説明

気相成長方法及び気相成長装置

【課題】簡易にエピタキシャル層への酸素等の不純物汚染を低減できる気相成長方法及び気相成長装置を提供する。
【解決手段】成長炉(1)内に成長用器具(3,5)を用いて基板(4)を設置し、加熱された基板(4)上に必要とするIII族原料、V族原料、希釈用ガス及びドーパント原料
を供給し、基板(4)上に化合物半導体のエピタキシャル層を積層して成長させる気相成長方法において、前記成長用器具(3,5)に、かさ密度が1.80〜1.85Mg/mの範囲のカーボン製のものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体をエピタキシャル成長させる気相成長方法及び気相成長装置に関し、更に詳しくは、基板を設置するのに用いられる成長用器具を改善したものに関する。
【背景技術】
【0002】
GaAsやInGaAsなどの化合物半導体はSi(シリコン)半導体に比べて、電子移動度が高いという特長がある。この特長を活かして、GaAsやInGaAsは高速動作や高効率動作を要求されるデバイスに多く用いられている。代表例としてHEMT(High Electron Mobility Transistor;高電子移動度トランジスタ)が挙げられる。HEM
Tは携帯電話送信用等マイクロ波通信の増幅器およびスイッチ用素子として広く用いられている。
【0003】
基板上にエピタキシャル層を積層形成したHEMT用エピタキシャルウェハなどを作製する方法には、有機金属気相成長法(MOVPE法)が多く用いられている。
MOVPE法では、通常、エピタキシャル層を成長させる基板をサセプタと呼ばれるカーボン製の基板保持具にセットし、更にサセプタにセットされた基板を加熱するヒータと基板との間に基板を覆うようにカーボン製の均熱板を置く。そして、成長炉内で基板を加熱しつつ原料ガスを供給することにより、基板付近の原料ガスが熱により分解し、基板上にエピタキシャル層が成長する。
【0004】
成長炉内に基板を設置する際に用いられる上記サセプタ、均熱板などの成長用器具の材質は、成長炉内での熱膨張、熱輻射、強度等の特性上の理由から、カーボンを採用している。これらカーボン製の成長用器具は、エピタキシャル成長によりGaAs等の堆積物が付着するが、一定期間使用した後に、薬品で堆積物を除去した後、水洗して薬品を抜き再生・再使用している。しかしながら、カーボンは多孔質であり水分を吸着しやすい性質を持っている。このため、カーボン製の成長用器具は、使用する前に空焼きを実施して水分の脱ガス処理を行っているが、十分に水分が抜けきらずにエピタキシャル層が汚染され、デバイスの電気持性に影響を与える場合があった。
【0005】
そこで、エピタキシャル層への酸素等の不純物の混入を防止するために、基板がセットされる部分周辺の、カーボン製等の均熱板などの治具に、III−V族化合物半導体結晶薄
膜をコートした気相エピタキシャル成長装置が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−243318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の気相エピタキシャル成長装置では、エピタキシャル結晶への不純物の混入を効果的に防止でき、得られるデバイスの電気的特性を向上できるものの、カーボン製の均熱板などの治具表面にIII−V族化合物半導体結晶薄膜をコートする工程が必要で
あり、工程数及び製造コストの増加を招く。
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、簡易に、エピタキシャル層への酸素等の不純物汚染を低減できる気相成長方法及び気相成長装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は次のように構成されている。
本発明の第1の態様は、成長炉内に成長用器具を用いて設置された基板を加熱し、加熱された前記基板上に必要とするIII族原料、V族原料、希釈用ガス及びドーパント原料を
供給し、前記基板上に化合物半導体のエピタキシャル層を積層して成長させる気相成長方法において、前記成長用器具に、かさ密度が1.80〜1.85Mg/mの範囲のカーボン製のものを用いることを特徴とする気相成長方法である。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様の気相成長方法において、前記積層されたエピタキシャル層が、HEMT構造であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の態様は、成長用器具を用いて基板を設置し、加熱された基板上に必要とするIII族原料、V族原料、希釈用ガス及びドーパント原料を供給し、基板上に化合物半
