説明

プラズマCVD法によるSi含有膜形成用有機シラン化合物及びSi含有膜の成膜方法

【解決手段】Cp−O−Cq(但し、p、qは炭素数を表わし、2≦p≦6、2≦q≦6であり、各炭素鎖には酸素原子と共役する不飽和結合を含まない)結合を含有する炭素数4〜8の直鎖状又は分岐状の酸素含有炭化水素鎖で結合された2個以上のケイ素原子を含有し、かつ該2個以上のケイ素原子はいずれも1個以上の水素原子又は炭素数1〜4のアルコキシ基を有するプラズマCVD法によるSi含有膜形成用有機シラン化合物。
【効果】従来、疎水性を向上させようとした場合には成膜速度に犠牲を払ってきたが、本発明のプラズマCVD法によるSi含有膜形成用有機シラン化合物によれば、膜の疎水性と誘電率特性を確保した上で、成膜速度の低下を抑制することができる。
また、本発明のプラズマCVD法によるSi含有膜の成膜方法を多層配線絶縁膜の成長方法として利用することにより、配線信号遅延の少ない半導体集積回路を安定して製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にロジックULSIにおける多層配線技術において用いられる低誘電率層間絶縁膜材料として有用であり、CVD法によって成膜されるSi含有膜形成用有機シラン化合物及びSi含有膜の成膜方法、この方法により得られた絶縁膜、並びに半導体デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子産業の集積回路分野の製造技術において、高集積化かつ高速化の要求が高まっている。シリコンULSI、特にロジックULSIにおいては、MOSFETの微細化による性能よりも、それらをつなぐ配線の性能が課題となっている。即ち、多層配線化に伴う配線遅延の問題を解決するために配線抵抗の低減と配線間及び層間容量の低減が求められている。
【0003】
これらのことから、現在、集積回路の大部分に使用されているアルミニウム配線に代えて、より電気抵抗が低く、マイグレーション耐性のある銅配線の導入が必須となっており、スパッタリング法によるシード形成後、銅メッキを行うプロセスが実用化されている。
【0004】
配線間及び層間容量の低減を達成するための低誘電率層間絶縁膜材料としては、さまざまな提案がある。従来、無機系では、二酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素、燐珪酸ガラス、有機系では、ポリイミドが用いられてきたが、最近では、より均一な層間絶縁膜を得る目的で予めテトラエトキシシランモノマーを加水分解、即ち、重縮合させてSiO2を得、Spin on Glass(無機SOG)とよぶ塗布材として用いる提案や、有機アルコシキシランモノマーを重縮合させて得たポリシロキサンを有機SOGとして用いる提案がある。
【0005】
また、絶縁膜形成方法としては、大きな分類として、絶縁膜ポリマー溶液をスピンコート法等で塗布、成膜を行う塗布型のものと、化学気相成長(CVD)法、特にプラズマ中で原料を励起、反応させて成膜するプラズマ化学気相成長(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition:以下、プラズマCVD、もしくはPECVDと略す)法の二つの方法が提案されている。
【0006】
プラズマCVD法の提案としては、例えば、特許文献1(特開2002−110670号公報)において、トリメチルシランと酸素とからプラズマCVD法により、酸化トリメチルシラン薄膜を形成する方法が、また、特許文献2(特開平11−288931号公報)では、メチル、エチル、n−プロピル等の直鎖状アルキル、ビニルフェニル等のアルケニル及びアリール基を有するアルコキシシランからプラズマCVD法により、酸化アルキルシラン薄膜を形成する方法が提案されている。
【0007】
また、更に低い誘電率を得るための新たなプラズマCVDによるSi含有膜の形成方法として、側鎖にラジカル重合性有機基を持つシラン化合物を使用し、CVD条件下、重合性有機基を重合させてSi含有膜を形成する方法(特許文献4:国際公開第2005/53009号パンフレット)や、ケイ素原子間が炭化水素基で結ばれたシラン類を原料として用いる方法(特許文献5:米国特許出願公開第2005/0194619号明細書)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−110670号公報
