説明

金属酸化膜の成膜方法、酸化マンガン膜の成膜方法及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体

【課題】 Cuとの密着性を良好とすることが可能な金属酸化膜の成膜方法を提供すること。
【解決手段】 下地上に有機金属化合物を含むガスを供給し、下地上に金属酸化膜を成膜する金属酸化膜の成膜方法であって、下地上に有機金属化合物を供給して下地上に金属酸化膜を成膜し(工程2)、かつ、金属酸化膜の成膜プロセスの最後に、金属酸化膜を酸素含有ガス又は酸素含有プラズマに曝す(工程4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属酸化膜の成膜方法、酸化マンガン膜の成膜方法及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の集積密度の増加に伴って、半導体素子や内部配線の幾何学的寸法は微細化の一途を辿っている。内部配線、例えば、銅(Cu)配線は、その幾何学的寸法が小さくなるに連れて抵抗が増大する。抵抗の増大を抑制するためには、Cuの拡散を防ぐ拡散防止膜(以下バリア層という)の厚さを薄くし、バリア層とCu配線との合成抵抗を小さくしなければならない。
【0003】
バリア層は、例えば、特許文献1に記載されるように、PVD法(スパッタ法)を用いて形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−28046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PVD法を用いて形成された薄いバリア層においては、Cu配線の幾何学的寸法が、例えば、45nm以下になると、Cu配線を埋め込むための凹部のステップカバレッジが悪化しだす。このため、今後とも、PVD法を用いて薄いバリア層を形成し続けることは、難しくなってきている。
【0006】
これに対して、CVD法は、PVD法に比較して凹部のステップカバレッジが良く、バリア層の新たな形成手法として注目されつつある。中でも、本件の発明者は、CVD法を用いて形成された酸化マンガン膜は、厚さが薄くても微細な凹部のステップカバレッジが良好であることを見出した。CVD法を用いて形成された酸化マンガンは、新たなバリア層の材料の有力候補の一つである。
【0007】
しかも、本件の発明者は、CVD法を用いて形成された酸化マンガン膜とCuとの密着性が、酸化マンガン膜中の炭素(C)の含有量に依存することを見出した。即ち、酸化マンガン膜中のCの含有量が多いと、酸化マンガン膜とCuとの密着性が劣化する。
【0008】
この発明は、上記事情に鑑みて為されたもので、Cuとの密着性を良好とすることが可能な金属酸化膜の成膜方法、酸化マンガン膜の成膜方法、及びこの成膜方法を成膜装置に実行させるプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明の第1の態様に係る金属酸化膜の成膜方法は、下地上に有機金属化合物を含むガスを供給し、前記下地上に金属酸化膜を成膜する金属酸化膜の成膜方法であって、前記下地上に前記有機金属化合物を供給して前記下地上に金属酸化膜を成膜し、かつ、前記金属酸化膜の成膜プロセスの最後に、前記金属酸化膜を酸素含有ガス又は酸素含有プラズマに曝す。
【0010】
この発明の第2の態様に係る酸化マンガン膜の成膜方法は、下地上にマンガン有機化合物を含むガスを供給し、前記下地上に酸化マンガン膜を成膜する酸化マンガン膜の成膜方法であって、前記下地上に前記マンガン有機化合物を供給して前記下地上に酸化マンガン膜を成膜し、かつ、前記酸化マンガンの成膜プロセスの最後に、前記酸化マンガン膜を酸素含有ガス又は酸素含有プラズマに曝す。
【0011】
