説明

グリーンシート、これを用いた多層基板およびその製造方法

【課題】低密度で良好な空気透過性を有しながら、低温焼結性を確保でき、小型・高性能のガラスセラミック多層基板製造に不可欠な積層性と低温焼結性を両立できるガラスセラミックグリーンシートおよび小型・高性能のガラスセラミック多層基板を実現できるガラスセラミック多層基板の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するために、本発明は、セラミック粉体301とガラス粉体302を含むガラスセラミック粉体と、有機バインダーとを少なくとも含むセラミックグリーンシートにおいて、上記ガラスセラミック粉体が上記ガラス粉体302のガラス転移温度以上、かつ、軟化点未満の温度で熱処理された粉体であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造を有する、コンデンサやインダクタ、あるいはこれらを含む積層複合部品等の多層基板に用いられるグリーンシートおよびそれを用いた多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の小型化、高機能化を目的として、積層構造を有するコンデンサやインダクタ、あるいはこれらを含む積層複合部品等のセラミック多層基板の生産が進んでいる。
【0003】
以下に、図9〜図12を用いてセラミック多層基板の作製プロセスについて説明する。
【0004】
図9はセラミック多層基板の製造工程を示す断面図である。
【0005】
原料である1種類以上の無機粉体と、バインダー、分散剤、可塑剤、分散媒等を所定量調合してスラリーとなし、媒体撹拌ミルなどで混合・分散を行い、スラリーを調製する。
【0006】
次に、このスラリーをフィルム上に、膜厚を制御し、ドクターブレード方式、あるいはダイコーティング方式により塗工し、乾燥することで密度及び厚みの均一なグリーンシート1201を得る。
【0007】
図9(a)に示すように、前記グリーンシート1201上に、必要に応じてパンチングあるいはレーザによりビアホール1202と呼ばれる穴の穴開け加工を行った後、スクリーン印刷によって導電性ペーストを前記穴開け加工された部分に印刷して穴を埋める。その後、再びグリーンシート1201面に導体層、具体的には導電ペーストによるスクリーン印刷、感光性導電ペーストを用いたパターンニング、あるいはめっき工法などにより、設計された回路パターンの配線電極1203を形成する。
【0008】
次に、これらのグリーンシート1201複数枚を各々のシートに形成された回路パターンの配線電極1203が電気的に接続するよう、高い位置精度で積層し、図9(b)に示すような積層体1204を作製する。そして上記積層体1204に導電性ペーストを用いて表層電極1206を形成する。さらにシート面の垂直方向に加圧する。これらを所定の温度で脱可塑剤、脱バインダー、焼成等を行う。
【0009】
最後に図9(c)に示すように、焼成を行った積層体1204の両端面に外部電極1301を形成、必要に応じて外部電極1301へのめっき、表面部品1302の実装等を行うことによりガラスセラミック多層基板1303を得る。このタイプで特に低温でAgやCuの融点の低い良導体と同時焼成したものをLTCC(Low Temperature Co−fired Ceramics)基板という。
【0010】
図10は、デラミナネーションが発生した積層体の断面図、図11はデラミネーションが発生するしくみを説明するための工程断面図である。
【0011】
上記セラミック多層基板の作製プロセスにおいて、電極が印刷されたグリーンシートを複数枚積層し、加圧したとき、図10に示すような積層体1204のデラミネーション1205が発生しないように、互いのグリーンシートの界面における密着性(積層性)が良好であることが要求される。上記密着性は、グリーンシートの透気度や厚み方向圧縮率に強い影響を受け、空気の透過性が良好で、厚み方向の圧縮率の高いグリーンシートが必要である。一般に透気度と圧縮率はグリーンシート密度と相関があるため、積層性を向上させるには、グリーンシートを低密度化し、透気度を大きくするとともに積層・加圧したときにグリーンシートの厚み方向の圧縮率を高くしなければならない。
【0012】
