説明

不揮発性半導体記憶装置

【課題】カップリング比の増大と書き込み/消去時のリーク電流の低減とを実現する。
【解決手段】実施形態に係わる不揮発性半導体記憶装置は、半導体層11と、半導体層11上の第1の絶縁層13と、第1の絶縁層13上の電荷蓄積層14と、電荷蓄積層14上の第2の絶縁層15と、第2の絶縁層15上の制御ゲート電極16とを備える。第2の絶縁層15は、電荷蓄積層14側から制御ゲート電極16側に向かって、第1のランタンアルミネート層LAO、ランタンアルミシリケート層LASO及び第2のランタンアルミネート層LAOを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、不揮発性半導体記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電荷蓄積層内の電荷によりデータを記憶するセルトランジスタにおいて、信頼性の向上と消費電力の低下を図るためには、書き込み/消去効率の向上と電源電圧の低下とが必要である。そのためには、カップリング比の増大と書き込み/消去時のリーク電流の低減とを同時に実現しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−134681号公報
【特許文献2】特開2009−54868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、カップリング比の増大と書き込み/消去時のリーク電流の低減とを同時に実現する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、不揮発性半導体記憶装置は、半導体層と、前記半導体層上の第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層上の電荷蓄積層と、前記電荷蓄積層上の第2の絶縁層と、前記第2の絶縁層上の制御ゲート電極とを備え、前記第2の絶縁層は、前記電荷蓄積層側から前記制御ゲート電極側に向かって、第1のランタンアルミネート層、ランタンアルミシリケート層及び第2のランタンアルミネート層を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】セルトランジスタの基本構造を示す図。
【図2】カップリング比CPRを0.6以上とする条件を示す図。
【図3】セルトランジスタのバンド構造を示す図。
【図4】LAOの物理膜厚とリーク電流との関係を示す図。
【図5】LAO単層のリーク電流よりも小さいリーク電流を達成する条件を示す図。
【図6】セルトランジスタの製造方法を示す図。
【図7】セルトランジスタの製造方法を示す図。
【図8】セルトランジスタの製造方法を示す図。
【図9】セルトランジスタの製造方法を示す図。
【図10】セルトランジスタの製造方法を示す図。
【図11】セルトランジスタの製造方法を示す図。
【図12】セルトランジスタの製造方法を示す図。
【図13】セルトランジスタの製造方法を示す図。
【図14】セルトランジスタの製造方法を示す図。
【図15】セルトランジスタの製造方法を示す図。
【図16】セルトランジスタの製造方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら実施形態を説明する。
【0008】
1. 構造
フラッシュメモリなどのセルトランジスタは、半導体層上に、第1の絶縁層、電荷蓄積層、第2の絶縁層及び制御ゲート電極の積層構造を有する。半導体層及び電荷蓄積層間のキャパシタンスをCtnlとし、電荷蓄積層及び制御ゲート電極間のキャパシタンスをCipdとしたとき、カップリング比CPRは、CPR = Cipd/(Ctnl+Cipd)で表される。
【0009】
書き込み/消去効率は、カップリング比CPRによりほぼ決まるため、書き込み/消去効率を向上させるためには、Cipdを大きくしてカップリング比CPRを増大させることが必要である。
【0010】
ここで、第2の絶縁層としては、例えば、SiO2/高誘電率材料/SiO2、SiON/高誘電率材料/SiON、Si3N4/SiO2/高誘電率材料/SiO2/Si3N4、Si3N4/SiON/高誘電率材料/SiON/Si3N4などの3.9〜10の範囲内の誘電率を持つ絶縁層が使用される。
【0011】
