ノーマリオフ型GaN系電界効果トランジスタ
【課題】ゲート耐電圧が高くかつオン抵抗が低減されたノーマリオフ型GaN系FETを提供する。
【解決手段】ノーマリオフ型GaN系FETは、第1種GaN系半導体からなるチャネル層4と、このチャネル層上で互いに隔てて設けられた第2種GaN系半導体からなる一対の電子供給層5と、これら電子供給層の間でチャネル層を覆うゲート絶縁膜7と、チャネル層にオーミックコンタクトしているソース電極およびドレイン電極と、ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極とを備え、ゲート絶縁膜はチャネル層上に順次堆積された第1と第2の絶縁層を含み、第1絶縁層7aはSiの酸化物、窒化物および酸窒化物のいずれかからなりかつ5nm以下の厚さを有し、第2絶縁層7bは第1絶縁層に比べて大きなε×Ecを有し、ここでεは誘電率を表し、Ecは絶縁破壊電界を表している。
【解決手段】ノーマリオフ型GaN系FETは、第1種GaN系半導体からなるチャネル層4と、このチャネル層上で互いに隔てて設けられた第2種GaN系半導体からなる一対の電子供給層5と、これら電子供給層の間でチャネル層を覆うゲート絶縁膜7と、チャネル層にオーミックコンタクトしているソース電極およびドレイン電極と、ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極とを備え、ゲート絶縁膜はチャネル層上に順次堆積された第1と第2の絶縁層を含み、第1絶縁層7aはSiの酸化物、窒化物および酸窒化物のいずれかからなりかつ5nm以下の厚さを有し、第2絶縁層7bは第1絶縁層に比べて大きなε×Ecを有し、ここでεは誘電率を表し、Ecは絶縁破壊電界を表している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はGaN系電界効果トランジスタ(FET)に関し、特にノーマリオフ型GaN系FETの高いゲート耐電圧と低いオン抵抗の両立に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体の典型例であるGaN系半導体を利用したFETは、その材料の持つ特性からAlGaN/GaN界面に発生する2次元電子ガスをチャネルとして利用することにより、Siを用いた従来のFETに比べて、高い耐電圧特性と大電流動作が可能なトランジスタとして有望視されている。なかでも、ノーマリオフ型のFETは、故障時の安全性の観点から、特に大電流を扱うパワーデバイス分野において高い需要がある。なお、ノーマリオフ型FETとは、ゲートに電圧が印加されていないとき(通常時)にオフ状態であって、ゲートに電圧が印加されたときにオン状態になるトランジスタをいう。
【0003】
図10の模式的断面図は、特許文献1の国際公開WO03/071607A1に開示されたノーマリオフ型FETを示している。なお、本願の図面において、長さ、幅、厚さなどの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。
【0004】
図10のFETにおいては、基板11上にバッファ層12、GaNチャネル層13、および一対のAlGaN電子供給層14a、14bが順次積層されている。この場合に、GaNチャネル層13とAlGaN電子供給層14a、14bとのヘテロ界面において、図中の破線で表された2次元電子ガス6が生じる。一対のAlGaN電子供給層14a、14bの外側には、チャネル層13上にGaNコンタクト層16a、16bを介してソース電極Sとドレイン電極Dが形成されている。そして、一対のAlGaN電子供給層14a、14bの間のチャネル層13上には、絶縁膜15を介してゲート電極Gが形成されている。このようなFETでは、ゲート電極G下のチャネル層13には2次元電子ガス6が存在しておらず、ゲート電極Gに電圧が印加されていないときにはオフ状態を維持している。しかし、ゲート電極Gに電圧が印加されれば、ゲート電極G下のチャネル層13の上面に生じた反転層がAlGaN電子供給層14a、14b下の2次元電子ガスとつながって、FETのソース電極Sとドレイン電極Dとの間がオン状態になって通電し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO03/071607A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10に示されているようなノーマリオフ型GaN系FETのゲート部G0に関連する特性を本発明者らが鋭意検討したところ、ゲート絶縁膜として一般的なSiO2を用いた場合では、SiO2の誘電率εと絶縁破壊電界Ecとの積ε×Ecの値が小さいために、GaN系FETの特性が充分に生かせないことが分かった。
【0007】
そこで、本発明者らは、一般にHigh−k膜とも称される高誘電体膜をゲート絶縁膜として用いることを検討した。その結果、図10に示されているようなGaN系FETにおいてSiO2ゲート絶縁膜に替えてHigh−kゲート絶縁膜を用いた場合には、誘電率と絶縁破壊電界の積ε×Ecの値が充分であることがわかった。しかし、ゲート絶縁膜15はGaNチャネル層13に直接接して形成されるので、GaN層とHigh−k絶縁膜との界面のチャネルにおける電子移動度が低くなることが判明した。すなわち、High−kゲート絶縁膜を用いた場合には、GaN系FETが有する大電流動作可能な特性を充分に生かせないことが分かった。
【0008】
上述のようなゲート絶縁膜に関連する課題について、図11と図12を参照しつつより詳細に説明する。図11(A)はGaNチャネル層13上にSiO2絶縁膜15aとゲート電極Gが順次積層された断面構造を示しており、図11(B)はこのゲート電極Gにオン電圧を印加しているときの電子エネルギバンド図を示している。すなわち、図11(B)において、縦方向はエネルギレベルを表し、横方向は図11(A)の積層構造の厚さ方向を表している。また、図中の曲線eは、電子濃度分布を模式的に表している。なお、この図11(B)の例では、GaNチャネル層13下にAl0.05Ga0.95N層が設けられている。図12は図11に類似しているが、SiO2絶縁膜15aがHigh−k絶縁膜15bに変更されてことのみにおいて異なっている。なお、このHigh−k絶縁膜15bとしては、Hf0.7Al0.3Oxが用いられている。
【0009】
図11と図12のいずれの場合にも、ゲート電極Gにオン電圧を印加したときには、GaNチャネル層13とゲート絶縁膜15a、15bとの界面において、電子濃度分布を表す曲線eで示されているように反転層が形成される。しかし、SiO2ゲート絶縁膜15aを用いた場合に比べて、High−kゲート絶縁膜を用いた場合の方が、GaNチャネル層とゲート絶縁膜との界面における電子濃度が高くなる。この電子濃度が高いことは、FETがより大きな電流を流し得ることを意味する。
