説明

車高調整装置

【課題】 本発明の目的は、スペース効率のよい車高調整装置を提供することにある。
【解決手段】 本発明の車高調整装置は、サスペンション機構によって車体に支持された左右前後輪FR,FL,RR,RLと、前後輪の駆動トルクをそれぞれ独立して制御可能なトルク制御手段とを備え、前後輪のサスペンション機構の各瞬間回転中心Xf,Xrが前後輪の間に位置しており、トルク制御手段が、前輪と後輪との間に駆動トルク差を与えることで車体の車高を調整することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後輪に与えるトルクを制御することで車体の車高を調整する車高調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車体の車高を調整する技術としては、[特許文献1]に記載のものなどが知られている。車高調整が可能であると都合のよいことがある。例えば、車高下げることで荷物の出し入れが容易となる。あるいは、悪路を走行する場合は最低地上高(車高)を上げることで走破性が向上する。また、車高を下げて車両重心を下げることで車両の旋回性能を向上させることも可能となる。
【特許文献1】特開平5−270238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した[特許文献1]に記載の発明は、サスペンションに空気バネを用いた、いわゆるエアサスペンションに関するものである。しかし、エアサスペンションは、サスペンション部に空気バネとなるエアチャンバを確保する必要があり、サスペンション部のスペース効率がよくない。また、高圧ポンプなどが必要となるため、さらにスペース効率が悪く、高圧を生成させるためにエネルギーも消費する。そこで、これらの欠点を解消することが可能な新たな機構の車高調整装置が要望されていた。従って、本発明の目的は、スペース効率のよい車高調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の車高調整装置は、サスペンション機構によって車体に支持された左右前後輪と、前後輪の駆動トルクをそれぞれ独立して制御可能なトルク制御手段とを備え、前後輪のサスペンション機構の各瞬間回転中心が前後輪の間に位置しており、トルク制御手段が、前輪と後輪との間に駆動トルク差を与えることで車体の車高を調整することを特徴としている。なお、車両は、少なくとも、前後左右にそれぞれ少なくとも一つずつ車輪を有していれば良い。
【0005】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車高調整装置において、トルク制御手段が、車両停止時に前輪と後輪とに互いに逆回転の駆動トルクを与えることで車体の車高を調整することを特徴としている。
【0006】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の車高調整装置において、車高の上昇又は下降を指示する指示スイッチをさらに備えており、トルク制御手段が、指示スイッチによる指示に基づいて、車体の車高を調整することを特徴としている。
【0007】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の車高調整装置において、車体に作用する上下加速度を検出する少なくとも一つの上下加速度検出手段をさらに備えており、トルク制御手段が、上下加速度検出手段の検出結果に基づいて、車両走行時に車体の車高を調整することを特徴としている。
【0008】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の車高調整装置において、車体に作用する横加速度又はヨーレートを検出する走行状態検出手段をさらに備えており、トルク制御手段が、走行状態検出手段の検出結果に基づいて、車両走行時に車体の車高を調整することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の車高調整装置によれば、トルク制御機構を用いて車高を調整できるため、車高調整のための新たな構成部品を実質的に必要とせず、スペース効率よく車高調整機構を実現できる。なお、各車輪毎に独立してトルク制御可能なトルク制御手段としては、インホイールモータや、前後輪(さらに左右輪)間でアクティブにトルク配分が可能なトルクスプリット機構などが例として挙げられる。なお、左右前後輪の全てが独立してトルク制御できるようであっても構わないが、少なくとも前輪と後輪とを独立してトルク制御できれば車高調整が可能である。
【0010】
