説明

ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置

【課題】エンジン始動を伴うモード切り換えや、変速による伝動状態の切り替えを、滑らかに、且つ、高応答に行わせ得る装置を提案する。
【解決手段】アクセル開度APOの増大でt2にエンジン始動を伴うEV→HEVモード切り換え指令が発せられ、次いでt5に5→4ダウンシフト指令が発せられる。t2より第1クラッチを実圧Pc1により締結直前状態にし、t2から設定時間TM1が経過するt3より、モータトルクTmをエンジン始動用に増大させて回転数Nmを上昇させる。Tmの上昇で第2クラッチ(H&LR/C)がスリップを開始し、その回転差が所定値に達したt4より第1クラッチを締結開始させ、エンジン始動を開始させる。t5に解放要素(Fr/B)のトルク容量Toを、第2クラッチ相当値まで低下させ、締結要素(D/C)を締結直前状態にし、解放要素の解放進行と、締結要素の締結進行とによる5→4変速終了判定時t8に、解放要素を完全に解放させると共に、締結要素を完全に締結させ、5→4ダウンシフトを完了させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン以外にモータ/ジェネレータからの動力によっても走行することができ、モータ/ジェネレータからの動力のみにより走行する電気走行(EV)モードと、エンジンおよびモータ/ジェネレータの双方からの動力により走行可能なハイブリッド走行(HEV)モードとを有するハイブリッド車両に関し、
特に、前者のEVモードでの走行中にエンジン出力が必要になって後者のHEVモードへ切り換えるに際して要求されるエンジンの始動や、モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間の伝動経路を切り替える変速で、ハイブリッド車両の伝動状態が切り替わる時における好適な伝動状態切り替え制御を提供する技術に係わる。
【背景技術】
【0002】
上記のようなハイブリッド車両に用いるハイブリッド駆動装置としては従来、様々な型式のものが提案されているが、そのうちの1つとして、特許文献1に記載のごときものが知られている。
このハイブリッド駆動装置は、エンジン回転を変速機に向かわせる軸に結合して、これらエンジンおよび変速機間にモータ/ジェネレータを具え、エンジンおよびモータ/ジェネレータ間を切り離し可能に結合する第1クラッチを有すると共に、モータ/ジェネレータおよび変速機出力軸間を切り離し可能に結合する第2クラッチをトルクコンバータの代わりに有した構成になるものである。
【0003】
かかるハイブリッド駆動装置を具えたハイブリッド車両は、第1クラッチを解放すると共に第2クラッチを締結する場合、モータ/ジェネレータからの動力のみにより走行する電気走行(EV)モードとなり、第1クラッチおよび第2クラッチをともに締結する場合、エンジンおよびモータ/ジェネレータの双方からの動力により走行可能なハイブリッド走行(HEV)モードとなり得る。
【0004】
かかるハイブリッド車両においては、
前者のEVモードでの走行中、アクセルペダルの踏み込み操作により要求駆動力が増大し、モータ/ジェネレータのみでこの要求駆動力を実現することができなくなったためエンジン出力が必要になった場合、当該EVモードから後者のHEVモードへ切り換えることになるが、
このEV→HEVモード切り替えに当たっては、第1クラッチを締結してモータ/ジェネレータによりエンジンを始動させながら当該モード切り替えを行う必要があり、更にこの時、アクセルペダルの踏み込みに起因して変速機の変速が同時に必要な場合もある。
また、当該モード切り替え後HEVモードでの走行中にも、アクセルペダル操作や車速変化に起因して変速機の変速が必要な場合がある。
【0005】
ところで、上記EV→HEVモード切り替え時の第1クラッチの締結およびモータ/ジェネレータによるエンジン始動、および変速機の変速や、上記HEVモードでの変速機の変速は、短時間のうちに行われるのがよく、また、上記したエンジンの始動および変速機の変速はショックなく滑らかに行われるのが好ましい。
しかし、この要求を満たすような制御技術について従来、特許文献1も含めて好適な提案がなされていなかった。
【特許文献1】特開平11−082260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の要求のためには、上記EVモードからHEVモードへのモード切り替えに際して第1クラッチの締結およびモータ/ジェネレータによりエンジンを始動させる場合や、当該モード切り替え時の変速およびHEVモードでの変速を行わせる場合に、モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間における伝動系のクラッチを選択的に解放させて、エンジン始動時間および変速時間の短縮を図ると共にこれらに伴うトルク変化が駆動車輪に向かわないようにすることが考えられる。
【0007】
しかし、モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間における伝動系のクラッチを選択的に解放させる対策では、駆動車輪が完全に動力源から切り離されて駆動力の抜け感が発生するため、特にアクセルペダルをゆっくりと操作する場合において違和感となる問題を生ずる。
【0008】
なお、更に高度な考え方を用いて、モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間における伝動系のクラッチを完全に解放させる代わりに、当該クラッチを伝達トルク容量制御して駆動車輪への駆動力を維持したままエンジン始動を行ったり、変速を行わせることも考えられるが、
同じアクセルペダル操作に対しエンジンの始動要求と変速要求とが同時に発生した場合、エンジン始動のためのシークエンス制御の後に変速のためのシークエンス制御を行ったり、逆に、変速のためのシークエンス制御の後にエンジン始動のためのシークエンス制御を行うこととなり、前記ショックの問題や上記駆動力の抜け感に関する問題は解消されるものの、エンジン始動および変速に要する時間が長くなるという別の問題を生ずる。
【0009】
本発明は、モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間における伝動系のクラッチを伝達トルク容量制御して駆動車輪への駆動力を維持したままエンジン始動を行ったり、変速を行わせる上記の考え方を踏襲して、前記ショックの問題や上記駆動力の抜け感に関する問題を解消するのに加え、エンジン始動のための制御と変速のための制御とを同時並行して行い得るようにすることで、エンジン始動および変速に要する時間が長くなるという上記別の問題をも解消したハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため、本発明によるハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置は、請求項1に記載した以下の構成とする。
先ず、前提となるハイブリッド車両を説明するに、これは、
動力源としてエンジンおよびモータ/ジェネレータを具え、これらエンジンおよびモータ/ジェネレータ間に伝達トルク容量を変更可能な第1クラッチを介在させ、モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間に伝達トルク容量を変更可能な第2クラッチを介在させ、
エンジンを停止させ、第1クラッチを解放すると共に第2クラッチを締結することによりモータ/ジェネレータからの動力のみによる電気走行モードを選択可能で、第1クラッチおよび第2クラッチを共に締結することによりエンジンおよびモータ/ジェネレータの双方からの動力によるハイブリッド走行モードを選択可能にしたものである。
【0011】
本発明は、かかるハイブリッド車両において、
前記第2クラッチを締結した状態での動力伝達中、前記第1クラッチを締結させてモータ/ジェネレータにより前記エンジンを始動する際や、前記モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間の伝動経路を変速用に切り替える際に、第2クラッチの伝達トルク容量、若しくは、前記変速に際して締結状態から解放させるべき解放側変速摩擦要素の伝達トルク容量、或いは、前記変速に際して解放状態から締結させるべき締結側変速摩擦要素の伝達トルク容量を、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にしておくよう構成した点に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0012】
上記した本発明によるハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置によれば、以下の作用効果が奏し得られる。
つまり、第1クラッチを締結させてモータ/ジェネレータによりエンジンを始動する際や、モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間の伝動経路を変速用に切り替える際に、第2クラッチの伝達トルク容量、若しくは、解放側変速摩擦要素の伝達トルク容量、或いは、締結側変速摩擦要素の伝達トルク容量を、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にしておくため、
駆動車輪への駆動力を運転者による駆動力要求値に応じた駆動力に維持したまま、上記のエンジン始動や変速を行わせることとなり、駆動力の抜け感に関する前記の問題を解消し得ると共に、駆動力要求値を超えたトルク変化を第2クラッチ、若しくは、解放側変速摩擦要素、或いは締結側変速摩擦要素のスリップにより吸収して前記したショックの問題を解消することができる。
【0013】
