説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、内燃機関の制御装置に関し、運転中に燃料が性状の異なるものに切り替わった場合に、排気浄化触媒等にダメージを与えることを確実に回避することを目的とする。
【解決手段】アルコールとガソリンとが任意の割合で混合された燃料で運転可能な内燃機関において、給油履歴が有り、かつ燃料学習が完了していない場合には、スロットル開度が制限される(ステップ104)。スロットル開度が制限されることによって、燃料増量補正が実施されるような運転領域に入ることを未然に防止することができる。よって、燃料の切り替わり時に空燃比フィードバック制御が停止されることを防止することができる。このため、空燃比が、触媒にダメージを与えるおそれのあるような不適正な値になることを確実に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サトウキビ、トウモロコシ、木材などから抽出されるバイオ燃料であるアルコールをガソリンに混合した燃料(以下「アルコール含有燃料」という)を自動車の燃料として利用することが促進されている。これに伴い、アルコール濃度(アルコール割合)の異なる多種の燃料を使用可能なフレキシブル・フューエル・ビークル(FFV)の研究開発が進められている。
【0003】
ガソリンとアルコールとでは、理論空燃比点が異なる。すなわち、ガソリンの理論空燃比が14.6程度であるのに対し、例えばエタノールの理論空燃比は9程度である。このため、アルコール含有燃料の理論空燃比は、そのアルコール濃度によって異なった値を示す。よって、使用される燃料がアルコール濃度の異なるものに切り替えられた場合には、その燃料の切り替わりに伴って、空燃比を変更する必要が生ずる。
【0004】
一般に、内燃機関においては、排気ガスの空燃比に応じた出力を発する排気ガスセンサの信号に基づいて、空燃比をフィードバック制御することが行われている。この空燃比フィードバック制御の実行中であれば、燃料がアルコール濃度の異なるもの、つまり理論空燃比点の異なるものに切り替わった場合であっても、排気空燃比が理論空燃比となるように燃料噴射量が自動的に補正されるので、問題はない。
【0005】
しかしながら、排気浄化触媒の過熱を防止するための触媒保護増量や出力を高めるための出力増量などの、燃料増量補正の実行中には、空燃比フィードバック制御は停止される。この空燃比フィードバック制御の停止中に、燃料の切り替わりが生ずると、燃料の切り替わりに伴う空燃比のずれがフィードバックされないので、燃料噴射量の補正を行うことができない。このため、エミッションやドライバビリティが悪化するおそれがある。更には、次のような問題もある。
【0006】
触媒保護増量は、触媒が過熱しそうな場合に、燃料の気化熱によって排気温度を下げるために、空燃比が理論空燃比よりも小さくなるように燃料噴射量を増量する補正である。今、ガソリン100%の燃料で運転中に触媒保護増量が実施され、空燃比が12となるように計算された量の燃料が噴射されているものと想定する。そして、この触媒保護増量中に、燃料がアルコール濃度の高いもの(例えばアルコール濃度85%のもの)に切り替わったとする。アルコール濃度の高い燃料にとって、空燃比12は、理論空燃比よりリーンな空燃比である。よって、この場合には、燃料の気化熱による排気温度低下効果が弱まり、排気温度が上昇する事態となる。その結果、触媒にダメージを与えたり、最悪の場合には触媒が溶損するおそれがある。
【0007】
一方、特開平5−5446号公報には、空燃比を補正するための学習値をアルコール濃度別に予め記憶しておくとともに、燃料タンクに設置したアルコール濃度センサによって燃料のアルコール濃度を検出することにより、給油された燃料のアルコール濃度に応じた学習値を選択して使用するようにした空燃比制御装置が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平5−5446号公報
【特許文献2】特開2005−98265号公報
【特許文献3】特開2005−90247号公報
【特許文献4】特開平9−324693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、現在使用中の燃料とはアルコール濃度が異なる燃料が燃料タンクに給油された場合であっても、インジェクタから噴射される燃料がすぐに新しい燃料に切り替わる訳ではない。すなわち、上記従来の空燃比制御装置では、インジェクタから噴射される燃料が実際に切り替わる時点を正確に知ることはできない。このため、上記の装置を用いたとしても、空燃比フィードバック制御の停止中に燃料の切り替わりが生じた場合には、上述した問題を回避することはできない。
【0010】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、運転中に燃料が性状の異なるものに切り替わった場合に、排気浄化触媒等にダメージを与えることを確実に回避することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、理論空燃比点の異なる多種の燃料によって運転可能な内燃機関を制御する装置であって、
前記内燃機関の排気通路に設置され、排気ガスの空燃比に応じた出力を発する排気ガスセンサと、
前記排気ガスセンサの出力に基づいて、空燃比フィードバック制御を行う空燃比フィードバック制御手段と、
前記空燃比フィードバック制御において算出されるフィードバック補正値に基づいて、燃料の種類に起因する誤差を補正するための燃料学習を行う燃料学習手段と、
燃料タンクへの給油を検知する給油検知手段と、
前記給油検知手段によって給油が検知された場合に、その後の運転中において、前記燃料学習が完了するまで、前記内燃機関の吸入空気量を制限する空気量制限手段と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
