説明

ハイブリッド車両の駆動装置

【課題】内燃機関と第1、第2の回転電機を備えると共に、走行用の回転電機が故障しても走行を継続でき、後進時に走行用の回転電機で走行できると共に、急速発電が必要な場合に走行中の発電も可能にするハイブリッド車両の駆動装置を提供する。
【解決手段】エンジン(内燃機関)12から出力される駆動力が入力される第1入力軸14と、2個の回転電機16,20のいずれかから出力される駆動力が入力される第2入力軸22と、サンギヤSとキャリアCとリングギヤRからなる3つの要素のいずれかからなる第1要素が第1入力軸14、第2要素が第2入力軸22、第3要素が出力軸24にそれぞれ連結される遊星歯車機構26と、第1入力軸14と第2入力軸22の接続を断接するクラッチ30と、第1要素を装置ハウジング10aに固定可能な2WAYC32と、エンジン12などの動作を制御するECU34を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はハイブリッド車両の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両の駆動装置として特許文献1記載の技術が知られる。その技術にあっては、内燃機関と第1、第2の回転電機と、内燃機関と第2の回転電機が接続される第1入力軸と、第1の回転電機が接続される第2入力軸と、サンギヤとキャリアとリングギヤからなる3つの要素を有し、3つの要素のいずれかからなる第1要素が第1入力軸に、第2要素が第2入力軸に、第3要素が出力軸にそれぞれ連結される遊星歯車機構と、内燃機関などの動作を制御する制御手段とを備えるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−190006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の技術は、上記のように構成することで、エネルギ伝達効率を高くして走行状態が変化しても内燃機関を効率良く駆動することを意図しているが、走行用の回転電機(第1の回転電機)が故障すると走行不能になると共に、後進時に走行用の回転電機で走行できず、さらに急速発電が必要な場合に減速回生以外では第1、第2の回転電機で発電できない不都合があった。
【0005】
従って、この発明の目的は上記した不都合を解消し、内燃機関と第1、第2の回転電機を備えると共に、走行用の回転電機が故障しても走行を継続でき、後進時に走行用の回転電機で走行できると共に、急速発電が必要な場合に走行中の発電も可能にするハイブリッド車両の駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、請求項1に係るハイブリッド車両の駆動装置にあっては、内燃機関と、前記内燃機関から出力される駆動力が入力される第1入力軸と、2個の回転電機と、前記2個の回転電機のいずれかから出力される駆動力が入力される第2入力軸と、少なくともサンギヤとキャリアとリングギヤからなる3つの要素を有し、前記3つの要素のいずれかからなる第1要素が前記第1入力軸に、第2要素が前記第2入力軸に、第3要素が出力軸にそれぞれ連結される遊星歯車機構と、前記第1入力軸と前記第2入力軸の接続を断接するクラッチと、前記第1要素を装置ハウジングに固定可能な固定手段と、前記内燃機関と回転電機とクラッチと固定手段の動作を制御する制御手段とを備える如く構成した。
【0007】
請求項2に係るハイブリッド車両の駆動装置にあっては、前記制御手段は、車速が所定値未満のとき、前記固定手段を動作させる如く構成した。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係るハイブリッド車両の駆動装置にあっては、内燃機関から出力される駆動力が入力される第1入力軸と、2個の回転電機のいずれかから出力される駆動力が入力される第2入力軸と、少なくともサンギヤとキャリアとリングギヤからなる3つの要素を有し、3つの要素のいずれかからなる第1要素が第1入力軸に、第2要素が第2入力軸に、第3要素が出力軸にそれぞれ連結される遊星歯車機構と、第1入力軸と第2入力軸の接続を断接するクラッチと、第1要素を装置ハウジングに固定可能な固定手段と、内燃機関などの動作を制御する制御手段とを備える如く構成したので、制御手段は、走行用の回転電機(具体的には遊星歯車機構に接続される回転電機)が故障したとき、クラッチを動作(係合)させて遊星歯車機構を直結させることで、内燃機関と他方の(遊星歯車機構に接続されない側の)回転電機の駆動力で走行させることができる。
