説明

高周波用半導体素子、高周波用半導体素子形成用のエピタキシャル基板、および高周波用半導体素子形成用エピタキシャル基板の作製方法

【課題】コストメリットがあり、かつ、特性の優れた高周波動作用の半導体素子を実現できるエピタキシャル基板を提供する。
【解決手段】導電性を有するSiCからなる基材の上に、バナジウムをドープすることによって比抵抗が1×106Ωcm以上の絶縁性を有するSiCからなる絶縁層を形成して、下地基板を得る。該下地基板の上に、AlNからなるバッファ層と、GaNからなるチャネル層と、AlxInyGazN(x+y+z=1)からなる障壁層とをエピタキシャル形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体により構成される高周波用半導体素子形成用のエピタキシャル基板、および該基板を用いて作製される高周波用半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体は、高い絶縁破壊電界、高い飽和電子速度を有することから次世代の高周波/ハイパワーデバイス用半導体材料として注目されている。特に、AlGaNとGaNからなる層を積層することにより形成した多層構造体には、窒化物材料特有の大きな分極効果(自発分極効果とピエゾ分極効果)により積層界面(ヘテロ界面)に高濃度の二次元電子ガス(2DEG)が生成するという特徴があることから、係る多層構造体を基板として利用した高電子移動度トランジスタ(HEMT)の開発が活発に行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
携帯電話基地局などのように、大電力・高周波(100W以上、2GHz以上)という条件の下で動作させるHEMTの場合、発熱によるデバイスの温度上昇を抑制するため、極力熱抵抗の低い材料を用いて作製することが望まれる。一方、高周波動作を行わせるHEMTの場合は、寄生容量を極力抑制する必要があることから、絶縁性の高い材料を用いて作製すること望まれる。窒化物半導体を用いてこれらの要件をみたすデバイスを作製する場合、良好な窒化物膜を成長できることもあり、1×108Ωcm以上という高い比抵抗を有する、いわゆる絶縁性SiC基板が下地基板として用いられる。
【0004】
一方、導電性SiC基板に、HVPE法(ハイドライド気相成長法)やMOCVD法などにて絶縁性のAlN膜を堆積し、これを下地基板として用いることも提案されている(例えば、非特許文献2および特許文献1参照)。
【0005】
【非特許文献1】"Highly Reliable 250W GaN High Electron Mobility Transistor Power Amplifier", T. Kikkawa, Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 44, No. 7A, 2005, pp. 4896-4901.
【非特許文献2】"A 100-W High-Gain AlGaN/GaN HEMT Power Amplifier on a Conductive N-SiC Sustrate for Wireless Bass Station Applications", M. Kanamura, T. Kikkawa, and K. Joshin, Tech. Dig. of 2004 IEEE International Electron Device Meeting (IEDM2008), pp.799-802
【特許文献1】特開2002−359255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半絶縁性SiC基板は、基板自体が高価であるという問題がある。他方、比較的安価な導電性SiC基板を用いた場合、基板の寄生容量が大きくなるため高周波動作に支障をきたすという問題がある。
【0007】
また、非特許文献2に開示されている手法では、下地基板を得るにあたってAlN膜を10μmという大きな厚みで形成する必要があるために、結晶成長手法としてHVPE法が採用されている。しかしながらHVPE法を採用した場合、AlN膜の結晶品質(転位密度など)を基板全面で均一に制御することが困難であるため、下地基板の表面における結晶品質に不均一が生じやすい。