説明

高周波スイッチおよび高周波モジュール

【課題】挿入損失およびチップサイズの増大を生じることなく、歪特性に優れた高周波スイッチおよび高周波モジュールを提供する。
【解決手段】高周波スイッチであって、高周波信号を入出力するための複数の入出力端子101〜103と、2つの入力端子101、103間に設けられた基本スイッチ部104、105と、基本スイッチ部104、105の導通および遮断を制御するための制御電圧が入力される制御端子106、107とを備え、基本スイッチ部104、105は、メアンダ形状のゲート電極を有するメアンダ型のFET110〜113及びFET120〜123が多段に接続されて形成され、FET110〜113、及び120〜123のうち、入出力端子103からの電気的距離が最も短いFET113、及び120のフィンガー長は、他のFET110〜112、及び121〜123のフィンガー長よりも短い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタによって導通および遮断を制御するスイッチに関し、とりわけ高周波信号を断続する高周波スイッチおよび高周波モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、携帯電話機などの移動体通信機器では、小型化の観点から送信と受信とで1個のアンテナを共用する構成が用いられることが多い。このような構成の場合、送信時と受信時とでアンテナに接続する内部回路を切り替える必要があり、その切り替えには高周波スイッチが用いられる。また、アンテナとの接続に限らず、通信方式や出力電力に応じて回路内部における高周波信号経路の切り替えを行う場合においても、高周波スイッチが使用される。この高周波スイッチは、通信に悪影響を及ぼす妨害波の発生を抑制しつつ、大電力の高周波信号を断続する必要がある。さらに、送信時の消費電力低減や受信時の受信感度向上の観点から、挿入損失を低く抑える必要がある。したがって、高周波スイッチに用いられるスイッチング素子には、送受信時の良好な歪特性、高い耐電力性および低い挿入損失が求められる。
【0003】
現在、スイッチング素子には電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)が広く採用されている。しかし、FETを用いた高周波スイッチは、入力電力が大きくなると歪特性を初めとする高周波特性が劣化するという短所を有している。この短所を改善するために、複数のFETを直列に多段接続することで各々のFETに加わる電力を分散させ、大電力入力時における高周波特性の劣化を抑制する技術が提案されている(特許文献1)。
【0004】
以下に、従来技術に係る高周波スイッチについて図8を参照して説明する。図8は、従来技術を用いた高周波スイッチの回路図の一例である。同図に記載された高周波スイッチは、単極双投(SPDT: Single Pole Double Throw)の2入力1出力の回路構成となっている。
【0005】
高周波スイッチ800は、入出力端子801、入出力端子802および入出力端子803と、各入出力端子間に設けられた基本スイッチ部804および基本スイッチ部805とを備える。
【0006】
基本スイッチ部804および基本スイッチ部805は、複数のFETが多段に接続されて成る。すなわち、基本スイッチ部804は4個のFETから成り、FET810〜FET813のドレインとソースが順に直列に接続され、FET810のソースが入出力端子801に接続され、FET813のドレインが入出力端子803に接続される。また、FET810〜FET813の各ゲートは、それぞれ、抵抗素子831を介して制御端子806に接続される。
【0007】
同様に、基本スイッチ部805はFET820〜FET823が多段に直列に接続されて形成される。また、FET820〜FET823の各ゲートは、それぞれ、抵抗素子831を介して制御端子807に接続される。さらに、FET810〜FET823は、すべて同一ゲート幅および同一フィンガー長を有している。
【0008】
ここで、FETのフィンガー長について補足する。高周波スイッチに用いられるFETは、占有面積を小さくするためにメアンダ型FETが広く用いられている。
【0009】
図9は、メアンダ型FETの平面図の一例である。同図に記載されたメアンダ型FETは、櫛型形状のソース電極900と、ソース電極900と指状部が互いに組み合わさるように対向して配置された櫛型形状のドレイン電極901と、ソース電極900とドレイン電極901の間を這う様に形成されたメアンダ形状のゲート電極902とで形成されている。すなわち、ソース電極900およびドレイン電極901の指状部はそれぞれの指状部の基部となる共通部921で接続されている。また、ゲート電極902は、隣り合う指状部と平行な部分が、屈曲部920で接続されている。ここで、フィンガー長930は、ソース電極900およびドレイン電極901の指状部における長手方向の対向長で定義される。なお、FETの周囲には素子と素子とを互いに電気的に分離するための素子分離領域910が形成されている。
【0010】
以下に、図8に示す従来技術に係る高周波スイッチの動作について、FETがディプレッション型である場合を例に説明する。入出力端子801から高周波信号を入力し、入出力端子803から出力する場合には、制御端子806に、例えば、3V程度のオン電圧を印加し、制御端子807に、例えば、0V程度のオフ電圧を印加して、FET810〜FET813を導通状態にし、FET820〜FET823を遮断状態にする。入出力端子801から入力された高周波信号は、導通状態となっているFET810〜FET813を介し、入出力端子803より出力される。このとき、遮断状態となっているFET820〜FET823にも高周波信号電圧が印加される。このとき、遮断状態であるFET820〜FET823には、それぞれ浮遊容量が発生する。図10は、従来の高周波スイッチにおける遮断状態のFETに発生する浮遊容量が付加された回路図である。同図に示されるように、遮断状態であるFET820〜FET823のゲートとソースとの間にはそれぞれ浮遊容量C81、C83、C85およびC87が存在し、ゲートとドレインとの間にはそれぞれ浮遊容量C82、C84、C86およびC88が存在し、ソースとドレインとの間にはそれぞれ浮遊容量C89、C90、C91およびC92が存在する。本従来例においては、FET820〜FET823の各ゲート幅およびフィンガー長は等しいため、浮遊容量C81からC88の容量値は等しく、また、浮遊容量C89からC92の容量値も等しい。したがって、FET820〜FET823のゲートには、浮遊容量C81からC88により、概ね8等分に分圧された高周波信号電圧が印加される。同様に、FET820〜FET823の各ドレインとソースとの間には、浮遊容量C89からC92により4等分に分圧された高周波信号電圧が、直流電圧に重畳して印加される。
【0011】
