説明

半導体デバイスの製造方法

【課題】III族窒化物半導体の複数の半導体部材を成長させる際におけるクラックの発生を低減する。
【解決手段】半導体デバイスの製造方法は、金属層形成工程と、前記金属層をそれぞれ露出する複数の開口グループと前記金属層を露出しない第1の非開口部と前記金属層をそれぞれ露出しない複数の第2の非開口部とを含むマスクを形成するマスク形成工程と、窒化工程と、第2バッファー層形成工程と、成長工程とを備え、前記開口グループは、六角形に沿った形状をそれぞれ有した複数の開口を含み、前記第1の非開口部は、前記複数の開口グループの間に配され、前記第2の非開口部は、前記開口グループ内の前記複数の開口の間に配され、前記マスク形成工程では、各開口グループ内の各開口の最小幅が5μm以上25μm以下になり、各開口グループ内の隣接する前記開口の間における前記第2の非開口部の幅が1.5μm以上8μm以下になり、隣接する前記開口グループの間における前記第1の非開口部の幅が10μm以上になるように、前記マスクを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、下地基板の上に複数の開口を有するマスクを形成し、下地基板における複数の開口により露出された複数の領域を選択的に窒化することにより、複数の第1バッファー層を形成している。そして、複数の第1バッファー層の上に複数の第2バッファー層を形成した後、複数の第2バッファー層の上に複数の半導体部材を成長させている。これにより、特許文献1によれば、複数の第2バッファー層のいずれかの特定箇所に存在する転位が他の第2バッファー層に伝播しにくく、複数の第2バッファー層の結晶性が全体として向上するので、その上に成長させる複数の半導体部材の結晶性も向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−103698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、マスクにおける複数の開口のそれぞれをどのような形状及び寸法で形成すれば複数の半導体部材を成長させる際におけるクラックの発生を低減できるのかについての開示がない。
【0005】
本発明の目的は、III族窒化物半導体の複数の半導体部材を成長させる際におけるクラックの発生を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面に係る半導体デバイスの製造方法は、下地基板の上に金属層を形成する金属層形成工程と、前記金属層をそれぞれ露出する複数の開口グループと前記金属層を露出しない第1の非開口部と前記金属層をそれぞれ露出しない複数の第2の非開口部とを含むマスクを形成するマスク形成工程と、前記金属層において前記複数の開口グループにより露出された複数の領域グループを窒化することにより、金属窒化物の複数の第1バッファー層を形成する窒化工程と、前記複数の第1バッファー層の上に、III族窒化物半導体の複数の第2バッファー層を形成する第2バッファー層形成工程と、前記複数の第2バッファー層の上に、III族窒化物半導体の複数の半導体部材を成長させる成長工程とを備え、前記開口グループは、六角形に沿った形状をそれぞれ有した複数の開口を含み、前記第1の非開口部は、前記複数の開口グループの間に配され、前記第2の非開口部は、前記開口グループ内の前記複数の開口の間に配され、前記マスク形成工程では、各開口グループ内の各開口の最小幅が5μm以上25μm以下になり、各開口グループ内の隣接する前記開口の間における前記第2の非開口部の幅が1.5μm以上8μm以下になり、隣接する前記開口グループの間における前記第1の非開口部の幅が10μm以上になるように、前記マスクを形成することを特徴とする。
【0007】
本発明の第2側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第1側面に係る半導体デバイスの製造方法であって、前記複数の第1バッファー層のそれぞれは、前記開口グループの前記複数の開口に対応した複数の第1バッファー領域を含み、前記複数の第2バッファー層のそれぞれは、前記複数の第1バッファー領域に対応した複数の第2バッファー領域を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の第3側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第1側面又は第2側面に係る半導体デバイスの製造方法であって、前記下地基板は、六方晶系及び擬似六方晶系のいずれかの結晶構造を有しており、前記六角形の各辺は、前記下地基板における前記半導体部材の〔10−10〕方向に沿うべき方向、〔01−10〕方向に沿うべき方向及び〔−1100〕方向に沿うべき方向のいずれかに沿って延びていることを特徴とする。
【0009】
本発明の第4側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第1側面から第3側面のいずれかに係る半導体デバイスの製造方法であって、前記マスク形成工程は、前記金属層の上にマスク層を成膜するマスク層成膜工程と、前記マスク層に前記複数の開口グループを形成することにより、前記マスクを形成する開口グループ形成工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の第5側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第1側面から第4側面のいずれかに係る半導体デバイスの製造方法であって、前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、前記成長工程は、前記第1の温度より高い第2の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第1の成長工程と、前記第2の温度より高い第3の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第2の成長工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の第6側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第1側面から第4側面のいずれかに係る半導体デバイスの製造方法であって、前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、前記成長工程は、前記第1の温度より高い第2の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第1の成長工程と、前記第1の温度と前記第2の温度との間の第4の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第3の成長工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の第7側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第1側面から第6側面のいずれか1項に記載の半導体デバイスの製造方法であって、前記マスクを除去するマスク除去工程と、前記第1バッファー層を選択的にエッチングすることにより、前記複数の半導体部材を前記下地基板から分離するとともに互いに分離する分離