤ2a)の組み合わせによって異なる。
【0088】
次いで、キャンバ角指令値メモリ73aに記憶されるキャンバ角の指令値に従って、キャンバ角付与装置4を作動制御し、その指令値と等しくなるように各車輪2のキャンバ角をそれぞれ調整する(S4)。
【0089】
そして、キャンバ角センサ装置30により検出される各車輪2のキャンバ角をそれぞれ取得し、その取得した検出値を調整後キャンバ角メモリ73cに記憶し(S5)、各車輪2毎に、キャンバ角指令値メモリ73aに記憶されるキャンバ角の指令値と、調整後キャンバ角メモリ73bに記憶される検出値とを比較する(S6)。
【0090】
次いで、比較した結果に基づいて、キャンバ角の制御に異常のある車輪2が1つでも存在するかを判定する(S7)。例えば、指令値と検出値を比較した場合にその値が異なれば、その車輪2には異常があると判定する。なお、値を比較した場合に、その差分値が所定値を超えている場合に、異常であると判定しても良い。
【0091】
このように、各車輪2に異常があるかの否かの判定は、値を比較するという簡単な処理で実施しているので、各車輪2に異常があるか否かの判定を、迅速に行うことができる。
【0092】
S7の処理において、全ての車輪2においてキャンバ角の制御に異常がない場合は(S7:No)、このキャンバ制御処理を終了する。一方、何れかの車輪2においてキャンバ角の制御に異常がある場合は(S7:Yes)、例えば、異常があることを音声で警告したり、キャンバ角付与装置4の異常を示す警告ランプを点灯させるなどして、ドライバーに警告を行う(S8)。
【0093】
次いで、各車輪2毎に、調整前キャンバ角メモリ73bに記憶される調整前のキャンバ角と、調整後キャンバ角メモリ73cに記憶される調整後のキャンバ角とを比較する(S9)。
【0094】
そして、比較した結果に基づいて、異常のある車輪2においてキャンバ角がロックされ、キャンバ角を変更できない状態であるかを判定する(S10)。例えば、S9の処理で比較した値が等しければ、キャンバ角がロックされていると判定し、その値が異なれば、動作に異常があるものの作動可能であると判定する。なお、それぞれの値を比較した場合に、その差分値が所定値内に収まっていればロックされていると判定し、それ以外は動作に異常があるものの作動可能であると判定しても良い。
【0095】
このように、車輪2のキャンバ角がロックされているか否かの判定は、値を比較するという簡単な処理で実施することができるので、各車輪2の状態の判定を、迅速に行うことができる。
【0096】
S10の処理において、異常のある車輪2のキャンバ角がロックされている場合は(S10:Yes)、フェールセーフ制御処理A(S20)を実行して、このキャンバ制御処理を終了する。一方、車輪2のキャンバ角の制御に異常があるものの作動可能である場合は(S10:No)、フェールセーフ制御処理B(S30)を実行して、このキャンバ制御処理を終了する。
【0097】
次いで、図9を参照して、CPU71により実行されるフェールセーフ制御処理A(S20)について説明する。図9は、フェールセーフ制御処理A(S20)を示すフローチャートである。
【0098】
このフェールセーフ制御処理A(S20)は、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて、車輪2のキャンバ角がロックされている場合に実行される処理であり、キャンバ角がロックされている車輪2の接地面が、低転がり側である場合に車速を制限するとともに、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある(ロックされている)車輪2のキャンバ角と等しくなるように制御して、双方の車輪2のスラスト力を均衡させ、車両1が旋回させられる力を抑制するための処理である。
【0099】
CPU71は、フェールセーフ制御処理A(S20)に関し、まず、前輪2FL,2FRの一方に異常があるかを判定する(S21)。前輪2FL,2FRの一方に異常がある場合は(S21:Yes)、キャンバ角付与装置4を作動制御して、正常に動作する前輪2FL,2FRのキャンバ角を、異常のある前輪2FL,2FRのキャンバ角と等しくなるように調整する(S22)。
【0100】
これにより、前輪2FL,2FRのスラスト力が等しくなり、車両1においてスラスト力が均衡することとなる。すなわち、車両1が旋回させられる力が抑制されるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することができる。よって、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0101】
一方、S21の処理において、前輪2FL,2FRに異常がない場合は(S21:No)、S22の処理をスキップして、S23の処理に移行する。
【0102】
S23の処理では、後輪2RL,2RRの一方に異常があるかを判定し(S23)、後輪2RL,2RRの一方に異常がある場合は(S23:Yes)、キャンバ角付与装置4を作動制御して、正常に動作する後輪2RL,2RRのキャンバ角を、異常のある後輪2RL,2RRのキャンバ角と等しくなるように調整する(S24)。
【0103】
これにより、後輪2RL,2RRのスラスト力が等しくなり、車両1においてスラスト力が均衡することとなる。すなわち、車両1が旋回させられる力が抑制されるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することができる。よって、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0104】
一方、S23の処理において、後輪2RL,2RRに異常がない場合は(S23:No)、S24の処理をスキップし、S25の処理に移行する。
【0105】
S25の処理では、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側であるかを判定する(S25)。例えば、車輪2にプラス方向のキャンバ角が付与されていれば、車輪2において低転がり抵抗の第2トレッド22の接地面積が多くなるので、低転がり側であると判定する。
【0106】
S25の処理において、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側である場合は(S25:Yes)、車速制限値メモリ73dに記憶される車速制限値を低減する(S26)。上述したS21〜S24の処理が実行されると、正常に動作する車輪2のキャンバ角が、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくなるように制御されるので、異常のある車輪2の接地面が低転がり側であれば、正常に動作する車輪2も同様に低転がり側が接地されることとなる。
【0107】
つまり、各車輪2の接地面が低転がり側となり、グリップ力が低下して車両1の制動力が低下してしまうところ、車両1の車速制限値を低減することによって、走行する車両1を安全に制動または停止させることができる。したがって、異常のある車輪2のキャンバ角がロックされていても、車両1の安全性を確保することができる。
【0108】
一方、S25において、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側でない場合は(S25:No)、S26の処理をスキップし、S27の処理に移行する。
【0109】
S27の処理では、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常があるかを判定し(S27)、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がある場合は(S27:Yes)、車速制限値メモリ73dに記憶される車速制限値を低減する(S28)。
【0110】
例えば、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方に異常が発生した場合は、それぞれキャンバ角を等しく調整することができないので、車両1は、スラスト力の強い方向へ旋回させられることとなるが、車両1の最大制限速度である車速制限値を低減させることによって、走行する車両1を安全に制動または停止させることができる。したがって、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常が発生した場合でも、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0111】
一方、S27の処理において、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がない場合は(S27:No)、S28の処理をスキップし、このフェールセーフ制御処理A(S20)を終了する。なお、フェール制御処理A(S20)の終了後は、図8のフローチャートのキャンバ制御処理に戻り、キャンバ制御処理を終了する。
【0112】
次いで、図10を参照して、フェールセーフ制御処理B(S30)について説明する。図10は、フェールセーフ制御処理B(S30)を示すフローチャートである。
【0113】
このフェールセーフ制御処理B(S30)は、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて、車輪2のキャンバ角の制御に異常があるものの作動可能である場合に実行される処理であり、異常があるものの作動可能である車輪2にマイナス方向のキャンバ角を付与して、高グリップ性の第1トレッド21の接地面積を多くし、車両1のグリップ力を向上させるとともに、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくなるように制御して、双方の車輪2のスラスト力を均衡させ、車両1が旋回させられる力を抑制するための処理である。
【0114】
CPU71は、フェールセーフ制御処理B(S30)に関し、まず、前輪2FL,2FRの一方に異常があるかを判定する(S31)。前輪2FL,2FRの一方に異常がある場合は(S31:Yes)、異常のある前輪2FL,2FRに、マイナス方向のキャンバ角を付与して、高グリップ性の第1トレッド21の接地面積を多くする(S32)。
【0115】
例えば、キャンバ角付与装置4を作動制御して、異常のある前輪2FL,2FRに、マイナス方向最大となるようにキャンバ角を付与し、高グリップ性の第1トレッド21の接地面積を可能な限り多くして、そのキャンバ角を保持する。
【0116】
次いで、異常のある前輪2FL,2FRのキャンバ角を取得し、その取得した値を調整後キャンバ角メモリ73bに記憶し(S33)、キャンバ角付与装置4を作動制御して、正常に動作する前輪2FL,2FRのキャンバ角を、異常のある前輪2FL,2FRのキャンバ角と等しくなるように調整する(S34)。
【0117】
これにより、前輪2FL,2FRのスラスト力が等しくなり、車両1においてスラスト力が均衡することとなる。すなわち、車両1が旋回させられる力が抑制されるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することができる。よって、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0118】
さらに、前輪2FL,2FRにおいて、それぞれ高グリップ性の第1トレッド21の接地面積が多くなるのでグリップ力が向上し、車両1のグリップ力が向上する。すなわち、走行する車両1を安全に制動または停止させることができるので、車両1の安全性をより確実に確保することができる。
【0119】
一方、S31の処理において、前輪2FL,2FRに異常のない場合は(S31:No)、S32〜S34の処理をスキップし、S35の処理に移行する。そして、後輪2RL,2RRの一方に異常があるかを判定する(S35)。後輪2RL,2RRの一方に異常がある場合は(S35:Yes)、異常のある後輪2RL,2RRに、マイナス方向のキャンバ角を付与して、高グリップ性の第1トレッド21の接地面積を多くする(S36)。
【0120】
例えば、キャンバ角付与装置4を作動制御して、異常のある後輪2RL,2RRに、マイナス方向最大となるようにキャンバ角を付与し、高グリップ性の第1トレッド21の接地面積を可能な限り多くして、そのキャンバ角を保持する。
【0121】
次いで、異常のある後輪2RL,2RRのキャンバ角を取得し、その取得した値を調整後キャンバ角メモリ73bに記憶し(S37)、キャンバ角付与装置4を作動制御して、正常に動作する後輪2RL,2RRのキャンバ角を、異常のある後輪2RL,2RRのキャンバ角と等しくなるように調整する(S38)。
【0122】
これにより、後輪2RL,2RRのスラスト力が等しくなり、車両1においてスラスト力が均衡することとなる。すなわち、車両1が旋回させられる力が抑制されるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することができる。よって、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0123】
さらに、後輪2RL,2RRにおいて、それぞれ高グリップ性の第1トレッド21の接地面積が多くなるのでグリップ力が向上し、車両1のグリップ力が向上する。すなわち、走行する車両1を安全に制動または停止させることができるので、車両1の安全性をより確実に確保することができる。
【0124】
一方、S35の処理において、後輪2RL,2RRに異常のない場合は(S35:No)、S36〜S38の処理をスキップし、S39の処理に移行する。
【0125】
S39の処理では、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常があるかを判定し(S39)、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がある場合は(S39:Yes)、車速制限値メモリ73dに記憶される車速制限値を低減する(S40)。
【0126】
例えば、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方に異常が発生した場合は、それぞれキャンバ角を等しく調整することができないので、車両1は、スラスト力の強い方向へ旋回させられることとなるが、車両1の最大制限速度である車速制限値を低減させることによって、走行する車両1を安全に制動または停止させることができる。したがって、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常が発生した場合でも、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0127】
一方、S39の処理において、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がない場合は(S39:No)、S40の処理をスキップし、このフェールセーフ制御処理B(S30)を終了する。なお、フェール制御処理B(S30)の終了後は、図8のフローチャートのキャンバ制御処理に戻り、キャンバ制御処理を終了する。
【0128】
次いで、ここから図11から図16を参照して、第2実施の形態について説明する。図11は、第2実施の形態におけるキャンバ制御処理を示すフローチャートである。
【0129】
第1実施の形態では、フェールセーフ制御処理を、異常のある車輪2のキャンバ角がロックしているか否かに応じて行う場合を説明したが、第2実施の形態は、異常のある車輪2がロックしているか否かだけでなく、異常のある車輪2のキャンバ角が制御可能か否かにも応じて、フェールセーフ制御処理を行うように構成されている。なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0130】
図11は、第2実施の形態におけるキャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、上述した第1実施の形態におけるキャンバ制御処理と同様に、異常のある車輪2がロックした場合および制御可能な場合には、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくして、車両1が旋回させられる力を抑制する一方、異常のある車輪2が制御不能な遊動状態である場合には、正常に動作する車輪2のグリップ力を高めて、車両1の制動力や旋回力を確保するための処理である。
【0131】
CPU71は、キャンバ制御処理に関し、上述したように、S1からS6の処理を実行し、S6の処理における結果に基づいて、キャンバ角の制御に異常のある車輪2が1つでも存在するかを判定する(S7)。このS7の処理において、全ての車輪2においてキャンバ角の制御に異常がない場合は(S7:No)、このキャンバ制御処理を終了する。
【0132】
一方、S7の処理で、何れかの車輪2においてキャンバ角の制御に異常がある場合は(S7:Yes)、S8及びS9の処理を実行し、S9の処理で比較した結果に基づいて、異常のある車輪2においてキャンバ角がロックされ、キャンバ角を変更できない状態であるかを判定する(S10)。
【0133】
S10の処理において、異常のある車輪2のキャンバ角がロックされている場合は(S10:Yes)、フェールセーフ制御処理A(S220)を実行する。ここで、図12を参照して、フェールセーフ制御処理A(S220)について説明する。
【0134】
図12は、フェールセーフ制御処理A(S220)を示すフローチャートである。CPU71は、フェールセーフ制御処理A(S220)に関し、まず、S21からS24の処理を実行する。これにより、上述したように、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくして、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することで、走行する車両1の安全性を確保する。
【0135】
S24までの処理を実行した後は、S25の処理において、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側であるかを判定し(S25)、その結果、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側である場合には(S25:Yes)、車速制限処理(S226)を実行して、車両1の車速制限値(最大走行速度)を規定する。
【0136】
即ち、上述したS21〜S24の処理が実行されると、正常に動作する車輪2のキャンバ角が、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくなるように制御されるので、異常のある車輪2の接地面が低転がり側であれば、正常に動作する車輪2も同様に低転がり側が接地されることとなる。
【0137】
そのため、低転がり側となる接地面の比率が低下するため、グリップ力が低下して車両1の制動力が低下してしまうところ、車速制限処理(S226)によって車両1の車速制限値(最大走行速度)を低減することによって、走行する車両1を安全に制動または停止させる。
【0138】
ここで、上述した第1実施の形態では、異常のある車輪2の接地状態(低転がり側の接地面の比率)とは無関係に、車速制限値を規定する(図9のS26参照)。そのため、例えば、低転がり側の接地面の比率が比較的大きい状態(即ち、グリップ力が比較的低い状態)であるにも関わらず、車速制限値が大きな値(最大走行速度が速い)に設定された場合には、車両1を安全に制動または停止させることができない。一方で、例えば、低転がり側の接地面の比率が比較的大きい状態(即ち、グリップ力が比較的高い状態)であるにも関わらず、車速制限値が小さな値(最大走行速度が遅い)に設定された場合には、車両1の最高速度が不必要に制限され、走行性能や快適性が損なわれる。
【0139】
そこで、第2実施の形態では、車速制限処理(S226)において、車速制限値(最大走行速度)を車輪2の接地状態(即ち、グリップ力)に応じて設定することで、グリップ力が比較的低い場合には制動または停止を確実に行える車速(走行速度)まで減速させて、車両1の安全性を確保しつつ、グリップ力が比較的高い場合には、車速の不必要な制限を抑制して、走行性能や快適性も確保することができる。
【0140】
この車速制限処理(S226)について、図13を参照して説明する。図13は、車速制限処理(S226)を示すフローチャートである。CPU71は、この車速制限処理(S226)に関し、まず、第1トレッド21及び第2トレッド22の接地比率から各車輪2の摩擦係数を推定する(S251)。
【0141】
詳細には、調整後キャンバ角メモリ73cに記憶される各車輪2のキャンバ角を読み出し、その読み出したキャンバ角に基づいて、各車輪2の第1トレッド21と第2トレッド22の接地比率を算出し、各車輪2が路面との間で発揮可能な摩擦係数を推定する。
【0142】
即ち、上述したように、車輪2にマイナス方向のキャンバ角が付与されると、高グリップ特性の第1トレッド21の接地面積が増加されると共に、低転がり特性の第2トレッド22の接地面積が減少される(図5参照)。一方、車輪2にプラス方向のキャンバ角が付与されると、高グリップ特性の第1トレッド21の接地面積が減少されると共に、低転がり特性の第2トレッド22の接地面積が増加される(図6参照)。その結果、車輪2のキャンバ角に応じて、第1トレッド21と第2トレッド22の接地比率が変化され、車輪2が路面との間で発揮可能な摩擦係数が増減される。
【0143】
ここで、車輪2のキャンバ角と、そのキャンバ角において車輪2が路面との間で発揮する摩擦係数との関係は、予め実測された上でROM72(図3参照)にマップ(図示せず)として記憶されている。よって、CPU71は、調整後キャンバ角メモリ73cから各車輪2のキャンバ角を読み出し、その読み出したキャンバ角に対応する摩擦係数をROM72に記憶されているマップから読み出すことで、各車輪2が路面との間で発揮可能な摩擦係数を得ることができる。
【0144】
なお、調整後キャンバ角メモリ73cに記憶されるキャンバ角は、キャンバ角付与装置4により調整された後のキャンバ角であるので、このキャンバ角を使用することで、異常のある車輪2が指令されたキャンバ角とは異なるキャンバ角でロックしている場合でも、車輪2の実際のキャンバ角の値を正確に取得することができる。その結果、車輪2が路面との間で発揮可能な摩擦係数をより正確に取得することができる。
【0145】
S251の処理において各車輪2が路面との間で発揮可能な摩擦係数を推定した後は、その推定した摩擦係数の平均値を算出し(S252)、この算出した摩擦係数での車両1の停止距離と、正常時の最大摩擦係数での車両1の停止距離との差h、及び、車両1の車速Vから、車速制限値を算出する(S253)。なお、正常時の最大摩擦係数とは、全ての車輪2にマイナス方向のキャンバ角が所定の角度以上付与されて、その値が最大となった摩擦係数をいう。即ち、グリップ力が最大となった状態での車輪2の摩擦係数である。
【0146】
この車速制限値の算出方法について、図14を参照しつつ説明する。図14は、車速制限値マップの内容を模式的に示す模式図である。車速制限値マップは、車速Vと停止距離の差hとの関係を、摩擦係数をパラメータとして、規定するものであり、ROM72に記憶されている(但し、図示せず)。なお、図14において、μ1〜μ3は、車輪2と路面との間の摩擦係数であり、μ1が最も小さい値である(μ1<μ2<μ3)。また、図14では、図面の簡素化のため、3種類の摩擦係数のみが図示されている。
【0147】
図14に示すように、同じ車速Vであっても、車輪2の路面に対する摩擦係数の値が小さくなるほど、停止距離の差hは大きくなる。即ち、同じ車速Vにおいて運転者が同じ制動動作を行ったとしても、S252で算出した摩擦係数が小さいほど、車両1の停止距離がは長くなり、正常時の最大摩擦係数での停止距離との差hが大きくなる。一方、摩擦係数が大きいほど、車両1の停止距離は短くなり、正常時の最大摩擦係数での停止距離との差hが小さくなる。
【0148】
本実施の形態では、停止距離の差hの上限値(図14のhmaxであり、例えば、hmax=50cm)が予め設定されており、CPU71は、かかる上限値hmaxに対応する車速Vlimを車速規制値マップから読み取り(即ち、図14の模式図において、S252の処理で算出された摩擦係数に対応する線(例えば、摩擦係数μ2の線)上から、停止距離の差hが上限値hmaxとなるポイントを探し、そのポイントにおける車速Vを車速Vlimとして読み取る)、この読み取った車速Vlimを算出された車速制限値として規定する(S253)。
【0149】
