半導体ウェハの表面検査装置、及び半導体ウェハの表面検査方法
【課題】半導体ウェハの検査工程を効率化することのできる半導体ウェハの表面検査装置を提供すること。
【解決手段】光照射手段2、受光手段、光電変換手段6、信号増幅手段26、計測手段22、及び計数手段23を備えた半導体ウェハの表面検査装置は、信号増幅手段26による増幅倍率を固定したときに、予め標本測定により算出された半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じて設定された信頼区間幅が格納された信頼区間幅格納手段25と、信号増幅手段26による増幅倍率を固定して、異物又は欠陥の大きさに応じた信頼区間幅に基づいて、計測手段22により計測された半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを算出し、該半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じた計数値から、半導体ウェハ表面の良否判定を行う良否判定手段24とを備えている。
【解決手段】光照射手段2、受光手段、光電変換手段6、信号増幅手段26、計測手段22、及び計数手段23を備えた半導体ウェハの表面検査装置は、信号増幅手段26による増幅倍率を固定したときに、予め標本測定により算出された半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じて設定された信頼区間幅が格納された信頼区間幅格納手段25と、信号増幅手段26による増幅倍率を固定して、異物又は欠陥の大きさに応じた信頼区間幅に基づいて、計測手段22により計測された半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを算出し、該半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じた計数値から、半導体ウェハ表面の良否判定を行う良否判定手段24とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハの表面検査装置、及び半導体ウェハの表面検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェハ表面の微細な欠陥や異物の有無を検査する方法として、半導体ウェハ表面にレーザ光を照射し、欠陥等にレーザ光が照射された際の微弱な光散乱を、光電子増倍管を用いて増幅して電気信号として検出し、検出された欠陥の大きさがどの程度のものであるかを把握し、その数を計数して、ウェハの良否判定を行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
一方、半導体デバイス製造業者からの半導体ウェハの要求品質としては、例えば、半導体ウェハの外周から3mmより内側で、0.12μm〜0.30μmのサイズの欠陥がいくつ以下であること等が挙げられる。
【0003】
【特許文献1】特開2001−264264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような光電子増倍管により増幅する方法では、光電子増倍管をある一定の増幅倍率(ゲイン)に固定し、小さな欠陥から大きな欠陥までを検出することは困難である。
これは、ある増幅倍率で検出できる欠陥の大きさが、光電子増倍管の増幅倍率によって異なっており、一定の増幅倍率に固定して検出することは、半導体ウェハの表面検査装置を製造する側では保証していないからである。
また、光電子増倍管による検出においては、半導体ウェハのエッジ近傍で生じるハレーション、半導体ウェハの表面の高Hazeや、表面検査装置の電気信号処理におけるシステムノイズ等のバックグラウンドノイズ等により、高精度に半導体ウェハ表面の欠陥を検出することが困難である。
このため、従来、この種の表面検査においては、各ゲインで保証されたサイズの欠陥の数を計数し、これが要求品質を満たすかどうかによってウェハの良否判定を行っていた。この場合、上記理由により検出が保証された欠陥の大きさの範囲は限られているため、被検査対象となる各ウェハについてゲインを変更して複数回の欠陥の計数を行わなければならず、検査工程の煩雑化を招くという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、半導体ウェハの検査工程を効率化することのできる半導体ウェハの表面検査装置、及び半導体ウェハの表面検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る半導体ウェハの表面検査装置は、
被検査対象物となる半導体ウェハの表面を光学的手法によって測定し、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥を検出する半導体ウェハの表面検査装置であって、
前記半導体ウェハ表面に光を照射する光照射手段と、
前記半導体ウェハ表面からの反射光又は散乱光を受光する受光手段と、
前記受光手段で受光された光を、光電効果により電気信号に変換する光電変換手段と、
前記光電変換手段で変換された電気信号を増幅する信号増幅手段と、
前記信号増幅手段で増幅された電気信号に基づいて、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを計測する計測手段と、
前記計測手段で計測された異物又は欠陥の大きさに応じてその数を計数する計数手段と、
前記信号増幅手段による各増幅倍率について、予め標本測定により算出された前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じて設定された信頼区間幅が格納された信頼区間幅格納手段と、
前記信号増幅手段による増幅倍率を固定して、前記異物又は欠陥の大きさに応じた信頼区間幅に基づいて、前記計測手段により計測された前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを算出し、該半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じた計数値から、前記半導体ウェハ表面の良否判定を行う良否判定手段とを備えていることを特徴とする。
【0007】
ここで、信頼区間幅格納手段に格納される信頼区間幅は、1枚の半導体ウェハを標本とし、信号増幅手段による増幅倍率を固定して、この半導体ウェハ表面に光照射手段により光を照射して、受光手段、信号増幅手段、及び計測手段により計測された異物又は欠陥の大きさの計測値を複数得て、一般的な統計的手法により算出することができ、例えば、標本の平均値、及び分散を用いて母平均の信頼区間を推定することにより、算出することができる。
この発明によれば、半導体ウェハの表面検査装置が信頼区間幅格納手段を備え、良否判定手段は、この信頼区間幅格納手段に格納された、半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じた信頼区間幅に基づいて、半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを算出する。そして、大きさに応じた異物又は欠陥の計数値から、半導体ウェハ表面の良否判定を行っているので、信号増幅手段による増幅倍率を固定した状態で、異物又は欠陥の大きさを計測しても、計測値から信頼区間幅を引いた下限値を基準とし、計数手段による異物又は欠陥の計数を行うことができる。