しかし、カップリング比CPRの増大と書き込み/消去時のリーク電流の低減とは、トレードオフの関係にある。
【0012】
例えば、上述のような材料を第2の絶縁層として使用した場合、セルトランジスタの微細化により、書き込み/消去時のリーク電流が抑えられる範囲内で、できる限り第2の絶縁層を薄くしたとしても、十分に大きなカップリング比CPRを得ることが難しい。
【0013】
一方、カップリング比CPRの増大は、電荷蓄積層と制御ゲート電極とが対向する面積を増やすことによっても実現できる。例えば、セルトランジスタの電荷蓄積層を高さ方向に延びる三次元構造とし、その上面及び側面を制御ゲート電極で覆えば、電荷蓄積層と制御ゲート電極とが対向する面積を増やし、Cipdを大きくできる。
【0014】
しかし、この技術は、電荷蓄積層の加工に問題を有する。即ち、電荷蓄積層を三次元化することにより、量産マージンが低下し、歩留まりの低下や製造コストの増大などの問題が発生する。
【0015】
そこで、セルトランジスタが微細化されても、カップリング比の増大と書き込み/消去時のリーク電流の低減とを同時に実現する新たな材料(第2の絶縁層の層構造)の開発が望まれる。
【0016】
以下に説明する実施例では、上述の問題を解決するために、第2の絶縁層を、LAO/LASO/LAOの積層構造とする技術を提案する。
【0017】
ここで、LAOとは、ランタンアルミネートのことである。LAOを構成する元素(La, Al, O)の組成比は特に制限されないが、La:Alが2:1〜1:4の範囲であると安定なため望ましく、最も安定な状態(LaAlO3)であるのがより望ましい。また、LAOの誘電率は、その組成比や成膜方法などによって制御可能である。
【0018】
また、LASOとは、ランタンアルミシリケートのことである。LASOを構成する元素(La, Al, Si, O)の組成比は、特に制限されないが、最も安定な状態(LaAlSiO)であるのが望ましい。また、LASOの誘電率も、その組成比や成膜方法などによって制御可能である。
【0019】
この構造により、例えば、第2の絶縁層としてのLAO/LASO/LAOに印加される電界が30MV/cm以上であっても書き込み/消去時のリーク電流を十分に低減できる。これに伴い、第2の絶縁層の絶縁性、トラップ特性及びリテンション特性も改善される。同時に、セルトランジスタが微細化されてもカップリング比の増大を図ることができる。
【0020】
図1は、セルトランジスタの基本構造を示している。
【0021】
半導体層(例えば、半導体基板)11は、例えば、シリコンである。ソース/ドレイン領域12は、半導体層11の表面領域に配置される。但し、ソース/ドレイン領域12は、省略可能である。なぜなら、例えば、NANDフラッシュメモリのセルトランジスタなどのように、直列接続される複数のセルトランジスタ間の距離が狭くなると、いわゆるフリンジ効果により、ソース/ドレイン領域12がなくても、複数のセルトランジスタを貫通する伝導経路を発生させることができるからである。
【0022】
第1の絶縁層(トンネル絶縁層)13は、半導体層11上に配置される。電荷蓄積層14は、第1の絶縁層13上に配置される。電荷蓄積層14は、例えば、電気的にフローティング状態の浮遊ゲート電極(導電層)である。また、電荷蓄積層14は、局所的に電荷をトラップするトラップ層(絶縁層)であってもよい。
【0023】
第2の絶縁層15は、電荷蓄積層14上に配置される。また、制御ゲート電極16は、第2の絶縁層15上に配置される。
【0024】
第2の絶縁層15は、3層構造(LAO/LASO/LAO)を有する。但し、電荷蓄積層14と最下層のLAOとの間に界面層が存在していてもよいし、同様に、電荷蓄積層14と最上層のLAOとの間に界面層が存在していてもよい。
【0025】
次に、上述の基本構造を採用した場合において、カップリング比及びリーク電流が具体的にどのようになるかについてシミュレーションする。
【0026】
セルトランジスタのサイズは、近年のメモリ容量の増大の要求により益々小さくなっているが、世代を問わずに、カップリング比CPRを0.6以上とすることにより、セルトランジスタの書き込み/消去効率を十分に満足した値にすることができる。
【0027】
そこで、以下のシミュレーションでは、カップリング比CPRを0.6以上にすることを前提とし、そのときに、リーク電流をできるだけ小さくするためのさらなる条件について提示する。
