説明

半導体基板、半導体基板の製造方法および半導体装置

【課題】半導体−絶縁体界面の界面準位が低減した半導体基板とその製造方法および半導体装置を提供する。
【解決手段】砒素を含む3−5族化合物の半導体層と、酸化物、窒化物または酸窒化物の絶縁層と、を備え、前記半導体層と前記絶縁層との間に砒素の酸化物が検出されない半導体基板が提供される。当該第1の形態において半導体基板は、前記半導体層と前記絶縁層との間に存在する元素を対象としたX線光電子分光法による光電子強度の分光観察において、砒素に起因する元素ピークの高結合エネルギー側に、酸化された砒素に起因する酸化物ピークが検出されないものであってよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、半導体基板の製造方法および半導体装置に関する。本発明は、特に、砒素を含む化合物半導体の半導体装置でMIS構造における界面準位を低減したもの、およびその製造用の半導体基板、半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体をチャネル層に用いたMISFET(金属・絶縁体・半導体電界効果トランジスタ)は、高周波動作および大電力動作に適したスイッチングデバイスとして期待されている。しかし、半導体−絶縁体界面に界面準位が形成される問題があり、界面準位の低減には化合物半導体表面の硫化物処理が有効であることが非特許文献1に記載されている。
【0003】
【非特許文献1】S.Arabasz,et al.著,Vac.80巻(2006年)、888ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、半導体−絶縁体界面の界面準位が低減した半導体基板とその製造方法および半導体装置を提供することにある。前記した通り、化合物半導体MISFETの実用化においては、界面準位を低減することが課題として認識されている。そこで、本発明者らは、界面準位に影響を及ぼす因子につき、鋭意研究を実施して、半導体−絶縁体界面(以下単に界面という)における酸化物の影響が大きいという知見を得て本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態においては、砒素を含む3−5族化合物の半導体層と、酸化物、窒化物または酸窒化物の絶縁層と、を備え、前記半導体層と前記絶縁層との間に砒素の酸化物が検出されない半導体基板が提供される。当該第1の形態において半導体基板は、前記半導体層と前記絶縁層との間に存在する元素を対象としたX線光電子分光法による光電子強度の分光観察において、砒素に起因する元素ピークの高結合エネルギー側に、酸化された砒素に起因する酸化物ピークが検出されないものであってよい。あるいは、前記半導体層と前記絶縁層との間に存在する元素を対象としたX線光電子分光法による光電子強度の分光観察において、砒素に起因する元素ピークの高結合エネルギー側に、酸素と結合した砒素の3d軌道からの光電子ピークが検出されないものであってよい。ここで、酸素と結合した砒素の3d軌道からの光電子ピークは、結合エネルギーが42eVから45eVの範囲内において観測されるべき光電子ピークであってよい。なお、「検出されない」は、本件出願の時点での計測技術におけるX線光電子分光法では検出されないという意味であり、計測技術の進歩によって将来検出される場合があり得る。また、「検出されない」は、計測したX線光電子分光光をカーブフィッティング法等の合理的な分析法により原因元素を特定する場合に、原因元素が存在しないと仮定した場合のカーブフィッティング法におけるフィッティング結果が、充分合理的に実測データを再現する場合にも「検出されない」ものとする。さらに、カーブフィッティングの結果において、「酸素と結合した砒素の3d軌道からの光電子ピーク」が他のピークと比較して充分に小さい場合、「検出されない」に含まれる。たとえば「酸素と結合した砒素の3d軌道からの光電子ピーク」が他のピークと比較して10分の1以下、好ましくは100分の1以下である場合には、当該ピークは検出されないとする。
【0006】
半導体基板は、前記半導体層と前記絶縁層との間に形成され、砒素の酸化を防止する中間層をさらに備えてよい。前記中間層は、酸素を除く6族元素を含んでよく、前記6族元素は、硫黄またはセレンであってよい。前記中間層は、酸化または窒化されて絶縁体になる金属元素を含んでよく、この場合、前記中間層は、アルミニウムを含んでよい。
