説明

ハイブリッド車両

【課題】 車体の振動により運転者に不快感を与えるおそれの少ないハイブリッド車両を提供する。
【解決手段】 エンジンの出力をアイドル運転用の目標回転速度に相当する出力よりも大きい出力にするようにエンジンの作動を制御するエンジン出力調整処理、及び、エンジンの回転速度をアイドル運転用の目標回転速度にするように電動モータの回生量を調整する回生量調整処理を実行しているときに、補助機器に対する伝動状態を駆動状態と停止状態との間で切り換えるための切換指令が指令されると、エンジン出力調整処理及び回生量調整処理の実行を停止し、且つ、エンジンの回転速度をアイドル運転用の目標回転速度にするようにエンジンの作動を制御するエンジン回転速度調整処理を実行する通常アイドル運転状態に切り換えた後に、伝動状態切換手段を切り換える伝動状態切換処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び電動モータを動力源として備えて走行装置を駆動する駆動手段と、車両各部の作動を制御する制御手段とが備えられ、前記電動モータが、前記エンジンに対してトルクアシストを行う力行作動、及び、前記エンジンの動力により発電を行う回生作動を実行可能なように前記エンジンに連動連係される状態で設けられ、前記制御手段が、アイドル運転時に前記電動モータによる回生作動を実行するときは、前記エンジンの出力をアイドル運転用の目標回転速度に相当する出力よりも大きい出力にするように前記エンジンの作動を制御するエンジン出力調整処理、及び、前記エンジンの回転速度を前記アイドル運転用の目標回転速度にするように前記電動モータの回生量を調整する回生量調整処理を実行するように構成されているハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
上記構成のハイブリッド車両は、アイドル運転時に前記電動モータによる回生作動を実行するときは、前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理を実行することにより、電動モータにて発電される電力によってバッテリーの充電を行えるようにしたものである。すなわち、前記エンジン出力調整処理によって、エンジンの出力をアイドル運転用の目標回転速度に相当する出力よりも大きい出力になるように調整しながら、前記回生量調整処理を実行することによって、エンジンの回転速度がアイドル運転用の目標回転速度になり、電動モータがエンジンのトルクを吸収して回生作動して発電する構成となっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−157306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ハイブリッド車両等のような車両においては、例えばエアコン用のコンプレッサ等のようなエンジンからの動力供給により駆動される補助機器と、エンジンの動力を補助機器に供給する駆動状態とエンジンから補助機器への動力供給が停止される停止状態とに切り換え自在な伝動状態切換手段とが備えられて、この伝動状態切換手段を駆動状態と停止状態との間で切り換えることにより、補助機器を駆動状態と停止状態とに切り換えることになる。
【0005】
そして、上記したような従来構成のハイブリッド車両においては、前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理を実行しているときに、伝動状態切換手段が駆動状態と停止状態との間で切り換えられる場合であっても、前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理を継続して実行することになるが、このような構成においては次のような不利な点がある。
【0006】
すなわち、伝動状態切換手段を駆動状態と停止状態との間で切り換えるに伴って、エンジンの動力負荷が変動することになり、このため、アイドル運転時に前記電動モータによる回生作動を実行するとき、つまり、前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理を実行して電動モータによる発電を行っているときに、伝動状態切換手段が駆動状態と停止状態との間で切り換えられるに伴って車体に振動が発生し、その振動が運転者等の搭乗者に不快感を与えるおそれがあった。
