説明

薄膜半導体装置

【課題】工程を複雑にすることなく、多結晶シリコン膜に回路特性に適した複数の異なる
ゲート絶縁膜厚を有する薄膜トランジスタ(TFT)を同一基板に形成することができる
薄膜半導体装置とその製造方法を提供。
【解決手段】ガラス基板上に形成した多結晶シリコン膜に駆動電圧が異なるTFTを混載
する際に、低電圧駆動TFTではチャネル領域の不純物をアクセプタがより多くなるよう
にしあるいはドナーがより少なくなるようにし、高電圧駆動TFTではチャネル領域の不
純物をドナーがより多くなるようにしあるいはアクセプタがより少なくなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性基板上に複数の薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film T
ransistor)が形成された薄膜半導体装置およびその製造方法に関し、特に、膜
厚が相互に異なるゲート絶縁膜を有する複数種類のTFTを同一基板に有する薄膜半導体
装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコンやテレビ等のモニターとして、CRTに比べて薄型、軽量を特徴とする
液晶表示装置あるいは有機EL表示装置などのフラットパネル型の画像表示装置が用いら
れている。これらの液晶表示装置あるいは有機EL表示装置は、薄膜形成技術を用いて、
安価なガラス等の絶縁性基板上にマトリクス状に配置された画素を有する表示部を形成す
ると共に、半導体集積回路であるゲートドライバやデータドライバ等を外付けし、これに
より表示に対応した信号を画素に与えることにより、液晶分子の方向や有機ELの発光強
度を制御して画像を表示している。しかし、近年、薄膜形成技術の向上に伴い、多結晶シ
リコン薄膜をガラス基板上に形成できるようになったため、画素部と共に、多結晶シリコ
ンTFTにより構成された駆動回路部の一部を同一基板上に形成した薄膜半導体装置が実
用化されている。この駆動回路は、低消費電力の観点から動作電圧はより低い方が望まし
い。しかし、画素動作にはある一定以上の電圧が必要であるため、動作電圧が異なる複数
種類の薄膜トランジスタを同一基板上に混載する技術が必要となる。
【0003】
このように、動作電圧が異なるトランジスタを複数種類、基板上に混載する技術として
は、トランジスタの耐圧の問題からゲート絶縁膜厚を変えるのが一般的な方法である(例
えば、特許文献1、特許文献2参照)。図16は、従来技術により製造された薄膜半導体
装置の断面図である。同図に示されるように、絶縁性基板1上に低電圧駆動TFTおよび
高電圧駆動TFTのそれぞれの活性層となる島状多結晶シリコン膜3が形成されており、
各島状多結晶シリコン膜3には、チャネル領域3cが設けられる外、このチャネル領域3
cを挟んでnチャネルTFTのソース・ドレイン領域3nおよびpチャネルTFTのソー
ス・ドレイン領域3pが形成されている。各島状多結晶シリコン膜3上は第1のゲート絶
縁膜4によって覆われており、その第1のゲート絶縁膜4上には、島状多結晶シリコン膜
3のチャネル領域3c上に低電圧駆動のnチャネルおよびpチャネルTFT用のゲート電
極5が形成されている。更にその上には、第2のゲート絶縁膜6を介して、島状多結晶シ
リコン膜3のチャネル領域3c上に高電圧駆動のnチャネルおよびpチャネルTFT用の
ゲート電極7が形成されている。各TFTを覆って層間絶縁膜8が形成されており、そし
て、層間絶縁膜8および第2、第1のゲート絶縁膜6、4を貫通して形成されたコンタク
トホールを介してnチャネルおよびpチャネルTFTのソース・ドレイン領域3n、3p
に接触する電極9が形成されている。
【0004】
ソース・ドレイン領域3n、3pは、特許文献1に記載されたものでは、自己整合法を
用いることなく形成されており、一方、特許文献2に記載されたものでは、低電圧駆動T
FTのみが自己整合法を用いて形成され、高電圧駆動TFTは自己整合法を用いることな
く形成されている。また、これらのTFTのチャネル領域3cは、ノンドープないしBド
ープの領域となされており、高電圧駆動TFTのチャネル領域と低電圧駆動TFTのチャ
ネル領域とは同等のドーピング状態に形成されていた。また、ゲート電極5と7の材料と
してはAlまたはCr(特許文献1の場合)やシリコン(特許文献2の場合)が用いられ
ており、高電圧駆動TFTのゲート電極と低電圧駆動TFTのゲート電極とは同一材料を
用いて形成されていた。
チャネルドーピングについては、バルク型のMOSトランジスタにおいては、高電圧駆
動トランジスタと低電圧駆動トランジスタとで差がつけられることがある(例えば、特許
文献3参照)。特許文献3には、nチャネルMOSについては、高電圧トランジスタのチ
ャネル領域にはn型ドーパントとp型ドーパントとを、また低電圧トランジスタのチャネ
ル領域にはp型ドーパントのみをドープし、pチャネルMOSについては、高電圧トラン
ジスタのチャネル領域にはn型ドーパントを低濃度に、また低電圧トランジスタのチャネ
ル領域にはn型ドーパントを高濃度にドープすることが記載されている。また、特許文献
3には、他の例として、nチャネルMOSについては、高電圧トランジスタのチャネル領
域にはp型ドーパントを低濃度に、また低電圧トランジスタのチャネル領域にはp型ドー
パントを高濃度にドープし、pチャネルMOSについては、高電圧トランジスタのチャネ
ル領域にはn型ドーパントとp型ドーパントとを、また低電圧トランジスタのチャネル領
域にはn型ドーパントのみをドープすることが記載されている。
【特許文献1】特許2666103号公報
【特許文献2】特開2004−253596号公報
【特許文献3】特許2964232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に開示された製造法により作製した高電圧駆動TF
Tの特性は、図17に示すように、高電圧駆動nチャネルTFTと高電圧駆動pチャネル
TFTがそれぞれのチャネル型の低電圧駆動TFTに対してともにしきい値電圧が高くな
るという問題点がある。なお、しきい値電圧とは、トランジスタのドレインソース間に十
分な電流が流れはじめるときのゲート電圧のことである。また、本願明細書において、特
に断らない限り、しきい値電圧の高低は絶対値の大小を意味するものでなく、より正側に
ある値を高(大)、より負側にある値を低(小)としている。ここで、特許文献3に開示
された製造方法を採用しても上記の問題点を解決することはできない。なぜなら、pチャ
ネル型のTFTの場合、低電圧駆動TFTと高電圧駆動TFTとのしきい値電圧の差は拡
大してしまうからである。
【0006】
例えば、液晶表示装置の周辺駆動回路は、ローレベルとハイレベルの2電圧を扱うデジ
タル回路で構成されているため、ゲート電圧が0Vの時に、TFTがオフする一方、絶対
値で低いゲート電圧で十分な駆動電流が得られることが望ましい。つまり、しきい値電圧
は、0に近すぎることがなくかつ0から大きく離れていないことが望ましいということで
ある。これは、しきい値電圧の絶対値が極端に低い場合、待機時において、回路の消費電
力が増大し、一方、しきい値電圧の絶対値が高い場合、所定のゲート電圧では十分な電流
駆動能力が得られず、信号遅延による動作不良の原因となるからである。図17に示され
る従来例の特性おいては、高電圧駆動pチャネルTFTでは、しきい値電圧が0Vと高い
ため、0レベル信号時の漏れ電流が大きくなり、一方高電圧駆動nチャネルTFTでは、
しきい値電圧が6Vと高いため、駆動電流の不足の恐れが生じる。
【0007】
高電圧駆動TFTのしきい値電圧が高くなる(正側に移動する)原因は、高電圧駆動T
FTのゲート絶縁膜中の汚染および高電圧駆動TFTのチャネル領域の結晶欠陥により、
禁制帯に生じた再結合中心によりキャリアが捕獲されるためである。その理由は、低電圧
駆動TFTのゲート電極のエッチングの残りによる汚染と、低電圧駆動TFTのゲート電
極をドライエッチングにより、オーバーエッチングしたときに生じるゲート絶縁膜へのプ
ラズマダメージと、ソース・ドレイン領域への注入不純物の活性化工程におけるレーザ光
