説明

被処理体の昇降機構及び処理装置

【課題】リフターピンとピン挿通孔の間へのガスの回り込みによる堆積物の付着などの不具合を軽減することのできる新規の被処理体の昇降機構及びこれを備えた処理装置を提供する。
【解決手段】被処理体の昇降機構は、処理容器内にて処理される被処理体を載置する載置台38に上下方向に貫設されたピン挿通孔50′と、該ピン挿通孔50′に対して昇降自在に挿通されるリフターピン72と、該リフターピン72を駆動して前記ピン挿通孔50′から前記リフターピン72を出没動作させる駆動手段とを有し、前記リフターピン72の出没動作によって前記被処理体を昇降可能とした被処理体の昇降機構において、前記リフターピン72の外周面若しくは前記ピン挿通孔50′の内周面に軸線方向の所定範囲に亘って伸びる表面溝72xが形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被処理体の昇降機構及び処理装置に係り、特に、半導体の処理装置などにおいて、処理容器内に配置される載置台に設けられた半導体ウエハなどの被処理体を昇降動作させるための機構として好適な構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体集積回路の製造工程においては、半導体ウエハ等の被処理体に成膜処理、エッチング処理、熱処理、改質処理、結晶化処理などの各種の処理を繰り返し行うことによって被処理体に集積回路を形成していくようにしている。このような製造工程の各処理段階においては、処理装置の処理容器内に配置された載置台(サセプター)の上に被処理体(半導体ウエハ)を載置した状態とし、この状態で載置台上の被処理体に対して各種処理を施すことが多い。このような処理装置において、被処理体を載置台上に供給したり、載置台上の被処理体を取り出したりする際には、載置台に対して被処理体を昇降動作させる昇降機構を用いる場合がある。
【0003】
従来の被処理体の昇降機構としては、図8に示すように、載置台138に上下に貫通した複数のピン挿通孔150を設け、これらのピン挿通孔150にそれぞれリフターピン152を出没自在に挿通させた状態とし、このリフターピン152を所定の駆動手段により駆動することによってリフターピン152が載置台138の載置面から出没動作するように構成したものが知られている(例えば、以下の特許文献1参照)。この被処理体の昇降機構においては、上記の駆動手段によりリフターピン152を載置台138の載置面上に突出させることにより被処理体Wを載置面から持ち上げることができ、また、リフターピン152を降下させることにより図示のように被処理体Wを載置面上に配置させることができるようになっている。ここで、図示例では、リフターピン152の下端は、駆動部材154に取り付けられたピンベース156の表面に単に当接した状態で支持され、その駆動部材154を上下に移動させることにより、リフターピン152がピン挿通孔150の内部を上下に摺動するように構成されている。
【0004】
なお、上記のような被処理体の昇降機構を備えた処理装置が開示されている他の文献としては、以下の特許文献2が挙げられる。この文献には、載置台に設けたピン挿通孔の内部に、リフターピンをガイドするためのスリーブを設けることが記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る実施形態の処理装置の全体構成を示す概略構成図。
【図2】第1基本構成の拡大部分断面図。
【図3】第2基本構成の拡大部分断面図。
【図4】基本構成の作用効果を説明するための比較図(a)及び(b)。
【図5】基本構成の作用効果を説明するための比較図(a)及び(b)並びに一部拡大図(c)。
【図6】基本構成の変形例の構造を示す断面図(a)及び一部拡大図(b)
【図7】第3基本構成の拡大部分断面図。
【図8】従来の昇降機構の主要部の構成を模式的に示す拡大部分断面図。
【図9】第1実施形態の拡大部分断面図(a)、リフターピンを上昇させた状態を示す拡大部分断面図(b)及びリフターピンの拡大横断面図を表面溝の拡大断面図とともに示す図(c)。
【図10】第2実施形態の拡大部分断面図(a)、リフターピンを上昇させた状態を示す拡大部分断面図(b)及びリフターピンの拡大部分縦断面図(c)。
【図11】第3実施形態のリフターピンを省略した拡大部分断面図(a)及びリフターピンを上昇させた状態を示す拡大部分断面図(b)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
次に、添付図面を参照して本発明に係る被処理体の昇降機構及び処理装置の実施形態について詳細に説明する。
【0039】
最初に、図1を参照して本発明に係る処理装置の全体構成について説明する。この処理装置20は、ウエハなどの被処理体(以下、単に「ウエハ」と称する。)上にTiN薄膜を成膜する成膜処理装置として以下説明する。ただし、本発明はこのような装置に限定されるものではなく、TiN以外の種々の薄膜を成膜する成膜処理装置や、成膜処理装置以外の各種の処理装置を包含するものである。
【0040】
[第1基本構成]
処理装置20は、アルミニウムやアルミニウム合金などで構成された処理容器22を有している。この処理容器22の天井部には、必要な処理ガス、例えばTiClやNHなどを導入するためにガス供給手段であるシャワーヘッド構造24が設けられている。シャワーヘッド構造24の下面には多数のガス噴射口26A,26Bが設けられ、これらのガス噴射口から上記処理ガスが処理空間Sに噴射されるようになっている。
【0041】
上記のシャワーヘッド構造24の内部は、例えば2つのガス通路24A,24Bに分割区画されている。これらのガス通路24A,24Bには上記各ガス噴射孔26A,26Bがそれぞれ連通されており、シャワーヘッド構造24の内部では2つのガスが混合されないように構成されている。すなわち、2つのガスはシャワーヘッド構造24の内部では別々の通路を経て処理空間Sに噴射され、この処理空間Sにおいて初めて2つのガスが混合されるようになっている。
【0042】