【0010】
また、発明者らが実測したところ、SiO2ゲート絶縁膜においては比誘電率εrが4であって絶縁破壊電界Ecが10MV/cmであり、Hf0.7Al0.3Oxゲート絶縁膜では比誘電率が18であって絶縁破壊電界Ecが5MV/cmであった。したがって、ゲート絶縁膜下で同じ電子濃度を得ようとする場合には、SiO2ゲート絶縁膜を用いたFETのゲート電極にはHf0.7Al0.3Oxゲート絶縁膜を用いた場合に比べて4.5倍の高いゲート電圧を印加しなければならないが、2倍程度のゲート電圧でSiO2ゲート絶縁膜がブレイクダウンすることになる。
【0011】
他方、本発明者らの測定によれば、SiO2ゲート絶縁膜とGaNチャネル層との界面における電子移動度は約100cm2V−1s−1であるが、HfAlOゲート絶縁膜とGaNチャネル層との界面における電子移動度は約20cm2V−1s−1にしかならない。この場合に、図10に示されているようにGaNチャネル層上に接してゲート絶縁膜を形成する構造のノーマリオフ型FETでは、ゲート電極下において2次元電子ガスを生じるヘテロ界面が存在しないので、ゲート絶縁膜下における電子移動度の低下はFETの特性を大きく損なうことになる。
【0012】
そこで、本発明は、ゲート絶縁膜の高い絶縁破壊耐圧を有しかつチャネル抵抗が抑制されて低いオン抵抗を有するノーマリオフ型GaN系FETを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によるノーマリオフ型GaN系FETは、第1種GaN系半導体からなるチャネル層と、このチャネル層上で互いに離間されて設けられた第2種GaN系半導体からなる一対の電子供給層と、これら一対の電子供給層の間でチャネル層を覆うゲート絶縁膜と、一対の電子供給層の外側でチャネル層にオーミックコンタクトしているソース電極およびドレイン電極と、ゲート絶縁膜上に形成されているゲート電極とを備え、ゲート絶縁膜はチャネル層上に順次堆積された第1と第2の絶縁層を含み、第1の絶縁層はSiの酸化物、窒化物および酸窒化物のいずれかからなりかつ5nm以下の厚さを有し、第2の絶縁層は第1の絶縁層に比べて大きなε×Ecを有し、ここでεは誘電率を表し、Ecは絶縁破壊電界を表すことを特徴としている。
【0014】
なお、第2の絶縁層は、Hf、Zr、Ta、Al、Ti、Pr、およびSiの1種以上を含む酸化物、窒化物または酸窒化物で形成され得る。ゲート絶縁膜は第2の絶縁層上に堆積された第3の絶縁層をさらに含んでもよく、この第3の絶縁層も第1の絶縁層と同様にSiの酸化物、窒化物および酸窒化物のいずれかからなりかつ5nm以下の厚さを有していることが好ましい。第1と第3の絶縁層の厚さは、3nm以下であることがより好ましい。チャネル層はGaNからなることが好ましく、電子供給層はAlGaNからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上のような本発明によるノーマリオフ型GaN系FETにおいては、ゲート絶縁膜の高い絶縁破壊耐圧が得られるとともに、チャネル抵抗が抑制されて低いオン抵抗を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は本発明によるノーマリオフ型GaN系FETにおけるゲート構造を示す模式的断面図であり、(B)はそのFETのオン状態時におけるゲート構造の電子エネルギバンド図である。
【図2】本発明によるノーマリオフ型GaN系FETの製造過程の一例を示す模式的断面図である。
【図3】図2に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図4】図3に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図5】図4に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図6】図5に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図7】図6に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図8】(A)は本発明によるノーマリオフ型GaN系FETにおけるゲート構造を示す模式的断面図であり、(B)はそのFETのゲート構造に逆バイアス電界を印加したときのエネルギバンド図である。
【図9】(A)は本発明によるノーマリオフ型GaN系FETにおけるゲート構造のもう1つの例を示す模式的断面図であり、(B)はそのFETのゲート構造に逆バイアス電界を印加したときのエネルギバンド図である。
【図10】先行技術によるノーマリオフ型GaN系FETを示す模式的断面図である。
【図11】(A)はSiO2ゲート絶縁膜を含む従来のノーマリオフ型GaN系FETにおけるゲート構造を示す模式的断面図であり、(B)はそのFETのゲート構造に逆バイアス電界を印加したときのエネルギバンド図である。
【図12】(A)はHfAlOゲート絶縁膜を含む従来のノーマリオフ型GaN系FETにおけるゲート構造を示す模式的断面図であり、(B)はそのFETのゲート構造に逆バイアス電界を印加したときのエネルギバンド図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ノーマリオフ型GaN系FETにおいて、低いオン抵抗を実現するためには、そのFETに含まれるチャネルのシート伝導率が高いことが望まれる。チャネルにおける最高のシート伝導率σsは、ゲート絶縁膜の誘電率がε、ゲート絶縁膜の絶縁破壊電界がEc、そしてゲート絶縁膜下のチャネルにおける電子の移動度がμであるとした場合に、周知の近似式(1)を用いて表すことができる。
【0018】
σs=ε×Ec×μ (1)
この近似式は、σs=Qs×μ=Cg×(Vg−Vth)×μ=(ε/t)×(Vg−Vth)×μ≒(ε/t)×Vg×μ=ε×(Vg/t)×μ=ε×Ec×μによって導出される。なお、Qsはチャネル電荷、Cgはゲート静電容量、Vgはゲート電圧、VthはFETの閾値電圧、そしてtは絶縁膜の厚さを表している。なお、この導出式において、最高のシート伝導率σsが得られるときの条件としてVg≫Vthが仮定されて、(Vg−Vth)≒Vgの近似が行われている。
【0019】