この発明の第3の態様に係るコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御する制御プログラムが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体であって、前記制御プログラムは、実行時に、上記第1の態様に係る金属酸化膜の成膜方法、又は上記第2の態様に係る酸化マンガン膜の成膜方法が行われるように、前記成膜装置を制御させる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、Cuとの密着性を良好とすることが可能な金属酸化膜の成膜方法、酸化マンガン膜の成膜方法、及びこの成膜方法を成膜装置に実行させるプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施形態に係る酸化マンガン膜の成膜方法を実行することが可能な成膜装置の一例を概略的に示す断面図
【図2】酸化マンガン膜のC1sXPSスペクトルを示す図
【図3】この発明の一実施形態に係る酸化マンガン膜の成膜方法のシーケンスの一例を示すタイムチャート
【図4】一実施形態に係る酸化マンガン膜の成膜方法の一例を主要な工程図として示す断面図
【図5】未反応のマンガン有機化合物が反応しきる様子を示す図
【図6】(EtCp)Mnの構造式を示す図
【図7】プラズマTEOS膜、酸化マンガン膜、及び銅膜が積層された構造体を深さ方向に二次イオン質量分析した結果を示す図
【図8】この発明の一実施形態に係る酸化マンガン膜の成膜方法のシーケンスの他の例を示すタイムチャート
【図9】この発明の一実施形態に係る酸化マンガン膜の成膜方法のシーケンスのさらに他の例を示すタイムチャート
【図10】ラマン分光法を用いた、酸化マンガン膜の表面結合状態の解析結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。この説明において、参照する図面全てにわたり、同一の部分については同一の参照符号を付す。
【0015】
図1は、この発明の一実施形態に係る金属酸化膜、例えば、酸化マンガン膜の成膜方法を実行することが可能な成膜装置の一例を概略的に示す断面図である。本例では、成膜装置の一例として、被処理基板、例えば、半導体ウエハ(以下ウエハという)上に、酸化マンガンを成膜する熱CVD装置を例示するが、金属酸化膜は酸化マンガンに限られるものではないし、被処理基板は半導体ウエハに限られるものではないし、成膜装置も熱CVD装置に限られるものでもない。
【0016】
図1に示すように、熱CVD装置10は処理チャンバ11を有する。処理チャンバ11内にはウエハWを水平に載置する載置台12が設けられている。載置台12内にはウエハWの温調手段であるヒータ12aが設けられている。ヒータ12aには、温度を制御するための、図示せぬ温度測定手段、例えば、熱電対が取り付けられている。載置台12には昇降機構12bによって昇降自在な3本のリフターピン12c(便宜上2本のみ図示)が設けられている。ウエハWはリフターピン12cを用いて昇降され、図示せぬウエハ搬送手段と載置台12との間でウエハWの受け渡しが行われる。
【0017】
処理チャンバ11の底部には排気管13の一端が接続され、排気管13の他端には排気装置14が接続されている。処理チャンバ11の側壁には、ゲートバルブGにより開閉される搬送口15が形成されている。
【0018】
処理チャンバ11の天井部には載置台12に対向するガスシャワーヘッド16が設けられている。ガスシャワーヘッド16はガス室16aを備え、ガス室16aに供給されたガスは複数のガス吐出孔16bから処理チャンバ11内に供給される。
【0019】
ガスシャワーヘッド16には、原料ガス、例えば、マンガン有機化合物を含むガスを、ガス室16aに導入する原料ガス供給配管系17が接続される。
【0020】
原料ガス供給配管系17は、原料ガス供給路17aを備えている。原料ガス供給路17aの上流には原料貯留部18が接続されている。原料貯留部18にはマンガン原料、例えば、マンガン有機化合物が貯留されている。本例では、マンガン有機化合物としてシクロペンタジエニル系のマンガン有機化合物、例えば、(EtCp)Mn(ビスエチルシクロペンタジエニルマンガン)18aが液体の状態で貯留されている。(EtCp)Mnは、マンガンプリカーサである。原料貯留部18にはバブリング機構19が接続されている。