シャワーヘッド24は、例えばニッケルやハステロイなどのニッケル合金等の導電体により構成され、上部電極を兼ねている。シャワーヘッド構造24の外周側や上方側は、処理容器22に対する絶縁性を確保するために、例えば石英やアルミナ等よりなる絶縁体27により全体が覆われている。すなわち、シャワーヘッド構造24は絶縁体27を介して処理容器22に取り付け固定されている。シャワーヘッド構造24と絶縁体27と処理容器22の各接合部間には、例えばOリング等よりなるシール部材29がそれぞれ介在し、処理容器22の機密性を確保するように構成されている。
【0043】
このシャワーヘッド構造24には、例えば450kHzの高周波電圧を発生する高周波電源33がマッチング回路35を介して接続されている。これらの高周波電源33及びマッチング回路35は、処理の必要に応じて高周波電力をシャワーヘッド構造24に供給するようになっている。なお、高周波電源の供給する高周波電力の周波数は上記値に限定されるものではなく、例えば、13.56MHzなど、任意の周波数で構わない。ただし、TiNを形成する場合には、高周波電力を用いずに、熱反応のみで成膜することができる。
【0044】
処理容器22の側壁22Aには、搬入搬出口28が設けられ、この搬入搬出口28には開閉可能に構成されたゲートバルブ30が設けられている。処理容器22の底部22Bには開口部31が設けられ、この開口部31の下流側に排気側空間32が構成されている。この排気側空間32は底部22Bに接続された排気側隔壁34によって画成される。排気側隔壁34の底部34Aには支柱36が取り付けられ、この支柱36は処理空間S内に伸び、載置台38を支持している。
【0045】
ここで、開口部31は載置台38の横断面より小さな開口断面を有し、この開口断面が平面的に見て載置台38の横断面内に完全に包含されるように構成されている。これにより、処理ガスは載置台38の外周側から底部側に回り込んで開口部31に均一に流入するように構成されている。排気側空間32には、排気側隔壁34の下部側壁に設けられた排気口40が開口している。この排気口40には図示しない真空ポンプなどの排気装置に接続された排気管42が接続されている。なお、排気管42の途中には、開度コントロールが可能に構成された図示しない圧力調整弁が介挿されている。この圧力調整弁は処理容器22の内圧に応じて適宜に制御されるように構成され、処理容器22の内圧を一定値に維持したり、或いは、目標圧に向けて変化させたりすることができるようになっている。
【0046】
上記の載置台38は、内部に抵抗加熱式ヒータなどの加熱手段44を内蔵している。載置台38は、例えば、AlNなどのセラミックスにより構成される。載置台38の上面は上記ウエハWを載置可能な載置面となっている。また、上記加熱手段44は、上記支柱36内に配設された給電線46に接続され、この給電線46を介して供給される電力によって発熱するように構成されている。
【0047】
載置台38には、本発明に係る被処理体の昇降機構48が設置されている。この昇降機構48には、載置台38に上下に貫通するように構成されたピン挿通孔50が含まれる。このピン挿通孔50は、載置台38に複数(図示例では3つ;図にはそのうちの2つを示してある。)設けられている。このピン挿通孔50には、それぞれリフターピン52が上下動可能に挿通されている。リフタ-ピン52は、その上部がピン挿通孔50の内部に挿通され、その下部は載置台38の底部から下方に突出し、その下端部がピンベース56に常時当接している。ピンベース56は駆動部材54に設けられ、この駆動部材54のアーム部54Aは、容器底部22Bの下面側に配置されたアクチュエータ58の駆動ロッド60に接続固定されている。駆動ロッド60は容器底部22Bを貫通し、処理容器22の内部にて上記駆動部材54に連結されている。駆動ロッド60の貫通部外側には伸縮可能なベローズ64が設置され、このベローズ64によって駆動ロッド60の貫通部において処理容器22の機密性が確保されている。なお、リフターピン52は、Al,SiO、AlNなどのセラミックスや石英で構成される。また、上記駆動部材54、ピンベース56、アクチュエータ58及び駆動ロッド60は上記の駆動手段を構成する。
【0048】
載置台38には、上記ピン挿通孔50と同軸に下方へ突出する延長スリーブ68が設けられている。そして、上記リフターピン52は、この延長スリーブ68に対しても上下動可能に挿通されている。延長スリーブ68は載置台38と一体に構成されている。ただし、本実施形態では、別体の延長スリーブ68を載置台38の底部のピン挿通孔50の下端開口縁に接合することによって一体化してある。この場合、延長スリーブ68は、Al,SiO、AlNなどのセラミックスで構成される。この延長スリーブ68は、載置台38の底部に対して直接接合(ダイレクトボンディング)により接合されている。このダイレクトボンディングによる接合方法を用いる場合には、延長スリーブ68は載置台38の底部表面の素材と同一素材(例えばAlN)で構成されていることが好ましい。上記の直接接合は、清浄化された表面同士を圧接させた状態で高温に加熱することによって行うことができる。
【0049】
図2は、上記延長スリーブ68の近傍を拡大して示す拡大部分断面図である。延長スリーブ68はピン挿通孔50と同軸に配置され、載置台38の底部38bから下方に突出するように設けられている。延長スリーブ68のスリーブ孔68aの開口断面の形状及び面積はピン挿通孔50の開口断面の形状及び面積とほぼ等しく構成されている。これによって、リフターピン52と延長スリーブ68との間のクリアランスがリフターピン52とピン挿通孔50との間のクリアランスとほぼ同一になるように設定されている。したがって、この実施形態では、リフターピン52はピン挿通孔50と延長スリーブ68の双方によって上下方向にガイドされていることになる。
【0050】
このリフターピン52は、ほぼ円柱状の上軸部52Aと、この上軸部52Aの下部に接続された下軸部52Bと、下軸部52Bの下に設けられた下端部52Cとを備えている。下軸部52Bは上軸部52Aよりもやや小径に構成されているとともに下方に向かうに従って徐々に縮径する(すなわち横断面積が減少する)テーパ状に構成されている。リフターピン52の下端部52Cは球面などの少なくとも凸状に構成され、ピンベース56の表面に離間可能な状態で当接支持されている。
【0051】