このような結晶品質に不均一のある下地基板の上にIII族窒化物膜を形成してHEMTを作製した場合に、係る窒化物膜においても面内で結晶品質にばらつきが生じ、ひいては面内で特性バラツキが生じてしまうことになる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、コストメリットがあり、かつ、特性の優れた高周波動作用の半導体素子を実現できるエピタキシャル基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、SiCからなる下地基板と、前記下地基板の上にエピタキシャル形成された、AlNからなるバッファ層と、前記バッファ層の上にエピタキシャル形成された、GaNからなるチャネル層と、前記チャネル層の上にエピタキシャル形成された、AlxInyGazN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)からなる障壁層と、前記障壁層の上に形成されたゲート電極、ソース電極、およびドレイン電極と、を備え、前記下地基板が、導電性を有するSiCからなる基材の上に、SiCからなり、比抵抗が1×106Ωcm以上の絶縁性を有する絶縁層を形成したものである、ことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の高周波用半導体素子であって、前記絶縁層が絶縁化元素を含有することにより絶縁性を有する、ことを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載の高周波用半導体素子であって、前記絶縁化元素がバナジウムである、ことを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、SiCからなる下地基板と、前記下地基板の上にエピタキシャル形成された、AlNからなるバッファ層と、前記バッファ層の上にエピタキシャル形成された、GaNからなるチャネル層と、前記チャネル層の上にエピタキシャル形成された、AlxInyGazN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)からなる障壁層と、を備え、前記下地基板が、導電性を有するSiCからなる基材の上に、SiCからなり、比抵抗が1×106Ωcm以上の絶縁性を有する絶縁層を形成したものである、ことを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項4に記載のエピタキシャル基板であって、前記絶縁層が絶縁化元素を含有することにより絶縁性を有する、ことを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項5に記載のエピタキシャル基板であって、前記絶縁化元素がバナジウムである、ことを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、導電性を有するSiCからなる基材の上に、SiCからなり、比抵抗が1×106Ωcm以上の絶縁性を有する絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記絶縁層の上に、AlNからなるバッファ層をエピタキシャル形成するバッファ層形成工程と、前記バッファ層の上に、GaNからなるチャネル層をエピタキシャル形成するチャネル層形成工程と、前記チャネル層の上に、AlxInyGazN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)からなる障壁層をエピタキシャル形成する障壁層形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項8の発明は、請求項7に記載のエピタキシャル基板の作製方法であって、前記絶縁層形成工程が絶縁化元素を含有する前記絶縁層を気相エピタキシャル成長させる工程である、ことを特徴とする。
【0017】
請求項9の発明は、請求項8に記載のエピタキシャル基板の作製方法であって、前記絶縁層形成工程が、原料ガスとして塩化バナジウムを用いることにより、前記絶縁化元素としてバナジウムを含有させる工程である、ことを特徴とする。
【0018】
請求項10の発明は、請求項8に記載のエピタキシャル基板の作製方法であって、前記絶縁層形成工程が、原料ガスとして有機金属バナジウム化合物を用いることにより、前記絶縁化元素としてバナジウムを含有させる工程である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1ないし請求項10の発明によれば、絶縁性のSiC基板を用いて作製したものと同程度に寄生容量が抑制された半導体素子が実現される。これにより、価格の高い絶縁性のSiC基板を用いる場合よりも低コストにて、高周波動作に適した半導体素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係るエピタキシャル基板10を含んで構成される半導体素子の一態様としての、HEMT素子20の断面構造を模式的に示す図である。エピタキシャル基板10は、基材1の上に、絶縁層2と、それぞれがIII族窒化物半導体層であるバッファ層3とチャネル層4と障壁層5とをエピタキシャル形成してなる構成を有する。なお、以降において、基材1の上に絶縁層2を形成したものを、下地基板と称することがある。また、チャネル層4と障壁層5とを機能層と総称することがある。