【0021】
バブリング機構19は、例えば、バブリング用ガスが貯留されたバブリング用ガス貯留部19aと、バブリング用ガスを原料貯留部18に導くバブリング用ガス供給管19bと、バブリング用ガス供給管19b中を流れるバブリング用ガスの流量を調節するマスフローコントローラ(MFC)19c及びバルブ19dとを含んで構成される。バブリング用ガスの例は、アルゴン(Ar)ガス、水素(H)ガス、及び窒素(N)ガス等である。バブリング用ガス供給管19bの一端は、原料貯留部18に貯留された原料液体、本例では、(EtCp)Mn中に配置される。バブリング用ガス供給管19bからバブリング用ガスを噴出させることで原料液体がバブリングされて気化される。気化された原料ガス、本例では気化された(EtCp)Mnは、原料ガス供給路17a、及び原料ガス供給路17aを開閉するバルブ17bを介してガス室16aに供給される。
【0022】
なお、原料ガスの供給方法としては、上述のように原料液体をバブリングして気化させるバブリング法に限られることはなく、原料液体をベーパライザに送り、ベーパライザを用いて原料液体を気化させる、いわゆる液送り法を用いることも可能である。
【0023】
バルブ17bと原料貯留部18との間には、排気装置14に接続されるプリフローライン20が接続されている。プリフローライン20にはバルブ20aが設けられている。原料ガスのバブリング流量が安定するまでは、バルブ17bを閉じ、バルブ20aを開けることで、原料ガスをプリフローライン20に流す。バブリング流量が安定し、かつ、原料ガスの供給タイミングになったときには、バルブ20aを閉じてバルブ17bを開けることで、原料ガスを原料ガス供給路17aへと流す。
【0024】
バルブ17bとガス室16aとの間には、パージ機構21が接続されている。
【0025】
パージ機構21は、例えば、パージ用ガスが貯留されたパージ用ガス貯留部21aと、パージ用ガスを原料ガス供給路17aに導くパージ用ガス供給管21bと、パージ用ガス供給管21b中を流れるパージ用ガスの流量を調節するマスフローコントローラ(MFC)21c、バルブ21d及び21eとを含んで構成される。バルブ21dは、パージ用ガス貯留部21aとマスフローコントローラ21cとの間に設けられ、バルブ21eは、原料ガス供給路17aとマスフローコントローラ21cとの間に設けられる。パージ用ガスの例は、アルゴン(Ar)ガス等の希ガス、水素(H)ガス、及び窒素(N)ガス等である。原料ガス供給路17aの内部、ガス室16aの内部、及び処理チャンバ11の内部をパージする際には、バルブ17bを閉じ、バルブ21d、21eを開けることで、パージ用ガスを、原料ガス供給路17aにパージ用ガス供給管21bを介して流す。パージ用ガスは、原料ガスのバブリング用ガスとしても使用することができる。つまり、バブリング用ガス貯留部19aとパージ用ガス貯留部21aは共通の構成としてもよい。
【0026】
ガスシャワーヘッド16には、さらに、酸素含有ガスを、ガス室16aに導入する酸素含有ガス供給配管系22が接続される。
【0027】
酸素含有ガス供給配管系22は、酸素含有ガスを発生させる酸素含有ガス発生機構22aと、酸素含有ガス供給路22bと、酸素含有ガス供給管22b中を流れる酸素含有ガスの流量を調節するマスフローコントローラ(MFC)22c、及びバルブ22dを含んで構成される。酸素含有ガスの例は、水(HO)、及び酸素(O)等である。酸素含有ガスをガス室16aに導入する際には、バルブ22dを開け、酸素含有ガスを、酸素含有ガス供給管22bを介してガス室16aに流す。ガス室16aに導入された酸素含有ガスは、ガス吐出孔16bを介して吐出され、処理チャンバ11内に供給される。なお、図示されていないが原料ガスの凝縮を防止するため、原料ガス供給路17、バルブ19d、ガスシャワーヘッド16、チャンバ11側壁はヒータにより例えば80℃に加熱されている。
