説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関のトルクを吸気量調整弁の弁開度と点火時期とによって制御することができる内燃機関の制御装置に関し、トルクの制御性の向上と燃費の向上とを高い次元で両立する。
【解決手段】いわゆるトルクリザーブ制御を行う内燃機関の制御装置において、要求トルクの変化量を取得し、当該変化量が大きいほどリザーブトルクを大きな値に補正する。また、目標回転数の変化、補機負荷の変化、或いはシフトチェンジによって、要求トルクが大きく変化する場合には、リザーブトルクの補正を禁止する。また、好ましくは、リザーブトルクの履歴を学習し、リザーブトルクの次回の補正値に反映させる。好ましくは、内燃機関の水温別、目標回転数別、補機類の可動状態別、或いはシフト状態別にモードを設定し、各モード毎に学習を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、内燃機関のトルクを吸気量調整弁の弁開度と点火時期とによって制御することができる内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特表平10−503259号公報では、いわゆるトルクリザーブ制御についての技術が開示されている。このシステムでは、より具体的には、内燃機関のアイドリング中に、負荷変化に対して急速に応答可能なように、点火角による所定のトルク余裕を設けることとしている。更に、上記従来のシステムでは、トルク余裕と燃料消費量との間の関係を考慮して、当該トルク余裕値をエンジン回転速度や走行速度等の運転変数の関数として設定することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平10−503259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、運転変数(回転数、車速、負荷、水温等)の変化に応じてトルク余裕値(リザーブトルク)の設定値が変化する。このため、例えば、エンジン回転数の変化や補機負荷の変化、或いはシフトチェンジ等により要求トルクが大きく変化する場合においては、リザーブトルクがこれらに連動して大きな値に設定されてしまい、燃費の悪化を招くおそれがあった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、トルクの制御性の向上と燃費の向上とを高い次元で両立することを可能とした内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、吸入空気量を調整する吸気量調整弁の開度と点火時期とによって動作を制御される内燃機関の制御装置において、
機関要求として取得した要求トルクにリザーブトルクを上乗せしたトルクが前記内燃機関で実現されるための目標弁開度と、前記目標弁開度によって前記要求トルクが実現されるための目標点火時期と、をそれぞれ算出する目標値算出手段と、
前記要求トルクの変化量を取得する変化量取得手段と、
前記目標トルクの変化量が大きいほど、前記リザーブトルクを大きな値に補正する補正手段と、
前記目標トルクの変化量が所定の大変化量である場合に、前記補正手段の実行を制限する制限手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、
前記所定の大変化量は、目標回転数の変化、補機負荷の変化、或いはシフトチェンジに起因した前記要求トルクの変化量であることを特徴とする。
【0008】
第3の発明は、第2の発明において、
前記補正手段は、前記リザーブトルクの履歴を学習する学習手段を含み、前記学習手段による学習値に応じて、前記リザーブトルクの補正量を可変に設定することを特徴とする。
【0009】
第4の発明は、第3の発明において、
前記学習手段は、前記内燃機関の運転モード毎に前記リザーブトルクの履歴を学習することを特徴とする。
【0010】
第5の発明は、第4の発明において、
前記運転モードは、前記内燃機関の水温別、目標回転数別、補機類の可動状態別、或いはシフト状態別に設定されるモードであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、リザーブトルクは、要求トルクの変化量が大きいほど大きい値に補正される。このため、本発明によれば、急激に要求トルクが変化した場合であっても、応答性よく要求トルクを実現することができる。また、第1の発明によれば、要求トルクの変化量が所定の大変化量である場合に、該リザーブトルクの補正が制限される。このため、本発明によれば、要求トルクが大きく変化した場合にリザーブトルクを大きく補正しないため、燃費悪化を効果的に抑制することができる。
【0012】
