説明

車両の制御装置

【課題】機関始動時に点火時期遅角制御を実行し、吸入空気量を増大して機関暖機運転を行っている場合であって、ブレーキブースタ内の負圧を回復するために、点火時期遅角制御を中止もしくは抑制を行う場合に、各種センサ等が異常である場合を考慮し、負圧確保に関する制御を適切に行う車両の制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】機関暖機運転中であり、負圧確保が必要か否かを判断するためのセンサ(具体的には車両の移動を検出するセンサ)の信号が異常であって、センサや通信系統に異常がある場合には、負圧確保が不必要との判断は誤りであるとして、点火時期遅角を中止もしくは抑制を行って負圧確保を行う。一方、センサがノイズを検出している場合には、負圧確保が必要との判定は誤りであるとして、点火時期遅角を中止もしくは抑制を行わずに、点火時期遅角制御を継続して機関暖機運転を継続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機関始動時の暖機過程において、ブレーキブースタの圧力を制御するための車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気管内に発生する負圧を蓄えてブレーキ力を高めることを利用するブレーキブースタが公知である。このようなブレーキブースタには、機関始動時において、吹き上がった機関回転数によって吸気管内に発生する絶対値の高い負圧が蓄えられる。アイドルONのときに、吸気管内に絶対値の高い負圧が発生していれば、ブレーキブースタ内の負圧が消費されてもブレーキブースタ内の負圧を必要な負圧に回復することができる。
【0003】
しかしながら、機関始動直後であって機関暖機運転時には、排気ガス温度を高めて機関排気系の触媒装置を早期に暖機するために点火時期を遅角する点火時期遅角制御が実施されることがあり、それによる出力低下を防止するためにスロットル弁の開度は正規のアイドル時開度より大きく制御され、吸入空気量が大きくされる。この場合には、機関始動直後であって機関暖機運転時には、アイドルONのときにおいて、吸気管内には絶対値の高い負圧を発生させることはできない。
【0004】
それにより、ブレーキブースタ内の負圧を回復するためには、点火時期遅角制御を一時的に中止又は抑制してスロットル弁を制御して吸入空気量を小さくすることが必要となる。
【0005】
特許文献1には、機関始動時に点火時期遅角制御を実行し、吸入空気量を増大して機関暖機運転を行う場合に、ブレーキブースタ内の負圧を回復するために、点火時期遅角制御を一時的に中止もしくは抑制を行う技術が記載されている。
【0006】
特許文献2には、機関暖機過程において、ブレーキブースタの負圧を確保するために、吸気管圧力を低下させるか、あるいは制限する制御装置が記載されている。
【特許文献1】特開2006−170083号公報
【特許文献2】特開平10−147161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された技術では検出された信号に基づき制御を行っているが、なんらかの原因で信号が異常である場合の対応について考慮がされていない。例えば、センサが異常をきたした場合には、負圧確保ができず、ブレーキ性能低下をまねくおそれがある。例えば、機関暖機運転中にセンサの出力値にノイズが重畳しており、誤って負圧の確保が必要な状況であると判断して、負圧の確保を行う制御を実行してしまうと、排気エミッションが悪化するそれがある。
【0008】
そこで、本発明は上記の問題に鑑み、信号が異常である場合を考慮し、負圧を確保する負圧確保制御を適切に行う車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、機関暖機運転時に、点火時期を遅角させるとともに吸入空気量を増大させ暖機制御を行う暖機制御手段と、吸入空気量を制御して、ブレーキブースタに供給される内燃機関の吸気管の負圧を確保する負圧確保制御を行う負圧確保手段と、暖機制御中に、負圧確保が必要であるか否かを判断するための所定の信号が異常かどうかを判断し、該判断結果に基づいて負圧確保制御を行うか否かを判断する判断手段とを備えたことを特徴とする車両の制御装置が提供される。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、判断手段は、所定の信号が異常である場合に、更に該異常の内容に基づいて、負圧確保制御を行うか否かを判断することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置が提供される。