また、第2の発明は、理論空燃比点の異なる多種の燃料によって運転可能な内燃機関を制御する装置であって、
燃料タンクへの給油を検知する給油検知手段と、
前記給油検知手段によって給油が検知された場合に、その後の運転中における、経過時間、走行距離、または積算燃料消費量を算出する算出手段と、
前記算出された経過時間、走行距離、または積算燃料消費量が所定の判定値に達するまでの間、前記内燃機関の吸入空気量を制限する空気量制限手段と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
また、第3の発明は、理論空燃比点の異なる多種の燃料によって運転可能な内燃機関を制御する装置であって、
燃料タンクまたは燃料経路に設置され、燃料性状を検出する燃料性状センサと、
前記燃料性状センサによって検出される燃料性状が変化した場合に、前記内燃機関の吸入空気量を制限する空気量制限手段と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
また、第4の発明は、第3の発明において、
前記燃料性状センサによって検出される燃料性状が変化した場合に、その変化後の積算燃料消費量を算出する消費量算出手段を更に備え、
前記空気量制限手段は、前記積算燃料消費量が所定の判定値に達するまで、吸入空気量を制限することを特徴とする。
【0015】
また、第5の発明は、第4の発明において、
前記判定値は、前記燃料性状センサの設置箇所からインジェクタ先端までの燃料通路内の燃料がすべて置換されるまで、吸入空気量の制限が継続されるような値に設定されていることを特徴とする。
【0016】
また、第6の発明は、第4または第5の発明において、
前記積算燃料消費量が前記判定値に達した時点で、前記燃料性状センサによって検出された燃料性状に基づいて、燃料噴射量を補正する燃料噴射量補正手段を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、理論空燃比点の異なる多種の燃料によって運転可能な内燃機関において、燃料タンクへの給油が検知された場合には、その後の運転中、空燃比フィードバック制御に伴う燃料学習が完了するまでは、吸入空気量を制限することができる。燃料タンクへの給油が検知された場合には、その後の運転中に、インジェクタからの噴射燃料が理論空燃比点の異なる異種の燃料に切り替わる可能性がある。燃料の切り替わりが生じた場合に、空燃比フィードバック制御が実行されていれば、新しい燃料に応じて空燃比を適正に補正することができるととともに、燃料の違いに起因して必要となった補正量を燃料学習値として学習することができる。しかしながら、燃料学習が完了する前に、燃料増量補正が実施され、これに伴って空燃比フィードバック制御が停止された場合には、燃料の切り替わりが生じても、空燃比を新しい燃料に適した値に補正することができない。このため、燃料増量補正中の空燃比が不適正な値になり、その結果、エミッションやドライバビリティが悪化したり、更には排気浄化触媒を損傷したりするおそれがある。これに対し、第1の発明によれば、燃料学習が完了するまでは、吸入空気量を制限することで、燃料増量補正が実施されるような運転領域に入ることを未然に防止することができる。よって、エミッションやドライバビリティが悪化したり、排気浄化触媒が損傷したりすることを確実に防止することができる。
【0018】
第2の発明によれば、理論空燃比点の異なる多種の燃料によって運転可能な内燃機関において、燃料タンクへの給油が検知された場合に、その後の運転中、経過時間、走行距離、または積算燃料消費量が所定の判定値に達するまでの間、吸入空気量を制限することができる。この判定値を適当な値に設定しておけば、経過時間、走行距離、あるいは積算燃料消費量を監視することで、燃料学習の完了を精度良く判定することができる。よって、第2の発明によれば、第1の発明と同様の効果が得られる。
【0019】
第3の発明によれば、理論空燃比点の異なる多種の燃料によって運転可能な内燃機関において、燃料タンクまたは燃料経路に設置された燃料性状センサによって検出される燃料性状が変化した場合に、内燃機関の吸入空気量を制限することができる。これにより、燃料が異種のものに切り替わる可能性のある場合に、燃料増量補正が実施されるような運転領域に入ることを未然に防止することができる。よって、第1の発明と同様に、エミッションやドライバビリティが悪化したり、排気浄化触媒が損傷したりすることを確実に防止することができる。
【0020】
第4の発明によれば、燃料性状センサによって検出される燃料性状が変化した後の積算燃料消費量が所定の判定値に達するまで、吸入空気量を制限することができる。この判定値を適当な値に設定しておけば、インジェクタからの噴射燃料が新しい燃料に確実に切り替わったと判断できる時点で、吸入空気量の制限を解除することができる。つまり、第4の発明によれば、吸入空気量の制限を適切なタイミングで解除することができる。
【0021】
第5の発明によれば、前記判定値を、燃料性状センサの設置箇所からインジェクタ先端までの燃料通路内の燃料がすべて置換されるまで吸入空気量の制限が継続されるような値に設定することができる。このため、吸入空気量の制限を必要最小限の期間だけ、継続させることができる。
【0022】
第6の発明によれば、積算燃料消費量が前記判定値に達した時点、すなわちインジェクタからの噴射燃料が新しい燃料に確実に切り替わったと判断できる時点で、燃料性状センサによって検出された燃料性状に基づいて、燃料噴射量を補正することができる。このため、燃料の切り替わりに伴って必要となる燃料噴射量(空燃比)の補正を、適切なタイミングで実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0024】
実施の形態1.
