説明

III族窒化物半導体自立基板

【課題】基板の反りを低減でき、クラック発生を抑制することができるIII族窒化物半導体自立基板を提供する。
【解決手段】サファイア基板とGaN自立基板となるGaN厚膜との間にボイド形成GaN層を設け、GaN厚膜の成長終了後にボイド形成GaN層を境にGaN厚膜を剥離させて作製したn型GaN自立基板において、前記板の外周部のキャリア濃度が、それより内側のキャリア濃度よりも低いキャリア濃度分布とする。これにより、基板外周部側の圧縮歪が基板中心部側の圧縮歪よりも低減し、基板の応力が緩和されので、基板の反りが低減するとともに、クラックの発生が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN基板等のIII族窒化物半導体自立基板に関し、特に、基板の反りの低
減が図れるIII族窒化物半導体自立基板に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体材料は禁制帯幅が充分大きく、バンド間遷移も直接遷移型であるた
め、短波長発光素子への適用が盛んに検討されている。また電子の飽和ドリフト速度が大きいこと、ヘテロ接合による2次元キャリアガスの利用が可能なこと等から、電子素子への応用も期待されている。
結晶欠陥が比較的少ないIII族窒化物系半導体自立基板を得る方法としては、サファイ
ア基板などの異種基板を下地基板とし、この下地基板上に結晶成長速度の速いハイドライド気相成長法(HVPE法)を用いてGaN結晶を厚くエピタキシャル成長させ、成長終了後に、下地基板を何らかの方法で除去し、残ったGaN結晶層をGaN自立基板として用いる方法が採用されている。
【0003】
例えば、下地基板に開口部を有するマスクを形成し、開口部からGaN層をラテラル成長させることにより転位の少ないGaN層を得る技術、いわゆるELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)技術を用いて、サファイア基板上にGaN層を形成した後、サファイア基板をエッチング等により除去し、GaN自立基板を得る方法がある。
【0004】
また、DEEP(Dislocation Elimination by the Epi-growth with Inverted-Pyramidal Pits)法は、GaAs基板上にパターニングした窒化珪素等のマスクを用いてGaN層を成長させた後、エッチング等の方法でGaAs基板を除去する方法である。
さらに、VAS(Void-Assisted Separation)法は、サファイア基板とGaN層との間にボイド層を介在させた形でGaN層を成長させ、成長終了後に前記ボイド層を境にGaN層を剥離させるものである(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
発光素子の製造に用いられるGaN基板は、通常、導電性の基板が使用されている。これは、GaN基板の表面上に形成されるエピタキシャル層の上部に電極(上部電極)を設けると共に、基板の裏面に電極(下部電極)を設けた上下電極構造の発光デバイスを製造するためである。GaN基板の導電型は、n型が用いられることが多い。これは、p型の導電性は、GaNにMgをドーピングして結晶成長した後、熱処理や電子線照射による活性化処理を行わないと得られないからである。このため、GaN基板の導電型はn型が用いられ、デバイス構造を設計する際、エピタキシャル層構造の最表面がp型層となるように設計される。
【0006】
n型のGaN結晶を、有機金属気相成長法(MOVPE法)で成長させる際には、通常モノシランやジシランをドーピングガスに用いて、Siをドープする方法が採られている。
しかし、高速成長に適したHVPE法では、モノシランやジシランをドーピングガスに用いることができない。これは、HVPE法が、高温に加熱されたリアクタ壁に原料ガスが接触する、いわゆるホットウォールタイプの結晶成長方式であるため、モノシランやジシランが基板に到達する前に分解してしまい、実効的に結晶中に取り込まれないためである。
【0007】
そこで、特許文献2では、HVPE法でn型窒化物半導体結晶を成長する際に、ジクロルシランをドーピングガスに用いてSiをドープする手法を提案している。また、特許文
献3では、酸素をドーパントに用いてn型導電性のGaN基板を作製することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−178984号公報