導体結晶をエピタキシャル成長させる気相成長装置において、前記成長用器具は、かさ密度が1.80〜1.85Mg/mの範囲のカーボン製であることを特徴とする気相成長装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、かさ密度1.80〜1.85Mg/mのカーボン製の成長用器具を用いることにより、カーボン製の成長用器具中に残留する水分等の不純物を簡易に低減することができ、電気特性に優れた化合物半導体素子を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る気相成長方法及び気相成長装置の実施形態を図面を用いて説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態の気相成長装置を概略的に示す縦断面図である。
図1に示す気相成長装置は、MOVPE(有機金属気相成長)法を用いて、基板4上に化合物半導体結晶を気相成長させて、HEMT(High Electron Mobility Transistor)
、HBT(Hetero Bipolar Transistor)、FET(Field Effect Transistor)、LD(Laser Diode)、LED(Light Emitting Diode)などの半導体素子用エピタキシャル基
板を製造するものである。
【0014】
気相成長装置は、図1に示すように、成長炉1内に原料ガス等が流れる流路を形成する矩形断面の反応管2が水平に配置されている。反応管2の一端側から原料ガス等が供給されて反応管2内を流れ、反応管2の他端側から排気される。反応管2の上部壁開口には、円形のサセプタ3が水平に設置されている。サセプタ3の上部中心には垂直に回転軸7が取り付けられており、回転軸7に連結されたモータ(図示せず)の駆動により、サセプタ3が回転する。
【0015】
サセプタ3には、図1または図2に示すように、回転軸7の回りの同一円周上に等間隔に複数箇所(図示例では3箇所)に開口が形成され、各開口内には基板(ウェハ)4が収納される。基板4は成長面を下向きにし、反応管2内の流路に露出させた状態でサセプタ3に支持される。サセプタ3の開口の周辺下部には、開口の中心方向に張り出した金属製等からなる爪状の基板支持部8が設けられ、基板支持部8に基板4の外周部が支えられる。
【0016】
成長炉1内のサセプタ3上方には、サセプタ3の開口に収納された基板4を加熱するためのヒータ6が設置されている。また、ヒータ6からの熱輻射に対して基板4が均一に加熱されるように、サセプタ3の開口には基板4上方を覆って均熱板5が嵌め込まれている。
【0017】
本実施形態では、成長炉1内に基板4を設置する際に用いられるサセプタ3、均熱板5などの成長用器具には、かさ密度が1.80〜1.85Mg/m(=g/cm)の範囲のカーボン製のものを使用している。カーボン製の成長用器具の作製には、例えば、かさ密度1.80〜1.85Mg/mのカーボンのインゴットを用い、このカーボンインゴットに旋盤やマシニングセンタなどを使用して機械加工することによって作製される。
【0018】
上記気相成長装置を用いて、基板4上に化合物半導体結晶を気相成長する際には、サセプタ3と共に基板4を回転させながら、ヒータ6により基板4を加熱し、反応管2にエピタキシャル層ごとに必要とするIII族原料、V族原料、希釈用ガス及びドーパント原料を
導入して、加熱された基板4上に化合物半導体のエピタキシャル層を成長させる。
【0019】
III族原料としては、Al(CH(トリメチルアルミニウム)、Al(CH
(トリエチルアルミニウム)、Ga(CH(トリメチルガリウム)、Ga(CHCH(トリエチルガリウム)、In(CH(トリメチルインジウム)又はIn(CHCH(トリエチルインジウム)などが用いられる。
V族原料としては、AsH(アルシン)、As(CH(トリメチル砒素)、TBA(ターシャリーブチルアルシン)、PH(ホスフィン)、TBP(ターシャリーブチルホスフィン)、NH(アンモニア)などが用いられる。
希釈用ガスとして、H(水素)、N(窒素)又はAr(アルゴン)などが用いられる。
ドーパント原料としては、SiH(モノシラン)、Si(ジシラン)、HSe(セレン化水素)、DETe(ジエチルテルル)、CBr(四臭化炭素)、CpMg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)、Zn(C(ジエチルジンク)などが用いられる。
