車両の制御装置
【課題】燃料カットからの復帰時において、混合気の燃焼状態が不安定なときに生じるおそれのあるエンジンストールの発生を抑制することのできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関10の出力軸10aは、ロックアップクラッチ機構14を備えるトルクコンバータ11を介してCVT12に接続されている。ECU18は、燃料カットの実行中の機関回転速度が復帰回転速度近傍の速度であってこの復帰回転速度よりも高い一定の速度に維持されるようにCVT12の変速比を制御する。そしてECU18は、燃料カット実行中の機関回転速度及び復帰回転速度を機関水温が低いときほど高い回転速度となるように変更する。
【解決手段】内燃機関10の出力軸10aは、ロックアップクラッチ機構14を備えるトルクコンバータ11を介してCVT12に接続されている。ECU18は、燃料カットの実行中の機関回転速度が復帰回転速度近傍の速度であってこの復帰回転速度よりも高い一定の速度に維持されるようにCVT12の変速比を制御する。そしてECU18は、燃料カット実行中の機関回転速度及び復帰回転速度を機関水温が低いときほど高い回転速度となるように変更する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機を搭載した車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用の変速機として、変速比を無段階で連続的に変更可能な無段変速機(Continuously Variable Transmission:CVT)が実用化されている。このような車載用のCVTとして、特許文献1には、金属ベルトを使用するとともに、入力側(エンジン側)と出力側(ドライブシャフト側)のプーリの径を変化させて変速するベルト式CVTが記載されている。また、ベルトとプーリの代わりにローラーとディスクを使用するトロイダルCVTもある。こうしたCVTを搭載する車両では、車両の走行状況に応じてエンジントルクとCVTの変速比とを協調制御することで、車両の燃費特性や運転性能を最適化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−184834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他方、車両に搭載される内燃機関では、アクセルペダルが踏み込まれていない状態で機関回転速度が所定値以上である場合、燃料噴射弁からの燃料噴射を一時的に停止する処理、いわゆる燃料カットが行われる。この燃料カットは、機関回転速度が復帰回転速度以下になると中止されて再び燃料噴射が開始される。上記燃料カットは、燃費の向上を図る上では、極力長い期間にわたって行われるようにすることが好ましい。
【0005】
そこで、上述したような無段変速機を搭載した車両においては、燃料カット中の機関回転速度ができる限り長い間復帰回転速度を上回っているように変速比を制御することで、燃料カットを極力長い間継続させることができる。
【0006】
より詳細に述べると、復帰回転速度については可能な限り低い回転速度を設定しておくとともに、機関回転速度については復帰回転速度よりもやや高い一定の目標回転速度を設定する。そして、燃料カット中は車速の低下に伴って機関回転速度も低下していくが、この機関回転速度の低下過程において同機関回転速度が上記目標回転速度に達したときには、機関回転速度が目標回転速度に維持されるように無段変速機の変速比を制御する。より具体的には、車速の低下に伴う機関回転速度の低下を抑えるように変速比(無段変速機の入力軸の回転速度/無段変速機の出力軸の回転速度)を大きくしていく。
【0007】
このようにして燃料カット中の機関回転速度を復帰回転速度近傍の速度であって同復帰回転速度よりもやや高い速度に維持する制御を行うようにすれば、燃料カットの実行期間を長くすることができる。また、燃料カット中にアクセルペダルが踏み込まれて加速要求がなされたときには、無段変速機の変速比が既に比較的大きな値にされているため、加速要求を満たす所望の変速比(一般的には大きい変速比)に向けて速やかに変更することができる。従って、所望の変速比に変速するまでの間において、運転条件が燃費特性や加速特性の点で最適な条件から外れることを極力抑制することも可能になる。
【0008】
ところで、上述したように機関回転速度を復帰回転速度近傍に維持する場合には、燃料カット実行中の機関回転速度が比較的低い回転速度に維持されるため、次のような不都合の発生が懸念される。
【0009】
例えば機関温度が低い場合などのように、混合気の燃焼状態が不安定になる場合には、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開されたとしても、その燃料噴射の再開から十分な機関出力が発生するようになるまでにはある程度の時間がかかり、この時間内においては機関回転速度が低下してしまう。従って、燃料カット実行中の機関回転速度が比較的低い回転速度に維持される場合には、燃料カットからの復帰直後における機関回転速度も低くなっており、この低回転状態から機関回転速度が低下することになる。この場合には、機関出力が十分に発生する前に機関回転速度が大きく低下し、エンジンストールに至ってしまうおそれがある。
【0010】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、燃料カットからの復帰時において、混合気の燃焼状態が不安定なときに生じるおそれのあるエンジンストールの発生を抑制することのできる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、燃料カット実行中の機関回転速度が復帰回転速度を下回ったときに燃料カットが中止される内燃機関と同内燃機関に接続される無段変速機とを備える車両に適用されて、前記内燃機関及び前記無段変速機の制御を行う制御装置であって、前記燃料カット実行中の機関回転速度が、前記復帰回転速度近傍の速度であって同復帰回転速度よりも高い一定の速度に維持されるように前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を前記内燃機関の混合気の燃焼状態についての不安定度が高いときほど高い回転速度に変更する変更手段と、を備えることを要旨とする。
【0012】
この発明では、燃料カットの実行中、無段変速機の変速比を制御することで機関回転速度を燃料カットの復帰回転速度よりもやや高い回転速度に維持するようにしており、これにより燃料カットの実行期間が可能な限り長くされる。
【0013】
ここで、本発明では、燃料カット実行中の機関回転速度及び復帰回転速度は、混合気の燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度に設定される。そのため、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開された直後の機関回転速度は、混合気の燃焼状態が不安定なときほど高くなり、燃料噴射が再開された直後の機関回転速度がエンジンストールに至るまで低下するのに要する時間は、混合気の燃焼状態が不安定なときほど長くなる。従って、燃料噴射の再開後に十分な機関出力が発生するようになるまでの時間を適切に確保することができるようになり、これにより燃料カットからの復帰時において、混合気の燃焼状態が不安定なときに生じるおそれのあるエンジンストールの発生を抑制することができる。
【0014】
なお、燃料カット実行中の機関回転速度や復帰回転速度を燃焼状態の不安定度に応じて変更する際には、例えば、同不安定度に基づいて直接、燃料カット実行中の機関回転速度や復帰回転速度を設定するといった態様や、燃料カット実行中の機関回転速度を上記不安定度に基づいて設定するとともにその設定された機関回転速度から所定値だけ低い値を上記復帰回転速度に設定するといった態様等を採用することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記変速比制御手段は、車速が低下するほど前記変速比を大きくすることを要旨とする。
車速が低下すると無段変速機を介して機関回転速度も低下していく。ここで、無段変速機の変速比を大きくすると、車輪側に接続される無段変速機の出力軸に対して同無段変速機の入力軸の回転速度を高めることができ、その入力軸に接続される内燃機関の出力軸の回転速度、つまり機関回転速度を高めることができる。
【0016】
そこで、請求項2に記載の発明によるように、上記変速比制御手段は、車速が低下するほど無段変速機の変速比を大きくする、といった構成を採用することにより、燃料カット実行中の機関回転速度を復帰回転速度近傍の速度であって同復帰回転速度よりも高い一定の速度に維持することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記変更手段は、機関温度と相関するパラメータを検出し、その検出結果に基づいて前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を前記不安定度に応じた値に設定することを要旨とする。
【0018】
機関温度が低いときほど混合気の燃焼状態は不安定になる傾向がある。そこで、請求項3に記載の発明によるように、機関温度と相関するパラメータを検出し、その検出結果に基づいて前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を前記不安定度に応じた値に設定する、といった構成を採用することができる。なお、この構成においては、機関温度が低いときほど、燃焼状態の不安定度が高くなるため、機関温度が低いときほど燃料カット実行中の機関回転速度及び復帰回転速度を高い回転速度に設定することが望ましい。
【0019】
また、機関温度に相関するパラメータとしては、機関の冷却水温、機関の油温、機関始動からの経過時間等が挙げられる。そこで、請求項4に記載の発明によるように、前記変更手段は、前記パラメータとして機関の冷却水温を検出し、前記冷却水温が低いときほど前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を高い回転速度に設定するといった構成を採用することもできる。ちなみに、吸気温が低いときも燃焼状態は不安定になる。従って、吸気温を検出し、その検出結果に基づいて燃料カット実行中の機関回転速度及び復帰回転速度を上記不安定度に応じた値に設定するようにしてもよい。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記内燃機関の出力軸と前記無段変速機の入力軸との間には、前記出力軸と前記入力軸とを接続状態及び非接続状態に切り換える接続機構が設けられており、車速が所定値以下となったときには前記出力軸と前記入力軸とが非接続状態になるように前記接続機構の作動状態が制御されることを要旨とする。
【0021】
この発明によれば、車速が所定値以下になると、内燃機関の出力軸と無段変速機の入力軸との接続が解除される。このような各軸の接続解除が燃料カットの実行中に行われると、機関回転速度が低下して復帰回転速度を下回るようになるため、燃料噴射が再開される。また、この燃料噴射の再開に際しては、内燃機関の出力軸と無段変速機の入力軸との接続が解除されているため、内燃機関に対する車両駆動系の負荷は非常に小さくなっており、燃料カットからの復帰が速やかになされる。
【0022】
従って、燃料カット実行中の機関回転速度を復帰回転速度近傍の速度であって同復帰回転速度近傍よりも高い一定の速度に維持する場合であっても、燃料カットの中止を確実に実施することができるとともに、燃料カットからの復帰も速やかに行うことができる。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記接続機構の作動状態が接続状態となるように制御指令値が出力されているときに実際の作動状態が接続状態となっているか否かを判定する判定手段と、同判定手段により実際の作動状態が接続状態になっていない旨の判定がなされたときには、前記復帰回転速度を、一定の速度に維持される前記燃料カット実行中の機関回転速度よりも高い回転速度であって前記燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度となるように変更する第2の変更手段とを備えることを要旨とする。
【0024】
上記接続機構の作動状態を接続状態から非接続状態にしたり、非接続状態から接続状態にしたりするときに作動状態の切り替えが急速に行われると、車両の動力伝達系にショックが発生するおそれがある。そのため、通常、接続機構の作動状態を切り替えるときには、その切替が徐々に行われるように同接続機構に対する制御指令値の調整が行われる。
【0025】
他方、上記接続機構の作動状態が接続状態となるように制御指令値が出力されているときに、同接続機構に対して外乱等が作用することにより、制御指令値に反して接続機構の作動状態が非接続状態になると、機関回転速度が急速に低下する。このようにして機関回転速度が低下しても復帰回転速度を下回れば燃料噴射が再開されるのであるが、このときの機関回転速度の低下速度は、接続状態が徐々に切り替えられる通常時の低下速度に比べて速いために、復帰回転速度を下回った後の回転速度の落ち込み量が大きくなる。そのため、燃料噴射を再開した後の機関回転速度の復帰が間に合わず、エンジンストールが生じる可能性がある。とくに、混合気の燃焼状態が不安定なときには、上述した理由によりエンジンストールが発生しやすくなるおそれがある。
【0026】
そこで、上記発明では、接続機構が本来接続状態となっているべきときに接続が解除されていると判定される場合、復帰回転速度を、燃料カット実行中において一定の回転速度に維持される機関回転速度よりも高い回転速度に変更するようにしている。そのため、接続機構が制御指令値とは異なる作動状態になっている旨判定されると、そのときの機関回転速度は変更された復帰回転速度以下の回転速度になるため、直ちに燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される。従って、変更前の復帰回転速度にまで機関回転速度が低下する前に燃料噴射が再開されるようになり、復帰回転速度を変更しない場合と比較して機関回転速度がより高い状態で燃料噴射が再開されるようになる。従って、燃料噴射を再開した後の機関回転速度の落ち込み量が大きくなる場合であっても、エンジンストールの発生を抑えることができる。また、上記第2の変更手段では、変更される復帰回転速度についてこれを燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度となるように変更するようにしている。そのため、混合気の燃焼状態の不安定度に応じて、変更後の復帰回転速度も変化させることができ、上記作用を適切に得ることができる。
【0027】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の発明において、前記無段変速機の入力軸にはトルクコンバータが接続されており、前記接続機構は、前記トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチ機構であることを要旨とする。
【0028】
上記接続機構としては、請求項6に記載の発明によるように、トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチ機構を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明にかかる車両の制御装置の一実施形態について、これが適用される車両の概略構成図。
【図2】アクセル操作量と車速とに基づいたロックアップON・OFFの関係を示すグラフ。
【図3】ロックアップ及び燃料カット実行状態に基づいた無段変速機の変速比を示すグラフ。
【図4】目標回転速度設定処理の手順を示すフローチャート。
【図5】機関水温と目標入力回転速度との関係を示すグラフ。
【図6】復帰回転速度設定処理の手順を示すフローチャート。
【図7】機関水温と復帰回転速度との関係を示すグラフ。
【図8】目標回転速度設定処理及び復帰回転速度設定処理を実行した場合において、機関水温が高いときの各パラメータの推移の一例を示すタイミングチャート。
【図9】目標回転速度設定処理及び復帰回転速度設定処理を実行した場合において、機関水温が低いときの各パラメータの推移の一例を示すタイミングチャート。
【図10】燃料カット実行中にロックアップON信号が出力されている状態でロックアップクラッチ機構によるロックアップが解除された場合において、燃料カットからの復帰の態様を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図1〜図10を参照して説明する。
図1に示すように、内燃機関10の出力軸10aには、作動流体を介してトルク伝達を行うトルクコンバータ11が接続されている。このトルクコンバータ11には、無段変速機(以下、CVTという)12の入力軸12aが接続されており、CVT12の出力軸12bは駆動輪13に接続されている。
【0031】
トルクコンバータ11には、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとを機械的に接続する接続機構としてのロックアップクラッチ機構14が備えられている。