【特許文献2】特開2000−91234号公報
【特許文献3】特開2000−44400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したように、GaN結晶を異種基板上に成長させることから、異種基板と成長はじめの初期GaN結晶層との線膨張係数の違い、また、初期GaN成長の欠陥密度と厚さ方向の欠陥密度の変化により、GaN結晶に応力が発生し、成長直後のアズグロウン(as grown)のGaN基板は反り、場合によっては、応力に耐え切れずクラックが発生してしまう。また、反ったGaN基板を平坦加工するため、基板面内でオフ角のばらつきが生じる。これらの問題によって、従来、GaN基板を用いたデバイス作製は難しかった。
【0010】
本発明は、基板の反りを低減でき、クラック発生を抑制することができるIII族窒化物
半導体自立基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は次のように構成されている。
本発明の第1の態様は、n型基板の外周部のキャリア濃度が、前記外周部より内側のキャリア濃度よりも低いことを特徴とするIII族窒化物半導体自立基板である。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様のIII族窒化物半導体自立基板において、前記基板
の面内における、キャリア濃度の最大値とキャリア濃度の最小値との差をキャリア濃度の前記最大値で除した値Δσが0.05より大きく、且つ前記基板の面内のいずれの場所に
おいてもキャリア濃度が5.0×1017cm−3を超えることを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1の態様又は第2の態様のIII族窒化物半導体自立基板にお
いて、前記基板の主面が、C面、M面、またはA面のいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、n型のIII族窒化物半導体自立基板の外周部のキャリア濃度を、それ
より内側のキャリア濃度よりも低くすることにより、III族窒化物半導体自立基板の反り
を低減でき、クラックの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例及び比較例におけるGaN層を成長する製造方法の概略的構成を示す側面図である。
【図2】本発明の実施例及び比較例におけるGaN層を成長する製造方法の概略的構成を示す上面図である。
【図3】キャリアガス流量を変更したときの、静止した基板上の各位置で成長したGaN膜厚を示す図である。
【図4】図3の結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例及び比較例における、GaN基板のキャリア濃度の分布と、基板の反り・クラックの有無との関係を示す図である。
【図6】図5の結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例及び比較例における、GaN基板のキャリア濃度の最大変化量Δσと、基板の反りの変化量との関係を示す図である。
【図8】図7の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係るIII−V族窒化物半導体自立基板の一実施形態を説明する。
【0017】
本実施形態に係るIII族窒化物半導体自立基板は、n型のGaN系半導体結晶からなるIII族窒化物半導体基板であって、基板の外周部のキャリア濃度が、それより内側のキャリア濃度よりも低くなっている。
III族窒化物半導体自立基板のキャリア濃度分布は、基板の中心及びその近傍でキャリ
ア濃度が最も高く、基板の中心(及びその近傍)から外周(外縁)に向かって次第にキャリア濃度が低下するキャリア濃度分布(後述の実施例1,2の場合)には限られない。例えば、基板の中心(及びその近傍)から外周(外縁)への中間部でキャリア濃度が最も高くなり、このキャリア濃度が最も高い位置から外周(外縁)へ向かってキャリア濃度が低下するようなキャリア濃度分布(後述の実施例3の場合)なども含まれる。
【0018】
III族窒化物半導体自立基板、例えば、発光素子の製造に用いられるGaN基板には、
