ハイブリッド車両の制御装置
【課題】摩擦締結要素のスリップ制御中にブレーキ操作があった場合に、協調回生制御トルクの増加を禁止することにより、意図しないスリップによるショックの発生を防止可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンEngに第1摩擦締結要素CL1を介して締結されたモータジェネレータMGと、モータジェネレータMGと駆動輪との間に介装された摩擦締結要素CL2を含む有段の自動変速機ATと、メカニカルブレーキ操作に基づくブレーキコントローラ9からの目標ブレーキトルクBSと車速情報に基づく最大回生トルクとの差分から目標回生トルクを算出して協調回生制御を実行する協調回生制御実行手段10とを備えている。
協調回生制御実行手段10は、メカニカルブレーキ操作による目標ブレーキトルクBSの増加の判断と第2摩擦締結要素CL2がスリップ中であるか否かを判断する判断部M11と、目標ブレーキトルクBSの増加時でかつ摩擦締結要素CL2のスリップ中に回生トルクの増加を禁止する回生トルク増加禁止手段M11とを有する。
【解決手段】エンジンEngに第1摩擦締結要素CL1を介して締結されたモータジェネレータMGと、モータジェネレータMGと駆動輪との間に介装された摩擦締結要素CL2を含む有段の自動変速機ATと、メカニカルブレーキ操作に基づくブレーキコントローラ9からの目標ブレーキトルクBSと車速情報に基づく最大回生トルクとの差分から目標回生トルクを算出して協調回生制御を実行する協調回生制御実行手段10とを備えている。
協調回生制御実行手段10は、メカニカルブレーキ操作による目標ブレーキトルクBSの増加の判断と第2摩擦締結要素CL2がスリップ中であるか否かを判断する判断部M11と、目標ブレーキトルクBSの増加時でかつ摩擦締結要素CL2のスリップ中に回生トルクの増加を禁止する回生トルク増加禁止手段M11とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動系にエンジンとモータジェネレータと自動変速機とを備えたハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両には、エンジンと有段式の自動変速機との間にモータジェネレータを備えたものが知られている。
この種のハイブリッド車両では、ブレーキを操作して減速しているときに、メカニカルブレーキ分としての摩擦ブレーキによる制動力を小さくした分だけモータジェネレータにより回生トルクを発生させ、所望の減速度を実現しつつ運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回生制御を実行し、燃費の向上を図っている。
【0003】
また、回生制御の実行時に自動変速機の変速要求があるときには、回生トルクを自動変速機の伝達可能トルク以下に制限する回生トルク制限手段を設け、変速制御時に、すなわち、第2摩擦締結要素CL2のスリップ制御時にCL2トルク容量分に回生トルクを制限することにより、第2摩擦締結要素CL2スリップ制御(変速制御)時の同時処理を行っている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−104306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回生制御の実行中に、ドライバーのブレーキ操作によりブレーキ踏力が増加した場合に、メカニカルブレーキのブレーキ力増加分に基づいてモータジェネレータの回生トルクを増加させて協調回生制御を実行させることにすると、油圧応答遅れ等に起因して第2摩擦締結要素CL2のスリップ中、第2摩擦締結要素CL2のスリップ増加、スリップ収束時の締結時にショックが発生する。
【0006】
このようなシーンは、エンジン始動時に回生トルクを確保しようとする場合、Nレンジ(ニュートラルレンジ)からDレンジ(ドライブレンジ)への切り替わり時に、即時に回生トルクを増加させようとする場合、第2摩擦締結要素CL2のμスリップ(CL2微小スリップ)時に起こり得る。
このように、第2摩擦締結要素CL2としてのドライバーのブレーキ踏み込み操作があった場合、ドライバの意図を実現できないシーンが存在する。
【0007】
本発明は、摩擦締結要素のスリップ制御中にブレーキ操作があった場合に、回生トルクの増加を禁止することにより、油圧応答遅れに起因する意図しないスリップによるショックの発生を防止可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エンジンに第1摩擦締結要素を介して締結されたモータジェネレータと駆動輪との間に介装された第2摩擦締結要素を含む有段の自動変速機と、メカニカルブレーキ操作に基づくブレーキコントローラからの目標ブレーキトルクと車速情報に基づく最大回生トルクとの差分から目標回生トルクを算出して協調回生制御を実行する協調回生制御実行手段とを備えている。
協調回生制御実行手段は、メカニカルブレーキ操作による目標ブレーキトルクの増加の判断と第2摩擦締結要素がスリップ中であるか否かを判断する判断部と、目標ブレーキトルクの増加時でかつ摩擦締結要素のスリップ中に回生トルクの増加を禁止する回生トルク増加禁止手段とを有している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回生制御実行中でかつ摩擦締結要素のスリップ制御中に、メカニカルブレーキ操作があった場合でも、摩擦締結要素の締結後所定時間の間、回生トルクの増加が禁止され、メカニカルブレーキ操作に基づくブレーキ増加分をメカニカルブレーキに負担させることにしたので、意図しないショックの発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す全体システム図である。
【図2】図2は実施例1のATコントローラ7に設定されている自動変速機ATのシフトマップの一例を示す図である。
【図3】図3は実施例1の統合コントローラ10のモード選択部に設定されているEV-HEV選択マップの一例を示す図である。
【図4】図4は実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATの一例を示すスケルトン図である。
【図5】図5は実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATでの変速段ごとの各摩擦要素の締結状態を示す締結作動表である。
【図6】図6は実施例1から実施例3に係る制御装置の演算の一例を示すブロック図である。
【図7】図7は回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがエンジン始動中にあった場合の統合コントローラの回生制御の詳細を示すフローチャートである。
【図8】図8は回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがエンジン始動中にあった場合の統合コントローラの従来の回生制御を示すタイミングチャートである。
【図9】図9は実施例1の回生制御を示すタイミングチャートである。
【図10】図10は実施例2の制御装置の説明図であって、回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがシフトレンジセレクト中にあった場合の統合コントローラの回生制御の詳細を示すフローチャートである。
【図11】図11は回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがシフトレンジセレクト中にあった場合の統合コントローラの従来の回生制御を示すタイミングチャートである。
【図12】図12は実施例2の回生制御を示すタイミングチャートである。
【図13】図13は回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みが摩擦締結要素の微小スリップ中にあった場合の統合コントローラの回生制御の詳細を示すフローチャートである。
【図14】図14は回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みが摩擦締結要素の微小スリップ中にあった場合の統合コントローラの従来の回生制御を示すタイミングチャートである。
【図15】図15は実施例3の回生制御を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置の形態を図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【0013】
実施例1におけるFRハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、フライホイールFWと、第1摩擦締結要素CL1(モード切り替え手段)と、モータジェネレータMGと、第2摩擦締結要素CL2と、自動変速機ATと、変速機入力軸INと、メカオイルポンプM-O/Pと、サブオイルポンプS-O/Pと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)とを有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0014】
エンジンEngは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、エンジンコントローラ1からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御やフューエルカット制御等が行われる。なお、エンジン出力軸には、フライホイールFWが設けられている。
【0015】
第1摩擦締結要素CL1は、エンジンEngとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、第1クラッチコントローラ5からの第1クラッチ制御指令に基づき第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された第1クラッチ制御油圧により、締結・半締結状態・解放が制御される。この第1摩擦締結要素CL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力によって完全締結を保ち、ピストン14aを有する油圧アクチュエータ14を用いたストローク制御により、完全締結〜スリップ締結〜完全解放までが制御されるノーマルクローズの乾式単板クラッチが用いられる。
【0016】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、モータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(力行)、ロータがエンジンEngや駆動輪から回転エネルギーを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ4を充電することもできる(回生)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、自動変速機ATの変速機入力軸INに連結されている。
【0017】
第2摩擦締結要素CL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRの間に介装されたクラッチであり、ATコントローラ7からの第2クラッチ制御指令に基づき第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、締結・スリップ締結・解放が制御される。この第2摩擦締結要素CL2としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できるノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。なお、第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに付設される油圧コントロールバルブユニットCVUに内蔵されている。
【0018】
自動変速機ATは、有段階の変速段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り替える有段変速機であり、実施例1では前進7速/後退1速の変速段を持つ有段変速機としている。そして、実施例1では、第2摩擦締結要素CL2として、自動変速機ATとは独立の専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦要素のうち、所定の条件に適合する摩擦要素(クラッチやブレーキ)を選択している。
【0019】
自動変速機ATの変速機入力軸IN(=モータ軸)には、変速機入力軸INにより駆動されるメカオイルポンプM-O/Pが設けられている。そして、車両停止時等でメカオイルポンプM-O/Pからの吐出圧が不足するとき、油圧低下を抑えるために電動モータにより駆動されるサブオイルポンプS-O/Pが、モータハウジング等に設けられている。なお、サブオイルポンプS-O/Pの駆動制御は、ATコントローラ7により行われる。
【0020】
自動変速機ATの変速機出力軸OUTには、プロペラシャフトPSが連結されている。そして、このプロペラシャフトPSは、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0021】
このFRハイブリッド車両は、駆動形態の違いによる走行モードとして、電気自動車モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車モード(以下、「HEVモード」という。)と、駆動トルクコントロールモード(以下、「WSCモード」という。)とを有する。