ここで、遮断状態のFETに高周波信号を印加した際の高調波歪について説明する。FETが遮断状態を保つためには、ゲート―ドレイン間およびゲート―ソース間に印加される高周波電圧および直流電圧の和がFETの閾値電圧以下である必要がある。前述の通り、遮断状態のFETに高周波信号電圧が印加されると、ゲート―ドレイン間、ゲート―ソース間に高周波電圧が印加される。入力電力が大きくなると、高周波電圧振幅が大きくなり、ゲート―ドレイン間およびゲート―ソース間の電圧が閾値電圧に近づき、十分に遮断状態を維持することが出来なくなる。このとき、遮断状態のFETを介して高周波信号の一部が漏洩することで高周波信号波形が崩れ、高調波歪が発生する。したがって、従来技術ではFETを多段に接続して高周波信号電圧を分圧することで、ゲート―ソース間およびゲート―ドレイン間に印加される電圧が閾値電圧を越えにくくし、高調波歪の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3736356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前述した従来技術のように、直列に接続するFETの段数を増やすと、導通状態での挿入損失が増大するという弊害が発生する。また、別の手段として、閾値電圧を大きくする方法が考えられる。しかし、閾値電圧を大きくするとオン抵抗が増大し、導通状態での挿入損失が大きくなるという弊害が発生する。さらに別の手段として、印加される高周波信号電圧に対して十分に大きな直流電圧をゲート―ドレイン間およびゲート―ソース間に印加する方法が考えられる。しかし、FETのゲート―ドレイン間およびゲート―ソース間の電位差が大きくなるため、ゲートリーク電流が増大し、消費電流が増大するという弊害が発生する。さらに、各端子に印加できる最大電圧は、高周波スイッチに電圧を供給する電源や電源回路等の制限により、十分に大きな電圧に設定することが出来ないことも多い。
【0014】
以上のように、FETの高調波歪の抑制には種々のトレードオフが伴い、FETの接続段数を増やすと、オン抵抗が上昇するので挿入損失が増大し、また、チップサイズの増大やそれに伴うコスト上昇を招くという課題がある。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑み、挿入損失およびチップサイズの増大を生じることなく、歪特性に優れた高周波スイッチおよび高周波モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る高周波スイッチは、高周波信号を入出力するための複数の入出力端子と、前記複数の入出力端子の1つと接地端子との間、あるいは、前記複数の入出力端子のうちの2つの入出力端子の間に設けられた基本スイッチ部と、前記基本スイッチ部の導通および遮断を制御するための制御電圧が入力される制御端子とを備え、前記基本スイッチ部は、メアンダ形状または櫛形状のゲート電極を有するメアンダ型または櫛型の電界効果トランジスタが多段に接続されており、前記基本スイッチ部の有する複数の前記電界効果トランジスタのうち、一の電界効果トランジスタのフィンガー長は、前記基本スイッチ部の一端に接続された前記入出力端子との電気的距離が、前記入出力端子と前記一の電界効果トランジスタとの電気的距離より長い位置にある他の電界効果トランジスタのフィンガー長よりも短いことを特徴とするものである。
【0017】
基本スイッチ部が多段接続されている場合、高周波信号が印加される入出力端子に近い電界効果トランジスタで発生した歪成分は小さい減衰量で入出力端子に到達するのに対し、当該入出力端子から遠い電界効果トランジスタで発生した歪成分は、遮断状態にある電界効果トランジスタを介して入出力端子に到達する。したがって、入出力端子から電気的距離がより短い位置に接続された電界効果トランジスタで発生した高調波歪ほど、その影響が顕著となる。そこで、多段に接続されたメアンダ型または櫛型の電界効果トランジスタのフィンガー長を不均一にすることで、入出力端子に近い電界効果トランジスタの歪特性を改善し、歪特性に優れた高周波スイッチを実現できる。従来技術に対し、歪特性の改善のみならず、フィンガー長の短縮による小型かつ低挿入損失の付帯的効果も有する。
【0018】
なお、上述の基本スイッチ部はトランスファースイッチ(一方の端子から入力される高周波信号を他方の端子に流すための信号経路を構成するスイッチ)として利用してもよく、また、入出力端子と接地端子間に接続されたシャントスイッチ(遮断状態のスイッチ回路に漏洩する信号電力を接地電位に逃がすためのスイッチ)としても利用することが出来る。
【0019】
また、本発明の一態様は、前記複数の入出力端子の一つと接地端子との間に設けられた前記基本スイッチ部は、直列に接続された複数のメアンダ型または櫛型の前記電界効果トランジスタと、一端がいずれかの前記電界効果トランジスタのゲート電極に接続され、他端が前記制御端子に接続された複数の抵抗素子とを備え、前記複数の入出力端子の一つと接地端子との間に設けられた前記基本スイッチ部の有する複数の前記電界効果トランジスタのうち、前記基本スイッチ部の一端に接続された前記入出力端子から電気的距離が最短の位置にある電界効果トランジスタのフィンガー長は、前記入出力端子から電気的距離がより長い位置にある残余の前記電界効果トランジスタのフィンガー長よりも短いことが好ましい。
【0020】
シャントスイッチとして使用されるスイッチ回路を構成し、かつ、入力端子側の電界効果トランジスタのフィンガー長をより電気的距離が長い位置にある電界効果トランジスタのフィンガー長よりも短くすることで、歪特性の改善に寄与するものである。
【0021】
また、本発明の他の態様は、前記複数の入出力端子の一つと接地端子との間に設けられた前記基本スイッチ部は、直列に接続されたn個(nは2以上の整数)の前記電界効果トランジスタを備え、前記基本スイッチ部の一端に接続された前記入出力端子から数えてi番目(iは1以上n以下の整数)の前記電界効果トランジスタのフィンガー長をFL(i) としたとき、FL(1) < FL(2)≦ … ≦ FL(n−1)≦ FL(n)を満たすことが好ましい。
【0022】
多段接続した各電界効果トランジスタの歪特性への影響に応じてフィンガー長を適切に設定することで、歪特性の改善に寄与するものである。
【0023】
また、本発明の他の態様は、前記複数の入出力端子のうちの2つの入出力端子の間に設けられた前記基本スイッチ部は、直列に接続された複数のメアンダ型または櫛型の前記電界効果トランジスタと、一端がいずれかの前記電界効果トランジスタのゲート電極に接続され、他端が前記制御端子に接続された複数の抵抗素子とを備え、前記複数の入出力端子のうちの2つの入出力端子の間に設けられた前記基本スイッチ部が遮断状態であるときに、前記2つの入出力端子のうち信号電力が印加される側の入出力端子を遮断時活性端子とするとき、前記基本スイッチ部の有する複数の前記電界効果トランジスタのうち、前記遮断時活性端子から電気的距離が最も短い位置にある電界効果トランジスタのフィンガー長は、前記遮断時活性端子から電気的距離がより長い位置にある残余の前記電界効果トランジスタのフィンガー長よりも短いことが好ましい。
【0024】
トランスファースイッチとして使用されるスイッチ回路を構成し、かつ、複数の入出力端子の内、スイッチ回路が遮断状態のときに信号電力が印加される端子を「遮断時活性端子」と定義して、その遮断時活性端子側の電界効果トランジスタのフィンガー長を、電気的距離がより長い位置にある電界効果トランジスタのフィンガー長よりも短くし、これによって歪特性の改善に寄与するものである。