n型導電性の基板が用いられる。n型ドーパントを含むGaN等の窒化物半導体結晶層は圧縮歪となるため、基板面内でドーパント濃度分布、つまりキャリア濃度分布を変化させることにより、圧縮歪による応力の緩和を行うことが可能となる。
そこで、本実施形態では、基板の外周部のキャリア濃度が、それより内側のキャリア濃度よりも低いキャリア濃度分布とすることで、基板の外周部側の圧縮歪を基板の中心部側の圧縮歪よりも低減して、基板の応力を緩和し、基板の反りの低減を図っている。基板の反りを低減することで、クラックの発生を大幅に抑制できる。
【0019】
本実施形態では、III族窒化物半導体自立基板のキャリア濃度分布を、基板の面内にお
けるキャリア濃度の最大値Cmaxとキャリア濃度の最小値Cminとの差Cmax−Cminをキャリア濃度の最大値Cmaxで除した値(Cmax−Cmin)/Cmax=Δσ(以下、Δσを「キャリア濃度の最大変化量」という)で規定している。
従来、基板の面内におけるキャリア濃度は、なるべく均一化するようにしており、この均一化を図った場合のキャリア濃度の最大変化量Δσは、0.05以下である。本実施形
態のIII族窒化物半導体自立基板では、キャリア濃度の最大変化量Δσを0.05より大きくして、基板の反りの低減を図っている。なお、キャリア濃度の最大変化量Δσの上限は、後述の実施例などから、例えば0.18以下とするのが好ましい。
また、本実施形態のIII族窒化物半導体自立基板には、基板の導電性を高めるために、
シリコン、酸素等のn型ドーパントがドープされており、基板面内のいずれの場所においても、キャリア濃度が5.0×1017cm−3を超えている。
【0020】
III族窒化物半導体の自立基板は、ハンドリング等が可能な強度を有し、基板の厚さは
200μm以上とするのが好ましく、また、基板の直径は、2インチ(50.8mm)以
上が好ましい。
また、III族窒化物半導体自立基板の主面である表面は、C面、M面、またはA面のい
ずれかであることが好ましい。
【0021】
III族窒化物半導体自立基板の製造は、下地基板上にIII族窒化物半導体自立基板となるIII族窒化物半導体層を形成し、このIII族窒化物半導体層を下地基板から分離することにより、III族窒化物半導体自立基板が得られる。
下地基板からの分離方法には、VAS法(Void-Assisted Separation Method:ボイド形
成剥離法)での自然剥離、その他、エッチング、レーザー照射等の方法がある。下地基板には、サファイア基板、シリコン基板などの異種基板、或いはGaN基板等の同種基板が用いられ、また、III族窒化物半導体層の成長には、ハイドライド気相成長法(HVPE
法)、有機金属気相成長法(MOVPE法)などが用いられる。
【0022】
III族窒化物半導体基板の外周部のキャリア濃度を、それより内側のキャリア濃度より
も低くする方法としては、次のような方法が挙げられる。
下地基板は、通常、基板ホルダ(治具)によって保持されるが、この基板ホルダが下地基板の上面外縁部を保持する部分の高さ(厚さ)を大きくする方法、基板ホルダと下地基板上に成長するIII族窒化物半導体層との固着を防止するためのパージガス量(ホルダパ
ージガス量)を増加する方法、或いは原料ガスのキャリアガス量を増加する方法などがある。
【実施例】
【0023】
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0024】
本発明の実施例及び比較例では、VAS法(例えば、上記の特許文献1等を参照)を用いて、直径2インチ(50.8mm)のGaN基板を作製した。
VAS法では、サファイア基板とGaN自立基板となるGaN厚膜との間にボイド形成GaN層を設け、GaN厚膜の成長終了後にボイド形成GaN層を境にGaN厚膜を剥離させる方法であり、容易にGaN自立基板を作製できるという特長がある。
【0025】
実施例及び比較例では、まず、サファイア基板上にボイド形成GaN層を有するボイド形成基板を作製した。
具体的には、サファイア基板上にMOVPE法によってアンドープGaN層を成長し、このアンドープGaN層上に真空蒸着によってTi薄膜を蒸着した。このTi薄膜を蒸着した基板を電気炉に入れ、アンモニアガスと水素ガスの混合ガスの雰囲気中で熱処理を施した。この熱処理により、アンドープGaN層が高密度のボイドを有するボイド形成GaN層とされると共に、Ti薄膜が窒化され且つサブミクロンの微細な孔が高密度に形成された孔形成TiN層とされた、ボイド形成基板が得られた。