従って、異物又は欠陥の大きさに応じて信号増幅手段による増幅倍率を変更することなく、高精度に半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の計数を行うことができ、半導体ウェハの良否判定の精度が向上するとともに、検査工程の大幅な短縮を図ることができる。
【0008】
本発明に係る半導体ウェハの表面検査方法は、
被検査対象物となる半導体ウェハの表面を光学的手法によって測定し、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥を検出する半導体ウェハの表面検査方法であって、
複数の前記半導体ウェハのうち、いずれか1つの半導体ウェハを標本として選択する手順と、
標本として選択された前記半導体ウェハの表面を光学的手法により測定し、電気信号に変換する手順と、
変換された電気信号を、増幅倍率を固定して増幅する手順と、
増幅された電気信号に基づいて、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを計測する手順と、
前記標本となる半導体ウェハについて、光学的手法により測定し、電気信号に変換する手順乃至前記異物又は欠陥の大きさを計測する手順を複数回繰り返し、得られた結果から前記異物又は欠陥の大きさの平均値及び分散を算出し、統計的手法により、前記異物又は欠陥の大きさに平均値に対する信頼区間幅を設定する手順と、
他の半導体ウェハの表面を、前記光学的手法により測定し、電気信号に変換するとともに、変換された電気信号を、前記固定された増幅倍率で増幅し、設定された前記信頼区間幅に基づいて、前記他の半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを計測し、前記他の半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じて、異物又は欠陥の数を計数することにより、該他の半導体ウェハの良否判定を行う手順とを実施することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、信号増幅手段による増幅倍率を固定した状態で、標本となる半導体ウェハ表面の大きさの異なる欠陥又は異物の大きさを複数回計測し、計測結果から異物又は欠陥の大きさに応じた信頼区間幅を設定し、他の半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の数を計数するに際して、欠陥又は異物の大きさに応じた信頼区間幅を考慮して計数することができるため、異物又は欠陥の数を高精度に計数することができ、良否判定を高精度に行うことができる。その上、異物又は欠陥の大きさが異なる場合であっても、増幅倍率を変更することなく、同じ増幅倍率で計数することができ、半導体ウェハ表面の検査を迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には、本発明の実施形態に係る半導体ウェハの表面検査装置1が示されており、この半導体ウェハの表面検査装置1は、レーザ発振器2、反射ミラー3、楕円面ミラー4、導光体5、及び光電子増倍管6を備えて構成され、楕円面ミラー4の下方に配置される半導体ウェハWの表面検査を行う装置である。
光照射手段としてのレーザ発振器2は、キャビティ内にアルゴンガスが封入された構成を具備し、キャビティ内のアルゴンガスを励起させることにより、所定波長のレーザ光を反射ミラー3に照射する。
【0011】
反射ミラー3は、レーザ発振器2から照射されたレーザ光を反射して、楕円面ミラー4の上面に形成された開口41に導く部材である。
楕円面ミラー4は、下面が楕円曲面状の反射面とされた集光部材であり、開口41から入ったレーザ光は、下方の半導体ウェハW表面に入射する。レーザ光が半導体ウェハW表面上の異物又は欠陥に照射されると、微弱な光散乱が生じ、楕円面ミラー4の反射面によって導光体5の光入射端面に入射する。
導光体5は、光ファイバ等の束として構成され、光入射端面51側は楕円面ミラー4の幅に応じた長方形状の端面として構成され、光射出側端面側は、光電子増倍管6の光入射面に応じた円形状の端面として構成されている。そして、楕円面ミラー4のいずれかの場所で生じた散乱光は、導光体5の光入射端面51で捕捉され、内面反射を繰り返しながら、光電子増倍管6に供給される。
【0012】
光電子増倍管6は、図1では図示を略したが、入射した光の光電変換を行う光電面と、光電面で変換された電子を増幅する複数の増幅電極から構成されており、導光体5から入射した散乱光は、光電効果により光電面で電子に変換され、電圧印加された複数の増幅電極によって増幅され、電気信号とされる。この光電子増倍管6による増幅倍率は、増幅電極への印加電圧を調整することにより、変更することができる。光電子増倍管6の後段には、図示を略したが、コンピュータ等の演算処理装置が設けられており、光電子増倍管6で増幅変換された電気信号は、このコンピュータで処理される。尚、増幅倍率は、光電子増倍管6と、コンピュータとの間に信号増幅器を設けることによって変更してもよい。
また、図1では図示を略したが、半導体ウェハWは、水平方向に移動自在なXYテーブル上に載置されている。そして、レーザ発振器2からレーザ光を照射しながら、このXYテーブルによって半導体ウェハWを水平方向に移動させることにより、半導体ウェハWの表面のレーザ光による走査が行われる。
【0013】
図2には、前述した半導体ウェハの表面検査装置1を制御するコンピュータ20が示されており、このコンピュータ20は、A/D変換器21、計測手段22、計数手段23、良否判定手段24、信頼区間幅格納手段25、増幅倍率切替手段26、電圧印加制御手段27、制御手段28、表示制御手段29、及びディスプレイ30を備えて構成される。
A/D変換器21は、光電子増倍管6から出力されたアナログ電気信号をコンピュータ20で処理可能なデジタル電気信号に変換する部分である。
計測手段22は、光電子増倍管6で検出された電気信号からLPDの大きさから異物又は欠陥の大きさを計測する部分であり、計測された異物又は欠陥の大きさを良否判定手段24に出力する。
計数手段23は、ある範囲の大きさの異物又は欠陥を計数する部分であり、計数された異物又は欠陥の数を良否判定手段24に出力する。
【0014】
良否判定手段24は、計測手段22で計測された異物又は欠陥の大きさ、及び計数手段23で計数された異物又は欠陥の数に基づいて、被検査対象物である半導体ウェハWの良否判定を行う部分である。
この際、良否判定手段24は、増幅倍率切替手段26で設定された電気信号の増幅倍率に基づいて、信頼区間幅格納手段25に格納された異物又は欠陥の大きさの範囲に応じて設定された信頼区間幅を参照し、計測手段22で計測された異物又は欠陥の大きさよりも信頼区間幅分内側設定された大きさの異物又は欠陥を、計数手段23で計数させる。
信頼区間幅格納手段25に格納された異物又は欠陥の大きさの範囲に応じて設定された信頼区間幅の設定方法については後述する。
