磁気抵抗効果素子の製造方法
【課題】高密度記憶の磁気記憶装置に適用可能で、信頼性の向上が図られた磁気抵抗効果素子を提供する。
【解決手段】磁化方向が実質的に一方向に固着された磁化固着層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられた絶縁層と前記絶縁層を貫通する金属層を含むスペーサ層とを有する磁気抵抗効果素子の製造方法において、前記スペーサ層は、第1の金属層を成膜し、前記第1の金属層上に、前記絶縁層に変換される第2の金属層を成膜し、前記第2の金属層を前記絶縁層に変換するとともに前記絶縁層を貫通する前記金属層を形成する第1の変換処理を行い、前記第1の変換処理を通じて形成された前記絶縁層及び前記金属層上に、前記絶縁層に変換される第3の金属層を成膜し、前記第3の金属層を前記絶縁層に変換するとともに前記絶縁層を貫通する前記金属層を形成する第2の変換処理を行って形成する。
【解決手段】磁化方向が実質的に一方向に固着された磁化固着層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられた絶縁層と前記絶縁層を貫通する金属層を含むスペーサ層とを有する磁気抵抗効果素子の製造方法において、前記スペーサ層は、第1の金属層を成膜し、前記第1の金属層上に、前記絶縁層に変換される第2の金属層を成膜し、前記第2の金属層を前記絶縁層に変換するとともに前記絶縁層を貫通する前記金属層を形成する第1の変換処理を行い、前記第1の変換処理を通じて形成された前記絶縁層及び前記金属層上に、前記絶縁層に変換される第3の金属層を成膜し、前記第3の金属層を前記絶縁層に変換するとともに前記絶縁層を貫通する前記金属層を形成する第2の変換処理を行って形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果膜の膜面の垂直方向にセンス電流を流して磁気を検知する磁気抵抗効果素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
巨大磁気抵抗効果(Giant Magneto-Resistive Effect:GMR)を用いることで、磁気デバイス、特に磁気ヘッドの性能が飛躍的に向上している。特に、スピンバルブ膜(Spin-Valve:SV膜)の磁気ヘッドやMRAM(Magnetic Random Access Memory)などへの適用は、磁気デバイス分野に大きな技術的進歩をもたらした。
【0003】
「スピンバルブ膜」は、2つの強磁性層の間に非磁性のスペーサ層を挟んだ構造を有する積層膜であり、スピン依存散乱ユニットとも呼ばれる。この2つの強磁性層の一方(「ピン層」や「磁化固着層」などと称される)の磁化が反強磁性層などで固着され、他方(「フリー層」や「磁化自由層」などと称される)の磁化が外部磁界に応じて回転可能である。スピンバルブ膜では、ピン層とフリー層の磁化方向の相対角度が変化することで、巨大な磁気抵抗変化が得られる。
【0004】
スピンバルブ膜を用いた磁気抵抗効果素子には、CIP(Current In Plane)−GMR素子、CPP(Current Perpendicular to Plane)−GMR素子、およびTMR(Tunneling Magneto Resistance)素子がある。CIP−GMR素子ではスピンバルブ膜の面に平行にセンス電流を通電し、CPP−GMR、およびTMR素子ではスピンバルブ膜の面にほぼ垂直方向にセンス電流を通電する。センス電流を膜面に対し垂直に通電する方式の方が、将来の高記録密度ヘッド対応の技術として、注目されている。
【0005】
ここで、スピンバルブ膜が金属層で形成されたメタルCPP−GMR素子では、磁化による抵抗変化量が小さく、微弱磁界(例えば、高記録密度の磁気ディスクでの磁界)を検知するのは困難である。
【0006】
スペーサ層として、厚み方向への電流パスを含む酸化物層[NOL(nano-oxide layer)]を用いたCPP素子が提案されている(特許文献1参照)。この素子では、電流狭窄[CCP(Current-confined-path)]効果により素子抵抗およびMR変化率の双方を増大できる。以下、この素子をCCP−CPP素子と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−208744号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶装置はパソコンや携帯型音楽プレーヤーなどの用途に用いられている。しかしながら、今後、磁気記憶装置の使用用途がさらに広がり、また高密度記憶化が進むと、信頼性への要求がより厳しくなる。例えば、より高温度の条件下や、より高速での動作環境下での信頼性を向上させることが、必要になる。そのためには、磁気ヘッドの信頼性を、従来よりも向上させることが望ましい。
【0009】
特にCCP−CPP素子は、従来のTMR素子に比べて抵抗が低いため、より高転送レートが要求されるサーバー・エンタープライズ用途のハイエンドの磁気記憶装置に適用可能である。このようなハイエンドの用途には、高密度化と、高信頼性を同時に満たすことが要求される。また、これらの用途では、より高温化での信頼性を向上させることが望ましい。つまり、より厳しい環境(高温環境等)、より厳しい使用条件(高速で回転する磁気ディスクでの情報の読み取り等)下で、CCP−CPP素子を使用することが必要となる。
【0010】
CCP−CPP素子は低抵抗なため高周波応答性・高密度記録対応性とメリットも大きいが、三次元ナノ構造を有する非常に複雑な形態であるため、現実的にはデザインしたような理想の構造を実現することは難しい。スペックが厳しいサーバー、エンタープライズ用途を実現するためには、より理想形態のCCP構造を実現する必要がある。
【0011】
本発明は、高密度記憶の磁気記憶装置に適用可能で、信頼性の向上が図られた磁気抵抗効果素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく、本発明の一態様は、磁化方向が実質的に一方向に固着された磁化固着層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられ、絶縁層と前記絶縁層を貫通する金属層を含むスペーサ層とを有する磁気抵抗効果素子の製造方法において、前記スペーサ層を形成するにあたり、第1の金属層を成膜し、前記第1の金属層上に第2の金属層を成膜し、前記第2の金属層を第1の絶縁層に変換するとともに前記第1の絶縁層を貫通する第1の導電層を形成する第1の変換処理を行い、前記第1の絶縁層及び前記第1の導電層上に第3の金属層を成膜し、前記第3の金属層を第2の絶縁層に変換するとともに前記第1の導電層上にのみ前記第2の絶縁層を貫通する第2の導電層を形成する第2の変換処理を行うことにより、前記第1の導電層及び第2の導電層を有する前記金属層、並びに前記第1の絶縁層及び前記第2の絶縁層を有する前記絶縁層を形成することを特徴とし、前記第1の変換処理及び前記第2の変換処理の少なくとも一方は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、及びクリプトンのうち少なくともいずれかひとつの元素を含むガスをイオン化、もしくはプラズマ化して膜表面に照射する第1のステップと、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、及びクリプトンの少なくとも一つを含むガスをイオン化又はプラズマ化して得た雰囲気中に、酸素ガス及び窒素ガスのうち少なくとも一方を含むガスを供給し、前記イオン化したガス又は前記プラズマ化したガスの雰囲気下、前記第2の金属層又は前記第3の金属層に対して酸化処理及び窒化処理の少なくとも一方を行う第2のステップとを有することを特徴とする。
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を実施した。その結果、磁化方向が実質的に一方向に固着された磁化固着層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられた絶縁層と前記絶縁層を貫通する金属層を含むスペーサ層とを有する、いわゆるCCP構造の磁気抵抗効果素子において、前記スペーサ層を形成する際に、前記スペーサ層を従来の1段の変換処理によって実施する代わりに、本発明にしたがって2段の変換処理によって実施することにより、前記スペーサ層を比較的厚く形成することができる。
【0014】
したがって、スペーサ層を構成する絶縁層の膜厚が増大し、前記スペーサ層中に形成された電流パス層以外の、本来的に絶縁層として機能すべき領域にリーク電流が流れることを完全に抑制することができるようになる。この結果、CCP効果をより強く発揮し、より強固な信頼性を実現することができる。
【0015】
また、絶縁層膜厚が厚くなることで、絶縁層の絶縁耐圧が向上するため、ESD(Electric Static Discharge)などの静電破壊耐性を向上させることが可能となる。ESD耐圧が高いことは、ヘッドをHDDに組むときの歩留まりを向上させることにつながる。
【0016】
このように信頼性性能が大きく向上することは、HDD生産のときのみならず、あらゆる状況における破壊、熱的な耐性をも向上させることができるので、高信頼性が必要とされる、サーバーや、エンタープライズ用途のヘッドとして適したものとなる。単に記録密度を向上させるだけでない高信頼性のヘッドは、HDDの用途が広がっている近年の状況ではますます重要になってくる。ヘッドの寿命が長くなることは、HDDの使用環境を広げるということで非常に重要になってくる。このような高信頼性のヘッドは、熱的環境が厳しいカーナビゲーション用のHDDとしても非常に有効である。
【0017】
もちろん、このような高信頼性を有するヘッドは、上記のような高付加価値のHDDだけでなく、民生用途として使用される通常のパソコン、携帯型音楽プレーヤー、携帯電話などのHDDとして用いることができる。
【0018】
なお、以下において詳述するが、本発明の製造方法においては、第2の金属層及び第3の金属層に対して上述した第1の変換処理及び第2の変換処理を実施して目的とするスペーサ層を形成することになるが、この際、変換処理の際に前記第2の金属層下に形成された第1の金属層を構成する原子が移動エネルギーを得て上方に移動し、その結果、絶縁層中で金属層(電流パス)を形成するようになる。
【0019】
したがって、上記態様では、スペーサ層を2段階の変換処理で実施しているので、2段目の変換処理においては、上記第1の金属層と同じ機能する金属層(第4の金属層)を別途前記第1の変換処理を通じて形成された前記絶縁層及び前記金属層と、前記第3の金属層との間に形成するようにすることもできる。この場合、前記第4の金属層を構成する原子が第2の変換処理の過程において、絶縁層に変換される過程の上記第3の金属層中に移動し、電流パスを形成するようになる。結果として、スペーサ層内を貫通する前記金属層(電流パス)を確実に行うことができるようになる。
【0020】
なお、上述した製造方法を経ることにより、例えば、磁化方向が実質的に一方向に固着された磁化固着層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられ、た絶縁層と前記絶縁層を貫通する金属層を含むスペーサ層とを有する磁気抵抗効果素子において、
前記スペーサ層を形成する金属層が、基板側下部の酸素濃度と、基板反対側上部の酸素濃度の違いが10atomic%以内であることを特徴とする、磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【0021】
また、磁化方向が実質的に一方向に固着された磁化固着層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられ、絶縁層と前記絶縁層を貫通する金属層を含むスペーサ層とを有する磁気抵抗効果素子において、
前記スペーサ層を形成する金属層が基板側下部の開口面積と、基板反対側上部の開口面積の違いが、20%以内であることを特徴とする、磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上、本発明によれば、高密度記憶の磁気記憶装置に適用可能で、信頼性の向上が図られた磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)の一例を表す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の、スペーサ層を形成するための製造工程を表すフロー図である。
【図3】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)を製造するために用いられる装置の概略的な構成図である。
【図4】図3に示した酸化チャンバーの構成の一例である。
【図5】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の、スペーサ層を形成するための製造工程を表すフロー図である。
【図6】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに組み込んだ状態を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに組み込んだ状態を示す図である。
【図8】磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。
【図9】アクチュエータアームから先のヘッドジンバルアセンブリーをディスク側から眺めた拡大斜視図である。
【図10】本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の一例を示す図である。
【図11】本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の他の例を示す図である。
【図12】本発明の実施形態に係る磁気メモリの要部を示す断面図である。
【図13】図12のA−A’線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のその他の特徴及び利点について、図面を参照しながら発明を実施するための最良の形態に基づいて説明する。
【0025】
(磁気抵抗効果素子)
図1は、本発明の磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)の一例を表す斜視図である。なお、本明細書において、総ての図面は模式的に描かれており、各構成要素の大きさ(膜厚など)及び構成要素同士の比率などは実際のものと異なるようにして描いている。 図1に示すように本実施の形態に係る磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果膜10、およびこれを上下から挟む下電極11および上電極20を有し、図示しない基板上に構成される。
【0026】
磁気抵抗効果膜10は、下地層12、ピニング層13、ピン層14、下部金属層15、スペーサ層(CCP−NOL)16(絶縁層161、電流パス162)、上部金属層17、フリー層18、キャップ層19が順に積層されて構成される。この内、ピン層14、下部金属層15、スペーサ層16、および上部金属層17、およびフリー層18が、2つの強磁性層の間に非磁性のスペーサ層を挟んでなるスピンバルブ膜に対応する。また、下部金属層15、スペーサ層(CCP−NOL)16、および上部金属層17の全体が広義のスペーサ層として定義される。なお、見やすさのために、スペーサ層16はその上下層(下部金属層15および上部金属層17)から切り離した状態で表している。
【0027】
以下、磁気抵抗効果素子の構成要素を説明する。
【0028】
下電極11は、スピンバルブ膜の垂直方向に通電するための電極である。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、スピンバルブ膜内部をその膜垂直方向に沿って電流が流れる。この電流によって、磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することで、磁気の検知が可能となる。下電極11には、電流を磁気抵抗効果素子に通電するために、電気抵抗が比較的小さい金属層が用いられる。NiFe、Cuなどが用いられる。
【0029】
下地層12は、例えば、バッファ層12a、シード層12bに区分することができる。バッファ層12aは下電極11表面の荒れを緩和したりするための層である。シード層12bは、その上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するための層である。
【0030】
バッファ層12aとしては、Ta、Ti、W、Zr、Hf、Crまたはこれらの合金を用いることができる。バッファ層12aの膜厚は2〜10nm程度が好ましく、3〜5nm程度がより好ましい。バッファ層12aの厚さが薄すぎるとバッファ効果が失われる。一方、バッファ層12aの厚さが厚すぎるとMR変化率に寄与しない直列抵抗を増大させることになる。なお、バッファ層12a上に成膜されるシード層12bがバッファ効果を有する場合には、バッファ層12aを必ずしも設ける必要はない。上記のなかの好ましい一例として、Ta[3nm]を用いることができる。
【0031】
シード層12bは、その上に成膜される層の結晶配向を制御できる材料であればよい。シード層12bとして、fcc構造(face-centered cubic structure:面心立方格子構造)またはhcp構造(hexagonal close-packed structure:六方最密格子構造)やbcc構造(body-centered cubic structure:体心立方格子構造)を有する金属層などが好ましい。例えば、シード層12bとして、hcp構造を有するRuや、fcc構造を有するNiFeを用いることにより、その上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。また、ピニング層13(例えば、PtMn)の結晶配向を規則化したfct構造(face-centered tetragonal structure:面心正方構造)、あるいはbcc(body-centered cubic structure:体心立方構造)(110)配向とすることができる。これ以外にも、Cr、Zr、Ti、Mo,Nb,Wやこれらの合金層なども用いることができる。
【0032】
結晶配向を向上させるシード層12bとしての機能を十分発揮するために、シード層12bの膜厚としては、1〜5nmが好ましく、より好ましくは、1.5〜3nmが好ましい。上記のなかの好ましい一例として、Ru[2nm]を用いることができる。
【0033】
スピンバルブ膜やピニング層13の結晶配向性は、X線回折により測定できる。スピンバルブ膜のfcc(111)ピーク、ピニング層13(PtMn)のfct(111)ピークまたはbcc(110)ピークでのロッキングカーブの半値幅を3.5〜6度として、良好な配向性を得ることができる。なお、この配向の分散角は断面TEMを用いた回折スポットからも判別することができる。
【0034】
シード層12bとして、Ruの代わりに、NiFeベースの合金(例えば、NixFe100−x(x=90〜50%、好ましくは75〜85%)や、NiFeに第3元素Xを添加して非磁性にした(NixFe100−x)100−yXy(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))を用いることもできる。NiFeベースのシード層12bでは、良好な結晶配向性を得るのが比較的容易であり、上記と同様に測定したロッキングカーブの半値幅を3〜5度とすることができる。
【0035】
シード層12bには、結晶配向を向上させる機能だけでなく、スピンバルブ膜の結晶粒径を制御する機能もある。具体的には、スピンバルブ膜の結晶粒径を5〜40nmに制御することができ、磁気抵抗効果素子のサイズが小さくなっても、特性のばらつきを招くことなく高いMR変化率を実現できる。
【0036】
ここでの結晶粒径は、シード層12bの上に形成された結晶粒の粒径によって判別することができ、断面TEMなどによって決定することができる。ピン層14がスペーサ層16よりも下層に位置するボトム型スピンバルブ膜の場合には、シード層12bの上に形成される、ピニング層13(反強磁性層)や、ピン層14(磁化固着層)の結晶粒径によって判別することができる。
【0037】
高密度記録に対応した再生ヘッドでは、素子サイズが、例えば、100nm以下である。素子サイズに対する結晶粒径の比が大きいことは、素子の特性がばらつく原因となる。スピンバルブ膜の結晶粒径が40nmよりも大きいことは好ましくない。具体的には、結晶粒径が5〜40nmの範囲が好ましく、5〜20nmの範囲がさらに好ましい範囲である。
【0038】
素子面積あたりの結晶粒の数が少なくなると、結晶数が少ないことに起因した特性のばらつきの原因となりうるため、結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。特に電流パスを形成しているCCP−CPP素子では結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。一方、結晶粒径が小さくなりすぎても、良好な結晶配向を維持することが一般的には困難になる。これら、結晶粒径の上限、および下限を考慮した結晶粒径の好ましい範囲が、5〜20nmである。
【0039】
しかしながら、MRAM用途などでは、素子サイズが100nm以上の場合があり、結晶粒径が40nm程度と大きくてもそれほど問題とならない場合もある。即ち、シード層12bを用いることで、結晶粒径が粗大化しても差し支えない場合もある。
【0040】
上述した5〜20nmの結晶粒径を得るためには、シード層12bとして、Ru2nmや、(NixFe100−x)100−yXy(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))層の場合には、第3元素Xの組成yを0〜30%程度とすることが好ましい(yが0%の場合も含む)。
【0041】
一方、結晶粒径を40nmよりも粗大化させて用いるためには、さらに多量の添加元素を用いることが好ましい。シード層12bの材料が、例えば、NiFeCrの場合にはCr量を35〜45%程度とし、fccとbccの境界相を示す組成を用いて、bcc構造を有するNiFeCr層を用いることが好ましい。
【0042】
前述したように、シード層12bの膜厚は1nm〜5nm程度が好ましく、1.5〜3nmがより好ましい。シード層12bの厚さが薄すぎると結晶配向制御などの効果が失われる。一方、シード層12bの厚さが厚すぎると、直列抵抗の増大を招き、さらにスピンバルブ膜の界面の凹凸の原因となることがある。
【0043】
ピニング層13は、その上に成膜されるピン層14となる強磁性層に一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固着する機能を有する。ピニング層13の材料としては、PtMn、PdPtMn、IrMn、RuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。この内、高記録密度対応のヘッドの材料として、IrMnが有利である。IrMnは、PtMnよりも薄い膜厚で一方向異方性を印加することができ、高密度記録の為に必要な狭ギャップ化に適している。
【0044】
十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層13の膜厚を適切に設定する。ピニング層13の材料がPtMnやPdPtMnの場合には、膜厚として、8〜20nm程度が好ましく、10〜15nmがより好ましい。ピニング層13の材料がIrMnの場合には、PtMnなどより薄い膜厚でも一方向異方性を付与可能であり、3〜12nmが好ましく、4〜10nmがより好ましい。上記のなかの好ましい一例として、IrMn[7nm]を用いることができる。
【0045】
ピニング層13として、反強磁性層の代わりに、ハード磁性層を用いることができる。ハード磁性層として、例えば、CoPt(Co=50〜85%)、(CoxPt100−x)100−yCry(x=50〜85%、y=0〜40%)、FePt(Pt=40〜60%)を用いることができる。ハード磁性層(特に、CoPt)は比抵抗が比較的小さいため、直列抵抗および面積抵抗RAの増大を抑制できる。
【0046】
ピン層14は、下部ピン層141(例えば、Co90Fe103.5nm)、磁気結合層142(例えば、Ru)、および上部ピン層143(例えば、Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm])からなるシンセティックピン層とすることが好ましい一例である。ピニング層13(例えば、IrMn)とその直上の下部ピン層141は一方向異方性(unidirectional anisotropy)をもつように交換磁気結合している。磁気結合層142の上下の下部ピン層141および上部ピン層143は、磁化の向きが互いに反平行になるように強く磁気結合している。
【0047】
下部ピン層141の材料として、例えば、CoxFe100−x合金(x=0〜100%)、NixFe100−x合金(x=0〜100%)、またはこれらに非磁性元素を添加したものを用いることができる。また、下部ピン層141の材料として、Co、Fe、Niの単元素やこれらの合金を用いても良い。
【0048】
下部ピン層141の磁気膜厚(飽和磁化Bs×膜厚t(Bs・t積))が、上部ピン層143の磁気膜厚とほぼ等しいことが好ましい。つまり、上部ピン層143の磁気膜厚と下部ピン層141の磁気膜厚とが対応することが好ましい。一例として、上部ピン層143が(Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]の場合、薄膜でのFeCoの飽和磁化が約2.2Tであるため、磁気膜厚は2.2T×3nm=6.6Tnmとなる。Co90Fe10の飽和磁化が約1.8Tなので、上記と等しい磁気膜厚を与える下部ピン層141の膜厚tは6.6Tnm/1.8T=3.66nmとなる。したがって、膜厚が約3.6nmのCo90Fe10を用いることが望ましい。また、ピニング層13としてIrMnを用いる場合には、下部ピン層141の組成はCo90Fe10よりも少しFe組成を増やすことが好ましい。具体的には、Co75Fe25などが望ましい実施例の一例である。
【0049】
下部ピン層141に用いられる磁性層の膜厚は1.5〜4nm程度が好ましい。ピニング層13(例えば、IrMn)による一方向異方性磁界強度および磁気結合層142(例えば、Ru)を介した下部ピン層141と上部ピン層143との反強磁性結合磁界強度の観点に基づく。下部ピン層141が薄すぎるとMR変化率が小さくなる。一方、下部ピン層141が厚すぎるとデバイス動作に必要な十分な一方向性異方性磁界を得ることが困難になる。好ましい一例として、膜厚3.6nmのCo75Fe25が挙げられる。