工程とをさらに備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明の第8側面に係る半導体デバイスの製造方法は、下地基板の上に第1バッファー層を形成する第1バッファー層形成工程と、前記第1バッファー層をそれぞれ露出する複数の開口グループと前記第1バッファー層を露出しない第1の非開口部と前記第1バッファー層をそれぞれ露出しない複数の第2の非開口部とを含むマスクを形成するマスク形成工程と、前記第1バッファー層の表面において前記複数の開口グループにより露出された複数の領域グループに、III族窒化物半導体の複数の第2バッファー層を形成する第2バッファー層形成工程と、前記複数の第2バッファー層の上に、III族窒化物半導体の複数の半導体部材を成長させる成長工程とを備え、前記開口グループは、六角形に沿った形状をそれぞれ有した複数の開口を含み、前記第1の非開口部は、前記複数の開口グループの間に配され、前記第2の非開口部は、前記開口グループ内の前記複数の開口の間に配され、前記マスク形成工程では、各開口グループ内の各開口の最小幅が5μm以上25μm以下になり、各開口グループ内の隣接する前記開口の間における前記第2の非開口部の幅が1.5μm以上8μm以下になり、隣接する前記開口グループの間における前記第1の非開口部の幅が10μm以上になるように、前記マスクを形成することを特徴とする。
【0014】
本発明の第9側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第8側面に係る半導体デバイスの製造方法であって、前記複数の第2バッファー層のそれぞれは、前記開口グループの前記複数の開口に対応した複数の第2バッファー領域を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の第10側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第8側面又は第9側面に係る半導体デバイスの製造方法であって、前記下地基板は、六方晶系及び擬似六方晶系のいずれかの結晶構造を有しており、前記六角形の各辺は、前記下地基板における前記半導体部材の〔10−10〕方向に沿うべき方向、〔01−10〕方向に沿うべき方向及び〔−1100〕方向に沿うべき方向のいずれかに沿って延びていることを特徴とする。
【0016】
本発明の第11側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第8側面から第10側面のいずれかに係る半導体デバイスの製造方法であって、前記第1バッファー層は、金属窒化物を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の第12側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第8側面から第11側面のいずれかに係る半導体デバイスの製造方法であって、前記マスク形成工程は、前記第1バッファー層の上にマスク層を成膜するマスク層成膜工程と、前記マスク層に前記複数の開口グループを形成することにより、前記マスクを形成する開口グループ形成工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の第13側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第8側面から第12側面のいずれかに係る半導体デバイスの製造方法であって、前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、前記成長工程は、前記第1の温度より高い第2の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第1の成長工程と、前記第2の温度より高い第3の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第2の成長工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の第14側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第8側面から第12側面のいずれかに係る半導体デバイスの製造方法であって、前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、前記成長工程は、前記第1の温度より高い第2の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第1の成長工程と、前記第1の温度と前記第2の温度との間の第4の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第3の成長工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の第15側面に係る半導体デバイスの製造方法は、本発明の第8側面から第14側面のいずれかに係る半導体デバイスの製造方法であって、前記マスクを除去するマスク除去工程と、前記第1バッファー層を選択的にエッチングすることにより、前記複数の半導体部材を前記下地基板から分離するとともに互いに分離する分離工程とをさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、III族窒化物半導体の複数の半導体部材を成長させる際におけるクラックの発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体デバイスの製造方法を示す工程断面図。
【図2】本発明の第1実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体デバイスの製造方法を示す工程断面図。
【図3】図2(b)に示す工程により得られた構造体の平面図。
【図4】本発明の第1実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体デバイスの製造方法を示す工程断面図。
【図5】本発明の第1実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体デバイスの製造方法を示す工程断面図。
【図6】各開口の開口幅W[μm]、開口の配列ピッチP[μm]、及び隣接する開口の間における第2の非開口部の幅G[μm]の関係を示す図。
【図7】W−G平面における好ましい領域を示す図。
【図8】P−G平面における好ましい領域を示す図。
【図9】第2の非開口部の幅Gとマージ率との関係を示す図。
【図10】図1〜図5の工程を行って得られた試料のXRD分析結果を示す図。
【図11】(W,G)=(18,2)の条件で得られた半導体部材の写真。
【図12】(W,G)=(28,2)の条件で得られた半導体部材の写真。
【図13】(W,G)=(48,2)の条件で得られた半導体部材の写真。
【図14】本発明の第2実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体デバイスの製造方法を示す工程断面図。
【図15】本発明の第2実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体デバイスの製造方法を示す工程断面図。