【0022】
「EVモード」は、第1摩擦締結要素CL1を解放状態とし、モータジェネレータMGの駆動力のみで走行するモードであり、モータ走行モード・回生走行モードを有する。この「EVモード」は、要求駆動力が低く、バッテリSOCが確保されているときに選択される。
【0023】
「HEVモード」は、第1摩擦締結要素CL1を締結状態として走行するモードであり、モータアシスト走行モード・発電走行モード・エンジン走行モードを有し、何れかのモードにより走行する。この「HEVモード」は、要求駆動力が高いとき、あるいは、バッテリSOCが不足するようなときに選択される。
【0024】
「WSCモード」は、モータジェネレータMGの回転数制御により、第2摩擦締結要素CL2をスリップ締結状態に維持し、第2摩擦締結要素CL2を経過するクラッチ伝達トルクが、車両状態や運転者操作に応じて決まる要求駆動トルクとなるようにクラッチトルク容量をコントロールしながら走行するモードである。この「WSCモード」は、「HEVモード」の選択状態での停車時・発進時・減速時等のように、エンジン回転数がアイドル回転数を下回るような走行領域において選択される。
【0025】
次に、FRハイブリッド車両の電気制御回路系を説明する。
実施例1におけるFRハイブリッド車両の電気制御回路系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とを有して構成されている。なお、各コントローラ1、2、5、7、9と、統合コントローラ10とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0026】
エンジンコントローラ1には、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報と、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令と、他の必要情報とが入力される。
そして、エンジンコントローラ1は、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、エンジンEngのスロットルバルブアクチュエータ等へ出力する。
【0027】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報と、統合コントローラ10からの目標MGトルク指令および目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電容量をあらわすバッテリSOCを監視していて、このバッテリSOC情報を、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0028】
第1クラッチコントローラ5は、油圧アクチュエータ14のピストン14aのストローク位置を検出する第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの目標CL1トルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、第1クラッチコントローラ5は、第1摩擦締結要素CL1の締結・半締結・解放を制御する指令を油圧コントロールバルブユニットCVU内の第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。
【0029】
ATコントローラ7には、アクセル開度センサ16と、車速センサ17と、他のセンサ類18等からの情報が入力される。そして、ATコントローラ7は、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点が図2に示すシフトマップ上で存在する位置に基づき最適な変速段を検索し、検索された変速段を得る制御指令を油圧コントロールバルブユニットCVUに出力する。前記シフトマップとは、図2に示すように、アクセル開度APOと車速VSPに応じてアップ変速線とダウン変速線を書き込んだマップをいう。
【0030】
ATコントローラ7は、この変速制御に加えて、統合コントローラ10から目標CL2トルク指令が入力された場合、第2摩擦締結要素CL2のスリップ締結を制御する指令を油圧コントロールバルブユニットCVU内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する第2クラッチ制御を行う。
【0031】
ブレーキコントローラ9には、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19と、ブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報としてのブレーキストロークBS、統合コントローラ10からの回生協調制御指令としての回生実行P/SトルクSTRBと、他の必要情報とが入力さえる。そして、例えば、ブレーキコントローラ9は、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対して回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力やモータ制動力)で補うように、協調回生ブレーキ制御を行う。
【0032】
統合コントローラ10には、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21や他のセンサ・スイッチ類22からの必要情報及びCAN通信線11を介しての情報が入力される。そして、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1へ目標エンジントルク指令、モータコントローラ2へ目標MGトルク指令(モータトルク指令値TTMG)および目標MG回転数指令、第1クラッチコントローラ5へ目標CL1トルク指令、ATコントローラ7へ目標CL2トルク指令、ブレーキコントローラ9へ回生協調制御指令を出力する。
【0033】
この統合コントローラ10は、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点が図3に示すEV-HEV選択マップ上で存在する位置に基づき最適な走行モードを検索し、検索した走行モードを目標走行モードとして選択するモード選択部を有する。
このEV-HEV選択マップには、EV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「EVモード」から「HEVモード」へと切り替えるEV⇒HEV切替線と、HEV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「HEVモード」から「EVモード」へと切り替えるHEV⇒EV切替線と、「HEVモード」の選択時に運転点(APO,VSP)がWSC領域に入ると「WSCモード」へと切り替えるHEV⇒WSC切替線とが設定されている。
【0034】
HEV⇒EV切替線とHEV⇒EV切替線は、EV領域とHEV領域を分ける線としてヒステリシス量を持たせて設定されている。HEV⇒WSC切替線は、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEngがアイドル回転数を維持する第1設定車速VSP1に沿って設定されている。但し、「EVモード」の選択中、バッテリSOCが所定値以下になると、強制的に「HEVモード」を目標走行モードとする。
【0035】
図4は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATの一例を示すスケルトン図である。
【0036】
自動変速機ATは、前進7速後退1速の有段式自動変速機であり、エンジンEngとモータジェネレータMGのうち、少なくとも一方からの駆動力が変速機入力軸INから入力され、4つの遊星ギアと7つの摩擦要素とによって回転速度が変速されて変速機出力軸OUTから出力される。
【0037】
変速ギア機構は、変速機入力軸Input側から変速機出力軸Output側までの軸上に、順に第1遊星ギアG1と第2遊星ギアG2による第1遊星ギアセットGS1及び第3遊星ギアG3と第4遊星ギアG4による第2遊星ギアセットGS2が配置されている。また、摩擦要素として第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第4ブレーキB4が配置されている。また、第1ワンウェイクラッチF1と第2ワンウェイクラッチF2が配置されている。
【0038】
第1遊星ギアG1は、第1サンギアS1と、第1リングギアR1と、第1ピニオンP1と、第1キャリアPC1とを有するシングルピニオン型遊星ギアである。第2遊星ギアG2は、第2サンギアS2と、第2リングギアR2と、第2ピニオンP2と、第2キャリアPC2と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。第3遊星ギアG3は、第3サンギアS3と、第3リングギアR3と、第3ピニオンP3と、第3キャリアPC3とを有するシングルピニオン型遊星ギアである。第4遊星ギアG4は、第4サンギアS4と、第4リングギアR4と、第4ピニオンP4と、第4キャリアPC4とを有するシングルピニオン型遊星ギアである。
【0039】
変速機入力軸INは、第2リングギアR2に連結され、エンジンEngとモータージェネレータMGの少なくとも一方からの回転駆動力が変速機入力軸INに入力される。変速機出力軸OUTは、第3キャリアPC3に連結され、出力回転駆動力をファイナルギア等を介して駆動輪(左右後輪RL,RR)に伝達する。
【0040】
第1リングギアR1と第2キャリアPC2と第4リングギアR4とは、第1連結メンバM1により一体的に連結される。第3リングギアR3と第4キャリアPC4とは、第2連結メンバM2により一体的に連結される。第1サンギアS1と第2サンギアS2とは、第3連結メンバM3により一体的に連結される。
【0041】
第1クラッチC1(=インプットクラッチI/C)は、変速機入力軸INと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。第2クラッチC2(=ダイレクトクラッチD/C)は、第4サンギアS4と第4キャリアPC4とを選択的に断接するクラッチである。第3クラッチC3(=H&LRクラッチH&LR/C)は、第3サンギアS3と第4サンギアS4とを選択的に断接するクラッチである。第2ワンウェイクラッチF2(=1&2速ワンウェイクラッチ1&2OWC)は、第3サンギアS3と第4サンギアS4の間に配置されている。第1ブレーキB1(=フロントブレーキFr/B)は、第1キャリアPC1の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。第1ワンウェイクラッチF1(=1速ワンウェイクラッチ1stOWC)は、第1ブレーキB1と並列に配置されている。
【0042】
第2ブレーキB2(=ローブレーキLOW/B)は、第3サンギアS3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。第3ブレーキB3(=2346ブレーキ2346/B)は、第1サンギアS1及び第2サンギアS2を連結する第3連結メンバM3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。
第4ブレーキB4(=リバースブレーキR/B)は、第4キャリアPC4の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。
【0043】
図5は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATでの変速段ごとの各摩擦要素の締結状態を示す締結作動表である。尚、図5において、○印はドライブ状態で当該摩擦要素が油圧締結であることを示し、(○)印はコースト状態で当該摩擦要素が油圧締結(ドライブ状態ではワンウェイクラッチ作動)であることを示し、無印は当該摩擦要素が解放状態であることを示す。
このように構成された変速ギア機構に設けられた各摩擦要素のうち、締結していた1つの摩擦要素を解放し、解放していた1つの摩擦要素を締結するという架け替え変速を行うことで、下記のように、前進7速で後退1速の変速段を実現することができる。
【0044】
すなわち、「1速段」では、第2ブレーキB2のみが締結状態となり、これにより第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2が係合する。「2速段」では、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3が締結状態となり、第2ワンウェイクラッチF2が係合する。
【0045】
「3速段」では、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3及び第2クラッチC2が締結状態となり、第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2はいずれも係合しない。「4速段」では、第3ブレーキB3、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が締結状態となる。「5速段」では、第1クラッチC1、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が締結状態となる。
【0046】
