説明

車両用制御装置

【課題】この発明は、エンジンの自動的な停止/再始動について運転者の操作負担を軽減し、エンジンの再始動後に車両が自動的に発進されることがない車両用制御装置を実現することを目的とする。
【解決手段】この発明は、車両用制御装置において、エンジン制御手段は、エンジンを自動的に停止させる場合に、シフトバイワイヤ式変速制御手段に変速機を駐車レンジに変更するように要求し、また、エンジンを再始動した後、シフトバイワイヤ式変速制御手段に変速機のシフトレンジを走行レンジに変更するように要求し、シフトバイワイヤ式変速制御手段は、走行レンジヘの変更要求がある時で、かつ車両のブレーキ装置が作動状態ではない時には、車両状態判定手段により車両が前方に移動可能であると判定された場合にのみ、変速機を走行レンジに変更するように制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両用制御装置に係り、特に、交差点での信号待ち中におけるエンジンの自動的な停止/再始動について運転者の操作負担を軽減し、さらに、エンジンの再始動時における安全性を確保することができる車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、車両の停止を指示する交通信号により車両を交差点で停止させた場合に、信号待ち中にエンジンを自動的に停止し、停止したエンジンを再始動する、いわゆるアイドリングストップを行う制御装置を搭載するものがある。この車両用制御装置は、運転者が規定の操作することで、エンジンを自動的に停止/再始動を行う。
【0003】
これに対して、エンジンの停止/再始動の適切なタイミングあるいは的確な燃費改善と排気有害成分低減を目的に、道路側装置から交通信号が発進を許可する信号に変化する時刻を示す時間情報を車両に送信し、この時間情報により車両側でエンジンを停止させるか継続運転するかを判断し、エンジンを停止した場合には所定時間後にエンジンを再始動するように制御する車両用制御装置がある。
【特許文献1】特開2000−303870号公報
【特許文献2】特開2000−345877号公報
【特許文献3】特開2001−28096号公報
【特許文献4】特開2001−55938号公報
【特許文献5】特開2001−20788号公報
【特許文献6】特開2001−289087号公報
【特許文献7】特開2002−303171号公報
【特許文献8】特開2002−303173号公報
【特許文献9】特開2003−41964号公報
【特許文献10】特開2003−56376号公報
【0004】
また、車両には、運転者の視線方向等を含み、車両走行状態や車両前方を主とする周辺の障害物に関する情報を記録し、あるいは、これらの情報から障害物の動きを予測して運転者に警告を発する車両用制御装置がある。
【特許文献11】特開平11−139229号公報
【特許文献12】特開2007−72567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の車両用制御装置は、道路側装置から交通信号が発進を許可する信号に変化する時刻を示す時間情報を得ても、エンジンの自動停止には運転者のクラッチ操作およびブレーキ操作、エンジンの再始動にはアクセル操作もしくはクラッチ操作を必要とする(特許文献1)。あるいは、従来の車両用制御装置は、変速機のシフトレンジが駐車レンジP、あるいは中立レンジNであることが、エンジンの再始動の条件であることが公知である。
したがって、従来の車両用制御装置は、装置がエンジンを停止させるか/継続運転するかの判断や、エンジンの再始動のタイミングの算出をしていながら、エンジンの停止/再始動には運転者によるクラッチ操作やシフト操作などの何らかの操作を必要としていた。
しかしながら、運転者にとっては、操作することなしにエンジンを停止/再始動し、走行可能な状態になった方が望ましい。また、運転者がエンジンを停止する目的で所定の操作を行っても、装置の判断によりエンジンが自動的に停止しないことがあることから、運転者が徒労感を感じることが懸念される。
【0006】
この発明は、交差点での信号待ち中にエンジンを自動的に停止/再始動する際の運転者の操作を不要とし、交通量の多い交差点での運転者の運転操作量を低減でき、運転者が、より他の車両や歩行者に対して注意力を高めることが可能な車両用制御装置を実現することを目的とする。