【0015】
増幅倍率切替手段26は、光電子増倍管6による光電変換の際の電気信号の増幅倍率を変更する部分であり、増幅倍率切替手段26で増幅倍率が変更されると、電圧印加制御手段27で光電子増倍管6に印加される電圧が制御され、光電子増倍管6での増幅倍率が変更される。尚、本実施形態では、この増幅倍率切替手段26で変更可能な増幅倍率は、下記表1に示されるようにGain1〜Gain7に変更可能に構成され、Gain1〜Gain7のそれぞれの増幅倍率に応じて測定を保証する粒径範囲が決められている。
従って、従来の方法で半導体ウェハの表面検査装置1で測定する場合、測定する粒径範囲に応じて増幅倍率をGain1〜Gain7に変化させながら、欠陥又は異物の大きさ毎にLPDの数を計数しなければならない。
【0016】
【表1】
【0017】
制御手段28は、光照射手段としてのレーザ発振器2、及び半導体ウェハWの表面を走査するためのXYテーブル駆動機構7を駆動制御する部分である。
表示制御手段29は、良否判定手段24から出力される半導体ウェハW表面の画像をディスプレイ30に表示させ、良否判定手段24で判定されたLPDの計測値、計数値に基づいて、半導体ウェハW表面の異物又は欠陥の分布を画像表示する部分である。
【0018】
このような半導体ウェハの表面検査装置1により、半導体ウェハWの表面をレーザ光で走査した場合、半導体ウェハWの表面に異物又は欠陥があると、その部分で散乱現象が生じ、図3に示されるように、垂直入射するレーザ光の一部が散乱し、光電子増倍管6では、輝点(LPD:Light Point Defect)として検出される。尚、図3に示されるように、半導体ウェハWの平坦な部分で測定を行う際には、入射したレーザ光B1に対して、垂直に反射して開口41から出るレーザ光B2は略90%であり、楕円面ミラー4の反射面42で反射して導光体5で捕捉される散乱光B3、B4は、略5%程度である。
【0019】
しかしながら、図4に示すように、レーザ光が半導体ウェハWのエッジ近傍を照射する場合、半導体ウェハW表面の平坦度が悪くなるため、半導体ウェハWに垂直に入射したレーザ光B1のうち、垂直に反射して開口41から出るレーザ光B5の光線量は減少してしまい、導光体5で捕捉されるレーザ光B6、B7の量が増大してしまう。具体的には、半導体ウェハWのエッジ近傍におけるレーザ光B5は入射したレーザ光B1に対して略10%程度しかなく、導光体5で捕捉されるレーザ光B6、B7の方が略90%という逆転現象が見られる。
【0020】
このため、光電子増倍管6で検出されるLPDの分布をコンピュータによる処理を行って画像として把握すると、図5に示されるように、半導体ウェハWの中央領域は、LPD11が散点状に検出されるのだが、半導体ウェハWのエッジ領域では、半導体ウェハWの外周縁に沿った曲線状のLPD12が検出される。
これをハレーションと呼ぶが、これを光電子増倍管6で検出される信号強度で見ると、図6に示されるように、光電子増倍管6の回復曲線C1が領域R1の部分で信号強度の閾値T1を上回る信号強度となってしまう。この場合、光電子増倍管6の電荷飽和状態が回復するまで測定を行うことができない。
【0021】
一方、検出精度の低下の原因としては、上述したハレーションのみではなく、半導体ウェハの表面検査装置1のシステム的なノイズ、及び、被測定対象物である半導体ウェハWの表面のHazeの相互作用によって生じるゴーストによる疑似LPDの発生がある。
すなわち、図7に示されるように、光電子増倍管6で検出される電気信号は、半導体ウェハの表面検査装置1に応じたシステムノイズN1と半導体ウェハWの表面のHazeに起因するノイズN2が存在するが、通常は、LPDのピークP1からこれらのノイズN1、N2を除去するために、HPF(High Pass FIlter)によって一定の閾値T2以下のノイズ成分を除去している。
【0022】
しかしながら、システムノイズN1と半導体ウェハWの表面のHazeが相互に作用すると、本来、LPDのピークP1として検出されるものの他に、ゴースト、即ち疑似LPDのピークP2が閾値を超えて生じることがある。具体的には、半導体ウェハWの表面のHazeに起因するノイズN2が低く、システムノイズN1が小さい場合は、問題とならないが、いずれかのノイズが大きい場合には、疑似LPDのピークP2が閾値T2を超えて検出されることがある。
この場合、半導体ウェハWの表面には、図8に示されるように、本来の異物欠陥に基づくLPD11に隣接して、ゴーストに起因する疑似LPD13が分布することとなり、これも検出精度の低下の一因となる。
【0023】
このようなハレーション、ゴースト等の影響を確認するために、本発明者らは、増幅倍率Gain6、Gain7の2つの水準でハレーション、ゴースト等の発生状況を確認した。問題となるのは0.12μm付近でハレーション、ゴースト等の影響を受けることが確認され、増幅倍率がGain6よりもGain7を活用し、半導体ウェハの表面検査装置1のS/N(Signal/Noise)比を上げることにより、0.12μm付近のLPDをハレーション、ゴーストと分離できることが確認できた。
すなわち、ハレーションについては、Gain6→Gain7とすることにより、図9に示されるように、Gain7における閾値T2が上昇することとなるので、ハレーション発生領域が生じなくなる。
また、ゴーストについても同様に、図10に示されるように、0.12μm検出のための閾値(threshold)が上昇するために、同様に疑似LPDが検出されなくなる。
【0024】
このように増幅倍率をGain6からGain7と高感度側に設定することにより、ハレーション、ゴースト等の影響を受けないことを確認することができたが、前述した表1のように、半導体ウェハの表面検査装置1では、一定の増幅倍率で測定を保証する異物又は欠陥の大きさの範囲が限られているため、統計的手法を用いてこれらを補償することにより、0.12μm〜0.16μmの異物又は欠陥の大きさの範囲を保証するGain7で0.30μmまでの異物又は欠陥の大きさの範囲を測定することを可能とした。
具体的には、母集団の母平均μと母分散σ2を未知として、同一種類の半導体ウェハWの中から、標本として1枚の半導体ウェハWの表面の大きさの異なる異物又は欠陥の大きさを複数回測定する。尚、標本の標本平均xaveは、下記式(1)、標本の分散Vは、下記式(2)で求められる。
【0025】
【数1】
【0026】
標本平均xave、標本の分散Vが求められたら、この標本の分布がt分布に従うとすると、母集団の平均μの信頼区間は、次の式(3)で推定することができる。ここで、Nは標本のデータ数、φは自由度(=N−1)、t(φ、α/2)を自由度φ、両側確率αでのスチューデントのt分布の逆関数の値とする。
【0027】
【数2】
【0028】
次に、信頼率95%(1−α:0.95)とし、複数の半導体ウェハWのうちの1枚を標本として選択し、この半導体ウェハW表面の大きさの異なる異物又は欠陥の大きさを半導体ウェハの表面検査装置1で10回測定し、それぞれの異物又は欠陥の大きさにおける標本平均xave、標本の分散Vを算出したところ、表2のような結果が得られ、上記式(3)によって、それぞれの異物又は欠陥における信頼区間の推定を行ったところ、表3のような結果が得られた。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