、もしくはランプ光等の光照射によって、低電圧駆動TFTのゲート電極で覆われた領域
以外の多結晶シリコン表面に結晶欠陥が生じることによる。すなわち、両チャネル型の高
電圧駆動TFTのしきい値電圧が低電圧駆動TFTのそれに対して高くなるという問題は
、図16に示される、絶縁性基板上に島状多結晶シリコン膜3を設け、その上に第1のゲ
ート絶縁膜、低電圧駆動TFTのゲート電極、第2のゲート絶縁膜および高電圧駆動TF
Tのゲート電極を順次形成した薄膜半導体装置に特有のものである。
本発明の課題は、上述した従来技術の問題点を解決することであって、その目的は、工
程数を大幅に増やすことなく、異なるゲート絶縁膜厚を有する複数のTFTがそれぞれ適
切なしきい値電圧を有したものとすることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明によれば、膜厚の薄い第1種ゲート絶縁膜を挟んで
ゲート電極と半導体薄膜とが対向している低電圧駆動薄膜トランジスタと、前記第1種ゲ
ート絶縁膜より膜厚の厚い第2種ゲート絶縁膜を挟んでゲート電極と半導体薄膜とが対向
している高電圧駆動薄膜トランジスタとが絶縁性基板上に配置されている薄膜半導体装置
において、高電圧駆動薄膜トランジスタは、同極性の低電圧駆動薄膜トランジスタに対し
て、ゲート絶縁膜の膜厚、材料、電荷密度を同一と仮定した場合に、しきい値電圧が低下
するように調整されていることを特徴とする薄膜半導体装置、が提供される。
【0009】
そして、好ましくは、前記高電圧駆動薄膜トランジスタのチャネル領域の不純物ドーピ
ングは、p型不純物濃度を正値で表現しn型不純物濃度を負値で表現すると、前記低電圧
駆動薄膜トランジスタのチャネル領域の不純物ドーピングより負側に調整されている。あ
るいは、前記高電圧駆動薄膜トランジスタのゲート電極材料は、その仕事関数が前記低電
圧駆動薄膜トランジスタのゲート電極材料のそれより小さくなるように選定されている。
また、好ましくは、前記高電圧駆動薄膜トランジスタのゲート電極材料とそのチャネル
領域の不純物ドーピングは、前記低電圧駆動薄膜トランジスタのゲート電極材料とそのチ
ャネル領域の不純物ドーピングに対して、ゲート絶縁膜の膜厚、材料、電荷密度を同一と
仮定した場合に、しきい値電圧が低下するように調整されている。
【0010】
また、上記の目的を達成するため、本発明によれば、絶縁性基板上に半導体薄膜を形成
する工程と、第1のゲート絶縁膜を形成する工程と、第1のゲート絶縁膜上に低電圧駆動
薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程と、低電圧駆動薄膜トランジスタのソー
ス・ドレイン領域を形成する工程と、低電圧駆動薄膜トランジスタ形成領域上および高電
圧駆動薄膜トランジスタ形成領域上に第2のゲート絶縁膜を形成する工程と、第1および
第2のゲート絶縁膜の積層膜上に高電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する
工程と、を有する薄膜半導体装置の製造方法において、低電圧駆動薄膜トランジスタ用の
ゲート電極を形成する工程と高電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程
との間に、低電圧駆動薄膜トランジスタ形成領域および高電圧駆動薄膜トランジスタ形成
領域の前記半導体薄膜にn型のドーパントを導入する工程が付加されることを特徴とする
薄膜半導体装置の製造方法、が提供される。
【0011】
また、上記の目的を達成するため、本発明によれば、絶縁性基板上に半導体薄膜を形成
する工程と、第1のゲート絶縁膜を形成する工程と、第1のゲート絶縁膜上に低電圧駆動
薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程と、低電圧駆動薄膜トランジスタのソー
ス・ドレイン領域を形成する工程と、低電圧駆動薄膜トランジスタ形成領域上および高電
圧駆動薄膜トランジスタ形成領域上に第2のゲート絶縁膜を形成する工程と、第1および
第2のゲート絶縁膜の積層膜上に高電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する
工程と、を有する薄膜半導体装置の製造方法において、絶縁性基板上に半導体薄膜を形成
する工程と低電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程との間に、低電圧
駆動薄膜トランジスタ形成領域に開口を有するマスクを介して半導体薄膜にp型のドーパ
ントを導入する工程が付加されることを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法、が提供さ
れる。
【0012】
また、上記の目的を達成するため、本発明によれば、絶縁性基板上に半導体薄膜を形成
する工程と、第1のゲート絶縁膜を形成する工程と、第1のゲート絶縁膜上に低電圧駆動
薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程と、低電圧駆動薄膜トランジスタのソー
ス・ドレイン領域を形成する工程と、低電圧駆動薄膜トランジスタ形成領域上および高電
圧駆動薄膜トランジスタ形成領域上に第2のゲート絶縁膜を形成する工程と、第1および
第2のゲート絶縁膜の積層膜上に高電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する
工程と、を有する薄膜半導体装置の製造方法において、絶縁性基板上に半導体薄膜を形成
する工程と低電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程との間に、高電圧
駆動薄膜トランジスタ形成領域に開口を有するマスクを介して半導体薄膜にn型のドーパ
ントを導入する工程が付加されることを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法、が提供さ
れる。
【0013】
また、上記の目的を達成するため、本発明によれば、絶縁性基板上に半導体薄膜を形成
する工程と、第1のゲート絶縁膜を形成する工程と、第1のゲート絶縁膜上に低電圧駆動
薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程と、低電圧駆動薄膜トランジスタのソー
ス・ドレイン領域を形成する工程と、低電圧駆動薄膜トランジスタ形成領域上および高電
圧駆動薄膜トランジスタ形成領域上に第2のゲート絶縁膜を形成する工程と、第1および
第2のゲート絶縁膜の積層膜上に高電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する
工程と、を有する薄膜半導体装置の製造方法において、前記低電圧駆動薄膜トランジスタ
用のゲート電極材料の仕事関数は前記高電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極材料の
仕事関数より大きいことを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法、が提供される。
【0014】
従来方法で高電圧駆動および低電圧駆動TFTを形成した場合の、nチャネル型の場合
にもpチャネル型の場合にも高電圧駆動TFTのしきい値電圧が低電圧駆動TFTそれよ
り高くなるという課題は、本発明者により初めて見出されたものである。この課題を解決
するため、本発明の薄膜半導体装置においては、高電圧駆動TFTは、同極性の低電圧駆
動TFTに対して、同じゲート絶縁膜を有するという条件の下では、しきい値電圧が低く
なるように調整される。すなわち、しきい値電圧が負側に移動するように調整される。し
きい値電圧を移動させる手段としてはいくつかの手法が考えられるが、現実的な手段とし
ては、チャネル領域のドーピングを調整する、ゲート電極材料を選択する、の二つの方法
が挙げられる。ここで、これらの方法により、しきい値電圧を調整することができる原理
について説明する。
【0015】
第1の手法として、チャネル領域にイオン注入することによるしきい値電圧制御につい
て説明する。TFTのしきい値電圧Vthは、次の(1)式で近似される。