【図16】本発明の第2実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体デバイスの製造方法を示す工程断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において、「膜」は、連続した膜でもよいし、不連続な膜でもよいものとする。「膜」は、厚さを持って形成されている状態を表す。
【0024】
本発明は、LED(Light Emitting Diode)などの半導体デバイスに適用可能な複数の半導体部材を選択的に成長させるための方法に関する。
【0025】
本発明の第1実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体デバイスの製造方法を、図1〜図5を用いて説明する。図1、図2、図4及び図5は、半導体デバイスの製造方法を示す工程断面図である。図3は、図2(b)に示す工程により得られた構造体の平面図である。なお、図1、図2、図4及び図5は、図3のA−A’に沿った断面に対応している。以下では、III族窒化物半導体の一例として、窒化ガリウムを中心に説明するが、他のIII族窒化物半導体に関しても同様である。
【0026】
図1(a)に示す工程では、下地基板10を準備する。下地基板10は、六方晶系及び擬似六方晶系のいずれかの結晶構造を有している。下地基板10の上面10aは、六方晶系及び擬似六方晶系のいずれかの結晶構造における(0001)面になっている。下地基板10の材料は、例えば、Al(サファイア)、GaN(窒化ガリウム)、又はAlN(窒化アルミニウム)である。
【0027】
図1(b)に示す工程では、スパッタ法などにより、下地基板10の上にクロム層(金属層)20を成膜する。成膜されるクロム層20の厚さは、例えば、20nmである。
【0028】
ここで、クロム層20を成膜するのは、その後に窒化して形成するクロム窒化物の原子間距離が窒化ガリウムに近く、窒化ガリウムとの格子不整合が小さいためである。
【0029】
図2(a)に示す工程では、クロム層20の上にマスク層40iを成膜する。成膜されるマスク層40iの厚さは、例えば、100nmである。マスク層40iの材料は、例えば、酸化シリコン及び窒化シリコンのいずれかである。
【0030】
ここで、図1(a)〜図2(a)の工程は、同じチャンバ内で連続的に行うことが好ましい。この場合、各層の界面に自然酸化膜が形成されることを低減できる。
【0031】
図2(b)に示す工程では、リソグラフィ法などにより、マスク層40iに複数の開口グループ40a〜40dを形成することにより、マスク40を形成する。
【0032】
形成されたマスク40は、図3に示すように、開口グループ配列OPA、第1の非開口部40j、及び複数の第2の非開口部40ka〜40kdを含む。開口グループ配列OPAでは、2次元状に配された複数の領域ORa〜ORdに対応して、複数の開口グループ40a〜40dが2次元状に配されている。各開口グループ40a〜40dは、クロム層20を露出する。領域ORa〜ORdの形状は、後述の半導体デバイス70a〜70dに対応した形状になっている。領域ORa〜ORdの形状は、例えば、四角形、六角形、三角形である。図3には、領域ORa〜ORdの形状が四角形である場合が例示されている。
【0033】
第1の非開口部40jは、複数の開口グループ40a〜40dの間に配されている。第1の非開口部40jは、複数の開口グループ40a〜40dの間を格子状に延びている。第1の非開口部40jは、クロム層20を露出しない。第1の非開口部40jは、マスク層40iと同じ材料で形成され、例えば、酸化シリコン及び窒化シリコンのいずれかで形成されている。
【0034】
複数の第2の非開口部40ka〜40kdは、複数の開口グループ40a〜40dに対応して2次元状に配されている。各第2の非開口部40ka〜40kdは、開口グループ内の複数の開口の間に配されている。各第2の非開口部40ka〜40kdは、開口グループ内の複数の開口の間をハニカム状に延びている。例えば、第2の非開口部40kaは、開口グループ40a内の複数の開口40a1,・・・,40anの間をハニカム状に延びている。各第2の非開口部40ka〜40kdは、クロム層20を露出しない。各第2の非開口部40ka〜40kdは、マスク層40iと同じ材料で形成され、例えば、酸化シリコン及び窒化シリコンのいずれかで形成されている。
【0035】
なお、図3には、マスク40が4つの開口グループ40a〜40dを含む場合が例示的に示されているが、マスク40はさらに多くの開口グループを含んでも良い。
【0036】
各開口グループ内では、六角形に沿った形状をそれぞれ有する複数の開口が2次元状に配列されている。例えば、開口グループ40a内では、六角形に沿った形状をそれぞれ有する複数の開口40a1,40a2,・・・,40anが2次元状に配列されている。この六角形の各辺は、下地基板10における後述の各半導体部材60a〜60dの〔10−10〕方向に沿うべき方向、〔01−10〕方向に沿うべき方向及び〔−1100〕方向に沿うべき方向のいずれかに沿って延びている。これに応じて、第2の非開口部40kaは、開口グループ40a内の複数の開口40a1〜40anの間をハニカム状に延びている。図2(b)に示すように、第2の非開口部40kaの高さは、第1の非開口部40jの高さより低くなっていることが好ましいが、第1の非開口部40jの高さと同じでもよい。第2の非開口部40kaの高さが第1の非開口部40jの高さより低ければ、複数の領域ORa〜ORdのそれぞれにおける成長した窒化ガリウムがマージしないようにすることが容易である。また、図3に示すように、第1の非開口部40jの幅は、第2の非開口部40kaの幅に比べて広いことが好ましい。第1の非開口部40jの幅が第2の非開口部40kaの幅に比べて十分に広ければ、複数の領域ORa〜ORdのそれぞれにおける成長した窒化ガリウムがマージしないようにすることが容易である。
【0037】
なお、上記の六角形に沿った形状は、六角形の形状に加えて、六角形の基本的な形状を保ちながらその角に丸みを持たせた形状も含む。また、上記の六角形の各辺は、例えば、下地基板10の材料がAl2O3(サファイア)である場合、下地基板10の〔11−20〕方向、〔1−210〕方向及び〔−2110〕方向のいずれかに沿って延びている。六角形の各辺は、例えば、下地基板10の材料がGaN(窒化ガリウム)又はAlN(窒化アルミニウム)である場合、下地基板10の〔10−10〕方向、〔01−10〕方向及び〔−1100〕方向のいずれかに沿って延びている。この様に、下地基板10とその上に成長されるべき各半導体部材60a〜60dとの間には方位関係が存在するので、それに従って六角形のマスク方位を定めれば良い。
【0038】
ここで、各開口グループ40a〜40d内の各開口の最小幅をW[μm]とし、各開口グループ40a〜40d内の隣接する開口の間における第2の非開口部の幅をG[μm]としたときに(図6参照)、W−G平面(図7参照)における
5≦W≦25・・・数式1
1.5≦G≦8・・・数式2
を満たすように、マスク40を形成する。数式1及び数式2を満たす領域は、図7に斜線で示す領域PRである。
【0039】