なお、リフターピン52とピンベース56とは同じ素材で構成されていることが好ましい。本実施形態では、リフターピン52、ピンベース56、駆動部材54は全てAlなどのセラミック素材により構成されている。
【0052】
上記のように構成された処理装置20においては、まず、ウエハWが図示しない搬送アームに保持されて開状態となったゲートバルブ30及び搬出搬入口28を通って処理容器22内に搬入される。このとき、アクチュエータ58の駆動力によって駆動部材54が上昇し、ピンベース56によってリフターピン52が上方へ押し上げられることにより、リフターピン52は載置台38の載置面上から突出した状態にある。そして、上記搬送アームはウエハWを複数のリフターピン52の上端に受け渡す。その後、リフターピン52は降下してウエハWは載置台38の載置面上に配置される。
【0053】
次に、シャワーヘッド構造24の噴射孔26A,26Bから処理ガスとして例えばTiCl及びNHが噴出され、これらの処理ガスは処理空間S内にて混合され、熱反応することによって、ウエハWの表面上にTiNの薄膜が成膜される。ここで、載置台38は上記熱反応を生起させるに足る温度、例えば400〜700℃に加熱される。処理空間Sの圧力(処理容器の内圧)は例えば40〜1333Pa(300mmTorr〜10Torr)で行われる。また、上部電極であるシャワーヘッド構造24と下部電極である載置台38との間に高周波電力を印加して処理空間Sにプラズマを発生させた状態で成膜を行ってもよい。
【0054】
上記の成膜中において、処理ガスはそのまま載置台38の周囲を通過して載置台38の底部38bの下にある下方空間S2に回り込み、最終的に排気口40から排出される。このとき、本基本構成でも、下方空間S2中の処理ガスの一部がリフターピン52の外面と延長スリーブ68の下端内縁との間の隙間(下端導入位置)からリフターピン52と延長スリーブ68とのクリアランス内部に侵入し、このクリアランス内においてリフターピン52の外面と延長スリーブ68の内面に僅かではあるが堆積物が付着する。この場合に、下端導入位置からの距離に応じてクリアランス内のガス分圧は低下するため、当該距離に応じて堆積物の付着量も低下する。
【0055】
成膜処理の圧力が例えば666.5Pa(5Torr)以上で行われる場合(高カバレッジ成膜条件)では、上記クリアランス内のガス分圧も高くなるため、クリアランス内の堆積物の付着量は全体に増大する。しかし、このような場合であっても、本基本構成では延長スリーブを設けることによりガスの下端導入位置からクリアランスの上部に至る距離を増加させているため、上記クリアランスの上部におけるガス分圧が充分に低下することにより、載置台38のピン挿通孔50内部及びリフターピン52の上部側には堆積物は付着されない。
【0056】
[第2基本構成]
図3は、上記とは異なる構成例である第2基本構成の構造を示す拡大部分断面図である。この第2基本構成において、ピン挿通孔50′と延長スリーブ68′以外は上記第1基本構成と同様であるので、それらの説明は省略する。この構成例において、ピン挿通孔50′には、その内部に段部50a′が形成されている。この段部50a′は、ピン挿通孔50′の上部開口の近傍(直下)に設けられている。そして、段部50a′は上方に向いた段差面を有している。一方、延長スリーブ68′は、上下に貫通したスリーブ孔68a′を有するとともに、上記段部50a′に係合可能な鍔部68u′を有している。そして、延長スリーブ68′は、その鍔部68u′が段部50a′に係合した状態でピン挿通孔50′に挿通されている。延長スリーブ68′は、ピン挿通孔50′の下端から下方へと突出している。
【0057】
延長スリーブ68′のうち、載置台38の底部から下方に突出した部分の外面には固定部材(螺合部材すなわちナット)69A,69Bが固定されている。より具体的には、延長スリーブの下部にはネジ構造68b′が形成され、このネジ構造68b′に固定部材が螺合している。固定部材69Aは載置台38の底部に当接し、延長スリーブ68′の鍔部68u′と固定部材69Aとによって載置台38が挟持されることにより、延長スリーブ68′が載置台38に対して締め付け固定されている。ここで、固定部材(ロックナット)69Bは、固定部材69Aのゆるみ止めのために装着されている。なお、固定部材はスリーブを固定可能なものであれば何でもよい。
【0058】
この基本構成では、延長スリーブ68′がピン挿通孔50′の内部に挿通され、ピン挿通孔50′の内部から下方へ突出するように構成されているため、延長スリーブ68′の載置台38への取り付け作業が容易になり、その位置決めを行うことができ、さらにその取付強度も大きくすることができる。また、上記のように段部50a′と鍔部68u′との軸線方向への相互規制及び固定部材69A,69Bによる軸線方向への相互規制によって、載置台38に対して延長スリーブ68′を着脱可能な状態で固定することができるようになっている。したがって、延長スリーブ68′の交換や清掃が可能になり、メンテナンス性が向上する。さらに、リフターピン52は延長スリーブ68′のみにより案内され、延長スリーブ68′の内面に対してのみ摺接するように構成されているので、リフターピン52に起因する損傷は延長スリーブ68′のみが受けることになり、高価な載置台38に損傷を与えずに済むという利点がある。
【0059】
[各基本構成の作用効果]
次に、上記第1基本構成及び第2基本構成に共通する作用効果について詳細に説明する。図4(a)には、従来の被処理体の昇降機構を示し、図4(b)には本基本構成(第2基本構成)を示す。なお、図4(b)には第2基本構成のみを示すが、以下の説明のうち第1基本構成にも共通な箇所には第1基本構成の参照符号も併せて記載する。
【0060】
上記各基本構成では、上記クリアランスが延長スリーブ68,68′によって下方に延長形成されることになったので、その分、リフターピン52の外面と延長スリーブ68,68′との間のクリアランス内における下端導入位置Gからピン挿通孔50,50′の上部開口までの距離がLPからLPに増大し、これによってガスが上記下端導入位置Gから侵入してもそのガス分圧はクリアランス上部において従来よりも低くなる。このため、リフターピン52の上部外面とピン挿通孔50,50′の上部内面には堆積物が付着しにくく、また、ウエハWの裏面部分(上記ピン貫通孔50,50′の上部開口に臨む部分)への堆積物の付着も低減され若しくは解消される。また、延長スリーブのガイド長LPはLPを越える長さであり、延長スリーブによるガイド長の延長分LPは、LP/2以上であることが好ましい。