第2の発明によれば、目標回転数の変化、補機負荷の変化、或いはシフトチェンジにより要求トルクが大きく変化した場合に、該リザーブトルクの補正が制限される。このため、本発明によれば、リザーブトルクを必要以上に大きな値に補正する機会が減るため、燃費悪化を効果的に抑制することができる。
【0013】
第3の発明によれば、過去のリザーブトルクの履歴が学習値として学習されて、次回のリザーブトルクの補正量に反映される。このため、本発明によれば、素早く適切なリザーブトルクを設定することができるので、燃費の向上とトルク制御性の向上とを両立することができる。
【0014】
第4の発明によれば、内燃機関の運転モード毎にリザーブトルクが学習される。このため、本発明によれば、複数の運転モードに対して、それぞれ最適なリザーブトルクを設定することができる。
【0015】
第5の発明によれば、運転モードは、内燃機関の水温別、目標回転数別、補機類の可動状態別、或いはシフト状態別に設定されている。このため、本発明によれば、各運転モード別にリザーブトルクの最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1としての内燃機関の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】要求トルクの変化量とリザーブトルク補正量との関係を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態3において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態4において実行されるルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1について図1乃至図3の各図を参照して説明する。
【0018】
[実施の形態1の構成]
本実施の形態にかかる内燃機関は、火花点火式の内燃機関であって、その動作を制御するためのアクチュエータとしてスロットル弁、点火装置及び燃料噴射装置を備えている。本実施の形態の制御装置は、いわゆるトルクデマンド制御によって内燃機関を制御するものであり、要求トルクを含む種々の機関要求に基づいて各アクチュエータの制御に用いる目標値、すなわち、目標スロットル開度、目標点火時期、及び目標A/Fを算出する。なお、ここでいう機関要求とは、内燃機関の動作を決定する物理量の要求値である。内燃機関の動作はトルク、効率及びA/F(空燃比)の3つの物理量によって決定することができることから、機関要求としては要求トルク、要求効率及び要求A/Fが入力される。
【0019】
本実施の形態の制御装置は、図1のブロック図にて示すように構成されている。図1では制御装置の各要素をブロックで示し、ブロック間の信号の伝達(主なもの)を矢印で示している。以下、図1を参照して本実施の形態の制御装置の全体の構成と、その特徴について説明する。
【0020】
本実施の形態の制御装置は、内燃機関に要求されるトルクを取得する要求トルク取得部2と、内燃機関に要求される効率を取得する要求効率取得部4と、内燃機関に要求されるA/Fを取得する要求A/F取得部6とを備えている。各要求は車両の駆動系全体を制御する上位の制御装置から発せられている。
【0021】
本実施の形態の制御装置は、入力された各機関要求(要求トルク、要求効率、及び要求A/F)と、内燃機関の現在の運転状態に関する機関情報とに基づいて目標スロットル開度、目標点火時期及び目標A/Fを算出する。その計算を行うのがトルク実現部10である。トルク実現部10は内燃機関の逆モデルにあたり、マップや関数で表された複数の統計モデルや物理モデルで構成されている。内燃機関の逆モデルの構成は、制御装置による内燃機関の制御特性を特徴付けるが、本実施の形態では要求トルク、要求効率、及び要求A/Fのうち、要求トルクを最優先して実現するような構成とされている。
【0022】
トルク実現部10に入力される要求トルクと要求効率とは、直接には目標スロットル開度の計算に用いられる信号となる。また、トルク実現部10に入力される要求A/Fは、直接には目標A/Fの計算に用いられる信号となる。内燃機関の動作を制御するためには、これらの信号に加えて目標点火時期の計算に用いる信号が必要であり、トルク実現部10にはその信号を生成する機能も備えられている。
【0023】
本実施の形態の制御装置において目標点火時期の計算に用いられる信号はトルク効率である。トルク効率は、内燃機関の推定トルクに対する要求トルクの比として定義される。トルク実現部10は、トルク効率の算出ための要素として、推定トルク算出部112及びトルク効率算出部114を備えている。
【0024】
