説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】エンジン始動時の電力消費を低減することが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置は、シリーズ式走行モードとシリーズパラレル式走行モードとの間で走行モードを切り替え可能なハイブリッド車両に搭載される。ハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、制御手段とを備える。制御手段は、シリーズ式走行モードでエンジンを始動させる場合の要求電力と、シリーズパラレル式走行モードでエンジンを始動させる場合の要求電力とをそれぞれ算出する。そして、制御手段は、要求電力が低い走行モードでエンジンを始動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に好適な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関(エンジン)に加えて、電動機や発電機として機能する回転電機(モータジェネレータ)を備えるハイブリッド車両が知られている。例えば、特許文献1には、差動機構の出力軸と回転電機との間にクラッチを備え、クラッチと出力軸との間にブレーキを備えることで、所謂シリーズパラレル式の走行モードと、シリーズ式の走行モードとを切り替え可能なハイブリッド車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−237392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走行モードが異なる場合、これに対応してエンジン始動時の要求電力が異なる。また、エンジン始動時の要求電力が大きい場合、その分電力消費が増大すると共に、バッテリの出力上限が小さい場合には、モータジェネレータを駆動源とした走行(以後、「EV走行」と呼ぶ。)を行う機会が減り燃費が悪化する。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、エンジン始動時の電力消費を低減することが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、シリーズ式走行モードとシリーズパラレル式走行モードとの間で走行モードを切り替えるハイブリッド車両の制御装置であって、前記ハイブリッド車両の動力要素であるエンジンと、前記シリーズ式走行モードで前記エンジンを始動させる場合の要求電力と、前記シリーズパラレル式走行モードで前記エンジンを始動させる場合の要求電力とをそれぞれ算出し、前記要求電力が低い方の走行モードで前記エンジンを始動させる制御手段と、を備える。
【0007】
上記のハイブリッド車両の制御装置は、シリーズ式走行モードとシリーズパラレル式走行モードとの間で走行モードを切り替え可能なハイブリッド車両に搭載される。ここで、「シリーズ式走行モード」とは、エンジンからの動力を回転電機により全て電力に変換し、当該電力に基づき、駆動軸に連結された回転電機を駆動する走行モードを指す。また、「シリーズパラレル式走行モード」とは、エンジンから出力された動力を2つに分配し、一部を機械的な動力のまま駆動軸に出力すると共に、残余を電力に変換して駆動軸に出力する走行モードを指す。ハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、制御手段とを備える。制御手段は、例えばECU(Electronic Control Unit)であり、シリーズ式走行モードでエンジンを始動させる場合の要求電力と、シリーズパラレル式走行モードでエンジンを始動させる場合の要求電力とをそれぞれ算出する。ここで、「要求電力」とは、バッテリなどの蓄電手段からハイブリッド車両へ供給する電力の要求値を指す。そして、制御手段は、要求電力が低い走行モードでエンジンを始動させる。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、エンジン始動時の電力消費を低減することができる。
【0008】
上記のハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記制御手段は、前記エンジンを始動した後、所定時間幅以内に前記走行モードを切り替えることが予想される場合、前記所定時間幅経過後に実行することが予想される走行モードに基づき前記エンジンを始動させる。ここで、「所定時間幅」は、例えば、走行モードの切り替えに起因して車両にショック又はもたつきが発生する虞があるエンジン始動後からの時間幅の上限を指し、実験等に基づき予め定められる。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、エンジン始動直後に走行モードを切り替えることに起因したショック及びもたつきの発生を抑制することができる。
【0009】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、前記シリーズパラレル式走行モードに基づき走行する場合に、騒音又は/及び振動を回避するため最適燃費動作線とは異なる動作線に基づき前記エンジンを動作させる必要がある走行領域では、前記シリーズ式走行モードに基づき走行を行う。この態様では、制御手段は、シリーズパラレル式走行モードにおいて、エンジンに起因したこもり音や歯打ち音等を抑制するため、エンジン動作線を最適燃費動作線からずらす必要がある走行領域では、シリーズ式走行モードに基づき走行を行う。ここで、「走行領域」とは、例えば、エンジンの回転数が所定値以下の走行状態を指す。このように、ハイブリッド車両の制御装置は、上述の走行領域では、シリーズ式走行モードを選択することでエンジンを駆動軸から分離し、騒音等を抑制する。これにより、ハイブリッド車両の制御装置は、最適燃費動作線に基づく走行が継続可能となり、燃費を向上させることができる。
【0010】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、第1回転電機と、第2回転電機と、前記第1回転電機に連結された第1回転要素と、前記第2回転電機と駆動軸とにクラッチを介して連結する第2回転要素と、前記エンジンと連結する第3回転要素と、を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備えた動力伝達機構と、締結状態において、前記第1回転要素を固定可能なブレーキと、をさらに備え、前記制御手段は、前記クラッチを解放状態かつ前記ブレーキを締結状態にすることで、前記シリーズ式走行モードへ切り替え、前記クラッチを締結状態かつ前記ブレーキを解放状態にすることで、前記シリーズパラレル式走行モードへ切り替える。この態様では、好適に、ハイブリッド車両の制御装置は、シリーズ式走行モードとシリーズパラレル式走行モードとを切り替えることができる。