[システム構成の説明]
図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。図1に示すように、本実施形態のシステムは、車両に動力源として搭載される内燃機関10を備えている。内燃機関10は、ガソリン、アルコール(エタノール、メタノールなど)、およびガソリンとアルコールとの混合燃料(アルコール含有燃料)、の何れでも運転可能であるものとする。
【0025】
本実施形態では、内燃機関10は直列4気筒型であるものとするが、本発明では、気筒数および気筒配置はこれに限定されるものではない。図1には、内燃機関10の一つの気筒の断面が示されている。
【0026】
内燃機関10の各気筒には、吸気通路12および排気通路14が連通している。吸気通路12には、吸入空気量GAを検出するエアフロメータ16が配置されている。エアフロメータ16の下流には、吸入空気量を制御するスロットル弁18が配置されている。スロットル弁18は、アクセル開度等に基づいてスロットルモータ20により駆動される電子制御式のバルブである。スロットル弁18の近傍には、スロットル弁18の開度(以下「スロットル開度」という)を検出するためのスロットルポジションセンサ22が配置されている。アクセル開度は、アクセルペダルの近傍に設けられたアクセルポジションセンサ24によって検出される。
【0027】
内燃機関10の各気筒には、吸気ポート11内に燃料を噴射するためのインジェクタ26が配置されている。なお、内燃機関10は、図示のようなポート噴射式のものに限らず、燃料を筒内に直接噴射する方式のものでもよい。
【0028】
内燃機関10の各気筒には、更に、吸気弁28と、点火プラグ30と、排気弁32とが設けられている。
【0029】
内燃機関10のクランク軸34の近傍には、クランク軸34の回転角を検出するためのクランク角センサ36が取り付けられている。クランク角センサ36の出力によれば、クランク軸34の回転位置や機関回転数NEなどを検知することができる。
【0030】
内燃機関10の排気通路14には、排気ガスを浄化するための触媒38が設置されている。触媒38の上流側には、排気ガスの空燃比が理論空燃比に対してリッチであるかリーンであるかに応じて急変する出力を発するOセンサ40が設置されている。
【0031】
更に、本実施形態のシステムは、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50には、上述した各種のセンサおよびアクチュエータが接続されている。ECU50は、それらのセンサ出力に基づいて、内燃機関10の運転状態を制御することができる。
【0032】
図2は、内燃機関10に燃料を供給する燃料系統を模式的に示す図である。図2に示すように、本実施形態のシステムは、給油された燃料を貯留する燃料タンク42を備えている。燃料タンク42内には、燃料ポンプ44と、プレッシャレギュレータ46とが設置されている。燃料タンク42内の燃料は、燃料ポンプ44により加圧され、プレッシャレギュレータ46により調圧された上で、燃料パイプ48を通り、内燃機関10へと送られる。そして、デリバリパイプ52により、各気筒のインジェクタ26に分配される。
【0033】
(本実施形態の基本制御)
以下、本実施形態のシステムで実行される基本の空燃比制御について説明する。インジェクタ26からは、燃料噴射時間TAUに応じた量の燃料が噴射される。このため、ECU50は、インジェクタ26の燃料噴射時間TAUを制御することにより、燃料噴射量を制御する。燃料噴射時間TAUは、次式により算出される。
TAU=α・TP・KT+β ・・・(1)
【0034】
上記(1)式中、TPは基本噴射時間である。基本噴射時間TPは、エアフロメータ16で検出される吸入空気量GA、機関回転数NE等に基づいて算出される基本の燃料噴射量に対応する噴射時間である。αは、触媒保護増量や出力増量などを行う場合の補正係数である。βは、インジェクタ26の作動遅れを補正するための無効噴射時間である。KTは、Oセンサ40の出力をフィードバックするためのフィードバック補正値FAFと、学習値KGとからなる補正係数である。すなわち、補正係数KTは、次式で表される。
KT=FAF+KG ・・・(2)
【0035】
(空燃比フィードバック制御)
図3は、フィードバック補正値FAFの算出手法を説明するためのタイミングチャートである。より具体的には、図3(a)は、Oセンサ40の出力、図3(b)はフィードバック補正値FAFの変化をそれぞれ示している。図3に示すように、フィードバック補正値FAFは、空燃比フィードバック制御の実行中、1.0を中心として周期的に変動するように算出される。以下、より詳しく説明する。
【0036】
図3中の時刻t1〜t2において、Oセンサ40の出力はリーン出力になっている。これは、内燃機関10から排出される排気ガスの空燃比(以下「排気空燃比」という)が理論空燃比よりリーンであることを示している。Oセンサ40がリーン出力を示す間、フィードバック補正値FAFは、所定の傾きで徐々に増加方向に更新されていく。FAFが大きな値に更新されていくと、燃料噴射時間TAUが増加していくので、やがては排気空燃比がリーンからリッチへと変化する。これに応じて、Oセンサ40の出力もリーン出力からリッチ出力へと変化する(時刻t2)。
【0037】
ECU50は、Oセンサ40の出力がリーン出力からリッチ出力へと変化したことを検知すると、フィードバック補正値FAFを、まず、減少方向に大きくスキップさせる(時刻t2)。以後、FAFは、Oセンサ40がリッチ出力を維持する限り、所定の傾きで徐々に減少方向に更新されていく。FAFが小さな値に更新されると、燃料噴射時間TAUが減少していくので、やがては排気空燃比がリッチからリーンへと変化する。これに応じて、Oセンサ40の出力もリッチ出力からリーン出力へと変化する(時刻t3)。
【0038】
ECU50は、Oセンサ40の出力がリッチ出力からリーン出力へと変化したことを検知すると、フィードバック補正値FAFを、まず、増加方向に大きくスキップさせる(時刻t3)。以後、FAFは、上述したように、Oセンサ40がリーン出力を維持する限り、所定の傾きで徐々に増加方向に更新されていく。
【0039】
空燃比フィードバック制御の実行中は、以上のような処理が繰り返されることにより、フィードバック補正値FAFが、排気空燃比の状態に応じて増加と減少を繰り返す。また、FAFが増加と減少を繰り返すことにより、内燃機関10の空燃比は、理論空燃比の近傍に維持されることになる。