更に同様な理由から、モータ/ジェネレータのトルクを、運転者による駆動力要求値を超えた大きなものとすることにより、駆動車輪への駆動力を運転者による駆動力要求値に応じた駆動力に維持したまま、余剰分のモータ/ジェネレータトルクでエンジンの始動を行わせることができると共に、このエンジン始動中に解放側変速摩擦要素の解放および締結側変速摩擦要素の締結により変速を同時並行して行い得ることとなり、エンジン始動および変速に要する時間が長くなるという前記別の問題をも解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の伝動状態切り替え制御装置を適用可能なハイブリッド駆動装置を具えたフロントエンジン・リヤホイールドライブ式ハイブリッド車両のパワートレーンを示し、1はエンジン、2は駆動車輪(後輪)である。
図1に示すハイブリッド車両のパワートレーンにおいては、通常の後輪駆動車と同様にエンジン1の車両前後方向後方に自動変速機3をタンデムに配置し、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を自動変速機3の入力軸3aへ伝達する軸4に結合してモータ/ジェネレータ5を設ける。
【0015】
モータ/ジェネレータ5は、モータとして作用したり、ジェネレータ(発電機)として作用するもので、エンジン1および自動変速機3間に配置する。
このモータ/ジェネレータ5およびエンジン1間に、より詳しくは、軸4とエンジンクランクシャフト1aとの間に第1クラッチ6を介挿し、この第1クラッチ6によりエンジン1およびモータ/ジェネレータ5間を切り離し可能に結合する。
ここで第1クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的または段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0016】
モータ/ジェネレータ5および自動変速機3間に、より詳しくは、軸4と変速機入力軸3aとの間に第2クラッチ7を介挿し、この第2クラッチ7によりモータ/ジェネレータ5および自動変速機3間を切り離し可能に結合する。
第2クラッチ7も第1クラッチ6と同様、伝達トルク容量を連続的または段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0017】
自動変速機3は、2003年1月、日産自動車(株)発行「スカイライン新型車(CV35型車)解説書」第C−9頁〜第C−22頁に記載されたと同じものとし、複数の変速摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結したり解放することで、これら変速摩擦要素の締結・解放組み合わせにより伝動経路(変速段)を決定するものとする。
従って自動変速機3は、入力軸3aからの回転を選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。
この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8により左右後輪2へ分配して伝達され、車両の走行に供される。
但し自動変速機3は、上記したような有段式のものに限られず、無段変速機であってもよいのは言うまでもない。
【0018】
自動変速機3は、図4に示すごときもので、以下にその概略を説明する。
入出力軸3a,3bは同軸突き合わせ関係に配置し、これら入出力軸3a,3b 上にエンジン1(モータ/ジェネレータ5)の側から順次フロントプラネタリギヤ組Gf、センタープラネタリギヤ組Gm、およびリヤプラネタリギヤ組Grを載置して具え、これらを自動変速機3における遊星歯車変速機構の主たる構成要素とする。
【0019】
エンジン1(モータ/ジェネレータ5)に最も近いフロントプラネタリギヤ組Gfは、フロントサンギヤSf 、フロントリングギヤRf 、これらに噛合するフロントピニオンPf 、および該フロントピニオンを回転自在に支持するフロントキャリアCf よりなる単純遊星歯車組とし、
次にエンジン1(モータ/ジェネレータ5)に近いセンタープラネタリギヤ組Gmは、センターサンギヤSm 、センターリングギヤRm 、これらに噛合するセンターピニオンPm 、および該センターピニオンを回転自在に支持するセンターキャリアCm よりなる単純遊星歯車組とし、
エンジン1(モータ/ジェネレータ5)から最も遠いリヤプラネタリギヤ組Grは、リヤサンギヤSr 、リヤリングギヤRr 、これらに噛合するリヤピニオンPr 、および該リヤピニオンを回転自在に支持するリヤキャリアCr よりなる単純遊星歯車組とする。
【0020】
遊星歯車変速機構の伝動経路(変速段)を決定する変速摩擦要素としては、フロントブレーキFr/B、インプットクラッチI/C、ハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/C、ダイレクトクラッチD/C、リバースブレーキR/B、ロー・コーストブレーキLC/B、およびフォワードブレーキFWD/Bを設け、これらを3個のワンウェイクラッチ、つまり3速ワンウェイクラッチ3rd/OWC、1速ワンウェイクラッチ1st/OWCおよびフォワードワンウェイクラッチFWD/OWCとともに、以下のごとくプラネタリギヤ組Gf,Gm,Grの上記構成要素に相関させて自動変速機3の遊星歯車変速機構を構成する。
【0021】
フロントリングギヤRfは入力軸3aに結合し、センターリングギヤRmは、インプットクラッチI/Cにより適宜入力軸3aに結合可能とする。
フロントサンギヤSfは、3速ワンウェイクラッチ3rd/OWCを介してエンジン1の回転方向と逆の方向へ回転しないようにすると共に、3速ワンウェイクラッチ3rd/OWCに対し並列的に配置したフロントブレーキFr/Bにより適宜固定可能にする。
フロントキャリアCfおよびリヤリングギヤRrを相互に結合し、センターリングギヤRmおよびリヤキャリアCrを相互に結合する。
【0022】
センターキャリアCmは出力軸3bに結合し、センターサンギヤSmおよびリヤサンギヤSr間は、1速ワンウェイクラッチ1st/OWCを介してセンターサンギヤSmがリヤサンギヤSrに対しエンジン1の回転方向と逆の方向へ回転しないようにすると共に、ハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/CによりセンターサンギヤSmおよびリヤサンギヤSrを相互に結合可能とする。
【0023】
リヤサンギヤSrおよびリヤキャリアCr間をダイレクトクラッチD/Cにより結合可能とし、リヤキャリアCrをリバースブレーキR/Bにより適宜固定可能とする。
センターサンギヤSmは更に、フォワードブレーキFWD/BおよびフォワードワンウェイクラッチFWD/OWCにより、フォワードブレーキFWD/Bの締結状態でエンジン1の回転方向と逆の方向へ回転しないようにすると共に、ロー・コーストブレーキLC/Bにより適宜固定可能にし、これがためロー・コーストブレーキLC/BをフォワードブレーキFWD/BおよびフォワードワンウェイクラッチFWD/OWCに対し並列的に設ける。
【0024】
上記遊星歯車変速機構の動力伝達列は、共線図により示すと図5に示すごときもので、
7個の変速摩擦要素Fr/B,I/C,H&LR/C,D/C,R/B,LC/B,FWD/B、および3個のワンウェイクラッチ3rd/OWC,1st/OWC,FWD/OWCの図6に〇印および●印(エンジンブレーキ時)で示す選択的係合により、前進第1速(1st)、前進第2速(2nd)、前進第3速(3rd)、前進第4速(4th)および前進第5速(5th)の前進変速段と、後退変速段(Rev )とを得ることができる。
【0025】
上記した自動変速機3を具える図1のパワートレーンにおいては、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時に用いられる電気走行(EV)モードが要求される場合、第1クラッチ6を解放し、第2クラッチ7を締結し、自動変速機3を動力伝達状態にする。
【0026】
この状態でモータ/ジェネレータ5を駆動すると、当該モータ/ジェネレータ5からの出力回転のみが変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をモータ/ジェネレータ5のみによって電気走行(EV走行)させることができる。
【0027】
高速走行時や、大負荷走行時や、バッテリの持ち出し可能電力が少ない時などで用いられるハイブリッド走行(HEV走行)モードが要求される場合、第1クラッチ6および第2クラッチ7をともに締結し、自動変速機3を動力伝達状態にする。
この状態では、エンジン1からの出力回転、または、エンジン1からの出力回転およびモータ/ジェネレータ5からの出力回転の双方が変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して、変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をエンジン1およびモータ/ジェネレータ5の双方によってハイブリッド走行(HEV走行)させることができる。
【0028】
かかるHEV走行中において、エンジン1を最適燃費で運転させるとエネルギーが余剰となる場合、この余剰エネルギーによりモータ/ジェネレータ5を発電機として作動させることで余剰エネルギーを電力に変換し、この発電電力をモータ/ジェネレータ5のモータ駆動に用いるよう蓄電しておくことでエンジン1の燃費を向上させることができる。
【0029】
なお図1では、モータ/ジェネレータ5および駆動車輪2を切り離し可能に結合する第2クラッチ7を、モータ/ジェネレータ5および自動変速機3間に介在させたが、
図2に示すように、第2クラッチ7を自動変速機3およびディファレンシャルギヤ装置8間に介在させても、同様に機能させることができる。
【0030】
また、図1および図2では第2クラッチ7として専用のものを自動変速機3の前、若しくは、後に追加することとしたが、
この代わりに第2クラッチ7として、図3に示すごとく自動変速機3内に既存する前進変速段選択用の変速摩擦要素または後退変速段選択用の変速摩擦要素を流用するようにしてもよい。
第2クラッチ7として流用する自動変速機3の変速摩擦要素については後述する。
この場合、第2クラッチ7が前記したモード選択機能を果たすのに加えて、この機能を果たすよう締結される時に自動変速機を対応変速段への変速により動力伝達状態にすることとなり、専用の第2クラッチが不要でコスト上大いに有利である。
【0031】