【0009】
また、制御手段は、後進時には固定手段を動作させることで、走行用の回転電機(具体的には遊星歯車機構に接続される回転電機)の駆動力で後進走行させることができ、内燃機関で走行する場合に比し、燃費を低減することができる。さらに、後進走行時の車速は概ね低速で、かつ車両停止状態からの発進なので、内燃機関で走行する場合に比し、同様に燃費を低減することができる。また、回転電機の駆動は前進走行する場合と回転方向が逆になる以外は同一なので、車両の切返しがスムーズとなる。
【0010】
請求項2に係るハイブリッド車両の駆動装置にあっては、制御手段は、車速が所定値未満のとき、固定手段を動作させる如く構成したので、上記した効果に加え、固定手段で運動エネルギを吸収するときのショックを軽減できると共に、衝撃音などの異音を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施例に係るハイブリッド車両の駆動装置を模式的に示す概略図である。
【図2】図1に示すハイブリッド車両の駆動装置の概略図の一部を詳細に示す拡大図である。
【図3】図1に示すハイブリッド車両の走行状態に応じた駆動装置の作動を一覧的に示す説明図である。
【図4】図3に示すハイブリッド車両の走行状態に応じた駆動装置の作動を速度線図で示す説明図である。
【図5】EV走行においてパワーオフからパワーオンに変化するときの2WAYCの作動を示す、図4と同様の説明図である。
【図6】同様にハイブリッド走行においてパワーオフからパワーオンに変化するときの2WAYCの作動を示す、図4と同様の説明図である。
【図7】図1に示す第1、第2の回転電機の発電と駆動の選択を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に即してこの発明に係るハイブリッド車両の駆動装置を実施するための形態を説明する。
【実施例】
【0013】
図1はこの発明の実施例に係るハイブリッド車両の駆動装置を模式的に示す概略図、図2はその一部を詳細に示す拡大図、図3は図1に示すハイブリッド車両の走行状態に応じた装置の作動を一覧的に示す説明図である。
【0014】
以下説明すると、符号10はハイブリッド車両の駆動装置を示し、駆動装置10は内燃機関(エンジン)12と、内燃機関12から出力される駆動力が入力される第1入力軸14と、2個(第1、第2)の回転電機16,20と、2個の回転電機のいずれか、具体的には第2の回転電機20から出力される駆動力が入力される第2入力軸22と、少なくともサンギヤSとキャリアCとリングギヤRからなる3つの要素を有し、3つの要素のいずれかからなる第1要素(具体的にはサンギヤS)が第1入力軸14に、第2要素(具体的にはリングギヤR)が第2入力軸22に、第3要素(具体的にはキャリアC)が出力軸24にそれぞれ連結される遊星歯車機構26と、第1入力軸14と第2入力軸22の接続を断接するクラッチ30と、第1要素(サンギヤS)を装置ハウジング10aに固定可能な2WAYC(固定手段)32と、内燃機関12と第1、第2の回転電機16,20とクラッチ30と2WAYC32の動作を制御する電子制御ユニット(制御手段)34とを備える。
【0015】
駆動装置10は具体的には自動変速機からなり、ハイブリッド車両(図示せず。以下「車両」という)に搭載され、内燃機関12と第1、第2の回転電機16,20による変速によって駆動力を車軸から駆動輪に伝達し、車両を走行させる。
【0016】