「6速段」では、第3ブレーキB3、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が締結状態となる。「7速段」では、第1ブレーキB1、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が締結状態となり、第1ワンウェイクラッチF1が係合する。「後退速段」では、第4ブレーキB4、第1ブレーキB1及び第3クラッチC3が締結状態となる。
【0047】
次に、本発明の実施例1ないし実施例3に係る回生制御実行時かつブレーキ踏み込み時の統合コントローラ10の演算を図6を参照しつつ説明する。
ここでは、アクセルが踏まれていないコースト走行中であるとして説明する。
【0048】
その図6は、コースト時において車速に応じたコースト駆動力から目標モータトルクを求めるための演算手法とブレーキ要求時の回生実行トルクを求めるための演算手法とを示す演算ブロック図である。
統合コントローラ10は、メカニカルブレーキ操作に基づくブレーキコントローラからの目標ブレーキストローク(目標ブレーキトルク)と車速情報に基づく最大回生トルクとの差分から目標回生実行トルクSTRB(目標回生トルク)を算出して協調回生制御を実行する協調回生制御実行手段としての機能を有する。
【0049】
まず、その総合コントローラ10の演算の詳細を以下に説明する。
総合コントローラ10は、コースト走行時、ATコントローラ7を介して入力される車速VSPに基づき、目標クリープ・コースト駆動力マップM1’に従ってコースト駆動力を演算する。
【0050】
ついで、統合コントローラ10は、回路M2’においてタイヤ半径とファイナルギヤとの比からコースト分プロペラシャフトトルク(以下、コースト分P/Sトルクという)を演算し、回路M3’においてトルク比[−]とコースト分P/Sトルクとからコースト分入力トルクを求める。このコースト分入力トルクは、モータトルク指令値TTMGの演算とインギヤ時推定回生入力トルクの演算とに用いられる。
【0051】
なお、インギヤ時推定回生入力トルクは、回路M4において推定モータトルクSTMGに対してコースト分入力トルクを引き算することにより得られ、回路M5においてトルク比[−]とインギヤ時推定回生入力トルクとからインギヤ時推定回生P/Sトルクが得られ、絶対値回路M6を介して最終的に回生実行P/SトルクSTRBとして出力される。
ここでは、ブレーキ踏み込み時協調回生制御の説明であるので、この演算についての詳細な説明は省略する。
【0052】
統合コントローラ10は、回路M7においてモータ回転数センサ21から発電下限トルクを求め、この発電下限トルクからコースト分入力トルクを差し引くことにより、最大回生入力トルクを演算し、回路M8において、その絶対値を求め、回路M9においてトルク比[−]とこの絶対値とから最大回生P/Sトルクを演算する。
【0053】
ブレーキコントローラ(BBW)9は、ブレーキストロークセンサ20からの目標ブレーキ力ストローク(目標ブレーキトルク)BSに基づいてブレーキ要求P/SトルクRBCOMを演算し、このブレーキ要求P/SトルクRBCOMを統合コントローラ10に向かって出力する。
統合コントローラ10は、比較回路M10において最大回生P/Sトルクとブレーキ要求P/SトルクRBCOMとを比較して、最大回生P/Sトルクがブレーキ要求P/SトルクRBCOMよりも大きいか否かを判断し、判断結果を回生トルク増加禁止手段としての演算判断回路M11に出力する。
【0054】
演算判断回路M11は、実施例1では回転数制御中(エンジン始動要求信号)、実施例2ではNレンジからDレンジへのシフト信号、実施例3ではCL2スリップ制御許可信号が制御許可からCL2スリップ制御禁止になったか否かの判断を行う。また、演算判断回路M11は、目標ブレーキトルクの増加の判断も行う。
【0055】
演算判断回路M11は、エンジン始動要求信号、NレンジからDレンジへのシフト信号、CL2スリップ制御許可信号が制御許可からCL2スリップ制御禁止になったか否かの判断後、目標回生P/Sトルク(目標回生トルク)を演算し、回生実行P/SトルクSTRBをブレーキコントローラ9に向かって出力する。
【0056】
統合コントローラ10は、回路M12において目標回生P/Sトルクをトルク比[−]で割り算した後、回路M13において回生分を考慮するため「−1」を乗算して目標回生入力トルクを演算し、回路M14においてコースト分入力トルクと目標回生入力トルクとからモータトルク指令値TTMGを求め、このモータトルク指令値TTMGをモータコントローラ2に向かって出力する。
モータコントローラ2はそのモータトルク指令値TTMGに基づきモータトルクを設定する。
【0057】
ブレーキコントローラ9は、回生実行P/SトルクSTRBとブレーキ要求P/Sトルク(目標ブレーキトルクBBWに相当するトルク)との差分に基づき、モータコントローラ2による回生トルクでは補償されない差分のブレーキ分トルクをメカニカルブレーキトルク分として各ブレーキユニット(図示を略す)に出力し、通常、これにより回生協調制御が実行される。
【0058】
統合コントローラ10は、ブレーキ踏力増加か否かを監視しており、第1実施例ではエンジン始動中、第2実施例ではNレンジからDレンジへのセレクト中、第3実施例では第2摩擦締結要素CL2の微小スリップ中のいずれかの状態であると判断すると、回生実行P/SトルクSTRBの増加の禁止を実行する。
すなわち、エンジン始動中(実施例1)、NレンジからDレンジへのセレクト中(実施例2)、第2摩擦締結要素CL2の微小スリップ中(実施例3)、ブレーキ踏み込みが行われても、回生実行P/SトルクSTRBは一定に保たれる。
【0059】
従って、エンジン始動中、NレンジからDレンジへのセレクト中、第2摩擦締結要素CL2の微小スリップ中の時、ブレーキ踏み込みが行われても、モータコントローラ2による回生トルクは一定に保たれる。
一方、ブレーキコントローラ9は、回生実行P/SトルクSTRBが一定に保たれるので、ブレーキ踏み込み分によるブレーキ増加分はメカニカルブレーキトルク分ΔFとして各輪のブレーキユニットに出力され、これにより、意図しないスリップによるショック防止が図られる。
【0060】
以下に、回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがエンジン始動中にあった場合の統合コントローラ10の制御の詳細を図7に示すフローチャート、図8に示す従来の制御タイミングチャート、図9に示す実施例1の制御タイミングチャートを参照しつつ説明する。
【0061】
まず、図7に示すフローチャートについて説明する。
統合コントローラ10は、ブレーキ踏み込みがあった場合、ブレーキ踏力が増加したか否かを判断する(S.1)。統合コントローラ10は、S.1において、ブレーキ踏力が増加していないと判断した場合(NOの場合)、通常通りの回生制御処理を実行する。
統合コントローラ10は、S.1において、ブレーキ踏力が増加していると判断した場合(YESの場合)、エンジン始動中(第2摩擦締結要素CL2スリップ中)か否かの判断を実行する(S.2)。統合コントローラ10は、S.2において、エンジン始動中でないと判断した場合(NOの場合)、通常通りの回生制御処理を実行する。
【0062】
すなわち、統合コントローラ10は、ブレーキ操作による目標ブレーキトルクの増加分ををモータジェネレータMGによる回生トルクで肩代わりできる場合には、トルク配分による架け替えを実行して、架け替えた分のトルク分だけメカニカルブレーキ分の負担を軽減する。
統合コントローラ10は、S.2において、エンジン始動中であると判断した場合(YESの場合)、回生トルクの制限を実施する。すなわち、統合コントローラ10は、回生トルクの増加分を「0」Nm(ゼロニュートンメートル)に設定する処理を行う(S.3)。
【0063】
統合コントローラ10は、回生制御中、このS.1ないしS.3の処理を繰り返す。
次に、統合コントローラ10からの指令により行われる「エンジン始動制御」について概略説明した後、図8に示す比較例と図9に示す実施例とについて説明する。
【0064】
EVモードでの走行状態でエンジン始動線をアクセル開度APOが越えるとエンジン始動要求が出され、このエンジン始動要求に基づいて「エンジン始動制御」を開始する。エンジン始動制御では、まず、第2摩擦締結要素CL2を半クラッチ状態にスリップさせるように、第2クラッチCL2のトルク容量を制御する。そして、第2摩擦締結要素CL2のスリップ開始を判断した後、第1摩擦締結要素CL1の締結を開始し、モータジェネレータMGを始動モータとするクランキングによりエンジン回転を上昇させる。そして、エンジン回転が初爆可能な回転数に達成したらエンジンEngを燃焼作動させ、モータ回転数とエンジン回転数が近くなったところで第1摩擦締結要素CL1を完全に締結する。その後、第2摩擦締結要素CL2をロックアップさせてHEVモードに遷移させる。
【0065】
まず、図8の比較例について説明する。
時刻t0でエンジン始動要求指令があると、第2摩擦締結要素CL2を半締結状態にスリップさせるために、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量が低下する。ついで、時刻t1において、入力軸回転数の変化又は変速動作の進行による変速比の変化を意味するイナーシャフェイズフラグSIPが出力される。
【0066】
ついで、時刻t1から時刻t2にかけて、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量が徐々に所定値に向かって増加すると共に、モータジェネレータMGのモータトルクが増加し、時刻t2においてエンジンEngが回転を開始する。このエンジン回転開始中、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量はスリップ量を確保するため、一定に保たれる。
【0067】
エンジン回転開始後、エンジンEngの回転数はモータジェネレータMGによって上昇し、時刻2から時刻t3の間でエンジンが初爆し、時刻t3近傍において、インギヤ回転数によって定まる目標回転数に近づくと、エンジンの回転数の増加が減少する。その時刻t2と時刻t3の間、モータジェネレータMGのモータトルクは、そのエンジンEngの回転数に応じて変化する。
【0068】
エンジン回転数が目標回転数(インギヤ回転数)に達すると、時刻t4において、イナーシャフェイズフラグSIPの出力が停止され、第2摩擦締結要素CL2のスリップ制御が収束し、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量がライン油圧にまで上昇する。
このエンジン始動中に、例えば、時刻t1からt3のいずれかの時点txにおいて、ブレーキが踏まれると、実線RE1で示すように、目標回生実行P/S(STRB)が増加する。すなわち、回生処理が実行される。従って、メカブレーキ分トルクΔFは破線B1で示すように「0」である。
このような第2締結要素のCL2トルク容量分は、回生トルクを確保しているが、第2締結要素CL2トルク容量分のバラツキやエンジン始動時の外乱(エンジンフリクション負荷)により回生トルクを確保すると、スリップを維持できないこととなる。
【0069】
このため、実際の制動力RBは、第2摩擦締結要素CL2の油圧応答遅れによって追従できず、時刻tx1、tx2、tx3において示すように、実際の制動力RBが階段的に変化し、意図しないスリップによるショックが発生するおそれがある。
【0070】
これに対して、この実施例1では、図9に示すように、エンジン始動中に、ブレーキの踏み増しが時刻txにおいて行われても、演算判断回路M11によってメカニカルブレーキ分ΔFのトルクに対応する回生トルク分の増加は禁止されるため、実線RE2で示すように目標回生実行P/S(STRB)は増加せず、所定時間経過後の時刻t4’までは、目標回生実行P/S(STRB)は一定に保たれる。
【0071】
すなわち、エンジン始動中に、ブレーキの踏み増しが時刻txにおいて行われた場合、その踏み増しによるトルクの増加は、破線B2で示すように、メカニカルブレーキ分ΔFのトルクによって対応する。
従って、実際の制動力RBはメカニカルブレーキ分ΔFのトルクに比例して実線REで示すように増加するため、ブレーキ踏み込みによるエンジン始動中のショックの発生は防止できる。
【0072】
この実施例1によれば、エンジン始動終了後、時刻t4から所定時間Δt経過後、例えば、時刻t4’において、目標回生実行P/S(STRB)が実線RE3で示すように増加する。一方、目標回生実行P/Sの増加分(メカブレーキ分ΔFに相当する部分)に反比例して、破線B3で示すようにメカニカルブレーキ分ΔFのトルクが減少し、これにより、協調回生処理が実行される。
【実施例2】
【0073】
次に、回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがシフトレバーセレクト中にあった場合の統合コントローラ10の制御の詳細を図10に示すフローチャート、図11に示す従来の制御タイミングチャート、図12に示す実施例2の制御タイミングチャートを参照しつつ説明する。
【0074】
回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがシフトレバーセレクト中にあった場合、図10に示すように、統合コントローラ10は、ブレーキ踏力が増加したか否かを判断を実行する(S.11)。統合コントローラ10は、S.11において、ブレーキ踏力が増加していないと判断した場合(NOの場合)、通常通り、回生制御処理を実行する。