図1〜3に示すハイブリッド車両のパワートレーンを成すエンジン1、モータ/ジェネレータ5、第1クラッチ6、および第2クラッチ7は、図7に示すようなシステムにより制御する。
なお以下では、パワートレーンが図3に示すようなものである(第2クラッチ7として自動変速機3内に既存の変速摩擦要素を流用したもの)である場合につき説明を展開するものとする。
【0032】
図7の制御システムは、パワートレーンの動作点を統合制御する統合コントローラ20を具え、パワートレーンの動作点を、目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータトルクtTm(目標モータ/ジェネレータ回転数tNmでもよい)と、第1クラッチ6の目標伝達トルク容量tTc1(第1クラッチ指令圧tPc1)と、第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2(第2クラッチ指令圧tPc2)とで規定する。
【0033】
統合コントローラ20には、上記パワートレーンの動作点を決定するために、
エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ11からの信号と、
モータ/ジェネレータ回転数Nmを検出するモータ/ジェネレータ回転センサ12からの信号と、
変速機入力回転数Niを検出する入力回転センサ13からの信号と、
変速機出力回転数Noを検出する出力回転センサ14からの信号と、
エンジン1の要求負荷状態を表すアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度APO)を検出するアクセル開度センサ15からの信号と、
モータ/ジェネレータ5用の電力を蓄電しておくバッテリ9の蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)を検出する蓄電状態センサ16からの信号とを入力する。
【0034】
なお、上記したセンサのうち、エンジン回転センサ11、モータ/ジェネレータ回転センサ12、入力回転センサ13、および出力回転センサ14はそれぞれ、図1〜3に示すように配置することができる。
【0035】
統合コントローラ20は、上記入力情報のうちアクセル開度APO、バッテリ蓄電状態SOC、および変速機出力回転数No(車速VSP)から、運転者が希望している車両の駆動力を実現可能な運転モード(EVモード、HEVモード)を選択すると共に、目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm(目標モータ/ジェネレータ回転数tNmでもよい)、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1(第1クラッチ指令圧tPc1)、および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2(第2クラッチ指令圧tPc2)をそれぞれ演算する。
目標エンジントルクtTeはエンジンコントローラ21に供給され、目標モータ/ジェネレータトルクtTm(目標モータ/ジェネレータ回転数tNmでもよい)はモータ/ジェネレータコントローラ22に供給される。
【0036】
エンジンコントローラ21は、エンジントルクTeが目標エンジントルクtTeとなるようエンジン1を制御し、
モータ/ジェネレータコントローラ22はモータ/ジェネレータ5のトルクTm(または回転数Nm)が目標モータ/ジェネレータトルクtTm(または目標モータ/ジェネレータ回転数tNm)となるよう、バッテリ9およびインバータ10を介してモータ/ジェネレータ5を制御する。
統合コントローラ20は、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1(第1クラッチ指令圧tPc1)および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2(第2クラッチ指令圧tPc2)に対応したソレノイド電流を第1クラッチ6および第2クラッチ7の油圧制御ソレノイド(図示せず)に供給し、第1クラッチ6の伝達トルク容量Tc1(第1クラッチ圧Pc1)が目標伝達トルク容量tTc1(第1クラッチ指令圧tPc1)に一致するよう、また、第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2(第2クラッチ圧Pc2)が目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2(第2クラッチ指令圧tPc2)に一致するよう、第1クラッチ6および第2クラッチ7を個々に締結力制御する。
【0037】
統合コントローラ20は、上記した運転モード(EVモード、HEVモード)の選択、そして目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm(目標モータ/ジェネレータ回転数tNmでもよい)、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1(第1クラッチ指令圧tPc1)、および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2(第2クラッチ指令圧tPc2)の演算を、図8に示すメインルーチンにより実行する。
【0038】
先ずステップS1において、予定の到達目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOおよび車速VSPから、定常的な到達目標駆動力tFo0を演算する。
次のステップS2においては、予定の変速マップをもとにアクセル開度APOおよび車速VSPから目標変速段SHIFTを決定し、これをステップS9で自動変速機3の変速制御部(図示せず)へ指令して自動変速機3を目標変速段SHIFTへと変速させる。
【0039】
ステップS3においては、予定の目標運転モード領域マップを用いて、アクセル開度APOおよび車速VSPから目標とする運転モード(EVモード、HEVモード)を決定する。
目標運転モードとして通常、高負荷(大アクセル開度)・高車速時はHEVモードをあてがい、低負荷・低車速時はEVモードをあてがうように上記の目標運転モード領域マップを定めるのが普通である。
【0040】
次のステップS4においては、現在の運転モードと上記目標運転モードとの対比により、運転モード遷移演算を以下のごとくに行う。
現在の運転モードと目標運転モードとが一致していれば、現在の運転モードEVモードまたはHEVモードを保持するよう指令し、
現在の運転モードがEVモードで、目標運転モードがHEVモードであれば、EVモードからHEVモードへのモード切り換えを指令し、
現在の運転モードがHEVモードで、目標運転モードがEVモードであれば、HEVモードからEVモードへのモード切り換えを指令する。
そして、これらの指令をステップS9で出力することにより、指令通りにモード保持や、モード切り換えを行わせる。
【0041】
ステップS5においては、現在の駆動力から、ステップS1で求めた到達目標駆動力tFo0へ、所定の味付けをもった応答で移行するのに必要な時々刻々の過渡目標駆動力tFoを演算する。
この演算に当たっては例えば、到達目標駆動力tFo0を所定時定数のローパスフィルタに通過させて得られる出力を過渡目標駆動力tFoとすることができる。
【0042】
ステップS6においては、運転モード(EVモード、HEVモード)や、モード切り替えに応じて、過渡目標駆動力tFoと、駆動車輪2のタイヤ有効半径Rtと、ファイナルギヤ比ifと、現在の選択変速段により決まる自動変速機3のギヤ比iGと、自動変速機3の入力回転数Niと、エンジン回転数Neと、バッテリ蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)に応じた目標放電電力tPとから、モータ/ジェネレータ5との共働により、若しくは単独で、過渡目標駆動力tFoを達成するのに必要な目標エンジントルクtTeを求め、
このようにして決定した目標エンジントルクtTeをステップS9において、図7のエンジンコントローラ21に指令し、エンジンコントローラ21はエンジン1を目標エンジントルクtTeが実現されるよう制御する。
【0043】
ステップS7においては、運転モード(EVモード、HEVモード)や、モード切り替えに応じて、過渡目標駆動力tFoを達成するのに必要な、または、モード切り替えを遂行させるのに必要な第1クラッチ6および第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc1,tTc2(クラッチ指令圧tPc1,tPc2)を求め、
このようにして決定した第1クラッチ6および第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc1,tTc2(クラッチ指令圧tPc1,tPc2)をステップS9において、図7の第1クラッチ6および第2クラッチ7に指令し、第1クラッチ6および第2クラッチ7を目標伝達トルク容量tTc1,tTc2となるよう締結力制御する。
【0044】
ステップS8においては、運転モード(EVモード、HEVモード)や、モード切り替えに応じて、過渡目標駆動力tFoと、駆動車輪2のタイヤ有効半径Rtと、ファイナルギヤ比ifと、現在の選択変速段により決まる自動変速機3のギヤ比iGと、自動変速機3の入力回転数Niと、エンジン回転数Neと、バッテリ蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)に応じた目標放電電力tPとから、エンジン1との共働により、若しくは単独で、過渡目標駆動力tFoを達成するのに必要な目標モータ/ジェネレータトルクtTmを求め、
このようにして決定した目標モータ/ジェネレータトルクtTmをステップS9において、図7のモータ/ジェネレータコントローラ22に指令し、モータ/ジェネレータコントローラ22はモータ/ジェネレータ5を目標モータ/ジェネレータトルクtTmが実現されるよう制御する。
【0045】