また、この発明は、車両の前方に障害物があり、あるいは運転者が前方に注意を払っていない場合には変速機のシフトレンジを駐車レンジとし、運転者が、エンジンの自動的な再始動後に車両進行方向の安全確認を怠っている場合にも、車両が自動的に発進されることはない車両用制御装置を実現し、安全性の高いシステムを構築することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、車両の停止を指示する交通信号により車両を停止させた場合に、前記車両を停止させた時刻から次の車両の発進を許可する交通信号に変化する時刻になるまでの待機時間を算出し、算出された前記待機時間の長さが自動停止許可判定時間よりも長い場合にはエンジンを自動的に停止させ、停止した前記エンジンを自動的に再始動させるエンジン制御手段と、運転者が選択したシフトレンジの信号を出力するシフト操作装置と、前記シフト操作装置の出力信号に応じて、変速機のシフトレンジを変更する信号を出力するシフト制御手段と、前記シフト制御手段の出力信号に応じて、変速機のシフトレンジを変更するために動作するアクチュエータとを設けたシフトバイワイヤ式変速制御手段とを備えた車両用制御装置において、前記エンジン制御手段は、前記エンジンを自動的に停止させる場合に、前記シフトバイワイヤ式変速制御手段に変速機のシフトレンジを駐車レンジに変更するように要求し、また、前記待機時間の長さに応じて算出されたエンジンを再始動する時刻で前記エンジンを再始動した後、前記シフトバイワイヤ式変速制御手段に変速機のシフトレンジを走行レンジに変更するように要求し、前記車両が前方に移動することが可能かどうかを判定する車両状態判定手段を備え、前記シフトバイワイヤ式変速制御手段は、前記エンジン制御手段から走行レンジヘの変更要求がある時で、かつ前記車両のブレーキ装置が作動状態ではない時には、前記車両状態判定手段により車両が前方に移動可能であると判定された場合にのみ、前記変速機のシフトレンジを走行レンジに変更するように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明の車両用制御装置は、交差点での信号待ち中にエンジンを自動的に停止/再始動する際の運転者の操作を不要とすることができ、交通量の多い交差点での運転者の運転操作量を低減できるので、運転者がより他の車両や歩行者に対して注意力を高めることが可能である。
また、この発明の車両用制御装置は、運転者がエンジンの自動的な再始動後に車両進行方向の安全確認を怠っている場合にも、車両が自動的に発進されることはないため、安全性の高いシステムを構築できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明は、エンジンを自動的に停止/再始動する際の運転者の操作を不要とすることで、運転者の運転操作量を低減し、また、発進しようとする車両の前方に障害物がない場合に変速機のシフトレンジを走行レンジに変更することで、安全性の高いシステムを構築するものである。
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0010】
図1〜図3は、この発明の実施例を示し、図1は車両用制御装置のシステム構成図、図2はエンジン制御手段の制御フローチャート、図3はシフトバイワイヤ式変速制御手段の制御フローチャートである。図1において、1は車両に搭載されたエンジン、2は自動式の変速機、3は車両用制御装置である。車両用制御装置3は、エンジン1を制御するエンジン制御手段4と、変速機2を制御するシフトバイワイヤ式変速制御手段5とを備えている。
【0011】
前記エンジン制御手段4には、路車間通信装置6の車両側装置7を接続している。車両側装置7は、路車間通信装置6の道路側装置8と通信し、交通信号が車両の発進を許可する信号(青信号)に変化する時刻を示す時間情報を得て、エンジン制御手段4に時間情報を伝達する。
また、エンジン制御手段4には、車両のブレーキ装置を作動状態/非作動状態(作動状態でない)にするブレーキペダル9の踏込み操作/放し操作に応じてON/OFFするストップランプスイッチ10を接続している。ストップランプスイッチ10は、運転者がブレーキペダル9を踏込み操作/放し操作することによりON/OFFしてストップランプを点灯/消灯し、前記車両のブレーキ装置の作動状態/非作動状態を示すON/OFF情報をエンジン制御手段4に伝達する。