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、判断手段が、所定の信号が異常であって、所定の信号の生成伝送システムに異常があると判断した場合に、負圧確保手段は、負圧確保制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置が提供される。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、判断手段が、所定の信号が異常であって、所定の信号の生成伝送システムに異常があると判断した場合に、負圧確保手段は、負圧確保制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置が提供される。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、判断手段が、所定の信号が異常であって、所定の信号の生成伝送システムが正常であると判断した場合に、負圧確保手段は負圧確保制御を行わずに、暖機制御手段は暖機制御を継続することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置が提供される。
【0014】
請求項5に記載の発明によれば、所定の信号の生成伝送システムは、負圧確保が必要であるか否かを判断するためのセンサと通信系統とを含み、判断手段が、所定の信号が異常であって、センサ又は通信系統に異常があると判断した場合に、負圧確保手段は、負圧確保制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置が提供される。
【0015】
請求項6に記載の発明によれば、所定の信号の生成伝送システムは、負圧確保が必要であるか否かを判断するためのセンサと通信系統とを含み、判断手段が、所定の信号が異常であって、センサ又は通信系統が正常であると判断した場合に、負圧確保手段は負圧確保制御を行わずに、暖機制御手段は暖機制御を継続することを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置が提供される。
【0016】
請求項7に記載の発明によれば、所定の信号は、車両の移動距離を示す信号を含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の車両の制御装置が提供される。
【0017】
請求項8に記載の発明によれば、判断手段は、所定の信号と、予め定められた比較値を比較することにより、所定の信号の異常に関する判断を行うことを特徴する請求項1乃至7に記載の車両の制御装置が提供される。
【0018】
請求項9に記載の発明によれば、判断手段は、所定の信号と、所定の信号と同一の情報を示す別の所定の信号とを比較することにより、所定の信号の異常に関する判断を行うことを特徴する請求項1乃至8に記載の車両の制御装置が提供される。
【0019】
請求項10に記載の発明によれば、負圧確保制御は、点火時期の遅角制御を一時的に中止もしくは抑制する制御、もしくは内燃機関が動力を供給するエアコンプレッサを停止する制御を含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずかれに記載の車両の制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0020】
請求項1乃至10に記載の発明によれば、判断手段が、負圧確保が必要であるか否かを判断するための所定の信号が異常かどうかを判断して判断結果に基づいて、吸気管において負圧を確保する負圧確保制御を行うか否かを判断するので、負圧確保制御を適切に行うことを可能とする効果を奏する。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、判断手段が、所定の信号が異常である場合に、更に異常の内容に基づいて、負圧確保制御を行うか否かを判断するので、負圧確保制御を適切に行うことを可能とする効果を奏する。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、判断手段が、所定の信号が異常である場合で、所定の信号の生成伝送システムに異常があると判断した場合に、負圧確保手段が負圧確保制御を実行するため、負圧確保が達成できブレーキ性能の確保を可能とする効果を奏する。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、判断手段が、所定の信号が異常である場合で、所定の信号の生成伝送システムが正常であると判断した場合に、負圧確保制御を行わずに暖機制御を継続するため、機関の暖機が達成でき、排気エミッションの向上を可能とする効果を奏する。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、判断手段が、所定の信号が異常である場合で、センサ又は通信系統に異常があると判断した場合に、負圧確保手段が負圧確保制御を実行するため、負圧確保が達成できブレーキ性能の確保を可能とする効果を奏する。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、判断手段が、所定の信号が異常である場合で、センサ又は通信系統が正常であると判断した場合に、負圧確保制御を行わずに暖機制御を継続するため、機関の暖機が達成でき排気エミッションの向上を可能とする効果を奏する。