Vth=Φm−Φs±2φb±(4EoEsqNφb)1/2/Cox±qnα/Cox・・・(1)
但し、Φm:ゲート電極の仕事関数、Φs:活性層(チャネル領域)の仕事関数、φb=k
T/qln(N/Ni)、N=nα/ts、q:電子の電荷、Cox=EoEox/tox、ts:
半導体薄膜の膜厚、tox:ゲート絶縁膜厚、Eo:真空の誘電率、Es:シリコンの比誘電
率、Eox:SiOの比誘電率、n:チャネル実ドーズ量(単位面積濃度)、α:ドーパン
トの活性化率、Ni:真性Siの不純物濃度、である。なお、(1)式において、±の符
号は、チャネルドーズ不純物がアクセプタの場合は正、ドナーの場合は負となる。
(1)式に基づき、チャネルを構成する半導体領域への不純物実注入量を変数nとして
導いた、しきい値電圧の変化量:ΔVthは、図1のグラフのように示される。図1(a)
に示すように、Bを例とするアクセプタの場合、注入量が増加するにつれて、しきい値電
圧が正の方向に調整される。これは主に、数式(1)の第5項である+qnα/Coxの寄
与による。この原理は、負にイオン化したアクセプタイオンにより、チャネル領域に正電
荷+qnαが生じると共に、ゲート絶縁膜容量Coxを通じて、ゲート電極側に負電荷−q
nαが生じた結果、これらの電荷を打ち消すためには、ゲート電極に+qnα/Coxの電
圧を印加する必要があるためである。また、図1(b)に示すように、燐(P)を例とす
るドナーの場合、注入量が増加するにつれて、しきい値電圧が負の方向に移動する。これ
は、ドナーの場合、アクセプタの場合とは逆に正にイオン化したドナーイオンにより、チ
ャネル領域に負電荷−qnαが生じると共に、ゲート絶縁膜容量Coxを通じて、ゲート電
極側に正電荷+qnαが生じることによる。また、図1(a)、(b)いずれについても
、ゲート絶縁膜が厚くなるにつれて、一定の不純物注入量に対してしきい値電圧の変化が
大きくなることがわかる。例えば、ゲート絶縁膜厚が150nmの場合、しきい値電圧を
−3V調整するために、6.0x1011cm−2のドナー(P)の注入量を必要とする

【0016】
次に、低電圧駆動TFTのゲート電極の仕事関数より、高電圧駆動TFTのゲート電極
の仕事関数を低くすることによって、高電圧駆動TFTのしきい値電圧を低下させること
ができる原理について説明する。図2〜図4は、この原理を説明するためのMOS構造の
エネルギーバンド図である。図2〜図4において、(a)はゲート電極に仕事関数の小さ
い材料としてAl(仕事関数Φm=4.1eV)を用いた場合を示し、(b)はゲート電
極に仕事関数の大きい材料としてCr(仕事関数Φm=4.6eV)を用いた場合を示す
。また、図2はゲート電圧無印加状態(接合状態)を、図3はフラットバンド状態を、図
4はしきい値電圧印加状態を、それぞれ示す。チャネル領域をp型Si(仕事関数Φs=
4.9eV)とするnチャネルトランジスタにおいて、ゲート電極に電圧を印加していな
い状態では、チャネル領域のフェルミ準位と、ゲート電極のフェルミ準位が一致するので
、ゲート電極の仕事関数とチャネル領域の仕事関数との大小関係が、Φm<Φsとなる場合
、図2の各々のゲート電極とチャネル領域の仕事関数差に応じて、チャネル領域Siのエ
ネルギーバンドが下に曲がるとともに、チャネル領域Si表面近傍に弱い反転層が形成さ
れる。このとき、活性層とゲート電極との仕事関数差が大きいほど、換言すればゲート電
極の仕事関数が小さいほど、エネルギーバンドの曲がりが大きく、チャネル領域表面近傍
の電子濃度が高くなる。
【0017】
図2に示す、少数キャリア(電子)による反転層が形成された状態から、電子を半導体
側に追いやるためには、チャネル領域のエネルギーバンドをフラットな状態にする必要が
ある。図3に示すように、このとき、ゲート電極に印加する負の電圧は、仕事関数差に一
致している。すなわち、このとき必要なゲート電圧が、フラットバンド電圧:Vfb(=
Φm−Φs)である。図2および反転層が強く現れた状態であるしきい値電圧印加状態(
図4)から分かるように、ゲート電極の仕事関数が大きいほど、フラットバンド電圧Vf
bおよびしきい値電圧Vthが高くなる(正側に移動する)。
図2〜図4は、nチャネル型の場合について説明する図であるが、pチャネルの場合に
ついても、同様に説明することができ、pチャネルの場合もゲート電極の仕事関数が大き
いほど、フラットバンド電圧Vfbおよびしきい値電圧Vthが高くなる(正側に移動す
る)。
さらに、ゲート電極の仕事関数Φmと、しきい値電圧の変化量:ΔVthとの定量的関
係を図5のグラフに示す。同図において、ΔVthは、nSiを基準としてそれからの
変化量を示す。同図より、ゲート電極の仕事関数が高くなるにつれて、ΔVthが正の方
向に高くなるので、ゲート電極の材料により、しきい値電圧の制御が可能であることが分
かる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高電圧駆動TFTのしきい値電圧は、チャネルドーピングの調整やゲ
ート電極材料の選定により、ゲート絶縁膜が同じであるという条件化では、低電圧駆動T
FTのしきい値電圧より低くなるように調整される。これにより、0に近い値に形成され
ていたpチャネル型の高電圧駆動TFTのしきい値電圧をより低い、換言すればより0か
ら離れた値に形成することができ、また、高過ぎる値に形成されていたnチャネル型の高
電圧駆動TFTのしきい値電圧をより低い、換言すればより0に近い値に形成することが
できる。すなわち、これにより、従来の薄膜半導体装置において問題となった、pチャネ
ルおよびnチャネル型の両方の高電圧駆動TFTのしきい値電圧が低電圧駆動TFTのし
きい値電圧より高く形成されるという不都合を解消することができる。したがって、本発
明によれば、高電圧駆動TFTのしきい値電圧が、0に近すぎたり0から離れすぎたりする
問題を解決して、待機時の消費電流の増大を防止すると共に駆動電流の不足による信号遅
延を抑制することが可能になる。
また、本発明の手法は、従来の製造方法に格別な変更を加えるものではなく、チャネル
ドーピングやゲート電極材料の選択を変更するだけなので、本発明によれば、製造コスト
の格別な増大を招くことなく所望のしきい値電圧を有する低電圧駆動/高電圧駆動混載T
FT構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】数式から求めた活性層へのイオン注入量としきい値電圧の変化量の関係を示す図。
【図2】MOS構造のエネルギーバンド図(その1)。
【図3】MOS構造のエネルギーバンド図(その2)。
【図4】MOS構造のエネルギーバンド図(その3)。
【図5】ゲート電極材料の仕事関数としきい値電圧の変化量の関係を示す図。
【図6】本発明の第1の実施の形態を示す断面図と不純物濃度の説明図。
【図7A】本発明の実施例1の製造工程を説明する断面図(その1)。
【図7B】本発明の実施例1の製造工程を説明する断面図(その2)。
【図7C】本発明の実施例1の製造工程を説明する断面図(その3)。
【図8】本発明の効果を示すId−Vg特性図。
【図9A】本発明の実施例2の製造工程を説明する断面図(その1)
【図9B】本発明の実施例2の製造工程を説明する断面図(その2)
【図10】本発明の第2の実施の形態を示す断面図。
【図11】本発明の実施例5の構成を示す断面図。
【図12】本発明のLDD構造の高電圧駆動TFTを有する薄膜半導体装置の製造方法の一例を示す工程順の断面図(その1)。
【図13】本発明のLDD構造の高電圧駆動TFTを有する薄膜半導体装置の製造方法の一例を示す工程順の断面図(その2)。
【図14】本発明の第1の実施の形態の変更例を示す断面図。
【図15】本発明の低電圧駆動TFTと高電圧駆動TFTを混載したアクティブマトリクス基板の平面図。
【図16】従来例の断面図。
【図17】従来例のId−Vg特性図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図6(a)は、本発明の第1の実施の形態を示す断面図である。同図に示されるように
、本発明による薄膜半導体装置は、絶縁性基板1上に、両方のチャネル型の低電圧駆動T
FTおよび高電圧駆動TFTが形成されたものである。すなわち、絶縁性基板1上には、