さらに、エンジン制御手段4には、車速センサ11を接続している。車速センサ11の出力する車速パルスは、エンジン制御手段4に入力され、車速を検出する。
エンジン制御手段4は、路車間通信装置6の時間情報と、ストップランプスイッチ10のON/OFF情報と、車速センサ11の車速情報とを入力し、エンジン1を自動的に停止し、停止したエンジン1を自動的に再始動する。
エンジン制御手段4は、車両の停止を指示する交通信号(赤信号)により運転者がブレーキ装置を作動状態にして車両を停止させた場合に、車両を停止させた時刻と交通信号が車両の発進を許可する信号(青信号)に変化する時刻を示す時間情報とから、車両を停止させた時刻から次の車両の発進を許可する交通信号に変化する時刻になるまでの待機時間を算出する。エンジン制御手段4は、算出された前記待機時間の長さが自動停止許可判定時間よりも長い場合には、燃料遮断・点火カット等によりエンジン1を自動的に停止させ、停止した前記エンジン1をクランキングして燃料供給・点火実施等により自動的に再始動させる。
また、エンジン制御手段4は、車両のブレーキ装置の作動状態/非作動状態を示すストップランプスイッチ10のON/OFF情報及び車速センサ11の車速情報を、シフトバイワイヤ式変速制御手段5の後述するシフト制御手段13に伝達する。
【0012】
前記シフトバイワイヤ式変速制御手段5は、エンジン1に連結された変速機2のシフトレンジを切り換える。変速機2は、例えば、駐車レンジP、後退レンジR、中立レンジN、走行レンジD、3速レンジ3、2速レンジ2、ローレンジL等を有し、各シフトレンジに対応する前進用及び後退用の変速歯車列を有している。
シフトバイワイヤ式変速制御手段5は、シフト操作装置12とシフト制御手段13とアクチュエータ14とを設けている。シフト操作装置12は、運転者がシフトレバーの操作により選択したシフトレンジの信号をシフト制御手段13に出力する。シフト制御手段13は、前記シフト操作装置12の出力するシフトレンジの信号に応じて、変速機2のシフトレンジを変更する信号をアクチュエータ14に出力する。アクチュエータ14は、前記シフト制御手段13の出力信号に応じて動作し、変速機2のシフトレンジを変更する。
シフトバイワイヤ式変速制御手段5は、運転者がシフト操作装置12を操作して操作内容のシフトレンジを示す信号がシフト制御手段13に伝達されると、シフト制御手段13により目標シフトレンジを決定し、アクチュエータ14を制御する。アクチュエーク14は、シフト制御手段13の出力信号に応じて動作し、変速機2のシフトレンジを変更する。アクチュエーク14は、現在のシフトレンジの信号を出力し、シフトレンジ情報をシフト制御手段13に伝達する。
【0013】
前記車両用制御装置3のエンジン制御手段4は、エンジン1を自動的に停止させる場合に、前記シフトバイワイヤ式変速制御手段5に変速機2のシフトレンジを駐車レンジPに変更するように要求し、また、前記待機時間の長さに応じて算出されたエンジン1を再始動する時刻で前記エンジン1を再始動した後、前記シフトバイワイヤ式変速制御手段5に変速機2のシフトレンジを走行レンジDに変更するように要求する。
前記車両用制御装置3は、前記車両が前方に移動することが可能かどうかを判定する車両状態判定手段15を備えている。車両状態判定手段15は、シフトバイワイヤ式変速制御手段5のシフト制御手段13に設けられ、シフト制御手段13に接続された外部カメラ16、レーダセンサ17から入力する信号により前方に他車両や歩行者等の障害物が存在するか否かを検出し、車両が前方に移動することが可能かどうかを判定する。
前記シフトバイワイヤ式変速制御手段5は、前記エンジン制御手段4から走行レンジDヘの変更要求がある時で、かつ前記車両のブレーキ装置が作動状態ではない時には、前記車両状態判定手段15により車両が前方に移動可能であると判定された場合にのみ、前記変速機2のシフトレンジを走行レンジDに変更するように制御する。
【0014】