内燃機関(以下「エンジン」という)12はガソリンを燃料とする火花点火式のガソリンエンジン(あるいは軽油を燃料とする圧着着火式のディーゼルエンジン)からなり、燃料と空気の混合気を点火(着火)されるとき、燃焼してピストン(図示せず)を駆動する。
【0017】
ピストンの駆動はクランク軸の回転に変換され、クランク軸から出力されるエンジン12の出力はフライホイール12aと第1入力軸14に入力される。
【0018】
第1、第2の回転電機16,20は共にブラシレス電動機からなり、装置ハウジング10aに固定されるステータ16a,20aとステータ16a,20aに対して相対回転自在に配置されるロータ16b,20bを備え、通電されて回転させられるときは電動機(モータ)として機能すると共に、エンジン12(あるいは駆動輪)によって回転させられるときは発電機(ジェネレータ)として機能する。
【0019】
このように、この明細書において「回転電機」は電動機(モータ)と発電機(ジェネレータ)の機能を共に有する機器を意味する。以下、第1の回転電機16を「第1モータ・ジェネレータ」、第2の回転電機を「第2モータ・ジェネレータ」といい、図に「M1」「M2」と示す。
【0020】
出力軸24は減速ギヤ、ディファレンシャル機構、車軸など(全て図示せず)を介して駆動輪(図示せず)に接続され、エンジン12あるいは第1、第2モータ・ジェネレータ16,20の出力を駆動輪に伝達する。
【0021】
第1モータ・ジェネレータ16は、エンジン12のクランク端に取り付けられると共に、第2モータ・ジェネレータ20はエンジン12のフライホイール12aを越えた下流位置において、第1入力軸14と平行かつ同軸に配置された第2入力軸22に取り付けられる。
【0022】
より具体的には、図2に示す如く、第2入力軸22は第2モータ・ジェネレータ20のロータ20bにスプライン結合などによって固定されると共に、ベアリング36を介してフライホイールと第1入力軸14に回転自在に構成される。
【0023】
このように第2入力軸22は第2モータ・ジェネレータ20のロータ20bと共に回転することで、第2モータ・ジェネレータ20から出力される駆動力が入力されるように構成される。
【0024】
第1入力軸14と第2入力軸22の間にはクラッチ30が配置され、第1入力軸14と第2入力軸22の接続を断接する。クラッチ30は油圧式の多板クラッチからなる。
【0025】
図2に示す如く、クラッチ30はクラッチディスク30aとクラッチプレート30bとクラッチピストン30cを備える。クラッチディスク30aは連結部材30dを介して第1入力軸14に、クラッチプレート30bは第2入力軸22の一端に固定される。
【0026】
クラッチピストン30cはシリンダ室30c1に油圧が供給されると、移動してクラッチディスク30aをクラッチプレート30bに押圧(係合)すると共に、油圧が排出されると、復帰スプリング30c2で復帰する。
【0027】
このように、クラッチ30は、油圧を供給されるとき、動作(係合。オン)して第1入力軸14と第2入力軸22を接続させる(接)一方、油圧を排出されるとき、解放(オフ)されてその接続を遮断(断)する。
【0028】
図1の説明に戻ると、駆動装置10はEOP(電動オイルポンプ)40を備える。EOP40はその電動機(図示せず)が通電されて動作し、リザーバ(図示せず)から作動油(オイル)を汲み上げ、油圧供給回路(図示せず)を介してクラッチ30に油圧として供給する。
【0029】
クラッチ30への油圧供給回路にはリニアソレノイドバルブが介挿され、励磁されるとき、動作してクラッチ30に油圧を供給する。また、油圧供給回路は、遊星歯車機構26、ディファレンシャル機構などに油圧を供給し、それらを潤滑する。
【0030】
遊星歯車機構26は、サンギヤSと、ピニオンギヤキャリア(プラネタリキャリア。以下「キャリア」という)Cと、リングギヤRからなる少なくとも3つの要素を備える。キャリアCはシングル式のピニオンギヤを備え、サンギヤSの回転はピニオンギヤで逆転させられてリングギヤRに伝えられる。
【0031】