請求項2に記載の車高調整装置によれば、車両停止時には前後輪に逆回転のトルクを与えることで、車両を移動させることなく効果的に車高調整を行うことができる。
【0011】
請求項3に記載の車高調整装置によれば、指示スイッチによる指示に基づいて車高調整を行えるため、意図する車高調整を的確に行うことができる。また、車高調整を行いたくないときには指示スイッチによる指示を行わなければよく、車高調整制御を禁止することも容易に行えるようになる。
【0012】
請求項4に記載の車高調整装置によれば、車両の上下動を車両(車体)に作用する上下加速度に基づいて検出し、これに基づいて走行路状態(例えば悪路であるかどうか)を判断して車高を調節する、即ち、最低地上高を調整することで、より高い走破性を実現することができる。なお、上下加速度検出手段が検出する加速度波形の振幅や周期から車体の上下動を検出してもよいし、複数の上下加速度検出手段を用いて車体のローリングやピッチングを検出し、これに基づいて車体の上下動を判断してもよい。
【0013】
請求項5に記載の車高調整装置によれば、車両の走行状態、特に旋回状態を横加速度やヨーレートに基づいて判断し、走行状態に応じて車高を調整する、即ち、車両(車体)の重心位置を上下させることで、より安定した走行(旋回)を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の車高調整装置の一実施形態について以下に説明する。本実施形態の制御装置を有する車両構成図を図1に示す。図1に示されるように、車両1は、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL、右後輪RRの四つの車輪を持っている。各車輪は、サスペンションアーム(図示せず)を介して車体(図示せず)に支持されている(ストラットサスペンションなどの場合は、ショックアブソーバも介して車体に支持される)。サスペンションアームは図示されていないが、この車両1は、車輪の瞬間回転中心は常に前後輪の間に位置する(図2参照)。
【0015】
この車両1は、各車輪の駆動力を独立して制御することのできるものであり、各車輪毎にモータ2が配設されている。モータ2は、いわゆるインホイールモータであり、各車輪のロードホイールの内部に収納されている。モータ2は、電力を供給されることで回転して車両1を走行させる駆動力を発生する。なお、各車輪の駆動力を独立して制御する手段としてはインホールモータ以外の機構が採用されても良く、例えば、各車輪に対応させて車体に取り付けられたモータの出力をドライブシャフト等を介して車輪に伝達するような機構であっても良い。また、四つ未満の駆動力発生源(モータや内燃機関)が出力した駆動力を可変配分できるような機構(トルクスプリット機構など)を採用しても良い。
【0016】
各モータ2は、交流同期モータであり、インバータ3を介してバッテリ4に接続されている。インバータ3は、モータ2の動作を総合的に制御する電子コントロールユニット(Electrical Control Unit:ECU)5に接続されている。各モータ2の駆動時には、バッテリ4の直流電力がインバータ3によって交流電力に変換された後に各モータ2に供給され、このインバータ3から出力される交流電力によって各モータ2が駆動される。なお、モータ2は、車輪の回転を利用して回生発電することも可能である。回生発電時には車輪の運動エネルギーが電気エネルギーに変換されてインバータ3を介してバッテリ4に充電される、このとき、車輪には回生発電に基づく制動力が付加される。これらのモータ2、インバータ3、バッテリ4、及び、ECU5等がトルク制御手段として機能している。
【0017】
また、車体には合計三つの上下Gセンサ6が取り付けられている。三つの上下Gセンサ6のうちの左右二つ一組で車体のローリングを検出し、前後二つ一組で車体のピッチングを検出できる。なお、上下Gセンサ6に代えて、各サスペンションアームと車体との間にストロークセンサを配設してもよい。各ストロークセンサによって検出される左右前後輪毎のサスペンションストロークから、車体のローリングやピッチングを判断することも可能ではある。
【0018】
これらの上下Gセンサ6もECU5に接続されている。ECU5には、各車輪の駆動力を制御する上で必要な情報量を検出するその他のセンサ類も接続されている。具体的には、車両に作用するヨーを検出するヨーセンサ7、車両に作用する横加速度と前後加速度をそれぞれ検出する横Gセンサ8及び前後Gセンサ9、運転者によって操作されたステアリングホイール10の操舵角を検出する舵角センサ11等がECU5に接続されている。また、ECU5は、ブレーキペダル12やアクセルペダル13の操作量も検出できる。また、ECU5には、追って詳しく説明する車高調整指示スイッチ14も接続されている。なお、各車輪の回転速度はモータ2を介して検出可能であり、各車輪の回転速度から車速を算出することが可能である。