【0050】
磁気結合層142(例えば、Ru)は、上下の磁性層(下部ピン層141および上部ピン層143)に反強磁性結合を生じさせてシンセティックピン構造を形成する機能を有する。磁気結合層142としてのRu層の膜厚は0.8〜1nmであることが好ましい。なお、上下の磁性層に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、Ru以外の材料を用いてもよい。RKKY(Ruderman-Kittel- Kasuya-Yosida)結合の2ndピークに対応する膜厚0.8〜1nmの換わりに、RKKY結合の1stピークに対応する膜厚0.3〜0.6nmを用いることもできる。ここでは、より高信頼性の結合を安定して特性が得られる、0.9nmのRuが一例として挙げられる。
【0051】
上部ピン層143の一例として、(Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]のような磁性層を用いることができる。上部ピン層143は、スピン依存散乱ユニットの一部をなす。上部ピン層143は、MR効果に直接的に寄与する磁性層であり、大きなMR変化率を得るために、この構成材料、膜厚の双方が重要である。特に、スペーサ層16との界面に位置する磁性材料は、スピン依存界面散乱に寄与する点で特に重要である。
【0052】
上部ピン層143としてここで用いた、bcc構造をもつFe50Co50を用いる効果について述べる。上部ピン層143として、bcc構造をもつ磁性材料を用いた場合、スピン依存界面散乱効果が大きいため、大きなMR変化率を実現することができる。bcc構造をもつFeCo系合金として、FexCo100−x(x=30〜100%)や、FexCo100−xに添加元素を加えたものが挙げられる。そのなかでも、諸特性を満たしたFe40Co60〜Fe60Co40が使いやすい材料の一例である。
【0053】
上部ピン層143が、高MR変化率を実現しやすいbcc構造をもつ磁性層から形成されている場合には、この磁性層の全膜厚が1.5nm以上であることが好ましい。bcc構造を安定に保つためである。スピンバルブ膜に用いられる金属材料は、fcc構造またはfct構造であることが多いため、上部ピン層143のみがbcc構造を有することがあり得る。このため、上部ピン層143の膜厚が薄すぎると、bcc構造を安定に保つことが困難になり、高いMR変化率が得られなくなる。
【0054】
ここでは、上部ピン層143として、極薄Cu積層を含むFe50Co50を用いている。ここで、上部ピン層143は、全膜厚が3nmのFeCoと、1nmのFeCo毎に積層された0.25nmのCuとからなり、トータル膜厚3.5nmである。
【0055】
上部ピン層143の膜厚は5nm以下であることが好ましい。大きなピン固着磁界を得るためである。大きなピン固着磁界と、bcc構造の安定性の両立のため、bcc構造をもつ上部ピン層143の膜厚は、2.0nm〜4nm程度であることが好ましいということになる。
【0056】
上部ピン層143には、bcc構造をもつ磁性材料の代わりに、従来の磁気抵抗効果素子で広く用いられているfcc構造を有するCo90Fe10合金や、hcp構造をもつコバルト合金を用いることができる。上部ピン層143として、Co、Fe、Niなどの単体金属、またはこれらのいずれか一つの元素を含む合金材料はすべて用いることができる。上部ピン層143の磁性材料として、大きなMR変化率を得るのに有利なものから並べると、bcc構造をもつFeCo合金材料、50%以上のコバルト組成をもつコバルト合金、50%以上のNi組成をもつニッケル合金の順になる。
【0057】
ここでの一例として挙げたものは、上部ピン層143として、磁性層(FeCo層)と非磁性層(極薄Cu層)とを交互に積層したものを用いることができる。このような構造を有する上部ピン層143では、極薄Cu層によって、スピン依存バルク散乱効果と呼ばれるスピン依存散乱効果を向上させることができる。
【0058】
「スピン依存バルク散乱効果」は、スピン依存界面散乱効果と対の言葉として用いられる。スピン依存バルク散乱効果とは、磁性層内部でMR効果を発現する現象である。スピン依存界面散乱効果は、スペーサ層と磁性層の界面でMR効果を発現する現象である。
【0059】
以下、磁性層と非磁性層の積層構造によるバルク散乱効果の向上につき説明する。
【0060】
CCP−CPP素子においては、スペーサ層16の近傍で電流が狭窄されるため、スペーサ層16の界面近傍での抵抗の寄与が非常に大きい。つまり、スペーサ層16と磁性層(ピン層14、フリー層18)の界面での抵抗が、磁気抵抗効果素子全体の抵抗に占める割合が大きい。このことは、スピン依存界面散乱効果の寄与がCCP−CPP素子では非常に大きく、重要であることを示している。つまり、スペーサ層16の界面に位置する磁性材料の選択が従来のCPP素子の場合と比較して、重要な意味をもつ。これが、ピン層143として、スピン依存界面散乱効果が大きいbcc構造をもつFeCo合金層を用いた理由であり、前述したとおりである。
【0061】
しかしながら、バルク散乱効果の大きい材料を用いることも無視できず、より高MR変化率を得るためにはやはり重要である。バルク散乱効果を得るための極薄Cu層の膜厚は、0.1〜1nmが好ましく、0.2〜0.5nmがより好ましい。Cu層の膜厚が薄すぎると、バルク散乱効果を向上させる効果が弱くなる。Cu層の膜厚が厚すぎると、バルク散乱効果が減少することがあるうえに、非磁性のCu層を介した上下磁性層の磁気結合が弱くなり、ピン層14の特性が不十分となる。そこで、好ましい一例として挙げたものでは、0.25nmのCuを用いた。
【0062】
磁性層間の非磁性層の材料として、Cuの換わりに、Hf、Zr、Ti、Alなどを用いてもよい。一方、これら極薄の非磁性層を挿入した場合、FeCoなど磁性層の一層あたりの膜厚は0.5〜2nmが好ましく、1〜1.5nm程度がより好ましい。
【0063】
上部ピン層143として、FeCo層とCu層との交互積層構造に換えて、FeCoとCuを合金化した層を用いてもよい。このようなFeCoCu合金として、例えば、(FexCo100-x)100-yCuy(x=30〜100%、y=3〜15%程度)が挙げられるが、これ以外の組成範囲を用いてもよい。ここで、FeCoに添加する元素として、Cuの代わりに、Hf、Zr,Ti、Alなど他の元素を用いてもよい。
【0064】
上部ピン層143には、Co、Fe、Niや、これらの合金材料からなる単層膜を用いてもよい。例えば、最も単純な構造の上部ピン層143として、従来から広く用いられている、2〜4nmのCo90Fe10単層を用いてもよい。この材料に他の元素を添加してもよい。
【0065】
次に、広義のスペーサ層を形成する膜構成について述べる。下部金属層15は後述するプロセスにおいて、電流パス162材料の供給源として用いられた後の残存層であり、最終形態として必ずしも残存していない場合もある。
【0066】
スペーサ層(CCP−NOL)16は、絶縁層161、電流パス162を有する。なお、前述のように、スペーサ層16、下部金属層15、および上部金属層17を含めて、広義のスペーサ層として取り扱う。
【0067】
絶縁層161は、酸化物、窒化物、酸窒化物等から構成される。絶縁層161として、Al2O3のようなアモルファス構造や、MgOのような結晶構造の双方が有り得る。スペーサ層としての機能を発揮するために、絶縁層161の厚さは、1〜3.5nmが好ましく、1.5〜3nmの範囲がより好ましい。
【0068】
図1のように、ナノオーダーで三次元構造を有するこのような複雑な構造を有するスペーサ層を形成することは難しい。理想形態に近いCCP構造を実現するために、本発明による製造方法が有効であることを見出した。この製造方法が本発明の最も重要なところであるため、詳細は後に説明する。
【0069】
絶縁層161に用いる典型的な絶縁材料として、Al2O3をベース材料としたものや、これに添加元素を加えたものがある。添加元素として、Ti、Hf、Mg、Zr,V,Mo、Si,Cr,Nb,Ta,W、B,C、Vなどがある。これらの添加元素の添加量は0%〜50%程度の範囲で適宜変えることができる。一例として、約2nmのAl2O3を絶縁層161として用いることができる。
【0070】
絶縁層161には、Al2O3のようなAl酸化物の換わりに、Ti酸化物、Hf酸化物、Mg酸化物、Zr酸化物、Cr酸化物、Ta酸化物、Nb酸化物、Mo酸化物、Si酸化物、V酸化物なども用いることができる。これらの酸化物の場合でも、添加元素として上述の材料を用いることができる。また、添加元素の量を0%〜50%程度の範囲で適宜に変えることができる。
【0071】
これら酸化物の換わりに、上述したようなAl,Si,Hf,Ti,Mg,Zr,V,Mo,Nb,Ta,W,B,Cをベースとした酸窒化物や、窒化物を用いても、電流を絶縁する機能を有する材料であれば構わない。
【0072】
電流パス162は、スペーサ層16の膜面垂直に電流を流すパス(経路)であり、電流を狭窄するためのものである。絶縁層161の膜面垂直方向に電流を通過させる導電体として機能し、例えば、Cu等の金属層から構成できる。即ち、スペーサ層16では、電流狭窄構造(CCP構造)を有し、電流狭窄効果によりMR変化率を増大可能である。電流パス162(CCP)を形成する材料は、Cu以外には、Au,Ag、Alや、Ni,Co,Fe、もしくはこれらの元素を少なくとも一つは含む合金層を挙げることができる。一例として、電流パス162としてCuを含む合金層で形成することができる。CuNi、CuCo、CuFeなどの合金層も用いることができる。ここで、50%以上のCuを有する組成とすることが、高MR変化率と、ピン層14とフリー層18の層間結合磁界(interlayer coupling field, Hin)を小さくするためには好ましい。
【0073】
電流パス162は絶縁層161と比べて著しく酸素、窒素の含有量が少ない領域であり(少なくとも2倍以上の酸素や窒素の含有量の差がある)、一般的には結晶相である。結晶相は非結晶相よりも抵抗が小さいため、電流パス162として機能しやすい。
【0074】
上部金属層17は、広義のスペーサ層の一部を形成するものである。その上に成膜されるフリー層18がスペーサ層16の酸化物に接して酸化されないように保護するバリア層としての機能、およびフリー層18の結晶性を良好にする機能を有する。例えば、絶縁層161の材料がアモルファス(例えば、Al2O3)の場合には、その上に成膜される金属層の結晶性が悪くなるが、fcc結晶性を良好にする層(例えば、Cu層)を配置することで(1nm以下程度の膜厚で良い)、フリー層18の結晶性を著しく改善することが可能となる。
【0075】
スペーサ層16の材料やフリー層18の材料によっては、必ずしも上部金属層17を設けなくてもよい。アニール条件の最適化や、スペーサ層16の絶縁層161材料の選択、フリー層18の材料などによって、結晶性の低下を回避し、スペーサ層16上の金属層17が不要にできる。
【0076】
しかし、製造上のマージンを考慮すると、スペーサ層16上に上部金属層17を形成することが好ましい。好ましい一例としては、上部金属層17として、Cu[0.5nm]を用いることができる。
【0077】
上部金属層17の構成材料として、Cu以外に、Au,Ag,Ruなどを用いることもできる。上部金属層17の材料は、スペーサ層16の電流パス162の材料と同一であることが好ましい。上部金属層17の材料が電流パス162の材料と異なる場合には界面抵抗の増大を招くが、両者が同一の材料であれば界面抵抗の増大は生じない。
【0078】
上部金属層17の膜厚は、0〜1nmが好ましく、0.1〜0.5nmがより好ましい。上部金属層17が厚すぎると、スペーサ層16で狭窄された電流が上部金属層17で広がって電流狭窄効果が不十分になり、MR変化率の低下を招く。
【0079】
フリー層18は、磁化方向が外部磁界によって変化する強磁性体を有する層である。例えば、界面にCoFeを挿入してNiFeを用いたCo90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]という二層構成がフリー層18の一例として挙げられる。この場合、スペーサ層16との界面には、NiFe合金よりもCoFe合金を設けることが好ましい。高いMR変化率を得るためには、スペーサ層16の界面に位置するフリー層18の磁性材料の選択が重要である。なお、NiFe層を用いない場合には、Co90Fe10[4nm]単層を用いることができる。また、CoFe/NiFe/CoFeなどの三層構成からなるフリー層を用いても構わない。
【0080】
CoFe合金のなかでも、軟磁気特性が安定であることから、Co90Fe10が好ましい。Co90Fe10近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5〜4nmとすることが好ましい。その他、CoxFe100−x(x=70〜90)が好ましい。
【0081】
また、フリー層18として、1〜2nmのCoFe層またはFe層と、0.1〜0.8nm程度の極薄Cu層とを、複数層交互に積層したものを用いてもよい。
【0082】
スペーサ層16がCu層から形成される場合には、ピン層14と同様に、フリー層18でも、bccのFeCo層をスペーサ層16との界面材料として用いると、MR変化率が大きくなる。スペーサ層16との界面材料として、fccのCoFe合金に換えて、bccのFeCo合金を用いることもできる。この場合、bcc層が形成されやすい、FexCo100−x(x=30〜100)や、これに添加元素を加えた材料を用いることができる。これらの構成のうち、好ましい実施例の一例として、Co90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]を用いることができる。
【0083】
キャップ層19は、スピンバルブ膜を保護する機能を有する。キャップ層19は、例えば、複数の金属層、例えば、Cu層とRu層の2層構造(Cu[1nm]/Ru[10nm])とすることができる。また、キャップ層19として、Ruをフリー層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合、Ruの膜厚は0.5〜2nm程度が好ましい。この構成のキャップ層19は、特に、フリー層18がNiFeからなる場合に望ましい。RuはNiと非固溶な関係にあるので、フリー層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できるからである。
【0084】
キャップ層19が、Cu/Ru、Ru/Cu、いずれの場合も、Cu層の膜厚は0.5〜10nm程度が好ましく、Ru層の膜厚は0.5〜5nm程度とすることができる。Ruは比抵抗値が高いため、あまり厚いRu層を用いることは好ましくないため、このような膜厚範囲にしておくことが好ましい。
【0085】
キャップ層19として、Cu層やRu層の代わりに他の金属層を設けてもよい。キャップ層19の構成は特に限定されず、キャップとしてスピンバルブ膜を保護可能なものであれば、他の材料を用いてもよい。但し、キャップ層の選択によってMR変化率や長期信頼性が変わる場合があるので、注意が必要である。CuやRuはこれらの観点からも望ましいキャップ層の材料の例である。
【0086】
上電極20は、スピンバルブ膜の垂直方向に通電するための電極である。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、スピンバルブ膜内部にその膜の垂直方向の電流が流れる。上部電極層20には、電気的に低抵抗な材料(例えば、Cu,Au、NiFeなど)が用いられる。
【0087】
(磁気抵抗効果素子の製造方法)
以下、本実施の形態における磁気抵抗効果素子の製造方法を説明する。
【0088】
図2は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の、スペーサ層15、16、17を形成するための製造工程を表すフロー図である。図1(A)〜(G)を参照して、本発明に係わる磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)の製造方法を概略的に説明する。
【0089】
図2(A)に示すように、下電極が前もって形成された基板上に、下地層およびピニング層(これらの部材は図示していない)を成膜し、ピニング層上にピン層14を成膜する。ピン層14上に、電流パスを形成する第1の金属層m1(例えばCu)を成膜する。第1の金属層m1上に絶縁層に変換される第2の金属層m2(例えばAlCuやAl)を成膜する。
【0090】
次いで、図2(B)及び(C)に示すように、第2の金属層m2表面に、絶縁層と電流パスを有するCCP構造の一部を形成するための、表面酸化処理あるいは表面窒化処理を行う。この表面酸化処理及び表面窒化処理は、具体的には以下に詳述するような工程を経て行うことができるが、これらの処理は単なる酸化処理などとは異なり、図2(B)及び(C)に示すように、第2の金属層m2の絶縁層化と、第1の金属層m1に移動エネルギーを付与して金属層(電流パス)とを形成するための、CPP構造を形成するような構造変換処理(第1の変換処理)とする。
【0091】
図2(C)で形成するCCP構造は、理想形態に近いCCP構造を実現しやすいように、m1、m2ともに比較的薄い膜厚で形成している。この膜厚が厚いと、図2(C)のような理想的な形状を有するCCP構造を実現することが困難となる。しかし、薄い膜厚のままだと、NOLの絶縁層としての機能が不十分となってしまい、リーク電流が流れたり、静電破壊電圧が低い値となってしまうので、このままでは問題となる。そこで、図2(D)以降の形成プロセスが必要になる。
【0092】
次いで、図2(D)に示すように、図2(A)と同様に、電流パスを形成する第4の金
属層m4(例えばCu)を成膜する。第4の金属層m4上に絶縁層に変換される第3の金
属層m3(例えばAlCuやAl)を成膜する。
【0093】
次いで、図2(E)に示すように、図2(B)と同様に、第3の金属層m3表面に、絶縁層と電流パスを有するCCP構造の一部を形成するための、表面酸化処理あるいは表面窒化処理を行う。その結果、図2(F)のような構造が実現される。この表面酸化処理及び表面窒化処理は、具体的には以下に詳述するような工程を経て行うことができるが、これらの処理は単なる酸化処理などとは異なり、図2(E)及び(F)に示すように、第3の金属層m3の絶縁層化と、第4の金属層m4に移動エネルギーを付与して金属層(電流パス)とを形成するための、CPP構造を形成するような構造変換処理(第2の変換処理)とする。
【0094】
なお、理想形態に近いCCP構造を実現しやすいように、m3、m4ともに比較的薄い膜厚で形成している。この膜厚が厚いと、図2(F)のような理想的な形状を有するCCP構造を実現することが困難となる。一層のみではこのような構造ではNOLの絶縁機能が十分ではないが、図2(C)で既にCCP−NOL構造の一層分を作製しているので、図2(E)で形成するCCP−NOLは薄い膜厚で十分である。このように、CCP−NOL形成のプロセスを二段階に分けることによって、図2(F)のような理想形体に近いCCP−NOL構造を実現することができる。
【0095】
次いで、図2(G)に示すように、必要に応じてスペーサ層16上にCuなどの金属層17を成膜し、その上にフリー層18を成膜する。なお、スペーサ層16上の金属層17は、その上に成膜されるフリー層が酸化の影響を受けることを防止する機能を有するが、必ずしも設ける必要はない。
【0096】
本発明の実施形態に係る方法を用いることにより、スペーサ層16の絶縁層22を貫通する電流パス21の純度を上下層の位置に関わらず向上させることができ、かつCCP形状の上下対称性が良好な、高いMR変化率を有しかつ信頼性が良好な磁気抵抗効果素子を製造することができる。
【0097】
なお、上記例では、CCP−NOL構造中の金属層(電流パス)を形成するための第4の金属層m4を設けているが、この層は本発明においては必須の要素ではない。金属層m4が存在しない場合においても上記第2の変換処理を行うことにより、第1の金属層m1を構成する原子がさらなる移動エネルギーを得、上方に移動して絶縁層となった第3の金属層m3中に電流パスを形成するようになる。
【0098】
しかしながら、上記第4の金属層m4を形成することにより、第3の金属層m3からなる絶縁層中に電流パスを良好な状態で簡易に形成することができるようになる。
【0099】
次に、上記の工程をより詳細に説明する。
【0100】
図2(A)において、m1は電流パスを形成するための材料、m2は酸化、窒化、または酸窒化処理によって絶縁層に変換される金属層である。m1としては、Cu,Au,Ag,Alなどの金属層が好ましい。m2としては、酸化、窒化されたときに良好な絶縁機能を有するAl,Si,Mg,Ti,Hf,Zr,Cr,Mo,Nb,Wのうち少なくともひとつの元素を含む材料から形成されることが好ましい。これらの単体金属でも良いし、合金材料でも構わない。m1の膜厚としては、0.1〜1.5nm程度が好ましく、m2の膜厚としては、0.3〜1nm程度が好ましい。
【0101】
図2(B)において、ピン層14上に第1の金属層m1および第2の金属層m2を成膜した後に行う表面酸化処理あるいは表面窒化処理は、第2の金属層m2中に第1の金属層m1の一部を侵入させるとともに、金属層m2を絶縁層22に変換するために行われる工程である。このように、金属から絶縁層への変換処理とともに、電流パスをナノオーダーで作製するためには、上記表面酸化処理あるいは上記表面窒化処理は、例えば以下のようにして実施することができる。
【0102】
まず、m2の中をm1中に侵入させるためには、原子の移動エネルギーを与える必要がある。そのために、酸化処理又は窒化処理を行うときには酸素ガス又は窒素ガスを単純にチャンバーにフローするだけの自然酸化プロセス又は自然窒化プロセスではなく、イオンやプラズマ状態のガスを照射することによるエネルギーを用いることが好ましい。また、m1を酸化、窒化、または酸窒化物として良好な絶縁耐性を有するものにするためには、酸化処理及び窒化処理もエネルギーを与えられた状態で形成することが好ましい。
【0103】
このような観点から、前記酸化処理及び窒化処理は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、クリプトンなどのガスをイオン化あるいはプラズマ化し、このようなイオン化雰囲気あるいはプラズマ雰囲気中に酸素ガスや窒素ガスなどを供給し、前記雰囲気中のイオンやプラズマのアシストを受けた状態で、行うことが好ましい(第1の方法)。
【0104】
また、上記酸化処理や窒化処理において、上述したアシストを効果的に実施するためには、以下に示すような複数の工程を実施することが好ましい。
【0105】
(I)上述した第1の方法における酸化処理あるいは窒化処理の後に、上述した希ガスのイオン、もしくはプラズマを膜表面に照射する(第2の方法)。
【0106】
本方法においては、上述した第1の方法における酸化処理及び窒化処理を実施した後、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、クリプトンのうち少なくともいずれかひとつの元素を含むイオン、またはプラズマを膜表面に照射する。またこれら希ガスの換わりに、酸素、または窒素ガスのイオン、またはプラズマを照射することも可能である。
【0107】
この方法によれば、イオン照射あるいはプラズマ照射によって、上記酸化処理及び窒化処理を事後的にアシストするようになり、例えば第1の金属層m1などにさらなる移動エネルギーを付加し、均一な大きさかつ特性の電流パスを簡易に形成することができる。
【0108】
(II)上述した第1の方法における酸化処理あるいは窒化処理の前に、上述した希ガスのイオン、もしくはプラズマを膜表面に照射する(第3の方法)。
【0109】
この場合には、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、クリプトンのうち少なくともいずれかひとつの元素を含む希ガスのイオンもしくはプラズマを膜表面に照射する。この場合においても、例えば第1の金属層m1などに予め移動エネルギーを付加しておくことができ、後の酸化処理などを経ることによって均一な大きさかつ特性の電流パスを簡易に形成することができる。
【0110】
(III)上述した第1の方法における酸化処理あるいは窒化処理の前後に、上述した希ガスのイオン、もしくはプラズマを膜表面に照射する(第4の方法)。
【0111】
これは、上記(I)及び(II)の方法を組み合わせたものである。したがって、第1の方法における酸化処理あるいは窒化処理の後のイオンあるいはプラズマ照射は、上記(I)の場合と同様にして行うことができ、したがって、第1の方法における酸化処理あるいは窒化処理の前のイオンあるいはプラズマ照射は、上記(II)の場合と同様にして行うことができる。
【0112】
次に、上記のようなプロセスにおいて、(I)の酸化処理などの後に行う処理、または(II)の酸化処理など前に行う処理のイオンビーム、またはプラズマの照射条件の詳細について述べる(第2の方法〜第4の方法)。
【0113】
上述した希ガスをイオン化した際、あるいはプラズマ化した際には、加速電圧Vを+30〜130V、ビーム電流Ibを20〜200mAに設定することが好ましい。これらの条件は、イオンビームエッチングを行う場合の条件と比較すると著しく弱い条件である。ここではイオンビームを用いたが、イオンビームの換わりに、RFプラズマなどのプラズマを用いても全く同様に作成することが可能である。
【0114】
イオンビームの入射角度は、膜面に対して垂直に入射する場合を0度、膜面に平行に入射する場合を90度と定義して、0〜80度の範囲で適宜変更する。この工程による処理時間は15秒〜180秒程度が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長すぎると、CCP−CPP素子の生産性が劣るため好ましくない。これらの観点から、処理時間は30秒〜180秒程度が最も好ましい。
【0115】
上述したようなエネルギーを有するイオンビームを照射することによって、第2の金属層m2中へ第1の金属層m1の構成原子が高い移動エネルギーを得て吸い上げられて侵入し、電流パスが生成されることになる。
【0116】
上述したように、第2の金属層m2としては、AlCuやAlを用いることができる。第2の金属層m2としてCuを含まないAlを用いた場合、第1の金属層m1からのCuの吸い上げだけが生じる。第2の金属層m2としては、Al以外の金属材料を用いることができる。例えば第2の金属層m2として、安定な酸化物に変換される、Si、Hf、Zr、Ti、Mg、Cr、Mo,Nb,Wなどを用いてもよい。
【0117】
また、上記酸化処理をイオン、もしくはプラズマを用いた場合の詳細な条件について述べる(第1の方法及び第2の方法〜第4の方法における一ステップ)。このときのイオン、もしくはプラズマの照射条件は、加速電圧Vを+40〜200V、ビーム電流Ibを30〜300mA程度に設定することが好ましい。酸化処理時間は、15秒〜300秒程度が好ましく、20秒〜180秒程度がより好ましい。強いイオンビームを用いるときには処理時間を短くし、弱いイオンビームを用いるときには処理時間を長くする。