【0032】
このロックアップクラッチ機構14の作動を通じて、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとが直接的に接続された「接続状態」と、出力軸10aと入力軸12aとの接続が解除された「非接続状態」とが切り替えられる。
【0033】
CVT12は連続して無段階に変速比を変更可能な変速機である。具体的には、CVT12は、出力軸12b(駆動輪13側)が接続された出力プーリ15と、入力軸12a(トルクコンバータ11側)が接続された入力プーリ16と、それらプーリ15,16の間に巻き掛けられたベルト17とを備えている。両プーリ15,16は例えば油圧などを駆動源としてその溝幅をそれぞれ自在に変更可能となっており、その溝幅の変更に応じて上記ベルト17の巻き掛け半径が各々調整される。
【0034】
内燃機関10、CVT12、ロックアップクラッチ機構14等は、電子制御装置(以下、ECUという)18によって制御される。
ECU18は、エンジン制御、変速機制御などをそれぞれ専門に司る複数のマイクロコンピュータ・ユニットによって構成されており、車両各部に設けられたセンサ類によって検出された情報に基づき、車両の各種制御を行う。
【0035】
例えば、車両には、車速SPDを検出する車速センサ19やアクセルペダルの操作量ACCPを検出するアクセルセンサ20、入力プーリ16とともに回転する入力軸12aの回転速度(入力軸回転速度Nin)を検出する入力軸回転速度センサ21が設けられている。また、シフトレバーの位置を検出するシフト位置センサ22、走行モードとしてのノーマルモード及びスポーツモードのいずれかを選択するための走行モード選択スイッチ23等も設けられている。また、内燃機関10は、機関回転速度NEを検出する機関回転速度センサ25、機関水温Thwを検出する水温センサ24、吸気系の圧力PMを検出する吸気圧センサ26、吸入空気量を検出するエアフロメータ等が設けられている。
【0036】
ECU18は、図示しない油圧制御回路による油圧制御を通じて、CVT12の変速比やロックアップクラッチ機構14の作動を制御する。また、ECU18は、上記各種センサの検出結果に基づいて内燃機関10の燃料噴射制御等、各種の機関制御を行う。
【0037】
図2に示すように、ロックアップクラッチ機構14の作動は、車速SPD及びアクセル操作量ACCPに基づきECU18により制御される。より具体的には、車速がある程度高い車速H2以上のときには、アクセル操作量ACCPにかかわらず、ECU18から制御指令値であるロックアップON信号が出力されて、ロックアップが実行される(ロックアップON)ことにより、トルクコンバータ11での駆動力損失が抑えられる。
【0038】
また、車速がある程度低いロックアップ解除速度H1以下(H1<H2)のときには、アクセル操作量ACCPにかかわらず、ECU18から制御指令値であるロックアップOFF信号が出力されて、ロックアップが解除される(ロックアップOFF)。これは、ロックアップが実行されている状態では、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとが直結状態になっている。そのため、車速の低下に伴って機関回転速度も低下していくのであるが、車両が停止状態になるまでロックアップの実行を継続すると機関回転速度が低下しすぎてエンジンストールが生じてしまう。そこで、車速がロックアップ解除速度H1以下となったときにはロックアップを解除して内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとを非接続状態にすることで、上記エンジンストールの発生が回避される。
【0039】
また、車速がロックアップ解除速度H1と車速H2との間にあるときには、車速SPD及びアクセル操作量ACCPに基づいてロックアップの状態が切り替えられる。より詳細には、アクセル操作量ACCPが所定値A以上のときには、ロックアップOFF信号がECU18から出力されてロックアップは解除される。また、アクセル操作量ACCPが所定値A未満のときには、ロックアップON信号がECU18から出力されてロックアップが実行される。そして、上記所定値Aは車速が増加するほど大きくなるように可変設定される。これにより、車速が低いときほど少ないアクセル操作量ACCPでロックアップが解除されるようになり、トルクコンバータ11によるトルク増大作用が低速度域において好適に得られるようになる。
【0040】
なお、ロックアップクラッチ機構14の作動状態を接続状態(ロックアップON)から非接続状態(ロックアップOFF)にしたり、非接続状態(ロックアップOFF)から接続状態(ロックアップON)にしたりするときに作動状態の切り替えが急速に行われると、車両の動力伝達系にショック等が発生するおそれがある。そのため、ロックアップクラッチ機構14の作動状態を切り替えるときには、その切替が徐々に行われるように同ロックアップクラッチ機構14に対する制御指令値の調整を行うようにしている。より具体的には、ロックアップクラッチ機構14は、油圧供給によりロックアップON状態になり、油圧供給の停止によってロックアップOFF状態になるように構成されており、作動状態の切り替えに際しては油圧が徐々に変化するように油圧制御される。
【0041】
また、ECU18は、車両の減速時に内燃機関10の燃料噴射を停止する、いわゆる減速時燃料カットを実行する。この燃料カットは、アクセルペダルが踏まれていないこと及び機関回転速度NEが所定の復帰回転速度を超えていることを条件に実行される。そして、機関回転速度が復帰回転速度以下になった場合、あるいはアクセペダルが踏み込まれると燃料カットは中止されて燃料噴射が再開される。
【0042】
上記燃料カットは、燃費の向上を図る上では、極力長い期間にわたって行われるようにすることが望ましい。そこで、本実施形態における車両の制御装置は、燃料カット中の機関回転速度NEができる限り長い間復帰回転速度を上回っているようにCVT12の変速比を制御して、燃料カットを極力長い間継続させるようにしている。
【0043】
より詳細には、復帰回転速度Nrtluについては可能な限り低い回転速度が設定される。また、図3に示すように、機関回転速度NEについては復帰回転速度Nrtluよりもやや高い一定の目標速度NEpとなるように制御される。ここで、減速時の燃料カット中は車速がある程度あるため、ロックアップクラッチ機構14はロックアップ状態になっており、機関回転速度NEとCVT12の入力軸12aの回転速度とは同一の速度になる。また、燃料カット中には燃料噴射制御による機関回転速度の調整は不可能であるが、CVT12の変速比制御による入力軸12aの回転速度制御を通じて機関回転速度を調整することが可能である。そこで、機関回転速度NEが上記目標速度NEpに維持されるように制御するに際しては、入力軸12aの目標回転速度Nintが設定され、同入力軸12aの回転速度が目標回転速度NintとなるようにCVT12の変速比が調整される。
【0044】
先の図3に実線にて示すように、機関回転速度NE(=入力軸12aの回転速度)が目標速度NEp(=目標回転速度Nint)にまで低下するまでは、CVT12の変速比が最小変速比で維持される。そして、機関回転速度NE(=入力軸12aの回転速度)が目標速度NEp(=目標回転速度Nint)に達すると、上述したように機関回転速度NE(=入力軸12aの回転速度)を目標速度NEp(=目標回転速度Nint)に維持するべくCVT12の変速比が制御される。より具体的には、車速の低下に伴う機関回転速度NEの低下を抑えるように変速比(CVT12の入力軸12aの回転速度/CVT12の出力軸12bの回転速度)が大きくされていく。なお、復帰回転速度Nrtluと目標回転速度Nintとの差については、変動等によって機関回転速度が一時的に復帰回転速度Nrtluを下回ることがないように、その差をある程度設けつつも可能な限り小さい値にすることが望ましい。
【0045】
ちなみに、機関回転速度NEが上記目標速度NEpに維持されるようにCVT12の変速比を制御する処理はECU18によって行われ、この処理を実行するECU18は上記変速比制御手段を構成している。
【0046】
このようにして燃料カット中の機関回転速度NEを復帰回転速度Nrtlu近傍の速度であって同復帰回転速度Nrtluよりもやや高い一定の目標速度NEpに維持する制御を行うことで燃料カットの実行期間が長くなる。また、燃料カット中であって機関回転速度NEが上記目標速度NEpに維持されているときにアクセルペダルが踏み込まれて加速要求がなされたときには、CVTの変速比が既に比較的大きな値にされているため、加速要求を満たす所望の変速比(一般的には大きい変速比)に向けて速やかに変更することができる。従って、所望の変速比に変速するまでの間において、運転条件が燃費特性や加速特性の点で最適な条件から外れることを極力抑制することも可能になる。
【0047】
ところで、上述したように機関回転速度NEを復帰回転速度Nrtluの近傍に維持する場合には、燃料カット実行中の機関回転速度NEが比較的低い回転速度に維持されるため、次のような不都合の発生が懸念される。
【0048】
例えば機関温度が低い場合などのように、混合気の燃焼状態が不安定になる場合には、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開されたとしても、その燃料噴射の再開から十分な機関出力が発生するようになるまでにはある程度の時間がかかり、この時間内においては機関回転速度NEが低下してしまう。従って、燃料カット実行中の機関回転速度NEが比較的低い回転速度に維持される場合には、燃料カットからの復帰直後における機関回転速度NEも低くなっており、この低回転状態から機関回転速度NEが低下することになる。この場合には、機関出力が十分に発生する前に機関回転速度NEが大きく低下し、エンジンストールに至ってしまうおそれがある。
【0049】
そこで、本実施形態では、上記目標回転速度Nintを設定する以下の目標回転速度設定処理と、上記復帰回転速度を設定する以下の復帰回転速度設定処理とを実行することにより、そのようなエンジンストールの発生を抑えるようにしている。
【0050】
図4に、目標回転速度設定処理の手順を示す。なお、この目標回転速度設定処理は、ECU18によって所定の制御周期ごとに繰り返し実行される。
本処理では、まず、ステップS11において、機関水温Thwに基づき、目標回転速度算出マップを参照して目標回転速度Nintが算出される。図5に示すように、目標回転速度算出マップには、機関水温Thwに対応する目標回転速度Nintが設定されている。この目標回転速度算出マップでは、機関水温Thwが所定値T以上であり内燃機関10が暖機完了状態であると判断できる領域では目標回転速度Nintが一定の最小値Aとなるように設定される。一方、機関水温Thwが所定値Tより低く内燃機関10が暖機状態でないと判断できる領域では、機関水温Thwが低くなるほど目標回転速度Nintが高くなるように設定される。なお、このようにして目標回転速度Nintは機関水温Thwに応じて変更されるのであるが、いずれの機関水温Thwであっても、上記復帰回転速度Nrtlu近傍の速度であって同復帰回転速度Nrtluよりもやや高い回転速度に設定される(図7を参照)。
【0051】
このように機関水温Thwに基づいて目標回転速度Nintを設定する理由は以下による。すなわち、混合気の燃焼状態は、機関温度が低いときほど不安定になる傾向がある。そこで、混合気の燃焼状態についてその不安定度を検出する方法としては、機関温度と相関するパラメータを検出し、その検出結果に基づいて燃焼状態の不安定度を検出する、といった方法がある。ここで、機関温度に相関するパラメータとしては、機関の冷却水温等が挙げられる。そこで、本実施形態では、混合気の燃焼状態についてその不安定度を機関水温Thwに基づいて推定し、機関水温Thwが低いほど、すなわち燃焼状態の不安定度が高いときほど目標回転速度Nintが高い値となるようにしている。
【0052】
ステップS11にて目標回転速度Nintが算出されると、次に、ステップS12に移行して、内燃機関10の吸気系の圧力PM、走行モードの種別等を示す各種パラメータを検出し、各種パラメータに基づいて入力軸12aの各種要求回転速度が算出される。これら各種要求回転速度としては、例えば次のようなものがある。
【0053】
車両では、ブレーキブースターによる倍力作用を得たり、燃料タンク内の蒸発燃料を吸気系に導入したりするために吸気系の負圧が利用される。機関運転状態によってはこの負圧が不足することがあり、この場合には機関回転速度を増大させるなどして吸気系の内圧を低下させる必要がある。そこで、負圧が必要であるとの要求があるときに吸気系の圧力PMが所定値以上であり、要求された負圧を確保することができないと判定される場合には、機関回転速度NEを高めて負圧を確保するために必要な要求回転速度が算出される。
【0054】
また、車両の走行モードがスポーツモードのときには、ノーマルモードのときに比して機関回転速度を高めるための要求回転速度が算出される。
このようにして各種要求回転速度が算出されると、ステップS13では、ステップS11で算出された目標回転速度Nint及びステップS12で算出された各種要求回転速度のうちで最も高い回転速度が最大目標回転速度Nintmaxとして選択されて、本処理は一旦終了される。このステップS13の処理により、目標回転速度Nintが最も高い回転速度であった場合には、同目標回転速度Nintが最大目標回転速度Nintmaxに設定される。一方、目標回転速度Nintよりも各種要求回転速度の方が高い回転速度であった場合には、各種要求回転速度のうちで最も高い回転速度が最大目標回転速度Nintmaxに設定される。この場合には少なくとも目標回転速度Nintよりも高い回転速度が最大目標回転速度Nintmaxに設定されるため、その設定された最大目標回転速度Nintmaxが後述の復帰回転速度Nrtluを下回ることはない。
【0055】
このようにして最大目標回転速度Nintmaxが設定されると、ECU18は、入力軸12aの回転速度が最大目標回転速度NintmaxとなるようにCVT12の変速比を制御する。例えば、ECU18は、燃料カットの実行中においてCVT12の入力軸回転速度Ninが最大目標回転速度Nintmaxにまで低下すると、入力軸回転速度Ninが最大目標回転速度Nintmaxに維持されるようにCVT12の変速比を制御する。
【0056】
次に、復帰回転速度設定処理について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。なお、この復帰回転速度設定処理も、ECU18により所定の制御周期ごとに繰り返し実行される。
【0057】
本処理では、まず、ステップS21で、ロックアップON信号が出力されている状態で実際の作動状態がロックアップON状態になっているか否かが判定される。ここでは、機関回転速度NEと入力軸12aの入力軸回転速度Ninとの偏差が所定値以内であれば、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態はロックアップON状態になっていると判定される。なお、目標回転速度Nintと復帰回転速度Nrtluとの差は、上記偏差を判定する上記所定値よりも大きくなるように設定されている。逆にいえば、上記偏差を判定する上記所定値は、目標回転速度Nintと復帰回転速度Nrtluとの差よりも小さい値となっている。
【0058】
一方、機関回転速度NEと入力軸回転速度Ninとの偏差が所定値を超えているときには、制御指令値としてロックアップON信号が出力されているにもかかわらず、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態はロックアップOFF状態になっていると判定される。なお、このようにECU18の制御指令値に反してロックアップクラッチ機構14の作動状態がロックアップOFF状態になる理由としては、例えばロックアップクラッチ機構14に対して外乱が作用すること(ロックアップクラッチ機構14を解除する物理的な力の作用や油圧の一時的な低下など)等が挙げられる。ちなみに、このステップS21の処理は、上記判定手段を構成する。
【0059】
そして、実際の作動状態がロックアップON状態になっていると判定される場合には(S21:YES)、ステップS22に移行する。
ステップS22では、復帰回転速度算出マップを参照して、機関水温Thwに基づきロックアップON時の復帰回転速度Nrtluが算出され、本処理は一旦終了される。
【0060】
一方、ステップS21にて、実際の作動状態がロックアップOFF状態になっていると判定される場合には(S21:YES)、ステップS24に移行する。
ステップS24では、復帰回転速度算出マップを参照して、機関水温Thwに基づきロックアップOFF時の第2復帰回転速度Nrtluoffが算出され、本処理は一旦終了される。
【0061】
図7に上記復帰回転速度算出マップの設定態様を示す。この図7において、実線には上述した目標回転速度Nintの設定態様を示し、一点鎖線にはロックアップON時の復帰回転速度Nrtluの設定態様を示し、二点鎖線にはロックアップOFF時の第2復帰回転速度Nrtluoffの設定態様を示す。
【0062】