遊星歯車機構26の3つの要素のうち、サンギヤSを第1の要素、リングギヤRを第2の要素、キャリアCを第3の要素とするとき、図2に良く示す如く、サンギヤSは第1入力軸14、リングギヤRは第2入力軸22、キャリアCは出力軸24に連結される。
【0032】
即ち、サンギヤSはエンジン12の駆動力が入力される第1入力軸14に連結され、エンジン12の駆動力で回転させられる。また、第1モータ・ジェネレータ16も第1入力軸14に取り付けられることから、サンギヤSは第1モータ・ジェネレータ16の駆動力でも回転させられる。
【0033】
尚、遊星歯車機構26はサンギヤS、キャリアC、リングギヤRからなる3つの要素を有するが、この明細書において第1要素、第2要素、第3要素は必ずしもサンギヤS、リングギヤR、キャリアCを示すものではない。先に「3つの要素のいずれかからなる第1の要素・・・」と記載したのは、それを意味する。
【0034】
遊星歯車機構26のリングギヤRは第2モータ・ジェネレータ20から駆動力が入力されるとき、その駆動力で回転させられる一方、クラッチ30が係合(オン)されるとき、エンジン12あるいは第1モータ・ジェネレータ16から入力される駆動力で回転させられて第2モータ・ジェネレータ20のロータ20bを回転させる。
【0035】
第2モータ・ジェネレータ20は、ロータ20bの回転に応じてジェネレータとして動作して発電する。発電された電力(電気エネルギ)は、PDU(パワードライブユニット)42を介してバッテリ(エネルギ貯留源)44に貯留される。
【0036】
前記したように第1入力軸14と第2入力軸22はベアリング36を介して装置ハウジング10aに回転自在に支承されると共に、第1入力軸14には電磁式の2WAYC(ツーウエイクラッチ(機械式クラッチ))32が配置される。
【0037】
2WAYC32は2個の1WAYC(ワンウエイクラッチ)を備えてなり、ソレノイドが励磁されるとき、第1入力軸14を装置ハウジング10aに固定することで、その回転をロック、換言すれば、励磁されると、正逆転でのワンウエイ機能を実現する。
【0038】
図示は省略するが、車両のドライブシャフトの付近には車速センサが配置されて車速を示す信号を出力すると共に、バッテリ44には電圧・電流センサが配置されてバッテリ44に貯留された電力のSOC(State of Charge。残容量)を示す信号を出力する。第2入力軸22にはレゾルバからなる回転数センサが配置され、第2入力軸22の回転数を示す信号を出力する。
【0039】
それらセンサの出力は前記した、エンジン12と第1、第2モータ・ジェネレータ16,20の動作を制御する電子制御ユニット(ECU(Electronic Control Unit))34に送られる。
【0040】
電子制御ユニット(ECU)34は、第1、第2モータ・ジェネレータ16,20とクラッチ30と2WAYC32とEOP40の動作を制御するECU(以下「MOTECU34a」という)と、エンジン12の動作を制御するECU(以下「ENGECU34b」という)と、バッテリ44の動作を制御するECU(以下「BATECU34c」という)からなる。
【0041】
MOTECU34aとENGECU34bとBATECU34cはそれぞれマイクロコンピュータを備えると共に、バス46を介して接続され、相互に通信自在に構成される。MOTECU34aは、ENGECU34bからエンジン回転数、即ち、第1入力軸14の回転数などの情報を入力する。
【0042】
MOTECU34aは車両の走行状態に応じて第1、第2モータ・ジェネレータ16,20とPDU42の動作を制御すると共に、クラッチ30の動作を制御、即ち、係合(オン)・解放(オフ)し、さらにEOP40の動作を制御、即ち、駆動・停止する。
【0043】
また、MOTECU34aは、2WAYC32のソレノイドを励磁・消磁してその動作を制御する。具体的には、図3に示すFWD−D(Dレンジでの前進走行時)、即ち、第2モータ・ジェネレータ20を駆動して前進走行するとき、第2モータ・ジェネレータ20によって遊星歯車機構26のリングギヤRが正転すると、サンギヤSは逆転するので、MOTECU34aはソレノイドを励磁してサンギヤSの逆転をロックする。