推定トルク算出部112は、現在のスロットル開度から内燃機関のトルクを推定計算する。より詳しくは、現在のスロットル開度で実現できる吸入空気量を吸気系の物理モデルであるエアモデルを用いて計算する。次に、エアモデルで計算した見込みの吸入空気量をトルクマップに照合してトルクに変換する。トルクマップは、トルクと吸入空気量との関係を示す統計モデルであり、吸入空気量を含む複数のパラメータを軸とする多次元マップになっている。各パラメータには現在の機関情報から得られる値が入力される。ただし、点火時期は最適点火時期(MBTとトレースノック点火時期のうちより遅角側の点火時期)とされている。推定トルク算出部112は、見込みの吸入空気量から変換されたトルクを内燃機関の最適点火時期における推定トルクとして算出する。
【0025】
トルク効率算出部114は、トルク実現部10に入力された要求トルクと、推定トルク算出部112で算出された推定トルクとの比をトルク効率として算出する。後述するが、スロットル開度は要求トルクを要求効率で除算して嵩上げした補正要求トルクを実現するように制御される。これは要求効率の分だけ低下するトルクを吸入空気量の増量によって補うためである。ただし、スロットル開度の変化に対する実際の吸入空気量の応答には遅れがあるため、実際に出力可能なトルク(推定トルク)は要求効率の変化に対して応答遅れを有している。推定トルクと要求トルクとの比であるトルク効率は、要求効率と実際の吸入空気量の変化とを共に目標点火時期の計算に反映させるためのパラメータになっている。少なくとも吸入空気量が一定となった定常状態では、理論的には推定トルクは補正要求トルクに一致し、トルク効率は要求効率に一致するようになる。
【0026】
ところで、車両駆動系の上位制御装置から内燃機関に発せられる要求トルク、要求効率及び要求A/Fは、各々が独立して生成されるものであって他機関要求との関係で実現可能な値かどうかは考慮されていない。このため、各機関要求の大きさの関係によっては筒内の燃焼条件が燃焼限界を超えてしまう可能性がある。そこで、トルク実現部10には、内燃機関の適正運転が可能になるように、内燃機関の各制御に用いられる信号の大きさを修正する修正部20が設けられている。より詳しくは、修正部20は、要求トルク、要求効率、要求A/F、およびトルク効率のそれぞれについて、その値を所定範囲に制限するためのガード部(図示省略)を備えている。各ガード部に設定されているガード値は可変であり、内燃機関の運転状態に応じて適宜の値がセットされる。
【0027】
修正部20による処理の結果、アクチュエータを制御するための各目標値の計算に使用される主信号は、修正後の要求トルク、要求効率、要求A/F、及びトルク効率となる。トルク実現部10は、修正後の要求トルク及び要求効率に基づいて目標スロットル開度を算出する。また。トルク実現部10は、修正後のトルク効率に基づいて目標点火時期を算出する。また、トルク実現部10は、修正後の要求A/Fを目標A/Fとして算出する。
【0028】
トルク実現部10は、目標スロットル開度の計算のため、要求トルク補正部102、吸入空気量算出部104、及びスロットル開度算出部106を備えている。修正後の要求トルクと要求効率とは、要求トルク補正部102に入力される。要求トルク補正部102は要求トルクを要求効率で除算して補正し、効率補正後の要求トルクを吸入空気量算出部104に出力する。修正後の要求効率の値が1よりも小さければ、要求効率による除算によって要求トルクは嵩上げされ、嵩上げされた要求トルクが吸入空気量算出部104に供給される。
【0029】
吸入空気量算出部104は、効率補正された要求トルクを吸入空気量に変換する。要求トルクの吸入空気量への変換には空気量マップが用いられる。空気量マップは、トルクと吸入空気量との関係を示す統計モデルであり、トルクを含む複数のパラメータを軸とする多次元マップになっている。各パラメータには現在の機関情報から得られる値が入力される。ただし、点火時期は最適点火時期とされている。また、機関回転数は、後述する機関回転数取得部120から出力された値が使用される。吸入空気量算出部104は、効率補正された要求トルクから変換された吸入空気量を目標吸入空気量として算出する。
【0030】
スロットル開度算出部106は、目標吸入空気量を実現するためのスロットル開度を算出する。その計算にはエアモデルの逆モデル(以下、「エア逆モデル」と称する)が用いられる。エアモデルによる計算には、機関回転数やバルブタイミング等の吸入空気量に影響する各種の運転状態に関する機関情報が用いられる。スロットル開度算出部106は、目標吸入空気量から変換されたスロットル開度を目標スロットル開度として出力する。
【0031】
