説明

内燃機関の制御システム

【課題】本発明は、同一経路上で内燃機関とEGRクーラと通って冷却熱媒体が循環する構成において、ノッキングの発生を抑制することを目的とする。
【解決手段】本発明は、内燃機関とEGRクーラとを通って冷却熱媒体が循環する循環通路を備えている。そして、循環通路を循環する冷却熱媒体の量が所定量以下のとき又は循環通路における冷却熱媒体の循環が停止されたときは(S102)、内燃機関の吸気系に導入されるEGRガスの量を減少させる又は該EGRガスの供給を停止させる(S108)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に係る技術として、排気の一部を吸気系に導入するEGR装置が知られている。また、近年では、内燃機関の吸気系への排気(EGRガス)の導入を内燃機関における冷却水温がより低い領域においても実行することで燃費向上を図る技術が開発されている。
【0003】
一方、内燃機関とラジエータとの間で冷却水を循環させる電動ポンプを備えたシステムにおいて、冷却水の温度が所定値以下の場合は電動ポンプを停止させることで、内燃機関の暖機性を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−161748号公報
【特許文献2】特開2006−207495号公報
【特許文献3】特開2007−263034号公報
【特許文献4】特開2007−56754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関を冷却するための冷却熱媒体が循環する通路に、EGRガスを冷却するためのEGRクーラが設けられる場合がある。このとき、冷却熱媒体の循環が停止された場合又はその循環量が非常に少ない場合は、EGRクーラにおいてEGRガスが冷却され難くなる。そのため、高温のEGRガスが内燃機関に供給されることになる。その結果、気筒内の温度が上昇するためにノッキングが生じる虞がある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、同一経路上で内燃機関とEGRクーラと通って冷却熱媒体が循環する構成において、ノッキングの発生を抑制することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内燃機関とEGRクーラとを通って冷却熱媒体が循環する循環通路を備えている。そして、循環通路を循環する冷却熱媒体の量が所定量以下のとき又は循環通路における冷却熱媒体の循環が停止されたときは、内燃機関の吸気系に導入されるEGRガスの量を減少させる又は該EGRガスの供給を停止させる。
【0007】
より詳しくは、本発明に係る内燃機関の制御システムは、
内燃機関の排気系に一端が接続されており、該内燃機関の吸気系に他端が接続されているEGR通路と、
前記EGR通路を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラと、
前記EGR通路を通って前記内燃機関の吸気系に導入されるEGRガスの量を制御するEGRガス量制御手段と、
前記内燃機関と前記EGRクーラとを通って冷却熱媒体が循環する循環通路と、を備え、
前記循環通路を循環する冷却熱媒体の量が所定量以下のとき又は前記循環通路における冷却熱媒体の循環が停止されたときは、前記EGRガス量制御手段によってEGRガスの量を減少させる又はEGRガスの供給を停止させることを特徴とする。
【0008】
内燃機関に供給されるEGRガスの量が減少すれば、又は、内燃機関へのEGRガスの供給が停止すれば、内燃機関の気筒内の温度上昇が抑制される。従って、本発明によれば、ノッキングの発生を抑制することができる。
【0009】
本発明を、内燃機関とモータとを駆動源として有するハイブリッドシステムに適用してもよい。この場合、循環通路を循環する冷却熱媒体の量が所定量以下のとき又は循環通路における冷却熱媒体の循環が停止されたときは、ハイブリッドシステムにおいて駆動源としてモータを優先的に使用してもよい。
【0010】
これによれば、内燃機関の機関負荷を低減することが出来る。また、モータの出力のみで要求出力を満たすことが出来れば、内燃機関を運転する必要がなくなる。従って、より高い確率でノッキングの発生を抑制することが出来る。
【0011】
本発明においては、EGRガス量制御手段によってEGRガスの量を減少させるときの減少量を、内燃機関における冷却熱媒体の温度や内燃機関に使用されている燃料の性状に基づいて決定してもよい。
【0012】
内燃機関における冷却熱媒体の温度に基づいてEGRガスの減少量を決定する場合は、該冷却熱媒体の温度が低いほど、その量を少なくする。また、燃料の性状としては、オクタン価や気化潜熱を例示することが出来る。オクタン価や気化潜熱に基づいてEGRガスの減少量を決定する場合は、オクタン価が高いほど及び/又は気化潜熱が大きいほど、その量を少なくする。