このボイド形成基板を、下記の実施例及び比較例では、GaN自立基板となるGaN厚膜の成長用の出発基板(下地基板)として用いた。
【0026】
図1は、本発明の実施例及び比較例におけるGaN層を成長する製造方法の概略的構成を示す側面図であり、図2はその概略的構成の上面図である。
図1、図2に示すように、成長炉(HVPE炉)内の均熱板1上に、出発基板となるボイド形成基板2が水平状態で載置される。HVPE法により、ボイド形成基板2上にGaN層(GaN厚膜)4を成長させる。ボイド形成基板2の外周部及び上面外縁部は、基板ホルダ(治具)3によって保持されている。ボイド形成基板2の上面外縁部を保持する基板ホルダ3の部分3aは、ボイド形成基板2の上面から高さ(厚さ)dの寸法を有する。ボイド形成基板2は、図示省略の回転駆動機構により、ボイド形成基板2の中心軸の回りに所定の回転数で回転駆動される。ボイド形成基板2の上部側方には、ボイド形成基板2上に原料ガス及びキャリアガスの混合ガス20を供給する原料噴出し口部5が設けられている。原料ガス及びキャリアガスの混合ガス20は、原料噴出し口部5から吹き出され、図1、図2中の左側(上流側)から右側(下流側)に水平に流れる。
【0027】
この実施例及び比較例においては、原料ガスには、Ga原料ガスとしてGaCl(塩化ガリウム)、窒素原料ガスとしてNH(アンモニアガス)、SiドーパントガスとしてSiHCl(ジクロルシラン)を用い、キャリアガスには、N(窒素ガス)とH(水素ガス)を用いた。
また、均熱板1及びボイド形成基板2の外周と基板ホルダ3の内周との間の隙間には、パージガス(ホルダパージガス)10が流される。パージガス10は、基板ホルダ3とボイド形成基板2上に成長するGaN層4との固着を防止するためのガスであるが、このパージガス10を、実施例2では更にGaN層4のキャリア濃度分布を変更するためのガスとしても機能させている。
【0028】
ボイド形成基板2上にGaN層4を成長させる際には、ボイド形成基板2をその中心軸の回りに所定回転数で回転しつつ、均熱板1の下方から図示省略のヒータによってボイド形成基板2を所定温度に加熱すると共に、ボイド形成基板2上に、原料ガスとキャリアガスとの混合ガス20を流して、ボイド形成基板2上にGaN層4を成長させた。また、GaN層4の成長時には、基板ホルダ3の内周部には所定流量のパージガス10を流した。
【0029】
(比較例1)
比較例1でのGaN層4を成長する成長条件は、次に述べる比較例2及び実施例1〜3における成長条件のベースとなるものである。比較例1では、アンドープのGaN層4を成長させた。従って、比較例1では、SiHClは流していない。
【0030】
比較例1の成長条件は次の通りである。
GaN層4の成長温度は1050℃とし、供給した原料ガス量はGaClが100cc、NHが1000ccであり、キャリアガスの流量はNを6.9slm(standard liter/min)、Hを2slmとし、基板回転は20rpmとし、GaN層4成長部の外周
に流したパージガス10のガス流量は1slmと設定し、アンドープのGaN層4を800μmの厚さ成長した。また、ボイド形成基板2の上面外縁部を保持する基板ホルダ3の部分3aの高さ(厚さ)dは、1mmとした。
【0031】
作製したGaN層4(GaN厚膜)をボイド形成基板2から剥離し、得られたGaN層4からなるアズグロウンのGaN自立基板の反りをレーザー変位計にて測定した。GaN自立基板は、その裏面が凸形状に反っていた(下記の比較例2及び実施例1〜3でも、同様にGaN自立基板の裏面が凸形状に反っていた)。ここで、GaN基板の反りは、GaN基板の裏面を下にして平面上に置いたときに、前記平面に接するGaN基板裏面の中心位置から半径方向に25mm離れたGaN基板の外縁部の位置における、前記平面からの垂直距離(高さ)で定義した。レーザー変位計による測定結果では、比較例1のGaN自立基板の反りは、93μmであった。
【0032】
また、GaN自立基板の面内のキャリア濃度を、非接触抵抗装置と移動度測定装置とを用いて測定した。GaN自立基板のキャリア濃度の測定は、基板の中心点(r=0mm)と、中心点から半径方向に5mm間隔で離れた5点(r=5mm、10mm、15mm、20mm、25mm)で行った。
測定された比較例1のGaN自立基板のキャリア濃度は、中心点(r=0mm)では5.25×1017cm−3、中心点からr=5mm、10mm、15mm、20mm、2