【0044】
また、RVS(後進走行)時、第2モータ・ジェネレータ20によって遊星歯車機構26のリングギヤRが逆転すると、サンギヤSは正転するので、MOTECU34aはソレノイドを励磁してサンギヤSの正転をロックし、固定レシオを実現する。このように、MOTECU34aとENGECU34bとBATECU34cがECU34として機能する。
【0045】
尚、図示は省略するが、エンジン12は、搭載バッテリと搭載バッテリから電気エネルギを供給されて動作するスタータモータ(電動機)を備える。
【0046】
図4は、図3に示すハイブリッド車両の走行状態に応じた駆動装置10の作動を速度線図で示す説明図である。
【0047】
図4の速度線図において、3つの縦軸は遊星歯車機構26の3つの要素、即ち、サンギヤS、キャリアC、リングギヤRに対応し、紙面の上方への長さがFWD−D(前進)方向の回転数、下方への長さがRVS(後進)方向の回転数を示す。
【0048】
またSC間の距離はサンギヤSの歯数の逆数、CR間の距離はリングギヤRの歯数の逆数に比例する。尚、キャリアCが中央に表記されることは、サンギヤSとリングギヤRの回転がキャリアCによって逆転することを意味する。
【0049】
図3と図4を参照して車両の走行状態に応じた駆動装置10のECU34による作動を説明する。尚、以下の説明において、上記したようにECU34は具体的にはMOTECU34a,ENGECU34b,BATECU34cを意味する。
【0050】
概説すると、ECU34は、第2モータ・ジェネレータ20を駆動して図4に「EV走行」と示すように第2モータ・ジェネレータ20の出力で車両を発進させると共に、ある車速に達すると、第1モータ・ジェネレータ16でエンジン12を始動して図4に「ハイブリッド走行」と示す走行に移行し、その後所望のレシオ(変速比)となるように電気的な無段変速制御を行う。
【0051】
またECU34は、ある車速に達すると、2WAYC32の励磁を解除し、第1モータ・ジェネレータ16を駆動してエンジン12をクランキングし、点火と燃料噴射を行ってエンジン12を始動させる。
【0052】
ECU34は同時に、第2モータ・ジェネレータ20の回転数を、出力軸24を中心とした図4速度線図R(リングギヤ)回転数まで下降制御する。次いで、車速に応じて第2モータ・ジェネレータ20の回転数を上昇させ、電気的なCVT(無段変速)制御を行う。
【0053】
以下詳細に説明する。
【0054】
FWD−D(前進走行時)の「低速」「中速(エンジン始動前)」において、ECU34は上記したように第2モータ・ジェネレータ20に通電して駆動し、サンギヤSに接続される2WAYC32を励磁(図3などに丸印で示す)して前記した逆転をロックしつつ、第2モータ・ジェネレータ20の出力によって車両を発進させる。尚、電気エネルギの節約のため、2WAYC32の励磁は短時間とする。
【0055】
次いで車両の走行速度が中速のある車速に達したとき、ECU34は第1モータ・ジェネレータ16に通電して駆動し、第1モータ・ジェネレータ16でエンジン12を始動し、それと同時に2WAYC32のソレノイドの励磁を停止(消磁。図3などに×印で示す)する。
【0056】
尚、バッテリ残容量SOCが零のとき、ECU34は車載バッテリから通電してスタータモータを駆動してエンジン12を始動し、エンジン12が始動した後、第1モータ・ジェネレータ16で発電させて第2モータ・ジェネレータ20に発電された電力を供給する。
【0057】
エンジン12の始動直後の第2モータ・ジェネレータ20は無負荷であるが、ECU34は、所定車速(図4のキャリア速度線上の所定回転数)になったら、エンジン回転数とキャリア回転数で決まるリングギヤ回転数となるように、第2モータ・ジェネレータ20を減速させてレシオ(変速比)を所望の値に制御する。
【0058】