上記原料を用いて、GaAs(ガリウム砒素)、AlGaAs(アルミニウムガリウム砒素)、InGaAs(インジウムガリウム砒素)、InGaP(インジウムガリウムリン)、AlGaP(アルミニウムガリウムリン)、InGaAlP(インジウムガリウムアルミニウムリン)などのエピタキシャル層を形成する。
【0020】
ところで、基板4への結晶成長時には、サセプタ3、均熱板5などの成長用器具の表面にもGaAs等の堆積物が付着する。この堆積物が多くなると、反応管内のガスの流れを乱すなど結晶成長に悪影響を与える。このため、サセプタ3、均熱板5などの成長用器具は、一定期間使用した後に薬品で堆積物を除去した後、水洗して薬品を抜き再生・再使用している。
しかし、カーボンは多孔質であり水分を吸着しやすい性質を持っているので、上記水洗後や保管後などにカーボン製の成長用器具を使用する前には、ベーク炉などで加熱による空焼きを実施して水分の脱ガス処理を行っている。
ところが、従来のサセプタ、均熱板などでは、十分に水分が抜けきらずに、カーボン製の成長用器具に残存していた水分が、成長中に離脱してエピタキシャル層に酸素が混入する場合があった。
【0021】
本発明では、空焼き時におけるカーボンの脱ガス性能は、カーボン中の孔(空孔、気孔)の数に依存することに着目し、サセプタ3、均熱板5などのカーボン製の成長用器具に、かさ密度1.80〜1.85Mg/mのカーボン製のものを使用している。
空焼き時におけるカーボンの脱ガス性能は、カーボン中の孔数に依存し、カーボン中の孔数が多いほど、つまり、カーボンのかさ密度が小さいほど脱ガス性能は高くなり、空焼きによりカーボン中の水分等の不純物を十分に除去できる。
エピタキシャル層への酸素等の混入低減を期待できるカーボン製の成長用器具のかさ密度は、1.85Mg/m以下である。ただし、かさ密度が1.80Mg/m未満の場合には、強度低下によりサセプタなどカーボン製の成長用器具の変形や破損のリスクが高く
なるため、最適なかさ密度は1.80〜1.85Mg/mの範囲である。
このように、カーボン製の成長用器具をかさ密度1.80〜1.85Mg/mの範囲で作製し、空焼きを実施することにより、得られる化合物半導体素子の酸素等による汚染を十分に低減でき、電気特性を向上できる。具体的には、HEMT構造エピタキシャル層への酸素汚染が低減されると、電気特性が向上し、低電力化や信頼性の向上が期待できる。
【0022】
なお、図1に示す上記実施形態の気相成長装置は、ガスが反応管2の一側から他側に向かって一方向に流れ、且つ基板4がサセプタ3の開口にフェイスダウンで設けられるタイプ(横型フェイスダウン)であった。しかし、本発明はこれに限らず、ガスが反応管の一側から他側に向かって一方向に流れ、且つ基板がサセプタの開口にフェイスアップで設けられるタイプ(横型フェイスアップ)、または、上から下に向かうガスがサセプタの中央から半径方向外側に流れ、且つ基板がサセプタの開口にフェイスアップで設けられるタイプ(自転公転型フェイスアップ)、或いは、下から上に向かうガスがサセプタの中央から半径方向外側に流れ、且つ基板がサセプタの開口にフェイスダウンで設けられるタイプ(自転公転型フェイスダウン)などの成長炉にも適用できる。
また、本発明が適用されるカーボン製の成長用器具は、サセプタ、均熱板に限らず、例えば、基板を自公転させるための歯車等の回転機構なども含まれる。
【実施例】
【0023】
次に、本発明の実施例を説明する。
図1に示す上記実施形態の気相成長装置を用い、MOVPE法により、次の表1に示す構造のHEMT用エピタキシャルウエハを作製した。
【表1】


成長時の基板温度は700℃、成長炉内圧力は約9330Pa(70Torr)、希釈用ガスには水素を用い、基板4にはGaAs基板を用いた。
使用したカーボン製のサセプタ3、均熱板5は、ともにかさ密度を1.82Mg/m
とした。サセプタ3、均熱板5は、かさ密度1.82Mg/mのカーボンインゴットに
、旋盤やマシニングセンタなどで機械加工して作製した。サセプタ3、均熱板5は、薬品で堆積物を除去し、水洗した後、空焼きを行った。空焼きの条件は、ベーク炉で100℃で24時間加熱した後、成長炉1にセットして700℃で2時間加熱した。
また、実施例と効果を比較するための比較例として、従来、一般的に用いられていた、
かさ密度が1.9Mg/mのカーボン製のサセプタ、均熱板を使用して結晶成長を行っ
た。比較例のサセプタ、均熱板に対しても、上記と同じ条件で、薬品による堆積物の除去、水洗、空焼きを行った。
【0024】
表1に示すHEMT構造の各エピタキシャル層の供給原料及び流量は、次の通りである。