なぜなら、図11(a)に示すように配線電極1203を挟んでグリーンシート1201同士を積層、加圧するとき、図11(b)に示すように配線電極1203の膜厚分の段差をグリーンシート1201が埋めなければならないからである。この段差を埋められないと図11(c)に示すように段差の部分に存在する空気1401が積層体外部に逃げることができず積層不良、すなわちデラミネーションが発生してしまうことになる。特にグリーンシートの透気度は重要であり、空気が電極の段差の部分にわずかでも残存していると、焼成工程において上記部分からデラミネーションが生じる。
【0013】
特に、近年の積層電子部品の高集積化にともなって、グリーンシートの薄層化の傾向が強まっている。グリーンシート厚に対する電極厚の割合が大きくなる傾向にあり、場合によってはグリーンシート厚よりも電極厚の方が厚くなることもある。
【0014】
また、図12に示すようにグリーンシート1201の密度が高い場合、他の弊害もあげられる。図12は電極形状の模式図であり、図12(a)に示すように電極ペースト1207をグリーンシート1201上に印刷形成した際に図12(c)に示すように電極ペースト1207に含まれる溶剤1501成分がグリーンシート1201に迅速に吸収されないために電極にじみが発生し、要求されるライン・スペース幅が狭い場合にショート不良の原因となる。
【0015】
一方、図12(b)に示すように、グリーンシート1201の密度が低い場合、電極ペースト1207に含まれる溶剤1501成分が吸収されやすいためにじみの発生が抑制される。
【0016】
このような背景から、上記目的を達成するためにはより高い透気度(空気透過性)・圧縮性を持ち、かつ焼結性を確保できるグリーンシートが必要である。
【0017】
従来のセラミックグリーンシートとして、例えば少なくともセラミック粉末、有機結合剤とを含有してなるセラミックグリーンシートであって、前記セラミック粉末はセラミック原料を少なくとも混合、仮焼および粉砕した後に熱処理により5〜40%比表面積を減少させたセラミック粉末を主成分として包含したもの(例えば特許文献1参照)が開示されている。上記セラミック原料としてNi,Zn,Cuとを含んだフェライト系セラミック原料、少なくともTi,BaまたはTi,Pbを含んだ誘電体セラミック原料が挙げられている。
【特許文献1】特開平10−45478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記従来の構成では、セラミックグリーンシートの空気透過性を上げることはできるものの、熱処理による比表面積の減少割合が少ないため、空気透過性が十分ではなかった。そこで熱処理温度を高くするとセラミック粉末同士がネッキングを開始して粒径が大きくなるため、グリーンシートの焼結性が極端に悪化するという欠点があった。このため、特に低温焼成するために粒径を微細化したセラミック粉末、あるいは低融点導体であるAgやCuと同時焼成する必要のあるセラミック粉末では粒径がわずかに増大しただけでも焼結性が著しく悪化するためにこの方法を用いることができないという課題を有していた。
【0019】
そこで本発明は、高い空気透過性を持ちながら、低温焼結性を確保でき、小型・高性能の多層基板製造に不可欠な積層性と低温における融点の低い導体との同時焼成を両立できるガラスセラミックグリーンシートおよび小型化・高性能化を実現できるガラスセラミック多層基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明のグリーンシートは、セラミック粉体とガラス粉体を含むガラスセラミック粉体と、有機バインダーとを少なくとも含むガラスセラミックグリーンシートにおいて、上記ガラスセラミック粉体が上記ガラス粉体のガラス転移温度以上、かつ、軟化点未満の温度で熱処理された粉体であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のグリーンシートは、高い空気透過性を持ちながら、低温焼結性を確保できるため、LTCC基板に代表されるガラスセラミック多層基板の積層不良やショート不良を抑制しつつ、導電率の良好な導体と低温同時焼成を実現することができるという作用効果を有する。
【0022】
また、このグリーンシートを用いた多層基板は、小型化・高性能化を実現することができるという作用効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のグリーンシートおよびこれを用いた多層基板は、グリーンシートを構成する成分であるガラスセラミック粉体に特徴があるものである。
【0024】