これにより、異常のある車輪2の接地面が低転がり側となり、グリップ力が低下した場合でも、そのグリップ力の低下の度合いに応じて、車両制限値(最大走行速度)を決定することができる。そのため、例えば、グリップ力の低下の度合いが高い場合には、車速制限値を小さな値(最大走行速度が遅い)に設定して、車両1を安全に制動または停止させることができる。一方、例えば、グリップ力の低下の度合いが低い場合には、車速制限値を大きな値(最大走行速度が速い)に設定して、車両1の最高速度に適度に余裕を持たせることで、走行性能や快適性を確保することができる。
【0150】
ここで、図14に示す車速制限値マップの算出方法について説明する。まず、停止距離とは、運転者が、制動動作が必要であると判断した地点から車両1が停車した地点までの距離であり、空走距離と制動距離との和である。空走距離は、運転者が、制動動作が必要と判断した地点から、ブレーキペダルの操作により実際に制動力が発生し始めた地点までの距離であり、制動距離は、制動力が発生し始めた地点から、車両1が停車した地点までの距離である。
【0151】
停止距離をL、空走距離をLs、制動距離をLb、車両1の車速をV、車輪2と路面との間の摩擦係数をμ、重力加速度をg、とすると、空走距離Lsは、Ls=0.8×Vで表され(但し、空走時間を0.8秒とする)、制動距離Lbは、Lb=V^2/(2×g×μ)で表されるので、停止距離Lは、L=Ls+Lb=0.8×V+V^2/(2×g×μ)で算出することができる。
【0152】
よって、かかる算出式に基づいて、正常時の最大摩擦係数での停止距離(例えば、「Lmin」と称す。)と、各摩擦係数(例えば、図14のμ1〜μ3)での停止距離(例えば、「Lave」と称す。)と、をそれぞれ算出し、その差分(Lave−Lmin)を求めることで、図14に示すように、各摩擦係数における停止距離の差hを算出することができる。このようにして算出された車速Vと停止距離の差hとを各摩擦係数に対してマッピングすることで、マップを作成することができる。
【0153】
S253の処理において車速制限値を算出した後は、車両1の車速が制限される旨を、音声や報知ランプの点灯などにより、予め運転者に報知した後(S254)、S253の処理で算出した車速低減値を車速制限値メモリ73dに書き込み、そのメモリの内容を更新することで、車速制限値を低減し(S255)、この車速制限処理(S226)を終了する。
【0154】
これにより、車両1の最大走行速度が制限されるので、車輪2の接地面が低転がり側となり、グリップ力が低下することで、車両1の制動力が低下した場合でも、車両1の最大走行速度を低減することで、車両1を安全に制動または停止させることができる。その結果、異常のある車輪2のキャンバ角がロックされていても、車両1の安全性を確保することができる。
【0155】
なお、上述したように、S254の処理における運転者への報知を、S255の処理における車速制限値の低減よりも前に行うので、車両1の車速が実際に減速される前に、運転者にその旨を報知して、事前に減速に備えさせることができる。その結果、異常の発生により車輪2のキャンバ角がロックされた場合でも、車両1の制動または停止をより安全に実行させることができる。
【0156】
図12に戻って説明する。S25の処理において、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側であると判定され(S25:Yes)、車速制限処理(S226)を実行した後、或いは、S25の処理において、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側でないと判定された場合には(S25:No)、S27の処理に移行する。
【0157】
S27の処理では、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常があるかを判定し(S27)、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がある場合は(S27:Yes)、車速制限処理(S226)を実行して、車両1の車速制限値(最大走行速度)を低減した後、このフェールセーフ制御処理A(S220)を終了する。
【0158】
これにより、上述した場合(S25:Yes)と同様に、車両1の最大走行速度が制限されるので、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方(左右輪)に異常が発生して、走行安定性が低下した場合でも、車両1の車速制限値(最大走行速度)を低減させることで、車両1を安全に制動または停止させることができる。その結果、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常が発生した場合でも、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0159】
また、この場合、車速制限値(最大走行速度)の低減は、車速制限処理(S226)により、車輪2の接地状態(即ち、グリップ力)に応じて設定されるので、グリップ力が比較的低い場合には制動または停止を確実に行える車速まで減速させて、車両1の安全性を確保しつつ、グリップ力が比較的高い場合には、車速の不必要な制限を抑制して、最高速度に余裕を持たせることで、走行性能や快適性も確保することができる。
【0160】
一方、S27の処理において、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がない場合は(S27:No)、S28の処理をスキップし、このフェールセーフ制御処理A(S220)を終了する。
【0161】
図11に戻って説明する。S10の処理において、車輪2のキャンバ角がロックしていないと判定される場合には(S10:No)、次いで、車輪2のキャンバ角が制御可能な状態であるかを判定する(S201)。上述したように、S9の処理で比較した値が等しければ(又は所定値内であれば)、キャンバ角がロックされていると判定することができるが、その値が異なる場合には、動作に異常がある(例えば、キャンバ角の調整可能範囲に制限がある(±5度の可動範囲に対して調整可能範囲が±3度に制限される場合など))ものの、その調整可能範囲でキャンバ角を調整可能である場合と、キャンバ角付与装置4から駆動力を付与するか否かに関わらず、車輪2のキャンバー角が制御不能な遊動状態である場合との2つの状態が想定される。
【0162】
なお、S6の処理で比較した結果、調整後キャンバ角メモリの検出値がキャンバ角指令値メモリの指令値よりも小さい(即ち、調整後のキャンバ角が、指令されたキャンバ角まで到達していない)場合には、動作に異常があるものの、キャンバ角付与装置4によりキャンバ角を調整可能であると判定し、S6の処理で比較した結果、調整後キャンバ角メモリの検出値がキャンバ角指令値メモリの指令値よりも大きい(即ち、調整後のキャンバ角が、指令されたキャンバ角を通り越している)場合、或いは、S1又はS5で取得するキャンバ角の値が変動している(即ち、キャンバ角が遊動状態にある)場合には、キャンバ角付与装置4から駆動力を付与するか否かに関わらず、車輪2のキャンバー角が制御不能な遊動状態にあると判定する。
【0163】
S201の処理において、車輪2のキャンバ角が制御可能な状態である、即ち、動作に異常があるものの、キャンバ角付与装置4によりキャンバ角を調整可能であると判定される場合には(S201:Yes)、フェールセーフ制御処理B(S230)を実行する。ここで、図15を参照して、フェールセーフ制御処理B(S230)について説明する。
【0164】
図15は、フェールセーフ制御処理B(S230)を示すフローチャートである。CPU71は、フェールセーフ制御処理B(S230)に関し、まず、S31からS38までの処理を実行し、上述したように、車両1の直進性や旋回性を確保することで、車両1の安全性を確保する。なお、これら各処理については、上記した第1実施の形態と同一であるので、その説明は省略する。
【0165】
S39の処理では、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常があるかを判定し(S39)、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がある場合は(S39:Yes)、車速制限処理(S226)を実行して、車両1の車速制限値(最大走行速度)を低減した後、このフェールセーフ制御処理B(S230)を終了する。
【0166】
これにより、車両1の最大走行速度が制限されるので、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方(左右輪)に異常が発生して、走行安定性が低下した場合でも、車両1の最大制限速度である車速制限値を低減させることで、車両1を安全に制動または停止させることができる。その結果、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常が発生した場合でも、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0167】
また、この場合、車速制限値(最大走行速度)の低減は、車速制限処理(S226)により、車輪2の接地状態(即ち、グリップ力)に応じて設定されるので、グリップ力が比較的低い場合には制動または停止を確実に行える車速まで減速させて、車両1の安全性を確保しつつ、グリップ力が比較的高い場合には、車速の不必要な制限を抑制して、最高速度に余裕を持たせることで、走行性能や快適性も確保することができる。
【0168】
一方、S39の処理において、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がない場合は(S39:No)、S226の処理をスキップし、このフェールセーフ制御処理B(S230)を終了する。
【0169】
図11に戻って説明する。S201の処理において、車輪2のキャンバ角が制御可能な状態ではない、即ち、キャンバ角付与装置4から駆動力を付与するか否かに関わらず、車輪2のキャンバ角が制御不能な遊動状態である場合には(S201:No)、フェールセーフ制御処理C(S240)を実行する。ここで、図16を参照して、フェールセーフ制御処理C(S240)について説明する。
【0170】
図16は、フェールセーフ制御処理C(S240)を示すフローチャートである。CPU71は、フェールセーフ制御処理C(S230)に関し、まず、正常動作する車輪2のキャンバ角を調整し、その接地面を高グリップ側に設定した後(S241)、車速制限処理(S226)を実行して、このフェースセーフ制御処理C(S240)を終了する。
【0171】
即ち、フェールセーフ制御処理C(S230)を実行する際の車両1の状態は、異常のある車輪2のキャンバ角が制御不能な遊動状態(キャンバ角付与装置から駆動力を付与してもキャンバ角を調整できない状態)にあるので、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくなるように調整することができない。そのため、スラスト力を均衡させることができないので、車両1の直進性や旋回性を確保するということができない。
【0172】
そこで、この場合には、正常動作する全ての車輪2のキャンバ角を調整して、その接地面を高グリップ側に設定した上で(S241)、車速制限処理(S226)を実行する。これにより、車両1全体としての各車輪2のグリップ力を最大限確保した状態とすることができるので、車両1の制動または停止を確実に行うことができる。
【0173】
図11に戻って説明する。上述したフェールセーフ制御処理A(S220)又はフェールセーフ制御処理B(S230)を終了した後は、次いで、ブレーキペダル53(図1参照)の踏み込み状態を検出して(S203)、S204の処理へ移行する。なお、ブレーキペダル53の踏み込み状態はブレーキペダルセンサ装置53a(図3参照)により検出され、CPU71は、ブレーキペダルセンサ装置53aから入力された検出結果に基づいて、ブレーキペダル53の踏み込み状態(例えば、踏み込み量や踏み込み速度)を算出する。
【0174】
S204の処理では、S203の処理で検出したブレーキペダル53の踏み込み状態に基づいて、急制動が指示されているか否かを判定する(S204)。ここで、急制動が指示されている場合としては、例えば、ブレーキペダル53の踏み込み量が所定量を超えている場合、ブレーキペダル53の踏み込み速度が所定速度を超えている場合、ブレーキペダル53が所定速度を超える踏み込み速度で所定量を超える踏み込み量だけ踏み込まれた場合、ブレーキペダル53の操作(踏み込み)が所定時間を超えて継続されている場合、などが例示される。
【0175】
S204の処理において、急制動が指示されていると判定される場合には(S204:Yes)、ブレーキペダル53が通常とは異なる態様で踏み込まれており、緊急的な制動(急制動)を行う必要があると判定できるので、正常動作する車輪2のキャンバ角を調整し、その接地面を高グリップ側に設定した後(S241)、このキャンバ制御処理を終了する。
【0176】
即ち、S10の処理において、異常のある車輪2のキャンバ角がロックされていると判定された場合には(S10:Yes)、フェールセーフ制御処理A(S220)により、正常に動作する前輪2FL,2FRのキャンバ角が、異常のある前輪2FL,2FRのキャンバ角と等しくなるように調整されるので(S22及びS24参照)、その際に、各車輪2の接地面が低転がり側(即ち、グリップ力の低いトレッド側)に設定されている可能性がある。
【0177】
また、S201の処理において、異常のある車輪2のキャンバ角が制御可能であると判定された場合は(S201:Yes)、フェールセーフ制御処理B(S230)により、異常のある車輪2の接地面を高グリップ側とした後に(S32及びS36参照)、正常に動作する前輪2FL,2FRのキャンバ角を、異常のある前輪2FL,2FRのキャンバ角と等しくなるように調整するので(S22及びS24参照)、各車輪2の接地面が高グリップ側に設定されてはいるが、上述したように、キャンバ角の調整可能範囲に制限がある(例えば、±5度の可動範囲に対して調整可能範囲が±3度に制限される場合など)ため、その調整可能範囲で最大限のキャンバ角を付与されているとしても、グリップ力が最大となる状態に達していない可能性がある。
【0178】
そこで、急制動が指示された場合には(S204:Yes)、上述したように、正常動作する全ての車輪2のキャンバ角を調整して、その接地面を高グリップ側に設定することで(S205)、車両1全体としての各車輪2のグリップ力を最大限確保した状態とすることができる。これにより、緊急的な制動を行う場合であっても、その車両1の制動または停止を確実に行うことができる。
【0179】
一方、S204の処理において、急制動が指示されていないと判定される場合には(S204:No)、急制動に備えた動作を行う必要がなく、上述したフェールセーフ制御処理A(S220)又はフェールセーフ制御処理B(S230)において行った処理(正常動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくして、車両1の直進性・旋回性を確保する処理)を維持する必要があるので、S205の処理をスキップして、このキャンバ制御処理を終了する。
【0180】
なお、S204の処理を実行した後は、S203からS204の処理を実行することなく、このキャンバ制御処理を終了する。即ち、S204の処理では、ブレーキペダル53の踏み込み状態とは関係なく、上述したように、正常動作する全ての車輪2の接地面が高グリップ側に設定されている(S241参照)。よって、たとえ運転者が緊急的な制動(急制動)を行った場合であっても、車両1全体としての各車輪2のグリップ力が既に最大限確保されているので、その車両1の制動または停止を確実に行うことができる。
【0181】
ここで、図8及び図11に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、請求項1記載の異常判定手段としてはS7の処理が、請求項2記載のキャンバ角指令値取得手段としてはS3の処理が、キャンバ角制御手段としてはS4の処理が、キャンバ角検出手段としてはS5の処理が、請求項4記載のロック判定手段としてはS10の処理が、請求項5記載の動作不良判定手段としてはS10の処理またはS10及びS201の処理が、それぞれ該当する。
【0182】
また、図9及び図12に示すフローチャート(フェールセーフ制御処理A)において、請求項1記載の異常判定手段としてはS21、S23及びS27の処理が、第1のフェールセーフ制御手段としてはS22及びS24の処理が、請求項3記載の車速制限手段としてはS26及びS28の処理が、接地量判定手段としてはS25の処理が、第2のフェールセーフ制御手段としてはS25及びS26の処理が、それぞれ該当する。
【0183】
また、図10及び図15に示すフローチャート(フェールセーフ制御処理B)において、請求項1記載の異常判定手段としてはS31、S35及びS39の処理が、第1のフェールセーフ制御手段としてはS34及びS38の処理が、請求項3記載の車速制限手段としてはS40の処理が、請求項5記載の第3のフェールセーフ制御手段としてはS31、S32、S33、S34、S35、S36、S37及びS38の処理が、それぞれ該当する。
【0184】
また、図11に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、請求項6記載の遊動状態判定手段としてはS201の処理が該当し、図16に示すフローチャート(フェールセーフ制御処理C)において、請求項6記載の第4のフェールセーフ制御手段としてはS241が該当する。
【0185】
また、図13に示すフローチャート(車速制限処理)において、請求項7記載の摩擦係数推定手段としてはS251及びS252の処理が、停止距離算出手段および許容車速算出手段としてはS253の処理が、それぞれ該当する。
【0186】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0187】
例えば、上記各実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0188】
また、上記各実施形態は、前輪2FL,2FRのキャンバ角が連動して調整される場合や、後輪2RL,2RRのキャンバ角が連動して調整される場合や、全ての車輪2が連動して調整される場合であっても当然適用することが可能である。
【0189】
また、上記各実施形態では、図8及び図11のフローチャートに示すキャンバ制御処理を、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行しているが、さらに、イグニッションスイッチ(図示せず)がオンされた場合に実行しても良い。すなわち、車両1が走行する前に、各車輪2に異常があるか否かを判定し、異常がある場合は、ドライバーに警告することができる。また、車両1が走行する前に、各車輪2のキャンバ角を調整して、車両1においてスラスト力を均衡させ、車両1が旋回させられる力を抑制することができる。よって、車両1の走行前に、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することができるので、走行する車両1の安全性をより確実に確保することができる。
【0190】
また、上記各実施形態では、車輪2が低転がり側であるか否かを、車輪2にプラス方向のキャンバ角が付与されているか否かによって判定しているが、例えば、予め、車輪2のキャンバ角とグリップ力との関係を測定して、低転がり側であるとする基準値(角度)を算出し、ROM72などに記憶しておいても良い。その場合は、各車輪2のキャンバ角が基準値(角度)を超えた場合に、低転がり側であると判定する。
【0191】
また、上記各実施形態のタイヤ2aには、高グリップ性の第1トレッドと、低転がり抵抗の第2トレッドとによって構成されているが、単一のトレッドで構成されていても良い。また、タイヤ2aは、一方のトレッドの両側に他方のトレッドが配置されていても良いし、3種類以上のトレッドで構成されていても良い。例えば、タイヤ2aが単一のトレッドで構成されている場合であっても、車輪2のキャンバ角を調整し、スラスト力を利用して車両1が旋回し易いように制御したり、車両1が旋回する場合に生じる遠心力によって変化するタイヤ2aの接地面積を均一に制御するなどのキャンバ角制御が考えられる。このような場合に、キャンバ角付与装置4が故障したとしても、車両1においてスラスト力を均衡させて、車両1を旋回させる力を抑制することができるので、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0192】
なお、タイヤ2aが単一のトレッドで構成されている場合は、各車輪2にキャンバ角が付与されていれば低転がり側であると判定し、各車輪2のキャンバ角を0度に調整した場合に、各車輪2の接地面積が最も多くなるので、高グリップ側であるとする。但し、接地面積の最も多くなるキャンバ角は0度に限定されるものではなく、車輪2(タイヤ2a)の形状や構造に応じて変化される。或いは、車輪2の転がり抵抗の値を実測し、その転がり抵抗の値が最も大きくなるキャンバ角を高グリップ側としても良い。
【0193】
また、上記各実施形態では、前輪2FL,2FRに異常があれば前輪2FL,2FRのキャンバ角を調整し、後輪2RL,2RRに異常があれば後輪2RL,2RRのキャンバ角を調整しているが、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方の車輪2に異常がなくても、何れかの車輪2に異常がある場合は、各車輪2の接地面を高グリップ側となるように調整しても良い。すなわち、双方に異常のない前輪2FL,2FRまたは後輪2FL,2FRにおいて、グリップ力が向上し、車両1のグリップ力が向上する。よって、走行する車両1を安全に制動または停止させることができるので、車両1の安全性をより確実に確保することができる。
【0194】
また、上記各実施形態では、各車輪2のキャンバ角は、キャンバ角センサ装置30によって検出されているが、例えば、FL〜RRアクチュエータ4FL4RRの各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮位置や伸縮量に基づいて算出しても良い。
【0195】
また、上記各実施形態では、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方に異常が発生した場合に、車両1の最大制限速度である車速制限値を低減させているが、何れかの車輪2に異常があれば、車速制限値を低減させても良い。これにより、走行する車両1をより安全に制動または停止させることができるので、走行する車両1の安全性をより確実に確保することができる。
【0196】
また、上記各実施形態のキャンバ角付与装置4は、各車輪2に対応するFL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRを備えており、各車輪2のキャンバ角をそれぞれ個別に調整しているが、各車輪2毎にキャンバ角付与装置4を配設して、各車輪2のキャンバ角をそれぞれ個別に調整しても良い。
【0197】
また、上記各実施形態では、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方のキャンバ角を等しくして、スラスト力を均衡させているが、各車輪2毎にスラスト力を検出するスラスト荷重センサ装置を設け、そのスラスト荷重センサ装置によって検出されるスラスト力に基づいて、車両1におけるスラスト力が均衡するように、各車輪2のキャンバ角を調整しても良い。
【0198】
上記各実施の形態では説明を省略したが、フェールセーフ制御処理B(S30、S230)のS32及びS36の処理において、異常がある車輪2の接地面が高グリップ側となるようにキャンバ角を調整する場合には、高グリップ特性の第1トレッド21の接地面積が最大となるキャンバ角(即ち、可動範囲内でマイナス方向に最大のキャンバ角)を付与することが好ましい。グリップ力を最大限確保して、制動や停止を安全に行うことができるからである。なお、第2実施の形態におけるフェールセーフ制御処理C(S240)のS241の処理において、正常動作する車輪2の接地面が高グリップ側となるようにキャンバ角を調整する場合も同様である。
【0199】
第2実施の形態では、図11に示すキャンバ制御処理において、急制動が指示された場合に(S204:Yes)、S205の処理を実行する構成を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の場合にS205の処理を実行するように構成することは当然可能である。
【0200】