【0011】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記エンジンと同一の回転軸を共有する第1回転電機と、第2回転電機と、前記第2回転電機に連結された第1回転要素と、前記第1回転電機及び前記エンジンとクラッチを介して連結された第2回転要素と、駆動軸と連結された第3回転要素と、を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備えた動力伝達機構と、締結状態において、前記第2回転要素を固定可能なブレーキと、をさらに備え、前記制御手段は、前記クラッチを解放状態かつ前記ブレーキを締結状態にすることで、前記シリーズ式走行モードへ切り替え、前記クラッチを締結状態かつ前記ブレーキを解放状態にすることで、前記シリーズパラレル式走行モードへ切り替える。この態様では、好適に、ハイブリッド車両の制御装置は、シリーズ式走行モードとシリーズパラレル式走行モードとを切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の各実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成図の一例を示す。
【図2】ハイブリッド駆動装置の概略構成図の一例である。
【図3】ハイブリッド駆動装置の一動作状態を例示する動作共線図である。
【図4】横軸をエンジン回転数、縦軸をエンジントルクとした場合のエンジンの動作点を示すグラフの一例である。
【図5】ECUが使用するモード切替を判断するためのマップの一例を示す。
【図6】EV走行からエンジンを始動させる際に、いずれの走行モードにより走行すべきかを示すマップの一例である。
【図7】第1制御に係る処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図8】第2制御に係る処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図9】第3制御に係る処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図10】第4制御に係る処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図11】他の構成例に係るハイブリッド駆動装置の概略構成図である。
【図12】他の構成例に係るハイブリッド駆動装置の一動作状態を例示する動作共線図である。
【図13】他の構成例に係るハイブリッド駆動装置の概略構成図である。
【図14】他の構成例に係るハイブリッド駆動装置の一動作状態を例示する動作共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0014】
[構成]
始めに、図1を参照し、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を適用したハイブリッド車両1の構成の一例について説明する。図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14、及びハイブリッド駆動装置10を備える。
【0015】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、A/D(Analog to Digital)変換器及び入出力インターフェイスなどを有し、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する制御を実行する。そして、ECU100は、本発明における制御手段として機能する。なお、本発明に係る制御手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えば制御手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等であってもよい。
【0016】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動するドライブユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。
【0017】
PCU11は、不図示のインバータを含み、バッテリ12と後述する各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いはバッテリ12を介さない各モータジェネレータ相互間の電力の入出力を制御する制御ユニットである。具体的には、PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して各モータジェネレータに供給すると共に、各モータジェネレータによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給する。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される。
【0018】
バッテリ12は、複数の単位電池セルを直列接続した構成を有し、各モータジェネレータを力行するための電力に係る電力供給源として機能する電池ユニットである。
【0019】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度「Ta」を検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0020】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速「V」を検出するセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0021】
ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。図2は、ハイブリッド駆動装置10の概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0022】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン20、動力分割機構30、モータジェネレータMG1(以下、適宜「モータMG1」と略称する。)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「モータMG2」と略称する。)、入力軸40、クラッチCR、ブレーキBR、減速機構60、及びオイルポンプ70を備える。
【0023】
エンジン20は、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能し、本発明に係る「内燃機関」の一例たるエンジンである。エンジン20の出力動力たるエンジントルク「Te」は、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の入力軸40に連結されている。
【0024】
モータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた、本発明に係る「第1回転電機」の一例たる電動発電機である。
【0025】