図7に示す領域PRの左側の領域(0≦W<5)では、開口により露出された領域の幅が小さくなるので、後述の図2(c)に示す工程で窒化ガスをクロム層20に十分接触させることが困難になり、第1バッファー層を形成することが困難になる。図7に示す領域PRの右側の領域(W>25)では、開口により露出された領域の幅が大きくなるので、第1バッファー層及びその上に形成する第2のバッファー層を介して内部応力が後述の半導体部材内で伝播することを低減できなくなり、第2のバッファー層の上に成長させる半導体部材にクラックが発生する可能性がある。図7に示す領域PRの下側の領域(0≦G<1.5)では、マスク層40iをパターニングする露光装置の解像限界が約1μmであることに応じて、プロセスばらつきの影響を受けて隣接する開口がつながる可能性がある。図7に示す領域PRの上側の領域(G>8)では、隣接する開口の間における第2の非開口部の幅G[μm](図6参照)が大きくなるので、隣接する開口から成長した窒化ガリウムが隣接する開口の間でマージしにくくなり、半導体部材が得られない可能性がある。
【0040】
さらに、隣接する開口グループの間における第1の非開口部の幅をL[μm]としたときに(図3参照)、
L≧10・・・数式3
を満たすように、マスク40を形成する。第1の非開口部の幅Lが10[μm]より小さくなると、複数の領域ORa〜ORdのそれぞれにおける成長した窒化ガリウムがマージしてしまい、後述の図4(d)に示す工程において複数の半導体部材を選択的に成長できなくなる可能性がある(図9参照)。
【0041】
図2(c)に示す工程では、クロム層20において複数の開口グループ40a〜40dにより露出された複数の領域グループ20a〜20dを、1000℃以上1300℃以下の温度で窒化することにより、クロム窒化物(金属窒化物)の複数の第1バッファー層30a〜30dを形成する。すなわち、下地基板10を1000℃以上1300℃の温度に加熱するとともに、クロム層20の表面をアンモニアガス雰囲気にする。これにより、クロム層20における複数の領域グループ20a〜20dが窒化して複数の第1バッファー層30a〜30dになる。
【0042】
ここで、各領域グループ20a〜20dは、開口グループの複数の開口に対応した複数の領域を含む。例えば、領域グループ20aは、開口グループ40aの複数の開口40a1〜40anに対応した複数の領域20a1〜20anを含む。これに応じて、形成する各第1バッファー層30a〜30dは、開口グループの複数の開口に対応した複数の第1バッファー領域を含む。例えば、第1バッファー層30aは、開口グループ40aの複数の開口40a1〜40anに対応した複数の第1バッファー領域30a1〜30anを含む。各第1バッファー層30a〜30dにおける複数の第1バッファー領域は、第1バッファー領域と結晶方位の異なるクロム層20により互いに隔てられている。例えば、第1バッファー層30aにおける複数の第1バッファー領域30a1〜30anは、第1バッファー領域と結晶方位の異なるクロム層20により互いに隔てられている。これにより、各開口の幅Wが数式1を満たしていれば、第1バッファー層を介して内部応力が後述の半導体部材内を伝播することを低減できる。
【0043】
また、クロムの結晶構造が立方晶系であるのに対して、クロム窒化物の結晶構造が六方晶系である。クロム層20を窒化した際に、クロムの結晶格子がクロム窒化物の結晶格子へと再配列するためには、一定以上のエネルギーが必要であると考えられる。
【0044】
仮に、クロム層20の窒化温度が1000℃未満であると、クロムの結晶格子がクロム窒化物の結晶格子へと再配列するために十分なエネルギーがクロム層20に与えられないので、窒化されて形成される第1バッファー層30の結晶性が悪くなる。
【0045】
それに対して、本実施形態では、クロム層20の窒化温度が1000℃以上であるので、クロムの結晶格子がクロム窒化物の結晶格子へと再配列するために十分なエネルギーがクロム層20に与えられる。これにより、クロム層20が窒化されて形成されるクロム窒化物の第1バッファー層30の結晶性が向上する。
【0046】
だだし、過度な高温で窒化することは、熱負荷増大による装置の部材劣化の問題が生じるとともに、形成された第1バッファー層と下地基板との相互熱拡散などの問題が生じる。このため、窒化温度は1300℃以下が好ましい。
【0047】
また、第1バッファー層30の材料であるクロム窒化物は、下地基板(サファイア)と窒化ガリウムとの間の原子間距離を有するので、下地基板との格子不整合が小さい。この点からも、第1バッファー層30の結晶性が向上する。
【0048】
図4(a)に示す工程では、複数の開口グループ40a〜40dにより露出された複数の第1バッファー層30a〜30dから、窒化ガリウムの複数の第2バッファー層50a〜50dを成長させる。
【0049】
ここで、各第1バッファー層30a〜30dは、複数の第1バッファー領域を含む。これに応じて、形成された各第2バッファー層50a〜50dは、複数の第1バッファー領域に対応した複数の第2バッファー領域を含む。例えば、第2バッファー層50aは、複数の第1バッファー領域30a1〜30anに対応した複数の第2バッファー領域50a1〜50anを含む。各第2バッファー層50a〜50dにおける複数の第2バッファー領域は、第2バッファー領域と結晶方位の異なる第2の非開口部により互いに隔てられている。例えば、第2バッファー層50aにおける複数の第2バッファー領域50a1〜50anは、第2バッファー領域と結晶方位の異なる第2の非開口部40kaにより互いに隔てられている。これにより、第2バッファー層を介して内部応力が後述の半導体部材内を伝播することを低減できる。
【0050】
また、複数の第2バッファー層50a〜50dは、それぞれ、例えば、GaNの単結晶体、多結晶体又はアモルファス体で構成されうる。複数の第2バッファー層50a〜50dの厚さは、それぞれ、数十Å〜数十μmであることが好ましい。複数の第2バッファー層50a〜50dの成長温度は、それぞれ、850℃以上950℃以下の第1の温度であることが好ましい。
【0051】
第2バッファー層50a〜50dの成長温度が850℃より低いと、エピタキシャル状の成長が困難になり、下地基板に対する適切な面方位と異なった面方位が生じやすい。第2バッファー層50a〜50dは、六方晶系の結晶構造を有しており、その{1−100}面群が下地基板の{11−20}面群に沿って延びていることが適切である。仮に、第2バッファー層50a〜50dにおけるその{1−100}面群が異なる方位に延びている部分が存在すると、その部分と適切な面方位を有する部分との間で格子ひずみに起因した内部応力が発生するので、各第2バッファー層50a1〜50an内にクラックの発生する可能性がある。第2バッファー層50a〜50dの成長温度が950℃より高いと、第2バッファー層50a〜50dの成長が起こりにくくなる。
【0052】
図4(b)に示す工程では、HVPE法やMOCVD法などにより、複数の第2バッファー層50a〜50dの上に、窒化ガリウムの複数の半導体部材60a〜60dを成長させる。すなわち、各開口グループの複数の開口における隣接する開口の第2の非開口部の幅Gが数式2を満たしていれば、各第2バッファー層における複数の第2バッファー領域の表面から成長した窒化ガリウムが互いにマージすることにより、各半導体部材60a〜60dが成長する。
【0053】
ここで、複数の半導体部材60a〜60dは、それぞれ、例えば、GaNの単結晶体で構成されうる。複数の半導体部材60a〜60dの厚さは、それぞれ、数十Å〜数十μmであることが好ましい。複数の半導体部材60a〜60dの成長温度は、それぞれ、複数の第2バッファー層50a〜50dの成長温度よりも高い温度、例えば約1080℃になる。
