説明

基板保持装置

【課題】 保持可能な基板の種類が限定されず、かつ当該基板の温度を効果的に制御することができる新規な基板保持装置を提供する。
【解決手段】 この発明に係る基板保持機構18は、例えば真空蒸着装置に適用されるものであり、図示しない液体冷却装置から冷却水が供給される水冷ジャケット34を有している。そして、この水冷ジャケット34の下面には、複数の押圧ユニット40,40,…が設けられており、それぞれの押圧ユニット40は、水冷ジャケット34を介して冷却水が注入される溶接ベローズ52を有している。この溶接ベローズ52の移動端(先端)には、中継冷却板56が結合されており、冷却水の圧力に応じて当該ベローズ52が伸縮すると、中継冷却板56によってヒートシンク70と共にウェハ16が下方に押し付けられ、固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板保持装置に関し、特に例えば表面処理装置に適用され、互いに対向する2つの主面を有する基板を保持するための基板保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の基板保持装置に関する従来技術として、例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来技術によれば、冷却手段を備える静電チャックが、成膜室の上部に配置される。そして、成膜対象となる基板(ワーク)は、成膜面を下方に向けた状態で当該静電チャックに密着されると共に、冷却手段によって冷却される。これによって、基板を確実に保持した状態で、当該基板を効率的に冷却することができる、とされている。
【特許文献1】特開2004−218052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の従来技術では、基板は静電チャックとの間に発生するクーロン力によって保持されるため、当該基板は誘電体であることが必要とされる。つまり、従来技術では、半導体や金属等の非誘電体を保持することができず、換言すれば保持可能な基板の種類(材料)が限られる、という問題がある。
【0004】
そこで、この発明は、保持可能な基板の種類が限定されず、かつ当該基板の温度を効果的に制御することができる新規な基板保持装置を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために、この発明は、互いに対向する2つの主面を有する基板を保持するための基板保持装置において、当該基板の一方主面、例えば被処理面の周縁部分に当接する当接手段を、備える。そして、基板の他方主面、例えば裏側面の少なくとも一部に密着する密着面を有し、この密着面を介して当該基板との間で熱を伝導させる熱伝導手段をも、備える。さらに、熱伝導手段の密着面が基板の裏側面に押圧されるように当該熱伝導手段に所定の力を加える押圧手段と、熱伝導手段の温度を制御する温度制御手段とを、備えるものである。
【0006】
即ち、この発明では、基板の被処理面の周縁部分に当接手段が当接し、当該基板の裏側面に熱伝導手段の密着面が密着される。さらに、熱伝導手段は、押圧手段によって、所定の力で基板の裏側面に押し付けられる。つまり、基板は、当接手段と熱伝導手段とによって挟まれた状態で保持(固定)される。そしてさらに、温度制御手段によって熱伝導手段の温度が制御され、この熱伝導手段の温度に応じて当該熱伝導手段と基板との間で熱が相互に伝導(交換)される。換言すれば、熱伝導手段を介して、基板の温度が制御される。
【0007】
なお、熱伝導手段は、基板との間で効果的に熱を伝導させるべく、熱伝導率が比較的に高い金属製とするのが、望ましい。特に、この発明の基板保持装置が表面処理装置に適用されることを前提とする場合には、銅や銀、金等の高耐食性をも兼ね備える金属によって当該熱伝導手段を形成するのが、望ましい。
【0008】
また、熱伝導手段の密着面に極端な温度分布が生じると、この密着面に密着される基板に対し熱的ストレスが掛かる。そこで、かかる熱的ストレスを軽減するべく、当該密着面の温度分布を平坦化する平坦化手段を、さらに設けてもよい。このような平坦化手段は、例えば密着面と基板の裏側面との間に1枚以上の金属板を介在させることで、実現できる。また、密着面の厚さ寸法を大きくすることによっても、当該平坦化手段を実現することができる。
【0009】
そして、押圧手段は、熱伝導手段に結合された柔軟性を有する継手手段を含み、この継手手段を介して熱伝導手段に所定の力を加えるものとしてもよい。このようにすれば、例えば基板の裏側面と熱伝導手段の密着面との間に隙間(言わば遊び)があるとしても、この隙間は、継手手段によって吸収される。従って、基板の裏側面と熱伝導手段の密着面との密着性が向上し、ひいてはこれら両者間での熱の伝導効率がさらに向上する。