また、前記車両用制御装置3は、前記車両状態判定手段15に加えて、前記運転者の状態が車両を運転可能な状態であるかどうかを判定する運転者状態判定手段18を備えている。運転者状態判定手段18は、シフトバイワイヤ式変速制御手段5のシフト制御手段13に設けられ、シフト制御手段13に接続された内部カメラ19から入力する信号により運転者が顔を前方に向けているか否か、開眼状態であるか否かを検出し、運転者が車両を運転可能な状態であるかどうかを判定する。
前記シフトバイワイヤ式変速制御手段5は、前記エンジン制御手段4から走行レンジDヘの変更要求がある時で、かつ前記車両のブレーキ装置が作動状態ではない時には、前記車両状態判定手段15により車両が前方に移動可能であると判定され、かつ前記運転者状態判定手段18により運転者が車両を運転可能状態であると判定された場合に、前記変速機2のシフトレンジを走行レンジDに変更するように制御する。
なお、符号20は、シフト制御手段13に接続された報知手段である。報知手段20は、音声、ブザー音、映像等の単独または組み合わせからなり、運転者にブレーキペダル9の踏込み操作の要求を報知する。
【0015】
このように、車両用制御装置3は、エンジン制御手段4により車両の停止時に交通信号が発進を許可する信号に変化する時刻を示す時間情報から待機時間を求め、エンジン1の自動停止(アイドリングストップ)による省燃費効果があるかないかを判断し、また、エンジン1の自動停止により運転に支障が生じないかどうかを判断する。エンジン制御手段4は、エンジン1の自動停止による省燃費効果があり、かつ、エンジン1の自動停止により運転に支障は生じない場合に、エンジン1を自動停止し、シフト制御手段13に駐車レンジPへのシフト要求を出力し、変速機2のシフトレンジを駐車レンジPヘ変更させる。
また、車両用制御装置3は、エンジン制御手段4によりエンジン1の再始動時にシフト制御手段13に走行レンジDへのシフト要求を出力し、変速機2のシフトレンジを走行レンジDヘ変更させる。
シフト制御手段13は、エンジン制御手段4から走行レンジDヘのシフト要求があった場合に、ストップランプスイッチ10のON/OFF情報がOFF(車両のブレーキ装置が作動状態でない)の時に、外部カメラ16からの映像信号、レーダセンサ17からの入力信号により前方に車両や歩行者等の障害物が存在するか否かを検出する。また、シフト制御手段13は、外部カメラ16、レーダセンサ17に加えて、内部カメラ19からの映像信号により運転者が正面を向いているかどうか、開眼状態であるかどうかを検出する。
シフト制御手段13は、外部カメラ16、レーダセンサ17からの入力信号により前方に障害物が存在しない場合に、変速機2のシフトレンジを走行レンジDヘ変更するように制御する。あるいは、シフト制御手段13は、外部カメラ16、レーダセンサ17からの入力信号により前方に障害物が存在せず、かつ内部カメラ19からの入力信号により運転者が前方を注視している場合に、変速機2のシフトレンジを走行レンジDヘ変更するように制御する。
なお、前記シフト制御手段13は、エンジン1を自動始動した後に変速機2を走行レンジDに変更して車両がクリープした時に、前方の障害物と接触するおそれがある場合に、あるいは、運転者が正面を向いていず、眼が開かれていない場合に、報知手段20から運転者に向けてブレーキペダル9を踏込み操作するように、音声、ブザー音、映像等の単独または組み合わせにより報知する。
【0016】
すなわち、この車両用制御装置3は、交差点で信号待ちのため停車した時に、路車間通信により交通信号が発進を許可する信号に変化する時刻を示す時間情報を得て、省燃費や二酸化炭素削減効果がある場合、つまり車両を停止させた時刻から交通信号が発進を許可する信号に変化する時刻になるまでの待機時間の長さが自動停止許可判定時間よりも長い場合に、エンジン1を自動的に停止する。車両用制御装置3は、エンジン1を停止した後、前記交通信号が発進を許可する信号に変化する時刻から余裕を待ってエンジン1を再始動する。
車両用制御装置3は、運転者が操作することなしに、エンジン1を自動的に停止/再始動する。車両用制御装置3は、エンジン1を停止する場合に、シフトバイワイヤ式変速制御手段5により変速機2のシフトレンジを自動的に駐車レンジPに変更する。駐車レンジPへの変更は、エンジン1の停止前またはエンジン1の停止後の、いずれでも良い。車両は、変速機2のシフトレンジが駐車レンジPなので、運転者がブレーキペダル9を踏み込まなくても、発進することはない。車両用制御装置3は、停止したエンジン1を再始動する場合に、変速機2をシフトバイワイヤ式変速制御手段5により自動的に走行レンジDに変更する。
