説明

磁気抵抗効果素子の製造方法

【課題】形成された膜のステップカバレッジを大きくすることが可能であり、かつ低温領域で成膜することが可能な磁気抵抗効果素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態では、プラズマ源と成膜室を隔壁板により隔離したプラズマCVD装置により多層磁性層上に絶縁性の保護層を形成する。本方法によれば、磁気特性の劣化をもたらすことなく保護層を成膜でき、かつ、150℃未満の低温成膜も可能である。これにより、レジストを残留させたまま保護層の成膜が可能であり、多層構造の磁気抵抗効果素子の製造において工数低減も可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積化磁気メモリであるMRAM(magnetic random access memory)や薄膜磁気ヘッドなどで好適に利用される磁気抵抗効果素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DRAM並の集積密度でSRAM並の高速性を持ち、かつ無制限に書き換え可能なメモリとして集積化磁気メモリであるMRAMが注目されている。又、GMR(巨大磁気抵抗)やTMR(トンネリング磁気抵抗)といった磁気抵抗効果素子を用いた薄膜磁気ヘッドや磁気センサー等の開発が急速に進んでいる。
【0003】
磁気抵抗効果素子としては、例えば、シリコンやガラス等の基板の上に下部電極を形成し、その上に磁気抵抗効果素子(TMR)を構成する8層の多層膜が形成されているものがある。この8層の多層膜は、例えば一番下側に下地層となるTa層、その上に、反強磁性層となるPtMn層、磁化固着層(Pinned Layer、Ru、Pinned Layer)、絶縁層(Barrier Layer)、フリー層、キャップ層が順に積層されているものなどがある。
【0004】
それを構成する多層磁性膜が形成された基板を、半導体産業で培われた反応性イオンエッチング(RIE)、イオンビームエッチング(IBE)等の薄膜加工技術で加工して、所要の性能が得られるようにするという提案がなされている。
多層磁性膜の加工が完了すると、その上に絶縁性の保護層が形成される。この保護層に求められる特徴としては、高いBreak down voltageであること、ステップカバレッジが高いこと、表面粗さRaが小さいこと、薄膜(5−10nm)でも膜厚分布が良好なこと等が挙げられる。
従来、この保護層を形成する方法として、スパッタ法や原子層堆積による方法が挙げられている(特許文献1及び非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−59016号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】鳥居ら、太陽日酸技報 No.24(2005)2−7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の成膜方法によれば以下のような問題があった。
(1)スパッタで作製された保護層であるAlでは高いステップカバレッジを得ることが出来ない。
(2)スパッタで作製されたAlではプラズマが直接照射されることにより絶縁層にピンホールが形成され、絶縁破壊の原因になりやすい。
(3)原子層堆積(ALD)を使用して形成されたAlでは原子層成膜の為、成膜時間がかかる。
(4)原子層堆積(ALD)を使用して形成するAlのソース材料としてアルキルアルミニウム化合物、アルミニウムアルコキシド等複雑な化合物を使用する必要がある(特許文献1)。
(5)原子層堆積(ALD)では150−350℃の高温領域を使用する(非特許文献1)。
(6)原子層堆積(ALD)を使用して形成されるAlでは酸化剤としてHOを使用するが、層に含有される水分で磁気層にダメージが与えられ、磁気特性が劣化する。
本発明は、形成された膜のステップカバレッジを大きくすることが可能であり、かつ低温領域で成膜することが可能な磁気抵抗効果素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、2つの強磁性層及び前記強磁性層間に挟まれた中間層を含む多層磁性層を備えた磁気抵抗効果素子の製造方法であって、プラズマを生成可能なプラズマ生成空間と該プラズマ生成空間とは別個に設けられ、処理基板を搭載可能な基板保持部が配置された成膜処理空間との間に少なくとも1つの貫通孔を有する隔壁が設けられ、かつ前記プラズマ生成空間と前記成膜処理空間とが前記少なくとも1つの貫通孔により連結されており、前記