以上は一般的なハイブリッド車両のパワートレーン駆動力制御であるが、本発明が狙いとするEV→HEVモード切り替え制御を、図9に示すごとく瞬時t1以後アクセルペダルの踏み込みでアクセル開度APOが増大され、これに伴ってEV→HEVモード切り替え指令が発せられると共に自動変速機3が5速から4速へダウンシフト(変速)される場合につき、以下に説明する。
【0046】
なお、EV→HEVモード切り替えは前記した通り、第1クラッチ6を解放し、エンジン1を停止し、第2クラッチ7を締結してモータ/ジェネレータ5からの動力のみにより車輪2を駆動する電気走行(EV)モードから、第1クラッチ6を締結して該第1クラッチを経由した動力によりエンジン1を始動させ、エンジン1およびモータ/ジェネレータ5からの動力により車輪2を駆動するハイブリッド走行(HEV)モードへの切り替えであるため、第1クラッチ6を締結すると共にモータ/ジェネレータ5を駆動力制御して当該EV→HEVモード切り替えが遂行される。
【0047】
また、自動変速機3の上記5速から4速へのアップシフトは、図6の締結論理図に矢印を付して示すごとく、締結状態のフロントブレーキFr/Bを解放させる(これを解放側変速摩擦要素と称する)と共に、解放状態のダイレクトクラッチD/Cを締結させる(これを締結側変速摩擦要素と称する)ことにより達成される。
なお、この変速中もハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cは、図6の締結論理図から明らかなように継続的に締結状態を保って、変速の前後における5速および4速の双方で自動変速機3を伝動状態にするよう機能するため、
本実施例ではハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cを図3の第2クラッチ7として用い、図9では、その伝達トルク容量の指令値をtTc2により、また、その実際値をTc2によりそれぞれ示した。
【0048】
図9では更に、ダイレクトクラッチD/C(締結側変速摩擦要素)の伝達トルク容量に関する指令値をtTcにより、また、その実際値をTcにより示し、
フロントブレーキFr/B(解放側変速摩擦要素)の伝達トルク容量に関する指令値をtToにより、また、その実際値をToにより示した。
図9ではその他に、図3における第1クラッチ6の指令圧をtPc1により、また、その実圧をPc1により、更に、その伝達トルク容量をTc1によりそれぞれ示した。
ただし第1クラッチ6は、常態(実圧Pc1=0)では締結されてその伝達トルク容量Tc1を最大値にされており、その指令圧tPc1に向かうよう制御される実圧Pc1の上昇につれ伝達トルク容量Tc1を低下されるものとする。
【0049】
図9には更に、モータ/ジェネレータ5の回転数指令値(モータ回転数指令値)tNm、その実回転数(モータ回転数)Nm、エンジン1のエンジン回転数Ne、自動変速機3の変速機入力回転数Ni、エンジン1のエンジントルクTe、モータ/ジェネレータ5のモータトルクTm、および変速機出力トルクを併記した。
【0050】
図9に示す瞬時t1からのアクセル開度APO(要求駆動力)の増大に伴い、モータ/ジェネレータ5のモータトルクTmおよびモータ回転数Nmを図示のごとく増大させると共に、この時のモータトルクTmを駆動車輪2へ伝達可能にすべく、第2クラッチ7であるハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cの伝達トルク容量Tc2を変速機目標出力トルク対応のものとなるよう図示のごとくに増大させる。
【0051】
一方で、アクセル開度APO(要求駆動力)の増大により、エンジン動力が必要となった結果、瞬時t2に電気走行(EV)モードからハイブリッド走行(HEV)モードへのEV→HEVモード切り替え指令が発せられると、第1クラッチ6を、波線で示すごとくに低下させる指令圧tPc1に追従制御される実圧Pc1によって(プリチャージ制御&スタンバイ制御によって)、伝達トルク容量Tc1は0のままであるが速やかに締結開始直前状態にする。
【0052】
そして、EV→HEVモード切り替え指令瞬時t2から設定時間TM1が経過する瞬時t3より、モータ/ジェネレータ5をエンジン始動用に回転上昇させるべく、その回転数指令値tNmをエンジン始動用の目標値へ上昇させ、モータ回転数Nmがこれに追従するようモータトルクTmを上昇させる。
これにより、第2クラッチ7であるハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cがその伝達トルク容量Tc2を上記の通り変速機目標出力トルク対応のものにされていることから、モータトルクTmの上昇分でスリップを開始する。
【0053】
なお、上記のごとくモータ/ジェネレータ5の回転数指令値tNmをエンジン始動用の目標値へ上昇させるに当たっては図示のごとく、第2クラッチ7であるハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cの上記スリップを開始が滑らかに行われるよう2段階に行わせる。
また、第2クラッチ7であるハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cがスリップを開始した後は、モータ/ジェネレータ5の回転数指令値tNmをエンジン始動用目標回転数および第2クラッチ7(ハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/C)前後回転差との和値とする。
【0054】
第2クラッチ7(ハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/C)スリップ開始以後その前後回転差が、エンジン始動用の目標回転差以上である状態の継続時間をモニタし、この継続時間が所定時間に達した瞬時t4より第1クラッチ6の指令圧tPc1を、第1クラッチ6が締結を開始して伝達トルク容量Tc1を持つよう低下させる。
かかる第1クラッチ6の締結開始でその伝達トルク容量Tc1によりエンジン1が、エンジン回転数NmおよびエンジントルクTeの波形から明らかなように始動を開始されるが、この時エンジン回転数Nmが例えば0.3秒で1000rpmまで上昇するよう、瞬時t4の直後における第1クラッチ6の指令圧tPc1(伝達トルク容量Tc1)を決定する。
【0055】
上記エンジン1の始動により、エンジン回転数Neと、モータ/ジェネレータ5の回転数Nmとの回転差、つまり第1クラッチ6の前後回転差が、クラッチ締結ショック上問題ないような小さな設定値になった瞬時t6に、第1クラッチ6の指令圧tPc1を0にし、これに追従して低下制御される実圧Pc1により第1クラッチ6を完全締結させるべく、その伝達トルク容量Tc1を最大値に向かわせる。
【0056】
瞬時t4およびt6間における5→4ダウンシフト指令瞬時t5には、解放側変速摩擦要素であるフロントブレーキFr/Bの伝達トルク容量指令値tToを、第2クラッチ7であるハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cの伝達トルク容量相当値まで低下させ、解放側変速摩擦要素であるフロントブレーキFr/Bの実伝達トルク容量Toを伝達トルク容量指令値tToに追従するよう低下させる。
【0057】
これにより解放側変速摩擦要素であるフロントブレーキFr/Bが、第2クラッチ7であるハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cに代わってスリップし得ることとなり、フロントブレーキFr/Bのスリップ開始を検知してハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cの伝達トルク容量指令値tTc2を完全締結に必要な値まで上昇させ、これに追従制御される実容量Tc2によりハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cを完全締結させることで、ハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/CからフロントブレーキFr/Bへのスリップ要素の掛け替えを行う。
【0058】
5→4ダウンシフト指令瞬時t5には更に、締結側変速摩擦要素であるダイレクトクラッチD/Cを、波線で示すごとくに低下させる伝達トルク容量指令値tTcに追従制御される実伝達トルク容量tPcによって(プリチャージ制御&スタンバイ制御によって)、速やかに締結開始直前状態にする。
【0059】
前記したごとく瞬時t4以後エンジン始動用に締結を開始された第1クラッチ6の完全締結判定(図9に完全締結判定として示す)後、エンジントルクTeが安定した(tTc2-Tm>設定値になった)のを判定する瞬時t7に、モータ/ジェネレータ5の回転数指令値tNmを波線で示すごとく所定の時定数をもって変速後目標回転数に上昇させ、これにモータ回転数Nmが追従するようモータトルクTmを制御する。
なお、上記した第1クラッチ6の完全締結判定(図9に完全締結判定として示した)に際しては、第1クラッチ6のストローク量から推定可能な伝達トルク容量Tc1が規定値になった時、若しくは、瞬時t6から設定時間TM2が経過した時の早い方をもって第1クラッチ6が完全締結したと判定することができる。
【0060】
上記した、解放側変速摩擦要素であるフロントブレーキFr/Bの解放進行と、締結側変速摩擦要素であるダイレクトクラッチD/Cの締結進行との掛け替えによる5→4ダウンシフトの終了判定時t8、例えば、変速機出力回転数Noが最終目標値の90%に達したのを判定する瞬時t8に、解放側変速摩擦要素であるフロントブレーキFr/Bの伝達トルク容量指令値tToをアクセル開度APO、車速VSPに応じた時間変化勾配で0に向かわせ、これに追従制御される実伝達トルク容量ToでフロントブレーキFr/Bを前記スリップ状態から完全に解放させると共に、締結側変速摩擦要素であるダイレクトクラッチD/Cの伝達トルク容量指令値tTcを0にして、これに追従制御される実伝達トルク容量TcでダイレクトクラッチD/Cを完全に締結させ、これらにより瞬時t9に5→4ダウンシフトを完了させる。
【0061】
なお、EV→HEVモード切り替え制御を完了してHEVモード制御へ移行するタイミングは、第2クラッチ7であるハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cの前後回転差が締結完了を示す設定値未満になってから所定の余裕時間が経過した時とする。