モータMG2は、モータMG1よりも体格の大きい本発明に係る「第2回転電機」の一例たる電動発電機であり、モータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備える。モータMG2は、モータMG1及びエンジン20と異なり、ハイブリッド車両1の駆動軸(以後、「駆動軸OUT」と呼ぶ。)に対し、その出力トルク(以後、「MG2トルクTm」と呼ぶ。)を作用させることが可能である。従って、モータMG2は、駆動軸OUTにトルクを付加してハイブリッド車両1の走行をアシストすることも、駆動軸OUTからのトルクの入力により電力回生を行うことも可能である。MG2トルクTmは、モータMG1の入出力トルク(以後、「MG1トルクTg」と呼ぶ。)と共に、PCU11を介してECU100により制御される。
【0026】
尚、モータMG1及びモータMG2は、同期電動発電機として機能し、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。
【0027】
動力分割機構30は、本発明に係る「動力伝達機構」の一例たる複合型遊星歯車機構である。動力分割機構30は、中心部に設けられた、本発明に係る「第1回転要素」の一例たるサンギアS1と、サンギアS1の外周に同心円状に設けられた本発明に係る「第2回転要素」の一例たるリングギアR1と、サンギアS1とリングギアR1との間に配置されてサンギアS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支する本発明に係る「第3回転要素」の一例たるキャリアC1とを備える。
【0028】
ここで、サンギアS1は、モータMG1のロータに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転数はモータMG1の回転数(以後、「MG1回転数Nmg1」と呼ぶ。)と等価である。リングギアR1は、クラッチCRを介して減速機構60に連結されている。また、リングギアR1の回転数は、クラッチCRが締結された場合、駆動軸OUTの回転数(以後、「出力回転数Nout」と呼ぶ。)と等価である。更に、リングギアR1は、ブレーキBRと接続する。そして、リングギアR1は、ブレーキBRが締結状態の場合、その回転が制止されて固定される。キャリアC1は、エンジン20のクランク軸に連結された入力軸40と連結されており、その回転数は、エンジン20の回転数(以後、「エンジン回転数Ne」と呼ぶ。)と等価である。
【0029】
動力分割機構30は、上述した構成の下で、エンジン20から入力軸40に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1によってサンギアS1及びリングギアR1に所定の比率、具体的には各ギア相互間のギア比に応じた比率で分配する。即ち、動力分割機構30は、エンジン20の動力を2系統に分割する。
【0030】
減速機構60は、モータMG2のロータと連結すると共に、クラッチCRを介してリングギアR1と連結する。そして、減速機構60は、駆動軸OUTの回転を、減速機構60を構成する各ギアのギア比に応じて定まる減速比に応じて減速された形でモータMG2に伝達する。よって、モータMG2の回転数(以後、「MG2回転数Nmg2」と呼ぶ。)は、車速Vに応じて一義的に定まる。また、減速機構60は、車軸と一義的な回転状態を呈する駆動軸OUTと、この駆動軸OUTに連結された減速ギアと、デファレンシャルとを含む。そして、各車軸の回転数は、減速機構60により所定のギア比に従って減速された状態で駆動軸OUTに伝達される。
【0031】
オイルポンプ70は、ハイブリッド駆動装置10の各部に潤滑油を供給する。オイルポンプ70は、入力軸40にて伝達された動力にて駆動される。
【0032】
尚、本発明に係る「動力伝達機構」に係る実施形態上の構成は、動力分割機構30のものに限定されない。例えば、本発明に係る動力伝達機構は、複数の遊星歯車機構が組み合わされた複合型遊星歯車機構であってもよい。
【0033】
[制御方法]
以下では、ECU100が実行する制御方法について具体的に説明する。以後では、モータMG1とモータMG2とを特に区別しない場合、これらを「モータ」と総称する。
【0034】
(モード切替の基本制御)
まず、ECU100が実行するハイブリッド車両1の走行方式(以後、「走行モード」と呼ぶ。)の切り替え(以後、単に「モード切替」と呼ぶ。)の基本制御について説明する。概略的には、ECU100は、ブレーキBR及びクラッチCRのそれぞれの状態を制御することで、モード切替を実行する。
【0035】
具体的には、ECU100は、ブレーキBRを締結状態とし、クラッチCRを解放状態とすることで、ハイブリッド車両1を、エンジン20からの動力をモータにより全て電力に変換し、そこで得られた電力に基づきモータにより駆動するハイブリッド車両(以後、「シリーズ式ハイブリッド車両」と呼ぶ。)として機能させる。これについて、図3(a)を用いてさらに詳しく説明する。
【0036】
図3(a)は、ブレーキBRが締結状態かつクラッチCRが解放状態でのハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。
【0037】
図3(a)において、縦軸は回転数を表しており、横軸は、左から順にモータMG1(一義的にサンギアS1)、エンジン20(一義的にキャリアC1)、出力回転数Nout、モータMG2を表す。なお、図3(a)では、リングギアR1の回転数が動作点「Pr1」に相当し、出力回転数Noutが動作点「Pr2」に相当する。
【0038】
ここで、動力分割機構30は、相互に差動関係にある複数の回転要素を備えた回転二自由度の遊星歯車機構であり、サンギアS1、キャリアC1及びリングギアR1のうち二要素の回転数が定まった場合に、残余の一回転要素の回転数が必然的に定まる。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表される。従って、図3(a)において、モータMG1の動作点が動作点「Ps1」であるとする。この場合、ブレーキBRにより制止されているリングギアR1が動作点「Pr1」にあるため、残余の回転要素の一たるキャリアC1に連結されたエンジン20の動作点は、動作点「Pc1」となる。
【0039】
一方、クラッチCRが解放されていることにより、駆動軸OUTはリングギアR1と独立して回転可能である。従って、モータMG2の出力に基づき駆動軸OUTが回転し、モータMG2の動作点が動作点「Pg1」の場合の駆動軸OUTの動作点は動作点「Pr2」となる。
【0040】
従って、ブレーキBRが締結状態かつクラッチCRが解放状態の場合、ハイブリッド車両1は、エンジン20が出力した動力に基づきモータMG1により発電すると共に、モータMG2を駆動源として走行を行う。即ち、この場合、ハイブリッド車両1は、シリーズ式ハイブリッド車両として機能する。
【0041】
一方、ECU100は、ブレーキBRを解放状態とし、かつ、クラッチCRを締結状態とすることで、ハイブリッド車両1を、所謂シリーズパラレル方式ハイブリッド車両として機能させる。即ち、この場合、ハイブリッド車両1は、エンジン20からの動力を動力分割機構30により分割し、一方を機械的な動力のまま駆動軸OUTに出力すると共に、残余をモータにより電力に変換して駆動軸OUTに出力する。これについて、図3(b)を用いてさらに詳しく説明する。