本発明の第一の発明は、セラミック粉体とガラス粉体を含むガラスセラミック粉体と、有機バインダーとを少なくとも含むガラスセラミックグリーンシートにおいて、上記ガラスセラミック粉体が上記ガラス粉体のガラス転移温度以上、かつ、軟化点未満の温度で熱処理された粉体であることを特徴とするものであり、これにより多層基板の積層不良やショート不良を抑制しつつ、導電率の良好な導体と低温同時焼成を実現することができるという作用効果を有するものである。
【0025】
本発明の第二の発明は、熱処理後の上記ガラスセラミック粉体の比表面積が、熱処理前の上記ガラスセラミック粉体の比表面積の30%以上60%未満であるというものであり、これにより良好なグリーンシートの積層性と良好なガラスセラミック粉体の焼結性を両立させることができるという作用効果を有するものである。
【0026】
本発明の第三の発明は、上記グリーンシートの厚みをtμmとしたときの透気抵抗度(ガーレー)が5×t(sec)以下であるものであり、これによってグリーンシートと電極を交互に積層する際の積層不良の抑制、および電極ペーストをグリーンシート上にスクリーン印刷で形成する際の電極ペーストのにじみに起因するショート不良の抑制に効果的であるという作用効果を有するものである。
【0027】
本発明の第四の発明は、上記ガラスセラミック粉体において、上記セラミック粉体は、Ba,TiおよびOを含むとともにNdまたはSmを少なくとも含むタングステンブロンズ構造を有するセラミック粉体を含み、上記ガラス粉体は、Si,Ba,LaおよびOを少なくとも含むものであり、これによって上記ガラスセラミック粉体を焼成して作製したガラスセラミックスが高誘電率かつ良好な高周波特性を有するため、多層基板としての小型化・高性能化を実現することができるという作用効果を有するものである。
【0028】
本発明の第五の発明は、請求項1〜4のいずれか1つに記載のグリーンシートを複数枚積層した積層体を焼成温度900℃〜950℃の範囲で焼成して相対密度が95%以上としたものであり、これによってグリーンシートとAgを主成分とする導体との同時焼成が可能となるとともに多層基板としての強度および信頼性を向上させることができるという作用効果を有するものである。
【0029】
加えて、本発明のグリーンシートを用いて積層する際、従来必要とされた接着層は不要となるため、この接着層に起因していたデラミネーションが発生しなくなるという作用効果も有する。すなわち、本発明のグリーンシートは空気透過性に優れているので積層する際、接着層は不要となる。そのため、接着層に起因するデラミネーションが発生せず多層基板としての信頼性を向上させることができる。
【0030】
また、接着層が不要であるためその分のコストダウンを実現することができるという作用効果も有する。
【0031】
本発明の第六の発明は、少なくとも、セラミック粉体とガラス粉体とを含むガラスセラミック粉体を上記ガラス粉体のガラス転移温度以上、かつ、軟化点未満の温度で熱処理する工程と、熱処理した上記ガラスセラミック粉体と有機バインダーと分散媒を含むスラリーを作製する工程と、作製した上記スラリーを膜状に成形・乾燥してグリーンシートを得る工程と、AgまたはCuを主成分とする導体層を形成する工程と、上記グリーンシートと上記AgまたはCuを主成分とする導体層とを交互に積層し積層体を得る工程と、上記積層体を焼成する工程とを含むものであり、これによって小型化、高性能化を実現することができる多層基板を容易に製造することができるという作用効果を有するものである。
【0032】
以下、一実施の形態および図面を用いて本発明のグリーンシート、そのグリーンシートを用いた多層基板およびその製造方法について、コンデンサやコイルを内蔵したガラスセラミック多層基板を例にとって説明する。
【0033】
図1、図2は本発明の一実施の形態におけるガラスセラミック多層基板の製造方法を説明するための断面図である。
【0034】
まず始めに、ガラスセラミック誘電体層であるグリーンシートを作製するために主成分として0.05〜10μmの平均粒子径を有するセラミック粉体とガラス粉体を所定量配合しガラスセラミック粉体とする。さらに、このガラスセラミック粉体100重量%に対して、水を50〜300重量%配合し、1〜5mmφのジルコニアを分散メディアとして使用してボールミル混合を12〜72hr行った後、ガラスセラミック粉体からなるスラリーをボールミルより取り出し乾燥する。乾燥した上記ガラスセラミック粉体に熱処理を行う。
【0035】
次に、乾燥後のガラスセラミック粉体100重量%に対して、PVBなどの樹脂バインダー4〜15重量%、エステル系、アルコール系などの分散媒40〜120重量%、DBP(フタル酸ジブチル)、BBP(フタル酸ベンジルブチル)などの可塑剤2〜12重量%、さらに必要に応じて分散剤、消泡剤を少量配合し、10mmφのジルコニアを使用したボールミル分散を12〜72hr行ってスラリーを作製する。