【0062】
以上説明した本実施例になるハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御によれば、
第1クラッチ6を締結させてモータ/ジェネレータ5によりエンジンを始動させるEV→HEVモード切り替えに際し、次いで、自動変速機3の変速によりモータ/ジェネレータ5および駆動車輪2間の伝動経路を切り替えるに際し、
当初は第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2を、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にしておき、その後、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の伝達トルク容量を、第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2相当値、つまり、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にするプロセスを経て、上記順次のEV→HEVモード切り替えおよび自動変速機3の変速を行わせるため、
駆動車輪2への駆動力を運転者による駆動力要求値に応じた駆動力に維持したまま、EV→HEVモード切り替えおよび自動変速機3の変速を行わせることとなり、
駆動力の抜け感に関する前記の問題を解消し得ると共に、駆動力要求値を超えたトルク変化を第2クラッチ7、若しくは、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)のスリップにより吸収して前記したショックの問題を解消することができる。
【0063】
更に同様な理由から、モータ/ジェネレータ5のトルクを、運転者による駆動力要求値を超えた大きなものとすることにより、駆動車輪2への駆動力を運転者による駆動力要求値に応じた駆動力に維持したまま、余剰分のモータ/ジェネレータトルクでエンジン1の始動を行わせることができると共に、このエンジン始動中に解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の解放および締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の締結により変速を同時並行して行い得ることとなり、エンジン始動および変速に要する時間が長くなるという前記別の問題をも解消することができる。
【0064】
なお上記では、図9に示すようにEV→HEVモード切り替え要求(エンジン始動要求)の後に変速要求があった場合につき説明したが、逆に、EV→HEVモード切り替え要求(エンジン始動要求)の前に変速要求があった場合は図10に示すような制御とする。
つまり、第Iステージとして示したEVモード状態から、先ず第IIステージにおいて、第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2を、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にし、駆動力要求値を超えたトルクに応動して第2クラッチがスリップし得るような状態にしておく。
【0065】
次の第IIIステージでは、変速要求に呼応して解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)を解放するに際し、その伝達トルク容量Toを第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2相当値、つまり、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にすると共に、第2クラッチ7を解放することにより、第2クラッチ7から解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)へのスリップ要素の掛け替えを行う。
この状態で第IVステージにおいて、第1クラッチ6の締結を開始させ、モータ/ジェネレータ5の前記したと同様な制御によるエンジン1の始動制御を開始させる。
【0066】
上記したエンジン1の始動制御の開始後も第Vステージにおいて、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の上記伝達トルク容量制御を継続し、運転者による駆動力要求値を超えたトルクに応動して解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)がスリップし得るような状態にしておく。
【0067】
次の第VIステージにおいて、締結側変速摩擦要素であるダイレクトクラッチD/Cの伝達トルク容量Tcを解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の伝達トルク容量To相当値、つまり、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にすると共に、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)を解放させて、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)から締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)への掛け替えによる変速を行わせる。
この変速中に、変速ショック防止用のトルクダウンをエンジン1またはモータ/ジェネレータ5のトルク制御により行わせる。
【0068】
第VIIステージにおいては、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の上記締結が完了することにより変速が終了し、変速後の4速でのHEV走行モードを実現することができる。
この時におけるエンジンの応答遅れ分をモータ/ジェネレータ5によりアシストすることでショックを防止する。
【0069】
なお上記実施例ではいずれも、第2クラッチ7と、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)と、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)とがそれぞれ異なる場合について説明したが、それ以外の場合について以下に説明する。
【0070】
第2クラッチ7として解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)を兼用し、EV→HEVモード切り替え要求(エンジン始動要求)の前に変速要求があった場合は、図11につき以下に説明する制御とする。
この制御は、図10における第IIIステージを除去したものに相当し、
第IステージのEVモード状態から、第IIステージにおいては、変速要求に呼応して解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)を解放するに際し、その伝達トルク容量Toを、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にし、駆動力要求値を超えたトルクに応動して解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)がスリップし得るような状態にしておく。
【0071】
この状態で、次の第IVステージにおいては、第1クラッチ6の締結を開始させ、モータ/ジェネレータ5の前記したと同様な制御によるエンジン1の始動制御を開始させる。
上記したエンジン1の始動制御の開始後も第Vステージにおいて、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の上記伝達トルク容量制御を継続し、運転者による駆動力要求値を超えたトルクに応動して解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)がスリップし得るような状態にしておく。
【0072】
次の第VIステージにおいては、締結側変速摩擦要素であるダイレクトクラッチD/Cの伝達トルク容量Tcを解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の伝達トルク容量To相当値、つまり、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にすると共に、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)を解放させて、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)から締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)への掛け替えによる変速を行わせる。
この変速中に、変速ショック防止用のトルクダウンをエンジン1またはモータ/ジェネレータ5のトルク制御により行わせる。
【0073】
第VIIステージにおいては、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の上記締結が完了することにより変速が終了し、変速後の4速でのHEV走行モードを実現することができる。
この時におけるエンジンの応答遅れ分をモータ/ジェネレータ5によりアシストすることでショックを防止する。
【0074】
図12は、第2クラッチ7として解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)を兼用し、EV→HEVモード切り替え要求(エンジン始動要求)の後に変速要求があった場合の制御を示す。
この制御は、図9にもとづき前述した制御における、第2クラッチ7から解放側変速摩擦要素であるフロントブレーキFr/Bへの掛け替えステージを除去したものに相当する。
【0075】