他の場合としては、例えば、ハンドル54の操作状態が所定の条件(例えば、操作角度が基準値以上、操作速度が基準値以上など)を満たした場合、車両1の走行状態が所定の条件(例えば、前後方向または左右方向の加速度が基準値以上、車速が基準値以上など)を満たした場合、車輪2が路面に対してスリップした場合、車輪2が路面に対してロック(車輪2の回転数が停止または減少)した場合などが例示される。
【0201】
なお、この場合、ハンドル54の操作状態はステアリングセンサ装置54a(図3参照)により、車両1の走行状態は加速度センサ装置31(図3参照)により、それぞれ検出する。また、車輪2の路面に対するスリップやロックは、車輪2の回転速度を検出する回転速度センサ装置(例えば、車輪2に連動して回転する回転体と、その回転体の周方向に多数形成された歯の有無を電磁的に検出するピックアップとを備えた電磁ピックアップ式のセンサ装置)により検出する。
【0202】
第2実施の形態では、図11に示すキャンバ制御処理のS205の処理において、正常動作する車輪2の内の全ての車輪2に対し、その接地面を高グリップ側に設定する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、正常動作する車輪2の内の一部の車輪2のみに対し、その接地面を高グリップ側に設定するようにしても良い。
【0203】
例えば、前輪2FL,2FRの一方(異常のある車輪)のみのキャンバ角が低転がり側のキャンバ角でロックされており、フェールセーフ制御処理A(S220)により、前輪2FL,2FRの他方(正常動作する車輪)のキャンバ角が、前輪2FL,2FRの一方(異常のある車輪)のキャンバ角と等しくされ(S22)、かつ、後輪2RL,2RRの両輪ともに正常動作する場合には、S205の処理において、正常動作する車輪2(前輪2FL,2FRの一方、及び、後輪2RL,2RRの3輪)の内の後輪2RL、2RRのみに対し、その接地面を高グリップ側に設定するようにしても良い。これにより、前輪2FL,2FRのスラスト力が異なり、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制しつつ、車両1全体としてのグリップ力を確保して、その制動または停止を確実に行うことができる。
【0204】
但し、このように、S205の処理において、正常動作する車輪2の内の一部の車輪2のみに対し、その接地面を高グリップ側に設定することは、車速が基準速度以下である場合に限ることが好ましい。運転者により急制動が指示されている場合には(S204:Yes)、衝突回避時などの緊急的な制動時であり、制動力を最大限に発揮することが優先されるので、正常動作する全ての車輪2の接地面を高グリップ側に設定して、そのグリップ力を最大限確保した状態とすることが好ましいからである。
【0205】
以下に本発明の変形例を示す。車両の車輪にキャンバ角を付与するキャンバ角付与装置を作動させ、前記車両に設けられる複数の車輪のキャンバ角を制御するキャンバ角制御装置において、前記車輪は、幅方向に並設された第1トレッドと第2トレッドとを少なくとも備え、前記第1トレッドは前記第2トレッドに比してグリップ力の高い特性に構成されると共に、前記第2トレッドは前記第1トレッドに比して転がり抵抗の小さい特性に構成され、前記キャンバ角付与装置に異常があるか否かを判定する異常判定手段と、前記車両の最大走行速度を所定値に制限する車速制限手段と、前記異常判定手段により異常があると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される前記車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させるフェールセーフ制御手段を備えていることを特徴とするキャンバ角制御装置1。
【0206】
キャンバ角制御装置1によれば、フェールセーフ制御手段は、異常判定手段によりキャンバ角付与装置に異常があると判定された場合に、車速制限手段により制限される車両の最大走行速度を所定値以下に減少させるので、車両を安全な速度で走行させることができる。すなわち、キャンバ角制付与装置に異常があるということは、例えば、第2トレッドの接地面積が多くなり、グリップ力が低下して、制動力が損なわれた状態、或いは、左右の車輪でキャンバ角が異なり、スラスト力の均衡が崩れることで、直進性や旋回性が損なわれた状態となっているおそれがあるので、車両の最大走行速度を所定値以下に減少させることで、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、車両の安全性をより確実に確保することができるという効果がある。
【0207】
キャンバ角制御装置1において、前記異常判定手段により異常があると判定された状態における前記車輪と路面との間の摩擦係数を推定する摩擦係数推定手段と、前記摩擦係数推定手段により推定された摩擦係数に基づいて前記車両の停止距離を算出する停止距離算出手段と、前記停止距離算出手段により算出された前記車両の停止距離が、前記車輪と路面との間の摩擦係数が最大となる状態における最大摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離に対し、所定値以下の差となるための前記車両の車速を算出する許容車速算出手段と、を備え、前記車速制限手段は、前記車両の最大走行速度を、前記車速算出手段によって算出された車速以下に制限することを特徴とするキャンバ角制御装置2。
【0208】
キャンバ角制御装置2によれば、キャンバ角制御装置1の奏する効果に加え、キャンバ角付与装置に異常がある状態における車輪の摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離と、車輪の摩擦係数が最大となる状態における最大摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離との差が所定値以下となるための車速を許容車速算出手段によって算出すると共に、その許容車速算出手段によって算出された車速以下に車両の最高走行速度を車速制限手段によって制限するので、車輪が路面との間で発揮できる摩擦係数の大きさに応じて、車両の最高走行速度を制限することができる。よって、グリップ力が比較的低い場合には制動または停止を確実に行える車速まで減速させて、車両の安全性を確保しつつ、グリップ力が比較的高い場合には、車速の不必要な制限を抑制して、走行性能や快適性も確保することができるという効果がある。
【0209】
例えば、キャンバ角付与装置の異常により、車輪の接地面が低転がり側となり、グリップ力が低下した場合でも、そのグリップ力の低下の度合いに応じて、車両の最大走行速度を制限することができる。そのため、例えば、グリップ力の低下の度合いが高い場合には、最大走行速度が比較的低速に設定して、車両を安全に制動または停止させることができる。一方、例えば、グリップ力の低下の度合いが低い場合には、最大走行速度を比較的高速に設定して、車両の最高速度に適度に余裕を持たせることで、走行性能や快適性を確保することができる。
【0210】
キャンバ角制御装置1又は2において、前記異常判定手段は、前記キャンバ角付与手段に異常があるか否かを前記車輪毎に判定するものであり、前記異常判定手段により異常があると判定された場合、前記異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、前記異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する第1のフェールセーフ制御手段を備えていることを特徴とするキャンバ角制御装置3。
【0211】
キャンバ角制御装置3によれば、キャンバ角制御装置1又は2の奏する効果に加え、第1のフェールセーフ制御手段は、異常判定手段によってキャンバ角付与装置に異常があると判定された場合に、異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する。キャンバ角付与装置によって車輪にキャンバ角が付与された場合、車輪にはキャンバ角に応じて車両を旋回させるスラスト力が発生するが、第1のフェール制御手段によって、複数の車輪のキャンバ角が等しくなるように制御されると、各車輪に生じるスラスト力が等しくなり、車両において各車輪のスラスト力が均衡するので、車両が旋回させられる力が抑制される。したがって、車両の直進性や旋回性が損なわれることが抑制されるので、走行する車両の安全性を確保することができるという効果がある。
【0212】
キャンバ角制御装置1から3のいずれかにおいて、前記各車輪に付与するキャンバ角の指令値を取得するキャンバ角指令値取得手段と、そのキャンバ角指令値取得手段により取得された指令値に基づいて、前記キャンバ角付与装置を作動させ前記各車輪のキャンバ角を制御するキャンバ角制御手段と、そのキャンバ角制御手段により制御された前記各車輪のキャンバ角を検出するキャンバ角検出手段とを備え、前記異常判定手段は、前記キャンバ角指令値取得手段により取得され各車輪に付与されたキャンバ角の指令値と、前記キャンバ角検出手段により検出された各車輪のキャンバ角とに基づいて、前記キャンバ角付与装置に異常があるか否かを前記車輪毎に判定することを特徴とするキャンバ角制御装置4。
【0213】
キャンバ角制御装置4によれば、キャンバ角制御装置1から3のいずれかの奏する効果に加え、異常判定手段は、キャンバ角指令値取得手段により取得され各車輪に付与されたキャンバ角の指令値と、キャンバ角検出手段により検出された各車輪のキャンバ角とに基づいて、キャンバ角付与装置に異常があるか否かを車輪毎に判定するので、その判定を、値を比較するという簡単な処理によって迅速に行うことができるという効果がある。
【0214】
キャンバ角制御装置3又は4において、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪のキャンバ角に基づいて、その車輪の第2トレッドが所定量以上接地しているかを判定する接地量判定手段と、その接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させる第2のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とするキャンバ角制御装置5。
【0215】
キャンバ角制御装置5によれば、キャンバ角制御装置3又は4の奏する効果に加え、第2のフェールセーフ制御手段は、接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合に、車速制限手段により制限される車両の最大走行速度を所定値以下に減少させるので、車両を安全な速度で走行させることができる。すなわち、異常のある車輪において転がり抵抗の小さい(グリップ力の小さい)第2トレッドが所定量以上接地している場合に、異常のない車輪のキャンバ角が、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように制御されると、異常のない車輪も、異常のある車輪と同様に第2トレッドが接地することとなり、グリップ力が低下して車両の制動力が低下してしまうところ、車両の最大走行速度を所定値以下に減少させることで、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、車両の安全性をより確実に確保することができるという効果がある。
【0216】
キャンバ角制御装置5において、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が固定されるロック状態であるかを判定するロック判定手段を備え、前記第2のフェールセーフ制御手段は、前記異常があると判定された車輪において前記ロック判定手段により車輪の状態がロック状態であると判定され、且つ、前記接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させることを特徴とするキャンバ角制御装置6。
【0217】
キャンバ角制御装置6によれば、キャンバ角制御装置5の奏する効果に加え、第2のフェールセーフ制御手段は、異常があると判定された車輪においてロック判定手段により車輪のキャンバ角が固定されるロック状態であると判定され、且つ、接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合に、車速制限手段により制限される車両の最大走行速度を所定値以下に減少させるので、車両を安全な速度で走行させることができる。すなわち、異常のある車輪において転がり抵抗の小さい第2トレッドが所定量以上接地した状態でロック状態となった場合に、異常のない車輪のキャンバ角が、ロック状態となった車輪のキャンバ角と等しくなるように制御されると、異常のない車輪も、異常のある車輪と同様に第2トレッドが接地することとなり、グリップ力が低下して車両の制動力が低下してしまうところ、車両の最大走行速度を所定値以下に減少させることで、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、異常のある車輪のキャンバ角がロック状態であっても、車両の安全性を確保することができるという効果がある。
【0218】
キャンバ角制御装置3から6のいずれかにおいて、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が前記指令値以外に調整される動作不良状態であるかを判定する動作不良判定手段と、その動作不良判定手段により前記異常があると判定された車輪の状態が動作不良状態であると判定された場合、前記異常があると判定された車輪において前記第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御し、前記異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、前記異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する第3のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とするキャンバ角制御装置7。
【0219】
キャンバ角制御装置7によれば、キャンバ角制御装置3から6のいずれかの奏する効果に加え、第3のフェールセーフ制御手段は、異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が指令値以外に調整される動作不良状態であると判定された場合に、異常があると判定された車輪においてグリップ力の高い特性の第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御し、異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御するので、各車輪のグリップ力を向上させることができる。すなわち、異常があると判定された車輪が、車輪のキャンバ角は動くものの指令値以外に調整される動作不良状態である場合、その車輪は、グリップ力の高い特性の第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角が制御されるのでグリップ力が向上する。そして、異常のない車輪のキャンバ角が、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように制御されると、異常のない車輪も、異常のある車輪と同様に第1トレッドが接地する比率が多くなるので、グリップ力が向上して車両のグリップ力が向上し、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、異常のある車輪のキャンバ角が動作不良状態であっても、車両の安全性を確保することができるという効果がある。
【0220】
キャンバ角制御装置1から7のいずれかにおいて、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角を固定不能な遊動状態であるかを判定する遊動状態判定手段と、その遊動状態判定手段により前記異常があると判定された車輪の状態が前記遊動状態であると判定された場合、前記異常があると判定された車輪以外の全ての車輪において前記第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御する第4のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とするキャンバ角制御装置8。
【0221】
キャンバ角制御装置8によれば、キャンバ角制御装置1から7のいずれかの奏する効果に加え、異常があると判定された車輪の状態がキャンバ角を固定不能な遊動状態であると判定された場合、異常があると判定された車輪以外の全ての車輪において第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御する第4のフェールセーフ制御手段とを備えているので、車両の制動または停止を確実に行って、その安全性を確保することができるという効果がある。
【0222】
即ち、この場合は、キャンバ角付与装置から異常のある車輪に駆動力を付与しても、そのキャンバ角を調整できない状態にあり、また、正常に動作する車輪のキャンバ角を、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように調整することもできない。そのため、スラスト力を均衡させることができないので、車両の直進性や旋回性を確保するということができない。
【0223】
そこで、この場合には、正常動作する全ての車輪のキャンバ角を調整して、その接地面を高グリップ側に設定することで、車両全体としての各車輪2のグリップ力を最大限確保した状態とすることができる。よって、車両の制動または停止を確実に行うことができるので、その安全性を確保することができる。
【0224】
ここで、図8及び図11に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、キャンバ角制御装置1記載の異常判定手段としてはS7の処理が、キャンバ角制御装置4記載のキャンバ角指令値取得手段としてはS3の処理が、キャンバ角制御手段としてはS4の処理が、キャンバ角検出手段としてはS5の処理が、キャンバ角制御装置6記載のロック判定手段としてはS10の処理が、キャンバ角制御装置7記載の動作不良判定手段としてはS10の処理またはS10及びS201の処理が、それぞれ該当する。
【0225】
また、図9及び図12に示すフローチャート(フェールセーフ制御処理A)において、キャンバ角制御装置1記載の異常判定手段としてはS21、S23及びS27の処理が、キャンバ角制御装置3記載の第1のフェールセーフ制御手段としてはS22及びS24の処理が、キャンバ角制御装置5記載の車速制限手段としてはS26及びS28の処理が、接地量判定手段としてはS25の処理が、第2のフェールセーフ制御手段としてはS25及びS26の処理が、それぞれ該当する。
【0226】
また、図10及び図15に示すフローチャート(フェールセーフ制御処理B)において、キャンバ角制御装置1記載の異常判定手段としてはS31、S35及びS39の処理が、キャンバ角制御装置3記載の第1のフェールセーフ制御手段としてはS34及びS38の処理が、キャンバ角制御装置5記載の車速制限手段としてはS40の処理が、キャンバ角制御装置7記載の第3のフェールセーフ制御手段としてはS31、S32、S33、S34、S35、S36、S37及びS38の処理が、それぞれ該当する。
【0227】
また、図11に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、キャンバ角制御装置8記載の遊動状態判定手段としてはS201の処理が該当し、図16に示すフローチャート(フェールセーフ制御処理C)において、キャンバ角制御装置8記載の第4のフェールセーフ制御手段としてはS241が該当する。
【0228】
また、図13に示すフローチャート(車速制限処理)において、キャンバ角制御装置2記載の摩擦係数推定手段としてはS251及びS252の処理が、停止距離算出手段および許容車速算出手段としてはS253の処理が、それぞれ該当する。
【図面の簡単な説明】
【0229】
【図1】本発明の実施形態における車両用制御装置が搭載される車両の上面視を模式的に示した模式図である。
【図2】(a)は車輪の断面図であり、(b)は車輪の操舵角およびキャンバ角の調整方法を模式的に説明する模式図である。
【図3】車両用制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】車両の上面視を模式的に示した模式図である。
【図5】車両の正面視を模式的に図示した模式図であり、車輪にマイナス方向のキャンバ角が付与された状態である。
【図6】車両の正面視を模式的に図示した模式図であり、車輪にプラス方向のキャンバ角が付与された状態である。
【図7】車両の正面視を模式的に図示した模式図であり、車輪において双方のキャンバ角が異なる状態である。
【図8】キャンバ制御処理を示すフローチャートである。
【図9】フェールセーフ制御処理Aを示すフローチャートである。
【図10】フェールセーフ制御処理Bを示すフローチャートである。
【図11】第2実施の形態におけるキャンバ制御処理を示すフローチャートである。
【図12】フェールセーフ制御処理Aを示すフローチャートである。
【図13】車速制限処理を示すフローチャートである。
【図14】車速制限値マップの内容を模式的に示す模式図である。
【図15】フェールセーフ制御処理Bを示すフローチャートである。
【図16】フェールセーフ制御処理Cを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0230】
100 車両用制御装置(キャンバ角制御装置の一例)
1 車両
2 車輪
2FL 左の前輪(車輪)
2FR 右の前輪(車輪)
2RL 左の後輪(車輪)
2RR 右の後輪(車輪)
4 キャンバ角付与装置
4FL〜4RR FL〜RRアクチュエータ(キャンバ角付与装置)
4a〜4c 油圧シリンダ(キャンバ角付与装置の一部)
4d 油圧ポンプ(キャンバ角調付与置の一部)
21 第1トレッド
22 第2トレッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられる複数の車輪のキャンバ角を制御するキャンバ角制御装置に関し、特に、走行する車両の安全性を確保することができるキャンバ角制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の走行状態に応じて各車輪のキャンバ角(車輪中心と走行路面とがなす角度)を調整し、車両の旋回性能などを向上させるキャンバ角制御装置が知られている。この種のキャンバ角制御装置に関し、次の特許文献1には、一の車輪にキャンバ角を調整するアクチュエータを複数配設しておき、その車輪において何れかのアクチュエータが故障した場合に、他の正常なアクチュエータによって故障したアクチュエータの機能を代替させて、車両を安全に走行させる技術が開示されている。
【特許文献1】特許第3563351号公報(第0024段落など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されたキャンバ角制御装置では、一の車輪に配設されたアクチュエータが全て故障した場合、その車輪のキャンバ角が制御できなくなり、例えば、前輪や後輪において双方の車輪のキャンバ角が異なるという状態が生じる。車輪にキャンバ角が付与されている場合、車輪には付与されたキャンバ角に応じて車両を旋回させるスラスト力が発生する。よって、双方の車輪のスラスト力が異なった状態で車両を走行させると、車両はスラスト力の大きい方向へ旋回させられるため、車両の直進性や旋回性が損なわれ安全性が低下するという問題点があった。
【0004】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、走行する車両の安全性を確保することができるキャンバ角制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために請求項1記載のキャンバ角制御装置は、車両の車輪にキャンバ角を付与するキャンバ角付与装置を作動させ、前記車両に設けられる複数の車輪のキャンバ角を制御するものであって、前記キャンバ角付与装置に異常があるか否かを前記車輪毎に判定する異常判定手段と、その異常判定手段により異常があると判定された場合、前記異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、前記異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する第1のフェールセーフ制御手段とを備えている。
【0006】