【特許文献2】特開平11−288931号公報
【特許文献3】特開2000−302791号公報
【特許文献4】国際公開第2005/53009号パンフレット
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0194619号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、より低い誘電率が得られるよう空孔率を高く設計された膜では、エッチング工程やアッシング工程及び洗浄工程でのプロセスダメージが問題になっている。
例えば、特許文献4(国際公開第2005/53009号パンフレット)で提案されたような材料は、有機側鎖をよく保存した低い誘電率を持つ膜が得られるが、膜中に残存する不飽和結合が後工程でのプロセスダメージによって膜の物性を不安定化するという問題がある。
また、空孔率の高い材料では、特にアルカリ性の水による処理でダメージを起こしやすく、このダメージは絶縁膜表面の親水化から広がり、Si−O結合を持つSiへの求核攻撃によって膜の持つ誘電率が上昇してしまうものと考えられている。
【0010】
上述の、ケイ素原子への求核攻撃の起こりやすさは、ケイ素原子の置換基による分極により強く影響を受ける。即ち、膜の3次元構造を形成するためには、膜中の主なケイ素原子は、3あるいは4個の他のケイ素原子への何らかの結合を有する必要があり、一般的には、これは酸素原子による結合である。しかし、ケイ素原子に直接結合する酸素原子は、分極作用によってケイ素原子の求核反応に対する反応性を高めてしまう。
【0011】
ところで、上記特許文献5(米国特許出願公開第2005/0194619号明細書)の中で提案されている、ケイ素原子間が炭化水素基で結ばれたシラン類を原料として用いて得られた膜は、多孔質膜を形成する上で、膜の骨格構造を形成するためのケイ素原子間の酸素による結合の一部が、炭化水素基に置き換えられていると見ることができる。この方法によれば、バルクで見た場合の膜中の全ケイ素に対する全酸素の比率が下がっても骨格が形成できることになる。
また、ケイ素原子への求核攻撃を抑制する方法としては、膜の疎水性を高める方法も考えられる。即ち、ケイ素原子にアルキル置換基を持たせることによって、膜の疎水性を高めてやることにより、求核種が膜中に侵入しにくくする方法である。
【0012】
ところが、上述の複数のケイ素間に炭化水素基により結ばれたシラン類を原料としたり、ケイ素原子に疎水性の置換基を多く持たせたシラン類を原料とした場合、そのシラン類が持つ蒸気圧は下がることになる。そこで、それらを用いたケイ素含有膜を形成することは、従来の膜を成膜しようとした場合に比較して、成膜速度が下がってしまうことになる。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、従来CVD法による酸化ケイ素系膜の成膜に用いられてこなかったSi含有膜形成材料を用いることによって、好ましい誘電率特性と化学耐性が同時に得られると共に、好ましい成膜速度が得られるプラズマCVDの原料であるシラン類、新規なSi含有膜の成膜方法、並びにこの成膜方法によって得られたSi含有膜からなる絶縁膜、及びこの絶縁膜を用いる半導体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一般的に、CVDの堆積は、ガス状態で活性化された原料が重合することにより、より大きな分子となり、基板上に積もることにより行われるが、用いるシラン化合物に極性基を導入することにより基板への堆積が効率的に起こることが期待される。そこで、本発明者は、ケイ素原子間に炭化水素鎖を導入することにより生じるCVD時の成膜速度低下を抑制する方法として、シラン化合物の分子構造中に局部的な極性を与えれば好ましい成膜速度が得られるという作業仮説を立て、種々検討を行った。
【0015】