第IステージのEVモード状態から、第IIステージにおいては、締結状態にある解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の伝達トルク容量Toを、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にし、駆動力要求値を超えたトルクに応動して解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)がスリップし得るような状態にしておく。
【0076】
この状態で、次の第IIIステージにおいては、エンジン始動要求に呼応して第1クラッチ6を締結させ、モータ/ジェネレータ5の前記したと同様な制御によるエンジン1の始動制御を開始させる。
上記したエンジン1の始動制御の開始後も第VIステージにおいて、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の上記伝達トルク容量制御を継続し、運転者による駆動力要求値を超えたトルクに応動して解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)がスリップし得るような状態にしておく。
【0077】
次の第Vステージにおいては、変速要求に呼応して締結側変速摩擦要素であるダイレクトクラッチD/Cの伝達トルク容量Tcを解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の伝達トルク容量To相当値、つまり、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にすると共に、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)を解放させて、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)から締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)への掛け替えによる変速を行わせる。
この変速中に、変速ショック防止用のトルクダウンをエンジン1またはモータ/ジェネレータ5のトルク制御により行わせる。
【0078】
第VIステージにおいては、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の上記締結が完了することにより変速が終了し、変速後の4速でのHEV走行モードを実現することができる。
この時におけるエンジンの応答遅れ分をモータ/ジェネレータ5によりアシストすることでショックを防止する。
【0079】
図13は、第2クラッチ7として締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)を兼用し、EV→HEVモード切り替え要求(エンジン始動要求)の前に変速要求があった場合の制御を示す。
第IステージのEVモード状態から、第IIステージにおいては、解放状態にある締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の伝達トルク容量Tcを、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にし、駆動力要求値を超えたトルクに応動して締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)がスリップし得るような状態にすると共に、解放側変速摩擦要素であるフロントブレーキFr/Bの解放を開始させる。
【0080】
この状態で、次の第IIIステージにおいては、エンジン始動要求に呼応して第1クラッチ6の締結を開始させ、モータ/ジェネレータ5の前記したと同様な制御によるエンジン1の始動制御を開始させる。
上記したエンジン1の始動制御の開始後も第IVステージにおいて、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の上記伝達トルク容量制御を継続し、運転者による駆動力要求値を超えたトルクに応動して締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)がスリップし得るような状態にしておく。
【0081】
次の第Vステージにおいては、変速要求に呼応して締結側変速摩擦要素であるダイレクトクラッチD/Cを締結させて、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)から締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)への掛け替えによる変速を行わせる。
この変速中に、変速ショック防止用のトルクダウンをエンジン1またはモータ/ジェネレータ5のトルク制御により行わせる。
【0082】
第VIステージにおいては、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の上記締結が完了することにより変速が終了し、変速後の4速でのHEV走行モードを実現することができる。
この時におけるエンジンの応答遅れ分をモータ/ジェネレータ5によりアシストすることでショックを防止する。
【0083】
図14は、第2クラッチ7として締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)を兼用し、EV→HEVモード切り替え要求(エンジン始動要求)の後に変速要求があった場合の制御を示す。
第IステージのEVモード状態から、第IIステージにおいては、解放状態にある締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の伝達トルク容量Tcを、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にし、駆動力要求値を超えたトルクに応動して締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)がスリップし得るような状態にすると共に、解放側変速摩擦要素であるフロントブレーキFr/Bの解放を開始させる。
【0084】
この状態で、次の第IIIステージにおいては、エンジン始動要求に呼応して第1クラッチ6の締結を開始させ、モータ/ジェネレータ5の前記したと同様な制御によるエンジン1の始動制御を開始させる。
上記したエンジン1の始動制御の開始後も第IVステージにおいて、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の上記伝達トルク容量制御を継続し、運転者による駆動力要求値を超えたトルクに応動して締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)がスリップし得るような状態にしておき、この間に、解放側変速摩擦要素であるフロントブレーキFr/Bの解放を終了させる。
【0085】
次の第Vステージにおいては、変速要求に呼応して締結側変速摩擦要素であるダイレクトクラッチD/Cを締結させて、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)から締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)への掛け替えによる変速を行わせる。
この変速中に、変速ショック防止用のトルクダウンをエンジン1またはモータ/ジェネレータ5のトルク制御により行わせる。
【0086】
第VIステージにおいては、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の上記締結が完了することにより変速が終了し、変速後の4速でのHEV走行モードを実現することができる。
この時におけるエンジンの応答遅れ分をモータ/ジェネレータ5によりアシストすることでショックを防止する。
【0087】
図15は、HEVモードでの変速時における制御を、第2クラッチ7と、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)と、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)とがそれぞれ異なる場合について示す。
HEVモードで変速指令があると、先ずステージIにおいて、締結状態にある第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2を、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にし、駆動力要求値を超えたトルクに応動して第2クラッチ7がスリップし得るような状態にする。
【0088】
そして第IIステージにおいて、解放側変速摩擦要素であるフロントブレーキFr/Bの伝達トルク容量Toを第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2相当値、つまり、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にすると共に、第2クラッチ7を締結させて、第2クラッチ7から解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)へのスリップクラッチの掛け替えを行い、
第2クラッチ7に代え解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)が駆動力要求値を超えたトルクに応動してスリップし得るようになす。
【0089】
この状態で、次の第IIIステージにおいては、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の伝達トルク容量Tcを解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の伝達トルク容量To相当値、つまり、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にして、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)に代え締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)が駆動力要求値を超えたトルクに応動してスリップし得るようになす。