【0028】
制御部23は、熱CVD装置10を制御する。制御部23は、プロセスコントローラ23a、ユーザーインターフェース23b、及び記憶部23cを含んで構成される。ユーザーインターフェース23bは、工程管理者が、熱CVD装置10を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボード、熱CVD装置10の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を含む。記憶部23cには、熱CVD装置10による処理を、プロセスコントローラ23aの制御にて実現するための制御プログラムや駆動条件データ等が記録されたレシピが格納される。レシピは、必要に応じてユーザーインターフェース23bからの指示により記憶部23cから呼び出され、プロセスコントローラ23aに実行させることで熱CVD装置10が制御される。レシピは、例えば、CD−ROM、ハードディスク、フラッシュメモリなどのコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納された状態のものを利用したり、あるいは、他の装置から、例えば専用回線を介して随時伝送させて利用したりすることも可能である。
【0029】
このような熱CVD装置10によれば、原料ガスとしてマンガン有機化合物ガス、例えば、シクロペンタジエニル系のマンガン有機化合物ガス、具体的な一例は(EtCp)MnガスをウエハWの表面上に供給することで、ウエハWの表面上に酸化マンガン膜を成膜することができる。
【0030】
シクロペンタジエニル系のマンガン有機化合物ガスとしては、(EtCp)Mn[=Mn(C]の他、例えば、以下のシクロペンタジエニル系のマンガン有機化合物を用いることができる。
【0031】
CpMn[=Mn(C
(MeCp)Mn[=Mn(CH
(i−PrCp)Mn[=Mn(C
MeCpMn(CO)[=(CH)Mn(CO)
(t−BuCp)Mn[=Mn(C
Mn(DMPD)(EtCp)[=Mn(C11)]
((CHCp)Mn[=Mn((CH
次に、この発明の一実施形態に係る酸化マンガンの成膜方法の一例を説明する。
【0032】
まず、マンガン有機化合物ガス、例えば、シクロペンタジエニル系のマンガン有機化合物ガス、具体的には(EtCp)Mnガスを用いて成膜された酸化マンガン膜中には炭素(C)が多く含まれるが、このことを、X線光電子分光(X−ray photoelectron spectroscopy:XPS)法を用いて説明する。図2はC1s(炭素)ピークの化学結合状態を解析した解析結果である。図2には、成膜温度を400℃として成膜された酸化マンガン膜のC1sXPSスペクトル(400℃)、及び成膜温度を300℃として成膜された酸化マンガン膜のC1sXPSスペクトル(300℃)の2つが示されている。
【0033】
図2に示すように、300℃成膜の酸化マンガン膜には、主にC−C、C−Oのピークが見られ、400℃成膜の酸化マンガン膜には、主にカーバイドの炭素(Carbidic carbon)のピークが見られる。
【0034】
このような結果から、酸化マンガン膜を、マンガン有機化合物ガス、例えば、シクロペンタジエニル系のマンガン有機化合物ガス(本例では(EtCp)Mnガス)を用いて成膜した場合には、成膜された酸化マンガン膜中に、炭素(C)が多く含有されることが分かる。
【0035】
酸化マンガン膜中にCが多く含有されると、酸化マンガン膜と、この酸化マンガン膜上に形成される銅(Cu)又はCuを含む銅合金との密着性の劣化に繋がる。このため、酸化マンガン膜中からは、Cの含有量を極力減らすことが望ましい。そこで、本一実施形態においては、酸化マンガン膜中のCの含有量を極力減らすために、次のようにして酸化マンガン膜を成膜した。
【0036】
図3は、この発明の一実施形態に係る酸化マンガン膜の成膜方法のシーケンスの一例を示すタイムチャート、図4A〜図4Eは、一実施形態に係る酸化マンガン膜の成膜方法の一例を主要な工程図として示す断面図である。