同図7に一点鎖線にて示すように、ロックアップON時の復帰回転速度Nrtluについては、機関水温Thwが所定値T以上であって内燃機関10の暖機が完了していると判断可能な領域において一定の最小値Bに設定される。一方、機関水温Thwが所定値Tよりも低い領域では、機関水温Thwが低くなるほど復帰回転速度Nrtluが高くなるように設定される。なお、このようにして復帰回転速度Nrtluは機関水温Thwに応じて変更されるのであるが、いずれの機関水温Thwであっても、復帰回転速度Nrtluは上記目標回転速度Nint近傍の速度であって同目標回転速度Nintよりもやや低い回転速度に設定される。
【0063】
また、同図7に二点鎖線にて示すように、ロックアップOFF時の第2復帰回転速度Nrtluoffについても、機関水温Thwが所定値T以上であって内燃機関10の暖機が完了していると判断可能な領域において一定の最小値Cに設定される。一方、機関水温Thwが所定値Tよりも低い領域では、機関水温Thwが低くなるほど第2復帰回転速度Nrtluoffが高くなるように設定される。なお、このようにしてロックアップOFF時の第2復帰回転速度Nrtluoffも機関水温Thwに応じて変更されるのであるが、いずれの機関水温Thwであっても、第2復帰回転速度Nrtluoffは上記目標回転速度Nint近傍の速度であって同目標回転速度Nintよりもやや高い回転速度に設定される。
【0064】
このように復帰回転速度設定処理では、機関水温Thwに基づいて復帰回転速度を設定するようにしているが、ロックアップクラッチ機構14の作動状態に応じて異なる値が設定されるようにしている。より具体的には、ロックアップON信号が出力されている状態で実際の作動状態がロックアップON状態になっており、ロックアップクラッチ機構14が正常に作動しているときには、目標回転速度Nintよりも低い復帰回転速度Nrtluを設定するようにしている。一方、ロックアップON信号が出力されている状態で実際の作動状態がロックアップOFF状態になっており、ロックアップクラッチ機構14が正常に作動していないときには、目標回転速度Nintよりも高い第2復帰回転速度Nrtluoffを設定するようにしている。
【0065】
なお、上記目標回転速度設定処理や上記復帰回転速度設定処理を実行するECU18は、上記変更手段及び上記第2の変更手段を構成する。
次に、上記目標速度設定処理及び上記復帰回転速度設定処理による作用について、図8〜図10を参照して説明する。なお、図8〜図10においては、上記最大目標回転速度Nintmaxが上記目標回転速度Nintに設定されている場合を例示している。
【0066】
図8には、内燃機関10が暖機完了状態であるときに燃料カットが行われた場合の作用を示す。図9には、内燃機関10が冷間状態であるときに燃料カットが行われた場合の作用を示す。そして、図10には、燃料カットの実行中において外乱等によりロックアップが解除された場合の作用を示す。
【0067】
図8に示すように、時刻t1以前においてはロックアップON信号が出力されており、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態はロックアップON状態になっている。そして、車両走行中においてアクセルペダルの踏み込みがなくなると(時刻t1)、燃料カットが実行されて、車速SPDは徐々に低下していく。この車速SPDの低下に伴って入力軸回転速度Nin及び機関回転速度NEも徐々に低下していく。
【0068】
ここで、内燃機関10は暖機完了状態であり混合気の燃焼状態についての不安定度は低くなっているため、目標回転速度Nintは最小値Aに設定され、復帰回転速度Nrtluは最小値Bに設定される。
【0069】
入力軸回転速度Ninが上記目標回転速度Nintにまで低下すると(時刻t2)、入力軸回転速度Ninを目標回転速度Nintに維持するための変速比制御が開始されて、機関回転速度NEは上記目標速度NEpに維持される。
【0070】
そして、車速SPDがロックアップ解除速度H1にまで低下すると(時刻t3)、ロックアップOFF信号が出力されてロックアップが解除される。なお、このロックアップの解除に際しては、上述したようにその解除が徐々に行われる。そして、このロックアップの解除が進行するにつれて機関回転速度NEは低下していき、機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtluを下回ると(時刻t4)、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される。この場合、混合気は安定して燃焼するため、燃料噴射の再開から十分な機関出力が発生するまでの期間は短い。そのため、上記目標回転速度Nintや復帰回転速度Nrtluを最小値に設定していても、早期に機関回転速度NEの低下は収まり、所定の回転速度(例えばアイドル回転速度など)に維持される。
【0071】
なお、ロックアップOFF信号が出力された後に燃料噴射が再開されるため、内燃機関10に対する車両駆動系の負荷は非常に小さくなっている状態で燃料噴射が再開される。そのため、燃料カットからの復帰が、すなわち機関回転速度の回復が速やかになされる。
【0072】
ちなみに、本実施形態では、入力軸回転速度Ninを目標回転速度Nintに維持するための変速比制御を、燃料カットが中止されてから中止するようにしている。従って、燃料カットが中止されると、入力軸回転速度Ninは車速の低下にあわせて低下していく。なお、上記変速比制御は、他のタイミング、例えばロックアップ信号がONからOFFに切り替わった時点で中止するようにしてもよい。
【0073】
一方、内燃機関10が冷間状態である場合には、図9に示す作用が得られる。
この図9に示すように、時刻t6以前においてはロックアップON信号が出力されており、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態はロックアップON状態になっている。そして、車両走行中においてアクセルペダルの踏み込みがなくなると(時刻t6)、燃料カットが実行されて、車速SPDは徐々に低下していく。この車速SPDの低下に伴って入力軸回転速度Nin及び機関回転速度NEも徐々に低下していく。
【0074】
ここで、内燃機関10が冷間状態となっているときには、混合気の燃焼状態についての不安定度は高くなっている。そこで、燃焼状態の不安定度に相関する機関水温Thwに基づき、同機関水温Thwが低いときほど目標回転速度Nint及び復帰回転速度Nrtluは高い値に設定される。
【0075】
入力軸回転速度Ninが上記目標回転速度Nintにまで低下すると(時刻t7)、入力軸回転速度Ninを目標回転速度Nintに維持するための変速比制御が開始されて、機関回転速度NEは上記目標速度NEpに維持される。このときには、上記目標回転速度Nintが暖機完了状態のときに設定される目標回転速度Nintよりも高くなっているため、機関冷間時において上記変速比制御により維持される機関回転速度NEは、暖機完了状態のときに維持される機関回転速度NEよりも高くなっている。
【0076】
そして、車速SPDがロックアップ解除速度H1にまで低下すると(時刻t8)、ロックアップOFF信号が出力されてロックアップが解除される。なお、このロックアップの解除に際しても、上述したようにその解除が徐々に行われる。そして、このロックアップの解除が進行するにつれて機関回転速度NEは低下していき、機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtluを下回ると(時刻t9)、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される。なお、上述したように、冷間状態のときに設定される復帰回転速度Nrtluは、暖機完了状態のときに設定される復帰回転速度Nrtluよりも高くなっている。
【0077】
この燃料噴射が再開されたときに、上記目標回転速度Nintや復帰回転速度Nrtluが機関水温Thwに応じて高められていない場合には(図9に示す(NEp=Nint)、(Ntrlu))、同図9に破線L1にて示すようにして機関回転速度NEは変化する。すなわち、機関冷間時には混合気の燃焼状態が不安定になる。そのため、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開されたとしても、その燃料噴射の再開から十分な機関出力が発生するようになるまでにはある程度の時間がかかり、この時間内において機関回転速度NEは低下してしまう。従って、目標回転速度Nintが機関水温Thwに応じて高められておらず、燃料カット実行中の機関回転速度NEが比較的低い回転速度に維持される場合には、燃料カットからの復帰直後における機関回転速度NEも低くなっており、この低回転状態から機関回転速度NEが低下することになる。この場合には、燃料噴射が再開されて十分な機関出力が発生するようになる前に機関回転速度NEが大きく低下して、エンジンストールに至ってしまうおそれがある。
【0078】
この点、本実施形態では、機関水温Thwに応じて復帰回転速度Nrtluを高めるようにしている。そして復帰回転速度Nrtluを高めることにあわせて目標回転速度Nintも機関水温Thwに応じて高めるようにしている。そのため、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開された直後の機関回転速度NEは、混合気の燃焼状態が不安定なときほど高くなり、燃料噴射が再開された直後の機関回転速度NEがエンジンストールに至るまで低下するのに要する時間は、混合気の燃焼状態が不安定なときほど長くなる。従って、燃料噴射が再開されてから十分な機関出力が発生するようになるまでに要する時間を、燃焼状態の不安定度に合わせて適切に確保することができるようになり、これにより燃料カットからの復帰時において、混合気の燃焼状態が不安定なときに生じるおそれのあるエンジンストールの発生を抑制することができるようになる。
【0079】
このようにして燃料噴射が再開されると、その後、機関回転速度NEの低下は収まり、所定の回転速度(例えばアイドル回転速度など)に維持される。
他方、燃料カットの実行中において外乱等によりロックアップが解除された場合には、図10に示す作用が得られる。
【0080】
車両が段差を通過したり、急ブレーキをかけたりした場合には、ロックアップクラッチ機構14が外乱を受けることがある。このような場合には、ロックアップON信号が出力されていても、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態はロックアップOFF状態になるおそれがある。このようにロックアップON信号が出力されているときに実際の作動状態がロックアップOFF状態になっており、ロックアップクラッチ機構14が正常に作動していない状態が燃料カットの実行中に生じると、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aの接続が急速に解除されるため、機関回転速度NEは急速に低下する。
【0081】
例えば図10に示すように、燃料カット実行中であって機関回転速度NEが目標速度NEpに維持されている状態において、ロックアップON信号が出力されているにもかかわらず実際の作動状態がロックアップOFF状態になったときには(時刻t13)、機関回転速度NEが急速に低下する。
【0082】
そして、破線L2にて示すように、機関回転速度NEが急速に低下して復帰回転速度Nrtluを下回ると燃料噴射が再開される(時刻t15)。しかし、この燃料噴射再開前の機関回転速度NEの低下速度は、ロックアップの状態が徐々に切り替えられる通常時の低下速度、即ちロックアップの状態を制御する制御指令値が「ON」から「OFF」に切り替えられたときの機関回転速度NEの低下速度に比べて速い。そのために復帰回転速度Nrtluを下回った後の回転速度の落ち込み量も大きくなる。従って、燃料噴射を再開した後の機関回転速度NEの復帰が間に合わず、エンジンストールが生じる可能性がある。とくに、混合気の燃焼状態が不安定なときには、上述した理由によりエンジンストールが発生しやすくなるおそれがある。
【0083】
この点、本実施形態では、ロックアップON信号が出力されており、ロックアップクラッチ機構14が本来接続状態となっているべきときに、ロックアップクラッチ機構14の接続が解除されると(時刻t13)、機関回転速度NEと入力軸回転速度Ninとの偏差が増大していく。そして、その偏差に基づいてロックアップOFF状態である旨判定されると(時刻t14)、復帰回転速度が、ロックアップON時の復帰回転速度Nrtluから第2復帰回転速度Nrtluoffに変更される(時刻t14)。この第2復帰回転速度Nrtluoffは、上記目標回転速度Nintよりも高い回転速度に設定されるため、このようにして復帰回転速度が変更されたときの機関回転速度NEは第2復帰回転速度Nrtluoff以下の回転速度になる。そのため、直ちに燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される(時刻t14)。
【0084】
従って、変更前の復帰回転速度Nrtluにまで機関回転速度NEが低下する前に燃料噴射が再開されるようになり、復帰回転速度をロックアップON時の復帰回転速度Nrtluから上記第2復帰回転速度Nrtluoffに変更しない場合と比較して、機関回転速度NEがより高い状態で燃料噴射が再開されるようになる。そのため、燃料噴射を再開した後の機関回転速度NEの落ち込み量が大きくなりやすい場合であっても、実線にて示されるように機関回転速度NEの低下速度を抑えることができ、これによりエンジンストールの発生を抑えることができる。また、ロックアップが解除されてから燃料噴射が再開されるまでの時間が短くなるため、機関回転速度NEの低下加速度がより小さいうちに燃料噴射を再開することができる。そのため、燃料噴射を再開した後の機関回転速度NEの落ち込み量自体も小さくすることができ、これによってもエンジンストールの発生を抑えることができる。
【0085】
なお、上述したように、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態がロックアップON状態であるか否かを判定するための上記所定値は、目標回転速度Nintと復帰回転速度Nrtluとの差よりも小さくされている。従って、上記時刻t13においてロックアップクラッチ機構14の接続が解除された後、機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtluにまで低下する前に、ロックアップOFF状態である旨の判定を行うことができる。従って、機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtluにまで低下する前に、確実に復帰回転速度を第2復帰回転速度Nrtluoffに変更することができ、燃料噴射の再開時期を確実に早めることができる。
【0086】
また、第2復帰回転速度Nrtluoffは機関水温Thwが低いときほど高い回転速度となるように変更される。従って、第2復帰回転速度Nrtluoffは燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度に変更される。そのため、混合気の燃焼状態の不安定度に応じて、変更後の復帰回転速度(第2復帰回転速度Nrtluoff)も変化させることができ、上記作用を適切に得ることができる。
【0087】
ちなみに、図10では、機関回転速度NEが目標速度NEpに維持されているときにロックアップが解除された場合の例を示した。この他、燃料カットが開始されて機関回転速度NEが目標速度NEpにまで低下する途中(図10における時刻t11〜時刻t12の間)においてロックアップが解除された場合にも、復帰回転速度は、ロックアップON時の復帰回転速度Nrtluから第2復帰回転速度Nrtluoffに変更される。この場合、復帰回転速度を変更した時点での機関回転速度NEが第2復帰回転速度Nrtluoff以下であれば、直ちに燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される。一方、復帰回転速度を変更した時点での機関回転速度NEが第2復帰回転速度Nrtluoffを超えている場合には、機関回転速度NEが第2復帰回転速度Nrtluoffにまで低下した時点で燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される。これらいずれの場合でも、復帰回転速度がロックアップON時の復帰回転速度Nrtluから第2復帰回転速度Nrtluoffに変更されるため、このように復帰回転速度を変更しない場合と比較してより早期に燃料噴射が再開されるようになる。従って、燃料カットが開始されて機関回転速度NEが目標速度NEpにまで低下する途中においてロックアップが解除された場合にも、機関回転速度NEが目標速度NEpに維持されているときにロックアップが解除された場合と同様の作用効果が得られる。