ここで、図11のゲート構造における最高のシート伝導率σsを求めれば、本発明者らの測定によるSiO2ゲート絶縁膜15aの比誘電率εrが4であり、絶縁破壊電界Ecが10MV/cmであり、そしてチャネルにおける電子の移動度μが約100cm2V−1s−1であるので、σs=ε×Ec×μ=3.54×10−4Sとなる。なお、誘電率はε=εr×ε0で表され、ε0は真空の誘電率を表す。また、図12のゲート構造における最高のシート伝導率σsを求めれば、発明者らの測定によるHf0.7Al0.3Oxゲート絶縁膜15aの比誘電率εrが18であり、絶縁破壊電界Ecが5MV/cmであり、そしてチャネルにおける電子の移動度μが約20cm2V−1s−1であるので、σs=ε×Ec×μ=1.59×10−4Sとなる。このことから、シート伝導率σsの観点からは、ゲート電極としてHf0.7Al0.3Ox膜を用いるよりもSiO2膜を用いる方が好ましいことが分かる。
【0020】
しかしながら、前述のように、SiO2ゲート絶縁膜においては比誘電率εrが4であって絶縁破壊電界Ecが10MV/cmであり、Hf0.7Al0.3Oxゲート絶縁膜では比誘電率が18であって絶縁破壊電界Ecが5MV/cmであるので、ゲート絶縁膜下で同じ電子濃度を得ようとする場合には、SiO2ゲート絶縁膜を用いたFETのゲート電極にはHf0.7Al0.3Oxゲート絶縁膜を用いた場合に比べて4.5倍の高いゲート電圧を印加しなければならないが、2倍程度のゲート電圧でSiO2ゲート絶縁膜がブレイクダウンすることになる。
【0021】
以上のような状況に鑑み、本発明者らは図1に示されているようなゲート構造を創案した。すなわち、図1(A)は本発明の一実施形態によるノーマリオフ型GaN系FETに含まれるゲート構造を模式的に示しており、(B)はそのFETのオン状態時におけるゲート構造の電子エネルギバンドを模式的に示している。より具体的には、GaNチャネル層4上に、ゲート絶縁膜7、およびゲート電極Gが順次積層されている。ただし、このゲート絶縁膜7においては、厚さ約3nmの極めて薄いSiO2層7aと厚さ約50nm程度のHf0.7Al0.3OxのHigh−k層7bとがこの順に積層されている。なお、GaNチャネル層4下にはAl0.05Ga0.95N層が設けられている。
【0022】
図1のゲート構造に関しては、ゲート絶縁膜7の厚さの大部分をHf0.7Al0.3Ox層7bが占めているので、上述の近似式(1)において、誘電率εと絶縁破壊電界Ecに関してはHf0.7Al0.3Ox層7bの比誘電率εr=18と絶縁破壊電界Ec=5MV/cmの値を用いることができる。他方、ゲート絶縁膜7下のチャネル層における電子移動度μの値としては、SiO2層7aに関するμ≒100cm2V−1s−1値を用いることができる。これらの値を用いて式(1)を計算すれば、図1のゲート構造に関してチャネルの最高のシート伝導率としてσs=ε×Ec×μ=7.97×10−4Sの値が得られる。すなわち、図11のゲート構造におけるσs=3.54×10−4Sおよび図12におけるゲート構造におけるσs=1.59×10−4Sに比べて、図1のゲート構造においては遥かに高いシート伝導率が得られることが分かる。このことによって、図1のゲート構造を含むノーマリオフ型GaN系FETにおいて、オン抵抗を顕著に低減することができる。
【0023】
ところで、SiO2層7aとHf0.7Al0.3Ox層7bとを含むゲート絶縁膜7において、SiO2層7aが絶縁破壊しないかが危惧される。これに関して、以下において検討する。HfAlO層(比誘電率εr=18)とSiO2層(比誘電率εr=4)を含む2層絶縁膜に電圧Vを印加し、その絶縁膜にE=22MV/cmの電界が発生している状態を考える。この場合、絶縁膜に含まれる各誘電体層に生じる電界は比誘電率に反比例し、HfAlO層には22×4/(18+4)=4MV/cmの電界が発生し、SiO2層には22×18/(18+4)=18MV/cmの電界が発生する。したがって、前述のようにHfAlO層の破壊電界は約5MV/cmであるのに対して、ゲート絶縁膜として通常厚さのSiO2層の絶縁破壊電界は約10MV/cmであるので、SiO2層が絶縁破壊することになる。そしてSiO2層が絶縁破壊すればHfAlO層も絶縁破壊し、FET全体もブレークダウンすることになる。
【0024】
しかし、誘電体層の厚さが極めて薄くなった場合に、その誘電体層の絶縁破壊電界Ecが高くなることが経験的に一般に知られている。これは、以下のように考えることができる。すなわち、誘電体層に高電圧が印加された時に電子が加速されながら移動し、その速度が或る限界を超えたときに雪崩れ的(アバレンチェ的)に電子が流れ、これによって絶縁破壊が生じると考えられる。しかし、誘電体層が極めて薄い場合には、電子が十分に加速される前にその誘電体層を通り抜け、雪崩れ的な電子の流れが生じないと考えられる。このように誘電体層の厚さが極めて薄くなった場合に絶縁破壊電界Ecが高くなるという経験的事実を考慮すれば、厚さ5nm以下でより確実には厚さ3nm以下のSiO2層の絶縁破壊電界が18MV/cm以上になり得る。そして、ゲート絶縁膜7全体として、上述の例におけるEc=22MV/cmの電界に耐えることができ、高いシート伝導率σs=εEμを実現することが可能となり、チャネル抵抗を低下させることができる。なお、ゲート電極に印加される電圧Vは、V=(HfAlO層に生じる電界E)×(HfAlO層の厚さ)+(SiO2層に生じる電界E)×(SiO2層の厚さ)として表される。
【0025】
図2から図7の模式的断面図は、図1に示されているようなゲート構造を含むノーマリオフ型GaN系FETの作製過程の一例を示している。
【0026】
まず、図2において、Si、Al2O3、SiC、またはAlNなどの基板1上にバッファ層2、厚さ1000nmのAl0.05Ga0.95N層3、厚さ40nmのGaNチャネル層4、およびAl0.25Ga0.75N電子供給層5が、例えば周知のMOCVD(有機金属気相堆積)またはMBE(分子ビームエピタキシ)などを利用して順次に積層される。このようにGaNチャネル層4上にAlGaN電子供給層5を積層した場合に、自発分極とピエゾ分極との両作用によってヘテロ界面に2次元電子ガス6が生じる。
【0027】
次に、図3において、ゲート領域を形成するために、RIE(反応性イオンエッチング)またはICP(高周波誘導結合プラズマ)などを利用して電子供給層5の一部を除去し、GaNチャネル層4の上面の一部領域を露出させる。この結果、GaNチャネル層4とAlGaN電子供給層5との間に生じた2次元電子ガス6は、GaNチャネル層4の露出された領域において途絶えることになる。
【0028】