【0037】
まず、図3及び図4Aに示すように、基板としてp型シリコンウエハ101上に、プラズマCVD法を用いて、膜厚100nmのプラズマTEOS膜(シリコン酸化膜)102を形成する。次いで、プラズマTEOS膜102が形成されたウエハ101を、図1に示した成膜装置10の処理チャンバ11に搬送し、ウエハ101を載置台12上に載置する。次いで、ヒータ12aを用いてウエハ101を、例えば、100℃以上400℃以下に加熱する(図3中の工程1)。加熱に要する時間は、例えば、20minである。
【0038】
次に、図3及び図4Bに示すように、マンガン原料としてマンガン有機化合物、具体的な一例はシクロペンタジエニル系のマンガン有機化合物、本例では(EtCp)Mnを用い、この(EtCp)Mnを、例えば、バブリングガス(キャリアガスとなる)として水素(H)ガスを用いながら温度80℃で気化させ、(EtCp)Mnガスを生成する。次いで、マンガン有機化合物ガスをキャリアガスとともに処理チャンバ11内に導入し、(EtCp)MnガスをプラズマTEOS膜102の表面上に供給する(図3中の工程2)。成膜時間は、例えば、30minである。この工程により、(EtCp)MnがプラズマTEOS膜102中に残存している酸素や水分と反応し、プラズマTEOS膜102上に酸化マンガン膜103が成膜される。この際、成膜される酸化マンガン膜103の酸化状態は、MnOとなる。
【0039】
次に、図3及び図4Cに示すように、(EtCp)Mnガスの供給を止め、代わりにパージ用ガスを処理チャンバ11内に導入し、(EtCp)Mnガスを処理チャンバ11内から除去する(工程3)。本例ではパージ用ガスとしてアルゴン(Ar)ガスを用い、排気装置14を用いて処理チャンバ11内を真空引きしながら、Arガスを25sccmの流量で処理チャンバ11内に供給した。供給時間は、例えば、30minである。
【0040】
次に、図3及び図4Dに示すように、Arガスの供給を止め、代わりに酸素含有ガスを処理チャンバ11内に導入し、酸素を酸化マンガン膜103の表面上に供給する(図3中の工程4)。本例では酸素含有ガスとして水蒸気(HO)を用い、図示せぬ排気系バルブを閉めた状態で、HOを1sccmの流量で処理チャンバ11内に供給した。供給時間は、例えば、15minである。これにより、酸化マンガン膜103上に、例えば、未反応のまま残っている(EtCp)MnがHOと反応しきって酸化マンガン(MnO)となる。この様子を図5に示す。図5には、未反応の(EtCp)Mnから配位子(本例ではエチルシクロペンタジエニル:EtCp)が離れることで生じたダングリングボンドにOH基が結合し、酸化マンガン膜103の表面がOH基で終端される様子が示されている。また、配位子に含まれていた炭化水素(C−H)は気化し、その後排気される。
【0041】
また、酸素含有ガスの供給量、本例ではHOの供給量は、酸化マンガン膜103の表面上、及び処理チャンバ11の内部に残っているマンガンプリカーサであるマンガン有機化合物を、過不足なく反応させ得る量とすることが望ましい。過不足なく反応させ得る量の一例は、次の通りである。
【0042】
本例では、マンガンプリカーサであるマンガン有機化合物がシクロペンタジエニル系のマンガン有機化合物である。図6に、シクロペンタジエニル系のマンガン有機化合物の基本的な構造式を示す。図6には、(EtCp)Mnの構造式が示されている。図6に示すように、(EtCp)Mnは、Mnが2つの配位子(EtCp)とπ結合している。このようなマンガン有機化合物において、このマンガン有機化合物を過不足なく反応させ得る量とは、酸素含有ガスが、マンガン有機化合物のMnと配位子との化学結合、図6に示す例ではMnと(EtCp)とのπ結合を切り、Mnを露出させる量である。なお、本例では、配位子が五員環を有し、五員環を有する配位子がCp(シクロペンタジエニル)となっている。
【0043】
