説明

半導体基板の製造方法

【課題】III族窒化物半導体の結晶体を成長させる際におけるクラックの発生を低減する。
【解決手段】半導体基板の製造方法は、下地基板の上に金属層を形成する金属層形成工程と、前記金属層をそれぞれ露出する複数の開口と前記金属層を露出しない非開口部とを含むマスクを形成するマスク形成工程と、前記金属層において前記複数の開口により露出された複数の領域を窒化することにより、金属窒化物の複数の第1バッファー層を形成する窒化工程と、前記複数の第1バッファー層の上に、III族窒化物半導体の複数の第2バッファー層を形成する第2バッファー層形成工程と、前記複数の第2バッファー層の上に、III族窒化物半導体の結晶体を成長させる成長工程とを備え、前記複数の開口のそれぞれは、六角形に沿った形状を有しており、前記マスク形成工程では、前記複数の開口における各開口の最小幅が5μm以上25μm以下となり隣接する前記開口の間における前記非開口部の幅が1.5μm以上8μm以下になるように、前記マスクを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(Light Emitting Diode)などの電子素子は、窒化ガリウムの結晶体を含む半導体基板の上に形成されることがある。ここで、電子素子の特性を向上するためには、窒化ガリウムの結晶体の結晶性を向上することが必要である。窒化ガリウムの結晶体の結晶性を向上するためには、窒化ガリウムの結晶体を下地基板の上に直接形成せずに、下地基板の上に低温バッファー層を形成した後に、その低温バッファー層の上に窒化ガリウムの結晶体を形成することが一般的である(特許文献1参照)。低温バッファー層は、窒化ガリウムの結晶体を形成するための温度よりも低い温度で、窒化ガリウムを成長させて得られる層である。
【0003】
一般的に、下地基板は、サファイアの結晶を含む。この場合、下地基板(サファイア)と低温バッファー層(窒化ガリウム)との間で、格子不整合が大きく、熱膨張係数の差が大きい。これにより、下地基板の上に成長させた低温バッファー層に転位や内部応力が発生するので、その上に成長させた窒化ガリウムの結晶体の結晶性が向上しない可能性がある。
【0004】
近年では、下地基板(サファイア)と低温バッファー層(窒化ガリウム)との間の格子不整合に起因して発生する欠陥の密度を低減する方法として、ELO(非特許文献1参照)や、FIELO(非特許文献2参照)、ペンデオエピタキシー(非特許文献3参照)といった成長技術が開発されているが、低温バッファー層の上に成長させた窒化ガリウムの結晶体の結晶性を十分に向上させるまでには至っていない。
【0005】
下地基板(サファイア)と低温バッファー層(窒化ガリウム)との間の格子不整合や熱膨張係数の差を緩和する技術が望まれる。
【0006】
それに対して、下地基板の上にクロム層を形成して、そのクロム層を窒化してクロム窒化物のバッファー層とする技術が本発明者によって提案された(特許文献2参照)。特許文献2の技術では、下地基板/クロム窒化物のバッファー層/初期成長層/GaN単結晶層の構造を形成する。この構造において、クロム窒化物のバッファー層の格子間隔は、下地基板(サファイア)の格子間隔と初期成長層(窒化ガリウム)の格子間隔との間の値を有する。クロム窒化物のバッファー層の熱膨張係数は、下地基板(サファイア)の熱膨張係数と初期成長層(窒化ガリウム)の熱膨張係数との間の値を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−188983号公報
【特許文献2】国際公開第WO2006/126330号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.71(18)2638(1997)
【非特許文献2】Jpn.J.Appl.Phys.38,L184(1999)
【非特許文献3】MRS Internet J.Nitride Semicond.Res.4S1,G3.38(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2には、クロム窒化物のバッファー層の熱膨張係数が下地基板(サファイア)の熱膨張係数とGaN単結晶層(窒化ガリウム)の熱膨張係数との間の値を有するので、GaN単結晶層の成長を行った後の降温時に下地基板とGaN単結晶層との熱膨張係数差に起因したクラックの発生を低減できるとされている。
【0010】
ここで、GaN単結晶層を成長させる際におけるクラックの発生をさらに低減できれば、GaN単結晶層に含まれるクラックをさらに低減できると考えられる。GaN単結晶層に含まれるクラックが非常に少なくなれば、GaN単結晶層を含む半導体基板の上に電子素子を形成した場合におけるクラックを介したリーク電流を低減できる。
【0011】
特許文献2には、複数の開口を含むマスクを用いることについて開示がなく、さらに、複数の開口のそれぞれをどのような形状及び寸法で形成すればGaN単結晶層を成長させる際におけるクラックの発生を低減できるのかについての開示がない。GaN単結晶層を成長させる際におけるクラックの発生をさらに低減するための方法が望まれる。
【0012】
本発明の目的は、III族窒化物半導体の結晶体を成長させる際におけるクラックの発生を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1側面に係る半導体基板の製造方法は、下地基板の上に金属層を形成する金属層形成工程と、前記金属層をそれぞれ露出する複数の開口と前記金属層を露出しない非開口部とを含むマスクを形成するマスク形成工程と、前記金属層において前記複数の開口により露出された複数の領域を窒化することにより、金属窒化物の複数の第1バッファー層を形成する窒化工程と、前記複数の第1バッファー層の上に、III族窒化物半導体の複数の第2バッファー層を形成する第2バッファー層形成工程と、前記複数の第2バッファー層の上に、III族窒化物半導体の結晶体を成長させる成長工程とを備え、前記複数の開口のそれぞれは、六角形に沿った形状を有しており、前記マスク形成工程では、前記複数の開口における各開口の最小幅が5μm以上25μm以下となり隣接する前記開口の間における前記非開口部の幅が1.5μm以上8μm以下になるように、前記マスクを形成することを特徴とする。