【0075】
統合コントローラ10は、S.11において、ブレーキ踏力が増加していると判断した場合(YESの場合)、Nレンジであるか否かを判断する(S.12)。統合コントローラ10は、S.12において、Nレンジでないと判断した場合(NOの場合)、通常通り、回生制御処理を実行する。
【0076】
統合コントローラ10は、S.12において、Nレンジであると判断した場合(YESの場合)、NレンジからDレンジへのセレクト後、所定時間経過待ち中であるかいなかを判断する(S.13)。統合コントローラ10は、S.13において、所定時間経過待ち中でないと判断した場合(NO)の場合、通常通り、回生制御処理を実行する。
【0077】
統合コントローラ10は、S.13において、所定時間経過待ち中であると判断した場合(YES)の場合、回生トルクの制限を実施する。すなわち、演算判断回路M11は、回生トルクの増加分を「0」Nm(ゼロニュートンメートル)に設定する処理を行う(S.14)。
統合コントローラ10は、回生制御実行中、このS.11ないしS14の処理を繰り返す。
【0078】
次に、統合コントローラ10からの指令により行われる「シフトレバー制御」について図11に示す比較例と図12に示す実施例2とについて説明する。
まず図11に示す比較例について説明する。
時刻t1において、シフトレバーがNレンジからDレンジにシフトされると、第2摩擦締結要素CL2を半締結状態にするため、CL2容量が所定パターンST1によって増加される。
【0079】
ついで、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量が時刻t1から時刻t4の間所定のパターンに従って増加されると共に、モータジェネレータMGのモータトルクが所定のパターンに従って変化する。
【0080】
時刻t2から時刻t3にかけて、目標回転数指令に基づき目標回生トルクが増加するため、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量が増加する。入力回転数はこの目標回転数に応じて増加し、インギヤ回転数によって定まる目標回転数に近づくと、入力回転数の増加が減少する。入力回転数が目標回転数に達すると、時刻t4で示すように、第2クラッチのスリップ制御が収束し、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量がライン油圧にまで上昇する。
【0081】
このシフトレバーのNレンジからDレンジへのセレクト時への制御中、例えば、時刻t1からt3のいずれかの時点txにおいて、ブレーキを踏むと、実線RE1で示すように、目標回生実行P/S(STRB)が増加する。従って、メカブレーキ分トルクΔFは破線B1で示すように「0」である。
このようなニュートラルレンジからドライブレンジへの切り替え時に即時に協調回生トルク(目標回生実行P/S(STRB))を増加させると、第2クラッチ締結要素CL2の完全開放状態からクラッチ容量を増加させるため、容量不足により意図しないクラッチのスリップが発生する。
【0082】
このため、実際の制動力RBは、第2摩擦締結要素CL2の油圧応答遅れによって追従できず、時刻tx1、tx2、tx3に示すように、制動力RBが段階的に変化し、意図しないスリップによる締結時ショックが発生するおそれがある。
【0083】
これに対して、この実施例2では、図12に示すように、シフトレバーのセレクト操作中に、ブレーキの踏み増しが時刻txにおいて行われても、演算判断回路M11によってメカニカルブレーキ分ΔFのトルクに対応する回生トルク分の増加は禁止されるため、実線RE2で示すように、目標回生実行P/S(STRB)は増加せず、所定時間Δt経過後の時刻t4’までは、目標回生実行P/S(STRB)は一定に保たれ、協調回生処理が禁止される。
【0084】
すなわち、シフトレバーのセレクト中に、ブレーキの踏み増しが時刻txにおいて行われた場合、その踏み増しによるトルクの増加は破線B2で示すようにメカニカルブレーキ分ΔFのトルクによって対応する。
従って、実際の制動力RBはメカニカルブレーキ分ΔFのトルクに比例して増加するため、ブレーキ踏み込みによるシフトレバーセレクト中のショックの発生は防止できる。
【0085】
この実施例2によれば、シフトレバーセレクト終了後、時刻t4から所定時間Δt経過した後、例えば、時刻t4’において、目標回生実行P/S(STRB)が実線RE3で示すように増加する。
一方、この目標回生実行P/Sの増加分(メカニカルブレーキ分ΔFに相当するトルク分)に反比例して、破線B3で示すようにメカニカルブレーキ分ΔFのトルクは減少し、これにより、協調回生が実行される。
【実施例3】
【0086】
次に、回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みが微小スリップ中にあった場合の統合コントローラ10の制御の詳細を図13に示すフローチャート、図14に示す従来の制御タイミングチャート、図15に示す実施例3の制御タイミングチャートを参照しつつ説明する。
【0087】
まず、図13に示すフローチャートについて説明する。
統合コントローラ10は、回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがシフトレバーセレクト中にあった場合、図13に示すように、ブレーキ踏力が増加したか否かを判断を実行する(S.21)。統合コントローラ10は、S.21において、ブレーキ踏力が増加していないと判断した場合(NOの場合)、通常通り、回生制御処理を実行する。
【0088】
統合コントローラ10は、S.21において、ブレーキ踏力が増加していると判断した場合(YESの場合)、微小スリップ中であるか否かを判断する(S.22)。すなわち、第2摩擦締結要素CL2のスリップ収束中であるか否かを判断する。統合コントローラ10は、S.22において、微小スリップ中でないと判断した場合(NOの場合)、通常通り、回生制御処理を実行する。
【0089】
統合コントローラ10は、S.22において、微小スリップ中であると判断した場合(YESの場合)、微小スリップ収束後所定時間待ち中であるか否かを判断する(S.23)。統合コントローラ10は、S.23において、微小スリップ収束後所定時間待ち中でないと判断した場合(NO)の場合、通常通り、回生制御処理を実行する。
【0090】
統合コントローラ10は、S.23において、微小スリップ収束後所定時間待ち中であると判断した場合(YES)の場合、回生トルクの制限を実施する。すなわち、統合コントローラ10は、回生トルク増加分を「0」Nm(ゼロニュートンメートル)に設定する処理を行う(S.24)。統合コントローラ10は、回生制御実行中、このS.21ないしS.24の処理を繰り返す。
【0091】
次に、統合コントローラ10からの指令により行われる「微小スリップ制御」について図14に示す比較例と図15に示す実施例3とについて説明する。
まず、図14に示す比較例について説明する。
時刻t1において、第2摩擦締結要素CL2のスリップ制御が許可から第2摩擦締結要素CL2のスリップ制御が禁止されると、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量が時刻t1から時刻t2の間所定のパターンに従って増加されると共に、モータジェネレータMGのモータトルクが所定のパターンに従って変化する。また、時刻t2から時刻t4にかけて、第2摩擦締結要素CL2は微小スリップ状態に移行し、CL2容量は微小スリップ状態に対応する容量ST2に移行する。
【0092】
入力回転数は目標回転数に応じて増加し、インギヤ回転数によって定まる目標回転数に近づくと、入力回転数の増加が減少する。入力回転数が目標回転数に達すると、時刻t4で示すように、第2摩擦締結要素CL2のスリップ制御が収束し、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量がライン油圧にまで上昇する。
【0093】
この第2摩擦締結要素CL2のスリップ禁止制御中(微小スリップ中)、例えば、時刻t1からt3のいずれかの時点txにおいて、ブレーキを踏むと、実線RE1で示すように、目標回生実行P/Sトルク(STRB)が増加する。従って、メカブレーキ分トルクΔFは破線B1で示すように「0」である。
このような第2締結要素CL2スリップ(CL2微小スリップ)時に微小スリップさせるためにクラッチトルク容量を下げるので、モータによる協調回生トルクの増加分の入力トルク変動により、意図しないクラッチのスリップが発生する。
【0094】
このため、実際の制動力RBは、第2摩擦締結要素CL2の油圧応答遅れによって追従できず、時刻tx1、tx2、tx3において示すように、制動力が段階的に変化し、意図しないスリップによる締結時ショックが発生するおそれがある。
【0095】
これに対して、この実施例3では、図15に示すように、微小スリップ禁止中に、ブレーキの踏み増しが時刻txにおいて行われても、演算判断回路M11によってメカニカルブレーキ分ΔFのトルクに対応する回生トルク分の増加は禁止されるため、実線RE2で示すように、目標回生実行P/S(STRB)トルクは増加されず、時刻t4’までは、回生実行P/S(STRB)は一定に保たれ、協調回生処理が禁止される。
すなわち、微小スリップ禁止制御中に、ブレーキの踏み増しが時刻txにおいて行われた場合、その踏み増しによるトルクの増加は、破線B2で示すように、メカニカルブレーキ分のトルクによって対応する。
【0096】
従って、実際の制動力RBはメカニカルブレーキ分ΔFのトルクに比例して増加するため、ブレーキ踏み込みによる微小スリップ禁止中のショックの発生は防止できる。
この実施例3によれば、第2摩擦締結要素CL2の微小スリップ終了後、時刻t4から所定時間Δt経過した後、例えば、時刻t4’において、目標回生実行P/SトルクSTRBが実線RE3で示すように増加する。
これに対して、目標回生実行P/Sトルクの増加分(メカニカルブレーキ分ΔFに相当する分)に反比例して破線B3で示すようにメカニカルブレーキ分ΔFのトルクは減少し、協調回生制御処理が実行される。
次に各実施例の効果について説明する。
【0097】
実施例1の効果は以下の通りである。
CL2がスリップしている状態(エンジン始動等)の時は、収束(CL2を締結)させてから所定時間は回生トルク(ブレーキから肩代わりするトルク)を増加させないように制限をかけ、回生トルクの増加分を「0」にする。
従って、エンジン始動後、CL2を締結させてから所定時間は協調回生を増加させないことで、油圧応答遅れを考慮し、意図しないスリップによるショックを防止できる。
【0098】
実施例2の効果は以下の通りである。
シフトレンジがNレンジから走行レンジ(R、Dレンジ)に切り替わってからの所定時間は、回生トルクの増加分を0にする。
Nレンジ(ニュートラルレンジ)からDレンジ(ドライブレンジ)切り替わり時に所定時間は協調回生を増加させないことで、油圧応答遅れを考慮し、意図しないスリップによるショックを防止できる。
【0099】
実施例3の効果は以下の通りである。
CL2μスリップ(CL2微小スリップ)からCL2スリップを収束(CL2を締結)させてから所定時間は回生トルクの増加分を0にする。
CL2スリップ終了後、CL2を締結させてから所定時間は協調回生を増加させないことで、油圧応答遅れを考慮し、意図しないスリップによるショックを防止できる。
【0100】
所定時間経過後は、いずれの実施例1ないし実施例3においても、ブレーキ踏み込み中は協調回生制御が実行されるので、意図しないショックの発生を防止しつつ協調回生制御を実行できる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を実施例1ないし実施例3について別々に独立して説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1ないし実施例3に限られるものではなく、この実施例1ないし実施例3の構成を適宜組み合わせることができ、要するに、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
なお、第2摩擦締結要素CL2は自動変速機の内部に設けてあるが、自動変速機の外部で入力軸の側に設けても、出力軸の側に設けても良い。
【符号の説明】
【0102】
Eng…エンジン
CL1…第1摩擦締結要素
MG…モータジェネレータ
CL2…第2摩擦締結要素
BS…目標ブレーキトルク
AT…自動変速機
M11…演算判断部(回生トルク増加禁止手段)
9…ブレーキコントローラ
10…統合コントローラ(協調回生制御実行手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動系にエンジンとモータジェネレータと自動変速機とを備えたハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両には、エンジンと有段式の自動変速機との間にモータジェネレータを備えたものが知られている。
この種のハイブリッド車両では、ブレーキを操作して減速しているときに、メカニカルブレーキ分としての摩擦ブレーキによる制動力を小さくした分だけモータジェネレータにより回生トルクを発生させ、所望の減速度を実現しつつ運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回生制御を実行し、燃費の向上を図っている。
【0003】