【0088】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)燃料カット実行中の機関回転速度NEが、復帰回転速度Nrtlu近傍の速度であって同復帰回転速度Nrtluよりも高い一定の速度(目標速度NEp)に維持されるようにCVT12の変速比を制御するようにしている。そして、燃料カット実行中の機関回転速度NE及び復帰回転速度Nrtluを内燃機関10の混合気の燃焼状態についての不安定度が高いときほど高い回転速度に変更するようにしている。そのため、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開された直後の機関回転速度NEは、混合気の燃焼状態が不安定なときほど高くなり、燃料噴射が再開された直後の機関回転速度NEがエンジンストールに至るまで低下するのに要する時間は、混合気の燃焼状態が不安定なときほど長くなる。従って、燃料噴射の再開後に十分な機関出力が発生するようになるまでの時間を適切に確保することができるようになり、これにより燃料カットからの復帰時において、混合気の燃焼状態が不安定なときに生じるおそれのあるエンジンストールの発生を抑制することができる。
【0089】
(2)車速が低下するとCVT12を介して機関回転速度NEも低下していく。ここで、CVT12の変速比を大きくすると、駆動輪13側に接続されるCVT12の出力軸12bに対して同CVT12の入力軸12aの回転速度を高めることができ、その入力軸12aに接続される内燃機関10の出力軸10aの回転速度、つまり機関回転速度NEを高めることができる。
【0090】
そこで、車速が低下するほどCVT12の変速比を大きくするようにしており、これにより燃料カット実行中の機関回転速度NEを復帰回転速度Nrtlu近傍の速度であって同復帰回転速度Nrtluよりも高い一定の速度に維持することができるようになる。
【0091】
(3)機関温度が低いときほど混合気の燃焼状態は不安定になる傾向がある。そこで、機関温度と相関するパラメータである機関水温Thwを検出し、その検出結果に基づいて燃料カット実行中の機関回転速度NEの目標速度NEp及び復帰回転速度Nrtluを設定するようにしている。従って、燃料カット実行中の機関回転速度NEの目標速度NEp及び復帰回転速度Nrtluを混合気の燃焼状態の不安定度に応じて適切に設定することができるようになる。
【0092】
(4)車速SPDがロックアップ解除速度H1以下となったときに、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとが非接続状態になるようにロックアップクラッチ機構14の作動状態を制御するようにしている。このようにして出力軸10aと入力軸12aとの接続解除が燃料カットの実行中に行われると、機関回転速度NEが低下して復帰回転速度Nrtluを下回るようになるため、燃料噴射が再開される。また、この燃料噴射の再開に際しては、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとの接続が解除されているため、内燃機関10に対する車両駆動系の負荷は非常に小さくなっており、燃料カットからの復帰が速やかになされるようになる。
【0093】
従って、燃料カット実行中の機関回転速度NEを復帰回転速度Nrtlu近傍の速度であって同復帰回転速度近傍よりも高い一定の速度に維持する場合であっても、燃料カットの中止を確実に実施することができるとともに、燃料カットからの復帰も速やかに行うことができるようになる。
【0094】
(5)ロックアップクラッチ機構14の作動状態が接続状態となるようにロックアップON信号が出力されているときに実際の作動状態が接続状態となっているか否かを判定するようにしている。
【0095】
そして、その判定結果により実際の作動状態が接続状態になっていない旨の判定がなされたときには、復帰回転速度を、ロックアップON時の復帰回転速度Nrtluから第2復帰回転速度Nrtluoffに変更するようにしている。この第2復帰回転速度Nrtluoffは、一定の速度に維持される燃料カット実行中の機関回転速度NE(目標速度NEp)よりも高い回転速度であって、混合気の燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度となるように変更される。
【0096】
そのため、ロックアップクラッチ機構14が制御指令値とは異なる作動状態になっている旨判定されると、そのときの機関回転速度NEは第2復帰回転速度Nrtluoff以下の回転速度になるため、直ちに燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される。従って、変更前の復帰回転速度Nrtluにまで機関回転速度NEが低下する前に燃料噴射が再開されるようになり、復帰回転速度を変更しない場合と比較して機関回転速度NEがより高い状態で燃料噴射が再開されるようになる。従って、燃料噴射を再開した後の機関回転速度NEの落ち込み量が大きくなる場合であっても、エンジンストールの発生を抑えることができるようになる。また、第2復帰回転速度Nrtluoffについてこれを燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度となるように変更するようにしている。そのため、混合気の燃焼状態の不安定度に応じて、第2復帰回転速度Nrtluoffも変化させることができ、上記作用を適切に得ることができるようになる。
【0097】
なお、上述した実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・内燃機関10とCVT12とを、ロックアップクラッチ機構14付きのトルクコンバータ11を介して接続する代わりに、電磁クラッチを介して接続するようにしてもよい。電磁クラッチの場合にはその作動が電気的に制御されるため、内燃機関10とCVT12との接続状態を制御する制御指令値に対して応答性が向上するようになる。
【0098】
・目標回転速度算出マップにおいて、機関水温Thwが所定値T以上の領域にあるときには、目標回転速度Nintとして一定の最小値Aを設定するようにしたが、このようにして目標回転速度Nintを一定の値にしなくてもよい。例えば、機関水温Thwの全領域において、機関水温Thwが低くなるほど目標回転速度Nintが高くなるように目標回転速度Nintと機関水温Thwとの関係を設定してもよい。
【0099】
・復帰回転速度算出マップにおいて、機関水温Thwが所定値T以上の領域にあるときには、復帰回転速度Nrtluとして一定の最小値Bを設定し、第2復帰回転速度Nrtluoffとして一定の最小値Cを設定するようにしたが、このようにして復帰回転速度を一定の値にしなくてもよい。例えば、機関水温Thwの全領域において、機関水温Thwが低くなるほど復帰回転速度Nrtluや第2復帰回転速度Nrtluoffが高くなるように復帰回転速度と機関水温Thwとの関係を設定してもよい。
【0100】
・目標回転速度Nint、復帰回転速度Nrtlu、及び第2復帰回転速度Nrtluoffをそれぞれマップに基づいて算出するようにしたがこの他の態様で算出するようにしてもよい。例えば関数式を用いて算出してもよい。また、目標回転速度Nintを機関水温Thwに基づいて設定するとともに、目標回転速度Nintから所定値を減算したり、所定値(1から0の間の値)を乗算したりすることにより復帰回転速度Nrtluを算出するようにしてもよい。同様に、目標回転速度Nintを機関水温Thwに基づいて設定するとともに、目標回転速度Nintに対して所定値を加算したり、所定値(1よりも大きい値)を乗算したりすることにより第2復帰回転速度Nrtluoffを算出するようにしてもよい。
【0101】
・復帰回転速度を、ロックアップON時の復帰回転速度Nrtluから第2復帰回転速度Nrtluoffに変更する場合には、燃料カットが中止された時点で(図10の時刻t14)、あるいは実際の作動状態がロックアップOFF状態であると判定された時点(図10の時刻t13)等において、ロックアップ信号をON状態からOFF状態に切り替えることが望ましい。この場合には、外乱等によってロックアップOFF状態になったロックアップクラッチ機構14が、燃料噴射の再開後、再びロックアップON状態に戻ろうとしても、ロックアップOFF信号が出力されているため、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態はロックアップOFF状態にされる。従って、燃料カット中止による燃料噴射が行われるときには、内燃機関10に対する車両駆動系の負荷が非常に小さくなっている状態になり、これにより燃料カットからの復帰が、すなわち機関回転速度の回復が速やかにかつ確実になされるようになる。
【0102】
・機関温度に相関するパラメータとして機関水温Thwとは異なるパラメータを用いるようにしてもよい。例えば、機関の油温、機関始動からの経過時間等も機関温度に相関するため、これらのパラメータを用いるようにしてもよい。
【0103】
・混合気の燃焼状態についてその不安定度を機関温度に相関するパラメータに基づいて検出するようにした。この他、例えば、吸気温が低いときも燃焼状態は不安定になるため、吸気温に基づいて燃焼状態の不安定度を検出するようにしてもよい。
【0104】
ちなみに、吸気温が低いときも燃焼状態は不安定になる。そこで、吸気温を検出し、その検出結果に基づいて目標回転速度Nint、復帰回転速度Nrtlu、及び第2復帰回転速度Nrtluoffを燃焼状態の不安定度に応じた値に設定するようにしてもよい。
【0105】
・目標回転速度設定処理や復帰回転速度設定処理を燃料カットの実行中にのみ実行するようにしてもよい。
・燃料カット中において機関回転速度NEが目標速度NEpに達していない状態では、CVT12の変速比が最小変速比となるように制御するようにした。この他、例えばCVT12の変速比が最小変速比よりも大きい変速比となるように制御してもよい。
【0106】
・先の図4に示した目標回転速度設定処理では、各種要求回転速度を算出し(S12)、目標回転速度Nint及び各種要求回転速度のうちで最も高い回転速度を選択するようにした(S13)。この他、ステップS12、ステップS13の処理を省略して、機関水温Thwに基づく目標回転速度Nintの算出のみを行うようにしてもよい。
【0107】
・先の図6に示した復帰回転速度設定処理では、第2復帰回転速度Nrtluoffを算出するようにしたが、ステップS21、ステップS24の処理を省略して、第2復帰回転速度Nrtluoffの算出を行わないようにしてもよい。この場合でも上記(1)〜(4)に記載の効果を得ることができる。
【0108】
・上記実施形態では、機関回転速度NEを目標速度NEpに維持するためにCVT12の変速比制御を行うようにした。ここで、車速が大きく低下したときにはCVT12の最大変速比をもってしても機関回転速度NEを目標速度NEpに維持することが不可能になるため、車速の低下にあわせて機関回転速度NEは低下していくようになり、同機関回転速度NEは復帰回転速度Nrtluに下回るようになる。従って、上記実施形態ではロックアップOFF信号の出力によりロックアップが解除されて機関回転速度NEが低下することにより、同機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtluを下回るようになっていたが、必ずしもロックアップを解除することで機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtluを下回るようにしなくてもよい。
【0109】
・CVT12の入力軸12aの回転速度についてその目標回転速度Nintを設定し、入力軸12aの実際の回転速度(入力軸回転速度Nin)が目標回転速度Nintとなるように変速比を制御することにより、機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtlu近傍の上記目標速度NEpに維持されるようにした。つまり、入力軸12aの回転速度を目標回転速度Nintに維持することを介して、間接的に機関回転速度NEが上記目標速度NEpに維持されるようにした。ここで、上述したようにロックアップON状態では、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとが同一の回転速度になる。従って、上記目標回転速度Nintの設定を省略し、上記目標速度NEpに基づいて直接CVT12の変速比制御を行うようにしてもよい。
【0110】
・ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態がロックアップON状態になっているか否かについて、機関回転速度NEと入力軸12aの入力軸回転速度Ninとの偏差に基づき判定するようにしたが、この他の態様で判定するようにしてもよい。例えば、ロックアップクラッチ機構14にその作動状態を検出するセンサやスイッチを設け、それらセンサやスイッチの検出結果に基づいて実際の作動状態を判定するようにしてもよい。
【0111】
なお、機関回転速度NEと入力軸12aの入力軸回転速度Ninとの偏差に基づき、実際のロックアップ状態を判定する場合には、ロックアップ状態が変化してから上記偏差が所定値に達するまでの間にある程度の時間がかかる。従って、この時間の分(図10に示す時刻t13から時刻t14の時間分)だけ、実際のロックアップ状態がOFF状態になってから復帰回転速度が第2復帰回転速度Nrtluoffに変更されるまでの間には時間がかかる。この点、上記センサやスイッチなどにより、ロックアップクラッチ機構14の作動状態をより早く検出することを可能にすれば、上述したような判定に要する時間をより短縮することができる。従って、実際のロックアップ状態がOFF状態になってから復帰回転速度が第2復帰回転速度Nrtluoffに変更されるまでの間の時間を短くすることができ、機関回転速度NEがより高い状態で、詳細には目標速度NEpにより一層近い状態で燃料噴射を再開することができる。
【0112】
・無段変速機としてベルト式のCVT12が適用される場合を例に挙げたが、この他の無段変速機であってもよい。例えばトロイダル式の無段変速機であってもよい。
・内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとを接続状態及び非接続状態に切り換える接続機構として、ロックアップクラッチ機構14が適用される場合を例に挙げたが、その他の機構でもよい。例えば上述した電磁クラッチであってもよい。
【符号の説明】
【0113】
10…内燃機関、10a…出力軸、11…トルクコンバータ、12…無段変速機(CVT)、12a…入力軸、12b…出力軸、13…駆動輪、14…ロックアップクラッチ機構、15…出力プーリ、16…入力プーリ、17…ベルト、18…変速比制御手段、変更手段、及び第2の変更手段としての電子制御装置(ECU)、19…車速センサ、20…アクセルセンサ、21…入力軸回転速度センサ、22…シフト位置センサ、23…走行モード選択スイッチ、24…水温センサ、25…機関回転速度センサ、26…吸気圧センサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機を搭載した車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用の変速機として、変速比を無段階で連続的に変更可能な無段変速機(Continuously Variable Transmission:CVT)が実用化されている。このような車載用のCVTとして、特許文献1には、金属ベルトを使用するとともに、入力側(エンジン側)と出力側(ドライブシャフト側)のプーリの径を変化させて変速するベルト式CVTが記載されている。また、ベルトとプーリの代わりにローラーとディスクを使用するトロイダルCVTもある。こうしたCVTを搭載する車両では、車両の走行状況に応じてエンジントルクとCVTの変速比とを協調制御することで、車両の燃費特性や運転性能を最適化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−184834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他方、車両に搭載される内燃機関では、アクセルペダルが踏み込まれていない状態で機関回転速度が所定値以上である場合、燃料噴射弁からの燃料噴射を一時的に停止する処理、いわゆる燃料カットが行われる。この燃料カットは、機関回転速度が復帰回転速度以下になると中止されて再び燃料噴射が開始される。上記燃料カットは、燃費の向上を図る上では、極力長い期間にわたって行われるようにすることが好ましい。
【0005】
そこで、上述したような無段変速機を搭載した車両においては、燃料カット中の機関回転速度ができる限り長い間復帰回転速度を上回っているように変速比を制御することで、燃料カットを極力長い間継続させることができる。
【0006】
より詳細に述べると、復帰回転速度については可能な限り低い回転速度を設定しておくとともに、機関回転速度については復帰回転速度よりもやや高い一定の目標回転速度を設定する。そして、燃料カット中は車速の低下に伴って機関回転速度も低下していくが、この機関回転速度の低下過程において同機関回転速度が上記目標回転速度に達したときには、機関回転速度が目標回転速度に維持されるように無段変速機の変速比を制御する。より具体的には、車速の低下に伴う機関回転速度の低下を抑えるように変速比(無段変速機の入力軸の回転速度/無段変速機の出力軸の回転速度)を大きくしていく。
【0007】