【0021】
さらに、HEMT素子20においては、エピタキシャル基板10の上に(障壁層5の上に)ソース電極6とドレイン電極7とゲート電極8とが設けられてなる。なお、図1における各層の厚みの比率は、実際のものを反映したものではない。
【0022】
基材1としては、導電性のSiCの単結晶基板を用いる。例えば、n導電型を呈し、比抵抗が0.1Ωcmから1Ωcm程度の4H−SiC基板を用いるのが好適な一例である。基材1の厚みには特段の材質上の制限はないが、取り扱いの便宜上、数百μm〜数mmの厚みのものが好適である。
【0023】
絶縁層2は、数μm〜数十μm程度(例えば10μm程度)の厚みに形成された、絶縁性を有する層である。なお、本実施の形態において、絶縁性を有するとは、比抵抗が1×106Ωcm以上であることを意味する。係る絶縁層2は、SiCに所定の不純物元素を意図的に添加することにより、絶縁性が確保された層である。本実施の形態においては、この意図的に添加される不純物元素を、絶縁化元素と称することとする。詳細に言えば、この絶縁化元素の意図的な添加によって、禁制帯内にいわゆる深い準位が形成され、絶縁層2内に残留不純物などにより生成するキャリアが補償される。これにより、元来はワイドバンドギャップ半導体であるSiCが、半絶縁化される。絶縁化元素が高濃度で添加されるほど、SiC層における絶縁化の効果は高められるので、絶縁層2においては、少なくとも上述の比抵抗の要件をみたすだけの濃度の絶縁化元素が、添加されてなる。なお、仮に、絶縁化元素のドープを行わずに基材1の上にSiC層を形成した場合、該SiC層はn型の導電型を呈することになる。
【0024】
絶縁化元素としては、バナジウムを用いるのが好適な一例である。この場合、価電子帯からおよそ1.6eV程度の位置に深い準位が形成される。バナジウムのSiCに対する固溶限界は3×1017/cm3程度であるため、絶縁化元素としてバナジウムを用いる場合の濃度は係る固溶限界以下とする必要がある。従って、バナジウムのドーピング範囲としては、1×1017/cm3〜3×1017/cm3程度とするのが効果的である。
【0025】
このような絶縁化元素を含有する絶縁層2は、熱CVD法を用いて形成されるのが好適な一例である。具体的には、SiCl4やCH4などの原料ガスや絶縁化元素の原料ガスを、N2、H2、ArやHeなどのキャリアガスともどもリアクタ内に供給可能に構成されてなる公知の熱CVD装置を用いて形成される。なお、絶縁化元素としてバナジウムを採用する場合は、塩化バナジウムやTDMAV(テトラキスジメチルアミノバナジウム、V[N(CH324)などの有機金属バナジウム化合物などが、原料ガスとして用いられる。リアクタ内に基材1を保持し、あらかじめ定められた絶縁層形成温度に該基材1を加熱した状態で、原料ガスをキャリアガスともども所定の供給比で供給することで、絶縁層2が形成される。
【0026】
上述のように絶縁層2が形成された下地基板は、絶縁性のSiC基板と同等に取り扱うことができる。加えて、係る下地基板には、絶縁性のSiC基板よりも低コストで得られる、という利点もある。本実施の形態に係るエピタキシャル基板10およびHEMT素子20は、係る下地基板の上にバッファ層3以降の層を積層形成している点で特徴的であるといえる。
【0027】
バッファ層3は、AlNにて、数百nm程度(例えば200nm程度)の厚みに形成される層である。バッファ層3は、その上に形成されるチャネル層4および障壁層5の結晶品質を良好なものとするために設けられる層である。
【0028】
チャネル層4は、GaNにて、数μm程度(例えば2μm程度)の厚みに形成される層である。
【0029】
障壁層5は、AlxInyGazN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)なる組成のIII族窒化物にて、数十nm以下(例えば25nm程度)の厚みに形成される層である。障壁層5は、例えば、Al0.2Ga0.8Nにて形成されるのが好適な一例である。
【0030】