各トランジスタの活性領域となる島状多結晶シリコン膜3がそれぞれ孤立して設けられて
おり、各島状多結晶シリコン膜3上には、第1のゲート絶縁膜4を介して低電圧駆動TF
T用のゲート電極5が形成され、また、第1および第2のゲート絶縁膜4、6を介して高
電圧駆動TFT用のゲート電極7が形成されている。
低電圧駆動および高電圧駆動nチャネルTFTの島状多結晶シリコン膜3にはn型不純
物が高濃度にドープされたソース・ドレイン領域3nが形成されており、また低電圧駆動
および高電圧駆動pチャネルTFTの島状多結晶シリコン膜3にはp型不純物が高濃度に
ドープされたソース・ドレイン領域3pが形成されている。そして、それらのソース・ド
レイン領域に挟まれたチャネル領域は、低電圧駆動TFTの場合には、アクセプタを比較
的多く含み得るアクセプタ増強領域3aとなされており、また高電圧駆動TFTの場合に
は、ドナーを比較的多く含み得るドナー増強領域3bとなされている。ここで、アクセプ
タ増強領域3aとドナー増強領域3bの意味は、相対的なものであって現実にアクセプタ
やドナーを多く含むという意味ではない。このことを図6(b)を参照して説明する。図
6(b)は、ノンドープの状態を0とし、n型ドーパントの濃度を負値でまたp型ドーパ
ントの濃度を正値で目盛る座標軸である。ある領域の不純物ドーピング状態は、この座標
軸の一点で示すことができる。n型ドーパントとp型ドーパントの両方が含まれる領域に
ついてはp型ドーパントの濃度からn型ドーパントの濃度を引いた値を座標軸上に表す。
この座標軸において、アクセプタ増強領域3aの不純物ドーピング状態は、ドナー増強領
域3bのそれよりも右側(正側)に位置しているということである。すなわち、領域3a
、3bは、それぞれアクセプタのみあるいはドナーのみを含む領域であっても両方を含む
領域であってもよく、ただ図6(b)の座標軸上で差があればよいということである。
低電圧駆動のnチャネルTFTとpチャネルTFTとのチャネル領域のドーピング状態
は必ずしも一致している必要はなく、また高電圧駆動のnチャネルTFTとpチャネルT
FTとのチャネル領域のドーピング状態も必ずしも一致している必要はない。要は、高電
圧駆動nチャネルTFTのチャネル領域のドーピング状態が低電圧駆動nチャネルTFT
のチャネル領域のそれより図6(b)の座標軸において左側に存在し、高電圧駆動pチャ
ネルTFTのチャネル領域のドーピング状態が低電圧駆動pチャネルTFTのチャネル領
域のそれより同座標軸において左側に存在していればよいのである。
【0021】
島状多結晶シリコン膜3を形成するための多結晶シリコン膜は、絶縁性基板上に直接成
膜することもできる。しかし、耐熱性に劣る基板上に高品質の多結晶シリコン膜を形成す
るには、まず絶縁性基板上に非晶質シリコン膜を形成しこれをアニーリングして多結晶化
するのがよい。ドープト非晶質シリコン膜を形成するとき、不純物、例えばBをドーピン
グしつつ成膜して、図6(c)に示すように、絶縁性基板1上に直接p導電型の非晶質シ
リコン膜3Aを形成することができる。あるいは、図6(d1)に示すように、絶縁性基
板1上に、まずノンドープの非晶質シリコン膜3A’を形成し、次いで、図6(d2)に
示すように、不純物、例えばBをドープしてp導電型の非晶質シリコン膜3Aを形成する
を形成するようにしてもよい。多結晶化の方法としては、公知の手段のいずれも用いるこ
とができるが、特にレーザアニール法を有利に採用することができる。
【0022】
ソース・ドレイン領域の形成方法としては、低電圧駆動TFTと高電圧駆動TFTの両
方に自己整合法を採用することができるが、低電圧駆動TFTのみに自己整合法を採用す
ることもできる。この場合、低電圧駆動nチャネルTFTのソース・ドレイン領域3nを
形成する際に、レジストマスクを介して高電圧駆動nチャネルTFTのソース・ドレイン
領域を同時に、また低電圧駆動pチャネルTFTのソース・ドレイン領域3pを形成する
際に、レジストマスクを介して高電圧駆動pチャネルTFTのソース・ドレイン領域を同
時に形成することが望ましい。また、低電圧駆動および高電圧駆動TFTの両方のソース
・ドレイン領域を自己整合法により形成する場合には、ゲート電極5を形成した後にこれ
をマスクとして低電圧駆動TFTのソース・ドレイン領域を形成し、ゲート電極7を形成
した後にこれをマスクとして高電圧駆動TFTのソース・ドレイン領域を形成するように
すればよい。あるいは、ゲート電極5およびゲート電極7を形成した後に、両ゲート電極
をマスクとして低電圧駆動TFTおよび高電圧駆動TFTのソース・ドレイン領域を同時
に形成するようにすることもできる。また、低電圧駆動および高電圧駆動TFTの両方の
ソース・ドレイン領域を自己整合法によることなく形成する場合には、第1のゲート絶縁
膜4の形成前または後に、それぞれレジストマスクを介して低・高電圧駆動TFTのソー
ス・ドレイン領域3nと低・高電圧駆動TFTのソース・ドレイン領域3pとを形成する

【0023】
ソース・ドレイン領域を形成するための不純物ドーピングを行った後の活性化処理は、
レーザ光あるいはランプ光を用いた光照射法を用いるのがよい。また、高温熱処理から、
TFTのゲート電極を保護することを目的として、低電圧駆動TFTのゲート電極に用い
る材料に応じて、電気炉による熱活性化法、高温窒素吹き付けによる短時間熱活性化法な
どの手法を選択してもよい。活性化処理時に、ゲート電極が露出している場合には、ゲー
トをSiOのゲートカバー膜で覆って活性化処理を行うとよい。
【0024】
チャネル領域に対する不純物ドープは、全多結晶シリコン膜に対するドーピングと高電
圧駆動(または低電圧駆動)TFTのチャネル領域に対する選択的なドーピングとがある
。全多結晶シリコン膜にドーピングを行う場合には、成膜時にドーピングを行うことがで
き、また成膜後にドーピングを行うのであれば、シリコンの成膜後であってゲート電極材
料の成膜前の適宜時点においてイオン注入などの方法により行うことができる。また、高
電圧駆動TFTまたは低電圧駆動TFTのいずれかのチャネル領域をノンドープとするの
であれば、全多結晶シリコン膜を対象とするドーピングは省略される。
低電圧駆動TFT用の島状多結晶シリコン膜3に選択的に不純物(この場合はアクセプ
タが用いられる)をドープする場合には、シリコンの成膜後であってゲート電極5の電極
材料の成膜前の適宜時点において、高電圧駆動TFT用の島状多結晶シリコン膜上をレジ
ストマスクで覆った状態で、イオン注入などの方法によりイオンドーピングを行う。また
、高電圧駆動TFT用の島状多結晶シリコン膜3に選択的に不純物(この場合はドナーが
用いられる)をドープする場合には、シリコンの成膜後であってゲート電極7の電極材料
の成膜前の適宜時点において、イオン注入などの方法によりイオンドーピングを行うこと
ができる。この場合、ゲート電極5の形成前であれば、低電圧駆動TFT用の島状多結晶
シリコン膜上をレジストマスクで覆った状態で、不純物ドーピングを行い、ゲート電極5
の形成後であれば、これをマスクとして(換言すればマスクレスで)不純物ドーピングを
行うことができる。
【実施例1】
【0025】
図7A(a)〜図7C(i)は、本発明の実施例1の薄膜半導体装置の製造工程を示す
工程順の断面図である。まず、図7A(a)に示すように、絶縁性基板1上に、アンダー
コート層2となる酸化膜をプラズマCVD(PCVD)法により、100nmの膜厚で形
成した。このアンダーコート層2は、ガラス基板1から多結晶シリコン膜にナトリウム等
の不純物が拡散するのを防止する効果がある。多結晶シリコン膜の前駆体となる非晶質シ
リコン(a−Si)膜3Aを、PCVD法を用いて40nmの膜厚に形成した。a−Si
膜3A成膜後、PCVD成膜中にa−Si膜中に含まれた水素を除去するため、450℃
30分間の熱処理を行った。次に、a−Si膜3A全領域に、イオン注入法を用い、ド
ーズ量:1.0x1012cm‐2、加速電圧:10keVの条件でBのチャネルドーピ
ングを行った。ここでは、Bのドーズを、1.0x1012cm‐2としたものの、設定
しようとするしきい値電圧とゲート絶縁膜厚により、図1(a)の関係を参照して、1.