【0054】
また、複数の第2バッファー層50a〜50dは、マスク40における第1の非開口部40jにより互いに隔てられている。マスク40の結晶方位が複数の第2バッファー層50a〜50dの結晶方位と異なるので、複数の第2バッファー層50a〜50dのいずれかの特定箇所に存在する転位は、他の第2バッファー層50a〜50dに伝播しにくい。これにより、複数の第2バッファー層50a〜50dは、全体として、その結晶性が向上する。この結果、複数の第2バッファー層50a〜50dの上に成長させる複数の半導体部材60a〜60dの結晶性も向上する。すなわち、III族窒化物半導体の複数の半導体部材を成長させる際の結晶性を向上できる。
【0055】
さらに、第1バッファー層30の材料であるクロム窒化物は、下地基板(サファイア)と窒化ガリウムとの間の原子間距離を有するので、窒化ガリウムとの格子不整合が小さい。例えば、サファイアの30°回転した(0001)面方向の原子間距離は、2.747Åである。窒化ガリウムの(0001)面方向の原子間距離は、3.188Åである。クロム窒化物の(111)面方向の原子間距離は、2.927Åであり、サファイアの原子間距離と窒化ガリウムの原子間距離との間の値である。これにより、第1バッファー層30の上に成長する複数の第2バッファー層50a〜50d及び複数の半導体部材60a〜60dは、結晶性が向上する。
【0056】
また、第1バッファー層30の材料であるクロム窒化物は、下地基板(サファイア)と窒化ガリウムとの間の熱膨張係数を有する。例えば、サファイアの(0001)面方向の熱膨張係数は、7.50である。窒化ガリウムの(0001)面方向の熱膨張係数は、5.45である。クロム窒化物の(111)面方向の熱膨張係数は、6.00であり、サファイアの熱膨張係数と窒化ガリウムの熱膨張係数との間の値である。これにより、下地基板10と、複数の第2バッファー層50a〜50d及び複数の半導体部材60a〜60dとの間の熱膨張係数の差に基づいて発生する内部応力を第1バッファー層30で緩和することができる。このため、複数の第2バッファー層50a〜50d及び複数の半導体部材60a〜60dのそれぞれの内部応力が低減されるので、複数の第2バッファー層50a〜50d及び複数の半導体部材60a〜60dのそれぞれにおける下地基板との熱膨張係数の差に起因したクラックの発生を低減できる。そして、この点からも、複数の第2バッファー層50a〜50d及び複数の半導体部材60a〜60dの結晶性が向上する。
【0057】
なお、図4(b)に示す工程は、第1の温度より高い第2の温度で複数の半導体部材60a〜60dを成長させる第1の成長工程と、第2の温度より高い第3の温度で複数の半導体部材60a〜60dを成長させる第2の成長工程とを含んでもよい。第2の温度は、例えば、1040℃であり、第3の温度は、例えば、1080℃である。本発明者が行った実験によれば、1040℃で加熱した後に1080℃で加熱する(2段階の加熱を行う)ことにより複数の半導体部材を成長した場合、1080℃で加熱する(1段階の加熱を行う)ことにより複数の半導体部材を成長した場合に比べて、得られた各半導体部材の結晶性が約5%向上した。
【0058】
あるいは、図4(b)に示す工程は、第1の温度より高い第2の温度で複数の半導体部材60a〜60dを成長させる第1の成長工程と、第1の温度と第2の温度との間の第4の温度で複数の半導体部材60a〜60dを成長させる第3の成長工程とを含んでもよい。第2の温度は、例えば、1080℃であり、第4の温度は、例えば、1040℃である。本発明者が行った実験によれば、1080℃で加熱した後に1040℃で加熱する(2段階の加熱を行う)ことにより複数の半導体部材を成長した場合、1080℃で加熱する(1段階の加熱を行う)ことにより複数の半導体部材を成長した場合に比べて、得られた各半導体部材の結晶性が約10%向上した。
【0059】
図5(a)に示す工程では、マスク40を除去する。例えば、マスク40を、選択的にエッチングして除去する。例えば、マスク40の材料が酸化シリコンである場合、HF溶液あるいはBOE(バッファードHF)溶液を用いることにより、マスク40を選択的にエッチングすることができる。このとき、マスク40における複数の開口グループ40a〜40dを隔てる第1の非開口部40jだけでなく、各開口グループ40a〜40d内の複数の開口40a1〜40anを隔てる各第2の非開口部40ka〜40kdも除去する。
【0060】
なお、マスク40における第1の非開口部40jを切削刃あるいはレーザを用いてスクライビングすることにより、マスク40における第1の非開口部40jを機械的あるいは物理的に除去してもよい。このとき、各第2の非開口部40ka〜40kdは除去されずに残る可能性がある。
【0061】
図5(b)に示す工程では、クロム層20及び複数の第1バッファー層30a〜30dを選択的にエッチングして、複数の半導体部材60a〜60dを下地基板10から分離するとともに互いに分離する。これにより、複数の半導体デバイス70a〜70dを得ることができる。
【0062】
なお、各第2の非開口部40ka〜40kdが除去されずに残っていた場合でも、クロム層20がエッチングされる際に各第2の非開口部40ka〜40kdも除去される。
【0063】
ここで、複数の半導体デイバス70a〜70dは、それぞれ、第2バッファー層と半導体部材とを含む。例えば、半導体デイバス70aは、第2バッファー層50aと半導体部材60aとを含む。複数の半導体デバイス70a〜70dの形状は、それぞれ、開口グループが配される領域ORa〜ORdの形状に対応して、LEDなどの半導体デバイスに適した形状になっている。複数の半導体デバイス70a〜70dの形状は、例えば、領域ORa〜ORdの形状が四角形である場合(図3参照)、四角形になる。複数の半導体デバイス70a〜70dの寸法は、それぞれ、開口グループが配される領域の寸法に対応して、LEDなどの半導体デバイスに適した大きさになっている。
【0064】
また、各半導体デイバス70a〜70bは、複数の第2バッファー領域と半導体部材とを含む。例えば、半導体デイバス70aは、複数の第2バッファー領域50a1〜50anと半導体部材60aとを含む。複数の第2バッファー領域50a1〜50anの形状は、それぞれ、開口の形状(図3参照)に対応した六角形状になっている。
【0065】
このように、クロム層を窒化する前に複数の開口グループを含むマスクを形成して、クロム層の表面において複数の開口グループにより露出された複数の領域グループを選択的に窒化することにより、それぞれ複数の第1バッファー領域を含む複数の第1バッファー層を形成している。各第1バッファー層における複数の第1バッファー領域は、第1バッファー層と結晶方位の異なるクロム層により互いに隔てられたものとなる。これにより、第1バッファー層を介して内部応力が各半導体部材内60a〜60dで伝播することを低減できる。
【0066】
また、それぞれ複数の第1バッファー領域を含む複数の第1バッファー層の上に、それぞれ複数の第2バッファー領域を含む複数の第2バッファー領域を形成している。各第2バッファー層50a〜50dにおける複数の第2バッファー領域50a1〜50anは、第2バッファー層と結晶方位の異なる第2の非開口部により互いに隔てられたものとなる。これにより、第2バッファー層を介して内部応力が各半導体部材60a〜60d内で伝播することを低減できる。
【0067】