バッファ層3と、チャネル層4と、障壁層5とはいずれも、MOCVD法(有機金属化学的気相成長法)を用いてエピタキシャル形成される。具体的には、In、Al、Gaについての有機金属(MO)原料ガス(TMI、TMA、TMG)と、アンモニアガスと、水素ガスと、窒素ガスとをリアクタ内に供給可能に構成されてなる公知のMOCVD炉を用いたエピタキシャル成長が行われる。すなわち、該リアクタ内に設けられたサセプタの上に下地基板を載置し、あらかじめ定められたバッファ層形成温度に該下地基板を加熱した状態で、TMAとアンモニアガスとをそれぞれキャリアガスともども所定の供給比で供給することで、バッファ層3が形成される。チャネル層4についても、あらかじめ定められたチャネル層形成温度に該下地基板を加熱した状態で、TMGとアンモニアガスとをそれぞれキャリアガスともども所定の供給比で供給することで、形成される。さらに、障壁層5については、チャネル層4の形成後、形成しようとする障壁層5の組成等に応じて形成温度を設定し、当該組成に応じたガスを供給することによって、形成することが出来る。
【0031】
このようにして得られるチャネル層4の転位密度は、1×108/cm2以下であり、障壁層5の表面平坦性は0.5nm以下である。すなわち、MOCVD法を用いることで、良好な結晶品質を有する機能層の形成が実現される。
【0032】
なお、本実施の形態においては、SiCにて絶縁層2を形成した下地基板の上に、III族窒化物からなるバッファ層3さらには機能層を形成するようにしている。これは、III族窒化物に対して良好な格子整合性を示すSiC結晶の上にIII族窒化物結晶を形成している点において、SiC基板の上に直接にバッファ層3さらには機能層を形成する場合と同じである。このことも、III族窒化物からなる機能層が、良好な結晶品質にて作製されてなる理由の一つである。
【0033】
ソース電極6とドレイン電極7とは、それぞれに十数nm〜百数十nm程度の厚みを有するTi/Al/Ni/Auからなる多層金属電極である。ソース電極6およびドレイン電極7は、障壁層5との間にオーミック性接触を有してなる。ソース電極6およびドレイン電極7は、真空蒸着法とフォトリソグラフィプロセスとにより形成されるのが好適な一例である。なお、両電極のオーミック接触性を向上させるために、電極形成後、650℃〜1000℃の間の所定温度(例えば850℃)の窒素ガス雰囲気中において数十秒間(例えば30秒間)の熱処理を施すのが好ましい。
【0034】
ゲート電極8は、それぞれに十数nm〜百数十nm程度の厚みを有するPd/Auからなる多層金属電極である。ゲート電極8は、障壁層5との間にショットキー性接触を有してなる。ゲート電極8は、真空蒸着法とフォトリソグラフィプロセスとにより形成されるのが好適な一例である。
【0035】
このような構成を有するHEMT素子20においては、チャネル層4と障壁層5の界面がヘテロ接合界面となるので、自発分極効果とピエゾ分極効果により、当該界面に(より詳細には、チャネル層4の当該界面近傍に)二次元電子ガスが高濃度に存在する二次元電子ガス領域が形成される。
【0036】
係るHEMT素子20においては、ゲート・ソース電極間の寄生容量が、導電性SiC基板を下地基板に用いて同様に作製したHEMT素子の約1/500程度となり、絶縁性SiC基板を下地基板に用いて作製したHEMT素子と同程度の値となる。すなわち、HEMT素子20は、高周波動作に適したものとなっている。
【0037】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、導電性SiC基板の上に絶縁性のSiC層を形成したうえで機能層を形成してなるエピタキシャル基板を用いて、半導体素子を形成するようにすることで、絶縁性のSiC基板を用いて作製したものと同程度に寄生容量が抑制された半導体素子が実現される。これにより、価格の高い絶縁性のSiC基板を用いる場合よりも低コストにて、高周波動作に適した半導体素子を得ることができる。
【0038】
なお、絶縁層の具体的構成態様は、上述した絶縁化元素のドープに限られない。同様の絶縁性を確保できるのであれば、他の態様にて絶縁層が形成されてもよい。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
本実施例では、HEMT素子20を作製した。まず、基材1として、n型の導電性を呈する、2インチ径で(0001)面方位の4H−SiC基板を用意した。なお、係るSiC基板の比抵抗は、0.1Ωcmであった。
【0040】
係る基材1を熱CVD装置のリアクタ内に載置し、リアクタ圧力10kPaとし、1550℃にまで加熱したうえで、ケイ素原料ガスとしてのSiCl4ガスと、炭素原料ガスとしてのCH4ガスと、バナジウム原料ガスとしての塩化バナジウムガスとを、それぞれ所定の流量にてキャリアガスであるH2ともどもリアクタ内に導入することで、SiC層を形成した。なお、SiC層の目標膜厚は9μm〜12μmの範囲とした。また、塩化バナジウムガスは、SiC層内のバナジウム濃度が1×1017/cm3となるように、その流量を調整した。これにより、下地基板が得られた。
【0041】