【0014】
本発明の第2側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第1側面に係る半導体基板の製造方法であって、前記下地基板は、六方晶系及び擬似六方晶系のいずれかの結晶構造を有しており、前記六角形の各辺は、前記下地基板における前記結晶体の〔10−10〕方向に沿うべき方向、〔01−10〕方向に沿うべき方向及び〔−1100〕方向に沿うべき方向のいずれかに沿って延びていることを特徴とする。
【0015】
本発明の第3側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第1側面又は第2側面に係る半導体基板の製造方法であって、前記マスク形成工程は、前記金属層の上にマスク層を成膜するマスク層成膜工程と、前記マスク層に前記複数の開口を形成することにより、前記マスクを形成する開口形成工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の第4側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第1側面から第3側面のいずれかに係る半導体基板の製造方法であって、前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、前記成長工程は、前記第1の温度より高い第2の温度で前記結晶体を成長させる第1の成長工程と、前記第2の温度より高い第3の温度で前記結晶体を成長させる第2の成長工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の第5側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第1側面から第3側面のいずれかに係る半導体基板の製造方法であって、前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、前記成長工程は、前記第1の温度より高い第2の温度で前記結晶体を成長させる第1の成長工程と、前記第1の温度と前記第2の温度との間の第4の温度で前記結晶体を成長させる第3の成長工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の第6側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第1側面から第5側面のいずれかに係る半導体基板の製造方法であって、前記マスクを除去するマスク除去工程と、前記第1バッファー層を選択的にエッチングすることにより、前記結晶体を前記下地基板から分離する分離工程とをさらに備えたことを特徴とする。
【0019】
本発明の第7側面に係る半導体基板の製造方法は、下地基板の上に第1バッファー層を形成する第1バッファー層形成工程と、前記第1バッファー層をそれぞれ露出する複数の開口と前記第1バッファー層を露出しない非開口部とを含むマスクを形成するマスク形成工程と、前記第1バッファー層の表面において前記複数の開口により露出された複数の領域に、III族窒化物半導体の複数の第2バッファー層を形成する第2バッファー層形成工程と、前記複数の第2バッファー層の上に、III族窒化物半導体の結晶体を成長させる成長工程とを備え、前記複数の開口のそれぞれは、六角形に沿った形状を有しており、前記マスク形成工程では、前記複数の開口における各開口の最小幅が5μm以上25μm以下となり隣接する前記開口の間における前記非開口部の幅が1.5μm以上8μm以下になるように、前記マスクを形成することを特徴とする。
【0020】
本発明の第8側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第7側面に係る半導体基板の製造方法であって、前記下地基板は、六方晶系及び擬似六方晶系のいずれかの結晶構造を有しており、前記六角形の各辺は、前記下地基板における前記結晶体の〔10−10〕方向に沿うべき方向、〔01−10〕方向に沿うべき方向及び〔−1100〕方向に沿うべき方向のいずれかに沿って延びていることを特徴とする。
【0021】
本発明の第9側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第7側面又は第8側面に係る半導体基板の製造方法であって、前記第1バッファー層は、金属窒化物を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の第10側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第7側面から第9側面のいずれかに係る半導体基板の製造方法であって、前記マスク形成工程は、前記第1バッファー層の上にマスク層を成膜するマスク層成膜工程と、前記マスク層に前記複数の開口を形成することにより、前記マスクを形成する開口形成工程とを含むことを特徴とする。
【0023】
本発明の第11側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第7側面から第10側面のいずれかに係る半導体基板の製造方法であって、前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、前記成長工程は、前記第1の温度より高い第2の温度で前記結晶体を成長させる第1の成長工程と、前記第2の温度より高い第3の温度で前記結晶体を成長させる第2の成長工程とを含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の第12側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第7側面から第10側面のいずれかに係る半導体基板の製造方法であって、前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、前記成長工程は、前記第1の温度より高い第2の温度で前記結晶体を成長させる第1の成長工程と、前記第1の温度と前記第2の温度との間の第4の温度で前記結晶体を成長させる第3の成長工程とを含むことを特徴とする。