【0036】
次に、得られたスラリーをダイコーティング装置などのシート成型機によって離型処理されたPETフィルムなどのキャリアフィルム上に所定の厚みに塗布し、その後、乾燥炉で乾燥して図1(a)に示すガラスセラミック誘電体層であるグリーンシート101を作製する。
【0037】
次に、前記グリーンシート101に必要に応じてパンチング加工あるいはレーザ加工により所定の位置に穴開け加工を行った後、スクリーン印刷などによってAgを主成分とする導電性ペーストを用いて穴開け加工されたビアホール内に充填塗布し、ビア電極102を形成する。その後、グリーンシート101にAgを主成分とする導電性ペーストを用いてスクリーン印刷法などにより、設計された回路パターンの配線電極103を形成する。
【0038】
次に、それぞれに印刷形成された配線電極103を有するグリーンシート101を図1(a)に示すように所定の設計になるように位置合わせを行いながら積層、加圧し、図1(b)に示すようなガラスセラミック誘電体層と電極層が交互に積層された積層体104を形成する。この積層体104の大きさは通常50〜200mm□であり、積層体104はマトリックス状に所定の多層基板203を多数個作製することができる。
【0039】
また、この積層体104の内層部に所定の面積を有する配線電極103をグリーンシート101を介して対向するように配置することによりコンデンサを内蔵することができる。さらに、この配線電極103を積層することにより、より大容量のコンデンサを内蔵することも可能である。また、配線電極103をグリーンシート101に形成したビア電極102を介してスパイラル構造のコイルを内蔵させることも可能である。これらのコンデンサおよびコイルを内蔵させることによって高密度実装可能なガラスセラミック多層基板203を実現することができる。
【0040】
次に、上記積層体104にAgを主成分とする導電性ペーストを用いて表層電極106を形成する。その後積層体104を積層体104の垂直方向に所定の圧力で加圧し、積層体104を積層圧着する。なお、この積層および加圧の際の温度は常温〜100℃であり、圧力は20〜1000kgf/cm2で行うことが好ましい。
【0041】
その後、積層圧着された積層体104に表面電極106を形成後、切断して個片化し、この個片化された積層体104を400〜600℃の温度で脱バインダー処理を行う。
【0042】
次に、焼成工程として最高保持温度860〜960℃、最高温度での保持時間0.5〜30時間、大気中雰囲気もしくは還元雰囲気で焼成を行う。
【0043】
最後に図2に示すように両端面に外部電極201を形成、必要に応じて外部電極201へのめっき、表面部品202の実装等を行うことによりガラスセラミック多層基板203を得る。
【0044】
ここで、混合・乾燥後に熱処理を行ったときのガラスセラミック粉体およびセラミック粉体の形態の変化をそれぞれ図3、図13に模式的に示す。またそれに対応するガラスセラミック粉体の収縮挙動を図4に示す。
【0045】
まず、熱処理を行わない、あるいは熱処理温度がガラスセラミック粉体中のガラス粉体302のガラス転移温度よりも低い場合について、図3(a)に示すようにセラミック粉体301とガラス粉体302はそれぞれが均一に混合した状態となっている。また、この状態では図4(a)に示すように寸法収縮率はほぼゼロであり、収縮はおこらない。
【0046】
それに対して、熱処理温度がガラス粉体302のガラス転移温度以上になると、図3(b)に示すようにガラス粉体302の拡散が開始する。ガラス粉体302はガラス転移温度(Tg)より低い温度では弾性的な挙動をとるが、ガラス転移温度(Tg)以上で粘弾性的な挙動をとり、ガラス転移温度を境に弾性率が急激に減少する。このため、ガラス粉体302の移動度が増し隣接しているセラミック粉体301に接着する。接着したガラス粉体302とセラミック粉体301の間には空隙303を多数存在させることができる。このため、グリーンシートを低密度化させ、空気透過性を上昇させることが可能になり、グリーンシートと電極を交互に積層する際の積層不良の抑制、および電極ペーストをグリーンシート上にスクリーン印刷で形成する際の電極ペーストのにじみの抑制に効果的である。また、焼結性についてであるが、ガラス粉体302同士、あるいはセラミック粉体301同士が接着してネッキングを起こし粒径が増大すると焼結性の著しい低下を招く。それに対してガラス粉体302とセラミック粉体301という異種粉体同士が接着する場合、個々の粉体の粒径は増大しないため焼結性は阻害されない。このため、上記温度域で熱処理したガラスセラミック粉体の焼結性は確保され、グリーンシート低密度化・空気透過性の上昇とガラスセラミック粉体の焼結性確保の両立が可能となる。また、この状態では図4(a)に示すように寸法収縮が開始するが、熱処理温度に対する寸法収縮の変化割合は小さい。