【0025】
また、本発明の他の態様は、前記複数の入出力端子のうちの2つの入出力端子の間に設けられた前記基本スイッチ部は、直列接続されたn個(nは2以上の整数)の電界効果トランジスタを備え、前記遮断時活性端子から数えてi番目(iは1以上n以下の整数)の前記電界効果トランジスタのフィンガー長をFL(i)としたとき、
FL(1) < FL(2)≦ … ≦ FL(n−1)≦ FL(n)を満たすことが好ましい。
【0026】
多段接続した各電界効果トランジスタの歪特性への影響に応じてフィンガー長を適切に設定することで、歪特性の改善に寄与するものである。
【0027】
また、本発明の他の態様は、前記複数の入出力端子の一つと接地端子との間に設けられた前記基本スイッチ部と、前記複数の入出力端子のうちの2つの入出力端子の間に設けられた前記基本スイッチ部とが任意に組み合わされ、前記複数の入出力端子間で任意に高周波信号の流れが切り替わるように構成されてもよい。
【0028】
前述の歪特性に優れたトランスファースイッチおよびシャントスイッチを組み合わせることで、任意のトポロジーの高周波スイッチにおいて、歪特性の改善に寄与するものである。
【0029】
また、本発明の他の態様は、第1〜第3の入出力端子と、第1および第2の接地端子と、第1および第2の制御端子と、前記第1の入出力端子と前記第3の入出力端子との間に接続された第1のトランスファースイッチと、前記第2の入出力端子と前記第3の入出力端子との間に接続された第2のトランスファースイッチと、前記第1の入出力端子と前記第1の接地端子との間に接続された第1のシャントスイッチと、前記第2の入出力端子と前記第2の接地端子との間に接続された第2のシャントスイッチとを備え、前記第1のトランスファースイッチと前記第2のシャントスイッチとが、前記第1の制御端子から入力される第1の制御信号によって同時に導通または遮断され、前記第2のトランスファースイッチと前記第1のシャントスイッチとが、前記第2の制御端子から入力される第2の制御信号によって同時に導通または遮断されることで、前記第1および第3の入出力端子間の高周波信号経路と、前記第2および第3の入出力端子間の高周波信号経路とが排他的に形成される単極双投型の高周波スイッチであって、前記第1および第2のトランスファースイッチは、前記複数の入出力端子のうちの2つの入出力端子の間に設けられた前記基本スイッチ部により形成され、前記第1および第2のシャントスイッチは、前記複数の入出力端子の一つと接地端子との間に設けられた前記基本スイッチ部により形成されることを特徴とする。
【0030】
これにより、歪特性に優れた高性能の単極双投(SPDT)スイッチを実現することが出来る。
【0031】
また、本発明の他の態様は、前記電界効果トランジスタは、ソース電極とドレイン電極との間に少なくとも2本のゲート電極を有するマルチゲート型電界効果トランジスタであってもよい。
【0032】
ソース―ドレイン間に複数のゲート電極を形成したマルチゲート電界効果トランジスタで構成された高周波スイッチに本発明を適用することで、歪特性の改善に寄与するものである。
【0033】
また、本発明の他の態様は、高周波信号が入力される第1端子と、増幅された高周波信号を出力する第2端子と、高周波信号を増幅する第1の増幅器と、高周波信号を増幅する第2の増幅器と、第1入力端子、第1出力端子及び第2出力端子を備え、前記第1入力端子が前記第1端子に接続され、前記第1出力端子が前記第1の増幅器の入力端に接続され、前記第2出力端が前記第2の増幅器の入力端に接続された第1の高周波スイッチと、第2入力端子、第3入力端子及び第3出力端子を備え、前記第3出力端子が前記第2端子に接続され、前記第2入力端子が前記第1の増幅器の出力端に接続され、前記第3入力端子が前記第2の増幅器の出力端に接続された第2の高周波スイッチとを備え、前記第1および第2の増幅器は排他的に動作し、前記第1の増幅器の動作中には、前記第1の高周波スイッチの前記第1入力端子と前記第1出力端子とが導通状態となり、かつ、前記第2の高周波スイッチの前記第2入力端子と前記第3出力端子とが導通状態となり、一方、前記第2の増幅器の動作中には、前記第1の高周波スイッチの前記第1入力端子と前記第2出力端子とが導通状態となり、かつ、前記第2の高周波スイッチの前記第3入力端子と前記第3出力端子とが導通状態となるように制御される、高周波信号を増幅する高周波モジュールであって、前記第1および第2の高周波信号スイッチの少なくとも一方は、上記記載の高周波スイッチのうちのいずれかの高周波スイッチで構成されることを特徴とする。
【0034】
本発明に係る高周波スイッチを高周波増幅モジュールに適用することで、歪特性に優れた高周波モジュールを実現することが出来る。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、歪特性および挿入損失に優れ、かつ小型な高周波スイッチならびに高周波モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1A】本発明の実施の形態1に係る高周波スイッチの回路図である。
【図1B】本発明の実施の形態1に係る高周波スイッチの平面図の一例である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る高周波スイッチにおける遮断状態のFETに発生する浮遊容量が付加された回路図である。
【図3A】従来の高周波スイッチと本発明の実施の形態1に係る高周波スイッチとの2次高調波歪特性の比較を表すグラフである。
【図3B】従来の高周波スイッチと本発明の実施の形態1に係る高周波スイッチとの3次高調波歪特性の比較を表すグラフである。
【図3C】従来の高周波スイッチと本発明の実施の形態1に係る高周波スイッチとの挿入損失特性の比較を表すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態1の変形例を示す高周波スイッチの櫛型FETの平面図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る高周波スイッチの回路図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係る高周波スイッチの回路図である。
【図7】本発明の実施の形態4に係る高周波モジュールのブロック図である。
【図8】従来技術を用いた高周波スイッチの回路図の一例である。
【図9】メアンダ型FETの平面図の一例である。
【図10】従来の高周波スイッチにおける遮断状態のFETに発生する浮遊容量が付加された回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための最良の形態に関するいくつかの例について、図面を参照しながら説明する。
【0038】