【0025】
本発明の第13側面に係る半導体基板の製造方法は、本発明の第7側面から第12側面のいずれかに係る半導体基板の製造方法であって、前記マスクを除去するマスク除去工程と、前記第1バッファー層を選択的にエッチングすることにより、前記結晶体を前記下地基板から分離する分離工程とをさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、III族窒化物半導体の結晶体を成長させる際におけるクラックの発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体基板の製造方法を示す工程断面図。
【図2】本発明の第1実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体基板の製造方法を示す工程断面図。
【図3】図2(b)に示す工程により得られた構造体の平面図。
【図4】本発明の第1実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体基板の製造方法を示す工程断面図。
【図5】本発明の第1実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体基板の製造方法を示す工程断面図。
【図6】各開口の開口幅W[μm]、開口の配列ピッチP[μm]、及び隣接する開口の間における非開口部の幅G[μm]の関係を示す図。
【図7】W−G平面における好ましい領域を示す図。
【図8】P−G平面における好ましい領域を示す図。
【図9】非開口部の幅Gとマージ率との関係を示す図。
【図10】図1〜図5の工程を行って得られた試料のXRD分析結果を示す図。
【図11】(W,G)=(18,2)の条件で得られた結晶体の写真。
【図12】(W,G)=(28,2)の条件で得られた結晶体の写真。
【図13】(W,G)=(48,2)の条件で得られた結晶体の写真。
【図14】本発明の第2実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体基板の製造方法を示す工程断面図。
【図15】本発明の第2実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体基板の製造方法を示す工程断面図。
【図16】本発明の第2実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体基板の製造方法を示す工程断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書において、「膜」は、連続した膜でもよいし、不連続な膜でもよいものとする。「膜」は、厚さを持って形成されている状態を表す。
【0029】
本発明は、LED(Light Emitting Diode)などの半導体基板に適用可能な結晶体を選択的に成長させるための方法に関する。
【0030】
本発明の第1実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体基板の製造方法を、図1〜図5を用いて説明する。図1、図2、図4及び図5は、半導体基板の製造方法を示す工程断面図である。図3は、図2(b)に示す工程により得られた構造体の平面図である。なお、図1、図2、図4及び図5は、図3のA−A’に沿った断面に対応している。以下では、III族窒化物半導体の一例として、窒化ガリウムを中心に説明するが、他のIII族窒化物半導体に関しても同様である。
【0031】
図1(a)に示す工程では、下地基板10を準備する。下地基板10は、六方晶系及び擬似六方晶系のいずれかの結晶構造を有している。下地基板10の上面10aは、六方晶系及び擬似六方晶系のいずれかの結晶構造における(0001)面になっている。下地基板10の材料は、例えば、Al(サファイア)、GaN(窒化ガリウム)、又はAlN(窒化アルミニウム)である。
【0032】
図1(b)に示す工程では、スパッタ法などにより、下地基板10の上にクロム層(金属層)20を成膜する。成膜されるクロム層20の厚さは、例えば、20nmである。
【0033】
ここで、クロム層20を成膜するのは、その後に窒化して形成するクロム窒化物の原子間距離が窒化ガリウムに近く、窒化ガリウムとの格子不整合が小さいためである。
【0034】
図2(a)に示す工程では、クロム層20の上にマスク層40iを成膜する。成膜されるマスク層40iの厚さは、例えば、100nmである。マスク層40iの材料は、例えば、酸化シリコン及び窒化シリコンのいずれかである。
【0035】
ここで、図1(a)〜図2(a)の工程は、同じチャンバ内で連続的に行うことが好ましい。この場合、各層の界面に自然酸化膜が形成されることを低減できる。
【0036】
図2(b)に示す工程では、リソグラフィ法などにより、マスク層40iに複数の開口40a1〜40anを形成することにより、マスク40を形成する。
【0037】
形成されたマスク40は、図3に示すように、開口配列40a及び非開口部40kを含む。開口配列40aでは、複数の開口40a1,・・・,40anが2次元状に配列されている。各開口40a1,・・・,40anは、クロム層20を露出する。各開口40a1,・・・,40anは、六角形に沿った形状を有している。この六角形の各辺は、下地基板10における後述の結晶体60の〔10−10〕方向に沿うべき方向、〔01−10〕方向に沿うべき方向及び〔−1100〕方向に沿うべき方向のいずれかに沿って延びている。非開口部40kは、クロム層20を露出しない。非開口部40kは、複数の開口40a1,・・・,40anの間をハニカム状に延びている。