【0028】
図2は、図1の第1及び第2の絶縁層の酸化膜換算膜厚(Equivalent oxide thickness: EOT)とカップリング比との関係を示している。
【0029】
ここで、セルトランジスタは、図1に示す構造を有し、半導体層11及び電荷蓄積層14が対向する面積と、電荷蓄積層14及び制御ゲート電極16が対向する面積とは、ほぼ等しいものとする(いわゆるフラットセル構造又はそれに近い構造)。
【0030】
この場合、図2に示すように、カップリング比CPRが0.6となるラインは、第1の絶縁層の酸化膜換算膜厚Ttnl [nm]と第2の絶縁層の酸化膜換算膜厚Tipd [nm]の一次関数(Ttnl = 1.5×Tipd)で表すことができる。
【0031】
従って、第1の絶縁層の酸化膜換算膜厚がTtnlのとき、第2の絶縁層の酸化膜換算膜厚Tipd以下とすることにより、0.6以上のカップリング比CPRを実現できる。但し、Tipd = (4/6)×Ttnlである。
【0032】
例えば、第1の絶縁層(トンネル絶縁層)13として、6 nmのシリコン酸化膜(酸化膜換算膜厚6 nm)を用いる必要があるとき、第2の絶縁層(LAO/LASO/LAO)15の酸化膜換算膜厚を4 nm以下とすることにより、0.6以上のカップリング比CPRを実現できる。
【0033】
ここで、第1の絶縁層13のリーク特性について検討する。
【0034】
第1の絶縁層13がシリコン酸化膜のとき、第1の絶縁層13のリーク特性を十分に良好な値にするためには、その物理膜厚(physical thickness)を6 nm以上にすることが必要である。これは、第1の絶縁層13の酸化膜換算膜厚を6 nm未満にすると、第1の絶縁層13のリーク特性が劣化し、電荷蓄積層14の電荷保持特性が悪化するからである。
【0035】
従って、例えば、第1の絶縁層13の酸化膜換算膜厚が6 nm以上であること、及び、カップリング比CPRが0.6以上であること、を同時に満たすためには、第2の絶縁層(LAO/LASO/LAO)15の酸化膜換算膜厚を常に4 nm以下とすれば良い。
【0036】
尚、第1の絶縁層13の酸化膜換算膜厚は、7.5 nm以下であるのが望ましい。これは、電荷蓄積層14内に電荷を注入するときのプログラム電位Vpgmを低くするためである。
【0037】
例えば、第1の絶縁層(シリコン酸化膜)13の酸化膜換算膜厚を7.5 nm、セルトランジスタのカップリング比CPRを0.6としたとき、第1の絶縁層13に10 MV/cmを印加するためには、制御ゲート電極16に12.5 V (=7.5 [nm]×10 [MV/cm] / 0.6 )を印加する必要がある。しかし、これは、電荷蓄積層14に電荷が蓄積されていない状態(例えば、消去状態)を前提としたものである。
【0038】
仮に、セルトランジスタの中性閾値(消去状態の閾値と書き込み状態の閾値の中間閾値のこと)を-2 Vとし、電荷蓄積層14の電位が2 Vである場合を考えると、上記と同じ条件で、第1の絶縁層13に10 MV/cmを印加するためには、制御ゲート電極16に19.1 V (= (7.5 [nm]×10 [MV/cm])+4 [V] / 0.6 )を印加する必要がある。
【0039】
即ち、第1の絶縁層13の酸化膜換算膜厚が7.5 nmのとき、プログラム電位Vpgmは、19.1 V以上にしなければならない。
【0040】
一方、書き込みの対象とならない非選択セルのディスターブについて考える。
【0041】
隣接する2つのセルトランジスタの制御ゲート電極間(2本のワード線間)の絶縁層の耐圧は、8 MV/cm程度である。このため、2本のワード線の間隔(ハーフピッチ)が10 nm程度のときに、それらの間の電位差を8 V以下に抑えるためには、非選択セルの制御ゲート電極(非選択ワード線)に11.1 V以上の転送電位Vpassを印加する必要がある。この時、非選択セルの第1の絶縁層13に印加される電界は、8.8 MV/cm以上となる。
【0042】
この場合、1ページデータを書き込むために必要な時間を1 msecとし、第1の絶縁層13に8.8 MV/cmの電界が印加されるときのトンネル電流(リーク)を1×10-5 A/cm2とし、1ブロック内のワード線の数を133本とし、電荷蓄積層14の平面サイズを10 nm×10 nmとすると、非選択セルに書き込まれる電荷の数は、1×10-5 [A/cm2]×100 [nm2]×1[msec]/q×133 = 8個以上となる。