【0040】
ECU50は、フィードバック補正値FAFの算出に合わせて、フィードバック補正値FAFを時間的に平均した平滑値FAFAVを算出する。空燃比フィードバック制御が理想的に機能している場合は、フィードバック補正値FAFが1.0を中心として変動するため、平滑値FAFAVは1.0となる。ところが、エアフロメータ16やインジェクタ26の個体差などの何らかの原因によって、空燃比が理論空燃比よりリッチ側に偏る傾向がある場合は、その傾向を相殺するために、FAFは1.0より小さい値を中心として変動する。この場合、FAFAVは1.0より小さな値となる。また、空燃比が理論空燃比よりリーン側に偏る傾向がある場合は、FAFが1.0より大きな値を中心として変動するため、FAFAVは1.0より大きな値となる。
【0041】
つまり、フィードバック補正値FAFの平滑値FAFAVと、基準値1.0との偏差(FAFAV−1.0)は、空燃比を制御する上で定常的に存在している誤差として把握することができる。そこで、ECU50は、そのような定常的な誤差を学習するべく、(FAFAV−1.0)の値を定期的に学習値KGに繰り入れる処理を実施する。
【0042】
上記の手法によれば、例えば内燃機関10の経時変化等により、理論空燃比よりもリッチ側あるいはリーン側に空燃比が偏る傾向が生じた場合には、その傾向は学習値KGによって相殺することができる。その結果、フィードバック補正値FAFを常に基準値1.0を中心として変動させることができる。
【0043】
(燃料学習)
前述したように、燃料のアルコール濃度が異なると、理論空燃比点が異なる。すなわち、アルコール濃度が高いほど(100%アルコールに近いほど)、理論空燃比は小さくなり、アルコール濃度が低いほど(100%ガソリンに近いほど)、理論空燃比は大きくなる。よって、燃料噴射量(空燃比)が同じであると、アルコール濃度が高いほど、理論空燃比よりもリーン側に偏ることとなる。逆に、アルコール濃度が低いほど、理論空燃比よりもリッチ側に偏ることとなる。
【0044】
このため、現在使用中の燃料と比べてアルコール濃度の異なる燃料が給油されることにより、内燃機関10で燃焼する燃料のアルコール濃度が変化した場合には、理論空燃比よりもリッチ側あるいはリーン側に空燃比が偏る傾向が生ずる。この場合であっても、その傾向は、上記学習値KGによって相殺することができる。このため、上述した空燃比フィードバック制御によれば、燃料のアルコール濃度が変化した場合であっても、内燃機関10の空燃比をその燃料の理論空燃比に追従させることができる。
【0045】
本実施形態では、学習値KGのうち、内燃機関10の経時変化等に起因する空燃比の偏りを補正するための通常学習値KGNと、燃料の種類(アルコール濃度)の違いに起因する空燃比の偏りを補正するための燃料学習値KGFとを区別して算出することとしている。学習値KGには、他の学習値が含まれていてもよいが、本実施形態では上記の二つで構成されているものとする。すなわち、本実施形態での学習値KGは、次式で表される。
KG=KGN+KGF ・・・(3)
【0046】
アルコール濃度の異なる燃料が燃料タンク給油されると、その後の運転中に、インジェクタ26から噴射される燃料のアルコール濃度が変化することとなる。よって、給油後の運転中に空燃比の偏りが生じた場合、すなわち、フィードバック補正値FAFの平滑値FAFAVと、基準値1.0との偏差(FAFAV−1.0)が生じた場合には、その偏差は燃料のアルコール濃度変化に起因するものである可能性が高いと言える。そこで、給油後、しばらくの間に生じた偏差(FAFAV−1.0)については、これを燃料の変化に起因するものであるとして、燃料学習値KGFに繰り込むこととされる。
【0047】
上記のような燃料学習において、燃料学習値KGFがほぼ一定に近い値に収束した場合には、燃料学習は完了できたと判断することができる。よって、この後に空燃比の偏りが生じた場合には、その偏りは、内燃機関10の経時変化等の通常の原因によって生じたものであると考えられる。そこで、燃料学習の完了後は、偏差(FAFAV−1.0)を通常学習値KGNに繰り込むこととされる。
【0048】
(触媒保護増量)
本システムは、触媒38の劣化や損傷を防止するため、触媒38の温度が高くなり過ぎるおそれのある場合には、触媒保護増量を実施するようにしている。この触媒保護増量について以下に説明する。
【0049】
本システムでは、定常運転時の触媒38の収束温度と、機関負荷および機関回転数NEとの関係が予め調査されており、ECU50にマップとして記憶されている。ECU50は、そのマップ(以下「触媒収束温度マップ」という)と、現在の機関負荷および機関回転数NEとに基づいて、触媒38の推定温度を常に算出している。そして、触媒38の推定温度が所定の増量実施温度(許容温度)を超えた場合には、燃料の気化熱によって排気温度を下げて触媒38を保護するため、触媒保護増量を実施する。
【0050】
触媒保護増量の実施時には、空燃比が理論空燃比よりもリッチになるように、燃料噴射量が増量される。一方、上述したフィードバック補正値FAFによる空燃比フィードバック制御は、空燃比を理論空燃比に追従させようとする制御である。よって、触媒保護増量の実施時には、干渉を避けるため、空燃比フィードバック制御は停止され、燃料噴射量(空燃比)はオープンループ制御される。
【0051】
前述したように、燃料のアルコール濃度によって、理論空燃比点は異なる。このため、触媒保護増量時の理想的な空燃比の値も、燃料のアルコール濃度によって異なる。燃料学習が完了している場合であれば、触媒保護増量時の空燃比も、燃料学習値KGFによって、適正に補正することが可能である。
【0052】
しかしながら、インジェクタ26から噴射される燃料(以下「噴射燃料」という)がアルコール濃度の異なる燃料に切り替わった後、燃料学習が完了していないうちに触媒保護増量が実施された場合を想定すると、次のような問題がある。
【0053】
