説明

真空処理装置、真空処理方法及びプラズマCVD方法

【課題】大型基板に対し、大型特殊設備を用いて製造される大型のヒーターを使用する必要がなく製造コスト削減が可能な真空処理技術を提供する。
【解決手段】本発明は、真空槽2内で基板に対して真空処理を行う真空処理装置であって、真空槽2内において上に基板10を配置するサセプタ5と、サセプタ5に配置された基板10全体を加熱ブロック9を介して加熱する基板加熱手段70とを備える。基板加熱手段70は、サセプタ5の基板配置領域より大きさの小さい複数のブロック状の分割ヒーター7が隣接するように配置構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置内において基板を加熱する技術に関し、特に半導体装置・薄型ディスプレイ・太陽電池デバイス製造に使用されるプラズマCVDによる膜形成プロセスにおける成膜基板の加熱技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置・液晶ディスプレイ、プラズマテレビ、有機EL、電界放出型ディスプレイなど薄型ディスプレイ・薄膜シリコン太陽電池などのデバイスを製造する工程においては、各種薄膜を形成するプロセスがある。
このようなプロセスとしては、例えば、真空中で高周波電圧によってプラズマグロー放電を生成することで原料ガスを分解し基板表面に膜を堆積するプラズマCVD法がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
プラズマCVD法において成膜できる膜の種類は、使用する原料ガスの種類や組成によって様々のものが可能であるが、上述した半導体装置・薄型ディスプレイ、太陽電池等の技術分野で多く利用されているのは、アモルファスシリコン、窒化シリコン、酸化シリコンなどのシリコン化合物系の膜である。
【0004】
プラズマCVDは、熱CVDに比べ低温で成膜が可能であるため、融点の低いガラス基板などを使用することができ、最近ではプラスティック系の材料を基板の材料に用いる試みもなされている。
プラズマCVDで成膜する際の基板温度は材料にもよるが、50〜500℃の範囲とすることが一般的である。これは成膜する膜の分子結合や組成比を熱によって制御することにより膜特性を改善するのが目的である。
【0005】
プラズマCVDのプロセスにおいては、基板に対するプラズマの照射だけでもわずかに基板温度は上昇するが、これだけでは成膜に必要な温度には足りないため、一般的には、温度制御可能なヒーターを有するサセプタ上に基板を載置することによって基板を所定温度に加熱する。
【0006】
一般にプラズマCVDは高電圧を利用してグロー放電を生成する。このためヒーターは同時に電極としての役割を兼ねる場合があり、その場合には、アルミニウム合金などの電気伝導の良い材料を使用する。
【0007】
一方、ヒーターが電極の機能を必要としない場合には、ヒーターの材料としてセラミックなどの非導電材料を使用することができる。
ヒーターの発熱素線としてはニクロム線を使用し、このニクロム線に通電することでジュール熱によって発熱させる。
【0008】
しかし、プラズマCVD装置では、前述したようにアルミニウム合金製のヒーターは高周波グロー放電の電極をも兼ねるため、アルミニウム材料とニクロム線はDC絶縁する必要がある。
【0009】
図6(a)(b)は、従来のアルミニウム合金製のヒーターの構成を示すものである。
従来のヒーター100は、例えば、ニクロム線101を金属性鞘102(シース)の中に挿入し、ニクロム線101と金属性鞘102の間の空間にセラミック材料粉末103を充填し、金属製鞘102とニクロム線101をアルミニウム合金104からDC絶縁するように構成している(このようなヒーター素線はシースヒーターと呼ばれる)。
【0010】
この場合、セラミック材料粉末103としては、酸化マグネシウムが使われることが多く、金属製鞘102の材料は、ステンレスやニッケル系耐熱合金やアルミニウム合金が使用される。ここで、鞘の材料に金属を用いる理由は、所望の形状に曲げたりすることができるためと、後述するように熱伝導を良くするためである。
【0011】
また、金属製鞘102の内部に発熱体となるニクロム線101とセラミック材料粉末103を充填せずに、外部の熱源によって加熱された流体、例えば水を流せば、使用流体の沸点以下の温度で金属製鞘102及びアルミニウム合金104を加熱することも可能である。
【0012】
ところで、金属性鞘102からの熱をアルミニウム合金104に効率良く伝達させるには、金属性鞘102の外周部分とアルミニウム合金104の間を隙間なく密着させる必要がある。これらの間に隙間ができると、熱伝導が悪くなって金属製鞘102内部で熱が篭ってしまい、ニクロム線101の温度がその融点を超えて断線してしまうなどの不良を発生させる。