【0007】
本発明の第2の形態においては、砒素を含む3−5族化合物の半導体層をエピタキシャル成長させる段階と、砒素の酸化を防止する処理を前記半導体層の表面に施す酸化防止処理段階と、を備えた半導体基板の製造方法が提供される。第2の形態において、砒素を含まない雰囲気に前記半導体層を保持して、前記半導体層の表面の過剰砒素を除去する段階、をさらに備えてよい。前記酸化防止処理段階は、前記半導体層の表面に硫黄、セレンまたはアルミニウムを含む被膜を形成する被膜形成段階であってよい。前記酸化防止処理段階は、水素を含む雰囲気で前記半導体層を処理する段階であってよい。前記酸化防止処理段階は、水素を含む雰囲気で前記半導体層に被膜を形成する段階であってよい。前記被膜を形成する段階の前における前記半導体層の表面が(2×4)構造またはc(8×2)構造を有するGa安定化面であってよい。
【0008】
本発明の第3の形態においては、砒素を含む3−5族化合物の半導体層をエピタキシャル成長させる段階と、砒素を含まない雰囲気に前記エピタキシャル成長させた前記半導体層を保持する段階と、前記保持された前記半導体層の表面を硫黄またはセレンを含む雰囲気で処理する段階と、を備えた半導体基板の製造方法が提供される。第3の形態において、前記硫黄またはセレンを含む雰囲気で処理された前記半導体層の表面を、水素を含む雰囲気内で処理する段階、をさらに備えてよい。前記硫黄を含む雰囲気は、硫黄の水素化物を含んでよい。前記セレンを含む雰囲気は、セレンの水素化物を含んでよい。前記半導体基板の表面に、アルミニウム、硫黄またはセレンを含む被膜を形成する段階をさらに備えてよい。前記アルミニウムを含む被膜を形成するためのアルミニウム原料は、有機アルミニウムであってよい。前記硫黄を含む被膜を形成するための硫黄原料は、硫黄の水素化物であってよい。前記セレンを含む被膜を形成するためのセレン原料は、セレンの水素化物であってよい。前記被膜を形成する段階の前における前記半導体層の表面が(2×4)構造またはc(8×2)構造を有するGa安定化面であってよい。さらに、酸化物、窒化物または酸窒化物の絶縁層を形成する段階、を備えてよい。
【0009】
本発明の第4の形態においては、砒素を含む3−5族化合物半導体と、前記3−5族化合物半導体の上に設けられた絶縁物と、を含み、前記3−5族化合物半導体と前記絶縁物との間、または、前記絶縁物の内部に、砒素の酸化を抑制する中間層を含む半導体基板が提供される。
【0010】
本発明の第5の形態においては、砒素を含む3−5族化合物の半導体層と、酸化物、窒化物または酸窒化物の絶縁層と、前記絶縁層の上の制御電極と、を備え、前記半導体層と前記絶縁層との間に砒素の酸化物が検出されない半導体装置が提供される。あるいは、前記第1の形態または前記第4の形態における前記半導体基板と、前記絶縁層の上の制御電極と、を備えた半導体装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本実施形態の半導体装置100の断面例を示す。半導体装置100は、基板102、バッファ層104、半導体層106、中間層108、絶縁層110、制御電極112および入出力電極114を備える。
【0012】
基板102は、その表面に化合物半導体の結晶層が形成できる限り、任意の材質等が選択できる。基板102として、たとえば単結晶シリコンウェハ、サファイア、単結晶GaAsウェハ等が例示できる。
【0013】
バッファ層104は、半導体層106と格子整合または擬格子整合する化合物半導体層であってよく、半導体層106と基板102との間に形成される。バッファ層104は、半導体層106の結晶性を高める目的で、あるいは、基板102からの不純物の影響を低減する目的で形成されてよい。バッファ層104として、たとえば不純物がドープされたあるいはドープされないGaAs層が例示できる。この場合、GaAs層は、たとえば有機金属ガスを原料ガスとしたMOCVD法(有機金属気相成長法)を用いて形成できる。
【0014】