プラズマ生成空間で第一の原料ガスから生成された活性種を前記少なくとも1つの貫通孔を通して前記成膜処理空間に導入し,該成膜処理空間で前記活性種と第二の原料ガスとを反応させ、前記基板保持部に搭載された処理基板に形成された多層磁性層上に絶縁性の保護層を形成することを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の態様は、磁気抵抗効果素子の製造方法であって、所定の形状の加工された多層磁性層であって、該多層磁性層上に前記加工に用いられたレジスト層が形成された多層磁性層を用意する工程と、熱により前記レジスト層が変形しない温度で、前記加工によって露出した前記多層磁性層の面上、および前記多層磁性層の上に形成されたレジスト層上に保護層を形成する工程と、前記レジスト層が少なくとも除去されるように、前記レジスト層および前記保護層の一部を除去する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、活性種を使用したCVD法である為、十分なステップカバレッジを得ることが可能である。
さらに、低温度領域での成膜が可能であるので、磁気特性の劣化を抑制でき、かつ、成膜中の温度上昇によるレジストの変形も抑制できるので、多層構造の磁気抵抗効果素子の製造において工程数の低減も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態にかかる製造装置の外観図である。
【図2】(a)〜(g)は、本発明の一実施形態にかかる磁気ヘッド用の磁気抵抗効果素子の製造工程の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる多層磁性層の構成例を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかるエッチング室の一例を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる成膜室の一例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる隔壁の詳細な断面図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる電子密度の測定結果を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態にかかるMOSキャパシタのIV特性の測定結果を示す図である(実施例、リーク電流)。
【図9】本発明の一実施形態にかかるMOSキャパシタのIV特性の測定結果を示す図である(実施例、絶縁破壊電圧)。
【図10】本発明の一実施形態にかかるMOSキャパシタのIV特性の測定結果を示す図である(比較例、リーク電流)。
【図11】本発明の一実施形態にかかるMOSキャパシタのIV特性の測定結果を示す図である(比較例、絶縁破壊電圧)。
【図12】本発明の一実施形態にかかる成膜速度の温度依存性を示すグラフである。
【図13】本発明の一実施形態にかかる面内分布の温度依存性を示すグラフである。
【図14】本発明の一実施形態にかかるカバレッジの温度依存性を示すグラフである。
【図15】本発明の一実施形態にかかる保護膜を下地として磁性層を成膜した場合の保磁力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1に本実施形態にかかるクラスタ型の製造装置700の外観図、図2(a)〜(g)に本実施形態にかかる磁気ヘッド用の磁気抵抗効果素子の製造工程の一例を示す図、図3に本実施形態にかかる多層磁性層の構成例を示す。
【0013】
図1の製造装置700は、エッチング処理を行うためのエッチング室702と、CVD成膜を行うための成膜室703と、装置700内の各室に基板を搬送するための搬送ロボットが配置された搬送室704と、装置700内に基板を搬入または搬出するための基板搭載室701と、を備える。搬送室704と、その周囲に配される各室701,702とは、ゲートバルブを介して気密に接続される。また、各室701〜704はターボ分子ポンプなどの排気装置を備え、独立に減圧可能になっており、真空条件下で基板を各室間で搬送、連続処理が可能になっている。
【0014】