今、インジェクタ26から実際に噴射されている燃料が、ガソリン100%のものから、アルコール濃度の高いもの(例えばアルコール濃度85%のもの)に切り替わった直後に、触媒保護増量が実施されたものとする。この場合には、燃料学習が未だ完了していないので、燃料学習値KGFは100%ガソリンに対応した値になっている。よって、この場合の触媒保護増量では、100%ガソリンの理論空燃比よりリッチな空燃比(例えば12とする)となるように計算された量の燃料がインジェクタ26から噴射される。しかしながら、インジェクタ26から実際に噴射されている燃料は、アルコール濃度の高い燃料、すなわち理論空燃比点の低い燃料である。このため、空燃比12で燃料が噴射されると、理論空燃比よりもリーンな空燃比で燃焼がなされることとなる。その結果、燃料の気化熱による排気温度低下効果が弱まるので、排気温度が上昇する事態となる。つまり、触媒38の温度を低下させなければならない状況であるにもかかわらず、触媒38の温度が上昇し続けてしまうため、触媒38にダメージを与えたり、最悪の場合には触媒が溶損するおそれがある。
【0054】
上記の事情は、噴射燃料が、100%ガソリンではなく、アルコール濃度の低いものから、アルコール濃度の高いものに切り替わった場合にも同様である。
【0055】
また、上記と逆に、噴射燃料がアルコール濃度の高いものからアルコール濃度の低いものに切り替わった直後に触媒保護増量が行われた場合には、空燃比がリッチになり過ぎることとなり、燃焼状態やエミッションが悪化することとなる。
【0056】
また、スロットル全開時に実施される出力増量など、触媒保護増量以外の燃料増量補正が実施された場合にも、同様の事態が生じ得る。ただし、以下の説明では、触媒保護増量の場合を中心に記述する。
【0057】
[実施の形態1の特徴]
上述したような問題を回避するため、本実施形態では、燃料タンク42への給油があった場合には、その後の運転中において、燃料学習が完了するまでは、吸入空気量(スロットル開度)を制限する制御を実行することとした。この制御によれば、触媒38の温度が過度に上昇することを未然に防止することが可能である。よって、触媒保護増量の実施を回避することができるので、上述したような問題が生ずることを確実に防止することができる。
【0058】
[実施の形態1における具体的処理]
図4は、上記の機能を実現するために本実施形態においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。本ルーチンは、所定時間毎に繰り返し実行されるものとする。図4に示すルーチンによれば、まず、給油があったことを示す給油履歴の有無が判別される(ステップ100)。本実施形態では、燃料タンク42に設けられたセンダーゲージ(レベルゲージ)、内燃機関10を搭載した車両のフューエルリッド、ORVR(Onboard Refueling Vapor Recovery)システム(何れも図示せず)などの状態に基づいて、給油がなされたことを検知するものとする。そして、給油が検知された場合には、給油履歴が有りとされる。
【0059】
上記ステップ100で、給油履歴が無いと判別された場合には、インジェクタ26からの噴射燃料がアルコール濃度の異なるものに切り替わる可能性はないと判断できる。よって、この場合には、今回の処理サイクルがそのまま終了される。
【0060】
一方、上記ステップ100で、給油履歴が有ると判別された場合には、インジェクタ26からの噴射燃料がアルコール濃度の異なるものに近いうちに切り替わるか、あるいは既に切り替わっている可能性があると判断できる。そこで、この場合には、次に、燃料学習が完了しているか否かが判別される(ステップ102)。燃料学習の完了を判定する方法としては、例えば、フィードバック補正値FAFの平滑値FAFAVが所定の判定値γにより定められる判定範囲内(1.0−γ≦FAFAV≦1.0+γ)に存在する時間が所定の判定時間τ以上継続した場合に、燃料学習が完了したものと判定することができる。
【0061】
上記ステップ102で、燃料学習が完了していないと判別された場合には、スロットル開度を制限する制御が実行される(ステップ104)。この制御においては、触媒38の温度が増量実施温度に達することのないような範囲内に、スロットル開度が制限される。具体的には、前記触媒収束温度マップ上の触媒収束温度が増量実施温度に一致するような機関負荷および機関回転数NEの曲線を求めておき、その曲線上の各点でのスロットル開度が上限スロットル開度とされる。そして、実際のスロットル開度が、その上限スロットル開度未満となるように制限される。あるいは、触媒38の推定温度が増量実施温度より十分に低い範囲にある間はスロットル開度に特に制限を加えず、触媒38の推定温度が増量実施温度に近くなった場合に、スロットル開度を前記上限スロットル開度未満となるように制限するようにしてもよい。
【0062】
上記ステップ102の処理によれば、触媒38の温度(推定温度)が増量実施温度にまで上昇することを未然に回避することができる。よって、燃料学習の完了前に触媒保護増量が実施されることを確実に回避することができる。つまり、空燃比フィードバック制御が停止されることを確実に回避することができる。このため、前述したような問題が生ずることを確実に防止することができる。
【0063】
噴射燃料が新しい燃料に切り替わった後、燃料学習制御が進行して、燃料学習が完了すると、燃料学習値KGFが新しい燃料に適切に対応した値となる。よって、これ以降は、触媒保護増量が実施されても、つまり空燃比フィードバック制御が停止されても、新しい燃料に応じた適正な空燃比となるように燃料噴射量を算出することができる。このため、吸入空気量を制限する必要はなくなる。そこで、上記ステップ102で燃料学習が完了したと判別された場合には、まず、給油履歴が解除(給油履歴無し)とされ(ステップ106)、次いで、上記ステップ104によって行われていたスロットル開度の制限が解除される(ステップ108)。
【0064】
なお、上記ステップ102の処理は、スロットル開度(吸入空気量)を制限するものであり、触媒保護増量自体の実行を禁止するものではない。触媒保護増量自体の実行を禁止したとすると、何らかの原因によって触媒38の温度が万一過度に上昇した場合には、触媒38の温度を低下させることができなくなり、触媒38が損傷するおそれがある。これに対し、本実施形態では、そのような事態が生ずることはないので、触媒38をより確実に保護することができる。
【0065】
また、図4に示すルーチンの処理によれば、燃料学習完了前に、触媒保護増量以外の燃料増量補正(出力増量など)が実施される領域に入ることを防止することもできる。よって、触媒38を確実に保護することができる。
【0066】
また、上記ステップ104では、スロットル開度を制限することで吸入空気量を制限しているが、吸入空気量を制限する手法はこれに限定されるものではない。例えば、吸気弁28の作用角やリフト量を連続的に可変とする可変動弁機構を備えた内燃機関の場合には、吸気弁28の作用角やリフト量を制限することで吸入空気量を制限するようにしてもよい。