半導体層106は、砒素を含む3−5族化合物の半導体であってよい。半導体層106は、電子デバイスの機能層として機能してよく、たとえば電子デバイスとしてMISFETを形成する場合、半導体層106は、FETのチャネルが形成されるチャネル層であってよい。半導体層106として、たとえばGaAs層が例示できる。半導体層106は、不純物がドープされていてもよく、ドープされていなくてもよい。ただし、MISFETのチャネル層として機能させる場合には、たとえばn形半導体となるようn形不純物がドープされていることが好ましい。半導体層106は、たとえば有機金属ガスを原料ガスとしたMOCVD法を用いて形成できる。
【0015】
絶縁層110は、酸化物、窒化物または酸窒化物の絶縁体であってよい。絶縁層110は、電子デバイスとしてMISFETを形成する場合、制御電極の一例であってよいゲート電極下のゲート絶縁層として機能する。絶縁層110として、たとえば酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等が例示できる。絶縁層110をMISFETのゲート絶縁層として機能させる場合には、絶縁層110は、高誘電率を示す材料とすることが好ましい。絶縁層110は、たとえば絶縁層110となる材料をターゲットに用いたスパッタリング法で形成できる。
【0016】
中間層108は、半導体層106と絶縁層110との間に形成され、砒素の酸化を防止する。本発明者らが得た知見によれば、半導体−絶縁体界面の界面準位を形成する物質として砒素の酸化物がある。よって砒素の酸化を防止する中間層108を半導体層106と絶縁層110との界面部分に形成することによって、砒素の酸化が抑制され、界面準位を低減できる。
【0017】
中間層108は、たとえば酸素を除く6族元素を含んでよく、6族元素として、硫黄またはセレンが例示できる。特に硫黄は、半導体層106がGaAs層である場合、中間層108と半導体層106との界面において、硫化ガリウムとして存在している。硫化ガリウムは界面準位を作らず、安定な界面を形成できる。
【0018】
中間層108は、酸化または窒化されて絶縁体になる金属元素を含んでよい。そのような金属元素としてアルミニウムが例示できる。特にアルミニウムの酸化物である酸化アルミニウムは化学的に安定であり、絶縁層110として酸化アルミニウムを選択した場合は、中間層108と絶縁層110とを一体化させ、中間層108をゲート絶縁層としても機能させることができる。
【0019】
中間層108は、構成する材料に応じた方法を選択して形成できる。たとえば硫黄の場合、硫黄を含むガス、たとえばHSガス雰囲気における熱処理(熱CVD)が選択できる。アルミニウムの場合、有機アルミニウムガスを原料としたMOCVDが選択できる。
その他、スパッタリング法、蒸着法等他の被膜形成方法を適用して中間層108を形成できる。
【0020】
上記の通り、中間層108は半導体層106と絶縁層110との間に存在する砒素の酸化を抑制する。よって、少なくとも現有の分析方法によっては、半導体層106と絶縁層110との間に砒素の酸化物が検出されない。たとえば、半導体層106と絶縁層110との間に存在する元素を対象としたX線光電子分光法による光電子強度の分光観察において、砒素に起因する元素ピークの高結合エネルギー側に、酸化された砒素に起因する酸化物ピークが検出されない。ここで、酸化された砒素に起因する酸化物ピークは、酸素と結合した砒素の3d軌道からの光電子ピークを意味する。
【0021】
制御電極112は、絶縁層110の上に形成される。制御電極112は、たとえばMISFETのゲート電極として機能できる。制御電極112として、たとえば任意の金属、ポリシリコン、メタルシリサイド等が例示できる。
【0022】
入出力電極114は、たとえばMISFETのソースまたはドレイン電極として機能する。入出力電極114と半導体層106との間にオーミンク接触を得るオーミック層を形成しても良い。入出力電極114として、下地材料とオーミック接触する任意の材料が選択できる。たとえば入出力電極114として、ニッケル、白金、金等の金属、ヘビードープしたポリシリコン、メタルシリサイド等が例示できる。
【0023】
なお、上記説明では、半導体装置100を説明したが、基板102、バッファ層104、半導体層106、中間層108および絶縁層110を一つの半導体基板として把握してもよい。このような半導体基板は、中間層108を備え、絶縁層110で表面が覆われた状態であり、界面を劣化させることなく商品として流通させることができる。半導体基板にはバッファ層104は必須でなく、半導体層106自体が基板102であってもよい。
【0024】