図1の装置700には、図2(b)に示すような被処理体を導入する。この被処理体は、下部シールド層801(例えば、パーマロイ(NiFe))上に、多層磁性層811、及びレジスト層809が順に積層されている。有機マスク材料としてのレジスト層809は、有機化合物からなり、所定パターンに形成されている。多層磁性層811は、2つの強磁性層および該強磁性層間に挟まれた中間層を含む。該多層磁性層811は、例えば、図3に示すように、バッファ層803(例えば下層からTa層/Ru層)、反強磁性層804(例えばPtMn層)、磁化固着層805(例えば、CoFe層/Ru層/CoFe層の積層体)、絶縁層(バリア層)806(例えば、MgO、AlOx)、磁化自由層であるフリー層807(例えば、CoFe層)、及び、キャップ層808(例えばRu層)を備えている。また、キャップ層808は、非磁性の導電材料からなり、多層磁性層811を保護すると共に、後述する上部シールド層と多層磁性層811との間の磁気的な相互作用を防止ないしは軽減する役割を果たす。多層磁性層811は、スパッタ法により真空条件下(真空下)での連続的な成膜が可能である。
すなわち、本実施形態では、後述するCVDによる保護層成膜の工程(図2(a)のステップS902)の前に、複数の磁性層を積層させた多層磁性層811、および該多層磁性層上に形成され、所定のパターンを有するレジスト層809を有する被処理体を用意する。
【0015】
まず、上述の被処理体をエッチング室702に導入し、多層磁性層811をレジスト層809に基づいてパターン形状に加工する(図2(a)のステップS901)。すなわち、多層磁性層811上に上記加工に用いられたレジスト層809が残った状態の被処理体を用意する。
ステップS901で多層磁性層811を所定パターンに加工後(図2(c)の状態)、被処理体を成膜室703に移し、該パターン加工された多層磁性層811上に絶縁性の保護層814を成膜する(ステップS902)。保護層814は、多層磁性層811の側面を電気的に絶縁する役割を果たす。このとき、エッチング加工後の表面に残るレジスト層809′も残したまま、その上に保護層814を形成する(図2(d)の状態)。すなわち、ステップS901による加工によって露出した多層磁性層811の面上、および上記残ったレジスト層上に保護層814を形成する。なお、ステップS902においては、レジスト層809が熱により変形しない温度(例えば、150℃未満の温度)で保護層814を成膜することが好ましい。この熱により変化しない温度は、用いるレジスト層によって変化することは言うまでも無い。
【0016】
その後、保護層814上にハードバイアス層815(例えば、CoPt層)を成膜し(図2(a)ステップS903、図2(e))、リフトオフによりレジスト層809が少なくとも除去されるように、上記残ったレジスト層809′、保護層814の一部、およびハードバイアス層815の一部を除去する(図2(a)ステップS904、図2(f))。次いで、該レジスト層809が除去された領域上に上部シールド層(例えば、パーマロイ(NiFe))816を成膜する(図2(a)のステップS905、図2(g))。すなわち、本実施形態では、パターン形状の加工の後において多層磁性層811上に残ったレジスト層809′を除去して、多層磁性層811の一部を露出させる。
【0017】
次に、各処理について詳述する。
図4は、本実施形態におけるエッチング処理を行うためのエッチング室702の一例を示す図である。本実施形態では、エッチングの一例として、例えば、Arなどの不活性ガスのプラズマを用いたイオンビームエッチング(以下、IBE)を行う。
【0018】
図4のIBE装置は、誘電体容器65、プラズマ生成室68及び基板処理室71が排気系63によって真空排気可能に接続されている。誘電体容器65には、プラズマ用高周波電源62(例えば、13.56MHz)からの電流の供給により誘電磁界を発生する1ターンのアンテナ64、プラズマ制御用磁石66が配される。このような構成において、ガス導入系72より誘電体容器65内にプラズマ生成室68を介してArガスなどを導入することでプラズマを生成可能である。また、プラズマ生成室68には側壁用磁石67が配されており、プラズマの拡散が防止されている。プラズマ生成室68と基板処理室71の間には、プラズマ73により生成したイオン(Ar+など)を加速する電界を形成する加速手段としてのグリッドG1、G2が設けられている。グリッドG1,G2に異なる大きさの電位を与えることにより、その電位差によってプラズマ生成室68から基板処理室71に向かってイオンを加速する。基板処理室71には、基板61を保持する基板ホルダ69が配置される。この基板ホルダ69は回転機構(符号70により回転軸を示す)によって、基板載置面をイオンビーム74に対して所定角度に傾けることが可能である。
【0019】
図5は、本実施形態における保護層成膜処理を行うための成膜室703の一例を示す図である。