説明を加えると、例えば、伝動状態切換手段が、エンジンから補助機器への動力供給が停止される停止状態からエンジンの動力を補助機器に供給する駆動状態に切り換えられると、エンジンに対して補助機器の動力負荷が加わることになり、その動力負荷の増大によってエンジンの回転速度がアイドル運転用の目標回転速度から低下することになる。そうすると、制御手段は、前記回生量調整処理により、エンジンの回転速度をアイドル運転用の目標回転速度に戻すように電動モータの回生量を調整することになるが、このような電動モータの回生量の調整は、例えば、電動モータとバッテリーとの間に備えられたインバータによって回生電力量を変更させること等により行われることになり、エンジンの回転速度がアイドル運転用の目標回転速度に迅速に戻されることになる。このように、エンジンの回転速度をアイドル運転用の目標回転速度に戻すことが迅速に行われると、そのことに起因して駆動手段が振動を発生するおそれがあり、その振動が車体に伝わり、運転者等の搭乗者に不快感を与えるおそれがある。因みに、このような車体の振動は、排気量の少ないエンジンを搭載した車両において顕著に現れるものである。
【0007】
そして、このような車体の振動は、伝動状態切換手段が停止状態から駆動状態に切り換えられる場合に限らず、伝動状態切換手段が駆動状態から停止状態に切り換えられる場合においても同様に発生するものである。つまり、補助機器が駆動状態から停止状態に切り換えられた場合には、エンジンに対する動力負荷の減少によってエンジンの回転速度がアイドル運転用の目標回転速度から増加することになるが、前記回生量調整処理を実行することにより車体が振動して運転者等の搭乗者に不快感を与えるおそれがある。
【0008】
エンジンにて駆動される補助機器としては、エアコン用のコンプレッサに限らず、例えば、エンジンにて駆動される駆動状態と駆動が解除される停止状態とに切り換え自在なラジエータファン等、各種の補助機器がある。
【0009】
本発明の目的は、アイドル運転時に電動モータによる回生作動を実行しているときに、補助機器に対する伝動状態を駆動状態と停止状態との間で切り換えるための切換指令が指令された場合であっても、車体の振動により運転者等の搭乗者に不快感を与えることを回避できるハイブリッド車両を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1特徴構成は、エンジン及び電動モータを動力源として備えて走行装置を駆動する駆動手段と、車両各部の作動を制御する制御手段とが備えられ、前記電動モータが、前記エンジンに対してトルクアシストを行う力行作動、及び、前記エンジンの動力により発電を行う回生作動を実行可能なように前記エンジンに連動連係される状態で設けられ、前記制御手段が、アイドル運転時に前記電動モータによる回生作動を実行するときは、前記エンジンの出力をアイドル運転用の目標回転速度に相当する出力よりも大きい出力にするように前記エンジンの作動を制御するエンジン出力調整処理、及び、前記エンジンの回転速度を前記アイドル運転用の目標回転速度にするように前記電動モータの回生量を調整する回生量調整処理を実行するように構成されているハイブリッド車両であって、前記エンジンの動力を補助機器に供給する駆動状態と前記エンジンから前記補助機器への動力供給が停止される停止状態とに切り換え自在な伝動状態切換手段が設けられ、前記制御手段が、前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理を実行しているときに、前記補助機器に対する伝動状態を前記駆動状態と前記停止状態との間で切り換えるための切換指令が指令されると、前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理の実行を停止し、且つ、前記エンジンの回転速度を前記アイドル運転用の目標回転速度にするように前記エンジンの作動を制御するエンジン回転速度調整処理を実行する通常アイドル運転状態に切り換えた後に、前記伝動状態切換手段を切り換える伝動状態切換処理を実行するように構成されている点にある。
【0011】
第1特徴構成によれば、アイドル運転時に前記電動モータによる回生作動を実行しているとき、つまり、前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理を実行しているときに、補助機器に対する伝動状態を駆動状態と停止状態との間で切り換えるための切換指令が指令されると、エンジン出力調整処理及び回生量調整処理の実行を停止し、且つ、エンジンの回転速度をアイドル運転用の目標回転速度にするようにエンジンの作動を制御するエンジン回転速度調整処理を実行する通常アイドル運転状態に切り換えた後に、伝動状態切換手段を切り換える伝動状態切換処理を実行するのである。
【0012】
すなわち、伝動状態切換手段を切り換えるときには、エンジン出力調整処理及び回生量調整処理の実行を停止しており、エンジンの回転速度をアイドル運転用の目標回転速度にするようにエンジンの作動を制御するエンジン回転速度調整処理を実行しているので、伝動状態切換手段が切り換えられたときにおける車体の振動は少ないものとなる。