請求項2記載のキャンバ角制御装置は、請求項1記載のキャンバ角制御装置において、前記各車輪に付与するキャンバ角の指令値を取得するキャンバ角指令値取得手段と、そのキャンバ角指令値取得手段により取得された指令値に基づいて、前記キャンバ角付与装置を作動させ前記各車輪のキャンバ角を制御するキャンバ角制御手段と、そのキャンバ角制御手段により制御された前記各車輪のキャンバ角を検出するキャンバ角検出手段とを備え、前記異常判定手段は、前記キャンバ角指令値取得手段により取得され各車輪に付与されたキャンバ角の指令値と、前記キャンバ角検出手段により検出された各車輪のキャンバ角とに基づいて、前記キャンバ角付与装置に異常があるか否かを前記車輪毎に判定する。
【0007】
請求項3記載のキャンバ角制御装置は、請求項1または2記載のキャンバ角制御装置において、前記車輪は、幅方向に並設された少なくとも第1トレッドと第2トレッドとを備えると共に、前記第1トレッドは前記第2トレッドに比してグリップ力の高い特性に構成されると共に、前記第2トレッドは前記第1トレッドに比して転がり抵抗の小さい特性に構成され、前記車両の最大走行速度を所定値に制限する車速制限手段と、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪のキャンバ角に基づいて、その車輪の第2トレッドが所定量以上接地しているかを判定する接地量判定手段と、その接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させる第2のフェールセーフ制御手段とを備えている。
【0008】
請求項4記載のキャンバ角制御装置は、請求項3記載のキャンバ角制御装置において、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が固定されるロック状態であるかを判定するロック判定手段と、前記第2のフェールセーフ制御手段は、前記異常があると判定された車輪において前記ロック判定手段により車輪の状態がロック状態であると判定され、且つ、前記接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させる。
【0009】
請求項5記載のキャンバ角制御装置は、請求項1から4のいずれかに記載のキャンバ角制御装置において、前記車輪は、幅方向に並設された少なくとも第1トレッドと第2トレッドとを備えると共に、前記第1トレッドは前記第2トレッドに比してグリップ力の高い特性に構成されると共に、前記第2トレッドは前記第1トレッドに比して転がり抵抗の小さい特性に構成され、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が前記指令値以外に調整される動作不良状態であるかを判定する動作不良判定手段と、その動作不良判定手段により前記異常があると判定された車輪の状態が動作不良状態であると判定された場合、前記異常があると判定された車輪において前記第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御し、前記異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、前記異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する第3のフェールセーフ制御手段とを備えている。
【0010】
請求項6記載のキャンバ角制御装置は、請求項1から5のいずれかに記載のキャンバ角制御装置において、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角を固定不能な遊動状態であるかを判定する遊動状態判定手段と、その遊動状態判定手段により前記異常があると判定された車輪の状態が前記遊動状態であると判定された場合、前記異常があると判定された車輪以外の全ての車輪において前記第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御する第4のフェールセーフ制御手段とを備えている。
【0011】
請求項7記載のキャンバ角制御装置は、請求項1から6のいずれかに記載のキャンバ角制御装置において、前記異常判定手段により異常があると判定された状態における前記車輪と路面との間の摩擦係数を推定する摩擦係数推定手段と、前記摩擦係数推定手段により推定された摩擦係数に基づいて前記車両の停止距離を算出する停止距離算出手段と、前記停止距離算出手段により算出された前記車両の停止距離が、前記車輪と路面との間の摩擦係数が最大となる状態における最大摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離に対し、所定値以下の差となるための前記車両の車速を算出する許容車速算出手段と、前記車速算出手段によって算出された車速以下に前記車両の最大走行速度を制限する前記第2の車速制限手段と、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載のキャンバ角制御装置によれば、第1のフェールセーフ制御手段は、異常判定手段によってキャンバ角付与装置に異常があると判定された場合に、異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する。キャンバ角付与装置によって車輪にキャンバ角が付与された場合、車輪にはキャンバ角に応じて車両を旋回させるスラスト力が発生するが、第1のフェール制御手段によって、複数の車輪のキャンバ角が等しくなるように制御されると、各車輪に生じるスラスト力が等しくなり、車両において各車輪のスラスト力が均衡するので、車両が旋回させられる力が抑制される。したがって、車両の直進性や旋回性が損なわれることが抑制されるので、走行する車両の安全性を確保することができるという効果がある。
【0013】
請求項2記載のキャンバ角制御装置によれば、請求項1記載のキャンバ角制御装置の奏する効果に加え、異常判定手段は、キャンバ角指令値取得手段により取得され各車輪に付与されたキャンバ角の指令値と、キャンバ角検出手段により検出された各車輪のキャンバ角とに基づいて、キャンバ角付与装置に異常があるか否かを車輪毎に判定するので、その判定を、値を比較するという簡単な処理によって迅速に行うことができるという効果がある。
【0014】
請求項3記載のキャンバ角制御装置によれば、請求項1または2記載のキャンバ角制御装置の奏する効果に加え、第2のフェールセーフ制御手段は、接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合に、車速制限手段により制限される車両の最大走行速度を所定値以下に減少させるので、車両を安全な速度で走行させることができる。すなわち、異常のある車輪において転がり抵抗の小さい(グリップ力の小さい)第2トレッドが所定量以上接地している場合に、異常のない車輪のキャンバ角が、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように制御されると、異常のない車輪も、異常のある車輪と同様に第2トレッドが接地することとなり、グリップ力が低下して車両の制動力が低下してしまうところ、車両の最大走行速度を所定値以下に減少させることで、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、車両の安全性をより確実に確保することができるという効果がある。
【0015】
請求項4記載のキャンバ角制御装置によれば、請求項3記載のキャンバ角制御装置の奏する効果に加え、第2のフェールセーフ制御手段は、異常があると判定された車輪においてロック判定手段により車輪のキャンバ角が固定されるロック状態であると判定され、且つ、接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合に、車速制限手段により制限される車両の最大走行速度を所定値以下に減少させるので、車両を安全な速度で走行させることができる。すなわち、異常のある車輪において転がり抵抗の小さい第2トレッドが所定量以上接地した状態でロック状態となった場合に、異常のない車輪のキャンバ角が、ロック状態となった車輪のキャンバ角と等しくなるように制御されると、異常のない車輪も、異常のある車輪と同様に第2トレッドが接地することとなり、グリップ力が低下して車両の制動力が低下してしまうところ、車両の最大走行速度を所定値以下に減少させることで、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、異常のある車輪のキャンバ角がロック状態であっても、車両の安全性を確保することができるという効果がある。
【0016】
請求項5記載のキャンバ角制御装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載のキャンバ角制御装置の奏する効果に加え、第3のフェールセーフ制御手段は、異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が指令値以外に調整される動作不良状態であると判定された場合に、異常があると判定された車輪においてグリップ力の高い特性の第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御し、異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御するので、各車輪のグリップ力を向上させることができる。すなわち、異常があると判定された車輪が、車輪のキャンバ角は動くものの指令値以外に調整される動作不良状態である場合、その車輪は、グリップ力の高い特性の第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角が制御されるのでグリップ力が向上する。そして、異常のない車輪のキャンバ角が、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように制御されると、異常のない車輪も、異常のある車輪と同様に第1トレッドが接地する比率が多くなるので、グリップ力が向上して車両のグリップ力が向上し、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、異常のある車輪のキャンバ角が動作不良状態であっても、車両の安全性を確保することができるという効果がある。
【0017】
請求項6記載のキャンバ角制御装置によれば、請求項1から5のいずれかに記載のキャンバ角制御装置の奏する効果に加え、異常があると判定された車輪の状態がキャンバ角を固定不能な遊動状態であると判定された場合、異常があると判定された車輪以外の全ての車輪において第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御する第4のフェールセーフ制御手段とを備えているので、車両の制動または停止を確実に行って、その安全性を確保することができるという効果がある。
【0018】
即ち、この場合は、キャンバ角付与装置から異常のある車輪に駆動力を付与しても、そのキャンバ角を調整できない状態にあり、また、正常に動作する車輪のキャンバ角を、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように調整することもできない。そのため、スラスト力を均衡させることができないので、車両の直進性や旋回性を確保するということができない。
【0019】
そこで、この場合には、正常動作する全ての車輪のキャンバ角を調整して、その接地面を高グリップ側に設定することで、車両全体としての各車輪2のグリップ力を最大限確保した状態とすることができる。よって、車両の制動または停止を確実に行うことができるので、その安全性を確保することができる。
【0020】
請求項7記載のキャンバ角制御装置によれば、請求項1から6のいずれかに記載のキャンバ角制御装置の奏する効果に加え、キャンバ角付与装置に異常がある状態における車輪の摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離と、車輪の摩擦係数が最大となる状態における最大摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離との差が所定値以下となるための車速を許容車速算出手段によって算出すると共に、その許容車速算出手段によって算出された車速以下に車両の最高走行速度を第2の車速制限手段によって制限するので、車輪が路面との間で発揮できる摩擦係数の大きさに応じて、車両の最高走行速度を制限することができる。よって、グリップ力が比較的低い場合には制動または停止を確実に行える車速まで減速させて、車両の安全性を確保しつつ、グリップ力が比較的高い場合には、車速の不必要な制限を抑制して、走行性能や快適性も確保することができるという効果がある。
【0021】
例えば、キャンバ角付与装置の異常により、車輪の接地面が低転がり側となり、グリップ力が低下した場合でも、そのグリップ力の低下の度合いに応じて、車両の最大走行速度を制限することができる。そのため、例えば、グリップ力の低下の度合いが高い場合には、最大走行速度が比較的低速に設定して、車両を安全に制動または停止させることができる。一方、例えば、グリップ力の低下の度合いが低い場合には、最大走行速度を比較的高速に設定して、車両の最高速度に適度に余裕を持たせることで、走行性能や快適性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における車両用制御装置100が搭載される車両1の上面視を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。
【0023】
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFに支持される複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら各車輪2の回転駆動を行う車輪駆動装置3と、各車輪2の操舵駆動およびキャンバ角の調整を行うキャンバ角付与装置4とを主に備え、キャンバ角付与装置4を車両用制御装置100によって作動制御して車輪2のキャンバ角を調整することで(図5及び図6参照)、車輪2の特性を使い分けて、車両1の走行性能を確保しつつ消費エネルギーを低減させることができるように構成されている。
【0024】
詳細については後述するが、車輪2にキャンバ角が付与されると、車輪2には、キャンバ角に応じて車両1を旋回させるスラスト力が発生する。例えば、キャンバ角付与装置4が故障して、車輪2のキャンバ角が車両用制御装置100の指示通り(指令値通り)に調整されなくなると、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方の車輪2のキャンバ角が異なる状態、つまり、双方の車輪2のスラスト力が異なる状態が生じる。その状態で車両1を走行させると、車両1はスラスト力の大きい方向へ旋回させられるため、車両1の直進性や旋回性が損なわれ安全性が低下してしまう。
【0025】
車両用制御装置100は、このような場合に、キャンバ角を指令値通りに調整可能な車輪2のキャンバ角を、指令値通りに調整できない車輪2のキャンバ角と等しくなるように調整することで、双方のスラスト力を均衡させて、車両1が旋回させられる力を抑制する装置である。よって、キャンバ角付与装置4が故障して、車輪2のキャンバ角が調整できない場合でも、車両1の直進性や旋回性が損なわれることが抑制されるので、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0026】
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の進行方向前方側に位置する左右の前輪2FL,2FRと、進行方向後方側に位置する左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備え、車輪駆動装置3によってそれぞれ独立に回転可能に構成されている。
【0027】
車輪駆動装置3は、各車輪2を回転駆動するための装置であり、図1に示すように、合計4個の電動モータ(FL〜RRモータ3FL〜3RR)が各車輪2に(即ち、インホイールモータとして)配設されている。
【0028】
例えば、運転者がアクセルペダル52を操作した場合には、車輪駆動装置3が車両用制御装置100によって作動制御され、アクセルペダル52の操作量に応じた回転速度で各車輪2が回転駆動される。
【0029】
キャンバ角付与装置4は、各車輪2の操舵角およびキャンバ角を調整するための装置であり、図1に示すように、合計4個のアクチュエータ(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が各車輪2に対応して配設されている。このFL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRは、それぞれ独立して作動するように構成されているので、キャンバ角付与装置4は、各車輪2のキャンバ角をそれぞれ個別に調整することができる。
【0030】
例えば、運転者がステアリング54を操作した場合には、キャンバ角付与装置4の一部(例えば、FLアクチュエータ4FL及びFRアクチュエータ4FR)又は全部が車両用制御装置100によって作動制御され、ステアリング54の操作量に応じた操舵角で各車輪2が操舵駆動される。
【0031】
また、キャンバ角付与装置4は、車両1の走行状態(例えば、定速走行時または加減速時、或いは、直進時または旋回時)や走行路面の状態(例えば、舗装路または未舗装路)などの状態変化に応じて車両用制御装置100によって作動制御され、各車輪2のキャンバ角を調整する。
【0032】
ここで、図2を参照して、車輪駆動装置3及びキャンバ角付与装置4の詳細構成について説明する。図2(a)は、車輪2の断面図であり、図2(b)は、車輪2の操舵角およびキャンバ角の調整方法を模式的に説明する模式図である。
【0033】
なお、図2(a)では、車輪駆動装置3に駆動電力を供給するための配線などの図示が省略されている。また、図2(b)中の仮想軸Xf−Xb、仮想軸Yl−Yr及び仮想軸Zu−Zdは、それぞれ車両1の前後方向、左右方向および高さ方向に対応する。
【0034】
図2(a)に示すように、車輪2は、ゴム状弾性材から構成されるタイヤ2aと、アルミニウム合金などから構成されるホイール2bとを主に備えて構成され、ホイール2bの内周部には、車輪駆動装置3(FL〜RRモータ3FL〜3RR)がインホイールモータとして配設されている。
【0035】
タイヤ2aは、車両1の内側(図2(a)右側)に配置される第1トレッド21と、車両1の外側(図2(a)左側)に配置される第2トレッド22とを備え、第1トレッド21が第2トレッド22に比してグリップ力の高い特性(高グリップ性)に構成されると共に、第2トレッド22が第1トレッド21に比して転がり抵抗の小さい特性(低転がり抵抗)に構成されている。なお、車輪2(タイヤ2a)の詳細構成については、図4を参照して後述する。
【0036】
車輪駆動装置3は、図2(a)に示すように、その前面側(図2(a)左側)に突出された駆動軸3aがホイール2bに連結固定されており、駆動軸3aを介して、車輪2に回転駆動力を伝達可能に構成されている。また、車輪駆動装置3の背面には、キャンバ角付与装置4(FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RR)が連結固定されている。
【0037】
キャンバ角付与装置4は、複数(本実施の形態では3本)の油圧シリンダ4a〜4cを備えており、それら3本の油圧シリンダ4a〜4cのロッド部は、車輪駆動装置3の背面側(図2(a)右側)にジョイント部(本実施の形態ではユニバーサルジョイント)60を介して連結固定されている。なお、図2(b)に示すように、各油圧シリンダ4a〜4cは、周方向略等間隔(即ち、周方向120°間隔)に配置されると共に、1の油圧シリンダ4bは、仮想軸Zu−Zd上に配置されている。
【0038】
これにより、各油圧シリンダ4a〜4cが各ロッド部をそれぞれ所定方向に所定長さだけ伸長駆動または収縮駆動することで、車輪駆動装置3が仮想軸Xf−Xb,Zu−Xdを揺動中心として揺動駆動され、その結果、車輪2に所定のキャンバ角および操舵角が付与される。
【0039】
例えば、図2(b)に示すように、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4bのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4a,4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Xf−Xb回りに回転され(図2(b)矢印A)、車輪2にマイナス方向(ネガティブキャンバ方向)のキャンバ角(車輪2の中心線が仮想線Zu−Zdに対してなす角度)が付与される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4b及び油圧シリンダ4a,4cがそれぞれ伸縮駆動されると、車輪2にプラス方向(ポジティブキャンバ方向)のキャンバ角が付与される。
【0040】
また、車輪2が中立位置(車両1の直進状態)にある状態で、油圧シリンダ4aのロッド部が収縮駆動され、かつ、油圧シリンダ4cのロッド部が伸長駆動されると、車輪駆動装置3が仮想線Zu−Zd回りに回転され(図2(b)矢印B)、車輪2にトーインの操舵角(車輪2の中心線が仮想線Zf−Zbに対してなす角度であり、車両1の進行方向とは無関係に定まる角度)が付与される。一方、これとは逆の方向に油圧シリンダ4a及び油圧シリンダ4cが伸縮駆動されると、車輪2にトーアウトの操舵角が付与される。
【0041】
なお、ここで例示した各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方法は、上述した通り、車輪2が中立位置にある状態から駆動する場合を説明するものであるが、これらの駆動方法を組み合わせて各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮駆動を制御することにより、車輪2に任意のキャンバ角および操舵角を付与することができる。
【0042】
また、本実施の形態では、油圧シリンダを用いて説明したが、油圧シリンダに限らず、モータを用いてシリンダを動かす電動シリンダや圧縮した気体の圧力を用いてシリンダを動かす空気シリンダ、或いは、気体の熱膨張を利用してシリンダを動かすシリンダなどを用いても良く、本実施の形態に限るものではない。
【0043】
図1に戻って説明する。アクセルペダル52及びブレーキペダル53は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル52,53の踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の車速や制動力が決定され、車輪駆動装置3の作動制御が行われる。
【0044】
ステアリング54は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(回転方向、回転角など)に応じて、車両1の旋回方向や旋回半径が決定され、キャンバ角付与装置4の作動制御が行われる。
【0045】
車両用制御装置100は、上述のように構成された車両1の各部を制御するための制御装置であり、例えば、各ペダル52,53の踏み込み状態を検出し、その検出結果に応じて車輪駆動装置3を作動制御することで、各車輪2の回転駆動を行う。或いは、ステアリング54の操作状態を検出し、その検出結果に応じてキャンバ角付与装置4を作動制御することで、各車輪2の操舵駆動およびキャンバ角の調整を行う。
【0046】
ここで、図3を参照して、車両用制御装置100の詳細構成について説明する。図3は、車両用制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置100は、図3に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、それらがバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の複数の装置が接続されている。
【0047】
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM72は、CPU71によって実行される制御プログラム(例えば、図8から図10に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性のメモリである。
【0048】
RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。RAM73には、車両1の走行状態に応じて決定される各車輪2のキャンバ角の指令値が記憶されるキャンバ角指令値メモリ73aと、その指令値に従って調整される各車輪2の調整前のキャンバ角が記憶される調整前キャンバ角メモリ73bと、その指令値に従って調整された各車輪2の調整後のキャンバ角が記憶される調整後キャンバ角メモリ73cと、車両1の最大走行速度を示す車速制限値が記憶される車速制限値メモリ73dとが設けられている。
【0049】
キャンバ角指令値メモリ73aは、CPU71により車両1の走行状態に応じて決定される各車輪2のキャンバ角の指令値が、各車輪2毎に記憶されるメモリである。このメモリに記憶される各車輪2のキャンバ角の指令値が変更された場合は、CPU71によってキャンバ角付与装置4が作動制御され、各指令値と等しくなるように各車輪2のキャンバ角が調整される。なお、車両1の走行状態は、後述する加速度センサ装置31や、各ペダル52,53の踏み込み状態や、ステアリング54の操作状態などによって検出される。
【0050】
調整前キャンバ角メモリ73bは、キャンバ角指令値メモリ73aに記憶されるキャンバ角の指令値に従って、各車輪2のキャンバ角が調整される場合に、その各車輪2の調整前のキャンバ角が、各車輪2毎に記憶されるメモリである。各車輪2のキャンバ角は、後述するキャンバ角センサ装置30によって測定され、その値が調整前キャンバ角メモリ73bに記憶される。
【0051】
調整後キャンバ角メモリ73cは、キャンバ角指令値メモリ73aに記憶されるキャンバ角の指令値に従って、各車輪2のキャンバ角が調整された場合に、その各車輪2の調整後のキャンバ角が、各車輪2毎に記憶されるメモリである。各車輪2のキャンバ角は、後述するキャンバ角センサ装置30によって測定され、その値が調整後キャンバ角メモリ73cに記憶される。
【0052】
なお、各車輪2のキャンバ角が調整される場合は、まず、調整前の各車輪2のキャンバ角が調整前キャンバ角メモリ73bに記憶される。次いで、キャンバ角付与装置4が作動制御されて、各車輪2のキャンバ角が調整されると、その調整された各車輪2のキャンバ角が、調整後キャンバ角メモリ73cに記憶される。各車輪2の調整前のキャンバ角と、調整後のキャンバ角とを記憶しておくことで、各車輪2に異常が発生した場合に、その角度を比較して、キャンバ角がロックされているのか、または、キャンバ角の制御に異常があるものの作動可能であるのかを判定することができる。
【0053】
車速制限値メモリ74dは、車両1の最大走行速度を示す車速制限値が記憶されるメモリである。車両1の車速制限値は、イグニッションスイッチ(図示せず)がオンされた場合に、ROM72より読み込まれ、車速制限値メモリ74dに記憶される。
【0054】
CPU71は、後述する加速度センサ装置31より車両1の加速度を取得して、その値を時間積分することで車速を算出する。ここで、算出した車速が、車速制限値メモリ74dに記憶される車速制限値を超える場合、CPU71は、車輪駆動装置3を制御して各車輪2の回転駆動力を減少させ、車速が車速制限値を超えないように制御する。なお、車速が車速制限値を超える場合に代えて、算出した車速が、車速制限値を超えようとする場合に、車輪駆動装置3を制御して各車輪2の回転駆動力を減少させるように構成されていても良い。
【0055】
車輪駆動装置3は、バッテリー(図示せず)から駆動電力が供給されることで各車輪2(図1参照)を回転駆動するための装置であり、各車輪2に回転駆動力を付与する4個のFL〜RRモータ3FL〜3RRと、それら各モータ3FL〜3RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0056】
キャンバ角付与装置4は、各車輪2の操舵角およびキャンバ角を調整するための装置であり、各車輪2(車輪駆動装置3)の操舵角およびキャンバ角を調整するための駆動力を付与する4個のFL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRと、それら各アクチュエータ4FL〜4RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0057】
なお、FL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRは、3本の油圧シリンダ4a〜4cと、それら各油圧シリンダ4a〜4cにオイル(油圧)を供給する油圧ポンプ4d(図1参照)と、その油圧ポンプから各油圧シリンダ4a〜4cに供給されるオイルの供給方向を切り換える電磁弁(図示せず)とを主に備えて構成されている。
【0058】
CPU71からの指示に基づいて、キャンバ角付与装置4の制御回路が油圧ポンプを駆動制御すると、その油圧ポンプから供給されるオイル(油圧)によって、各油圧シリンダ4a〜4cが伸縮駆動される。また、電磁弁がオン/オフされると、各油圧シリンダ4a〜4cの駆動方向(伸長または収縮)が切り替えられる。
【0059】
キャンバ角付与装置4の制御回路は、車輪2の操舵角およびキャンバ角を後述するステアリングセンサ装置54a及びキャンバ角センサ装置30によって監視し、CPU71から指示された目標値(伸縮量)に達した場合に、油圧シリンダ4a〜4cの伸縮駆動を停止する。なお、ステアリングセンサ装置54a及びキャンバ角センサ装置30による検出結果は、CPU71に出力され、CPU71は、その検出結果に基づいて各車輪2の操舵角およびキャンバ角を取得することができる。
【0060】
キャンバ角センサ装置30は、各車輪2のキャンバ角を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、対象物までの距離を測定する4個のFL〜RR距離センサ30FL〜30RRと、それら各距離センサ30FL〜30RRの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
【0061】
なお、本実施の形態では、各距離センサ30FL〜30RRがミリ波の伝搬時間やドップラー効果によって生じる周波数差に基づいて対象物までの距離を測定するミリ波レーダとして構成されている。これら各距離センサ30FL〜30RRは、車体フレームBF(図1参照)に配設され、各車輪駆動装置3の背面までの距離を測定する。CPU71は、キャンバ角センサ装置30から入力された各距離センサ30FL〜30RRの検出結果に基づいて、各車輪2のキャンバ角を次のように算出する。
【0062】
例えば、左の前輪2FLに着目すると、キャンバ角が付与された場合に車輪駆動装置3の回転中心となる線(図2の仮想線Xf−Xb)とFL距離センサ30FLとの車両1高さ方向のずれ量をgとし、FL距離センサ30FLによって検出された距離をdとすると、左の前輪2FLのキャンバ角θFLは、θFL=atan(d/g)となる。
【0063】
加速度センサ装置31は、車両1(車体フレームBF)の加速度を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、前後および左右方向加速度センサ31a,31bと、それら各加速度センサ31a,31bの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
【0064】
前後方向加速度センサ31aは、車体フレームBFの車両1前後方向の加速度を検出するセンサであり、左右方向加速度センサ31bは、車体フレームBFの車両1左右方向の加速度を検出するセンサである。なお、本実施の形態では、これら各加速度センサ31a,31bが圧電素子を利用した圧電型センサとして構成されている。
【0065】
CPU71は、加速度センサ装置31から入力された各加速度センサ31a,31bの検出結果(加速度値)を時間積分して、2方向(前後方向および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の車速を取得することができる。
【0066】
アクセルペダルセンサ装置52aは、アクセルペダル52の踏み込み状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル52の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
【0067】
ブレーキペダルセンサ装置53aは、ブレーキペダル53の踏み込み状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル53の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
【0068】
ステアリングセンサ装置54aは、ステアリング54の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング54の回転方向および回転角を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを主に備えている。
【0069】
なお、本実施の形態では、各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。CPU71は、各センサ装置52a,53a,54aから入力された各角度センサの検出結果により、各ペダル52,53の踏み込み量およびステアリング54の回転角を取得すると共に、その検出結果を時間微分することで、各ペダル52,53の踏み込み速度およびステアリング54の回転速度を算出することができる。また、ステアリングセンサ装置54aから入力された角度センサの検出結果により、車輪2の操舵角を取得することができる。
図3に示す他の入出力装置36としては、例えば、各車輪2の回転速度を検出するための装置などが例示される。
【0070】
次いで、図4から図6を参照して、車輪2の詳細構成について説明する。図4は、車両1の上面視を模式的に示した模式図である。図5及び図6は、車両1の正面視を模式的に図示した模式図であり、図5では、車輪2にマイナス方向のキャンバ角が付与された状態が図示され、図6では、車輪2にプラス方向のキャンバ角が付与された状態が図示されている。
【0071】
上述したように、車輪2は、第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備え、図4に示すように、各車輪2において、第1トレッド21が車両1内側に配置され、第2トレッド22が車両1外側に配置されている。なお、本実施の形態では、両トレッド21,22の幅寸法(図4左右方向寸法)が同一に構成されている。
【0072】
ここで、例えば、図5に示すように、キャンバ角付与装置4が作動制御され、車輪2にマイナス方向のキャンバ角θL,θRが付与されると、車両1内側に配置される第1トレッド21の接地面積が増加すると共に、車両1外側に配置される第2トレッド22の接地面積が減少する。これにより、第1トレッド21の高グリップ性を利用して、車両1の走行性能(例えば、旋回性能、加速性能あるいは制動性能など)を確保することができる。
【0073】
また、車輪2にキャンバ角が付与された状態で車両1を走行させると、車輪2には、スラスト力が発生する。ここでは、車輪2にマイナス方向のキャンバ角θL,θRが付与されているので、スラスト力Fth1,Fth2は、それぞれ車輪2から車両1内側に向かって発生する。
【0074】
このスラスト力Fth1,Fth2は、キャンバ角θL,θRの角度に応じて変化し、角度が大きくなるほどその力が大きくなるが、各車輪2のキャンバ角θL,θRが等しい場合、つまり、各車輪2のスラスト力Fth1,Fth2が等しい場合は、その力が均衡して、車両1は直進することとなる。なお、キャンバ角θL,θRが0度である場合、車輪2にはスラスト力が発生しない。
【0075】
一方、図6に示すように、キャンバ角付与装置4が作動制御され、車輪2にプラス方向のキャンバ角θL,θRが付与されると、車両1内側に配置される第1トレッド21の接地面積が減少すると共に、車両1外側に配置される第2トレッド22の接地面積が増加する。これにより、第2トレッド22の低転がり抵抗を利用して、車両1の消費エネルギーを低減させることができる。
【0076】
また、ここでは、車輪2にプラス方向のキャンバ角θL,θRが付与されているので、スラスト力Fth3,Fth4は、それぞれ車輪2から車両1外側に向かって発生する。なお、各車輪2のスラスト力Fth3,Fth4が等しい場合は、その力が均衡して、車両1は直進することとなる。
【0077】
次に、図7を参照して、車輪2において双方のキャンバ角が異なる場合について説明する。図7は、車両1の正面視を模式的に図示した模式図であり、前輪2FL,2FRにおいて双方のキャンバ角が異なる状態が図示されている。
【0078】
上述したように、車両1では、車両1の走行状態に応じて各車輪2のキャンバ角の指令値が決定される。各車輪2のキャンバ角の指令値が決定されると、CPU71によってキャンバ角付与装置4が作動制御され、その指令値と等しくなるように各車輪2のキャンバ角が調整される。ところが、キャンバ角付与装置4が故障すると、車輪2のキャンバ角を調整できなくなり、例えば、図7に示すように、前輪2FL,2FRにおいて双方のキャンバ角が異なるという状態が生じる。
【0079】
ここでは、キャンバ角付与装置4のFLアクチュエータ4FLが故障して、前輪2FLのキャンバ角が指令値通りに調整されないものとして説明する。キャンバ角を指令値通りに調整できない前輪2FLを、異常のある前輪2FLと称し、キャンバ角を指令値通りに調整可能な前輪2FRを、正常に動作する前輪2FRと称する。また、説明を分かり易くするために、異常のある前輪2FLには、マイナス方向のキャンバ角が付与され、正常に動作する前輪2FRには、キャンバ角が付与されていない(0度に調整されている)ものとして説明する。
【0080】
図7に示すように、異常のある前輪2FLには、マイナス方向のキャンバ角θLが付与されているので、スラスト力Fth5は、前輪2FLから車両1内側に向かって発生するが、前輪2FLには、キャンバ角θRが付与されていない(0度に調整されている)ので、スラスト力は発生しない。
【0081】
この状態で車両1を走行させた場合、車両1は、スラスト力Fth5の方向に旋回させられるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれ安全性が低下してしまう。これに対し、本実施形態では、車両用制御装置100によって、正常に動作する前輪2FLのキャンバ角θRを、異常のある前輪2FLのキャンバ角θLと等しくすることで、前輪2FL,2FRのスラスト力を等しくして、車両1が旋回させられる力を抑制する。すなわち、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制して、走行する車両1の安全性を確保する。
【0082】
次いで、図8を参照して、車両用制御装置100が実行するキャンバ制御処理について説明する。図8は、キャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行される処理である。
【0083】
このキャンバ制御処理は、キャンバ角付与装置4が故障して、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方の車輪2キャンバ角が異なる場合に、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくなるように制御して、双方の車輪2のスラスト力を均衡させ、車両1が旋回させられる力を抑制するための処理である。
【0084】
CPU71は、キャンバ制御処理に関し、まず、キャンバ角センサ装置30により検出される各車輪2のキャンバ角をそれぞれ取得し、その取得した検出値を調整前キャンバ角メモリ73bに記憶する(S1)。
【0085】
次いで、車両1の走行状態を取得する(S2)。例えば、加速度センサ装置31によって検出される加速度を取得したり、取得した加速度から車速を算出する。また、各センサ装置52a,53a,54aによって検出される検出結果から、各ペダル52,53の踏み込み量や踏み込み速度、ステアリング54の回転速度などを取得する。
【0086】
そして、取得した車両1の走行状態に基づいて各車輪2に設定するキャンバ角の指令値を取得し、その指令値をそれぞれキャンバ角指令値メモリ73aに記憶する(S3)。
【0087】
ここで、キャンバ角の指令値とは、車両1を安全かつ快適に走行させるために、車両1の走行状態に応じて、各車輪2毎に決められている値であり、例えば、ROM72などに記憶されている。なお、この値は、車両1および車輪2(タイヤ2a)の組み合わせによって異なる。
【0088】
次いで、キャンバ角指令値メモリ73aに記憶されるキャンバ角の指令値に従って、キャンバ角付与装置4を作動制御し、その指令値と等しくなるように各車輪2のキャンバ角をそれぞれ調整する(S4)。
【0089】
そして、キャンバ角センサ装置30により検出される各車輪2のキャンバ角をそれぞれ取得し、その取得した検出値を調整後キャンバ角メモリ73cに記憶し(S5)、各車輪2毎に、キャンバ角指令値メモリ73aに記憶されるキャンバ角の指令値と、調整後キャンバ角メモリ73bに記憶される検出値とを比較する(S6)。
【0090】
次いで、比較した結果に基づいて、キャンバ角の制御に異常のある車輪2が1つでも存在するかを判定する(S7)。例えば、指令値と検出値を比較した場合にその値が異なれば、その車輪2には異常があると判定する。なお、値を比較した場合に、その差分値が所定値を超えている場合に、異常であると判定しても良い。
【0091】
このように、各車輪2に異常があるかの否かの判定は、値を比較するという簡単な処理で実施しているので、各車輪2に異常があるか否かの判定を、迅速に行うことができる。
【0092】
S7の処理において、全ての車輪2においてキャンバ角の制御に異常がない場合は(S7:No)、このキャンバ制御処理を終了する。一方、何れかの車輪2においてキャンバ角の制御に異常がある場合は(S7:Yes)、例えば、異常があることを音声で警告したり、キャンバ角付与装置4の異常を示す警告ランプを点灯させるなどして、ドライバーに警告を行う(S8)。
【0093】
次いで、各車輪2毎に、調整前キャンバ角メモリ73bに記憶される調整前のキャンバ角と、調整後キャンバ角メモリ73cに記憶される調整後のキャンバ角とを比較する(S9)。
【0094】
そして、比較した結果に基づいて、異常のある車輪2においてキャンバ角がロックされ、キャンバ角を変更できない状態であるかを判定する(S10)。例えば、S9の処理で比較した値が等しければ、キャンバ角がロックされていると判定し、その値が異なれば、動作に異常があるものの作動可能であると判定する。なお、それぞれの値を比較した場合に、その差分値が所定値内に収まっていればロックされていると判定し、それ以外は動作に異常があるものの作動可能であると判定しても良い。
【0095】
このように、車輪2のキャンバ角がロックされているか否かの判定は、値を比較するという簡単な処理で実施することができるので、各車輪2の状態の判定を、迅速に行うことができる。
【0096】
S10の処理において、異常のある車輪2のキャンバ角がロックされている場合は(S10:Yes)、フェールセーフ制御処理A(S20)を実行して、このキャンバ制御処理を終了する。一方、車輪2のキャンバ角の制御に異常があるものの作動可能である場合は(S10:No)、フェールセーフ制御処理B(S30)を実行して、このキャンバ制御処理を終了する。
【0097】
次いで、図9を参照して、CPU71により実行されるフェールセーフ制御処理A(S20)について説明する。図9は、フェールセーフ制御処理A(S20)を示すフローチャートである。
【0098】
このフェールセーフ制御処理A(S20)は、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて、車輪2のキャンバ角がロックされている場合に実行される処理であり、キャンバ角がロックされている車輪2の接地面が、低転がり側である場合に車速を制限するとともに、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある(ロックされている)車輪2のキャンバ角と等しくなるように制御して、双方の車輪2のスラスト力を均衡させ、車両1が旋回させられる力を抑制するための処理である。
【0099】
CPU71は、フェールセーフ制御処理A(S20)に関し、まず、前輪2FL,2FRの一方に異常があるかを判定する(S21)。前輪2FL,2FRの一方に異常がある場合は(S21:Yes)、キャンバ角付与装置4を作動制御して、正常に動作する前輪2FL,2FRのキャンバ角を、異常のある前輪2FL,2FRのキャンバ角と等しくなるように調整する(S22)。
【0100】
これにより、前輪2FL,2FRのスラスト力が等しくなり、車両1においてスラスト力が均衡することとなる。すなわち、車両1が旋回させられる力が抑制されるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することができる。よって、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0101】
一方、S21の処理において、前輪2FL,2FRに異常がない場合は(S21:No)、S22の処理をスキップして、S23の処理に移行する。
【0102】
S23の処理では、後輪2RL,2RRの一方に異常があるかを判定し(S23)、後輪2RL,2RRの一方に異常がある場合は(S23:Yes)、キャンバ角付与装置4を作動制御して、正常に動作する後輪2RL,2RRのキャンバ角を、異常のある後輪2RL,2RRのキャンバ角と等しくなるように調整する(S24)。
【0103】
これにより、後輪2RL,2RRのスラスト力が等しくなり、車両1においてスラスト力が均衡することとなる。すなわち、車両1が旋回させられる力が抑制されるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することができる。よって、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0104】
一方、S23の処理において、後輪2RL,2RRに異常がない場合は(S23:No)、S24の処理をスキップし、S25の処理に移行する。
【0105】
S25の処理では、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側であるかを判定する(S25)。例えば、車輪2にプラス方向のキャンバ角が付与されていれば、車輪2において低転がり抵抗の第2トレッド22の接地面積が多くなるので、低転がり側であると判定する。
【0106】
S25の処理において、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側である場合は(S25:Yes)、車速制限値メモリ73dに記憶される車速制限値を低減する(S26)。上述したS21〜S24の処理が実行されると、正常に動作する車輪2のキャンバ角が、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくなるように制御されるので、異常のある車輪2の接地面が低転がり側であれば、正常に動作する車輪2も同様に低転がり側が接地されることとなる。
【0107】
つまり、各車輪2の接地面が低転がり側となり、グリップ力が低下して車両1の制動力が低下してしまうところ、車両1の車速制限値を低減することによって、走行する車両1を安全に制動または停止させることができる。したがって、異常のある車輪2のキャンバ角がロックされていても、車両1の安全性を確保することができる。
【0108】
一方、S25において、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側でない場合は(S25:No)、S26の処理をスキップし、S27の処理に移行する。
【0109】
S27の処理では、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常があるかを判定し(S27)、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がある場合は(S27:Yes)、車速制限値メモリ73dに記憶される車速制限値を低減する(S28)。
【0110】
例えば、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方に異常が発生した場合は、それぞれキャンバ角を等しく調整することができないので、車両1は、スラスト力の強い方向へ旋回させられることとなるが、車両1の最大制限速度である車速制限値を低減させることによって、走行する車両1を安全に制動または停止させることができる。したがって、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常が発生した場合でも、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0111】