このようにして燃料カット中の機関回転速度を復帰回転速度近傍の速度であって同復帰回転速度よりもやや高い速度に維持する制御を行うようにすれば、燃料カットの実行期間を長くすることができる。また、燃料カット中にアクセルペダルが踏み込まれて加速要求がなされたときには、無段変速機の変速比が既に比較的大きな値にされているため、加速要求を満たす所望の変速比(一般的には大きい変速比)に向けて速やかに変更することができる。従って、所望の変速比に変速するまでの間において、運転条件が燃費特性や加速特性の点で最適な条件から外れることを極力抑制することも可能になる。
【0008】
ところで、上述したように機関回転速度を復帰回転速度近傍に維持する場合には、燃料カット実行中の機関回転速度が比較的低い回転速度に維持されるため、次のような不都合の発生が懸念される。
【0009】
例えば機関温度が低い場合などのように、混合気の燃焼状態が不安定になる場合には、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開されたとしても、その燃料噴射の再開から十分な機関出力が発生するようになるまでにはある程度の時間がかかり、この時間内においては機関回転速度が低下してしまう。従って、燃料カット実行中の機関回転速度が比較的低い回転速度に維持される場合には、燃料カットからの復帰直後における機関回転速度も低くなっており、この低回転状態から機関回転速度が低下することになる。この場合には、機関出力が十分に発生する前に機関回転速度が大きく低下し、エンジンストールに至ってしまうおそれがある。
【0010】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、燃料カットからの復帰時において、混合気の燃焼状態が不安定なときに生じるおそれのあるエンジンストールの発生を抑制することのできる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、燃料カット実行中の機関回転速度が復帰回転速度を下回ったときに燃料カットが中止される内燃機関と同内燃機関に接続される無段変速機とを備える車両に適用されて、前記内燃機関及び前記無段変速機の制御を行う制御装置であって、前記燃料カット実行中の機関回転速度が、前記復帰回転速度近傍の速度であって同復帰回転速度よりも高い一定の速度に維持されるように前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を前記内燃機関の混合気の燃焼状態についての不安定度が高いときほど高い回転速度に変更する変更手段と、を備えることを要旨とする。
【0012】
この発明では、燃料カットの実行中、無段変速機の変速比を制御することで機関回転速度を燃料カットの復帰回転速度よりもやや高い回転速度に維持するようにしており、これにより燃料カットの実行期間が可能な限り長くされる。
【0013】
ここで、本発明では、燃料カット実行中の機関回転速度及び復帰回転速度は、混合気の燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度に設定される。そのため、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開された直後の機関回転速度は、混合気の燃焼状態が不安定なときほど高くなり、燃料噴射が再開された直後の機関回転速度がエンジンストールに至るまで低下するのに要する時間は、混合気の燃焼状態が不安定なときほど長くなる。従って、燃料噴射の再開後に十分な機関出力が発生するようになるまでの時間を適切に確保することができるようになり、これにより燃料カットからの復帰時において、混合気の燃焼状態が不安定なときに生じるおそれのあるエンジンストールの発生を抑制することができる。
【0014】
なお、燃料カット実行中の機関回転速度や復帰回転速度を燃焼状態の不安定度に応じて変更する際には、例えば、同不安定度に基づいて直接、燃料カット実行中の機関回転速度や復帰回転速度を設定するといった態様や、燃料カット実行中の機関回転速度を上記不安定度に基づいて設定するとともにその設定された機関回転速度から所定値だけ低い値を上記復帰回転速度に設定するといった態様等を採用することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記変速比制御手段は、車速が低下するほど前記変速比を大きくすることを要旨とする。
車速が低下すると無段変速機を介して機関回転速度も低下していく。ここで、無段変速機の変速比を大きくすると、車輪側に接続される無段変速機の出力軸に対して同無段変速機の入力軸の回転速度を高めることができ、その入力軸に接続される内燃機関の出力軸の回転速度、つまり機関回転速度を高めることができる。
【0016】
そこで、請求項2に記載の発明によるように、上記変速比制御手段は、車速が低下するほど無段変速機の変速比を大きくする、といった構成を採用することにより、燃料カット実行中の機関回転速度を復帰回転速度近傍の速度であって同復帰回転速度よりも高い一定の速度に維持することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記変更手段は、機関温度と相関するパラメータを検出し、その検出結果に基づいて前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を前記不安定度に応じた値に設定することを要旨とする。
【0018】
機関温度が低いときほど混合気の燃焼状態は不安定になる傾向がある。そこで、請求項3に記載の発明によるように、機関温度と相関するパラメータを検出し、その検出結果に基づいて前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を前記不安定度に応じた値に設定する、といった構成を採用することができる。なお、この構成においては、機関温度が低いときほど、燃焼状態の不安定度が高くなるため、機関温度が低いときほど燃料カット実行中の機関回転速度及び復帰回転速度を高い回転速度に設定することが望ましい。
【0019】
また、機関温度に相関するパラメータとしては、機関の冷却水温、機関の油温、機関始動からの経過時間等が挙げられる。そこで、請求項4に記載の発明によるように、前記変更手段は、前記パラメータとして機関の冷却水温を検出し、前記冷却水温が低いときほど前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を高い回転速度に設定するといった構成を採用することもできる。ちなみに、吸気温が低いときも燃焼状態は不安定になる。従って、吸気温を検出し、その検出結果に基づいて燃料カット実行中の機関回転速度及び復帰回転速度を上記不安定度に応じた値に設定するようにしてもよい。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記内燃機関の出力軸と前記無段変速機の入力軸との間には、前記出力軸と前記入力軸とを接続状態及び非接続状態に切り換える接続機構が設けられており、車速が所定値以下となったときには前記出力軸と前記入力軸とが非接続状態になるように前記接続機構の作動状態が制御されることを要旨とする。
【0021】
この発明によれば、車速が所定値以下になると、内燃機関の出力軸と無段変速機の入力軸との接続が解除される。このような各軸の接続解除が燃料カットの実行中に行われると、機関回転速度が低下して復帰回転速度を下回るようになるため、燃料噴射が再開される。また、この燃料噴射の再開に際しては、内燃機関の出力軸と無段変速機の入力軸との接続が解除されているため、内燃機関に対する車両駆動系の負荷は非常に小さくなっており、燃料カットからの復帰が速やかになされる。
【0022】
従って、燃料カット実行中の機関回転速度を復帰回転速度近傍の速度であって同復帰回転速度近傍よりも高い一定の速度に維持する場合であっても、燃料カットの中止を確実に実施することができるとともに、燃料カットからの復帰も速やかに行うことができる。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記接続機構の作動状態が接続状態となるように制御指令値が出力されているときに実際の作動状態が接続状態となっているか否かを判定する判定手段と、同判定手段により実際の作動状態が接続状態になっていない旨の判定がなされたときには、前記復帰回転速度を、一定の速度に維持される前記燃料カット実行中の機関回転速度よりも高い回転速度であって前記燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度となるように変更する第2の変更手段とを備えることを要旨とする。
【0024】
上記接続機構の作動状態を接続状態から非接続状態にしたり、非接続状態から接続状態にしたりするときに作動状態の切り替えが急速に行われると、車両の動力伝達系にショックが発生するおそれがある。そのため、通常、接続機構の作動状態を切り替えるときには、その切替が徐々に行われるように同接続機構に対する制御指令値の調整が行われる。
【0025】
他方、上記接続機構の作動状態が接続状態となるように制御指令値が出力されているときに、同接続機構に対して外乱等が作用することにより、制御指令値に反して接続機構の作動状態が非接続状態になると、機関回転速度が急速に低下する。このようにして機関回転速度が低下しても復帰回転速度を下回れば燃料噴射が再開されるのであるが、このときの機関回転速度の低下速度は、接続状態が徐々に切り替えられる通常時の低下速度に比べて速いために、復帰回転速度を下回った後の回転速度の落ち込み量が大きくなる。そのため、燃料噴射を再開した後の機関回転速度の復帰が間に合わず、エンジンストールが生じる可能性がある。とくに、混合気の燃焼状態が不安定なときには、上述した理由によりエンジンストールが発生しやすくなるおそれがある。
【0026】
そこで、上記発明では、接続機構が本来接続状態となっているべきときに接続が解除されていると判定される場合、復帰回転速度を、燃料カット実行中において一定の回転速度に維持される機関回転速度よりも高い回転速度に変更するようにしている。そのため、接続機構が制御指令値とは異なる作動状態になっている旨判定されると、そのときの機関回転速度は変更された復帰回転速度以下の回転速度になるため、直ちに燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される。従って、変更前の復帰回転速度にまで機関回転速度が低下する前に燃料噴射が再開されるようになり、復帰回転速度を変更しない場合と比較して機関回転速度がより高い状態で燃料噴射が再開されるようになる。従って、燃料噴射を再開した後の機関回転速度の落ち込み量が大きくなる場合であっても、エンジンストールの発生を抑えることができる。また、上記第2の変更手段では、変更される復帰回転速度についてこれを燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度となるように変更するようにしている。そのため、混合気の燃焼状態の不安定度に応じて、変更後の復帰回転速度も変化させることができ、上記作用を適切に得ることができる。
【0027】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の発明において、前記無段変速機の入力軸にはトルクコンバータが接続されており、前記接続機構は、前記トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチ機構であることを要旨とする。
【0028】
上記接続機構としては、請求項6に記載の発明によるように、トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチ機構を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明にかかる車両の制御装置の一実施形態について、これが適用される車両の概略構成図。
【図2】アクセル操作量と車速とに基づいたロックアップON・OFFの関係を示すグラフ。
【図3】ロックアップ及び燃料カット実行状態に基づいた無段変速機の変速比を示すグラフ。
【図4】目標回転速度設定処理の手順を示すフローチャート。
【図5】機関水温と目標入力回転速度との関係を示すグラフ。
【図6】復帰回転速度設定処理の手順を示すフローチャート。
【図7】機関水温と復帰回転速度との関係を示すグラフ。
【図8】目標回転速度設定処理及び復帰回転速度設定処理を実行した場合において、機関水温が高いときの各パラメータの推移の一例を示すタイミングチャート。
【図9】目標回転速度設定処理及び復帰回転速度設定処理を実行した場合において、機関水温が低いときの各パラメータの推移の一例を示すタイミングチャート。
【図10】燃料カット実行中にロックアップON信号が出力されている状態でロックアップクラッチ機構によるロックアップが解除された場合において、燃料カットからの復帰の態様を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図1〜図10を参照して説明する。
図1に示すように、内燃機関10の出力軸10aには、作動流体を介してトルク伝達を行うトルクコンバータ11が接続されている。このトルクコンバータ11には、無段変速機(以下、CVTという)12の入力軸12aが接続されており、CVT12の出力軸12bは駆動輪13に接続されている。
【0031】
トルクコンバータ11には、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとを機械的に接続する接続機構としてのロックアップクラッチ機構14が備えられている。
【0032】
このロックアップクラッチ機構14の作動を通じて、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとが直接的に接続された「接続状態」と、出力軸10aと入力軸12aとの接続が解除された「非接続状態」とが切り替えられる。
【0033】
CVT12は連続して無段階に変速比を変更可能な変速機である。具体的には、CVT12は、出力軸12b(駆動輪13側)が接続された出力プーリ15と、入力軸12a(トルクコンバータ11側)が接続された入力プーリ16と、それらプーリ15,16の間に巻き掛けられたベルト17とを備えている。両プーリ15,16は例えば油圧などを駆動源としてその溝幅をそれぞれ自在に変更可能となっており、その溝幅の変更に応じて上記ベルト17の巻き掛け半径が各々調整される。
【0034】
内燃機関10、CVT12、ロックアップクラッチ機構14等は、電子制御装置(以下、ECUという)18によって制御される。
ECU18は、エンジン制御、変速機制御などをそれぞれ専門に司る複数のマイクロコンピュータ・ユニットによって構成されており、車両各部に設けられたセンサ類によって検出された情報に基づき、車両の各種制御を行う。
【0035】
例えば、車両には、車速SPDを検出する車速センサ19やアクセルペダルの操作量ACCPを検出するアクセルセンサ20、入力プーリ16とともに回転する入力軸12aの回転速度(入力軸回転速度Nin)を検出する入力軸回転速度センサ21が設けられている。また、シフトレバーの位置を検出するシフト位置センサ22、走行モードとしてのノーマルモード及びスポーツモードのいずれかを選択するための走行モード選択スイッチ23等も設けられている。また、内燃機関10は、機関回転速度NEを検出する機関回転速度センサ25、機関水温Thwを検出する水温センサ24、吸気系の圧力PMを検出する吸気圧センサ26、吸入空気量を検出するエアフロメータ等が設けられている。
【0036】
ECU18は、図示しない油圧制御回路による油圧制御を通じて、CVT12の変速比やロックアップクラッチ機構14の作動を制御する。また、ECU18は、上記各種センサの検出結果に基づいて内燃機関10の燃料噴射制御等、各種の機関制御を行う。
【0037】
図2に示すように、ロックアップクラッチ機構14の作動は、車速SPD及びアクセル操作量ACCPに基づきECU18により制御される。より具体的には、車速がある程度高い車速H2以上のときには、アクセル操作量ACCPにかかわらず、ECU18から制御指令値であるロックアップON信号が出力されて、ロックアップが実行される(ロックアップON)ことにより、トルクコンバータ11での駆動力損失が抑えられる。
【0038】
また、車速がある程度低いロックアップ解除速度H1以下(H1<H2)のときには、アクセル操作量ACCPにかかわらず、ECU18から制御指令値であるロックアップOFF信号が出力されて、ロックアップが解除される(ロックアップOFF)。これは、ロックアップが実行されている状態では、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとが直結状態になっている。そのため、車速の低下に伴って機関回転速度も低下していくのであるが、車両が停止状態になるまでロックアップの実行を継続すると機関回転速度が低下しすぎてエンジンストールが生じてしまう。そこで、車速がロックアップ解除速度H1以下となったときにはロックアップを解除して内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとを非接続状態にすることで、上記エンジンストールの発生が回避される。
【0039】