【0013】
説明を加えると、伝動状態切換手段が切り換えられて、エンジンに対する補助機器の動力負荷が加わったり、あるいは、補助機器の動力負荷が加わっている状態からその動力負荷が無くなると、そのことに起因してエンジン回転速度はアイドル運転用の目標回転速度から変動することになるが、エンジン回転速度調整処理を実行することにより、エンジンの回転速度をアイドル運転用の目標回転速度に戻すようにエンジンの作動を制御することになる。
【0014】
このエンジン回転速度調整処理においては、スロットル開度を変更させて吸入空気量を変更させ且つそれに合わせて燃料供給量を変更することにより、エンジンの回転速度をアイドル運転用の目標回転速度に戻すことになるが、このとき、前記回生量調整処理によりエンジンの回転速度をアイドル運転用の目標回転速度に戻す場合に比べて、エンジンの回転速度をアイドル運転用の目標回転速度に戻すことが緩速で行われることになり、前記回生量調整処理によりエンジンの回転速度をアイドル運転用の目標回転速度に戻す場合よりも駆動手段の振動は小さいものになり車体の振動は少なくなる。
【0015】
従って、アイドル運転時に電動モータによる回生作動を実行しているときに、補助機器に対する伝動状態を駆動状態と停止状態との間で切り換えるための切換指令が指令された場合であっても、車体の振動により運転者等の搭乗者に不快感を与えることを回避できるハイブリッド車両を提供できるに至った。
【0016】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成に加えて、前記制御手段が、前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理の実行を停止する際には、前記エンジン出力調整処理の実行を停止して、前記エンジンの出力を前記アイドル運転用の目標回転速度又はそれに近い回転速度に相当する出力まで低下させる出力低下処理の実行後に、前記回生量調整処理の実行を停止するように構成されている点にある。
【0017】
第2特徴構成によれば、エンジン出力調整処理及び回生量調整処理を実行しているときに、補助機器に対する伝動状態を駆動状態と停止状態との間で切り換えるための切換指令が指令されて、前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理の実行を停止する際には、前記エンジン出力調整処理の実行を停止して、エンジンの出力をアイドル運転用の目標回転速度又はそれに近い回転速度に相当する出力まで低下させる出力低下処理を実行し、その出力低下処理を実行した後に、回生量調整処理の実行を停止することになる。
【0018】
すなわち、回生量調整処理の実行を停止するときには、エンジンの出力は、アイドル運転用の目標回転速度又はそれに近い回転速度に相当する出力まで低下しているので、電動モータが回生作動することによってエンジンに加わっている動力負荷は零か又は略零に近い状態となっているので、電動モータに対する回生量調整処理を停止させてもエンジンの回転速度はほとんど変動しないことになる。
【0019】
ところで、前記出力低下処理を行わない状態で通常アイドル運転状態に切り換える構成とした場合には、エンジンの出力がアイドル運転用の目標回転速度に相当する出力よりも大きい出力になっている状態で前記回生量調整処理の実行が停止されることになるので、そのときまで前記回生量調整処理が行われることによってエンジンに加わっていた電動モータによる動力負荷が無くなると、エンジンの動力負荷が軽くなってエンジンの回転速度がアイドル運転用の目標回転速度から増加するという不利があるが、前記出力低下処理を実行する構成とすることにより、前記回生量調整処理の実行が停止されるときにエンジンの回転速度が増加するという不利を回避することができるのである。
【0020】
従って、前記回生量調整処理の実行を停止するときに、エンジンの回転速度が増加することがなく、電動モータによる回生作動を行っている状態から通常アイドル運転状態に移行することを、回転速度の変動の少ない状態で滑らかに行うことができ、請求項1を実施するのに好適な手段が得られる。
【0021】
本発明の第3特徴構成は、第1特徴構成又は第2特徴構成に加えて、前記制御手段が、前記伝動状態切換処理を実行した後に、前記エンジン回転速度調整処理の実行を停止して前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理を夫々実行する状態に復帰するように構成されている点にある。
【0022】