【0061】
上記のように特にリフターピン上部の堆積物の付着量が低減されることにより、リフターピンの突出動作時においてリフターピン52の上部やピン挿通孔50,50′の上部内面に付着していた堆積物が剥離して載置台38の載置面上方へ舞い上がるといった事態を回避することができ、処理に有害なパーティクルを大幅に低減できる。また、ウエハWの裏面に堆積物が付着することも防止できるため、さらにパーティクルを低減できるとともに、当該ウエハWの後工程における不具合を解消できる。例えば、フォトリソグラフィ工程においては、裏面の一部に付着している堆積物によってウエハWが歪み、これによって露光パターンの焦点ずれが局部的に発生する場合などである。
【0062】
また、本基本構成では、リフターピン52がピン挿通孔50,50′だけではなく、その下方に延長するように配置された延長スリーブ68,68′によっても上下方向に案内されるので、リフターピン52のガイド長(上記LPと同じである。)を図4(a)に示す従来構造よりも実質LP分の長さを大きくすることができるため、リフターピン52の上下動作時の摺動性が向上する。たとえば、従来構造のリフターピン152とピン挿通孔150との間のクリアランスと、リフターピン52とピン挿通孔50,50′との間のクリアランスCRが同じであっても、リフターピン52のガイド長がLP分長くなることにより、リフターピン52の傾斜角は低減されるため、リフターピン52は従来構造のリフターピン152よりもスムーズに上下方向に摺動することが可能になる。
【0063】
ここで、延長スリーブ68,68′の長さを長くするほど上記効果は顕著になるが、その分、リフターピンの長さも長くする必要があり、処理容器22の上下寸法も増大させる必要があるため、処理内容に応じて設定すればよい。たとえば、成膜処理のカバレッジ特性がアスペクト比APに対応するものであり、リフターピン52とピン挿通孔50及び延長スリーブ68との間のクリアランスCR、上記距離LPに関して、LP/CR>APが成立するように構成すれば、ピン挿通孔50の上部開口に臨むウエハWの裏面部分に付着する堆積物を減らすことができる。たとえば、ピン挿通孔50の長さが18mm、クリアランスCRが全周に亘って0.2mm、延長スリーブの長さが15mmであれば、延長スリーブを用いない場合には、LP/CR=90であり、アスペクト比AP=100より小さくなるが、延長スリーブを用いることにより、LP/CR=165となってアスペクト比AP=100よりも大幅に大きくすることができる。
【0064】
なお、載置台38を厚く形成し、ピン挿通孔50の長さを大きくすれば上記と同様の効果が得られるようであるが、実際には、載置台38を厚くすると高価なセラミックス原料を大量に用いる必要があるとともに長いピン挿通孔50を加工する必要もあるため、製造コストが大幅に増大する。また、載置台38を厚く形成すると、上記加熱手段44(或いは、逆に冷却手段)による載置面の温度制御が困難になり、温度均一性が低下して成膜処理の均一性にも影響を与えるとともに、載置台の熱容量が増大するために加熱・冷却のサイクルタイムが増大して処理効率が低下するという問題点もある。
【0065】
図5は、上記基本構成において、ほぼストレート形状(すなわち、軸線方向に見て横断面の形状及び面積が変化しない形状)のリフターピン52′を用いた場合(a)と、上記のリフターピン52を用いた場合(b)とを比較して示す説明図である。リフターピン52,52′と、ピン挿通孔50,50′との間には、リフターピン52,52′を上下動可能に構成するために必ずクリアランスCRが存在する。したがって、上記基本構成のようにリフターピン52,52′が駆動手段に対してフリーになっている場合には、リフターピン52,52′の軸線は、ピン挿通孔50,50′若しくは延長スリーブ68,68′の軸線CXに対して僅かではあるが傾斜した状態になる。
【0066】
ところで、図5(a)に示すように、ストレート形状のリフターピン52′を用いる場合には、リフターピン52′が上述のように上下に摺動して傾斜姿勢となった場合、リフターピン52′の下端部とピンベース56との接触支持点Aは、ピン挿通孔50,50′若しくは延長スリーブ68,68′の軸線CXより僅かにずれた位置にあり、また、リフターピン52′とピン挿通孔50,50′若しくは延長スリーブ68,68′に対して上部接触点B及び下部接触点Cにて接触した状態になる場合が考えられる。この状態で駆動部材54を上昇させようとすると、ピンベース56がリフターピン52′に上方へ向かう押し上げ力を加えるが、上記接触点A,B,Cが固定された状態ではリフターピン52′は上昇せず、噛み込みが生じ、場合によってはリフターピン52′や延長スリーブ68,68′が上記下部接触点Bにおいて損傷を受ける。
【0067】
この場合にリフターピン52′が上昇するためには、接触支持点Aが図示矢印で示す方向(すなわち、上記軸線CXに近づく方向)にピンベース56上にて移動し、リフターピン52′の傾斜角が変化しなければならない。つまり、ピンベース56による押し上げ力によって接触支持点Aが矢印方向に容易に移動する状況下ではリフターピン52′は上昇可能であるが、接触支持点Aの接触面の面粗度などによってピンベース56上の接触支持点Aにおけるリフターピン52′の摺動抵抗が大きく、接触支持点Aが移動しなければ、リフターピン52′は上述のように動作障害を生ずることになる。
【0068】
一方、上記基本構成で用いられているリフターピン52では、図5(c)に示すように、上軸部52Aと下軸部52Bとの間に段差部52fが設けられ、この段差部52fによって下軸部52Bは上軸部52Aより小径に構成されている。また、下軸部52Bは下方に向かうほどに縮径したテーパ形状を有している。下軸部52Bは、段差部52fの下側で、そのまま下方へストレートに構成されていてもよい。さらに、上軸部52Aと下軸部52Bとの間の境界部52eは、リフターピン52がその動作範囲の下限位置(図示の位置)にあるときでも、延長スリーブ68,68′の下端内縁68e′よりも少なくとも上方内部に配置されるように構成されている。