これらを整理すると、図11に示されるように、増幅倍率Gain7で0.12μm〜0.30μmの異物又は欠陥を測定する場合、130nm(0.13μm)〜170nm(0.17μm)の範囲D1では、Gain7で保証する測定範囲なので、信頼区間幅は±0.00μm、すなわち、測定値をそのまま信頼してもよいことが判る。
次に、180nm(0.18μm)〜250nm(0.25μm)の範囲D2では、信頼率95%の信頼区間幅が±0.01μmとなるので、Gain7で測定した値に対して、信頼区間幅0.01μmを減じた内側の値を用いて異物又は欠陥の大きさを推定する。つまり、例えば、Gain7で平均値200nm(0.20μm)の異物又は欠陥を計数する際には、範囲D2の信頼区間幅0.01を減じた190nm(0.19μm)の大きさの異物又は欠陥として検出される可能性があるので、計数対象とする。
同様に、250nm(0.25μm)〜300nm(0.30μm)の範囲D3では、信頼区間幅が±0.02μmとなるので、測定値に対して−0.02μmを減じた測定値に対してもこのD3の範囲に含まれるものとして計数する。
【0032】
以上のような図11に示されるグラフ又は内側設定値の表が得られたら、この値を半導体ウェハの表面検査装置1のメモリ等の記憶手段に格納し、実際の測定に際しては、記憶手段に格納された内側設定値の値を参照して、他の半導体ウェハWの異物又は欠陥の大きさに応じたLPDの計数を行う。その際、LPDの大きさが信頼区間幅による内側設定値よりも大きなものは、すべてその範囲に含まれる大きさの異物又は欠陥であると判定して、計数手段による計数対象に含めて計数する。
このような本実施形態によれば、標本となる半導体ウェハWについて、増幅倍率を固定した状態で測定を行い、本来保証の範囲外の異物又は欠陥の大きさを測定し、これを信頼区間幅で内側設定を行った後、計数手段による他の半導体ウェハWの異物又は欠陥の計数を行っているため、半導体ウェハの表面検査装置において、異物又は欠陥の大きさに応じて増幅倍率Gain1〜Gain7を変更する必要がない。従って、従来の測定作業と比較して、測定作業の大幅な効率化を図ることができる上、測定精度が損なわれることもない。
尚、本実施形態は、異物又は欠陥の測定の実際のばらつきの分布からt分布として推察を行った例であり、推察から統計的手法で一般的に用いられる別の分布を用いる可能性もある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る半導体ウェハの表面検査装置を表す概要斜視図。
【図2】前記実施形態におけるコンピュータの構造を表すブロック図。
【図3】前記実施形態におけるハレーションが生じない状態での測定原理を説明する模式図。
【図4】前記実施形態におけるハレーションが生じる原理を説明する模式図。
【図5】前記実施形態におけるハレーションが発生した際のLPDの分布を示す模式図。
【図6】前記実施形態における光電子増倍管の回復曲線とハレーションが発生する領域を表すグラフ。
【図7】前記実施形態におけるゴーストによる疑似LPDが生じる原理を説明するためのグラフ。
【図8】前記実施形態における疑似LPDが発生した際のLPDの分布を示す模式図。
【図9】前記実施形態における増幅倍率を高倍率側に設定した際の光電子増倍管の回復曲線と閾値の関係を表すグラフ。
【図10】前記実施形態における増幅倍率を高倍率側に設定した際の光電子増倍管の疑似LPDのピーク高さと閾値の関係を表すグラフ。
【図11】前記実施形態におけるLPDの大きさの範囲と信頼区間の関係を表すグラフ。
【符号の説明】
【0034】
1…半導体ウェハの表面検査装置、2…レーザ発振器、3…反射ミラー、4…楕円面ミラー、5…導光体、6…光電子増倍管、7…テーブル駆動機構、11、12、13…LPD、20…コンピュータ、21…A/D変換器、22…計測手段、23…計数手段、24…良否判定手段、25…信頼区間幅格納手段、26…増幅倍率切替手段、27…電圧印加制御手段、28…制御手段、29…表示制御手段、30…ディスプレイ、41…開口、42…反射面、51…光入射端面、B1…レーザ光、B2…レーザ光、B3、B4…散乱光、B5…レーザ光、B6…レーザ光、C1…回復曲線、D1、D2、D3…範囲、N1…システムノイズ、N2…高Hazeによるノイズ、P1、P2…ピーク、R1…領域、T1、T2…閾値、W…半導体ウェハ
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハの表面検査装置、及び半導体ウェハの表面検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェハ表面の微細な欠陥や異物の有無を検査する方法として、半導体ウェハ表面にレーザ光を照射し、欠陥等にレーザ光が照射された際の微弱な光散乱を、光電子増倍管を用いて増幅して電気信号として検出し、検出された欠陥の大きさがどの程度のものであるかを把握し、その数を計数して、ウェハの良否判定を行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
一方、半導体デバイス製造業者からの半導体ウェハの要求品質としては、例えば、半導体ウェハの外周から3mmより内側で、0.12μm〜0.30μmのサイズの欠陥がいくつ以下であること等が挙げられる。
【0003】
【特許文献1】特開2001−264264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような光電子増倍管により増幅する方法では、光電子増倍管をある一定の増幅倍率(ゲイン)に固定し、小さな欠陥から大きな欠陥までを検出することは困難である。
これは、ある増幅倍率で検出できる欠陥の大きさが、光電子増倍管の増幅倍率によって異なっており、一定の増幅倍率に固定して検出することは、半導体ウェハの表面検査装置を製造する側では保証していないからである。
また、光電子増倍管による検出においては、半導体ウェハのエッジ近傍で生じるハレーション、半導体ウェハの表面の高Hazeや、表面検査装置の電気信号処理におけるシステムノイズ等のバックグラウンドノイズ等により、高精度に半導体ウェハ表面の欠陥を検出することが困難である。
このため、従来、この種の表面検査においては、各ゲインで保証されたサイズの欠陥の数を計数し、これが要求品質を満たすかどうかによってウェハの良否判定を行っていた。この場合、上記理由により検出が保証された欠陥の大きさの範囲は限られているため、被検査対象となる各ウェハについてゲインを変更して複数回の欠陥の計数を行わなければならず、検査工程の煩雑化を招くという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、半導体ウェハの検査工程を効率化することのできる半導体ウェハの表面検査装置、及び半導体ウェハの表面検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る半導体ウェハの表面検査装置は、
被検査対象物となる半導体ウェハの表面を光学的手法によって測定し、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥を検出する半導体ウェハの表面検査装置であって、