【0118】
酸化時の酸素暴露量の好ましい範囲は、イオン、またはプラズマを用いた酸化処理の場合には1000〜5000L(1L=1×10-6Torr×sec)、自然酸化の場合には3000〜30000Lである。
【0119】
上記のような適正な条件を図2で示す各工程で用いることにより、理想形体近いCCP構造を実現することが可能になる。
【0120】
図2(D)において、m3、m4はそれぞれm1、m2と同一の材料でも良いし、異なっていても構わない。一般的には、同一の材料を用いることが好ましい実施形態である。具体的には、m4はCu,Au,Ag,Alのうち少なくともいずれかひとつの元素を含む金属層で形成され、m3としては、酸化、窒化されたときに良好な絶縁機能を有するAl,Si,Mg,Ti,Hf,Zr,Cr,Mo,Nb,Wのうち少なくともひとつの元素を含む材料から形成されることが好ましい。これらの単体金属でも良いし、合金材料でも構わない。
【0121】
m3の膜厚としては、0.1〜1.5nm程度が好ましく、m4の膜厚としては、0.3〜1nm程度が好ましい。
【0122】
なお、上記においては、特に酸化処理を行う場合についての詳細な条件が記載されているが、窒化処理においても類似の条件を用いることができる。
【0123】
図2(G)において、上部金属層17、フリー層18が成膜されるが、上部金属層17としては、CCPを構成する材料と同一でも良いし、異種材料でも構わない。望ましい形としては、Cu,Au,Ag、Alなどが望ましい実施形態である。上部金属層17の膜厚としては、0〜1nmが好ましい値である。
【0124】
図3に本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)を製造するために用いられる装置の概略的な構成を示す。図3に示すように、搬送チャンバー(TC)50を中心として、ロードロックチャンバー51、プレクリーニングチャンバー52、第1の金属成膜チャンバー(MC1)53、第2の金属成膜チャンバー(MC2)54、酸化チャンバー(OC)60がそれぞれ真空バルブを介して設けられている。この装置では、真空バルブを介して接続された各チャンバーの間で、真空中において基板を搬送することができるので、基板の表面は清浄に保たれる。
【0125】
金属成膜チャンバー53,54は多元(5〜10元)のターゲットを有する。成膜方式は、DCマグネトロンスパッタ、RFマグネトロンスパッタ等のスパッタ法、イオンビームスパッタ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、およびMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などが挙げられる。
【0126】
表面酸化処理には、イオンビーム機構、RFプラズマ機構、または加熱機構を有するチャンバーを利用でき、かつ金属成膜チャンバーとは分けることが必要である。
【0127】
上記真空チャンバーの典型的な真空度の値としては、10-9Torr台であり、10−8Torrの前半の値が許容できる。
【0128】
本発明において特徴的なm1、m2、m3,m4の成膜は金属成膜チャンバー53、54のいずれかで行われ、表面酸化処理は酸化チャンバー60において行われる。m1、m2の成膜後には搬送チャンバー50を介してウェハーが酸化チャンバー60に搬送され酸化処理が行われる。その後、金属成膜チャンバー53、54のいずれかに搬送されてm3、m4が成膜されたのち、再び搬送チャンバー50を介してウェハーは酸化処理チャンバー60に搬送され、酸化処理が行われる。その後、金属成膜チャンバー53、54のいずれかに搬送されて上部金属層17、フリー層18の成膜が行われる。
【0129】
図4は、図3に示した酸化チャンバー60の構成の一例である。ここでは酸化チャンバー60はイオンビームを有するチャンバーとなっている。図に示すように、酸化チャンバー60は真空ポンプ61によって真空引きされ、酸化チャンバー60にはマスフローコントローラー(MFC)63により流量制御された酸素ガスが酸素供給管62から導入される。酸化チャンバー60内にはイオンソース70が設けられている。イオンソースの形式は、ICP(Inductive coupled plasma)型、Capacitive coupled plasma型、ECR(Electron-cyclotron resonance)型、カウフマン型などが挙げられる。イオンソース70に対向するように基板ホルダー80および基板1が配置される。
【0130】
イオンソース70からのイオン放出口には、イオン加速度を調整する3枚のグリッド71、72、73が設けられている。イオンソース70の外側にはイオンを中和するニュートラライザ74が設けられている。基板ホルダー80は傾斜可能に支持されている。基板1へのイオンの入射角度は広い範囲で変えることができるが、典型的な入射角度の値は15°〜60°である。
【0131】
この酸化チャンバー60において、Arなどのイオンビームを基板1に照射することにより、イオンを用いた表面酸化処理に伴うエネルギーアシストを行うことができ、酸素供給管62から酸素ガスを供給しながらArなどのイオンビームを基板1に照射することにより金属層から酸化層への変換を行うことができる。
【0132】
ここでは酸化チャンバーとしてイオンビームを有するチャンバーだが、RFプラズマチャンバーなどでも全く同等の効果を有する。いずれにしても前述のように、表面酸化処理においてはエネルギーを与える処理を行うことが必要なので、イオン、もしくはプラズマを発生することができるチャンバーにおいて表面酸化処理を行うことが必要となる。
【0133】
また、エネルギーを与えるための手段として、加熱処理を行うことも可能である。この場合には、100℃〜300℃の温度で数十秒から数分程度の処理を行うなどがある。この処理を表面酸化処理の一環として行うこともできる。
【0134】
(磁気抵抗効果素子の製造方法の全体的説明)
以下、磁気抵抗効果素子の製造方法の全体について、図1を用いて詳細に説明する。
【0135】
最初に、基板(図示せず)上に、下電極11、下地層12、ピニング層13、ピン層14、下部金属層15、スペーサ層16、上部金属層17、フリー層18、キャップ層19、上電極20を順に形成する。
【0136】
次いで、図3のような装置構成を用いて、基板をロードロックチャンバー51にセットし、金属の成膜を金属成膜チャンバー53または54で、酸化を酸化物層・窒化物層形成チャンバー60でそれぞれ行う。金属成膜チャンバーの到達真空度は1×10−8Torr以下とすることが好ましく、5×10−10Torr〜5×10−9Torr程度が一般的である。搬送チャンバー50の到達真空度は10−9Torrオーダーである。酸化物層・窒化物層形成チャンバー60の到達真空度は8×10−8Torr以下である。
【0137】
(1)下地層12の形成
基板(図示せず)上に、下電極11を微細加工プロセスによって前もって形成しておく。下電極11上に、下地層12として、例えば、Ta[5nm]/Ru[2nm]を成膜する。既述のように、Taは下電極の荒れを緩和したりするためのバッファ層12aである。Ruはその上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するシード層12bである。
【0138】
(2)ピニング層13の形成
下地層12上にピニング層13を成膜する。ピニング層13の材料としては、PtMn、PdPtMn、IrMn、RuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。
【0139】
(3)ピン層14の形成
ピニング層13上にピン層14を形成する。ピン層14は、例えば、下部ピン層141(Co90Fe10)、磁気結合層142(Ru)、および上部ピン層143(Co90Fe10[4nm])からなるシンセティックピン層とすることができる。
【0140】
(4)スペーサ層16の形成
次に、電流狭窄構造(CCP構造)を有するスペーサ層(CCP−NOL)16を形成する。ここが本発明において最も特徴的な工程であるため以下詳細に説明する。
【0141】
まず、スペーサ層16を形成するには、ピン14までを金属成膜チャンバーで成膜した後に、酸化物層・窒化物層形成チャンバー60に搬送され、60にて処理を行う。
【0142】
ここで、スペーサ層16の望ましい形体について述べる。スペーサ層16として、比較的厚めのスペーサ層16を実現することが望ましい。その理由として、メリットと絶縁層膜厚が厚くなることによって、電流パス層以外の本来ならば絶縁層として機能しなければならない領域にリーク電流が流れることを完全に抑制することができ、CCP効果をより強く発揮し、より強固な信頼性を実現することができることがある。また、絶縁層膜厚が厚くなることで、絶縁層の絶縁耐圧が向上するため、ESD(Electric Static Discharge)などの静電破壊耐性を向上させることが可能となる。ESD耐圧が高いことは、ヘッドをHDDに組むときの歩留まりを向上させることにつながる。
【0143】
このように信頼性性能が大きく向上することは、HDD生産のときのみならず、あらゆる状況における破壊、熱的な耐性をも向上させることができるので、高信頼性が必要とされる、サーバーや、エンタープライズ用途のヘッドとして適したものとなる。単に記録密度を向上させるだけでない高信頼性のヘッドは、HDDの用途が広がっている近年の状況ではますます重要になってくる。ヘッドの寿命が長くなることは、HDDの使用環境を広げるということで非常に重要になってくる。このような高信頼性のヘッドは、熱的環境が厳しいカーナビゲーション用のHDDとしても非常に有効である。
【0144】
もちろん、このような高信頼性を有するヘッドは、上記のような高付加価値のHDDだけでなく、民生用途として使用される通常のパソコン、携帯型音楽プレーヤー、携帯電話などのHDDとして用いることができる。
【0145】
なお、上述のように、比較的厚い膜厚のスペーサ層を形成することが望ましいが、実現するプロセスは容易ではない。従来のスペーサ層16の形成方法としては例えば、特願2004−233641などがある。しかしながら、従来のプロセスにおいては厚いスペーサ層を形成することは困難を伴う。それはm1をm2中に吸い上げさせるという工程を考えると、厚い膜厚では膜表面からのエネルギー処理が届かなくなってしまうことは容易に想像される。
【0146】
一方、十分なエネルギーを与えるためにイオンビーム、プラズマのエネルギーを大きくしすぎると、今度はエッチングされて削れてしまい、m1をm2に吸い上げるのではなく、単にm2をエッチングして削る、もっと極端な場合は、m2、m1ともにエッチングされてなくなってしまうということになってしまう。これでは、エネルギーアシストの効果は全くなくなってしまう。
【0147】
以上のことから、厚いスペーサ層16を従来のプロセスで形成することは困難を伴うことがわかる。
【0148】
一方、薄いスペーサ層16を形成することは比較的容易であるが、それでは十分なCCP機能を発揮しない。例えば、本来絶縁層として機能しなければならない部分にトンネル電流も流れ、これはリーク電流となってしまう。また、絶縁層膜厚が薄いと、絶縁耐圧を弱くなるので、ESDなどにも弱く、製造工程上いろいろな工夫が必要になり、歩留まりの低下を引き起こしてしまう。
【0149】
このように、従来プロセスにおいては、実用上は十分な機能を発揮するものの、より高信頼性が要求される用途や、製造上の歩留まりをより向上させるという観点においては、より高信頼性を有するヘッドが必要とされている。
【0150】
このような問題を解決するために、上述したような本発明の製造方法を用いることによって、スペーサ層を構成する絶縁層の膜厚が増大し、前記スペーサ層中に形成された電流パス層以外の、本来的に絶縁層として機能すべき領域にリーク電流が流れることを完全に抑制することができるようになる。この結果、CCP効果をより強く発揮し、より強固な信頼性を実現することができる。また、絶縁層膜厚が厚くなることで、絶縁層の絶縁耐圧が向上するため、ESD(Electric Static Discharge)などの静電破壊耐性を向上させることが可能となる。
【0151】
本発明によるスペーサ層16を形成するには、図2のようなステップを用いる。ここでは、アモルファス構造を有するAl2O3からなる絶縁層161中に金属結晶構造を有するCuからなる電流パス162を含むスペーサ層16を形成する場合を例に具体的に説明する。
【0152】
最初に、上部ピン層143上に、電流パスの供給源となる金属層m1(例えばCu)を成膜した後、下部金属層m1上に絶縁層161の一部として変換される被酸化金属層m2(例えばAlCuやAl)を成膜する。
【0153】
次いで、被酸化金属層に対して変換処理を行う。この変換処理は、上述のような酸化処理あるいは窒化処理を経て行うことができる。また、このような変換処理は複数のステップを経て実施するようにすることができる。例えば、変換処理の第1ステップとして、希ガス(例えばAr)のイオンビームを照射する。この前処理をPIT(Pre-ion treatment)という。このPITの結果、被酸化金属層中に下部金属層の一部が吸い上げられて侵入した状態になる。エネルギー処理を行うための手段としてPITは有効である。
【0154】
なお、上記エネルギーを与える別の手段として、膜表面を加熱するなどの手段も有効である。このときは、100〜300℃程度で加熱する手段などがある。また、前述のように、酸素ガスを用いて酸化膜への変換を行った後に、Arなどの希ガスを用いてエネルギー処理を行う方法でもよい。この後処理をAIT(After-ion treatment)と呼ぶ。
【0155】
また、上述したPITなどに加えて、本例では上記イオンビームなどの存在下に酸素ガスや窒素ガスなどを供給し、エネルギーアシストを得た状態で酸化処理あるいは窒化処理を行う。これらの処理が本発明の本流であり、例えばIAO(Ion−beam assisted oxidation)などと呼ぶ。
【0156】
上記のような処理を経ることによって、第1の金属層m1のCuがAlCu層中へ吸い上げられ、第2の金属層m2が金属状態から絶縁層状態へと変換される。
【0157】
PIT,およびAITでは、加速電圧30〜150V、ビーム電流20〜200mA、処理時間30〜180秒の条件でArイオンを照射する。上記加速電圧の中でも、40〜60Vの電圧範囲が好ましい。これよりも高い電圧範囲の場合には、PITやAIT後の表面荒れ等の影響により、MR変化率の低下が生じる場合がある。また、電流値としては、30〜80mAの範囲、照射時間として、60秒から150秒の範囲を利用できる。
【0158】
また、PITやAIT処理の換わりに、AlCuやAlなどの絶縁層161の一部として変換される前の金属層をバイアススパッタで形成する手法もある。この場合には、バイアススパッタのエネルギーは、DCバイアスの場合には30〜200V、RFバイアスの場合には30〜200Wとすることができる。
【0159】
なお、IAOでは、加速電圧40〜200V、ビーム電流30〜200mA、処理時間15〜300秒の条件でArイオンを照射する。上記加速電圧の中でも、50〜100Vの電圧範囲が好ましい。加速電圧がこれよりも高いと、PIT後の表面荒れ等の影響により、MR変化率の低下が生じる可能性がある。また、ビーム電流として、40〜100mA、照射時間として、30秒〜180秒を採用できる。
【0160】
IAOでの酸化時の酸素供給量としては、1000〜3000Lが好ましい範囲である。IAO時にAlだけでなく、下部磁性層(ピン層14)まで酸化されると、CCP−CPP素子の耐熱性、信頼性が低下するので好ましくない。信頼性向上のために、スペーサ層16の下部に位置する磁性層(ピン層14)が酸化されず、メタル状態であることが重要である。これを実現するためには酸素供給量を上記範囲とすることが必要である。
【0161】
また、供給された酸素によって安定な酸化物を形成するために、イオンビームを基板表面に照射している間だけ、酸素ガスをフローしていることが望ましい。即ち、イオンビームを基板表面に照射していないときは、酸素ガスをフローしないことが望ましい。
【0162】
上述のような処理を経た後、例えば、Al2O3からなる絶縁層161とCuからなる電流パス162とを有するスペーサ層16の一部が形成される。Alが酸化されやすく、Cuが酸化されにくいという、酸化エネルギーの差を利用した処理である。
【0163】
以上のプロセスまでについては、特願2004−233641と同様であるが、本発明においては、より理想形態に近いCCP構造を実現するために、m1、m2の膜厚ともに薄い膜厚を用いる。薄くすることで、より容易に良好な形態のCCP構造を実現することが可能となるからである。
【0164】
具体的なm1の膜厚としては、0.1〜1.5nm程度が好ましく、m2の膜厚としては、0.3〜1nm程度が好ましい。
【0165】
電流パスを形成する第1の金属層m1(下部金属層15)の材料として、Cuの代わりに、Au、Ag、Alや、少なくともこれらの元素のうちひとつを含む金属を用いてもよい。ただし、Au、Agに比べて、Cuの方が熱処理に対する安定性が高く、好ましい。第1の金属層m1の材料として、これらの非磁性材料の代わりに、磁性材料を用いてもよい。磁性材料としては、Co、Fe、Niや、これらの合金が挙げられる。
【0166】
第2の金属層m2にAl90Cu10を用いると、PIT工程中に、第1の金属層m1のCuが吸い上げられるのみでなく、AlCu中のCuがAlから分離される。即ち、第1、第2の金属層m2の双方から電流パス162が形成される。PIT工程後にイオンビームアシスト酸化を行った場合には、イオンビームによるアシスト効果によってAlとCuの分離が促進されつつ酸化が進行する。
【0167】
第2の金属層m2として、Al90Cu10の代わりに、電流パス162の構成材料であるCuを含まないAl単金属を用いてもよい。この場合、電流パス162の構成材料となるCuは下地の第1の金属層m1からのみ供給される。第2の金属層m2としてAlCuを用いた場合、PIT工程中に第2の金属層m2からも電流パス162の材料であるCuが供給される。このため、厚い絶縁層161を形成する場合でも、比較的容易に電流パス162を形成することができる。第2の金属層m2としてAlを用いた場合、酸化により形成されるAl2O3にCuが混入しにくくなるため、耐圧の高いAl2O3を形成しやすい。Al、AlCuそれぞれのメリットがあるので、状況に応じて使い分けられる。
【0168】
第2の金属層m2の膜厚は、AlCu、Alの場合には0.3〜1nm程度が好ましい。この膜厚範囲はm1、m2のみでスペーサ層16を形成しようとしたときには薄すぎるといえる膜厚範囲も含んでいる。例えば、0.3nmのAlを用いた場合には、これだけでスペーサ層16の形成を終えたとしたら、不十分な膜厚である。しかしながら、後に述べるように、もう一度別のプロセスによってスペーサ層16を形成し、本ステップまではスペーサ層16の一部を形成したのみであるので、上記のような薄い膜厚はCCPを形成するという観点では望ましい範囲となる。
【0169】
第2の金属層m2としてのAlCuは、AlxCu100-x(x=100〜70%)で表される組成を有するものが好ましい。AlCuには、Ti、Hf、Zr、Nb、Mg、Mo、Siなどの元素を添加してもよい。この場合、添加元素の組成は2〜30%程度が好ましい。これらの元素を添加すると、CCP構造の形成が容易になる可能性がある。また、Al2O3の絶縁層161とCuの電流パス162との境界領域にこれらの添加元素が他の領域よりリッチに分布すると、絶縁層161と電流パス162との密着性が向上して、エレクトロマイグレーション(electro-migration)耐性が向上する可能性がある。
【0170】
CCP−CPP素子においては、スペーサ層16の金属電流パスに流れる電流の密度が107〜1010A/cm2もの巨大な値になる。このため、エレクトロマイグレーション耐性が高く、電流通電時のCu電流パス162の安定性を確保できることが重要である。ただし、適切なCCP構造が形成されれば、第2の金属層m2に元素を加えなくても十分良好なエレクトロマイグレーション耐性を実現できる。
【0171】
第2の金属層m2の材料は、Al2O3を形成するためのAl合金に限らず、Hf、Mg、Zr、Ti、Ta、Mo、W、Nb、Siなどを主成分とする合金でもよい。また、第2の金属層m2から変換される絶縁層161は、酸化物に限らず、窒化物や酸窒化物でもよい。
【0172】
第2の金属層m2としてどのような材料を用いた場合にも、成膜時の膜厚は0.5〜2nmが好ましく、酸化物、窒化物または酸窒化物に変換されたときの膜厚は0.8〜3.5nm程度が好ましい。
【0173】
絶縁層161は、それぞれ単体の元素を含む酸化物だけでなく、合金材料の酸化物、窒化物、酸窒化物でもよい。例えば、Al2O3を母材として、Ti、Mg,Zr,Ta,Mo,W,Nb,Siなどのいずれか一つの元素、もしくはAlに複数の元素を0〜50%含有する材料の酸化物なども用いることができる。
【0174】
また、第3の金属層m3は0.3〜1.0nmが好ましく、第4の金属層m4は0.1〜1.5nmが好ましい。この第3の金属層m3及び第4の金属層m4に対しても上述した場合と同様の変換処理を行う。第3の金属層m3はAlCuやAlから構成することができ、第4の金属層m4はCuなどから構成することができる。
【0175】
以上のように、本例では、第1の金属層m1及び第2の金属層m2、並びに第3の金属層m3及び第4の金属層m4に対してそれぞれ変換処理を、2段階の変換処理でスペーサ層を構成するようにしている。したがって、前記スペーサ層を比較的厚いCCP構造を呈するものとして構成することができる。
【0176】
また、上記具体例では、変換処理を2段階で実施しているが、当然に3段階以上の変換処理を実施してCCP型のスペーサ層を形成するようにすることができる。しかしながら、現状要求されるCPP構造型の磁気抵抗効果素子においては、上述した2段階の変換処理を経るのみで目的とする特性のCPP構造型の磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【0177】
(5)上部金属層17、フリー層18の形成
次いで、スペーサ層16の上に、上部金属層17として、例えば、Cu[0.25nm]を成膜する。好ましい膜厚範囲は、0.2〜1.0nm程度である。0.25nm程度を用いると、フリー層18の結晶性を向上しやすいというメリットがある。ただし、この上部金属層は場合によっては必ずしも形成しなくても構わない。
【0178】
上部金属層17の上に、フリー層18、例えば、Co90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]を形成する。高いMR変化率を得るためには、スペーサ層16との界面に位置するフリー層18の磁性材料の選択が重要である。この場合、スペーサ層16との界面には、NiFe合金よりもCoFe合金を設けることが好ましい。CoFe合金のなかでも特に軟磁気特性が安定なCo90Fe10[1nm]を用いることができる。他の組成でも、CoFe合金は用いることができる。
【0179】
Co90Fe10近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5〜4nmとすることが好ましい。他の組成のCoFe合金(例えば、Co50Fe50)を用いる場合、膜厚を0.5〜2nmとすることが好ましい。スピン依存界面散乱効果を上昇させるために、フリー層18に、例えば、Fe50Co50(もしくは、FexCo100-x(x=45〜85))を用いた場合には、フリー層18としての軟磁性を維持するために、ピン層14のような厚い膜厚は使用困難である。このため、0.5〜1nmが好ましい膜厚範囲である。Coを含まないFeを用いる場合には、軟磁気特性が比較的良好なため、膜厚を0.5〜4nm程度とすることができる。
【0180】
CoFe層の上に設けられるNiFe層は、軟磁性特性が安定な材料からなる。CoFe合金の軟磁気特性はそれほど安定ではないが、その上にNiFe合金を設けることによって軟磁気特性を補完することができる。NiFeをフリー層18として用いることは、スペーサ層16との界面に高MR変化率を実現できる材料が使用可能となり、スピンバルブ膜のトータル特性上好ましい。
【0181】
NiFe合金の組成は、NixFe100-x(x=78〜85%程度)が好ましい。ここで、通常用いるNiFeの組成Ni81Fe19よりも、Niリッチな組成(例えば、Ni83Fe17)を用いることが好ましい。これはゼロ磁歪を実現するためである。CCP構造のスペーサ層16上に成膜されたNiFeでは、メタルCu製のスペーサ層上に成膜されたNiFeよりも、磁歪がプラス側にシフトする。プラス側への磁歪のシフトをキャンセルするために、Ni組成が通常よりも多い、負側のNiFe組成を用いている。
【0182】
NiFe層のトータル膜厚は2〜5nm程度(例えば、3.5nm)が好ましい。NiFe層を用いない場合には、1〜2nmのCoFe層またはFe層と0.1〜0.8nm程度の極薄Cu層とを、複数層交互に積層したフリー層18を用いてもよい。
【0183】
(6)キャップ層19、および上電極20の形成
フリー層18の上に、キャップ層19として例えば、Cu[1nm]/Ru[10nm]を積層する。キャップ層19の上にスピンバルブ膜へ垂直通電するための上電極20を形成する。
【実施例】
【0184】
(実施例1)
以下、本発明の実施例につき説明する。以下に、本発明の実施例に係る磁気抵抗効果膜10の構成を表す。
【0185】
・下電極11
・下地層12:Ta[3nm]/Ru[2nm]
・ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
・ピン層14:Co90Fe10[3.6nm]/Ru[0.9nm]/(Fe50Co
50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]
・金属層15:Cu[0.1nm]
・スペーサ層(CCP−NOL)16:Al2O3の絶縁層161およびCuの電流パス162
・金属層17:Cu[0.25nm]
・フリー層18:Co90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]
・キャップ層19:Cu[1nm]/Ru[10nm]
・上電極20。
【0186】
CCP−NOLの作成方法
以下本発明に特徴的なCCP−NOLの作成方法についてのみもう少し具体的に述べる。ピン層14までは成膜し終わっており、基板は酸化チャンバー60に搬送されている状態から説明する。
【0187】
まず、図2(A)ステップとして、m1としてCuを0.3nm、m2としてAlCuを0.6nm成膜した。