トルク実現部10は、修正後のトルク効率から目標点火時期を計算するため、点火時期算出部116を備えている。点火時期算出部116は、修正後のトルク効率から最適点火時期に対する遅角量を計算する。遅角量の計算には遅角量マップ等の統計モデルが用いられる。遅角量マップは、トルク効率を含む複数のパラメータを軸とする多次元マップになっている。各パラメータには、機関回転数やバルブタイミング等の点火時期に影響する各種の運転状態に関する機関情報が用いられる。トルク効率が小さいほど点火遅角量は大きい値に設定される。また、点火時期算出部116は、内燃機関の運転状態に基づいて最適点火時期を計算する。点火時期算出部116は、点火遅角量を最適点火時期に加算し、得られた最終的な点火時期を目標点火時期として出力する。
【0032】
[実施の形態1の動作]
(トルクリザーブ制御について)
次に、本実施の形態の制御装置が行うトルクリザーブ制御について簡単に説明する。要求効率取得部4において取得された要求効率が1より小さい場合には、要求トルク補正部102において要求トルクが嵩上げされることになり、その分だけスロットル開度(吸入空気量)が増大する。この場合、要求トルクの嵩上げ分は、トルクアップ動作を迅速に行うために余分に確保されるトルクであり、いわゆる「リザーブトルク」に相当している。
【0033】
トルクリザーブ制御では、より具体的には、トルクアップ動作に高い応答性が要求される状況下において、予め要求トルクに対してリザーブトルクを付加しておく。この状態においては、当該リザーブトルクの分だけトルクが増大することとなる。このため、トルクアップ動作が不要な場合には、リザーブトルクの大きさに応じて点火時期を遅角した状態に保持し、トルクの増大分を点火時期の遅角により相殺することとしている。
【0034】
一方、リザーブトルクを確保した状態において、要求トルクが大きくなりトルクアップ動作が必要になった場合には、遅角していた点火時期を進角させる。これにより、吸入空気量を増やしてトルクを増大させる場合に比して、トルクアップ動作を迅速に行うことができる。このように、トルクリザーブ制御では、予め点火時期を遅角しておくことにより、トルクアップ要求に対して、高い応答性を確保することができる。
【0035】
(実施の形態1の特徴的動作)
次に、図2を参照して、本実施の形態の特徴的動作について詳細に説明する。要求トルクは、エアコンやオルタネータ等の補機類の負荷を含んで決定される。このため、外気温度や発電状態によって補機類の負荷が変動すると、これに応じて要求トルクも変動することとなる。
【0036】
ここで、要求トルクの変化が予め設定されたリザーブトルクの嵩上げ分を超えて変動した場合には、点火時期の進角制御によって要求トルクを実現することができなくなってしまう。このため、トルク制御性を向上させる観点からは、リザーブトルクを極力大きく設定することが好ましい。しかしながら、リザーブトルクを常に大きく設定すると燃焼効率が低下する。このため、燃費を向上させる観点からは、リザーブトルクを極力小さく設定するほうが好ましい。
【0037】
そこで、本実施の形態1では、所定期間の要求トルクの変化量に応じて、リザーブトルクを補正することとする。より具体的には、要求トルクの変動幅が大きいほど、該リザーブトルクが大きくなるように補正することとする。図2は、要求トルクの変化量とリザーブトルク補正量との関係を説明するための図である。この図においては、要求トルクの変化量として、所定期間の要求トルクの変動幅を用いている。尚、所定期間は、時間またはクランク角度の何れで規定されていてもよい。また、要求トルクの変化量は、当該要求トルクの変動幅に限らず、所定期間の平均値や標準偏差等、他の統計手法に基づいて特定してもよい。
【0038】
図2に示すような制御によれば、要求トルクの変動幅の大きい期間では、リザーブトルクが大きな値に補正されるので、要求トルクが大きく変化した場合でも応答性よく要求トルクを実現することができる。また、要求トルクの変動幅の小さい期間では、リザーブトルクが小さな値に補正されるので、トルクの制御性に影響を与えることなく燃費を効果的に向上させることができる。このように、上述した実施の形態1のシステムによれば、トルクの制御性の向上と燃費の向上とを高い次元で両立することが可能となる。
【0039】
[実施の形態1における具体的処理]
次に、図3を参照して、本実施の形態において実行する処理の具体的内容について説明する。図3は、本実施の形態の制御装置が実行するルーチンのフローチャートである。
【0040】
図3に示すルーチンでは、先ず、トルクリザーブ制御の実行条件が成立しているか否かが判定される(ステップ100)。ここでは、具体的には、アイドル付近の領域での回転数制御の実行中か否か等の条件が判定される。その結果、トルクリザーブ制御の実行条件が成立していないと判定された場合には、本ルーチンは速やかに終了される。
【0041】
一方、上記ステップ100において、トルクリザーブ制御の実行条件が成立していると判定された場合には、次のステップに移行し、要求トルクが取得される(ステップ102)。ここでは、具体的には、要求トルク取得部2において取得された要求トルクが読み込まれる。次に、要求トルクの変化量が算出される(ステップ104)。ここでは、具体的には、上記ステップ102において取得された要求トルクの変動幅が算出される。