なお、図面において、実質的に同一の構成、動作、および効果を表す要素については、同一の符号を付す。また、以下において記述される数値は、すべて本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数値に制限されない。またさらに、特に限定されるものではないが、本発明はSOI(Silicon On Insulator)半導体基板や砒化ガリウムを始めとする化合物半導体基板上に形成された高周波スイッチにおいて、とりわけ好適である。またさらに、本発明を構成する電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)はその種類は特に限定されないが、HEMT(High Electron Mobility Transistor)や、MESFET(MEtal Semiconductor FET)がとりわけ好適である。さらに、以下で例示するFETの電位固定方法や、直列に多段接続するFETの段数、スイッチの回路トポロジー等の回路構成は、本発明を具現化するために例示したものに過ぎず、本発明はこれに限定されない。
【0039】
(実施の形態1)
図1Aは、本発明の実施の形態1に係る高周波スイッチの回路図である。また、図1Bは、本発明の実施の形態1に係る高周波スイッチの平面図の一例である。同図に記載された高周波スイッチ100は、入出力端子101、102および103と、制御端子106および107と、FET110、111、112および113で構成される基本スイッチ部104と、FET120、121、122および123で構成される基本スイッチ部105とを備える。また、抵抗素子131の各々は、一端がFETのゲート電極に接続され、他端が制御端子106及び107のいずれかに接続されている。
【0040】
本実施の形態では、高周波スイッチを構成するFETのうち、入出力端子103側に接続されたFET113および120のフィンガー長を、残余のいずれのFETのフィンガー長よりも短くしたことを特徴とする。
【0041】
図1Aおよび図1Bに示す高周波スイッチは、単極双投スイッチ(SPDT)回路として機能する。
【0042】
入出力端子101〜103は、それぞれ、高周波信号を入出力するための第1の入出力端子〜第3の入出力端子に相当する。例えば、入出力端子101には送信回路が接続され、入出力端子102には受信回路が接続され、入出力端子103にはアンテナが接続される。
【0043】
多段接続されたFET110〜113は、基本スイッチ部104を構成し、入出力端子101と入出力端子103との間に設けられる。同様に、多段接続されたFET120〜123は、基本スイッチ部105を構成し、入出力端子102と入出力端子103との間に設けられる。本実施例では、基本スイッチ部104および105は、共にトランスファースイッチとして使用される。
【0044】
制御端子106および107は、それぞれ、基本スイッチ部104および105の導通および遮断を制御するための制御電圧が入力される。
【0045】
基本スイッチ部104および105は、それぞれ、メアンダ形状のゲート電極を有するメアンダ型のFET110〜113およびFET120〜123が多段に接続されて形成されている。
【0046】
ここで、上述の高周波スイッチの動作を説明するにあたり、FETのフィンガー長と電気的特性の関係について補足する。高周波スイッチに用いられるFETでは、占有面積を小さくする観点から、例えば図9に記載されたようなメアンダ型のFET構造が広く用いられる。メアンダ型FETでは、櫛型のソース電極およびドレイン電極の間を這うように、メアンダ形状のゲート電極が形成され、ゲート電極の隣り合う指状部同士は屈曲部よって接続される。ここで、屈曲部ではゲート―ソース間およびゲート―ドレイン間距離が非対称になる。この非対称性はドレイン電流の不均一性や耐圧の低下などを招くため好ましくなく、屈曲部の下方に位置する半導体層を素子分離領域とすることが多い。この場合、実効的にトランジスタとして動作する領域は指状部のみであり、屈曲部はドレイン電流の駆動には寄与しない。しかし、屈曲部においてもゲート―ソース間、ゲート―ドレイン間の配線間容量が存在するため、ゲート―ソース間およびゲート―ドレイン間の浮遊容量には寄与する。
【0047】
ここで、トランジスタとして動作する領域のゲート幅である実効ゲート幅(メアンダ形状のゲート電極のうち、指状部のみの長さ)が等しく、フィンガー長が異なる2つのFETを考える。実効ゲート幅が等しい場合、フィンガー長が短いFETの方が屈曲部の数が多くなる。前述の通り、屈曲部はトランジスタ動作、すなわちドレイン電流の駆動には寄与しないが、配線間の寄生容量によって浮遊容量は増大する。したがって、実効ゲート幅が等しく、フィンガー長が短いFETの方が、屈曲部の数が多くなるので浮遊容量が増大する。一方、FETのオン抵抗を考えると、フィンガー長が短いほど配線抵抗が小さくなるため、フィンガー長が短いFETの方がオン抵抗は小さくなる。
【0048】
また、屈曲部の下方に位置する半導体層を素子分離領域としない場合、屈曲部もトランジスタとして動作する。しかし、その非対称性から指状部に比べドレイン電流密度が低下する。したがって、同等のドレイン電流の駆動能力を得るためには、屈曲部が多いFETほどゲート幅を大きくする必要がある。したがって、ゲート幅の増大に伴い、浮遊容量が増大する。なお、フィンガー長の短縮により配線抵抗が小さくなる効果がある点は同様である。
【0049】
以上の観点から、FETのフィンガー長は短いほど浮遊容量が大きく、オン抵抗が小さくなる傾向にある。
【0050】
以下、上記観点を踏まえ、図1Aおよび図1Bに記載された高周波スイッチにおいて、入出力端子101から入出力端子103に高周波信号を伝送する場合を例に、その動作を説明する。
【0051】
制御端子106にはオン電圧が印加され、制御端子107にはオフ電圧が印加される。このとき、基本スイッチ部104を構成するFET110〜113は導通状態となり、基本スイッチ部105を構成するFET120〜123は遮断状態となる。すなわち、入出力端子101と入出力端子103との間は短絡状態、入出力端子102と入出力端子103との間は開放状態となり、入出力端子101から入力された高周波信号は、入出力端子103に伝送される。このとき、遮断状態となっているFET120〜FET123にも高周波信号電圧が印加され、遮断状態であるFET120〜FET123には、それぞれ浮遊容量が発生する。図2は、本発明の実施の形態1に係る高周波スイッチにおける遮断状態のFETに発生する浮遊容量が付加された回路図である。同図に示されるように、遮断状態のFET120〜123のゲート―ソース間にはそれぞれ浮遊容量C1、C3、C5、C7が存在し、ゲート―ドレイン間にはそれぞれ浮遊容量C2、C4、C6、C8が存在し、ソース―ドレイン間にはそれぞれ浮遊容量C9、C10、C11、C12が存在する。したがって、FET120〜123のゲート―ソース間およびゲート―ドレイン間には浮遊容量C1〜C8の容量値に応じ分圧された高周波電圧が印加される。この高周波電圧によって、ゲート―ドレイン間またはゲート―ソース間電位差が閾値電圧に近づくと、遮断状態のFETを介して高周波信号が漏洩し始め、高調波歪が発生する。
【0052】
ところで、高周波信号が出力される入出力端子103に最も近いFET120で発生した歪成分は、減衰することなく入出力端子103に到達するのに対し、FET121で発生した歪成分は、遮断状態にあるFET120を介して入出力端子103に到達する。すなわち、FET121で発生した高調波歪がFET120によって減衰されるため、FET120で発生した高調波歪に比べて入出力端子103から出力される高周波信号への影響は小さい。同様に、FET122で発生した高調波歪は、FET120及び121によって、また、FET123で発生した高調波歪は、FET120〜122によって減衰される。すなわち、入出力端子から電気的距離がより短い位置に接続されたFETで発生した高調波歪ほど、その影響が顕著となる。
