説明

基板処理方法及び基板処理装置

【課題】可撓性基板に対する処理の品質に面内分布が生じることを抑制でき、かつ基板のたわみを十分に抑制できる基板処理装置を提供する。
【解決手段】カソード電極130及びアノード電極120は、処理容器110内に互いに対抗して配置される。アノード電極120は、帯状の可撓性基板50を加熱する。またアノード電極120の側面のうち、平面視において可撓性基板50が搬送時に通る部分には、湾曲部122,124が設けられている。湾曲部122,124は、可撓性基板50の搬送方向と同方向に傾斜を有し、平面視において縁が外側に凸となる方向に湾曲している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性基板を処理する基板処理方法及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体薄膜などを形成する基板には、高剛性の基板を用いる場合が多い。しかし、例えば太陽電池に使用される光電変換素子の基板には、樹脂などの可撓性基板を用いることが増えている。可撓性基板は、軽量で取り扱いが容易であり、また、大量生産によりコストを下げることができる、というメリットがある。
【0003】
可撓性基板に処理を行なう装置としては、例えば特許文献1に記載のように、ステッピングロール方式で可撓性基板を処理する技術がある。ステッピングロール方式は、帯状の基板を停止させた状態で、基板のうち処理室内に位置する部分に処理を行い、その後、基板を移動させて処理室内に未処理の部分を位置させる、という工程を繰り返す方法である。
【0004】
また特許文献2には、ステッピングロール方式で可撓性基板を処理する際に、可撓性基板に搬送方向の張力を加えることが記載されている。また特許文献3には、可撓性基板をベルトコンベアで搬送することにより、可撓性基板のたわみ及び搬送時における基板のバタツキを抑制できる、と記載されている。また特許文献4には、接地電極を湾曲させることにより、可撓性基板に縦皺が発生することを抑制できる、記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開9−63970号公報
【特許文献2】特開2006−45593号公報
【特許文献3】特開2006−172943号公報
【特許文献4】特開2000−260715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献3に記載の技術では、基板のたわみを十分に抑制することは難しかった。また特許文献4に記載の技術では、電極面を湾曲させるため、可撓性基板のうち処理される領域も湾曲してしまい、処理の品質に面内分布が生じる可能性があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、可撓性基板に対する処理の品質に面内分布が生じることを抑制でき、かつ基板のたわみを十分に抑制できる基板処理装置及び基板処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、処理容器と、
前記処理容器内に配置され、高周波電力が入力されるカソード電極と、
前記処理容器内に前記カソード電極に対向して配置され、帯状の可撓性基板を加熱するアノード電極と、
前記処理容器に設けられ、前記可撓性基板を前記処理容器内に搬送する搬入口と、
前記処理容器に設けられ、前記可撓性基板を前記処理容器から搬出する搬出口と、
前記アノード電極の側面のうち、平面視において前記可撓性基板が搬送時に通る部分に設けられ、前記可撓性基板の搬送方向と同方向に傾斜を有し、平面視において縁が外側に凸となる方向に湾曲している湾曲部と、
を備える基板処理装置が提供される。
【0009】
本発明によれば、基板処理装置を用いて帯状の可撓性基板をプラズマで処理する基板処理方法であって、
前記基板処理装置は、
処理容器と、
前記処理容器内に配置され、高周波電力が入力されるカソード電極と、
前記処理容器内に前記カソード電極に対向して配置され、帯状の可撓性基板を加熱するアノード電極と、
前記処理容器に設けられ、前記可撓性基板を前記処理容器内に搬送する搬入口と、
前記処理容器に設けられ、前記可撓性基板を前記処理容器から搬出する搬出口と、
を有しており、
前記アノード電極の側面のうち、平面視において前記可撓性基板が搬送時に通る部分に、前記可撓性基板の搬送方向と同方向に傾斜を有し、平面視において縁が外側に凸となる方向に湾曲している湾曲部を設け、
前記可撓性基板が、前記アノード電極上を経由して前記搬入口から前記搬出口まで繋がった状態で、前記カソード電極と前記アノード電極の間の空間にプラズマを発生させて、前記可撓性基板を前記プラズマで処理する基板処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成膜される膜の品質に面内分布が生じることを抑制でき、かつ基板のたわみを十分に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態に係る基板処理装置の構成を示す断面図である。