【0043】
また、1個の電荷により変化する閾値幅を100 mVとすれば、非選択セルにおいては、8個の電荷により0.8 V程度のプログラムディスターブが発生することになる。このディスターブの許容範囲は、2値/多値や、各値間のマージンなどにより変わるが、2値メモリの場合、一般的には、0.8V程度以下に抑えるのが望ましい。
【0044】
従って、非選択セルのディスターブを0.8 V以下に抑えるために、第1の絶縁層13の酸化膜換算膜厚を7.5 nm以下とし、プログラム電位を低くすることは、セルトランジスタの安定動作にとって非常に有効である。
【0045】
次に、第2の絶縁層15のリーク特性について検討する。
【0046】
第2の絶縁層15は、3層構造(LAO/LASO/LAO)を有し、その酸化膜換算膜厚は、上述したように、カップリング比CPRを0.6以上とするために、4 nm以下とするのが望ましい。そこで、以下では、第2の絶縁層15の酸化膜換算膜厚を4 nmとしたときに、各層の物理膜厚(physical thickness)と第2の絶縁層15のリーク特性との関係がどのようになるか、について説明する。
【0047】
表1は、サンプル(セルトランジスタ)No. 1〜No. 11を表している。
【表1】

【0048】
サンプルNo. 1〜No. 11において、第2の絶縁層(LAO/LASO/LAO)15の酸化膜換算膜厚は、4 nmである。また、LAO及びLASOの誘電率は、組成比などにより制御可能であるが、ここでは、LAOの誘電率を19とし、LASOの誘電率を12と仮定する。
【0049】
また、サンプルNo. 1〜No. 11のエネルギーバンドは、図3に示すように設定されるものとする。例えば、半導体層(アクティブエリア)AAは、p型シリコン(p-Si)であり、第1の絶縁層(トンネル絶縁層)TNLは、シリコン酸化膜(SiO2)であり、電荷蓄積層FGは、p型シリコン(p-Si)であり、制御ゲート電極CGは、金属である。LAOと電荷蓄積層FGとのエネルギーギャップは、1.95 eVであるものとする。
【0050】
表1は、上記条件下での3層構造(LAO/LASO/LAO)の各層の物理膜厚を表している。
【0051】
図4は、第2の絶縁層に印加される電界が30 MV/cmのときのリーク電流特性をサンプルNo. 1〜No. 11について示している。
【0052】
これによれば、LAOの物理膜厚が2 nm〜7 nmの範囲内において、第2の絶縁層のリーク電流は、LASO単層(サンプルNo. 1)及びLAO単層(サンプルNo. 11)で発生するリーク電流よりも小さくなる。即ち、第2の絶縁層を3層構造(LAO/LASO/LAO)とすることにより、カップリング比の増大と書き込み/消去時のリーク電流の低減とを同時に実現できる。
【0053】
また、LAOの物理膜厚が4 nm(サンプルNo.5)のとき、リーク電流は最小となり、その値は、LAO単層(サンプルNo. 11)で発生するリーク電流の値よりも1桁以上小さい。
【0054】
従って、例えば、LAOの物理膜厚を4 nmあるいは3〜5nmの範囲に設定してセルトランジスタを形成すれば、書き込み/消去時のリーク電流を最小値にできると共に、製造ばらつきが発生しても、十分なマージンにより、リーク電流がLAO単層の場合よりも大きくなることがない。
【0055】
尚、リーク電流の低減という効果が得られるLAOの物理膜厚の下限は、2 nm(サンプルNo. 3)である。この場合、LASOの物理膜厚は、9.8 nmであり、第2の絶縁層の物理膜厚としては、13.8 nmとなる。
【0056】
また、リーク電流の低減という効果が得られるLAOの物理膜厚の上限は、7 nm(サンプルNo. 8)である。この場合、LASOの物理膜厚は、3.5 nmであり、第2の絶縁層の物理膜厚としては、17.5 nmとなる。
【0057】
従って、LAOの物理膜厚の範囲(2 nm〜7 nm)に対応した第2の絶縁層の物理膜厚の範囲は、13.8 nm以上、17. 5 nm以下となる。
【0058】
この効果は、電荷蓄積層内の電荷が制御ゲート電極にリークしようとするときのポテンシャルバリアがLAOとLASOの2層となることに起因する。
【0059】