そして、化学耐性低下の原因となるケイ素原子の分極は、極性原子とケイ素間を2炭素離すことで分極の影響をなくすことができるため、ケイ素原子間をCp−O−Cq(但し、p、qは炭素数を表わし、2≦p≦6、2≦q≦6であり、各炭素鎖には酸素原子と共役する不飽和結合を含まない)で表わされる炭化水素基で結合された複数のケイ素原子を有するシラン化合物を用いたところ、プラズマCVDによる成膜において、好ましい成膜速度をもって、遜色のない誘電率特性と化学耐性を持つSi含有膜が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0016】
即ち、本発明は、Cp−O−Cq(但し、p、qは炭素数を表わし、2≦p≦6、2≦q≦6であり、各炭素鎖には酸素原子と共役する不飽和結合を含まない)結合を含有する炭素数4〜8の直鎖状又は分岐状の酸素含有炭化水素鎖で結合された2個以上のケイ素原子を含有し、かつ該2個以上のケイ素原子はいずれも1個以上の水素原子又は炭素数1〜4のアルコキシ基を有することを特徴とする、プラズマCVD法によるSi含有膜形成用有機シラン化合物である(請求項1)。プラズマCVD法によるSi含有膜形成用有機シラン化合物に、安定な結合材料である炭化水素基により結合された複数のケイ素原子を持たせた場合、誘電率特性等の膜特性が好ましいものとなるが、蒸気圧の低下等を招くことにより成膜速度が下がってしまうことになる。これに対し、炭化水素基中のC−C−C結合を1か所C−O−C結合に置換してやることで分子中に局部的な極性構造を入れて分子の集合力を上げると共に、ケイ素酸素間を2炭素以上離すことで酸素による分極効果をなくすことで、必要な膜特性を損ねることなく、好ましい成膜速度を得ることができる。
【0017】
前記有機シラン化合物の好ましい態様として、下記一般式(1)
【化1】

(式中、Xは水素原子又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖状、分岐状又は環状の一価炭化水素基である。また、Y及びZは炭素数2〜6の直鎖状、分岐状又は環状の二価炭化水素基であり、m及びnは0〜2の整数を表す。)
で示されるプラズマCVD法によるSi含有膜形成用有機シラン化合物を挙げることができる(請求項2)。
【0018】
また、好ましくは、前記シラン化合物が1分子中に含む炭素原子の数は20以下である(請求項3)。
更に、好ましくは、不純物として含有するNa、Fe、Alがいずれもそれぞれ100ppb以下である(請求項4)。プラズマCVD法によって前記シラン化合物を用いて半導体装置を構成する膜を成膜する際、半導体装置に安定した動作をさせるためには、不純物として含有するNa、Fe、Alがいずれもそれぞれ100ppb以下であることが好ましい。
【0019】
本発明は、上述の有機シラン化合物を用いることを特徴とするプラズマCVD法によるSi含有膜の成膜方法である(請求項5)。上記有機シラン化合物を用いるプラズマCVD法によれば、好ましい膜特性を有するSi含有膜を、好ましい成膜速度をもって得ることができる。
また、本発明は、前記Si含有膜の成膜方法を用いて成膜することにより得られた絶縁膜である(請求項6)。好ましい成膜速度をもって得られる本絶縁膜は、絶縁特性、化学耐性等の要求特性にも優れる。
更に、本発明は、前記絶縁膜を有する半導体デバイスである(請求項7)。本発明の半導体デバイスは、上記絶縁膜を有することにより、信頼性に優れる。
【発明の効果】
【0020】
従来、疎水性を向上させようとした場合には成膜速度に犠牲を払ってきたが、本発明のプラズマCVD法によるSi含有膜形成用有機シラン化合物によれば、膜の疎水性と誘電率特性を確保した上で、成膜速度の低下を抑制することができる。
また、本発明のプラズマCVD法によるSi含有膜の成膜方法を多層配線絶縁膜の成長方法として利用することにより、配線信号遅延の少ない半導体集積回路を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】平行平板容量結合型PECVD装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の詳細について説明する。