【0026】
請求項7に記載の発明によれば、所定の信号は車両の移動を示す信号を含み、この所定の信号に基づいて負圧確保が必要であるか否かを判断するため、車両の移動を検出しない場合には負圧確保が不必要と判断する。更に所定の信号が異常である場合で、所定の信号の生成伝達システムに異常があると判断した場合に、負圧確保が不必要と判断が誤りであるとして、負圧確保手段が負圧確保制御を実行するため、負圧確保が達成できブレーキ性能の確保を可能とする効果を奏する。一方、車両の移動を検出する場合には負圧確保が必要と判断する。所定の信号が異常である場合で、生成伝達システムが正常であると判断した場合に、負圧確保が必要と判断は誤りであるとして、負圧確保制御を行わずに暖機制御を継続することを選択するため、機関の暖機が達成でき、排気エミッションの向上を可能とする効果を奏する。
【0027】
請求項8又は9に記載の発明によれば、適切に所定の信号の異常に関する判断をすることを可能とする効果を奏する。
【0028】
請求項10に記載の発明によれば、適切に負圧を確保することを可能とする効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、同一または相当する部分には同一符号を付して説明を簡素化ないし省略する。
【実施例1】
【0030】
以下の順番でセンサの異常を検出して負圧確保制御を実行又は実行しない車両の制御装置について説明をする。
1.車両の基本構成
2.負圧確保と点火時期遅角制御(遅角制御)
3.車両とセンサの基本構成
4.フローチャート
5.本実施例の効果
【0031】
1.車両の基本構成
図1から図4は、実施例1の基本構成を説明するための模式図である。図1は内燃機関の全体を示す模式図である。同図において、内燃機関はエンジン本体11を含み、内燃機関には、下記の各種のセンサが取り付けられている。ECU10は、下記の各種センサからの情報を取り込み、制御を行う。
【0032】
ECU10は、ステップモータ31のアクチュエータを制御して電子スロットル7を制御し、自由に開度設定を行って吸入空気量を調整することができる。電子スロットル7の開度を検出するスロットルポジションセンサ19が設置されている。吸入空気はエアクリーナ18から吸気管38の中に進入し、エアフロセンサ8で吸入空気量が測定される。吸入空気は吸入空気温度センサ9で温度が測定される。吸入空気はサージタンク30を通り、吸気ポートに入る。吸気ポートには燃料噴射弁4が取り付けられており、ECU10は燃料噴射弁4を制御して燃料噴射の時期および、燃料噴射量を制御する。燃料噴射された吸入空気は燃料を含んだ混合気となる。吸気ポートを通って燃焼室内に流入した混合気は点火プラグ3によって点火され、燃焼が終わった排気ガスは排気ポートを通って排気管に流入する。
【0033】
排気管39には、A/Fセンサ14、触媒40及び酸素センサ13が取り付けられている。なお、エンジン冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ6が冷却水通路に取り付けられている。ECU10は上記の各種センサの情報を取り込み、エンジン11、ステップモータ31およびブレーキ装置16を制御している。ECU10が車両の制御装置を実現するものである。車両の制御装置は暖機制御手段と負圧確保手段と判断手段とを備えるためECU10が暖機制御手段と負圧確保手段と判断手段とを実現するものである。
【0034】
2.負圧確保と点火時期遅角制御(遅角制御)
図2は、ブレーキブースタ32に吸気管38の負圧の確保することを説明するための模式図である。図2において電子スロットル7をバイパスするバイパス通路37が設置されている。吸気管38からバイパス通路37へ入りこむ吸入空気量を調節するバイパスバルブ20が、バイパス通路37に設置されている。ECU10はバイパスバルブ20の制御を行う。バイパス通路37にはエゼクタ(絞り部とも言う)13が設けられている。エゼクタ13を吸気が通過する際に負圧が発生し、この負圧はブレーキブースタ32に供給される。ブレーキブースタ32は、蓄えられた負圧によってブレーキ力を高める。ブレーキブースタ32の負圧タンクに通じる連通管33が設置されており、連通管33とエゼクタ13とは第一負圧供給管によって接続され設置されている。第一負圧供給管には、連通管33からエゼクタ13への空気流れだけを許容する第一逆止弁34が配置されている。