【0013】
このように金属線鞘102の外周部分とアルミニウム合金104の密着性を確保することは信頼性を向上させるために極めて重要である。
従来、この密着性を良くするため、この種のヒーターでは、加熱環境下でアルミニウム合金をプレス処理する加熱プレス処理や、鋳造、摩擦撹拌接合などの技術を用いて製造されている。
【0014】
その一方で、プラズマCVDにおいて、成膜する膜の特性を基板成膜面全体で均一にするためには、成膜時の基板温度を全体的に均一にすることが重要である。
このため、従来技術では、基板の成膜面面積に対して充分大きな均一加熱面積を持ったヒーターを使用しており、例えば図7に示すように、基板105の成膜面面積より大きい加熱面積をもつヒーター106上に基板105を載置し接触させることによって基板105を加熱することが必須であった。
【0015】
しかし、昨今、薄型ディスプレイの大型化や太陽電池の効率的生産のために、成膜する基板の面積増大が加速している。
液晶ディスプレイの製造では、短辺2mを超える長方形ガラス基板を使用した量産が開始され、現在では短辺3m近い長方形ガラス基板の量産化が検討されている。
このため、従来、このような大型ガラス基板を加熱するためのヒーターも、このガラス基板の面積以上大きさに製作する必要があった。
【0016】
しかし、前述したような、シースヒーターの金属製鞘とアルミニウム合金の密着性向上の処理を行うためには、加熱式プレス炉や高圧炉などの大規模製造設備が必要であり、その結果、処理対象物の大きさと処理の特殊性から製造に必要なコストが大幅に上昇してしまうという問題があった。
【0017】
また、アルミニウム合金など金属材料を加熱する際にはクリープ現象によって時間経過とともに形状が変形する問題があるが、基板が大型化すると、この現象が顕著にあらわれることがわかった。
さらに、大型基板を用い加熱しながら成膜等の種々の真空処理を行う装置においても、上述したような基板加熱時における加熱不均一及び製造コスト上昇等の問題が生じるようになってきている。
【特許文献1】特許第3563092号公報
【特許文献2】特開平4−234121号公報
【特許文献3】特開平5−16296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記従来技術の課題を考慮してなされたもので、その目的とするところは、特に大型基板に対し、大型特殊設備を用いて製造される大型のヒーターを使用する必要がなく製造コスト削減が可能な真空処理技術を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、特に大型基板に対し、均一に加熱しつつ種々の真空処理を行うことが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するためになされた請求項1記載の発明は、真空槽内で基板に対して真空処理を行う真空処理装置であって、前記真空槽内において上に前記基板を配置する基板配置部と、前記基板配置部に配置された基板全体を当該基板配置部を介して加熱する基板加熱手段とを備え、前記基板加熱手段が、前記基板配置部の基板配置領域より大きさの小さい複数のブロック状のヒーターが隣接するように配置構成されているものである。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記基板加熱手段が、前記基板配置部の基板配置領域より大きさが大きく、かつ、前記基板に対し全体的に密着して配置可能な金属製の基板配置加熱部材を有し、前記複数のヒーターによって前記基板配置加熱部材を全体的に加熱するように配置構成されているものである。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2のいずれか1項記載の発明において、前記複数のヒーターは、当該ヒーターの発熱量をそれぞれ独立して調整できるように構成されているものである。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の発明において、前記複数のヒーターは、当該ヒーターの位置を移動させることによって前記基板に対する加熱量をそれぞれ独立して調整できるように構成されているものである。
請求項5記載の発明は、請求項2乃至4のいずれか1項記載の発明において、前記複数のヒーターと前記基板配置加熱部材との間に絶縁性耐熱部が設けられているものである。
請求項6記載の発明は、請求項2乃至5のいずれか1項記載の発明において、前記基板配置部の前記基板配置加熱部材が、プラズマCVD装置の平行平板型の一対の放電電極のうち基板配置側の電極を兼用するように構成されているものである。