【0019】
次に、上述した制御装置による車高調整制御の概要について、特に、車高調整時のモータ駆動力制御について説明する。車両停車状態で車高を上げる際の車体状況を模式的に図2に示す。
【0020】
車高を上げる際には、図2に示されるように、上述したトルク制御装置によって、図中矢印で示されるような駆動トルクが前後輪に付与される。そして、このトルクによって車輪−路面間に作用する力が、図2中にハッチングが施された矢印として示してある。矢印の長さが駆動トルクの大きさを示しており、矢印の方向がその駆動トルクによって車両に作用する推進力の方向を示している。矢印が車両前方に向いていれば推進力となり、車両後方に向いていれば制動力あるいは後退力となる。また、図の向こう側の車輪についても同様にトルク制御が行われている。さらに、図2中には、左前輪FLの瞬間回転中心Xf、及び、左後輪RLの瞬間回転中心Xrが示されている。これらの中心Xf,Xrは、サスペンションの動きに応じて移動するが、移動しても前後輪の間には位置している。
【0021】
図2中の車輪の回転方向の矢印のように前輪が後退力を発生させ、後輪が推進力を発生させるようにトルク制御を行うと、瞬間回転中心Xf,Xrの位置との関係で、車体を上方に持ち上げる力が発生し、この結果、車高が上げられることになる。なお、ここでは、車両停車時に基づいて説明した。車両停車時であれば、上述したように前後輪に逆回転の大きさの等しいトルクを与えることで、車両を移動させずに効果的に車高を上げることができる。しかし、車両走行中であっても前後輪にトルク差を与えるだけで車高を上げることができる。具体的には、前輪の駆動トルク(推進力)が後輪よりも小さくなるようにすれば、車高を上げることができる。
【0022】
例えば、前輪の駆動トルクを+5(+は推進力として作用していること示す)とし、後輪の駆動トルクを+10とすれば、車高を上げることができる。あるいは、前輪の駆動トルクを−5(−は制動力として作用していること示す)とし、後輪の駆動トルクを+5としても、車高を上げることができる。なお、制動力として駆動トルクを作用させる場合は、液圧ブレーキなどによって制動を行う場合の他、車輪に付随するモータで回生発電をさせる場合などがある。このようにすれば、車両が走行しているときであっても、車高調整を行える。なお旋回時である場合などは、旋回内側と外側とで前後駆動トルク差を調節することで、車体を傾かせずに車高を上げることや、旋回に応じたロールを維持させたまま車高を上げることも可能である。
【0023】
また、車両停車状態で車高を下げる際の車体状況を模式的に図3に示す。車高を下げる際には、図3に示されるように、上述したトルク制御装置によって、図中矢印で示されるような駆動トルクが前後輪に付与される。そして、このトルクによって車輪−路面間に作用する力が、図3中にハッチングが施された矢印として示してある。図の向こう側の車輪についても同様にトルク制御が行われている。左前輪FLの瞬間回転中心Xf、及び、左後輪RLの瞬間回転中心Xrについては上述した図2の場合と同様である。
【0024】
図3中の車輪の回転方向の矢印のように前輪が推進力を発生させ、後輪が後退力を発生させるようにトルク制御を行うと、瞬間回転中心Xf,Xrの位置との関係で、車体を下方に押し下げる力が発生し、この結果、車高が下げられることになる。車両停車時であれば、上述したように前後輪に逆回転の大きさの等しいトルクを与えることで、車両を移動させずに効果的に車高を下げることができる。しかし、車両走行中であっても前後輪にトルク差を与えるだけで車高を下げることができる。具体的には、前輪の駆動トルク(推進力)が後輪よりも大きくなるようにすれば、車高を下げることができる。
【0025】
例えば、前輪の駆動トルクを+10(+は推進力として作用していること示す)とし、後輪の駆動トルクを+5とすれば、車高を下げることができる。あるいは、前輪の駆動トルクを+5とし、後輪の駆動トルクを−5(−は制動力として作用していること示す)としても、車高を下げることができる。このようにすれば、車両が走行しているときであっても、車高調整を行える。なお旋回時である場合などは、旋回内側と外側とで前後駆動トルク差を調節することで、車体を傾かせずに車高を下げることや、旋回に応じたロールを維持させたまま車高を下げることも可能である。
【0026】