【0047】
熱処理温度がガラス粉体302の軟化点より高い温度ではガラス粉体302の粘性が低下し、軟化点以下では接着していなかったガラス粉体302同士が相互拡散して接着、ガラス粉体の粒径が増大し、同時にセラミック粉体の焼結もはじまるため、セラミック粉体301の粒径も増大しはじめる。このため、上記温度域で熱処理したガラスセラミック粉体の焼結性は著しく阻害される。また、この状態では図4(a)に示すように熱処理温度に対する寸法収縮の変化割合が急激に大きくなっている。
【0048】
なお、セラミック粉体単独のネッキング開始温度はガラス粉体単独のネッキング開始温度よりも十分に高いことを前提とするが、通常セラミック粉体はガラス粉体よりもネッキング開始温度が十分に高いことがほとんどである。
【0049】
ここで従来のセラミック粉体1101を熱処理したときの形態の変化を図13に示すが、セラミック粉体1101同士が接着するような条件で熱処理を行うと粒径が大きくなるため焼結の駆動力が減少する。また、図4(b)に示すように、ガラス粉体を含有していないために焼成温度近傍で急激な寸法変化がおこることからもガラスセラミック粉体との違いを窺い知ることができる。
【0050】
上記熱処理後のガラスセラミック粉体の比表面積は熱処理前の上記セラミック粉体の比表面積の30%以上60%未満であることが好ましい。60%以上のときはガラスセラミック粉体の空隙率が少ないため、グリーンシートの積層性が良好ではない。逆に30%未満のときはセラミック粉体の焼結がはじまり粒径が増大するためにガラスセラミック粉体の焼結性が悪化する。
【0051】
また、上記グリーンシートの厚みをtμmとしたときの透気抵抗度(ガーレー)が5×t(sec)以下であることが好ましい。比表面積の大きい粉体を用いても、透気抵抗度が5×t(sec)以下であることによりグリーンシートと電極を交互に積層する際の積層不良の抑制、および電極ペーストをグリーンシート上にスクリーン印刷で形成する際の電極ペーストのにじみに起因するショート不良の抑制に効果的である。なお、透気抵抗度(ガーレー)とは面積642mm2の紙又は板紙を空気100mlが通過する時間を示しており、値が大きいほど空気が通過しにくいことをさす。また透気度については明確な定義はないが、値が大きいほど空気が通過しやすいことをさす。
【0052】
また、上記グリーンシートを複数枚積層し焼成温度900℃〜950℃の範囲で焼成した多層基板が95%以上の相対密度を有し、上記グリーンシートとAgを主成分とする導体との同時焼成が可能であることが好ましい。ガラスセラミック粉体をLTCC(低温同時焼成セラミックス)材料として融点の低い導体と同時焼成する場合、ガラスセラミック粉体の焼結性の悪化は致命傷となりうるが、そのような場合に特に焼結性を阻害しない本グリーンシートが有効である。
【0053】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【0054】
(実施例1)
以下、本発明のグリーンシートおよび多層基板の製造方法における実施例1について説明する。
【0055】
まず始めに、ガラスセラミック誘電体層であるグリーンシートを作製するために主成分としてBaCO3、Nd23、TiO2を用意し、BaO:Nd23:TiO2=2:2:9(mol比)なる配合を施したセラミック粉体を1500℃にて仮焼し、タングステンブロンズ構造のセラミック粉体(BNT粉体)を得た。
【0056】
次に少なくともSiO2、BaCO3、La23、Al23を所定量配合し、1400℃で溶融・急冷・粉砕することでガラス粉体を得た。このガラス粉体のガラス転移温度(Tg)および軟化点(Ts)をJIS R3103−3熱膨張法による転移温度測定方法およびJIS R3103−1軟化点の測定方法により測定したところ、Tgは680℃、Tsは820℃であった。
【0057】