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、原料ガスを導入可能な真空槽を有し、前記基板配置加熱部材に対して100kHz以上1MHz以下の低周波交流電圧を印加するように構成された電源供給部が設けられているものである。
請求項8記載の発明は、請求項1乃至7のいずれか1項記載の真空処理装置を用いた真空処理方法であって、前記真空槽内において前記基板配置部に基板を配置し、当該基板全体を前記基板加熱手段によって当該基板配置部を介して当該基板全体を加熱しつつ所定の真空処理を行うものである。
請求項9記載の発明は、請求項6又は7のいずれか1項記載の真空処理装置を用いたプラズマCVD方法であって、原料ガスを導入した真空槽内において、前記基板を前記基板配置加熱部材上に配置し、前記原料ガスを当該基板配置加熱部材上の基板に向って導き、前記基板加熱手段によって当該基板全体を加熱しつつ当該基板配置加熱部材に対して100kHz以上1MHz以下の低周波交流電圧を印加し、前記一対の放電電極間に生成されるグロー放電によって当該基板上に薄膜を成膜する工程を有するものである。
【0020】
本発明の場合、基板配置部の基板配置領域より大きさの小さい例えば分割ブロック状の複数のヒーターが隣接するように配置構成されていることから、大型一体状のヒーターを用いることなく、例えば成膜(プラズマCVD)等の真空処理時の大型基板の温度を全体的に均一にすることが可能になる。そして、本発明によれば、大型特殊設備を用いて製造される大型のヒーターを使用する必要がないので、種々の真空処理装置において製造コストを削減することができる。
【0021】
本発明において、基板加熱手段が、基板配置部の基板配置領域より大きさが大きく、かつ、基板を全体的に密着して配置可能な金属製の基板配置加熱部材を有し、複数のヒーターによって基板配置加熱部材を全体的に加熱するように配置構成すれば、隣り合う複数のヒーター同士に隙間や段差による温度格差を緩衝するとともに、基板配置加熱部材と基板との密着性を向上させて真空処理時の基板温度を全体的により均一にすることが可能になる。
【0022】
本発明において、複数のヒーターが、それぞれの発熱量をそれぞれ独立して調整できるように構成されている場合には、真空処理時の基板温度を全体的により均一にすることが可能になる。
【0023】
本発明において、当該ヒーターの位置を移動(例えば上下方向)させることによって基板に対する加熱量をそれぞれ独立して調整できるように構成されている場合には、基板配置加熱部材と各ヒーターとの密着性を向上させて真空処理時の基板温度を全体的により均一にすることが可能になる。
【0024】
ところで、本発明者らは、前記基板配置部の前記基板配置部材が、プラズマCVD装置の平行平板型の一対の放電電極のうち基板配置側の電極を兼用するように構成されている場合には、基板配置部材に対して100kHz以上1MHz以下の低周波交流電圧を印加することによって、シャワープレートに高周波電圧をする従来技術と同等の成膜堆積が極めて効率的に可能になることを見出した。
【0025】
すなわち、従来技術では、放電電極間への印加電圧は13.56MHzなどの高周波であり、放電電極間距離が20mm程度と間隔が狭く、両電極近傍の薄いシースを除き、電極間のほぼ全域でグロー放電が生成される。このためグロー放電で分解されたラジカル種は基板表面と対向電極表面にほぼ50%ずつ堆積する。
【0026】
一方、本発明のように、放電電極のうち基板配置電極への印加電圧を100kHz以上1MHz以下にした場合、放電電極間の距離を広くすることによって、基板配置電極近傍にプラズマ放電が張り付く(偏在する)現象が見られる。その結果、本発明によれば、基板近傍のみにガス分解源であるプラズマが生成できるため、極めて効率的に基板表面に成膜材料の堆積を行うことができる。
【0027】
このように基板配置電極近傍にプラズマが張り付くのは、印加電圧の周波数が従来技術に比べて大幅に低いため放電電極間の距離が従来方式に比べ広くすることができること、また質量の大きいイオンも低周波数に追従して振動することが主な理由と考えている。
【0028】
さらに、印加電圧の周波数が従来の13.56MHzよりも1/10以上低くなっていることから、定在波による電極面内電圧分布によるプラズマ不均一性の問題も皆無であり、放電電極間距離を広くすることができる。その結果、放電電極の物理的な歪みや僥みに対する許容値も従来技術と比較して大きくなり、最先端技術として3m×3mサイズ以上の基板を用いるデバイス製造にも容易に対応が可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、特に大型基板に対し、大型特殊設備を用いて製造される大型のヒーターを使用する必要がなく製造コスト削減が可能な真空処理技術を提供することができる。