【0013】
上記によれば、EGRガスの量をより好適に制御することが出来る。
【0014】
本発明においては、複数の燃料を別々に貯留する燃料貯留手段と、複数の燃料の中から内燃機関に供給する燃料を選択する燃料選択手段をさらに備えてもよい。この場合、循環通路を循環する冷却熱媒体の量が所定量以下のとき又は循環通路における冷却熱媒体の循環が停止されたときは、オクタン価がより高い又は気化潜熱がより大きい燃料が内燃機関に供給する燃料として選択される。
【0015】
これにより、より高い確率でノッキングの発生を抑制することが出来る。
【0016】
本発明においては、内燃機関の圧縮比を制御する圧縮比制御手段をさらに備えてもよい。この場合、循環通路を循環する冷却熱媒体の量が所定量以下のとき又は循環通路における冷却熱媒体の循環が停止されたときは、内燃機関の圧縮比を低下させる。
【0017】
これによっても、より高い確率でノッキングの発生を抑制することが出来る。
【0018】
尚、圧縮比の制御は、燃焼室の容積を変更することで行ってもよく、また、バルブタイミングを変更することで行ってもよい。
【0019】
本発明においては、内燃機関の暖機時に、循環通路を循環する冷却熱媒体の量が所定量以下に制御してもよく、また、循環通路における冷却熱媒体の循環を停止させてもよい。
【0020】
これによれば、内燃機関の早期暖機を図りつつノッキングの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、同一経路上で内燃機関とEGRクーラと通って冷却熱媒体が循環する
構成であっても、ノッキングの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る内燃機関の制御システムの具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0023】
<第一実施例>
(内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成)
図1は、本実施例に係る内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成を示す図であ
る。内燃機関1は車両駆動用のガソリンエンジンである。
【0024】
内燃機関1には燃料通路10の一端が接続されており、該燃料通路10の他端が燃料タンク9に接続されている。燃料通路10には燃料ポンプ11が設けられている。燃料タンク9に貯留された燃料(ガソリン)が燃料ポンプに11によって燃料通路10を通して内燃機関1に圧送される。
【0025】
また、内燃機関1にはインテークマニホールド2及びエキゾーストマニホールド3が接続されている。インテークマニホールド2には吸気通路4が接続されており、エキゾーストマニホールド3には排気通路5が接続されている。
【0026】
そして、排気通路5にはEGR通路6の一端が接続されており、該EGR通路6の他端がインテークマニホールド2に接続されている。このEGR通路6を通して、排気通路5を流れる排気の一部がEGRガスとしてインテークマニホールド2に導入される。
【0027】
EGR通路6にはEGR弁7が設けられている。該EGR弁7によって、EGR通路6を流れるEGRガスの量、即ち内燃機関1に供給されるEGRガスの量が調整される。また、EGR通路6には、該EGR通路6を流れるEGRガスを冷却するためのEGRクーラ8が設けられている。EGRクーラ8においては、後述する冷却水循環通路12を流れる冷却水とEGRガスとの間で熱交換が行われることでEGRガスが冷却される。
【0028】
また、図1において、12は、内燃機関1及びEGRクーラ8を通って冷却水が循環する冷却水循環通路を示している。冷却水循環通路12にはEGRクーラ8をバイパスするバイパス冷却水通路13が接続されている。さらに、冷却水循環通路12にはラジエータ15を通って冷却水が流れるラジエータ側冷却水通路14が接続されている。
【0029】
冷却水循環通路12とラジエータ側冷却水通路14の一端との接続部には、冷却水循環通路12、バイパス冷却水通路13及びラジエータ側冷却水通路14において冷却水を循環させる電動ウォーターポンプ17が設けられている。また、 冷却水循環通路12とバイパス冷却水通路13とラジエータ側冷却水通路14の他端との接続部にはサーモスタット16が設けられている。該サーモスタット16によってラジエータ側冷却水通路14に冷却水を流すか否かが制御される。
【0030】