【0038】
なお、上記の六角形に沿った形状は、六角形の形状に加えて、六角形の基本的な形状を保ちながらその角に丸みを持たせた形状も含む。また、上記の六角形の各辺は、例えば、下地基板10の材料がAl2O3(サファイア)である場合、下地基板10の〔11−20〕方向、〔1−210〕方向及び〔−2110〕方向のいずれかに沿って延びている。六角形の各辺は、例えば、下地基板10の材料がGaN(窒化ガリウム)又はAlN(窒化アルミニウム)である場合、下地基板10の〔10−10〕方向、〔01−10〕方向及び〔−1100〕方向のいずれかに沿って延びている。この様に、下地基板10とその上に成長されるべき結晶体60との間には方位関係が存在するので、それに従って六角形のマスク方位を定めれば良い。
【0039】
ここで、複数の開口40a1〜40anにおける各開口の最小幅をW[μm]とし、隣接する開口の間における非開口部40kの幅をG[μm]としたときに(図6参照)、W−G平面(図7参照)における
5≦W≦25・・・数式1
1.5≦G≦8・・・数式2
を満たすように、マスク40を形成する。数式1及び数式2を満たす領域は、図7に斜線で示す領域PRである。
【0040】
図7に示す領域PRの左側の領域(0≦W<5)では、開口により露出された領域の幅が小さくなるので、後述の図2(c)に示す工程で窒化ガスをクロム層20に十分接触させることが困難になり、第1バッファー層を形成することが困難になる。図7に示す領域PRの右側の領域(W>25)では、開口により露出された領域の幅が大きくなるので、複数の第1バッファー層及びその上に形成する複数の第2のバッファー層を介して内部応力が後述の結晶体内で伝播することを低減できなくなり、第2のバッファー層の上に成長させる結晶体にクラックが発生する可能性がある。図7に示す領域PRの下側の領域(0≦G<1.5)では、マスク層40iをパターニングする露光装置の解像限界が約1μmであることに応じて、プロセスばらつきの影響を受けて隣接する開口がつながる可能性がある。図7に示す領域PRの上側の領域(G>8)では、隣接する開口の間における非開口部の幅G[μm](図6参照)が大きくなるので、隣接する開口から成長した窒化ガリウムが隣接する開口の間でマージしにくくなり、結晶体が得られない可能性がある。
【0041】
図2(c)に示す工程では、クロム層20において複数の開口40a1〜40anにより露出された複数の領域20a1〜20anを、1000℃以上1300℃以下の温度で窒化することにより、クロム窒化物(金属窒化物)の複数の第1バッファー層30a1〜30anを形成する。すなわち、下地基板10を1000℃以上1300℃の温度に加熱するとともに、クロム層20の表面をアンモニアガス雰囲気にする。これにより、クロム層20における複数の領域20a1〜20anが窒化して複数の第1バッファー層30a1〜30anになる。
【0042】
ここで、複数の第1バッファー層30a1〜30anは、第1バッファー層と結晶方位の異なるクロム層20により互いに隔てられている。これにより、各開口の幅Wが数式1を満たしていれば、複数の第1バッファー層を介して内部応力が後述の結晶体内を伝播することを低減できる。
【0043】
また、クロムの結晶構造が立方晶系であるのに対して、クロム窒化物の結晶構造が六方晶系である。クロム層20を窒化した際に、クロムの結晶格子がクロム窒化物の結晶格子へと再配列するためには、一定以上のエネルギーが必要であると考えられる。
【0044】
仮に、クロム層20の窒化温度が1000℃未満であると、クロムの結晶格子がクロム窒化物の結晶格子へと再配列するために十分なエネルギーがクロム層20に与えられないので、窒化されて形成される第1バッファー層30の結晶性が悪くなる。
【0045】
それに対して、本実施形態では、クロム層20の窒化温度が1000℃以上であるので、クロムの結晶格子がクロム窒化物の結晶格子へと再配列するために十分なエネルギーがクロム層20に与えられる。これにより、クロム層20が窒化されて形成されるクロム窒化物の第1バッファー層30の結晶性が向上する。
【0046】
だだし、過度な高温で窒化することは、熱負荷増大による装置の部材劣化の問題が生じるとともに、形成された第1バッファー層と下地基板との相互熱拡散などの問題が生じる。このため、窒化温度は1300℃以下が好ましい。
【0047】
また、第1バッファー層30の材料であるクロム窒化物は、下地基板(サファイア)と窒化ガリウムとの間の原子間距離を有するので、下地基板との格子不整合が小さい。この点からも、第1バッファー層30の結晶性が向上する。
【0048】
図4(a)に示す工程では、複数の開口40a1〜40anにより露出された複数の第1バッファー層30a1〜30anから、窒化ガリウムの複数の第2バッファー層50a1〜50anを成長させる。
【0049】
ここで、複数の第2バッファー層50a1〜50anは、第2バッファー層と結晶方位の異なるマスク40における非開口部40kにより互いに隔てられている。例えば、第2バッファー層50aにおける複数の第2バッファー領域50a1〜50anは、第2バッファー領域と結晶方位の異なるマスク40における非開口部40kにより互いに隔てられている。これにより、複数の第2バッファー層を介して内部応力が後述の結晶体内を伝播することを低減できる。
【0050】
また、複数の第2バッファー層50a1〜50anは、それぞれ、例えば、GaNの単結晶体、多結晶体又はアモルファス体で構成されうる。複数の第2バッファー層50a1〜50anの厚さは、それぞれ、数十Å〜数十μmであることが好ましい。複数の第2バッファー層50a1〜50anの成長温度は、それぞれ、850℃以上950℃以下の第1の温度であることが好ましい。
【0051】