図4においては、スパッタリングによって厚さ5nm以下で好ましくは3nm以下のSiO2絶縁層7aおよび例えば厚さ50nmのHf0.7Al0.3Ox絶縁層7bを堆積し、さらにそれらの絶縁層の不要領域をエッチングによって除去することによって、ゲート絶縁膜7が形成される。
【0029】
図5においては、ゲート絶縁膜7によって覆われていない領域において、電子供給層5がRIEまたはICPなどを利用してエッチング除去される。これによって、一対の電子供給層5の外側において、GaNチャネル層4の上面が露出される。
【0030】
図6においては、一対の電子供給層5の外側において露出されたGaNチャネル層4上に、ソース電極Sとドレイン電極Dが堆積され、オーミック接合のためのアニール処理が行なわれる。なお、図5における電子供給層5のエッチングは、図6におけるソース電極Sとドレイン電極Dのオーミック接合をより確実に行うための方法の一例である。その他のオーミック接合形成方法としては、図5における電子供給層5のエッチングを行う代わりに、例えば同領域にイオン注入を行ってオーミック接合を容易化する方法などがある。
【0031】
最後に、図7において、ゲート絶縁膜7上にゲート電極Gが形成され、これによってノーマリオフ型GaN系FETが完成する。その結果、こうして得られたノーマリオフ型GaN系FETにおいては、ゲート電極の高い耐電圧とチャネル層の低いオン抵抗を両立させることができる。
【0032】
次に、ゲート絶縁膜7に逆バイアス電界が生じた場合において、電子の逆バイアスリークに対するゲート絶縁膜7の効果について検討する。
【0033】
図8(A)は、図1(A)と同様に、ゲート絶縁膜7を含むゲート構造を示している。しかし、図8(B)は、図1(B)と異なって、図8(A)のゲート構造において逆バイアス電界が生じた時のエネルギバンド図を表している。この場合に、逆バイアスリークに対する主要な障壁をして作用するのは、ゲート電極GとHf0.7Al0.3Ox絶縁層7との間の電子エネルギ差による障壁である。しかし、このエネルギ障壁は、逆バイアスリークのより確実な防止の観点からは十分ではない場合も生じ得ることが危惧される。
【0034】
図9は、このような逆バイアスリークに関する危惧を解消するためのゲート構造の一例を示している。図9(A)は図8(A)に類似したゲート構造を示しているが、ゲート電極GとHf0.7Al0.3Ox絶縁層7bとの間にSiO2絶縁層7cを付加的に含んでいることにおいて異なっている。図9(A)中のゲート絶縁膜7Aに含まれるこのSiO2絶縁層7cの厚さも、絶縁破壊電界の観点から、SiO2絶縁層7aと同様に5nm以下の厚さを有し、好ましくは3nm以下の厚さを有している。
【0035】
図9(B)は、図9(A)のゲート構造において逆バイアス電界が生じた時のエネルギバンド図を表している。この図9(B)と図8(B)との対比から明らかなように、ゲート電極GとHf0.7Al0.3Ox絶縁層7bとの界面におけるエネルギ障壁に比べて、ゲート電極GとSiO2絶縁層7cとの界面におけるエネルギ障壁が高く、逆バイアスリークを確実に防止するように作用し得ることが分かる。
【0036】
なお、以上の本発明の実施形態ではGaNチャネル層に接する絶縁層として約100cm2V−1s−1の電子移動度μを可能にするSiO2層を利用する例が示されたが、本発明者らの測定ではSiNx層も約120cm2V−1s−1の高い電子移動度を可能にするので、GaNチャネル層に接する絶縁層としてSiNx層を用いてもよいことが明らかであり、その中間的な物質であるSi酸窒化物の絶縁層を用いてもよいことも明らかであろう。
【0037】
また、以上の本発明の実施形態ではGaNチャネル層に接する絶縁層上に積層されるHigh−k絶縁膜としてHfAlOを利用する例が示されたが、このようなHigh−k絶縁膜はGaNチャネル層に接する絶縁層に比べて大きなε×Ecを有しればよく、そのようなHigh−k絶縁膜としてHf、Zr、Ta、Al、Ti、Pr、およびSiの1種以上を含む酸化物、窒化物または酸窒化物からなる絶縁膜を利用することができる。特に、HfとZrの少なくとも一方およびAlとSiの少なくとも一方を含む複合的な酸化物、窒化物、または酸窒化物は、ε×Ecが特に大きくかつ耐熱性にも優れることから、本発明におけるHigh−k膜として好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明によれば、ゲート絶縁膜の高い絶縁破壊耐圧を有しかつチャネル抵抗が抑制されて低いオン抵抗を有するノーマリオフ型GaN系FETを提供することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 基板、2 バッファ層、3 AlGaN層、4 GaNチャネル層、5 AlGaN電子供給層、6 2次元電子ガス、7 ゲート絶縁膜、7a SiO2絶縁層、7b HfAlO絶縁層、7c SiO2絶縁層、7A ゲート絶縁膜、S ソース電極、G ゲート電極、D ドレイン電極。
【技術分野】
【0001】
本発明はGaN系電界効果トランジスタ(FET)に関し、特にノーマリオフ型GaN系FETの高いゲート耐電圧と低いオン抵抗の両立に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体の典型例であるGaN系半導体を利用したFETは、その材料の持つ特性からAlGaN/GaN界面に発生する2次元電子ガスをチャネルとして利用することにより、Siを用いた従来のFETに比べて、高い耐電圧特性と大電流動作が可能なトランジスタとして有望視されている。なかでも、ノーマリオフ型のFETは、故障時の安全性の観点から、特に大電流を扱うパワーデバイス分野において高い需要がある。なお、ノーマリオフ型FETとは、ゲートに電圧が印加されていないとき(通常時)にオフ状態であって、ゲートに電圧が印加されたときにオン状態になるトランジスタをいう。
【0003】
図10の模式的断面図は、特許文献1の国際公開WO03/071607A1に開示されたノーマリオフ型FETを示している。なお、本願の図面において、長さ、幅、厚さなどの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。
【0004】