内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御ユニット(ECU)20が併設されている。ECU20には、冷却水温度センサ18、クランクポジションセンサ21及びアクセル開度センサ22が電気的に接続されている。冷却水温度センサ18は内燃機関1を流れる冷却水の温度に対応した電気信号を出力する。クランクポジションセンサ21は内燃機関1のクランクシャフトの回転角に対応した電気信号を出力する。アクセル開度センサ22は、内燃機関1を搭載した車両のアクセル開度に対応した電気信号を出力する。そして、これらのセンサの出力信号がECU20に入力される。
【0031】
また、ECU20には、燃料ポンプ11、EGR弁7及び電動ウォーターポンプ17が電気的に接続されている。これらがECU20によって制御される。
【0032】
尚、本実施例においては、EGR弁7が本発明に係るEGRガス量制御手段に相当し、冷却水循環通路12が本発明に係る循環通路に相当する。
【0033】
(冷却水循環制御及びEGR制御)
本実施例においては、内燃機関1の暖機中は、サーモスタット16によってラジエータ側冷却水通路14側が遮断される。さらに、内燃機関1の暖機中においては、電動ウォーターポンプ17が停止される。電動ウォーターポンプ17が停止されることにより、冷却水循環通路12及びバイパス冷却水通路13における冷却水の循環が停止する。これにより、内燃機関1の暖機の促進を図ることが出来る。
【0034】
ここで、EGRクーラ8におけるEGRガスの冷却は、上述したように、冷却水循環通路12を流れる冷却水との間で熱交換が行われることによって実現される。しかしながら、内燃機関1の暖機中は、冷却水循環通路12における冷却水の循環が停止しているため、EGRクーラ8においてEGRガスが冷却され難い。従って、内燃機関1に供給されるEGRガスが高温となる。そのため、内燃機関1の暖機中においては、内燃機関1の運転状態に応じた量のEGRガスを内燃機関1供給すると、気筒内の温度が過剰に上昇するためにノッキングが生じる虞がある。
【0035】
そこで、本実施例においては、内燃機関1の暖機中にEGRガスの供給を行う場合にノッキングが生じる可能性があるときは、EGRガスの量を減少させる。
【0036】
以下、本実施例に係る内燃機関の暖機時のEGR制御のフローについて、図2に示すフローチャートに基づいて説明する。本フローは、ECU20に予め記憶されており、内燃機関1の運転中、所定の間隔で繰り返し実行される。
【0037】
本フローでは、先ずステップS101において、クランクポジションセンサ21及びアクセル開度センサ22の検出値に基づいて内燃機関1の運転状態が取得される。
【0038】
次に、ステップS102において、内燃機関1の暖機が実行中であるか否かが判別される。上述したように、内燃機関1の暖機が実行中の場合、冷却水循環通路12及びバイパス冷却水通路13における冷却水の循環が停止している。ステップS102において、肯定判定された場合、次にステップS103の処理が実行される。
【0039】
ステップS103においては、冷却水温度センサ18によって検出される冷却水の温度Tweが所定のEGRガス供給下限温度Tw0以上であるか否かが判別される。ここで、EGRガス導入下限温度Tw0は、内燃機関1へのEGRガスの供給を実行する閾値となる温度である。ステップS103において、肯定判定された場合、次にステップS104の処理が実行される。
【0040】
ステップS104においては、図3に示すマップに基づいて、内燃機関1の運転状態が、基準EGRガス量Qegrbaseを供給することが可能な運転領域内にあるか否かを判別する。基準EGRガス量Qegrbaseは内燃機関1の運転状態に応じて定まるEGRガスの量である。尚、この基準EGRガス量Qegrbaseを燃費が最も良好となる値として設定してもよい。
【0041】
図3は、内燃機関1の運転状態が基準EGRガス量Qegrbaseを供給することが
可能な運転領域内にあるか否かを判別するためのマップを示す図である。図3において、縦軸は内燃機関1の出力トルクTrを表しており、横軸は内燃機関1の機関回転数Neを表している。そして、領域Aは基準EGRガス量Qegrbaseを供給することが可能な運転領域を示しており、領域Bは基準EGRガス量Qegrbaseを供給するとノッキングが生じる虞がある領域を示している。
【0042】
内燃機関1の出力トルクTrが大きいほど基準EGRガス量Qegrbaseは多くなる。そのため、内燃機関1の出力トルクが高い領域Bでは、基準EGRガス量Qegrbaseを供給するとノッキングが生じる虞がある。尚、領域Aと領域Bとの閾値を冷却水の温度Twに応じて変更してもよい。この場合、冷却水の温度Twの温度が高いほど、ノッキングが生じ易くなるため、領域Aを縮小すると共に領域Bを拡大する。
【0043】