しかしながら、変速機2が駐車レンジPの状態でエンジン1を始動後、シフトバイワイヤ式変速制御手段5を用いてブレーキ装置が非作動状態(ストップランプスイッチ10がOFF)で自動的に走行レンジDに変更すると、変速機2のクリープで運転者が意図しないのに車両が走行を開始する可能性がある。
そこで、車両用制御装置3は、ブレーキ装置が非作動状態(作動状態でない)の場合に、外部カメラ16、レーダセンサ17で前方に車両や歩行者等が居ないことを検知した上で、変速機2を走行レンジDに変更することで、運転者が意図しない走行を防止している。また、車両用制御装置3は、内部カメラ19で運転者の顔位置を検出し、正面を向いていることや開眼状態である(居眠り状態でない)ことを条件に付け加えて、変速機2を走行レンジDに変更することで、運転者が意図しない走行をさらに確実に防止することができる。
なお、車両用制御装置3は、車両の前方に障害物がある場合や、あるいは、運転者が横を向いたり、眼を閉じたりしている(居眠りしている)場合に、報知手段20により運転者にブレーキペダル9を踏み込むように報知する。
【0017】
ところで、従来の車両用制御装置には、エンジンの一時停止後の再始動時に、シフト操作装置の操作に対して変速機のマニュアルバルブの切り換えを遅延させるものがある(特開2002−276800号公報)。
この発明の車両用制御装置3は、変速機2のシフトレンジを自動で切り換えるものであり、エンジン1の再始動後における変速機2の駐車レンジPから走行レンジDヘの変更は十分時間の余裕をもって行うことが可能であるため、マニュアルバルブの切り換えを遅延する必要はない。
変速機2の駐車レンジPから走行レンジDヘの変更に十分に時間の余裕が持てるのは、路車間通信によって交通信号が発進を許可する信号に変化する時刻を示す時間情報を得ることにより、走行レンジDヘの変更を開始する時刻がきまり、そこから十分な時間を引いた時間を、エンジン1を再始動する時刻とするからである。
変速機2の走行レンジDヘの変更を開始する時刻を算出する(式1)、及びエンジン1を再始動する時刻を算出する(式2)は、以下の通りである。
*走行レンジDヘの変更を開始する時刻=交通信号が発進を許可する信号になるまでの時間−走行レンジDヘの変更に要する時間−t1 ………… (式1)
(t1:余裕時間)
*エンジン1を再始動する時刻=走行レンジDヘの変更を開始する時刻−エンジン1の再始動に要する時間−t2 ……… (式2)
(t2:駐車レンジPから走行レンジDヘ変更しても、運転者がショックを感じないよう油圧が安定するまでに要する時間)
【0018】
次に作用を説明する。
車両用制御装置3は、エンジン制御手段4によって、図2に示す制御フローチャートにしたがい処理を行う。
エンジン制御手段4は、ステップ101〜103で、エンジン1を自動停止(アイドリングストップ)するかどうかを判断する。エンジン制御装置4は、制御がスタートすると(100)、車速情報から停車中であるかを判断する(101)。
この判断(101)がNOで、停車中でない場合は、自動停止せず、エンドにする(112)。この判断(101)がYESで、停車中である場合は、交通信号が発進を許可する信号に変化する時刻を示す時間情報を得たかを判断する(102)。
この判断(102)がNOで、時間情報を得ていない場合は、自動停止せず、エンドにする(112)。この判断(102)がYESで、時間情報を得ている場合は、自動停止による省燃費効果があり、かつ、自動停止により運転に支障が生じないかを判断する(103)。
この判断(103)がNOで、省燃費効果がなく、あるいは、運転に支障が生じる場合は、自動停止せず、エンドにする(112)。この判断(103)がYESで、省燃費効果があり、かつ、運転に支障が生じない場合は、ステップ104〜111で、エンジン1を自動停止/再始動する。
【0019】
前記運転に支障が生じる場合とは、一連のエンジン1の自動停止から再始動して変速機2を走行レンジDヘ変更(シフト)するまでの時間が、車両を停止した時刻から交通信号が発進を許可する信号に変化する時刻になるまでの時間より長い場合である。
