説明

トウ角・キャンバ角変更装置及びトウ角・キャンバ角変更方法

【課題】 キャンバ角の付与による旋回を積極的に利用して損失を少なくし、低燃費で車両を走行させることができるトウ角・キャンバ角変更装置及びトウ角・キャンバ角変更方法を提供する。
【解決手段】 操舵角を検知する操舵角センサ18と、車輪6〜9のトウ角を変更するトウアクチュエータ61〜64と、車輪のキャンバ角を変更するキャンバアクチュエータ65〜68とを備え、操舵角センサ18の検知した操舵角に応じてトウアクチュエータ61〜64及びキャンバアクチュエータ65〜68を作動するトウ角・キャンバ角変更装置において、操舵角センサ18の検知した操舵角が所定角度未満の領域ではキャンバアクチュエータ65〜68のみ作動させるECU5とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が旋回する際にトウ角とキャンバ角を制御するトウ角・キャンバ角変更装置及びトウ角・キャンバ角変更方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行状態に応じて車輪のアライメントをアクチュエータにより制御するものが知られている。また、車輪のストローク位置が変化しても所望のアライメントを得られるようにした車輪のアライメント制御装置がある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平3−231015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたものは、旋回特性を変更しているのみで、旋回時のエネルギ損失までを考慮していない。車両を旋回させるには、トウ角を付与する場合とキャンバ角を付与する場合があるが、キャンバ角で発生するコーナリングフォースはトウ角で発生するコーナリングフォースの約1/10なので、従来は主にトウ角で旋回している。だが、トウ角で発生するコーナリングフォースはタイヤの回転面に垂直な方向の力の分力で曲がっているので、キャンバ旋回に比べて、損失が大きい。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するものであって、キャンバ角の付与による旋回を積極的に利用して損失を少なくし、低燃費で車両を走行させることができるトウ角・キャンバ角変更装置及びトウ角・キャンバ角変更方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そのために本発明は、操舵角を検知する操舵角検知手段と、車輪のトウ角を変更するトウ角変更手段と、車輪のキャンバ角を変更するキャンバ角変更手段とを備え、前記操舵角検知手段の検知した操舵角に応じて前記トウ角変更手段及びキャンバ角変更手段を作動するトウ角・キャンバ角変更装置において、前記操舵角検知手段の検知した操舵角が所定角度未満の領域では前記キャンバ角変更手段のみ作動させる制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0006】
また、前記制御手段は、前記操舵角検知手段の検知した操舵角が所定角度以上の領域では前記トウ角変更手段のみを作動させることを特徴とする。
【0007】
さらに本発明は、操舵角に応じてトウ角及びキャンバ角を変更するトウ角・キャンバ角変更方法において、操舵角が所定角度未満の領域では車輪のキャンバ角のみ変更し、所定角度以上の領域ではトウ角のみ変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、操舵角を検知する操舵角検知手段と、車輪のトウ角を変更するトウ角変更手段と、車輪のキャンバ角を変更するキャンバ角変更手段とを備え、前記操舵角検知手段の検知した操舵角に応じて前記トウ角変更手段及びキャンバ角変更手段を作動するトウ角・キャンバ角変更装置において、前記操舵角検知手段の検知した操舵角が所定角度未満の領域では前記キャンバ角変更手段のみ作動させる制御手段とを備えたので、キャンバ角の付与による旋回を積極的に利用して損失を少なくし、低燃費で車両を走行させることができる。
【0009】