また、車速がロックアップ解除速度H1と車速H2との間にあるときには、車速SPD及びアクセル操作量ACCPに基づいてロックアップの状態が切り替えられる。より詳細には、アクセル操作量ACCPが所定値A以上のときには、ロックアップOFF信号がECU18から出力されてロックアップは解除される。また、アクセル操作量ACCPが所定値A未満のときには、ロックアップON信号がECU18から出力されてロックアップが実行される。そして、上記所定値Aは車速が増加するほど大きくなるように可変設定される。これにより、車速が低いときほど少ないアクセル操作量ACCPでロックアップが解除されるようになり、トルクコンバータ11によるトルク増大作用が低速度域において好適に得られるようになる。
【0040】
なお、ロックアップクラッチ機構14の作動状態を接続状態(ロックアップON)から非接続状態(ロックアップOFF)にしたり、非接続状態(ロックアップOFF)から接続状態(ロックアップON)にしたりするときに作動状態の切り替えが急速に行われると、車両の動力伝達系にショック等が発生するおそれがある。そのため、ロックアップクラッチ機構14の作動状態を切り替えるときには、その切替が徐々に行われるように同ロックアップクラッチ機構14に対する制御指令値の調整を行うようにしている。より具体的には、ロックアップクラッチ機構14は、油圧供給によりロックアップON状態になり、油圧供給の停止によってロックアップOFF状態になるように構成されており、作動状態の切り替えに際しては油圧が徐々に変化するように油圧制御される。
【0041】
また、ECU18は、車両の減速時に内燃機関10の燃料噴射を停止する、いわゆる減速時燃料カットを実行する。この燃料カットは、アクセルペダルが踏まれていないこと及び機関回転速度NEが所定の復帰回転速度を超えていることを条件に実行される。そして、機関回転速度が復帰回転速度以下になった場合、あるいはアクセペダルが踏み込まれると燃料カットは中止されて燃料噴射が再開される。
【0042】
上記燃料カットは、燃費の向上を図る上では、極力長い期間にわたって行われるようにすることが望ましい。そこで、本実施形態における車両の制御装置は、燃料カット中の機関回転速度NEができる限り長い間復帰回転速度を上回っているようにCVT12の変速比を制御して、燃料カットを極力長い間継続させるようにしている。
【0043】
より詳細には、復帰回転速度Nrtluについては可能な限り低い回転速度が設定される。また、図3に示すように、機関回転速度NEについては復帰回転速度Nrtluよりもやや高い一定の目標速度NEpとなるように制御される。ここで、減速時の燃料カット中は車速がある程度あるため、ロックアップクラッチ機構14はロックアップ状態になっており、機関回転速度NEとCVT12の入力軸12aの回転速度とは同一の速度になる。また、燃料カット中には燃料噴射制御による機関回転速度の調整は不可能であるが、CVT12の変速比制御による入力軸12aの回転速度制御を通じて機関回転速度を調整することが可能である。そこで、機関回転速度NEが上記目標速度NEpに維持されるように制御するに際しては、入力軸12aの目標回転速度Nintが設定され、同入力軸12aの回転速度が目標回転速度NintとなるようにCVT12の変速比が調整される。
【0044】
先の図3に実線にて示すように、機関回転速度NE(=入力軸12aの回転速度)が目標速度NEp(=目標回転速度Nint)にまで低下するまでは、CVT12の変速比が最小変速比で維持される。そして、機関回転速度NE(=入力軸12aの回転速度)が目標速度NEp(=目標回転速度Nint)に達すると、上述したように機関回転速度NE(=入力軸12aの回転速度)を目標速度NEp(=目標回転速度Nint)に維持するべくCVT12の変速比が制御される。より具体的には、車速の低下に伴う機関回転速度NEの低下を抑えるように変速比(CVT12の入力軸12aの回転速度/CVT12の出力軸12bの回転速度)が大きくされていく。なお、復帰回転速度Nrtluと目標回転速度Nintとの差については、変動等によって機関回転速度が一時的に復帰回転速度Nrtluを下回ることがないように、その差をある程度設けつつも可能な限り小さい値にすることが望ましい。
【0045】
ちなみに、機関回転速度NEが上記目標速度NEpに維持されるようにCVT12の変速比を制御する処理はECU18によって行われ、この処理を実行するECU18は上記変速比制御手段を構成している。
【0046】
このようにして燃料カット中の機関回転速度NEを復帰回転速度Nrtlu近傍の速度であって同復帰回転速度Nrtluよりもやや高い一定の目標速度NEpに維持する制御を行うことで燃料カットの実行期間が長くなる。また、燃料カット中であって機関回転速度NEが上記目標速度NEpに維持されているときにアクセルペダルが踏み込まれて加速要求がなされたときには、CVTの変速比が既に比較的大きな値にされているため、加速要求を満たす所望の変速比(一般的には大きい変速比)に向けて速やかに変更することができる。従って、所望の変速比に変速するまでの間において、運転条件が燃費特性や加速特性の点で最適な条件から外れることを極力抑制することも可能になる。
【0047】
ところで、上述したように機関回転速度NEを復帰回転速度Nrtluの近傍に維持する場合には、燃料カット実行中の機関回転速度NEが比較的低い回転速度に維持されるため、次のような不都合の発生が懸念される。
【0048】
例えば機関温度が低い場合などのように、混合気の燃焼状態が不安定になる場合には、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開されたとしても、その燃料噴射の再開から十分な機関出力が発生するようになるまでにはある程度の時間がかかり、この時間内においては機関回転速度NEが低下してしまう。従って、燃料カット実行中の機関回転速度NEが比較的低い回転速度に維持される場合には、燃料カットからの復帰直後における機関回転速度NEも低くなっており、この低回転状態から機関回転速度NEが低下することになる。この場合には、機関出力が十分に発生する前に機関回転速度NEが大きく低下し、エンジンストールに至ってしまうおそれがある。
【0049】
そこで、本実施形態では、上記目標回転速度Nintを設定する以下の目標回転速度設定処理と、上記復帰回転速度を設定する以下の復帰回転速度設定処理とを実行することにより、そのようなエンジンストールの発生を抑えるようにしている。
【0050】
図4に、目標回転速度設定処理の手順を示す。なお、この目標回転速度設定処理は、ECU18によって所定の制御周期ごとに繰り返し実行される。
本処理では、まず、ステップS11において、機関水温Thwに基づき、目標回転速度算出マップを参照して目標回転速度Nintが算出される。図5に示すように、目標回転速度算出マップには、機関水温Thwに対応する目標回転速度Nintが設定されている。この目標回転速度算出マップでは、機関水温Thwが所定値T以上であり内燃機関10が暖機完了状態であると判断できる領域では目標回転速度Nintが一定の最小値Aとなるように設定される。一方、機関水温Thwが所定値Tより低く内燃機関10が暖機状態でないと判断できる領域では、機関水温Thwが低くなるほど目標回転速度Nintが高くなるように設定される。なお、このようにして目標回転速度Nintは機関水温Thwに応じて変更されるのであるが、いずれの機関水温Thwであっても、上記復帰回転速度Nrtlu近傍の速度であって同復帰回転速度Nrtluよりもやや高い回転速度に設定される(図7を参照)。
【0051】
このように機関水温Thwに基づいて目標回転速度Nintを設定する理由は以下による。すなわち、混合気の燃焼状態は、機関温度が低いときほど不安定になる傾向がある。そこで、混合気の燃焼状態についてその不安定度を検出する方法としては、機関温度と相関するパラメータを検出し、その検出結果に基づいて燃焼状態の不安定度を検出する、といった方法がある。ここで、機関温度に相関するパラメータとしては、機関の冷却水温等が挙げられる。そこで、本実施形態では、混合気の燃焼状態についてその不安定度を機関水温Thwに基づいて推定し、機関水温Thwが低いほど、すなわち燃焼状態の不安定度が高いときほど目標回転速度Nintが高い値となるようにしている。
【0052】
ステップS11にて目標回転速度Nintが算出されると、次に、ステップS12に移行して、内燃機関10の吸気系の圧力PM、走行モードの種別等を示す各種パラメータを検出し、各種パラメータに基づいて入力軸12aの各種要求回転速度が算出される。これら各種要求回転速度としては、例えば次のようなものがある。
【0053】
車両では、ブレーキブースターによる倍力作用を得たり、燃料タンク内の蒸発燃料を吸気系に導入したりするために吸気系の負圧が利用される。機関運転状態によってはこの負圧が不足することがあり、この場合には機関回転速度を増大させるなどして吸気系の内圧を低下させる必要がある。そこで、負圧が必要であるとの要求があるときに吸気系の圧力PMが所定値以上であり、要求された負圧を確保することができないと判定される場合には、機関回転速度NEを高めて負圧を確保するために必要な要求回転速度が算出される。
【0054】
また、車両の走行モードがスポーツモードのときには、ノーマルモードのときに比して機関回転速度を高めるための要求回転速度が算出される。
このようにして各種要求回転速度が算出されると、ステップS13では、ステップS11で算出された目標回転速度Nint及びステップS12で算出された各種要求回転速度のうちで最も高い回転速度が最大目標回転速度Nintmaxとして選択されて、本処理は一旦終了される。このステップS13の処理により、目標回転速度Nintが最も高い回転速度であった場合には、同目標回転速度Nintが最大目標回転速度Nintmaxに設定される。一方、目標回転速度Nintよりも各種要求回転速度の方が高い回転速度であった場合には、各種要求回転速度のうちで最も高い回転速度が最大目標回転速度Nintmaxに設定される。この場合には少なくとも目標回転速度Nintよりも高い回転速度が最大目標回転速度Nintmaxに設定されるため、その設定された最大目標回転速度Nintmaxが後述の復帰回転速度Nrtluを下回ることはない。
【0055】
このようにして最大目標回転速度Nintmaxが設定されると、ECU18は、入力軸12aの回転速度が最大目標回転速度NintmaxとなるようにCVT12の変速比を制御する。例えば、ECU18は、燃料カットの実行中においてCVT12の入力軸回転速度Ninが最大目標回転速度Nintmaxにまで低下すると、入力軸回転速度Ninが最大目標回転速度Nintmaxに維持されるようにCVT12の変速比を制御する。
【0056】
次に、復帰回転速度設定処理について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。なお、この復帰回転速度設定処理も、ECU18により所定の制御周期ごとに繰り返し実行される。
【0057】
本処理では、まず、ステップS21で、ロックアップON信号が出力されている状態で実際の作動状態がロックアップON状態になっているか否かが判定される。ここでは、機関回転速度NEと入力軸12aの入力軸回転速度Ninとの偏差が所定値以内であれば、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態はロックアップON状態になっていると判定される。なお、目標回転速度Nintと復帰回転速度Nrtluとの差は、上記偏差を判定する上記所定値よりも大きくなるように設定されている。逆にいえば、上記偏差を判定する上記所定値は、目標回転速度Nintと復帰回転速度Nrtluとの差よりも小さい値となっている。
【0058】
一方、機関回転速度NEと入力軸回転速度Ninとの偏差が所定値を超えているときには、制御指令値としてロックアップON信号が出力されているにもかかわらず、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態はロックアップOFF状態になっていると判定される。なお、このようにECU18の制御指令値に反してロックアップクラッチ機構14の作動状態がロックアップOFF状態になる理由としては、例えばロックアップクラッチ機構14に対して外乱が作用すること(ロックアップクラッチ機構14を解除する物理的な力の作用や油圧の一時的な低下など)等が挙げられる。ちなみに、このステップS21の処理は、上記判定手段を構成する。
【0059】
そして、実際の作動状態がロックアップON状態になっていると判定される場合には(S21:YES)、ステップS22に移行する。
ステップS22では、復帰回転速度算出マップを参照して、機関水温Thwに基づきロックアップON時の復帰回転速度Nrtluが算出され、本処理は一旦終了される。
【0060】
一方、ステップS21にて、実際の作動状態がロックアップOFF状態になっていると判定される場合には(S21:YES)、ステップS24に移行する。
ステップS24では、復帰回転速度算出マップを参照して、機関水温Thwに基づきロックアップOFF時の第2復帰回転速度Nrtluoffが算出され、本処理は一旦終了される。
【0061】
図7に上記復帰回転速度算出マップの設定態様を示す。この図7において、実線には上述した目標回転速度Nintの設定態様を示し、一点鎖線にはロックアップON時の復帰回転速度Nrtluの設定態様を示し、二点鎖線にはロックアップOFF時の第2復帰回転速度Nrtluoffの設定態様を示す。
【0062】
同図7に一点鎖線にて示すように、ロックアップON時の復帰回転速度Nrtluについては、機関水温Thwが所定値T以上であって内燃機関10の暖機が完了していると判断可能な領域において一定の最小値Bに設定される。一方、機関水温Thwが所定値Tよりも低い領域では、機関水温Thwが低くなるほど復帰回転速度Nrtluが高くなるように設定される。なお、このようにして復帰回転速度Nrtluは機関水温Thwに応じて変更されるのであるが、いずれの機関水温Thwであっても、復帰回転速度Nrtluは上記目標回転速度Nint近傍の速度であって同目標回転速度Nintよりもやや低い回転速度に設定される。
【0063】
また、同図7に二点鎖線にて示すように、ロックアップOFF時の第2復帰回転速度Nrtluoffについても、機関水温Thwが所定値T以上であって内燃機関10の暖機が完了していると判断可能な領域において一定の最小値Cに設定される。一方、機関水温Thwが所定値Tよりも低い領域では、機関水温Thwが低くなるほど第2復帰回転速度Nrtluoffが高くなるように設定される。なお、このようにしてロックアップOFF時の第2復帰回転速度Nrtluoffも機関水温Thwに応じて変更されるのであるが、いずれの機関水温Thwであっても、第2復帰回転速度Nrtluoffは上記目標回転速度Nint近傍の速度であって同目標回転速度Nintよりもやや高い回転速度に設定される。
【0064】
このように復帰回転速度設定処理では、機関水温Thwに基づいて復帰回転速度を設定するようにしているが、ロックアップクラッチ機構14の作動状態に応じて異なる値が設定されるようにしている。より具体的には、ロックアップON信号が出力されている状態で実際の作動状態がロックアップON状態になっており、ロックアップクラッチ機構14が正常に作動しているときには、目標回転速度Nintよりも低い復帰回転速度Nrtluを設定するようにしている。一方、ロックアップON信号が出力されている状態で実際の作動状態がロックアップOFF状態になっており、ロックアップクラッチ機構14が正常に作動していないときには、目標回転速度Nintよりも高い第2復帰回転速度Nrtluoffを設定するようにしている。
【0065】
なお、上記目標回転速度設定処理や上記復帰回転速度設定処理を実行するECU18は、上記変更手段及び上記第2の変更手段を構成する。
次に、上記目標速度設定処理及び上記復帰回転速度設定処理による作用について、図8〜図10を参照して説明する。なお、図8〜図10においては、上記最大目標回転速度Nintmaxが上記目標回転速度Nintに設定されている場合を例示している。
【0066】
図8には、内燃機関10が暖機完了状態であるときに燃料カットが行われた場合の作用を示す。図9には、内燃機関10が冷間状態であるときに燃料カットが行われた場合の作用を示す。そして、図10には、燃料カットの実行中において外乱等によりロックアップが解除された場合の作用を示す。
【0067】
図8に示すように、時刻t1以前においてはロックアップON信号が出力されており、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態はロックアップON状態になっている。そして、車両走行中においてアクセルペダルの踏み込みがなくなると(時刻t1)、燃料カットが実行されて、車速SPDは徐々に低下していく。この車速SPDの低下に伴って入力軸回転速度Nin及び機関回転速度NEも徐々に低下していく。
【0068】
ここで、内燃機関10は暖機完了状態であり混合気の燃焼状態についての不安定度は低くなっているため、目標回転速度Nintは最小値Aに設定され、復帰回転速度Nrtluは最小値Bに設定される。
【0069】
入力軸回転速度Ninが上記目標回転速度Nintにまで低下すると(時刻t2)、入力軸回転速度Ninを目標回転速度Nintに維持するための変速比制御が開始されて、機関回転速度NEは上記目標速度NEpに維持される。