次に、上述した車高調整を実際の車両に対して適用した場合の制御について説明する。まず、乗員が車両をジャッキアップさせる必要が生じたとき(例えば、タイヤ交換時)に、このジャッキアップを補助するために車高を上げる制御について説明する。このときの制御のフローチャートを図4に示す。なお、以下の説明において、前後輪各輪での駆動トルクは、それぞれ車高を上げる方向の図2中のトルク方向が正であるものとして説明する。図4のフローチャートは所定時間毎に繰り返し実行されている。
【0027】
ジャッキアップ補助制御では、まず、モータ2の車輪速検出機能を用いて、車両が停止しているか否かを判定する(ステップ400)。車両が停止していなければジャッキアップをすることはないので、ステップ400が否定される場合はこの制御を終える。一方、車両が停止している場合は、シャッキアップ補助時に乗員によって操作されるジャッキアップ補助スイッチがONであるか否かを判定する(ステップ402)。
【0028】
ここでは、ジャッキアップ補助スイッチは上述した車高調整指示スイッチ14である。このスイッチによって車高の調整(ここでは車高上昇)が必要か否かが設定される。スイッチがONである場合は、次に、その時点での前輪の駆動トルクTfがその最大値Tfmax未満であるか否かを判定する(ステップ404)。前輪の駆動トルクTfは、モータ2の制御をECU5によって行っているので、その供給電力量(電流量)などからECU5によって算出できる。前輪の駆動トルクTfがその最大値Tfmax未満である場合、即ち、ステップ404が肯定される場合は、今回のTfを前回値Tfn−1とし、これに所定の増分ΔTfを加算したものを新たな駆動トルクTfとし、この新たな駆動トルクTfで前輪を駆動する(ステップ406)。
【0029】
再度、前輪の駆動トルクTf’を検出し、これが上述したTfn−1+ΔTf以上であるか否かを判定する(ステップ408)。これは、車輪が接地面(地面)から浮いたか否かを判定するカウンタを設定するためのものである。車輪が接地面から浮くと、駆動力を増加させようとしても逆に減少してしまうため、駆動力増加指令が出たにもかかわらず増加しない状態が所定時間継続する場合は、車輪が接地面から浮いていると判断し、駆動トルクを徐々に減少させる。ステップ408では、駆動力増加指令(ステップ406)後に駆動力が増加しているか否かを判定している。
【0030】
ステップ408が肯定される場合は、駆動力がちゃんと増加しているため、車輪が接地面から浮いているかを判定するためのカウンタfcountをリセットする(ステップ410)。なお、ステップ404が否定され、駆動トルクTfが最大値Tfmax以上である場合(即ち、駆動トルクTfが既に最大値Tfmaxに達している場合)は、さらに駆動トルクを増やすことなく、最大値Tfmaxを新たな駆動トルクTfとして前輪を駆動し(ステップ412)、カウンタfcountをリセットする(ステップ410)。
【0031】
一方、ステップ408が否定される場合は、上述したカウンタfcountを1つカウントアップし(ステップ414)、カウントアップ後のカウンタfcountが所定の上限値(車輪が接地面から浮いていると判断するための値)fcount_max以上となったか否かを判定する(ステップ416)。ステップ416が肯定され、車輪が接地面から離れていると判断される場合は、車輪の駆動力を減らすべく、まず、上述した駆動トルクTfn(駆動指令を行ったトルク)がその最小値Tfmin(0でも可)より大きいか否かを判定する(ステップ418)。なお、ステップ402が否定された場合もステップ418に移行し、ジャッキアップ補助によって上げられた車高を戻すことになる。
【0032】
ステップ418が肯定され、駆動トルクTfが最小値Tfminより大きい場合は、今回のTfを前回値Tfn−1とし、これから所定の減分ΔTfを減算したものを新たな駆動トルクTfとし、前輪を駆動する(ステップ420)。一方、ステップ418が否定され、駆動トルクTfが最小値Tfmin以下である場合(即ち、駆動トルクTfが既に最小値Tfminとなっている場合)は、さらに駆動トルクを減じずに、最小値Tfminを新たな駆動トルクTfとして前輪を駆動する(ステップ422)。ステップ420又は422の後、ジャッキアップ補助スイッチがONであるか否かを判定する(ステップ423)。ステップ423が否定される場合は、後述するステップ438に移行し、後輪に関してもジャッキアップ補助によって上げられた車高を戻すことになる。
【0033】
ステップ410,416−No,423−Yesの何れかのステップの後、前輪に続いて後輪についても同様のことを行う。まず、その時点での後輪の駆動トルクTrがその最大値Trmax未満であるか否かを判定する(ステップ424)。後輪の駆動トルクTrがその最大値Trmax未満である場合、即ち、ステップ424が肯定される場合は、今回のTrを前回値Trn−1とし、これに所定の増分ΔTrを加算したものを新たな駆動トルクTrとし、この新たな駆動トルクTrで前輪を駆動する(ステップ426)。