一方、S27の処理において、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がない場合は(S27:No)、S28の処理をスキップし、このフェールセーフ制御処理A(S20)を終了する。なお、フェール制御処理A(S20)の終了後は、図8のフローチャートのキャンバ制御処理に戻り、キャンバ制御処理を終了する。
【0112】
次いで、図10を参照して、フェールセーフ制御処理B(S30)について説明する。図10は、フェールセーフ制御処理B(S30)を示すフローチャートである。
【0113】
このフェールセーフ制御処理B(S30)は、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて、車輪2のキャンバ角の制御に異常があるものの作動可能である場合に実行される処理であり、異常があるものの作動可能である車輪2にマイナス方向のキャンバ角を付与して、高グリップ性の第1トレッド21の接地面積を多くし、車両1のグリップ力を向上させるとともに、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくなるように制御して、双方の車輪2のスラスト力を均衡させ、車両1が旋回させられる力を抑制するための処理である。
【0114】
CPU71は、フェールセーフ制御処理B(S30)に関し、まず、前輪2FL,2FRの一方に異常があるかを判定する(S31)。前輪2FL,2FRの一方に異常がある場合は(S31:Yes)、異常のある前輪2FL,2FRに、マイナス方向のキャンバ角を付与して、高グリップ性の第1トレッド21の接地面積を多くする(S32)。
【0115】
例えば、キャンバ角付与装置4を作動制御して、異常のある前輪2FL,2FRに、マイナス方向最大となるようにキャンバ角を付与し、高グリップ性の第1トレッド21の接地面積を可能な限り多くして、そのキャンバ角を保持する。
【0116】
次いで、異常のある前輪2FL,2FRのキャンバ角を取得し、その取得した値を調整後キャンバ角メモリ73bに記憶し(S33)、キャンバ角付与装置4を作動制御して、正常に動作する前輪2FL,2FRのキャンバ角を、異常のある前輪2FL,2FRのキャンバ角と等しくなるように調整する(S34)。
【0117】
これにより、前輪2FL,2FRのスラスト力が等しくなり、車両1においてスラスト力が均衡することとなる。すなわち、車両1が旋回させられる力が抑制されるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することができる。よって、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0118】
さらに、前輪2FL,2FRにおいて、それぞれ高グリップ性の第1トレッド21の接地面積が多くなるのでグリップ力が向上し、車両1のグリップ力が向上する。すなわち、走行する車両1を安全に制動または停止させることができるので、車両1の安全性をより確実に確保することができる。
【0119】
一方、S31の処理において、前輪2FL,2FRに異常のない場合は(S31:No)、S32〜S34の処理をスキップし、S35の処理に移行する。そして、後輪2RL,2RRの一方に異常があるかを判定する(S35)。後輪2RL,2RRの一方に異常がある場合は(S35:Yes)、異常のある後輪2RL,2RRに、マイナス方向のキャンバ角を付与して、高グリップ性の第1トレッド21の接地面積を多くする(S36)。
【0120】
例えば、キャンバ角付与装置4を作動制御して、異常のある後輪2RL,2RRに、マイナス方向最大となるようにキャンバ角を付与し、高グリップ性の第1トレッド21の接地面積を可能な限り多くして、そのキャンバ角を保持する。
【0121】
次いで、異常のある後輪2RL,2RRのキャンバ角を取得し、その取得した値を調整後キャンバ角メモリ73bに記憶し(S37)、キャンバ角付与装置4を作動制御して、正常に動作する後輪2RL,2RRのキャンバ角を、異常のある後輪2RL,2RRのキャンバ角と等しくなるように調整する(S38)。
【0122】
これにより、後輪2RL,2RRのスラスト力が等しくなり、車両1においてスラスト力が均衡することとなる。すなわち、車両1が旋回させられる力が抑制されるので、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することができる。よって、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0123】
さらに、後輪2RL,2RRにおいて、それぞれ高グリップ性の第1トレッド21の接地面積が多くなるのでグリップ力が向上し、車両1のグリップ力が向上する。すなわち、走行する車両1を安全に制動または停止させることができるので、車両1の安全性をより確実に確保することができる。
【0124】
一方、S35の処理において、後輪2RL,2RRに異常のない場合は(S35:No)、S36〜S38の処理をスキップし、S39の処理に移行する。
【0125】
S39の処理では、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常があるかを判定し(S39)、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がある場合は(S39:Yes)、車速制限値メモリ73dに記憶される車速制限値を低減する(S40)。
【0126】
例えば、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方に異常が発生した場合は、それぞれキャンバ角を等しく調整することができないので、車両1は、スラスト力の強い方向へ旋回させられることとなるが、車両1の最大制限速度である車速制限値を低減させることによって、走行する車両1を安全に制動または停止させることができる。したがって、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常が発生した場合でも、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0127】
一方、S39の処理において、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がない場合は(S39:No)、S40の処理をスキップし、このフェールセーフ制御処理B(S30)を終了する。なお、フェール制御処理B(S30)の終了後は、図8のフローチャートのキャンバ制御処理に戻り、キャンバ制御処理を終了する。
【0128】
次いで、ここから図11から図16を参照して、第2実施の形態について説明する。図11は、第2実施の形態におけるキャンバ制御処理を示すフローチャートである。
【0129】
第1実施の形態では、フェールセーフ制御処理を、異常のある車輪2のキャンバ角がロックしているか否かに応じて行う場合を説明したが、第2実施の形態は、異常のある車輪2がロックしているか否かだけでなく、異常のある車輪2のキャンバ角が制御可能か否かにも応じて、フェールセーフ制御処理を行うように構成されている。なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0130】
図11は、第2実施の形態におけるキャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、上述した第1実施の形態におけるキャンバ制御処理と同様に、異常のある車輪2がロックした場合および制御可能な場合には、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくして、車両1が旋回させられる力を抑制する一方、異常のある車輪2が制御不能な遊動状態である場合には、正常に動作する車輪2のグリップ力を高めて、車両1の制動力や旋回力を確保するための処理である。
【0131】
CPU71は、キャンバ制御処理に関し、上述したように、S1からS6の処理を実行し、S6の処理における結果に基づいて、キャンバ角の制御に異常のある車輪2が1つでも存在するかを判定する(S7)。このS7の処理において、全ての車輪2においてキャンバ角の制御に異常がない場合は(S7:No)、このキャンバ制御処理を終了する。
【0132】
一方、S7の処理で、何れかの車輪2においてキャンバ角の制御に異常がある場合は(S7:Yes)、S8及びS9の処理を実行し、S9の処理で比較した結果に基づいて、異常のある車輪2においてキャンバ角がロックされ、キャンバ角を変更できない状態であるかを判定する(S10)。
【0133】
S10の処理において、異常のある車輪2のキャンバ角がロックされている場合は(S10:Yes)、フェールセーフ制御処理A(S220)を実行する。ここで、図12を参照して、フェールセーフ制御処理A(S220)について説明する。
【0134】
図12は、フェールセーフ制御処理A(S220)を示すフローチャートである。CPU71は、フェールセーフ制御処理A(S220)に関し、まず、S21からS24の処理を実行する。これにより、上述したように、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくして、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することで、走行する車両1の安全性を確保する。
【0135】
S24までの処理を実行した後は、S25の処理において、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側であるかを判定し(S25)、その結果、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側である場合には(S25:Yes)、車速制限処理(S226)を実行して、車両1の車速制限値(最大走行速度)を規定する。
【0136】
即ち、上述したS21〜S24の処理が実行されると、正常に動作する車輪2のキャンバ角が、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくなるように制御されるので、異常のある車輪2の接地面が低転がり側であれば、正常に動作する車輪2も同様に低転がり側が接地されることとなる。
【0137】
そのため、低転がり側となる接地面の比率が低下するため、グリップ力が低下して車両1の制動力が低下してしまうところ、車速制限処理(S226)によって車両1の車速制限値(最大走行速度)を低減することによって、走行する車両1を安全に制動または停止させる。
【0138】
ここで、上述した第1実施の形態では、異常のある車輪2の接地状態(低転がり側の接地面の比率)とは無関係に、車速制限値を規定する(図9のS26参照)。そのため、例えば、低転がり側の接地面の比率が比較的大きい状態(即ち、グリップ力が比較的低い状態)であるにも関わらず、車速制限値が大きな値(最大走行速度が速い)に設定された場合には、車両1を安全に制動または停止させることができない。一方で、例えば、低転がり側の接地面の比率が比較的大きい状態(即ち、グリップ力が比較的高い状態)であるにも関わらず、車速制限値が小さな値(最大走行速度が遅い)に設定された場合には、車両1の最高速度が不必要に制限され、走行性能や快適性が損なわれる。
【0139】
そこで、第2実施の形態では、車速制限処理(S226)において、車速制限値(最大走行速度)を車輪2の接地状態(即ち、グリップ力)に応じて設定することで、グリップ力が比較的低い場合には制動または停止を確実に行える車速(走行速度)まで減速させて、車両1の安全性を確保しつつ、グリップ力が比較的高い場合には、車速の不必要な制限を抑制して、走行性能や快適性も確保することができる。
【0140】
この車速制限処理(S226)について、図13を参照して説明する。図13は、車速制限処理(S226)を示すフローチャートである。CPU71は、この車速制限処理(S226)に関し、まず、第1トレッド21及び第2トレッド22の接地比率から各車輪2の摩擦係数を推定する(S251)。
【0141】
詳細には、調整後キャンバ角メモリ73cに記憶される各車輪2のキャンバ角を読み出し、その読み出したキャンバ角に基づいて、各車輪2の第1トレッド21と第2トレッド22の接地比率を算出し、各車輪2が路面との間で発揮可能な摩擦係数を推定する。
【0142】
即ち、上述したように、車輪2にマイナス方向のキャンバ角が付与されると、高グリップ特性の第1トレッド21の接地面積が増加されると共に、低転がり特性の第2トレッド22の接地面積が減少される(図5参照)。一方、車輪2にプラス方向のキャンバ角が付与されると、高グリップ特性の第1トレッド21の接地面積が減少されると共に、低転がり特性の第2トレッド22の接地面積が増加される(図6参照)。その結果、車輪2のキャンバ角に応じて、第1トレッド21と第2トレッド22の接地比率が変化され、車輪2が路面との間で発揮可能な摩擦係数が増減される。
【0143】
ここで、車輪2のキャンバ角と、そのキャンバ角において車輪2が路面との間で発揮する摩擦係数との関係は、予め実測された上でROM72(図3参照)にマップ(図示せず)として記憶されている。よって、CPU71は、調整後キャンバ角メモリ73cから各車輪2のキャンバ角を読み出し、その読み出したキャンバ角に対応する摩擦係数をROM72に記憶されているマップから読み出すことで、各車輪2が路面との間で発揮可能な摩擦係数を得ることができる。
【0144】
なお、調整後キャンバ角メモリ73cに記憶されるキャンバ角は、キャンバ角付与装置4により調整された後のキャンバ角であるので、このキャンバ角を使用することで、異常のある車輪2が指令されたキャンバ角とは異なるキャンバ角でロックしている場合でも、車輪2の実際のキャンバ角の値を正確に取得することができる。その結果、車輪2が路面との間で発揮可能な摩擦係数をより正確に取得することができる。
【0145】
S251の処理において各車輪2が路面との間で発揮可能な摩擦係数を推定した後は、その推定した摩擦係数の平均値を算出し(S252)、この算出した摩擦係数での車両1の停止距離と、正常時の最大摩擦係数での車両1の停止距離との差h、及び、車両1の車速Vから、車速制限値を算出する(S253)。なお、正常時の最大摩擦係数とは、全ての車輪2にマイナス方向のキャンバ角が所定の角度以上付与されて、その値が最大となった摩擦係数をいう。即ち、グリップ力が最大となった状態での車輪2の摩擦係数である。
【0146】
この車速制限値の算出方法について、図14を参照しつつ説明する。図14は、車速制限値マップの内容を模式的に示す模式図である。車速制限値マップは、車速Vと停止距離の差hとの関係を、摩擦係数をパラメータとして、規定するものであり、ROM72に記憶されている(但し、図示せず)。なお、図14において、μ1〜μ3は、車輪2と路面との間の摩擦係数であり、μ1が最も小さい値である(μ1<μ2<μ3)。また、図14では、図面の簡素化のため、3種類の摩擦係数のみが図示されている。
【0147】
図14に示すように、同じ車速Vであっても、車輪2の路面に対する摩擦係数の値が小さくなるほど、停止距離の差hは大きくなる。即ち、同じ車速Vにおいて運転者が同じ制動動作を行ったとしても、S252で算出した摩擦係数が小さいほど、車両1の停止距離がは長くなり、正常時の最大摩擦係数での停止距離との差hが大きくなる。一方、摩擦係数が大きいほど、車両1の停止距離は短くなり、正常時の最大摩擦係数での停止距離との差hが小さくなる。
【0148】
本実施の形態では、停止距離の差hの上限値(図14のhmaxであり、例えば、hmax=50cm)が予め設定されており、CPU71は、かかる上限値hmaxに対応する車速Vlimを車速規制値マップから読み取り(即ち、図14の模式図において、S252の処理で算出された摩擦係数に対応する線(例えば、摩擦係数μ2の線)上から、停止距離の差hが上限値hmaxとなるポイントを探し、そのポイントにおける車速Vを車速Vlimとして読み取る)、この読み取った車速Vlimを算出された車速制限値として規定する(S253)。
【0149】
これにより、異常のある車輪2の接地面が低転がり側となり、グリップ力が低下した場合でも、そのグリップ力の低下の度合いに応じて、車両制限値(最大走行速度)を決定することができる。そのため、例えば、グリップ力の低下の度合いが高い場合には、車速制限値を小さな値(最大走行速度が遅い)に設定して、車両1を安全に制動または停止させることができる。一方、例えば、グリップ力の低下の度合いが低い場合には、車速制限値を大きな値(最大走行速度が速い)に設定して、車両1の最高速度に適度に余裕を持たせることで、走行性能や快適性を確保することができる。
【0150】
ここで、図14に示す車速制限値マップの算出方法について説明する。まず、停止距離とは、運転者が、制動動作が必要であると判断した地点から車両1が停車した地点までの距離であり、空走距離と制動距離との和である。空走距離は、運転者が、制動動作が必要と判断した地点から、ブレーキペダルの操作により実際に制動力が発生し始めた地点までの距離であり、制動距離は、制動力が発生し始めた地点から、車両1が停車した地点までの距離である。
【0151】
停止距離をL、空走距離をLs、制動距離をLb、車両1の車速をV、車輪2と路面との間の摩擦係数をμ、重力加速度をg、とすると、空走距離Lsは、Ls=0.8×Vで表され(但し、空走時間を0.8秒とする)、制動距離Lbは、Lb=V^2/(2×g×μ)で表されるので、停止距離Lは、L=Ls+Lb=0.8×V+V^2/(2×g×μ)で算出することができる。
【0152】
よって、かかる算出式に基づいて、正常時の最大摩擦係数での停止距離(例えば、「Lmin」と称す。)と、各摩擦係数(例えば、図14のμ1〜μ3)での停止距離(例えば、「Lave」と称す。)と、をそれぞれ算出し、その差分(Lave−Lmin)を求めることで、図14に示すように、各摩擦係数における停止距離の差hを算出することができる。このようにして算出された車速Vと停止距離の差hとを各摩擦係数に対してマッピングすることで、マップを作成することができる。
【0153】
S253の処理において車速制限値を算出した後は、車両1の車速が制限される旨を、音声や報知ランプの点灯などにより、予め運転者に報知した後(S254)、S253の処理で算出した車速低減値を車速制限値メモリ73dに書き込み、そのメモリの内容を更新することで、車速制限値を低減し(S255)、この車速制限処理(S226)を終了する。
【0154】
これにより、車両1の最大走行速度が制限されるので、車輪2の接地面が低転がり側となり、グリップ力が低下することで、車両1の制動力が低下した場合でも、車両1の最大走行速度を低減することで、車両1を安全に制動または停止させることができる。その結果、異常のある車輪2のキャンバ角がロックされていても、車両1の安全性を確保することができる。
【0155】
なお、上述したように、S254の処理における運転者への報知を、S255の処理における車速制限値の低減よりも前に行うので、車両1の車速が実際に減速される前に、運転者にその旨を報知して、事前に減速に備えさせることができる。その結果、異常の発生により車輪2のキャンバ角がロックされた場合でも、車両1の制動または停止をより安全に実行させることができる。
【0156】
図12に戻って説明する。S25の処理において、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側であると判定され(S25:Yes)、車速制限処理(S226)を実行した後、或いは、S25の処理において、異常のある車輪2の接地面が、低転がり側でないと判定された場合には(S25:No)、S27の処理に移行する。
【0157】
S27の処理では、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常があるかを判定し(S27)、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がある場合は(S27:Yes)、車速制限処理(S226)を実行して、車両1の車速制限値(最大走行速度)を低減した後、このフェールセーフ制御処理A(S220)を終了する。
【0158】
これにより、上述した場合(S25:Yes)と同様に、車両1の最大走行速度が制限されるので、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方(左右輪)に異常が発生して、走行安定性が低下した場合でも、車両1の車速制限値(最大走行速度)を低減させることで、車両1を安全に制動または停止させることができる。その結果、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常が発生した場合でも、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0159】
また、この場合、車速制限値(最大走行速度)の低減は、車速制限処理(S226)により、車輪2の接地状態(即ち、グリップ力)に応じて設定されるので、グリップ力が比較的低い場合には制動または停止を確実に行える車速まで減速させて、車両1の安全性を確保しつつ、グリップ力が比較的高い場合には、車速の不必要な制限を抑制して、最高速度に余裕を持たせることで、走行性能や快適性も確保することができる。
【0160】
一方、S27の処理において、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がない場合は(S27:No)、S28の処理をスキップし、このフェールセーフ制御処理A(S220)を終了する。
【0161】
図11に戻って説明する。S10の処理において、車輪2のキャンバ角がロックしていないと判定される場合には(S10:No)、次いで、車輪2のキャンバ角が制御可能な状態であるかを判定する(S201)。上述したように、S9の処理で比較した値が等しければ(又は所定値内であれば)、キャンバ角がロックされていると判定することができるが、その値が異なる場合には、動作に異常がある(例えば、キャンバ角の調整可能範囲に制限がある(±5度の可動範囲に対して調整可能範囲が±3度に制限される場合など))ものの、その調整可能範囲でキャンバ角を調整可能である場合と、キャンバ角付与装置4から駆動力を付与するか否かに関わらず、車輪2のキャンバー角が制御不能な遊動状態である場合との2つの状態が想定される。
【0162】
なお、S6の処理で比較した結果、調整後キャンバ角メモリの検出値がキャンバ角指令値メモリの指令値よりも小さい(即ち、調整後のキャンバ角が、指令されたキャンバ角まで到達していない)場合には、動作に異常があるものの、キャンバ角付与装置4によりキャンバ角を調整可能であると判定し、S6の処理で比較した結果、調整後キャンバ角メモリの検出値がキャンバ角指令値メモリの指令値よりも大きい(即ち、調整後のキャンバ角が、指令されたキャンバ角を通り越している)場合、或いは、S1又はS5で取得するキャンバ角の値が変動している(即ち、キャンバ角が遊動状態にある)場合には、キャンバ角付与装置4から駆動力を付与するか否かに関わらず、車輪2のキャンバー角が制御不能な遊動状態にあると判定する。
【0163】
S201の処理において、車輪2のキャンバ角が制御可能な状態である、即ち、動作に異常があるものの、キャンバ角付与装置4によりキャンバ角を調整可能であると判定される場合には(S201:Yes)、フェールセーフ制御処理B(S230)を実行する。ここで、図15を参照して、フェールセーフ制御処理B(S230)について説明する。
【0164】
図15は、フェールセーフ制御処理B(S230)を示すフローチャートである。CPU71は、フェールセーフ制御処理B(S230)に関し、まず、S31からS38までの処理を実行し、上述したように、車両1の直進性や旋回性を確保することで、車両1の安全性を確保する。なお、これら各処理については、上記した第1実施の形態と同一であるので、その説明は省略する。
【0165】
S39の処理では、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常があるかを判定し(S39)、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がある場合は(S39:Yes)、車速制限処理(S226)を実行して、車両1の車速制限値(最大走行速度)を低減した後、このフェールセーフ制御処理B(S230)を終了する。
【0166】