【0035】
また、ブレーキブースタ32の負圧タンクには、電子スロットル7の下流側で発生する吸気管負圧も供給される。そのために、連通管33は、第二負圧供給管によって、例えばバイパス通路37のエゼクタ13下流側とも接続されている。第二負圧供給管には、連通管33からバイパス通路37への空気流れだけを許容する第二逆止弁35が配置されている。こうして、ブレーキブースタ32に負圧が供給される構造となっている。
【0036】
エンジン11の始動時には、機械回転数が吹き上がり、この時には、電子スロットル7の下流側に絶対値のかなり大きい負圧が発生し、この負圧が第二負圧供給管を介してブレーキブースタに蓄えられる。
【0037】
エンジン11の始動直後には、排気管39に配置されている触媒40を早期に暖機して活性化温度に達するようにして、機関始動後の比較的早い時期から排気ガスを浄化して大気中へ放出することが望ましい。ECU10は触媒40を早期に暖機するために点火時期を遅角させることで排気温度を上昇させる制御を行う。この制御は点火時期遅角制御と言われている。ECU10が、エンジン11の冷間始動時に、点火時期を遅角させるとともに信号に基づき触媒40の暖機が完了したと判定したときに、ECU10は、吸入空気量調整弁の開度を徐々に小さくして吸入空気量を徐々に減少させながら点火時期を徐々に進角させる制御を実行してから通常制御に切り換える制御を実行する。
【0038】
ECU10が、点火時期を通常制御の点火時期と比して遅角すると、排気ガス温度が高まる。そのため、触媒40などの機関の暖機を行うことができる。ECU10が点火時期を通常制御の点火時期と比して遅角するとは、ECU10が点火プラグ3を制御し、点火時期を圧縮上死点での最高圧力より遅角側に離れた時期において点火し、燃焼を行うことを意味する。
【0039】
点火時期を遅角する暖機制御を実行すると、点火時期を遅角させるため機関出力が低下する。そのため、ECU10は機関出力の低下を補うために吸入空気を増量させてアイドル回転速度を上昇させる制御を行う。そのため、図5のように、点火時期遅角制御が実行されている時には、電子スロットル7の開度は通常時のアイドル時開度に比して大きく設定される。点火時期遅角制御と吸入空気量を増大させる制御とを併せて以下では暖機制御と言う。ECU10が暖機制御を実行するので、ECU10が暖機制御手段を実現するものである。
【0040】
こうして電子スロットル7の開度が大きく制御されていると、電子スロットル7の下流側では、吸気管圧が大気圧に近くなる。すると吸気管圧から大気圧を引いた値である負圧について、負圧の絶対値は低くなる。負圧の絶対値は低くなるため、消費されたブレーキブースタ内の負圧を回復するには限界がある。ブレーキブースタ内の負圧を回復させるためには、点火時期遅角制御を一時的に中止もしくは抑制して、電子スロットル開度を小さくし、結果吸入空気量を減少させ吸気管圧を低くして、負圧の絶対値を大きくすることが必要である。ECU10は、所定のセンサの検出値に関する検出情報に基づいて負圧確保が必要と判定した場合には、点火時期遅角制御を一時的に中止もしくは抑制する抑制制御を実行する。しかしながら、この抑制制御を不適切な時期に実行すると、触媒40の暖機が遅れてしまう。触媒40の暖機が遅れると排気エミッションの悪化につながる。このため、抑制制御は適時的確に行うことが求められる。
【0041】
3.車両とセンサの基本構成
図3は車両を上から見た模式図であり、トランスミッション27、クラッチ24及びディファレンシャル26と各種センサを図示している。車両移動距離に関する情報を検出することができるセンサである、タービン回転センサ22、アウトプット回転センサ23およびABSセンサ25が車両に取り付けられている。タービン回転センサ22はトランスミッションインプット回転数を測定する。トランスミッション27によって変速された回転をアウトプット回転センサ23は計測する。ABSセンサ25は車速度を計測する車速センサとしての役割も備えている。
【0042】