第3特徴構成によれば、伝動状態切換手段を切り換える伝動状態切換処理を実行して、補助機器に対する伝動状態を切換指令に対応させて切り換えた後には、エンジン回転速度調整処理の実行を停止してエンジン出力調整処理及び回生量調整処理を夫々実行する状態、つまり、電動モータによる回生作動を実行する状態に復帰するので、その後は、電動モータに対する電力を供給するために備えられるバッテリーの充電を行うことができ、請求項1又は2を実施するのに好適な手段が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係るハイブリッド車両の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に、本発明に係るハイブリッド車両の概略構成図を示している。このハイブリッド車両は、エンジン1と走行駆動用電動モータ2(以下、走行用モータと略称する)とが一体回転するように直結されている。つまり、エンジン1の出力軸1aに直結される状態で走行用モータ2を備えて、これらの動力により走行装置としての左右の車輪3を駆動して走行するように駆動手段としての駆動ユニットKUが構成されている。前記走行用モータ2は、エンジン1の出力軸1aにロータ2aが同一軸芯で一体回動するように連結され、そのロータ2aの外周部を囲うステータ2bが位置固定状態で図示しない車体支持部に支持される構成となっている。
【0024】
そして、この走行用モータ2は、エンジン1の作動が停止している状態においてその出力軸1aに対して駆動力を与えてエンジン1を始動させるように構成され、且つ、エンジン1が始動した後は、出力軸1aに対してエンジン回転方向と同方向の駆動力を与えてアシストを行う力行状態と、前記出力軸1aから駆動力が与えられて発電する回生状態とに切り換え可能に構成されている。つまり、走行用モータ2がエンジン1にて回転駆動される出力軸1aに対してその回転方向と同一方向にトルクを出力させる力行状態に切り換えることで、所望の走行駆動力を出力しながらエンジン1が低燃費状態となるように、エンジン1の出力に対するアシストを行うことができる構成となっている。この状態が力行作動に対応する。又、走行速度を減速させているときや定速走行しているとき、あるいは、走行しているときに限らず、走行を停止してアイドル運転を行っているとき等において、エンジン1の出力軸1aから駆動力が与えられて発電して得られた回生電力をバッテリー4に充電することができる構成となっている。この状態が回生作動に対応する。
【0025】
そして、前記駆動ユニットKUの動力は、トルクコンバータ5を介してトランスミッション6に伝えられ、このトランスミッション6内部のギア式の自動変速機構により変速された後に差動機構7を介して左右の車輪3に伝えられる構成となっている。
【0026】
又、このハイブリッド車両では、エンジン1により駆動される補助機器の一例であるエアコン用のコンプレッサ19が備えられ、このコンプレッサ19は、図1に示すように、エンジン1の出力軸1aから伝動ベルト20を介して動力が供給されて回転駆動される構成となっており、エンジン1からのコンプレッサ19に対する伝動系の途中にマグネットクラッチ21が設けられ、このマグネットクラッチ21を断続することによりエンジン1からコンプレッサ19への動力伝達を断続可能に構成されている。つまり、マグネットクラッチ21を接続状態にすると、エンジンの動力をコンプレッサ19に供給する駆動状態に切り換わり、マグネットクラッチ21を遮断状態にすると、エンジン1からのコンプレッサ19への動力供給が停止される停止状態に切り換え自在な構成となっている。従って、このマグネットクラッチ21が補助機器としてのコンプレッサ19に対する伝動状態を切り換え自在な伝動状態切換手段を構成する。
【0027】
次に、このハイブリッド車両における制御構成について説明する。
図1及び図2に示すように、車両全体の運転状態を管理する車両制御部8、この車両制御部8からの制御情報に基づいて走行用モータ2の動作を制御するモータ制御部9、車両制御部8からの制御情報に基づいてエンジン1の出力、具体的には、電子スロットル弁10のスロットル開度及びインジェクタ11による燃料供給量を自動調整するエンジン制御部12夫々が備えられている。又、アクセル操作具13の操作量を検出するポテンショメータ式のアクセル操作量検出センサS1、ブレーキ操作具14が踏み込み操作されているか否かを検出するスイッチ式のブレーキ操作検出センサS2、走行用モータ2の回転速度、言い換えると、エンジン1の出力軸1aの回転速度を検出する回転速度検出手段としての回転速度センサS3、車輪3の車軸の回転速度に基づいて車両の走行状態としての車速を検出する車速センサS4、シフトポジションレバー17の位置を検出するシフトポジションセンサS5、バッテリー4の充電状態SOCを検出する充電状態検出部S6等による各種の検出情報が車両制御部8に入力される構成となっている。
【0028】