【0188】
図2(B)ステップとして、1段目の変換処理を行う。具体的な変換処理としては、以下のような複数ステップで行った。まず、Arイオンビームをサンプル表面に照射した状態で、酸素ガスを酸化チャンバーにフローする。Arイオンビームのエネルギーは60Vを用いた(IAO)。その後、酸素ガスフローをストップし、Arイオンビームの照射のみを行った。このときのArイオンビームの条件は酸化のときに用いた条件と全く同様である。イオンビームの照射を60秒行った(AIT)。その結果、図2(C)のような形態が形成される。
【0189】
次いで、図2(D)ステップとして、m3としてCuを0.3nm、m4としてAlCuを0.6nm成膜した。
【0190】
次いで、図2(E)のプロセスとして、2段目の変換処理を行った。具体的な変換処理としては、以下のような複数ステップで行った。まず、Arイオンビームをサンプル表面に照射した状態で、酸素ガスを酸化チャンバーにフローする。Arイオンビームのエネルギーは60Vを用いた(IAO)。その後、酸素ガスフローをストップし、Arイオンビームの照射のみを行った。このときのArイオンビームの条件は酸化のときに用いた条件と全く同様である。イオンビームの照射を60秒行った(AIT)。その結果、図2(F)のような形態を形成することができる。
【0191】
図2(G)のプロセスとして、上部金属層17を0.25nm形成し、スペーサ層15、16、17が完成する。
【0192】
ここで、図示したような構成は、CCP−CPP素子をすべて成膜した後に行う熱処理による最終形態であるので、CCP−CPP素子の成膜途中の段階においては図示したような最終構成になっていない場合もある。実際にはCCP−CPP膜キャップ層まですべて成膜後に行う熱処理によってもエネルギーアシスト効果となるため、熱処理まで終了した状態で最終形体となる。熱処理の条件は290度4時間行うことになる。
【0193】
スペーサ層の形成が終わると、酸化チャンバー60から搬出され、金属成膜チャンバーへと搬送される。金属成膜チャンバーにて、フリー層の成膜が行われる。
【0194】
(実施例の評価)
実施例を比較例と共に評価した。
【0195】
比較例として、図5に示すような従来プロセスで行った場合について比較した。比較例においては、m1の膜厚は、実施例のm1とm3の膜厚の和である、0.6nmのCuを成膜し、比較例のm2の膜厚として、実施例のm2とm4の膜厚の和である、1.2nmのAlCuを成膜した。
【0196】
変換処理プロセスとしては、実施例で行った変換処理プロセスと全く同様のプロセスを一度のみ行った。つまり、IAO/AITプロセスにおいてスペーサ層を作製した。
【0197】
ここで、特性を評価した通電方向として、ピン層14からフリー層18に電流が流れる方向とした。つまり、電子の流れとしては、逆向きになるのでフリー層18からピン層14に流れることになる。このような通電方向は、スピントランスファーノイズを低減するために望ましい方向である。フリー層18からピン層14に電流を流す場合(電子の流れとしては、ピン層からフリー層)のほうが、スピントランスファートルク効果が大きいといわれており、ヘッドにおいてはノイズ発生のもとになる。その観点からも、通電方向はピン層からフリー層に流れる方向が好ましい構成である。
【0198】
実施例に係るCCP−CPP素子の特性を評価したところ、RA=500mΩ/μm2、MR変化率=9%であった。一方、比較例に係わるCCP−CPP素子の特性を評価したところ、RA=900mΩ/μm2、MR変化率=7%であった。両者とも、形成後のNOL膜厚はほぼ等しいにも係わらず、RA,MR変化率ともに実施例と比較例では優位な差が認められた。
【0199】
ここで、上記のような違いが見られた原因を調べるために、三次元アトムプローブを用いて実施例と比較例の比較検討を行った。三次元アトムプローブとは、サンプルをニードル状に加工して、そのサンプルを真空チャンバー内にセットしサンプルに高電圧を印加することで先端の原子を一個、一個電界蒸発を生じさせて、三次元ナノ構造を原子オーダーで分析する破壊試験方法である。
【0200】
その結果、比較例の場合には、電流パス21の上部において電流パス開口面積が小さくなってしまっており、かつ酸素濃度が電流パス21の下部よりも多くなってしまっている。具体的には、電流パスによっては、上下で20%以上面積の差が生じてしまっているものがある。ここで、電流パスの下部、および上部の定義としては、下部は電流パス膜厚方向の膜厚を、基板側を0、膜表面側を100としたときに、50未満の場所を電流パスの下部と呼び、50以上の場所を電流パスの上部と呼ぶ。
【0201】
また、電流パス21のCu純度にも、電流パス21の上部か、下部かで違いが見られる。具体的には、電流パス上部のほうが電流パス下部よりもCu中に含まれる酸素濃度が10atomic%以上多い場合がある。電流パス21のCu純度が悪くなった場合には、CCP効果が薄れ性能が悪くなってしまう。また、このような形状の上下非対称性は、通電方向による信頼性の違いも引き起こすことになるので、好ましくない。
【0202】
一方、実施例の場合には、電流パス21の上部においても下部においても、電流パス開口面積に20%もの違いはなく、均一に形成されている。また、電流パスの酸素濃度には上部でも下部でも10atomic%もの大きな差は生じていない。
【0203】
このような違いが生じた原因として、比較実施例の場合には、m2の膜厚として、1.2nmのAlCuを表面酸化した場合には、m1のCuの吸い上げが完全な形にならず、不完全な状態になってしまうことに起因すると考えられる。酸素濃度についても、m2の膜厚が厚すぎる場合には表面酸化を行ったときに上部のほうが下部よりも酸素濃度が高い。 また、絶縁層161を貫通する電流パス162の直径は1〜10nm程度であり、2〜6nm程度になっている。直径10nmよりも大きな電流パス162は小さな素子サイズにしたときに、各素子ごとの特性のばらつきの原因となるので好ましくなく、直径6nmよりも大きな電流パス162は存在しないことが好ましい。
【0204】
(実施例2)
実施例1ではボトム型スピンバルブ膜を有するCPP構造の磁気抵抗効果素子について説明したが、本実施例ではトップ型スピンバルブ膜を有するCPP構造の磁気抵抗効果素子について説明する。トップ型スピンバルブ膜では、ピン層14がフリー層18よりも上に配置される。即ち、SCTは、ピン層14がフリー層18よりも下に位置するボトム型のCCP−CPP素子のみならず、トップ型のCCP−CPP素子にも適用できる。この場合でも本発明に特徴的なスペーサ層16を形成するプロセスについては全く同様である。図1において、上部ピン層の変わりにフリー層がスペーサ層の下地となり、図1におけるフリー層18の換わりに、ピン層14に相当する層がスペーサ層の上層に配置されることになる。
【0205】
具体的には以下のような構成が一例である。
【0206】
・下電極11
・下地層12:Ta[3nm]/Ru[2nm]
・フリー層18:Ni83Fe17[3.5nm]/Co90Fe10[1nm]
・金属層15:Cu[0.5nm]
・スペーサ層(CCP−NOL)16:Al2O3の絶縁層161およびCuの電流パス162
・金属層17:Cu[0.25nm]
・ピン層14:(Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]/Ru[0.9nm]/Co90Fe10[3.6nm]
・ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
・キャップ層19:Cu[1nm]/Ru[10nm]
・上電極20。
【0207】
上述のように、トップ型のCCP−CPP素子を製造する場合には、下地層12とキャップ層19との間にある層が、図2とほぼ逆の順序で成膜される。但し、下部金属層15および上部金属層17は、スペーサ層16の作成等との関係で、順番が逆転していない。つまり、m1、m2、m3、m4の役割はボトム型でもトップ型でも全く同様である。
【0208】
(磁気抵抗効果素子の応用)
以下、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)の応用について説明する。
【0209】
本発明の実施形態において、CPP素子の素子抵抗RAは、高密度対応の観点から、500mΩ/μm2以下が好ましく、300mΩ/μm2以下がより好ましい。素子抵抗RAを算出する場合には、CPP素子の抵抗Rにスピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aを掛け合わせる。ここで、素子抵抗Rは直接測定できる。一方、スピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aは素子構造に依存する値であるため、その決定には注意を要する。
【0210】
例えば、スピンバルブ膜の全体を実効的にセンシングする領域としてパターニングしている場合には、スピンバルブ膜全体の面積が実効面積Aとなる。この場合、素子抵抗を適度に設定する観点から、スピンバルブ膜の面積を少なくとも0.04μm2以下にし、300Gbpsi以上の記録密度では0.02μm2以下にする。
【0211】
しかし、スピンバルブ膜に接してスピンバルブ膜より面積の小さい下電極11または上電極20を形成した場合には、下電極11または上電極20の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。下電極11または上電極20の面積が異なる場合には、小さい方の電極の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。この場合、素子抵抗を適度に設定する観点から、小さい方の電極の面積を少なくとも0.04μm2以下にする。
【0212】
後に詳述する図6、図7の実施例の場合、図6でスピンバルブ膜10の面積が一番小さいところは上電極20と接触している部分なので、その幅をトラック幅Twとして考える。また、ハイト方向に関しては、図7においてやはり上電極20と接触している部分が一番小さいので、その幅をハイト長Dとして考える。スピンバルブ膜の実効面積Aは、A=Tw×Dとして考える。
【0213】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子では、電極間の抵抗Rを100Ω以下にすることができる。この抵抗Rは、例えばヘッドジンバルアセンブリー(HGA)の先端に装着した再生ヘッド部の2つの電極パッド間で測定される抵抗値である。
【0214】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子において、ピン層14またはフリー層18がfcc構造である場合には、fcc(111)配向性をもつことが望ましい。ピン層14またはフリー層18がbcc構造をもつ場合には、bcc(110)配向性をもつことが望ましい。ピン層14またはフリー層18がhcp構造をもつ場合には、hcp(001)配向またはhcp(110)配向性をもつことが望ましい。
【0215】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の結晶配向性は、配向のばらつき角度で4.0度以内が好ましく、3.5度以内がより好ましく、3.0度以内がさらに好ましい。これは、X線回折のθ−2θ測定により得られるピーク位置でのロッキングカーブの半値幅として求められる。また、素子断面からのナノディフラクションスポットでのスポットの分散角度として検知することができる。
【0216】
反強磁性膜の材料にも依存するが、一般的に反強磁性膜とピン層14/スペーサ層16/フリー層18とでは格子間隔が異なるため、それぞれの層においての配向のばらつき角度を別々に算出することが可能である。例えば、白金マンガン(PtMn)とピン層14/スペーサ層16/フリー層18とでは、格子間隔が異なることが多い。白金マンガン(PtMn)は比較的厚い膜であるため、結晶配向のばらつきを測定するのには適した材料である。ピン層14/スペーサ層16/フリー層18については、ピン層14とフリー層18とで結晶構造がbcc構造とfcc構造というように異なる場合もある。この場合、ピン層14とフリー層18とはそれぞれ別の結晶配向の分散角をもつことになる。
【0217】
(磁気ヘッド)
図6および図7は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに組み込んだ状態を示している。図6は、磁気記録媒体(図示せず)に対向する媒体対向面に対してほぼ平行な方向に磁気抵抗効果素子を切断した断面図である。図7は、この磁気抵抗効果素子を媒体対向面ABSに対して垂直な方向に切断した断面図である。
【0218】
図6および図7に例示した磁気ヘッドは、いわゆるハード・アバッテッド(hard abutted)構造を有する。磁気抵抗効果膜10は上述したCCP−CPP膜である。磁気抵抗効果膜10の上下には、下電極11と上電極20とがそれぞれ設けられている。図6において、磁気抵抗効果膜10の両側面には、バイアス磁界印加膜41と絶縁膜42とが積層して設けられている。図7に示すように、磁気抵抗効果膜10の媒体対向面には保護層43が設けられている。
【0219】
磁気抵抗効果膜10に対するセンス電流は、その上下に配置された下電極11、上電極20によって矢印Aで示したように、膜面に対してほぼ垂直方向に通電される。また、左右に設けられた一対のバイアス磁界印加膜41、41により、磁気抵抗効果膜10にはバイアス磁界が印加される。このバイアス磁界により、磁気抵抗効果膜10のフリー層18の磁気異方性を制御して単磁区化することによりその磁区構造が安定化し、磁壁の移動に伴うバルクハウゼンノイズ(Barkhausen noise)を抑制することができる。磁気抵抗効果膜10のS/N比が向上しているので、磁気ヘッドに応用した場合に高感度の磁気再生が可能となる。
【0220】
(ハードディスクおよびヘッドジンバルアセンブリー)
図6および図7に示した磁気ヘッドは、記録再生一体型の磁気ヘッドアセンブリに組み込んで、磁気記録再生装置に搭載することができる。
【0221】
図8は、このような磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。すなわち、本実施形態の磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、磁気ディスク200は、スピンドル152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。本実施形態の磁気記録再生装置150は、複数の磁気ディスク200を備えてもよい。
【0222】
磁気ディスク200に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ153は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ヘッドスライダ153は、上述したいずれかの実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドをその先端付近に搭載している。
【0223】
磁気ディスク200が回転すると、ヘッドスライダ153の媒体対向面(ABS)は磁気ディスク200の表面から所定の浮上量をもって保持される。あるいはスライダが磁気ディスク200と接触するいわゆる「接触走行型」でもよい。
【0224】
サスペンション154はアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、ボビン部に巻かれた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
【0225】
アクチュエータアーム155は、スピンドル157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
【0226】
図9は、アクチュエータアーム155から先のヘッドジンバルアセンブリーをディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、アセンブリ160は、アクチュエータアーム155を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。サスペンション154の先端には、上述したいずれかの実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを具備するヘッドスライダ153が取り付けられている。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダ153に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中165はアセンブリ160の電極パッドである。
【0227】
本実施形態によれば、上述の磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを具備することにより、高い記録密度で磁気ディスク200に磁気的に記録された情報を確実に読み取ることが可能となる。
【0228】
(磁気メモリ)
次に、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリについて説明する。すなわち、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いて、例えばメモリセルがマトリクス状に配置されたランダムアクセス磁気メモリ(MRAM: magnetic random access memory)などの磁気メモリを実現できる。
【0229】
図10は、本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の一例を示す図である。この図は、メモリセルをアレイ状に配置した場合の回路構成を示す。アレイ中の1ビットを選択するために、列デコーダ350、行デコーダ351が備えられており、ビット線334とワード線332によりスイッチングトランジスタ330がオンになり一意に選択され、センスアンプ352で検出することにより磁気抵抗効果膜10中の磁気記録層(フリー層)に記録されたビット情報を読み出すことができる。ビット情報を書き込むときは、特定の書き込みワード線323とビット線322に書き込み電流を流して発生する磁場を印加する。
【0230】
図11は、本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の他の例を示す図である。この場合、マトリクス状に配線されたビット線322とワード線334とが、それぞれデコーダ360、361により選択されて、アレイ中の特定のメモリセルが選択される。それぞれのメモリセルは、磁気抵抗効果素子10とダイオードDとが直列に接続された構造を有する。ここで、ダイオードDは、選択された磁気抵抗効果素子10以外のメモリセルにおいてセンス電流が迂回することを防止する役割を有する。書き込みは、特定のビット線322と書き込みワード線323とにそれぞれに書き込み電流を流して発生する磁場により行われる。
【0231】
図12は、本発明の実施形態に係る磁気メモリの要部を示す断面図である。図13は、図12のA−A’線に沿う断面図である。これらの図に示した構造は、図10または図11に示した磁気メモリに含まれる1ビット分のメモリセルに対応する。このメモリセルは、記憶素子部分311とアドレス選択用トランジスタ部分312とを有する。
【0232】
記憶素子部分311は、磁気抵抗効果素子10と、これに接続された一対の配線322、324とを有する。磁気抵抗効果素子10は、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)である。
【0233】
一方、アドレス選択用トランジスタ部分312には、ビア326および埋め込み配線328を介して接続されたトランジスタ330が設けられている。このトランジスタ330は、ゲート332に印加される電圧に応じてスイッチング動作をし、磁気抵抗効果素子10と配線334との電流経路の開閉を制御する。
【0234】
また、磁気抵抗効果素子10の下方には、書き込み配線323が、配線322とほぼ直交する方向に設けられている。これら書き込み配線322、323は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、タンタル(Ta)あるいはこれらいずれかを含む合金により形成することができる。
【0235】
このような構成のメモリセルにおいて、ビット情報を磁気抵抗効果素子10に書き込むときは、配線322、323に書き込みパルス電流を流し、それら電流により誘起される合成磁場を印加することにより磁気抵抗効果素子の記録層の磁化を適宜反転させる。
【0236】
また、ビット情報を読み出すときは、配線322と、磁気記録層を含む磁気抵抗効果素子10と、下電極324とを通してセンス電流を流し、磁気抵抗効果素子10の抵抗値または抵抗値の変化を測定する。
【0237】
本発明の実施形態に係る磁気メモリは、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)を用いることにより、セルサイズを微細化しても、記録層の磁区を確実に制御して確実な書き込みを確保でき、且つ、読み出しも確実に行うことができる。
【0238】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張、変更可能であり、拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。磁気抵抗効果膜の具体的な構造や、その他、電極、バイアス印加膜、絶縁膜などの形状や材質に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる。例えば、磁気抵抗効果素子を再生用磁気ヘッドに適用する際に、素子の上下に磁気シールドを付与することにより、磁気ヘッドの検出分解能を規定することができる。
【0239】
また、本発明の実施形態は、長手磁気記録方式のみならず、垂直磁気記録方式の磁気ヘッドあるいは磁気再生装置についても適用できる。さらに、本発明の磁気再生装置は、特定の記録媒体を定常的に備えたいわゆる固定式のものでも良く、一方、記録媒体が差し替え可能ないわゆる「リムーバブル」方式のものでも良い。
【0240】
その他、本発明の実施形態として上述した磁気ヘッドおよび磁気記憶再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうるすべての磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記憶再生装置および磁気メモリも同様に本発明の範囲に属する。
【符号の説明】
【0241】
10…磁気抵抗効果膜、11…下電極、12…下地層、12a…バッファ層、12b…シード層、13…ピニング層、14…ピン層、141…下部ピン層、142…磁気結合層、143…上部ピン層、15…下部金属層、16…スペーサ層、161…絶縁層、162…電流パス、17…上部金属層、18…フリー層、19…キャップ層、20…上電極、21…電流パス、21‘…電流パス、162…21と21’を合わせた電流パス、22…絶縁層、22’ …絶縁層、161…22と22‘を合わせた絶縁層
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果膜の膜面の垂直方向にセンス電流を流して磁気を検知する磁気抵抗効果素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
巨大磁気抵抗効果(Giant Magneto-Resistive Effect:GMR)を用いることで、磁気デバイス、特に磁気ヘッドの性能が飛躍的に向上している。特に、スピンバルブ膜(Spin-Valve:SV膜)の磁気ヘッドやMRAM(Magnetic Random Access Memory)などへの適用は、磁気デバイス分野に大きな技術的進歩をもたらした。
【0003】
「スピンバルブ膜」は、2つの強磁性層の間に非磁性のスペーサ層を挟んだ構造を有する積層膜であり、スピン依存散乱ユニットとも呼ばれる。この2つの強磁性層の一方(「ピン層」や「磁化固着層」などと称される)の磁化が反強磁性層などで固着され、他方(「フリー層」や「磁化自由層」などと称される)の磁化が外部磁界に応じて回転可能である。スピンバルブ膜では、ピン層とフリー層の磁化方向の相対角度が変化することで、巨大な磁気抵抗変化が得られる。
【0004】
スピンバルブ膜を用いた磁気抵抗効果素子には、CIP(Current In Plane)−GMR素子、CPP(Current Perpendicular to Plane)−GMR素子、およびTMR(Tunneling Magneto Resistance)素子がある。CIP−GMR素子ではスピンバルブ膜の面に平行にセンス電流を通電し、CPP−GMR、およびTMR素子ではスピンバルブ膜の面にほぼ垂直方向にセンス電流を通電する。センス電流を膜面に対し垂直に通電する方式の方が、将来の高記録密度ヘッド対応の技術として、注目されている。
【0005】
ここで、スピンバルブ膜が金属層で形成されたメタルCPP−GMR素子では、磁化による抵抗変化量が小さく、微弱磁界(例えば、高記録密度の磁気ディスクでの磁界)を検知するのは困難である。
【0006】
スペーサ層として、厚み方向への電流パスを含む酸化物層[NOL(nano-oxide layer)]を用いたCPP素子が提案されている(特許文献1参照)。この素子では、電流狭窄[CCP(Current-confined-path)]効果により素子抵抗およびMR変化率の双方を増大できる。以下、この素子をCCP−CPP素子と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−208744号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶装置はパソコンや携帯型音楽プレーヤーなどの用途に用いられている。しかしながら、今後、磁気記憶装置の使用用途がさらに広がり、また高密度記憶化が進むと、信頼性への要求がより厳しくなる。例えば、より高温度の条件下や、より高速での動作環境下での信頼性を向上させることが、必要になる。そのためには、磁気ヘッドの信頼性を、従来よりも向上させることが望ましい。
【0009】
特にCCP−CPP素子は、従来のTMR素子に比べて抵抗が低いため、より高転送レートが要求されるサーバー・エンタープライズ用途のハイエンドの磁気記憶装置に適用可能である。このようなハイエンドの用途には、高密度化と、高信頼性を同時に満たすことが要求される。また、これらの用途では、より高温化での信頼性を向上させることが望ましい。つまり、より厳しい環境(高温環境等)、より厳しい使用条件(高速で回転する磁気ディスクでの情報の読み取り等)下で、CCP−CPP素子を使用することが必要となる。
【0010】