【0042】
次に、所定期間が経過したか否かが判定される(ステップ106)。その結果、所定期間が経過していないと判定された場合には、上記ステップ102に移行し、再度要求トルクが取得される。一方、上記ステップ106において、所定期間が経過したと判定された場合には、次のステップに移行し、リザーブトルクが補正される(ステップ108)。ここでは、具体的には、リザーブトルクが上記ステップ104において算出された要求トルクの変動幅と同等の大きさになるように補正される。
【0043】
以上説明したとおり、本実施の形態1によれば、所定期間の要求トルクの変動幅に応じてリザーブトルクの大きさを補正することができるので、トルクの制御性の向上と燃費の向上とを高い次元で両立することが可能となる。
【0044】
ところで、上述した実施の形態1では、要求トルク変化量として、所定期間の要求トルクの変動幅を算出することとしているが、該要求トルク変化量はこれに限られない。すなわち、要求トルク変化量を表す値であれば、所定期間における目標トルクの平均値や標準偏差、或いは他の統計手法を用いて算出された値を用いることとしてもよい。
【0045】
また、上述した実施の形態1では、リザーブトルクを補正する際に、該リザーブトルクが要求トルク変動量と同等の大きさになるように補正することとしているが、当該補正後のリザーブトルクの値はこれに限られない。すなわち、要求トルク変化量が大きいほどリザーブトルクが大きくなるように補正されるのであれば、その値は適宜最適な値に設定することとしてもよい。
【0046】
以上、本発明の実施の形態1について説明した。実施の形態1には、本発明のうち第1の発明の一部が具現化されている。詳しくは、制御装置が、上記ステップ102〜106の処理を実行することにより、前記第1の発明の「変化量取得手段」が、上記ステップ108の処理を実行することにより、前記第1の発明の「補正手段」が、それぞれ実現されている。
【0047】
実施の形態2.
[実施の形態2の特徴]
本発明の実施の形態2について図4を参照して説明する。本実施の形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、制御装置に後述する図4に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0048】
本実施の形態2では、要求トルクが大きく変化する領域では、上述した実施の形態1のリザーブトルクの補正を行わない点に特徴がある。すなわち、目標回転数の変化や、エアコンやライトのスイッチを入れることによる補機負荷の変化、シフトチェンジ等の場合においては、要求トルクが大きく変化する。これらに起因する要求トルクの変化は、運転条件や各種スイッチの情報等から予め予測することができる。そこで、本実施の形態2では、上述した要因による要求トルクの大きな変化が予想される期間は、上述した実施の形態1におけるリザーブトルクの補正を行わないこととする。これにより、要求トルクが大きく変化する場合にリザーブトルクが大きく設定される事態を回避できるので、燃費の悪化
を効果的に抑制することができる。
【0049】
[実施の形態2における具体的処理]
次に、図4を参照して、本実施の形態において実行する処理の具体的内容について説明する。図4は、本実施の形態の制御装置が実行するルーチンのフローチャートである。
【0050】
図4に示すルーチンでは、先ず、トルクリザーブ制御の実行条件が成立しているか否かが判定される(ステップ200)。ここでは、具体的には、上記ステップ100と同様の処理が実行される。その結果、トルクリザーブ制御の実行条件が成立していないと判定された場合には、本ルーチンは速やかに終了される。
【0051】
一方、上記ステップ200において、トルクリザーブ制御の実行条件が成立していると判定された場合には、次のステップに移行し、要求トルク変化情報が取得される(ステップ202)。ここでは、具体的には、目標回転数情報、エアコンやヘッドライト等の補機類のスイッチ情報、シフトチェンジ情報等、要求トルクの変化に関連する各種情報が取得される。
【0052】
次に、要求トルクの変化領域か否かが判定される(ステップ204)。ここでは、具体的には、上記ステップ202において取得された情報に基づいて、上述した目標回転数、補機負荷、シフトチェンジに起因する要求トルクの変化情報の取得から所定期間経過したか否かが判定される。その結果、要求トルクの変化領域でないと判定された場合には、要求トルクが大きく変化しないと判断されて、次のステップに移行し、リザーブトルクの補正制御が実行される(ステップ206)。ここでは、具体的には、上記ステップ100〜108の処理と同様の処理が実行される。