【0010】
また、ここで言う継手手段は、例えば所定の流体が注入される中空部を有し、この中空部への流体の注入圧力に応じて膨張することで熱伝導手段に力を加えるものであってもよい。この場合、押圧手段は、熱伝導手段に所定の力が加わるように当該中空部への流体の注入圧力を制御する圧力制御手段を、さらに含むものとする。
【0011】
そしてさらに、複数の基板を保持可能とするべく、例えば、各基板に対応する複数の継手手段を設け、これらの継手手段に共通の流体流通路を介して当該継手手段のそれぞれの中空部に流体が注入されるようにしてもよい。このようにすれば、各熱伝導手段に加わる力が一様となり、ひいては各基板が一様な力で押圧(保持)される。
【0012】
また、温度制御手段は、上述の流体を介して、つまり当該流体を媒体として、熱伝導手段の温度を制御するものであってもよい。
【0013】
なお、ここで言う流体としては、液状冷却剤等の液体を用いることができる。
【0014】
そして、この発明の基板保持装置は、表面処理装置に適用することができる。この表面処理装置としては、例えば窒化装置や水蒸気処理装置等の表面熱処理装置、或いは真空蒸着装置やスパッタリング装置等のPVD(Physical Vapor Deposition)方式の成膜装置、さらには熱CVD(Chemical Vapor Deposition)装置やプラズマCVD装置等のCVD方式の成膜装置等がある。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、基板は、当接手段と熱伝導手段とによって挟まれた状態で保持される。しかも、基板の裏側面に密着された熱伝導手段を介して、当該基板の温度が制御される。つまり、保持可能な基板が誘電体に限られるという上述の従来技術とは異なり、誘電体以外の基板をも保持することができ、かつ当該基板の温度を効果的に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の一実施形態について、例えば半導体部品の製造工程の1つであるリフトオフのための蒸着処理を担う真空蒸着装置を例に挙げて説明する。
【0017】
図1を参照して、この実施形態に係る真空蒸着装置10は、概略円筒形の真空槽12を備えている。この真空槽12内の下部中央には、金(Au)等の蒸発材料を含む蒸発源14が配置されており、この蒸発源14の上方には、基板としての半導体ウェハ(以下、単にウェハと言う。)16を保持するための基板保持機構18が設けられている。また、真空槽12の壁面の適宜位置、例えば底面を形成する壁面の周縁寄りの位置には、排気口20が設けられており、この排気口20には、真空槽12の外部に設けられた排気手段としての図示しない真空ポンプが結合されている。
【0018】
基板保持機構18は、一度に複数枚、例えば7枚〜24枚ほどのウェハ16,16,…を保持することができ、各ウェハ16,16,…は、それぞれの被処理面を下方に向けた状態、厳密には蒸発源14に向けた状態で、保持される。そして、この基板保持機構18の上部中央は、回転軸22を介して、真空槽12の外部に設けられた駆動手段としての図示しないモータに結合されており、このモータが駆動することで、当該基板保持機構18は、例えば図1に矢印24で示す方向に回転する。
【0019】
かかる構成の真空蒸着装置10によって蒸着処理が行われるときは、まず、上述の真空ポンプにより真空槽12内が例えば5×10−5[Pa]程度の圧力にまで排気される。そして、モータによって基板保持機構18が回転され、この状態で、蒸発源14の蒸発材料が抵抗加熱または電子ビーム加熱によって加熱される。これによって、蒸発材料が、図1に矢印26,26,…で示すように気化され、気化された蒸発材料は、各ウェハ16,16,…の被処理面に付着して徐々に堆積する。この結果、当該被処理面に蒸発材料に従う被膜が生成される。
【0020】
ところで、この蒸着処理においては、加熱された蒸発材料や、当該蒸発材料を含む蒸発源16自体から熱が輻射され、この輻射熱によって、ウェハ16,16,…自体、および当該ウェハ16,16,…の被処理面に塗布されたレジストの温度が、上昇する。そして、このレジストの温度が極端に上昇すると、当該レジストが変質し、後のリフトオフ処理に支障を来たす恐れがある。そこで、この実施形態では、かかるレジストの変質を防止するべく、基板保持機構18に、次のような工夫が施されている。
【0021】