【0067】
ところで、本実施形態のシステムにおける燃料系統は、図2に示すように、内燃機関10から燃料タンク42への戻り通路を持たないリターンレスタイプのものである。このようなリターンレスタイプの場合には、異種の燃料が給油された後も、燃料タンク42からインジェクタ26までの燃料経路内に残存していた元の燃料が消費されるまでの間は、噴射燃料が新しい種類のものに切り替わらない。つまり、給油後の運転再開直後の期間は、噴射燃料が新しい種類のものに切り替わる可能性はない。よって、上記ステップ104では、吸入空気量の制限をすぐに開始する必要はない。そこで、インジェクタ26の燃料噴射量に基づいて給油後の積算燃料消費量を算出し、その積算燃料消費量が、噴射燃料が新しい種類のものに切り替わる可能性のある値に達する時点まで、吸入空気量の制限の開始を延期するようにしてもよい。そのようにすれば、吸入空気量が制限される期間、すなわち内燃機関10の出力が制限される期間を可能な限り短くすることができる。
【0068】
一方、内燃機関10から燃料タンク42への戻り通路を有するタイプ(以下「リターン有りタイプ」という)の燃料系統である場合には、燃料パイプ48やデリバリパイプ52内の燃料が運転中は常に循環している。このため、給油後に運転が再開されると、燃料パイプ48やデリバリパイプ52内の燃料がすぐに新しい種類のものに置換される。よって、給油後に運転が再開されると、まもなく、噴射燃料が新しい種類のものに切り替わることとなる。したがって、燃料系統がリターン有りタイプである場合には、給油後の運転再開後、吸入空気量の制限をすぐに開始することが好ましい。
【0069】
また、上述した実施の形態1においては、Oセンサ40が前記第1の発明における「排気ガスセンサ」に相当している。また、ECU50が、フィードバック補正値FAFを算出する処理を実行することにより前記第1の発明における「空燃比フィードバック制御手段」が、燃料学習値KGFを算出する処理を実行することにより前記第1の発明における「燃料学習手段」が、上記ステップ100の処理を実行することにより前記第1の発明における「給油検知手段」が、上記ステップ102〜108の処理を実行することにより前記第1の発明における「空気量制限手段」が、それぞれ実現されている。
【0070】
なお、本発明における空燃比フィードバック制御や燃料学習制御の方法は、上述した方法に限定されるものではなく、いかなる方法であっても良い。また、Oセンサ40に代えて、排気空燃比に応じたリニアな出力を発するA/Fセンサを排気ガスセンサとして用いるシステムや、排気ガスセンサを複数備えるシステムにも本発明を適用可能である。
【0071】
実施の形態2.
次に、図5を参照して、本発明の実施の形態2について説明するが、上述した実施の形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。本実施形態は、実施の形態1と同様のシステム構成を用いて、ECU50に、後述する図5に示すルーチンの処理を実行させることにより、実現することができる。
【0072】
実施の形態1では、給油のあったことが検知された場合、燃料学習が完了するまで、吸入空気量を制限することとしていた。燃料学習が完了するまでに要する時間は、内燃機関10の運転状態によっても異なるが、極端に長い時間がかかることはほとんどない。このため、給油後に運転が再開されてから、ある適当な時間が経過すれば、燃料学習が完了したものと推定することができる。そこで、本実施形態では、給油後に運転が再開されてからの経過時間が所定の判定時間に達した時点で、吸入空気量の制限を解除することとした。
【0073】
[実施の形態2における具体的処理]
図5は、上記の機能を実現するために本実施形態においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。本ルーチンは、所定時間毎に繰り返し実行されるものとする。なお、図5において、図4に示すステップと同一のステップには、同一の符号を付してその説明を省略または簡略化する。図5に示すルーチンは、ステップ102がステップ112に置き換えられ、ステップ100とステップ112の間にステップ110が挿入されていること以外は、図4に示すルーチンと同様である。
【0074】
図5に示すルーチンによれば、ステップ100で給油履歴が有ると判別された場合には、次に、給油後に内燃機関10の運転が再開されてからの経過時間が算出される(ステップ110)。そして、その経過時間が所定の判定時間に達したか否かが否かが判別される(ステップ112)。この判定時間は、燃料学習が完了している確率が十分に高いと判断できるような時間として、予め設定されている。
【0075】
よって、ステップ112において、経過時間が判定時間に達していないと判別された場合には、燃料学習が未だ完了していない可能性があると判断できる。そこで、この場合には、スロットル開度を制限する制御が実行される(ステップ104)。一方、ステップ112において、経過時間が判定時間に達したと判別された場合には、燃料学習が完了したと推定できる。そこで、この場合には、まず、給油履歴が解除され(ステップ106)、次いで、上記ステップ104によって行われているスロットル開度の制限が解除される(ステップ108)。
【0076】
以上説明した図5に示すルーチンの処理によれば、実施の形態1と同様の効果が得られる。なお、図5に示すルーチンでは、給油後の運転再開後の経過時間によって燃料学習が完了したか否かを推定するようにしているが、走行距離や積算燃料消費量によっても、同様にして、燃料学習が完了したか否かの推定が可能である。すなわち、上記ステップ112では、給油後の運転再開後の走行距離あるいは積算燃料消費量がある適当な判定値に達したか否かを判別し、その判定値に達した時点でスロットル開度の制限を解除するようにしてもよい。
【0077】
なお、上述した実施の形態2においては、ECU50が、上記ステップ100の処理を実行することにより前記第2の発明における「給油検知手段」が、上記ステップ110の処理を実行することにより前記第2の発明における「算出手段」が、112,104,106および108の処理を実行することにより前記第2の発明における「空気量制限手段」が、それぞれ実現されている。
【0078】
実施の形態3.