さらに、BNT粉体80重量%、ガラス粉体20重量%、その他焼結助剤としての役割を果たすセラミック粉体を所定量配合し、ガラスセラミック粉体とした。さらに、このガラスセラミック粉体100重量%に対して、水を100重量%配合し、2mmφのジルコニアを分散メディアとして使用してボールミル混合を1、2、24、48、72、128hrを行った後、ガラスセラミック粉体からなるスラリーをボールミルより取り出し乾燥し、6種類のガラスセラミック粉体を得た。これらのガラスセラミック粉体を128hr粉砕したものをサンプルNo.1、72hr粉砕したものをNo.2、48hr粉砕したものをNo.3、24hr粉砕したものをNo.4、6hr粉砕したものをNo.5、1hr粉砕したものをNo.6とした。
【0058】
乾燥した上記ガラスセラミック粉体No.3を用いて熱処理を行った。熱処理条件は大気中で昇降温速度300℃/hr、保持温度500、600、650、680、700、750、800、820、850、900℃の10通り、保持時間2hrとした。これらのガラスセラミック粉体について500℃で熱処理したものをサンプルNo.7、600℃で熱処理したものをNo.8、650℃で熱処理したものをNo.9、680℃で熱処理したものをNo.10、700℃で熱処理したものをNo.11、750℃熱処理したものをNo.12、800℃で熱処理したものをNo.13、820℃で熱処理したものをNo.14、850℃で熱処理したものをNo.15、900℃で熱処理したものをNo.16とした。
【0059】
各々のサンプルについて、JIS R1626ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法により比表面積を測定した。また、走査電子顕微鏡(SEM)によるガラスセラミック粉体の観察も行った。
【0060】
次に、乾燥後のNo.1〜16のガラスセラミック粉体100重量%に対して、有機バインダーとしてPVB樹脂8重量部、分散媒としてブタノール80重量%、可塑剤としてDBP(フタル酸ジブチル)5重量%を配合し、10mmφのジルコニアを使用したボールミル分散を48hr行ってスラリーを作製した。
【0061】
次に、得られたスラリーをドクターブレード方式の成型機によって離型処理されたPETフィルム上に所定の厚みに塗布し、その後、乾燥炉で乾燥してガラスセラミック誘電体層であるグリーンシートを作製した。グリーンシートの厚みは40μmとなるように制御した。グリーンシートの密度と透気度を測定した。密度は所定の大きさに切断したグリーンシートの重量と厚みを測定し算出した。透気度についてはJIS P8117紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法により測定した。
【0062】
このグリーンシートを用い、一実施の形態における図2で説明したガラスセラミック多層基板203を50素子作製した。まず、導体層の印刷性の評価を行った。配線パターンのうち最も狭い導体層のライン/スペース幅は20μm/20μmであったため、印刷性が最も厳しいと考えられる上記部分について導体ペーストをグリーンシート上にスクリーン印刷した後の導体の形成度合いを顕微鏡により観察し、にじみによるショートの有無を調べ、不良が1素子以下のときを○、2素子以上発生したときを×とした。次に積層不良発生の有無を評価した。導体層のうち最も厚い導体層の厚みは40μmであったため、積層性が最も厳しいと考えられる上記部分について60℃にて積層したときの不良発生の有無を目視にて評価し、グリーンシート同士の密着性が良好なときを○、デラミネーションが発生したときを×とした。作製した積層体について、焼成工程として最高保持温度900℃、最高温度での保持時間2時間、低酸素分圧下で焼成を行った。焼成したサンプル表面に外部電極を形成、外部電極へのめっき、表面部品実装を行うことによりガラスセラミック多層基板を得た。
【0063】
また、上記積層体とは別にグリーンシートの焼結性の評価を行った。まず上記グリーンシートを50枚積層し、1mmφの円板状に切断後、脱バインダーおよび低酸素分圧下で焼成を行った。昇降温速度を300℃/hr、最高温度を900、950℃、最高温度における保持時間を2hとした。アルキメデス法により密度を測定し、相対密度を算出し焼結性を評価した。焼成温度900、950℃における相対密度が95%以上のときを○、少なくともいずれかが95%以下のときを×とした。
【0064】
まず、非熱処理粉体で粉砕時間を変えたときの結果を(表1)および(表2)に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