ステップS104において肯定判定された場合、即ち内燃機関1の運転状態が領域A内にある場合、次にステップS105の処理が行われる。ステップS105においては、内燃機関1に供給されるEGRガスの量の目標値(以下、目標EGRガス量と称する)Qegrtが基準EGRガス量Qegrbaseに設定される。
【0044】
次に、ステップS106において、内燃機関1へのEGRガスの供給が実行される。
【0045】
一方、ステップS104において否定判定された場合、即ち内燃機関1の運転状態が領域B内にある場合、次にステップS107の処理が行われる。ステップS107においては、冷却水の温度Tweに基づいて、基準EGRガス量Qegrbaseからの減少量ΔQegr1を算出する。ここで、減少量ΔQegr1は、内燃機関1に供給されるEGRガスの量がノッキングが生じる可能性が低い量となるような値として算出される。
【0046】
冷却水の温度Tweが低いほど、内燃機関1にEGRガスが供給された際における過剰な温度上昇は生じ難い。そのため、EGRガスの減少量ΔQegr1は、冷却水の温度Tweが低いほど小さい値となる。本実施例においては、冷却水の温度Tweとノッキングの発生を抑制可能なEGRガスの量との関係を実験等に基づいて予め求めると共にこれらの関係をマップとしてECU20に記憶しておき、このマップに基づいてEGRガスの減少量ΔQegr1を算出してもよい。
【0047】
次に、ステップS108において、目標EGRガス量Qegrtが、ステップS107において算出された減少量ΔQegr1を基準EGRガス量Qegrbaseから減算した量Qegra1に設定される。次に、ステップS106の処理が実行される。
【0048】
以上説明したフローでは、内燃機関1の暖機中であって冷却水循環通路12における冷却水の循環が停止しているときにおいて、基準EGRガス量QegrbaseのEGRガスを内燃機関1に供給するとノッキングが生じる虞がある場合、EGRガスの量が減少される。これにより、EGRガスによる気筒内の温度上昇を抑制することが出来る。
【0049】
従って、本実施例によれば、内燃機関1を通る冷却水の循環を停止することで内燃機関1の暖機の促進を図ると共に、ノッキングの発生を抑制することが出来る。
【0050】
また、上記フローでは、EGRガスの量を減少させるときの減少量が内燃機関1における冷却水の温度に基づいて変更される。これにより、EGRガスの減少量を抑制することが出来る。従って、ノッキングの発生を抑制しつつ、EGRガスの減少に伴う燃費の悪化を抑制することが出来る。
【0051】
(変形例)
上記フローにおいては、基準EGRガス量QegrbaseのEGRガスを内燃機関1に供給するとノッキングが生じる虞があると判断された場合、内燃機関1へのEGRガスの供給を停止させてもよい。
【0052】
また、上記フローにおいては、内燃機関1の運転状態が図3に示す領域B内にある場合にのみEGRガスの量を基準EGRガス量Qegrbaseよりも減少させた。しかしながら、内燃機関1の暖機実行中にEGRガスを供給する場合は、内燃機関1の運転状態に関わらず、EGRガスの量を基準EGRガス量Qegrbaseより減少させてもよく、また、内燃機関1へのEGRガスの供給を停止させてもよい。
【0053】
また、本実施例では、内燃機関1の暖機実行中において必ずしも電動ウォーターポンプ17を停止させる必要はない。つまり、電動ウォーターポンプ17の出力を低下させて内燃機関1を通って循環する冷却水の量を所定量以下まで減少させることによって、内燃機関1の暖機の促進を図ってもよい。
【0054】
<第二実施例>
(内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成)
図4は、本実施例に係る内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成を示す図である。本実施例では、内燃機関1がガソリンとエタノールとを混合した混合燃料を使用する内燃機関である点で第一実施例と異なる。
【0055】
燃料タンク9には該混合燃料が貯留されている。また、燃料タンク9には、燃料のエタノール濃度を検出する濃度センサ23が設けられている。濃度センサ23はECU20と電気的に接続されており、その出力信号がECU20に入力される。
【0056】
(冷却水循環制御及びEGR制御)
本実施例においては、第一実施例と同様、内燃機関1の暖機中にEGRガスの供給を行う場合にノッキングが生じる可能性があるときは、EGRガスの量を減少させる。ここで、エタノールは、ガソリンに比べてオクタン価が高く且つ気化潜熱が大きい。そのため、燃料のエタノール濃度が高いほど、ノッキングを抑制しつつ、より多くのEGRガスを内燃機関1に供給することが可能となる。
【0057】