ステップ103の「エンジン1の自動停止による省燃費効果があり、かつ、エンジン1の自動停止により運転に支障は生じないか?」の判断は、下記の式を満足することを意味する。
*(現在時刻+省燃費効果のある時間+エンジン再始動に要する時間+走行レンジDヘシフトするのに要する時間+エンジン停止に要する時間+t1+t2)≧交通信号が発進を許可する信号に変化する時刻になるまでの待機時間 ……… (式3)
【0020】
前記エンジン制御手段4は、判断(103)がYESで、省燃費効果があり、かつ、運転に支障が生じない場合に、エンジン1を停止し(104)、シフト制御手段13へ変速機2のシフトレンジを駐車レンジPに変更するように要求する(105)。シフト制御手段13は、駐車レンジPへの変更要求により変速機2のシフトレンジを駐車レンジPヘ変更する。前記エンジン1の停止(104)と駐車レンジPへの変更要求(105)とは、順序を入れ替わってもよい。省燃費効果のある時間とは、エンジン1を始動する時に消費される燃料の量と、アイドリングストップ時にエンジン1が停止されることにより削減される燃料消費量とが等しくなる時間である。すなわち、この時間以上、エンジン1を停止できれば、省燃費効果が期待できることになる。
続いて、駐車レンジPとなっている変速機2の走行レンジDヘの変更を開始する時刻を算出し(106)、エンジン1を再始動する時刻を算出する(107)。走行レンジDヘの変更を開始する時刻は、前記(式1)で示したとおりである。また、エンジン1を再始動する時刻は、前記(式2)で示したとおりである。
その後、エンジン1を再始動する時刻であるかを判断する(108)。この判断(108)がNOの場合は、エンジン1を再始動する時刻になるまで待機する。この判断(108)がYESの場合は、エンジン1を再始動し(109)、変速機2を走行レンジDヘ変更する時刻であるかを判断する(110)。
この判断(110)がNOの場合は、走行レンジDヘ変更する時刻になるまで待機する。この判断(110)がYESの場合は、シフト制御手段13へ変速機2のシフトレンジを走行レンジDに変更するように要求し(111)、エンドにする(112)。シフト制御手段13は、走行レンジDへのシフト要求により変速機2のシフトレンジを走行レンジDヘ変更する。
【0021】
車両用制御装置3は、シフトバイワイヤ式変速制御手段5によって、図3に示す制御フローチャートにしたがい処理を行う。
シフトバイワイヤ式変速制御手段5は、エンジン制御手段4からの駐車レンジPまたは走行レンジDヘの変更要求を受けて、シフト制御手段13により変速機2のシフトレンジの変更を実行する。シフト制御手段13は、運転者が操作したシフト操作装置12からの変更要求によってもシフトレンジを変更する。図3においては、シフト操作装置12からの変更要求によるシフトレンジの変更を割愛し、エンジン1の自動停止/再始動に関係するエンジン制御手段4からの変更要求のみを示す。
シフト制御手段13は、制御がスタートすると(200)、エンジン制御手段4から駐車レンジPヘの変更要求があるかを判断する(201)。この判断(201)がYESで、要求がある場合には、アクチュエータ14を動作させて変速機2のシフトレンジを駐車レンジPヘ変更し(202)、エンドにする(211)。
前記判断(201)がNOで、要求がない場合には、エンジン制御手段4から走行レンジDヘの変更要求があるかを判断する(203)。この判断(203)がNOで、要求がない場合には、エンドにする(211)。この判断(203)がYESで、要求がある場合には、ストップランプスイッチ10がONであるかを判断する(204)。
この判断(204)がYESで、ストップランプスイッチ10がON(車両のブレーキ装置が作動状態)の場合は、アクチュエータ14を動作させて変速機2のシフトレンジを走行レンジDヘ変更し(205)、エンドにする(211)。
【0022】
シフト制御手段13は、前記判断(204)がNOで、ストップランプスイッチ10がOFF(車両のブレーキ装置が非作動状態)の場合は、外部カメラ16、レーダセンサ17からの入力信号により前方に車両や歩行者等がいないかを判断する(206)。
前方に車両や歩行者等がいないと判断する距離は、自車両の前方では以下のように考える。