【0069】
基本構成の場合にも、図5(b)に示すように、リフターピン52は、ピンベース56に対する接触支持点A′と、上部接触点B′と、下部接触点C′の3点にて接触する場合がある。また、接触支持点A′は上記と同様に軸線CXからずれている。ところが、基本構成では、駆動部材54の上昇とともに下部接触点C′は同期して上方へ移動し、接触支持点A′が何らピンベース56上において移動しなくても、リフターピン52はそのまま上昇可能である。
【0070】
この場合に、リフターピン52が上昇していく途中でその外面が延長スリーブ68,68′の下端内縁68e′に当接しない限り、リフターピン52は、その傾斜姿勢を維持したまま、その動作範囲の上限位置まで上昇し続けることができる。本基本構成のリフターピン52は、上軸部52Aよりも下軸部52Bが小径に構成され、しかも、下軸部52Bが下方に向かうほどに縮径したテーパ形状に構成されているため、その動作範囲の上限位置まで下端内縁68e′に接触することがないように構成されている。
【0071】
上記のように、リフターピン52の下軸部52Bが延長スリーブ68,68′の下端内縁に接触しないように構成するためには、段差部52fの段差量や下軸部52Bのテーパ角度を、リフターピン52の動作範囲、上記クリアランスCR、距離LPなどの状況に応じて設定する必要がある。
【0072】
ここで、上記クリアランスCRは上記のようにきわめて小さく(たとえば全周に亘って0.2mm程度)であるので、リフターピンの傾斜角も小さいことから、リフターピンの動作範囲にも依存するが、通常、段差部52fの段差量や下軸部52Bのテーパ角度も僅かなもので足りる。たとえば、上記段差量としては0.1〜1.0mm程度、上記テーパ角としては、0.5〜3.0度程度である。
【0073】
本基本構成では、延長スリーブを設けることによってリフターピンのガイド長が長く構成されるため、従来構造に較べると同じクリアランスCRでもリフターピンの傾斜角度が小さくなり、その結果、仮に図5(a)に示すような構成(例えばストレート形状のリフターピン52′を用いる場合)においてもリフターピンの動作障害が発生しにくいことがわかる。ただし、この場合においては、動作障害が発生しやすい図示の状況では延長スリーブ68′にも負担がかかるため、本基本構成のような構成(すなわちリフターピン52を用いる構成)が望ましいことには変わりがない。
【0074】
なお、上記状況や段差部52fの段差量によっては、段差部52fのみが形成され、下軸部52Bがテーパ形状でなくストレート形状であっても上記のように動作可能に構成することが可能である。また、上記状況やテーパ角度によっては、逆に、上記段差部52fを設けずに、下軸部52Bをテーパ形状にするだけで上記のように動作可能に構成することも可能である。
【0075】
上記構成において、リフターピン52の上軸部52Aの長さは、ピン挿通孔及び延長スリーブによるガイド長とほぼ同等か或いはそれよりやや短い長さに設定され、下軸部52Bの長さはリフターピン52が上限位置にあるときの載置台38の載置面から突出する長さより長く形成される。
【0076】
一方、図6に示すように、延長スリーブ68″の下端部近傍の内面を下方に向けて開くように形成することによっても、リフターピン52′がスムーズに上下動するように構成することができる。この変形例では、延長スリーブ68″の下部内面68c″が下方に向けてテーパ状或いはラッパ状に開いた形状を有している。このため、リフターピン52′の外面の下部接触点C″は、延長スリーブ68″の下端内縁68e″よりも上方内面上に配置される。このように、リフターピン52′の外面の下部接触点C″が下端内縁68e″ではなく、それよりも上方内面上に位置することにより、リフターピン52′が上昇する際に下部接触点C″において大きな反力を受けることがなくなるため、リフターピン52′の噛み込みやリフターピン52′及び延長スリーブ68″の損傷を防止することができる。
【0077】
[第3基本構成]
図7は、第3基本構成の構成を示す拡大部分断面図である。この基本構成では、リフターピン62以外の構成は上記第2基本構成と同様であるので、それら同様の部分については説明を省略する。この基本構成において、リフターピン62は、その外面の中間部分に環状凹部62dを有している点で上記各基本構成と異なり、その他の部分については上記リフターピン52と同様である。
【0078】
一般に、成膜処理を行う処理容器22中においては、処理ガスの分圧がある程度低下した場合に集中的に反応が進み、堆積物が発生する場合がある。このような状況は、たとえば、上記の第1及び第2実施形態を適用することが有利な高カバレッジ特性を有する成膜処理(この場合には、処理容器22の内圧は93.3〜1333Pa(約0.7〜10Torr)と比較的高い)よりも、むしろ、低カバレッジ特性を有する成膜処理(この場合には、処理容器22の内圧が20〜80Paと比較的低い低圧プロセスとなる。)において生じやすい。
【0079】
このような状況が発生する環境では、図4に示す下端導入位置Gから進入したガスの分圧は、クリアランス上部に進むに従って低下するため、下端導入位置Gから所定距離においてリフターピン52の外面やピン挿通孔50,50′若しくは延長スリーブ68,68′の内面に集中的に堆積物が付着することになる。すると、局所的に大量に付着した堆積物によってリフターピン52に動作障害が発生する。
【0080】
これに対して本基本構成では、成膜条件や載置台及びその近傍の構造などの環境に応じてリフターピン62の外面の軸線方向の所定位置に設定された環状凹部62dを形成し、この環状凹部62dの内部に集中的に堆積物が付着するようにすれば、付着した堆積物によるリフターピン62の動作障害の発生を防止することができる。
【0081】
上記の環状凹部62dは、処理時においてピン挿通孔50,50′若しくは延長スリーブ68,68′の内部に配置されている位置に設けられる。当該位置は、上記下端導入位置Gから所定距離上方へ離間した位置であるが、この所定距離は上述のように処理環境によって異なるため、処理環境毎に適宜に設定される。
【0082】