そこで、本実施例においては、EGRガスの量を減少させるときに、その減少量を燃料のエタノール濃度に応じて変更する。尚、本実施例においては、エタノール濃度(即ちオクタン価及び気化潜熱)が、本発明に係る燃料性状に相当する。
【0058】
以下、本実施例に係る内燃機関の暖機時のEGR制御のフローについて、図5に示すフローチャートに基づいて説明する。本フローは、ECU20に予め記憶されており、内燃機関1の運転中、所定の間隔で繰り返し実行される。尚、ここでは、図2に示すフローと異なる処理についてのみ説明する。
【0059】
本フローでは、ステップS104において否定判定された場合、次にステップS207の処理が実行される。ステップS207においては、濃度センサ23によって検出された燃料のエタノール濃度に基づいて、基準EGRガス量Qegrbaseからの減少量ΔQegr2を算出する。ここで、減少量ΔQegr2は、内燃機関1に供給されるEGRガスの量がノッキングが生じる可能性が低い量となるような値として算出される。
【0060】
上述したように、燃料のエタノール濃度が高いほど、内燃機関1にEGRガスが供給された際にノッキングが生じ難い。そのため、EGRガスの減少量ΔQegr2は、燃料のエタノール濃度が高いほど小さい値となる。本実施例においては、燃料のエタノール濃度
とノッキングの発生を抑制可能なEGRガスの量との関係を実験等に基づいて予め求めると共にこれらの関係をマップとしてECU20に記憶しておき、このマップに基づいてEGRガスの減少量ΔQegr2を算出してもよい。
【0061】
次に、ステップS208において、目標EGRガス量Qegrtが、ステップS207において算出された減少量ΔQegr2を基準EGRガス量Qegrbaseから減算した量Qegra2に設定される。次に、ステップS106の処理が実行される。
【0062】
以上説明したフローでは、EGRガスの量を減少させるときの減少量が燃料のエタノール濃度に基づいて変更される。これにより、EGRガスの減少量を抑制することが出来る。従って、本実施例によれば、ノッキングの発生を抑制しつつ、EGRガスの減少に伴う燃費の悪化を抑制することが出来る。
【0063】
(変形例)
本実施例に係る内燃機関の暖機時のEGR制御は、ガソリンとエタノールとの混合燃料を使用する内燃機関以外のものであって燃料の性状が変化するものにも適用することが出来る。例えば、エタノール以外のアルコールとガソリンとを混合した混合燃料を使用する場合、高オレフィン燃料を使用する場合、使用する燃料はガソリンのみであるがそのオクタン価が変化する場合等に該制御を適用することが出来る。
【0064】
上述したように、ガソリンとエタノールとの混合燃料の場合、燃料のエタノール濃度が高いほどオクタン価が高く且つ気化潜熱が大きいため、燃料のエタノール濃度が高いほどEGRガスの減少量を少なくした。そこで、上記のような他の燃料を使用する場合においても、制御実行時に使用している燃料のオクタン価が高いほど及び/又は気化潜熱が大きいほど、EGRガスの減少量を少なくする。
【0065】
尚、本実施例においても、第一実施例の変形例に係る制御を適用することが出来る。
【0066】
<第三実施例>
(内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成)
図6は、本実施例に係る内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成を示す図である。本実施例では、内燃機関1がガソリンとエタノールとのいずれかを運転状態に応じて選択して燃料として使用する内燃機関である点で第一実施例と異なる。
【0067】
本実施例では、燃料タンク9、燃料通路10及び燃料ポンプ11をそれぞれ第一燃料タンク9、第一燃料通路10及び第一燃料ポンプ11とする。そして、本実施例においては、第一燃料タンク9の他に第二燃料タンク24が設けられている。
【0068】
第二燃料タンク24には第二燃料通路25の一端が接続されており、第二燃料通路25の他端が内燃機関1に接続されている。第二燃料通路25には第二燃料ポンプ26が設けられている。第二燃料ポンプ26は、第一燃料ポンプ11と同様、ECU20に電気的に接続されており、ECU20によって制御される。
【0069】
第一燃料タンク9にはガソリンが貯留されており、第二燃料タンク24にはエタノールが貯留されている。そして、第一燃料ポンプ11及び第二燃料ポンプ26のうちいずれか一方が作動されることで、ガソリン又はエタノールが内燃機関1に燃料として供給される。
【0070】
尚、本実施例においては、第一燃料タンク9及び第二燃料タンク24が本発明に係る燃料貯留手段に相当する。また、第一燃料ポンプ11及び第二燃料ポンプ26のうち作動さ
せるポンプを選択するECU20が本発明に係る燃料選択手段に相当する。
【0071】