請求項2記載の発明によれば、前記操舵角検知手段の検知した操舵角が所定角度以上の領域では前記トウ角変更手段のみを作動させるので、キャンバ角変更手段とトウ角変更手段とを効率的に使い分けることができ、さらに低燃費で車両を走行させることができる。
【0010】
請求項3記載の発明によれば、操舵角に応じてトウ角及びキャンバ角を変更するトウ角・キャンバ角変更方法において、操舵角が所定角度未満の領域では車輪のキャンバ角のみ変更し、所定角度以上の領域ではトウ角のみ変更するので、キャンバ角の付与による旋回を積極的に利用して損失を少なくし、低燃費で車両を走行させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態における車両1の構造の概略図、図2は本実施形態における車両1のシステムブロック図を示す。図中、1は車両、2は車体、3はバッテリ、4は充電器、5は制御手段の一例としてのECU、5aはモータコントローラ、6乃至9は車輪、10は操縦系入力、11はアクセル、12はブレーキ、13はステアリング、16はアクセルセンサ、17はブレーキセンサ、18は操舵角検知手段の一例としての操舵角センサ、20は車両姿勢系センサ、21は前後加速度センサ、22は左右加速度センサ、23は上下加速度センサ、24はロール角検知手段の一例としてのロール角速度センサ、25はピッチ角速度センサ、26はヨー角速度センサ、30は車両モータセンサ、40はアクチュエータ系センサ、41乃至44は各輪のトウ角検知手段の一例としてのトウ角センサ、45乃至48は各輪のキャンバ角検知手段の一例としてのキャンバ角センサ、50は駆動装置、51乃至54は各輪のホイールモータ、60は操舵アクチュエータ、61乃至64は各輪用のトウ角変更手段の一例としてのトウアクチュエータ、65乃至69は各輪用のキャンバ角変更手段の一例としてのキャンバアクチュエータである。
【0012】
車両1は、各輪用のトウアクチュエータ61〜64、各輪用のキャンバアクチュエータ65〜68を介して、車体2を車輪6〜9で支持し、充電器4で充電したバッテリ3を電源としてホイールモータ51〜54を回転させ、車輪6〜9を駆動することにより走行するものである。
【0013】
乗員が操縦系入力10のアクセル11による加速、ブレーキ12による制動及びステアリング13による操舵等を実行すると、アクセルセンサ16、ブレーキセンサ17及び操舵角センサ18が検知した値をECU5に入力する。ECU5には、その他に、各加速度センサ21〜23及び各角速度センサ24〜26等の車両姿勢系センサ20、車両モータセンサ30及びアクチュエータ系センサ40等からの車両状態が入力される。ECU5はそれらの入力を演算し、モータコントローラ5aを介して各モータ51〜54からなる駆動装置50の回転数及び各輪用のトウアクチュエータ61〜64、各輪用のキャンバアクチュエータ65〜68からなる操舵アクチュエータ60を制御し、車体2を所望の姿勢に制御する。
【0014】
次に、本実施形態のトウ角・キャンバ角変更装置におけるトウ角の変更とキャンバ角の変更との使い分けの概念について説明する。図3は、トウ角の変更とキャンバ角の変更との使い分けの概念図である。グラフ中、横軸は操舵角を示し、縦軸はコーナリングフォース係数を示す。
【0015】
本実施形態では、まず、操舵角が所定角度である25度になるまではキャンバ角を変更する。この領域をキャンバ角動作領域aとする。そして、操舵角が所定角度である25度以上になった場合、キャンバ角は操舵角25度に対応する角度のままトウ角を変更する。この領域をトウ角動作領域bとする。
【0016】
図4は、このような概略のトウ角・キャンバ角変更装置における制御フローを示す。まず、ステップ1で、乗員の操作した現在の操舵角を操舵角センサ18により検知する(ST1)。この時の操舵角は記憶しておき、次回の制御に使用する。次に、ステップ2で、図3に示したようなグラフ、演算式又はマップ等から必要なトウ角とキャンバ角をECU5により算出する(ST2)。続いて、ステップ3で、乗員の操作した操舵角が所定値未満のキャンバ角動作領域a内の値、例えば本実施形態では25度未満であるか判断する(ST3)。
【0017】