*変速機2のクリープによる走行速度は約6km/hであることから、1秒間に車両が進む距離は約1.7mである。運転者が、クリープによる車両の走行開始を認知し、ブレーキペダル9を踏み込んでブレーキ装置を作動させ、車両が停止するまでの時間を3秒とすると、前方の車両や歩行者等までは約5mの離間距離があればよい。これは、相手車両や歩行者等が停止している場合であり、相手車両や歩行者等が離れていく状態と検出した場合はもっと短い距離でよい。
*自車両の側方では、相手車両や歩行者等が接近してくる場合のみ、問題となる。計測時点では、前方ではないが、前方に移動すると考えられるので、前方の車両や歩行者がいると判断する。
【0023】
前記判断(206)がYESで、前方の車両や歩行者等がいない場合は、内部カメラ19からの入力信号により運転者が正面を向いていて、かつ、開眼状態であるかを判断する(207)。この判断(207)がYESで、運転者が正面を向いていて、開眼状態である場合は、アクチュエータ14を動作させて変速機2のシフトレンジを走行レンジDヘ変更し(208)、エンドにする(211)。なお、判断(207)は、省略することもできる。
一方、前記判断(206)がNOで、前方の車両や歩行者等がいる場合、また、前記判断(207)がNOで、運転者が正面を向いていず、あるいは閉眼状態である場合は、報知手段20から運転者に向けてブレーキペダル9を踏込み操作するように報知する(209)。報知は、音声、ブザー音、映像等の単独または組み合わせとすることができる。例えば、音声により報知する場合は、「走行レンジに変更しますので、ブレーキペダルを踏んで下さい。」、とすることができる。報知(209)の後は、アクチュエータ14を動作させ変速機2を走行レンジDヘ変更し(210)、エンドにする(211)。
なお、図3においては、報知(209)の後に走行レンジDヘ変更(210)しているが、報知(209)の後にストップランプスイッチ10がONであることを条件として設定し、ストップランプスイッチ10がONになるまで待機し、ストップランプスイッチ10がONになってから走行レンジDヘ変更することもできる。
【0024】
このように、この車両用制御装置3は、エンジン1を自動的に停止させる場合に、変速機2を駐車レンジPに変更し、エンジン1を再始動した後に、変速機2を走行レンジDに変更するので、交差点での信号待ち中にエンジン1を自動的に停止/再始動する際の運転者の操作を不要とすることができ、交通量の多い交差点での運転者の運転操作量を低減できるので、運転者がより他の車両や歩行者に対して注意力を高めることが可能である。
また、この車両用制御装置3は、ブレーキ装置が作動状態でない時には、車両が前方に移動可能である場合にのみ、変速機2を走行レンジDに変更するので、運転者がエンジン1の自動的な再始動後に車両進行方向の安全確認を怠っている場合にも、車両が自動的に発進されることはないため、安全性の高いシステムを構築できる。
さらに、この車両用制御装置3は、ブレーキ装置が作動状態でない時には、車両が前方に移動可能であり、かつ、運転者が車両を運転可能状態である場合に、変速機2を走行レンジDに変更するので、運転者が、エンジン1の自動的な再始動後に車両進行方向の安全確認を怠っている場合にも、車両が自動的に発進されることはないため、さらに安全性の高いシステムを構築できる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
この発明の車両用制御装置は、エンジンを自動的に停止/再始動する際の運転者の操作を不要とすることで、運転者の運転操作量を低減し、また、発進しようとする車両の前方に障害物がない場合に変速機のシフトレンジを走行レンジに変更することで、安全性の高いシステムを構築することが可能なものであり、エンジンを自動的に停止/再始動するエンジン制御手段と変速機のシフトレンジを電気的に変更するシフトバイワイヤ式変速制御手段とを備えた車両全般に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例を示す車両用制御装置のシステム構成図である。
【図2】エンジン制御手段の制御フローチャートである。
【図3】シフトバイワイヤ式変速制御手段の制御フローチャートである。
【符号の説明】
【0027】
1 エンジン
2 変速機
3 車両用制御装置
4 エンジン制御手段
5 シフトバイワイヤ式変速制御手段
6 路車間通信装置
7 車両側装置