図10のFETにおいては、基板11上にバッファ層12、GaNチャネル層13、および一対のAlGaN電子供給層14a、14bが順次積層されている。この場合に、GaNチャネル層13とAlGaN電子供給層14a、14bとのヘテロ界面において、図中の破線で表された2次元電子ガス6が生じる。一対のAlGaN電子供給層14a、14bの外側には、チャネル層13上にGaNコンタクト層16a、16bを介してソース電極Sとドレイン電極Dが形成されている。そして、一対のAlGaN電子供給層14a、14bの間のチャネル層13上には、絶縁膜15を介してゲート電極Gが形成されている。このようなFETでは、ゲート電極G下のチャネル層13には2次元電子ガス6が存在しておらず、ゲート電極Gに電圧が印加されていないときにはオフ状態を維持している。しかし、ゲート電極Gに電圧が印加されれば、ゲート電極G下のチャネル層13の上面に生じた反転層がAlGaN電子供給層14a、14b下の2次元電子ガスとつながって、FETのソース電極Sとドレイン電極Dとの間がオン状態になって通電し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO03/071607A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10に示されているようなノーマリオフ型GaN系FETのゲート部G0に関連する特性を本発明者らが鋭意検討したところ、ゲート絶縁膜として一般的なSiO2を用いた場合では、SiO2の誘電率εと絶縁破壊電界Ecとの積ε×Ecの値が小さいために、GaN系FETの特性が充分に生かせないことが分かった。
【0007】
そこで、本発明者らは、一般にHigh−k膜とも称される高誘電体膜をゲート絶縁膜として用いることを検討した。その結果、図10に示されているようなGaN系FETにおいてSiO2ゲート絶縁膜に替えてHigh−kゲート絶縁膜を用いた場合には、誘電率と絶縁破壊電界の積ε×Ecの値が充分であることがわかった。しかし、ゲート絶縁膜15はGaNチャネル層13に直接接して形成されるので、GaN層とHigh−k絶縁膜との界面のチャネルにおける電子移動度が低くなることが判明した。すなわち、High−kゲート絶縁膜を用いた場合には、GaN系FETが有する大電流動作可能な特性を充分に生かせないことが分かった。
【0008】
上述のようなゲート絶縁膜に関連する課題について、図11と図12を参照しつつより詳細に説明する。図11(A)はGaNチャネル層13上にSiO2絶縁膜15aとゲート電極Gが順次積層された断面構造を示しており、図11(B)はこのゲート電極Gにオン電圧を印加しているときの電子エネルギバンド図を示している。すなわち、図11(B)において、縦方向はエネルギレベルを表し、横方向は図11(A)の積層構造の厚さ方向を表している。また、図中の曲線eは、電子濃度分布を模式的に表している。なお、この図11(B)の例では、GaNチャネル層13下にAl0.05Ga0.95N層が設けられている。図12は図11に類似しているが、SiO2絶縁膜15aがHigh−k絶縁膜15bに変更されてことのみにおいて異なっている。なお、このHigh−k絶縁膜15bとしては、Hf0.7Al0.3Oxが用いられている。
【0009】
図11と図12のいずれの場合にも、ゲート電極Gにオン電圧を印加したときには、GaNチャネル層13とゲート絶縁膜15a、15bとの界面において、電子濃度分布を表す曲線eで示されているように反転層が形成される。しかし、SiO2ゲート絶縁膜15aを用いた場合に比べて、High−kゲート絶縁膜を用いた場合の方が、GaNチャネル層とゲート絶縁膜との界面における電子濃度が高くなる。この電子濃度が高いことは、FETがより大きな電流を流し得ることを意味する。
【0010】
また、発明者らが実測したところ、SiO2ゲート絶縁膜においては比誘電率εrが4であって絶縁破壊電界Ecが10MV/cmであり、Hf0.7Al0.3Oxゲート絶縁膜では比誘電率が18であって絶縁破壊電界Ecが5MV/cmであった。したがって、ゲート絶縁膜下で同じ電子濃度を得ようとする場合には、SiO2ゲート絶縁膜を用いたFETのゲート電極にはHf0.7Al0.3Oxゲート絶縁膜を用いた場合に比べて4.5倍の高いゲート電圧を印加しなければならないが、2倍程度のゲート電圧でSiO2ゲート絶縁膜がブレイクダウンすることになる。
【0011】
他方、本発明者らの測定によれば、SiO2ゲート絶縁膜とGaNチャネル層との界面における電子移動度は約100cm2V−1s−1であるが、HfAlOゲート絶縁膜とGaNチャネル層との界面における電子移動度は約20cm2V−1s−1にしかならない。この場合に、図10に示されているようにGaNチャネル層上に接してゲート絶縁膜を形成する構造のノーマリオフ型FETでは、ゲート電極下において2次元電子ガスを生じるヘテロ界面が存在しないので、ゲート絶縁膜下における電子移動度の低下はFETの特性を大きく損なうことになる。
【0012】
そこで、本発明は、ゲート絶縁膜の高い絶縁破壊耐圧を有しかつチャネル抵抗が抑制されて低いオン抵抗を有するノーマリオフ型GaN系FETを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によるノーマリオフ型GaN系FETは、第1種GaN系半導体からなるチャネル層と、このチャネル層上で互いに離間されて設けられた第2種GaN系半導体からなる一対の電子供給層と、これら一対の電子供給層の間でチャネル層を覆うゲート絶縁膜と、一対の電子供給層の外側でチャネル層にオーミックコンタクトしているソース電極およびドレイン電極と、ゲート絶縁膜上に形成されているゲート電極とを備え、ゲート絶縁膜はチャネル層上に順次堆積された第1と第2の絶縁層を含み、第1の絶縁層はSiの酸化物、窒化物および酸窒化物のいずれかからなりかつ5nm以下の厚さを有し、第2の絶縁層は第1の絶縁層に比べて大きなε×Ecを有し、ここでεは誘電率を表し、Ecは絶縁破壊電界を表すことを特徴としている。
【0014】
なお、第2の絶縁層は、Hf、Zr、Ta、Al、Ti、Pr、およびSiの1種以上を含む酸化物、窒化物または酸窒化物で形成され得る。ゲート絶縁膜は第2の絶縁層上に堆積された第3の絶縁層をさらに含んでもよく、この第3の絶縁層も第1の絶縁層と同様にSiの酸化物、窒化物および酸窒化物のいずれかからなりかつ5nm以下の厚さを有していることが好ましい。第1と第3の絶縁層の厚さは、3nm以下であることがより好ましい。チャネル層はGaNからなることが好ましく、電子供給層はAlGaNからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上のような本発明によるノーマリオフ型GaN系FETにおいては、ゲート絶縁膜の高い絶縁破壊耐圧が得られるとともに、チャネル抵抗が抑制されて低いオン抵抗を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は本発明によるノーマリオフ型GaN系FETにおけるゲート構造を示す模式的断面図であり、(B)はそのFETのオン状態時におけるゲート構造の電子エネルギバンド図である。