また上記説明では、半導体装置100として、MISFETを例示して説明したが、他の電子デバイスであってもよい。たとえば半導体装置100は、中間層108および絶縁層110を制御電極112および半導体層106で挟んだコンデンサであってもよい。
【0025】
図2から図6は、半導体装置100の製造過程における断面例を示す。図2に示すように、上層にバッファ層104が形成され、バッファ層104より上層に半導体層106が形成された基板102を準備する。半導体層106は、たとえばMOCVD法を用いたエピタキシャル成長により形成できる。
【0026】
半導体層106を形成した後、砒素を含まない雰囲気に半導体層106を保持して、半導体層106の表面の過剰砒素を除去できる。過剰砒素を除去することにより、砒素の酸化物を低減でき、前記した中間層108の界面準位低下の効果を相乗的に高めることができる。過剰砒素を除去する処理は、たとえば400℃以上好ましくは600℃以上、620℃以下の温度で実施できる。
【0027】
あるいは、半導体層106を形成した後、砒素を含まない雰囲気に半導体層106を保持して、半導体層106の表面の過剰砒素を除去した後、さらに、半導体層106の表面を、硫黄またはセレンを含む雰囲気により処理できる。その後、さらに砒素、硫黄またはセレンを含まない雰囲気に半導体層106を保持してもよい。あるいは、硫黄またはセレンを含む雰囲気で処理した半導体層106の表面を、水素を含む雰囲気内で処理してもよい。これにより、過剰な砒素をさらに除去することができる。
【0028】
このような処理により砒素の酸化物をさらに低減でき、中間層108の界面準位低下の効果を相乗的に高めることができる。過剰砒素を除去する処理、たとえば砒素を含まない雰囲気に半導体層106を保持する処理、半導体層106の表面への硫黄またはセレンを含む雰囲気での処理、あるいは半導体層106の表面への水素を含む雰囲気内での処理は、いずれも、たとえば400℃以上620℃以下の温度で実施できる。
【0029】
砒素を含まない雰囲気とは、具体的には水素雰囲気またはアルゴン等の不活性ガス雰囲気または真空雰囲気が選択でき、好ましくは水素雰囲気である。硫黄またはセレンを含む雰囲気による処理として、硫黄の水素化ガスまたはセレンの水素化ガス、たとえばHSまたはHSeを含むガス雰囲気における熱処理が選択できる。砒素、硫黄またはセレンを含まない雰囲気による処理として、具体的には水素雰囲気またはアルゴン等の不活性ガス雰囲気または真空雰囲気が選択でき、好ましくは水素雰囲気である。
【0030】
半導体層106を形成した後、砒素を含まない雰囲気に半導体層106を保持し、半導体層106の表面の過剰砒素を除去した半導体表面は、(2×4)Ga安定化面構造を有する。さらに、(2×4)Ga安定化面構造を有する半導体層106を、硫黄またはセレンを含む雰囲気により表面処理した後、さらに砒素、硫黄またはセレンを含まない雰囲気に半導体層106を保持することにより、過剰砒素がさらに除去された、c(8×2)Ga安定化面を得ることができる。
【0031】
ここで(2×4)Ga安定化面構造とは、Woodの表記法に従う、ミラー指数で表現したGaAs結晶の(100)面の表面における面構造である。この場合、Gaが最表面に露出し、再構成表面の周期構造が、下地の結晶格子の2×4個分を単位構造として、左右上下に無限に繰り返されている基本格子表面を意味する。c(8×2)Ga安定化面構造は、同様にWoodの表記法に従い、GaAs結晶の(100)面の表面における再構成表面の周期構造が、Gaが最表面に露出している、面心格子であり、下地の結晶格子の8×2個分を単位構造として、左右上下に無限に繰り返されている基本格子表面を意味する。
【0032】
図3に示すように、半導体層106の上層に中間層108となる、たとえば硫黄を含む被膜120を形成する。なお、被膜120の形成は、砒素の酸化を防止する処理として把握することが可能であり、被膜120の形成段階は、半導体層106の表面に施す酸化防止処理段階としても把握できる。被膜120は、硫黄を含むものに代えてセレンまたはアルミニウムを含むものであっても良い。アルミニウムを含む被膜を形成するためのアルミニウム原料は、有機アルミニウムが例示できる。硫黄を含む被膜を形成するための硫黄原料は、硫黄の水素化物が例示できる。セレンを含む被膜を形成するためのセレン原料は、セレンの水素化物が例示できる。
【0033】