(冷却水循環制御、EGR制御及び燃料供給制御)
本実施例においても、第一実施例と同様、内燃機関1の暖機中にEGRガスの供給を行う場合にノッキングが生じる可能性があるときは、EGRガスの量を減少させる。さらに、本実施例では、このような場合は燃料としてエタノールを選択する。
【0072】
以下、本実施例に係る内燃機関の暖機時のEGR制御及び燃料供給制御のフローについて、図7に示すフローチャートに基づいて説明する。本フローは、ECU20に予め記憶されており、内燃機関1の運転中、所定の間隔で繰り返し実行される。尚、ここでは、図2に示すフローと異なる処理についてのみ説明する。
【0073】
本フローでは、ステップS104において肯定定判定された場合、次にステップS305の処理が実行される。ステップS305においては、第一燃料ポンプ11が作動され、第二燃料ポンプ26が停止される。即ち、燃料としてガソリンが選択され、内燃機関1に供給される。
【0074】
一方、ステップS104において否定判定された場合、次にステップS307の処理が実行される。ステップS307においては、第一燃料ポンプ11が停止され、第二燃料ポンプ26が作動される。即ち、燃料としてエタノールが選択され、内燃機関1に供給される。
【0075】
以上説明したフローでは、内燃機関1の暖機中にEGRガスの供給を行う場合にノッキングが生じる可能性があるときは、EGRガスの量が減少されると共に燃料としてエタノールが選択される。上述したように、エタノールはガソリンに比べてオクタン価がより高く且つ気化潜熱がより大きい。従って、本実施例によれば、より高い確率でノッキングの発生を抑制することが出来る。
【0076】
また、燃料としてエタノールが選択されることにより、ノッキングが生じるEGRガスの量の閾値がより大きくなる。そのため、EGRガスの量を減少させるときの減少量を抑制することも可能となる。
【0077】
(変形例)
本実施例に係る内燃機関の暖機時のEGR制御は、ガソリン及びエタノールに限られず、複数の燃料を選択的に使用する内燃機関に適用することが出来る。他の燃料を使用する場合であっても、EGRガスの量を減少させる際には、オクタン価がより高い又は気化潜熱がより大きい燃料を選択する。また、EGRガスの量を減少させるときの減少量を、選択した燃料のオクタン価及び/又は気化潜熱に基づいて決定してもよい。
【0078】
尚、本実施例においても、第一実施例の変形例に係る制御を適用することが出来る。
【0079】
<第四実施例>
(内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成)
図8は、本実施例に係る内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成を示す図である。本実施例では、内燃機関1が、燃焼室の容積を変化させることによって圧縮比を変更する可変圧縮比機構27を備えた可変圧縮比内燃機関である点で第一実施例と異なる。可変圧縮比機構27はECU20に電気的に接続されており、ECU20によって制御される。
【0080】
尚、本実施例においては、可変圧縮比機構27が本発明に係る圧縮比制御手段に相当す
る。
【0081】
(冷却水循環制御、EGR制御及び圧縮比制御)
本実施例においても、第一実施例と同様、内燃機関1の暖機中にEGRガスの供給を行う場合にノッキングが生じる可能性があるときは、EGRガスの量を減少させる。さらに、本実施例では、このような場合に可変圧縮比機構27によって圧縮比を低下させる。
【0082】
以下、本実施例に係る内燃機関の暖機時のEGR制御及び圧縮比制御のフローについて、図9に示すフローチャートに基づいて説明する。本フローは、ECU20に予め記憶されており、内燃機関1の運転中、所定の間隔で繰り返し実行される。尚、ここでは、図2に示すフローと異なる処理についてのみ説明する。
【0083】
本フローではステップS104において否定判定された場合、次にステップS407の処理が実行される。ステップS407においては、内燃機関1の圧縮比αが低減される。
【0084】
以上説明したフローでは、内燃機関1の暖機中にEGRガスの供給を行う場合にノッキングが生じる可能性があるときは、内燃機関1の圧縮比αが低減される。圧縮比αが低下すると、気筒内の温度上昇が抑制される。従って、本実施例によれば、より高い確率でノッキングの発生を抑制することが出来る。
【0085】
また、圧縮比αが低下することにより、ノッキングが生じるEGRガスの量の閾値がより大きくなる。そのため、EGRガスの量を減少させるときの減少量を抑制することも可能となる。
【0086】
また、圧縮比αを低減するときの低減量を、内燃機関1の運転状態及び冷却水の温度Twe等に基づいて決定してもよい。
【0087】
(変形例)