Si含有膜(ここでは、膜表面や、膜を形成する結合剤の一部を、ケイ素含有終端基で修飾するものではなく、膜骨格を形成する構造中にケイ素原子が含まれるものを指すものとする)を成膜する場合、膜中のケイ素原子は、他のケイ素原子との間で2本以上の結合を持つ必要がある。CVD法でSi含有膜を成膜する場合には、気相反応により形成される結合はヘテロ原子によるものであり、一般的な低誘電率絶縁膜を形成する場合には、ケイ素原子間を結合して膜骨格を形成するのは酸素原子である。また、より低い誘電率を得ることを目的として、気相反応用の原料として、複数のケイ素原子に予め特定の構造(配置)を持たせたものを使用して成膜を行い、該特定の構造(配置)を膜中に導入する方法もある。この場合にも、複数のケイ素原子に特定の構造(配置)を持たせるためには、通常Si−O−Si結合を用いて行われてきた。
【0023】
これに対して、国際公開第2005/53009号パンフレット(特許文献4)や米国特許出願公開第2005/0194619号明細書(特許文献5)は、ケイ素含有膜に含まれるケイ素原子間の構造を酸素原子以外の方法で形成させる方法を開示したものと見ることができる。即ち、国際公開第2005/53009号パンフレット(特許文献4)は、ケイ素原子に結合したビニル基を気相重合することによって、ポリメチレン鎖による骨格を形成しようとするものであり、米国特許出願公開第2005/0194619号明細書(特許文献5)の方法は、気相反応の形式は従来の方法と変わらないが、原料として用いるシラン化合物中に、炭化水素により互いに結合された複数のケイ素を予め含有させておくことで、膜中にケイ素間が炭化水素により結合されたケイ素含有骨格を形成しようというものである。
【0024】
特に、米国特許出願公開第2005/0194619号明細書(特許文献5)は、直鎖状又は分岐状のアルキル鎖でケイ素原子を結ぶことにより、Si−O−Siの結合に対して湿度による膜特性変化の改善ができるという新たな効果の開示をしている。しかし、一方で、複数のケイ素原子を有し、かつアルキル鎖でそれらが結ばれたシラン類は、分子量の影響のみならず、構造的要因からも、蒸気圧が低下し、CVD法によるSi含有膜形成を行おうとした場合、成膜速度が低下するというデメリットを持つことになる。
【0025】
本発明者は、上述のような複数のケイ素原子を有し、かつアルキル鎖で結ばれたシラン類を原料として用いた場合に得られる膜特性と遜色のない膜特性を維持しつつ、成膜速度を向上させる方法について種々検討したところ、直鎖状あるいは分岐状のアルキル鎖中のケイ素と直接結合する炭素とその隣接炭素以外のメチレン(−CH2−)を酸素に置換してやることによって、成膜速度を向上させることを見出し、本発明をなすに至った。
【0026】
本発明中、第1の発明である、プラズマCVD法によるSi含有膜形成用の有機シラン化合物は、Cp−O−Cq(但しp、qは炭素数を表わし、2≦p≦6、2≦q≦6であり、各炭素鎖には酸素原子と共役する不飽和結合を含まない)で表わされる炭素数4〜8の直鎖状又は分岐状の酸素含有炭化水素鎖で結合された2個以上のケイ素原子を含有し、かつ該2個以上のケイ素原子はいずれも1個以上の水素又は炭素数1〜4のアルコキシ基を有することを特徴とする。
【0027】
前記水素原子又は炭素数1〜4のアルコキシ基は、プラズマCVD法によって、シラン間に酸素原子による結合を形成するための活性基であり、この結合が形成されると同時に、膜中には、Cp−O−Cq(但しp、qは炭素数を表わし、2≦p≦6、2≦q≦6であり、各炭素鎖には酸素原子と共役する不飽和結合を含まない)で表わされる炭素数4〜8の直鎖状又は分岐状の酸素含有炭化水素鎖が組み込まれる。このC−O−C結合を含有する直鎖状又は分岐状の酸素含有炭化水素鎖は、酸素が−CH2−である等価のアルキル鎖である場合に対して、極性基による効果でCVD工程での分子の集合特性が向上し、成膜速度を向上させることができるものと考えているが、他方で、ケイ素原子と酸素原子の間には2つ以上の炭素原子が介在するため、ケイ素原子の分極を引き起こすことはないため、得られる膜の化学耐性を落とすことはない。また、誘電率特性を始めとするその他要求される膜特性についても、酸素を含まないアルキル鎖を用いた場合に対して遜色のない物性を与える。
【0028】
また、前記Si含有膜に含まれるケイ素原子への求核攻撃を抑制するためには、膜がある程度の疎水性を有することが好ましく、前記シラン化合物は、アルコキシ基に含まれる炭素原子を除いた炭素原子数[C]とSi原子数[Si]の比[C]/[Si]が2以上とされ、更に3以上である場合には特に好ましい耐性を示す。