前記半導体ウェハ表面に光を照射する光照射手段と、
前記半導体ウェハ表面からの反射光又は散乱光を受光する受光手段と、
前記受光手段で受光された光を、光電効果により電気信号に変換する光電変換手段と、
前記光電変換手段で変換された電気信号を増幅する信号増幅手段と、
前記信号増幅手段で増幅された電気信号に基づいて、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを計測する計測手段と、
前記計測手段で計測された異物又は欠陥の大きさに応じてその数を計数する計数手段と、
前記信号増幅手段による各増幅倍率について、予め標本測定により算出された前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じて設定された信頼区間幅が格納された信頼区間幅格納手段と、
前記信号増幅手段による増幅倍率を固定して、前記異物又は欠陥の大きさに応じた信頼区間幅に基づいて、前記計測手段により計測された前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを算出し、該半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じた計数値から、前記半導体ウェハ表面の良否判定を行う良否判定手段とを備えていることを特徴とする。
【0007】
ここで、信頼区間幅格納手段に格納される信頼区間幅は、1枚の半導体ウェハを標本とし、信号増幅手段による増幅倍率を固定して、この半導体ウェハ表面に光照射手段により光を照射して、受光手段、信号増幅手段、及び計測手段により計測された異物又は欠陥の大きさの計測値を複数得て、一般的な統計的手法により算出することができ、例えば、標本の平均値、及び分散を用いて母平均の信頼区間を推定することにより、算出することができる。
この発明によれば、半導体ウェハの表面検査装置が信頼区間幅格納手段を備え、良否判定手段は、この信頼区間幅格納手段に格納された、半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じた信頼区間幅に基づいて、半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを算出する。そして、大きさに応じた異物又は欠陥の計数値から、半導体ウェハ表面の良否判定を行っているので、信号増幅手段による増幅倍率を固定した状態で、異物又は欠陥の大きさを計測しても、計測値から信頼区間幅を引いた下限値を基準とし、計数手段による異物又は欠陥の計数を行うことができる。
従って、異物又は欠陥の大きさに応じて信号増幅手段による増幅倍率を変更することなく、高精度に半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の計数を行うことができ、半導体ウェハの良否判定の精度が向上するとともに、検査工程の大幅な短縮を図ることができる。
【0008】
本発明に係る半導体ウェハの表面検査方法は、
被検査対象物となる半導体ウェハの表面を光学的手法によって測定し、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥を検出する半導体ウェハの表面検査方法であって、
複数の前記半導体ウェハのうち、いずれか1つの半導体ウェハを標本として選択する手順と、
標本として選択された前記半導体ウェハの表面を光学的手法により測定し、電気信号に変換する手順と、
変換された電気信号を、増幅倍率を固定して増幅する手順と、
増幅された電気信号に基づいて、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを計測する手順と、
前記標本となる半導体ウェハについて、光学的手法により測定し、電気信号に変換する手順乃至前記異物又は欠陥の大きさを計測する手順を複数回繰り返し、得られた結果から前記異物又は欠陥の大きさの平均値及び分散を算出し、統計的手法により、前記異物又は欠陥の大きさに平均値に対する信頼区間幅を設定する手順と、
他の半導体ウェハの表面を、前記光学的手法により測定し、電気信号に変換するとともに、変換された電気信号を、前記固定された増幅倍率で増幅し、設定された前記信頼区間幅に基づいて、前記他の半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを計測し、前記他の半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じて、異物又は欠陥の数を計数することにより、該他の半導体ウェハの良否判定を行う手順とを実施することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、信号増幅手段による増幅倍率を固定した状態で、標本となる半導体ウェハ表面の大きさの異なる欠陥又は異物の大きさを複数回計測し、計測結果から異物又は欠陥の大きさに応じた信頼区間幅を設定し、他の半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の数を計数するに際して、欠陥又は異物の大きさに応じた信頼区間幅を考慮して計数することができるため、異物又は欠陥の数を高精度に計数することができ、良否判定を高精度に行うことができる。その上、異物又は欠陥の大きさが異なる場合であっても、増幅倍率を変更することなく、同じ増幅倍率で計数することができ、半導体ウェハ表面の検査を迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には、本発明の実施形態に係る半導体ウェハの表面検査装置1が示されており、この半導体ウェハの表面検査装置1は、レーザ発振器2、反射ミラー3、楕円面ミラー4、導光体5、及び光電子増倍管6を備えて構成され、楕円面ミラー4の下方に配置される半導体ウェハWの表面検査を行う装置である。
光照射手段としてのレーザ発振器2は、キャビティ内にアルゴンガスが封入された構成を具備し、キャビティ内のアルゴンガスを励起させることにより、所定波長のレーザ光を反射ミラー3に照射する。
【0011】
反射ミラー3は、レーザ発振器2から照射されたレーザ光を反射して、楕円面ミラー4の上面に形成された開口41に導く部材である。
楕円面ミラー4は、下面が楕円曲面状の反射面とされた集光部材であり、開口41から入ったレーザ光は、下方の半導体ウェハW表面に入射する。レーザ光が半導体ウェハW表面上の異物又は欠陥に照射されると、微弱な光散乱が生じ、楕円面ミラー4の反射面によって導光体5の光入射端面に入射する。
導光体5は、光ファイバ等の束として構成され、光入射端面51側は楕円面ミラー4の幅に応じた長方形状の端面として構成され、光射出側端面側は、光電子増倍管6の光入射面に応じた円形状の端面として構成されている。そして、楕円面ミラー4のいずれかの場所で生じた散乱光は、導光体5の光入射端面51で捕捉され、内面反射を繰り返しながら、光電子増倍管6に供給される。
【0012】