即ち、基板保持機構18は、いわゆる水冷方式によってレジストを含む各ウェハ16,16,…を冷却する。これを実現するために、基板保持機構18は、真空槽12の上面近傍において水平に設けられた円盤状の回転プレート28と、この回転プレート28の下方に設けられた扁平環状のホルダ受け30と、これら回転プレート28およびホルダ受け30の両方の周縁同士を連結する複数本(例えば4本〜12本)の連結棒32,32,…とを、備えている。そして、回転プレート28の上面中央に、上述の回転軸22が結合されており、この回転プレート28の下方とホルダ受け30の上方との間に、概略円盤状の水冷ジャケット34が水平に設けられている。
【0022】
水冷ジャケット34の下面は、ドーム状に形成されており、このドーム状に形成された下面の下方に、当該下面から適当な距離(数[cm]〜十数[cm]程度)を置いて、当該下面と同様の曲率でドーム状に形成された基板ホルダ36が、設けられている。この基板ホルダ36は、ホルダ受け30によって支持されており、当該基板ホルダ36の適宜箇所に、ウェハ16,16,…を載置するための複数の載置部38,38,…が、設けられている。そして、これらの載置部38,38,…に載置されたウェハ16,16,…を、それぞれの上方から押圧することで固定するべく、押圧手段としての複数の押圧ユニット40,40,…が、水冷ジャケット34の下面の当該各載置部38,38,…に対応する位置に設けられている。さらに、水冷ジャケット34の上面中央には、回転軸22と同心状に形成され、かつ当該回転軸22と同期して回転する内側回転軸42が、結合されている。
【0023】
基板保持機構18について、図2を参照してさらに詳しく説明すると、当該基板保持機構18を構成する水冷ジャケット34は、中空とされている。そして、この水冷ジャケット34の上面中央に結合されている内側回転軸42には、当該水冷ジャケット34の内部(中空部)に連通する2つの冷却水路44および46が設けられている。これらの冷却水路44および46は、真空槽12の外部において図示しない液体冷却装置(チラーユニット)に結合されている。そして、図2に矢印48で示すように、当該液体冷却装置から一方の冷却水路44を介して水冷ジャケット34内に冷却水(液状冷却剤)が供給されると共に、同図に矢印50で示すように、水冷ジャケット34内から他方の冷却水路46を介して液体冷却装置へ冷却水が排出される。つまり、冷却水が循環される。なお、この冷却水の温度は、上述の液体冷却装置によって例えば−10[℃]〜25[℃]の範囲で任意に調整可能とされている。また、当該冷却水の水冷ジャケット34内への流量(注入圧力)も、液体冷却装置によって任意に調整可能とされている。
【0024】
そして、水冷ジャケット34の下面には、上述した押圧ユニット40,40,…が設けられている。それぞれの押圧ユニット40は、図3に拡大して示すように、柔軟性(可撓性および伸縮性)のある継手、例えば溶接ベローズ(蛇腹)52を有している。このベローズ52は、水冷ジャケット34の下面に対して略垂直に延伸するように設けられており、当該ベローズ52の一端(上方端)は、フランジ54によって、水冷ジャケット34の下面に結合されている。そして、ベローズ52の他端(下方端)は、熱伝導手段としての円板状の中継冷却板56の一方主面(上面)に結合されている。なお、中継冷却板56は、熱伝導率および耐食性の高い金属、例えば銅(Cu)によって形成されており、当該中継冷却板56の直径は、ウェハ16の直径と略同等とされている。
【0025】
また、水冷ジャケット34の下面には、当該水冷ジャケット34の内部とベローズ52の内部とを連通させるため、換言すれば上述した冷却水をベローズ52内へ流通させるための円形の貫通孔58が、設けられている。さらに、水冷ジャケット34内の適宜位置から当該貫通孔58を介して中継冷却板56の上面(厳密には中継冷却板56の内部に少し食い込んだところ)にまで延伸するように、直管60が設けられている。この直管60の外径は、貫通孔58の直径よりも小さく、例えば当該貫通孔58の直径の1/2〜1/3程度とされている。そして、この直管60は、その一端(下方端)が中継冷却板56の上面に結合、例えば溶接されており、当該下方端寄りの周壁には、例えば縦長楕円形の貫通孔62が、設けられている。また、直管60の他端(上方端)の周縁には、当該周縁から外側に向かって延伸する鍔部64が、設けられている。この鍔部64は、水冷ジャケット34内の冷却水を直管60内に案内するためのものである。即ち、図3に矢印66で示すように、当該直管60内に案内された冷却水は、貫通孔62を介して直管60の外側面とベローズ52の内側面とで挟まれた空間を流通する。そして、この空間を流通した冷却水は、同図に矢印68,68,…で示すように、上述の貫通孔58(厳密には貫通孔58と直管60の外側面との間隙)を介して水冷ジャケット34内に戻される。かかる冷却水の循環過程において、中継冷却板56の上面が当該冷却水に晒され、これによって当該中継冷却板56が冷却される。