なお、プラズマCVD反応に使用する材料としては、一定以上の蒸気圧があることが必要であり、上述のシラン化合物が有する炭素数が20以下のものであれば、好ましく適用される。
【0029】
本発明のプラズマCVD法によるSi含有膜形成用有機シラン化合物の具体的態様としては、下記一般式(1)
【化2】

(式中、Xは水素原子又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖状、分岐状又は環状の一価炭化水素基である。また、Y及びZは炭素数2〜6の直鎖状、分岐状又は環状の二価炭化水素基であり、m及びnは0〜2の整数を表す。)
で示される有機シラン化合物を挙げることができる。
【0030】
一般式(1)で表わされる化合物は、酸素原子が2つのアルケニル基に介在されたエーテル化合物に、C−Si結合形成に常用されるハイドロシリレーション法を用いてヒドロシラン類を付加することで容易に得ることができる。
【0031】
好ましく用いることができるエーテル類としては、ジビニルエーテル、アリルビニルエーテル、メタリルビニルエーテル、3−ブテニルビニルエーテル、4−ペンテニルビニルエーテル、5−ヘキセニルビニルエーテル、ジアリルエーテル、アリルメタリルエーテル、3−ブテニルアリルエーテル、4−ペンテニルアリルエーテル、ジメタリルエーテル、3−ブテニルメタリルエーテル、ジ−4−ブテニルエーテルを挙げることができる。
【0032】
また、上記一般式(1)で表される有機シラン化合物において、m及びnが1以上かつRがアルキル基である場合には、ケイ素原子の分極がより小さくなることから、求核攻撃に対するより高い耐性が期待される。
【0033】
ここで用いられるRの好ましい具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等のアルキル基等を挙げることができ、プロピル基以下は直鎖だけではなく、分岐を持つ異性体でもよいが、ケイ素と直接結合する部分は(−CH2−)の構造であることが好ましい。
【0034】
一般式(1)で示されるシラン化合物の好ましい具体例としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリブトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルジプロポキシシラン、メチルジブトキシシラン、エチルジメトキシシラン、エチルジエトキシシラン、エチルジプロポキシシラン、エチルジブトキシシラン、プロピルジメトキシシラン、プロピルジエトキシシラン、プロピルジプロポキシシラン、プロピルジブトキシシラン、i−プロピルジメトキシシラン、i−プロピルジエトキシシラン、i−プロピルジプロポキシシラン、i−プロピルジブトキシシラン、ブチルジメトキシシラン、ブチルジエトキシシラン、ブチルジプロポキシシラン、ブチルジブトキシシラン、i−ブチルジメトキシシラン、i−ブチルジエトキシシラン、i−ブチルジプロポキシシラン、i−ブチルジブトキシシラン、s−ブチルジメトキシシラン、s−ブチルジエトキシシラン、s−ブチルジプロポキシシラン、s−ブチルジブトキシシラン、フェニルジメトキシシラン、フェニルジエトキシシラン、フェニルジプロポキシシラン、フェニルジブトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルプロポキシシラン、ジメチルブトキシシラン、メチルエチルメトキシシラン、メチルエチルエトキシシラン、メチルエチルプロポキシシラン、メチルエチルブトキシシラン、ジエチルメトキシシラン、ジエチルエトキシシラン、ジエチルプロポキシシラン、ジエチルブトキシシラン、メチルプロピルメトキシシラン、メチルプロピルエトキシシラン、メチルプロピルプロポキシシラン、メチルプロピルブトキシシラン、ジプロピルメトキシシラン、ジプロピルエトキシシラン、ジプロピルプロポキシシラン、ジプロピルブトキシシランを挙げることができる。
【0035】