被膜120をアルミニウム膜として形成する場合、有機アルミニウムガスたとえばトリメチルアルミニウムガス、ジメチルアルミニウムハイドライド、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムを用いることができる。被膜120を硫化ガリウム被膜またはセレン化ガリウム被膜として形成する場合、HSガスまたはHSeガスを用いることができる。
【0034】
また、被膜120の形成段階は、水素を含む雰囲気で半導体層106を熱処理する段階として把握することもできる。たとえばHSを原料ガスとする熱処理は、水素を含む雰囲気での処理として例示できる。
【0035】
図4に示すように、被膜120の上層に絶縁層110となる被膜122を形成する。被膜122として、酸化物、窒化物または酸窒化物が例示できる。具体的には、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等が例示できる。被膜122は、たとえばスパッタ法等を用いて形成できる。
【0036】
被膜122の形成段階において、酸化物の被膜を形成する場合には、酸化環境に置かれることがある。しかし、本実施形態では砒素の酸化を防止する中間層108となる被膜120が形成されているので、被膜122の形成による半導体層106の表面酸化は抑制される。
【0037】
なお、中間層108となる被膜120として、アルミニウム等酸化してまたは窒化して絶縁体になる元素を含む膜を形成する場合、当該酸化または窒化して絶縁体になる元素の多くは、絶縁層110となる被膜122を酸化または窒化雰囲気で形成する段階で絶縁体に変化される。この結果、中間層108となる被膜120は、半導体層106の表面酸化を抑制するとともに、酸化した後には絶縁層110と共に絶縁膜として機能させることができる。
【0038】
図5に示すように、制御電極112となる導電層124を形成する。導電層124として、たとえば任意の金属、ポリシリコン、メタルシリサイド等が例示できる。導電層124は、CVD法、スパッタ法等により形成できる。
【0039】
図6に示すように、導電層124、被膜122および被膜120をパターニングして、制御電極112、絶縁層110および中間層108を形成する。その後、入出力電極114を導電膜の形成およびパターニングにより形成して、図1に示す半導体装置100が製造できる。
【0040】
上記した半導体装置100によれば、中間層108が半導体層106の表面酸化を抑制するので、制御電極112より下に形成されている絶縁層110と半導体層106との間の砒素酸化物が抑制される。この結果、界面準位が低減され、実用的な化合物半導体MISFETが形成できる。
【0041】
(実験例1)
図7は、反射率異方性分光法による、GaAs表面を観察した実験グラフを示す。GaAs(001)基板を反応室に保持した後、砒素原料ガス(トリブチル砒素)を供給しつつ600℃に加熱した。砒素原料ガスを遮断した後の表面状態は約2分で安定化することが確認された。表面状態の変化は、過剰砒素の離脱に起因しており、過剰砒素が表面から離脱するには2分程度の時間を要することがわかった。なお、砒素原料ガスの遮断後の雰囲気は、真空(減圧)でもよく、アルゴン等の不活性ガス雰囲気でもよい。
【0042】
図8は、X線光電子分光法による光電子強度の分光観察結果を示す。破線は、本実施形態の中間層108の形成処理として硫黄を含むガス処理を実施した場合の結果を、実線は硫黄を含むガスよりをしなかった場合を比較として示す。硫黄を含むガス処理として、HSを600℃の温度で5分間供給した。なお、硫黄ガス処理の前に、図7に関連して説明した知見を適用して、過剰砒素を除去した。
【0043】
図8において、結合エネルギーが43.5eV付近に観察されるピークは、砒素3dに起因するピークであり、砒素3dピークより高結合エネルギー側の46eV付近に観察されるピークは砒素の酸化に起因するケミカルシフトであることが知られている。図8からわかるように、硫黄ガス処理を行わない場合には観察できた酸化砒素に起因する砒素3dのケミカルシフトは、硫黄ガス処理(つまり本実施形態の中間層108の形成処理)を行った場合には、観察されなかった。
【0044】
すなわち、X線光電子分光法による光電子強度の分光観察において、砒素に起因する元素ピークの高結合エネルギー側に、酸化された砒素に起因する酸化物ピークは検出されなかった。少なくとも現有の分析技術においては、GaAs(半導体層106)表面に砒素の酸化物は検出されなかった。