【0034】
再度、後輪の駆動トルクTr’を検出し、これが上述したTrn−1+ΔTf以上であるか否かを判定する(ステップ428)。ステップ428が肯定される場合は、車輪が接地面から浮いているかを判定するためのカウンタrcountをリセットする(ステップ430)。なお、ステップ424が否定され、駆動トルクTrが最大値Trmax以上である場合(即ち、駆動トルクTrが既に最大値Trmaxに達している場合)は、さらに駆動トルクを増やすことなく、最大値Trmaxを新たな駆動トルクTrとして後輪を駆動し(ステップ432)、カウンタrcountをリセットする(ステップ430)。
【0035】
一方、ステップ428が否定される場合は、上述したカウンタrcountを1つカウントアップし(ステップ434)、カウントアップ後のカウンタrcountが所定の上限値(車輪が接地面から浮いていると判断するための値)rcount_max以上となったか否かを判定する(ステップ436)。ステップ436が肯定され、車輪が接地面から離れていると判断される場合は、車輪の駆動力を減らすべく、まず、上述した駆動トルクTrn(駆動指令を行ったトルク)がその最小値Trmin(0でも可)よりも大きいか否かを判定する(ステップ438)。
【0036】
ステップ436が肯定され、駆動トルクTrnが最小値Trminよりも大きい場合は、今回のTrを前回値Trn−1とし、これから所定の減分ΔTrを減算したものを新たな駆動トルクTrとし、後輪を駆動する(ステップ440)。一方、ステップ438が否定され、駆動トルクTrが最小値Trmin以下である場合(即ち、駆動トルクTrが既に最小値Trminとなっている場合)は、さらに駆動トルクを減じずに、最小値Trminを新たな駆動トルクTrとして前輪を駆動する(ステップ442)。
【0037】
このように、車輪が接地面から離れるまでは、前後輪に互いに逆回転方向の駆動トルクを与えて車高を上げ、車輪が接地面から離れたと判断されたら駆動力を徐々に減じることで、ジャッキアップを補助する車高調整を好適に行うことができる。
【0038】
次に、荷物の出し入れを行いやすくするために車高を下げる制御について説明する。ただし、この場合、車高を下げたままだとモータ2を駆動させるために電気エネルギーを消費してしまう。このため、車両を離れるような場合は一旦車高調整を解除し、再度車両を使用するような場合には車高を下げた状態を再現する。このときのフローチャートを図5に示す。なお、以下の説明においても、前後輪各輪での駆動トルクは、それぞれ車高を上げる方向の図2中のトルク方向が正であるものとして説明する。図5のフローチャートは所定時間毎に繰り返し実行されている。
【0039】
この制御では、まず、モータ2の車輪速検出機能を用いて、車両が停止しているか否かを判定する(ステップ500)。車両が停止していなければ荷物の出し入れが行われることがないので、ステップ500が否定される場合は、荷物の出し入れのために車高を下げることを指示する指示スイッチ14を自動的にOFFにし(ステップ502)、荷物の出し入れのための車高を下げるトルク制御が完了したか否かを示すフラグがOFF(非完了・非実行)に設定される(ステップ504)。ステップ504の後、車速が所定の上限値Vmax以上であるか否かを判定する(ステップ506)。
【0040】
ステップ506が否定される場合は、図5のフローチャートの制御を一旦終了する。一方、ステップ506が肯定され、車速が所定の上限値Vmax以上である場合は、後述する制御によって車高が下げられたままである場合を考慮して、車高を上げるべく(走行時の通常車高に戻すべく)後述するステップ532に移行する。ステップ532以降については追って説明する。即ち、上限値Vmaxは、車高が下げられている場合に、車高を元に戻すべきであるか否かを判断する速度として設定されている。
【0041】
ステップ500が肯定され、車両が停止状態にある場合は、荷物の出し入れのために車高を下げることを指示する指示スイッチ14が操作されてONとなっているかどうかを判定する(ステップ508)。ステップ506が否定されている場合は、車高を上げるべく(通常車高に戻すべく)後述するステップ532に移行する。ステップ532以降については追って説明する。
【0042】
一方、ステップ506が肯定される場合は、乗員などによって車高を下げる旨の指示が指示スイッチ14によって行われているので、まず、上述したフラグがOFFであるか否かを判定する(ステップ510)。上述したように、車両走行中はステップ504によってフラグはOFFとなるので、ステップ510が肯定される場合は停車直後であることになる。この場合は、車高を下げるトルク制御を開始(あるいは、継続)すべくステップ516に移行する。ステップ516以降については追って説明する。