また、本発明によれば、特に大型基板に対し、均一に加熱しつつ種々の真空処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る真空処理装置の実施の形態の概略断面構成図、図2は、本実施の形態におけるサセプタの構成を示す断面図である。
【0031】
図1に示すように、本実施の形態のプラズマCVD装置(真空処理装置)1は、真空排気系20に接続され金属材料(アルミニウム等)から構成される真空槽2を有している。ここで、真空槽2は、接地電位となるようにその電位が設定されている。
【0032】
真空槽2内部の天井部分にはシャワーヘッド3が配置され、このシャワーヘッド3には、後述する真空槽2底部に設けられたサセプタ(基板配置部)5と対向するようにシャワープレート(放電電極)4が取り付けられている。このシャワープレート4には、多数の微細な放出口4aが設けられている。
【0033】
なお、本実施の形態の場合、シャワープレート4は真空槽2に電気的に接続され接地電位に設定されるため、温水循環方式の他、電気的な加熱手段によって加熱するように構成することもできる。
そして、真空槽2は、その外部に設けられたガス供給系11からシャワーヘッド3内部に原料ガス(例えば、SiH4)を供給するように構成されている。
【0034】
なお、シャワーヘッド3内部には、同図に示すように、リフレクタ板14が設けられている。
また、本実施の形態では、真空槽2の外部にフッ素ガス供給系12と外部プラズマ源13が設けられ、フッ素ガス供給系12から供給されたフッ素ガスを外部プラズマ源13で分解し、これによるフッ素ラジカルを、上述のシャワーヘッド3を介して真空槽2内の成膜空間に供給するように構成されている。
【0035】
これは、シリコン系堆積物を昇華除去し、成膜空間の清浄性を保つためのものである。すなわち、この処理はシャワープレート4表面への堆積物が基板10表面に剥がれ落ち、異物となることを防止することを主な目的としており、液晶ディスプレイの量産装置などにおいては、代表的には数枚〜10数枚の基板を成膜処理する毎に行われる。
一方、真空槽2内部の底部には、基板10を載置保持するサセプタ5が配置されている。
【0036】
図2に示すように、本実施の形態のサセプタ5は、真空槽2の底面2bに設けられた基部6上に、基板配置領域より小さい分割型の複数(例えば、本例では、XY方向に3個づつ計9個に分割されている。)の分割ヒーター(ヒーター)7が設けられている。さらに、各分割ヒーター7上には、複数に配列された絶縁板(絶縁性耐圧部)8を介して、基板配置電極(放電電極の印加電極)を兼用する加熱ブロック(基板配置加熱部材)9が密着して設けられている。そして、これら分割ヒーター7、絶縁板8及び加熱ブロック9によって基板加熱手段70が構成されている。
【0037】
本実施の形態の場合、各分割ヒーター7は、平板ブロック形状のシースヒーターからなり、アルミニウム合金からなる本体内にニクロム線7aが配設されて構成されている。
そして、各分割ヒーター7に対しては例えば真空槽2外部に設けられた直流又は交流電源からなる電源33から所定の電圧が供給され、それぞれ個別に温度調整が可能になっている。
【0038】
また、各分割ヒーター7を支持する基部6は、例えば真空槽2との間にシムなどの調整部材(図示せず)を介在させることにより、それぞれ高さが微調整できるように構成され、これにより各分割ヒーター7の上面の高さ位置が同一にできるようになっている。なお、分割ヒーター7同士は、加熱ブロック9で基板10への伝達が均一化されるので若干の隙間があってもよい。
【0039】
さらに、本実施の形態では、加熱ブロック9は、載置される基板10の大きさより大きくなるように例えば矩形平板状に形成されている。この場合、加熱ブロック9の厚さは各領域において一定となるように構成され、その上面が平坦に形成されている。
【0040】
本発明の場合、特に限定されることはないが、耐熱性、及び成膜材料に含有されるフッ素による腐食が少ない観点からは、絶縁板8の材料としては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)や酸化イットリウムを用いることが好ましい。
【0041】
この場合、基板10の加熱温度との関係にもよるが、基板10への熱伝導効率等を考慮すると、絶縁板8の厚さは、5〜10mmに設定することが好ましい。すなわち、絶縁板8の厚さが10mmより大きくなると、基板10に対する熱伝導効率が悪くなるおそれがある。他方、絶縁板8の厚さが5mmより薄くなると、静電容量の増大に起因する電力のロスの問題や、取り扱い時における破損の問題が発生するおそれがある。