【0053】
そこで、本実施の形態では、高周波信号に対して高調波歪の影響を最も及ぼすFET120のフィンガー長を、残余のFET121〜123に比べて短くすることで、歪特性を改善している。前述したように、FETのフィンガー長が短いと浮遊容量が増大する。したがって、ゲート―ソース間の浮遊容量C2を、C4、C6およびC8に比して小さく設定し、ゲート―ドレイン間の浮遊容量C1を、C3、C4およびC7に比して小さく設定している。したがって、FET121〜123に比べ、FET120のゲート―ドレイン間およびゲート―ソース間に印加される電圧は小さくなる。すなわち、高調波歪特性に最も影響が大きいFET120の遮断状態の維持が容易になり、歪特性を改善することが出来る。また、フィンガー長を短くすることでオン抵抗が減少し、小型かつ低挿入損失という付帯的効果も得られる。
【0054】
なお、上述の説明では、図1Aおよび図1Bの高周波スイッチにおいて入出力端子101から入出力端子103に高周波信号を伝送する場合を例に動作を説明したが、入出力端子102から入出力端子103に高周波信号を伝送する場合も同様に考えることができる。すなわち、歪特性を改善するにはFET110〜113のうち、入出力端子103側に接続されたFET113のフィンガー長を、残余のいずれのFETのフィンガー長よりも短くすれば良い。
【0055】
そこで、多段に接続されたFETのフィンガー長を不均一にすることで、入出力端子に近いFETの歪特性を改善し、歪特性に優れた高周波スイッチを実現できる。
【0056】
図3A、図3Bおよび図3Cは、それぞれ、従来の高周波スイッチと本発明の実施の形態1に係る高周波スイッチとの2次高調波歪特性、3次高調波歪特性および挿入損失特性の比較を表すグラフである。なお、比較した高周波スイッチは、共に実効ゲート長が3000umであるFETを、直列に4段接続した構成である。また、従来の高周波スイッチでは、FETのフィンガー長は全て80umであり、本実施の形態に係る高周波スイッチでは、FET113およびFET120のフィンガー長は40umであり残余のFETのフィンガー長は80umである。本実施の形態に係る高周波スイッチの方が、高調波歪特性及び挿入損失特性に優れることが確認できる。
【0057】
なお、本実施の形態においては、メアンダ型FETの場合を例に説明したが、櫛型FETの場合でも本発明は適用可能である。図4は、本発明の実施の形態1の変形例を示す高周波スイッチの櫛型FETの平面図である。同図に記載された櫛型FETは、櫛形のソース電極400と、ソース電極400と指状部が組み合わさるように配置されたドレイン電極401と、ソース電極400およびドレイン電極401の指状部と対向するように指状部が形成された櫛型形状のゲート電極402とを有する。また、FETの周囲には素子と素子とを互いに電気的に分離する素子分離領域410が形成される。フィンガー長430はソース電極400およびドレイン電極401の指状部における長手方向の対向長で定義される。図4に示されるように、櫛形のゲート電極402が素子分離領域上でドレイン電極401と交差する交差部420には、ゲート―ドレイン間の寄生容量が存在する。したがって、メアンダ型FETと同様に、フィンガー長が短いFETではこの交差部420の数が多いため、ゲート―ドレイン間浮遊容量が増大する。したがって、上述のメアンダ型FETを用いた例と同様に、フィンガー長を適当に設定することで、歪特性と挿入損失特性を改善することが出来る。なお、櫛型のゲート電極402がドレイン電極401と交差部を持つのではなく、ソース電極400と交差部を持つ場合、あるいはドレイン電極401およびソース電極400の両方と交差部を持つ場合であっても、上記観点から本発明が有効であることは言うまでも無い。
【0058】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1と異なる点を中心に説明する。実施の形態1と同等の構成、動作および効果は説明を省略する。
【0059】
図5は、本発明の実施の形態2に係る高周波スイッチの回路図である。同図に記載された高周波スイッチ500は、入出力端子101、102および103と、制御端子106および107と、FET510、511、512および513で構成される基本スイッチ部504と、FET520、521、522および523で構成される基本スイッチ部505と、FET530、531、532および533で構成される基本スイッチ部506と、FET540、541、542および543で構成される基本スイッチ部507とを備える。また、電位固定抵抗550の各々は、一端がFETのソース電極に、他端が同一FETのドレイン電極に接続され、各FETの直流電位を固定するために接続される。
【0060】
本実施の形態では、高周波スイッチを構成する多段に接続されたFETのうち、入出力端子103に対する電気的距離が短いFETから順に、徐々にフィンガー長を長くすることを特徴とする。図5に示す高周波スイッチは、単極双投型の高周波スイッチであり、単極双投スイッチ(SPDT)回路として機能する。
【0061】
入出力端子101〜103は、それぞれ、高周波信号を入出力するための第1〜第3の入出力端子であり、例えば、入出力端子101には送信回路が接続され、入出力端子102には受信回路が接続され、入出力端子103にはアンテナが接続される。
【0062】
多段接続されたFET510〜513は、基本スイッチ部504を構成し、入出力端子101と入出力端子103との間に設けられている。同様に、FET520〜523は、基本スイッチ部505を構成し、入出力端子102と入出力端子103との間に設けられている。多段接続されたFET530〜533は、基本スイッチ部506を構成し、入出力端子101と第1の接地端子である接地端子560との間に設けられている。同様に、多段接続されたFET540〜543は、基本スイッチ部507を構成し、入出力端子102と第2の接地端子である接地端子561との間に設けられている。
【0063】
本実施の形態では、基本スイッチ部504および505は、それぞれ、第1および第2のトランスファースイッチとして使用され、基本スイッチ部506および507は、それぞれ、第1および第2のシャントスイッチとして使用される。
【0064】