この場合、エンジン12が始動した後の各部のイナーシャは、車体>エンジン12>第2モータ・ジェネレータ20となり、イナーシャの小さい部材の回転数変化が大きくなるので、第2モータ・ジェネレータ20の回転数は図4に破線aで示すように変化する。
【0059】
図3に示す如く、ECU34は、エンジン12を始動した後は、エンジン12で第1モータ・ジェネレータ16を駆動して発電(バッテリ44を充電)すると共に、第2モータ・ジェネレータ20への通電を継続し、第2モータ・ジェネレータ20の駆動力で走行する。
【0060】
高速走行において高AP(アクセル開度APが大)となって運転者の要求トルクが大きいとき、ECU34は、バッテリ残容量SOCが高ければ、第1モータ・ジェネレータ16にも通電して駆動し、第1モータ・ジェネレータ16で走行をアシストさせる。
【0061】
図5はEV走行においてパワーオフ(アクセル開度AP零)からパワーオン(AP増加)に変化するときの2WAYC32の作動を示す説明図である。
【0062】
第1入力軸14が回転している状態で2WAYC32を励磁して係合させると、第1入力軸14の運動エネルギを2WAYC32で吸収するため、ショックや衝撃音が発生することがある。
【0063】
従って、2WAYC32の係合は、所定車速未満のとき(換言すればショックや衝撃音が小さい場合)に行う。その場合はEV走行となる。所定車速以上の場合、エンジン始動前を除き、2WAYC32を励磁しないこととする。尚、パワーオフ時は図3の減速と同様である。
【0064】
図6はハイブリッド走行においてパワーオフ(AP零)からパワーオン(AP増加)に変化するときの2WAYC32の作動を示す説明図である。
【0065】
同様に第1入力軸14が回転している状態で2WAYC32を励磁して係合させると、ショックや衝撃音が発生することがあるため、2WAYC32の励磁は、所定車速未満の場合に限って行う。
【0066】
尚、所定車速以上の場合、第1モータ・ジェネレータ16をエンジン12で駆動して発電させることを基本とするが、ECU34は、バッテリ残容量SOCが所定値以上であり、かつAPが所定値以上の場合、第1モータ・ジェネレータ16にも通電して駆動させ、第2モータ・ジェネレータ20による走行をアシストさせる。
【0067】
図3の説明に戻ると、高速走行においてバッテリ残容量SOCが低い場合、ECU34は、第1モータ・ジェネレータ16への通電を停止、エンジン12で駆動し、第1モータ・ジェネレータ16で発電させる。
【0068】
尚、ローレシオ(極小変速比)が必要な場合、ECU34は、第2モータ・ジェネレータ20の回転数を制御してそのレシオを生成して車両を走行させることも可能である。
【0069】
上記したFWD−D(前進走行)における駆動装置10の作動は、第2モータ・ジェネレータ20の回転方向が逆になるのを除くと、RVS(後進走行)の場合も同様である。即ち、この実施例においては、車両の後進走行時にEV走行あるいはハイブリッド走行させることができる。
【0070】
尚、ECU34は第1モータ・ジェネレータ16に通電してエンジン12を始動させ、エンジン12の駆動力で、後進走行することも可能である。
【0071】
減速時、例えばブレーキ時には、エンジン12は停止されてF/C(フュエルカット)がなされると共に、遊星歯車機構26は駆動輪側から駆動される。
【0072】
その場合、遊星歯車機構26のキャリアCが駆動輪に接続される出力軸24に連結されることから、駆動輪側から入力される駆動力をキャリアCを介して第2モータ・ジェネレータ20に伝達し、それによって第2モータ・ジェネレータ20を駆動して発電する。
【0073】
また、そのとき、ECU34は、クラッチ30を係合して第1入力軸14と第2入力軸22を接続し、同時に第1モータ・ジェネレータ16も駆動輪で駆動して発電させる。
【0074】
また、走行用のモータ・ジェネレータ、即ち、第2モータ・ジェネレータ20が故障した場合、ECU34は、クラッチ30を係合して第1入力軸14と第2入力軸22を接続し、エンジン12あるいは第1モータ・ジェネレータ16(あるいはエンジン12と第1モータ・ジェネレータ16の双方)の駆動力で車両を走行させる。