【0045】
(実験例2)
図9は、反射率異方性分光法による、GaAs表面を観察した実験グラフを示す。図9において、上部にガスシーケンスを示す。実験グラフにおける横軸(時間)は、ガスシーケンスにおける横軸(時間)と一致するように示している。
【0046】
時刻t1においてGaAsエピタキシャル成長を停止し、砒素原料ガス(トリブチル砒素)とキャリアガス(H)を供給しつつ、時刻t2までGaAs(001)表面を反応室に保持した。保持の温度は600℃とした。この状態におけるGaAs表面は、反射率異方性分光法スペクトル形状より、c(4×4)面を有していることが判った。
【0047】
時刻t2で砒素原料ガスを遮断し、キャリアガス(H)のみを供給した。表面状態は、約2分で安定化することが確認された。すなわち、この状態における表面状態の変化は、過剰砒素の離脱に起因しており、過剰砒素が表面から離脱するには2分程度の時間を要することがわかった。砒素原料ガスを遮断後、2分程度(時刻t3)で表面は安定化し、このときのGaAs表面は、反射率異方性分光法スペクトル形状より、(2×4)Ga安定化面を有していることが判った。なお、砒素原料ガスの遮断後の雰囲気は、Hの他に、真空(減圧)でもよく、アルゴン等の不活性ガス雰囲気でもよい。
【0048】
時刻t3で硫化水素ガスとキャリアガス(H)を供給したところ、約2分(時刻t4)でGaAs表面は安定化した。この後、時刻t4で硫化水素ガスを遮断し、キャリアガス(H)を供給し、水素雰囲気下で処理したところ、約500秒後(時刻t5)にGaAs表面は安定化した。このときのGaAs表面は、反射率異方性分光法スペクトル形状より、c(8×2)Ga安定化面を有していることが判った。
【0049】
図10は、X線光電子分光法による光電子強度の分光観察結果を示す。図10において左上のAは、c(4×4)表面を有するGaAs表面をそのままの状態で空気中に取り出した試料の分光観察結果を示す。図10において左中のBは、c(4×4)表面を有するGaAs表面にアルミニウムを含む酸化防止膜を形成した後に空気中に取り出した試料の分光観察結果を示す。図10において左下のCは、(2×4)Ga安定化面を有するGaAs表面をそのままの状態で空気中に取り出した試料の分光観察結果を示す。図10において右上のDは、(2×4)Ga安定化面を有するGaAs表面にアルミニウムを含む酸化防止膜を形成した後に空気中に取り出した試料の分光観察結果を示す。図10において右中のEは、c(8×2)Ga安定化面を有するGaAs表面をそのままの状態で空気中に取り出した試料の分光観察結果を示す。図10において右下のFは、c(8×2)Ga安定化面を有するGaAs表面にアルミニウムを含む酸化防止膜を形成した後に空気中に取り出した試料の分光観察結果を示す。
【0050】
図10のAからFにおいて、分光観察結果とともに、カーブフィッティング法によるピーク分離の結果を併せて示す。たとえば図10のAでは、分光観察結果を3つのガウシアンに分離している。3つのガウシアンの各々は、約40eV、約41eVおよび約43.5eVにそれぞれのピークを持つ。約40eVおよび約41eVにピークを持つガウシアンは、ガリウムと結合した砒素の3d軌道からの光電子ピークと同定でき、約43.5eVにピークを持つガウシアンは、酸素と結合した砒素の3d軌道からの光電子ピークと同定できる。すなわち、約43.5eVにピークを持つガウシアンの高さによって酸素に結合した砒素の量を測ることができる。なお、計測条件等の相違により、図8に示す分光観察結果と図10に示す分光観察結果とは、横軸(エネルギー値)の値が若干異なる。
【0051】
図10のAからFに示す結果によって以下の事項が判明した。第1に、AとBとの対比、CとDとの対比、および、EとFとの対比から、アルミニウムを含む酸化防止膜を形成した方が何も形成しない場合に比べて、酸素に結合した砒素の量が低減した。第2に、AとCとEとの比較、または、BとDとFとの比較から、c(4×4)表面を有するGaAs表面は、(2×4)Ga安定化面を有するGaAs表面より酸化されやすく、(2×4)Ga安定化面を有するGaAs表面は、c(8×2)Ga安定化面を有するGaAs表面より酸化されやすかった。最も酸化されにくい場合は、図10のFに示す、c(8×2)Ga安定化面を有するGaAs表面にアルミニウムを含む酸化防止膜を形成した場合であり、酸化された砒素に起因するピークは、少なくとも現状の測定精度において、全く認められない。なお、図10のDに示す、(2×4)Ga安定化面を有するGaAs表面にアルミニウムを含む酸化防止膜を形成した場合も、酸化された砒素に起因するピークは殆ど無く、酸素と結合した砒素の3d軌道からの光電子ピークが検出されなかった、と言える。