また、回生制御の実行時に自動変速機の変速要求があるときには、回生トルクを自動変速機の伝達可能トルク以下に制限する回生トルク制限手段を設け、変速制御時に、すなわち、第2摩擦締結要素CL2のスリップ制御時にCL2トルク容量分に回生トルクを制限することにより、第2摩擦締結要素CL2スリップ制御(変速制御)時の同時処理を行っている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−104306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回生制御の実行中に、ドライバーのブレーキ操作によりブレーキ踏力が増加した場合に、メカニカルブレーキのブレーキ力増加分に基づいてモータジェネレータの回生トルクを増加させて協調回生制御を実行させることにすると、油圧応答遅れ等に起因して第2摩擦締結要素CL2のスリップ中、第2摩擦締結要素CL2のスリップ増加、スリップ収束時の締結時にショックが発生する。
【0006】
このようなシーンは、エンジン始動時に回生トルクを確保しようとする場合、Nレンジ(ニュートラルレンジ)からDレンジ(ドライブレンジ)への切り替わり時に、即時に回生トルクを増加させようとする場合、第2摩擦締結要素CL2のμスリップ(CL2微小スリップ)時に起こり得る。
このように、第2摩擦締結要素CL2としてのドライバーのブレーキ踏み込み操作があった場合、ドライバの意図を実現できないシーンが存在する。
【0007】
本発明は、摩擦締結要素のスリップ制御中にブレーキ操作があった場合に、回生トルクの増加を禁止することにより、油圧応答遅れに起因する意図しないスリップによるショックの発生を防止可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エンジンに第1摩擦締結要素を介して締結されたモータジェネレータと駆動輪との間に介装された第2摩擦締結要素を含む有段の自動変速機と、メカニカルブレーキ操作に基づくブレーキコントローラからの目標ブレーキトルクと車速情報に基づく最大回生トルクとの差分から目標回生トルクを算出して協調回生制御を実行する協調回生制御実行手段とを備えている。
協調回生制御実行手段は、メカニカルブレーキ操作による目標ブレーキトルクの増加の判断と第2摩擦締結要素がスリップ中であるか否かを判断する判断部と、目標ブレーキトルクの増加時でかつ摩擦締結要素のスリップ中に回生トルクの増加を禁止する回生トルク増加禁止手段とを有している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回生制御実行中でかつ摩擦締結要素のスリップ制御中に、メカニカルブレーキ操作があった場合でも、摩擦締結要素の締結後所定時間の間、回生トルクの増加が禁止され、メカニカルブレーキ操作に基づくブレーキ増加分をメカニカルブレーキに負担させることにしたので、意図しないショックの発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す全体システム図である。
【図2】図2は実施例1のATコントローラ7に設定されている自動変速機ATのシフトマップの一例を示す図である。
【図3】図3は実施例1の統合コントローラ10のモード選択部に設定されているEV-HEV選択マップの一例を示す図である。
【図4】図4は実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATの一例を示すスケルトン図である。
【図5】図5は実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATでの変速段ごとの各摩擦要素の締結状態を示す締結作動表である。
【図6】図6は実施例1から実施例3に係る制御装置の演算の一例を示すブロック図である。
【図7】図7は回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがエンジン始動中にあった場合の統合コントローラの回生制御の詳細を示すフローチャートである。
【図8】図8は回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがエンジン始動中にあった場合の統合コントローラの従来の回生制御を示すタイミングチャートである。
【図9】図9は実施例1の回生制御を示すタイミングチャートである。
【図10】図10は実施例2の制御装置の説明図であって、回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがシフトレンジセレクト中にあった場合の統合コントローラの回生制御の詳細を示すフローチャートである。
【図11】図11は回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがシフトレンジセレクト中にあった場合の統合コントローラの従来の回生制御を示すタイミングチャートである。
【図12】図12は実施例2の回生制御を示すタイミングチャートである。
【図13】図13は回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みが摩擦締結要素の微小スリップ中にあった場合の統合コントローラの回生制御の詳細を示すフローチャートである。
【図14】図14は回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みが摩擦締結要素の微小スリップ中にあった場合の統合コントローラの従来の回生制御を示すタイミングチャートである。
【図15】図15は実施例3の回生制御を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置の形態を図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【0013】
実施例1におけるFRハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、フライホイールFWと、第1摩擦締結要素CL1(モード切り替え手段)と、モータジェネレータMGと、第2摩擦締結要素CL2と、自動変速機ATと、変速機入力軸INと、メカオイルポンプM-O/Pと、サブオイルポンプS-O/Pと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)とを有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0014】
エンジンEngは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、エンジンコントローラ1からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御やフューエルカット制御等が行われる。なお、エンジン出力軸には、フライホイールFWが設けられている。
【0015】
第1摩擦締結要素CL1は、エンジンEngとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、第1クラッチコントローラ5からの第1クラッチ制御指令に基づき第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された第1クラッチ制御油圧により、締結・半締結状態・解放が制御される。この第1摩擦締結要素CL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力によって完全締結を保ち、ピストン14aを有する油圧アクチュエータ14を用いたストローク制御により、完全締結〜スリップ締結〜完全解放までが制御されるノーマルクローズの乾式単板クラッチが用いられる。
【0016】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、モータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(力行)、ロータがエンジンEngや駆動輪から回転エネルギーを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ4を充電することもできる(回生)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、自動変速機ATの変速機入力軸INに連結されている。
【0017】
第2摩擦締結要素CL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRの間に介装されたクラッチであり、ATコントローラ7からの第2クラッチ制御指令に基づき第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、締結・スリップ締結・解放が制御される。この第2摩擦締結要素CL2としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できるノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。なお、第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに付設される油圧コントロールバルブユニットCVUに内蔵されている。
【0018】
自動変速機ATは、有段階の変速段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り替える有段変速機であり、実施例1では前進7速/後退1速の変速段を持つ有段変速機としている。そして、実施例1では、第2摩擦締結要素CL2として、自動変速機ATとは独立の専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦要素のうち、所定の条件に適合する摩擦要素(クラッチやブレーキ)を選択している。
【0019】
自動変速機ATの変速機入力軸IN(=モータ軸)には、変速機入力軸INにより駆動されるメカオイルポンプM-O/Pが設けられている。そして、車両停止時等でメカオイルポンプM-O/Pからの吐出圧が不足するとき、油圧低下を抑えるために電動モータにより駆動されるサブオイルポンプS-O/Pが、モータハウジング等に設けられている。なお、サブオイルポンプS-O/Pの駆動制御は、ATコントローラ7により行われる。
【0020】
自動変速機ATの変速機出力軸OUTには、プロペラシャフトPSが連結されている。そして、このプロペラシャフトPSは、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0021】
このFRハイブリッド車両は、駆動形態の違いによる走行モードとして、電気自動車モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車モード(以下、「HEVモード」という。)と、駆動トルクコントロールモード(以下、「WSCモード」という。)とを有する。
【0022】
「EVモード」は、第1摩擦締結要素CL1を解放状態とし、モータジェネレータMGの駆動力のみで走行するモードであり、モータ走行モード・回生走行モードを有する。この「EVモード」は、要求駆動力が低く、バッテリSOCが確保されているときに選択される。
【0023】
「HEVモード」は、第1摩擦締結要素CL1を締結状態として走行するモードであり、モータアシスト走行モード・発電走行モード・エンジン走行モードを有し、何れかのモードにより走行する。この「HEVモード」は、要求駆動力が高いとき、あるいは、バッテリSOCが不足するようなときに選択される。
【0024】
「WSCモード」は、モータジェネレータMGの回転数制御により、第2摩擦締結要素CL2をスリップ締結状態に維持し、第2摩擦締結要素CL2を経過するクラッチ伝達トルクが、車両状態や運転者操作に応じて決まる要求駆動トルクとなるようにクラッチトルク容量をコントロールしながら走行するモードである。この「WSCモード」は、「HEVモード」の選択状態での停車時・発進時・減速時等のように、エンジン回転数がアイドル回転数を下回るような走行領域において選択される。
【0025】
次に、FRハイブリッド車両の電気制御回路系を説明する。
実施例1におけるFRハイブリッド車両の電気制御回路系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とを有して構成されている。なお、各コントローラ1、2、5、7、9と、統合コントローラ10とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0026】
エンジンコントローラ1には、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報と、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令と、他の必要情報とが入力される。
そして、エンジンコントローラ1は、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、エンジンEngのスロットルバルブアクチュエータ等へ出力する。
【0027】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報と、統合コントローラ10からの目標MGトルク指令および目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電容量をあらわすバッテリSOCを監視していて、このバッテリSOC情報を、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0028】