第2バッファー層50a1〜50anの成長温度が850℃より低いと、エピタキシャル状の成長が困難になり、下地基板に対する適切な面方位と異なった面方位が生じやすい。第2バッファー層50a1〜50anは、六方晶系の結晶構造を有しており、その{1−100}面群が下地基板の{11−20}面群に沿って延びていることが適切である。仮に、第2バッファー層50a1〜50anにおけるその{1−100}面群が異なる方位に延びている部分が存在すると、その部分と適切な面方位を有する部分との間で格子ひずみに起因した内部応力が発生するので、各第2バッファー層50a1〜50an内にクラックの発生する可能性がある。第2バッファー層50a1〜50anの成長温度が950℃より高いと、第2バッファー層50a1〜50anの成長が起こりにくくなる。
【0052】
図4(b)に示す工程では、HVPE法やMOCVD法などにより、複数の第2バッファー層50a1〜50anの上に、窒化ガリウムの結晶体60を成長させる。すなわち、各開口の複数の開口における隣接する開口の間における非開口部の幅Gが数式2を満たしていれば、各第2バッファー層における複数の第2バッファー領域の表面から成長した窒化ガリウムが隣接する開口の間の上で互いにマージすることにより、結晶体60が成長する。
【0053】
ここで、結晶体60は、例えば、GaNの単結晶体で構成されうる。結晶体60の厚さは、それぞれ、数十Å〜数十μmであることが好ましい。結晶体60の成長温度は、複数の第2バッファー層50a1〜50anの成長温度よりも高い温度、例えば約1080℃になる。
【0054】
また、複数の第2バッファー層50a1〜50anは、第1バッファー層30の表面においてマスク40の複数の開口40a1〜40anにより露出された複数の領域30a1〜30anに形成されている。マスク40の結晶方位が複数の第2バッファー層50a1〜50anの結晶方位と異なるので、複数の第2バッファー層50a1〜50anのいずれかの特定箇所に存在する転位は、他の第2バッファー層50a1〜50anに伝播しにくい。これにより、複数の第2バッファー層50a1〜50anは、全体として、その結晶性が向上する。この結果、複数の第2バッファー層50a1〜50anの上に成長させる結晶体60の結晶性も向上する。すなわち、III族窒化物半導体の結晶体を成長させる際の結晶性を向上できる。
【0055】
さらに、第1バッファー層30の材料であるクロム窒化物は、下地基板(サファイア)と窒化ガリウムとの間の原子間距離を有するので、窒化ガリウムとの格子不整合が小さい。例えば、サファイアの30°回転した(0001)面方向の原子間距離は、2.747Åである。窒化ガリウムの(0001)面方向の原子間距離は、3.188Åである。クロム窒化物の(111)面方向の原子間距離は、2.927Åであり、サファイアの原子間距離と窒化ガリウムの原子間距離との間の値である。これにより、第1バッファー層30の上に成長する複数の第2バッファー層50a1〜50an及び結晶体60は、結晶性が向上する。
【0056】
また、第1バッファー層30の材料であるクロム窒化物は、下地基板(サファイア)と窒化ガリウムとの間の熱膨張係数を有する。例えば、サファイアの(0001)面方向の熱膨張係数は、7.50である。窒化ガリウムの(0001)面方向の熱膨張係数は、5.45である。クロム窒化物の(111)面方向の熱膨張係数は、6.00であり、サファイアの熱膨張係数と窒化ガリウムの熱膨張係数との間の値である。これにより、下地基板10と、複数の第2バッファー層50a1〜50an及び結晶体60との間の熱膨張係数の差に基づいて発生する内部応力を第1バッファー層30で緩和することができる。このため、複数の第2バッファー層50a1〜50an及び結晶体60のそれぞれの内部応力が低減されるので、複数の第2バッファー層50a1〜50an及び結晶体60のそれぞれにおける下地基板との熱膨張係数の差に起因したクラックの発生を低減できる。そして、この点からも、複数の第2バッファー層50a1〜50an及び結晶体60の結晶性が向上する。
【0057】
なお、図4(b)に示す工程は、第1の温度より高い第2の温度で結晶体60を成長させる第1の成長工程と、第2の温度より高い第3の温度で結晶体60を成長させる第2の成長工程とを含んでもよい。第2の温度は、例えば、1040℃であり、第3の温度は、例えば、1080℃である。本発明者が行った実験によれば、1040℃で加熱した後に1080℃で加熱する(2段階の加熱を行う)ことにより結晶体を成長した場合、1080℃で加熱する(1段階の加熱を行う)ことにより結晶体を成長した場合に比べて、得られた結晶体の結晶性が約5%向上した。
【0058】
あるいは、図4(b)に示す工程は、第1の温度より高い第2の温度で結晶体60を成長させる第1の成長工程と、第1の温度と第2の温度との間の第4の温度で結晶体60を成長させる第3の成長工程とを含んでもよい。第2の温度は、例えば、1080℃であり、第4の温度は、例えば、1040℃である。本発明者が行った実験によれば、1080℃で加熱した後に1040℃で加熱する(2段階の加熱を行う)ことにより結晶体を成長した場合、1080℃で加熱する(1段階の加熱を行う)ことにより結晶体を成長した場合に比べて、得られた各結晶体の結晶性が約10%向上した。
【0059】
図5(a)に示す工程では、マスク40を除去する。例えば、マスク40を、選択的にエッチングして除去する。例えば、マスク40の材料が酸化シリコンである場合、HF溶液あるいはBOE(バッファードHF)溶液を用いることにより、マスク40を選択的にエッチングすることができる。このとき、マスク40における複数の開口40a1〜40anを隔てる非開口部40kを除去する。
【0060】
図5(b)に示す工程では、クロム層20及び複数の第1バッファー層30a1〜30anを選択的にエッチングして、結晶体60を下地基板10から分離する。これにより、半導体基板70を得ることができる。
【0061】
ここで、半導体基板70は、複数の第2バッファー層50a1〜50anと結晶体60とを含む。複数の第2バッファー層50a1〜50anの形状は、それぞれ、開口の形状(図3参照)に対応した六角形状になっている。
【0062】