【0042】
図3(b)は、ブレーキBRが解放状態かつクラッチCRが締結状態でのハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。この場合、クラッチCRによりリングギアR1と駆動軸OUTとが連結されている。また、リングギアR1は、ブレーキBRが解放状態にあるため、制止されていない。従って、図3(b)では、駆動軸OUTの回転数である出力回転数Noutは、リングギアR1の回転数と一義的な関係になると共に、動作点Pr1と異なる動作点Pr2に位置する。
【0043】
また、図3(b)の場合、モータMG1の動作点とエンジン20の動作点と駆動軸OUTの動作点とが一直線上に位置する。従って、モータMG1の動作点が動作点「Ps2」、かつ、駆動軸OUTの動作点が動作点Pr2にある場合、エンジン20の動作点は、動作点「Pc2」となる。
【0044】
このように、ブレーキBRが解放状態かつクラッチCRが締結状態の場合、ハイブリッド車両1は、エンジン20の動力を分割し、一方を機械的な動力のまま駆動軸OUTに出力すると共に、残余をモータにより電力に変換する走行を行う。即ち、この場合、ハイブリッド車両1は、シリーズパラレル式ハイブリッド車両として機能する。
【0045】
また、ECU100は、ブレーキBRを解放状態かつクラッチCRを解放状態にした場合、エンジン20が駆動軸OUTと切り離される。そして、この場合、ECU100は、エンジン20を停止させ、モータMG2を駆動させることで、EV走行を実行することが可能である。
【0046】
(走行状態に基づく走行モードの決定)
次に、走行状態に基づきモード切替を実行する方法について、以下の第1制御乃至第4制御で説明する。なお、以後では、ハイブリッド車両1がシリーズパラレル方式ハイブリッド車両として走行する走行モードを、「SPHVモード」と呼び、ハイブリッド車両1がシリーズ方式ハイブリッド車両として走行する走行モードを、「SHVモード」と呼ぶ。
【0047】
1.第1制御
第1制御では、ECU100は、SPHVモード中にハイブリッド車両1の振動又は/及び騒音(以後、単に「NV(Noise and Vibration)」とも呼ぶ。)を避けるために燃費が悪化する走行領域では、SHVモードにより走行する。これにより、ECU100は、NVを避けつつ、燃費を向上させる。
【0048】
これについて、図4、図5を参照して具体的に説明する。図4は、横軸をエンジン回転数Ne、縦軸をエンジントルクTeとした場合のエンジン20の動作点を示すグラフの一例である。以後では、「エンジン動作点」とは、エンジン回転数NeとエンジントルクTeとの組み合わせによって規定されるエンジン20の一動作条件を意味するものとする。そして、グラフG1は、エンジン20の燃料消費率が最小となるエンジン動作点(以後、「最適燃費動作点」と呼ぶ。)を結んだ線(以後、「最適燃費動作線」と呼ぶ。)を示す。また、グラフG2は、SPHVモードで実際に使用されるエンジン動作点を結んだ線を示す。即ち、グラフG2は、SPHVモードにおいて、NVを回避するために実際に使用されるエンジン動作点を結んだ線(以後、「NV回避動作線」と呼ぶ。)を示す。
【0049】
グラフG2に示すように、SPHVモードでは、ECU100は、エンジン20のトルク脈動、ロール振動がマウントや駆動系に伝達することにより発生するこもり音及び駆動系の歯打ち音を回避するため、エンジン動作点を、最適燃費動作線からNV回避動作線へずらす。即ち、ECU100は、NVが発生するおそれがある場合、エンジン動作点を、最適燃費動作点よりもエンジン回転数Neが高く、かつ、エンジントルクTeが低いエンジン動作点(以後、「高回転低トルク側エンジン動作点」と呼ぶ。)に移動させる。この結果、ECU100は、グラフG1とグラフG2とが異なる走行領域、即ち、エンジン回転数Neが所定回転数「Neth」以下の走行領域(以後、「NV回避走行領域」と呼ぶ。)でSPHVモードにより走行した場合、燃費を悪化させてしまう。
【0050】
一方、ECU100は、SHVモードで走行した場合、クラッチCRを解放状態にし、エンジン20と駆動軸OUTとを切り離す。よって、この場合、SPHVモードと比較してエンジン20に起因したNVが低減される。従って、ECU100は、NV回避走行領域であっても、SHVモードで走行することで、NVを抑制しつつ最適燃費動作線に従い走行することができる。
【0051】
以上を勘案し、ECU100は、NV回避走行領域では、SPHVモードを禁止し、SHVモードで走行を行う。これにより、NVを低減しつつ、最適燃費動作点に従い走行することができる。一方、ECU100は、エンジン回転数Neが所定回転数Nethよりも大きい走行領域では、SPHVモードを許可し、SPHVモードを選択可能にする。
【0052】
図5は、ECU100がモード切替を判断する際に使用するマップの一例を示す。図5に示す座標は、横軸を車速Vとし、縦軸をエンジントルクTeとエンジン回転数Neの積であるエンジン出力の要求値(以後、「エンジン要求出力Pe」と呼ぶ。)とする2次元座標である。そして、グラフG3は、SPHVモードとSHVモードとのいずれの走行モードを採用すべきかの判断基準を示すグラフである。具体的には、グラフG3は、同一の車速Vの場合に、エンジン要求出力Peが、グラフG3が示すエンジン要求出力Pe以上となる走行領域をSPHVモードで走行すべき旨を示し、グラフG3が示すエンジン要求出力Peより低くなる走行領域をSHVモードで走行すべき旨を示す。なお、グラフG3は、後者の走行領域が図4で説明したNV回避走行領域を含むように、実験等に基づき予め設定される。
【0053】
ここで、図5に示すマップを用いてモード切替を実行する方法の具体例を説明する。まず、ECU100は、車速センサ14から車速Vを検出すると共に、アクセル開度センサ13から検出したアクセル開度Ta等に基づきエンジン要求出力Peを算出する。そして、ECU100は、当該エンジン要求出力Peと、検出した車速VでのグラフG3が示すエンジン要求出力(以後、「基準エンジン出力Peth」と呼ぶ。)と、を比較する。そして、ECU100は、エンジン要求出力Peが基準エンジン出力Peth未満の場合、SHVモードにより走行を行う。一方、ECU100は、エンジン要求出力Peが基準エンジン出力Peth以上の場合、SPHVモードにより走行を行う。そして、ECU100は、引き続き、最適燃費動作線に従い走行を行う。以上により、ECU100は、NVを抑制しつつ、燃費を向上させることができる。
【0054】
なお、ECU100は、上述の具体例に代えて、検出したエンジン要求出力Peに基づきグラフG3が示す車速Vを特定し、グラフG3が示す車速Vよりも検出した車速Vが低い場合にSHVモードにより走行すべきと判断し、検出した車速VがグラフG3が示す車速V以上の場合にSPHVモードにより走行すべきと判断してもよい。
【0055】