【0075】
図7を参照してこの実施例に係る、第1、第2モータ・ジェネレータ16,20の発電と駆動の選択についての制御を説明する。
【0076】
例えば、長い(通常勾配の)登坂路をハイブリッド走行において第1モータ・ジェネレータ16発電、第2モータ・ジェネレータ20駆動で、有段自動変速機の変速比1.0相当の中速段で登坂している状況を想定する。
【0077】
運転者がAPを一定に保持して一定車速で走行している状態においてバッテリ残容量SOCが所定値a未満になった場合、ECU34はクラッチ30を係合して第1、第2モータ・ジェネレータ16,20を共に発電モードにして積極的に発電させる。
【0078】
クラッチ30を係合すると、レシオは1となるが、ディファレンシャル機構までのギヤ比を例えば変速比1.0相当の3.27とすると、その総減速比は通常勾配の登坂路を登坂するに十分なギヤ比である。
【0079】
バッテリ残容量SOCが所定値b(b>a)以上の場合、運転者は追い越しを意図したり、あるいは勾配が増加したりしたとき、アクセルペダルを踏み込む結果、APが中程度まで増加する。
【0080】
その場合、ECU34はクラッチ30を解放(オフ)し、第1モータ・ジェネレータ16で発電し、第2モータ・ジェネレータ20で駆動するという通常モードに復帰する。
【0081】
運転者がさらにアクセルペダルを踏み込み、APが全開開度付近まで到達した場合、ECU34は運転者がより以上の駆動力を要求していると判断し、第1モータ・ジェネレータ16と第2モータ・ジェネレータ20を共に駆動するように切り換える。
【0082】
尚、図1などに示す如く、サンギヤS軸と第1入力軸14が同軸上に配置されているので、エンジン回転数とリングギヤR上の第2モータ・ジェネレータ20の回転数がほぼ同一となったときにクラッチ30に油圧を供給して係合しても、レシオ1.0であることから、回転イナーシャ変化が生じないため、変速ショックが発生しない。
【0083】
上記した如く、この実施例に係るハイブリッド車両の駆動装置10にあっては、エンジン(内燃機関)12と、前記エンジン(内燃機関)12から出力される駆動力が入力される第1入力軸14と、2個の回転電機、具体的には第1モータ・ジェネレータ16、第2モータ・ジェネレータ20と、前記2個の回転電機のいずれか、具体的には第2モータ・ジェネレータ20から出力される駆動力が入力される第2入力軸22と、少なくともサンギヤSとキャリアCとリングギヤRからなる3つの要素を有し、前記3つの要素のいずれかからなる第1要素、具体的にはサンギヤSが前記第1入力軸14に、第2要素、具体的にはリングギヤRが前記第2入力軸22に、第3要素、具体的にはキャリアCが出力軸24にそれぞれ連結される遊星歯車機構26と、前記第1入力軸14と前記第2入力軸22の接続を断接するクラッチ30と、前記第1要素を装置ハウジング10aに固定可能な2WAYC(固定手段)32と、前記エンジン(内燃機関)12と第1モータ・ジェネレータ16、第2モータ・ジェネレータ20とクラッチ30と2WAYC32などの動作を制御するECU(制御手段)34(MOTECU34a,ENGECU34b,BATECU34c)とを備える如く構成したので、ECU(制御手段)34は、走行用の回転電機(具体的には遊星歯車機構26に接続される第2モータ・ジェネレータ20)が故障したとき、クラッチ30を動作(係合)させて遊星歯車機構26を直結させることで、エンジン12と他方の(遊星歯車機構に接続されない側の)第1モータ・ジェネレータ16の駆動力で走行させることができる。
【0084】
また、ECU34は、第2モータ・ジェネレータ20を駆動して発進してから第1モータ・ジェネレータ16でエンジン12を駆動して始動するように構成したので、発進時にエンジン12を始動して走行する場合に比し、燃費を低減することができる。
【0085】