本発明においては、上述のシラン化合物を原料として、CVD反応装置内にガスとして導入し、CVD法、特にプラズマ励起化学気相成長法によりSi含有膜を形成する。この際、有機基がよく保存され、反応性基であるアルコキシ基あるいは水素原子のみが活性化されるように、やや低めのエネルギー領域を選択することが好ましい。300mmウエハを用いた平行平板型のプラズマCVD装置を用いた場合の電極間へ印加する高周波電力、即ち、RF Power(プラズマ励起電力)は、300W以下、好ましくは200W以下、より好ましくは100W以下で行われることが好ましい。これは、低エネルギーでの反応ほど、原料に含まれるそれぞれの結合強度の違いを反映し易く、反応性基に対する選択性を高めるためと考えられる。なお、その下限は通常20W以上、特に50W以上である。
【0036】
その他の条件については、よく知られている一般のCVD法を用いることができ、例えば上述のシラン化合物の気化方法は、例えば、減圧による方法、キャリアガスでバブリング送気する方法や気化装置を用いる方法等が知られており、それらから選択、あるいは組み合わせて行うことができる。シラン化合物のフィード量を制御するために、液体マスフローなどにより一定流量で気化装置に送液し、気化装置で気化する方法が好ましい。
【0037】
また、反応装置内の圧力及び温度や被成膜基板の温度は、原料や原料ガスの組成等に応じて適宜選択されるが、通常減圧下、特に0.01〜1,000Paの範囲であることが好ましく、被成膜基板は−50〜500℃で成膜することが好ましい。成膜時間は、上記反応条件や目標膜厚に応じて適宜選択されるが、20〜2,000秒であることが好ましく、厚さ50〜2,000nm、特に100〜300nmのSi含有膜(絶縁膜)を形成することが好ましい。
【0038】
プラズマ源は、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴プラズマ、誘導結合プラズマ、ヘリコン波プラズマ等のプラズマ源が知られているが、いずれを用いてもよい。
【0039】
Si含有膜を形成する際、上述のシラン化合物を気化させて生成したガスを、CVD反応装置内に導入するが、この際、該ガス以外のガスを併せて導入してもよい。導入するガスとしては、例えば、モノシラン、ジシラン等の水素化シラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン等のアルコキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン等の直鎖状シロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン等の環状シロキサン、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン、トリメチルシラノール等のシラノール、酸素、窒素、アンモニア、アルゴン・ヘリウム等の希ガス、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化窒素、オゾン、亜酸化窒素、モノメチルアミン等のアミン等がある。これらのガスは上述のシラン化合物に対し10〜99質量%含有させることができる。
【0040】
上記の方法で成膜されたSi含有膜は、低誘電率絶縁膜として用いることができる。上述のように本発明のSi含有膜は、多孔質性を持つにも拘らず、バルクとしての疎水性が高く、また膜中のケイ素原子の分極が小さいために求核反応に対して抑制された反応性を有することから、化学的安定性が高く、特にアルカリ性の洗浄液を用いた場合にも物性の変化を起こしにくい材料である。このため、本発明のSi含有膜を絶縁膜として用いることにより、後工程のプロセスダメージの問題に対し、信頼性の高い半導体装置(デバイス)を製造することができる。
【0041】
なお、半導体装置中に用いる膜の成膜に用いる場合、製造される半導体装置の安定した動作を得るためには金属不純物の濃度管理が重要であり、例えばNaは100ppb以下、好ましくは50ppb以下、Caは100ppb以下、好ましくは50ppb以下、Mgは20ppb以下、好ましくは10ppb以下、Mnは20ppb以下、好ましくは10ppb以下、Feは100ppb以下、好ましくは50ppb以下、Cuは20ppb以下、好ましくは10ppb以下、Alは100ppb以下、好ましくは50ppb以下、Crは20ppb以下、好ましくは10ppb以下、Znは20ppb以下、好ましくは10ppb以下に制御される必要がある。更に好ましくは、上記記載の全ての金属に対して1ppb以下である。常用される精製法、例えば蒸留によって、上述の金属不純物は上記量以下に下げることが可能であるが、使用する容器は、脱イオン水による精密な洗浄、あるいはそれと同等の清浄化を行わない場合には、Na、Fe、Alのような不純物について全て上記範囲に入れることは難しい。