2.第2制御
第2制御では、第1制御に加えて、又はこれに代えて、ECU100は、EV走行からエンジン20を始動させる場合、エンジン20の始動時にバッテリ12から出力すべき要求電力(以後、「要求始動電力W」と呼ぶ。)が小さい走行モードを選択する。これにより、電力消費を抑制し、燃費を向上させる。
【0056】
これについて図6を参照して説明する。図6は、EV走行からエンジン20を始動させる際に、いずれの走行モードにより走行すべきかを示すマップの一例である。図6において、グラフ「Gsp」は、EV走行からSPHVモードでエンジン20を始動させた場合の要求始動電力W(以後、「要求始動電力Wsp」と呼ぶ。)の各車速Vごとの値を結んだ線を示す。また、グラフ「Gs」は、EV走行からSHVモードでエンジン20を始動させた場合の要求始動電力W(以後、「要求始動電力Ws」と呼ぶ。)の各車速Vごとの値を結んだ線を示す。そして、基準車速「Vth」は、SPHVモードとSHVモードとのいずれの走行モードを採用してエンジン20を始動すべきかの判断基準となる車速Vを示す。具体的には、基準車速Vthは、要求始動電力Wspと要求始動電力Wsとが一致する車速Vを示す。そして、ECU100は、車速Vが基準車速Vthより大きい場合、要求始動電力Wspが要求始動電力Wsより小さく、SPHVモードによりエンジン20を始動すべきと判断する。一方、ECU100は、車速Vが基準車速Vth以下の場合、要求始動電力Wsが要求始動電力Wsp以下となり、SHVモードによりエンジン20を始動すべきと判断する。
【0057】
グラフGspに示すように、SPHVモードの場合、車速Vが大きいほど、要求始動電力Wspが小さくなる。即ち、SPHVモードで車速Vが相対的に大きい場合、モータMG1がエンジン20の始動時に負回転となり、エンジン20のクランキング時に逆転力行状態となり発電を行うことに起因して、要求始動電力Wspは相対的に小さくなる。一方、グラフGsに示すように、SHVモードの場合、車速Vによらず要求始動電力Wsがほぼ一定となる。
【0058】
従って、ECU100は、基準車速Vthに基づき、エンジン20の始動時の走行モードを選択することで、電力消費を抑制することができる。また、外気温等に起因してバッテリ12の放電可能な電力の上限(以後、バッテリ上限出力」と呼ぶ。)が比較的小さい場合であっても、EV走行を間欠的に実行することができる。
【0059】
これについて補足説明する。例えばSPHV走行に固定した場合では、ECU100は、バッテリ上限出力が所定値より小さいとき、エンジン20の間欠運転を禁止する必要がある。即ち、ECU100は、EV走行を実行するためにエンジン20を停止させた後、エンジン20の再起動時の要求始動電力Wがバッテリ上限出力を上回る可能性があると判断した場合、EV走行を行わない。一方、第2制御に基づきエンジン20の始動時に電力消費が小さい走行モードを選択する場合、ECU100は、要求始動電力Wを低減させることができる。従って、この場合、ECU100は、上述の場合と比較して、エンジン20の間欠運転を禁止すべきと判断するバッテリ上限出力の条件を緩和することができ、EV走行を実行する機会を増やすことができる。このように、ECU100は、第2制御に基づき、EV走行を行う機会を増やし、燃費を向上させることができる。
【0060】
3.第3制御
第3制御では、ECU100は、第1制御と第2制御を同時に実行する。そして、ECU100は、EV走行からエンジン20を始動させた後、所定時間幅内に走行モードを切り替えることが予想される場合、当該所定時間幅後に実行する走行モードを選択してエンジン20を始動させる。これにより、ECU100は、エンジン20の始動直後にモード切替を実行するのを抑制し、ショック及びもたつきの発生を抑制する。
【0061】
これについて具体的に説明する。上述したように、ECU100は、第1制御では、例えば図5に示すマップを参照し、車速V及びエンジン要求出力Peに基づき走行モードを決定した。一方、ECU100は、第2制御では、例えば図6に示すマップを参照し、車速V及び要求始動電力Wに基づき走行モードを決定する。従って、ECU100は、第2制御に基づき走行モードを決定しエンジン20を始動させた直後、第1制御に基づき走行モードを切り替える可能性がある。
【0062】
以上を勘案し、ECU100は、まず、第2制御に基づき決定した走行モード(以後、「エンジン始動時走行モード候補Ms」と呼ぶ。)を、エンジン20の始動時の走行モードの候補として特定する。即ち、ECU100は、車速Vに基づきエンジン要求出力Peが小さい走行モードを、エンジン始動時走行モード候補Msとして特定する。また、ECU100は、所定時間幅(以後、「所定時間幅Tw」と呼ぶ。)経過後に選択されていると推定される走行モード(以後、「エンジン始動後走行モード候補Ma」と呼ぶ。)を、例えば車速V及びエンジン要求出力Peに基づき所定のマップを参照して決定する。ここで、「所定時間幅Tw」は、例えばモード切替に起因したショック又は/及びもたつきが発生する虞があるエンジン20始動後の時間幅の上限に実験等に基づき予め設定される。また、「所定のマップ」は、例えば図5に示すような現在の車速V及びエンジン要求出力Peと、走行モードと、のマップであり、予めECU100のメモリに記憶される。そして、ECU100は、エンジン始動時走行モード候補Msとエンジン始動後走行モード候補Maとが異なる場合、エンジン始動後走行モード候補Maを走行モードに設定し、エンジン20を始動させる。このようにすることで、ECU100は、エンジン20の始動後所定時間幅Tw以内でのモード切替を抑制し、ショック及びもたつきの発生を抑制することができる。
【0063】
4.第4制御
第4制御では、第1制御に加え、ECU100は、クラッチCR又は/及びブレーキBRの故障等に起因してSPHVモードからSHVモードへのモード切替ができなくなった場合、第1制御に基づきSHVモードで走行すべきと判断したときでも、SPHVモードを許可して走行を継続する。これにより、ECU100は、クラッチCR又は/及びブレーキBRの故障が発生した場合であっても、走行不能となるのを回避することができる。
【0064】
同様に、ECU100は、SHVモード中に、クラッチCR又は/及びブレーキBRの故障等に起因してSHVモードからSPHVモードへのモード切替ができなくなった場合、第1制御に基づきSPHVモードへ移行すべきと判断したときでも、SHVモードを継続する。これにより、同様に、ECU100は、 クラッチCR又は/及びブレーキBRの故障が発生した場合であっても、走行不能となるのを回避することができる。
【0065】
(処理フロー)
次に、本実施形態の処理手順の一例について説明する。以下では、図7乃至図10を参照し、第1制御乃至第4制御の処理手順の一例について説明する。
1.第1制御
図7は、第1制御に基づきECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図7に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0066】