LAOの物理膜厚が大きくなるに従い、LAOに印加される電界が小さくなり、LAOの物理膜厚が2 nmになると、LAO単層のリーク電流よりも小さくなる。また、LAOの物理膜厚が4 nmのときにリーク電流が最小値となり、LAOの物理膜厚が4 nmを超えると、再び、リーク電流の値が増加する。そして、LAOの物理膜厚が7 nmを超えると、電荷蓄積層内の電荷が感じるポテンシャルバリアがLAOのみとなり、LAO単層のリーク電流と同じになる。
【0060】
以上より、第2の絶縁層15の酸化膜換算膜厚が4 nm又はそれよりも小さいとき、さらに、LAOの物理膜厚を2 nm〜7 nmの範囲内の値に設定すれば、書き込み/消去時に第2の絶縁層に発生するリーク電流を、LASO単層及びLAO単層のリーク電流よりも小さくすることができる。
【0061】
ところで、文献等においては、LAOの電子障壁は、2.4 eV、誘電率は25と報告されている。そこで、LAOの誘電率を19〜25の範囲内で変化させた場合、及び、電荷蓄積層の仕事関数を4.05〜5.05 eVの範囲内で変化させた場合のそれぞれにおいて検証した結果、上述と同様の結果を得ることができた。
【0062】
但し、LAOの誘電率を19未満にしたときは、第2の絶縁層の絶縁性が顕著に低下したため、LAOの誘電率は、19以上に設定するのが望ましい。
【0063】
次に、LAOの物理膜厚が7 nmを超える範囲内において、書き込み/消去時のリーク電流を低減する技術について説明する。
【0064】
既に説明したように、図4によれば、第2の絶縁層15の酸化膜換算膜厚が4 nm又はそれよりも小さいとき、LAOの物理膜厚が7 nmを超えると、第2の絶縁層のリーク電流がLAO単層のリーク電流とほぼ同じになる。
【0065】
これは、既に述べたように、LAOの物理膜厚が7 nmを超えると、電荷蓄積層内の電荷が感じるポテンシャルバリアがLAOのみとなるからである。
【0066】
そこで、このような場合においては、LAOの誘電率及び電荷蓄積層の仕事関数を制御することにより、第2の絶縁層のリーク電流をLAO単層のリーク電流よりも小さくする。
【0067】
まず、図4において、30 MV/cmの電界を印加したときのLAO単層(サンプルNo. 11)のリーク電流は、0.01 A/cm2である。そこで、表1のサンプルNo. 9及びNo. 10について、LAOの誘電率と電荷蓄積層の仕事関数とを変化させ、リーク電流が0.01 A/cm2となるライン(境界値)を検証する。
【0068】
このラインは、電荷蓄積層の仕事関数をxとし、LAOの誘電率をyで表すと、図5に示すように、
y = -13x + 84.25 …(1)
となる。
【0069】
そして、30 MV/cmの電界を印加したときの第2の絶縁層のリーク電流は、y > -13x + 84.25の範囲内において0.01 A/cm2よりも小さくなり、y < -13x + 84.25の範囲内において0.01 A/cm2よりも大きくなる。
【0070】
従って、LAOの物理膜厚が7 nmを超える範囲内においては、電荷蓄積層の仕事関数x及びLAOの誘電率yの関係を、y > -13x + 84.25として、書き込み/消去時のリーク電流を低減するのが望ましい。
【0071】
尚、図5によれば、電荷蓄積層の仕事関数xが大きいほど、0.01 A/cm2よりも小さいリーク電流を達成するLAOの誘電率yの範囲が広くなる。このため、電荷蓄積層としては、大きな仕事関数を持つ材料から構成するのが望ましい。
【0072】
例えば、電荷蓄積層の仕事関数xを5.05 eV以上にしたとき、LAOの誘電率を19以上にすることにより、リーク電流の削減という効果を得ることができる。また、電荷蓄積層の仕事関数xを4.45 eV以上にしたとき、LAOの誘電率を26.4以上にすることにより、リーク電流の削減という効果を得ることができる。電荷蓄積層の仕事関数xが5.05 eV以上となる材料としては、Pt,TaN,Hf,MoN,Ni,Pd,Auなどが挙げられる。電荷蓄積層の仕事関数xが4.45 eV以上となる材料としては、Pt,TaN,Hf,MoN,Ni,Pd,Au,Wn,Re,W,NiSi,TiNCu,WNなどが挙げられる。
【0073】
上述の説明において、第1の絶縁層は、主として、シリコン酸化膜が用いられるが、これに限られることはない。例えば、第1の絶縁層は、窒素がドープされたシリコン酸化膜でもよいし、シリコン膜とシリコン酸化膜との積層でもよい。但し、上述したように、第1の絶縁層の酸化膜換算膜厚は、6 nm〜7.5 nmの範囲内にあるのが望ましい。