【図2】アノード電極の平面図である。
【図3】第2の実施形態に係る成膜装置の構成を示す図である。
【図4】実施例に係る装置の構成を示す図である。
【図5】実施例におけるたわみ量の測定点を説明する図である。
【図6】たわみ量δの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
図1は、第1の実施形態に係る基板処理装置100の構成を示す断面図である。基板処理装置100は、処理容器110、カソード電極130、及びアノード電極120を備えている。カソード電極130は処理容器110内に配置されており、高周波電源134から高周波電力が入力される。アノード電極120は、処理容器110内にカソード電極130に対向して配置され、帯状の可撓性基板50を加熱する。アノード電極120はヒータ(図示せず)を有している。
【0014】
処理容器110には、搬入口113及び搬出口115が設けられている、搬入口113は、可撓性基板50を処理容器110内に搬送するために設けられており、搬出口115は、可撓性基板50を処理容器110から搬出するために設けられている。またアノード電極120の側面のうち、平面視において可撓性基板50が搬送時に通る部分には、湾曲部122,124が設けられている。湾曲部122,124は、可撓性基板50の搬送方向と同方向に傾斜を有し、平面視において縁が外側に凸となる方向に湾曲している。
【0015】
湾曲部122は、アノード電極120の側面のうち、可撓性基板50の搬送方法における上流側の側面に設けられている。湾曲部124は、アノード電極120の側面のうち、可撓性基板50の搬送方法における下流側の側面に設けられている。なお、アノード電極120には、湾曲部122,124のいずれか一方のみ設けられていても良い。
【0016】
可撓性基板50は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及びポリエーテルスルホン(PES)などの絶縁性の基板である。そして基板処理装置100は、ステッピングロール方式で可撓性基板50を処理する装置である。ここで行われる処理は、例えばプラズマCVD法による成膜処理、スパッタリング法による成膜処理、又はエッチング処理である。
【0017】
アノード電極120は、移動機構140によって可撓性基板50に近づく方向(図中上方向)及び可撓性基板50から離れる方向(図中下方向)に移動することができる。また搬送口113及び搬出口115には、それぞれゲート112,114が設けられている。ゲート112,114は処理容器110内で処理が行なわれるときは閉じている。処理容器110内で処理が行なわれるとき、移動機構140は、アノード電極120の上面を、ゲート112,114に位置する可撓性基板50より高く位置させる。これにより、アノード電極120の上面及び湾曲部122,124の上面には、可撓性基板50が接触する。なおアノード電極120のうち処理が行なわれる領域は、平坦になっているため、可撓性基板50のうち処理が行なわれる部分は平坦になっている。
【0018】
図2は、アノード電極120の平面図である。上記したようにアノード電極120の湾曲部122,124は、平面視において、縁が外側に凸となる方向に湾曲している。湾曲部122,124において最も凸となっている部分は、可撓性基板50の幅方向の中心線A−A´と重なっている。湾曲部122,124の凸部の大きさLは、例えば可撓性基板50の幅の0.15%以上5%以下である。なお、湾曲部122,124において最も凸となっている部分は、可撓性基板50の幅方向の中心線A−A´と重なっていなくてもよい。
【0019】
次に、図1及び図2に示した基板処理装置を用いて可撓性基板50を処理する方法について説明する。まず、移動機構140を用いてアノード電極120を図1中下方に移動させ、アノード電極120の上面の高さを搬入口113及び搬出口115より低くする。次いで、搬入口113のゲート112及び搬出口115のゲート114を開放し、可撓性基板50を搬入口113から搬出口115まで通す。この状態において、可撓性基板50は搬入口113から搬出口115に繋がっている。
【0020】
その後、搬入口113のゲート112及び搬出口115のゲート114を閉じる。また、移動機構140を用いてアノード電極120を図1中上方に移動させ、アノード電極120の上面を、ゲート112,114における可撓性基板50より高く位置させる。これにより、アノード電極120の上面は、湾曲部122,124の上面も含め、可撓性基板50に接触する。アノード電極120はヒータにより加熱されているため、可撓性基板50はアノード電極120により加熱される。