前記モータ制御部9は、図3に示すように、バッテリー4から供給される直流電力を三相交流電力に変換して走行用モータ2に供給する駆動用電力を制御したり、回生作動により走行用モータ2にて発生してバッテリー4に供給される回生電力を制御するインバータ28と、車両制御部8からの制御情報に基づいてパルス幅変調(PWM)されたパルス駆動信号をインバータ28における各スイッチングトランジスタの各ベース端子に供給するPWM制御回路29等を備えて構成され、走行用モータ2に通流する電流の大きさや交流電流の周波数を変更させることによりトルクや回転速度を調整したり、前記バッテリー4に充電される回生電力、すなわち回生量を調整することができる構成となっている。
【0029】
前記ブレーキ操作具14により機械式制動手段KSを作動させて機械的な制動力を発生させるための構成について説明を加えると、図1に示すように、運転者の足踏み操作にてブレーキ操作具14が操作されると、その足踏み操作力に対応させて制動用の油圧操作力を発生させる周知構成のマスターシリンダ15が備えられ、このマスターシリンダ15から作動油供給路15aを通して出力される油圧操作力にて前記車輪3の近傍に設けられた摩擦式の制動装置16を作動させて車体を制動させる構成となっている。このような機械式制動手段KSは、ブレーキ操作具14に対する運転者の操作力が大きくなるほど、その油圧操作力すなわち機械的な制動力が大となるように変更調節自在に構成されている。
【0030】
前記シフトポジションレバー17の位置としては、「P」(駐車位置)、「R」(後進走行位置)、「N」(中立位置)、「D」(前進走行位置)があり、運転状況に応じて運転者によって適宜切り換え操作されることになる。
【0031】
前記車両制御部8は、マイクロコンピュータを備えて構成され、シフトポジションセンサS5の検出情報、アクセル操作量検出センサS1の検出情報、車速センサS4の検出情報、及び、充電状態検出部S6にて検出されるバッテリー4の充電状態SOCの情報等に基づいて、モータ制御部9およびエンジン制御部12に制御情報を指令するように構成され、モータ制御部9およびエンジン制御部12は、車両制御部8からの指令情報に基づいて走行用モータ2及びエンジン1の作動を制御するように構成されている。前記車両制御部8、前記モータ制御部9、及び、前記エンジン制御部12の夫々は、アドレスバス及びデータバス等を含む通信手段の一例としての通信バス18を介して通信可能に接続されており、上記したような各種の制御用の情報を互いに通信できるように構成されている。
従って、車両制御部8、モータ制御部9、エンジン制御部12の夫々により、車両各部の作動を制御する制御手段Hが構成される。
【0032】
次に、制御手段Hによるエンジン1及び電動モータ2の制御について説明する。
すなわち、シフトポジションレバー17が「P」(駐車位置)や「N」(中立位置)にあるときは、基本的には、エンジン1を停止し、走行用モータ2による力行作動や回生作動は行わない。しかし、バッテリー4の充電状態SOCが設定量以下にまで低下してバッテリー4を充電する必要があるような場合には、エンジン1を作動させてエンジン1の動力を走行用モータ2の回生作動により発電した電力をバッテリー4に充電するように、エンジン1及び走行用モータ2の作動を制御するように構成されている。
【0033】
又、シフトポジションレバー17が「D」(前進走行位置)に操作されて車体進行方向として前進方向が指令されている場合には、アクセル操作具13が踏み込み操作されて車体を発進させるときは、そのときエンジン1が停止していればエンジン1を始動させ、車体が前進走行すると、アクセル操作量に応じてエンジン1の出力を調整し、且つ、後述するように走行用モータ2が力行作動や回生作動を実行するように構成されている。シフトポジションレバー17が「D」(前進走行位置)に操作されていても、アクセル操作が行われていない状態で車両が走行を停止しており、しかも、バッテリー4の充電状態SOCが設定値以上の高い状態であるときには、エンジン1を停止させるアイドルストップ制御を実行するように構成されている。このようにアイドルストップ制御を実行することでエンジン1の燃料消費をできるだけ少なくするようにしている。
【0034】
そして、シフトポジションレバー17が「R」(後進走行位置)に操作されて、車体進行方向として後進方向が指令されている場合には、アクセル操作量に応じてエンジン1の出力を調整することになるが、走行用モータ2については力行作動及び回生作動のいずれも行わないようになっている。
【0035】
前記走行用モータ2の力行作動について説明する。この力行作動においては、エンジン1の回転方向と同じ方向に走行用モータ2が力行用トルクの目標値を出力するように、その力行用トルクの目標値に対応する制御情報がPWM制御回路29に与えられ、PWM制御回路29からその力行用の目標トルクに対応するパルス信号がインバータ28の各スイッチングトランジスタのベース端子に印加され、走行用モータ2が目標トルクにてエンジン1をアシストすることになる。