したがって、各半導体部材60a〜60d内で内部応力が伝播することを低減できるので、各半導体部材60a〜60d内におけるクラックの発生を低減できる。すなわち、本実施形態によれば、III族窒化物半導体の複数の半導体部材を成長させる際におけるクラックの発生を低減できる。
【0068】
次に、本実施形態による効果を明確にするため、実験を行った結果を、図6〜図13を用いて説明する。図6は、各開口の開口幅W[μm]、開口の配列ピッチP[μm]、及び各開口グループ内の隣接する開口の間における第2の非開口部の幅G[μm]の関係を示す図である。
【0069】
図6に示すように、開口幅Wは、各開口の最小幅であり、開口OP1における中心C1を介して対向する2辺S1,S2の間の幅として定義される。配列ピッチPは、隣接する開口OP1,OP2の中心C1,C2間の距離として定義される。第2の非開口部の幅Gは、隣接する開口OP1,OP2を隔てる第2の非開口部40k(図3参照)の幅として定義される。これらの変数の間には、
第2の非開口部の幅G=配列ピッチP−開口幅W・・・数式4
の関係がある。
【0070】
図7は、W−G平面における好ましい領域PRを示す図である。図7には、本実施形態における好ましい領域PRが斜線で示してある。また、図7に示す一点鎖線は、領域PRの境界を示す。
【0071】
本発明者は、図1(a)〜図2(a)に示す工程を行った後、図2(b)に示す工程で、第1実施形態における条件として、(W,G)=(6.5,3.5),(8,2),(13,2),(18,2),(5,5),(10,5)の条件(図7で●で示す条件)でマスクを形成した。その後、図2(c)〜図5(b)に示す工程を行って得られた半導体部材の表面を顕微鏡観察した。その結果、半導体部材の表面においてクラックが観察されなかった(図11参照)。
【0072】
また、本発明者、図1(a)〜図2(a)に示す工程を行った後、図2(b)に示す工程で、比較例における条件として、(W,G)=(2,2),(10,10),(28,2),(48,2)(図7で▲で示す条件)でマスクを形成した。(W,G)=(2,2)の条件(領域PRの左側の▲で示す条件)では、窒化ガリウムが成長しなかった。(W,G)=(10,10)の条件(領域PRの上側の▲で示す条件)では、各第2バッファー層における隣接する第2バッファー領域の上にそれぞれ成長した窒化ガリウムがその間の第2の非開口部の上でマージしないことを確認した(図9参照)。(W,G)=(28,2),(48,2)の条件(領域PRの右側の▲で示す条件)では、得られた半導体部材の顕微鏡観察を行った結果クラックが観察された(図12及び図13参照)。これらの結果から、本発明者は、図7に斜線で示す領域PRが好ましい領域であることを導き出した。
【0073】
図8は、P−G平面における好ましい領域PRを示す図である。図8に示すP−G平面は、数式4の関係を用いて、図7に示すW−G平面を変換したものである。図8においても、好ましい領域PRを斜線で示してある。
【0074】
図9は、第2の非開口部の幅Gとマージ率との関係を示す図である。マージ率は、第2の非開口部における半導体部材により覆われた領域の面積の割合として求めた。図9には、第1実施形態における条件(W,G)=(6.5,3.5),(8,2),(13,2),(18,2)のマージ率が●で示され、好ましくない条件(W,G)=(10,10)のマージ率が▲で示されている。図9に示されるように、第2の非開口部の幅Gが長すぎるとマージ率が100%から低下する傾向にあることが分かった。例えば、第2の非開口部の幅Gが10μmのとき、第2の非開口部の開口両端から第2の非開口部の中央部に向かって半導体部材が約4μmずつ延びたので、マージ率が約80%になることが分かった。
【0075】
図10は、図1〜図5の工程を行って得られた試料のXRD分析結果を示す図である。図1〜図5の工程を行って得られた試料すなわち複数の半導体部材の1つに対してX線回折(XRD)分析を行った。すなわち、半導体部材のXRDプロファイルにおける(01−12)面のピーク半値幅を求めたところ、700〜850[arcsec]であった。図10には、この結果を、「本実施形態」として棒グラフで示してある。
【0076】
また、図10には、比較のために、特許文献1に示される第2実施形態の方法により複数の半導体部材を得た場合について、(01−12)面のピーク半値幅の予想される値を「特許文献1」として棒グラフで示してある。
【0077】
特許文献1に示される第2実施形態の方法によれば、下地基板の上にクロム層を形成し、クロム層の上に複数の開口を有するマスクを形成し、下地基板における複数の開口により露出された複数の領域を選択的に窒化することにより、複数の第1バッファー層を形成する。そして、複数の第1バッファー層の上に複数の第2バッファー層を形成した後、複数の第2バッファー層の上に複数の半導体部材を成長させることになる。この場合、各第1バッファー層内や各第2バッファー層内における転位の伝播が発生する。
【0078】
一方、本実施形態によれば、各第1バッファー層における複数の第1バッファー領域は、第1バッファー層と結晶方位の異なるクロム層により互いに隔てられたものとなる。これにより、各第1バッファー層において、複数の第1バッファー領域のいずれかの特定箇所に存在する転位は、他の第1バッファー領域に伝播しにくい。この結果、第1バッファー層を介して転位が各半導体部材内60a〜60dで伝播することを低減できるので、特許文献1の第2実施形態に比べて、各半導体部材の結晶性が向上すると考えられる。
【0079】
また、各第2バッファー層における複数の第2バッファー領域は、第2バッファー層と結晶方位の異なるマスクにより互いに隔てられたものとなる。これにより、各第2バッファー層において、複数の第2バッファー領域のいずれかの特定箇所に存在する転位は、他の第2バッファー領域に伝播しにくい。この結果、第2バッファー層を介して転位が各半導体部材60a〜60d内で伝播することを低減できるので、特許文献1の第2実施形態に比べて、各半導体部材の結晶性が向上すると考えられる。
【0080】
よって、図10では、「本実施形態」のXRD半値幅が「特許文献1」のXRD半値幅よりも小さく結晶性が良好であるとしている。
【0081】
図11は、(W,G)=(18,2)の条件で得られた半導体部材の写真を示す。図11(a)は、半導体部材の外観を示し、図11(b)、(c)は、顕微鏡観察結果を示す。(W,G)=(18,2)の条件により得られた半導体部材の表面には、クラックが観察されなかった。
【0082】
図12は、(W,G)=(28,2)の条件で得られた半導体部材の写真を示す。図12(a)は、半導体部材の外観を示し、図12(b)、(c)は、顕微鏡観察結果を示す。(W,G)=(28,2)の条件により得られた半導体部材の表面には、クラックが観察された。また、半導体部材が2つに割れた。
【0083】
図13は、(W,G)=(48,2)の条件で得られた半導体部材の写真を示す。図13(a)は、半導体部材の外観を示し、図13(b)、(c)は、顕微鏡観察結果を示す。(W,G)=(48,2)の条件により得られた半導体部材の表面には、クラックが観察された。また、半導体部材が2つに割れた。
【0084】