【0026】
そして、中継冷却板56の下方に、平坦化手段としての円板状のヒートシンク70が置かれ、このヒートシンク70の下方に、ウェハ16が置かれる。即ち、ヒートシンク70は、中継冷却板56とウェハ16との間で熱を伝導させると共に、当該中継冷却板56の下面(他方主面)の温度分布を平坦化することでウェハ16に掛かる熱的ストレスを軽減する機能を有する。このため、当該ヒートシンク70は、高熱伝導率かつ高耐食性の金属、例えば銅製とされており、その直径は、中継冷却板56およびウェハ16の直径と略銅等とされている。
【0027】
そして、ウェハ16は、上述したように基板ホルダ36に設けられた載置部38に載置されている。この載置部38は、基板ホルダ36に穿設された円形の貫通孔72と、この貫通孔72の内側に嵌合される概略円筒状の枠体74と、から成る。枠体74の内径は、ウェハ16の直径よりも僅かに(数[mm]程度)大きく、かかる枠体74の内側に、ウェハ16が、その被処理面を下方に向けた状態で収容される。そして、この枠体74の下方端の周縁には、当該周縁から内側に向かって少し(数[mm]程度)延伸する当接手段としての内側フランジ76が設けられており、当該枠体74内に収容されたウェハ16は、この内側フランジ76上に載置される。なお、枠体74の上方端の周縁には、当該枠体74を貫通孔72の周縁に係止させるべく、外側に向かって少し(数[mm]程度)延伸する外側フランジ77が、設けられている。また、図2に示すように、上述したホルダ受け30の内側には、基板ホルダ36の周縁を嵌合させるための溝78が、設けられている。
【0028】
このようにして載置部38に載置されたウェハ16の上に、上述のヒートシンク70が載置される。このとき、ヒートシンク70がウェハ16上からずれることのないように、当該ヒートシンク70の下側の一部が枠体74内に収容される。そして、このヒートシンク70を介して、ウェハ16が、押圧ユニット40によって下方に押圧される。具体的には、上述した液体冷却装置から水冷ジャケット34内を介してベローズ52内に注入される冷却水の圧力に応じて、当該ベローズ52が、その上方端を固定端とすると共に下方端を移動端として、図3に矢印80で示す方向、つまり水冷ジャケット34の下面からウェハ16に向かう方向に沿って伸縮する。そして、このベローズ52の伸縮に伴って、中継冷却板56が、上下方向に移動する。従って、当該液体冷却装置によってベローズ52内に注入される冷却水の圧力を調整することにより、ヒートシンク70を介して、ウェハ16を適度な力で押さえ付けることができる。この結果、ウェハ16は、ヒートシンク70と共に、中継冷却板56の下面と内側フランジ76の上面との間に挟まれた状態で保持される。
【0029】
また、中継冷却板56を上下動させるベローズ52は、柔軟性(可撓性)を有しているので、例えば当該中継冷却板56の下面とヒートシンク70の上面との間に隙間がある(これらの面がぴったり一致していない)場合でも、この隙間は、当該ベローズ52の柔軟性によって吸収される。従って、これら中継冷却板56の下面とヒートシンク70の上面との間の密着性が、向上する。同様に、ヒートシンク70の下面とウェハ16の裏側面との間の密着性もまた、向上する。このことは、後述するようにヒートシンク70を介してウェハ16と中継冷却板56との間で熱を伝導させ、ひいては当該ウェハ16を冷却する上でも、極めて有効である。
【0030】
さらに、各ベローズ52,52,…内には、当該各ベローズ52,52,…に共通の水冷ジャケット34内を介して冷却水が注入される。従って、各ベローズ52,52,…を介して各ウェハ16,16,…に加わる力が、一様になる。つまり、各ウェハ16,16,…は、均一な力で押圧(保持)される。また、1台の液体冷却装置によって全てのウェハ16,16,…を均等に押圧することができるので、真空蒸着装置10全体の構成が極めて簡素化されると共に、ウェハ16,16,…を保持する際の作業が効率化される。なお、ウェハ16,16,…に対する押圧力は、当該ウェハ16,16,…の数や種類,サイズ等に応じて、冷却水の注入圧力により適宜調整すればよい。
【0031】