光電子増倍管6は、図1では図示を略したが、入射した光の光電変換を行う光電面と、光電面で変換された電子を増幅する複数の増幅電極から構成されており、導光体5から入射した散乱光は、光電効果により光電面で電子に変換され、電圧印加された複数の増幅電極によって増幅され、電気信号とされる。この光電子増倍管6による増幅倍率は、増幅電極への印加電圧を調整することにより、変更することができる。光電子増倍管6の後段には、図示を略したが、コンピュータ等の演算処理装置が設けられており、光電子増倍管6で増幅変換された電気信号は、このコンピュータで処理される。尚、増幅倍率は、光電子増倍管6と、コンピュータとの間に信号増幅器を設けることによって変更してもよい。
また、図1では図示を略したが、半導体ウェハWは、水平方向に移動自在なXYテーブル上に載置されている。そして、レーザ発振器2からレーザ光を照射しながら、このXYテーブルによって半導体ウェハWを水平方向に移動させることにより、半導体ウェハWの表面のレーザ光による走査が行われる。
【0013】
図2には、前述した半導体ウェハの表面検査装置1を制御するコンピュータ20が示されており、このコンピュータ20は、A/D変換器21、計測手段22、計数手段23、良否判定手段24、信頼区間幅格納手段25、増幅倍率切替手段26、電圧印加制御手段27、制御手段28、表示制御手段29、及びディスプレイ30を備えて構成される。
A/D変換器21は、光電子増倍管6から出力されたアナログ電気信号をコンピュータ20で処理可能なデジタル電気信号に変換する部分である。
計測手段22は、光電子増倍管6で検出された電気信号からLPDの大きさから異物又は欠陥の大きさを計測する部分であり、計測された異物又は欠陥の大きさを良否判定手段24に出力する。
計数手段23は、ある範囲の大きさの異物又は欠陥を計数する部分であり、計数された異物又は欠陥の数を良否判定手段24に出力する。
【0014】
良否判定手段24は、計測手段22で計測された異物又は欠陥の大きさ、及び計数手段23で計数された異物又は欠陥の数に基づいて、被検査対象物である半導体ウェハWの良否判定を行う部分である。
この際、良否判定手段24は、増幅倍率切替手段26で設定された電気信号の増幅倍率に基づいて、信頼区間幅格納手段25に格納された異物又は欠陥の大きさの範囲に応じて設定された信頼区間幅を参照し、計測手段22で計測された異物又は欠陥の大きさよりも信頼区間幅分内側設定された大きさの異物又は欠陥を、計数手段23で計数させる。
信頼区間幅格納手段25に格納された異物又は欠陥の大きさの範囲に応じて設定された信頼区間幅の設定方法については後述する。
【0015】
増幅倍率切替手段26は、光電子増倍管6による光電変換の際の電気信号の増幅倍率を変更する部分であり、増幅倍率切替手段26で増幅倍率が変更されると、電圧印加制御手段27で光電子増倍管6に印加される電圧が制御され、光電子増倍管6での増幅倍率が変更される。尚、本実施形態では、この増幅倍率切替手段26で変更可能な増幅倍率は、下記表1に示されるようにGain1〜Gain7に変更可能に構成され、Gain1〜Gain7のそれぞれの増幅倍率に応じて測定を保証する粒径範囲が決められている。
従って、従来の方法で半導体ウェハの表面検査装置1で測定する場合、測定する粒径範囲に応じて増幅倍率をGain1〜Gain7に変化させながら、欠陥又は異物の大きさ毎にLPDの数を計数しなければならない。
【0016】
【表1】
【0017】
制御手段28は、光照射手段としてのレーザ発振器2、及び半導体ウェハWの表面を走査するためのXYテーブル駆動機構7を駆動制御する部分である。
表示制御手段29は、良否判定手段24から出力される半導体ウェハW表面の画像をディスプレイ30に表示させ、良否判定手段24で判定されたLPDの計測値、計数値に基づいて、半導体ウェハW表面の異物又は欠陥の分布を画像表示する部分である。
【0018】
このような半導体ウェハの表面検査装置1により、半導体ウェハWの表面をレーザ光で走査した場合、半導体ウェハWの表面に異物又は欠陥があると、その部分で散乱現象が生じ、図3に示されるように、垂直入射するレーザ光の一部が散乱し、光電子増倍管6では、輝点(LPD:Light Point Defect)として検出される。尚、図3に示されるように、半導体ウェハWの平坦な部分で測定を行う際には、入射したレーザ光B1に対して、垂直に反射して開口41から出るレーザ光B2は略90%であり、楕円面ミラー4の反射面42で反射して導光体5で捕捉される散乱光B3、B4は、略5%程度である。
【0019】
しかしながら、図4に示すように、レーザ光が半導体ウェハWのエッジ近傍を照射する場合、半導体ウェハW表面の平坦度が悪くなるため、半導体ウェハWに垂直に入射したレーザ光B1のうち、垂直に反射して開口41から出るレーザ光B5の光線量は減少してしまい、導光体5で捕捉されるレーザ光B6、B7の量が増大してしまう。具体的には、半導体ウェハWのエッジ近傍におけるレーザ光B5は入射したレーザ光B1に対して略10%程度しかなく、導光体5で捕捉されるレーザ光B6、B7の方が略90%という逆転現象が見られる。
【0020】
このため、光電子増倍管6で検出されるLPDの分布をコンピュータによる処理を行って画像として把握すると、図5に示されるように、半導体ウェハWの中央領域は、LPD11が散点状に検出されるのだが、半導体ウェハWのエッジ領域では、半導体ウェハWの外周縁に沿った曲線状のLPD12が検出される。
これをハレーションと呼ぶが、これを光電子増倍管6で検出される信号強度で見ると、図6に示されるように、光電子増倍管6の回復曲線C1が領域R1の部分で信号強度の閾値T1を上回る信号強度となってしまう。この場合、光電子増倍管6の電荷飽和状態が回復するまで測定を行うことができない。
【0021】
一方、検出精度の低下の原因としては、上述したハレーションのみではなく、半導体ウェハの表面検査装置1のシステム的なノイズ、及び、被測定対象物である半導体ウェハWの表面のHazeの相互作用によって生じるゴーストによる疑似LPDの発生がある。
すなわち、図7に示されるように、光電子増倍管6で検出される電気信号は、半導体ウェハの表面検査装置1に応じたシステムノイズN1と半導体ウェハWの表面のHazeに起因するノイズN2が存在するが、通常は、LPDのピークP1からこれらのノイズN1、N2を除去するために、HPF(High Pass FIlter)によって一定の閾値T2以下のノイズ成分を除去している。
【0022】
しかしながら、システムノイズN1と半導体ウェハWの表面のHazeが相互に作用すると、本来、LPDのピークP1として検出されるものの他に、ゴースト、即ち疑似LPDのピークP2が閾値を超えて生じることがある。具体的には、半導体ウェハWの表面のHazeに起因するノイズN2が低く、システムノイズN1が小さい場合は、問題とならないが、いずれかのノイズが大きい場合には、疑似LPDのピークP2が閾値T2を超えて検出されることがある。
この場合、半導体ウェハWの表面には、図8に示されるように、本来の異物欠陥に基づくLPD11に隣接して、ゴーストに起因する疑似LPD13が分布することとなり、これも検出精度の低下の一因となる。
【0023】