5mmの各点では、それぞれ5.25×1017cm−3、5.20×1017cm−3、5.19×1017cm−3、5.09×1017cm−3、5.00×1017cm−3
であった。
また、比較例1のGaN自立基板には、クラックの発生が認められた。
図5に、比較例1のGaN自立基板の反り、各点のキャリア濃度、及びクラックの発生の有無を示す(図5には、比較例2及び実施例1〜3のGaN自立基板の反り、各点のキャリア濃度、及びクラックの発生の有無も示している)。また、図6には、図5の測定結果のキャリア濃度分布をグラフ化して示している。
【0033】
上記アズグロウンのGaN自立基板の両面を研磨することで平坦化し、さらに円形に加
工して、直径2インチ(50.8mm)の厚さ400μmのGaN自立基板を得た。
【0034】
(比較例2)
比較例2では、上記比較例1の成長条件に加えて、n型ドーパント原料ガスであるSiHClを20cc供給し、高キャリア濃度のGaN層4を成長した。比較例2でも、比較例1と同様に、剥離して得られたGaN自立基板の反り、キャリア濃度分布を測定し、また、クラックの有無を調べた。その結果を図5に示す。
比較例2のGaN自立基板の反りは、比較例1のGaN自立基板と同じ93μmであり、キャリア濃度分布は、基板面内でほぼ均一であった。また、比較例2のGaN自立基板には、クラックがあった。
【0035】
(実施例1)
実施例1では、上記比較例2の成長条件において、基板ホルダ3の高さd=1mmより2mm高くし、d=3mmに変更した。基板ホルダ3の高さdを高くしたことにより、GaN層4の成長領域の外周部でガスが供給されにくい状態となるため、GaN層4の中心部側と外周部側のキャリア濃度が変化することが確認された。
実施例1でも、比較例1と同様に、剥離して得られたGaN自立基板の反り、キャリア濃度分布を測定し、また、クラックの有無を調べた。その結果を図5に示す。
実施例1のGaN自立基板のキャリア濃度分布は、GaN自立基板の中心部で最も高く、基板の中心部から外周(外縁)部に向かって次第にキャリア濃度が低下するキャリア濃度分布であった。実施例1のGaN自立基板の反りは72μmであり、比較例1,2に比べて反りが21μmも低減した。また、クラックの発生はなかった。
【0036】
(実施例2)
実施例2では、上記比較例2の成長条件において、パージガス10の流量を1slmから5slmに変更(パージガス10の流量を増加)した。
パージガス(ホルダパージガス)10は、元々成長したGaN層4と基板ホルダ3とが成長段階で固着しないような役割を果たしているが、パージガス10を流すことでボイド形成基板2側に原料が届きにくい状態にすることも可能である。GaN層4の成長外周部のパージガス10の流量を、比較例2の1slmから5slmに増加させることで、成長外周部のパージガス10の流速が速くなり、成長しにくい状態となる。このため、GaN層4の外周部が中心部よりも低キャリア濃度の成長となった。
実施例2でも、比較例1と同様に、剥離して得られたGaN自立基板の反り、キャリア濃度分布を測定し、また、クラックの有無を調べた。その結果を図5に示す。
実施例2のGaN自立基板のキャリア濃度分布は、GaN自立基板の中心部で最も高く、基板の中心部から外周(外縁)部に向かって次第にキャリア濃度が低下するキャリア濃度分布であった。実施例2のGaN自立基板の反りは65μmであり、比較例1,2に比べて反りが28μmも低減し、また、クラックの発生も認められなかった。
【0037】
(実施例3)
実施例3では、上記比較例2の成長条件において、キャリアガスの流量を変更した。即ち、Nを6.9slm、Hを2slmとするキャリアガスの流量条件(以下、流量条
件1という)から、Nを9.9slm、Hを2slmとするキャリアガスの流量条件
(以下、流量条件2という)に変更し、キャリアガスの流量を増加した。原料ガス中のキャリアガスの流量を変更することで、原料ガスであるNH,GaCl,及びSiHClの反応点を変化させることができる。
【0038】
図1,図2において、基板を回転させず(基板回転0rpm)、静止実験を行い、成長厚さの分布を調べた。基板を回転させないことを除いては、成長条件は、比較例2と同一であり(キャリアガス流量は流量条件1)、1時間の成長を実施した。静止実験であるの
で、どの部分で原料が反応しているか確認することが出来る。また、キャリアガス流量を流量条件2とし、同様に静止実験を行い、成長厚さの分布を調べた。
図3に、キャリアガス流量が流量条件1、流量条件2のときの、静止した基板上の各位置で成長したGaN層の厚さを、また、図4に図3の結果をグラフ化したものを示す。