これにより、車両1の最大走行速度が制限されるので、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方(左右輪)に異常が発生して、走行安定性が低下した場合でも、車両1の最大制限速度である車速制限値を低減させることで、車両1を安全に制動または停止させることができる。その結果、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常が発生した場合でも、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0167】
また、この場合、車速制限値(最大走行速度)の低減は、車速制限処理(S226)により、車輪2の接地状態(即ち、グリップ力)に応じて設定されるので、グリップ力が比較的低い場合には制動または停止を確実に行える車速まで減速させて、車両1の安全性を確保しつつ、グリップ力が比較的高い場合には、車速の不必要な制限を抑制して、最高速度に余裕を持たせることで、走行性能や快適性も確保することができる。
【0168】
一方、S39の処理において、全ての前輪2FL,2FRまたは全ての後輪2RL,2RRに異常がない場合は(S39:No)、S226の処理をスキップし、このフェールセーフ制御処理B(S230)を終了する。
【0169】
図11に戻って説明する。S201の処理において、車輪2のキャンバ角が制御可能な状態ではない、即ち、キャンバ角付与装置4から駆動力を付与するか否かに関わらず、車輪2のキャンバ角が制御不能な遊動状態である場合には(S201:No)、フェールセーフ制御処理C(S240)を実行する。ここで、図16を参照して、フェールセーフ制御処理C(S240)について説明する。
【0170】
図16は、フェールセーフ制御処理C(S240)を示すフローチャートである。CPU71は、フェールセーフ制御処理C(S230)に関し、まず、正常動作する車輪2のキャンバ角を調整し、その接地面を高グリップ側に設定した後(S241)、車速制限処理(S226)を実行して、このフェースセーフ制御処理C(S240)を終了する。
【0171】
即ち、フェールセーフ制御処理C(S230)を実行する際の車両1の状態は、異常のある車輪2のキャンバ角が制御不能な遊動状態(キャンバ角付与装置から駆動力を付与してもキャンバ角を調整できない状態)にあるので、正常に動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくなるように調整することができない。そのため、スラスト力を均衡させることができないので、車両1の直進性や旋回性を確保するということができない。
【0172】
そこで、この場合には、正常動作する全ての車輪2のキャンバ角を調整して、その接地面を高グリップ側に設定した上で(S241)、車速制限処理(S226)を実行する。これにより、車両1全体としての各車輪2のグリップ力を最大限確保した状態とすることができるので、車両1の制動または停止を確実に行うことができる。
【0173】
図11に戻って説明する。上述したフェールセーフ制御処理A(S220)又はフェールセーフ制御処理B(S230)を終了した後は、次いで、ブレーキペダル53(図1参照)の踏み込み状態を検出して(S203)、S204の処理へ移行する。なお、ブレーキペダル53の踏み込み状態はブレーキペダルセンサ装置53a(図3参照)により検出され、CPU71は、ブレーキペダルセンサ装置53aから入力された検出結果に基づいて、ブレーキペダル53の踏み込み状態(例えば、踏み込み量や踏み込み速度)を算出する。
【0174】
S204の処理では、S203の処理で検出したブレーキペダル53の踏み込み状態に基づいて、急制動が指示されているか否かを判定する(S204)。ここで、急制動が指示されている場合としては、例えば、ブレーキペダル53の踏み込み量が所定量を超えている場合、ブレーキペダル53の踏み込み速度が所定速度を超えている場合、ブレーキペダル53が所定速度を超える踏み込み速度で所定量を超える踏み込み量だけ踏み込まれた場合、ブレーキペダル53の操作(踏み込み)が所定時間を超えて継続されている場合、などが例示される。
【0175】
S204の処理において、急制動が指示されていると判定される場合には(S204:Yes)、ブレーキペダル53が通常とは異なる態様で踏み込まれており、緊急的な制動(急制動)を行う必要があると判定できるので、正常動作する車輪2のキャンバ角を調整し、その接地面を高グリップ側に設定した後(S241)、このキャンバ制御処理を終了する。
【0176】
即ち、S10の処理において、異常のある車輪2のキャンバ角がロックされていると判定された場合には(S10:Yes)、フェールセーフ制御処理A(S220)により、正常に動作する前輪2FL,2FRのキャンバ角が、異常のある前輪2FL,2FRのキャンバ角と等しくなるように調整されるので(S22及びS24参照)、その際に、各車輪2の接地面が低転がり側(即ち、グリップ力の低いトレッド側)に設定されている可能性がある。
【0177】
また、S201の処理において、異常のある車輪2のキャンバ角が制御可能であると判定された場合は(S201:Yes)、フェールセーフ制御処理B(S230)により、異常のある車輪2の接地面を高グリップ側とした後に(S32及びS36参照)、正常に動作する前輪2FL,2FRのキャンバ角を、異常のある前輪2FL,2FRのキャンバ角と等しくなるように調整するので(S22及びS24参照)、各車輪2の接地面が高グリップ側に設定されてはいるが、上述したように、キャンバ角の調整可能範囲に制限がある(例えば、±5度の可動範囲に対して調整可能範囲が±3度に制限される場合など)ため、その調整可能範囲で最大限のキャンバ角を付与されているとしても、グリップ力が最大となる状態に達していない可能性がある。
【0178】
そこで、急制動が指示された場合には(S204:Yes)、上述したように、正常動作する全ての車輪2のキャンバ角を調整して、その接地面を高グリップ側に設定することで(S205)、車両1全体としての各車輪2のグリップ力を最大限確保した状態とすることができる。これにより、緊急的な制動を行う場合であっても、その車両1の制動または停止を確実に行うことができる。
【0179】
一方、S204の処理において、急制動が指示されていないと判定される場合には(S204:No)、急制動に備えた動作を行う必要がなく、上述したフェールセーフ制御処理A(S220)又はフェールセーフ制御処理B(S230)において行った処理(正常動作する車輪2のキャンバ角を、異常のある車輪2のキャンバ角と等しくして、車両1の直進性・旋回性を確保する処理)を維持する必要があるので、S205の処理をスキップして、このキャンバ制御処理を終了する。
【0180】
なお、S204の処理を実行した後は、S203からS204の処理を実行することなく、このキャンバ制御処理を終了する。即ち、S204の処理では、ブレーキペダル53の踏み込み状態とは関係なく、上述したように、正常動作する全ての車輪2の接地面が高グリップ側に設定されている(S241参照)。よって、たとえ運転者が緊急的な制動(急制動)を行った場合であっても、車両1全体としての各車輪2のグリップ力が既に最大限確保されているので、その車両1の制動または停止を確実に行うことができる。
【0181】
ここで、図8及び図11に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、請求項1記載の異常判定手段としてはS7の処理が、請求項2記載のキャンバ角指令値取得手段としてはS3の処理が、キャンバ角制御手段としてはS4の処理が、キャンバ角検出手段としてはS5の処理が、請求項4記載のロック判定手段としてはS10の処理が、請求項5記載の動作不良判定手段としてはS10の処理またはS10及びS201の処理が、それぞれ該当する。
【0182】
また、図9及び図12に示すフローチャート(フェールセーフ制御処理A)において、請求項1記載の異常判定手段としてはS21、S23及びS27の処理が、第1のフェールセーフ制御手段としてはS22及びS24の処理が、請求項3記載の車速制限手段としてはS26及びS28の処理が、接地量判定手段としてはS25の処理が、第2のフェールセーフ制御手段としてはS25及びS26の処理が、それぞれ該当する。
【0183】
また、図10及び図15に示すフローチャート(フェールセーフ制御処理B)において、請求項1記載の異常判定手段としてはS31、S35及びS39の処理が、第1のフェールセーフ制御手段としてはS34及びS38の処理が、請求項3記載の車速制限手段としてはS40の処理が、請求項5記載の第3のフェールセーフ制御手段としてはS31、S32、S33、S34、S35、S36、S37及びS38の処理が、それぞれ該当する。
【0184】
また、図11に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、請求項6記載の遊動状態判定手段としてはS201の処理が該当し、図16に示すフローチャート(フェールセーフ制御処理C)において、請求項6記載の第4のフェールセーフ制御手段としてはS241が該当する。
【0185】
また、図13に示すフローチャート(車速制限処理)において、請求項7記載の摩擦係数推定手段としてはS251及びS252の処理が、停止距離算出手段および許容車速算出手段としてはS253の処理が、それぞれ該当する。
【0186】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0187】
例えば、上記各実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0188】
また、上記各実施形態は、前輪2FL,2FRのキャンバ角が連動して調整される場合や、後輪2RL,2RRのキャンバ角が連動して調整される場合や、全ての車輪2が連動して調整される場合であっても当然適用することが可能である。
【0189】
また、上記各実施形態では、図8及び図11のフローチャートに示すキャンバ制御処理を、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2ms間隔で)実行しているが、さらに、イグニッションスイッチ(図示せず)がオンされた場合に実行しても良い。すなわち、車両1が走行する前に、各車輪2に異常があるか否かを判定し、異常がある場合は、ドライバーに警告することができる。また、車両1が走行する前に、各車輪2のキャンバ角を調整して、車両1においてスラスト力を均衡させ、車両1が旋回させられる力を抑制することができる。よって、車両1の走行前に、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制することができるので、走行する車両1の安全性をより確実に確保することができる。
【0190】
また、上記各実施形態では、車輪2が低転がり側であるか否かを、車輪2にプラス方向のキャンバ角が付与されているか否かによって判定しているが、例えば、予め、車輪2のキャンバ角とグリップ力との関係を測定して、低転がり側であるとする基準値(角度)を算出し、ROM72などに記憶しておいても良い。その場合は、各車輪2のキャンバ角が基準値(角度)を超えた場合に、低転がり側であると判定する。
【0191】
また、上記各実施形態のタイヤ2aには、高グリップ性の第1トレッドと、低転がり抵抗の第2トレッドとによって構成されているが、単一のトレッドで構成されていても良い。また、タイヤ2aは、一方のトレッドの両側に他方のトレッドが配置されていても良いし、3種類以上のトレッドで構成されていても良い。例えば、タイヤ2aが単一のトレッドで構成されている場合であっても、車輪2のキャンバ角を調整し、スラスト力を利用して車両1が旋回し易いように制御したり、車両1が旋回する場合に生じる遠心力によって変化するタイヤ2aの接地面積を均一に制御するなどのキャンバ角制御が考えられる。このような場合に、キャンバ角付与装置4が故障したとしても、車両1においてスラスト力を均衡させて、車両1を旋回させる力を抑制することができるので、走行する車両1の安全性を確保することができる。
【0192】
なお、タイヤ2aが単一のトレッドで構成されている場合は、各車輪2にキャンバ角が付与されていれば低転がり側であると判定し、各車輪2のキャンバ角を0度に調整した場合に、各車輪2の接地面積が最も多くなるので、高グリップ側であるとする。但し、接地面積の最も多くなるキャンバ角は0度に限定されるものではなく、車輪2(タイヤ2a)の形状や構造に応じて変化される。或いは、車輪2の転がり抵抗の値を実測し、その転がり抵抗の値が最も大きくなるキャンバ角を高グリップ側としても良い。
【0193】
また、上記各実施形態では、前輪2FL,2FRに異常があれば前輪2FL,2FRのキャンバ角を調整し、後輪2RL,2RRに異常があれば後輪2RL,2RRのキャンバ角を調整しているが、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方の車輪2に異常がなくても、何れかの車輪2に異常がある場合は、各車輪2の接地面を高グリップ側となるように調整しても良い。すなわち、双方に異常のない前輪2FL,2FRまたは後輪2FL,2FRにおいて、グリップ力が向上し、車両1のグリップ力が向上する。よって、走行する車両1を安全に制動または停止させることができるので、車両1の安全性をより確実に確保することができる。
【0194】
また、上記各実施形態では、各車輪2のキャンバ角は、キャンバ角センサ装置30によって検出されているが、例えば、FL〜RRアクチュエータ4FL4RRの各油圧シリンダ4a〜4cの伸縮位置や伸縮量に基づいて算出しても良い。
【0195】
また、上記各実施形態では、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方に異常が発生した場合に、車両1の最大制限速度である車速制限値を低減させているが、何れかの車輪2に異常があれば、車速制限値を低減させても良い。これにより、走行する車両1をより安全に制動または停止させることができるので、走行する車両1の安全性をより確実に確保することができる。
【0196】
また、上記各実施形態のキャンバ角付与装置4は、各車輪2に対応するFL〜RRアクチュエータ4FL〜4RRを備えており、各車輪2のキャンバ角をそれぞれ個別に調整しているが、各車輪2毎にキャンバ角付与装置4を配設して、各車輪2のキャンバ角をそれぞれ個別に調整しても良い。
【0197】
また、上記各実施形態では、前輪2FL,2FRまたは後輪2RL,2RRにおいて双方のキャンバ角を等しくして、スラスト力を均衡させているが、各車輪2毎にスラスト力を検出するスラスト荷重センサ装置を設け、そのスラスト荷重センサ装置によって検出されるスラスト力に基づいて、車両1におけるスラスト力が均衡するように、各車輪2のキャンバ角を調整しても良い。
【0198】
上記各実施の形態では説明を省略したが、フェールセーフ制御処理B(S30、S230)のS32及びS36の処理において、異常がある車輪2の接地面が高グリップ側となるようにキャンバ角を調整する場合には、高グリップ特性の第1トレッド21の接地面積が最大となるキャンバ角(即ち、可動範囲内でマイナス方向に最大のキャンバ角)を付与することが好ましい。グリップ力を最大限確保して、制動や停止を安全に行うことができるからである。なお、第2実施の形態におけるフェールセーフ制御処理C(S240)のS241の処理において、正常動作する車輪2の接地面が高グリップ側となるようにキャンバ角を調整する場合も同様である。
【0199】
第2実施の形態では、図11に示すキャンバ制御処理において、急制動が指示された場合に(S204:Yes)、S205の処理を実行する構成を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の場合にS205の処理を実行するように構成することは当然可能である。
【0200】
他の場合としては、例えば、ハンドル54の操作状態が所定の条件(例えば、操作角度が基準値以上、操作速度が基準値以上など)を満たした場合、車両1の走行状態が所定の条件(例えば、前後方向または左右方向の加速度が基準値以上、車速が基準値以上など)を満たした場合、車輪2が路面に対してスリップした場合、車輪2が路面に対してロック(車輪2の回転数が停止または減少)した場合などが例示される。
【0201】
なお、この場合、ハンドル54の操作状態はステアリングセンサ装置54a(図3参照)により、車両1の走行状態は加速度センサ装置31(図3参照)により、それぞれ検出する。また、車輪2の路面に対するスリップやロックは、車輪2の回転速度を検出する回転速度センサ装置(例えば、車輪2に連動して回転する回転体と、その回転体の周方向に多数形成された歯の有無を電磁的に検出するピックアップとを備えた電磁ピックアップ式のセンサ装置)により検出する。
【0202】
第2実施の形態では、図11に示すキャンバ制御処理のS205の処理において、正常動作する車輪2の内の全ての車輪2に対し、その接地面を高グリップ側に設定する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、正常動作する車輪2の内の一部の車輪2のみに対し、その接地面を高グリップ側に設定するようにしても良い。
【0203】
例えば、前輪2FL,2FRの一方(異常のある車輪)のみのキャンバ角が低転がり側のキャンバ角でロックされており、フェールセーフ制御処理A(S220)により、前輪2FL,2FRの他方(正常動作する車輪)のキャンバ角が、前輪2FL,2FRの一方(異常のある車輪)のキャンバ角と等しくされ(S22)、かつ、後輪2RL,2RRの両輪ともに正常動作する場合には、S205の処理において、正常動作する車輪2(前輪2FL,2FRの一方、及び、後輪2RL,2RRの3輪)の内の後輪2RL、2RRのみに対し、その接地面を高グリップ側に設定するようにしても良い。これにより、前輪2FL,2FRのスラスト力が異なり、車両1の直進性や旋回性が損なわれることを抑制しつつ、車両1全体としてのグリップ力を確保して、その制動または停止を確実に行うことができる。
【0204】
但し、このように、S205の処理において、正常動作する車輪2の内の一部の車輪2のみに対し、その接地面を高グリップ側に設定することは、車速が基準速度以下である場合に限ることが好ましい。運転者により急制動が指示されている場合には(S204:Yes)、衝突回避時などの緊急的な制動時であり、制動力を最大限に発揮することが優先されるので、正常動作する全ての車輪2の接地面を高グリップ側に設定して、そのグリップ力を最大限確保した状態とすることが好ましいからである。
【0205】
以下に本発明の変形例を示す。車両の車輪にキャンバ角を付与するキャンバ角付与装置を作動させ、前記車両に設けられる複数の車輪のキャンバ角を制御するキャンバ角制御装置において、前記車輪は、幅方向に並設された第1トレッドと第2トレッドとを少なくとも備え、前記第1トレッドは前記第2トレッドに比してグリップ力の高い特性に構成されると共に、前記第2トレッドは前記第1トレッドに比して転がり抵抗の小さい特性に構成され、前記キャンバ角付与装置に異常があるか否かを判定する異常判定手段と、前記車両の最大走行速度を所定値に制限する車速制限手段と、前記異常判定手段により異常があると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される前記車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させるフェールセーフ制御手段を備えていることを特徴とするキャンバ角制御装置1。
【0206】
キャンバ角制御装置1によれば、フェールセーフ制御手段は、異常判定手段によりキャンバ角付与装置に異常があると判定された場合に、車速制限手段により制限される車両の最大走行速度を所定値以下に減少させるので、車両を安全な速度で走行させることができる。すなわち、キャンバ角制付与装置に異常があるということは、例えば、第2トレッドの接地面積が多くなり、グリップ力が低下して、制動力が損なわれた状態、或いは、左右の車輪でキャンバ角が異なり、スラスト力の均衡が崩れることで、直進性や旋回性が損なわれた状態となっているおそれがあるので、車両の最大走行速度を所定値以下に減少させることで、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、車両の安全性をより確実に確保することができるという効果がある。
【0207】
キャンバ角制御装置1において、前記異常判定手段により異常があると判定された状態における前記車輪と路面との間の摩擦係数を推定する摩擦係数推定手段と、前記摩擦係数推定手段により推定された摩擦係数に基づいて前記車両の停止距離を算出する停止距離算出手段と、前記停止距離算出手段により算出された前記車両の停止距離が、前記車輪と路面との間の摩擦係数が最大となる状態における最大摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離に対し、所定値以下の差となるための前記車両の車速を算出する許容車速算出手段と、を備え、前記車速制限手段は、前記車両の最大走行速度を、前記車速算出手段によって算出された車速以下に制限することを特徴とするキャンバ角制御装置2。
【0208】
キャンバ角制御装置2によれば、キャンバ角制御装置1の奏する効果に加え、キャンバ角付与装置に異常がある状態における車輪の摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離と、車輪の摩擦係数が最大となる状態における最大摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離との差が所定値以下となるための車速を許容車速算出手段によって算出すると共に、その許容車速算出手段によって算出された車速以下に車両の最高走行速度を車速制限手段によって制限するので、車輪が路面との間で発揮できる摩擦係数の大きさに応じて、車両の最高走行速度を制限することができる。よって、グリップ力が比較的低い場合には制動または停止を確実に行える車速まで減速させて、車両の安全性を確保しつつ、グリップ力が比較的高い場合には、車速の不必要な制限を抑制して、走行性能や快適性も確保することができるという効果がある。
【0209】
例えば、キャンバ角付与装置の異常により、車輪の接地面が低転がり側となり、グリップ力が低下した場合でも、そのグリップ力の低下の度合いに応じて、車両の最大走行速度を制限することができる。そのため、例えば、グリップ力の低下の度合いが高い場合には、最大走行速度が比較的低速に設定して、車両を安全に制動または停止させることができる。一方、例えば、グリップ力の低下の度合いが低い場合には、最大走行速度を比較的高速に設定して、車両の最高速度に適度に余裕を持たせることで、走行性能や快適性を確保することができる。
【0210】
キャンバ角制御装置1又は2において、前記異常判定手段は、前記キャンバ角付与手段に異常があるか否かを前記車輪毎に判定するものであり、前記異常判定手段により異常があると判定された場合、前記異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、前記異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する第1のフェールセーフ制御手段を備えていることを特徴とするキャンバ角制御装置3。
【0211】
キャンバ角制御装置3によれば、キャンバ角制御装置1又は2の奏する効果に加え、第1のフェールセーフ制御手段は、異常判定手段によってキャンバ角付与装置に異常があると判定された場合に、異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する。キャンバ角付与装置によって車輪にキャンバ角が付与された場合、車輪にはキャンバ角に応じて車両を旋回させるスラスト力が発生するが、第1のフェール制御手段によって、複数の車輪のキャンバ角が等しくなるように制御されると、各車輪に生じるスラスト力が等しくなり、車両において各車輪のスラスト力が均衡するので、車両が旋回させられる力が抑制される。したがって、車両の直進性や旋回性が損なわれることが抑制されるので、走行する車両の安全性を確保することができるという効果がある。
【0212】
キャンバ角制御装置1から3のいずれかにおいて、前記各車輪に付与するキャンバ角の指令値を取得するキャンバ角指令値取得手段と、そのキャンバ角指令値取得手段により取得された指令値に基づいて、前記キャンバ角付与装置を作動させ前記各車輪のキャンバ角を制御するキャンバ角制御手段と、そのキャンバ角制御手段により制御された前記各車輪のキャンバ角を検出するキャンバ角検出手段とを備え、前記異常判定手段は、前記キャンバ角指令値取得手段により取得され各車輪に付与されたキャンバ角の指令値と、前記キャンバ角検出手段により検出された各車輪のキャンバ角とに基づいて、前記キャンバ角付与装置に異常があるか否かを前記車輪毎に判定することを特徴とするキャンバ角制御装置4。