操舵角がキャンバ角動作領域a内である場合、ステップ4で、前回の制御の際に乗員の操作した操舵角が所定値未満のキャンバ角動作領域a内の値であったか判断する(ST4)。ここで、今回が最初の制御の場合、前回の操舵角は0度、すなわち、所定値未満のキャンバ角動作領域a内の値であるとする。
【0018】
前回の制御の際に乗員の操作した操舵角が所定値未満のキャンバ角動作領域a内の値であった場合、ステップ5で、キャンバアクチュエータ65〜68によりキャンバ角のみを動作させる(ST5)。続いて、ステップ6で、キャンバ角センサ45〜48によりキャンバ角を検知し(ST6)、ステップ7で、目標のキャンバ角であるか判断する(ST7)。目標のキャンバ角となった場合には制御を終了し、目標のキャンバ角とならなかった場合にはステップ5に戻る。
【0019】
ステップ4の判断で、前回の制御の際に乗員の操作した操舵角が所定値未満のキャンバ角動作領域a内の値でなかった場合、すなわち、トウ角動作領域b内の値であった場合、ステップ11で、トウアクチュエータ61〜64によりトウ角を動作する(ST11)。続いて、ステップ12で、トウ角センサ41〜44によりトウ角を検知し(ST12)、ステップ13で、目標のトウ角であるか判断する(ST13)。目標のトウ角とならなかった場合には、ステップ11に戻る。目標のトウ角となった場合には、次に、ステップ14で、キャンバアクチュエータ65〜68によりキャンバ角のみを動作させる(ST14)。続いて、ステップ15で、キャンバ角センサ45〜48によりキャンバ角を検知し(ST15)、ステップ16で、目標のキャンバ角であるか判断する(ST16)。目標のキャンバ角となった場合には制御を終了し、目標のキャンバ角とならなかった場合にはステップ14に戻る。
【0020】
次に、前述したステップ3での判断が、乗員の操作した操舵角が所定値未満のキャンバ角動作領域a内の値でなかった場合、すなわち、トウ角動作領域b内の値、本実施形態では25度以上だった場合、ステップ21で、今回の乗員の操作した操舵角の絶対値が前回の操舵角の絶対値以下であるか判断する(ST21)。ここで、今回が最初の制御の場合、前回の操舵角は0度とする。今回の乗員の操作した操舵角の絶対値が前回の操舵角の絶対値以下である場合、ステップ22で、トウアクチュエータ61〜64によりトウ角を動作する(ST22)。続いて、ステップ23で、トウ角センサ41〜44によりトウ角を検知し(ST23)、ステップ24で、目標のトウ角であるか判断する(ST24)。目標のトウ角とならなかった場合には、ステップ21に戻る。目標のトウ角となった場合には、次に、ステップ25で、キャンバアクチュエータ65〜68によりキャンバ角のみを動作させる(ST25)。ただし、キャンバ角を動作させる必要のない場合は、キャンバ角の動作量を0とする。続いて、ステップ26で、キャンバ角センサ45〜48によりキャンバ角を検知し(ST26)、ステップ27で、目標のキャンバ角であるか判断する(ST27)。目標のキャンバ角となった場合には制御を終了し、目標のキャンバ角とならなかった場合にはステップ25に戻る。
【0021】
今回の乗員の操作した操舵角の絶対値が前回の操舵角の絶対値以下でない場合、すなわち、今回の乗員の操作した操舵角の絶対値が前回の操舵角の絶対値より大きい場合、ステップ31で、キャンバアクチュエータ65〜68によりキャンバ角のみを動作させる(ST31)。ただし、キャンバ角を動作させる必要のない場合は、キャンバ角の動作量を0とする。続いて、ステップ32で、キャンバ角センサ45〜48によりキャンバ角を検知し(ST32)、ステップ33で、目標のキャンバ角であるか判断する(ST33)。目標のキャンバ角とならなかった場合にはステップ31に戻る。目標のキャンバ角となった場合にはステップ34で、トウアクチュエータ61〜64によりトウ角を動作する(ST34)。続いて、ステップ35で、トウ角センサ41〜44によりトウ角を検知し(ST35)、ステップ36で、目標のトウ角であるか判断する(ST36)。目標のトウ角となった場合には制御を終了し、目標のトウ角とならなかった場合には、ステップ34に戻る。
【0022】