第1クラッチコントローラ5は、油圧アクチュエータ14のピストン14aのストローク位置を検出する第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの目標CL1トルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、第1クラッチコントローラ5は、第1摩擦締結要素CL1の締結・半締結・解放を制御する指令を油圧コントロールバルブユニットCVU内の第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。
【0029】
ATコントローラ7には、アクセル開度センサ16と、車速センサ17と、他のセンサ類18等からの情報が入力される。そして、ATコントローラ7は、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点が図2に示すシフトマップ上で存在する位置に基づき最適な変速段を検索し、検索された変速段を得る制御指令を油圧コントロールバルブユニットCVUに出力する。前記シフトマップとは、図2に示すように、アクセル開度APOと車速VSPに応じてアップ変速線とダウン変速線を書き込んだマップをいう。
【0030】
ATコントローラ7は、この変速制御に加えて、統合コントローラ10から目標CL2トルク指令が入力された場合、第2摩擦締結要素CL2のスリップ締結を制御する指令を油圧コントロールバルブユニットCVU内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する第2クラッチ制御を行う。
【0031】
ブレーキコントローラ9には、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19と、ブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報としてのブレーキストロークBS、統合コントローラ10からの回生協調制御指令としての回生実行P/SトルクSTRBと、他の必要情報とが入力さえる。そして、例えば、ブレーキコントローラ9は、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対して回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力やモータ制動力)で補うように、協調回生ブレーキ制御を行う。
【0032】
統合コントローラ10には、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21や他のセンサ・スイッチ類22からの必要情報及びCAN通信線11を介しての情報が入力される。そして、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1へ目標エンジントルク指令、モータコントローラ2へ目標MGトルク指令(モータトルク指令値TTMG)および目標MG回転数指令、第1クラッチコントローラ5へ目標CL1トルク指令、ATコントローラ7へ目標CL2トルク指令、ブレーキコントローラ9へ回生協調制御指令を出力する。
【0033】
この統合コントローラ10は、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点が図3に示すEV-HEV選択マップ上で存在する位置に基づき最適な走行モードを検索し、検索した走行モードを目標走行モードとして選択するモード選択部を有する。
このEV-HEV選択マップには、EV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「EVモード」から「HEVモード」へと切り替えるEV⇒HEV切替線と、HEV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「HEVモード」から「EVモード」へと切り替えるHEV⇒EV切替線と、「HEVモード」の選択時に運転点(APO,VSP)がWSC領域に入ると「WSCモード」へと切り替えるHEV⇒WSC切替線とが設定されている。
【0034】
HEV⇒EV切替線とHEV⇒EV切替線は、EV領域とHEV領域を分ける線としてヒステリシス量を持たせて設定されている。HEV⇒WSC切替線は、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEngがアイドル回転数を維持する第1設定車速VSP1に沿って設定されている。但し、「EVモード」の選択中、バッテリSOCが所定値以下になると、強制的に「HEVモード」を目標走行モードとする。
【0035】
図4は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATの一例を示すスケルトン図である。
【0036】
自動変速機ATは、前進7速後退1速の有段式自動変速機であり、エンジンEngとモータジェネレータMGのうち、少なくとも一方からの駆動力が変速機入力軸INから入力され、4つの遊星ギアと7つの摩擦要素とによって回転速度が変速されて変速機出力軸OUTから出力される。
【0037】
変速ギア機構は、変速機入力軸Input側から変速機出力軸Output側までの軸上に、順に第1遊星ギアG1と第2遊星ギアG2による第1遊星ギアセットGS1及び第3遊星ギアG3と第4遊星ギアG4による第2遊星ギアセットGS2が配置されている。また、摩擦要素として第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第4ブレーキB4が配置されている。また、第1ワンウェイクラッチF1と第2ワンウェイクラッチF2が配置されている。
【0038】
第1遊星ギアG1は、第1サンギアS1と、第1リングギアR1と、第1ピニオンP1と、第1キャリアPC1とを有するシングルピニオン型遊星ギアである。第2遊星ギアG2は、第2サンギアS2と、第2リングギアR2と、第2ピニオンP2と、第2キャリアPC2と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。第3遊星ギアG3は、第3サンギアS3と、第3リングギアR3と、第3ピニオンP3と、第3キャリアPC3とを有するシングルピニオン型遊星ギアである。第4遊星ギアG4は、第4サンギアS4と、第4リングギアR4と、第4ピニオンP4と、第4キャリアPC4とを有するシングルピニオン型遊星ギアである。
【0039】
変速機入力軸INは、第2リングギアR2に連結され、エンジンEngとモータージェネレータMGの少なくとも一方からの回転駆動力が変速機入力軸INに入力される。変速機出力軸OUTは、第3キャリアPC3に連結され、出力回転駆動力をファイナルギア等を介して駆動輪(左右後輪RL,RR)に伝達する。
【0040】
第1リングギアR1と第2キャリアPC2と第4リングギアR4とは、第1連結メンバM1により一体的に連結される。第3リングギアR3と第4キャリアPC4とは、第2連結メンバM2により一体的に連結される。第1サンギアS1と第2サンギアS2とは、第3連結メンバM3により一体的に連結される。
【0041】
第1クラッチC1(=インプットクラッチI/C)は、変速機入力軸INと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。第2クラッチC2(=ダイレクトクラッチD/C)は、第4サンギアS4と第4キャリアPC4とを選択的に断接するクラッチである。第3クラッチC3(=H&LRクラッチH&LR/C)は、第3サンギアS3と第4サンギアS4とを選択的に断接するクラッチである。第2ワンウェイクラッチF2(=1&2速ワンウェイクラッチ1&2OWC)は、第3サンギアS3と第4サンギアS4の間に配置されている。第1ブレーキB1(=フロントブレーキFr/B)は、第1キャリアPC1の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。第1ワンウェイクラッチF1(=1速ワンウェイクラッチ1stOWC)は、第1ブレーキB1と並列に配置されている。
【0042】
第2ブレーキB2(=ローブレーキLOW/B)は、第3サンギアS3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。第3ブレーキB3(=2346ブレーキ2346/B)は、第1サンギアS1及び第2サンギアS2を連結する第3連結メンバM3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。
第4ブレーキB4(=リバースブレーキR/B)は、第4キャリアPC4の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。
【0043】
図5は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATでの変速段ごとの各摩擦要素の締結状態を示す締結作動表である。尚、図5において、○印はドライブ状態で当該摩擦要素が油圧締結であることを示し、(○)印はコースト状態で当該摩擦要素が油圧締結(ドライブ状態ではワンウェイクラッチ作動)であることを示し、無印は当該摩擦要素が解放状態であることを示す。
このように構成された変速ギア機構に設けられた各摩擦要素のうち、締結していた1つの摩擦要素を解放し、解放していた1つの摩擦要素を締結するという架け替え変速を行うことで、下記のように、前進7速で後退1速の変速段を実現することができる。
【0044】
すなわち、「1速段」では、第2ブレーキB2のみが締結状態となり、これにより第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2が係合する。「2速段」では、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3が締結状態となり、第2ワンウェイクラッチF2が係合する。
【0045】
「3速段」では、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3及び第2クラッチC2が締結状態となり、第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2はいずれも係合しない。「4速段」では、第3ブレーキB3、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が締結状態となる。「5速段」では、第1クラッチC1、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が締結状態となる。
【0046】
「6速段」では、第3ブレーキB3、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が締結状態となる。「7速段」では、第1ブレーキB1、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が締結状態となり、第1ワンウェイクラッチF1が係合する。「後退速段」では、第4ブレーキB4、第1ブレーキB1及び第3クラッチC3が締結状態となる。
【0047】
次に、本発明の実施例1ないし実施例3に係る回生制御実行時かつブレーキ踏み込み時の統合コントローラ10の演算を図6を参照しつつ説明する。
ここでは、アクセルが踏まれていないコースト走行中であるとして説明する。
【0048】
その図6は、コースト時において車速に応じたコースト駆動力から目標モータトルクを求めるための演算手法とブレーキ要求時の回生実行トルクを求めるための演算手法とを示す演算ブロック図である。
統合コントローラ10は、メカニカルブレーキ操作に基づくブレーキコントローラからの目標ブレーキストローク(目標ブレーキトルク)と車速情報に基づく最大回生トルクとの差分から目標回生実行トルクSTRB(目標回生トルク)を算出して協調回生制御を実行する協調回生制御実行手段としての機能を有する。
【0049】
まず、その総合コントローラ10の演算の詳細を以下に説明する。
総合コントローラ10は、コースト走行時、ATコントローラ7を介して入力される車速VSPに基づき、目標クリープ・コースト駆動力マップM1’に従ってコースト駆動力を演算する。
【0050】
ついで、統合コントローラ10は、回路M2’においてタイヤ半径とファイナルギヤとの比からコースト分プロペラシャフトトルク(以下、コースト分P/Sトルクという)を演算し、回路M3’においてトルク比[−]とコースト分P/Sトルクとからコースト分入力トルクを求める。このコースト分入力トルクは、モータトルク指令値TTMGの演算とインギヤ時推定回生入力トルクの演算とに用いられる。
【0051】
なお、インギヤ時推定回生入力トルクは、回路M4において推定モータトルクSTMGに対してコースト分入力トルクを引き算することにより得られ、回路M5においてトルク比[−]とインギヤ時推定回生入力トルクとからインギヤ時推定回生P/Sトルクが得られ、絶対値回路M6を介して最終的に回生実行P/SトルクSTRBとして出力される。
ここでは、ブレーキ踏み込み時協調回生制御の説明であるので、この演算についての詳細な説明は省略する。
【0052】
統合コントローラ10は、回路M7においてモータ回転数センサ21から発電下限トルクを求め、この発電下限トルクからコースト分入力トルクを差し引くことにより、最大回生入力トルクを演算し、回路M8において、その絶対値を求め、回路M9においてトルク比[−]とこの絶対値とから最大回生P/Sトルクを演算する。