図5において、成膜室703は、真空容器1、電極2、電極2に穿孔された孔2a、電力導入棒3、電力導入棒3の外周部を覆う絶縁物4、第一のガスを後述するプラズマ生成空間10に導入する第一のガス導入手段としての第一ガス導入部5を備える。成膜室703は、さらに絶縁物7および8、後述する隔壁20を地絡するための金属等からなる電気的導体9、電極2の上、孔2aの中及び電極2の下に拡がる、プラズマを生成可能なプラズマ生成空間10(第一の空間)を備える。該プラズマ生成空間10は、真空容器1の内壁および隔壁20によって区画されており、プラズマ生成空間10内に、電力導入棒3が接続された電極2が設けられている。電力導入棒3は図示しない高周波電源に接続されており、放電用電力の投入によりプラズマ生成空間10にプラズマが生成される。
【0020】
また、符号20は隔壁を示している。符号21は貫通孔、符号22は拡散孔、符号23は内部空間、符号24は第二のガスを内部空間23に導入する第二のガス導入手段としての第二ガス導入部を表している。ここで、貫通孔21は、プラズマが発生している領域であるプラズマ生成空間10(第一の空間)と、図5では隔壁20の下(隔壁20のプラズマ生成空間10と反対側)に位置する成膜処理空間11(第二の空間)とを繋ぐ。また、図6に隔壁の詳細な断面図を示すが、拡散孔22は、内部空間23と成膜処理空間11とを繋ぎ、第二ガス導入部24から内部空間23に導入された第二のガス42は拡散孔22を介して成膜処理空間11に拡散される。
【0021】
符号30は被処理体(処理基板)Wを搭載可能な基板保持部としての基板ホルダ、符号31はその内部に埋設されているヒータである。そして、基板ホルダ30の上部には被処理体Wが搭載されている。符号11は成膜処理空間、符号12は排気ポート、符号13は排気手段としてのターボ分子ポンプである。ヒータ31は図示しない温度検出手段の出力に基づいてフィードバック制御可能になっており、基板ホルダを所望の温度に調整可能である。本実施形態では、真空容器1内を隔壁20によって2つに区分された領域のうち、基板ホルダ30が設けられた方の領域であり、真空容器1と隔壁20とによって区画されている。
【0022】
このような構成の装置において、ガス導入条件下でプラズマを生成させると、第一のガスのプラズマのうちイオンなどの荷電粒子は貫通孔21の内壁などに再結合してしまうが、上記第一のガスのプラズマのうち活性種は再結合をすることなく成膜処理空間11に導入され、第二のガスと反応する。なお、本実施形態では、プラズマ生成空間10と成膜処理空間11との間を仕切るための隔壁20が、第一のガスのプラズマのうち荷電粒子(例えばイオン)をなるべく通過させず、活性種を選択的に通過させるようなフィルタとして機能することが重要である。よって、隔壁20に形成され貫通孔21は、上記活性種を通過させるように構成されていれば、その大きさ、形状は問わない。また、貫通孔21の形状は、u・L/D>1の条件を満たしていると、第二のガスが第一の空間に逆拡散するのを抑制できるので望ましい。なお、uは貫通孔21でのガス流速、Lは貫通孔21の長さ、Dは相互ガス拡散係数、すなわち第一及び第二のガスの相互ガス拡散係数を表す。
【0023】
本実施形態では、第一の原料ガスとして、例えば、SiN、SiOx又はSiON、あるいはそれらの混合物を形成する為に必要な、O又はN原子を含む物質、O、O、N、NH、H、NO、NO等のガスの少なくとも1つを含むガスを第一の空間に導入する。また、第二の原料ガスとして、モノシラン、ジシラン、TEOS(テトラエトキシシラン)などのケイ素化合物ガスの少なくとも1つを含むガスを第二の空間に導入する。
【0024】
これにより、拡散孔22を通って成膜処理空間11に導入された第二の原料ガスと、第一の原料ガスの活性種とが化学反応を起こし、基板保持機構としての基板ホルダ30上で目的の絶縁性の保護層814(SiNx(シリコン窒化膜),SiOx(シリコン酸化膜),SiON(シリコン酸窒化膜)のいずれか一つ薄膜、あるいはこれらの膜の積層膜、またはこれらの混合膜)が形成される。なお、保護層814のうちSiNxは、多層磁性層811を酸化することなく成膜できるのでの好ましい。
【0025】
なお、本実施形態では、保護層814自体の材料に特徴があるわけではなく、その生成方法に特徴がある。従って、保護層814は、SiNx,SiOx,SiON薄膜に限らず、CVDにより形成可能な絶縁性のものであればいずれであっても良い。そのときは、第一のガスおよび第二のガスを、形成したい保護層に応じて適宜選択すれば良いことは言うまでも無い。
【0026】