(表1)、(表2)に示すとおり、粉砕時間が長く比表面積が大きいサンプルNo.1〜4については、グリーンシートの焼結性は良好であるものの、透気抵抗度が高くなり(空気の透過性が悪くなり)多層基板を作製する際の積層不良やショート不良が多発した。逆に粉砕時間が短く比表面積が小さいサンプルNo.5、6については、グリーンシートの透気抵抗度が低くなり(空気の透過性が良好になり)、積層不良やショート不良のない積層体を作製することはできたが、グリーンシートの焼結性が十分でないため、焼成した多層基板の強度が十分でなく、外部電極にめっきを施す際にめっき液が浸透して高周波特性が悪化するなどの弊害が発生した。また図8にNo.3とNo.5のガラスセラミック粉体のSEM写真を示すが、比表面積の大きいNo.5の粉体粒径はNo.3よりも大きいことが上記写真からもわかる。
【0068】
次に、比表面積10.2(m2/g)のガラスセラミック粉体No.3に熱処理を施した熱処理粉体No.7〜16の結果を(表3)および(表4)に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
熱処理温度がガラス粉体のガラス転移温度(Tg)である680℃未満の温度としたサンプルNo.7〜9はグリーンシートの焼結性は良好であるものの、グリーンシート密度が高く透気抵抗度が高くなり(空気の透過性が悪くなり)、多層基板を作製する際の積層不良やショート不良が多発した。逆に熱処理温度がガラス粉体の軟化点(Ts)である820℃以上の温度としたサンプルNo.14〜16については、グリーンシート密度が低く透気抵抗度が低くなり(空気の透過性が良好になり)、積層不良やショート不良のない積層体を作製することはできたが、非熱処理粉体のサンプルNo.5、6と同様にグリーンシートの焼結性が十分でないため、焼成した多層基板の強度が十分でなく、外部電極にめっきを施す際にめっき液が浸透して高周波特性が悪化するなどの弊害が発生した。それに対して熱処理温度がガラス粉体のガラス転移温度(Tg)以上軟化点(Ts)未満である680℃〜800℃であったサンプルNo.10〜13についてはグリーンシートの焼結性を確保しつつグリーンシート密度および透気抵抗度を低く(空気の透過性を良好に)することができ、多層基板作製の際の積層不良やショート不良を抑制することができた。また、図8にNo.5とNo.12のガラスセラミック粉体のSEM写真を示すが、No.5とNo.12の比表面積は同じであるにもかかわらず、明らかに粉体粒径は熱処理を行ったNo.12のほうが小さく見える。これはセラミック粉体とガラス粉体の異種粉体同士が接着しており個々の粉体粒径は増大しないためと考えられる。
【0072】
これら一連の結果を図5〜図7を用いて詳しく説明する。図5は熱処理前のガラスセラミック粉体(No.3)の比表面積を基準として熱処理後のガラスセラミック粉体の比表面積の割合をパーセント表示したものであるが、熱処理温度が650℃と680℃の間で急激に値が変化していることがわかる。これはガラス粉体がセラミック粉体に接着したことによる影響である。この値に対応して、図6に示すように透気抵抗度の値が急激に減少(つまり空気透過性が良好となっている)し、60%以下になっていることがわかる。しかしながら、図6に併記したようにグリーンシートを900℃焼成した焼結体の相対密度は熱処理温度650℃と680℃でほとんど変わっておらず、良好な焼結性を保っていた。次に図5に示すように熱処理温度が800℃と820℃で熱処理前に対する熱処理後のガラスセラミック粉体の比表面積の割合は低下し、30%未満になっていることがわかる。これはガラス粉体の流動性が増してガラス粉体同士が接着したことによる影響である。この値に対応して、図6に示すように透気抵抗度の値は減少しつづけた(空気透過性は良好となる)が、最も影響をうけるのは相対密度であった。ガラス粉体の粒径が大きくなり、ガラスセラミック粉体全体の焼結もはじまるため、焼結の駆動力が著しく減少した。また、図7は非熱処理粉体と熱処理粉体の透気抵抗度と相対密度の関係をプロットしたものである。これを見ると、非熱処理粉体のグリーンシート透気抵抗度と相対密度には相関関係(トレードオフの関係)があるのに対し、熱処理粉体では680℃〜820℃の熱処理でこのトレードオフの関係からの著しい偏倚が認められた。これらの事実からもガラスセラミック粉体をガラス粉体のガラス転移温度以上、かつ、軟化点未満の温度で熱処理することによって、良好な空気透過性と低温焼結性の確保を両立できるという効果を有していることを確認できた。
【0073】