第IIIステージでは更に、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)を伝達トルク容量Toの消失により解放させる。
【0090】
次の第IVステージにおいては、変速要求に呼応して締結側変速摩擦要素であるダイレクトクラッチD/Cを締結させて、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)から締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)への掛け替えによる変速を行わせる。
よって、変速後の4速でのHEV走行を実現することができ、この時におけるエンジンの応答遅れ分をモータ/ジェネレータ5によりアシストすることでショックを防止する。
【0091】
図16は、HEVモードでの変速時における制御を、第2クラッチ7として解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)を兼用する場合について示し、この制御は、図15から第IIステージを除去し、第Iステージの第2クラッチ7を解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)に置き換えたものに相当する。
つまりHEVモードで変速指令があると、先ずステージIにおいて、締結状態にある解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の伝達トルク容量Toを、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にし、駆動力要求値を超えたトルクに応動して解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)がスリップし得るような状態にする。
【0092】
そして、次の第IIIステージにおいて、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の伝達トルク容量Tcを解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の伝達トルク容量To相当値、つまり、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にして、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)に代え締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)が駆動力要求値を超えたトルクに応動してスリップし得るようになす。
第IIIステージでは更に、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)を伝達トルク容量Toの消失により解放させる。
【0093】
次の第IVステージにおいては、変速要求に呼応して締結側変速摩擦要素であるダイレクトクラッチD/Cを締結させて、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)から締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)への掛け替えによる変速を行わせる。
よって、変速後の4速でのHEV走行を実現することができ、この時におけるエンジンの応答遅れ分をモータ/ジェネレータ5によりアシストすることでショックを防止する。
【0094】
図17は、HEVモードでの変速時における制御を、第2クラッチ7として締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)を兼用する場合について示す。
HEVモードで変速指令があると、先ずステージIにおいて、解放状態にある締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の伝達トルク容量Tcを、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にし、駆動力要求値を超えたトルクに応動して締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)がスリップし得るような状態にする。
【0095】
そして第IIステージにおいて、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)を上記の伝達トルク容量制御状態に維持し、
この状態で、次の第IIIステージにおいては、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)の伝達トルク容量Toを低下させることにより締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)を解放させる。
【0096】
かかる締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の解放と、第IVステージにおける締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の締結とで、解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)から締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)への掛け替えによる変速を行わせる。
よって、変速後の4速でのHEV走行を実現することができ、この時におけるエンジンの応答遅れ分をモータ/ジェネレータ5によりアシストすることでショックを防止する。
【0097】
図10〜17につき前述したEV→HEVモード切り替え(エンジン始動)制御や、HEVモードでの変速制御においても、図9につき前述したと同様の作用効果を達成することができる。
【0098】
なお上記では、自動変速機3の5→4ダウンシフトが図6の締結論理から明らかなようにワンウェイクラッチを介することのない変速であることから、
図9〜12につき前述したように、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)をプリチャージ&スタンバイ制御により速やかに締結直前状態にしておくようにしたが、
変速に際し締結される締結側変速摩擦要素の締結によって発生する伝動系に、駆動車輪2からエンジン1への逆駆動を空転により禁止するワンウェイクラッチが存在している場合の変速時は、締結側変速摩擦要素の締結が自己係合により遅滞なく行われるため、煩雑な締結側変速摩擦要素のプリチャージ&スタンバイ制御を行わないこととするのがよい。
【0099】
なお上記では、自動変速機3の5→4ダウンシフトが当該変速中もハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cを締結状態に保つことから、
このハイ・アンド・ローリバースクラッチH&LR/Cを第2クラッチ7(図3参照)として用い、第2クラッチ7を図1および図2に示すように新設する必要がないようにしたため、コスト上およびスペース上大いに有利である。
【0100】
この作用効果は、自動変速機3の5→4ダウンシフトに際し締結状態から解放される解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)を第2クラッチ7(図3参照)として用いたり、逆に当該変速に際し解放状態から締結される締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)を第2クラッチ7(図3参照)として用いることにより、第2クラッチ7を図1および図2に示すように新設する必要がないようにしても同様に達成することができる。
【0101】
かように解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)を第2クラッチ7(図3参照)として用いたり、締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)を第2クラッチ7(図3参照)として用いる場合、
第2クラッチ7としての解放側変速摩擦要素(フロントブレーキFr/B)または締結側変速摩擦要素(ダイレクトクラッチD/C)の伝達トルク容量を継続的に、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にしておくことで、図9につき前述したと同様な作用効果を達成することができる。
【0102】
前記した各実施例における、第2クラッチの伝達トルク容量制御と、解放側変速摩擦要素の伝達トルク容量制御との掛け替えの終了判定は、解放側変速摩擦要素の伝達トルク容量や、クラッチ前後差回転や、設定時間の経過により行うこととし、この掛け替え終了判定時に第2クラッチを締結させるようにするのがよい。
【0103】
また前記した各実施例において、解放側変速摩擦要素の解放開始および締結側変速摩擦要素の締結開始は、モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間における実効ギヤ比が設定ギヤ比になる時、若しくは変速の要求から設定時間が経過する時とするのがよい。
更に、エンジン1またはモータ/ジェネレータ5によるトルクダウンは、モータ/ジェネレータ5および駆動車輪2間における実効ギヤ比が設定ギヤ比になる時、若しくは変速の要求から設定時間が経過する時に行わせるのがよい。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の伝動状態切り替え制御装置を適用可能なハイブリッド車両のパワートレーンを示す概略平面図である。
【図2】本発明の伝動状態切り替え制御装置を適用可能な他のハイブリッド車両のパワートレーンを示す概略平面図である。
【図3】本発明の伝動状態切り替え制御装置を適用可能な更に他のハイブリッド車両のパワートレーンを示す概略平面図である。
【図4】図1〜3に示したパワートレーンにおける自動変速機を示す骨子図である。
【図5】図4に示した自動変速機の共線図である。