次に、本発明の第2実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体デバイスの製造方法を、図14〜図16を用いて説明する。図14〜図16は、半導体デバイスの製造方法を示す工程断面図である。なお、以下では、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0085】
図14(a)に示す工程は、図1(b)に示す工程の後に行われる。図14(a)に示す工程では、クロム層20を1000℃以上1300℃以下(1273K以上1573K以下)の温度で窒化することにより、クロム窒化物(金属窒化物)の第1バッファー層130を形成する。
【0086】
図14(b)に示す工程では、第1バッファー層130の上にマスク層140iを成膜する。
【0087】
図15(a)に示す工程では、図2(b)に示す工程と同様に、リソグラフィ法などにより、マスク層140iに複数の開口グループ140a〜140dを形成して、マスク140を形成する。第1バッファー層130の表面は、複数の開口グループ140a〜140dにより露出された複数の領域グループ130a〜130dを有している。各領域グループ130a〜130dは、開口グループの複数の開口に対応した複数の領域を含む。例えば、領域グループ130aは、開口グループ140aの複数の開口140a1〜140anに対応した複数の領域130a1〜130anを含む。
【0088】
形成されたマスク140は、開口グループ配列OPA100、第1の非開口部140j、及び複数の第2の非開口部140ka〜140kdを含む。開口グループ配列OPA100では、複数の開口グループ140a〜140dが2次元状に配されている。各開口グループ140a〜140dは、第1バッファー層130を露出する。
【0089】
第1の非開口部140jは、複数の開口グループ140a〜140dの間に配されている。第1の非開口部140jは、複数の開口グループ140a〜140dの間を格子状に延びている。第1の非開口部140jは、第1バッファー層130を露出しない。
【0090】
複数の第2の非開口部140ka〜140kdは、複数の開口グループ140a〜140dに対応して2次元状に配されている。各第2の非開口部140ka〜140kdは、開口グループ内の複数の開口の間に配されている。各第2の非開口部140ka〜140kdは、開口グループ内の複数の開口の間をハニカム状に延びている。各第2の非開口部140ka〜140kdは、第1バッファー層130を露出しない。
【0091】
各開口グループ内では、六角形に沿った形状をそれぞれ有する複数の開口が2次元状に配列されている。例えば、開口グループ140a内では、六角形に沿った形状をそれぞれ有する複数の開口140a1,140a2,・・・,140anが2次元状に配列されている。この六角形の各辺は、下地基板10における後述の各半導体部材160a〜160dの〔10−10〕方向に沿うべき方向、〔01−10〕方向に沿うべき方向及び〔−1100〕方向に沿うべき方向のいずれかに沿って延びている。六角形の各辺は、例えば、下地基板10の材料がAl2O3(サファイア)である場合、下地基板10の〔11−20〕方向、〔1−210〕方向及び〔−2110〕方向のいずれかに沿って延びている。六角形の各辺は、例えば、下地基板10の材料がGaN(窒化ガリウム)である場合、下地基板10の〔10−10〕方向、〔01−10〕方向及び〔−1100〕方向のいずれかに沿って延びている。これに応じて、第2の非開口部140kaは、開口グループ140a内の複数の開口140a1〜140anの間をハニカム状に延びている。
【0092】
図15(b)に示す工程では、HVPE法やMOCVD法などにより、第1バッファー層130の表面における複数の開口グループ140a〜140dにより露出された複数の領域グループ130a〜130dから、窒化ガリウムの複数の第2バッファー層150a〜150dを成長させる。各第2バッファー層150a〜150dは、開口グループにおける複数の開口に対応した複数の第2バッファー領域を含む。例えば、第2バッファー層150aは、開口グループ140aの複数の開口140a1〜140anに対応した複数の第2バッファー領域150a1〜150anを含む。
【0093】
図16(a)に示す工程では、HVPE法やMOCVD法などにより、複数の第2バッファー層150a〜150dの上に、窒化ガリウムの複数の半導体部材160a〜160dを成長させる。
【0094】
図16(b)に示す工程では、マスク140を除去する。例えば、マスク140を、選択的にエッチングして除去する。例えば、マスク140の材料が酸化シリコンである場合、HF溶液あるいはBOE(バッファードHF)溶液を用いることにより、マスク140を選択的にエッチングすることができる。
【0095】
図16(c)に示す工程では、第1バッファー層130を選択的にエッチングして、複数の半導体部材160a〜160dを下地基板10から分離するとともに互いに分離する。これにより、複数の半導体デバイス170a〜170dを得ることができる。
【0096】
このように、クロム層を窒化して第1バッファー層を形成した後に複数の開口グループを含むマスクを形成して、第1バッファー層の表面において複数の開口グループにより露出された複数の領域グループから、それぞれ複数の第2バッファー領域を含む複数の第2バッファー層を成長させている。これにより、各第2バッファー層150a〜150dにおける複数の第2バッファー領域は、第2バッファー層と結晶方位の異なる第2の非開口部により互いに隔てられたものとなる。これにより、第2バッファー層を介して内部応力が各半導体部材160a〜160d内で伝播することを低減できる。
【0097】
したがって、各半導体部材160a〜160d内におけるクラックの発生を低減できる。すなわち、本実施形態によっても、III族窒化物半導体の複数の半導体部材を成長させる際におけるクラックの発生を低減できる。
【符号の説明】
【0098】
10 下地基板
20 クロム層(金属層)
30a〜30d,130 第1バッファー層
40 マスク
50a〜50d、150a〜150d 第2バッファー層
60a〜60d、160a〜160d 半導体部材
70a〜70d、170a〜170d 半導体デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板の上に金属層を形成する金属層形成工程と、
前記金属層をそれぞれ露出する複数の開口グループと前記金属層を露出しない第1の非開口部と前記金属層をそれぞれ露出しない複数の第2の非開口部とを含むマスクを形成するマスク形成工程と、
前記金属層において前記複数の開口グループにより露出された複数の領域グループを窒化することにより、金属窒化物の複数の第1バッファー層を形成する窒化工程と、
前記複数の第1バッファー層の上に、III族窒化物半導体の複数の第2バッファー層を形成する第2バッファー層形成工程と、
前記複数の第2バッファー層の上に、III族窒化物半導体の複数の半導体部材を成長させる成長工程と、
を備え、
前記開口グループは、六角形に沿った形状をそれぞれ有した複数の開口を含み、
前記第1の非開口部は、前記複数の開口グループの間に配され、
前記第2の非開口部は、前記開口グループ内の前記複数の開口の間に配され、
前記マスク形成工程では、各開口グループ内の各開口の最小幅が5μm以上25μm以下になり、各開口グループ内の隣接する前記開口の間における前記第2の非開口部の幅が1.5μm以上8μm以下になり、隣接する前記開口グループの間における前記第1の非開口部の幅が10μm以上になるように、前記マスクを形成する