【0053】
一方、上記ステップ204において、要求トルクの変化領域であると判定された場合には、要求トルクが大きく変化すると判断されて、上記ステップ206を実行せずに、つまりリザーブトルクの補正が実行されずに、本ルーチンが終了される。
【0054】
以上説明したとおり、本実施の形態2によれば、目標回転数、補機負荷、シフトチェンジに起因する要求トルクの変化領域では、リザーブトルクの補正が制限(禁止)される。これにより、リザーブトルクが必要以上に大きな値に補正されて燃費が悪化する事態を効果的に抑制することができる。
【0055】
ところで、上述した実施の形態1では、目標回転数、補機負荷、シフトチェンジに起因する要求トルクの変化情報を取得した時点から所定期間を要求トルク変化領域と特定しているが、該要求トルク変化領域の特定方法はこれに限られない。すなわち、補機負荷等が変化して要求トルクが実際に上昇して安定するまでのディレイを考慮して当該領域を特定するのであれば、所定期間を補機の種類別に設定してもよいし、また一定値として設定してもよい。
【0056】
以上、本発明の実施の形態2について説明した。実施の形態2には、本発明のうち第1および第2の発明が具現化されている。詳しくは、制御装置が、上記ステップ204の処理を実行することにより、前記第1の発明の「制限手段」が実現されている。
【0057】
実施の形態3.
[実施の形態3の特徴]
本発明の実施の形態3について図5を参照して説明する。本実施の形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、制御装置に後述する図5に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0058】
本実施の形態3では、前回のトルクリザーブ制御においてリザーブトルク量を学習し、次回のトルクリザーブ制御において、学習したリザーブトルク量を反映させる点に特徴がある。すなわち、上述した実施の形態1或いは2では、要求トルクの変化量に応じてリザーブトルクを補正することとしている。しかしながら、所定期間の要求トルクの変化量を算出した後にリザーブトルクを補正する構成のため、該リザーブトルクが最適値に収束するまでに時間を要してしまう。
【0059】
そこで、本実施の形態3では、前回のトルクリザーブ制御時に算出されたリザーブトルクの補正量を学習値として保存して、次回のトルクリザーブ制御で使用することとする。これにより、リザーブトルクを即座に最適値に補正することができるので、更なる燃費の向上とトルク制御性の向上とを図ることができる。
【0060】
[実施の形態3における具体的処理]
次に、図5を参照して、本実施の形態において実行する処理の具体的内容について説明する。図5は、本実施の形態の制御装置が実行するルーチンのフローチャートである。
【0061】
図5に示すルーチンでは、先ず、トルクリザーブ制御の実行履歴が判定される(ステップ300)。アイドル時のトルクリザーブ制御では、ドライバのアクセル操作によってアイドル状態を抜けると当該トルクリザーブ制御が終了する。ここでは、具体的には、前回のトルクリザーブ制御の終了履歴有無が判定される。その結果、トルクリザーブ制御の終了履歴があると判定された場合には、次のステップに移行し、リザーブトルクの補正量が学習値として保存される(ステップ302)。ここでは、具体的には、前回のトルクリザーブ制御において上記ステップ108を実行した際のリザーブトルクの補正量が学習値として保存される。
【0062】
次に、リザーブトルクに学習値が反映される(ステップ304)。ここでは、具体的には、次回のトルクリザーブ制御において、リザーブトルクの補正値として、上記ステップ302において保存された学習値が使用される。
【0063】
以上説明したとおり、本実施の形態3によれば、トルクリザーブ制御において、リザーブトルクの補正値に前回の制御において算出された補正値が使用される。これにより、リザーブトルクを即座に最適値に補正することができるので、更なる燃費の向上とトルク制御性の向上とを図ることができる。
【0064】
ところで、上述した実施の形態1では、前回のトルクリザーブ制御で算出された補正値をリザーブトルクの学習値として保存することとしているが、保存される学習値はこれに限られない。すなわち、リザーブトルクの補正値の履歴に基づいて、最適な補正値を算出し、これを学習値として保存することとしてもよい。
【0065】
以上、本発明の実施の形態3について説明した。実施の形態3には、本発明のうち第3の発明が具現化されている。詳しくは、制御装置が、上記ステップ302の処理を実行することにより、前記第3の発明の「学習手段」が実現されている。
【0066】
実施の形態4.