【図2】本発明によるノーマリオフ型GaN系FETの製造過程の一例を示す模式的断面図である。
【図3】図2に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図4】図3に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図5】図4に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図6】図5に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図7】図6に続く製造過程を示す模式的断面図である。
【図8】(A)は本発明によるノーマリオフ型GaN系FETにおけるゲート構造を示す模式的断面図であり、(B)はそのFETのゲート構造に逆バイアス電界を印加したときのエネルギバンド図である。
【図9】(A)は本発明によるノーマリオフ型GaN系FETにおけるゲート構造のもう1つの例を示す模式的断面図であり、(B)はそのFETのゲート構造に逆バイアス電界を印加したときのエネルギバンド図である。
【図10】先行技術によるノーマリオフ型GaN系FETを示す模式的断面図である。
【図11】(A)はSiO2ゲート絶縁膜を含む従来のノーマリオフ型GaN系FETにおけるゲート構造を示す模式的断面図であり、(B)はそのFETのゲート構造に逆バイアス電界を印加したときのエネルギバンド図である。
【図12】(A)はHfAlOゲート絶縁膜を含む従来のノーマリオフ型GaN系FETにおけるゲート構造を示す模式的断面図であり、(B)はそのFETのゲート構造に逆バイアス電界を印加したときのエネルギバンド図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ノーマリオフ型GaN系FETにおいて、低いオン抵抗を実現するためには、そのFETに含まれるチャネルのシート伝導率が高いことが望まれる。チャネルにおける最高のシート伝導率σsは、ゲート絶縁膜の誘電率がε、ゲート絶縁膜の絶縁破壊電界がEc、そしてゲート絶縁膜下のチャネルにおける電子の移動度がμであるとした場合に、周知の近似式(1)を用いて表すことができる。
【0018】
σs=ε×Ec×μ (1)
この近似式は、σs=Qs×μ=Cg×(Vg−Vth)×μ=(ε/t)×(Vg−Vth)×μ≒(ε/t)×Vg×μ=ε×(Vg/t)×μ=ε×Ec×μによって導出される。なお、Qsはチャネル電荷、Cgはゲート静電容量、Vgはゲート電圧、VthはFETの閾値電圧、そしてtは絶縁膜の厚さを表している。なお、この導出式において、最高のシート伝導率σsが得られるときの条件としてVg≫Vthが仮定されて、(Vg−Vth)≒Vgの近似が行われている。
【0019】
ここで、図11のゲート構造における最高のシート伝導率σsを求めれば、本発明者らの測定によるSiO2ゲート絶縁膜15aの比誘電率εrが4であり、絶縁破壊電界Ecが10MV/cmであり、そしてチャネルにおける電子の移動度μが約100cm2V−1s−1であるので、σs=ε×Ec×μ=3.54×10−4Sとなる。なお、誘電率はε=εr×ε0で表され、ε0は真空の誘電率を表す。また、図12のゲート構造における最高のシート伝導率σsを求めれば、発明者らの測定によるHf0.7Al0.3Oxゲート絶縁膜15aの比誘電率εrが18であり、絶縁破壊電界Ecが5MV/cmであり、そしてチャネルにおける電子の移動度μが約20cm2V−1s−1であるので、σs=ε×Ec×μ=1.59×10−4Sとなる。このことから、シート伝導率σsの観点からは、ゲート電極としてHf0.7Al0.3Ox膜を用いるよりもSiO2膜を用いる方が好ましいことが分かる。
【0020】
しかしながら、前述のように、SiO2ゲート絶縁膜においては比誘電率εrが4であって絶縁破壊電界Ecが10MV/cmであり、Hf0.7Al0.3Oxゲート絶縁膜では比誘電率が18であって絶縁破壊電界Ecが5MV/cmであるので、ゲート絶縁膜下で同じ電子濃度を得ようとする場合には、SiO2ゲート絶縁膜を用いたFETのゲート電極にはHf0.7Al0.3Oxゲート絶縁膜を用いた場合に比べて4.5倍の高いゲート電圧を印加しなければならないが、2倍程度のゲート電圧でSiO2ゲート絶縁膜がブレイクダウンすることになる。
【0021】
以上のような状況に鑑み、本発明者らは図1に示されているようなゲート構造を創案した。すなわち、図1(A)は本発明の一実施形態によるノーマリオフ型GaN系FETに含まれるゲート構造を模式的に示しており、(B)はそのFETのオン状態時におけるゲート構造の電子エネルギバンドを模式的に示している。より具体的には、GaNチャネル層4上に、ゲート絶縁膜7、およびゲート電極Gが順次積層されている。ただし、このゲート絶縁膜7においては、厚さ約3nmの極めて薄いSiO2層7aと厚さ約50nm程度のHf0.7Al0.3OxのHigh−k層7bとがこの順に積層されている。なお、GaNチャネル層4下にはAl0.05Ga0.95N層が設けられている。
【0022】
図1のゲート構造に関しては、ゲート絶縁膜7の厚さの大部分をHf0.7Al0.3Ox層7bが占めているので、上述の近似式(1)において、誘電率εと絶縁破壊電界Ecに関してはHf0.7Al0.3Ox層7bの比誘電率εr=18と絶縁破壊電界Ec=5MV/cmの値を用いることができる。他方、ゲート絶縁膜7下のチャネル層における電子移動度μの値としては、SiO2層7aに関するμ≒100cm2V−1s−1値を用いることができる。これらの値を用いて式(1)を計算すれば、図1のゲート構造に関してチャネルの最高のシート伝導率としてσs=ε×Ec×μ=7.97×10−4Sの値が得られる。すなわち、図11のゲート構造におけるσs=3.54×10−4Sおよび図12におけるゲート構造におけるσs=1.59×10−4Sに比べて、図1のゲート構造においては遥かに高いシート伝導率が得られることが分かる。このことによって、図1のゲート構造を含むノーマリオフ型GaN系FETにおいて、オン抵抗を顕著に低減することができる。
【0023】