図4を用いて、車両移動距離に関する情報を検出するセンサの動作原理を説明する。タービン回転センサ22、アウトプット回転センサ23およびABSセンサ25は、図4(b)のように電磁ピックアップセンサ29とロータ28からなる。電磁ピックアップセンサ29は内部に永久磁石、コア及びコイルを備えており、ロータ28は溝を備える。ロータ28が回転するとロータとコイルとの距離が変化することから、すなわち永久磁石から出ている磁路の長さが変化することから、永久磁石の磁束が変化してコイルに交流電流が発生し、図5や図6にあるようなセンサ出力が得られる。図5にあるように、センサ出力のパルスの2つを1セットとして、カウンタを加算していくことで、ロータ28の回転数を基に、車両の移動距離が計測でき、車両移動距離検出値が検出される。例えば、あるギヤ比、デフ比、タイヤ比においては、ABSセンサ25のロータ28についている歯の1つは車両の移動距離に対応させると42mmであり、アウトプット回転センサ23についている歯の1つは8mm、タービン回転センサについている歯の1つは4mmにそれぞれ対応する。カウンタの値と歯の1つに対応する車両の移動距離を関連付けることで、車両の移動距離が検出できる。
【0043】
上記センサ間や、上記センサとECU10との間でデータの受け渡しが行われている。ブレーキ制御のためのECU(不図示)などが、お互いに離れて車両に設置されていることもある。データの受け渡しを担っているものを総称して通信系統と言う。通信系統には車載LANが含まれる。複数のECU間のデータ通信を行う通信形態はCAN通信と言われている。ECU10はデータの受け渡しが行われる通信系統を介して検出した情報を取得している。本実施例において、信号生成伝達システムは車両移動検出センサ及び通信系統の構成を含む。
【0044】
4.フローチャート
図7のフローチャートを用いて本実施例の具体的な制御について説明を行う。ECU10はこのフローチャートを所定のクランク角毎に実行する。ステップ1(以下S1と称する)からS3で以下の条件をECU10は判定する。全ての条件を満たしたときにS4に進む。
アイドルONの状態であること。(S1) 点火時期の遅角量である点火時期遅角量が所定値αより大きいこと。(S2) 負圧の絶対値が所定値βよりも小さいこと。(S3) なお、(1)で、アイドルONの状態であることという条件に代わって、スロットル開度が所定値以下であることとしてもよい。
【0045】
(1)において、アイドルONの状態であるとは、アクセルペダルが踏み込まれていない状態である。アイドルONの状態の場合にはドライバがブレーキペダルを踏みこんでブレーキ操作を行う可能性が大きい。アクセルベタルセンサ(不図示)から信号をECU10は取得して、この判断に使う。このほか、ECU10は、電子スロットルの開度に関する情報を取得して、あるいは、スロットルポジションセンサ19からスロットル開度に関する情報を取得して、スロットル開度が所定値以下であることを判定して、ドライバがブレーキペダルを踏みこんでブレーキ操作を行う可能性が大きいと判定する、としてもよい。(2)において、触媒暖機のための点火時期遅角制御が行われているか否かを判定する。(3)において、点火時期遅角制御を行っているので、スロットル開度を大きく制御しているために、吸入管の負圧が低下しているかどうかを判定する。
【0046】
S4では、以下の条件を判定する。
(4)ABSセンサ25を使って検出した車両移動距離検出値が所定値以上であること。このステップでは、車両が走行中であるか否かを判定する。車両移動距離検出値が所定値以上である場合には、S6に進む。否定された場合にはS5に進む。ECU10は、(1)及び(4)の条件を合わせて、アイドルONの状態であり、かつ車両が走行中であるという条件から、ドライバがブレーキ操作を行う可能性が高く、(3)の条件から負圧確保が必要であることを上記のセンサの情報を基に判断することができる。そのため、負圧確保が必要であるか否かを判断するための所定の信号とは、(1)、(3)及び(4)の条件を判定するための信号である。
【0047】
S6においては、ECU10は点火時期遅角制御を一時的に中止もしくは抑制する抑制制御を実行する。ECU10は、この抑制制御を実行することで負圧確保が達成できる。負圧を確保するために、エアコンプレッサ21を停止してもよい。エアコンプレッサ21が作動しているときは、エンジン11に負荷がかかり、そのため、エンジン11の出力を大きくするためにスロットル開度を大きくするという処置が取られる。つまり、エアコンプレッサ21が停止しているときは、エアコンプレッサ21が作動しているときに比し、電子スロットル開度を小さくすることができる。そのため、負圧の確保が可能となる。負圧確保制御は、抑制制御又はエアコンプレッサ21を停止する制御を含む。エアコンプレッサ21のほかにエンジン11に負荷をかける補器の作動を停止する制御をおこなってもよい。
【0048】
S6では抑制制御もしくはエアコンプレッサ21を停止する制御を実行して負圧を確保する。S6が負圧確保手段に相当する。すなわち、ECU10が負圧確保手段を実現するものである。
【0049】
S5では、信号生成伝達システムを構成する車両移動検出センサであるABSセンサ25又は通信系統に異常があるかどうかを判定する。この判定方法を説明すると、判断手段は、ABSセンサ25を使って検出した車両移動距離検出値と、アウトプット回転センサを使って検出した車両移動距離検出値とを比較して、ABSセンサ25を使って検出した車両移動距離検出値が大幅に小さい場合には、ABSセンサ25又は通信系統に異常があると判定する。この場合には、S6に進む。