【0042】
また、本発明の場合、特に限定されることはないが、良好な熱伝導、低抵抗、高腐食耐性の観点からは、加熱ブロック9の材料としては、例えば、アルミニウム合金を用いることが好ましい。
【0043】
ところで、本実施の形態の場合、加熱ブロック9は、交流電源31及びこれに対応する整合器32の組み合わせからなる電源供給部30に接続され、この電源供給部30から加熱ブロック9に対して後述する低周波交流電圧を印加するようになっている。
そして、本実施の形態の場合、放電電極のうち電圧を印加する電極に対する電圧の周波数が従来のMHz帯からkHz帯に低下させるようにしており、これにより、従来技術に比べて放電電極間の距離は大きくなっている。
【0044】
この場合、特に限定されることはないが、後述する100kHz以上1MHz以下の低周波交流電圧を印加する条件においては、放電電極であるシャワープレート4と加熱ブロック9とを、30〜150mmのほぼ平行間隔に設定することが好ましい。
【0045】
このような構成を有する本実施の形態の成膜装置1を用いて基板10表面に薄膜を形成するには、真空排気系20を動作させ、真空槽2内を真空雰囲気にした後、この真空雰囲気を維持したまま以下に示すようにサセプタ5の加熱ブロック9上に基板10を載置保持させる。
そして、ガス供給系11からシャワーヘッド3の内部空間に原料ガスを供給し、シャワープレート4の放出ロ4aから放出された原料ガス40を基板10に向って導くようにする。
【0046】
本発明の場合、特に限定されることはないが、アモルファスシリコン膜を形成する場合、汎用性の観点からは、シリコンを含有する原料ガスとしては、SiH4(モノシラン)ガス、Si26(ジシラン)ガス、これらに水素(H2)ガスを添加したガスを単独又は混合して用いることができる。
【0047】
この他にも、シリコン窒化膜を形成する場合には、SiH4とNH3(アンモニア)、シリコン酸化膜を形成する場合には、SiH4とN2O(二酸化窒素)若しくはSiH4とO2(酸素)若しくはTEOS(テトラエトキシシラン)とO2(酸素)を用いてことができる。
【0048】
また、上述した原料ガスに希釈ガス(例えば、Ar、N2)を添加したガスを用いることもできる。
なお、モノシランガスに対する水素ガスの流量を十分に大きく(10倍以上)すると、微結晶のシリコン薄膜を形成できることが本発明者らによって確認されている。
【0049】
一方、本発明によって、SiH4とH2から得られるアモルファスシリコン膜は、真性半導体の特性を示す。
このため、例えば、シリコン太陽電池を作成する場合等において、原料ガスにボロン(ホウ素)を添加すれば、p型シリコン半導体層形成することができる。
また、原料ガスにリンを添加すれば、n型シリコン半導体層形成することができる。
【0050】
本実施の形態の場合、特に限定されることはないが、放電安定性、及び得られる成膜速度向上の観点からは、原料ガス40を導入した状態で、真空槽2内の圧力を、10Pa〜500Paに設定することが好ましく、より好ましくは、50Pa〜133Paである。
そして、この雰囲気下で電源供給部30を起動し、真空槽2内のシャワープレート4を接地電位に置いた状態で、加熱ブロック9に対して電源供給部30から低周波交流電圧を印加する。
【0051】
本実施の形態では、上述したように、加熱ブロック9に対する印加電圧の周波数を100kHz以上1MHz以下にする。
この場合、印加電圧の周波数が100kHzより小さいと、放電電極間においてグロー放電が生成しにくくなる。
【0052】
他方、印加電圧の周波数が1MHzより大きいと、後述する加熱ブロック9近傍にプラズマ放電が張り付く(偏在する)現象が起こりにくくなる。
そして、このような電圧の印加により、シャワープレート4の放出ロ4aから放出された原料ガス40は、加熱ブロック9をカソードとしシャワープレート4をアノードとする容量結合方式(CCP方式)のグロー放電現象が発生し、これにより真空槽2内の加熱ブロック9及びシャワープレート4間の空間において原料ガス40が活性化する。
【0053】
ここで、基板10は、分割ヒーター7から絶縁板8及び加熱ブロック9を介して予め所定温度(200〜450℃)に加熱されており、活性化した原料ガス40が基板10表面に到達すると、加熱によってこの原料ガス40が反応し、基板10表面に反応生成物が堆積する。
【0054】
そして、例えば原料ガス40がシリコン含有ガス(例えば、SiH4)と希釈ガス(例えば、H2)とを有する場合には、反応生成物として多量の水素を含有したシリコンが基板10表面に堆積してアモルファスシリコン膜が形成される。
【0055】