このようなハレーション、ゴースト等の影響を確認するために、本発明者らは、増幅倍率Gain6、Gain7の2つの水準でハレーション、ゴースト等の発生状況を確認した。問題となるのは0.12μm付近でハレーション、ゴースト等の影響を受けることが確認され、増幅倍率がGain6よりもGain7を活用し、半導体ウェハの表面検査装置1のS/N(Signal/Noise)比を上げることにより、0.12μm付近のLPDをハレーション、ゴーストと分離できることが確認できた。
すなわち、ハレーションについては、Gain6→Gain7とすることにより、図9に示されるように、Gain7における閾値T2が上昇することとなるので、ハレーション発生領域が生じなくなる。
また、ゴーストについても同様に、図10に示されるように、0.12μm検出のための閾値(threshold)が上昇するために、同様に疑似LPDが検出されなくなる。
【0024】
このように増幅倍率をGain6からGain7と高感度側に設定することにより、ハレーション、ゴースト等の影響を受けないことを確認することができたが、前述した表1のように、半導体ウェハの表面検査装置1では、一定の増幅倍率で測定を保証する異物又は欠陥の大きさの範囲が限られているため、統計的手法を用いてこれらを補償することにより、0.12μm〜0.16μmの異物又は欠陥の大きさの範囲を保証するGain7で0.30μmまでの異物又は欠陥の大きさの範囲を測定することを可能とした。
具体的には、母集団の母平均μと母分散σ2を未知として、同一種類の半導体ウェハWの中から、標本として1枚の半導体ウェハWの表面の大きさの異なる異物又は欠陥の大きさを複数回測定する。尚、標本の標本平均xaveは、下記式(1)、標本の分散Vは、下記式(2)で求められる。
【0025】
【数1】
【0026】
標本平均xave、標本の分散Vが求められたら、この標本の分布がt分布に従うとすると、母集団の平均μの信頼区間は、次の式(3)で推定することができる。ここで、Nは標本のデータ数、φは自由度(=N−1)、t(φ、α/2)を自由度φ、両側確率αでのスチューデントのt分布の逆関数の値とする。
【0027】
【数2】
【0028】
次に、信頼率95%(1−α:0.95)とし、複数の半導体ウェハWのうちの1枚を標本として選択し、この半導体ウェハW表面の大きさの異なる異物又は欠陥の大きさを半導体ウェハの表面検査装置1で10回測定し、それぞれの異物又は欠陥の大きさにおける標本平均xave、標本の分散Vを算出したところ、表2のような結果が得られ、上記式(3)によって、それぞれの異物又は欠陥における信頼区間の推定を行ったところ、表3のような結果が得られた。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
これらを整理すると、図11に示されるように、増幅倍率Gain7で0.12μm〜0.30μmの異物又は欠陥を測定する場合、130nm(0.13μm)〜170nm(0.17μm)の範囲D1では、Gain7で保証する測定範囲なので、信頼区間幅は±0.00μm、すなわち、測定値をそのまま信頼してもよいことが判る。
次に、180nm(0.18μm)〜250nm(0.25μm)の範囲D2では、信頼率95%の信頼区間幅が±0.01μmとなるので、Gain7で測定した値に対して、信頼区間幅0.01μmを減じた内側の値を用いて異物又は欠陥の大きさを推定する。つまり、例えば、Gain7で平均値200nm(0.20μm)の異物又は欠陥を計数する際には、範囲D2の信頼区間幅0.01を減じた190nm(0.19μm)の大きさの異物又は欠陥として検出される可能性があるので、計数対象とする。
同様に、250nm(0.25μm)〜300nm(0.30μm)の範囲D3では、信頼区間幅が±0.02μmとなるので、測定値に対して−0.02μmを減じた測定値に対してもこのD3の範囲に含まれるものとして計数する。
【0032】
以上のような図11に示されるグラフ又は内側設定値の表が得られたら、この値を半導体ウェハの表面検査装置1のメモリ等の記憶手段に格納し、実際の測定に際しては、記憶手段に格納された内側設定値の値を参照して、他の半導体ウェハWの異物又は欠陥の大きさに応じたLPDの計数を行う。その際、LPDの大きさが信頼区間幅による内側設定値よりも大きなものは、すべてその範囲に含まれる大きさの異物又は欠陥であると判定して、計数手段による計数対象に含めて計数する。
このような本実施形態によれば、標本となる半導体ウェハWについて、増幅倍率を固定した状態で測定を行い、本来保証の範囲外の異物又は欠陥の大きさを測定し、これを信頼区間幅で内側設定を行った後、計数手段による他の半導体ウェハWの異物又は欠陥の計数を行っているため、半導体ウェハの表面検査装置において、異物又は欠陥の大きさに応じて増幅倍率Gain1〜Gain7を変更する必要がない。従って、従来の測定作業と比較して、測定作業の大幅な効率化を図ることができる上、測定精度が損なわれることもない。
尚、本実施形態は、異物又は欠陥の測定の実際のばらつきの分布からt分布として推察を行った例であり、推察から統計的手法で一般的に用いられる別の分布を用いる可能性もある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る半導体ウェハの表面検査装置を表す概要斜視図。
【図2】前記実施形態におけるコンピュータの構造を表すブロック図。
【図3】前記実施形態におけるハレーションが生じない状態での測定原理を説明する模式図。
【図4】前記実施形態におけるハレーションが生じる原理を説明する模式図。
【図5】前記実施形態におけるハレーションが発生した際のLPDの分布を示す模式図。
【図6】前記実施形態における光電子増倍管の回復曲線とハレーションが発生する領域を表すグラフ。
【図7】前記実施形態におけるゴーストによる疑似LPDが生じる原理を説明するためのグラフ。
【図8】前記実施形態における疑似LPDが発生した際のLPDの分布を示す模式図。
【図9】前記実施形態における増幅倍率を高倍率側に設定した際の光電子増倍管の回復曲線と閾値の関係を表すグラフ。
【図10】前記実施形態における増幅倍率を高倍率側に設定した際の光電子増倍管の疑似LPDのピーク高さと閾値の関係を表すグラフ。
【図11】前記実施形態におけるLPDの大きさの範囲と信頼区間の関係を表すグラフ。
【符号の説明】
【0034】
1…半導体ウェハの表面検査装置、2…レーザ発振器、3…反射ミラー、4…楕円面ミラー、5…導光体、6…光電子増倍管、7…テーブル駆動機構、11、12、13…LPD、20…コンピュータ、21…A/D変換器、22…計測手段、23…計数手段、24…良否判定手段、25…信頼区間幅格納手段、26…増幅倍率切替手段、27…電圧印加制御手段、28…制御手段、29…表示制御手段、30…ディスプレイ、41…開口、42…反射面、51…光入射端面、B1…レーザ光、B2…レーザ光、B3、B4…散乱光、B5…レーザ光、B6…レーザ光、C1…回復曲線、D1、D2、D3…範囲、N1…システムノイズ、N2…高Hazeによるノイズ、P1、P2…ピーク、R1…領域、T1、T2…閾値、W…半導体ウェハ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査対象物となる半導体ウェハの表面を光学的手法によって測定し、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥を検出する半導体ウェハの表面検査装置であって、