【0050】
通信系統に異常があるか否かを判定する方法を説明すると、ECU10がABSセンサ25やブレーキ制御のためのECUにデータ取得の指令を出して、データが取得できないときには、通信系統に異常があると判定する。通信系統の異常があると判定した場合にはS6に進む。判断手段は、このようにして、所定の信号が異常であり、所定の信号の生成伝送システムが異常であることを判断する。
【0051】
なお、車両移動検出センサとして、ABSセンサ25を採用したが、アウトプット回転センサ23や、タービン回転センサ22を使ってもよい。判断手段は、この車両移動検出センサから検出された車両の移動距離に関する情報と、別の車両移動検出センサから検出された車両の移動距離に関する情報とを比較することで、この車両移動検出センサが異常か否かを判定する。S1からS5が判断手段に相当する。ECU10が判断手段を実現するものである。判断手段が、車両移動検出センサが異常であると判断した場合は、所定の信号が異常であって、所定の信号の生成伝送システムに異常があると判断した場合に含まれる。
【0052】
5.本実施例の効果
本実施例は、判断手段に相当するS1からS5の構成のうち、S5の構成をもつことで、センサの出力もしくは通信系統に異常がある場合には、ABSセンサ25の車両移動距離検出値が所定値以下であっても、S6に進み、点火時期遅角制御を一時的に中止もしくは抑制する抑制制御を実行する。こうすることで、点火時期遅角を行っており、負圧確保が必要な場合であって、センサの出力もしくは通信系統が異常であって、車両の移動を正確に検出できない場合には、確実にブレーキの負圧を確保することができる。ブレーキの負圧を確実に確保することで、走行安全性を高めることができる。特に、車両移動検出センサとして、本実施例のようにABSセンサ25を採用した場合、ブレーキ操作ために安全上重要であるABSセンサが異常をきたした場合には、暖機制御より優先してブレーキの負圧確保を行い、走行安全性を優先する効果がある。
【実施例2】
【0053】
以下の順番でセンサの異常とセンサに重畳したノイズとを検出して負圧確保制御を実行又は実行しない車両の制御装置について説明をする。
1.車両移動検知センサによる移動検出とノイズ
2.フローチャート
3.本実施例の効果
【0054】
1.車両移動検知センサによる移動検出とノイズ
移動距離検出センサの出力は、図5および図6にあるように波形の形をしている。そこで、このセンサの出力の周期を検出することができて、周期が短い場合には車速度が大きく、周期が長い場合には車速度が小さいとして、センサの出力の周期と車速度とを変換することができる。このセンサの出力の周期から算出した車速度をSと言う。例えば、アウトプット回転センサはロータ28の歯1つが8mmに対応する場合には、歯1つに対応するパルスが1msであるとき、Sは約29km/hと算出できる。移動距離検出センサとして、アウトプット回転センサ23を使う。アウトプット回転センサ23の電磁ピックアップセンサ29は内部に永久磁石、コア及びコイルを備えており、ロータ28の回転にあわせて、永久磁石の磁束が変化してコイルに交流電流を検出する。
【0055】
このような構造になっているために、何かの原因で外来の電波や電気ノイズをコイルが誤って検出してしまうと交流電流が発生し、ロータ28が回転をしていないに、センサに出力波形が発生することがある。また、なんらかの原因で電磁ピックアップセンサ29が左右に振動すると、ロータ28が停止しているのにもかかわらず、出力波形が発生することがある。これらの現象をチャタリングと称する。このようなチャタリングによって、アウトプット回転センサ23はノイズ信号を生成する。センサがノイズ信号を生成すると、センサ出力のパルスの間隔が短くなる。言い換えると、周期が短くなるため、周期から算出したSが大きくなる。
【0056】
このSの値と、アウトプット回転センサ23以外の移動距離検出センサ、例えば、ABSセンサ25で検出した車速度とを比較することで、ECU10は、検出値にノイズ信号が重畳しているか否かを判定することができる。S1からS5、S50及びS51が判断手段に相当する。ECU10が判断手段を実現するものである。判断手段が、ノイズが発生したと判断する場合は、所定の信号が異常であって、所定の信号の生成伝送システムが正常であると判断した場合に含まれる。
【0057】
2.フローチャート
図8のフローチャートを用いて本実施例の具体的な制御について説明を行う。ECU10は図8のフローチャートを所定のクランク角毎に実行する。実施例1のフローチャートである図7と共通するステップは、ステップの番号を同一にして説明を省略する。