図3(a)(b)は、本実施の形態の放電原理を示す説明図であり、図3(a)は、印加電極に13.56MHzの高周波電圧を印加した場合を示すもの、図3(b)は、印加電極に100kHz以上1MHz以下の低周波電圧を印加した場合を示すものである。
【0056】
図3(a)に示すように、印加電極である加熱ブロック9への印加電圧が高周波(13.56MHz等)の場合は、加熱ブロック9と対向電極であるシャワープレート4間のほぼ全領域でグロー放電が生成される。このためグロー放電で分解されたラジカル種50aは基板10の表面とシャワープレート4の表面にそれぞれほぼ同量である50%程度の堆積がなされる。
【0057】
一方、本実施の形態のように、印加電極である加熱ブロック9への印加電圧を低周波(100kHz以上1MHz以下)にした場合には、加熱ブロック9近傍にグロー放電によるプラズマが加熱ブロック9側に偏在し、これにより、図3(b)に示すように、加熱ブロック9近傍にラジカル種50bが張り付く現象が見られる。
【0058】
このように印加電極である加熱ブロック9近傍にプラズマが偏在するのは、印加電圧の周波数が従来技術に比べて大幅に低いため放電電極間の距離が従来方式に比べ広くなること、また質量の大きいイオンも追従可能な低周波数でありイオンも振動すること等がその理由であると考えている。
【0059】
このように、本実施の形態のように加熱ブロック9に低周波電圧を印加することにより、基板10近傍のみにガス分解源であるプラズマが生成できるため、極めて効率的に基板10表面に堆積を行うことができる。
【0060】
また、本実施の形態によれば、加熱ブロック9近傍へのプラズマの張り付きにより、成膜材料の堆積が基板10表面に対して積極的に行われることから、原料ガス40噴出に起因する電極部分や真空槽2内壁への成膜材料の付着の削減が可能になる。
【0061】
このため、デバイス量産装置で従来行われていたNF3など温暖化ガスを使用した内部クリーニング作業の時間及び温暖化ガスの消費量が大幅に削減でき、地球環境悪化防止への貢献及び装置の運転費用の削減につながる。
【0062】
さらに、印加電圧の周波数が従来の13.56MHzよりも1/10以上低くなっていることから、定在波による電極面内電圧分布によるプラズマ不均一性の問題も皆無であり、上述したように、放電電極(加熱ブロック9とシャワープレート4)間の距離を広くすることができる。その結果、放電電極の物理的な歪みや僥みに対する許容値も従来技術と比較して大きくなり、最先端技術として3m×3mサイズ以上の基板を用いるデバイス製造にも容易に対応が可能となる。
【0063】
加えて、本実施の形態の場合、サセプタ5(加熱ブロック9)の基板配置領域より大きさの小さい分割型の複数の分割ヒーター7が隣接するように配置構成されていることから、大型のヒーターを用いることなく、プラズマCVDによる成膜時に基板10の温度を全体的に均一にすることが可能になる。その結果、本実施の形態によれば、大型特殊設備を用いて製造される大型のヒーターを使用する必要がないので、装置の製造コストを削減することができる。
【0064】
特に、本実施の形態では、基板加熱手段70が、サセプタ5の基板配置領域より大きさが大きく、かつ、基板を全体的に密着して配置可能な金属製の加熱ブロック9を有し、複数の分割ヒーター7によって加熱ブロック9を全体的に加熱するように配置構成されているので、隣り合う複数の分割ヒーター7同士に隙間や段差による温度格差を緩衝するとともに、加熱ブロック9と基板10との密着性を向上させて成膜時の基板10温度を全体的により均一にすることができる。
【0065】
また、本実施の形態では、複数の分割ヒーター7が、それぞれの発熱量をそれぞれ独立して調整できるように構成されているので、成膜時の基板10温度を全体的により均一にすることが可能になる。
さらに、本実施の形態では、分割ヒーター7の位置を上下方向に移動させることによって基板10に対する加熱量をそれぞれ独立して微調整できるように構成されているので、加熱ブロック9と各分割ヒーター7との密着性を向上させて成膜時の基板10温度を全体的により均一にすることができる。
【0066】
図4は、本発明に係る真空処理装置の他の実施の形態を示す概略断面構成図、図5は、同実施の形態におけるサセプタの構成を示す断面図であり、以下、上記実施の形態と対応する部分については、同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0067】
図4に示すように、本実施の形態のプラズマCVD装置1Aは、高周波電圧印加型のもので、真空フランジ20aと真空チャンバー20bからなる真空槽2を有している。ここで、真空フランジ20aは、絶縁フランジ20cによって接地電位に対してフローティング状態にされている。