【0053】
ブレーキコントローラ(BBW)9は、ブレーキストロークセンサ20からの目標ブレーキ力ストローク(目標ブレーキトルク)BSに基づいてブレーキ要求P/SトルクRBCOMを演算し、このブレーキ要求P/SトルクRBCOMを統合コントローラ10に向かって出力する。
統合コントローラ10は、比較回路M10において最大回生P/Sトルクとブレーキ要求P/SトルクRBCOMとを比較して、最大回生P/Sトルクがブレーキ要求P/SトルクRBCOMよりも大きいか否かを判断し、判断結果を回生トルク増加禁止手段としての演算判断回路M11に出力する。
【0054】
演算判断回路M11は、実施例1では回転数制御中(エンジン始動要求信号)、実施例2ではNレンジからDレンジへのシフト信号、実施例3ではCL2スリップ制御許可信号が制御許可からCL2スリップ制御禁止になったか否かの判断を行う。また、演算判断回路M11は、目標ブレーキトルクの増加の判断も行う。
【0055】
演算判断回路M11は、エンジン始動要求信号、NレンジからDレンジへのシフト信号、CL2スリップ制御許可信号が制御許可からCL2スリップ制御禁止になったか否かの判断後、目標回生P/Sトルク(目標回生トルク)を演算し、回生実行P/SトルクSTRBをブレーキコントローラ9に向かって出力する。
【0056】
統合コントローラ10は、回路M12において目標回生P/Sトルクをトルク比[−]で割り算した後、回路M13において回生分を考慮するため「−1」を乗算して目標回生入力トルクを演算し、回路M14においてコースト分入力トルクと目標回生入力トルクとからモータトルク指令値TTMGを求め、このモータトルク指令値TTMGをモータコントローラ2に向かって出力する。
モータコントローラ2はそのモータトルク指令値TTMGに基づきモータトルクを設定する。
【0057】
ブレーキコントローラ9は、回生実行P/SトルクSTRBとブレーキ要求P/Sトルク(目標ブレーキトルクBBWに相当するトルク)との差分に基づき、モータコントローラ2による回生トルクでは補償されない差分のブレーキ分トルクをメカニカルブレーキトルク分として各ブレーキユニット(図示を略す)に出力し、通常、これにより回生協調制御が実行される。
【0058】
統合コントローラ10は、ブレーキ踏力増加か否かを監視しており、第1実施例ではエンジン始動中、第2実施例ではNレンジからDレンジへのセレクト中、第3実施例では第2摩擦締結要素CL2の微小スリップ中のいずれかの状態であると判断すると、回生実行P/SトルクSTRBの増加の禁止を実行する。
すなわち、エンジン始動中(実施例1)、NレンジからDレンジへのセレクト中(実施例2)、第2摩擦締結要素CL2の微小スリップ中(実施例3)、ブレーキ踏み込みが行われても、回生実行P/SトルクSTRBは一定に保たれる。
【0059】
従って、エンジン始動中、NレンジからDレンジへのセレクト中、第2摩擦締結要素CL2の微小スリップ中の時、ブレーキ踏み込みが行われても、モータコントローラ2による回生トルクは一定に保たれる。
一方、ブレーキコントローラ9は、回生実行P/SトルクSTRBが一定に保たれるので、ブレーキ踏み込み分によるブレーキ増加分はメカニカルブレーキトルク分ΔFとして各輪のブレーキユニットに出力され、これにより、意図しないスリップによるショック防止が図られる。
【0060】
以下に、回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがエンジン始動中にあった場合の統合コントローラ10の制御の詳細を図7に示すフローチャート、図8に示す従来の制御タイミングチャート、図9に示す実施例1の制御タイミングチャートを参照しつつ説明する。
【0061】
まず、図7に示すフローチャートについて説明する。
統合コントローラ10は、ブレーキ踏み込みがあった場合、ブレーキ踏力が増加したか否かを判断する(S.1)。統合コントローラ10は、S.1において、ブレーキ踏力が増加していないと判断した場合(NOの場合)、通常通りの回生制御処理を実行する。
統合コントローラ10は、S.1において、ブレーキ踏力が増加していると判断した場合(YESの場合)、エンジン始動中(第2摩擦締結要素CL2スリップ中)か否かの判断を実行する(S.2)。統合コントローラ10は、S.2において、エンジン始動中でないと判断した場合(NOの場合)、通常通りの回生制御処理を実行する。
【0062】
すなわち、統合コントローラ10は、ブレーキ操作による目標ブレーキトルクの増加分ををモータジェネレータMGによる回生トルクで肩代わりできる場合には、トルク配分による架け替えを実行して、架け替えた分のトルク分だけメカニカルブレーキ分の負担を軽減する。
統合コントローラ10は、S.2において、エンジン始動中であると判断した場合(YESの場合)、回生トルクの制限を実施する。すなわち、統合コントローラ10は、回生トルクの増加分を「0」Nm(ゼロニュートンメートル)に設定する処理を行う(S.3)。
【0063】
統合コントローラ10は、回生制御中、このS.1ないしS.3の処理を繰り返す。
次に、統合コントローラ10からの指令により行われる「エンジン始動制御」について概略説明した後、図8に示す比較例と図9に示す実施例とについて説明する。
【0064】
EVモードでの走行状態でエンジン始動線をアクセル開度APOが越えるとエンジン始動要求が出され、このエンジン始動要求に基づいて「エンジン始動制御」を開始する。エンジン始動制御では、まず、第2摩擦締結要素CL2を半クラッチ状態にスリップさせるように、第2クラッチCL2のトルク容量を制御する。そして、第2摩擦締結要素CL2のスリップ開始を判断した後、第1摩擦締結要素CL1の締結を開始し、モータジェネレータMGを始動モータとするクランキングによりエンジン回転を上昇させる。そして、エンジン回転が初爆可能な回転数に達成したらエンジンEngを燃焼作動させ、モータ回転数とエンジン回転数が近くなったところで第1摩擦締結要素CL1を完全に締結する。その後、第2摩擦締結要素CL2をロックアップさせてHEVモードに遷移させる。
【0065】
まず、図8の比較例について説明する。
時刻t0でエンジン始動要求指令があると、第2摩擦締結要素CL2を半締結状態にスリップさせるために、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量が低下する。ついで、時刻t1において、入力軸回転数の変化又は変速動作の進行による変速比の変化を意味するイナーシャフェイズフラグSIPが出力される。
【0066】
ついで、時刻t1から時刻t2にかけて、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量が徐々に所定値に向かって増加すると共に、モータジェネレータMGのモータトルクが増加し、時刻t2においてエンジンEngが回転を開始する。このエンジン回転開始中、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量はスリップ量を確保するため、一定に保たれる。
【0067】
エンジン回転開始後、エンジンEngの回転数はモータジェネレータMGによって上昇し、時刻2から時刻t3の間でエンジンが初爆し、時刻t3近傍において、インギヤ回転数によって定まる目標回転数に近づくと、エンジンの回転数の増加が減少する。その時刻t2と時刻t3の間、モータジェネレータMGのモータトルクは、そのエンジンEngの回転数に応じて変化する。
【0068】
エンジン回転数が目標回転数(インギヤ回転数)に達すると、時刻t4において、イナーシャフェイズフラグSIPの出力が停止され、第2摩擦締結要素CL2のスリップ制御が収束し、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量がライン油圧にまで上昇する。
このエンジン始動中に、例えば、時刻t1からt3のいずれかの時点txにおいて、ブレーキが踏まれると、実線RE1で示すように、目標回生実行P/S(STRB)が増加する。すなわち、回生処理が実行される。従って、メカブレーキ分トルクΔFは破線B1で示すように「0」である。
このような第2締結要素のCL2トルク容量分は、回生トルクを確保しているが、第2締結要素CL2トルク容量分のバラツキやエンジン始動時の外乱(エンジンフリクション負荷)により回生トルクを確保すると、スリップを維持できないこととなる。
【0069】
このため、実際の制動力RBは、第2摩擦締結要素CL2の油圧応答遅れによって追従できず、時刻tx1、tx2、tx3において示すように、実際の制動力RBが階段的に変化し、意図しないスリップによるショックが発生するおそれがある。
【0070】
これに対して、この実施例1では、図9に示すように、エンジン始動中に、ブレーキの踏み増しが時刻txにおいて行われても、演算判断回路M11によってメカニカルブレーキ分ΔFのトルクに対応する回生トルク分の増加は禁止されるため、実線RE2で示すように目標回生実行P/S(STRB)は増加せず、所定時間経過後の時刻t4’までは、目標回生実行P/S(STRB)は一定に保たれる。
【0071】
すなわち、エンジン始動中に、ブレーキの踏み増しが時刻txにおいて行われた場合、その踏み増しによるトルクの増加は、破線B2で示すように、メカニカルブレーキ分ΔFのトルクによって対応する。
従って、実際の制動力RBはメカニカルブレーキ分ΔFのトルクに比例して実線REで示すように増加するため、ブレーキ踏み込みによるエンジン始動中のショックの発生は防止できる。
【0072】
この実施例1によれば、エンジン始動終了後、時刻t4から所定時間Δt経過後、例えば、時刻t4’において、目標回生実行P/S(STRB)が実線RE3で示すように増加する。一方、目標回生実行P/Sの増加分(メカブレーキ分ΔFに相当する部分)に反比例して、破線B3で示すようにメカニカルブレーキ分ΔFのトルクが減少し、これにより、協調回生処理が実行される。
【実施例2】
【0073】
次に、回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがシフトレバーセレクト中にあった場合の統合コントローラ10の制御の詳細を図10に示すフローチャート、図11に示す従来の制御タイミングチャート、図12に示す実施例2の制御タイミングチャートを参照しつつ説明する。
【0074】
回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがシフトレバーセレクト中にあった場合、図10に示すように、統合コントローラ10は、ブレーキ踏力が増加したか否かを判断を実行する(S.11)。統合コントローラ10は、S.11において、ブレーキ踏力が増加していないと判断した場合(NOの場合)、通常通り、回生制御処理を実行する。
【0075】
統合コントローラ10は、S.11において、ブレーキ踏力が増加していると判断した場合(YESの場合)、Nレンジであるか否かを判断する(S.12)。統合コントローラ10は、S.12において、Nレンジでないと判断した場合(NOの場合)、通常通り、回生制御処理を実行する。
【0076】
統合コントローラ10は、S.12において、Nレンジであると判断した場合(YESの場合)、NレンジからDレンジへのセレクト後、所定時間経過待ち中であるかいなかを判断する(S.13)。統合コントローラ10は、S.13において、所定時間経過待ち中でないと判断した場合(NO)の場合、通常通り、回生制御処理を実行する。
【0077】
統合コントローラ10は、S.13において、所定時間経過待ち中であると判断した場合(YES)の場合、回生トルクの制限を実施する。すなわち、演算判断回路M11は、回生トルクの増加分を「0」Nm(ゼロニュートンメートル)に設定する処理を行う(S.14)。
統合コントローラ10は、回生制御実行中、このS.11ないしS14の処理を繰り返す。
【0078】
次に、統合コントローラ10からの指令により行われる「シフトレバー制御」について図11に示す比較例と図12に示す実施例2とについて説明する。
まず図11に示す比較例について説明する。
時刻t1において、シフトレバーがNレンジからDレンジにシフトされると、第2摩擦締結要素CL2を半締結状態にするため、CL2容量が所定パターンST1によって増加される。
【0079】
ついで、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量が時刻t1から時刻t4の間所定のパターンに従って増加されると共に、モータジェネレータMGのモータトルクが所定のパターンに従って変化する。
【0080】
時刻t2から時刻t3にかけて、目標回転数指令に基づき目標回生トルクが増加するため、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量が増加する。入力回転数はこの目標回転数に応じて増加し、インギヤ回転数によって定まる目標回転数に近づくと、入力回転数の増加が減少する。入力回転数が目標回転数に達すると、時刻t4で示すように、第2クラッチのスリップ制御が収束し、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量がライン油圧にまで上昇する。
【0081】
このシフトレバーのNレンジからDレンジへのセレクト時への制御中、例えば、時刻t1からt3のいずれかの時点txにおいて、ブレーキを踏むと、実線RE1で示すように、目標回生実行P/S(STRB)が増加する。従って、メカブレーキ分トルクΔFは破線B1で示すように「0」である。