CCP−CPP素子は低抵抗なため高周波応答性・高密度記録対応性とメリットも大きいが、三次元ナノ構造を有する非常に複雑な形態であるため、現実的にはデザインしたような理想の構造を実現することは難しい。スペックが厳しいサーバー、エンタープライズ用途を実現するためには、より理想形態のCCP構造を実現する必要がある。
【0011】
本発明は、高密度記憶の磁気記憶装置に適用可能で、信頼性の向上が図られた磁気抵抗効果素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく、本発明の一態様は、磁化方向が実質的に一方向に固着された磁化固着層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられ、絶縁層と前記絶縁層を貫通する金属層を含むスペーサ層とを有する磁気抵抗効果素子の製造方法において、前記スペーサ層を形成するにあたり、第1の金属層を成膜し、前記第1の金属層上に第2の金属層を成膜し、前記第2の金属層を第1の絶縁層に変換するとともに前記第1の絶縁層を貫通する第1の導電層を形成する第1の変換処理を行い、前記第1の絶縁層及び前記第1の導電層上に第3の金属層を成膜し、前記第3の金属層を第2の絶縁層に変換するとともに前記第1の導電層上にのみ前記第2の絶縁層を貫通する第2の導電層を形成する第2の変換処理を行うことにより、前記第1の導電層及び第2の導電層を有する前記金属層、並びに前記第1の絶縁層及び前記第2の絶縁層を有する前記絶縁層を形成することを特徴とし、前記第1の変換処理及び前記第2の変換処理の少なくとも一方は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、及びクリプトンのうち少なくともいずれかひとつの元素を含むガスをイオン化、もしくはプラズマ化して膜表面に照射する第1のステップと、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、及びクリプトンの少なくとも一つを含むガスをイオン化又はプラズマ化して得た雰囲気中に、酸素ガス及び窒素ガスのうち少なくとも一方を含むガスを供給し、前記イオン化したガス又は前記プラズマ化したガスの雰囲気下、前記第2の金属層又は前記第3の金属層に対して酸化処理及び窒化処理の少なくとも一方を行う第2のステップとを有することを特徴とする。
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を実施した。その結果、磁化方向が実質的に一方向に固着された磁化固着層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられた絶縁層と前記絶縁層を貫通する金属層を含むスペーサ層とを有する、いわゆるCCP構造の磁気抵抗効果素子において、前記スペーサ層を形成する際に、前記スペーサ層を従来の1段の変換処理によって実施する代わりに、本発明にしたがって2段の変換処理によって実施することにより、前記スペーサ層を比較的厚く形成することができる。
【0014】
したがって、スペーサ層を構成する絶縁層の膜厚が増大し、前記スペーサ層中に形成された電流パス層以外の、本来的に絶縁層として機能すべき領域にリーク電流が流れることを完全に抑制することができるようになる。この結果、CCP効果をより強く発揮し、より強固な信頼性を実現することができる。
【0015】
また、絶縁層膜厚が厚くなることで、絶縁層の絶縁耐圧が向上するため、ESD(Electric Static Discharge)などの静電破壊耐性を向上させることが可能となる。ESD耐圧が高いことは、ヘッドをHDDに組むときの歩留まりを向上させることにつながる。
【0016】
このように信頼性性能が大きく向上することは、HDD生産のときのみならず、あらゆる状況における破壊、熱的な耐性をも向上させることができるので、高信頼性が必要とされる、サーバーや、エンタープライズ用途のヘッドとして適したものとなる。単に記録密度を向上させるだけでない高信頼性のヘッドは、HDDの用途が広がっている近年の状況ではますます重要になってくる。ヘッドの寿命が長くなることは、HDDの使用環境を広げるということで非常に重要になってくる。このような高信頼性のヘッドは、熱的環境が厳しいカーナビゲーション用のHDDとしても非常に有効である。
【0017】
もちろん、このような高信頼性を有するヘッドは、上記のような高付加価値のHDDだけでなく、民生用途として使用される通常のパソコン、携帯型音楽プレーヤー、携帯電話などのHDDとして用いることができる。
【0018】
なお、以下において詳述するが、本発明の製造方法においては、第2の金属層及び第3の金属層に対して上述した第1の変換処理及び第2の変換処理を実施して目的とするスペーサ層を形成することになるが、この際、変換処理の際に前記第2の金属層下に形成された第1の金属層を構成する原子が移動エネルギーを得て上方に移動し、その結果、絶縁層中で金属層(電流パス)を形成するようになる。
【0019】
したがって、上記態様では、スペーサ層を2段階の変換処理で実施しているので、2段目の変換処理においては、上記第1の金属層と同じ機能する金属層(第4の金属層)を別途前記第1の変換処理を通じて形成された前記絶縁層及び前記金属層と、前記第3の金属層との間に形成するようにすることもできる。この場合、前記第4の金属層を構成する原子が第2の変換処理の過程において、絶縁層に変換される過程の上記第3の金属層中に移動し、電流パスを形成するようになる。結果として、スペーサ層内を貫通する前記金属層(電流パス)を確実に行うことができるようになる。
【0020】
なお、上述した製造方法を経ることにより、例えば、磁化方向が実質的に一方向に固着された磁化固着層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられ、た絶縁層と前記絶縁層を貫通する金属層を含むスペーサ層とを有する磁気抵抗効果素子において、
前記スペーサ層を形成する金属層が、基板側下部の酸素濃度と、基板反対側上部の酸素濃度の違いが10atomic%以内であることを特徴とする、磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【0021】
また、磁化方向が実質的に一方向に固着された磁化固着層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられ、絶縁層と前記絶縁層を貫通する金属層を含むスペーサ層とを有する磁気抵抗効果素子において、
前記スペーサ層を形成する金属層が基板側下部の開口面積と、基板反対側上部の開口面積の違いが、20%以内であることを特徴とする、磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上、本発明によれば、高密度記憶の磁気記憶装置に適用可能で、信頼性の向上が図られた磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)の一例を表す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の、スペーサ層を形成するための製造工程を表すフロー図である。
【図3】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)を製造するために用いられる装置の概略的な構成図である。
【図4】図3に示した酸化チャンバーの構成の一例である。
【図5】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の、スペーサ層を形成するための製造工程を表すフロー図である。
【図6】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに組み込んだ状態を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに組み込んだ状態を示す図である。
【図8】磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。
【図9】アクチュエータアームから先のヘッドジンバルアセンブリーをディスク側から眺めた拡大斜視図である。
【図10】本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の一例を示す図である。
【図11】本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の他の例を示す図である。
【図12】本発明の実施形態に係る磁気メモリの要部を示す断面図である。
【図13】図12のA−A’線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のその他の特徴及び利点について、図面を参照しながら発明を実施するための最良の形態に基づいて説明する。
【0025】
(磁気抵抗効果素子)
図1は、本発明の磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)の一例を表す斜視図である。なお、本明細書において、総ての図面は模式的に描かれており、各構成要素の大きさ(膜厚など)及び構成要素同士の比率などは実際のものと異なるようにして描いている。 図1に示すように本実施の形態に係る磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果膜10、およびこれを上下から挟む下電極11および上電極20を有し、図示しない基板上に構成される。
【0026】
磁気抵抗効果膜10は、下地層12、ピニング層13、ピン層14、下部金属層15、スペーサ層(CCP−NOL)16(絶縁層161、電流パス162)、上部金属層17、フリー層18、キャップ層19が順に積層されて構成される。この内、ピン層14、下部金属層15、スペーサ層16、および上部金属層17、およびフリー層18が、2つの強磁性層の間に非磁性のスペーサ層を挟んでなるスピンバルブ膜に対応する。また、下部金属層15、スペーサ層(CCP−NOL)16、および上部金属層17の全体が広義のスペーサ層として定義される。なお、見やすさのために、スペーサ層16はその上下層(下部金属層15および上部金属層17)から切り離した状態で表している。
【0027】
以下、磁気抵抗効果素子の構成要素を説明する。
【0028】
下電極11は、スピンバルブ膜の垂直方向に通電するための電極である。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、スピンバルブ膜内部をその膜垂直方向に沿って電流が流れる。この電流によって、磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することで、磁気の検知が可能となる。下電極11には、電流を磁気抵抗効果素子に通電するために、電気抵抗が比較的小さい金属層が用いられる。NiFe、Cuなどが用いられる。
【0029】
下地層12は、例えば、バッファ層12a、シード層12bに区分することができる。バッファ層12aは下電極11表面の荒れを緩和したりするための層である。シード層12bは、その上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するための層である。
【0030】
バッファ層12aとしては、Ta、Ti、W、Zr、Hf、Crまたはこれらの合金を用いることができる。バッファ層12aの膜厚は2〜10nm程度が好ましく、3〜5nm程度がより好ましい。バッファ層12aの厚さが薄すぎるとバッファ効果が失われる。一方、バッファ層12aの厚さが厚すぎるとMR変化率に寄与しない直列抵抗を増大させることになる。なお、バッファ層12a上に成膜されるシード層12bがバッファ効果を有する場合には、バッファ層12aを必ずしも設ける必要はない。上記のなかの好ましい一例として、Ta[3nm]を用いることができる。
【0031】
シード層12bは、その上に成膜される層の結晶配向を制御できる材料であればよい。シード層12bとして、fcc構造(face-centered cubic structure:面心立方格子構造)またはhcp構造(hexagonal close-packed structure:六方最密格子構造)やbcc構造(body-centered cubic structure:体心立方格子構造)を有する金属層などが好ましい。例えば、シード層12bとして、hcp構造を有するRuや、fcc構造を有するNiFeを用いることにより、その上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。また、ピニング層13(例えば、PtMn)の結晶配向を規則化したfct構造(face-centered tetragonal structure:面心正方構造)、あるいはbcc(body-centered cubic structure:体心立方構造)(110)配向とすることができる。これ以外にも、Cr、Zr、Ti、Mo,Nb,Wやこれらの合金層なども用いることができる。
【0032】
結晶配向を向上させるシード層12bとしての機能を十分発揮するために、シード層12bの膜厚としては、1〜5nmが好ましく、より好ましくは、1.5〜3nmが好ましい。上記のなかの好ましい一例として、Ru[2nm]を用いることができる。
【0033】
スピンバルブ膜やピニング層13の結晶配向性は、X線回折により測定できる。スピンバルブ膜のfcc(111)ピーク、ピニング層13(PtMn)のfct(111)ピークまたはbcc(110)ピークでのロッキングカーブの半値幅を3.5〜6度として、良好な配向性を得ることができる。なお、この配向の分散角は断面TEMを用いた回折スポットからも判別することができる。
【0034】
シード層12bとして、Ruの代わりに、NiFeベースの合金(例えば、NixFe100−x(x=90〜50%、好ましくは75〜85%)や、NiFeに第3元素Xを添加して非磁性にした(NixFe100−x)100−yXy(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))を用いることもできる。NiFeベースのシード層12bでは、良好な結晶配向性を得るのが比較的容易であり、上記と同様に測定したロッキングカーブの半値幅を3〜5度とすることができる。
【0035】
シード層12bには、結晶配向を向上させる機能だけでなく、スピンバルブ膜の結晶粒径を制御する機能もある。具体的には、スピンバルブ膜の結晶粒径を5〜40nmに制御することができ、磁気抵抗効果素子のサイズが小さくなっても、特性のばらつきを招くことなく高いMR変化率を実現できる。
【0036】
ここでの結晶粒径は、シード層12bの上に形成された結晶粒の粒径によって判別することができ、断面TEMなどによって決定することができる。ピン層14がスペーサ層16よりも下層に位置するボトム型スピンバルブ膜の場合には、シード層12bの上に形成される、ピニング層13(反強磁性層)や、ピン層14(磁化固着層)の結晶粒径によって判別することができる。
【0037】
高密度記録に対応した再生ヘッドでは、素子サイズが、例えば、100nm以下である。素子サイズに対する結晶粒径の比が大きいことは、素子の特性がばらつく原因となる。スピンバルブ膜の結晶粒径が40nmよりも大きいことは好ましくない。具体的には、結晶粒径が5〜40nmの範囲が好ましく、5〜20nmの範囲がさらに好ましい範囲である。
【0038】
素子面積あたりの結晶粒の数が少なくなると、結晶数が少ないことに起因した特性のばらつきの原因となりうるため、結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。特に電流パスを形成しているCCP−CPP素子では結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。一方、結晶粒径が小さくなりすぎても、良好な結晶配向を維持することが一般的には困難になる。これら、結晶粒径の上限、および下限を考慮した結晶粒径の好ましい範囲が、5〜20nmである。
【0039】
しかしながら、MRAM用途などでは、素子サイズが100nm以上の場合があり、結晶粒径が40nm程度と大きくてもそれほど問題とならない場合もある。即ち、シード層12bを用いることで、結晶粒径が粗大化しても差し支えない場合もある。
【0040】
上述した5〜20nmの結晶粒径を得るためには、シード層12bとして、Ru2nmや、(NixFe100−x)100−yXy(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))層の場合には、第3元素Xの組成yを0〜30%程度とすることが好ましい(yが0%の場合も含む)。
【0041】
一方、結晶粒径を40nmよりも粗大化させて用いるためには、さらに多量の添加元素を用いることが好ましい。シード層12bの材料が、例えば、NiFeCrの場合にはCr量を35〜45%程度とし、fccとbccの境界相を示す組成を用いて、bcc構造を有するNiFeCr層を用いることが好ましい。
【0042】
前述したように、シード層12bの膜厚は1nm〜5nm程度が好ましく、1.5〜3nmがより好ましい。シード層12bの厚さが薄すぎると結晶配向制御などの効果が失われる。一方、シード層12bの厚さが厚すぎると、直列抵抗の増大を招き、さらにスピンバルブ膜の界面の凹凸の原因となることがある。
【0043】
ピニング層13は、その上に成膜されるピン層14となる強磁性層に一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固着する機能を有する。ピニング層13の材料としては、PtMn、PdPtMn、IrMn、RuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。この内、高記録密度対応のヘッドの材料として、IrMnが有利である。IrMnは、PtMnよりも薄い膜厚で一方向異方性を印加することができ、高密度記録の為に必要な狭ギャップ化に適している。
【0044】
十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層13の膜厚を適切に設定する。ピニング層13の材料がPtMnやPdPtMnの場合には、膜厚として、8〜20nm程度が好ましく、10〜15nmがより好ましい。ピニング層13の材料がIrMnの場合には、PtMnなどより薄い膜厚でも一方向異方性を付与可能であり、3〜12nmが好ましく、4〜10nmがより好ましい。上記のなかの好ましい一例として、IrMn[7nm]を用いることができる。
【0045】
ピニング層13として、反強磁性層の代わりに、ハード磁性層を用いることができる。ハード磁性層として、例えば、CoPt(Co=50〜85%)、(CoxPt100−x)100−yCry(x=50〜85%、y=0〜40%)、FePt(Pt=40〜60%)を用いることができる。ハード磁性層(特に、CoPt)は比抵抗が比較的小さいため、直列抵抗および面積抵抗RAの増大を抑制できる。
【0046】
ピン層14は、下部ピン層141(例えば、Co90Fe103.5nm)、磁気結合層142(例えば、Ru)、および上部ピン層143(例えば、Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm])からなるシンセティックピン層とすることが好ましい一例である。ピニング層13(例えば、IrMn)とその直上の下部ピン層141は一方向異方性(unidirectional anisotropy)をもつように交換磁気結合している。磁気結合層142の上下の下部ピン層141および上部ピン層143は、磁化の向きが互いに反平行になるように強く磁気結合している。
【0047】
下部ピン層141の材料として、例えば、CoxFe100−x合金(x=0〜100%)、NixFe100−x合金(x=0〜100%)、またはこれらに非磁性元素を添加したものを用いることができる。また、下部ピン層141の材料として、Co、Fe、Niの単元素やこれらの合金を用いても良い。
【0048】
下部ピン層141の磁気膜厚(飽和磁化Bs×膜厚t(Bs・t積))が、上部ピン層143の磁気膜厚とほぼ等しいことが好ましい。つまり、上部ピン層143の磁気膜厚と下部ピン層141の磁気膜厚とが対応することが好ましい。一例として、上部ピン層143が(Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]の場合、薄膜でのFeCoの飽和磁化が約2.2Tであるため、磁気膜厚は2.2T×3nm=6.6Tnmとなる。Co90Fe10の飽和磁化が約1.8Tなので、上記と等しい磁気膜厚を与える下部ピン層141の膜厚tは6.6Tnm/1.8T=3.66nmとなる。したがって、膜厚が約3.6nmのCo90Fe10を用いることが望ましい。また、ピニング層13としてIrMnを用いる場合には、下部ピン層141の組成はCo90Fe10よりも少しFe組成を増やすことが好ましい。具体的には、Co75Fe25などが望ましい実施例の一例である。
【0049】
下部ピン層141に用いられる磁性層の膜厚は1.5〜4nm程度が好ましい。ピニング層13(例えば、IrMn)による一方向異方性磁界強度および磁気結合層142(例えば、Ru)を介した下部ピン層141と上部ピン層143との反強磁性結合磁界強度の観点に基づく。下部ピン層141が薄すぎるとMR変化率が小さくなる。一方、下部ピン層141が厚すぎるとデバイス動作に必要な十分な一方向性異方性磁界を得ることが困難になる。好ましい一例として、膜厚3.6nmのCo75Fe25が挙げられる。
【0050】
磁気結合層142(例えば、Ru)は、上下の磁性層(下部ピン層141および上部ピン層143)に反強磁性結合を生じさせてシンセティックピン構造を形成する機能を有する。磁気結合層142としてのRu層の膜厚は0.8〜1nmであることが好ましい。なお、上下の磁性層に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、Ru以外の材料を用いてもよい。RKKY(Ruderman-Kittel- Kasuya-Yosida)結合の2ndピークに対応する膜厚0.8〜1nmの換わりに、RKKY結合の1stピークに対応する膜厚0.3〜0.6nmを用いることもできる。ここでは、より高信頼性の結合を安定して特性が得られる、0.9nmのRuが一例として挙げられる。
【0051】
上部ピン層143の一例として、(Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]のような磁性層を用いることができる。上部ピン層143は、スピン依存散乱ユニットの一部をなす。上部ピン層143は、MR効果に直接的に寄与する磁性層であり、大きなMR変化率を得るために、この構成材料、膜厚の双方が重要である。特に、スペーサ層16との界面に位置する磁性材料は、スピン依存界面散乱に寄与する点で特に重要である。
【0052】
上部ピン層143としてここで用いた、bcc構造をもつFe50Co50を用いる効果について述べる。上部ピン層143として、bcc構造をもつ磁性材料を用いた場合、スピン依存界面散乱効果が大きいため、大きなMR変化率を実現することができる。bcc構造をもつFeCo系合金として、FexCo100−x(x=30〜100%)や、FexCo100−xに添加元素を加えたものが挙げられる。そのなかでも、諸特性を満たしたFe40Co60〜Fe60Co40が使いやすい材料の一例である。
【0053】
上部ピン層143が、高MR変化率を実現しやすいbcc構造をもつ磁性層から形成されている場合には、この磁性層の全膜厚が1.5nm以上であることが好ましい。bcc構造を安定に保つためである。スピンバルブ膜に用いられる金属材料は、fcc構造またはfct構造であることが多いため、上部ピン層143のみがbcc構造を有することがあり得る。このため、上部ピン層143の膜厚が薄すぎると、bcc構造を安定に保つことが困難になり、高いMR変化率が得られなくなる。
【0054】
ここでは、上部ピン層143として、極薄Cu積層を含むFe50Co50を用いている。ここで、上部ピン層143は、全膜厚が3nmのFeCoと、1nmのFeCo毎に積層された0.25nmのCuとからなり、トータル膜厚3.5nmである。
【0055】
上部ピン層143の膜厚は5nm以下であることが好ましい。大きなピン固着磁界を得るためである。大きなピン固着磁界と、bcc構造の安定性の両立のため、bcc構造をもつ上部ピン層143の膜厚は、2.0nm〜4nm程度であることが好ましいということになる。
【0056】
上部ピン層143には、bcc構造をもつ磁性材料の代わりに、従来の磁気抵抗効果素子で広く用いられているfcc構造を有するCo90Fe10合金や、hcp構造をもつコバルト合金を用いることができる。上部ピン層143として、Co、Fe、Niなどの単体金属、またはこれらのいずれか一つの元素を含む合金材料はすべて用いることができる。上部ピン層143の磁性材料として、大きなMR変化率を得るのに有利なものから並べると、bcc構造をもつFeCo合金材料、50%以上のコバルト組成をもつコバルト合金、50%以上のNi組成をもつニッケル合金の順になる。
【0057】
ここでの一例として挙げたものは、上部ピン層143として、磁性層(FeCo層)と非磁性層(極薄Cu層)とを交互に積層したものを用いることができる。このような構造を有する上部ピン層143では、極薄Cu層によって、スピン依存バルク散乱効果と呼ばれるスピン依存散乱効果を向上させることができる。
【0058】
「スピン依存バルク散乱効果」は、スピン依存界面散乱効果と対の言葉として用いられる。スピン依存バルク散乱効果とは、磁性層内部でMR効果を発現する現象である。スピン依存界面散乱効果は、スペーサ層と磁性層の界面でMR効果を発現する現象である。
【0059】
以下、磁性層と非磁性層の積層構造によるバルク散乱効果の向上につき説明する。
【0060】
CCP−CPP素子においては、スペーサ層16の近傍で電流が狭窄されるため、スペーサ層16の界面近傍での抵抗の寄与が非常に大きい。つまり、スペーサ層16と磁性層(ピン層14、フリー層18)の界面での抵抗が、磁気抵抗効果素子全体の抵抗に占める割合が大きい。このことは、スピン依存界面散乱効果の寄与がCCP−CPP素子では非常に大きく、重要であることを示している。つまり、スペーサ層16の界面に位置する磁性材料の選択が従来のCPP素子の場合と比較して、重要な意味をもつ。これが、ピン層143として、スピン依存界面散乱効果が大きいbcc構造をもつFeCo合金層を用いた理由であり、前述したとおりである。
【0061】
しかしながら、バルク散乱効果の大きい材料を用いることも無視できず、より高MR変化率を得るためにはやはり重要である。バルク散乱効果を得るための極薄Cu層の膜厚は、0.1〜1nmが好ましく、0.2〜0.5nmがより好ましい。Cu層の膜厚が薄すぎると、バルク散乱効果を向上させる効果が弱くなる。Cu層の膜厚が厚すぎると、バルク散乱効果が減少することがあるうえに、非磁性のCu層を介した上下磁性層の磁気結合が弱くなり、ピン層14の特性が不十分となる。そこで、好ましい一例として挙げたものでは、0.25nmのCuを用いた。