そして、それぞれのウェハ16とヒートシンク70との間では、熱が伝導され、当該ヒートシンク70と中継冷却板56との間、ひいては中継冷却板56とベローズ52内の冷却水との間でも、同様に熱が伝導される。つまり、上述した輻射熱を受けるウェハ16は、ヒートシンク70および中継冷却板56を介して、冷却水によって強制的に冷却される。従って、例えば蒸発材料の種類、蒸発源14からウェハ16までの距離、蒸着処理時間等に応じて、上述した液体冷却装置により当該冷却水の温度を調整すれば、ウェハ16の温度を希望通りに制御することができる。
【0032】
例えば、蒸発源14からウェハ16までの距離を750[mm]とし、当該ウェハ16の被処理面に金を1秒間に0.8[nm]の速度で500[nm]の厚さまで生成する実験を行った。このとき、冷却水の温度を20[℃]とすることで、ウェハ16の温度を約29[℃]以下という上述のレジストに影響を与えない程度の温度に抑えられることが、確認された。また、参考までに、後述する図4に示すように、ヒートシンク70と中継冷却板56とを引き離して当該ヒートシンク70のみによってウェハ16を冷却することとし、この状態で上述と同じ条件で蒸着処理を行ってみた。すると、ウェハ16の温度は、60[℃]以上となり、つまりレジストの変質を来たす恐れがあることが、確認された。
【0033】
また、中継冷却板56およびヒートシンク70は、熱伝導率の高い銅製とされているので、ウェハ16の熱を冷却水に効果的に伝導させることができる。これに対して、上述の従来技術では、静電チャックを当該銅等の金属よりも熱伝導率の低い誘電体によって形成する必要がある。従って、かかる従来技術に比べて、ウェハ16を極めて効果的に冷却することができる。
【0034】
なお、上述の内側回転軸42は、真空槽12の外部において図示しない昇降手段としてのエアシリンダに結合されており、このエアシリンダを駆動させることで、当該内側回転軸42は、図2に矢印82で示すように上下方向に移動する。そして、この内側回転軸42の上下動に伴って、冷却ジャケット34およびこれに結合された押圧ユニット40,40,…もまた、上下方向に移動する。従って、ウェハ16,16,…が着脱されるときは、まず、図4に示すように、当該冷却ジャケット34および押圧ユニット40,40,…が上方に移動され、この状態で、基板ホルダ36が着脱される。そして、基板ホルダ36が取り外された状態で、ウェハ16,16,…がヒートシンク70,70,…と共に着脱される。
【0035】
以上のように、この実施形態によれば、それぞれのウェハ16は、ヒートシンク70と共に、中継冷却板56の下面と内側フランジ76の上面との間に挟まれた状態で保持される。しかも、ウェハ16は、ヒートシンク70および中継冷却板56を介して、冷却水によって強制冷却される。従って、ウェハ16に塗布されたレジストの変質を防止しつつ、当該ウェハ16に適切な蒸着処理を施すことができる。
【0036】
なお、この実施形態においては、リフトオフを前提とする真空蒸着装置12にこの発明を適用することについて説明したが、これに限らない。例えば、スパッタリング装置やイオンプレーティング装置等の他のPVD装置、或いは窒化装置や水蒸気処理装置等の表面熱処理装置、さらには熱CVD装置やプラズマCVD装置等にも、この発明を適用できることは、言うまでもない。また、これらの表面処理装置以外の装置にも、この発明を適用してもよい。
【0037】
そして、ウェハ16以外の基板、例えば金属製基板や樹脂製基板を保持してもよい。また、光学レンズ等のように非平板状のものを、基板として保持してもよい。ただし、このように非平板状の基板を保持する場合には、ヒートシンク70の密着面(下面)をこれに合わせた形状とすることが必要である。
【0038】
そして、この実施形態では、ウェハ16を強制冷却する場合について説明したが、これに限らない。例えば、用途に応じて、ウェハ16を強制的に温めてもよい。また、このウェハ16の温度を制御するための媒体として、冷却水等の液体に代えて、蒸気等の気体を用いてもよい。
【0039】
さらに、継手手段として、溶接ベローズ52を用いたが、成形ベローズやフレキシブルベローズを用いてもよい。また、ベローズ以外の柔軟性のある部材、例えばシリンダ等を、当該継手手段として用いてもよい。
【0040】
そしてさらに、中継冷却板56およびヒートシンク70を銅製としたが、これに限らない。即ち、銅以外の例えば銀や金等の高熱伝導率かつ高耐食性の金属によって、当該中継冷却板56およびヒートシンク70を形成していもよい。また、高耐食性が要求されない場合には、これら以外の金属製としてもよい。
【0041】