【0043】
なお、ステップ510が否定される場合は、フラグがONである場合であり、車高を下げるためのトルク制御が既に完了している場合である。この場合は、ドアロック解除操作が行われた直後であるかどうかを判定する(ステップ514)。ステップ514が否定される場合は、車高を下げるためのトルク制御が既に完了し、かつ、ドアロック解除操作が行われていないため、車両は停車中で乗員が車両から離れている状態であると判断できる。この場合は、車高を通常車高に維持するべく、後述するステップ532に移行する。ステップ532以降については追って説明する。
【0044】
一方、ステップ514が肯定される場合は、車高を下げるためのトルク制御が既に完了し、かつ、ドアロック解除操作が行われたことになるので、車両は停車中で乗員が車両に戻ってきて乗車しようとしている(あるいは、荷物などを下ろそうとしている)状態であると判断できる。この場合は、ステップ514が否定されることで通常車高に戻されていた車高を再度下げるべく、後述するステップ516に移行する。
【0045】
ステップ516以降の車高を下げるトルク制御について説明する。まず、その時点での前輪の駆動トルクTfがその最小値Tfminよりも大きいか否かを判定する(ステップ516)。なお、上述したように、車高を上げるトルク方向を正と定義しており、この最小値Tfminは負の値であり、実際は車高を下げる方向のトルクとなる。さらに、後述する前輪の駆動トルクTfの最大値Tfmaxは0である。最小値Tfminは車高を下げる際に与えられる最も絶対値の大きい値である。
【0046】
ここで、前輪の駆動トルクTfがその最小値Tfminより大きい場合、即ち、ステップ516が肯定される場合は、今回のTfを前回値Tfn−1とし、これから所定の減分ΔTfを減算したものを新たな駆動トルクTfとし、この新たな駆動トルクTfで前輪を駆動する(ステップ518)。即ち、前輪に関しては、車高を下げるトルクがより強められることになる。一方、ステップ516が否定され、駆動トルクTfが最小値Tfmin以下である場合(即ち、駆動トルクTfが既に最小値Tfminとなっている場合)は、さらに駆動トルクを減らすことなく、最小値Tfminを新たな駆動トルクTfとして前輪を駆動し(ステップ520)、上述したフラグをONとする(ステップ522)。
【0047】
ステップ518,522の何れかのステップの後、前輪に続いて後輪についても同様のことを行う。まず、その時点での後輪の駆動トルクTrがその最小値Trminよりも大きいか否かを判定する(ステップ524)。後輪の駆動トルクTrがその最小値Trminより大きい場合、即ち、ステップ524が肯定される場合は、今回のTrを前回値Trn−1とし、これから所定の減分ΔTrを減算したものを新たな駆動トルクTrとし、この新たな駆動トルクTrで後輪を駆動する(ステップ526)。即ち、後輪に関しても、車高を下げるトルクがより強められることになる。
【0048】
一方、ステップ524が否定され、駆動トルクTrが最小値Trmin以下である場合(即ち、駆動トルクTrが既に最小値Trminとなっている場合)は、さらに駆動トルクを減らすことなく、最小値Trminを新たな駆動トルクTrとして後輪を駆動し(ステップ528)、上述したフラグをONとする(ステップ530)。ステップ526又はステップ530の後、図5のフローチャートの制御を一旦終える。
【0049】
次に、ステップ532以降の車高を上げる(車高を通常車高に戻す・通常車高を維持する)トルク制御について説明する。まず、その時点での前輪の駆動トルクTfがその最大値Tfmax(ここでは0)未満であるか否かを判定する(ステップ532)。前輪の駆動トルクTfがその最大値Tfmax未満である場合、即ち、ステップ532が肯定される場合は、今回のTfを前回値Tfn−1とし、これに所定の増分ΔTfを加算したものを新たな駆動トルクTfとし、この新たな駆動トルクTfで前輪を駆動する(ステップ534)。即ち、前輪に関しては、車高を上げるトルクがより強められることになる。
【0050】
一方、ステップ532が否定され、駆動トルクTfが最大値Tfmax以上である場合(即ち、駆動トルクTfが既に最大値Tfmax=0に達している場合)は、さらに駆動トルクを増やすことなく、最大値Tfmaxを新たな駆動トルクTfとして前輪を駆動する(ステップ536)。この場合は、駆動トルクが最大値Tfmax=0に維持されることとなり、前輪に関して実際には車高調整のための駆動トルクが車輪に与えられないため、通常車高が維持されることになる。