8 道路側装置
9 ブレーキペダル
10 ストップランプスイッチ
11 車速センサ
12 シフト操作装置
13 シフト制御手段
14 アクチュエータ
15 車両状態判定手段
16 外部カメラ
17 レーダセンサ
18 運転者状態判定手段
19 内部カメラ
20 報知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の停止を指示する交通信号により車両を停止させた場合に、前記車両を停止させた時刻から次の車両の発進を許可する交通信号に変化する時刻になるまでの待機時間を算出し、算出された前記待機時間の長さが自動停止許可判定時間よりも長い場合にはエンジンを自動的に停止させ、停止した前記エンジンを自動的に再始動させるエンジン制御手段と、
運転者が選択したシフトレンジの信号を出力するシフト操作装置と、前記シフト操作装置の出力信号に応じて、変速機のシフトレンジを変更する信号を出力するシフト制御手段と、前記シフト制御手段の出力信号に応じて、変速機のシフトレンジを変更するために動作するアクチュエータとを設けたシフトバイワイヤ式変速制御手段とを備えた車両用制御装置において、
前記エンジン制御手段は、前記エンジンを自動的に停止させる場合に、前記シフトバイワイヤ式変速制御手段に変速機のシフトレンジを駐車レンジに変更するように要求し、また、前記待機時間の長さに応じて算出されたエンジンを再始動する時刻で前記エンジンを再始動した後、前記シフトバイワイヤ式変速制御手段に変速機のシフトレンジを走行レンジに変更するように要求し、
前記車両が前方に移動することが可能かどうかを判定する車両状態判定手段を備え、
前記シフトバイワイヤ式変速制御手段は、前記エンジン制御手段から走行レンジヘの変更要求がある時で、かつ前記車両のブレーキ装置が作動状態ではない時には、前記車両状態判定手段により車両が前方に移動可能であると判定された場合にのみ、前記変速機のシフトレンジを走行レンジに変更するように制御することを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
車両の停止を指示する交通信号により車両を停止させた場合に、前記車両を停止させた時刻から次の車両の発進を許可する交通信号に変化する時刻になるまでの待機時間を算出し、算出された前記待機時間の長さが自動停止許可判定時間よりも長い場合にはエンジンを自動的に停止させ、停止した前記エンジンを自動的に再始動させるエンジン制御手段と、
運転者が選択したシフトレンジの信号を出力するシフト操作装置と、前記シフト操作装置の出力信号に応じて、変速機のシフトレンジを変更する信号を出力するシフト制御手段と、前記シフト制御手段の出力信号に応じて、変速機のシフトレンジを変更するために動作するアクチュエータとを設けたシフトバイワイヤ式変速制御手段とを備えた車両用制御装置において、
前記エンジン制御手段は、前記エンジンを自動的に停止させる場合に、前記シフトバイワイヤ式変速制御手段に変速機のシフトレンジを駐車レンジに変更するように要求し、また、前記待機時間の長さに応じて算出されたエンジンを再始動する時刻で前記エンジンを再始動した後、前記シフトバイワイヤ式変速制御手段に変速機のシフトレンジを走行レンジに変更するように要求し、
前記車両が前方に移動することが可能かどうかを判定する車両状態判定手段を備え、
前記運転者の状態が車両を運転可能な状態であるかどうかを判定する運転者状態判定手段を備え、
前記シフトバイワイヤ式変速制御手段は、前記エンジン制御手段から走行レンジヘの変更要求がある時で、かつ前記車両のブレーキ装置が作動状態ではない時には、前記車両状態判定手段により車両が前方に移動可能であると判定され、かつ前記運転者状態判定手段により運転者が車両を運転可能状態であると判定された場合に、前記変速機のシフトレンジを走行レンジに変更するように制御することを特徴とする車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−77994(P2010−77994A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244016(P2008−244016)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】