本実施例においては、可変圧縮比機構27による圧縮比の制御に代えて、可変動弁機構によって吸気弁及び/又は排気弁のバルブタイミングを変更することによる実圧縮比の制御を用いても同様の制御を行うことが出来る。
【0088】
尚、本実施例においても、第一実施例の変形例に係る制御を適用することが出来る。
【0089】
<第五実施例>
(内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成)
図10は、本実施例に係る内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成を示す図である。本実施例では、内燃機関1がハイブリッドシステムに採用されたエンジンであって、モータージェネレータ28が併設されている点で第一実施例と異なる。
【0090】
モータージェネレータ28はECU20に電気的に接続されており、ECU20によって制御される。また、モータージェネレータ28はバッテリ29と電気的に接続されている。
【0091】
(冷却水循環制御、EGR制御及びモータアシスト制御)
本実施例においても、第一実施例と同様、内燃機関1の暖機中にEGRガスの供給を行う場合にノッキングが生じる可能性があるときは、EGRガスの量を減少させる。さらに、本実施例では、このような場合にモータージェネレータ28のモータを使用することが可能な状態であれば、モータージェネレータ28を車両の駆動源として優先的に使用する。
【0092】
以下、本実施例に係る内燃機関の暖機時のEGR制御及びモータアシスト制御のフローについて、図11に示すフローチャートに基づいて説明する。本フローは、ECU20に予め記憶されており、内燃機関1の運転中、所定の間隔で繰り返し実行される。尚、ここでは、図2に示すフローと異なる処理についてのみ説明する。
【0093】
本フローではステップS104において否定判定された場合、次にステップS507の処理が実行される。ステップS507においては、バッテリ29の充電状態(SOC)に基づいてモータージェネレータ28のモータを使用することが可能か否かについて判別される。ステップS507において、肯定判定された場合、次にステップS508の処理が行われ、否定判定された場合、次にステップS107の処理が行われる。
【0094】
ステップS508においては、モータージェネレータ28のモータの使用が実行される。これにより、内燃機関1の機関負荷が低減される。
【0095】
以上説明したフローでは、内燃機関1の暖機中にEGRガスの供給を行う場合にノッキングが生じる可能性があるときにバッテリ29が十分に充電されている場合は、モータージェネレータ28のモータが使用され、それによって、内燃機関1の機関負荷が低減される。機関負荷が低下すると、気筒内の圧力上昇及び温度上昇が抑制される。従って、本実施例によれば、より高い確率でノッキングの発生を抑制することが出来る。
【0096】
また、機関負荷が低下することにより、ノッキングが生じるEGRガスの量の閾値がより大きくなる。そのため、EGRガスの量を減少させるときの減少量を抑制することも可能となる。
【0097】
また、モータージェネレータ28のモータを使用するときの要求出力に対するモータの出力の割合を、内燃機関1の運転状態及び冷却水の温度Twe等に基づいて決定してもよい。また、モータージェネレータ28のモータの出力のみで要求出力を満たすことが可能であれば、駆動源をモータのみとし内燃機関1を停止させてもよい。
【0098】
尚、本実施例においても、第一実施例の変形例に係る制御を適用することが出来る。
【0099】
上記第一〜五実施例は、可能な限り組み合わせることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】第一実施例に係る内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成を示す図。
【図2】第一実施例に係る内燃機関の暖機時のEGR制御のフローを示すフローチャート。
【図3】第一実施例に係る、内燃機関の運転状態が基準EGRガス量を供給することが可能な運転領域内にあるか否かを判別するためのマップを示す図。
【図4】第二実施例に係る内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成を示す図。
【図5】第二実施例に係る内燃機関の暖機時のEGR制御のフローを示すフローチャート。
【図6】第三実施例に係る内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成を示す図。
【図7】第三実施例に係る内燃機関の暖機時のEGR制御及び燃料供給制御のフローを示すフローチャート。