【0051】
ステップ534,536の何れかのステップの後、前輪に続いて後輪についても同様のことを行う。まず、その時点での後輪の駆動トルクTrがその最大値Trmax(ここでは0)未満であるか否かを判定する(ステップ538)。後輪の駆動トルクTrがその最大値Trmin未満である場合、即ち、ステップ538が肯定される場合は、今回のTrを前回値Trn−1とし、これに所定の増分ΔTrを加算したものを新たな駆動トルクTrとし、この新たな駆動トルクTrで後輪を駆動する(ステップ540)。即ち、後輪に関しても、車高を上げるトルクがより強められることになる。
【0052】
一方、ステップ538が否定され、駆動トルクTrが最大値Trmax以上である場合(即ち、駆動トルクTrが既に最大値Trmaxに達している場合)は、さらに駆動トルクを増やすことなく、最大値Trmaxを新たな駆動トルクTrとして後輪を駆動する(ステップ542)。この場合は、駆動トルクが最大値Tfmax=0に維持されることとなり、後輪に関して実際には車高調整のための駆動トルクが車輪に与えられないため、通常車高が維持されることになる。ステップ540又はステップ542の後、図5のフローチャートの制御を一旦終える。
【0053】
このように、車両停止時に指示スイッチ14によって車両を下げる指示があったときには、前後輪に互いに逆回転方向の駆動トルクを与えて車高を下げることで、乗員の乗車や荷物の出し入れを容易にすることができる。また、ここでは、車両から乗員などが離れるときは一旦車高を通常車高に戻して余計なエネルギーの消費を防止している。
【0054】
次に、走行路が悪路(不整地路)であるか否か(走行路状態)を検出し、その検出結果に基づいて車高を調整する制御について説明する。走行路が悪路である場合は、車高を上げて走破性を向上させる。このときのフローチャートを図6に示す。図6のフローチャートは所定時間毎に繰り返し実行されている。
【0055】
まず、モータ2の車輪速検出機能を用いて、車速が所定の上限値Vmax以下であるか否かを判定する(ステップ600)。車速が上限値Vmaxが超えているような場合は、車両(ばね上)に共振現象が発生している場合があり、その場合に車高を上げる(あるいは上げたままにしておく)と車両挙動が不安定となる場合があるため、車高を戻す制御を実施する(ステップ602)。車高を戻す(下げる)制御については上述した実施形態に準じるため、ここでの説明は省略する。ただし、ここでは走行中の車高調整となるため、前後輪の駆動トルクに差を設けることで車高調整を行うこととなる。ステップ602の後、図6のフローチャートの制御を一旦終了する。
【0056】
一方、ステップ600が肯定される場合は、まず、ロール加速度Grを算出し(ステップ606)、さらに、ピッチ加速度を算出する(ステップ608)。ロール加速度Grの検出は、左右前輪の近傍に取り付けられた一対の上下Gセンサ6の検出結果から求める。ピッチ加速度Gpの検出は、右前後輪の近傍に取り付けられた一対の上下Gセンサ6の検出結果から求める。なお、上下Gセンサ6の出力は、ばね上共振点近傍の周波数より低い周波数成分をローパスフィルターなどを用いて取り出して、共振の影響を受けないようにして使用する。
【0057】
次いで、検出したロール加速度Grが所定の上限値Grmax以上であるか否かを判定する(ステップ610)。ステップ610が肯定され、ロール加速度Grが所定の上限値Grmax以上であり、走行路が悪路であると判断される場合は、車高を上げる制御を行う(ステップ612)。車高を上げる制御については上述した実施形態に準じるため、ここでの説明は省略する。
【0058】
一方ステップ610が否定される場合は、次に、検出したピッチ加速度Gpが所定の上限値Gpmax以上であるか否かを判定する(ステップ614)。ステップ612が肯定され、ピッチ加速度Gpが所定の上限値Gpmax以上であり、走行路が悪路であると判断される場合も、車高を上げる制御を行う(ステップ612)。ステップ612の後、図6のフローチャートの制御を一旦終了する。ステップ614が否定される場合は、走行路は悪路ではないと判断されるため、車高を通常車高に戻す(通常車高まで下げる)制御が行われる(ステップ602)。
【0059】
このように、車両の上下加速度の検出結果に基づいて、前後輪に駆動トルク差を与えて車高を調節する(ここでは、上下加速度に基づいて走行路状態を判断し、これに基づいて車高を調整している)ことで、車両の走行性能(走破性)を向上させることができる。
【0060】
次に、車両旋回状態を検出し、その検出結果に基づいて車高を調整する制御について説明する。旋回横Gやヨーレートが大きい場合は、車高を上げて車両重心を下げ、旋回性を向上させる。このときのフローチャートを図7に示す。図7のフローチャートは所定時間毎に繰り返し実行されている。