【0074】
また、電荷蓄積層の最大書き込み閾値をVthmaxとし、仕事関数をyとしたとき、第1の絶縁層(トンネル絶縁層)内において、伝導体から3.2 eV(シリコン酸化膜の電子障壁) + y - 4.05 eV - CPR・Vthmaxの範囲内に連続的な準位が存在していてもよい。
【0075】
これは、電荷を電荷蓄積層から半導体層(チャネル)に移動させるときのアシスト準位となる。例えば、電荷蓄積層から換算した最大書き込み閾値を4 Vとし、カップリング比CPRを0.6とし、仕事関数を4.05 eVとしたとき、電荷蓄積層の電位は、2.4 Vとなる。ここで、第1の絶縁層の伝導帯端から0.8 V以内の位置に連続的な準位があれば、電荷蓄積層の伝導帯端から見たチャネル側の界面準位レベルは、3.2 - 2.4 = 0.8 eVとなる。
【0076】
即ち、このレベルは、電荷蓄積層の伝導帯と同じエネルギーレベルであるため、第1の絶縁層での電荷のトンネル確率が上昇し、電荷保持特性が劣化する。従って、電荷蓄積層の伝導帯端から見たチャネル側の界面準位レベルは、0.8 eV以下とするのが望ましい。また、電荷蓄積層の仕事関数が5.05 eVのときは、このレベルは、3.2 + 5.05 - 4.05 - 0.6×4 = 1.8 eV以下とすればよい。
【0077】
なお、第1の絶縁層(トンネル絶縁層)内の準位は、Ge,N,C,Si等の不純物を添加することで形成できる。
【0078】
2. 製造方法
図1のセルトランジスタの製造方法を説明する。
【0079】
ここでは、半導体層(チャネル)及び電荷蓄積層が対向する面積と、電荷蓄積層及び制御ゲート電極16が対向する面積とがほぼ等しい、いわゆるフラットセル構造のメモリセルアレイを例とする。
【0080】
図6乃至図16は、フラットセル構造のセルトランジスタの製造方法を示している。
【0081】
これらの図において、x方向及びy方向は、半導体層(例えば、半導体基板)11の表面に平行であり、かつ、互いに直交する。また、x方向は、制御ゲート電極(ワード線)16a,16b,16cが延びる方向であり、かつ、セルトランジスタ(FET: Field Effect Transistor)のチャネル幅に平行な方向である。y方向は、セルトランジスタのチャネル長に平行な方向である。
【0082】
まず、図6に示すように、不純物がドーピングされた半導体層11を希フッ酸処理し、半導体層11の表面を水素により終端化する。また、半導体層11と未反応、又は、半導体層11をエッチングすることがないガス(例えば、窒素ガス)が満たされたチャンバー内において、温度を700℃程度に設定することにより、半導体層11の表面から水素を完全に脱離させる。
【0083】
次に、図7に示すように、熱酸化法により、半導体層11上に、6 nm〜7.5 nmの酸化膜換算膜厚を有する第1の絶縁層(例えば、シリコン酸化膜)13を形成する。続けて、図8に示すように、CVD(Chemical Vapor Deposition)により、第1の絶縁層13上に電荷蓄積層14及びハードマスク層21を形成する。電荷蓄積層14は、例えば、5 nm〜10 nmの物理膜厚を有するボロンドープトポリシリコンである。
【0084】
次に、図9に示すように、PEP(Photo Engraving Process)により、ハードマスク層21をパターニングした後、ハードマスク層21をマスクにして、RIE(Reactive Ion Etching)により、電荷蓄積層14、第1の絶縁層13及び半導体層11をエッチングする。その結果、素子分離トレンチTが形成される。
【0085】
次に、図10に示すように、CVD法により、素子分離トレンチTを完全に満たす素子分離絶縁層(例えば、シリコン酸化膜)22を形成する。また、CMP(Chemical Mechanical Polishing)より、図9のハードマスク層21が露出するまで、素子分離絶縁層22を研磨すると、素子分離絶縁層22は、素子分離トレンチT内に残存する。
【0086】
この後、図9のハードマスク層21を選択的に除去する。また、希フッ酸溶液を用いて素子分離絶縁層22をエッチバックし、電荷蓄積層14の側面の一部(上面側の側面)を露出させる。この時、電荷蓄積層14の上面側の角部(図10のx方向の断面を参照)Eもエッチバックされるため、その角部Eは、テーパ状又はラウンド状に変化する。