i‐GaAs層の成長には、Ga(CH)とAsHを用いた。Ga(CH)の流量は12.64cm/分であり、AsHの流量は255cm/分である。
i‐Al0.28Ga0.72As層の成長には、Ga(CH)、Al(CH)及びAsHを使用した。それらの流量は、それぞれ5.23cm/分、0.81cm/分、及び554cm/分である。
i‐In0.20Ga0.80As層の成長には、Ga(CH)とIn(CH)およびAsHを使用した。それらの流量は、それぞれ20.5cm/分、310cm
分、及び1020cm/分である。
n−Al0.28Ga0.72As層の成長には、i‐Al0.28Ga0.72As層の成長に使用したGa(CH)、Al(CH)、AsHに加えてSi使用した。Siの流量は230cm/分である。Si以外の流量はi−GaAs層の場合と同じである。
n−GaAs層の成長には、i‐GaAs層の成長に使用したGa(CH)、AsHに加えてSiを用いた。Siの流量は408cm/分である。Si以外のGa(CH)及びAsHの流量はi‐GaAs層の場合と同じである。
【0025】
HEMT構造における各エピタキシャル層の機能は次の通りである。コンタクト層は電極を形成するための層である。電子供給層はn型不純物がドーピングされており自由電子を発生させる。チャネル層は発生した自由電子が流れる層である。スぺーサ層はイオン散乱を防止する働きがある。バッファ層は基板表面の残留不純物によるデバイス特性劣化を防ぐ働きがあり、またチャネル層のリーク電流を抑える役目を持つ。基板は単結晶成長するための下地である。
【0026】
比較例では、基板上にHEMT構造の電子供給層であるn−Al0.28Ga0.72As層を成長してフォトルミネッセンス(PL)測定を実施し、発光波長を調べたところ、図3に示すように、AlGaAsの波長ピーク以外に主に酸素による波長ピークが大きく出ている。これに対して、実施例では、同様にn−Al0.28Ga0.72As層に対してフォトルミネッセンス(PL)測定を実施したところ、図4に示すように、AlGaAsピークだけで酸素ピークはほとんど見えない状態であった。
更に、表1のHEMT構造のエピタキシャルウェハを作製したが、実施例の方法で作製されたHEMTでは、電子供給層やチャネル層における酸素による阻害要因が低減され、比較例の方法で作製されたHEMTに比べ、電子のモビリティが約3%向上した。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る気相成長装置の一実施形態を示す概略的な縦断面図である。
【図2】図1のサセプタを示すもので、(a)は上面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図3】比較例の方法により成長したAl0.28GaAs層の発光波長プロファイルを示す図である。
【図4】実施例の方法により成長したAl0.28GaAs層の発光波長プロファイルを示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 成長炉
2 反応管
3 サセプタ
4 基板
5 均熱板
6 ヒータ
7 回転軸
8 基板支持部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長炉内に成長用器具を用いて設置された基板を加熱し、加熱された前記基板上に必要とするIII族原料、V族原料、希釈用ガス及びドーパント原料を供給し、前記基板上に化
合物半導体のエピタキシャル層を積層して成長させる気相成長方法において、
前記成長用器具に、かさ密度が1.80〜1.85Mg/mの範囲のカーボン製のものを用いることを特徴とする気相成長方法。
【請求項2】
前記積層されたエピタキシャル層が、HEMT構造であることを特徴とする請求項1に記載の気相成長方法。
【請求項3】
成長炉内に成長用器具を用いて設置された基板を加熱し、加熱された前記基板上に必要とするIII族原料、V族原料、希釈用ガス及びドーパント原料を供給し、前記基板上に化
合物半導体をエピタキシャル成長させる気相成長装置において、
前記成長用器具は、かさ密度が1.80〜1.85Mg/mの範囲のカーボン製であることを特徴とする気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−44011(P2009−44011A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208523(P2007−208523)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】