【0021】
次いで、カソード電極130からプロセスガスを導入し、かつ高周波電源134からカソード電極130に高周波電力を入力する。これにより、カソード電極130とアノード電極120の間の空間にプラズマが発生し、可撓性基板50がプラズマにより処理される。
【0022】
その後、ゲート112,114を開放する。また、移動機構140を用いてアノード電極120を図1中下方に移動させ、アノード電極120の上面を、ゲート112,114における可撓性基板50より低く位置させる。次いで、可撓性基板50を移動し、上記した処理を繰り返す。
【0023】
次に、本実施形態における作用及び効果について説明する。本実施形態によれば、可撓性基板50はアノード電極120により加熱される。このとき、可撓性基板50は熱膨張し、可撓性基板50にしわが生じる可能性がある。これに対してアノード電極120の側面には湾曲部122,124が設けられている。湾曲部122,124は、平面視において可撓性基板50が搬送時に通る部分に設けられている。湾曲部122,124は、可撓性基板50の搬送方向と同方向に傾斜を有し、平面視において縁が外側に凸となる方向に湾曲している。このため、可撓性基板50が熱膨張しても、この熱膨張は、湾曲部122,124において可撓性基板50が引き伸ばされることにより吸収される。従って、可撓性基板50のうちアノード電極120上に位置する部分には、しわが生じにくい。
【0024】
また、アノード電極120を湾曲させる必要がないため、可撓性基板50のうち処理が行なわれる領域は湾曲しない。従って、可撓性基板50に対する処理の品質に面内分布が生じることを抑制できる。
【0025】
図3は、第2の実施形態に係る成膜装置の構成を示す図である。この成膜装置は、成膜室102,104,106、基板送出部150、及び基板巻取部152を備えている。
【0026】
基板送出部150は、ロール状に巻かれた可撓性基板50を保持しており、成膜室102,104,106に可撓性基板50を送り出す。成膜室102,104,106は、可撓性基板50に光電変換層の成膜処理を行う。例えば、成膜室102は第1導電型(例えばn型)の微結晶シリコン層を成膜し、成膜室104は真性型の微結晶シリコン層(i型微結晶シリコン層)を成膜し、成膜室106は第2導電型(例えばp型)の微結晶シリコン層を成膜する。基板巻取部152は、成膜室102,104,106で成膜処理された可撓性基板50をロール状に巻き取る。この例において、光電変換層は微結晶シリコン層であるが、アモルファスシリコン層であっても良いし、他の半導体層であってもよい。
【0027】
なお、成膜室102,104,106の構成は、第1の実施形態に示した基板処理装置100の構成と同様である。
【0028】
本実施形態によれば、成膜室102,104,106のアノード電極には、第1の実施形態と同様に湾曲部が設けられている。このため、可撓性基板50が熱膨張しても、この熱膨張はアノード電極の湾曲部によって吸収される。従って、可撓性基板50のうちアノード電極上に位置する部分には、しわが生じにくい。
【0029】
また、アノード電極を湾曲させる必要がないため、可撓性基板50のうち処理が行なわれる領域は湾曲しない。従って、可撓性基板50に対する処理の品質に面内分布が生じることを抑制できる。
【0030】
従って、高品質の光電変換層を形成することができる。
【0031】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0032】
(実施例)
図4に示す装置を用いて、アノード電極120の側面に湾曲部122,124を設けることの効果を確認した。この装置は、湾曲部122,124に相当する湾曲部材218と、湾曲部を設けないアノード電極120の側面に相当する基板支持部材208の間に、可撓性基板50を張り渡すものである。基板支持部材208と湾曲部材218の中心間隔は、250mmとした。また、可撓性基板50としては、幅が300mmのポリイミドフィルムに、シリコン膜を数十nmほど成膜したフィルムを使用した。
【0033】
可撓性基板50の両端は、ロール202、212に固定されている。ロール202と基板支持部材208の間には、可撓性基板50を下方から支持する基板支持部材204が設けられており、ロール212と湾曲部材218の間には、可撓性基板50を下方から支持する基板支持部材214が設けられている。基板支持部材204,208の間に位置する可撓性基板50には、重り206が載置されており、基板支持部材214と湾曲部材218の間に位置する可撓性基板50には、重り216が載置されている。重り206,216の重量を、それぞれ1.5kgとした。
【0034】