【0070】
そして、車速SPDがロックアップ解除速度H1にまで低下すると(時刻t3)、ロックアップOFF信号が出力されてロックアップが解除される。なお、このロックアップの解除に際しては、上述したようにその解除が徐々に行われる。そして、このロックアップの解除が進行するにつれて機関回転速度NEは低下していき、機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtluを下回ると(時刻t4)、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される。この場合、混合気は安定して燃焼するため、燃料噴射の再開から十分な機関出力が発生するまでの期間は短い。そのため、上記目標回転速度Nintや復帰回転速度Nrtluを最小値に設定していても、早期に機関回転速度NEの低下は収まり、所定の回転速度(例えばアイドル回転速度など)に維持される。
【0071】
なお、ロックアップOFF信号が出力された後に燃料噴射が再開されるため、内燃機関10に対する車両駆動系の負荷は非常に小さくなっている状態で燃料噴射が再開される。そのため、燃料カットからの復帰が、すなわち機関回転速度の回復が速やかになされる。
【0072】
ちなみに、本実施形態では、入力軸回転速度Ninを目標回転速度Nintに維持するための変速比制御を、燃料カットが中止されてから中止するようにしている。従って、燃料カットが中止されると、入力軸回転速度Ninは車速の低下にあわせて低下していく。なお、上記変速比制御は、他のタイミング、例えばロックアップ信号がONからOFFに切り替わった時点で中止するようにしてもよい。
【0073】
一方、内燃機関10が冷間状態である場合には、図9に示す作用が得られる。
この図9に示すように、時刻t6以前においてはロックアップON信号が出力されており、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態はロックアップON状態になっている。そして、車両走行中においてアクセルペダルの踏み込みがなくなると(時刻t6)、燃料カットが実行されて、車速SPDは徐々に低下していく。この車速SPDの低下に伴って入力軸回転速度Nin及び機関回転速度NEも徐々に低下していく。
【0074】
ここで、内燃機関10が冷間状態となっているときには、混合気の燃焼状態についての不安定度は高くなっている。そこで、燃焼状態の不安定度に相関する機関水温Thwに基づき、同機関水温Thwが低いときほど目標回転速度Nint及び復帰回転速度Nrtluは高い値に設定される。
【0075】
入力軸回転速度Ninが上記目標回転速度Nintにまで低下すると(時刻t7)、入力軸回転速度Ninを目標回転速度Nintに維持するための変速比制御が開始されて、機関回転速度NEは上記目標速度NEpに維持される。このときには、上記目標回転速度Nintが暖機完了状態のときに設定される目標回転速度Nintよりも高くなっているため、機関冷間時において上記変速比制御により維持される機関回転速度NEは、暖機完了状態のときに維持される機関回転速度NEよりも高くなっている。
【0076】
そして、車速SPDがロックアップ解除速度H1にまで低下すると(時刻t8)、ロックアップOFF信号が出力されてロックアップが解除される。なお、このロックアップの解除に際しても、上述したようにその解除が徐々に行われる。そして、このロックアップの解除が進行するにつれて機関回転速度NEは低下していき、機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtluを下回ると(時刻t9)、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される。なお、上述したように、冷間状態のときに設定される復帰回転速度Nrtluは、暖機完了状態のときに設定される復帰回転速度Nrtluよりも高くなっている。
【0077】
この燃料噴射が再開されたときに、上記目標回転速度Nintや復帰回転速度Nrtluが機関水温Thwに応じて高められていない場合には(図9に示す(NEp=Nint)、(Ntrlu))、同図9に破線L1にて示すようにして機関回転速度NEは変化する。すなわち、機関冷間時には混合気の燃焼状態が不安定になる。そのため、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開されたとしても、その燃料噴射の再開から十分な機関出力が発生するようになるまでにはある程度の時間がかかり、この時間内において機関回転速度NEは低下してしまう。従って、目標回転速度Nintが機関水温Thwに応じて高められておらず、燃料カット実行中の機関回転速度NEが比較的低い回転速度に維持される場合には、燃料カットからの復帰直後における機関回転速度NEも低くなっており、この低回転状態から機関回転速度NEが低下することになる。この場合には、燃料噴射が再開されて十分な機関出力が発生するようになる前に機関回転速度NEが大きく低下して、エンジンストールに至ってしまうおそれがある。
【0078】
この点、本実施形態では、機関水温Thwに応じて復帰回転速度Nrtluを高めるようにしている。そして復帰回転速度Nrtluを高めることにあわせて目標回転速度Nintも機関水温Thwに応じて高めるようにしている。そのため、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開された直後の機関回転速度NEは、混合気の燃焼状態が不安定なときほど高くなり、燃料噴射が再開された直後の機関回転速度NEがエンジンストールに至るまで低下するのに要する時間は、混合気の燃焼状態が不安定なときほど長くなる。従って、燃料噴射が再開されてから十分な機関出力が発生するようになるまでに要する時間を、燃焼状態の不安定度に合わせて適切に確保することができるようになり、これにより燃料カットからの復帰時において、混合気の燃焼状態が不安定なときに生じるおそれのあるエンジンストールの発生を抑制することができるようになる。
【0079】
このようにして燃料噴射が再開されると、その後、機関回転速度NEの低下は収まり、所定の回転速度(例えばアイドル回転速度など)に維持される。
他方、燃料カットの実行中において外乱等によりロックアップが解除された場合には、図10に示す作用が得られる。
【0080】
車両が段差を通過したり、急ブレーキをかけたりした場合には、ロックアップクラッチ機構14が外乱を受けることがある。このような場合には、ロックアップON信号が出力されていても、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態はロックアップOFF状態になるおそれがある。このようにロックアップON信号が出力されているときに実際の作動状態がロックアップOFF状態になっており、ロックアップクラッチ機構14が正常に作動していない状態が燃料カットの実行中に生じると、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aの接続が急速に解除されるため、機関回転速度NEは急速に低下する。
【0081】
例えば図10に示すように、燃料カット実行中であって機関回転速度NEが目標速度NEpに維持されている状態において、ロックアップON信号が出力されているにもかかわらず実際の作動状態がロックアップOFF状態になったときには(時刻t13)、機関回転速度NEが急速に低下する。
【0082】
そして、破線L2にて示すように、機関回転速度NEが急速に低下して復帰回転速度Nrtluを下回ると燃料噴射が再開される(時刻t15)。しかし、この燃料噴射再開前の機関回転速度NEの低下速度は、ロックアップの状態が徐々に切り替えられる通常時の低下速度、即ちロックアップの状態を制御する制御指令値が「ON」から「OFF」に切り替えられたときの機関回転速度NEの低下速度に比べて速い。そのために復帰回転速度Nrtluを下回った後の回転速度の落ち込み量も大きくなる。従って、燃料噴射を再開した後の機関回転速度NEの復帰が間に合わず、エンジンストールが生じる可能性がある。とくに、混合気の燃焼状態が不安定なときには、上述した理由によりエンジンストールが発生しやすくなるおそれがある。
【0083】
この点、本実施形態では、ロックアップON信号が出力されており、ロックアップクラッチ機構14が本来接続状態となっているべきときに、ロックアップクラッチ機構14の接続が解除されると(時刻t13)、機関回転速度NEと入力軸回転速度Ninとの偏差が増大していく。そして、その偏差に基づいてロックアップOFF状態である旨判定されると(時刻t14)、復帰回転速度が、ロックアップON時の復帰回転速度Nrtluから第2復帰回転速度Nrtluoffに変更される(時刻t14)。この第2復帰回転速度Nrtluoffは、上記目標回転速度Nintよりも高い回転速度に設定されるため、このようにして復帰回転速度が変更されたときの機関回転速度NEは第2復帰回転速度Nrtluoff以下の回転速度になる。そのため、直ちに燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される(時刻t14)。
【0084】
従って、変更前の復帰回転速度Nrtluにまで機関回転速度NEが低下する前に燃料噴射が再開されるようになり、復帰回転速度をロックアップON時の復帰回転速度Nrtluから上記第2復帰回転速度Nrtluoffに変更しない場合と比較して、機関回転速度NEがより高い状態で燃料噴射が再開されるようになる。そのため、燃料噴射を再開した後の機関回転速度NEの落ち込み量が大きくなりやすい場合であっても、実線にて示されるように機関回転速度NEの低下速度を抑えることができ、これによりエンジンストールの発生を抑えることができる。また、ロックアップが解除されてから燃料噴射が再開されるまでの時間が短くなるため、機関回転速度NEの低下加速度がより小さいうちに燃料噴射を再開することができる。そのため、燃料噴射を再開した後の機関回転速度NEの落ち込み量自体も小さくすることができ、これによってもエンジンストールの発生を抑えることができる。
【0085】
なお、上述したように、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態がロックアップON状態であるか否かを判定するための上記所定値は、目標回転速度Nintと復帰回転速度Nrtluとの差よりも小さくされている。従って、上記時刻t13においてロックアップクラッチ機構14の接続が解除された後、機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtluにまで低下する前に、ロックアップOFF状態である旨の判定を行うことができる。従って、機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtluにまで低下する前に、確実に復帰回転速度を第2復帰回転速度Nrtluoffに変更することができ、燃料噴射の再開時期を確実に早めることができる。
【0086】
また、第2復帰回転速度Nrtluoffは機関水温Thwが低いときほど高い回転速度となるように変更される。従って、第2復帰回転速度Nrtluoffは燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度に変更される。そのため、混合気の燃焼状態の不安定度に応じて、変更後の復帰回転速度(第2復帰回転速度Nrtluoff)も変化させることができ、上記作用を適切に得ることができる。
【0087】
ちなみに、図10では、機関回転速度NEが目標速度NEpに維持されているときにロックアップが解除された場合の例を示した。この他、燃料カットが開始されて機関回転速度NEが目標速度NEpにまで低下する途中(図10における時刻t11〜時刻t12の間)においてロックアップが解除された場合にも、復帰回転速度は、ロックアップON時の復帰回転速度Nrtluから第2復帰回転速度Nrtluoffに変更される。この場合、復帰回転速度を変更した時点での機関回転速度NEが第2復帰回転速度Nrtluoff以下であれば、直ちに燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される。一方、復帰回転速度を変更した時点での機関回転速度NEが第2復帰回転速度Nrtluoffを超えている場合には、機関回転速度NEが第2復帰回転速度Nrtluoffにまで低下した時点で燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される。これらいずれの場合でも、復帰回転速度がロックアップON時の復帰回転速度Nrtluから第2復帰回転速度Nrtluoffに変更されるため、このように復帰回転速度を変更しない場合と比較してより早期に燃料噴射が再開されるようになる。従って、燃料カットが開始されて機関回転速度NEが目標速度NEpにまで低下する途中においてロックアップが解除された場合にも、機関回転速度NEが目標速度NEpに維持されているときにロックアップが解除された場合と同様の作用効果が得られる。
【0088】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)燃料カット実行中の機関回転速度NEが、復帰回転速度Nrtlu近傍の速度であって同復帰回転速度Nrtluよりも高い一定の速度(目標速度NEp)に維持されるようにCVT12の変速比を制御するようにしている。そして、燃料カット実行中の機関回転速度NE及び復帰回転速度Nrtluを内燃機関10の混合気の燃焼状態についての不安定度が高いときほど高い回転速度に変更するようにしている。そのため、燃料カットが中止されて燃料噴射が再開された直後の機関回転速度NEは、混合気の燃焼状態が不安定なときほど高くなり、燃料噴射が再開された直後の機関回転速度NEがエンジンストールに至るまで低下するのに要する時間は、混合気の燃焼状態が不安定なときほど長くなる。従って、燃料噴射の再開後に十分な機関出力が発生するようになるまでの時間を適切に確保することができるようになり、これにより燃料カットからの復帰時において、混合気の燃焼状態が不安定なときに生じるおそれのあるエンジンストールの発生を抑制することができる。
【0089】
(2)車速が低下するとCVT12を介して機関回転速度NEも低下していく。ここで、CVT12の変速比を大きくすると、駆動輪13側に接続されるCVT12の出力軸12bに対して同CVT12の入力軸12aの回転速度を高めることができ、その入力軸12aに接続される内燃機関10の出力軸10aの回転速度、つまり機関回転速度NEを高めることができる。
【0090】
そこで、車速が低下するほどCVT12の変速比を大きくするようにしており、これにより燃料カット実行中の機関回転速度NEを復帰回転速度Nrtlu近傍の速度であって同復帰回転速度Nrtluよりも高い一定の速度に維持することができるようになる。
【0091】
(3)機関温度が低いときほど混合気の燃焼状態は不安定になる傾向がある。そこで、機関温度と相関するパラメータである機関水温Thwを検出し、その検出結果に基づいて燃料カット実行中の機関回転速度NEの目標速度NEp及び復帰回転速度Nrtluを設定するようにしている。従って、燃料カット実行中の機関回転速度NEの目標速度NEp及び復帰回転速度Nrtluを混合気の燃焼状態の不安定度に応じて適切に設定することができるようになる。
【0092】
(4)車速SPDがロックアップ解除速度H1以下となったときに、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとが非接続状態になるようにロックアップクラッチ機構14の作動状態を制御するようにしている。このようにして出力軸10aと入力軸12aとの接続解除が燃料カットの実行中に行われると、機関回転速度NEが低下して復帰回転速度Nrtluを下回るようになるため、燃料噴射が再開される。また、この燃料噴射の再開に際しては、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとの接続が解除されているため、内燃機関10に対する車両駆動系の負荷は非常に小さくなっており、燃料カットからの復帰が速やかになされるようになる。
【0093】
従って、燃料カット実行中の機関回転速度NEを復帰回転速度Nrtlu近傍の速度であって同復帰回転速度近傍よりも高い一定の速度に維持する場合であっても、燃料カットの中止を確実に実施することができるとともに、燃料カットからの復帰も速やかに行うことができるようになる。
【0094】
(5)ロックアップクラッチ機構14の作動状態が接続状態となるようにロックアップON信号が出力されているときに実際の作動状態が接続状態となっているか否かを判定するようにしている。
【0095】
そして、その判定結果により実際の作動状態が接続状態になっていない旨の判定がなされたときには、復帰回転速度を、ロックアップON時の復帰回転速度Nrtluから第2復帰回転速度Nrtluoffに変更するようにしている。この第2復帰回転速度Nrtluoffは、一定の速度に維持される燃料カット実行中の機関回転速度NE(目標速度NEp)よりも高い回転速度であって、混合気の燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度となるように変更される。