このようにマンガン有機化合物を過不足なく反応させ得る量とするための酸素含有ガスの供給量の一例は、マンガン有機化合物の供給量と同じかそれ以下で、酸素含有ガスを供給すると良い。例えば、残っているマンガン有機化合物を、酸素含有ガス、例えば、HOによって完全に反応させる場合の反応式は、以下の式である。
【0044】
(EtCp)Mn + HO → MnO +2H(EtCp)
上記反応式から、供給したマンガン有機化合物の量よりも多くHOを供給しても、反応に寄与しない。しかも、大半のマンガン有機化合物はMnO成膜反応に使われるか、成膜反応に関与することなく排気されており、酸化マンガン膜103上に残っている有機物成分は、供給したマンガン有機化合物に比べると大幅に少ない量である。このため、残っているマンガン有機化合物を過不足なく反応させるためには、HOの供給量をマンガン有機化合物の供給量と同じか、それ以下にすることが望ましい、ということになる。例えば、(EtCp)Mnを4sccm流して10min成膜した場合、トータルのマンガン有機化合物の供給量は40ccとなる。この場合には、HOの供給量は、最大で40ccである。具体的には、HOの供給時間を1minとしたい場合には、HOの流量は40sccm以下とすれば良い。また、HOの供給時間を10minとしたい場合には、HOの流量は4sccm以下とすれば良い。
【0045】
また、酸素含有ガスを供給する時の処理チャンバ11内部の酸素含有ガス分圧としては、1ppb以上10ppm以下であれば良い。特に好ましい酸素含有ガス分圧としては、0.1ppmである。
【0046】
次に、図3及び図4Eに示すように、酸化マンガン膜103が形成されたウエハ101を処理チャンバ11から搬出し、真空を破ることなく、又は酸化マンガン膜を酸素や大気に触れることなく、例えば、銅成膜装置に搬送し、酸化マンガン膜上に、例えば、銅(Cu)膜104を成膜する。
【0047】
図7A及び図7Bに、図4Eに示したプラズマTEOS膜102、酸化マンガン膜103、及び銅膜104が積層された構造体を深さ方向に二次イオン質量分析した結果を示す。図7Aは、HOを酸化マンガン膜103に供給しなかった場合、図7BはHOを酸化マンガン膜103に供給した場合である。
【0048】
図7Aに示すように、HOを酸化マンガン膜103に供給しなかった場合には、酸化マンガン膜103中のCの濃度は約3×1021〜4×1021atoms/cmであったのに対し、図7Bに示すように、HOを酸化マンガン膜103に供給した場合には、酸化マンガン膜103中のCの濃度は約1.5×1021atoms/cmまで減らすことができた。
【0049】
このように、一実施形態に係る酸化マンガン膜の成膜方法であると、酸化マンガン膜103を成膜した後、成膜された酸化マンガン膜103に、さらに、酸素含有ガスを供給する。これにより、マンガンプリカーサであるマンガン有機化合物が酸化マンガン膜103の表面に未反応のまま残っていた場合でも、完全に反応させることができる。従って、一実施形態によれば、酸化マンガン膜中のCの含有量を極力減らすことが可能となり、Cuとの密着性を良好とすることが可能な酸化マンガン膜の成膜方法を得ることができる。
【0050】
ところで、既に出来上がっている酸化マンガン膜103に、酸素含有ガスをさらに供給した場合、酸化マンガン膜103の酸化が進むのではないか、ということが懸念されるが、上記一実施形態のようにして成膜された酸化マンガン膜103の酸化状態は、MnOであり、成膜された酸化マンガン膜に対してHOを供給した場合であっても、熱力学的に考えて、酸化マンガン膜の酸化状態がMnOに進行することはない。
【0051】
以上、この発明を一実施形態に従って説明したが、この発明は上記一実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形することが可能である。また、この発明の実施形態は、上記一実施形態が唯一のものでもない。
【0052】