【0058】
S4でABSセンサ25を使って検出した車両移動距離検出値が所定値以上と判定された場合には、S51に進む。S51では、アウトプット回転センサ23のセンサ出力からパルスの周期を検出して、図6にあるように周期から車速度Sを算出する。S52では、このSとABSセンサ25で検出した車速度とを比較する。そして、SがABSセンサ25で検出した車速度に比して大きい場合には、このルーチンを抜ける。SとABSセンサ25で検出した車速度とが大きく違わない場合には、S6に進む。
【0059】
SがABSセンサ25で検出した車速度より大きいとは、アウトプット回転センサ23で検出した車両移動距離検出値になんらかの誤りがあり、ABSセンサ25で検出した車両移動距離検出値より大きいことを意味する。言い換えると、アウトプット回転センサ23が発する信号は異常であって、信号の生成伝送システムに含まれるアウトプット回転センサ23は正常であることを意味する。S1からS4、S50およびS51が判断手段に相当する。すなわち、ECU10が判断手段を実現するものである。
【0060】
車両移動検出センサとして、アウトプット回転センサ23を採用したが、タービン回転センサ22を使ってもよい。車速度を検出するためにABSセンサを使ったが、他の車速センサの検出値を採用してもよい。判断手段は、この車両移動検出センサから検出された車両の移動距離に関する情報と、別の車両移動検出センサから検出された車両の移動距離に関する情報とを比較することで、この車両移動検出センサにノイズが重畳したか否かを判定する。
【0061】
3.本実施例の効果
本実施例は実施例1の効果に加えて以下の効果を奏する。本実施例は、S50において、車両移動検出センサの波形から周期を検出して車速度Sを検出した。S51において、このSと他のセンサで検出した車速度とを比較することでノイズが重畳したか否かを判定する。移動検出センサにノイズによる誤差が発生した場合には、センサの誤った検出結果を基にして、負圧確保が必要な場合であると誤った判断がされてしまう。誤った判断を基にして、点火時期遅角制御を一時的に中止もしくは抑制する抑制制御を実行すると、機関の暖機が遅れることになり、排気エミッションが悪化するおそれがある。本実施例のS50、S51では、抑制制御を実行することによる排気エミッションの悪化を抑制することができる。
【0062】
本実施例では、ECU10は車両移動検出センサの異常の種類を検出する。言い換えると、センサもしくは通信系統の異常であるのか、ノイズが発生したのかをECU10は検出する。この検出は判断手段に含まれるS5又はS51において行われる。ECU10が車両移動検出センサの異常の内容に基づいて、負圧確保に関する制御である抑制制御あるいはエアコンプレッサ21の停止を実行することを決めるために、負圧確保に関する制御を適切に行うことが可能となる。
【0063】
なお、本実施例では、移動検出センサにノイズによる誤差が発生を検出するために、S50において、センサの出力の周期から算出した車速度Sを算出ノイズが重畳したかを判定するたが、本発明はそれに限定されない。車両移動検出センサの出力成分のうち、周波数成分に注目して、ノイズが発生したか否かを判断してもよい。センサの信号を、電気信号の低い周波数成分を取り出すフィルタ回路であるローパスフィルタに入力して、周波数成分のうちノイズ成分を検出するようにしてもよい。このようにして、判断手段は、ノイズが発生したと判断して、所定の信号が異常であって、所定の信号の生成伝送システムが正常であると判断してもよい。
【0064】
なお、上記各実施例においては、負圧確保が必要であるか否かを判断するための所定の信号として、車両の移動距離に関する信号としたが、本発明はそれに限定されない。本発明は、負圧確保が必要であるか否かを判断するための信号であれば適応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】内燃機関の全体構成を示す模式的な側面図である。
【図2】吸気管圧を用いた負圧確保のためのエゼクタを説明するための模式図である。
【図3】車両に搭載されているトランスミッションと移動検出センサを示した図である。
【図4】移動検出センサの基本構成を示す模式図とノイズの発生のメカニズムを説明した図である。
【図5】センサ出力に対してカウンタ、車速度、暖機遅角を時系列に沿って説明した図である。
【図6】センサ出力に対してカウンタ、車速度、暖機遅角を時系列に沿って説明した図である。
【図7】実施例1に記載のルーチンを示した図である。
【図8】実施例2に記載のルーチンを示した図である。
【符号の説明】
【0066】
1 クランクシャフトポジションセンサ
2 OCV
3 イグニッションコイル