このように、本実施形態では、活性種を使用したCVD法で保護層14を成膜する為、十分なステップカバレッジを得ることが可能である。また、下記の効果が得られる。
(a)本方式を利用した保護層の形成方法では、被処理体としての基板に高密度なプラズマが照射されることがない、ないしは低減される為、基板への電荷によるダメージを無くす、ないしは低減することが可能である。
(b)本方式を利用した保護層の形成方法では、成膜速度は2−3nm/minとすることができ、2−10nm程度の薄い薄膜でも高精度かつ十分な量産速度が確保できる成膜速度を実現することが出来る。
(c)保護層を形成する際に、複雑な化合物を使用する必要がない。
(d)基板(被処理体)へのプラズマからの入熱が抑制されるため、150℃未満、好ましくは130℃以下、さらに好ましくは110℃以下の低温度領域での成膜が可能である。従って、温度による磁気特性の劣化を防ぐ、ないしは低減することができる。
(e)低温(例えば、150℃未満の温度といった、熱によりレジスト層809が変形しない温度)での成膜が可能であるので、レジスト層809上に保護層を形成する場合でも、レジスト層809の変形を防止でき、保護層の均一成膜を実現できる。
(f)効果(e)によって、マスクにレジスト層809のみを用いるプロセス、レジスト層809を除かずに保護層を成膜するプロセス、レジスト層809のリフトオフによりキャップ層808上の保護層814を除去するプロセス等が採用可能になり、多層構造の磁気抵抗効果素子の製造において工数低減、工程増による汚染の抑制が可能である。
上記効果(d)〜(f)をさらに説明する。
上述のように、本実施形態では、プラズマ生成空間10と成膜処理空間11との間に隔壁20を設け、プラズマ生成空間10にて生成された第一の原料ガスの活性種を選択的に成膜処理空間11へと通過させるように隔壁20を構成している。このようにプラズマ生成空間10と成膜処理空間11との境界部に設けられた隔壁20により、上記第一の原料ガスの荷電粒子(イオン)をブロックすると共に、プラズマ生成空間10内に生成されたプラズマ起因の熱の成膜処理空間11への移動をブロックすることができる。従って、被処理体Wを低温(例えば、150℃未満の温度といった、熱によりレジスト層809が変形せず、かつ多層磁性層811の磁気特性の劣化を低減できる温度)にしても保護層814を形成することができる。
【0027】
このように低温領域により、磁性層上に保護層を形成できることは非常に有効である。すなわち、低温領域において保護層を形成できるので、多層磁性層811の磁気特性の劣化を低減できると共に、多層磁性層811上に保護層814を成膜する過程において多層磁性層811のパターン加工のために用いたレジスト層809′上に保護層814を形成することができる。
【0028】
本実施形態では、レジスト層809′が多層磁性層811上に残った状態、すなわち、多層磁性層811上に形成されたレジスト層809′上に保護層814を形成できることは非常に重要である。例えば、図5に示す成膜室703において隔壁20が存在しない場合(比較例)、第一の原料ガスのプラズマ生成によって、該プラズマの熱が被処理体Wに作用することになり、保護層の形成が高温領域で行われることになる。このとき、図2(d)に示すように、レジスト層809′を残したまま保護層814を形成すると、該レジスト層が高温により変形してしまい、その上に形成される保護層も歪んでしまう。よって、比較例では、図2(c)の時点でレジスト層809′を除去する必要がある。
【0029】
このように、比較例のように多層磁性層811のエッチング加工と保護層814形成との間にレジスト層809′の除去工程を行うと、該除去工程分だけ工程数が増加し、さらには、レジスト層809′の除去の際に、ステップS901のエッチングによって露出した多層磁性層811の側面にダメージを与えてしまう恐れもある。
【0030】
これに対して、本実施形態では、プラズマ生成空間10と成膜処理空間11との間に設けた隔壁20によって、プラズマ生成空間10から成膜処理空間11へのプラズマ起因の熱の移動を抑制できるので、上述のように、保護層814の成膜を低温領域にて行うことができる。従って、多層磁性層811上にレジスト層809′が残った状態で保護層814の成膜を行っても、レジスト層809′の変形を抑制することができる。
【0031】