【図8】第四実施例に係る内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成を示す図。
【図9】第四実施例に係る内燃機関の暖機時のEGR制御及び圧縮比制御のフローを示すフローチャート。
【図10】第五実施例に係る内燃機関とその吸排気系及び冷却水系の概略構成を示す図。
【図11】第五実施例に係る内燃機関の暖機時のEGR制御及びモータアシスト制御のフローを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0101】
1・・・内燃機関
2・・・インテークマニホールド
3・・・エキゾーストマニホールド
4・・・吸気通路
5・・・排気通路
6・・・EGR通路
7・・・EGR弁
8・・・EGRクーラ
9・・・燃料タンク(第一燃料タンク)
12・・冷却水循環通路
17・・電動ウォーターポンプ
18・・冷却水温度センサ
20・・ECU
21・・クランクポジションセンサ
22・・アクセル開度センサ
23・・濃度センサ
24・・第二燃料タンク
27・・可変圧縮比機構
28・・モータージェネレータ
29・・バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気系に一端が接続されており、該内燃機関の吸気系に他端が接続されているEGR通路と、
前記EGR通路を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラと、
前記EGR通路を通って前記内燃機関の吸気系に導入されるEGRガスの量を制御するEGRガス量制御手段と、
前記内燃機関と前記EGRクーラとを通って冷却熱媒体が循環する循環通路と、を備え、
前記循環通路を循環する冷却熱媒体の量が所定量以下のとき又は前記循環通路における冷却熱媒体の循環が停止されたときは、前記EGRガス量制御手段によってEGRガスの量を減少させる又はEGRガスの供給を停止させることを特徴とする内燃機関の制御システム。
【請求項2】
前記内燃機関が、該内燃機関とモータとを駆動源として有するハイブリッドシステムに適用されたものであって、
前記循環通路を循環する冷却熱媒体の量が前記所定量以下のとき又は前記循環通路における冷却熱媒体の循環が停止されたときは、前記ハイブリッドシステムにおいて駆動源として前記モータが優先的に使用されることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御システム。
【請求項3】
前記EGRガス量制御手段によってEGRガスの量を減少させるときの減少量を、内燃機関における冷却熱媒体の温度が低いほど少なくすることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御システム。
【請求項4】
前記EGRガス量制御手段によってEGRガスの量を減少させるときの減少量を、前記内燃機関に使用されている燃料の性状に基づいて決定することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関の制御システム。
【請求項5】
複数の燃料を別々に貯留する燃料貯留手段と、
複数の燃料の中から前記内燃機関に供給する燃料を選択する燃料選択手段をさらに備え、
前記循環通路を循環する冷却熱媒体の量が前記所定量以下のとき又は前記循環通路における冷却熱媒体の循環が停止されたときは、前記燃料選択手段によってオクタン価がより高い又は気化潜熱がより大きい燃料が選択されることを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の制御システム。
【請求項6】
前記内燃機関の圧縮比を制御する圧縮比制御手段をさらに備え、
前記循環通路を循環する冷却熱媒体の量が前記所定量以下のとき又は前記循環通路における冷却熱媒体の循環が停止されたときは、前記圧縮比制御手段によって前記内燃機関の圧縮比を低下させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の内燃機関の制御システム。
【請求項7】
前記内燃機関の暖機時に、前記循環通路を循環する冷却熱媒体の量が前記所定量以下とされる又は前記循環通路における冷却熱媒体の循環が停止されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の内燃機関の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−138746(P2010−138746A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314077(P2008−314077)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】