このように、クロム層を窒化する前に複数の開口を含むマスクを形成して、クロム層の表面において複数の開口により露出された複数の領域を選択的に窒化することにより、複数の第1バッファー層を形成している。複数の第1バッファー層は、第1バッファー層と結晶方位の異なるクロム層により互いに隔てられたものとなる。これにより、複数の第1バッファー層を介して内部応力が各結晶体内60で伝播することを低減できる。
【0063】
また、複数の第1バッファー層の上に、複数の第2バッファー領域を形成している。複数の第2バッファー層50a1〜50anは、第2バッファー層と結晶方位の異なるマスクにより互いに隔てられたものとなる。これにより、複数の第2バッファー層を介して内部応力が結晶体60内で伝播することを低減できる。
【0064】
したがって、結晶体60内で内部応力が伝播することを低減できるので、結晶体60内におけるクラックの発生を低減できる。すなわち、本実施形態によれば、III族窒化物半導体の結晶体を成長させる際におけるクラックの発生を低減できる。
【0065】
次に、本実施形態による効果を明確にするため、実験を行った結果を、図6〜図13を用いて説明する。図6は、複数の開口における各開口の開口幅W[μm]、開口の配列ピッチP[μm]、及び隣接する開口の間における非開口部の幅G[μm]の関係を示す図である。
【0066】
図6に示すように、開口幅Wは、各開口の最小幅であり、開口OP1における中心C1を介して対向する2辺S1,S2の間の幅として定義される。配列ピッチPは、隣接する開口OP1,OP2の中心C1,C2間の距離として定義される。非開口部の幅Gは、隣接する開口OP1,OP2を隔てる非開口部40k(図3参照)の幅として定義される。これらの変数の間には、
非開口部の幅G=配列ピッチP−開口幅W・・・数式3
の関係がある。
【0067】
図7は、W−G平面における好ましい領域PRを示す図である。図7には、本実施形態における好ましい領域PRが斜線で示してある。また、図7に示す一点鎖線は、領域PRの境界を示す。
【0068】
本発明者は、図1(a)〜図2(a)に示す工程を行った後、図2(b)に示す工程で、第1実施形態における条件として、(W,G)=(6.5,3.5),(8,2),(13,2),(18,2),(5,5),(10,5)の条件(図7で●で示す条件)でマスクを形成した。その後、図2(c)〜図5(b)に示す工程を行って得られた結晶体の表面を顕微鏡観察した。その結果、結晶体の表面においてクラックが観察されなかった(図11参照)。
【0069】
また、本発明者、図1(a)〜図2(a)に示す工程を行った後、図2(b)に示す工程で、比較例における条件として、(W,G)=(2,2),(10,10),(28,2),(48,2)(図7で▲で示す条件)でマスクを形成した。(W,G)=(2,2)の条件(領域PRの左側の▲で示す条件)では、窒化ガリウムが成長しなかった。(W,G)=(10,10)の条件(領域PRの上側の▲で示す条件)では、隣接する第2バッファー層の上にそれぞれ成長した窒化ガリウムがその間の非開口部の上でマージしないことを確認した(図9参照)。(W,G)=(28,2),(48,2)の条件(領域PRの右側の▲で示す条件)では、得られた結晶体の顕微鏡観察を行った結果クラックが観察された(図12及び図13参照)。これらの結果から、本発明者は、図7に斜線で示す領域PRが好ましい領域であることを導き出した。
【0070】
図8は、P−G平面における好ましい領域PRを示す図である。図8に示すP−G平面は、数式3の関係を用いて、図7に示すW−G平面を変換したものである。図8においても、好ましい領域PRを斜線で示してある。
【0071】
図9は、非開口部の幅Gとマージ率との関係を示す図である。マージ率は、非開口部における結晶体により覆われた領域の面積の割合として求めた。図9には、第1実施形態における条件(W,G)=(6.5,3.5),(8,2),(13,2),(18,2)のマージ率が●で示され、好ましくない条件(W,G)=(10,10)のマージ率が▲で示されている。図9に示されるように、非開口部の幅Gが長すぎるとマージ率が100%から低下する傾向にあることが分かった。例えば、非開口部の幅Gが10μmのとき、非開口部の開口両端から非開口部の中央部に向かって結晶体が約4μmずつ延びたので、マージ率が約80%になることが分かった。
【0072】
図10は、図1〜図5の工程を行って得られた試料のXRD分析結果を示す図である。図1〜図5の工程を行って得られた試料すなわち結晶体の1つに対してX線回折(XRD)分析を行った。すなわち、結晶体のXRDプロファイルにおける(01−12)面のピーク半値幅を求めたところ、700〜850[arcsec]であった。図10には、この結果を、「本実施形態」として棒グラフで示してある。
【0073】
また、図10には、比較のために、特許文献2に示される実施形態の方法により結晶体を得た場合について、(01−12)面のピーク半値幅の予想される値を「特許文献2」として棒グラフで示してある。
【0074】
特許文献2に示される実施形態の方法によれば、下地基板の上にCr等の金属層を形成し、金属層を窒化することにより、CrN緩衝層を形成する。そして、CrN緩衝層の上にGaNバッファー層を形成した後、GaNバッファー層の上にGaN単結晶層を成長させることになる。この場合、CrN緩衝層内やGaNバッファー層内における転位の伝播が発生する。
【0075】
一方、本実施形態によれば、複数の第1バッファー層は、第1バッファー層と結晶方位の異なるクロム層により互いに隔てられたものとなる。これにより、複数の第1バッファー層のいずれかの特定箇所に存在する転位は、他の第1バッファー層に伝播しにくい。この結果、複数の第1バッファー層を介して転位が結晶体内60で伝播することを低減できるので、特許文献2の実施形態に比べて、結晶体の結晶性が向上すると考えられる。
【0076】