【0062】
磁性層間の非磁性層の材料として、Cuの換わりに、Hf、Zr、Ti、Alなどを用いてもよい。一方、これら極薄の非磁性層を挿入した場合、FeCoなど磁性層の一層あたりの膜厚は0.5〜2nmが好ましく、1〜1.5nm程度がより好ましい。
【0063】
上部ピン層143として、FeCo層とCu層との交互積層構造に換えて、FeCoとCuを合金化した層を用いてもよい。このようなFeCoCu合金として、例えば、(FexCo100-x)100-yCuy(x=30〜100%、y=3〜15%程度)が挙げられるが、これ以外の組成範囲を用いてもよい。ここで、FeCoに添加する元素として、Cuの代わりに、Hf、Zr,Ti、Alなど他の元素を用いてもよい。
【0064】
上部ピン層143には、Co、Fe、Niや、これらの合金材料からなる単層膜を用いてもよい。例えば、最も単純な構造の上部ピン層143として、従来から広く用いられている、2〜4nmのCo90Fe10単層を用いてもよい。この材料に他の元素を添加してもよい。
【0065】
次に、広義のスペーサ層を形成する膜構成について述べる。下部金属層15は後述するプロセスにおいて、電流パス162材料の供給源として用いられた後の残存層であり、最終形態として必ずしも残存していない場合もある。
【0066】
スペーサ層(CCP−NOL)16は、絶縁層161、電流パス162を有する。なお、前述のように、スペーサ層16、下部金属層15、および上部金属層17を含めて、広義のスペーサ層として取り扱う。
【0067】
絶縁層161は、酸化物、窒化物、酸窒化物等から構成される。絶縁層161として、Al2O3のようなアモルファス構造や、MgOのような結晶構造の双方が有り得る。スペーサ層としての機能を発揮するために、絶縁層161の厚さは、1〜3.5nmが好ましく、1.5〜3nmの範囲がより好ましい。
【0068】
図1のように、ナノオーダーで三次元構造を有するこのような複雑な構造を有するスペーサ層を形成することは難しい。理想形態に近いCCP構造を実現するために、本発明による製造方法が有効であることを見出した。この製造方法が本発明の最も重要なところであるため、詳細は後に説明する。
【0069】
絶縁層161に用いる典型的な絶縁材料として、Al2O3をベース材料としたものや、これに添加元素を加えたものがある。添加元素として、Ti、Hf、Mg、Zr,V,Mo、Si,Cr,Nb,Ta,W、B,C、Vなどがある。これらの添加元素の添加量は0%〜50%程度の範囲で適宜変えることができる。一例として、約2nmのAl2O3を絶縁層161として用いることができる。
【0070】
絶縁層161には、Al2O3のようなAl酸化物の換わりに、Ti酸化物、Hf酸化物、Mg酸化物、Zr酸化物、Cr酸化物、Ta酸化物、Nb酸化物、Mo酸化物、Si酸化物、V酸化物なども用いることができる。これらの酸化物の場合でも、添加元素として上述の材料を用いることができる。また、添加元素の量を0%〜50%程度の範囲で適宜に変えることができる。
【0071】
これら酸化物の換わりに、上述したようなAl,Si,Hf,Ti,Mg,Zr,V,Mo,Nb,Ta,W,B,Cをベースとした酸窒化物や、窒化物を用いても、電流を絶縁する機能を有する材料であれば構わない。
【0072】
電流パス162は、スペーサ層16の膜面垂直に電流を流すパス(経路)であり、電流を狭窄するためのものである。絶縁層161の膜面垂直方向に電流を通過させる導電体として機能し、例えば、Cu等の金属層から構成できる。即ち、スペーサ層16では、電流狭窄構造(CCP構造)を有し、電流狭窄効果によりMR変化率を増大可能である。電流パス162(CCP)を形成する材料は、Cu以外には、Au,Ag、Alや、Ni,Co,Fe、もしくはこれらの元素を少なくとも一つは含む合金層を挙げることができる。一例として、電流パス162としてCuを含む合金層で形成することができる。CuNi、CuCo、CuFeなどの合金層も用いることができる。ここで、50%以上のCuを有する組成とすることが、高MR変化率と、ピン層14とフリー層18の層間結合磁界(interlayer coupling field, Hin)を小さくするためには好ましい。
【0073】
電流パス162は絶縁層161と比べて著しく酸素、窒素の含有量が少ない領域であり(少なくとも2倍以上の酸素や窒素の含有量の差がある)、一般的には結晶相である。結晶相は非結晶相よりも抵抗が小さいため、電流パス162として機能しやすい。
【0074】
上部金属層17は、広義のスペーサ層の一部を形成するものである。その上に成膜されるフリー層18がスペーサ層16の酸化物に接して酸化されないように保護するバリア層としての機能、およびフリー層18の結晶性を良好にする機能を有する。例えば、絶縁層161の材料がアモルファス(例えば、Al2O3)の場合には、その上に成膜される金属層の結晶性が悪くなるが、fcc結晶性を良好にする層(例えば、Cu層)を配置することで(1nm以下程度の膜厚で良い)、フリー層18の結晶性を著しく改善することが可能となる。
【0075】
スペーサ層16の材料やフリー層18の材料によっては、必ずしも上部金属層17を設けなくてもよい。アニール条件の最適化や、スペーサ層16の絶縁層161材料の選択、フリー層18の材料などによって、結晶性の低下を回避し、スペーサ層16上の金属層17が不要にできる。
【0076】
しかし、製造上のマージンを考慮すると、スペーサ層16上に上部金属層17を形成することが好ましい。好ましい一例としては、上部金属層17として、Cu[0.5nm]を用いることができる。
【0077】
上部金属層17の構成材料として、Cu以外に、Au,Ag,Ruなどを用いることもできる。上部金属層17の材料は、スペーサ層16の電流パス162の材料と同一であることが好ましい。上部金属層17の材料が電流パス162の材料と異なる場合には界面抵抗の増大を招くが、両者が同一の材料であれば界面抵抗の増大は生じない。
【0078】
上部金属層17の膜厚は、0〜1nmが好ましく、0.1〜0.5nmがより好ましい。上部金属層17が厚すぎると、スペーサ層16で狭窄された電流が上部金属層17で広がって電流狭窄効果が不十分になり、MR変化率の低下を招く。
【0079】
フリー層18は、磁化方向が外部磁界によって変化する強磁性体を有する層である。例えば、界面にCoFeを挿入してNiFeを用いたCo90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]という二層構成がフリー層18の一例として挙げられる。この場合、スペーサ層16との界面には、NiFe合金よりもCoFe合金を設けることが好ましい。高いMR変化率を得るためには、スペーサ層16の界面に位置するフリー層18の磁性材料の選択が重要である。なお、NiFe層を用いない場合には、Co90Fe10[4nm]単層を用いることができる。また、CoFe/NiFe/CoFeなどの三層構成からなるフリー層を用いても構わない。
【0080】
CoFe合金のなかでも、軟磁気特性が安定であることから、Co90Fe10が好ましい。Co90Fe10近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5〜4nmとすることが好ましい。その他、CoxFe100−x(x=70〜90)が好ましい。
【0081】
また、フリー層18として、1〜2nmのCoFe層またはFe層と、0.1〜0.8nm程度の極薄Cu層とを、複数層交互に積層したものを用いてもよい。
【0082】
スペーサ層16がCu層から形成される場合には、ピン層14と同様に、フリー層18でも、bccのFeCo層をスペーサ層16との界面材料として用いると、MR変化率が大きくなる。スペーサ層16との界面材料として、fccのCoFe合金に換えて、bccのFeCo合金を用いることもできる。この場合、bcc層が形成されやすい、FexCo100−x(x=30〜100)や、これに添加元素を加えた材料を用いることができる。これらの構成のうち、好ましい実施例の一例として、Co90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]を用いることができる。
【0083】
キャップ層19は、スピンバルブ膜を保護する機能を有する。キャップ層19は、例えば、複数の金属層、例えば、Cu層とRu層の2層構造(Cu[1nm]/Ru[10nm])とすることができる。また、キャップ層19として、Ruをフリー層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合、Ruの膜厚は0.5〜2nm程度が好ましい。この構成のキャップ層19は、特に、フリー層18がNiFeからなる場合に望ましい。RuはNiと非固溶な関係にあるので、フリー層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できるからである。
【0084】
キャップ層19が、Cu/Ru、Ru/Cu、いずれの場合も、Cu層の膜厚は0.5〜10nm程度が好ましく、Ru層の膜厚は0.5〜5nm程度とすることができる。Ruは比抵抗値が高いため、あまり厚いRu層を用いることは好ましくないため、このような膜厚範囲にしておくことが好ましい。
【0085】
キャップ層19として、Cu層やRu層の代わりに他の金属層を設けてもよい。キャップ層19の構成は特に限定されず、キャップとしてスピンバルブ膜を保護可能なものであれば、他の材料を用いてもよい。但し、キャップ層の選択によってMR変化率や長期信頼性が変わる場合があるので、注意が必要である。CuやRuはこれらの観点からも望ましいキャップ層の材料の例である。
【0086】
上電極20は、スピンバルブ膜の垂直方向に通電するための電極である。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、スピンバルブ膜内部にその膜の垂直方向の電流が流れる。上部電極層20には、電気的に低抵抗な材料(例えば、Cu,Au、NiFeなど)が用いられる。
【0087】
(磁気抵抗効果素子の製造方法)
以下、本実施の形態における磁気抵抗効果素子の製造方法を説明する。
【0088】
図2は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の、スペーサ層15、16、17を形成するための製造工程を表すフロー図である。図1(A)〜(G)を参照して、本発明に係わる磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)の製造方法を概略的に説明する。
【0089】
図2(A)に示すように、下電極が前もって形成された基板上に、下地層およびピニング層(これらの部材は図示していない)を成膜し、ピニング層上にピン層14を成膜する。ピン層14上に、電流パスを形成する第1の金属層m1(例えばCu)を成膜する。第1の金属層m1上に絶縁層に変換される第2の金属層m2(例えばAlCuやAl)を成膜する。
【0090】
次いで、図2(B)及び(C)に示すように、第2の金属層m2表面に、絶縁層と電流パスを有するCCP構造の一部を形成するための、表面酸化処理あるいは表面窒化処理を行う。この表面酸化処理及び表面窒化処理は、具体的には以下に詳述するような工程を経て行うことができるが、これらの処理は単なる酸化処理などとは異なり、図2(B)及び(C)に示すように、第2の金属層m2の絶縁層化と、第1の金属層m1に移動エネルギーを付与して金属層(電流パス)とを形成するための、CPP構造を形成するような構造変換処理(第1の変換処理)とする。
【0091】
図2(C)で形成するCCP構造は、理想形態に近いCCP構造を実現しやすいように、m1、m2ともに比較的薄い膜厚で形成している。この膜厚が厚いと、図2(C)のような理想的な形状を有するCCP構造を実現することが困難となる。しかし、薄い膜厚のままだと、NOLの絶縁層としての機能が不十分となってしまい、リーク電流が流れたり、静電破壊電圧が低い値となってしまうので、このままでは問題となる。そこで、図2(D)以降の形成プロセスが必要になる。
【0092】
次いで、図2(D)に示すように、図2(A)と同様に、電流パスを形成する第4の金
属層m4(例えばCu)を成膜する。第4の金属層m4上に絶縁層に変換される第3の金
属層m3(例えばAlCuやAl)を成膜する。
【0093】
次いで、図2(E)に示すように、図2(B)と同様に、第3の金属層m3表面に、絶縁層と電流パスを有するCCP構造の一部を形成するための、表面酸化処理あるいは表面窒化処理を行う。その結果、図2(F)のような構造が実現される。この表面酸化処理及び表面窒化処理は、具体的には以下に詳述するような工程を経て行うことができるが、これらの処理は単なる酸化処理などとは異なり、図2(E)及び(F)に示すように、第3の金属層m3の絶縁層化と、第4の金属層m4に移動エネルギーを付与して金属層(電流パス)とを形成するための、CPP構造を形成するような構造変換処理(第2の変換処理)とする。
【0094】
なお、理想形態に近いCCP構造を実現しやすいように、m3、m4ともに比較的薄い膜厚で形成している。この膜厚が厚いと、図2(F)のような理想的な形状を有するCCP構造を実現することが困難となる。一層のみではこのような構造ではNOLの絶縁機能が十分ではないが、図2(C)で既にCCP−NOL構造の一層分を作製しているので、図2(E)で形成するCCP−NOLは薄い膜厚で十分である。このように、CCP−NOL形成のプロセスを二段階に分けることによって、図2(F)のような理想形体に近いCCP−NOL構造を実現することができる。
【0095】
次いで、図2(G)に示すように、必要に応じてスペーサ層16上にCuなどの金属層17を成膜し、その上にフリー層18を成膜する。なお、スペーサ層16上の金属層17は、その上に成膜されるフリー層が酸化の影響を受けることを防止する機能を有するが、必ずしも設ける必要はない。
【0096】
本発明の実施形態に係る方法を用いることにより、スペーサ層16の絶縁層22を貫通する電流パス21の純度を上下層の位置に関わらず向上させることができ、かつCCP形状の上下対称性が良好な、高いMR変化率を有しかつ信頼性が良好な磁気抵抗効果素子を製造することができる。
【0097】
なお、上記例では、CCP−NOL構造中の金属層(電流パス)を形成するための第4の金属層m4を設けているが、この層は本発明においては必須の要素ではない。金属層m4が存在しない場合においても上記第2の変換処理を行うことにより、第1の金属層m1を構成する原子がさらなる移動エネルギーを得、上方に移動して絶縁層となった第3の金属層m3中に電流パスを形成するようになる。
【0098】
しかしながら、上記第4の金属層m4を形成することにより、第3の金属層m3からなる絶縁層中に電流パスを良好な状態で簡易に形成することができるようになる。
【0099】
次に、上記の工程をより詳細に説明する。
【0100】
図2(A)において、m1は電流パスを形成するための材料、m2は酸化、窒化、または酸窒化処理によって絶縁層に変換される金属層である。m1としては、Cu,Au,Ag,Alなどの金属層が好ましい。m2としては、酸化、窒化されたときに良好な絶縁機能を有するAl,Si,Mg,Ti,Hf,Zr,Cr,Mo,Nb,Wのうち少なくともひとつの元素を含む材料から形成されることが好ましい。これらの単体金属でも良いし、合金材料でも構わない。m1の膜厚としては、0.1〜1.5nm程度が好ましく、m2の膜厚としては、0.3〜1nm程度が好ましい。
【0101】
図2(B)において、ピン層14上に第1の金属層m1および第2の金属層m2を成膜した後に行う表面酸化処理あるいは表面窒化処理は、第2の金属層m2中に第1の金属層m1の一部を侵入させるとともに、金属層m2を絶縁層22に変換するために行われる工程である。このように、金属から絶縁層への変換処理とともに、電流パスをナノオーダーで作製するためには、上記表面酸化処理あるいは上記表面窒化処理は、例えば以下のようにして実施することができる。
【0102】
まず、m2の中をm1中に侵入させるためには、原子の移動エネルギーを与える必要がある。そのために、酸化処理又は窒化処理を行うときには酸素ガス又は窒素ガスを単純にチャンバーにフローするだけの自然酸化プロセス又は自然窒化プロセスではなく、イオンやプラズマ状態のガスを照射することによるエネルギーを用いることが好ましい。また、m1を酸化、窒化、または酸窒化物として良好な絶縁耐性を有するものにするためには、酸化処理及び窒化処理もエネルギーを与えられた状態で形成することが好ましい。
【0103】
このような観点から、前記酸化処理及び窒化処理は、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、クリプトンなどのガスをイオン化あるいはプラズマ化し、このようなイオン化雰囲気あるいはプラズマ雰囲気中に酸素ガスや窒素ガスなどを供給し、前記雰囲気中のイオンやプラズマのアシストを受けた状態で、行うことが好ましい(第1の方法)。
【0104】
また、上記酸化処理や窒化処理において、上述したアシストを効果的に実施するためには、以下に示すような複数の工程を実施することが好ましい。
【0105】
(I)上述した第1の方法における酸化処理あるいは窒化処理の後に、上述した希ガスのイオン、もしくはプラズマを膜表面に照射する(第2の方法)。
【0106】
本方法においては、上述した第1の方法における酸化処理及び窒化処理を実施した後、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、クリプトンのうち少なくともいずれかひとつの元素を含むイオン、またはプラズマを膜表面に照射する。またこれら希ガスの換わりに、酸素、または窒素ガスのイオン、またはプラズマを照射することも可能である。
【0107】
この方法によれば、イオン照射あるいはプラズマ照射によって、上記酸化処理及び窒化処理を事後的にアシストするようになり、例えば第1の金属層m1などにさらなる移動エネルギーを付加し、均一な大きさかつ特性の電流パスを簡易に形成することができる。
【0108】
(II)上述した第1の方法における酸化処理あるいは窒化処理の前に、上述した希ガスのイオン、もしくはプラズマを膜表面に照射する(第3の方法)。
【0109】
この場合には、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、クリプトンのうち少なくともいずれかひとつの元素を含む希ガスのイオンもしくはプラズマを膜表面に照射する。この場合においても、例えば第1の金属層m1などに予め移動エネルギーを付加しておくことができ、後の酸化処理などを経ることによって均一な大きさかつ特性の電流パスを簡易に形成することができる。
【0110】
(III)上述した第1の方法における酸化処理あるいは窒化処理の前後に、上述した希ガスのイオン、もしくはプラズマを膜表面に照射する(第4の方法)。
【0111】
これは、上記(I)及び(II)の方法を組み合わせたものである。したがって、第1の方法における酸化処理あるいは窒化処理の後のイオンあるいはプラズマ照射は、上記(I)の場合と同様にして行うことができ、したがって、第1の方法における酸化処理あるいは窒化処理の前のイオンあるいはプラズマ照射は、上記(II)の場合と同様にして行うことができる。
【0112】
次に、上記のようなプロセスにおいて、(I)の酸化処理などの後に行う処理、または(II)の酸化処理など前に行う処理のイオンビーム、またはプラズマの照射条件の詳細について述べる(第2の方法〜第4の方法)。
【0113】
上述した希ガスをイオン化した際、あるいはプラズマ化した際には、加速電圧Vを+30〜130V、ビーム電流Ibを20〜200mAに設定することが好ましい。これらの条件は、イオンビームエッチングを行う場合の条件と比較すると著しく弱い条件である。ここではイオンビームを用いたが、イオンビームの換わりに、RFプラズマなどのプラズマを用いても全く同様に作成することが可能である。
【0114】
イオンビームの入射角度は、膜面に対して垂直に入射する場合を0度、膜面に平行に入射する場合を90度と定義して、0〜80度の範囲で適宜変更する。この工程による処理時間は15秒〜180秒程度が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長すぎると、CCP−CPP素子の生産性が劣るため好ましくない。これらの観点から、処理時間は30秒〜180秒程度が最も好ましい。
【0115】
上述したようなエネルギーを有するイオンビームを照射することによって、第2の金属層m2中へ第1の金属層m1の構成原子が高い移動エネルギーを得て吸い上げられて侵入し、電流パスが生成されることになる。
【0116】
上述したように、第2の金属層m2としては、AlCuやAlを用いることができる。第2の金属層m2としてCuを含まないAlを用いた場合、第1の金属層m1からのCuの吸い上げだけが生じる。第2の金属層m2としては、Al以外の金属材料を用いることができる。例えば第2の金属層m2として、安定な酸化物に変換される、Si、Hf、Zr、Ti、Mg、Cr、Mo,Nb,Wなどを用いてもよい。
【0117】
また、上記酸化処理をイオン、もしくはプラズマを用いた場合の詳細な条件について述べる(第1の方法及び第2の方法〜第4の方法における一ステップ)。このときのイオン、もしくはプラズマの照射条件は、加速電圧Vを+40〜200V、ビーム電流Ibを30〜300mA程度に設定することが好ましい。酸化処理時間は、15秒〜300秒程度が好ましく、20秒〜180秒程度がより好ましい。強いイオンビームを用いるときには処理時間を短くし、弱いイオンビームを用いるときには処理時間を長くする。
【0118】
酸化時の酸素暴露量の好ましい範囲は、イオン、またはプラズマを用いた酸化処理の場合には1000〜5000L(1L=1×10-6Torr×sec)、自然酸化の場合には3000〜30000Lである。
【0119】
上記のような適正な条件を図2で示す各工程で用いることにより、理想形体近いCCP構造を実現することが可能になる。
【0120】
図2(D)において、m3、m4はそれぞれm1、m2と同一の材料でも良いし、異なっていても構わない。一般的には、同一の材料を用いることが好ましい実施形態である。具体的には、m4はCu,Au,Ag,Alのうち少なくともいずれかひとつの元素を含む金属層で形成され、m3としては、酸化、窒化されたときに良好な絶縁機能を有するAl,Si,Mg,Ti,Hf,Zr,Cr,Mo,Nb,Wのうち少なくともひとつの元素を含む材料から形成されることが好ましい。これらの単体金属でも良いし、合金材料でも構わない。
【0121】
m3の膜厚としては、0.1〜1.5nm程度が好ましく、m4の膜厚としては、0.3〜1nm程度が好ましい。
【0122】
なお、上記においては、特に酸化処理を行う場合についての詳細な条件が記載されているが、窒化処理においても類似の条件を用いることができる。
【0123】
図2(G)において、上部金属層17、フリー層18が成膜されるが、上部金属層17としては、CCPを構成する材料と同一でも良いし、異種材料でも構わない。望ましい形としては、Cu,Au,Ag、Alなどが望ましい実施形態である。上部金属層17の膜厚としては、0〜1nmが好ましい値である。
【0124】
図3に本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)を製造するために用いられる装置の概略的な構成を示す。図3に示すように、搬送チャンバー(TC)50を中心として、ロードロックチャンバー51、プレクリーニングチャンバー52、第1の金属成膜チャンバー(MC1)53、第2の金属成膜チャンバー(MC2)54、酸化チャンバー(OC)60がそれぞれ真空バルブを介して設けられている。この装置では、真空バルブを介して接続された各チャンバーの間で、真空中において基板を搬送することができるので、基板の表面は清浄に保たれる。
【0125】
金属成膜チャンバー53,54は多元(5〜10元)のターゲットを有する。成膜方式は、DCマグネトロンスパッタ、RFマグネトロンスパッタ等のスパッタ法、イオンビームスパッタ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、およびMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などが挙げられる。
【0126】
表面酸化処理には、イオンビーム機構、RFプラズマ機構、または加熱機構を有するチャンバーを利用でき、かつ金属成膜チャンバーとは分けることが必要である。
【0127】
上記真空チャンバーの典型的な真空度の値としては、10-9Torr台であり、10−8Torrの前半の値が許容できる。
【0128】
本発明において特徴的なm1、m2、m3,m4の成膜は金属成膜チャンバー53、54のいずれかで行われ、表面酸化処理は酸化チャンバー60において行われる。m1、m2の成膜後には搬送チャンバー50を介してウェハーが酸化チャンバー60に搬送され酸化処理が行われる。その後、金属成膜チャンバー53、54のいずれかに搬送されてm3、m4が成膜されたのち、再び搬送チャンバー50を介してウェハーは酸化処理チャンバー60に搬送され、酸化処理が行われる。その後、金属成膜チャンバー53、54のいずれかに搬送されて上部金属層17、フリー層18の成膜が行われる。
【0129】
図4は、図3に示した酸化チャンバー60の構成の一例である。ここでは酸化チャンバー60はイオンビームを有するチャンバーとなっている。図に示すように、酸化チャンバー60は真空ポンプ61によって真空引きされ、酸化チャンバー60にはマスフローコントローラー(MFC)63により流量制御された酸素ガスが酸素供給管62から導入される。酸化チャンバー60内にはイオンソース70が設けられている。イオンソースの形式は、ICP(Inductive coupled plasma)型、Capacitive coupled plasma型、ECR(Electron-cyclotron resonance)型、カウフマン型などが挙げられる。イオンソース70に対向するように基板ホルダー80および基板1が配置される。
【0130】
イオンソース70からのイオン放出口には、イオン加速度を調整する3枚のグリッド71、72、73が設けられている。イオンソース70の外側にはイオンを中和するニュートラライザ74が設けられている。基板ホルダー80は傾斜可能に支持されている。基板1へのイオンの入射角度は広い範囲で変えることができるが、典型的な入射角度の値は15°〜60°である。
【0131】
この酸化チャンバー60において、Arなどのイオンビームを基板1に照射することにより、イオンを用いた表面酸化処理に伴うエネルギーアシストを行うことができ、酸素供給管62から酸素ガスを供給しながらArなどのイオンビームを基板1に照射することにより金属層から酸化層への変換を行うことができる。