ところで、SiO2層7aとHf0.7Al0.3Ox層7bとを含むゲート絶縁膜7において、SiO2層7aが絶縁破壊しないかが危惧される。これに関して、以下において検討する。HfAlO層(比誘電率εr=18)とSiO2層(比誘電率εr=4)を含む2層絶縁膜に電圧Vを印加し、その絶縁膜にE=22MV/cmの電界が発生している状態を考える。この場合、絶縁膜に含まれる各誘電体層に生じる電界は比誘電率に反比例し、HfAlO層には22×4/(18+4)=4MV/cmの電界が発生し、SiO2層には22×18/(18+4)=18MV/cmの電界が発生する。したがって、前述のようにHfAlO層の破壊電界は約5MV/cmであるのに対して、ゲート絶縁膜として通常厚さのSiO2層の絶縁破壊電界は約10MV/cmであるので、SiO2層が絶縁破壊することになる。そしてSiO2層が絶縁破壊すればHfAlO層も絶縁破壊し、FET全体もブレークダウンすることになる。
【0024】
しかし、誘電体層の厚さが極めて薄くなった場合に、その誘電体層の絶縁破壊電界Ecが高くなることが経験的に一般に知られている。これは、以下のように考えることができる。すなわち、誘電体層に高電圧が印加された時に電子が加速されながら移動し、その速度が或る限界を超えたときに雪崩れ的(アバレンチェ的)に電子が流れ、これによって絶縁破壊が生じると考えられる。しかし、誘電体層が極めて薄い場合には、電子が十分に加速される前にその誘電体層を通り抜け、雪崩れ的な電子の流れが生じないと考えられる。このように誘電体層の厚さが極めて薄くなった場合に絶縁破壊電界Ecが高くなるという経験的事実を考慮すれば、厚さ5nm以下でより確実には厚さ3nm以下のSiO2層の絶縁破壊電界が18MV/cm以上になり得る。そして、ゲート絶縁膜7全体として、上述の例におけるEc=22MV/cmの電界に耐えることができ、高いシート伝導率σs=εEμを実現することが可能となり、チャネル抵抗を低下させることができる。なお、ゲート電極に印加される電圧Vは、V=(HfAlO層に生じる電界E)×(HfAlO層の厚さ)+(SiO2層に生じる電界E)×(SiO2層の厚さ)として表される。
【0025】
図2から図7の模式的断面図は、図1に示されているようなゲート構造を含むノーマリオフ型GaN系FETの作製過程の一例を示している。
【0026】
まず、図2において、Si、Al2O3、SiC、またはAlNなどの基板1上にバッファ層2、厚さ1000nmのAl0.05Ga0.95N層3、厚さ40nmのGaNチャネル層4、およびAl0.25Ga0.75N電子供給層5が、例えば周知のMOCVD(有機金属気相堆積)またはMBE(分子ビームエピタキシ)などを利用して順次に積層される。このようにGaNチャネル層4上にAlGaN電子供給層5を積層した場合に、自発分極とピエゾ分極との両作用によってヘテロ界面に2次元電子ガス6が生じる。
【0027】
次に、図3において、ゲート領域を形成するために、RIE(反応性イオンエッチング)またはICP(高周波誘導結合プラズマ)などを利用して電子供給層5の一部を除去し、GaNチャネル層4の上面の一部領域を露出させる。この結果、GaNチャネル層4とAlGaN電子供給層5との間に生じた2次元電子ガス6は、GaNチャネル層4の露出された領域において途絶えることになる。
【0028】
図4においては、スパッタリングによって厚さ5nm以下で好ましくは3nm以下のSiO2絶縁層7aおよび例えば厚さ50nmのHf0.7Al0.3Ox絶縁層7bを堆積し、さらにそれらの絶縁層の不要領域をエッチングによって除去することによって、ゲート絶縁膜7が形成される。
【0029】
図5においては、ゲート絶縁膜7によって覆われていない領域において、電子供給層5がRIEまたはICPなどを利用してエッチング除去される。これによって、一対の電子供給層5の外側において、GaNチャネル層4の上面が露出される。
【0030】
図6においては、一対の電子供給層5の外側において露出されたGaNチャネル層4上に、ソース電極Sとドレイン電極Dが堆積され、オーミック接合のためのアニール処理が行なわれる。なお、図5における電子供給層5のエッチングは、図6におけるソース電極Sとドレイン電極Dのオーミック接合をより確実に行うための方法の一例である。その他のオーミック接合形成方法としては、図5における電子供給層5のエッチングを行う代わりに、例えば同領域にイオン注入を行ってオーミック接合を容易化する方法などがある。
【0031】
最後に、図7において、ゲート絶縁膜7上にゲート電極Gが形成され、これによってノーマリオフ型GaN系FETが完成する。その結果、こうして得られたノーマリオフ型GaN系FETにおいては、ゲート電極の高い耐電圧とチャネル層の低いオン抵抗を両立させることができる。
【0032】
次に、ゲート絶縁膜7に逆バイアス電界が生じた場合において、電子の逆バイアスリークに対するゲート絶縁膜7の効果について検討する。
【0033】
図8(A)は、図1(A)と同様に、ゲート絶縁膜7を含むゲート構造を示している。しかし、図8(B)は、図1(B)と異なって、図8(A)のゲート構造において逆バイアス電界が生じた時のエネルギバンド図を表している。この場合に、逆バイアスリークに対する主要な障壁をして作用するのは、ゲート電極GとHf0.7Al0.3Ox絶縁層7との間の電子エネルギ差による障壁である。しかし、このエネルギ障壁は、逆バイアスリークのより確実な防止の観点からは十分ではない場合も生じ得ることが危惧される。
【0034】
図9は、このような逆バイアスリークに関する危惧を解消するためのゲート構造の一例を示している。図9(A)は図8(A)に類似したゲート構造を示しているが、ゲート電極GとHf0.7Al0.3Ox絶縁層7bとの間にSiO2絶縁層7cを付加的に含んでいることにおいて異なっている。図9(A)中のゲート絶縁膜7Aに含まれるこのSiO2絶縁層7cの厚さも、絶縁破壊電界の観点から、SiO2絶縁層7aと同様に5nm以下の厚さを有し、好ましくは3nm以下の厚さを有している。
【0035】
図9(B)は、図9(A)のゲート構造において逆バイアス電界が生じた時のエネルギバンド図を表している。この図9(B)と図8(B)との対比から明らかなように、ゲート電極GとHf0.7Al0.3Ox絶縁層7bとの界面におけるエネルギ障壁に比べて、ゲート電極GとSiO2絶縁層7cとの界面におけるエネルギ障壁が高く、逆バイアスリークを確実に防止するように作用し得ることが分かる。
【0036】
なお、以上の本発明の実施形態ではGaNチャネル層に接する絶縁層として約100cm2V−1s−1の電子移動度μを可能にするSiO2層を利用する例が示されたが、本発明者らの測定ではSiNx層も約120cm2V−1s−1の高い電子移動度を可能にするので、GaNチャネル層に接する絶縁層としてSiNx層を用いてもよいことが明らかであり、その中間的な物質であるSi酸窒化物の絶縁層を用いてもよいことも明らかであろう。
【0037】