なお、本一実施の形態においては、コンデンサやコイルを内蔵したガラスセラミック多層基板を用いて説明したが、本発明のグリーンシート、これを用いた多層基板はこれに限定されるものではなく、例えば、バンドパスフィルタ、アンテナスイッチフィルタ、パワーアンプモジュール用基板等にも用いることができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明にかかるグリーンシートおよびこれを用いた多層基板は、従来のグリーンシートと比較して、良好な空気透過性と低温焼結性の確保を両立できるという効果を有し、特に、小型・高性能化が要求される各種多層セラミック電子部品に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】(a)、(b)はそれぞれ本発明の一実施の形態における多層基板の製造工程を示す断面図
【図2】本発明の一実施の形態における多層基板を説明するための断面図
【図3】(a)〜(c)はそれぞれ本発明の一実施の形態におけるガラスセラミック粉体を説明するための模式断面図
【図4】(a)、(b)はそれぞれガラスセラミック粉体およびセラミック粉体の熱処理温度と寸法収縮率の関係を示した図
【図5】本発明の実施例1における熱処理温度と熱処理前に対する熱処理後の粉体比表面積の割合の関係を示した図
【図6】本発明の実施例1におけるグリーンシートの透気抵抗度と900℃焼成時の焼結体の相対密度を示した図
【図7】本発明の実施例1における熱処理温度とグリーンシートの透気抵抗度および900℃焼成時の焼結体の相対密度を示した図
【図8】(a)〜(c)はそれぞれ本発明の実施例1におけるガラスセラミック粉体のSEM写真を示した図
【図9】(a)〜(c)はいずれも従来の多層基板の製造工程を示す断面図
【図10】デラミネーションが発生した積層体の断面図
【図11】(a)〜(c)はいずれもデラミネーションが発生するしくみを説明するための工程断面図
【図12】(a)〜(c)はいずれも電極形状の模式断面図
【図13】(a)、(b)はそれぞれ従来のセラミック粉体を説明するための模式断面図
【符号の説明】
【0076】
101 グリーンシート
102 ビア電極
103 配線電極
104 積層体
106 表面電極
201 外部電極
202 表面部品
203 多層基板
301 セラミック粉体
302 ガラス粉体
303 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉体とガラス粉体を含むガラスセラミック粉体と、有機バインダーとを少なくとも含むガラスセラミックグリーンシートにおいて、上記ガラスセラミック粉体が上記ガラス粉体のガラス転移温度以上、かつ、軟化点未満の温度で熱処理された粉体であることを特徴とするグリーンシート。
【請求項2】
熱処理後の上記ガラスセラミック粉体の比表面積が、熱処理前の上記ガラスセラミック粉体の比表面積の30%以上60%未満である、請求項1記載のグリーンシート。
【請求項3】
上記グリーンシートの厚みをtμmとしたときの透気抵抗度(ガーレー)が5×t(sec)以下である、請求項2記載のグリーンシート。
【請求項4】
上記ガラスセラミック粉体において、上記セラミック粉体は、Ba,TiおよびOを含むとともにNdまたはSmを少なくとも含むタングステンブロンズ構造を有するセラミック粉体を含み、上記ガラス粉体は、Si,Ba,LaおよびOを少なくとも含む、請求項1〜3のいずれか1つに記載のグリーンシート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のグリーンシートを複数枚積層した積層体を900℃〜950℃の範囲で焼成して相対密度が95%以上とした多層基板。
【請求項6】
少なくともセラミック粉体とガラス粉体とを含むガラスセラミック粉体を上記ガラス粉体のガラス転移温度以上、かつ、軟化点未満の温度で熱処理する工程と、熱処理した上記ガラスセラミック粉体と有機バインダーと分散媒を含むスラリーを作製する工程と、作製した上記スラリーを膜状に成形・乾燥してグリーンシートを得る工程と、AgまたはCuを主成分とする導体層を形成する工程と、上記グリーンシートと上記AgまたはCuを主成分とする導体層とを交互に積層し積層体を得る工程と、上記積層体を焼成する工程とを含む多層基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−284297(P2007−284297A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114172(P2006−114172)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】