0x1011〜2.0x1012cm‐2の範囲で設定するのがよい。
【0026】
その後、図7A(b)に示すように、チャネルドーピングのなされたa−Si膜3Aを
、エキシマレーザ光を用いてアニール(ELA)することにより結晶化し、多結晶シリコ
ン膜(poly-Si膜)3Bを形成した。ELA照射直後、薄膜シリコンが溶融し液相状態
になるため、ドーパントは極短時間の間に拡散し、膜厚方向に均一に分布するようになる
。このELA照射において、ラインビームを一軸方向にスキャンした。照射強度は、35
0mJ/cm、ビームの重ね率は、95%である。
次に、図7A(c)に示すように、poly-Si膜3Bをアイランド形状にエッチングす
ることにより、低電圧駆動nチャネルTFT、低電圧駆動pチャネルTFT、高電圧駆動
nチャネルTFT、高電圧駆動pチャネルTFTの4種類の島状多結晶シリコン膜3を形
成した。
次に、図7B(d)に示すように、低電圧駆動TFTのゲート絶縁膜となる第1のゲー
ト絶縁膜4を、PCVD法によりSiO膜を膜厚50nmに堆積して形成した。ゲート
の駆動電圧が3.3〜10Vであれば、第1のゲート絶縁膜4の膜厚は、20〜100n
mとするのが好適である。続いて、PCVD法により、n型の多結晶シリコンを膜厚2
50nmに堆積した後、選択的にエッチングして低電圧駆動TFTのゲート電極5を形成
した。低電圧駆動TFTのドレイン耐圧の要求値が、3.3〜10Vと低いため、そのチ
ャネル長は4.0μmと短くした。
【0027】
次に、図7B(e)に示すように、pチャネルTFTの全領域上と高電圧駆動nチャネ
ルTFTのチャネル領域上をレジストパターン10aにて覆った後、Pイオンを注入して
nチャネルTFTのソース・ドレイン領域3nを形成する。Pのドーズ量は、1.0x1
15cm‐2とし、加速電圧を、20keVとした。形成されたソース・ドレイン領域
3nに挟まれた島状多結晶シリコン膜の領域が、低電圧駆動nチャネルTFTのBドープ
チャネル領域3dとなる。続いて、図7B(f)に示すように、全てのnチャネルTFT
の形成領域上と高電圧駆動pチャネルTFTのチャネル領域上をレジストパターン10b
にて覆った後、このレジストパターンと低電圧駆動pチャネルTFTのゲート電極5をマ
スクとして、Bイオンを注入してpチャネルTFTのソース・ドレイン領域3pを形成す
る。このとき、Bの注入量を、1.0x1015cm‐2とし、また加速電圧を、40k
eVとした。形成されたソース・ドレイン領域3pに挟まれた島状多結晶シリコン膜3の
領域が、低電圧駆動pチャネルTFTのBドープチャネル領域3dとなる。なお、ソース
・ドレイン領域の形成工程において、nチャネルTFTとpチャネルTFTに対するソー
ス・ドレイン領域形成用のドーピングの順番は逆であってもよい。
【0028】
続いて、図7C(g)に示すように、フォトリソグラフィを用いずに低電圧駆動TFT
のゲート電極5をマスクとして、高駆動電圧nチャネルTFTと高駆動電圧pチャネルT
FTのチャネル領域に対して、低濃度にPのドーピングを行い、高駆動電圧TFTのB&
Pドープチャネル領域3eを形成した。ここでは、Pの注入量を、8.0x1011cm
−2とした。続いて、エキシマレーザ光の光照射により、注入ドーパントの活性化を行っ
た。その後、デバイスの信頼性を向上させるため、水素化処理を行った。
【0029】
次に、図7C(h)に示すように、PCVD法を用いて、第2のゲート絶縁膜6となる
SiO膜を膜厚100nmに堆積した後、n型のポリシリコンを250nmの膜厚に
堆積し、フォトリソグラフィ法およびドライエッチング法を用いてこれをパターニングし
て、高電圧駆動TFTのゲート電極7を形成した。高電圧駆動TFTのドレイン耐圧の要
求値が、40Vと高いため、そのチャネル長は、20μmと長くした。40Vに対するゲ
ート絶縁膜の信頼性を確保するため、高電圧駆動TFTのゲート絶縁膜を150nmと厚
くした。
続いて、図7C(i)に示すように、島状多結晶シリコン膜3上のSiOの全体の膜
厚が500nmとなるように、層間絶縁膜8となるSiO膜をPCVD法により膜厚3
00nmに成膜した。次に、ソース・ドレイン領域上にコンタクトホールを開設し、スパ
ッタ法によりSi含有Alを400nmの膜厚に堆積した後、これをパターニングして電
極9を形成した。シリコンを微量に含んだアルミニウムには、多結晶シリコンとのコンタ
クト抵抗を低減させる効果がある。
その後、必要に応じて、さらに層間膜、配線、電極等を形成する。また、基板上にTF
Tを高密度に集積する場合は、多層配線構造とするのがよい。
【0030】
このようにして作製された低電圧駆動TFTおよび高電圧駆動TFTのId−Vg特性
を図8に示す。同図に示されるように、しきい値電圧は、nチャネルTFTについては、
低電圧駆動TFTが+1V、高電圧駆動TFTが+3Vであった。また、pチャネルTFT
については、低電圧駆動TFTが‐1V、高電圧駆動TFTが−3Vであった。ゲート絶
縁膜の厚さが等しいnチャネルTFT、pチャネTFTルとで、対称にそろったId−V
g特性が得られた。
【実施例2】
【0031】
図9A(a)〜図9B(f)は、本発明の実施例2の薄膜半導体装置の製造工程を示す
工程順の断面図である。図9A、Bにおいて、実施例1の図7A〜Cの部分と共通する部
分には同一の参照符号を付し、その説明は適宜省略する。
図9A(a)に示すように、実施例1と同様の方法により、絶縁性基板1上にアンダー
コート層2を形成し、その上に膜厚40nmのa−Si膜3Aを形成した。続いて、図9
A(b)に示すように、a−Si膜3A上に、低電圧駆動TFT形成領域上に開口を設け
たレジストパターン10cを形成し、Bを、ドーズ量:1.0x1012cm−2、加速
電圧:10keVの条件でイオン注入して、ノンドープのa−Si膜3AにBドープ領域
11を形成した。
【0032】
レーザアニールによりa−Si膜3Aを結晶化した後、図9A(c)に示すように、多
結晶シリコン膜をエッチングして島状多結晶シリコン膜3を形成した。
SiO膜からなる膜厚50nmの第1のゲート絶縁膜4を形成し、その上にn型の
多結晶シリコン膜からなる膜厚250nmのゲート電極5を形成した後、図9B(d)に
示すように、pチャネルTFTの全領域上と高電圧駆動nチャネルTFTのチャネル領域
上をレジストパターン10aにて覆い、これとゲート電極5をマスクとしてPを注入して
nチャネルTFTのソース・ドレイン領域3nを形成した。ソース・ドレイン領域3n間
に挟まれた多結晶シリコン膜が、低電圧駆動nチャネルTFTのBドープチャネル領域3
dと高電圧駆動nチャネルTFTのノンドープチャネル領域3fとなる。続いて、図9B
(e)に示すように、全てのnチャネルTFTの形成領域上と高電圧駆動pチャネルTF
Tのチャネル領域上をレジストパターン10bにて覆い、このレジストパターンとゲート
電極5をマスクとして、Bイオンを注入してpチャネルTFTのソース・ドレイン領域3
pを形成した。形成されたソース・ドレイン領域3p間に挟まれた多結晶シリコン膜が低
電圧駆動pチャネルTFTのBドープチャネル領域3dと高電圧駆動pチャネルTFTの
ノンドープチャネル領域3fとなる。
その後、図9B(f)に示すように、膜厚100nmの第2のゲート絶縁膜6を形成し
、その上にn型の多結晶シリコン膜からなる膜厚250nmの高電圧駆動TFTのゲー
ト電極7を形成し、更にその上に層間絶縁膜8を形成した後、コンタクトホールを開口し
電極9を形成した。
【0033】
本実施例では、Bイオンのドーズを、1.0x1012cm−2としたが、設定しよう
とするしきい値電圧とゲート絶縁膜厚より、図1(a)の関係を参照して、1.0x10
11〜2.0x1012cm−2の範囲で適宜に設定することができる。
また、実施例2では、高電圧駆動TFTのチャネル領域をノンドープとしたが、回路の
しきい値電圧の要求に応じて、低電圧駆動TFTでのドーズ量以下の、1.0x1011
〜2.0x1012cm−2の範囲で、Bイオンの注入を行ってもよい。このイオン注入
は、低電圧駆動TFT形成領域をマスクで覆って行うこともできるが、マスクレスで行う
こともできる。
更に、回路のしきい値電圧値の要求に応じて、pチャネル型の低電圧駆動TFTおよび
高電圧駆動TFTの両方のチャネル領域に、Pのチャネル注入により、しきい値電圧を負
の方向に調整してもよい。これは、例えば低電圧駆動pチャネルTFTと高電圧駆動pチ
ャネルTFTのチャネル領域に開口を設けたレジストパターンを形成し、これをマスクと
してPイオンの注入を行えばよい。イオン注入法で導入するPのドーズは、設定しようと
するしきい値電圧によっても変わるものの、一例として1.0x1012cm−2、加速
電圧:70keVが挙げられる。