例えば、上記一実施形態においては、原料ガスであるマンガン有機化合物ガスを用いた酸化マンガン膜の成膜の後、マンガン有機化合物ガスを処理チャンバ11内から除去するための工程(図3の工程3)を別途設けている。しかし、マンガン有機化合物ガスを処理チャンバ11内から除去する必要は必ずしもない。例えば、図8に示すように、マンガン有機化合物(Mnプリカーサ)ガスの供給を止めた後、単に酸素含有ガス(水)を供給するようにしても良い。要するに、プロセスレシピが、酸素含有ガスを供給した後、マンガン有機化合物ガスを供給することなく成膜プロセスを終了させるということであり、成膜プロセスの最後に、酸素含有ガスを供給することで、成膜された酸化マンガン膜の表面は、炭素の多い配位子が離脱してより完全なMnO膜となる。そして、上記プロセスレシピが終了した後、引き続き、真空を破ることなく、又は酸化マンガン膜103が酸素や水や大気に触れることなく、酸化マンガン膜103上にCu又はCuを含む合金を成膜する。
【0053】
また、上記一実施形態においては、成膜方法としてCVD法、特に、熱CVD法を例示したが、成膜方法はCVD法に限られるものではない。例えば、図9に示すように、原料ガスであるマンガン有機化合物(Mnプリカーサ)ガスと、酸素含有ガス(水)とを交互に供給し、原子又は分子層レベルで酸化マンガン膜を成膜していくALD法が用いられても良い。ALD法を用いた場合においても、プロセスレシピが、酸素含有ガスを供給した後、マンガン有機化合物ガスを供給することなく成膜プロセスを終了させる。そして、上記プロセスレシピが終了した後、引き続き、真空を破ることなく、又は酸化マンガン膜103が酸素や水や大気に触れることなく、酸化マンガン膜103上にCu又はCuを含む合金を成膜する。
【0054】
また、上記一実施形態においては、酸化マンガン膜103からCを減らす工程として、酸化マンガン膜103に酸素含有ガス、例えば、HOを供給し、酸化マンガン膜103をHOに曝す工程を示したが、酸化マンガン膜103をHOに曝す代わりに、酸素(O)含有プラズマに曝すようにしても良い。
【0055】
図10に、酸化マンガン膜103をOプラズマに曝した場合、及び曝さなかった場合のラマン分光法を用いた、酸化マンガン膜103の表面結合状態の解析結果を示す。
【0056】
図10には、成膜温度を400℃、成膜時間を30min、キャリアガスとしてHガスを流量25sccmで供給して成膜した場合の酸化マンガン膜103のラマン分光法の結果が示されている。また、Oプラズマによる処理条件は、平行平板型のプラズマ処理装置を用い、Oガスを流量2sccmで供給し、40kHz、100Wの高周波パワーを印加し、処理時間を10secとした。
【0057】
図10中のRamanスペクトルに示すように、酸化マンガン膜103をOプラズマに曝さなかった場合(without Oplasma)には、炭素由来(アモルファス状の炭素も含む)のピーク(D band及びD´ band)が明瞭に観察される。
【0058】
これに対して、酸化マンガン膜103をOプラズマに曝した場合(with Oplasma)には、炭素由来の明瞭なピークは観察されない。
【0059】
このように、酸化マンガン膜103を酸素含有ガス、例えば、HOに曝す代わりに、酸素(O)含有プラズマに曝すようにすることでも、酸化マンガン膜103中からCの量を減らすことができ、Cuとの密着性が良好となる酸化マンガン膜を得ることができる。
その他、この発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で様々に変形することができる。
【符号の説明】
【0060】
101…p型シリコンウエハ、102…プラズマTEOS膜、103…酸化マンガン膜、104…銅膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地上に有機金属化合物を含むガスを供給し、前記下地上に金属酸化膜を成膜する金属酸化膜の成膜方法であって、
前記下地上に前記有機金属化合物を供給して前記下地上に金属酸化膜を成膜し、かつ、前記金属酸化膜の成膜プロセスの最後に、前記金属酸化膜を酸素含有ガス又は酸素含有プラズマに曝すことを特徴とする金属酸化膜の成膜方法。