得られた下地基板について、比抵抗を測定したところ、場所によりばらつきがあったが、最も比抵抗が低い部位であっても1×106Ωcm以上であった。これにより、SiC層は絶縁性を有する層として形成されていることが確認された。
【0042】
得られた下地基板を、MOCVD炉リアクタ内に設置し、真空ガス置換した後、リアクタ内圧力を30kPaとし、水素/窒素混合フロー状態の雰囲気を形成した。次いで、サセプタ加熱によって基板を昇温した。
【0043】
サセプタ温度が1050℃に達すると、Al原料ガスとアンモニアガスをリアクタ内に導入し、バッファ層3として厚さ200nmのAlN層を形成した。
【0044】
続いて、サセプタ温度を、チャネル層形成温度である1100℃に保ち、TMGガスとアンモニアガスとを所定の流量比でリアクタ内に導入し、チャネル層4としてのGaN層を2μmの厚みに形成した。
【0045】
チャネル層4が得られると、サセプタ温度を、障壁層形成温度である1100℃に引き続き保ち、リアクタ圧力を10kPaとした。次いで有機金属原料ガスとアンモニアガスとを該目標組成に応じた流量比でリアクタ内に導入し、障壁層5としてのAl0.2Ga0.8N層を25nmの厚みを有するように形成した。なお、有機金属原料のバブリング用ガスおよびキャリアガスには、全て水素ガスを用いた。また、V/III比は5000とした。
【0046】
障壁層5が形成された後、サセプタ温度を室温付近まで降温し、リアクタ内を大気圧に復帰させた後、リアクタを大気開放して、作製されたエピタキシャル基板10を取り出した。
【0047】
次に、このエピタキシャル基板10を用いてHEMT素子20を作製した。なお、HEMT素子は、ゲート幅が1mm、ソース−ゲート間隔が0.5μm、ゲート−ドレイン間隔が7.5μm、ゲート長が1.5μmとなるように設計した。
【0048】
また、パッシベーション膜としてエピタキシャル基板10の上に厚さ100nmのSiN4膜を形成し、続いてフォトリソグラフィを用いてソース電極6、ドレイン電極7の形成予定箇所のSiO2膜をエッチング除去することで、SiO2パターン層を得た。
【0049】
ソース電極6、ドレイン電極7は、真空蒸着法とフォトリソグラフィプロセスとを用い、それぞれの形成予定箇所にTi/Al/Ni/Au(それぞれの膜厚は25/75/15/100nm)からなる金属パターンを形成することにより得た。次いで、ソース電極6およびドレイン電極7のオーミック性を良好なものにするために、800℃の窒素ガス雰囲気中にて30秒間の熱処理を施した。
【0050】
また、ゲート電極8は、真空蒸着法とフォトリソグラフィとを用いて、その形成予定箇所に、Pd/Au(それぞれの膜厚は30/100nm)からなるショットキー性金属パターンを形成することにより得た。
【0051】
以上のプロセスにより、HEMT素子20が得られた。
【0052】
得られたHEMT素子20について、ゲート・ソース電極間容量を測定したところ、0.1pFであった。
【0053】
(実施例2)
SiC層の形成に際し、バナジウム原料ガスとして塩化バナジウムに代えてTDMAVを用いたほかは、実施例1と同様にHEMT素子20を作製した。
【0054】
得られたHEMT素子20について、ゲート・ソース電極間容量を測定したところ、0.1pFであった。
【0055】
(比較例1)
実施例1および実施例2で行ったSiC層の形成を行わず、基材1をそのまま下地基板とした他は、実施例1および実施例2と同様にHEMT素子を作製した。
【0056】
得られたHEMT素子20について、ゲート・ソース電極間容量を測定したところ、50pFであった。
【0057】
以上の結果から、実施例1および実施例2のように、絶縁層2を設けることが、HEMT素子の寄生容量を抑制するうえで効果的であることが確認された。
【0058】
(比較例2)
実施例1、実施例2および比較例1で用いた導電性SiC基板の代わりに、比抵抗が1×107Ωcmである2インチ径(0001)面方位の4H−SiC基板を用意した。実施例1および実施例2で行ったSiC層の形成を行わず、該SiC基板をそのまま下地基板とした他は、実施例1および実施例2と同様にHEMT素子を作製した。
【0059】
得られたHEMT素子について、ゲート・ソース電極間容量を測定したところ、0.08pFであった。
【0060】
以上の結果は、実施例1および実施例2に係るエピタキシャル基板を用いることによっても、絶縁性のSiC基板を用いた場合と同程度に寄生容量が低減されることを意味している。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態に係るエピタキシャル基板10を含んで構成される半導体素子の一態様としての、HEMT素子20の断面構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 基材