【0087】
次に、図11に示すように、ALD(Atomic Layer Deposition)により、電荷蓄積層14上に、電極間絶縁層(Inter-electrode insulating layer)としての第2の絶縁層15を形成する。本例では、第2の絶縁層15は、約4 nmの物理膜厚を持つLaAlO3層15a、約7.3 nmの物理膜厚を持つLaAlSiO層15b、及び、約4 nmの物理膜厚を持つLaAlO3層15cを備える。
【0088】
次に、図12に示すように、CVDにより、第2の絶縁層15上に、約100 nmの物理膜厚を持つ制御ゲート電極16を形成する。本例では、制御ゲート電極16は、ボロンドープトポリシリコン層16a、タングステンナイトライド層16b、及び、タングステン層16cを備える。
【0089】
また、PEP及びRIEにより、制御ゲート電極16、第2の絶縁層15、及び、電荷蓄積層14をパターニングすることにより、セルトランジスタが完成する。
【0090】
次に、図13に示すように、セルトランジスタの制御ゲート電極16をマスクにして、イオン注入を用いて、半導体層11内に不純物を注入することにより、ソース/ドレイン領域12を形成する。但し、ソース/ドレイン領域12の形成は、省略してもよい。セルトランジスタが微細化されると、フリンジ効果により、ソース/ドレイン領域12が存在しなくても、セルトランジスタに伝導経路を発生させることができるからである。
【0091】
最後に、電荷蓄積層14、第2の絶縁層15及び制御ゲート電極16を覆う保護層(例えば、シリコン窒化膜)17を形成した後、CVDにより、セルトランジスタを覆う層間絶縁層(例えば、シリコン酸化膜)18を形成する。
【0092】
尚、上述の製造方法において、電荷蓄積層14の上面は、完全にフラットであってもよい。例えば、電荷蓄積層14の上面を素子分離絶縁層22の上面と同じ又はほぼ同じにすれば、半導体層11及び電荷蓄積層14が対向する面積と、電荷蓄積層14及び制御ゲート電極16が対向する面積とがほぼ等しい完全フラットセル構造を実現できる。
【0093】
また、本実施例は、既に述べたように、フラットセル構造又はそれに近い構造を前提とする。この場合、電荷蓄積層14の幅Wと高さHとの比(アスペクト比H/W)は、2以下であるのが望ましい(図13参照)。但し、電荷蓄積層14の幅Wは、x方向の幅及びy方向の幅のうち狭いほうの幅を意味するものとする。
【0094】
図14は、上述の製造方法の第1の変形例を示している。
【0095】
この変形例の特徴は、電荷蓄積層14と第2の絶縁層15との間に第1の界面層19aが形成され、かつ、第2の絶縁層15と制御ゲート電極16との間に第2の界面層19bが形成される点にある。
【0096】
第1の界面層19aは、例えば、LaAlO3層15aが、電荷蓄積層14中又は素子分離絶縁層22中の元素と反応することによりできる層である。電荷蓄積層14中又は素子分離絶縁層22がSiを有しているとき、第1の界面層19aは、例えば、LaAlSiO層である。
【0097】
また、第2の界面層19bは、例えば、LaAlO3層15cが、制御ゲート電極16の最下層16a中の元素と反応することによりできる層である。最下層16aがSiを有しているとき、第2の界面層19bは、例えば、LaAlSiO層である。
【0098】
図15及び図16は、上述の製造方法の第2の変形例を示している。
【0099】
この変形例の特徴は、素子分離領域の一部をエアーギャップ(キャビティ)20にする点にある。
【0100】
まず、図15に示すように、PEP及びRIEにより、制御ゲート電極16、第2の絶縁層15、及び、電荷蓄積層14をパターニングし、セルトランジスタを完成させるまでの工程を、上述の製造方法と同じ方法により実行する(図6乃至図12参照)。
【0101】
この後、制御ゲート電極16のy方向の側面側のスペースから薬液を素子分離絶縁層22上に供給し、素子分離絶縁層22を選択的にエッチングする。その結果、主に、半導体層11の上面よりも上にある素子分離絶縁層22が除去され、2つの電荷蓄積層14間にエアーギャップ(キャビティ)20が形成される。
【0102】