以上説明した各基本構成においては、いずれのリフターピン52,52′,62においても、その外面のうち、ピン挿通孔50,50′若しくは延長スリーブ68,68′に摺接すべき外面部分が従来のリフターピンに較べて平滑に構成されている。従来においては、リフターピンの外面に付着する堆積物を剥離しにくく構成するために、リフターピンの外面を粗面状に構成し、或いは、特に研磨処理などを敢えて行わないようにしていた。この場合、リフターピンの外面の表面粗さRaは概ね1.5μm以上であった。これは、リフターピンが上昇して載置台の載置面の上方に突出したときに、リフターピンの上部に付着した堆積物が剥離することによって載置台の載置面上方にパーティクルが放出されることになり、これが処理環境を悪化させるからである。
【0083】
ところが、本基本構成の場合には、リフターピンの上部にはほとんど堆積物が付着しないので、載置台の上方にパーティクルが放出される可能性も大幅に低減される。したがって、リフターピン52,52′、62の上記外面部分を平滑にしてもリフターピンの上部から堆積物が剥離することがなくなった。そして、このように表面を平滑化することによってリフターピンの摺動抵抗を低減するとともにリフターピンの動作障害の発生確率をより低減することが可能になった。実際には、リフターピンの下端部(ピンベースに当接する部分)以外を全てラッピング加工により平滑化した。その表面粗さRaは0.2〜0.3μm程度である。実際には、表面粗さRaが1.0μm以下になると表面平滑化の効果が現れ、表面粗さRaが0.5μm以下になるとより顕著な効果が得られる。セラミックス製品の場合には表面粗さRaの低減は困難であることから、表面粗さRaを0.1〜0.5μmの範囲内に設定することが最も望ましい。
【0084】
また、本基本構成では、延長スリーブの内面もまた表面粗さRaが1μm以下になるように平滑化してある。これによってさらにリフターピンの上下動を円滑に案内することが可能になる。この延長スリーブの内面についても、上記と同様に表面粗さRaが0.5μm以下であることがさらに好ましく、0.1〜0.5μmの範囲内であることが望ましい。
【0085】
[第1実施形態]
次に、図9を参照して本発明に係る第1実施形態について説明する。図9(a)は、本実施形態の構成を示す拡大部分断面図である。この実施形態では、リフターピン72を除いた他の構成は上記第2基本構成と同様であるので、同一部分には同一符号を付し、同様部分の説明は省略する。
【0086】
また、本実施形態並びに後述する第2実施形態及び第3実施形態の後述する表面溝及びその特徴点に係る構成は、上記第1基本構成にも同様に適用可能であるとともに、従来のリフターピンを含む任意の載置台や昇降機構に係る構成にも同様に適用することができる。このとき、リフターピンが挿通されるピン挿通孔としては、上述の延長スリーブのスリーブ孔に限定されることなく任意のスリーブに設けられた孔や載置台自体のピン挿通孔などの任意の貫通孔であるものとして、以下の記述を引用することができる。
【0087】
図9(a)に示すように、本実施形態のリフターピン72の外周面には軸線方向の所定範囲に亘って伸びる表面溝72xが形成されている。この表面溝72xは、リフターピン72の外周面の周回方向に複数形成されている。より具体的には、リフターピン72の軸線周りに等角度間隔で複数の表面溝72xが形成されている。表面溝72xは、リフターピン72の外周面のうち最も堆積物が多く付着すると考えられる領域Xaに向けて上方から伸びるように形成されることが好ましい。図示例では、表面溝72xは上方から領域Xaに達するように形成されている。また、この表面溝72xは、図9(a)に示すように、成膜時のリフターピンの位置において、すなわちリフターピン72の先端がスリーブ孔68a′の内部に没した状態で、リフターピン72のスリーブ孔68a′内に配置される部分の上部から中央部にかけて形成されていることが好ましい。また、図9(b)に示すように、リフターピン72が上昇したときに表面溝72xの上部が載置台38若しくは延長スリーブ68′の上面から突出するように構成されていることが好ましい。本実施形態ではリフターピン72に上軸部72Aと下軸部72Bが設けられているが、上記表面溝72xは上軸部72Aの外周面に形成される。
【0088】
図9(c)には、リフターピン72の拡大横断面図及び表面溝72xの形成部分をさらに拡大して示す拡大断面図を示す。各表面溝72xはリフターピン72の外周面上に開口している。この表面溝72xは、リフターピン72と延長スリーブ68′との間の空間の断面積を増大させる。このため、クリーニング工程において、クリーニングガスを処理容器の内部に供給することによって堆積物の除去を行う場合に、クリーニングガスの分圧をクリアランスの奥深くまで高めることができるので、リフターピン72や延長スリーブ68′の内面に付着した堆積物をより効率的に除去することが可能になる。特に、上記領域Xaには多くの堆積物が付着するため、この領域Xaにおける堆積物の除去が通常の載置台では困難となるが、本実施形態の場合、表面溝72xが領域Xaに向けて伸びている(より具体的には領域Xaに到達している)ので、当該領域Xaにおけるクリーニングガスの分圧を高めることができることから、堆積物を効率的に除去することができる。
【0089】
ここで、例えば、反応ガス種としてTiClとNHを用いてTiNを成膜する場合、上記クリーニング工程に用いるクリーニングガスとしてはClFやNFなどを用いることができる。このようなクリーニング工程は、処理容器内の堆積物がある程度多くなったときに行われる。クリーニング工程の後には、載置台上に基板を配置せずに反応ガス種を流すことによって成膜材料を処理容器内に或る程度堆積させるプレコート処理を実施することが好ましく、しかる後に、通常の成膜処理を実施することになる。クリーニング工程では、図9(b)に示すように、表面溝72xの上部を載置台38の上方に突出させることにより、表面溝72xを通してクリーニングガスがリフターピン72と延長スリーブ68′との間に拡散しやすくなるようにする。なお、このクリーニング工程の途中でリフターピン72の上下位置を変更してもよい。
【0090】