【0036】
次に、車両が走行している状態における走行用モータの回生作動について説明する。
この回生作動においては、走行用モータ2がエンジン1の回転方向とは反対方向に回生用トルクの目標値を出力するように、その回生用トルクの目標値に対応する制御情報がPWM制御回路29に与えられ、PWM制御回路29がその回生用の目標トルクに対応するパルス信号がインバータ28の各スイッチングトランジスタのベース端子に印加され、走行用モータ2がエンジン1に対して逆向きのトルク、つまり、回生制動力を付与するように作用することになる。そうすると、走行用モータ2がエンジン1の動力によって駆動されて発電機として作用して、インバータ28によって回生制動力に対応する回生電力に変更調整される状態でバッテリー4に充電されることになる。
【0037】
又、制御手段Hは、アイドル運転時に走行用モータ2による回生作動を実行するときは、エンジン1の出力をアイドル運転用の目標回転速度に相当する出力よりも大きい出力にするようにエンジン1の作動を制御するエンジン出力調整処理、及び、エンジン1の回転速度をアイドル運転用の目標回転速度にするように走行用モータ2の回生量を調整する回生量調整処理を実行するように構成されている。そして、制御手段Hは、エンジン出力調整処理及び回生量調整処理を実行しているときに、コンプレッサ19に対する伝動状態を駆動状態と停止状態との間で切り換えるための切換指令が指令されると、エンジン出力調整処理及び回生量調整処理の実行を停止し、且つ、エンジン1の回転速度をアイドル運転用の目標回転速度にするようにエンジン1の作動を制御するエンジン回転速度調整処理を実行する通常アイドル運転状態に切り換えた後に、マグネットクラッチ21を切り換える伝動状態切換処理を実行するように構成されている。
【0038】
更に、制御手段は、エンジン出力調整処理及び回生量調整処理の実行を停止する際には、前記エンジン出力調整処理の実行を停止して、前記エンジンの出力を前記アイドル運転用の目標回転速度又はそれに近い回転速度に相当する出力まで低下させる出力低下処理の実行後に、前記回生量調整処理の実行を停止するように構成されている。しかも、伝動状態切換処理を実行した後に、エンジン回転速度調整処理の実行を停止してエンジン出力調整処理及び回生量調整処理を夫々実行する状態に復帰するように構成されている。
【0039】
以下、制御手段Hのアイドル運転時における制御動作について具体的に説明する。
図4にアイドル運転時における制御動作のフローチャートを示し、図5にアイドル運転時における制御動作におけるタイムチャートを示している。この制御では、先ず、アイドル発電を行うための条件が成立しているか否かを判別する(ステップ1)。すなわち、車両が走行を停止しており、アクセル操作具13が操作されていない状態において、充電状態検出部S6にて検出されるバッテリー4の充電状態が設定値以下にまで低下して充電が必要であるときは、走行用モータ2による回生作動すなわちアイドル発電を行うための条件が成立していると判断する構成となっている。
【0040】
上述したようなアイドル発電を行うための条件が成立していると、図5に示すように、エンジン1の出力をアイドル運転用の目標回転速度に相当する出力P1よりも大きい出力P2にするようにエンジン1の作動を制御するエンジン出力調整処理を実行する(ステップ2)。具体的には、電子スロットル弁10のスロットル開度及びインジェクタ11による燃料供給量を自動調整する。因みに、前記アイドル運転用の目標回転速度はエンジン1の特性に応じて予め定められた値であり、そのアイドル運転用の目標回転速度に相当するように設定された出力(設定値P1)よりも大きい出力(設定値P2)に対するスロットル開度及び燃料供給量も同様にして予め設定して記憶されている。
【0041】
そして、走行用モータ2の回転速度(エンジン1の回転速度と同じ)がアイドル運転用の目標回転速度になるように走行用モータ2の回生量を変更調節する回生量調整処理を実行する(ステップ3)。説明を加えると、回転速度センサS3にて検出される走行用モータ2の回転速度の検出情報に基づいて、その走行用モータ2の回転速度の検出値がアイドル運転用の目標回転速度になるようにフィードバック制御により走行用モータ2の回生量を変更調整するのである。つまり、インバータ28における各スイッチングトランジスタの各ベース端子に供給するパルス駆動信号をパルス幅変調して走行用モータ2に通流する電流の大きさや交流電流の周波数を変更させることにより、前記バッテリー4に充電される回生電力量すなわち回生量を調整するのである。その結果、エンジン1の回転速度がアイドル運転用の目標回転速度になるように調整され、且つ、走行用モータ2がエンジン1のトルクを吸収して発電するアイドル発電を行うことができるのである。