【0052】
以上のとおり、(2×4)Ga安定化面またはc(8×2)Ga安定化面を有するGaAs表面は、酸素と結合した砒素の生成を抑制できた。また、アルミニウムを含む酸化防止膜は、酸素と結合した砒素の生成を抑制できた。特に、(2×4)Ga安定化面またはc(8×2)Ga安定化面を有するGaAs表面にアルミニウムを含む酸化防止膜を形成する場合に、酸素と結合した砒素の生成を殆ど抑制でき、c(8×2)Ga安定化面を有するGaAs表面にアルミニウムを含む酸化防止膜を形成する場合には、酸素と結合した砒素の生成が認められなかった。これら酸素と結合した砒素の生成を抑制することにより、あるいは皆無とすることにより、半導体層106と中間層108の界面における界面準位を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本実施形態の半導体装置100の断面例を示す。
【図2】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図3】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図4】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図5】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図6】半導体装置100の製造過程における断面例を示す。
【図7】反射率異方性分光法による、GaAs表面を観察した実験グラフを示す。
【図8】X線光電子分光法による光電子強度の分光観察結果を示す。
【図9】反射率異方性分光法による、GaAs表面を観察した実験グラフを示す。
【図10】X線光電子分光法による光電子強度の分光観察結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砒素を含む3−5族化合物の半導体層と、
酸化物、窒化物または酸窒化物の絶縁層と、を備え、
前記半導体層と前記絶縁層との間に砒素の酸化物が検出されない半導体基板。
【請求項2】
前記半導体層と前記絶縁層との間に存在する元素を対象としたX線光電子分光法による光電子強度の分光観察において、砒素に起因する元素ピークの高結合エネルギー側に、酸素と結合した砒素の3d軌道からの光電子ピークが検出されない、
請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
前記半導体層と前記絶縁層との間に形成され、砒素の酸化を防止する中間層、をさらに備えた請求項1または請求項2に記載の半導体基板。
【請求項4】
前記中間層は、酸素を除く6族元素を含む、
請求項3に記載の半導体基板。
【請求項5】
前記6族元素は、硫黄またはセレンである、
請求項4に記載の半導体基板。
【請求項6】
前記中間層は、酸化または窒化されて絶縁体になる金属元素を含む、
請求項3に記載の半導体基板。
【請求項7】
前記中間層は、アルミニウムを含む、
請求項6に記載の半導体基板。
【請求項8】
砒素を含む3−5族化合物の半導体層をエピタキシャル成長させる段階と、
砒素の酸化を防止する処理を前記半導体層の表面に施す酸化防止処理段階と、
を備えた半導体基板の製造方法。
【請求項9】
砒素を含まない雰囲気に前記半導体層を保持して、前記半導体層の表面の過剰砒素を除去する段階、
をさらに備えた請求項8に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記酸化防止処理段階は、前記半導体層の表面に硫黄、セレンまたはアルミニウムを含む被膜を形成する被膜形成段階である、
請求項8または請求項9に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項11】
前記酸化防止処理段階は、水素を含む雰囲気で前記半導体層を処理する段階である、