ここで、単にリフターピンの外径を小さくしたり、或いは、スリーブ孔の内径を大きくしたりすることによってリフターピンと延長スリーブの間のクリアランスを大きく設定する方法でも、当該クリアランス内におけるクリーニングガスの分圧を高めることができる。しかし、この方法では、クリアランスが大きくなることによってリフターピンの傾斜角(倒れ角)も大きくなるので、リフターピンの摺動抵抗が増大したり、リフターピンの動作不良が発生しやすくなったりする。本実施形態では、リフターピン72に上記表面溝72xを設けることにより、クリアランスをほとんど増大させることなく、クリーニングガスの分圧を高めることができる。
【0091】
また、上記表面溝72xは、リフターピン72の上半部(より具体的には、最も堆積物が多くなると予想される領域Xaよりも上方位置)に設けられているため、成膜時において載置台の下方から侵入する成膜ガスに起因するリフターピン72の上部や載置台38上に配置された基板の裏面への堆積物を増大させる恐れはほとんどない。より一般的に言えば、表面溝72xの下端は、スリーブ孔の下端よりも上方に位置するので、スリーブ孔の下端から入り込む成膜ガスが表面溝72xを通してスリーブ孔の上部に導かれることはない。
【0092】
本実施形態の場合、表面溝72xの上端はリフターピン72の上端よりも或る程度下方に離れた位置に配置されている。これによって、成膜時において延長スリーブ68′の下端から入り込んだガスがリフターピン72の上端まで届きにくくすることができるので、基板(ウエハ)の裏面上に付着する堆積物の量を低減することができる。
【0093】
実際には、上記表面溝72xの開口幅72xwが増大すると、この開口幅72xwの角度範囲にはリフターピン72の外周面が存在しなくなるため、図9(c)に示すように、リフターピン72の半径は僅かではあるがΔDだけ減少する。この半径減少量ΔDは、開口幅72xwが増大するほど急激に大きくなるので、開口幅72xwが或る程度大きくなると、表面溝72xの形成方向にクリアランスが増大し、リフターピン72の倒れ角が大きくなり、リフターピン72の摺動抵抗の増大や動作不良の発生確率の増大を招くことになる。したがって、上記の開口幅72xwはリフターピン72の動作不良を招くことのないように或る程度の範囲内に制限されることが望ましい。例えば、表面溝72xを設けない場合のクリアランスがCRであるとすれば、上記ΔDがクリアランスCRの10%、より好ましくは5%となる開口幅の値よりも実際の開口幅72xwが小さいことが好ましい。このように開口幅72xwを或る程度限定しても、表面溝72xの数を増やしたり、或いは、表面溝72xの深さ72xdを大きくしたりすることによってリフターピンの周囲にクリーニングガスを充分に拡散させるに足る断面積を有する空間を確保することができる。
【0094】
なお、表面溝72xの断面形状は、図示例では長方形であるが、表面溝内へのクリーニングガスの拡散を促進するためには、なるべく正方形に近い形状であることが好ましい。例えば、表面溝72の開口幅72xwと深さ72xdの比は0.5〜2.0、より好ましくは0.75〜1.5の範囲内であることが望ましい。
【0095】
また、上記表面溝72xによってリフターピン72と延長スリーブ68′との間の空間の断面積をどの程度増大させるかは、クリーニング工程の条件に応じて決定される。例えば、表面溝72xを設けない場合のクリアランスCRに対応する上記空間の断面積をCSとするとき、表面溝72xを設けることによる上記空間の断面積の増分は、当該断面積CSの50%〜200%、より好ましくは75%〜150%程度であることが好ましい。表面溝72xによる断面積の増分が上記範囲を下回ると表面溝72xを形成することによるクリーニング効果が充分に得られなくなる。逆に上記範囲を超えると、表面溝72xの開口幅72xwが増大してリフターピンの半径減少量ΔDが大きくなったり、或いは、表面溝72xの数を増大させるか若しくは表面溝72xの深さ72xdを増大させる必要が生ずるためにリフターピン72の加工が困難になったりする。
【0096】
本実施形態では、高カバレッジ特性を有する条件(例えば、処理容器の内圧が93.3〜1333Pa)で成膜を行う場合には、リフターピン72における載置台やスリーブのより奥にある部分にまで堆積物が付着しやすくなることから、リフターピン72の全体の付着物を奥にある部分までより均一に除去できるという点で有効である。また、低カバレッジ特性を有する条件(例えば、処理容器の内圧が20〜80Pa)で成膜を行う場合には、上述のように載置台やスリーブの内部の特定領域に大量の堆積物が集中して付着する傾向があるため、当該領域に付着した大量の堆積物を効率的に除去できるという点で有効である。
【0097】
[第2実施形態]
次に、図10を参照して本発明に係る第2実施形態について説明する。この実施形態のリフターピン82には、図10(a)及び(b)に示すように、第3基本構成と同様に構成された環状凹部82dが形成されている。そして、この環状凹部82dの上方に表面溝82xが形成されている。より具体的には、図10(c)に示すように表面溝82xは上方から環状凹部82dに連通している。この環状凹部82dは、上記と同様にリフターピン82の外周面のうち最も堆積物の付着量が多くなると予想される領域(第1実施形態の領域Xaと同じ領域)に形成され、堆積物の付着によるリフターピン82の動作不良を防止する効果を奏する。本実施形態では、環状凹部82dに表面溝82xが上方から連通しているため、表面溝82xを通して拡散したクリーニングガスによって環状凹部82d内に付着した堆積物をより効率的に(より短時間で)除去することができる。
【0098】
なお、本実施形態においても、表面溝82xの数、形状、大きさなどに関しては上記第1実施形態の表面溝72xと同様に構成することができる。なお、本実施形態でもリフターピン82に上軸部82Aと下軸部82Bが設けられているが、上記表面溝82xは上軸部82Aの外周面に形成されている。
【0099】
本実施形態の表面溝82xはリフターピン82の上端に達するように、或いは、表面溝82xがリフターピンの垂直上方にそのまま開いた上端部を有するように構成されている。これによって、クリーニング工程において図10(b)に示すほどリフターピン82を載置台38から大きく突出させなくても、僅かなリフト量で表面溝82xの上部が載置台38から突き出るように構成できる。
【0100】