次に、図6および図7を参照して、本発明の実施の形態3について説明するが、上述した実施の形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を簡略化または省略する。
【0079】
図6は、本実施形態のシステムにおける燃料系統を模式的に示す図である。図6に示すように、本実施形態の燃料系統は、図2に示す燃料系統と同様のリターンレスタイプである。そして、燃料パイプ48の途中に、アルコール濃度センサ54が設置されていること以外は、図2に示す燃料系統と同じである。
【0080】
アルコール濃度センサ54は、燃料の導電率、誘電率、あるいは光透過率、屈折率などを計測することにより、燃料中のアルコール濃度を検出可能な公知のセンサである。異種の燃料が給油され、燃料パイプ48を通過する燃料のアルコール濃度が変化すると、アルコール濃度センサ54の出力が変化する。よって、本実施形態において、ECU50は、アルコール濃度センサ54の出力を常時監視することにより、燃料の切り替わりを検知することができる。なお、アルコール濃度センサ54は、デリバリパイプ52あるいは燃料タンク42などに設置されていてもよい。
【0081】
燃料の理論空燃比点は、燃料のアルコール濃度に応じて定まる。このため、燃料のアルコール濃度から、その燃料を内燃機関10で燃焼させる場合の理想的な空燃比の値を求めることができる。よって、本実施形態では、ECU50は、燃料が切り替わる場合には、アルコール濃度センサ54により検出されたアルコール濃度に基づいて、切り替わり後の燃料に適した空燃比となるように、燃料噴射量を適正に補正することができる。
【0082】
しかしながら、アルコール濃度センサ54によって燃料の切り替わりが検出された時点では、アルコール濃度センサ54より先の燃料パイプ48や、デリバリパイプ52、更にはインジェクタ26の内部には、元の燃料が残存している。このため、その残存している燃料(以下「残存燃料」という)が消費された後で、インジェクタ26からの噴射燃料が切り替わることとなる。
【0083】
そこで、本実施形態では、アルコール濃度センサ54によって燃料の切り替わりが検知された場合には、その時点からの燃料消費量を積算し、その積算燃料消費量が、上記残存燃料が確実に消費されたと判定できるような所定の判定値に達してから、新しい燃料のアルコール濃度に基づく燃料噴射量の補正を実施することとした。
【0084】
上記積算燃料消費量が上記判定値に達するまでの間は、インジェクタ26から実際に噴射されている燃料が元の燃料であるか新しい燃料であるかは不確定である。このため、この間に空燃比フィードバック制御の停止を伴う燃料増量補正が実施されると、実際の噴射燃料に対して適切でない空燃比となる可能性があるため、前述したように触媒38を損傷するなどの問題が生ずる可能性がある。そこで、本実施形態では、上記積算燃料消費量が上記判定値に達するまでの間は、実施の形態1と同様にスロットル開度(吸入空気量)を制限し、燃料増量領域に入ることを未然に防止することとした。
【0085】
ところで、アルコール濃度センサ54の設置箇所からインジェクタ26先端までの燃料経路の容積と比較して、上記積算燃料消費量が十分に小さい間は、実際の噴射燃料はまだ確実に元の燃料であると判断することができる。よって、この間は上記スロットル開度制限を行う必要はないと言える。そこで、本実施形態では、アルコール濃度センサ54によって燃料の切り替わりが検知された後も、実際の噴射燃料がまだ確実に元の燃料であると判断できる間は、上記スロットル開度制限の実施を延期することとした。
【0086】
[実施の形態3における具体的処理]
図7は、上記の機能を実現するために本実施形態においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。本ルーチンは、所定時間毎に繰り返し実行されるものとする。
【0087】
図7に示すルーチンによれば、まず、燃料性状変化履歴の有無が判別される(ステップ114)。燃料性状変化履歴は、アルコール濃度センサ54によって検出されるアルコール濃度に変化があった場合に、履歴有りとされる。燃料性状変化履歴が無い場合には、燃料の切り替わりが生ずる可能性はないと判断できるので、今回の処理サイクルがそのまま終了される。
【0088】
一方、上記ステップ114で、燃料性状変化履歴が有ると判別された場合には、近いうちにインジェクタ26からの噴射燃料が新しい種類のものに切り替わると判断できる。そこで、この場合には、次に、アルコール濃度センサ54によって検出されるアルコール濃度が変化した時点からの積算燃料消費量が算出される(ステップ116)。そして、その積算燃料消費量が第1判定値に達したか否かが判別される(ステップ118)。この第1の判定値および後述する第2の判定値は、アルコール濃度センサ54の設置箇所からインジェクタ26先端までの燃料経路の容積を考慮して、予め設定されている。
【0089】
積算燃料消費量が第1判定値に未だ達していない場合には、アルコール濃度センサ54より先の残存燃料は未だ消費されておらず、現時点での噴射燃料は元の燃料のままであると判断できる。この場合には、まだスロットル開度に制限を加える必要はないので、今回の処理サイクルがそのまま終了される。
【0090】
内燃機関10で燃料消費が進んでいくと、そのうちに、上記ステップ118において、積算燃料消費量が第1判定値に達したと判別される。この場合には、次に、積算燃料消費量が第2判定値に達したか否かが判別される(ステップ120)。第2判定値は、第1判定値よりも大きい値であり、アルコール濃度センサ54より先の残存燃料が全部消費され、燃料が新しいものに切り替わったと判断することができるような値に設定されている。
【0091】
上記ステップ120で、積算燃料消費量が第2判定値に達していないと判別された場合には、インジェクタ26からの噴射燃料が新しいものに切り替わったかどうかを確定することができない期間であると判断できる。そこで、この場合には、実施の形態1のステップ104と同様にして、スロットル開度を制限する制御が実行される(ステップ122)。これにより、空燃比フィードバック制御の停止を伴う燃料増量領域に入ることを未然に防止することができるので、触媒38を確実に保護することができる。すなわち、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0092】