また、以上の本発明の実施形態ではGaNチャネル層に接する絶縁層上に積層されるHigh−k絶縁膜としてHfAlOを利用する例が示されたが、このようなHigh−k絶縁膜はGaNチャネル層に接する絶縁層に比べて大きなε×Ecを有しればよく、そのようなHigh−k絶縁膜としてHf、Zr、Ta、Al、Ti、Pr、およびSiの1種以上を含む酸化物、窒化物または酸窒化物からなる絶縁膜を利用することができる。特に、HfとZrの少なくとも一方およびAlとSiの少なくとも一方を含む複合的な酸化物、窒化物、または酸窒化物は、ε×Ecが特に大きくかつ耐熱性にも優れることから、本発明におけるHigh−k膜として好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明によれば、ゲート絶縁膜の高い絶縁破壊耐圧を有しかつチャネル抵抗が抑制されて低いオン抵抗を有するノーマリオフ型GaN系FETを提供することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 基板、2 バッファ層、3 AlGaN層、4 GaNチャネル層、5 AlGaN電子供給層、6 2次元電子ガス、7 ゲート絶縁膜、7a SiO2絶縁層、7b HfAlO絶縁層、7c SiO2絶縁層、7A ゲート絶縁膜、S ソース電極、G ゲート電極、D ドレイン電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノーマリオフ型GaN系電界効果トランジスタであって、
第1種GaN系半導体からなるチャネル層と、
前記チャネル層上で互いに離間されて設けられた第2種GaN系半導体からなる一対の電子供給層と、
前記一対の電子供給層の間で前記チャネル層を覆うゲート絶縁膜と、
前記チャネル層にオーミックコンタクトしているソース電極およびドレイン電極と、
前記ゲート絶縁膜上に形成されているゲート電極とを備え、
前記ゲート絶縁膜は前記チャネル層上に順次堆積された第1と第2の絶縁層を含み、
前記第1の絶縁層はSiの酸化物、窒化物および酸窒化物のいずれかからなりかつ5nm以下の厚さを有し、
前記第2の絶縁層は前記第1の絶縁層に比べて大きなε×Ecを有し、ここでεは誘電率を表し、Ecは絶縁破壊電界を表すことを特徴とするトランジスタ。
【請求項2】
前記第2の絶縁層はHf、Zr、Ta、Al、Ti、Pr、およびSiの1種以上を含む酸化物、窒化物または酸窒化物からなることを特徴とする請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項3】
前記第1の絶縁層の厚さが3nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のトランジスタ。
【請求項4】
前記ゲート絶縁膜は前記第2の絶縁層上に堆積された第3の絶縁層をさらに含み、この第3の絶縁層も前記第1の絶縁層と同様にSiの酸化物、窒化物および酸窒化物のいずれかからなりかつ5nm以下の厚さを有していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のトランジスタ。
【請求項5】
前記第3の絶縁層の厚さが3nm以下であることを特徴とする請求項4に記載のトランジスタ。
【請求項6】
前記第2の絶縁層はHf、Zr、Ta、Al、Ti、Pr、およびSiの2種以上を含む酸化物、窒化物または酸窒化物からなることを特徴とする請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項7】
前記チャネル層はGaNからなり、前記電子供給層はAlGaNからなることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のトランジスタ。
【請求項1】
ノーマリオフ型GaN系電界効果トランジスタであって、
第1種GaN系半導体からなるチャネル層と、
前記チャネル層上で互いに離間されて設けられた第2種GaN系半導体からなる一対の電子供給層と、
前記一対の電子供給層の間で前記チャネル層を覆うゲート絶縁膜と、
前記チャネル層にオーミックコンタクトしているソース電極およびドレイン電極と、
前記ゲート絶縁膜上に形成されているゲート電極とを備え、
前記ゲート絶縁膜は前記チャネル層上に順次堆積された第1と第2の絶縁層を含み、
前記第1の絶縁層はSiの酸化物、窒化物および酸窒化物のいずれかからなりかつ5nm以下の厚さを有し、
前記第2の絶縁層は前記第1の絶縁層に比べて大きなε×Ecを有し、ここでεは誘電率を表し、Ecは絶縁破壊電界を表すことを特徴とするトランジスタ。
【請求項2】
前記第2の絶縁層はHf、Zr、Ta、Al、Ti、Pr、およびSiの1種以上を含む酸化物、窒化物または酸窒化物からなることを特徴とする請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項3】
前記第1の絶縁層の厚さが3nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のトランジスタ。
【請求項4】
前記ゲート絶縁膜は前記第2の絶縁層上に堆積された第3の絶縁層をさらに含み、この第3の絶縁層も前記第1の絶縁層と同様にSiの酸化物、窒化物および酸窒化物のいずれかからなりかつ5nm以下の厚さを有していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のトランジスタ。
【請求項5】
前記第3の絶縁層の厚さが3nm以下であることを特徴とする請求項4に記載のトランジスタ。
【請求項6】
前記第2の絶縁層はHf、Zr、Ta、Al、Ti、Pr、およびSiの2種以上を含む酸化物、窒化物または酸窒化物からなることを特徴とする請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項7】
前記チャネル層はGaNからなり、前記電子供給層はAlGaNからなることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のトランジスタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−233695(P2011−233695A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102217(P2010−102217)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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