【0132】
ここでは酸化チャンバーとしてイオンビームを有するチャンバーだが、RFプラズマチャンバーなどでも全く同等の効果を有する。いずれにしても前述のように、表面酸化処理においてはエネルギーを与える処理を行うことが必要なので、イオン、もしくはプラズマを発生することができるチャンバーにおいて表面酸化処理を行うことが必要となる。
【0133】
また、エネルギーを与えるための手段として、加熱処理を行うことも可能である。この場合には、100℃〜300℃の温度で数十秒から数分程度の処理を行うなどがある。この処理を表面酸化処理の一環として行うこともできる。
【0134】
(磁気抵抗効果素子の製造方法の全体的説明)
以下、磁気抵抗効果素子の製造方法の全体について、図1を用いて詳細に説明する。
【0135】
最初に、基板(図示せず)上に、下電極11、下地層12、ピニング層13、ピン層14、下部金属層15、スペーサ層16、上部金属層17、フリー層18、キャップ層19、上電極20を順に形成する。
【0136】
次いで、図3のような装置構成を用いて、基板をロードロックチャンバー51にセットし、金属の成膜を金属成膜チャンバー53または54で、酸化を酸化物層・窒化物層形成チャンバー60でそれぞれ行う。金属成膜チャンバーの到達真空度は1×10−8Torr以下とすることが好ましく、5×10−10Torr〜5×10−9Torr程度が一般的である。搬送チャンバー50の到達真空度は10−9Torrオーダーである。酸化物層・窒化物層形成チャンバー60の到達真空度は8×10−8Torr以下である。
【0137】
(1)下地層12の形成
基板(図示せず)上に、下電極11を微細加工プロセスによって前もって形成しておく。下電極11上に、下地層12として、例えば、Ta[5nm]/Ru[2nm]を成膜する。既述のように、Taは下電極の荒れを緩和したりするためのバッファ層12aである。Ruはその上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するシード層12bである。
【0138】
(2)ピニング層13の形成
下地層12上にピニング層13を成膜する。ピニング層13の材料としては、PtMn、PdPtMn、IrMn、RuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。
【0139】
(3)ピン層14の形成
ピニング層13上にピン層14を形成する。ピン層14は、例えば、下部ピン層141(Co90Fe10)、磁気結合層142(Ru)、および上部ピン層143(Co90Fe10[4nm])からなるシンセティックピン層とすることができる。
【0140】
(4)スペーサ層16の形成
次に、電流狭窄構造(CCP構造)を有するスペーサ層(CCP−NOL)16を形成する。ここが本発明において最も特徴的な工程であるため以下詳細に説明する。
【0141】
まず、スペーサ層16を形成するには、ピン14までを金属成膜チャンバーで成膜した後に、酸化物層・窒化物層形成チャンバー60に搬送され、60にて処理を行う。
【0142】
ここで、スペーサ層16の望ましい形体について述べる。スペーサ層16として、比較的厚めのスペーサ層16を実現することが望ましい。その理由として、メリットと絶縁層膜厚が厚くなることによって、電流パス層以外の本来ならば絶縁層として機能しなければならない領域にリーク電流が流れることを完全に抑制することができ、CCP効果をより強く発揮し、より強固な信頼性を実現することができることがある。また、絶縁層膜厚が厚くなることで、絶縁層の絶縁耐圧が向上するため、ESD(Electric Static Discharge)などの静電破壊耐性を向上させることが可能となる。ESD耐圧が高いことは、ヘッドをHDDに組むときの歩留まりを向上させることにつながる。
【0143】
このように信頼性性能が大きく向上することは、HDD生産のときのみならず、あらゆる状況における破壊、熱的な耐性をも向上させることができるので、高信頼性が必要とされる、サーバーや、エンタープライズ用途のヘッドとして適したものとなる。単に記録密度を向上させるだけでない高信頼性のヘッドは、HDDの用途が広がっている近年の状況ではますます重要になってくる。ヘッドの寿命が長くなることは、HDDの使用環境を広げるということで非常に重要になってくる。このような高信頼性のヘッドは、熱的環境が厳しいカーナビゲーション用のHDDとしても非常に有効である。
【0144】
もちろん、このような高信頼性を有するヘッドは、上記のような高付加価値のHDDだけでなく、民生用途として使用される通常のパソコン、携帯型音楽プレーヤー、携帯電話などのHDDとして用いることができる。
【0145】
なお、上述のように、比較的厚い膜厚のスペーサ層を形成することが望ましいが、実現するプロセスは容易ではない。従来のスペーサ層16の形成方法としては例えば、特願2004−233641などがある。しかしながら、従来のプロセスにおいては厚いスペーサ層を形成することは困難を伴う。それはm1をm2中に吸い上げさせるという工程を考えると、厚い膜厚では膜表面からのエネルギー処理が届かなくなってしまうことは容易に想像される。
【0146】
一方、十分なエネルギーを与えるためにイオンビーム、プラズマのエネルギーを大きくしすぎると、今度はエッチングされて削れてしまい、m1をm2に吸い上げるのではなく、単にm2をエッチングして削る、もっと極端な場合は、m2、m1ともにエッチングされてなくなってしまうということになってしまう。これでは、エネルギーアシストの効果は全くなくなってしまう。
【0147】
以上のことから、厚いスペーサ層16を従来のプロセスで形成することは困難を伴うことがわかる。
【0148】
一方、薄いスペーサ層16を形成することは比較的容易であるが、それでは十分なCCP機能を発揮しない。例えば、本来絶縁層として機能しなければならない部分にトンネル電流も流れ、これはリーク電流となってしまう。また、絶縁層膜厚が薄いと、絶縁耐圧を弱くなるので、ESDなどにも弱く、製造工程上いろいろな工夫が必要になり、歩留まりの低下を引き起こしてしまう。
【0149】
このように、従来プロセスにおいては、実用上は十分な機能を発揮するものの、より高信頼性が要求される用途や、製造上の歩留まりをより向上させるという観点においては、より高信頼性を有するヘッドが必要とされている。
【0150】
このような問題を解決するために、上述したような本発明の製造方法を用いることによって、スペーサ層を構成する絶縁層の膜厚が増大し、前記スペーサ層中に形成された電流パス層以外の、本来的に絶縁層として機能すべき領域にリーク電流が流れることを完全に抑制することができるようになる。この結果、CCP効果をより強く発揮し、より強固な信頼性を実現することができる。また、絶縁層膜厚が厚くなることで、絶縁層の絶縁耐圧が向上するため、ESD(Electric Static Discharge)などの静電破壊耐性を向上させることが可能となる。
【0151】
本発明によるスペーサ層16を形成するには、図2のようなステップを用いる。ここでは、アモルファス構造を有するAl2O3からなる絶縁層161中に金属結晶構造を有するCuからなる電流パス162を含むスペーサ層16を形成する場合を例に具体的に説明する。
【0152】
最初に、上部ピン層143上に、電流パスの供給源となる金属層m1(例えばCu)を成膜した後、下部金属層m1上に絶縁層161の一部として変換される被酸化金属層m2(例えばAlCuやAl)を成膜する。
【0153】
次いで、被酸化金属層に対して変換処理を行う。この変換処理は、上述のような酸化処理あるいは窒化処理を経て行うことができる。また、このような変換処理は複数のステップを経て実施するようにすることができる。例えば、変換処理の第1ステップとして、希ガス(例えばAr)のイオンビームを照射する。この前処理をPIT(Pre-ion treatment)という。このPITの結果、被酸化金属層中に下部金属層の一部が吸い上げられて侵入した状態になる。エネルギー処理を行うための手段としてPITは有効である。
【0154】
なお、上記エネルギーを与える別の手段として、膜表面を加熱するなどの手段も有効である。このときは、100〜300℃程度で加熱する手段などがある。また、前述のように、酸素ガスを用いて酸化膜への変換を行った後に、Arなどの希ガスを用いてエネルギー処理を行う方法でもよい。この後処理をAIT(After-ion treatment)と呼ぶ。
【0155】
また、上述したPITなどに加えて、本例では上記イオンビームなどの存在下に酸素ガスや窒素ガスなどを供給し、エネルギーアシストを得た状態で酸化処理あるいは窒化処理を行う。これらの処理が本発明の本流であり、例えばIAO(Ion−beam assisted oxidation)などと呼ぶ。
【0156】
上記のような処理を経ることによって、第1の金属層m1のCuがAlCu層中へ吸い上げられ、第2の金属層m2が金属状態から絶縁層状態へと変換される。
【0157】
PIT,およびAITでは、加速電圧30〜150V、ビーム電流20〜200mA、処理時間30〜180秒の条件でArイオンを照射する。上記加速電圧の中でも、40〜60Vの電圧範囲が好ましい。これよりも高い電圧範囲の場合には、PITやAIT後の表面荒れ等の影響により、MR変化率の低下が生じる場合がある。また、電流値としては、30〜80mAの範囲、照射時間として、60秒から150秒の範囲を利用できる。
【0158】
また、PITやAIT処理の換わりに、AlCuやAlなどの絶縁層161の一部として変換される前の金属層をバイアススパッタで形成する手法もある。この場合には、バイアススパッタのエネルギーは、DCバイアスの場合には30〜200V、RFバイアスの場合には30〜200Wとすることができる。
【0159】
なお、IAOでは、加速電圧40〜200V、ビーム電流30〜200mA、処理時間15〜300秒の条件でArイオンを照射する。上記加速電圧の中でも、50〜100Vの電圧範囲が好ましい。加速電圧がこれよりも高いと、PIT後の表面荒れ等の影響により、MR変化率の低下が生じる可能性がある。また、ビーム電流として、40〜100mA、照射時間として、30秒〜180秒を採用できる。
【0160】
IAOでの酸化時の酸素供給量としては、1000〜3000Lが好ましい範囲である。IAO時にAlだけでなく、下部磁性層(ピン層14)まで酸化されると、CCP−CPP素子の耐熱性、信頼性が低下するので好ましくない。信頼性向上のために、スペーサ層16の下部に位置する磁性層(ピン層14)が酸化されず、メタル状態であることが重要である。これを実現するためには酸素供給量を上記範囲とすることが必要である。
【0161】
また、供給された酸素によって安定な酸化物を形成するために、イオンビームを基板表面に照射している間だけ、酸素ガスをフローしていることが望ましい。即ち、イオンビームを基板表面に照射していないときは、酸素ガスをフローしないことが望ましい。
【0162】
上述のような処理を経た後、例えば、Al2O3からなる絶縁層161とCuからなる電流パス162とを有するスペーサ層16の一部が形成される。Alが酸化されやすく、Cuが酸化されにくいという、酸化エネルギーの差を利用した処理である。
【0163】
以上のプロセスまでについては、特願2004−233641と同様であるが、本発明においては、より理想形態に近いCCP構造を実現するために、m1、m2の膜厚ともに薄い膜厚を用いる。薄くすることで、より容易に良好な形態のCCP構造を実現することが可能となるからである。
【0164】
具体的なm1の膜厚としては、0.1〜1.5nm程度が好ましく、m2の膜厚としては、0.3〜1nm程度が好ましい。
【0165】
電流パスを形成する第1の金属層m1(下部金属層15)の材料として、Cuの代わりに、Au、Ag、Alや、少なくともこれらの元素のうちひとつを含む金属を用いてもよい。ただし、Au、Agに比べて、Cuの方が熱処理に対する安定性が高く、好ましい。第1の金属層m1の材料として、これらの非磁性材料の代わりに、磁性材料を用いてもよい。磁性材料としては、Co、Fe、Niや、これらの合金が挙げられる。
【0166】
第2の金属層m2にAl90Cu10を用いると、PIT工程中に、第1の金属層m1のCuが吸い上げられるのみでなく、AlCu中のCuがAlから分離される。即ち、第1、第2の金属層m2の双方から電流パス162が形成される。PIT工程後にイオンビームアシスト酸化を行った場合には、イオンビームによるアシスト効果によってAlとCuの分離が促進されつつ酸化が進行する。
【0167】
第2の金属層m2として、Al90Cu10の代わりに、電流パス162の構成材料であるCuを含まないAl単金属を用いてもよい。この場合、電流パス162の構成材料となるCuは下地の第1の金属層m1からのみ供給される。第2の金属層m2としてAlCuを用いた場合、PIT工程中に第2の金属層m2からも電流パス162の材料であるCuが供給される。このため、厚い絶縁層161を形成する場合でも、比較的容易に電流パス162を形成することができる。第2の金属層m2としてAlを用いた場合、酸化により形成されるAl2O3にCuが混入しにくくなるため、耐圧の高いAl2O3を形成しやすい。Al、AlCuそれぞれのメリットがあるので、状況に応じて使い分けられる。
【0168】
第2の金属層m2の膜厚は、AlCu、Alの場合には0.3〜1nm程度が好ましい。この膜厚範囲はm1、m2のみでスペーサ層16を形成しようとしたときには薄すぎるといえる膜厚範囲も含んでいる。例えば、0.3nmのAlを用いた場合には、これだけでスペーサ層16の形成を終えたとしたら、不十分な膜厚である。しかしながら、後に述べるように、もう一度別のプロセスによってスペーサ層16を形成し、本ステップまではスペーサ層16の一部を形成したのみであるので、上記のような薄い膜厚はCCPを形成するという観点では望ましい範囲となる。
【0169】
第2の金属層m2としてのAlCuは、AlxCu100-x(x=100〜70%)で表される組成を有するものが好ましい。AlCuには、Ti、Hf、Zr、Nb、Mg、Mo、Siなどの元素を添加してもよい。この場合、添加元素の組成は2〜30%程度が好ましい。これらの元素を添加すると、CCP構造の形成が容易になる可能性がある。また、Al2O3の絶縁層161とCuの電流パス162との境界領域にこれらの添加元素が他の領域よりリッチに分布すると、絶縁層161と電流パス162との密着性が向上して、エレクトロマイグレーション(electro-migration)耐性が向上する可能性がある。
【0170】
CCP−CPP素子においては、スペーサ層16の金属電流パスに流れる電流の密度が107〜1010A/cm2もの巨大な値になる。このため、エレクトロマイグレーション耐性が高く、電流通電時のCu電流パス162の安定性を確保できることが重要である。ただし、適切なCCP構造が形成されれば、第2の金属層m2に元素を加えなくても十分良好なエレクトロマイグレーション耐性を実現できる。
【0171】
第2の金属層m2の材料は、Al2O3を形成するためのAl合金に限らず、Hf、Mg、Zr、Ti、Ta、Mo、W、Nb、Siなどを主成分とする合金でもよい。また、第2の金属層m2から変換される絶縁層161は、酸化物に限らず、窒化物や酸窒化物でもよい。
【0172】
第2の金属層m2としてどのような材料を用いた場合にも、成膜時の膜厚は0.5〜2nmが好ましく、酸化物、窒化物または酸窒化物に変換されたときの膜厚は0.8〜3.5nm程度が好ましい。
【0173】
絶縁層161は、それぞれ単体の元素を含む酸化物だけでなく、合金材料の酸化物、窒化物、酸窒化物でもよい。例えば、Al2O3を母材として、Ti、Mg,Zr,Ta,Mo,W,Nb,Siなどのいずれか一つの元素、もしくはAlに複数の元素を0〜50%含有する材料の酸化物なども用いることができる。
【0174】
また、第3の金属層m3は0.3〜1.0nmが好ましく、第4の金属層m4は0.1〜1.5nmが好ましい。この第3の金属層m3及び第4の金属層m4に対しても上述した場合と同様の変換処理を行う。第3の金属層m3はAlCuやAlから構成することができ、第4の金属層m4はCuなどから構成することができる。
【0175】
以上のように、本例では、第1の金属層m1及び第2の金属層m2、並びに第3の金属層m3及び第4の金属層m4に対してそれぞれ変換処理を、2段階の変換処理でスペーサ層を構成するようにしている。したがって、前記スペーサ層を比較的厚いCCP構造を呈するものとして構成することができる。
【0176】
また、上記具体例では、変換処理を2段階で実施しているが、当然に3段階以上の変換処理を実施してCCP型のスペーサ層を形成するようにすることができる。しかしながら、現状要求されるCPP構造型の磁気抵抗効果素子においては、上述した2段階の変換処理を経るのみで目的とする特性のCPP構造型の磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【0177】
(5)上部金属層17、フリー層18の形成
次いで、スペーサ層16の上に、上部金属層17として、例えば、Cu[0.25nm]を成膜する。好ましい膜厚範囲は、0.2〜1.0nm程度である。0.25nm程度を用いると、フリー層18の結晶性を向上しやすいというメリットがある。ただし、この上部金属層は場合によっては必ずしも形成しなくても構わない。
【0178】
上部金属層17の上に、フリー層18、例えば、Co90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]を形成する。高いMR変化率を得るためには、スペーサ層16との界面に位置するフリー層18の磁性材料の選択が重要である。この場合、スペーサ層16との界面には、NiFe合金よりもCoFe合金を設けることが好ましい。CoFe合金のなかでも特に軟磁気特性が安定なCo90Fe10[1nm]を用いることができる。他の組成でも、CoFe合金は用いることができる。
【0179】
Co90Fe10近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5〜4nmとすることが好ましい。他の組成のCoFe合金(例えば、Co50Fe50)を用いる場合、膜厚を0.5〜2nmとすることが好ましい。スピン依存界面散乱効果を上昇させるために、フリー層18に、例えば、Fe50Co50(もしくは、FexCo100-x(x=45〜85))を用いた場合には、フリー層18としての軟磁性を維持するために、ピン層14のような厚い膜厚は使用困難である。このため、0.5〜1nmが好ましい膜厚範囲である。Coを含まないFeを用いる場合には、軟磁気特性が比較的良好なため、膜厚を0.5〜4nm程度とすることができる。
【0180】
CoFe層の上に設けられるNiFe層は、軟磁性特性が安定な材料からなる。CoFe合金の軟磁気特性はそれほど安定ではないが、その上にNiFe合金を設けることによって軟磁気特性を補完することができる。NiFeをフリー層18として用いることは、スペーサ層16との界面に高MR変化率を実現できる材料が使用可能となり、スピンバルブ膜のトータル特性上好ましい。
【0181】
NiFe合金の組成は、NixFe100-x(x=78〜85%程度)が好ましい。ここで、通常用いるNiFeの組成Ni81Fe19よりも、Niリッチな組成(例えば、Ni83Fe17)を用いることが好ましい。これはゼロ磁歪を実現するためである。CCP構造のスペーサ層16上に成膜されたNiFeでは、メタルCu製のスペーサ層上に成膜されたNiFeよりも、磁歪がプラス側にシフトする。プラス側への磁歪のシフトをキャンセルするために、Ni組成が通常よりも多い、負側のNiFe組成を用いている。
【0182】
NiFe層のトータル膜厚は2〜5nm程度(例えば、3.5nm)が好ましい。NiFe層を用いない場合には、1〜2nmのCoFe層またはFe層と0.1〜0.8nm程度の極薄Cu層とを、複数層交互に積層したフリー層18を用いてもよい。
【0183】
(6)キャップ層19、および上電極20の形成
フリー層18の上に、キャップ層19として例えば、Cu[1nm]/Ru[10nm]を積層する。キャップ層19の上にスピンバルブ膜へ垂直通電するための上電極20を形成する。
【実施例】
【0184】
(実施例1)
以下、本発明の実施例につき説明する。以下に、本発明の実施例に係る磁気抵抗効果膜10の構成を表す。
【0185】
・下電極11
・下地層12:Ta[3nm]/Ru[2nm]
・ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
・ピン層14:Co90Fe10[3.6nm]/Ru[0.9nm]/(Fe50Co
50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]
・金属層15:Cu[0.1nm]
・スペーサ層(CCP−NOL)16:Al2O3の絶縁層161およびCuの電流パス162
・金属層17:Cu[0.25nm]
・フリー層18:Co90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]
・キャップ層19:Cu[1nm]/Ru[10nm]
・上電極20。
【0186】
CCP−NOLの作成方法
以下本発明に特徴的なCCP−NOLの作成方法についてのみもう少し具体的に述べる。ピン層14までは成膜し終わっており、基板は酸化チャンバー60に搬送されている状態から説明する。
【0187】
まず、図2(A)ステップとして、m1としてCuを0.3nm、m2としてAlCuを0.6nm成膜した。
【0188】
図2(B)ステップとして、1段目の変換処理を行う。具体的な変換処理としては、以下のような複数ステップで行った。まず、Arイオンビームをサンプル表面に照射した状態で、酸素ガスを酸化チャンバーにフローする。Arイオンビームのエネルギーは60Vを用いた(IAO)。その後、酸素ガスフローをストップし、Arイオンビームの照射のみを行った。このときのArイオンビームの条件は酸化のときに用いた条件と全く同様である。イオンビームの照射を60秒行った(AIT)。その結果、図2(C)のような形態が形成される。
【0189】
次いで、図2(D)ステップとして、m3としてCuを0.3nm、m4としてAlCuを0.6nm成膜した。
【0190】
次いで、図2(E)のプロセスとして、2段目の変換処理を行った。具体的な変換処理としては、以下のような複数ステップで行った。まず、Arイオンビームをサンプル表面に照射した状態で、酸素ガスを酸化チャンバーにフローする。Arイオンビームのエネルギーは60Vを用いた(IAO)。その後、酸素ガスフローをストップし、Arイオンビームの照射のみを行った。このときのArイオンビームの条件は酸化のときに用いた条件と全く同様である。イオンビームの照射を60秒行った(AIT)。その結果、図2(F)のような形態を形成することができる。
【0191】
図2(G)のプロセスとして、上部金属層17を0.25nm形成し、スペーサ層15、16、17が完成する。
【0192】
ここで、図示したような構成は、CCP−CPP素子をすべて成膜した後に行う熱処理による最終形態であるので、CCP−CPP素子の成膜途中の段階においては図示したような最終構成になっていない場合もある。実際にはCCP−CPP膜キャップ層まですべて成膜後に行う熱処理によってもエネルギーアシスト効果となるため、熱処理まで終了した状態で最終形体となる。熱処理の条件は290度4時間行うことになる。
【0193】
スペーサ層の形成が終わると、酸化チャンバー60から搬出され、金属成膜チャンバーへと搬送される。金属成膜チャンバーにて、フリー層の成膜が行われる。
【0194】
(実施例の評価)
実施例を比較例と共に評価した。
【0195】
比較例として、図5に示すような従来プロセスで行った場合について比較した。比較例においては、m1の膜厚は、実施例のm1とm3の膜厚の和である、0.6nmのCuを成膜し、比較例のm2の膜厚として、実施例のm2とm4の膜厚の和である、1.2nmのAlCuを成膜した。
【0196】
変換処理プロセスとしては、実施例で行った変換処理プロセスと全く同様のプロセスを一度のみ行った。つまり、IAO/AITプロセスにおいてスペーサ層を作製した。
【0197】
ここで、特性を評価した通電方向として、ピン層14からフリー層18に電流が流れる方向とした。つまり、電子の流れとしては、逆向きになるのでフリー層18からピン層14に流れることになる。このような通電方向は、スピントランスファーノイズを低減するために望ましい方向である。フリー層18からピン層14に電流を流す場合(電子の流れとしては、ピン層からフリー層)のほうが、スピントランスファートルク効果が大きいといわれており、ヘッドにおいてはノイズ発生のもとになる。その観点からも、通電方向はピン層からフリー層に流れる方向が好ましい構成である。
【0198】
実施例に係るCCP−CPP素子の特性を評価したところ、RA=500mΩ/μm2、MR変化率=9%であった。一方、比較例に係わるCCP−CPP素子の特性を評価したところ、RA=900mΩ/μm2、MR変化率=7%であった。両者とも、形成後のNOL膜厚はほぼ等しいにも係わらず、RA,MR変化率ともに実施例と比較例では優位な差が認められた。
【0199】
ここで、上記のような違いが見られた原因を調べるために、三次元アトムプローブを用いて実施例と比較例の比較検討を行った。三次元アトムプローブとは、サンプルをニードル状に加工して、そのサンプルを真空チャンバー内にセットしサンプルに高電圧を印加することで先端の原子を一個、一個電界蒸発を生じさせて、三次元ナノ構造を原子オーダーで分析する破壊試験方法である。
【0200】
その結果、比較例の場合には、電流パス21の上部において電流パス開口面積が小さくなってしまっており、かつ酸素濃度が電流パス21の下部よりも多くなってしまっている。具体的には、電流パスによっては、上下で20%以上面積の差が生じてしまっているものがある。ここで、電流パスの下部、および上部の定義としては、下部は電流パス膜厚方向の膜厚を、基板側を0、膜表面側を100としたときに、50未満の場所を電流パスの下部と呼び、50以上の場所を電流パスの上部と呼ぶ。
【0201】
また、電流パス21のCu純度にも、電流パス21の上部か、下部かで違いが見られる。具体的には、電流パス上部のほうが電流パス下部よりもCu中に含まれる酸素濃度が10atomic%以上多い場合がある。電流パス21のCu純度が悪くなった場合には、CCP効果が薄れ性能が悪くなってしまう。また、このような形状の上下非対称性は、通電方向による信頼性の違いも引き起こすことになるので、好ましくない。
【0202】
一方、実施例の場合には、電流パス21の上部においても下部においても、電流パス開口面積に20%もの違いはなく、均一に形成されている。また、電流パスの酸素濃度には上部でも下部でも10atomic%もの大きな差は生じていない。
【0203】