【0213】
キャンバ角制御装置4によれば、キャンバ角制御装置1から3のいずれかの奏する効果に加え、異常判定手段は、キャンバ角指令値取得手段により取得され各車輪に付与されたキャンバ角の指令値と、キャンバ角検出手段により検出された各車輪のキャンバ角とに基づいて、キャンバ角付与装置に異常があるか否かを車輪毎に判定するので、その判定を、値を比較するという簡単な処理によって迅速に行うことができるという効果がある。
【0214】
キャンバ角制御装置3又は4において、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪のキャンバ角に基づいて、その車輪の第2トレッドが所定量以上接地しているかを判定する接地量判定手段と、その接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させる第2のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とするキャンバ角制御装置5。
【0215】
キャンバ角制御装置5によれば、キャンバ角制御装置3又は4の奏する効果に加え、第2のフェールセーフ制御手段は、接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合に、車速制限手段により制限される車両の最大走行速度を所定値以下に減少させるので、車両を安全な速度で走行させることができる。すなわち、異常のある車輪において転がり抵抗の小さい(グリップ力の小さい)第2トレッドが所定量以上接地している場合に、異常のない車輪のキャンバ角が、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように制御されると、異常のない車輪も、異常のある車輪と同様に第2トレッドが接地することとなり、グリップ力が低下して車両の制動力が低下してしまうところ、車両の最大走行速度を所定値以下に減少させることで、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、車両の安全性をより確実に確保することができるという効果がある。
【0216】
キャンバ角制御装置5において、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が固定されるロック状態であるかを判定するロック判定手段を備え、前記第2のフェールセーフ制御手段は、前記異常があると判定された車輪において前記ロック判定手段により車輪の状態がロック状態であると判定され、且つ、前記接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させることを特徴とするキャンバ角制御装置6。
【0217】
キャンバ角制御装置6によれば、キャンバ角制御装置5の奏する効果に加え、第2のフェールセーフ制御手段は、異常があると判定された車輪においてロック判定手段により車輪のキャンバ角が固定されるロック状態であると判定され、且つ、接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合に、車速制限手段により制限される車両の最大走行速度を所定値以下に減少させるので、車両を安全な速度で走行させることができる。すなわち、異常のある車輪において転がり抵抗の小さい第2トレッドが所定量以上接地した状態でロック状態となった場合に、異常のない車輪のキャンバ角が、ロック状態となった車輪のキャンバ角と等しくなるように制御されると、異常のない車輪も、異常のある車輪と同様に第2トレッドが接地することとなり、グリップ力が低下して車両の制動力が低下してしまうところ、車両の最大走行速度を所定値以下に減少させることで、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、異常のある車輪のキャンバ角がロック状態であっても、車両の安全性を確保することができるという効果がある。
【0218】
キャンバ角制御装置3から6のいずれかにおいて、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が前記指令値以外に調整される動作不良状態であるかを判定する動作不良判定手段と、その動作不良判定手段により前記異常があると判定された車輪の状態が動作不良状態であると判定された場合、前記異常があると判定された車輪において前記第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御し、前記異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、前記異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する第3のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とするキャンバ角制御装置7。
【0219】
キャンバ角制御装置7によれば、キャンバ角制御装置3から6のいずれかの奏する効果に加え、第3のフェールセーフ制御手段は、異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が指令値以外に調整される動作不良状態であると判定された場合に、異常があると判定された車輪においてグリップ力の高い特性の第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御し、異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御するので、各車輪のグリップ力を向上させることができる。すなわち、異常があると判定された車輪が、車輪のキャンバ角は動くものの指令値以外に調整される動作不良状態である場合、その車輪は、グリップ力の高い特性の第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角が制御されるのでグリップ力が向上する。そして、異常のない車輪のキャンバ角が、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように制御されると、異常のない車輪も、異常のある車輪と同様に第1トレッドが接地する比率が多くなるので、グリップ力が向上して車両のグリップ力が向上し、走行する車両を安全に制動または停止させることができる。よって、異常のある車輪のキャンバ角が動作不良状態であっても、車両の安全性を確保することができるという効果がある。
【0220】
キャンバ角制御装置1から7のいずれかにおいて、前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角を固定不能な遊動状態であるかを判定する遊動状態判定手段と、その遊動状態判定手段により前記異常があると判定された車輪の状態が前記遊動状態であると判定された場合、前記異常があると判定された車輪以外の全ての車輪において前記第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御する第4のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とするキャンバ角制御装置8。
【0221】
キャンバ角制御装置8によれば、キャンバ角制御装置1から7のいずれかの奏する効果に加え、異常があると判定された車輪の状態がキャンバ角を固定不能な遊動状態であると判定された場合、異常があると判定された車輪以外の全ての車輪において第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御する第4のフェールセーフ制御手段とを備えているので、車両の制動または停止を確実に行って、その安全性を確保することができるという効果がある。
【0222】
即ち、この場合は、キャンバ角付与装置から異常のある車輪に駆動力を付与しても、そのキャンバ角を調整できない状態にあり、また、正常に動作する車輪のキャンバ角を、異常のある車輪のキャンバ角と等しくなるように調整することもできない。そのため、スラスト力を均衡させることができないので、車両の直進性や旋回性を確保するということができない。
【0223】
そこで、この場合には、正常動作する全ての車輪のキャンバ角を調整して、その接地面を高グリップ側に設定することで、車両全体としての各車輪2のグリップ力を最大限確保した状態とすることができる。よって、車両の制動または停止を確実に行うことができるので、その安全性を確保することができる。
【0224】
ここで、図8及び図11に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、キャンバ角制御装置1記載の異常判定手段としてはS7の処理が、キャンバ角制御装置4記載のキャンバ角指令値取得手段としてはS3の処理が、キャンバ角制御手段としてはS4の処理が、キャンバ角検出手段としてはS5の処理が、キャンバ角制御装置6記載のロック判定手段としてはS10の処理が、キャンバ角制御装置7記載の動作不良判定手段としてはS10の処理またはS10及びS201の処理が、それぞれ該当する。
【0225】
また、図9及び図12に示すフローチャート(フェールセーフ制御処理A)において、キャンバ角制御装置1記載の異常判定手段としてはS21、S23及びS27の処理が、キャンバ角制御装置3記載の第1のフェールセーフ制御手段としてはS22及びS24の処理が、キャンバ角制御装置5記載の車速制限手段としてはS26及びS28の処理が、接地量判定手段としてはS25の処理が、第2のフェールセーフ制御手段としてはS25及びS26の処理が、それぞれ該当する。
【0226】
また、図10及び図15に示すフローチャート(フェールセーフ制御処理B)において、キャンバ角制御装置1記載の異常判定手段としてはS31、S35及びS39の処理が、キャンバ角制御装置3記載の第1のフェールセーフ制御手段としてはS34及びS38の処理が、キャンバ角制御装置5記載の車速制限手段としてはS40の処理が、キャンバ角制御装置7記載の第3のフェールセーフ制御手段としてはS31、S32、S33、S34、S35、S36、S37及びS38の処理が、それぞれ該当する。
【0227】
また、図11に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、キャンバ角制御装置8記載の遊動状態判定手段としてはS201の処理が該当し、図16に示すフローチャート(フェールセーフ制御処理C)において、キャンバ角制御装置8記載の第4のフェールセーフ制御手段としてはS241が該当する。
【0228】
また、図13に示すフローチャート(車速制限処理)において、キャンバ角制御装置2記載の摩擦係数推定手段としてはS251及びS252の処理が、停止距離算出手段および許容車速算出手段としてはS253の処理が、それぞれ該当する。
【図面の簡単な説明】
【0229】
【図1】本発明の実施形態における車両用制御装置が搭載される車両の上面視を模式的に示した模式図である。
【図2】(a)は車輪の断面図であり、(b)は車輪の操舵角およびキャンバ角の調整方法を模式的に説明する模式図である。
【図3】車両用制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】車両の上面視を模式的に示した模式図である。
【図5】車両の正面視を模式的に図示した模式図であり、車輪にマイナス方向のキャンバ角が付与された状態である。
【図6】車両の正面視を模式的に図示した模式図であり、車輪にプラス方向のキャンバ角が付与された状態である。
【図7】車両の正面視を模式的に図示した模式図であり、車輪において双方のキャンバ角が異なる状態である。
【図8】キャンバ制御処理を示すフローチャートである。
【図9】フェールセーフ制御処理Aを示すフローチャートである。
【図10】フェールセーフ制御処理Bを示すフローチャートである。
【図11】第2実施の形態におけるキャンバ制御処理を示すフローチャートである。
【図12】フェールセーフ制御処理Aを示すフローチャートである。
【図13】車速制限処理を示すフローチャートである。
【図14】車速制限値マップの内容を模式的に示す模式図である。
【図15】フェールセーフ制御処理Bを示すフローチャートである。
【図16】フェールセーフ制御処理Cを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0230】
100 車両用制御装置(キャンバ角制御装置の一例)
1 車両
2 車輪
2FL 左の前輪(車輪)
2FR 右の前輪(車輪)
2RL 左の後輪(車輪)
2RR 右の後輪(車輪)
4 キャンバ角付与装置
4FL〜4RR FL〜RRアクチュエータ(キャンバ角付与装置)
4a〜4c 油圧シリンダ(キャンバ角付与装置の一部)
4d 油圧ポンプ(キャンバ角調付与置の一部)
21 第1トレッド
22 第2トレッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪にキャンバ角を付与するキャンバ角付与装置を作動させ、前記車両に設けられる複数の車輪のキャンバ角を制御するキャンバ角制御装置において、
前記キャンバ角付与装置に異常があるか否かを前記車輪毎に判定する異常判定手段と、
その異常判定手段により異常があると判定された場合、前記異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、前記異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する第1のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とするキャンバ角制御装置。
【請求項2】
前記各車輪に付与するキャンバ角の指令値を取得するキャンバ角指令値取得手段と、
そのキャンバ角指令値取得手段により取得された指令値に基づいて、前記キャンバ角付与装置を作動させ前記各車輪のキャンバ角を制御するキャンバ角制御手段と、
そのキャンバ角制御手段により制御された前記各車輪のキャンバ角を検出するキャンバ角検出手段とを備え、
前記異常判定手段は、前記キャンバ角指令値取得手段により取得され各車輪に付与されたキャンバ角の指令値と、前記キャンバ角検出手段により検出された各車輪のキャンバ角とに基づいて、前記キャンバ角付与装置に異常があるか否かを前記車輪毎に判定することを特徴とする請求項1記載のキャンバ角制御装置。
【請求項3】
前記車輪は、幅方向に並設された少なくとも第1トレッドと第2トレッドとを備えると共に、前記第1トレッドは前記第2トレッドに比してグリップ力の高い特性に構成されると共に、前記第2トレッドは前記第1トレッドに比して転がり抵抗の小さい特性に構成され、
前記車両の最大走行速度を所定値に制限する車速制限手段と、
前記異常判定手段により異常があると判定された車輪のキャンバ角に基づいて、その車輪の第2トレッドが所定量以上接地しているかを判定する接地量判定手段と、
その接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させる第2のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とする請求項1または2記載のキャンバ角制御装置。
【請求項4】
前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が固定されるロック状態であるかを判定するロック判定手段を備え、
前記第2のフェールセーフ制御手段は、前記異常があると判定された車輪において前記ロック判定手段により車輪の状態がロック状態であると判定され、且つ、前記接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させることを特徴とする請求項3記載のキャンバ角制御装置。
【請求項5】
前記車輪は、幅方向に並設された少なくとも第1トレッドと第2トレッドとを備えると共に、前記第1トレッドは前記第2トレッドに比してグリップ力の高い特性に構成されると共に、前記第2トレッドは前記第1トレッドに比して転がり抵抗の小さい特性に構成され、
前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が前記指令値以外に調整される動作不良状態であるかを判定する動作不良判定手段と、
その動作不良判定手段により前記異常があると判定された車輪の状態が動作不良状態であると判定された場合、前記異常があると判定された車輪において前記第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御し、前記異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、前記異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する第3のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のキャンバ角制御装置。
【請求項6】
前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角を固定不能な遊動状態であるかを判定する遊動状態判定手段と、
その遊動状態判定手段により前記異常があると判定された車輪の状態が前記遊動状態であると判定された場合、前記異常があると判定された車輪以外の全ての車輪において前記第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御する第4のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のキャンバ角制御装置。
【請求項7】
前記異常判定手段により異常があると判定された状態における前記車輪と路面との間の摩擦係数を推定する摩擦係数推定手段と、
前記摩擦係数推定手段により推定された摩擦係数に基づいて前記車両の停止距離を算出する停止距離算出手段と、
前記停止距離算出手段により算出された前記車両の停止距離が、前記車輪と路面との間の摩擦係数が最大となる状態における最大摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離に対し、所定値以下の差となるための前記車両の車速を算出する許容車速算出手段と、
前記車速算出手段によって算出された車速以下に前記車両の最大走行速度を制限する前記第2の車速制限手段と、を備えていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のキャンバ角制御装置。
【請求項1】
車両の車輪にキャンバ角を付与するキャンバ角付与装置を作動させ、前記車両に設けられる複数の車輪のキャンバ角を制御するキャンバ角制御装置において、
前記キャンバ角付与装置に異常があるか否かを前記車輪毎に判定する異常判定手段と、
その異常判定手段により異常があると判定された場合、前記異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、前記異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する第1のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とするキャンバ角制御装置。
【請求項2】
前記各車輪に付与するキャンバ角の指令値を取得するキャンバ角指令値取得手段と、
そのキャンバ角指令値取得手段により取得された指令値に基づいて、前記キャンバ角付与装置を作動させ前記各車輪のキャンバ角を制御するキャンバ角制御手段と、
そのキャンバ角制御手段により制御された前記各車輪のキャンバ角を検出するキャンバ角検出手段とを備え、
前記異常判定手段は、前記キャンバ角指令値取得手段により取得され各車輪に付与されたキャンバ角の指令値と、前記キャンバ角検出手段により検出された各車輪のキャンバ角とに基づいて、前記キャンバ角付与装置に異常があるか否かを前記車輪毎に判定することを特徴とする請求項1記載のキャンバ角制御装置。
【請求項3】
前記車輪は、幅方向に並設された少なくとも第1トレッドと第2トレッドとを備えると共に、前記第1トレッドは前記第2トレッドに比してグリップ力の高い特性に構成されると共に、前記第2トレッドは前記第1トレッドに比して転がり抵抗の小さい特性に構成され、
前記車両の最大走行速度を所定値に制限する車速制限手段と、
前記異常判定手段により異常があると判定された車輪のキャンバ角に基づいて、その車輪の第2トレッドが所定量以上接地しているかを判定する接地量判定手段と、
その接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させる第2のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とする請求項1または2記載のキャンバ角制御装置。
【請求項4】
前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が固定されるロック状態であるかを判定するロック判定手段を備え、
前記第2のフェールセーフ制御手段は、前記異常があると判定された車輪において前記ロック判定手段により車輪の状態がロック状態であると判定され、且つ、前記接地量判定手段により第2トレッドが所定量以上接地していると判定された場合、前記車速制限手段によって制限される車両の最大走行速度を前記所定値以下に減少させることを特徴とする請求項3記載のキャンバ角制御装置。
【請求項5】
前記車輪は、幅方向に並設された少なくとも第1トレッドと第2トレッドとを備えると共に、前記第1トレッドは前記第2トレッドに比してグリップ力の高い特性に構成されると共に、前記第2トレッドは前記第1トレッドに比して転がり抵抗の小さい特性に構成され、
前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角が前記指令値以外に調整される動作不良状態であるかを判定する動作不良判定手段と、
その動作不良判定手段により前記異常があると判定された車輪の状態が動作不良状態であると判定された場合、前記異常があると判定された車輪において前記第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御し、前記異常があると判定された車輪以外の車輪のキャンバ角を、前記異常があると判定された車輪のキャンバ角と等しくなるように制御する第3のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のキャンバ角制御装置。
【請求項6】
前記異常判定手段により異常があると判定された車輪の状態が、車輪のキャンバ角を固定不能な遊動状態であるかを判定する遊動状態判定手段と、
その遊動状態判定手段により前記異常があると判定された車輪の状態が前記遊動状態であると判定された場合、前記異常があると判定された車輪以外の全ての車輪において前記第1トレッドが接地する比率を多くするようにキャンバ角を制御する第4のフェールセーフ制御手段とを備えていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のキャンバ角制御装置。
【請求項7】
前記異常判定手段により異常があると判定された状態における前記車輪と路面との間の摩擦係数を推定する摩擦係数推定手段と、
前記摩擦係数推定手段により推定された摩擦係数に基づいて前記車両の停止距離を算出する停止距離算出手段と、
前記停止距離算出手段により算出された前記車両の停止距離が、前記車輪と路面との間の摩擦係数が最大となる状態における最大摩擦係数に基づいて算出された車両の停止距離に対し、所定値以下の差となるための前記車両の車速を算出する許容車速算出手段と、
前記車速算出手段によって算出された車速以下に前記車両の最大走行速度を制限する前記第2の車速制限手段と、を備えていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のキャンバ角制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−90971(P2009−90971A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243028(P2008−243028)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
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