また、複数の第2バッファー層は、第2バッファー層と結晶方位の異なるマスクにより互いに隔てられたものとなる。これにより、複数の第2バッファー層のいずれかの特定箇所に存在する転位は、他の第2バッファー層に伝播しにくい。この結果、複数の第2バッファー層を介して転位が結晶体60内で伝播することを低減できるので、特許文献2の実施形態に比べて、結晶体の結晶性が向上すると考えられる。
【0077】
よって、図10では、「本実施形態」のXRD半値幅が「特許文献2」のXRD半値幅よりも小さく結晶性が良好であるとしている。
【0078】
図11は、(W,G)=(18,2)の条件で得られた結晶体の写真を示す。図11(a)は、結晶体の外観を示し、図11(b)、(c)は、顕微鏡観察結果を示す。(W,G)=(18,2)の条件により得られた結晶体の表面には、クラックが観察されなかった。
【0079】
図12は、(W,G)=(28,2)の条件で得られた結晶体の写真を示す。図12(a)は、結晶体の外観を示し、図12(b)、(c)は、顕微鏡観察結果を示す。(W,G)=(28,2)の条件により得られた結晶体の表面には、クラックが観察された。また、結晶体が2つに割れた。
【0080】
図13は、(W,G)=(48,2)の条件で得られた結晶体の写真を示す。図13(a)は、結晶体の外観を示し、図13(b)、(c)は、顕微鏡観察結果を示す。(W,G)=(48,2)の条件により得られた結晶体の表面には、クラックが観察された。また、結晶体が2つに割れた。
【0081】
次に、本発明の第2実施形態に係るIII族窒化物半導体の半導体基板の製造方法を、図14〜図16を用いて説明する。図14〜図16は、半導体基板の製造方法を示す工程断面図である。なお、以下では、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0082】
図14(a)に示す工程は、図1(b)に示す工程の後に行われる。図14(a)に示す工程では、クロム層20を1000℃以上1300℃以下(1273K以上1573K以下)の温度で窒化することにより、クロム窒化物(金属窒化物)の第1バッファー層130を形成する。
【0083】
図14(b)に示す工程では、第1バッファー層130の上にマスク層140iを成膜する。
【0084】
図15(a)に示す工程では、図2(b)に示す工程と同様に、リソグラフィ法などにより、マスク層140iに複数の開口140a1〜140anを形成して、マスク140を形成する。第1バッファー層130の表面は、複数の開口140a1〜140anにより露出された複数の領域130a1〜130anを有している。
【0085】
形成されたマスク140は、開口配列140a及び非開口部140kを含む。開口配列140aでは、複数の開口140a1,・・・,140anが2次元状に配列されている。各開口140a1,・・・,140anは、第1バッファー層130を露出する。各開口140a1,・・・,140anは、六角形に沿った形状を有している。この六角形の各辺は、下地基板10における後述の結晶体60の〔10−10〕方向に沿うべき方向、〔01−10〕方向に沿うべき方向及び〔−1100〕方向に沿うべき方向のいずれかに沿って延びている。六角形の各辺は、例えば、下地基板10の〔11−20〕方向、〔1−210〕方向及び〔−2110〕方向のいずれかに沿って延びている。非開口部140kは、第1バッファー層130を露出しない。非開口部140kは、複数の開口140a1,・・・,140anの間をハニカム状に延びている。
【0086】
図15(b)に示す工程では、HVPE法やMOCVD法などにより、第1バッファー層130の表面における複数の開口140a1〜140anにより露出された複数の領域130a1〜130anから、窒化ガリウムの複数の第2バッファー層150a1〜150anを成長させる。
【0087】
図16(a)に示す工程では、HVPE法やMOCVD法などにより、複数の第2バッファー層150a1〜150anの上に、窒化ガリウムの結晶体160を成長させる。
【0088】
図16(b)に示す工程では、マスク140を除去する。例えば、マスク140を、選択的にエッチングして除去する。例えば、マスク140の材料が酸化シリコンである場合、HF溶液あるいはBOE(バッファードHF)溶液を用いることにより、マスク140を選択的にエッチングすることができる。
【0089】
図16(c)に示す工程では、第1バッファー層130を選択的にエッチングして、結晶体160を下地基板10から分離する。これにより、半導体基板170を得ることができる。
【0090】
このように、クロム層を窒化して第1バッファー層を形成した後に複数の開口を含むマスクを形成して、第1バッファー層の表面において複数の開口により露出された複数の領域から、複数の第2バッファー層を成長させている。これにより、複数の第2バッファー層150a1〜150anは、第2バッファー層と結晶方位の異なるマスクにより互いに隔てられたものとなる。これにより、複数の第2バッファー層を介して内部応力が結晶体160内で伝播することを低減できる。
【0091】
したがって、結晶体160内におけるクラックの発生を低減できる。すなわち、本実施形態によっても、III族窒化物半導体の結晶体を成長させる際におけるクラックの発生を低減できる。
【符号の説明】
【0092】
10 下地基板
20 クロム層(金属層)
30a1〜30an,130 第1バッファー層
40 マスク
50a1〜50an、150a1〜150an 第2バッファー層
60、160 結晶体
70、170 半導体基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板の上に金属層を形成する金属層形成工程と、
前記金属層をそれぞれ露出する複数の開口と前記金属層を露出しない非開口部とを含むマスクを形成するマスク形成工程と、
前記金属層において前記複数の開口により露出された複数の領域を窒化することにより、金属窒化物の複数の第1バッファー層を形成する窒化工程と、
前記複数の第1バッファー層の上に、III族窒化物半導体の複数の第2バッファー層を形成する第2バッファー層形成工程と、