以下、本実施の形態に係る高周波スイッチ500において、入出力端子101から入出力端子103に高周波信号を伝送する場合を例に、その動作を説明する。第1の制御端子である制御端子106にはオン電圧が、第2の制御端子である制御端子107にはオフ電圧が印加される。このとき、基本スイッチ部504を構成するFET510〜513および基本スイッチ部507を構成するFET540〜543は導通状態となり、基本スイッチ部505を構成するFET520〜523および基本スイッチ部506を構成するFET530〜533は遮断状態となる。すなわち、入出力端子101と入出力端子103との間および入出力端子102と接地端子561との間は短絡状態となり、入出力端子102と入出力端子103との間および入出力端子101と接地端子560との間は開放状態となり、入出力端子101から入力された高周波信号は、入出力端子103に伝送される。なお、基本スイッチ部507は、入出力端子102への高周波信号の漏洩を防止する観点から導通状態となり、シャントスイッチとして機能する。このとき、前述したように、遮断状態にあるFETのうち、入出力端子103から電気的距離がより短い位置に接続されたFETで発生した高調波歪ほど、その影響が顕著となる。したがって、多段に接続されたFET520〜523およびFET530〜533のうち、それぞれ入出力端子103から電気的距離がより短い位置にあるFETほどフィンガー長を短くすることで、歪特性を改善することが出来る。すなわち、基本スイッチ部505においてはFET520、FET521、FET522、FET523の順に(FET520のフィンガー長が最小となるように)フィンガー長を徐々に長くすればよく、基本スイッチ部506においてはFET530、FET531、FET532、FET533の順に(FET530のフィンガー長が最小となるように)フィンガー長を徐々に長くすればよい。
【0065】
なお、上記説明では、高周波スイッチ500において、入出力端子101から入出力端子103に高周波信号を伝送する場合を例に動作を説明したが、入出力端子102から入出力端子103に高周波信号を伝送する場合も同様に考えることができる。すなわち、歪特性を改善するには、基本スイッチ部504においてはFET513、FET512、FET511、FET510の順に(FET513のフィンガー長が最小となるように)フィンガー長を徐々に長くすればよく、基本スイッチ部507においてはFET540、FET541、FET542、FET543の順に(FET540のフィンガー長が最小となるように)フィンガー長を徐々に長くすればよい。
【0066】
本実施の形態に係る高周波スイッチ500は、実施の形態1に係る高周波スイッチ100に比べ、直列に接続したFETのフィンガー長を個別に最適化することで、高調波歪の発生を、より抑制することが出来る。また、フィンガー長を短くすることで配線抵抗が減少し、挿入損失が改善する付帯的効果に関しても同様に得られる。
【0067】
また、本実施の形態で例示したように、本発明はトランスファースイッチ、シャントスイッチを問わず適用可能である。すなわち、トランスファースイッチの場合、遮断状態のときに高周波信号電力が印加される側の入出力端子を遮断時活性端子と定義したとき、その遮断時活性端子から電気的距離がより短い位置にあるFETほどフィンガー長を短くすることで、歪特性を改善することが出来る。また、シャントスイッチの場合、入出力端子から電気的距離がより短い位置にあるFETほどフィンガー長を短くすることで、歪特性を改善することが出来る。なお、本実施例では全ての基本スイッチ部において本発明を適用したが、一部の基本スイッチ部にのみ適用してもよい。
【0068】
さらに、本実施の形態では、本発明に係るFETをトランスファースイッチとシャントスイッチの両方に適用する一例として単極双投スイッチ(SPDT)回路を例示したが、回路トポロジーはこれに限定されない。すなわち、本発明に係るトランスファースイッチおよびシャントスイッチを任意に組み合わせることで、種々の回路トポロジーを持った高周波スイッチに展開可能である。
【0069】
また、さらに、多段に接続されたFETにおいて、各FETのフィンガー長を必ずしも異にする必要は無く、同一フィンガー長のFETが存在してもよい。すなわち、トランスファースイッチの場合、遮断時活性端子側から数えてi番目(iは1以上n以下の整数)のFETのフィンガー長をFL(i)としたとき、(式1)が成立すれば本発明の効果を得ることができる。
【0070】
FL(1) < FL(2)≦ … ≦ FL(n−1)≦ FL(n) … (式1)
【0071】
また、シャントスイッチの場合、入出力端子側から数えてi番目(iは1以上n以下の整数)のFETのフィンガー長をFL(i)としたとき、(式2)が成立すれば本発明の効果を得ることができる。
【0072】
FL(1) < FL(2)≦ … ≦ FL(n−1)≦ FL(n) … (式2)
【0073】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1と異なる点を中心に説明する。実施の形態1と同等の構成、動作および効果は説明を省略する。
【0074】
図6は、本発明の実施の形態3に係る高周波スイッチの回路図である。同図に記載された高周波スイッチ600は、入出力端子101、102および103と、第2の制御端子106および107と、FET610および611で構成される基本スイッチ部604と、FET620および621で構成される基本スイッチ部605とを備える。
【0075】
本実施の形態では、高周波スイッチ600を構成するFETに、ソース電極とドレイン電極との間に少なくとも2本のゲート電極を有するマルチゲート型FETを用いることを特徴とする。図6に示す高周波スイッチは、単極双投スイッチ(SPDT)回路として機能する。
【0076】
入出力端子101〜103は、高周波信号を入出力するための端子であり、例えば、入出力端子101には送信回路が接続され、入出力端子102には受信回路が接続され、入出力端子103にはアンテナが接続される。
【0077】
多段接続されたFET610および611は、基本スイッチ部604を構成し、入出力端子101と入出力端子103との間に設けられている。同様に、FET620および621は、基本スイッチ部605を構成し、入出力端子102と入出力端子103との間に設けられている。
【0078】
基本スイッチ部604および605は、トランスファースイッチとして使用される。
【0079】
図6に記載された高周波スイッチ600の動作は、実施の形態1に係る高周波スイッチ100と同様である。高調波歪特性を改善するには、多段に接続されたFET610および611、ならびに、FET620および621のうち、それぞれ、入出力端子103から電気的距離が短い位置にあるFETのフィンガー長を短くすればよい。すなわち、基本スイッチ部604においてはFET611のフィンガー長を短くし、基本スイッチ部605においてはFET620のフィンガー長を短くすればよい。
【0080】
一般に、小型化や挿入損失等の改善のために、図6に示されるようなマルチゲートFETを用いて高周波スイッチを構成することがある。本発明はこのような高周波スイッチにも適用可能である。
【0081】
なお、本実施の形態では、ソース―ドレイン間のゲート本数が2本の場合を例示したが、ゲート本数に依らず、本発明の効果が得られる事は言うまでも無い。また、マルチゲートFETの種類には特に制限はなく、例えば各ゲート間に半導体層の電位を固定するための導電層を具備したFETでもよい。
【0082】
(実施の形態4)
携帯電話機などの移動体通信端末では、消費電力を低減するために、基地局との距離に応じて増幅器の出力電力が制御されている。すなわち、増幅器の出力電力は基地局が近距離の場合は低く、遠距離の場合は高く制御される。ところで、増幅器は理論的に出力電力によって効率が変動するため、全ての出力電力に対して最大効率を得る事はできない。