まず、ECU100は、ハイブリッド車両1が走行中であるか否か判定する(ステップS100)。そして、ECU100は、ハイブリッド車両1が走行中であると判断した場合(ステップS100;Yes)、ステップS101へ処理を進める。一方、ECU100は、ハイブリッド車両1が走行中でないと判断した場合(ステップS100;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0067】
次に、ECU100は、車速Vに基づき、エンジン要求出力Pe及び基準エンジン出力Pethを算出する(ステップS101)。ここで、ECU100は、基準エンジン出力Pethを、例えば図5のグラフG3を参照して車速Vに基づき特定する。そして、ECU100は、エンジン要求出力Peが基準エンジン出力Pethより小さいか否か判定する(ステップS102)。そして、ECU100は、エンジン要求出力Peが基準エンジン出力Pethより小さいと判断した場合(ステップS102;Yes)、SHVモードで走行すべきと判断し、ステップS103へ処理を進める。一方、ECU100は、エンジン要求出力Peが基準エンジン出力Pethより小さくないと判断した場合(ステップS102;No)、SHVモードで走行すべきでないと判断し、フローチャートの処理を終了する。なお、この場合、ECU100は、SHVモードで走行している場合には、SPHVモードへモード切替を行う。
【0068】
次に、ECU100は、現在SPHVモードであるか否か判断する(ステップS103)。そして、ECU100は、現在SPHVモードであると判断した場合(ステップS103;Yes)、SHVモードへモード切替を行う(ステップS104)。そして、ECU100は、SPHVモードへの移行を禁止する(ステップS105)。具体的には、ECU100は、エンジン要求出力Peが基準エンジン出力Peth以上になるまで、SPHVモードへの移行を禁止する。これにより、ECU100は、NV回避走行領域であっても、NVを低減しつつ、最適燃費動作点に従い走行することができる。
【0069】
一方、ECU100は、現在SPHVモードではないと判断した場合(ステップS103;No)、モード切替を実行する必要はないため、フローチャートの処理を終了する。
2.第2制御
図8は、第2制御に基づきECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図8に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0070】
まず、ECU100は、エンジン20の始動要求があるか否か判断する(ステップS200)。そして、ECU100は、エンジン20の始動要求があると判断した場合(ステップS200;Yes)、ステップS201へ処理を進める。一方、ECU100は、エンジン20の始動要求がないと判断した場合(ステップS200;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0071】
次に、ECU100は、車速Vに基づき、要求始動電力Ws及び要求始動電力Wspを特定する(ステップS201)。例えば、ECU100は、図6に示すグラフGs及びグラフGspを参照して車速Vに基づきこれらの値を特定する。
【0072】
次に、ECU100は、要求始動電力Wspが要求始動電力Wspより大きいか否か判定する(ステップS202)。言い換えると、ECU100は、車速Vが基準車速Vthより大きいか否か判定する。
【0073】
そして、ECU100は、要求始動電力Wspが要求始動電力Wsより大きい場合(ステップS202;Yes)、電力消費が少ないSHVモードで走行すべきと判断する。そして、ECU100は、次に現在SPHVモードであるか否か判定する(ステップS203)。そして、ECU100は、現在SPHVモードであると判断した場合(ステップS203;Yes)、SHVモードへモード切替を行う(ステップS204)。これにより、ECU100は、エンジン20の始動時の電力消費を抑制することができる。一方、ECU100は、現在SPHVモードでないと判断した場合(ステップS203;No)、継続してSHVモードを走行モードに指定する。
【0074】
一方、ECU100は、要求始動電力Wspが要求始動電力Ws以下の場合(ステップS202;No)、電力消費が少ないSPHVモードで走行すべきと判断する。そして、ECU100は、次に現在SHVモードであるか否か判定する(ステップS206)。そして、ECU100は、現在SHVモードであると判断した場合(ステップS206;Yes)、SPHVモードへモード切替を行う(ステップS207)。一方、ECU100は、現在SHVモードではないと判断した場合(ステップS206;No)、継続してSPHVモードを走行モードに指定する。
【0075】
そして、ECU100は、エンジン20を始動させる(ステップS205)。これにより、ECU100は、エンジン20の始動時の電力消費を抑制し、燃費を向上させることができる。
3.第3制御
図9は、第3制御に基づきECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図9に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0076】
まず、ECU100は、エンジン20の始動要求があるか否か判定する(ステップS300)。そして、ECU100は、エンジン20の始動要求がある場合(ステップS300;Yes)、車速V及びエンジン要求出力Peに基づき、エンジン始動時走行モード候補Ms及びエンジン始動後走行モード候補Maを特定する(ステップS301)。一方、ECU100は、エンジン20の始動要求がない場合(ステップS300;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0077】
次に、ステップS301の実行後、ECU100は、エンジン始動時走行モード候補Msとエンジン始動後走行モード候補Maとが異なるか否か判定する(ステップS302)。即ち、ECU100は、エンジン始動後所定時間幅Tw以内に走行モードを切り替えるか否か判定する。そして、ECU100は、エンジン始動時走行モード候補Msとエンジン始動後走行モード候補Maとが異なると判断した場合(ステップS302;Yes)、エンジン始動後走行モード候補Maに走行モードを設定する(ステップS303)。一方、ECU100は、エンジン始動時走行モード候補Msとエンジン始動後走行モード候補Maとが同一であると判断した場合(ステップS302;No)、エンジン始動時走行モード候補Msに走行モードを設定する(ステップS304)。そして、ECU100は、エンジン20を始動させる(ステップS305)。これにより、ECU100は、エンジン20の始動直後のモード切替に起因したショック及びもたつきを抑制することができる。
4.第4制御
図10は、第4制御に基づきECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図10に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0078】