このように、本実施形態では、ステップS902において、多層磁性層811上にレジスト層809′が形成された状態で被処理体W上に保護層814を成膜しても、該保護層814を均一に形成することができる。よって、ステップS904のリフトオフにより、余分な保護層と共に上記残ったレジスト層809′を同時に除去することができ、工程数の低減を実現することができる。さらに、図2(e)、(f)に示すように、残ったレジスト層809′を除去する際には、ステップS901のエッチングによって露出した多層磁性層811の側面には保護層814が形成されているので、エッチング後の多層磁性層811の側面がレジスト層809′の除去処理によりダメージを受ける恐れは無い。
【0032】
すなわち、本実施形態では、多層磁性層811上に該多層磁性層811のパターン形成のために用いたレジスト層809′を残したまま、該レジスト層809′上をも含めて保護層814を形成しているので、余計な保護層14の除去と残ったレジスト層809′とを一括して行うことができ、かつ上記露出した多層磁性層811の側面へのダメージを抑制してレジスト層809′を除去することができる。
【0033】
このような効果を奏することができる、レジスト層809′が多層磁性層811上に残った状態で保護層814を形成するという本発明に特徴的な方法を、保護層814を良好に形成しつつも実現するために、本実施形態では次のような構造を採用している。すなわち、第一の原料ガスのプラズマを生成するためのプラズマ生成空間10と実際に成膜を行うための成膜処理空間11とを別個に設け、プラズマ生成空間10から成膜処理空間11への上記プラズマにより生成された荷電粒子の移動および該プラズマ起因の熱の移動を低減し、かつ第一の原料ガスの活性種を選択的に通過させる構造を上記2つの空間の境界部に設けている。このように活性種を選択的に通過させる構造としては、例えば、プラズマ生成空間10と成膜処理空間11とを連結するように構成された貫通孔21が挙げられる。
【0034】
なお、本実施形態では、単一の真空容器1内を隔壁20により2つの空間に分けて、一方をプラズマ生成空間10とし、他方を成膜処理空間11としているが、本実施形態で重要なことは、プラズマ生成空間10と成膜処理空間11とをそれぞれ設け、これら2つの空間を連結する領域に隔壁20のように機能する構造を設けることである。すなわち、保護層814のCVD成膜に必要な活性種を生成するためにプラズマを生成するための第一の空間(プラズマ生成空間10)とは別個の第二の空間(成膜処理空間11)にて実際の成膜を行うように第一の空間および第二の空間を構成し、第一の空間から第二の空間へ移動する上記プラズマにより生成された荷電粒子および熱の移動を低減し、かつ第一の空間から第二の空間への活性種の移動は許可するように第一の空間および第二の空間を連結することが重要である。従って、このような構成が実現できれば、図5に示す構成に限定されない。例えば、第一の原料ガスが導入され、かつプラズマを生成するように構成されたプラズマ生成容器(プラズマ生成空間)と、第二の原料ガスが導入され、かつ被処理体W上に保護層814を成膜するように構成された成膜処理容器(成膜処理空間)とを別個に用意し、これら2つの容器の間に該2つの容器(すなわち、プラズマ生成空間および成膜処理空間)とを連結する貫通孔を少なくとも1つ有する隔壁20を設けるようにしても良い。
【0035】
以上、実施形態について説明したが、本発明の適用はこれに限られるものではない。例えば、上述の保護層814成膜プロセスは、レジスト層809の代わりにTaなどのハードマスク層を用いる場合にも適用可能である。この場合、磁気抵抗効果素子の磁気特性が200℃以上において著しく劣化する為(積層磁性膜の界面において熱拡散が始まる)、200℃未満で処理を行うことが好ましい。但し、ハードマスク層を用いる場合にも、ハードマスクをパターン形状とするためにレジスト層を形成する必要はある。このため、レジスト層809のみで多層磁性層811をエッチングするプロセスフローは、工程を少なくできる利点がある。
【0036】
また、IBEでなく、反応性イオンエッチング(RIE)でもよく、エッチングガスの例としてはアルコールガス、炭化水素と不活性ガスの混合ガスなどを用いることができる。同様に、磁気ヘッド用のTMR素子に限らず、MRAM用のTMR素子の製造工程や、バリア層806の代わりに導電性非磁性層(Cu層など)を形成したGMR素子の製造工程でも、絶縁性の保護膜の形成に上述したCVD成膜を適用してもよい。
【0037】
また、図5の装置において隔壁20は内部空間を有するものに限られず、貫通孔のみを形成した薄いメッシュ状のものであってもよい。