【0083】
高い効率が得られる出力電力レンジを拡大する手段として、出力電力に応じて使用する増幅器を切り換える技術が知られている。本実施の形態は、このような切り換え型増幅器に対して本発明に係るスイッチング素子を適用した形態である。
【0084】
図7は、本発明の実施の形態4に係る高周波モジュールのブロック図である。同図に記載された高周波モジュール700は、入力端子701と、出力端子702と、電源端子703と、増幅器704および705と、本発明に係る高周波スイッチ706および707と、整合回路708および709と、電源回路710とを備える。
【0085】
高周波スイッチ706は、第1入力端子、第1出力端子及び第2出力端子を備える1入力2出力のSPDT回路であり、第1入力端子は第1端子である入力端子701に接続され、第1出力端子は整合回路708を介し第1の増幅器である増幅器704の入力端に接続され、第2出力端子は整合回路709を介し第2の増幅器である増幅器705の入力端に接続された第1の高周波スイッチである。
【0086】
高周波スイッチ707は、第2入力端子、第3入力端子及び第3出力端子を備える2入力1出力のSPDT回路であり、第3出力端子は第2端子である出力端子702に接続され、第2入力端子は増幅器704の出力端に接続され、第3入力端子は増幅器705の出力端に接続された第2の高周波スイッチである。
【0087】
整合回路708および709はインピーダンスの整合をとり、それぞれ、増幅器704および705の出力および効率を調整するために装荷される。
【0088】
電源回路710は、電源端子703に印加される電源電圧を増幅器704および705の動作に適したバイアスに変換するために設けられている。
【0089】
増幅器704および705は、それぞれ、異なる出力電力で最大効率が得られるように設計されている。ここでは、増幅器704は低出力時に、また、増幅器705は高出力時に最大効率が得られるように設計された場合を例に説明する。このとき、低出力時は増幅器704が動作状態かつ増幅器705が休止状態となり、高周波スイッチ706は第1入力端子と第1出力端子とが導通状態となっており、高周波スイッチ707は第2入力端子と第3出力端子とが導通状態となっている。一方、高出力時は増幅器704が休止状態かつ増幅器705が動作状態となり、高周波スイッチ706は第1入力端子と第2出力端子とが導通状態となっており、高周波スイッチ707は第3入力端子と第3出力端子とが導通状態となっている。このような構成とすることで、広い出力電力レンジで高い効率を実現することが出来る。
【0090】
つまり、高周波モジュール700は、増幅器704および705が排他的に動作し、増幅器704の動作中には、高周波スイッチ706の第1入力端子と第1出力端子とが導通状態となり、かつ、高周波スイッチ707の第2入力端子と第3出力端子とが導通状態となり、一方、増幅器705の動作中には、高周波スイッチ706の第1入力端子と第2出力端子とが導通状態となり、かつ、高周波スイッチ707の第3入力端子と第3出力端子とが導通状態となるように制御される。
【0091】
そして、高周波スイッチ706および707は、例えば、それぞれ、実施の形態2に係る高周波スイッチ500で構成されている。
【0092】
上述の通り、本発明はアンテナと内部回路の間に装荷される高周波スイッチのみでなく、このような内部回路における経路切り替え用の高周波スイッチにおいても好適である。本発明を適用することで、高調波歪特性の改善や増幅器の効率向上に寄与する。
【0093】
なお、上述した高周波モジュール700の構成は、本発明に係る高周波スイッチの適用例を例示したものであり、本発明が上記構成に限定されるわけではない。例えば、増幅器の段数や高周波スイッチおよび整合回路の結線、個数などは適宜変更してもよい。さらに、例えば通信方式ごとに増幅器を切り替える高周波モジュールにおける経路切り換え用高周波スイッチにも適用可能である。またさらに、アンテナと送受信回路を切り替える高周波スイッチと、送信信号を増幅する増幅器や受信信号を増幅する増幅器とで構成されるような高周波モジュールであっても、本発明を適用可能であることは言うまでも無い。
【0094】
以上、本発明の高周波スイッチおよび高周波モジュールについて、実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明に係る高周波スイッチおよび高周波モジュールは、上記実施の形態1〜4に限定されるものではない。実施の形態1〜4における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施の形態や、実施の形態1〜4に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例や、本発明に係る高周波スイッチおよび高周波モジュールを内蔵した各種機器も本発明に含まれる。
【0095】
なお、実施の形態1〜4では、トランスファースイッチの場合には遮断時活性端子、また、シャントスイッチの場合には入出力端子に最近接のFETのフィンガー長を最短にする一例を挙げたが、本発明はこのようなFETの構成に制限されない。上記スイッチ内において、多段に接続された複数のFETのフィンガー長を均一とするのではなく、多段に接続された複数のFETのうち2つのFETにおいて、入出力端子に近い一方のFETのフィンガー長が、当該一方のFETよりも入出力端子に遠い他方のFETのフィンガー長よりも短いという関係を設定することで、高周波スイッチの歪特性を改善するという効果が奏される。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、移動体通信機器の高周波フロントエンドモジュール、または、当該モジュール等に用いられる高周波スイッチに適用できる。
【符号の説明】
【0097】
100、500、600、706、707、800 高周波スイッチ
101、102、103、801、802、803 入出力端子
104、105、504、505、506、507、604、605、804、805 基本スイッチ部
106、107、806、807 制御端子
110、111、112、113、120、121、122、123、510、511、512、513、520、521、522、523、530、531、532、533、540、541、542、543、610、611、620、621、810、811、812、813、820、821、822、823 FET
131、831 抵抗素子
400、900 ソース電極
401、901 ドレイン電極
402、902 ゲート電極
410、910 素子分離領域
420 交差部
430、930 フィンガー長
550 電位固定抵抗
560、561 接地端子
701 入力端子
702 出力端子
703 電源端子
704、705 増幅器
708、709 整合回路
710 電源回路
920 屈曲部
921 共通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を入出力するための複数の入出力端子と、
前記複数の入出力端子の1つと接地端子との間、あるいは、前記複数の入出力端子のうちの2つの入出力端子の間に設けられた基本スイッチ部と、