したがって、前回乗員の操作した操舵角が所定値未満のキャンバ角動作領域a内の値であった場合には、まずキャンバアクチュエータ65〜68によりキャンバ角を動作させ、その後、操舵角が所定値以上のトウ角動作領域b内の値となった場合には、トウアクチュエータ61〜64によりトウ角を動作させる。前回乗員の操作した操舵角が所定値以上のトウ角動作領域b内の値であった場合には、まずトウアクチュエータ61〜64によりトウ角を動作させ、その後、操舵角が所定値未満のキャンバ角動作領域a内の値となった場合には、キャンバアクチュエータ65〜68によりキャンバ角を動作させる。
【0023】
このように、操舵角を検知する操舵角センサ18と、車輪6〜9のトウ角を変更するトウアクチュエータ61〜64と、車輪のキャンバ角を変更するキャンバアクチュエータ65〜68とを備え、操舵角センサ18の検知した操舵角に応じてトウアクチュエータ61〜64及びキャンバアクチュエータ65〜68を作動するトウ角・キャンバ角変更装置において、操舵角センサ18の検知した操舵角が所定角度未満の領域ではキャンバアクチュエータ65〜68のみ作動させるECU5とを備えたので、キャンバ角の付与による旋回を積極的に利用して損失を少なくし、低燃費で車両を走行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態の車両構成を示す図である。
【図2】車両のシステム構成を示したブロック図である。
【図3】操舵角に応じたトウ角変更領域及びキャンバ角変更領域を示す図である。
【図4】操舵角に応じたトウ角変更及びキャンバ角変更のフローチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1…車両、2…車体、3…バッテリ、4…充電器、5…ECU(制御手段)、5a…モータコントローラ、6〜9…車輪、10…操縦系入力、11…アクセル、12…ブレーキ、13…ステアリング、16…アクセルセンサ、17…ブレーキセンサ、18…操舵角センサ(操舵角検知手段)、20…車両姿勢系センサ、21…前後加速度センサ、22…左右加速度センサ、23…上下加速度センサ、24…ロール角速度センサ(ロール角検知手段)、25…ピッチ角速度センサ、26…ヨー角速度センサ、30…車両モータセンサ、40…アクチュエータ系センサ、41〜44…各輪のトウ角センサ(トウ角検知手段)、45〜48…各輪のキャンバ角センサ(キャンバ角検知手段)、50…駆動装置、51〜54…各輪のホイールモータ、60…操舵アクチュエータ、61〜64…各輪用のトウアクチュエータ(トウ角変更手段)、65〜68…各輪用のキャンバアクチュエータ(キャンバ角変更手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵角を検知する操舵角検知手段と、車輪のトウ角を変更するトウ角変更手段と、車輪のキャンバ角を変更するキャンバ角変更手段とを備え、前記操舵角検知手段の検知した操舵角に応じて前記トウ角変更手段及びキャンバ角変更手段を作動するトウ角・キャンバ角変更装置において、前記操舵角検知手段の検知した操舵角が所定角度未満の領域では前記キャンバ角変更手段のみ作動させる制御手段とを備えたことを特徴とするトウ角・キャンバ角変更装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記操舵角検知手段の検知した操舵角が所定角度以上の領域では前記トウ角変更手段のみを作動させることを特徴とする請求項1に記載のトウ角・キャンバ角変更装置。
【請求項3】
操舵角に応じてトウ角及びキャンバ角を変更するトウ角・キャンバ角変更方法において、操舵角が所定角度未満の領域では車輪のキャンバ角のみ変更し、所定角度以上の領域ではトウ角のみ変更することを特徴とするトウ角・キャンバ角変更方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−162313(P2008−162313A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351286(P2006−351286)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】