[第3実施形態]
次に、図11を参照して本発明に係る第3実施形態について説明する。この実施形態では、リフターピンを省略した状態を表す図11(a)に示すように、リフターピンが挿通可能に構成されたスリーブ孔98aの上部内周面に表面溝92xが形成されている点で、上記第1実施形態及び第2実施形態とは異なる。この表面溝92xは、スリーブ孔98aの上部開口縁から下方に伸びている。表面溝92xの下端は、スリーブ孔98aの下部開口縁に達することなく、スリーブ孔98aの中間部分に配置されている。すなわち、表面溝92xは、スリーブ孔98aの上端から中央部にかけて形成されていることが好ましい。
【0101】
上記のスリーブ孔98aを有する延長スリーブ98は、表面溝92xが形成されている点以外は上記第2基本構成の延長スリーブ68′と同様であり、また、延長スリーブ98以外の他の構成も全て上記第2基本構成と同様であるので、同一部分には同一符号を付し、それらの説明は省略する。ただし、この表面溝92xは、延長スリーブ98に限らず、第1基本構成に適用する場合には載置台のピン挿通孔に直接設けることができ、また、他の任意の載置台においてリフターピンを挿通する任意の貫通孔に設けることもできる。
【0102】
また、表面溝92xは、上記第1実施形態及び第2実施形態に記載された表面溝と同様に、複数設けられることが好ましく、特に複数の表面溝92xが軸線周りに等角度間隔で形成されることが望ましい。また、表面溝92xの開口幅、深さ、断面形状などについても第1実施形態に記載された表面溝72xと同様に構成できる。
【0103】
本実施形態では、表面溝92xを設けることによって、クリーニング工程においてスリーブ孔98aの奥部までクリーニングガスを拡散させ、その分圧を高めることができることにより、図11(b)に示すリフターピン52に付着した堆積物を効率的に除去することができる。
【0104】
この実施形態では、特に、リフターピン52の上下位置如何に拘らず、リフターピンの周囲にクリーニングガスをより高い分圧となるように拡散させることができ、効率的に堆積物を除去することができる点で有利である。
【0105】
なお、本実施形態において、第2実施形態と同様の環状凹部をリフターピンに形成してもよい。このとき、この環状凹部と表面溝の位置関係及び連通構造は、成膜時におけるリフターピンの位置において、すなわちリフターピンの先端がスリーブ孔に没した状態で、第2実施形態と同様に構成されていることが好ましい。また、環状凹部をスリーブ孔の内周面に形成してもよい。この場合でも環状凹部と表面溝の位置関係及び連通構造は第2実施形態と同様に構成されることが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内にて処理される被処理体を載置する載置台に上下方向に貫設されたピン挿通孔と、該ピン挿通孔に対して昇降自在に挿通されるリフターピンと、該リフターピンを駆動して前記ピン挿通孔から前記リフターピンを出没動作させる駆動手段とを有し、前記リフターピンの出没動作によって前記被処理体を昇降可能とした被処理体の昇降機構において、
前記リフターピンの外周面若しくは前記ピン挿通孔の内周面に軸線方向の所定範囲に亘って伸びる表面溝が形成されていることを特徴とする被処理体の昇降機構。
【請求項2】
前記表面溝は前記リフターピンの前記外周面に形成され、前記表面溝は、昇降機構の駆動範囲内において少なくとも一部が前記ピン挿通孔から突出し得るように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の被処理体の昇降機構。
【請求項3】
前記表面溝は前記リフターピンの前記外周面に形成され、前記リフターピンの先端がピン挿通孔に没した状態で前記表面溝の下端が前記ピン挿通孔の下端よりも上方に位置することを特徴とする請求項1又は2に記載の被処理体の昇降機構。
【請求項4】
前記表面溝は前記リフターピンの前記外周面に形成され、前記表面溝の上端は前記リフターピンの上端から下方に離間していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の被処理体の昇降機構。
【請求項5】
前記表面溝は、前記リフターピンの上端に達するように、或いは、前記リフターピンの垂直上方にそのまま開いた上端部を有するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の被処理体の昇降機構。
【請求項6】
前記表面溝は前記ピン挿通孔の前記内周面に形成され、前記表面溝の下端が前記ピン挿通孔の下端より上方に位置することを特徴とする請求項1に記載の被処理体の昇降機構。
【請求項7】
複数の前記表面溝が軸線周りに設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の被処理体の昇降機構。
【請求項8】
前記リフターピンの前記外周面若しくは前記ピン挿通孔の前記内周面には、前記表面溝に連通する環状凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の被処理体の昇降機構。
【請求項9】
前記表面溝は前記環状凹部の上方に形成され、前記表面溝の下端が前記環状凹部に連通していることを特徴とする請求項8に記載の被処理体の昇降機構。
【請求項10】
前記処理容器と、前記載置台と、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の被処理体の昇降機構とを有することを特徴とする処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−197331(P2009−197331A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102148(P2009−102148)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【分割の表示】特願2003−338585(P2003−338585)の分割
【原出願日】平成15年9月29日(2003.9.29)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】