【0061】
まず、横Gセンサ8によって検出した車両横Gが所定の閾値以上であるかを判定する(ステップ700)。ステップ700が肯定される場合は、車高を下げる制御を行う(ステップ702)。車高を下げる制御については上述した実施形態に準じるため、ここでの説明は省略する。ただし、ここでは走行中の車高調整となるため、前後輪の駆動トルクに差を設けることで車高調整を行うこととなる。ステップ602の後、図6のフローチャートの制御を一旦終了する。車高を下げることで、車両重心位置が下がり、ロール量が減り、車両旋回性が向上する。
【0062】
一方、ステップ700が否定される場合は、車高を戻す(上げる)制御が行われる(ステップ704)。車高を戻す(上げる)制御についても上述した実施形態に準じるため、ここでの説明は省略する。なお、上述した説明では、車両横Gに基づいて旋回状態を判断したが、ヨーレートセンサ7によって検出された車両ヨーレートに基づいて旋回状態を判断してもよい。この場合は、ステップ700では、検出したヨーレートが所定の閾値以上であるか否かを判定する。また、横Gとヨーレートの二つの状態から車両旋回状態を判定してもよい。さらに、舵角センサ11やアクセルペダル13の操作量などをさらに考慮して車両旋回状態を判断するようにしてもよい。
【0063】
このように、車両旋回状態の検出結果に基づいて、前後輪に駆動トルク差を与えて車高を調節する(ここでは、横加速度やヨーレートに基づいて車両旋回状態を判断し、これに基づいて車高を調整している)ことで、車両の走行性能(旋回性)を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の車高調整装置の一実施形態を有する車両の構成図である。
【図2】車高を上げる際のトルク制御の様子を示す模式図である。
【図3】車高を下げる際のトルク制御の様子を示す模式図である。
【図4】ジャッキアップ時の車高調整制御のフローチャートである。
【図5】車両停車時に車高を下げるの車高調整制御のフローチャートである。
【図6】車両走行時の車両走行状態に基づく車高調整制御のフローチャートである。
【図7】車両走行時の車両旋回状態に基づく車高調整制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1…車両、2…サスペンションアーム、3…アクチュエータ、4…ECU、5…ストロークセンサ、6…上下Gセンサ、7…前後Gセンサ、8…横Gセンサ、9…舵角センサ、10…車輪速センサ、14…指示スイッチ、FL…左前輪、FR…右前輪、RL…左後輪、RR…右後輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンション機構によって車体に支持された左右前後輪と、
前記前後輪の駆動トルクをそれぞれ独立して制御可能なトルク制御手段とを備え、
前記前後輪の前記サスペンション機構の各瞬間回転中心が前記前後輪の間に位置しており、
前記トルク制御手段が、前輪と後輪との間に駆動トルク差を与えることで前記車体の車高を調整することを特徴とする車高調整装置。
【請求項2】
前記トルク制御手段が、車両停止時に前輪と後輪とに互いに逆回転の駆動トルクを与えることで前記車体の車高を調整することを特徴とする請求項1に記載の車高調整装置。
【請求項3】
車高の上昇又は下降を指示する指示スイッチをさらに備えており、前記トルク制御手段が、前記指示スイッチによる指示に基づいて、前記車体の車高を調整することを特徴とする請求項1又は2の何れか一項に記載の車高調整装置。
【請求項4】
前記車体に作用する上下加速度を検出する少なくとも一つの上下加速度検出手段をさらに備えており、前記トルク制御手段が、前記上下加速度検出手段の検出結果に基づいて、車両走行時に前記車体の車高を調整することを特徴とする請求項1に記載の車高調整装置。
【請求項5】
前記車体に作用する横加速度又はヨーレートを検出する走行状態検出手段をさらに備えており、前記トルク制御手段が、前記走行状態検出手段の検出結果に基づいて、車両走行時に前記車体の車高を調整することを特徴とする請求項1に記載の車高調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−69395(P2006−69395A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256103(P2004−256103)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】