また、ECU34は、後進(RVS)時には2WAYC32を動作させることで、走行用の回転電機、具体的には遊星歯車機構26に接続される第2モータ・ジェネレータ20の駆動力で後進走行させることができるため、エンジン12で走行する場合に比し、燃費を低減することができる。
【0086】
さらに、後進走行時の車速は概ね低速で、かつ車両停止状態からの発進なので、エンジン12で走行する場合に比し、同様に燃費を低減することができる。また、第2モータ・ジェネレータ20の駆動は前進走行する場合と回転方向が逆になる以外は同一なので、車両の切返しがスムーズとなる。
【0087】
さらに、ECU34は、急速発電が必要な場合、クラッチ30を動作(係合)させることで、減速時に限らず、例えば登坂路を走行中などであっても、2個の回転電機、即ち、第1モータ・ジェネレータ16と第2モータ・ジェネレータ20の双方で発電させることができる。
【0088】
また、2WAYC32が機械式のクラッチからなる如く構成したので、油圧クラッチを用いる場合に比し、応答性を上げることができると共に、電磁ソレノイドを介して油圧を供給する必要がないので、構成として簡易であり、コストダウンも可能となる。
【0089】
また、前記ECU(制御手段)34は、車速が所定値未満のとき、前記2WAYC(固定手段)32を動作させる如く構成したので、上記した効果に加え、2WAYC32で運動エネルギを吸収するときのショックを軽減できると共に、衝撃音などの異音を低減させることができる。
【0090】
尚、上記において、固定手段として2WAYC32を用いて遊星歯車機構26のサンギヤSの回転をロックしたが、2WAYC32に代え、1WAYC(ワンウエイクラッチ)を2個用いても良く、あるいはブレーキクラッチなどを用いても良い。
【0091】
また、図5と図6を参照して説明した制御において、ECU34は車速から判断したが、エンジン12の回転数から判断しても良い。
【符号の説明】
【0092】
10 ハイブリッド車両の駆動装置、12 内燃機関(エンジン)、12a フライホイール、14 第1入力軸、16 第1の回転電機(第1モータ・ジェネレータ)、20 第2の回転電機(第2モータ・ジェネレータ)、22 第2入力軸、24 出力軸、26 遊星歯車機構、S サンギヤ、C キャリア、R リングギヤ、30 クラッチ、32 2WAYC(固定手段)、34 ECU(電子制御ユニット)、34a MOTECU,34b ENGECU,34c BATECU,40 EOP(電動オイルポンプ)、42 PDU,44 バッテリ、46 バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関から出力される駆動力が入力される第1入力軸と、2個の回転電機と、前記2個の回転電機のいずれかから出力される駆動力が入力される第2入力軸と、少なくともサンギヤとキャリアとリングギヤからなる3つの要素を有し、前記3つの要素のいずれかからなる第1要素が前記第1入力軸に、第2要素が前記第2入力軸に、第3要素が出力軸にそれぞれ連結される遊星歯車機構と、前記第1入力軸と前記第2入力軸の接続を断接するクラッチと、前記第1要素を装置ハウジングに固定可能な固定手段と、前記内燃機関と回転電機とクラッチと固定手段の動作を制御する制御手段とを備えたことを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項2】
前記制御手段は、車速が所定値未満のとき、前記固定手段を動作させることを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車両の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−1108(P2012−1108A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138190(P2010−138190)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】