【図6】図4に示した自動変速機内における変速摩擦要素の締結の組み合わせと、自動変速機の選択変速段との関係を示す締結論理図である。
【図7】図3に示したパワートレーンの制御システムを示すブロック線図である。
【図8】同制御システムにおける統合コントローラが実行する基本的な駆動力制御のプログラムを示すフローチャートである。
【図9】図7に示した制御システムにおける統合コントローラが実行する、EV→HEVモード切り替え制御および5→4ダウンシフト制御の動作タイムチャートである。
【図10】図7に示した制御システムにおける統合コントローラが実行する、5→4ダウンシフト制御およびEV→HEVモード切り替え制御の動作タイムチャートである。
【図11】解放側変速摩擦要素を第2クラッチとして用いた場合における、5→4ダウンシフト制御およびEV→HEVモード切り替え制御の動作タイムチャートである。
【図12】解放側変速摩擦要素を第2クラッチとして用いた場合における、EV→HEVモード切り替え制御および5→4ダウンシフト制御の動作タイムチャートである。
【図13】締結側変速摩擦要素を第2クラッチとして用いた場合における、5→4ダウンシフト制御およびEV→HEVモード切り替え制御の動作タイムチャートである。
【図14】締結側変速摩擦要素を第2クラッチとして用いた場合における、EV→HEVモード切り替え制御および5→4ダウンシフト制御の動作タイムチャートである。
【図15】変速中も締結状態を保つ変速摩擦要素を第2クラッチとして用いた場合における、HEVモードでの変速制御を示す動作タイムチャートである。
【図16】解放側変速摩擦要素を第2クラッチとして用いた場合における、HEVモードでの変速制御を示す動作タイムチャートである。
【図17】締結側変速摩擦要素を第2クラッチとして用いた場合における、HEVモードでの変速制御を示す動作タイムチャートである。
【符号の説明】
【0105】
1 エンジン
2 駆動車輪(後輪)
3 自動変速機
Gf フロントプラネタリギヤ組
Gm センタープラネタリギヤ組
Gr リヤプラネタリギヤ組
Fr/B フロントブレーキ
I/C インプットクラッチ
H&LR/C ハイ・アンド・ローリバースクラッチ(第2クラッチ)
D/C ダイレクトクラッチ
R/B リバースブレーキ
LC/B ロー・コーストブレーキ
FWD/B フォワードブレーキ
3rd/OWC 3速ワンウェイクラッチ
1st/OWC 1速ワンウェイクラッチ
FWD/OWC フォワードワンウェイクラッチ
4 伝動軸
5 モータ/ジェネレータ
6 第1クラッチ
7 第2クラッチ
8 ディファレンシャルギヤ装置
9 バッテリ
10 インバータ
11 エンジン回転センサ
12 モータ/ジェネレータ回転センサ
13 変速機入力回転センサ
14 変速機出力回転センサ
15 アクセル開度センサ
16 バッテリ蓄電状態センサ
20 統合コントローラ
21 エンジンコントローラ
22 モータ/ジェネレータコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてエンジンおよびモータ/ジェネレータを具え、これらエンジンおよびモータ/ジェネレータ間に伝達トルク容量を変更可能な第1クラッチを介在させ、モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間に伝達トルク容量を変更可能な第2クラッチを介在させ、
エンジンを停止させ、第1クラッチを解放すると共に第2クラッチを締結することによりモータ/ジェネレータからの動力のみによる電気走行モードを選択可能で、第1クラッチおよび第2クラッチを共に締結することによりエンジンおよびモータ/ジェネレータの双方からの動力によるハイブリッド走行モードを選択可能なハイブリッド車両において、
前記第2クラッチを締結した状態での動力伝達中、前記第1クラッチを締結させてモータ/ジェネレータにより前記エンジンを始動する際や、前記モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間の伝動経路を変速用に切り替える際に、第2クラッチの伝達トルク容量、若しくは、前記変速に際して締結状態から解放させるべき解放側変速摩擦要素の伝達トルク容量、或いは、前記変速に際して解放状態から締結させるべき締結側変速摩擦要素の伝達トルク容量を、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にしておくよう構成したことを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の伝動状態切り替え制御装置において、
前記変速中も締結状態を継続的に維持する変速摩擦要素を前記第2クラッチとして用いることを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の伝動状態切り替え制御装置において、
前記エンジンの始動および前記変速を相前後して行うに際しては、先ず前記第2クラッチの伝達トルク容量を、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にし、次いで前記解放側変速摩擦要素の伝達トルク容量を、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にしておく、第2クラッチの伝達トルク容量制御と、解放側変速摩擦要素の伝達トルク容量制御との掛け替えにより、前記モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間における伝達トルク容量を、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にしておくよう構成したことを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の伝動状態切り替え制御装置において、
前記第2クラッチの伝達トルク容量制御および前記解放側変速摩擦要素の伝達トルク容量制御間での移行を、前記変速の要求時から前記締結側変速摩擦要素の締結時までの間に行わせるよう構成したことを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の伝動状態切り替え制御装置において、
前記変速に際して締結状態から解放させるべき解放側変速摩擦要素、または、解放状態から締結させるべき締結側変速摩擦要素を前記第2クラッチとして用いることを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の伝動状態切り替え制御装置において、
前記第2クラッチの伝達トルク容量を継続的に、運転者による駆動力要求値に応じた伝達トルク容量にしておくよう構成したことを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。
【請求項7】
請求項3または4に記載の伝動状態切り替え制御装置において、
前記第2クラッチの伝達トルク容量制御と、解放側変速摩擦要素の伝達トルク容量制御との掛け替えの終了を、解放側変速摩擦要素の伝達トルク容量や、クラッチ前後差回転や、設定時間の経過により判定し、この掛け替え終了判定時に第2クラッチを締結させるよう構成したことを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の伝動状態切り替え制御装置において、
前記変速の要求時から、前記モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間における実効ギヤ比が設定ギヤ比になる時までの間、若しくは設定時間が経過する時までの間に、前記締結側変速摩擦要素をプリチャージ制御により予め締結開始直前の状態にするよう構成したことを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の伝動状態切り替え制御装置において、
前記締結側変速摩擦要素がワンウェイクラッチである場合は、前記締結側変速摩擦要素のプリチャージ制御を禁止するよう構成したことを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の伝動状態切り替え制御装置において、
前記モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間における実効ギヤ比が設定ギヤ比になる時、若しくは前記変速の要求から設定時間が経過する時に、前記解放側変速摩擦要素の解放および前記締結側変速摩擦要素の締結を開始させるようよう構成したことを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。
【請求項11】
請求項1〜10に記載の伝動状態切り替え制御装置において、
前記変速を前記第1クラッチの締結完了後に開始させるよう構成したことを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。
【請求項12】
請求項1〜11に記載の伝動状態切り替え制御装置において、
前記モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間における実効ギヤ比が設定ギヤ比になる時、若しくは前記変速の要求から設定時間が経過する時に、前記動力源によるトルクダウンを行わせるよう構成したことを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。
【請求項13】
請求項1〜12に記載の伝動状態切り替え制御装置において、
前記変速後のエンジン応答遅れに起因した要求駆動力に対する駆動力不足をモータ/ジェネレータからのトルクにより補うよう構成したことを特徴とする、ハイブリッド車両の伝動状態切り替え制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−261498(P2007−261498A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91547(P2006−91547)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】