前記半導体ウェハ表面に光を照射する光照射手段と、
前記半導体ウェハ表面からの反射光又は散乱光を受光する受光手段と、
前記受光手段で受光された光を、光電効果により電気信号に変換する光電変換手段と、
前記光電変換手段で変換された電気信号を増幅する信号増幅手段と、
前記信号増幅手段で増幅された電気信号に基づいて、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを計測する計測手段と、
前記計測手段で計測された異物又は欠陥の大きさに応じてその数を計数する計数手段と、
前記信号増幅手段による各増幅倍率について、予め標本測定により算出された前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じて設定された信頼区間幅が格納された信頼区間幅格納手段と、
前記信号増幅手段による増幅倍率を固定して、前記異物又は欠陥の大きさに応じた信頼区間幅に基づいて、前記計測手段により計測された前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを算出し、該半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じた計数値から、前記半導体ウェハ表面の良否判定を行う良否判定手段とを備えていることを特徴とする半導体ウェハの表面検査装置。
【請求項2】
被検査対象物となる半導体ウェハの表面を光学的手法によって測定し、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥を検出する半導体ウェハの表面検査方法であって、
複数の前記半導体ウェハのうち、いずれか1つの半導体ウェハを標本として選択する手順と、
標本として選択された前記半導体ウェハの表面を光学的手法により測定し、電気信号に変換する手順と、
変換された電気信号を、増幅倍率を固定して増幅する手順と、
増幅された電気信号に基づいて、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを計測する手順と、
前記標本となる半導体ウェハについて、光学的手法により測定し、電気信号に変換する手順乃至前記異物又は欠陥の大きさを計測する手順を複数回繰り返し、得られた結果から前記異物又は欠陥の大きさの平均値及び分散を算出し、統計的手法により、前記異物又は欠陥の大きさの平均値に対する信頼区間幅を設定する手順と、
他の半導体ウェハの表面を、前記光学的手法により測定し、電気信号に変換するとともに、変換された電気信号を、前記固定された増幅倍率で増幅し、設定された前記信頼区間幅に基づいて、前記他の半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを計測し、前記他の半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じて、異物又は欠陥の数を計数することにより、該他の半導体ウェハの良否判定を行う手順とを実施することを特徴とする半導体ウェハの表面検査方法。
【請求項1】
被検査対象物となる半導体ウェハの表面を光学的手法によって測定し、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥を検出する半導体ウェハの表面検査装置であって、
前記半導体ウェハ表面に光を照射する光照射手段と、
前記半導体ウェハ表面からの反射光又は散乱光を受光する受光手段と、
前記受光手段で受光された光を、光電効果により電気信号に変換する光電変換手段と、
前記光電変換手段で変換された電気信号を増幅する信号増幅手段と、
前記信号増幅手段で増幅された電気信号に基づいて、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを計測する計測手段と、
前記計測手段で計測された異物又は欠陥の大きさに応じてその数を計数する計数手段と、
前記信号増幅手段による各増幅倍率について、予め標本測定により算出された前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じて設定された信頼区間幅が格納された信頼区間幅格納手段と、
前記信号増幅手段による増幅倍率を固定して、前記異物又は欠陥の大きさに応じた信頼区間幅に基づいて、前記計測手段により計測された前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを算出し、該半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じた計数値から、前記半導体ウェハ表面の良否判定を行う良否判定手段とを備えていることを特徴とする半導体ウェハの表面検査装置。
【請求項2】
被検査対象物となる半導体ウェハの表面を光学的手法によって測定し、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥を検出する半導体ウェハの表面検査方法であって、
複数の前記半導体ウェハのうち、いずれか1つの半導体ウェハを標本として選択する手順と、
標本として選択された前記半導体ウェハの表面を光学的手法により測定し、電気信号に変換する手順と、
変換された電気信号を、増幅倍率を固定して増幅する手順と、
増幅された電気信号に基づいて、前記半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを計測する手順と、
前記標本となる半導体ウェハについて、光学的手法により測定し、電気信号に変換する手順乃至前記異物又は欠陥の大きさを計測する手順を複数回繰り返し、得られた結果から前記異物又は欠陥の大きさの平均値及び分散を算出し、統計的手法により、前記異物又は欠陥の大きさの平均値に対する信頼区間幅を設定する手順と、
他の半導体ウェハの表面を、前記光学的手法により測定し、電気信号に変換するとともに、変換された電気信号を、前記固定された増幅倍率で増幅し、設定された前記信頼区間幅に基づいて、前記他の半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさを計測し、前記他の半導体ウェハ表面の異物又は欠陥の大きさに応じて、異物又は欠陥の数を計数することにより、該他の半導体ウェハの良否判定を行う手順とを実施することを特徴とする半導体ウェハの表面検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−88026(P2009−88026A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252539(P2007−252539)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000184713)SUMCO TECHXIV株式会社 (265)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000184713)SUMCO TECHXIV株式会社 (265)
【Fターム(参考)】
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