そして、平坦化手段として、ヒートシンク70を用いたが、これに限らない。例えば、中継冷却板56の厚みを大きくすることによって、当該平坦化手段を実現してもよい。また、平坦化手段が特に必要でない場合には、これを省いてもよい。なお、ヒートシンク70は、ウェハ16に対する外部(主に中継冷却板56)からの衝撃を緩衝することによって当該ウェハ16の割れを防止する機能をも、奏する。
【0042】
さらに、図2および図3に矢印82で示すように、冷却ジャケット34および押圧ユニット40,40,…が上下動するように構成したが、これに代えて、回転プレート28,ホルダ受け30および連結棒32,32,…(基盤ホルダ36を含む)が上下動するようにしてもよい。
【0043】
また、基板ホルダ36は、ドーム状のものに限らず、例えば図5に示すように、平板状のものであってもよい。この場合、冷却ジャケット34の下面についても、平面状とするのが、望ましい。
【0044】
そして、基板保持機構18によって一度に複数枚のウェハ16,16,…を保持可能としたが、これに限らない。即ち、基板保持機構18によって保持可能なウェハ16の枚数を1枚としてもよい。ただし、この実施形態では、上述したように1台の液体冷却装置によって複数枚のウェハ16,16,…を均等に押圧することができるので、当該複数枚のウェハ16,16,…を保持可能とする方が効果的である。なお、因みに、上述の従来技術では、複数枚の基板を保持しようとすると、当該基板と同数の静電チャック用電源が必要となるので、その分、装置全体が複雑化し、かつ高コスト化する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の一実施形態に係る真空蒸着装置の概略構成を示す図解図である。
【図2】同実施形態における基板保持機構の具体的な構造を示す図解図である。
【図3】同実施形態における押圧ユニットを拡大して示す図解図である。
【図4】図2とは別の状態にある基板保持機構を示す図解図である。
【図5】基板保持機構の別の構成例を示す図解図である。
【符号の説明】
【0046】
10 真空蒸着装置
12 真空槽
16 ウェハ
18 基板保持機構
34 水冷ジャケット
44,46 冷却水路
40 押圧ユニット
52 溶接ベローズ
56 中継冷却板
70 ヒートシンク
74 枠体
76 内側フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する2つの主面を有する基板を保持するための基板保持装置において、
上記2つの主面の一方の周縁部分に当接する当接手段と、
上記2つの主面の他方の少なくとも一部に密着する密着面を有し該密着面を介して上記基板との間で熱を伝導させる熱伝導手段と、
上記密着面が上記他方の主面に押圧されるように上記熱伝導手段に所定の力を加える押圧手段と、
上記熱伝導手段の温度を制御する温度制御手段と、
を具備することを特徴とする、基板保持装置。
【請求項2】
上記熱伝導手段は金属製である、請求項1に記載の基板保持装置。
【請求項3】
上記密着面の温度分布を平坦化する平坦化手段をさらに備える、請求項1または2に記載の基板保持装置。
【請求項4】
上記押圧手段は、上記熱伝導手段に結合された柔軟性を有する継手手段を含み、該継手手段を介して該熱伝導手段に上記所定の力を加える、請求項1ないし3のいずれかに記載の基板保持装置。
【請求項5】
上記継手手段は所定の流体が注入される中空部を有し該中空部への該流体の注入圧力に応じて膨張することで上記熱伝導手段に力を加え、
上記押圧手段は上記熱伝導手段に上記所定の力が加わるように上記注入圧力を制御する圧力制御手段をさらに含む、
請求項4に記載の基板保持装置。
【請求項6】
複数の上記基板に対応する複数の上記継手手段を備え、
上記流体は上記複数の継手手段に共通の流体流通路を介して該複数の継手手段のそれぞれの上記中空部に注入される、
請求項5に記載の基板保持装置。
【請求項7】
上記温度制御手段は上記流体を介して上記熱伝導手段の温度を制御する、請求項5または6に記載の基板保持装置。
【請求項8】
上記流体は液体である、請求項5ないし7のいずれかに記載の基板保持装置。
【請求項9】
表面処理装置に用いられる、請求項1ないし8のいずれかに記載の基板保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−190805(P2006−190805A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1223(P2005−1223)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000192567)神港精機株式会社 (54)
【Fターム(参考)】