そして、基板支持部材208と湾曲部材218の間の中央部分に位置する可撓性基板50について、基板支持部材208と湾曲部材218の上面から可撓性基板50の上面までの距離を、可撓性基板50のたわみ量δと定義し、たわみ量δの幅方向の分布を測定した。
【0035】
なお、たわみ量δの幅方向の分布は、図5に示すように、可撓性基板50の幅方向の端部から10mmの部分を起点として、25mm間隔で測定した。この測定を、湾曲部材218の凸部の大きさL(図2参照)を0mm、6mm、及び15mmそれぞれの場合で行なった。
【0036】
図6は、たわみ量δの測定結果を示すグラフである。測定点が0cm〜15.0cmの間では、凸部の大きさLが6mm及び15mmのいずれの場合においても、凸部の大きさLが0cmの場合(つまり湾曲部を設けない場合)と比較して、たわみ量δが改善されていた。ただし、凸部の大きさLが15mmの場合は、測定点が17.5cmになると、たわみ量δが凸部の大きさLが0cmの場合と比較して大きくなった。このことから、たわみ量δには最適値が存在し、この最適値はフィルムの幅、アノード電極の面積、可撓性基板50の張力などによって変わることがわかった。
【符号の説明】
【0037】
50 可撓性基板
100 基板処理装置
102 成膜室
104 成膜室
106 成膜室
110 処理容器
112 ゲート
113 搬入口
114 ゲート
115 搬出口
115 ゲート
120 アノード電極
122 湾曲部
124 湾曲部
130 カソード電極
134 高周波電源
140 移動機構
150 基板送出部
152 基板巻取部
202 ロール
204 基板支持部材
206 重り
208 基板支持部材
212 ロール
214 基板支持部材
216 重り
218 湾曲部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器と、
前記処理容器内に配置され、高周波電力が入力されるカソード電極と、
前記処理容器内に前記カソード電極に対向して配置され、帯状の可撓性基板を加熱するアノード電極と、
前記処理容器に設けられ、前記可撓性基板を前記処理容器内に搬送する搬入口と、
前記処理容器に設けられ、前記可撓性基板を前記処理容器から搬出する搬出口と、
前記アノード電極の側面のうち、平面視において前記可撓性基板が搬送時に通る部分に設けられ、前記可撓性基板の搬送方向と同方向に傾斜を有し、平面視において縁が外側に凸となる方向に湾曲している湾曲部と、
を備える基板処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理装置において、
前記湾曲部は、前記アノード電極の側面のうち、前記可撓性基板の搬送方向における上流側の側面に設けられている基板処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の基板処理装置において、
前記湾曲部は、前記アノード電極の側面のうち、前記可撓性基板の搬送方向における下流側の側面に設けられている基板処理装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の基板処理装置において、
前記アノード電極を前記可撓性基板に近づける方向及び離れる方向に移動させる移動機構を備える基板処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の基板処理装置において、
ステッピングロール方式で前記可撓性基板を処理する基板処理装置。
【請求項6】
基板処理装置を用いて帯状の可撓性基板をプラズマで処理する基板処理方法であって、
前記基板処理装置は、
処理容器と、
前記処理容器内に配置され、高周波電力が入力されるカソード電極と、
前記処理容器内に前記カソード電極に対向して配置され、帯状の可撓性基板を加熱するアノード電極と、
前記処理容器に設けられ、前記可撓性基板を前記処理容器内に搬送する搬入口と、
前記処理容器に設けられ、前記可撓性基板を前記処理容器から搬出する搬出口と、
を有しており、
前記アノード電極の側面のうち、平面視において前記可撓性基板が搬送時に通る部分に、前記可撓性基板の搬送方向と同方向に傾斜を有し、平面視において縁が外側に凸となる方向に湾曲している湾曲部を設け、
前記可撓性基板が、前記アノード電極上を経由して前記搬入口から前記搬出口まで繋がった状態で、前記カソード電極と前記アノード電極の間の空間にプラズマを発生させて前記可撓性基板を前記プラズマで処理する基板処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−63846(P2011−63846A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215266(P2009−215266)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】