【0042】
上記金属不純物の分析法は、電子材料の金属不純物の検査法として常用されるいずれの方法を用いてもよいが、通常、ICP質量分析法(ICP−MS)、ICP発光分光分析法、偏光ゼーマン原子吸光光度計等あるいは同等の感度を持つ方法によって分析可能である。
【実施例】
【0043】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0044】
[合成例1]3,3’−ビス(ジメトキシメチルシリル)プロピルエーテルの合成
アリルエーテル98gに塩化白金酸のブタノール溶液を添加しておき、ジメトキシメチルシラン212gをゆっくり滴下した。発熱反応が起こるので、反応混合物の温度が80℃以下になるように滴下速度を調整した。滴下終了後、清浄環境で乾燥した蒸留装置を用い、減圧蒸留により3,3’−ビス(ジメトキシメチルシリル)プロピルエーテルを得た。
ここで得たサンプルを、ICP−MSを用いて金属不純物を測定したところ、Mg、Mn、Cu、Cr、Znはいずれも10ppb(W/W)以下、Na、Ca、Fe、Alはいずれも50ppb(W/W)以下であった。分析結果は表1に示す。
【0045】
[合成例2]3,3’−ビス(メトキシジメチルシリル)プロピルエーテルの合成
アリルエーテル98gに塩化白金酸のブタノール溶液を添加しておき、ジメチルメトキシシラン180gをゆっくり滴下した。発熱反応が起こるので、反応混合物の温度が80℃以下になるように滴下速度を調整した。滴下終了後、合成例1と同様に清浄環境での減圧蒸留により3,3’−ビス(メトキシジメチルシリル)プロピルエーテルを得た。
ここで得たサンプルを、ICP−MSを用いて金属不純物を測定したところ、Mg、Mn、Cu、Cr、Znはいずれも10ppb(W/W)以下、Na、Ca、Fe、Alはいずれも50ppb(W/W)以下であった。分析結果は表1に示す。
【0046】
[合成例3]3−(ジメトキシメチルシリル)プロピル−2−(ジメトキシメチルシリル)エチルエーテルの合成
アリルビニルエーテル84gに塩化白金酸のブタノール溶液を添加しておき、ジメトキシメチルシラン212gをゆっくり滴下した。発熱反応が起こるので、反応混合物の温度が80℃以下になるように滴下速度を調整した。滴下終了後、合成例1と同様に清浄環境での減圧蒸留により3−(ジメトキシメチルシリル)プロピル−2−(ジメトキシメチルシリル)エチルエーテルを得た。
ここで得たサンプルを、ICP−MSを用いて金属不純物を測定したところ、Mg、Mn、Cu、Cr、Znはいずれも10ppb(W/W)以下、Na、Ca、Fe、Alはいずれも50ppb(W/W)以下であった。分析結果は表1に示す。
【0047】
[比較合成例1]1,2−ビス(ジメトキシメチルシリル)エタンの合成
ビニルメチルジメトキシシラン198gに塩化白金酸のブタノール溶液を添加しておき、ジメトキシメチルシラン159gをゆっくり滴下した。発熱反応が起こるので、反応混合物の温度が80℃以下になるように滴下速度を調整した。滴下終了後、合成例1と同様に清浄環境での減圧蒸留により1,2−ビス(ジメトキシメチルシリル)エタンを得た。
ここで得たサンプルを、ICP−MSを用いて金属不純物を測定したところ、Mg、Mn、Cu、Cr、Znはいずれも10ppb(W/W)以下、Na、Ca、Fe、Alはいずれも50ppb(W/W)以下であった。分析結果は表1に示す。
【0048】
[比較合成例2]1,6−ビス(ジメトキシメチルシリル)ヘキサンの合成
1,5−ヘキサジエン41.1gに塩化白金酸のブタノール溶液を添加しておき、ジメトキシメチルシラン106.2gをゆっくり滴下した。発熱反応が起こるので、反応混合物の温度が80℃以下になるように滴下速度を調整した。滴下終了後、合成例1と同様に清浄環境での減圧蒸留により1,5−ビス(ジメトキシメチルシリル)ヘキサンを得た。