[実施の形態4の特徴]
本発明の実施の形態4について図6を参照して説明する。本実施の形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、制御装置に後述する図6に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0067】
本実施の形態4では、トルクリザーブ制御を複数のモードに分けて、各モード毎に上述した実施の形態3の学習制御を行う点に特徴がある。すなわち、リザーブトルクの補正値の最適値は、機関回転数、水温、補機負荷、或いはシフトポジション等、運転モード別に異なる。そこで、本実施の形態4では、これらの運転モード別に上述した実施の形態3のリザーブトルク補正値の学習制御を行うこととする。これにより、リザーブトルク補正値の更なる最適化を図ることができる。
【0068】
[実施の形態4における具体的処理]
次に、図6を参照して、本実施の形態において実行する処理の具体的内容について説明する。図6は、本実施の形態の制御装置が実行するルーチンのフローチャートである。
【0069】
図6に示すルーチンでは、先ず、運転モードが判定される(ステップ400)。ここでは、具体的には、目標回転数別、水温別、補機類の通電状態別、シフトポジション別に分類された複数の運転モードの何れに属しているかが判定される。
【0070】
次に、モードが変化したか否かが判定される(ステップ402)。その結果、モードが変化したと判定された場合には、次のステップに移行し、リザーブトルクの補正値が学習値として保存される(ステップ404)。ここでは、具体的には、当該モードにおいて算出されたリザーブトルクの補正値が学習値として保存される。
【0071】
このように、上記ステップ400〜404の処理が種々のモードで実行されることにより、各モードにおける学習値が保存される。このため、次回のトルクリザーブ制御において、対応するモードの学習値を用いることにより、リザーブトルクの補正値をさらに最適化することが可能となる。
【符号の説明】
【0072】
2 要求トルク取得部
4 要求効率取得部
6 要求A/F取得部
10 トルク実現部
20 修正部
102 要求トルク補正部
104 吸入空気量算出部
106 スロットル開度算出部
112 推定トルク算出部
114 トルク効率算出部
116 点火時期算出部
130 最適点火時期算出部
132 点火遅角量算出部
134 遅角量判定部
136 点火時期補正部
140 トルク調停部
142 目標トルク取得部
144 トルク判定部
150 効率調停部
152 目標効率取得部
154 効率判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入空気量を調整する吸気量調整弁の開度と点火時期とによって動作を制御される内燃機関の制御装置において、
機関要求として取得した要求トルクにリザーブトルクを上乗せしたトルクが前記内燃機関で実現されるための目標弁開度と、前記目標弁開度によって前記要求トルクが実現されるための目標点火時期と、をそれぞれ算出する目標値算出手段と、
前記要求トルクの変化量を取得する変化量取得手段と、
前記要求トルクの変化量が大きいほど、前記リザーブトルクを大きな値に補正する補正手段と、
前記要求トルクの変化量が所定の大変化量である場合に、前記補正手段の実行を制限する制限手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記所定の大変化量は、目標回転数の変化、補機負荷の変化、或いはシフトチェンジに起因した前記要求トルクの変化量であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記リザーブトルクの履歴を学習する学習手段を含み、前記学習手段による学習値に応じて、前記リザーブトルクの補正量を可変に設定することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記学習手段は、前記内燃機関の運転モード毎に前記リザーブトルクの履歴を学習することを特徴とする請求項3記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記運転モードは、前記内燃機関の水温別、目標回転数別、補機類の可動状態別、或いはシフト状態別に設定されるモードであることを特徴とする請求項4記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−216419(P2010−216419A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65934(P2009−65934)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】