【0042】
そして、このようなアイドル発電を行っているときに、エアコンの運転状態を切り換えるためにコンプレッサ19に対する伝動状態を駆動状態と停止状態との間で切り換えるための切換指令が指令されると、前記エンジン出力調整処理の実行を停止して、エンジン1の出力をアイドル運転用の目標回転速度に相当する出力まで低下させる出力低下処理を実行する(ステップ4、5、6)。つまり、エンジン1の出力が前記設定値P1に低下するまで、フィードバック制御により電子スロットル弁10のスロットル開度及びインジェクタ11による燃料供給量を自動調整するのである。
【0043】
エンジン1の出力が設定値P1にまで低下したか否かの判断はスロットル開度の大きさにより判断するようにしている。説明を加えると、エンジン1の回転速度がアイドル運転用の目標回転速度に対応するように予め設定されている設定スロットル開度を記憶しておき、エンジン回転速度調整処理を実行しているときのスロットル開度が設定スロットル開度になると、エンジン1の出力が前記設定値P1にまで低下したと判断するようにしている。又、後述するように回生量調整処理を停止した後において、エンジン回転速度調整処理を実行しているときの実際のスロットル開度を学習してその値に基づいて前記設定スロットル開度を適宜補正するようにしている。
【0044】
前記出力低下処理としては、エンジン1の出力をアイドル運転用の目標回転速度に相当する出力(設定値P1)まで低下させる処理に限らず、エンジン1の出力をアイドル運転用の目標回転速度に近い回転速度に相当する出力まで低下させる構成としてもよい。
【0045】
エンジン1の出力が設定値P1まで低下すると、エンジン1の回転速度をアイドル運転用の目標回転速度にするようにエンジン1の作動を制御するエンジン回転速度調整処理を実行する(ステップ7、8)。すなわち、回転速度センサS3にて検出されるエンジン1の回転速度の検出情報に基づいて、そのエンジン1の回転速度の検出値がアイドル運転用の目標回転速度になるようにフィードバック制御により電子スロットル弁10のスロットル開度及びインジェクタ11による燃料供給量を自動調整する。そして、走行用モータ2に対する回生量調整処理を停止させる(ステップ9)。このようにエンジン回転速度調整処理を実行し、且つ、回生量調整処理の実行を停止している状態が、通常アイドル運転状態に対応する。この通常アイドル運転状態においては、走行用モータ2については制御を行わない状態、つまり、力行作動及び回生作動のいずれも行わない状態となっている。
【0046】
上述したように、エンジン回転速度調整処理を実行し、且つ、回生量調整処理の実行を停止している通常アイドル運転状態に切り換えた後に、前記切換指令に基づいてマグネットクラッチ21を切り換える伝動状態切換処理を実行する(ステップ10)。この伝動状態切換処理としては、例えば、エアコンの運転状態を切り換えるためにコンプレッサ19に対する伝動状態を駆動状態に切り換える切換指令が指令されていると、マグネットクラッチ21を遮断状態から接続状態に切り換え、コンプレッサ19に対する伝動状態を停止状態に切り換える切換指令が指令されていると、マグネットクラッチ21を接続状態から遮断状態に切り換える。
尚、図5では、コンプレッサ19に対する伝動状態を停止状態から駆動状態への切り換えが指令された場合を例示している。
【0047】
次に、前記通常アイドル運転状態に切り換えたときから設定時間tが経過すると、前記エンジン回転速度調整処理の実行を停止して(ステップ11、12)、そのときに上述したようなアイドル発電条件が成立していれば、前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理を夫々実行してアイドル発電を行う状態に復帰する(ステップ1、2、3)。尚、前記設定時間tとしては、前記切換指令に基づいてマグネットクラッチ21を切り換える伝動状態切換処理を実行するのに十分な時間として設定してあり、この設定時間tが経過した後は、マグネットクラッチ21が正常に動作していれば伝動状態が切り換わっていることになる。
【0048】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
【0049】
(1)上記実施形態では、エンジンにて駆動される補助機器としてエアコン用のコンプレッサを例示したが、コンプレッサに限らず、例えば、エンジンにて駆動される状態と駆動が解除される状態とに切り換え自在なラジエータファン等、各種の補助機器にも適用可能である。
【0050】