請求項8から請求項10の何れか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項12】
前記酸化防止処理段階は、水素を含む雰囲気で前記半導体層に被膜を形成する段階である、
請求項8から請求項10の何れか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項13】
前記被膜を形成する段階の前における前記半導体層の表面が(2×4)構造またはc(8×2)構造を有するGa安定化面である、
請求項10または請求項12に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項14】
砒素を含む3−5族化合物の半導体層をエピタキシャル成長させる段階と、
砒素を含まない雰囲気に前記エピタキシャル成長させた前記半導体層を保持する段階と、
前記保持された前記半導体層の表面を硫黄またはセレンを含む雰囲気で処理する段階と、
を備えた半導体基板の製造方法。
【請求項15】
前記硫黄またはセレンを含む雰囲気で処理された前記半導体層の表面を、水素を含む雰囲気内で処理する段階、
をさらに備えた請求項14に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項16】
前記硫黄を含む雰囲気は、硫黄の水素化物を含む、
請求項14または請求項15に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項17】
前記セレンを含む雰囲気は、セレンの水素化物を含む、
請求項14または請求項15に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項18】
前記半導体基板の表面に、アルミニウム、硫黄またはセレンを含む被膜を形成する段階をさらに備える、
請求項14から請求項17の何れかに記載の半導体基板の製造方法。
【請求項19】
前記アルミニウムを含む被膜を形成するためのアルミニウム原料は、有機アルミニウムである、
請求項18に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項20】
前記硫黄を含む被膜を形成するための硫黄原料は、硫黄の水素化物である、
請求項18に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項21】
前記セレンを含む被膜を形成するためのセレン原料は、セレンの水素化物である、
請求項18に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項22】
前記被膜を形成する段階の前における前記半導体層の表面が(2×4)構造またはc(8×2)構造を有するGa安定化面である、
請求項18から請求項21の何れかに記載の半導体基板の製造方法。
【請求項23】
酸化物、窒化物または酸窒化物の絶縁層を形成する段階、
をさらに備えた請求項8から請求項22の何れかに記載の半導体基板の製造方法。
【請求項24】
砒素を含む3−5族化合物半導体と、
前記3−5族化合物半導体の上に設けられた絶縁物と、を含み、
前記3−5族化合物半導体と前記絶縁物との間、または、前記絶縁物の内部に、砒素の酸化を抑制する中間層を含む半導体基板。
【請求項25】
請求項1から請求項7および請求項24の何れかに記載の半導体基板と、
前記絶縁層の上の制御電極と、
を備えた半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−260325(P2009−260325A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74528(P2009−74528)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度経済産業省「戦略的技術開発委託費(ナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造技術開発−うち新材料・新構造ナノ電子デバイス<(4)III−V MISFET/III−V−On−Insulator(III−V−OI)MISFET形成プロセス技術の研究開発−うち集積化構造の特性評価と設計因子の技術開発>に係るもの)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】