ここで得たサンプルを、ICP−MSを用いて金属不純物を測定したところ、Mg、Mn、Cu、Cr、Znはいずれも10ppb(W/W)以下、Na、Ca、Fe、Alはいずれも50ppb(W/W)以下であった。分析結果は表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例1][3,3’−ビス(ジメトキシメチルシリル)プロピルエーテルのプラズマCVD成膜]
図(1)に示した平行平板容量結合型PECVD装置を用いて、合成例1で合成した3,3’−ビス(ジメトキシメチルシリル)プロピルエーテルをシリコン基板上に成膜した。
成膜条件は、不活性ガスとしてアルゴンガスを10sccmで、供給し、気化させた1,2−ビス(メトキシメチルプロピルシリル)エタンをチャンバー内圧が5〜50Paとなるように供給し続け、基板温度150℃、RF電源電力300W、RF電源周波数13.56MHzの条件で成膜した。
結果は、チャンバー内圧をそれぞれ5Pa、20Pa、50Paとした場合、成膜速度は、5nm/min.、13nm/min.、21nm/min.であった。
【0051】
実施例1〜3及び比較例1,2と共に結果を表2に示す。
実施例1は、比較例2に対し、原料となるシラン化合物が有する炭素数が等しく、等しいプロセス条件、例えば20Paで成膜した場合、得られる膜物性も全く遜色のないものが得られることが確認されたが、エーテルを分子内に入れることで分子量が上がることで沸点が若干上昇する(圧力0.5kPaでの沸点は、合成例1の化合物は145℃、比較合成例2の化合物は130℃)にも拘らず、成膜速度はむしろ向上するという結果が得られ、エーテル構造を導入した効果が確認された。
【0052】
【表2】

【符号の説明】
【0053】
1 装置本体(チャンバー)
2 原料ガス導入管
3 不活性ガス導入管
4 サンプル
5 上部電極
6 下部電極
7 排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p−O−Cq(但し、p、qは炭素数を表わし、2≦p≦6、2≦q≦6であり、各炭素鎖には酸素原子と共役する不飽和結合を含まない)結合を含有する炭素数4〜8の直鎖状又は分岐状の酸素含有炭化水素鎖で結合された2個以上のケイ素原子を含有し、かつ該2個以上のケイ素原子はいずれも1個以上の水素原子又は炭素数1〜4のアルコキシ基を有することを特徴とする、プラズマCVD法によるSi含有膜形成用有機シラン化合物。
【請求項2】
前記シラン化合物は、下記一般式(1)
【化1】

(式中、Xは水素原子又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖状、分岐状又は環状の一価炭化水素基である。また、Y及びZは炭素数2〜6の直鎖状、分岐状又は環状の二価炭化水素基であり、m及びnは0〜2の整数を表す。)
で示される請求項1記載のプラズマCVD法によるSi含有膜形成用有機シラン化合物。
【請求項3】
前記シラン化合物が1分子中に含む炭素原子の数は20以下である請求項1又は2記載のプラズマCVD法によるSi含有膜形成用有機シラン化合物。
【請求項4】
不純物として含有するNa、Fe、Alがいずれもそれぞれ100ppb以下である請求項1乃至3のいずれか1項記載の有機シラン化合物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機シラン化合物を用いることを特徴とするプラズマCVD法によるSi含有膜の成膜方法。
【請求項6】
請求項5記載のSi含有膜の成膜方法を用いて成膜することにより得られた絶縁膜。
【請求項7】
請求項6記載の絶縁膜を有する半導体デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2010−157689(P2010−157689A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260954(P2009−260954)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】