4 燃料噴射弁
5 ノックセンサ
6 冷却水温度センサ
7 電子スロットル
8 吸気温度センサ
9 エアフロセンサ
10 ECU(電子制御装置)
11 エンジン
12 VVT(吸気)
13 酸素センサ
14 A/Fセンサ
15 クランクシャフトポジションセンサ
16 ブレーキ装置
17 VVT(排気)
18 エアクリーナ
19 スロットルポジションセンサ
20 バイパスバルブ
21 エアコンプレッサ
22 タービン回転センサ
23 アウトプット回転センサ
24 クラッチ
25 ABSセンサ
26 ディファレンシャル
27 トランスミッション
28 ロータ
29 電磁ピックアップセンサ
30 サージタンク
31 ステップモータ
32 ブレーキブースタ
33 連通管
34 第一逆止弁
35 第二逆止弁
37 バイパス通路
38 吸気管
39 排気管
40 触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関暖機運転時に、点火時期を遅角させるとともに吸入空気量を増大させ暖機制御を行う暖機制御手段と、
前記吸入空気量を制御して、ブレーキブースタに供給される内燃機関の吸気管の負圧を確保する負圧確保制御を行う負圧確保手段と、
前記暖機制御中に、負圧確保が必要であるか否かを判断するための所定の信号が異常かどうかを判断し、該判断結果に基づいて前記負圧確保制御を行うか否かを判断する判断手段とを備えた、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記判断手段は、前記所定の信号が異常である場合に、更に該異常の内容に基づいて、前記負圧確保制御を行うか否かを判断する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記判断手段が、前記所定の信号が異常であって、前記所定の信号の生成伝送システムに異常があると判断した場合に、
前記負圧確保手段は、前記負圧確保制御を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記判断手段が、前記所定の信号が異常であって、前記所定の信号の生成伝送システムが正常であると判断した場合に、
前記負圧確保手段は前記負圧確保制御を行わずに、前記暖機制御手段は前記暖機制御を継続する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記所定の信号の生成伝送システムは、負圧確保が必要であるか否かを判断するためのセンサと通信系統とを含み、
前記判断手段が、前記所定の信号が異常であって、前記センサ又は前記通信系統に異常があると判断した場合に、
前記負圧確保手段は、前記負圧確保制御を行う、
ことを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記所定の信号の生成伝送システムは、負圧確保が必要であるか否かを判断するためのセンサと通信系統とを含み、
前記判断手段が、前記所定の信号が異常であって、前記センサ又は前記通信系統が正常であると判断した場合に、
前記負圧確保手段は前記負圧確保制御を行わずに、前記暖機制御手段は前記暖機制御を継続する、
ことを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記所定の信号は、車両の移動距離を示す信号を含む、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記判断手段は、前記所定の信号と、予め定められた比較値を比較することにより、前記所定の信号の異常に関する判断を行う、
ことを特徴する請求項1乃至7に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記判断手段は、前記所定の信号と、前記所定の信号と同一の情報を示す別の所定の信号とを比較することにより、前記所定の信号の異常に関する判断を行う、
ことを特徴する請求項1乃至8に記載の車両の制御装置。
【請求項10】
前記負圧確保制御は、前記点火時期の遅角制御を一時的に中止もしくは抑制する制御、もしくは前記内燃機関が動力を供給するエアコンプレッサを停止する制御を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずかれに記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−41405(P2009−41405A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205743(P2007−205743)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】