図3、図4に結果から、キャリアガスの流量条件1では、原料供給側の基板ホルダ3の端部よりなだらかに厚さが小さくなる。つまり、もっとも原料が反応している点は、基板ホルダ3の端部、もしくは基板ホルダ3より外周の原料供給側であることが推測できる。
また、キャリアガスの流量を増加させた流量条件2では、基板の中心(r=0mm)より+15mm(基板中心よりも混合ガス20の下流側の方向)の位置がもっとも厚く、反応が激しい点となった。
【0039】
実施例3では、上記比較例2の成長条件において、キャリアガス流量を流量条件2に変更した。
実施例3でも、比較例1と同様に、剥離して得られたGaN自立基板の反り、キャリア濃度分布を測定し、また、クラックの有無を調べた。その結果を図5に示す。
実施例3のGaN自立基板のキャリア濃度分布は、基板の中心からr=15mm近傍までキャリア濃度が緩やかに増加し、その外周側でキャリア濃度が低下したキャリア濃度分布であった。実施例3のGaN自立基板の反りは67μmであり、比較例1,2に比べて反りが26μmも低減し、また、クラックの発生も認められなかった。
【0040】
上記図5,図6に示す比較例及び実施例の結果より、GaN自立基板のキャリア濃度の最大変化量Δσと基板の反りの変化量(減少量)との関係を図7に、また、図8に図7の結果をグラフ化して示す。
図7、図8に示すように、比較例1,2では、キャリア濃度の最大変化量Δσは、0.
05と均一なキャリア濃度分布であり、Siドープした比較例2のGaN自立基板でも、アンドープの比較例1のGaN自立基板と同じ反りであり、クラックの発生があった。
一方、実施例1〜3のGaN自立基板では、基板の外周部のキャリア濃度が、それより内側のキャリア濃度よりも低く、キャリア濃度の最大変化量Δσが0.13〜0.18であり、実施例1〜3のGaN自立基板の反りは、比較例1,2の反り(93μm)よりも大きく減少した。また、図7、図8に示す結果から、GaN自立基板のキャリア濃度の最大変化量Δσが0.05より大きければ、クラックの発生を防止することが可能であること
が分かる。また、キャリア濃度の最大変化量Δσが0.18の場合(実施例2の場合)に
は、基板の反りが28μmも低減された。また、基板の外周部より内側にキャリア濃度が高い点がある場合(実施例3の場合)、つまり基板の中心部よりキャリア濃度が高い点がずれていても、基板の反りは大きく低減されることが分かった。
【0041】
上記実施例では、異種基板であるサファイア基板を用いたGaN成長であったが、GaN単結晶から行うGaN厚膜成長においても、面内のキャリア濃度を成長温度、ガスの供給量、ガスの流量等の成長条件により変化させ、成長基板の応力を変化させることで、クラック発生の防止、基板の反りの低減を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 均熱板
2 ボイド形成基板
3 基板ホルダ
4 GaN層(GaN自立基板)
5 原料噴出し口部
10 パージガス
20 原料ガス及びキャリアガスの混合ガス
d 基板ホルダのボイド形成基板上面からの高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型基板の外周部のキャリア濃度が、前記外周部より内側のキャリア濃度よりも低いことを特徴とするIII族窒化物半導体自立基板。
【請求項2】
前記基板の面内における、キャリア濃度の最大値とキャリア濃度の最小値との差をキャリア濃度の前記最大値で除した値Δσが0.05より大きく、且つ前記基板の面内のいず
れの場所においてもキャリア濃度が5.0×1017cm−3を超えることを特徴とする
請求項1記載のIII族窒化物半導体自立基板。
【請求項3】
前記基板の主面が、C面、M面、またはA面のいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載のIII族窒化物半導体自立基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−248022(P2010−248022A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97255(P2009−97255)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】