2 絶縁層
3 バッファ層
4 チャネル層
5 障壁層
6 ソース電極
7 ドレイン電極
8 ゲート電極
10 エピタキシャル基板
20 HEMT素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiCからなる下地基板と、
前記下地基板の上にエピタキシャル形成された、AlNからなるバッファ層と、
前記バッファ層の上にエピタキシャル形成された、GaNからなるチャネル層と、
前記チャネル層の上にエピタキシャル形成された、AlxInyGazN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)からなる障壁層と、
前記障壁層の上に形成されたゲート電極、ソース電極、およびドレイン電極と、
を備え、
前記下地基板が、導電性を有するSiCからなる基材の上に、SiCからなり、比抵抗が1×106Ωcm以上の絶縁性を有する絶縁層を形成したものである、
ことを特徴とする高周波用半導体素子。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波用半導体素子であって、
前記絶縁層が絶縁化元素を含有することにより絶縁性を有する、
ことを特徴とする高周波用半導体素子。
【請求項3】
請求項2に記載の高周波用半導体素子であって、
前記絶縁化元素がバナジウムである、
ことを特徴とする高周波用半導体素子。
【請求項4】
SiCからなる下地基板と、
前記下地基板の上にエピタキシャル形成された、AlNからなるバッファ層と、
前記バッファ層の上にエピタキシャル形成された、GaNからなるチャネル層と、
前記チャネル層の上にエピタキシャル形成された、AlxInyGazN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)からなる障壁層と、
を備え、
前記下地基板が、導電性を有するSiCからなる基材の上に、SiCからなり、比抵抗が1×106Ωcm以上の絶縁性を有する絶縁層を形成したものである、
ことを特徴とする高周波用半導体素子形成用のエピタキシャル基板。
【請求項5】
請求項4に記載のエピタキシャル基板であって、
前記絶縁層が絶縁化元素を含有することにより絶縁性を有する、
ことを特徴とする高周波用半導体素子形成用のエピタキシャル基板。
【請求項6】
請求項5に記載のエピタキシャル基板であって、
前記絶縁化元素がバナジウムである、
ことを特徴とする高周波用半導体素子形成用のエピタキシャル基板。
【請求項7】
導電性を有するSiCからなる基材の上に、SiCからなり、比抵抗が1×106Ωcm以上の絶縁性を有する絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層の上に、AlNからなるバッファ層をエピタキシャル形成するバッファ層形成工程と、
前記バッファ層の上に、GaNからなるチャネル層をエピタキシャル形成するチャネル層形成工程と、
前記チャネル層の上に、AlxInyGazN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)からなる障壁層をエピタキシャル形成する障壁層形成工程と、
を備えることを特徴とする高周波用半導体素子形成用エピタキシャル基板の作製方法。
【請求項8】
請求項7に記載のエピタキシャル基板の作製方法であって、
前記絶縁層形成工程が絶縁化元素を含有する前記絶縁層を気相エピタキシャル成長させる工程である、
ことを特徴とする高周波用半導体素子形成用エピタキシャル基板の作製方法。
【請求項9】
請求項8に記載のエピタキシャル基板の作製方法であって、
前記絶縁層形成工程が、原料ガスとして塩化バナジウムを用いることにより、前記絶縁化元素としてバナジウムを含有させる工程である、
ことを特徴とする高周波用半導体素子形成用エピタキシャル基板の作製方法。
【請求項10】
請求項8に記載のエピタキシャル基板の作製方法であって、
前記絶縁層形成工程が、原料ガスとして有機金属バナジウム化合物を用いることにより、前記絶縁化元素としてバナジウムを含有させる工程である、
ことを特徴とする高周波用半導体素子形成用エピタキシャル基板の作製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−62168(P2010−62168A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214233(P2008−214233)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】