まず、ECU100は、部品フェールが生じているか否か判定する(ステップS400)。ここで、「部品」とは、例えばブレーキBR及びクラッチCRが該当する。
【0079】
次に、ECU100は、走行モードの移行ができないか否か判断する(ステップS401)。そして、ECU100は、走行モードの移行ができないと判断した場合(ステップS401;Yes)、即ち、部品フェールに起因して走行モードの移行ができない場合、現在の走行モードを継続する(ステップS402)。即ち、この場合、ECU100は、図5に示すマップによらず、言い換えると、車速V及びエンジン要求出力Peによらず、現在の走行モードを継続する。
【0080】
一方、ECU100は、走行モード移行が可能であると判断した場合(ステップS401;No)、フローチャートの処理を終了する。即ち、この場合、ECU100は、図5に示すマップを参照し、車速V及びエンジン要求出力Peに基づき走行モードを適宜切り替える。このように、ECU100は、部品フェールに基づき走行モードの移行ができない場合であっても、正常にハイブリッド車両1を走行させることができる。
【0081】
[他の構成例]
本発明に係るハイブリッド駆動装置10の態様は、図2に例示するものに限定されない。ここで、図11、図13を参照し、本発明に適用可能な他の構成例であるハイブリッド駆動装置10A、10Bの構成について説明する。概略的には、ハイブリッド駆動装置10A、10Bは、モータMG1がエンジン20と連結された状態でクラッチCRを介して動力分割機構30A、30Bの回転要素のいずれかと連結されると共に、モータMG2及び駆動軸OUTが上述の回転要素以外の回転要素であって互いに異なる回転要素にそれぞれ連結する。
【0082】
図11は、ハイブリッド駆動装置10Aの概略構成図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。ハイブリッド駆動装置10Aは、主に、エンジン20と、動力分割機構30Aと、モータMG1、MG2と、入力軸40と、クラッチCRと、ブレーキBRと、減速機構60Aと、オイルポンプ70と、を備える。
【0083】
図11に示すように、動力分割機構30Aは、リングギアR2と、キャリアC2と、サンギアS2とを備える。リングギアR2は、クラッチCRを介して入力軸40と連結する。そして、リングギアR2は、入力軸40を介して、エンジン20及びモータMG1と連結している。キャリアC2は、減速機構60Aと連結する。そして、サンギアS2は、モータMG2と連結する。
【0084】
次に、図12を用いて、ハイブリッド駆動装置10Aに係るモード切替の基本制御について説明する。図12(a)は、SHVモードでのハイブリッド駆動装置10Aの一動作状態を例示する動作共線図である。図12(a)では、ブレーキBRが締結状態かつクラッチCRが解放状態にある。そして、図12(a)の縦軸は回転数を表しており、横軸は、左から順にモータMG2(一義的にサンギアS2)、駆動軸OUT(一義的にキャリアC2)、モータMG1及びエンジン20を表す。図12(a)では、モータMG1及びエンジン20の回転数が動作点「Pr3」に相当し、リングギアR2の回転数が動作点「Pr4」に相当する。
【0085】
図12(a)に示すように、ブレーキBRが締結状態にあることから、リングギアR2は制止される。そして、動作点Pr4と同一直線状に、駆動軸OUTの動作点「Pc3」と、モータMG2の動作点「Ps3」とがそれぞれ位置する。また、クラッチCRが解放状態にあるため、モータMG1及びエンジン20の回転数は、リングギアR2の回転数と一義的な関係とはならず、動作点Pr4とは異なる動作点Pr3に位置する。
【0086】
従って、図12(a)の場合、ハイブリッド車両1は、エンジン20が出力した動力に基づきモータMG1により発電すると共に、モータMG2を駆動源として走行を行う。即ち、この場合、ハイブリッド車両1は、シリーズ式ハイブリッド車両として機能する。
【0087】
図12(b)は、SPHVモードでのハイブリッド駆動装置10Aの一動作状態を例示する動作共線図である。図12(b)は、クラッチCRが締結状態かつブレーキBRが解放状態の場合を示す。
【0088】
図12(b)に示すように、クラッチCRが締結状態の場合、モータMG1及びエンジン20の回転数は、リングギアR2の回転数と一義的となり、動作点Pr3となる。また、リングギアR2の回転数は、ブレーキBRが解放状態にあるため、制止されていない。そして、クラッチCRが締結状態であることに伴い、モータMG1及びエンジン20の動作点Pr3と、駆動軸OUTの動作点「Pc4」と、モータMG2の動作点「Ps4」とが同一直線状に位置する。
【0089】
従って、図12(b)の場合、ハイブリッド車両1は、エンジン20の動力を分割し、一方を機械的な動力のまま駆動軸OUTに出力すると共に、残余をモータにより電力に変換する走行を行う。即ち、この場合、ハイブリッド車両1は、シリーズパラレル式ハイブリッド車両として機能する。
【0090】
なお、ブレーキBRが締結状態かつクラッチCRが締結状態の場合、エンジン20及びモータMG1の回転数は制止される。従って、ECU100は、ブレーキBRを締結状態かつクラッチCRを締結状態にすることで、エンジン20を停止させつつ、モータMG2を駆動源としたEV走行を実行することが可能である。
【0091】
図13は、ハイブリッド駆動装置10Bの概略構成図である。尚、同図において、図11と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。ハイブリッド駆動装置10Bは、主に、エンジン20と、動力分割機構30Bと、モータMG1、MG2と、入力軸40と、クラッチCRと、ブレーキBRと、減速機構60Bと、オイルポンプ70と、を備える。
【0092】
動力分割機構30Bは、リングギアR3と、キャリアC3と、サンギアS3とを備える。リングギアR3は、減速機構60Bを介して駆動軸OUTと連結する。キャリアC3は、クラッチCRを介して入力軸40と連結している。そして、キョリアC3は、入力軸40を介してエンジン20及びモータMG1と連結する。サンギアS3は、モータMG2と連結する。
【0093】
次に、図14を用いて、ハイブリッド駆動装置10Bに係るモード切替の基本制御について説明する。図14(a)は、SHVモードでのハイブリッド駆動装置10Bの一動作状態を例示する動作共線図である。図14(a)では、ブレーキBRが締結状態かつクラッチCRが解放状態にある。そして、図14(a)の縦軸は回転数を表しており、横軸は、左から順にモータMG2(一義的にサンギアS3)、モータMG1及びエンジン20、駆動軸OUT(一義的にリングギアR3)を表す。図14(b)では、モータMG1及びエンジン20の回転数が動作点「Pc5」に相当し、キャリアC3の回転数が動作点「Pc6」に相当する。
【0094】