ここで、素子分離絶縁層22は、全て除去することも可能であるが、少なくとも2つの電荷蓄積層14間にエアーギャップ20を形成すれば、セルトランジスタに生じる寄生容量の低減によるカップリング比CPRの向上に貢献できる。
【0103】
次に、図16に示すように、セルトランジスタの制御ゲート電極16をマスクにして、イオン注入を用いて、半導体層11内に不純物を注入することにより、ソース/ドレイン領域12を形成する。但し、既に述べたように、ソース/ドレイン領域12の形成は、省略してもよい。
【0104】
最後に、電荷蓄積層14、第2の絶縁層15及び制御ゲート電極16を覆う保護層(例えば、シリコン窒化膜)17を形成した後、CVDにより、セルトランジスタを覆う層間絶縁層(例えば、シリコン酸化膜)18を形成する。
【0105】
3. 適用例
図1のセルトランジスタは、フラッシュメモリなどの不揮発性半導体記憶装置のメモリセルに適用可能である。例えば、2値/多値NANDフラッシュメモリや、三次元構造のNANDフラッシュメモリなどのメモリセルに本実施例を適用できる。
【0106】
二次元構造のNANDフラッシュメモリでは、メモリセルは、半導体基板(例えば、シリコン基板)上に形成されるが、三次元構造のNANDフラッシュメモリでは、メモリセルは、半導体基板上の半導体層(例えば、シリコンピラー、シリコンフィンなど)上に形成される。尚、半導体層と言ったときは、半導体基板上の半導体層の他、半導体基板も含むものとする。
【0107】
また、1つのメモリセルに記憶させるデータ数を増加させる多値化が進むにつれて、各データ(閾値)間のマージンが小さくなる。このため、書き込み/消去時のリーク電流を抑えて、高精度に閾値を制御することが重要になる。上述の実施例によれば、カップリング比の増大と書き込み/消去時のリーク電流の低減とを同時に実現するため、本実施例は、特に、多値化された不揮発性半導体記憶装置に有効である。
【0108】
4. むすび
実施形態によれば、カップリング比の増大と書き込み/消去時のリーク電流の低減とを同時に実現することができる。
【0109】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0110】
11: 半導体層、 12: ソース/ドレイン領域、 13: 第1の絶縁層(トンネル絶縁層)、 14: 電荷蓄積層、 15: 第2の絶縁層、 16: 制御ゲート電極、 17: 保護層、 18: 層間絶縁層、 20: エアーギャップ、 21: ハードマスク層、 22: 素子分離絶縁層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層と、前記半導体層上の第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層上の電荷蓄積層と、前記電荷蓄積層上の第2の絶縁層と、前記第2の絶縁層上の制御ゲート電極とを具備し、前記第2の絶縁層は、前記電荷蓄積層側から前記制御ゲート電極側に向かって、第1のランタンアルミネート層、ランタンアルミシリケート層及び第2のランタンアルミネート層を備える不揮発性半導体記憶装置。
【請求項2】
前記第1の絶縁層は、6 nm以上の酸化膜換算膜厚を有し、前記第2の絶縁層は、4 nm以下の酸化膜換算膜厚を有する請求項1に記載の不揮発性半導体記憶装置。
【請求項3】
前記第1及び第2のランタンアルミネートの各々は、2 nm以上、7 nm以下の物理膜厚を有する請求項2に記載の不揮発性半導体記憶装置。
【請求項4】
前記第1及び第2のランタンアルミネートの各々は、7 nmを越える物理膜厚を有し、
前記電荷蓄積層の仕事関数をxとし、前記第1及び第2のランタンアルミネートの誘電率をyとしたとき、y > -13x + 84.25を満たす
請求項2に記載の不揮発性半導体記憶装置。
【請求項5】
前記第1の絶縁層は、7.5 nm以下の酸化膜換算膜厚を有する請求項2に記載の不揮発性半導体記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−55131(P2013−55131A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190781(P2011−190781)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】