【請求項2】
下地上にマンガン有機化合物を含むガスを供給し、前記下地上に酸化マンガン膜を成膜する酸化マンガン膜の成膜方法であって、
前記下地上に前記マンガン有機化合物を供給して前記下地上に酸化マンガン膜を成膜し、かつ、前記酸化マンガンの成膜プロセスの最後に、前記酸化マンガン膜を酸素含有ガス又は酸素プラズマに曝すことを特徴とする酸化マンガン膜の成膜方法。
【請求項3】
前記酸素含有ガスが、水(HO)又は酸素(O)であることを特徴とする請求項2に記載の酸化マンガン膜の成膜方法。
【請求項4】
前記マンガン有機化合物が、マンガンと配位子とがπ結合しているものであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の酸化マンガン膜の成膜方法。
【請求項5】
前記配位子が五員環であることを特徴とする請求項4に記載の酸化マンガン膜の成膜方法。
【請求項6】
前記五員環の配位子が、Cp(シクロペンタジエニル)であることを特徴とする請求項5に記載の酸化マンガン膜の成膜方法。
【請求項7】
前記マンガン有機化合物が、
(EtCp)Mn[=Mn(C
CpMn[=Mn(C
(MeCp)Mn[=Mn(CH
(i−PrCp)Mn[=Mn(C
MeCpMn(CO)[=(CH)Mn(CO)
(t−BuCp)Mn[=Mn(C
Mn(DMPD)(EtCp)[=Mn(C11)]、及び
((CHCp)Mn[=Mn((CH
のいずれかから選ばれることを特徴とする請求項6に記載の酸化マンガン膜の成膜方法。
【請求項8】
前記酸素含有ガスの供給量が、前記酸化マンガン膜及び処理チャンバ内部に付着したマンガン有機化合物を過不足無く反応させ得る量であり、
前記過不足無く反応させ得る量が、前記π結合を切り、マンガンを露出させる量であることを特徴とする請求項2から請求項7のいずれか1項に記載の酸化マンガン膜の成膜方法。
【請求項9】
前記酸素含有ガスの供給量が、前記マンガン有機化合物の供給量と同じか、それ以下であることを特徴とする請求項2から請求項7のいずれか一項に記載の酸化マンガン膜の成膜方法。
【請求項10】
前記酸素含有ガスを供給する時の処理チャンバ内部の酸素含有ガス分圧が、1ppb以上10ppm以下であることを特徴とする請求項2から請求項9のいずれか一項に記載の酸化マンガン膜の成膜方法。
【請求項11】
プロセスレシピが、前記酸素含有ガスを供給した後、前記マンガン有機化合物ガスを供給することなく前記成膜プロセスを終了させるものであることを特徴とする請求項2から請求項10のいずれか一項に記載の酸化マンガン膜の成膜方法。
【請求項12】
前記プロセスレシピ終了後、引き続き、真空を破ることなく、又は前記酸化マンガン膜が酸素や水や大気に触れることなく、前記酸化マンガン膜上に銅又は銅を含む合金を成膜することを特徴とする請求項2から請求項11のいずれか一項に記載の酸化マンガン膜の成膜方法。
【請求項13】
前記酸化マンガン膜の成膜法が、CVD法又はALD法であることを特徴とする請求項2から請求項12のいずれか一項に記載の酸化マンガン膜の成膜方法。
【請求項14】
コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御する制御プログラムが記憶されたコンピュータ読取可能な記憶媒体であって、
前記制御プログラムは、実行時に、請求項1に記載の金属酸化膜の成膜方法、又は請求項2から請求項13のいずれか一項に記載の酸化マンガン膜の成膜方法が行われるように、前記成膜装置を制御させることを特徴とするコンピュータ読取可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−71210(P2011−71210A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219283(P2009−219283)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】