前記基本スイッチ部の導通および遮断を制御するための制御電圧が入力される制御端子とを備え、
前記基本スイッチ部は、メアンダ形状または櫛形状のゲート電極を有するメアンダ型または櫛型の電界効果トランジスタが多段に接続されており、
前記基本スイッチ部の有する複数の前記電界効果トランジスタのうち、一の電界効果トランジスタのフィンガー長は、前記基本スイッチ部の一端に接続された前記入出力端子との電気的距離が、前記入出力端子と前記一の電界効果トランジスタとの電気的距離より長い位置にある他の電界効果トランジスタのフィンガー長よりも短い
高周波スイッチ。
【請求項2】
前記複数の入出力端子の一つと接地端子との間に設けられた前記基本スイッチ部は、
直列に接続された複数のメアンダ型または櫛型の前記電界効果トランジスタと、
一端がいずれかの前記電界効果トランジスタのゲート電極に接続され、他端が前記制御端子に接続された複数の抵抗素子とを備え、
前記複数の入出力端子の一つと接地端子との間に設けられた前記基本スイッチ部の有する複数の前記電界効果トランジスタのうち、前記基本スイッチ部の一端に接続された前記入出力端子から電気的距離が最短の位置にある電界効果トランジスタのフィンガー長は、前記入出力端子から電気的距離がより長い位置にある残余の前記電界効果トランジスタのフィンガー長よりも短い
請求項1に記載の高周波スイッチ。
【請求項3】
前記複数の入出力端子の一つと接地端子との間に設けられた前記基本スイッチ部は、直列に接続されたn個(nは2以上の整数)の前記電界効果トランジスタを備え、
前記基本スイッチ部の一端に接続された前記入出力端子から数えてi番目(iは1以上n以下の整数)の前記電界効果トランジスタのフィンガー長をFL(i) としたとき、
FL(1) < FL(2)≦ … ≦ FL(n−1)≦ FL(n)
を満たす
請求項2に記載の高周波スイッチ。
【請求項4】
前記複数の入出力端子のうちの2つの入出力端子の間に設けられた前記基本スイッチ部は、
直列に接続された複数のメアンダ型または櫛型の前記電界効果トランジスタと、
一端がいずれかの前記電界効果トランジスタのゲート電極に接続され、他端が前記制御端子に接続された複数の抵抗素子とを備え、
前記複数の入出力端子のうちの2つの入出力端子の間に設けられた前記基本スイッチ部が遮断状態であるときに、前記2つの入出力端子のうち信号電力が印加される側の入出力端子を遮断時活性端子とするとき、前記基本スイッチ部の有する複数の前記電界効果トランジスタのうち、前記遮断時活性端子から電気的距離が最も短い位置にある電界効果トランジスタのフィンガー長は、前記遮断時活性端子から電気的距離がより長い位置にある残余の前記電界効果トランジスタのフィンガー長よりも短い
請求項1に記載の高周波スイッチ。
【請求項5】
前記複数の入出力端子のうちの2つの入出力端子の間に設けられた前記基本スイッチ部は、直列接続されたn個(nは2以上の整数)の電界効果トランジスタを備え、
前記遮断時活性端子から数えてi番目(iは1以上n以下の整数)の前記電界効果トランジスタのフィンガー長をFL(i)としたとき、
FL(1) < FL(2)≦ … ≦ FL(n−1)≦ FL(n)
を満たす
請求項4に記載の高周波スイッチ。
【請求項6】
請求項2または3に記載の、前記複数の入出力端子の一つと接地端子との間に設けられた前記基本スイッチ部と、請求項4または5に記載の、前記複数の入出力端子のうちの2つの入出力端子の間に設けられた前記基本スイッチ部とが任意に組み合わされ、前記複数の入出力端子間で任意に高周波信号の流れが切り替わるように構成された
高周波スイッチ。
【請求項7】
第1〜第3の入出力端子と、
第1および第2の接地端子と、
第1および第2の制御端子と、
前記第1の入出力端子と前記第3の入出力端子との間に接続された第1のトランスファースイッチと、
前記第2の入出力端子と前記第3の入出力端子との間に接続された第2のトランスファースイッチと、
前記第1の入出力端子と前記第1の接地端子との間に接続された第1のシャントスイッチと、
前記第2の入出力端子と前記第2の接地端子との間に接続された第2のシャントスイッチとを備え、
前記第1のトランスファースイッチと前記第2のシャントスイッチとが、前記第1の制御端子から入力される第1の制御信号によって同時に導通または遮断され、前記第2のトランスファースイッチと前記第1のシャントスイッチとが、前記第2の制御端子から入力される第2の制御信号によって同時に導通または遮断されることで、前記第1および第3の入出力端子間の高周波信号経路と、前記第2および第3の入出力端子間の高周波信号経路とが排他的に形成される単極双投型の高周波スイッチであって、
前記第1および第2のトランスファースイッチは、請求項4または5に記載の、前記複数の入出力端子のうちの2つの入出力端子の間に設けられた前記基本スイッチ部により形成され、
前記第1および第2のシャントスイッチは、請求項2または3に記載の、前記複数の入出力端子の一つと接地端子との間に設けられた前記基本スイッチ部により形成される
高周波スイッチ。
【請求項8】
前記電界効果トランジスタは、ソース電極とドレイン電極との間に少なくとも2本のゲート電極を有するマルチゲート型電界効果トランジスタである
請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の高周波スイッチ。
【請求項9】
高周波信号が入力される第1端子と、
増幅された高周波信号を出力する第2端子と、
高周波信号を増幅する第1の増幅器と、
高周波信号を増幅する第2の増幅器と、
第1入力端子、第1出力端子及び第2出力端子を備え、前記第1入力端子が前記第1端子に接続され、前記第1出力端子が前記第1の増幅器の入力端に接続され、前記第2出力端が前記第2の増幅器の入力端に接続された第1の高周波スイッチと、
第2入力端子、第3入力端子及び第3出力端子を備え、前記第3出力端子が前記第2端子に接続され、前記第2入力端子が前記第1の増幅器の出力端に接続され、前記第3入力端子が前記第2の増幅器の出力端に接続された第2の高周波スイッチとを備え、
前記第1および第2の増幅器は排他的に動作し、前記第1の増幅器の動作中には、前記第1の高周波スイッチの前記第1入力端子と前記第1出力端子とが導通状態となり、かつ、前記第2の高周波スイッチの前記第2入力端子と前記第3出力端子とが導通状態となり、一方、前記第2の増幅器の動作中には、前記第1の高周波スイッチの前記第1入力端子と前記第2出力端子とが導通状態となり、かつ、前記第2の高周波スイッチの前記第3入力端子と前記第3出力端子とが導通状態となるように制御される、高周波信号を増幅する高周波モジュールであって、
前記第1および第2の高周波信号スイッチの少なくとも一方は、請求項1〜8のうちいずれか1項に記載の高周波スイッチで構成される
高周波モジュール。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−104615(P2012−104615A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251336(P2010−251336)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】