図14(a)に示すように、ブレーキBRが締結状態にあることから、キャリアC3の回転は制止される。そして、動作点Pc5と同一直線状に、駆動軸OUTの動作点Pr5と、モータMG2の動作点Ps5とがそれぞれ位置する。また、クラッチCRが解放状態にあるため、モータMG1及びエンジン20の回転数は、リングギアR2の回転数と一義的とならず、動作点Pc6に位置する。
【0095】
従って、図14(a)の場合、ハイブリッド車両1は、エンジン20が出力した動力に基づきモータMG1により発電すると共に、モータMG2を駆動源として走行を行う。即ち、この場合、ハイブリッド車両1は、シリーズ式ハイブリッド車両として機能する。
【0096】
図14(b)は、SPHVモードでのハイブリッド駆動装置10Bの一動作状態を例示する動作共線図である。図14(b)は、クラッチCRが締結状態かつブレーキBRが解放状態の場合を示す。
【0097】
図14(b)に示すように、クラッチCRが締結状態の場合、モータMG1及びエンジン20の回転数は、キャリアC3の回転数と一義的となり、動作点Pc6となる。また、キャリアC3の回転数は、ブレーキBRが解放状態にあるため、制止されていない。そして、クラッチCRが締結状態に移行したことに伴い、駆動軸OUTの動作点「Pr6」と、モータMG1及びエンジン20の動作点Pc6と、モータMG2の動作点「Ps6」とが同一直線状に位置する。
【0098】
従って、図14(b)の場合、ハイブリッド車両1は、エンジン20の動力を分割し、一方を機械的な動力のまま駆動軸OUTに出力すると共に、残余をモータにより電力に変換する走行を行う。即ち、この場合、ハイブリッド車両1は、シリーズパラレル式ハイブリッド車両として機能する。
【0099】
なお、ハイブリッド駆動装置10Bにおいて、ブレーキBRが締結状態かつクラッチCRが締結状態の場合、エンジン20及びモータMG1の回転数は制止される。従って、ECU100は、ブレーキBRを締結状態かつクラッチCRを締結状態にし、エンジン20を停止させることで、モータMG2を駆動源としたEV走行を実行することが可能である。
[変形例]
次に、本発明に好適な変形例について説明する。以下の変形例は、任意に組み合わせて上述の実施形態に適用することができる。
【0100】
(変形例1)
上述の第2制御及び第3制御の説明では、ECU100は、EV走行の後、エンジン20を始動させる場合に第2制御又は第3制御に基づきモード切替の選択を行った。これに加え、ECU100は、EV走行の後に限らず、エンジン20を始動させる場合に、第2制御又は第3制御に基づきモード切替の選択を実行してもよい。これによっても、ECU100は、要求始動電力Wを抑制し、燃費を向上させることができる。
【0101】
(変形例2)
上述の第3制御の説明では、第1制御が前提となっていたが、本発明が適用可能な方法は、これに限定されない。これに代えて、ECU100は、第1制御とは異なる所定の基準に従い、SHVモードとSPHVモードとを走行中に切り替えてもよい。
【0102】
この場合であっても、ECU100は、エンジン20の始動時にエンジン始動時走行モード候補Msとエンジン始動後走行モード候補Maとをそれぞれ特定し、これらが異なる場合にはエンジン始動後走行モード候補Maを走行モードに設定してエンジン20を始動させる。これによっても、ECU100は、エンジン20の始動直後にモード切替を実行するのを抑制し、ショック及びもたつきの発生を抑制する。
【符号の説明】
【0103】
1 ハイブリッド車両
10、10A、10B ハイブリッド駆動装置
20 エンジン
30 動力分割機構
40 入力軸
60、60A、60B 減速機構
100 ECU
MG1、MG2 モータジェネレータ
BR ブレーキ
CR クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリーズ式走行モードとシリーズパラレル式走行モードとの間で走行モードを切り替えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記ハイブリッド車両の動力要素であるエンジンと、
前記シリーズ式走行モードで前記エンジンを始動させる場合の要求電力と、前記シリーズパラレル式走行モードで前記エンジンを始動させる場合の要求電力とをそれぞれ算出し、前記要求電力が低い方の走行モードで前記エンジンを始動させる制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記エンジンを始動した後、所定時間幅以内に前記走行モードを切り替えることが予想される場合、前記所定時間幅経過後に実行することが予想される走行モードに基づき前記エンジンを始動させる請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記シリーズパラレル式走行モードに基づき走行する場合に、騒音又は/及び振動を回避するため最適燃費動作線と異なる動作線に基づき前記エンジンを動作させる必要がある走行領域では、前記シリーズ式走行モードに基づき走行を行う請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
第1回転電機と、
第2回転電機と、
前記第1回転電機に連結された第1回転要素と、前記第2回転電機と駆動軸とにクラッチを介して連結する第2回転要素と、前記エンジンと連結する第3回転要素と、を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備えた動力伝達機構と、
締結状態において、前記第1回転要素を固定可能なブレーキと、をさらに備え、
前記制御手段は、前記クラッチを解放状態かつ前記ブレーキを締結状態にすることで、前記シリーズ式走行モードへ切り替え、前記クラッチを締結状態かつ前記ブレーキを解放状態にすることで、前記シリーズパラレル式走行モードへ切り替える請求項1乃至3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記エンジンと同一の回転軸を共有する第1回転電機と、
第2回転電機と、
前記第2回転電機に連結された第1回転要素と、前記第1回転電機及び前記エンジンとクラッチを介して連結された第2回転要素と、駆動軸と連結された第3回転要素と、を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を備えた動力伝達機構と、
締結状態において、前記第2回転要素を固定可能なブレーキと、をさらに備え、
前記制御手段は、前記クラッチを解放状態かつ前記ブレーキを締結状態にすることで、前記シリーズ式走行モードへ切り替え、前記クラッチを締結状態かつ前記ブレーキを解放状態にすることで、前記シリーズパラレル式走行モードへ切り替える請求項1乃至3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2011−156997(P2011−156997A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21083(P2010−21083)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】