【実施例3】
【0034】
実施例2の図9A(a)に示すように、a−Si膜3Aを形成した後、図9A(b)に
示すように、低電圧駆動TFT形成領域上に開口を設けたレジストパターン10cを形成
し、Bを、ドーズ量:1.0x1012cm−2、加速電圧:10keVの条件でイオン
注入して、低電圧駆動TFT形成領域にBドープ領域を形成した。続いて、高電圧駆動T
FT形成領域上に開口を設けたレジストパターン〔図示なし、図9A(b)と逆パターン
のレジスト膜〕を形成し、Pを、ドーズ量:1.0x1011cm−2、加速電圧:80
keVの条件でイオン注入して、高電圧駆動TFT形成領域にPドープ領域を形成した。
その後、低電圧駆動TFTおよび高電圧駆動TFTのゲート電極材料にアルミニウムを用
い、実施例2と同様の工程を経て薄膜半導体装置の製造した。
本実施例によれば、高電圧駆動TFTのチャネルドープを最小限に抑えることができる
ので、ソース・ドレイン間のキャリアの散乱を抑制することができる。
【実施例4】
【0035】
実施例2の図9A(a)に示すように、a−Si膜3Aを形成した後、マスクを介す
ることなく、Bを、ドーズ量:1.0x1012cm−2、加速電圧:10keVの条件
でイオン注入して、全a−Si膜3AをBドープ領域とした。その後、結晶化、島領域に
パターニング、第1のゲート絶縁膜(膜厚50nm)の形成、低電圧駆動TFTのゲート
電極(Al)の形成、の各工程を経て、図7B(d)に示す状態に加工し、その状態で、
Pを、ドーズ量:2.0x1012cm−2、加速電圧:80keVの条件でイオン注入
して、高電圧駆動TFT形成領域の島状多結晶シリコン膜をB&Pドープ領域とした。そ
の後、pチャネル型TFTのソース・ドレイン領域およびnチャネル型TFTのソース・
ドレイン領域をフォトリソグラフィ法およびイオン注入法を用いて形成し、続いて、第2
のゲート絶縁膜(膜厚150nm)および高電圧駆動TFTゲート電極(Al)を形成し
た。
本実施例では、高電圧駆動TFTのゲート絶縁膜の膜厚が、200(50+150)n
mと厚くなったが、高いドーズ量でPイオンをチャネルドープすることにより、pチャネ
ル型およびnチャネル型の両方の高電圧駆動TFTのしきい値電圧を低く抑えることがで
きた。
【0036】
図10は、本発明の第2の実施の形態を示す断面図である。本実施の形態においては、
第1の実施の形態の場合とは異なって、低電圧駆動TFTと高電圧駆動TFTとのチャネ
ルドーピングは等しくしてあり、その代わりに低電圧駆動TFTと高電圧駆動TFTとで
仕事関数の異なる材料を用いてゲート電極を形成している。図10に示されるように、絶
縁性基板1上には、各トランジスタの活性領域となる島状多結晶シリコン膜3がそれぞれ
孤立して設けられており、各島状多結晶シリコン膜3上には、第1のゲート絶縁膜4を介
して低電圧駆動TFT用の高仕事関数材料ゲート電極5aが形成され、また、第1および
第2のゲート絶縁膜4、6を介して高電圧駆動TFT用の低仕事関数材料ゲート電極7a
が形成されている。
低電圧駆動および高電圧駆動nチャネルTFTの島状多結晶シリコン膜3にはn型不純
物が高濃度にドープされたソース・ドレイン領域3nが形成されており、また低電圧駆動
および高電圧駆動pチャネルTFTの島状多結晶シリコン膜3にはp型不純物が高濃度に
ドープされたソース・ドレイン領域3pが形成されている。それらのソース・ドレイン領
域に挟まれたチャネル領域3cは、本実施の形態では全てのトランジスタについて同一の
不純物ドーピング状態になされている。
本実施の形態において、高仕事関数材料ゲート電極5aの材料には、例えば図5に示さ
れた材料の中から比較的仕事関数が高いものが選択され、低仕事関数材料ゲート電極7a
の材料には、例えば図5に示された材料の中から比較的仕事関数が低いものが選択される
。それらの材料の選択は、低電圧駆動TFTおよび高電圧駆動TFTのしきい値電圧をど
のような値にするかによって決定される。
本実施の形態において、チャネル領域3cの不純物濃度は全て同じになされていたが、
それぞれが異なる適当な濃度に選択されていてもよい。また、第2の実施の形態と第1の
実施の形態とを組み合わせて実施するようにしてもよい。
なお、本発明において、ゲート電極は複数の導電性材料からなる多層膜によって構成す
ることができる。その場合、最下層(最もチャネル領域に近い層)の材料の仕事関数のみ
を問題とすればよい。例えば、P等のドナーが高濃度にドープされたシリコンの仕事関数
は3.9eVと低いため、しきい値電圧を比較的低く調整する必要がある高駆動電圧TF
Tのゲート電極7(7a)材料に適しており、一方、B等のアクセプタが高濃度にドープ
されたシリコンは、その仕事関数が5.1eVと高いため、しきい値電圧を比較的高く調
整する必要がある低駆動電圧TFTのゲート電極5(5a)材料に適しているが、これら
を用い、かつ、ゲート配線を低抵抗としたい場合、ドープトシリコンの上層に、アルミニ
ウムもしくは銅を積層して低抵抗配線、多層ゲート電極構造を用いるとよい。
【実施例5】
【0037】
図11は、本発明の実施例5を示す断面図である。なお、本実施例の製造方法は、すべ
てのTFTのチャネル領域がノンドープである点とゲート電極の材料が金属材料である点
を除いて、実施例1、2と同じであり、そして、図11において、図7A〜Cや図9A、
Bに示した実施例1、2の部分と同等の部分には同一の参照符号が付されているので、実
施例5の詳細な説明は省略し、主として低電圧駆動TFTおよび高電圧駆動TFTの各々
のゲート電極について説明する。
低電圧駆動TFTのゲート電極5を、仕事関数が比較的高いクロム(Cr)により形成
する一方、高電圧駆動TFTのゲート電極7を、仕事関数が比較的低いチタン(Ti)か
らなる材料で形成した。これにより、図8に示した実施例1により得られた特性と同様の
特性を持つ薄膜半導体装置を得ることができた。
本実施例では、低電圧駆動TFTのゲート電極5をCr、高電圧駆動TFT のゲート
電極7をTiとしたが、求められるしきい値電圧に応じて適宜他の材料と交換してもよい
。例えば、ドナーであるPを高濃度に導入したシリコンの仕事関数は、3.9eVと低い
ため、しきい値電圧を比較的低く調整する必要がある高駆動電圧TFTのゲート電極7材
料に適している。一方、アクセプタであるBを高濃度に導入したシリコンは、その仕事関
数が4.9eVと高いため、しきい値電圧を比較的高く調整する必要がある低駆動電圧T
FTのゲート電極5材料に適している。また、本実施例では、チャネル領域をノンドープ
としたが低濃度にアクセプタまたはドナーをドープするようにしてもよい。
【0038】
以上説明した実施の形態、実施例では、ソース・ドレイン領域はシングルドレイン(S
D)構造に形成されていたが、低および高電圧駆動TFTのソース・ドレイン領域を、そ
れぞれ高不純物濃度ソース・ドレイン領域と低不純物濃度ソース・ドレイン領域(いわゆ
るLDD領域)によって形成し、トランジスタをLDD(Lightly Doped D
rain)構造とするようにしてもよい。この場合、高不純物濃度ソース・ドレイン領域
と低不純物濃度ソース・ドレイン領域の両方をレジストパターンをマスクとして形成する
こともできるが、低不純物濃度ソース・ドレイン領域の方は、ゲート電極をマスクとして
形成するようにしても良い。このように、全てのトランジスタをLDD構造とすることも
できるが、高電圧駆動TFTのみを、あるいは高電圧駆動nチャネルTFTのみをLDD
構造とすることもできる。
【0039】
図12は、高電圧駆動nチャネルTFTのみをLDD構造とする場合の薄膜半導体装置
の製造方法の一例を示す工程順の断面図である。図12(a)に示すように、絶縁性基板
1上のTFT形成領域にp型不純物がドープされた島状多結晶シリコン膜(それ以上不純
物がドープされない領域はアクセプタ増強領域3aとなる)3を形成し、その上に第1の
ゲート絶縁膜4と低電圧駆動TFTのゲート電極5を形成した後、高電圧駆動nチャネル
TFTのソース・ドレイン領域(LDD領域を含む)を形成すべき領域に開口を有するレ
ジストパターン10dを形成する。そして、n型不純物として例えばPを低ドーズ量でイ
オン注入してLDD領域3gを形成する。次に、図12(b)に示すように、pチャネル
TFTの全領域上と高電圧駆動nチャネルTFTのチャネル領域およびLDD領域として
残すべき領域上をレジストパターン10dにて覆った後、例えばPを高ドーズ量でイオン
注入してnチャネルTFTの高不純物濃度のソース・ドレイン領域3nを形成する。その
後、図12(c)に示すように、高電圧駆動および低電圧駆動pチャネルTFTのソース
・ドレイン領域3pを形成し、マスクレスでn型不純物を注入して高電圧駆動TFTのチ