真空槽2内部の天井部分にはシャワーヘッド3が配置されシャワーヘッド3にはシャワープレート4が取り付けられている。
【0068】
一方、真空槽2内部の底部には、基板10を載置保持するサセプタ5Aが配置されている。なお、サセプタ5Aには、上述した分割ヒーター7と加熱ブロック9が設けられている。
また、真空槽2の外部には、ガス供給系11が配置され、このガス供給系11からシャワーヘッド4内部に原料ガスを供給するように構成されている。
【0069】
一方、本実施の形態では、高周波電源32A及びこれに対応する整合器31Aの組み合わせからなる電源供給部30Aが設けられている。この電源供給部30Aは、真空フランジ20aの本体の中心1点を介してシャワーヘッド3に接続され更にシャワープレート4に接続されている。
【0070】
さらに、図5に示すように、本実施の形態では、上述した絶縁板8は設けられておらず、基板配置電極(放電電極の印加電極)を兼用する加熱ブロック9が各分割ヒーター7上に密着して設けられている。
なお、本実施の形態では、シャワープレート4に高周波電圧を印加することから、シャワープレート4と加熱ブロック9との間の距離が10〜30mmと狭くなるように構成されている。
【0071】
このプラズマCVD装置1Aを用いて基板10表面に薄膜を形成するには、真空排気系20を動作させ、真空槽2内を真空雰囲気にした後、この真空雰囲気を維持したまま基板10をサセプタ5A上に保持させる。そして、上述したように、放出ロ4aから放出された原料ガス40を基板10に向って放出する。
さらに、電源供給部30Aを起動し、加熱ブロック9と真空槽2とを接地電位に置いた状態で、真空フランジ20aを介してシャワーヘッド4に高周波電圧を印加する。
【0072】
この状態では、基板10は加熱ブロック9によって予め所定温度に加熱されており、活性化した原料ガス40が基板10表面に到達すると、加熱によって原料ガス40が反応し、基板10表面に反応生成物が堆積する。
【0073】
このような構成を有する本実施の形態によっても、上記実施の形態と同様に、大型のヒーターを用いることなくプラズマCVDによる成膜時に基板10の温度を全体的に均一にすることが可能になるとともに、装置の製造コストを削減することができる。
その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0074】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、図4及び図5に示すシャワープレート4側に高周波電圧を印加する実施の形態においては、加熱ブロック9はグロー放電の接地電極であったため、分割ヒーター7上に直接加熱ブロック9を配置するようにしたが、加熱ブロック9を高電圧印加電極にする場合には、図1及び図2に示す低周波電圧を印加する実施の形態の同様に、加熱ブロック9と分割ヒーター7の間に上述した絶縁板8を介在させて加熱ブロック9と分割ヒーター7間をDC絶縁すればよい。
【0075】
また、上述の実施の形態では、放電電極を水平に配置するようにしたが、本発明はこれに限られず、放電電極を傾斜させたり鉛直方向に向けることも可能である。
さらに、本発明において「基板」とは、平板状のガラス基板のみを示すものではなく、種々の形状・材質の成膜対象物を意味するものである。
【0076】
さらにまた、本発明は太陽電池用のアモルファスシリコン膜の形成のみならず、種々の膜をプラズマCVDによって形成する場合に適用することができるものである。
加えて、本発明は、プラズマCVDのみならず、例えば、スパッタリング、エッチング等の種々の真空処理を行う場合にも適用することができるものである。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
ここでは、プラズマCVDによる成膜において、面積2200×2400mm、厚さ0.7mmのガラス基板を加熱する場合を例にとって説明する。
【0078】
この面積の基板を加熱する場合、加熱面積は2400×2600mmが必要である。
アルミニウム合金製のヒーターブロックは、加熱積に対し4分割となるように設計した。各々の面積は、600×650mmである。
また、加熱ブロックもアルミニウム合金性で作製し、面積2400×2600mm、厚み50mmとした。
そして、上述のヒーターブロック4台を加熱面がほぼ平坦になるように並べ、その上にアルミニウム合金からなる加熱ブロックを配置した。
各々のヒーターブロックには熱電対を取り付け、その熱電対で計測した温度をモニターしながら、基板加熱手段の出力を調整した。
【0079】
このような構成において、成膜空間を真空状態とし、各ヒーターブロックの温度を380℃に調整した。このとき、加熱ブロックの表面温度は、370℃となり、ガラス基板の表面温度は350℃となった。