内燃機関10で燃料消費が更に進んでいくと、そのうちに、上記ステップ120において、積算燃料消費量が第2判定値に達したと判別される。この場合には、インジェクタ26からの噴射燃料が新しい燃料に確実に切り替わったと判断できる。そこで、この場合には、アルコール濃度センサ54によって検出されたアルコール濃度に基づき、新しい燃料に適した空燃比となるように、燃料噴射量を補正する処理が実施される(ステップ124)。
【0093】
上記ステップ124の燃料噴射量補正が実施された後は、燃料増量補正が実施された場合にも、新しい燃料に応じた適切な空燃比を実現することができる。よって、スロットル開度の制限は不要となる。そこで、この場合には、まず、燃料性状変化履歴が解除(履歴無し)とされ(ステップ126)、次いで、上記ステップ122のスロットル開度の制限が解除される(ステップ128)。
【0094】
なお、上述した図7に示すルーチンのステップ118は、無くても良い。すなわち、アルコール濃度センサ54によってアルコール濃度(燃料性状)の変化が検出されたら、すぐに上記ステップ122のスロットル開度の制限を開始するようにしてもよい。
【0095】
また、上述した実施の形態3では、燃料系統がリターンレスタイプの場合を例に説明したが、前述したように、燃料系統がリターン有りタイプの場合には、燃料パイプ48やデリバリパイプ52内の燃料は常に循環している。このため、アルコール濃度センサ54によってアルコール濃度の変化が検知された場合には、元の燃料はインジェクタ26内に残存しているのみとなる。つまり、燃料系統がリターン有りタイプの場合には、アルコール濃度の変化が検知された後、リターンレスタイプの場合よりも短時間のうちに噴射燃料が新しいものに切り替わることとなる。よって、燃料系統がリターン有りタイプの場合には、上記ステップ120における第2判定値の値は、リターンレスタイプの場合と比較して、小さく設定される。
【0096】
なお、上述した実施の形態3においては、アルコール濃度センサ54が前記第3の発明における「燃料性状センサ」に、第2判定値が前記第4の発明における「所定の判定値」に、それぞれ相当している。また、ECU50が、上記ステップ114および122の処理を実行することにより前記第3の発明における「空気量制限手段」が、上記ステップ116の処理を実行することにより前記第4の発明における「消費量算出手段」が、上記ステップ124の処理を実行することにより前記第6の発明における「燃料噴射量補正手段」が、それぞれ実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1において内燃機関に燃料を供給する燃料系統を模式的に示す図である。
【図3】フィードバック補正値FAFの算出手法を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態3において内燃機関に燃料を供給する燃料系統を模式的に示す図である。
【図7】本発明の実施の形態3において実行されるルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0098】
10 内燃機関
12 吸気通路
14 排気通路
18 スロットル弁
26 インジェクタ
30 点火プラグ
38 触媒
40 Oセンサ
42 燃料タンク
44 燃料ポンプ
46 プレッシャレギュレータ
48 燃料パイプ
50 ECU
52 デリバリパイプ
54 アルコール濃度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
理論空燃比点の異なる多種の燃料によって運転可能な内燃機関を制御する装置であって、
前記内燃機関の排気通路に設置され、排気ガスの空燃比に応じた出力を発する排気ガスセンサと、
前記排気ガスセンサの出力に基づいて、空燃比フィードバック制御を行う空燃比フィードバック制御手段と、
前記空燃比フィードバック制御において算出されるフィードバック補正値に基づいて、燃料の種類に起因する誤差を補正するための燃料学習を行う燃料学習手段と、
燃料タンクへの給油を検知する給油検知手段と、
前記給油検知手段によって給油が検知された場合に、その後の運転中において、前記燃料学習が完了するまで、前記内燃機関の吸入空気量を制限する空気量制限手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
理論空燃比点の異なる多種の燃料によって運転可能な内燃機関を制御する装置であって、
燃料タンクへの給油を検知する給油検知手段と、
前記給油検知手段によって給油が検知された場合に、その後の運転中における、経過時間、走行距離、または積算燃料消費量を算出する算出手段と、
前記算出された経過時間、走行距離、または積算燃料消費量が所定の判定値に達するまでの間、前記内燃機関の吸入空気量を制限する空気量制限手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
理論空燃比点の異なる多種の燃料によって運転可能な内燃機関を制御する装置であって、
燃料タンクまたは燃料経路に設置され、燃料性状を検出する燃料性状センサと、
前記燃料性状センサによって検出される燃料性状が変化した場合に、前記内燃機関の吸入空気量を制限する空気量制限手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記燃料性状センサによって検出される燃料性状が変化した場合に、その変化後の積算燃料消費量を算出する消費量算出手段を更に備え、
前記空気量制限手段は、前記積算燃料消費量が所定の判定値に達するまで、吸入空気量を制限することを特徴とする請求項3記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記判定値は、前記燃料性状センサの設置箇所からインジェクタ先端までの燃料通路内の燃料がすべて置換されるまで、吸入空気量の制限が継続されるような値に設定されていることを特徴とする請求項4記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記積算燃料消費量が前記判定値に達した時点で、前記燃料性状センサによって検出された燃料性状に基づいて、燃料噴射量を補正する燃料噴射量補正手段を更に備えることを特徴とする請求項4または5に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−51063(P2008−51063A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230508(P2006−230508)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】