ャネル領域にチャネルドープを行ってドナー増強領域3bを形成した後、第2のゲート絶
縁膜6と高電圧駆動TFTのゲート電極7を形成する。
なお、上記の工程において、LDD領域3gを形成する工程、高不純物濃度のソース・
ドレイン領域3nまたは3pを形成する工程、ドナー増強領域3bを形成する工程の順序
は適宜入れ替えることができる。
【0040】
図13は、高電圧駆動nチャネルTFTのみをLDD構造とする場合のもう一つの薄膜
半導体装置の製造方法を示す工程順の断面図である。図13(a)に示すように、絶縁性
基板1上のTFT形成領域にp型不純物がドープされた島状多結晶シリコン膜(それ以上
不純物がドープされない領域はアクセプタ増強領域3aとなる)3を形成し、その上に第
1のゲート絶縁膜4と低電圧駆動TFTのゲート電極5を形成した後、低電圧駆動nチャ
ネルTFT形成領域上と高電圧駆動nチャネルTFTの高不純物濃度ソース・ドレイン領
域形成領域上に開口を有するレジストパターン10eにて表面を覆った後、例えばPを高
ドーズ量でイオン注入してnチャネルTFTの高不純物濃度のソース・ドレイン領域3n
を形成する。次に、図13(b)に示すように、低電圧駆動および高電圧駆動pチャネル
TFTのソース・ドレイン領域3pを形成し、マスクレスでn型不純物を注入して高電圧
駆動TFTのドナー増強領域3bを形成した後、第2のゲート絶縁膜6と高電圧駆動TF
Tのゲート電極7を形成する。続いて、図13(c)に示すように、高電圧駆動nチャネ
ルTFT形成領域に開口を有するレジストパターン10fを形成し、レジストパターン1
0fおよび高電圧駆動nチャネルTFTのゲート電極7をマスクとして、n型不純物とな
る例えばPを低ドーズ量でイオン注入してLDD領域3gを形成する。そして、レジスト
パターン10fを除去する。
なお、図13に示す本実施の形態においても、高不純物濃度のソース・ドレイン領域3
nまたは3pを形成する工程、ドナー増強領域3bを形成する工程の順序は適宜入れ替え
ることができる。
【0041】
また、上記の実施の形態、実施例では、nチャネルTFTとpチャネルTFTの両方が
高および低電圧駆動TFTを有するものであったが、いずれか一方のみが高および低電圧
駆動TFTを有するものであってよい。あるいは、nチャネルTFT、pチャネルTFT
のいずれか一方のみを有する薄膜半導体装置であってもよい。nチャネルTFTのみによ
り構成する場合には、高速な薄膜半導体装置を実現することができる。またpチャネルT
FTのみにより構成する場合には、高耐圧な薄膜半導体装置を実現することができる。
図14は、pチャネル型のみを低電圧駆動および高電圧駆動TFTとした薄膜半導体装
置の例を示す断面図である。図14(a)には、nチャネル型は低電圧駆動TFTのみが
形成され、pチャネル型については低電圧駆動および高電圧駆動TFTが形成された例が
示されている。また、図14(b)には、nチャネル型は高電圧駆動TFTのみが形成さ
れ、pチャネル型については低電圧駆動および高電圧駆動TFTが形成された例が示され
ている。また、図14(c)には、pチャネル型の低電圧駆動および高電圧駆動TFTの
みによって薄膜半導体装置が形成された例が示されている。次に、図14(c)に示され
る薄膜半導体装置の実施例について説明する。
【実施例6】
【0042】
まず、絶縁性基板1上に、アンダーコート層となる酸化膜をPCVD法により、100
nmの膜厚で形成した。その上にPCVD法を用いて40nmの膜厚のa−Si膜を形成
し、ドーズ量:1.0x1012cm‐2、加速電圧:10keVの条件でBをイオン注
入した後、レーザアニール法により多結晶化を行い、更にパターニングを行って、複数の
島状多結晶シリコン膜3を形成した。
次に、PCVD法により膜厚50nmのSiO膜を堆積して第1のゲート絶縁膜4を
形成した後、PCVD法によりn型の多結晶シリコンを膜厚250nmに堆積し、選択
的にエッチングして低電圧駆動TFTのゲート電極5を形成した。続いて、高電圧駆動p
チャネルTFTのチャネル領域上をレジストパターンにて覆った後、このレジストパター
ンと低電圧駆動pチャネルTFTのゲート電極5をマスクとして、Bを、ドーズ量:1.
0x1015cm‐2、加速電圧:40keVの条件でイオン注入して低電圧駆動および
高電圧駆動TFTのソース・ドレイン領域3pを形成した。次いで、マスクレス状態で8
.0x1011cm−2のドーズ量でPをイオン注入して、高駆動電圧TFTのチャネル
領域のみにドナーをドープした。次に、PCVD法により、第2のゲート絶縁膜6となる
SiO膜を膜厚100nmに堆積した後、n型のポリシリコンを250nmの膜厚に
堆積し、これをパターニングして、高電圧駆動TFTのゲート電極7を形成した。
その後、層間絶縁膜を堆積し、コンタクトホールを開設し、必要な電極、配線を形成し
た。そして、特性を測定したところ、低電圧駆動TFTのしきい値電圧は−1V、高電圧
駆動TFTのしきい値電圧は−3Vであった。
【0043】
本発明に係る薄膜半導体装置は、高電圧駆動TFTと低電圧駆動TFTとが同一基板上
に形成されるすべてのデバイスに適用できるが、特に画像表示装置に好適に採用できる。
図15は、本発明によるTFTを用いて作製した液晶表示装置のアクティブマトリクス基
板の平面図である。アクティブマトリクス基板20は、ガラス基板21の一辺に沿って引
き出し部22を設けると共に基板中央部に画像表示部25を設け、画像表示部25の周辺
に沿ってデータドライバ23とゲートドライバ24を配置したものである。データドライ
バ23およびゲートドライバ24には、それぞれ多結晶シリコン膜を活性層とする低電圧
駆動TFTと高電圧駆動TFTとが形成されており、これらのトランジスタは本発明に従
いしきい値電圧調整が行われている。また、画像表示部25には、非晶質シリコン膜また
は多結晶シリコン膜を用いたTFTがマトリクス状に配置されている。
図15に示した例では画像表示部25とドライバ23、24とが同一基板上に形成され
ていたが、データドライバ23とゲートドライバ24を画像表示部25とは異なる基板上
に形成し、ドライバの形成された基板を画像表示部の形成された基板上に取り付ける(所
謂 glass on glass 構成)ようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 絶縁性基板
2 アンダーコート層
3 島状多結晶シリコン膜
3A 非晶質シリコン膜(a−Si膜)
3B 多結晶シリコン膜(poly-Si膜)
3a アクセプタ増強領域
3b ドナー増強領域
3c チャネル領域
3d Bドープチャネル領域
3e B&Pドープチャネル領域
3f ノンドープチャネル領域
3g LDD領域
4 第1のゲート絶縁膜
5、7 ゲート電極
5a 高仕事関数材料ゲート電極
6 第2のゲート絶縁膜
7a 低仕事関数材料ゲート電極
8 層間絶縁膜
9 電極
10a、10b、10c、10d、10e、10f レジストパターン
11 Bドープ領域
20 アクティブマトリクス基板
21 ガラス基板
22 引き出し部
23 データドライバ
24 ゲートドライバ
25 画像表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚の薄い第1種ゲート絶縁膜を挟んでゲート電極と半導体薄膜とが対向している低電圧
駆動薄膜トランジスタと、前記第1種ゲート絶縁膜より膜厚の厚い第2種ゲート絶縁膜を
挟んでゲート電極と半導体薄膜とが対向している高電圧駆動薄膜トランジスタとが絶縁性
基板上に配置されている薄膜半導体装置において、高電圧駆動薄膜トランジスタは、同極
性の低電圧駆動薄膜トランジスタに対して、ゲート絶縁膜を同一と仮定した場合に、しき
い値電圧が低下するように調整されていることを特徴とする薄膜半導体装置。
【請求項2】
p型不純物濃度を正値で表現しn型不純物濃度を負値で表現すると、前記高電圧駆動薄膜
トランジスタのチャネル領域の不純物ドーピングは、前記低電圧駆動薄膜トランジスタの
チャネル領域の不純物ドーピングより負側に調整されていることを特徴とする請求項1に
記載の薄膜半導体装置。
【請求項3】
前記高電圧駆動薄膜トランジスタのゲート電極材料は、その仕事関数が前記低電圧駆動薄
膜トランジスタのゲート電極材料のそれより小さくなるように選定されていることを特徴
とする請求項1または2に記載の薄膜半導体装置。
【請求項4】
前記高電圧駆動薄膜トランジスタのゲート電極材料とそのチャネル領域の不純物ドーピン
グは、前記低電圧駆動薄膜トランジスタのゲート電極材料とそのチャネル領域の不純物ド
ーピングに対して、ゲート絶縁膜を同一と仮定した場合に、しきい値電圧が低下するよう