【0080】
成膜空間にモノシランガスと水素ガスを導入し、成膜空間の圧力を130Paに調整した。
このとき、ガラス基板温度は360℃まで上昇し、安定化した。
これは成膜空間の圧力が上がったことで、ヒーターブロック/加熱ブロック間、加熱ブロック間/ガラス基板間の熱伝導が向上して良好になったためである。
【0081】
その後、シャワープレート側の電極に高電圧を印加して、グロー放電を発生させ、基板上にプラズマCVDによる成膜を行った。
得られたアモルファスシリコンは、ヒーターブロック分割の影響は全くなかった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係る真空処理装置の実施の形態であるプラズマCVD装置の概略断面構成図
【図2】同実施の形態におけるサセプタの構成を示す断面図
【図3】(a)(b):同実施の形態における放電原理を示す説明図
【図4】本発明に係る真空処理装置の他の実施の形態の概略断面構成図
【図5】同実施の形態におけるサセプタの構成を示す断面図
【図6】シースヒーターの概略構成を示す横断面図
【図7】シースヒーターの概略構成を示す縦断面図
【符号の説明】
【0083】
1…成膜装置 2…真空槽 3…シャワーヘッド 4…シャワープレート(放電電極) 5…サセプタ(基板配置部) 7…分割ヒーター(ヒーター) 8…絶縁板(絶縁性耐圧部) 9…加熱ブロック(放電電極、基板配置加熱部材) 11…ガス供給系 30…電源供給部 31…交流電源 40…原料ガス 70…基板加熱手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内で基板に対して真空処理を行う真空処理装置であって、
前記真空槽内において上に前記基板を配置する基板配置部と、
前記基板配置部に配置された基板全体を当該基板配置部を介して加熱する基板加熱手段とを備え、
前記基板加熱手段が、前記基板配置部の基板配置領域より大きさの小さい複数のブロック状のヒーターが隣接するように配置構成されている真空処理装置。
【請求項2】
前記基板加熱手段が、前記基板配置部の基板配置領域より大きさが大きく、かつ、前記基板に対し全体的に密着して配置可能な金属製の基板配置加熱部材を有し、前記複数のヒーターによって前記基板配置加熱部材を全体的に加熱するように配置構成されている請求項1記載の真空処理装置。
【請求項3】
前記複数のヒーターは、当該ヒーターの発熱量をそれぞれ独立して調整できるように構成されている請求項1又は2のいずれか1項記載の真空処理装置。
【請求項4】
前記複数のヒーターは、当該ヒーターの位置を移動させることによって前記基板に対する加熱量をそれぞれ独立して調整できるように構成されている請求項1乃至3のいずれか1項記載の真空処理装置。
【請求項5】
前記複数のヒーターと前記基板配置加熱部材との間に絶縁性耐熱部が設けられている請求項2乃至4のいずれか1項記載の真空処理装置。
【請求項6】
前記基板配置部の前記基板配置加熱部材が、プラズマCVD装置の平行平板型の一対の放電電極のうち基板配置側の電極を兼用するように構成されている請求項2乃至5のいずれか1項記載の真空処理装置。
【請求項7】
原料ガスを導入可能な真空槽を有し、前記基板配置加熱部材に対して100kHz以上1MHz以下の低周波交流電圧を印加するように構成された電源供給部が設けられている請求項6記載の真空処理装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載の真空処理装置を用いた真空処理方法であって、
前記真空槽内において前記基板配置部に基板を配置し、当該基板全体を前記基板加熱手段によって当該基板配置部を介して当該基板全体を加熱しつつ所定の真空処理を行う真空処理方法。
【請求項9】
請求項6又は7のいずれか1項記載の真空処理装置を用いたプラズマCVD方法であって、
原料ガスを導入した真空槽内において、前記基板を前記基板配置加熱部材上に配置し、前記原料ガスを当該基板配置加熱部材上の基板に向って導き、前記基板加熱手段によって当該基板全体を加熱しつつ当該基板配置加熱部材に対して100kHz以上1MHz以下の低周波交流電圧を印加し、前記一対の放電電極間に生成されるグロー放電によって当該基板上に薄膜を成膜する工程を有するプラズマCVD方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−244389(P2008−244389A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86556(P2007−86556)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】