(2)上記実施形態では、前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理を実行しているときに補助機器に対する伝動状態を切り換えるための切換指令が指令されて、前記通常アイドル運転状態に切り換える際に、前記エンジン出力調整処理の実行を停止して前記出力低下処理を実行した後に、前記エンジン回転速度調整処理の実行を開始し、且つ、前記回生量調整処理の実行を停止する構成を例示したが、このような構成に代えて、例えば、前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理を実行しているときに、補助機器に対する伝動状態を切り換えるための切換指令が指令されると、前記出力低下処理を実行することなく、前記エンジン回転速度調整処理を実行する状態に切り換えると同時に、前記回生量調整処理の実行を停止する構成としてもよい。
【0051】
(3)上記実施形態では、エンジンの出力軸と走行駆動用の電動モータとを直結する構成のハイブリッド車両を例示したが、このような構成に限らず、エンジン及び走行駆動用電動モータが遊星ギア機構等を介して連動連結されて走行装置に動力を伝えるような伝動構成を備えるハイブリッド車両でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】ハイブリッド車両の概略構成を示す図
【図2】制御ブロック図
【図3】モータ制御部の構成を示す図
【図4】制御動作のフローチャート
【図5】制御状態の変化を示すタイムチャート
【符号の説明】
【0053】
1 エンジン
2 電動モータ
19 補助機器
21 伝動状態切換手段
KU 駆動手段
H 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び電動モータを動力源として備えて走行装置を駆動する駆動手段と、車両各部の作動を制御する制御手段とが備えられ、
前記電動モータが、前記エンジンに対してトルクアシストを行う力行作動、及び、前記エンジンの動力により発電を行う回生作動を実行可能なように前記エンジンに連動連係される状態で設けられ、
前記制御手段が、アイドル運転時に前記電動モータによる回生作動を実行するときは、前記エンジンの出力をアイドル運転用の目標回転速度に相当する出力よりも大きい出力にするように前記エンジンの作動を制御するエンジン出力調整処理、及び、前記エンジンの回転速度を前記アイドル運転用の目標回転速度にするように前記電動モータの回生量を調整する回生量調整処理を実行するように構成されているハイブリッド車両であって、
前記エンジンの動力を補助機器に供給する駆動状態と前記エンジンから前記補助機器への動力供給が停止される停止状態とに切り換え自在な伝動状態切換手段が設けられ、
前記制御手段が、
前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理を実行しているときに、前記補助機器に対する伝動状態を前記駆動状態と前記停止状態との間で切り換えるための切換指令が指令されると、
前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理の実行を停止し、且つ、前記エンジンの回転速度を前記アイドル運転用の目標回転速度にするように前記エンジンの作動を制御するエンジン回転速度調整処理を実行する通常アイドル運転状態に切り換えた後に、前記伝動状態切換手段を切り換える伝動状態切換処理を実行するように構成されているハイブリッド車両。
【請求項2】
前記制御手段が、
前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理の実行を停止する際には、前記エンジン出力調整処理の実行を停止して、前記エンジンの出力を前記アイドル運転用の目標回転速度又はそれに近い回転速度に相当する出力まで低下させる出力低下処理の実行後に、前記回生量調整処理の実行を停止するように構成されている請求項1記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記制御手段が、
前記伝動状態切換処理を実行した後に、前記エンジン回転速度調整処理の実行を停止して前記エンジン出力調整処理及び前記回生量調整処理を夫々実行する状態に復帰するように構成されている請求項1又は2記載のハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−125217(P2006−125217A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311177(P2004−311177)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】