このようなニュートラルレンジからドライブレンジへの切り替え時に即時に協調回生トルク(目標回生実行P/S(STRB))を増加させると、第2クラッチ締結要素CL2の完全開放状態からクラッチ容量を増加させるため、容量不足により意図しないクラッチのスリップが発生する。
【0082】
このため、実際の制動力RBは、第2摩擦締結要素CL2の油圧応答遅れによって追従できず、時刻tx1、tx2、tx3に示すように、制動力RBが段階的に変化し、意図しないスリップによる締結時ショックが発生するおそれがある。
【0083】
これに対して、この実施例2では、図12に示すように、シフトレバーのセレクト操作中に、ブレーキの踏み増しが時刻txにおいて行われても、演算判断回路M11によってメカニカルブレーキ分ΔFのトルクに対応する回生トルク分の増加は禁止されるため、実線RE2で示すように、目標回生実行P/S(STRB)は増加せず、所定時間Δt経過後の時刻t4’までは、目標回生実行P/S(STRB)は一定に保たれ、協調回生処理が禁止される。
【0084】
すなわち、シフトレバーのセレクト中に、ブレーキの踏み増しが時刻txにおいて行われた場合、その踏み増しによるトルクの増加は破線B2で示すようにメカニカルブレーキ分ΔFのトルクによって対応する。
従って、実際の制動力RBはメカニカルブレーキ分ΔFのトルクに比例して増加するため、ブレーキ踏み込みによるシフトレバーセレクト中のショックの発生は防止できる。
【0085】
この実施例2によれば、シフトレバーセレクト終了後、時刻t4から所定時間Δt経過した後、例えば、時刻t4’において、目標回生実行P/S(STRB)が実線RE3で示すように増加する。
一方、この目標回生実行P/Sの増加分(メカニカルブレーキ分ΔFに相当するトルク分)に反比例して、破線B3で示すようにメカニカルブレーキ分ΔFのトルクは減少し、これにより、協調回生が実行される。
【実施例3】
【0086】
次に、回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みが微小スリップ中にあった場合の統合コントローラ10の制御の詳細を図13に示すフローチャート、図14に示す従来の制御タイミングチャート、図15に示す実施例3の制御タイミングチャートを参照しつつ説明する。
【0087】
まず、図13に示すフローチャートについて説明する。
統合コントローラ10は、回生制御実行時でかつブレーキ踏み込みがシフトレバーセレクト中にあった場合、図13に示すように、ブレーキ踏力が増加したか否かを判断を実行する(S.21)。統合コントローラ10は、S.21において、ブレーキ踏力が増加していないと判断した場合(NOの場合)、通常通り、回生制御処理を実行する。
【0088】
統合コントローラ10は、S.21において、ブレーキ踏力が増加していると判断した場合(YESの場合)、微小スリップ中であるか否かを判断する(S.22)。すなわち、第2摩擦締結要素CL2のスリップ収束中であるか否かを判断する。統合コントローラ10は、S.22において、微小スリップ中でないと判断した場合(NOの場合)、通常通り、回生制御処理を実行する。
【0089】
統合コントローラ10は、S.22において、微小スリップ中であると判断した場合(YESの場合)、微小スリップ収束後所定時間待ち中であるか否かを判断する(S.23)。統合コントローラ10は、S.23において、微小スリップ収束後所定時間待ち中でないと判断した場合(NO)の場合、通常通り、回生制御処理を実行する。
【0090】
統合コントローラ10は、S.23において、微小スリップ収束後所定時間待ち中であると判断した場合(YES)の場合、回生トルクの制限を実施する。すなわち、統合コントローラ10は、回生トルク増加分を「0」Nm(ゼロニュートンメートル)に設定する処理を行う(S.24)。統合コントローラ10は、回生制御実行中、このS.21ないしS.24の処理を繰り返す。
【0091】
次に、統合コントローラ10からの指令により行われる「微小スリップ制御」について図14に示す比較例と図15に示す実施例3とについて説明する。
まず、図14に示す比較例について説明する。
時刻t1において、第2摩擦締結要素CL2のスリップ制御が許可から第2摩擦締結要素CL2のスリップ制御が禁止されると、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量が時刻t1から時刻t2の間所定のパターンに従って増加されると共に、モータジェネレータMGのモータトルクが所定のパターンに従って変化する。また、時刻t2から時刻t4にかけて、第2摩擦締結要素CL2は微小スリップ状態に移行し、CL2容量は微小スリップ状態に対応する容量ST2に移行する。
【0092】
入力回転数は目標回転数に応じて増加し、インギヤ回転数によって定まる目標回転数に近づくと、入力回転数の増加が減少する。入力回転数が目標回転数に達すると、時刻t4で示すように、第2摩擦締結要素CL2のスリップ制御が収束し、第2摩擦締結要素CL2の締結油圧容量がライン油圧にまで上昇する。
【0093】
この第2摩擦締結要素CL2のスリップ禁止制御中(微小スリップ中)、例えば、時刻t1からt3のいずれかの時点txにおいて、ブレーキを踏むと、実線RE1で示すように、目標回生実行P/Sトルク(STRB)が増加する。従って、メカブレーキ分トルクΔFは破線B1で示すように「0」である。
このような第2締結要素CL2スリップ(CL2微小スリップ)時に微小スリップさせるためにクラッチトルク容量を下げるので、モータによる協調回生トルクの増加分の入力トルク変動により、意図しないクラッチのスリップが発生する。
【0094】
このため、実際の制動力RBは、第2摩擦締結要素CL2の油圧応答遅れによって追従できず、時刻tx1、tx2、tx3において示すように、制動力が段階的に変化し、意図しないスリップによる締結時ショックが発生するおそれがある。
【0095】
これに対して、この実施例3では、図15に示すように、微小スリップ禁止中に、ブレーキの踏み増しが時刻txにおいて行われても、演算判断回路M11によってメカニカルブレーキ分ΔFのトルクに対応する回生トルク分の増加は禁止されるため、実線RE2で示すように、目標回生実行P/S(STRB)トルクは増加されず、時刻t4’までは、回生実行P/S(STRB)は一定に保たれ、協調回生処理が禁止される。
すなわち、微小スリップ禁止制御中に、ブレーキの踏み増しが時刻txにおいて行われた場合、その踏み増しによるトルクの増加は、破線B2で示すように、メカニカルブレーキ分のトルクによって対応する。
【0096】
従って、実際の制動力RBはメカニカルブレーキ分ΔFのトルクに比例して増加するため、ブレーキ踏み込みによる微小スリップ禁止中のショックの発生は防止できる。
この実施例3によれば、第2摩擦締結要素CL2の微小スリップ終了後、時刻t4から所定時間Δt経過した後、例えば、時刻t4’において、目標回生実行P/SトルクSTRBが実線RE3で示すように増加する。
これに対して、目標回生実行P/Sトルクの増加分(メカニカルブレーキ分ΔFに相当する分)に反比例して破線B3で示すようにメカニカルブレーキ分ΔFのトルクは減少し、協調回生制御処理が実行される。
次に各実施例の効果について説明する。
【0097】
実施例1の効果は以下の通りである。
CL2がスリップしている状態(エンジン始動等)の時は、収束(CL2を締結)させてから所定時間は回生トルク(ブレーキから肩代わりするトルク)を増加させないように制限をかけ、回生トルクの増加分を「0」にする。
従って、エンジン始動後、CL2を締結させてから所定時間は協調回生を増加させないことで、油圧応答遅れを考慮し、意図しないスリップによるショックを防止できる。
【0098】
実施例2の効果は以下の通りである。
シフトレンジがNレンジから走行レンジ(R、Dレンジ)に切り替わってからの所定時間は、回生トルクの増加分を0にする。
Nレンジ(ニュートラルレンジ)からDレンジ(ドライブレンジ)切り替わり時に所定時間は協調回生を増加させないことで、油圧応答遅れを考慮し、意図しないスリップによるショックを防止できる。
【0099】
実施例3の効果は以下の通りである。
CL2μスリップ(CL2微小スリップ)からCL2スリップを収束(CL2を締結)させてから所定時間は回生トルクの増加分を0にする。
CL2スリップ終了後、CL2を締結させてから所定時間は協調回生を増加させないことで、油圧応答遅れを考慮し、意図しないスリップによるショックを防止できる。
【0100】
所定時間経過後は、いずれの実施例1ないし実施例3においても、ブレーキ踏み込み中は協調回生制御が実行されるので、意図しないショックの発生を防止しつつ協調回生制御を実行できる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を実施例1ないし実施例3について別々に独立して説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1ないし実施例3に限られるものではなく、この実施例1ないし実施例3の構成を適宜組み合わせることができ、要するに、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
なお、第2摩擦締結要素CL2は自動変速機の内部に設けてあるが、自動変速機の外部で入力軸の側に設けても、出力軸の側に設けても良い。
【符号の説明】
【0102】
Eng…エンジン
CL1…第1摩擦締結要素
MG…モータジェネレータ
CL2…第2摩擦締結要素
BS…目標ブレーキトルク
AT…自動変速機
M11…演算判断部(回生トルク増加禁止手段)
9…ブレーキコントローラ
10…統合コントローラ(協調回生制御実行手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに第1摩擦締結要素を介して締結されたモータジェネレータと、
該モータジェネレータと駆動輪との間に介装された第2摩擦締結要素を含む有段の自動変速機と、
メカニカルブレーキ操作に基づくブレーキコントローラからの目標ブレーキトルクと車速情報に基づく最大回生トルクとの差分から目標回生トルクを算出して協調回生制御を実行する協調回生制御実行手段とを備え、
該協調回生制御実行手段は、前記メカニカルブレーキ操作による目標ブレーキトルクの増加の判断と前記第2摩擦締結要素がスリップ中であるか否かを判断する判断部と、前記目標ブレーキトルクの増加時でかつ前記摩擦締結要素のスリップ中に前記回生トルクの増加を禁止する回生トルク増加禁止手段とを有することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記回生トルク増加禁止手段は、エンジン始動中、前記第2摩擦締結要素のスリップ収束後、所定時間経過後に、前記回生トルクの増加禁止を解除することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記回生トルク増加禁止手段は、NレンジからDレンジへのシフトレンジの切り替わってから所定時間経過後に、前記回生トルクの増加禁止を解除することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記回生トルク増加禁止手段は、前記第2摩擦締結要素の微小スリップ収束後、所定時間経過後に、前記回生トルクの増加禁止を解除することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項1】
エンジンに第1摩擦締結要素を介して締結されたモータジェネレータと、
該モータジェネレータと駆動輪との間に介装された第2摩擦締結要素を含む有段の自動変速機と、
メカニカルブレーキ操作に基づくブレーキコントローラからの目標ブレーキトルクと車速情報に基づく最大回生トルクとの差分から目標回生トルクを算出して協調回生制御を実行する協調回生制御実行手段とを備え、
該協調回生制御実行手段は、前記メカニカルブレーキ操作による目標ブレーキトルクの増加の判断と前記第2摩擦締結要素がスリップ中であるか否かを判断する判断部と、前記目標ブレーキトルクの増加時でかつ前記摩擦締結要素のスリップ中に前記回生トルクの増加を禁止する回生トルク増加禁止手段とを有することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記回生トルク増加禁止手段は、エンジン始動中、前記第2摩擦締結要素のスリップ収束後、所定時間経過後に、前記回生トルクの増加禁止を解除することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記回生トルク増加禁止手段は、NレンジからDレンジへのシフトレンジの切り替わってから所定時間経過後に、前記回生トルクの増加禁止を解除することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記回生トルク増加禁止手段は、前記第2摩擦締結要素の微小スリップ収束後、所定時間経過後に、前記回生トルクの増加禁止を解除することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−91551(P2012−91551A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238151(P2010−238151)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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