に調整されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜半導体装置。
【請求項5】
前記低電圧駆動薄膜トランジスタおよび前記高電圧駆動薄膜トランジスタが共にpチャネ
ル型トランジスタを含んでいることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の薄膜
半導体装置。
【請求項6】
前記第1種ゲート絶縁膜が第1のゲート絶縁膜により形成されており、前記第2種ゲート
絶縁膜が前記第1のゲート絶縁膜とその上に積層された第2のゲート絶縁膜とにより形成
されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の薄膜半導体装置。
【請求項7】
前記半導体薄膜が多結晶シリコン薄膜により構成されていることを特徴とする請求項1か
ら6のいずれかに記載の薄膜半導体装置。
【請求項8】
前記高電圧駆動薄膜トランジスタのチャネル領域に含まれるp型ドーパント(アクセプタ
)の濃度は、前記低電圧駆動薄膜トランジスタのチャネル領域に含まれるp型ドーパント
のそれより低いことを特徴とする請求項4から7のいずれかに記載の薄膜半導体装置。
【請求項9】
前記高電圧駆動薄膜トランジスタのチャネル領域に含まれるn型ドーパント(ドナー)の
濃度は、前記低電圧駆動薄膜トランジスタのチャネル領域に含まれるn型ドーパントのそ
れより高いことを特徴とする請求項4から7のいずれかに記載の薄膜半導体装置。
【請求項10】
前記低電圧駆動薄膜トランジスタのチャネル領域にはp型ドーパントが含まれており、前
記高電圧駆動薄膜トランジスタののチャネル領域にはp型およびn型の両方のドーパント
が含まれていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の薄膜半導体装置。
【請求項11】
n型の前記高電圧駆動薄膜トランジスタのソース・ドレイン領域は、LDD(Lightly Do
ped Drain)構造に形成されていることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載
の薄膜半導体装置。
【請求項12】
前記低電圧駆動薄膜トランジスタおよび前記高電圧駆動薄膜トランジスタが、画像表示装
置におけるアクティブマトリクス基板のゲートドライバ回路およびデータドライバ回路に
含まれていることを特徴する請求項1から11のいずれかに記載の薄膜半導体装置。
【請求項13】
絶縁性基板上に半導体薄膜を形成する工程と、第1のゲート絶縁膜を形成する工程と、第
1のゲート絶縁膜上に低電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程と、低
電圧駆動薄膜トランジスタのソース・ドレイン領域を形成する工程と、低電圧駆動薄膜ト
ランジスタ形成領域上および高電圧駆動薄膜トランジスタ形成領域上に第2のゲート絶縁
膜を形成する工程と、第1および第2のゲート絶縁膜の積層膜上に高電圧駆動薄膜トラン
ジスタ用のゲート電極を形成する工程と、を有する薄膜半導体装置の製造方法において、
低電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程と高電圧駆動薄膜トランジス
タ用のゲート電極を形成する工程との間に、低電圧駆動薄膜トランジスタ形成領域および
高電圧駆動薄膜トランジスタ形成領域の前記半導体薄膜にn型のドーパントを導入する工
程が付加されることを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。
【請求項14】
絶縁性基板上に半導体薄膜を形成する工程と、第1のゲート絶縁膜を形成する工程と、第
1のゲート絶縁膜上に低電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程と、低
電圧駆動薄膜トランジスタのソース・ドレイン領域を形成する工程と、第1のゲート絶縁
膜に重ねてその上に第2のゲート絶縁膜を形成する工程と、第1および第2のゲート絶縁
膜の積層膜上に高電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程と、を有する
薄膜半導体装置の製造方法において、絶縁性基板上に半導体薄膜を形成する工程と低電圧
駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程との間に、低電圧駆動薄膜トランジ
スタ形成領域に開口を有するマスクを介して半導体薄膜にp型のドーパントを導入する工
程が付加されることを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。
【請求項15】
絶縁性基板上に半導体薄膜を形成する工程と、第1のゲート絶縁膜を形成する工程と、第
1のゲート絶縁膜上に低電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程と、低
電圧駆動薄膜トランジスタのソース・ドレイン領域を形成する工程と、第1のゲート絶縁
膜に重ねてその上に第2のゲート絶縁膜を形成する工程と、第1および第2のゲート絶縁
膜の積層膜上に高電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程と、を有する
薄膜半導体装置の製造方法において、絶縁性基板上に半導体薄膜を形成する工程と低電圧
駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程との間に、高電圧駆動薄膜トランジ
スタ形成領域に開口を有するマスクを介して半導体薄膜にn型のドーパントを導入する工
程が付加されることを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。
【請求項16】
絶縁性基板上に半導体薄膜を形成する工程と、第1のゲート絶縁膜を形成する工程と、第
1のゲート絶縁膜上に低電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程と、低
電圧駆動薄膜トランジスタのソース・ドレイン領域を形成する工程と、第1のゲート絶縁
膜に重ねてその上に第2のゲート絶縁膜を形成する工程と、第1および第2のゲート絶縁
膜の積層膜上に高電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極を形成する工程と、を有する
薄膜半導体装置の製造方法において、前記低電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極材
料の仕事関数は前記高電圧駆動薄膜トランジスタ用のゲート電極材料の仕事関数より大き
いことを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。
【請求項17】
低電圧駆動および高電圧駆動薄膜トランジスタがそれぞれpチャネル薄膜トランジスタで
あることを特徴とする請求項13から16のいずれかに記載の薄膜半導体装置の製造方法

【請求項18】
前記半導体薄膜を形成する工程には、アモルファスシリコン膜の形成工程とそのアモルフ
ァスシリコン膜の多結晶化する工程とが含まれており、前記低電圧駆動および高電圧駆動
薄膜トランジスタのゲート電極はそれぞれ多結晶シリコン薄膜上に形成されることを特徴
とする請求項13から17のいずれかに記載の薄膜半導体装置の製造方法。
【請求項19】
前記多結晶化する工程は、レーザビームの照射によって行われることを特徴とする請求項
18に記載の薄膜半導体装置の製造方法。
【請求項20】
マスクを介してp型またはn型ドーパントがドープされる工程の前若しくは後に、低電圧
駆動薄膜トランジスタ形成領域および高電圧駆動薄膜トランジスタ形成領域の半導体薄膜
にp型ドーパントをドープする工程が付加されることを特徴とする請求項14、15また
は17から19のいずれかに記載の薄膜半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−191228(P2012−191228A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−119817(P2012−119817)
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【分割の表示】特願2005−154961(P2005−154961)の分割
【原出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(511132247)ゲットナー・ファンデーション・エルエルシー (5)
【Fターム(参考)】