このような違いが生じた原因として、比較実施例の場合には、m2の膜厚として、1.2nmのAlCuを表面酸化した場合には、m1のCuの吸い上げが完全な形にならず、不完全な状態になってしまうことに起因すると考えられる。酸素濃度についても、m2の膜厚が厚すぎる場合には表面酸化を行ったときに上部のほうが下部よりも酸素濃度が高い。 また、絶縁層161を貫通する電流パス162の直径は1〜10nm程度であり、2〜6nm程度になっている。直径10nmよりも大きな電流パス162は小さな素子サイズにしたときに、各素子ごとの特性のばらつきの原因となるので好ましくなく、直径6nmよりも大きな電流パス162は存在しないことが好ましい。
【0204】
(実施例2)
実施例1ではボトム型スピンバルブ膜を有するCPP構造の磁気抵抗効果素子について説明したが、本実施例ではトップ型スピンバルブ膜を有するCPP構造の磁気抵抗効果素子について説明する。トップ型スピンバルブ膜では、ピン層14がフリー層18よりも上に配置される。即ち、SCTは、ピン層14がフリー層18よりも下に位置するボトム型のCCP−CPP素子のみならず、トップ型のCCP−CPP素子にも適用できる。この場合でも本発明に特徴的なスペーサ層16を形成するプロセスについては全く同様である。図1において、上部ピン層の変わりにフリー層がスペーサ層の下地となり、図1におけるフリー層18の換わりに、ピン層14に相当する層がスペーサ層の上層に配置されることになる。
【0205】
具体的には以下のような構成が一例である。
【0206】
・下電極11
・下地層12:Ta[3nm]/Ru[2nm]
・フリー層18:Ni83Fe17[3.5nm]/Co90Fe10[1nm]
・金属層15:Cu[0.5nm]
・スペーサ層(CCP−NOL)16:Al2O3の絶縁層161およびCuの電流パス162
・金属層17:Cu[0.25nm]
・ピン層14:(Fe50Co50[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe50Co50[1nm]/Ru[0.9nm]/Co90Fe10[3.6nm]
・ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
・キャップ層19:Cu[1nm]/Ru[10nm]
・上電極20。
【0207】
上述のように、トップ型のCCP−CPP素子を製造する場合には、下地層12とキャップ層19との間にある層が、図2とほぼ逆の順序で成膜される。但し、下部金属層15および上部金属層17は、スペーサ層16の作成等との関係で、順番が逆転していない。つまり、m1、m2、m3、m4の役割はボトム型でもトップ型でも全く同様である。
【0208】
(磁気抵抗効果素子の応用)
以下、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)の応用について説明する。
【0209】
本発明の実施形態において、CPP素子の素子抵抗RAは、高密度対応の観点から、500mΩ/μm2以下が好ましく、300mΩ/μm2以下がより好ましい。素子抵抗RAを算出する場合には、CPP素子の抵抗Rにスピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aを掛け合わせる。ここで、素子抵抗Rは直接測定できる。一方、スピンバルブ膜の通電部分の実効面積Aは素子構造に依存する値であるため、その決定には注意を要する。
【0210】
例えば、スピンバルブ膜の全体を実効的にセンシングする領域としてパターニングしている場合には、スピンバルブ膜全体の面積が実効面積Aとなる。この場合、素子抵抗を適度に設定する観点から、スピンバルブ膜の面積を少なくとも0.04μm2以下にし、300Gbpsi以上の記録密度では0.02μm2以下にする。
【0211】
しかし、スピンバルブ膜に接してスピンバルブ膜より面積の小さい下電極11または上電極20を形成した場合には、下電極11または上電極20の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。下電極11または上電極20の面積が異なる場合には、小さい方の電極の面積がスピンバルブ膜の実効面積Aとなる。この場合、素子抵抗を適度に設定する観点から、小さい方の電極の面積を少なくとも0.04μm2以下にする。
【0212】
後に詳述する図6、図7の実施例の場合、図6でスピンバルブ膜10の面積が一番小さいところは上電極20と接触している部分なので、その幅をトラック幅Twとして考える。また、ハイト方向に関しては、図7においてやはり上電極20と接触している部分が一番小さいので、その幅をハイト長Dとして考える。スピンバルブ膜の実効面積Aは、A=Tw×Dとして考える。
【0213】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子では、電極間の抵抗Rを100Ω以下にすることができる。この抵抗Rは、例えばヘッドジンバルアセンブリー(HGA)の先端に装着した再生ヘッド部の2つの電極パッド間で測定される抵抗値である。
【0214】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子において、ピン層14またはフリー層18がfcc構造である場合には、fcc(111)配向性をもつことが望ましい。ピン層14またはフリー層18がbcc構造をもつ場合には、bcc(110)配向性をもつことが望ましい。ピン層14またはフリー層18がhcp構造をもつ場合には、hcp(001)配向またはhcp(110)配向性をもつことが望ましい。
【0215】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の結晶配向性は、配向のばらつき角度で4.0度以内が好ましく、3.5度以内がより好ましく、3.0度以内がさらに好ましい。これは、X線回折のθ−2θ測定により得られるピーク位置でのロッキングカーブの半値幅として求められる。また、素子断面からのナノディフラクションスポットでのスポットの分散角度として検知することができる。
【0216】
反強磁性膜の材料にも依存するが、一般的に反強磁性膜とピン層14/スペーサ層16/フリー層18とでは格子間隔が異なるため、それぞれの層においての配向のばらつき角度を別々に算出することが可能である。例えば、白金マンガン(PtMn)とピン層14/スペーサ層16/フリー層18とでは、格子間隔が異なることが多い。白金マンガン(PtMn)は比較的厚い膜であるため、結晶配向のばらつきを測定するのには適した材料である。ピン層14/スペーサ層16/フリー層18については、ピン層14とフリー層18とで結晶構造がbcc構造とfcc構造というように異なる場合もある。この場合、ピン層14とフリー層18とはそれぞれ別の結晶配向の分散角をもつことになる。
【0217】
(磁気ヘッド)
図6および図7は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに組み込んだ状態を示している。図6は、磁気記録媒体(図示せず)に対向する媒体対向面に対してほぼ平行な方向に磁気抵抗効果素子を切断した断面図である。図7は、この磁気抵抗効果素子を媒体対向面ABSに対して垂直な方向に切断した断面図である。
【0218】
図6および図7に例示した磁気ヘッドは、いわゆるハード・アバッテッド(hard abutted)構造を有する。磁気抵抗効果膜10は上述したCCP−CPP膜である。磁気抵抗効果膜10の上下には、下電極11と上電極20とがそれぞれ設けられている。図6において、磁気抵抗効果膜10の両側面には、バイアス磁界印加膜41と絶縁膜42とが積層して設けられている。図7に示すように、磁気抵抗効果膜10の媒体対向面には保護層43が設けられている。
【0219】
磁気抵抗効果膜10に対するセンス電流は、その上下に配置された下電極11、上電極20によって矢印Aで示したように、膜面に対してほぼ垂直方向に通電される。また、左右に設けられた一対のバイアス磁界印加膜41、41により、磁気抵抗効果膜10にはバイアス磁界が印加される。このバイアス磁界により、磁気抵抗効果膜10のフリー層18の磁気異方性を制御して単磁区化することによりその磁区構造が安定化し、磁壁の移動に伴うバルクハウゼンノイズ(Barkhausen noise)を抑制することができる。磁気抵抗効果膜10のS/N比が向上しているので、磁気ヘッドに応用した場合に高感度の磁気再生が可能となる。
【0220】
(ハードディスクおよびヘッドジンバルアセンブリー)
図6および図7に示した磁気ヘッドは、記録再生一体型の磁気ヘッドアセンブリに組み込んで、磁気記録再生装置に搭載することができる。
【0221】
図8は、このような磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。すなわち、本実施形態の磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、磁気ディスク200は、スピンドル152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。本実施形態の磁気記録再生装置150は、複数の磁気ディスク200を備えてもよい。
【0222】
磁気ディスク200に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ153は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ヘッドスライダ153は、上述したいずれかの実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドをその先端付近に搭載している。
【0223】
磁気ディスク200が回転すると、ヘッドスライダ153の媒体対向面(ABS)は磁気ディスク200の表面から所定の浮上量をもって保持される。あるいはスライダが磁気ディスク200と接触するいわゆる「接触走行型」でもよい。
【0224】
サスペンション154はアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、ボビン部に巻かれた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
【0225】
アクチュエータアーム155は、スピンドル157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
【0226】
図9は、アクチュエータアーム155から先のヘッドジンバルアセンブリーをディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、アセンブリ160は、アクチュエータアーム155を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。サスペンション154の先端には、上述したいずれかの実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを具備するヘッドスライダ153が取り付けられている。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダ153に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中165はアセンブリ160の電極パッドである。
【0227】
本実施形態によれば、上述の磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを具備することにより、高い記録密度で磁気ディスク200に磁気的に記録された情報を確実に読み取ることが可能となる。
【0228】
(磁気メモリ)
次に、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリについて説明する。すなわち、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いて、例えばメモリセルがマトリクス状に配置されたランダムアクセス磁気メモリ(MRAM: magnetic random access memory)などの磁気メモリを実現できる。
【0229】
図10は、本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の一例を示す図である。この図は、メモリセルをアレイ状に配置した場合の回路構成を示す。アレイ中の1ビットを選択するために、列デコーダ350、行デコーダ351が備えられており、ビット線334とワード線332によりスイッチングトランジスタ330がオンになり一意に選択され、センスアンプ352で検出することにより磁気抵抗効果膜10中の磁気記録層(フリー層)に記録されたビット情報を読み出すことができる。ビット情報を書き込むときは、特定の書き込みワード線323とビット線322に書き込み電流を流して発生する磁場を印加する。
【0230】
図11は、本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の他の例を示す図である。この場合、マトリクス状に配線されたビット線322とワード線334とが、それぞれデコーダ360、361により選択されて、アレイ中の特定のメモリセルが選択される。それぞれのメモリセルは、磁気抵抗効果素子10とダイオードDとが直列に接続された構造を有する。ここで、ダイオードDは、選択された磁気抵抗効果素子10以外のメモリセルにおいてセンス電流が迂回することを防止する役割を有する。書き込みは、特定のビット線322と書き込みワード線323とにそれぞれに書き込み電流を流して発生する磁場により行われる。
【0231】
図12は、本発明の実施形態に係る磁気メモリの要部を示す断面図である。図13は、図12のA−A’線に沿う断面図である。これらの図に示した構造は、図10または図11に示した磁気メモリに含まれる1ビット分のメモリセルに対応する。このメモリセルは、記憶素子部分311とアドレス選択用トランジスタ部分312とを有する。
【0232】
記憶素子部分311は、磁気抵抗効果素子10と、これに接続された一対の配線322、324とを有する。磁気抵抗効果素子10は、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)である。
【0233】
一方、アドレス選択用トランジスタ部分312には、ビア326および埋め込み配線328を介して接続されたトランジスタ330が設けられている。このトランジスタ330は、ゲート332に印加される電圧に応じてスイッチング動作をし、磁気抵抗効果素子10と配線334との電流経路の開閉を制御する。
【0234】
また、磁気抵抗効果素子10の下方には、書き込み配線323が、配線322とほぼ直交する方向に設けられている。これら書き込み配線322、323は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、タンタル(Ta)あるいはこれらいずれかを含む合金により形成することができる。
【0235】
このような構成のメモリセルにおいて、ビット情報を磁気抵抗効果素子10に書き込むときは、配線322、323に書き込みパルス電流を流し、それら電流により誘起される合成磁場を印加することにより磁気抵抗効果素子の記録層の磁化を適宜反転させる。
【0236】
また、ビット情報を読み出すときは、配線322と、磁気記録層を含む磁気抵抗効果素子10と、下電極324とを通してセンス電流を流し、磁気抵抗効果素子10の抵抗値または抵抗値の変化を測定する。
【0237】
本発明の実施形態に係る磁気メモリは、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子(CCP−CPP素子)を用いることにより、セルサイズを微細化しても、記録層の磁区を確実に制御して確実な書き込みを確保でき、且つ、読み出しも確実に行うことができる。
【0238】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張、変更可能であり、拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。磁気抵抗効果膜の具体的な構造や、その他、電極、バイアス印加膜、絶縁膜などの形状や材質に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる。例えば、磁気抵抗効果素子を再生用磁気ヘッドに適用する際に、素子の上下に磁気シールドを付与することにより、磁気ヘッドの検出分解能を規定することができる。
【0239】
また、本発明の実施形態は、長手磁気記録方式のみならず、垂直磁気記録方式の磁気ヘッドあるいは磁気再生装置についても適用できる。さらに、本発明の磁気再生装置は、特定の記録媒体を定常的に備えたいわゆる固定式のものでも良く、一方、記録媒体が差し替え可能ないわゆる「リムーバブル」方式のものでも良い。
【0240】
その他、本発明の実施形態として上述した磁気ヘッドおよび磁気記憶再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうるすべての磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記憶再生装置および磁気メモリも同様に本発明の範囲に属する。
【符号の説明】
【0241】
10…磁気抵抗効果膜、11…下電極、12…下地層、12a…バッファ層、12b…シード層、13…ピニング層、14…ピン層、141…下部ピン層、142…磁気結合層、143…上部ピン層、15…下部金属層、16…スペーサ層、161…絶縁層、162…電流パス、17…上部金属層、18…フリー層、19…キャップ層、20…上電極、21…電流パス、21‘…電流パス、162…21と21’を合わせた電流パス、22…絶縁層、22’ …絶縁層、161…22と22‘を合わせた絶縁層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が実質的に一方向に固着された磁化固着層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられ、絶縁層と前記絶縁層を貫通する金属層を含むスペーサ層とを有する磁気抵抗効果素子の製造方法において、
前記スペーサ層を形成するにあたり、
第1の金属層を成膜し、
前記第1の金属層上に第2の金属層を成膜し、
前記第2の金属層を第1の絶縁層に変換するとともに前記第1の絶縁層を貫通する第1の導電層を形成する第1の変換処理を行い、
前記第1の絶縁層及び前記第1の導電層上に第3の金属層を成膜し、
前記第3の金属層を第2の絶縁層に変換するとともに前記第1の導電層上にのみ前記第2の絶縁層を貫通する第2の導電層を形成する第2の変換処理を行うことにより、前記第1の導電層及び第2の導電層を有する前記金属層、並びに前記第1の絶縁層及び前記第2の絶縁層を有する前記絶縁層を形成することを特徴とし、
前記第1の変換処理及び前記第2の変換処理の少なくとも一方は、
アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、及びクリプトンのうち少なくともいずれかひとつの元素を含むガスをイオン化、もしくはプラズマ化して膜表面に照射する第1のステップと、
アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、及びクリプトンの少なくとも一つを含むガスをイオン化又はプラズマ化して得た雰囲気中に、酸素ガス及び窒素ガスのうち少なくとも一方を含むガスを供給し、前記イオン化したガス又は前記プラズマ化したガスの雰囲気下、前記第2の金属層又は前記第3の金属層に対して酸化処理及び窒化処理の少なくとも一方を行う第2のステップと、
を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の変換処理の後、前記第3の金属層の成膜前に第4の金属層を成膜することを特徴とする、請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1の金属層として、Cu,Au,Ag,Alのうち少なくともいずれかひとつの元素を含む材料を成膜し、前記第2、第3の金属層として、Al,Si,Mg,Ti,Hf,Zr,Cr,Mo,Nb,Wのうち少なくともいずれかひとつの元素を含む材料を成膜することを特徴とする、請求項1又は2のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項4】
前記第4の金属層として、Cu,Au,Ag,Alのうち少なくともいずれかひとつの元素を含む材料を成膜することを特徴とする、請求項2又は3のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1の金属層の膜厚が、0.1〜1.5nm、前記第2、第3の金属層の膜厚が0.3〜1nmであることを特徴とする、請求項3記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項6】
前記第4の金属層の膜厚が、0.1〜1.5nmであることを特徴とする、請求項4又は5に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項7】
前記第2の変換処理の後に、Cu,Au,Ag,Alのうち少なくともいずれかひとつの元素を含む金属層を形成することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項8】
前記磁化固着層及び前記磁化自由層の少なくとも一方は、CoおよびFeを含む合金で形成されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項9】
前記磁化固着層は、体心立方構造を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項10】
前記磁化自由層は、NiおよびFeを含む合金で形成された層を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項1】
磁化方向が実質的に一方向に固着された磁化固着層と、磁化方向が外部磁界に対応して変化する磁化自由層と、前記磁化固着層と前記磁化自由層との間に設けられ、絶縁層と前記絶縁層を貫通する金属層を含むスペーサ層とを有する磁気抵抗効果素子の製造方法において、
前記スペーサ層を形成するにあたり、
第1の金属層を成膜し、
前記第1の金属層上に第2の金属層を成膜し、
前記第2の金属層を第1の絶縁層に変換するとともに前記第1の絶縁層を貫通する第1の導電層を形成する第1の変換処理を行い、
前記第1の絶縁層及び前記第1の導電層上に第3の金属層を成膜し、
前記第3の金属層を第2の絶縁層に変換するとともに前記第1の導電層上にのみ前記第2の絶縁層を貫通する第2の導電層を形成する第2の変換処理を行うことにより、前記第1の導電層及び第2の導電層を有する前記金属層、並びに前記第1の絶縁層及び前記第2の絶縁層を有する前記絶縁層を形成することを特徴とし、
前記第1の変換処理及び前記第2の変換処理の少なくとも一方は、
アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、及びクリプトンのうち少なくともいずれかひとつの元素を含むガスをイオン化、もしくはプラズマ化して膜表面に照射する第1のステップと、
アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオン、及びクリプトンの少なくとも一つを含むガスをイオン化又はプラズマ化して得た雰囲気中に、酸素ガス及び窒素ガスのうち少なくとも一方を含むガスを供給し、前記イオン化したガス又は前記プラズマ化したガスの雰囲気下、前記第2の金属層又は前記第3の金属層に対して酸化処理及び窒化処理の少なくとも一方を行う第2のステップと、
を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の変換処理の後、前記第3の金属層の成膜前に第4の金属層を成膜することを特徴とする、請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1の金属層として、Cu,Au,Ag,Alのうち少なくともいずれかひとつの元素を含む材料を成膜し、前記第2、第3の金属層として、Al,Si,Mg,Ti,Hf,Zr,Cr,Mo,Nb,Wのうち少なくともいずれかひとつの元素を含む材料を成膜することを特徴とする、請求項1又は2のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項4】
前記第4の金属層として、Cu,Au,Ag,Alのうち少なくともいずれかひとつの元素を含む材料を成膜することを特徴とする、請求項2又は3のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1の金属層の膜厚が、0.1〜1.5nm、前記第2、第3の金属層の膜厚が0.3〜1nmであることを特徴とする、請求項3記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項6】
前記第4の金属層の膜厚が、0.1〜1.5nmであることを特徴とする、請求項4又は5に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項7】
前記第2の変換処理の後に、Cu,Au,Ag,Alのうち少なくともいずれかひとつの元素を含む金属層を形成することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項8】
前記磁化固着層及び前記磁化自由層の少なくとも一方は、CoおよびFeを含む合金で形成されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項9】
前記磁化固着層は、体心立方構造を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項10】
前記磁化自由層は、NiおよびFeを含む合金で形成された層を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−147496(P2010−147496A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25694(P2010−25694)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【分割の表示】特願2006−188712(P2006−188712)の分割
【原出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【分割の表示】特願2006−188712(P2006−188712)の分割
【原出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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