ことを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記複数の第1バッファー層のそれぞれは、前記開口グループの前記複数の開口に対応した複数の第1バッファー領域を含み、
前記複数の第2バッファー層のそれぞれは、前記複数の第1バッファー領域に対応した複数の第2バッファー領域を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記下地基板は、六方晶系及び擬似六方晶系のいずれかの結晶構造を有しており、
前記六角形の各辺は、前記下地基板における前記半導体部材の〔10−10〕方向に沿うべき方向、〔01−10〕方向に沿うべき方向及び〔−1100〕方向に沿うべき方向のいずれかに沿って延びている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記マスク形成工程は、
前記金属層の上にマスク層を成膜するマスク層成膜工程と、
前記マスク層に前記複数の開口グループを形成することにより、前記マスクを形成する開口グループ形成工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、
前記成長工程は、
前記第1の温度より高い第2の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第1の成長工程と、
前記第2の温度より高い第3の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第2の成長工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、
前記成長工程は、
前記第1の温度より高い第2の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第1の成長工程と、
前記第1の温度と前記第2の温度との間の第4の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第3の成長工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記マスクを除去するマスク除去工程と、
前記第1バッファー層を選択的にエッチングすることにより、前記複数の半導体部材を前記下地基板から分離するとともに互いに分離する分離工程と、
をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項8】
下地基板の上に第1バッファー層を形成する第1バッファー層形成工程と、
前記第1バッファー層をそれぞれ露出する複数の開口グループと前記第1バッファー層を露出しない第1の非開口部と前記第1バッファー層をそれぞれ露出しない複数の第2の非開口部とを含むマスクを形成するマスク形成工程と、
前記第1バッファー層の表面において前記複数の開口グループにより露出された複数の領域グループに、III族窒化物半導体の複数の第2バッファー層を形成する第2バッファー層形成工程と、
前記複数の第2バッファー層の上に、III族窒化物半導体の複数の半導体部材を成長させる成長工程と、
を備え、
前記開口グループは、六角形に沿った形状をそれぞれ有した複数の開口を含み、
前記第1の非開口部は、前記複数の開口グループの間に配され、
前記第2の非開口部は、前記開口グループ内の前記複数の開口の間に配され、
前記マスク形成工程では、各開口グループ内の各開口の最小幅が5μm以上25μm以下になり、各開口グループ内の隣接する前記開口の間における前記第2の非開口部の幅が1.5μm以上8μm以下になり、隣接する前記開口グループの間における前記第1の非開口部の幅が10μm以上になるように、前記マスクを形成する
ことを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記複数の第2バッファー層のそれぞれは、前記開口グループの前記複数の開口に対応した複数の第2バッファー領域を含む
ことを特徴とする請求項8に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記下地基板は、六方晶系及び擬似六方晶系のいずれかの結晶構造を有しており、
前記六角形の各辺は、前記下地基板における前記半導体部材の〔10−10〕方向に沿うべき方向、〔01−10〕方向に沿うべき方向及び〔−1100〕方向に沿うべき方向のいずれかに沿って延びている
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記第1バッファー層は、金属窒化物を含む
ことを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記マスク形成工程は、
前記第1バッファー層の上にマスク層を成膜するマスク層成膜工程と、
前記マスク層に前記複数の開口グループを形成することにより、前記マスクを形成する開口グループ形成工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、
前記成長工程は、
前記第1の温度より高い第2の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第1の成長工程と、
前記第2の温度より高い第3の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第2の成長工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項8から12のいずれか1項に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、
前記成長工程は、
前記第1の温度より高い第2の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第1の成長工程と、
前記第1の温度と前記第2の温度との間の第4の温度で前記複数の半導体部材を成長させる第3の成長工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項8から12のいずれか1項に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記マスクを除去するマスク除去工程と、
前記第1バッファー層を選択的にエッチングすることにより、前記複数の半導体部材を前記下地基板から分離するとともに互いに分離する分離工程と、
をさらに備えた
ことを特徴とする請求項8から14のいずれか1項に記載の半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−239049(P2010−239049A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87527(P2009−87527)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【特許番号】特許第4461228号(P4461228)
【特許公報発行日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【出願人】(308041646)ウェーブスクエア, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】