前記複数の第2バッファー層の上に、III族窒化物半導体の結晶体を成長させる成長工程と、
を備え、
前記複数の開口のそれぞれは、六角形に沿った形状を有しており、
前記マスク形成工程では、前記複数の開口における各開口の最小幅が5μm以上25μm以下となり隣接する前記開口の間における前記非開口部の幅が1.5μm以上8μm以下になるように、前記マスクを形成する
ことを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記下地基板は、六方晶系及び擬似六方晶系のいずれかの結晶構造を有しており、
前記六角形の各辺は、前記下地基板における前記結晶体の〔10−10〕方向に沿うべき方向、〔01−10〕方向に沿うべき方向及び〔−1100〕方向に沿うべき方向のいずれかに沿って延びている
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記マスク形成工程は、
前記金属層の上にマスク層を成膜するマスク層成膜工程と、
前記マスク層に前記複数の開口を形成することにより、前記マスクを形成する開口形成工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、
前記成長工程は、
前記第1の温度より高い第2の温度で前記結晶体を成長させる第1の成長工程と、
前記第2の温度より高い第3の温度で前記結晶体を成長させる第2の成長工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、
前記成長工程は、
前記第1の温度より高い第2の温度で前記結晶体を成長させる第1の成長工程と、
前記第1の温度と前記第2の温度との間の第4の温度で前記結晶体を成長させる第3の成長工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記マスクを除去するマスク除去工程と、
前記第1バッファー層を選択的にエッチングすることにより、前記結晶体を前記下地基板から分離する分離工程と、
をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項7】
下地基板の上に第1バッファー層を形成する第1バッファー層形成工程と、
前記第1バッファー層をそれぞれ露出する複数の開口と前記第1バッファー層を露出しない非開口部とを含むマスクを形成するマスク形成工程と、
前記第1バッファー層の表面において前記複数の開口により露出された複数の領域に、III族窒化物半導体の複数の第2バッファー層を形成する第2バッファー層形成工程と、
前記複数の第2バッファー層の上に、III族窒化物半導体の結晶体を成長させる成長工程と、
を備え、
前記複数の開口のそれぞれは、六角形に沿った形状を有しており、
前記マスク形成工程では、前記複数の開口における各開口の最小幅が5μm以上25μm以下となり隣接する前記開口の間における前記非開口部の幅が1.5μm以上8μm以下になるように、前記マスクを形成する
ことを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記下地基板は、六方晶系及び擬似六方晶系のいずれかの結晶構造を有しており、
前記六角形の各辺は、前記下地基板における前記結晶体の〔10−10〕方向に沿うべき方向、〔01−10〕方向に沿うべき方向及び〔−1100〕方向に沿うべき方向のいずれかに沿って延びている
ことを特徴とする請求項7に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項9】
前記第1バッファー層は、金属窒化物を含む
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記マスク形成工程は、
前記第1バッファー層の上にマスク層を成膜するマスク層成膜工程と、
前記マスク層に前記複数の開口を形成することにより、前記マスクを形成する開口形成工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項11】
前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、
前記成長工程は、
前記第1の温度より高い第2の温度で前記結晶体を成長させる第1の成長工程と、
前記第2の温度より高い第3の温度で前記結晶体を成長させる第2の成長工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項12】
前記第2バッファー層形成工程では、850℃以上950℃以下の第1の温度で前記複数の第2バッファー層を形成し、
前記成長工程は、
前記第1の温度より高い第2の温度で前記結晶体を成長させる第1の成長工程と、
前記第1の温度と前記第2の温度との間の第4の温度で前記結晶体を成長させる第3の成長工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項13】
前記マスクを除去するマスク除去工程と、
前記第1バッファー層を選択的にエッチングすることにより、前記結晶体を前記下地基板から分離する分離工程と、
をさらに備えた
ことを特徴とする請求項7から12のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2010−239048(P2010−239048A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87526(P2009−87526)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【特許番号】特許第4461227号(P4461227)
【特許公報発行日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【出願人】(308041646)ウェーブスクエア, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】