【0096】
そのため、ロックアップクラッチ機構14が制御指令値とは異なる作動状態になっている旨判定されると、そのときの機関回転速度NEは第2復帰回転速度Nrtluoff以下の回転速度になるため、直ちに燃料カットが中止されて燃料噴射が再開される。従って、変更前の復帰回転速度Nrtluにまで機関回転速度NEが低下する前に燃料噴射が再開されるようになり、復帰回転速度を変更しない場合と比較して機関回転速度NEがより高い状態で燃料噴射が再開されるようになる。従って、燃料噴射を再開した後の機関回転速度NEの落ち込み量が大きくなる場合であっても、エンジンストールの発生を抑えることができるようになる。また、第2復帰回転速度Nrtluoffについてこれを燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度となるように変更するようにしている。そのため、混合気の燃焼状態の不安定度に応じて、第2復帰回転速度Nrtluoffも変化させることができ、上記作用を適切に得ることができるようになる。
【0097】
なお、上述した実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・内燃機関10とCVT12とを、ロックアップクラッチ機構14付きのトルクコンバータ11を介して接続する代わりに、電磁クラッチを介して接続するようにしてもよい。電磁クラッチの場合にはその作動が電気的に制御されるため、内燃機関10とCVT12との接続状態を制御する制御指令値に対して応答性が向上するようになる。
【0098】
・目標回転速度算出マップにおいて、機関水温Thwが所定値T以上の領域にあるときには、目標回転速度Nintとして一定の最小値Aを設定するようにしたが、このようにして目標回転速度Nintを一定の値にしなくてもよい。例えば、機関水温Thwの全領域において、機関水温Thwが低くなるほど目標回転速度Nintが高くなるように目標回転速度Nintと機関水温Thwとの関係を設定してもよい。
【0099】
・復帰回転速度算出マップにおいて、機関水温Thwが所定値T以上の領域にあるときには、復帰回転速度Nrtluとして一定の最小値Bを設定し、第2復帰回転速度Nrtluoffとして一定の最小値Cを設定するようにしたが、このようにして復帰回転速度を一定の値にしなくてもよい。例えば、機関水温Thwの全領域において、機関水温Thwが低くなるほど復帰回転速度Nrtluや第2復帰回転速度Nrtluoffが高くなるように復帰回転速度と機関水温Thwとの関係を設定してもよい。
【0100】
・目標回転速度Nint、復帰回転速度Nrtlu、及び第2復帰回転速度Nrtluoffをそれぞれマップに基づいて算出するようにしたがこの他の態様で算出するようにしてもよい。例えば関数式を用いて算出してもよい。また、目標回転速度Nintを機関水温Thwに基づいて設定するとともに、目標回転速度Nintから所定値を減算したり、所定値(1から0の間の値)を乗算したりすることにより復帰回転速度Nrtluを算出するようにしてもよい。同様に、目標回転速度Nintを機関水温Thwに基づいて設定するとともに、目標回転速度Nintに対して所定値を加算したり、所定値(1よりも大きい値)を乗算したりすることにより第2復帰回転速度Nrtluoffを算出するようにしてもよい。
【0101】
・復帰回転速度を、ロックアップON時の復帰回転速度Nrtluから第2復帰回転速度Nrtluoffに変更する場合には、燃料カットが中止された時点で(図10の時刻t14)、あるいは実際の作動状態がロックアップOFF状態であると判定された時点(図10の時刻t13)等において、ロックアップ信号をON状態からOFF状態に切り替えることが望ましい。この場合には、外乱等によってロックアップOFF状態になったロックアップクラッチ機構14が、燃料噴射の再開後、再びロックアップON状態に戻ろうとしても、ロックアップOFF信号が出力されているため、ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態はロックアップOFF状態にされる。従って、燃料カット中止による燃料噴射が行われるときには、内燃機関10に対する車両駆動系の負荷が非常に小さくなっている状態になり、これにより燃料カットからの復帰が、すなわち機関回転速度の回復が速やかにかつ確実になされるようになる。
【0102】
・機関温度に相関するパラメータとして機関水温Thwとは異なるパラメータを用いるようにしてもよい。例えば、機関の油温、機関始動からの経過時間等も機関温度に相関するため、これらのパラメータを用いるようにしてもよい。
【0103】
・混合気の燃焼状態についてその不安定度を機関温度に相関するパラメータに基づいて検出するようにした。この他、例えば、吸気温が低いときも燃焼状態は不安定になるため、吸気温に基づいて燃焼状態の不安定度を検出するようにしてもよい。
【0104】
ちなみに、吸気温が低いときも燃焼状態は不安定になる。そこで、吸気温を検出し、その検出結果に基づいて目標回転速度Nint、復帰回転速度Nrtlu、及び第2復帰回転速度Nrtluoffを燃焼状態の不安定度に応じた値に設定するようにしてもよい。
【0105】
・目標回転速度設定処理や復帰回転速度設定処理を燃料カットの実行中にのみ実行するようにしてもよい。
・燃料カット中において機関回転速度NEが目標速度NEpに達していない状態では、CVT12の変速比が最小変速比となるように制御するようにした。この他、例えばCVT12の変速比が最小変速比よりも大きい変速比となるように制御してもよい。
【0106】
・先の図4に示した目標回転速度設定処理では、各種要求回転速度を算出し(S12)、目標回転速度Nint及び各種要求回転速度のうちで最も高い回転速度を選択するようにした(S13)。この他、ステップS12、ステップS13の処理を省略して、機関水温Thwに基づく目標回転速度Nintの算出のみを行うようにしてもよい。
【0107】
・先の図6に示した復帰回転速度設定処理では、第2復帰回転速度Nrtluoffを算出するようにしたが、ステップS21、ステップS24の処理を省略して、第2復帰回転速度Nrtluoffの算出を行わないようにしてもよい。この場合でも上記(1)〜(4)に記載の効果を得ることができる。
【0108】
・上記実施形態では、機関回転速度NEを目標速度NEpに維持するためにCVT12の変速比制御を行うようにした。ここで、車速が大きく低下したときにはCVT12の最大変速比をもってしても機関回転速度NEを目標速度NEpに維持することが不可能になるため、車速の低下にあわせて機関回転速度NEは低下していくようになり、同機関回転速度NEは復帰回転速度Nrtluに下回るようになる。従って、上記実施形態ではロックアップOFF信号の出力によりロックアップが解除されて機関回転速度NEが低下することにより、同機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtluを下回るようになっていたが、必ずしもロックアップを解除することで機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtluを下回るようにしなくてもよい。
【0109】
・CVT12の入力軸12aの回転速度についてその目標回転速度Nintを設定し、入力軸12aの実際の回転速度(入力軸回転速度Nin)が目標回転速度Nintとなるように変速比を制御することにより、機関回転速度NEが復帰回転速度Nrtlu近傍の上記目標速度NEpに維持されるようにした。つまり、入力軸12aの回転速度を目標回転速度Nintに維持することを介して、間接的に機関回転速度NEが上記目標速度NEpに維持されるようにした。ここで、上述したようにロックアップON状態では、内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとが同一の回転速度になる。従って、上記目標回転速度Nintの設定を省略し、上記目標速度NEpに基づいて直接CVT12の変速比制御を行うようにしてもよい。
【0110】
・ロックアップクラッチ機構14の実際の作動状態がロックアップON状態になっているか否かについて、機関回転速度NEと入力軸12aの入力軸回転速度Ninとの偏差に基づき判定するようにしたが、この他の態様で判定するようにしてもよい。例えば、ロックアップクラッチ機構14にその作動状態を検出するセンサやスイッチを設け、それらセンサやスイッチの検出結果に基づいて実際の作動状態を判定するようにしてもよい。
【0111】
なお、機関回転速度NEと入力軸12aの入力軸回転速度Ninとの偏差に基づき、実際のロックアップ状態を判定する場合には、ロックアップ状態が変化してから上記偏差が所定値に達するまでの間にある程度の時間がかかる。従って、この時間の分(図10に示す時刻t13から時刻t14の時間分)だけ、実際のロックアップ状態がOFF状態になってから復帰回転速度が第2復帰回転速度Nrtluoffに変更されるまでの間には時間がかかる。この点、上記センサやスイッチなどにより、ロックアップクラッチ機構14の作動状態をより早く検出することを可能にすれば、上述したような判定に要する時間をより短縮することができる。従って、実際のロックアップ状態がOFF状態になってから復帰回転速度が第2復帰回転速度Nrtluoffに変更されるまでの間の時間を短くすることができ、機関回転速度NEがより高い状態で、詳細には目標速度NEpにより一層近い状態で燃料噴射を再開することができる。
【0112】
・無段変速機としてベルト式のCVT12が適用される場合を例に挙げたが、この他の無段変速機であってもよい。例えばトロイダル式の無段変速機であってもよい。
・内燃機関10の出力軸10aとCVT12の入力軸12aとを接続状態及び非接続状態に切り換える接続機構として、ロックアップクラッチ機構14が適用される場合を例に挙げたが、その他の機構でもよい。例えば上述した電磁クラッチであってもよい。
【符号の説明】
【0113】
10…内燃機関、10a…出力軸、11…トルクコンバータ、12…無段変速機(CVT)、12a…入力軸、12b…出力軸、13…駆動輪、14…ロックアップクラッチ機構、15…出力プーリ、16…入力プーリ、17…ベルト、18…変速比制御手段、変更手段、及び第2の変更手段としての電子制御装置(ECU)、19…車速センサ、20…アクセルセンサ、21…入力軸回転速度センサ、22…シフト位置センサ、23…走行モード選択スイッチ、24…水温センサ、25…機関回転速度センサ、26…吸気圧センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料カット実行中の機関回転速度が復帰回転速度を下回ったときに燃料カットが中止される内燃機関と同内燃機関に接続される無段変速機とを備える車両に適用されて、前記内燃機関及び前記無段変速機の制御を行う制御装置であって、
前記燃料カット実行中の機関回転速度が、前記復帰回転速度近傍の速度であって同復帰回転速度よりも高い一定の速度に維持されるように前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、
前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を前記内燃機関の混合気の燃焼状態についての不安定度が高いときほど高い回転速度に変更する変更手段と、を備える
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記変速比制御手段は、車速が低下するほど前記変速比を大きくする
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記変更手段は、機関温度と相関するパラメータを検出し、その検出結果に基づいて前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を前記不安定度に応じた値に設定する
請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記変更手段は、前記パラメータとして機関の冷却水温を検出し、前記冷却水温が低いときほど前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を高い回転速度に設定する
請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関の出力軸と前記無段変速機の入力軸との間には、前記出力軸と前記入力軸とを接続状態及び非接続状態に切り換える接続機構が設けられており、車速が所定値以下となったときには前記出力軸と前記入力軸とが非接続状態になるように前記接続機構の作動状態が制御される
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記接続機構の作動状態が接続状態となるように制御指令値が出力されているときに実際の作動状態が接続状態となっているか否かを判定する判定手段と、
同判定手段により実際の作動状態が接続状態になっていない旨の判定がなされたときには、前記復帰回転速度を、一定の速度に維持される前記燃料カット実行中の機関回転速度よりも高い回転速度であって前記燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度となるように変更する第2の変更手段と、を備える
請求項5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記無段変速機の入力軸にはトルクコンバータが接続されており、前記接続機構は、前記トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチ機構である
請求項5又は6に記載の車両の制御装置。
【請求項1】
燃料カット実行中の機関回転速度が復帰回転速度を下回ったときに燃料カットが中止される内燃機関と同内燃機関に接続される無段変速機とを備える車両に適用されて、前記内燃機関及び前記無段変速機の制御を行う制御装置であって、
前記燃料カット実行中の機関回転速度が、前記復帰回転速度近傍の速度であって同復帰回転速度よりも高い一定の速度に維持されるように前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、
前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を前記内燃機関の混合気の燃焼状態についての不安定度が高いときほど高い回転速度に変更する変更手段と、を備える
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記変速比制御手段は、車速が低下するほど前記変速比を大きくする
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記変更手段は、機関温度と相関するパラメータを検出し、その検出結果に基づいて前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を前記不安定度に応じた値に設定する
請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記変更手段は、前記パラメータとして機関の冷却水温を検出し、前記冷却水温が低いときほど前記燃料カット実行中の機関回転速度及び前記復帰回転速度を高い回転速度に設定する
請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関の出力軸と前記無段変速機の入力軸との間には、前記出力軸と前記入力軸とを接続状態及び非接続状態に切り換える接続機構が設けられており、車速が所定値以下となったときには前記出力軸と前記入力軸とが非接続状態になるように前記接続機構の作動状態が制御される
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記接続機構の作動状態が接続状態となるように制御指令値が出力されているときに実際の作動状態が接続状態となっているか否かを判定する判定手段と、
同判定手段により実際の作動状態が接続状態になっていない旨の判定がなされたときには、前記復帰回転速度を、一定の速度に維持される前記燃料カット実行中の機関回転速度よりも高い回転速度であって前記燃焼状態の不安定度が高いときほど高い回転速度となるように変更する第2の変更手段と、を備える
請求項5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記無段変速機の入力軸にはトルクコンバータが接続されており、前記接続機構は、前記トルクコンバータに設けられたロックアップクラッチ機構である
請求項5又は6に記載の車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−127696(P2011−127696A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286806(P2009−286806)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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