なお、本実施形態ではエッチング工程と保護層814の成膜工程を搬送チャンバ真空一貫で可能にしているが、夫々の工程を別々の装置でやってもよい。但し、エッチング加工(加工処理)を実行した磁性膜加工表面は容易に酸化しやすいため、加工後に大気に晒すと大気中の水分が加工表面に付着し酸化を促進する。その後に絶縁性保護膜を成膜した場合磁性膜表面に閉じ込められた酸化層や水分によりさらに磁性膜が酸化され、磁気抵抗効果素子の磁気特性が経時変化する。従って、真空一貫のプロセスにすることで、基板を清浄に保ったまま処理できるので、特性の劣化、ばらつき等を招くことなく、磁気抵抗効果素子を製造可能である。
【0038】
[実施例1]
実施例として、本発明が電子密度の要件を満たしていることを確認する為に、図5に示す装置を用いて成膜処理空間11の電子密度測定試験を行った。成膜処理空間11の電子密度をLangmuirプローブを用いて本発明の一実施形態に対して、処理基板直上11mmの所での飽和イオン電流密度を測定した。
プラズマ生成空間10に導入するプロセスガスはNH 500sccm又はO 500sccmとキャリアガスとしてアルゴン50sccmとを使用した。プラズマ生成空間10に配備される高周波電極へはパワー700Wを投入した。プロセス圧力は20Paで調査した。
この結果、図7に示すように、成膜処理空間に流入する電子密度は1×10+7cm−3以下に保たれており、従来の隔壁20のない容量結合性プラズマを使用したプロセス(比較例)と比較すると、電子密度は2−4桁以上低いことが示された。
【0039】
[実施例2]
次に、実施例2として、ダメージの低減効果を確認する試験を行った。
実施例2では、実施例1と同様の装置及びプロセス条件で、MOSキャパシタに対する処理を行った。
比較例として、隔壁20が存在しない容量結合タイプの装置について同様のテストを実施した。プロセス条件は酸素500sccm、圧力は180Pa、投入パワーは1000Wとして試験を行った。
測定は8”ウエハ面内56ポイント、アンテナ比(上部電極とゲート酸化膜の面積比)は70万倍で測定した。
図8〜図11は、MOSキャパシタのIV特性の測定により、ダメージを評価した結果図である。図8(実施例2)及び図10(比較例)中の数値は、各ポイントの(pA)を示しており、ダメージがある場合、MOSキャパシタのリーク電流値の絶対値が大きくなる。また、図9(実施例2)及び図11(比較例)中の数値は、絶縁破壊電圧(V)を示しており、絶縁破壊電圧の絶対値が小さくなる。
比較例では、リーク電流の絶対値がウエハ面内の中で1E+6pAと局所的に高い領域があり、また絶縁破壊電圧も局所的に小さい領域が測定された(図10、図11参照)。このことから、プラズマ中の電子密度が大きいために、わずかなプラズマの不均一によって基板面内で電位の片寄りが誘発されることが確認された。一方、実施例2では、リーク電流はウエハ面内均一に40pA以下で、絶縁破壊電圧も面内均一でダメージがないことが確認された(図8、図9参照)。
【0040】
[実施例3]
実施例3では、図5の装置を用いてSiNを成膜し、各種の効果を確認した。
成膜条件は、次の通りとした。高周波電力700Wを投入し、プラズマ生成空間10にNH3 50sccm、成膜処理空間11にSiHとArの混合ガスを合わせて65sccm導入した。また、ヒータ31により各温度条件に基板温度を調整して成膜を行った。
図12に、成膜速度の温度依存性を示す。
従来法であるALDでは、1サイクル0.1−0.15nmの膜が形成され、1サイクルの時間を10秒とすると1分間に0.6〜0.9nm程度しか成膜できないが、本発明では、成膜温度が110℃の時2.75nm/minであるので、5nm以上の保護膜形成に対して、十分な成膜速度を得ることが可能である。
【0041】
図13に、面内分布の温度依存性を示す。
200mm基板上の面内分布を確認した。基板表面の前面に成膜して端部より3mmから内側の49ポイントで測定を実施した。成膜分布は処理基板の温度が110℃の低温でも3σで3%以下の均一性が得られた。
図14に、カバレッジの温度依存性を示す。
カバレッジは処理基板の温度が110℃の低温でも約80%程度得られた。
【0042】
図15に、保護膜を下地として磁性層を成膜した場合の保磁力を示す。
保護膜上にseed層と磁性層を形成した場合について、seed層の膜厚を変化させたときの保磁力を確認した。図15において、符号151は、本発明の一実施形態に係る方法で成膜したSiN上に形成された磁性層の保持力とseed層の厚さとの関係を示すグラフである。符号152は、従来法で成膜したAl上に形成された磁性層の保持力とseed層の厚さとの関係を示すグラフである。従来法で成膜したAlと比較すると、本発明で成膜したSiN上に形成した磁性層の方が高い保磁力が得られた。
絶縁破壊特性に関しては、50Aから1000Aの幅広い膜厚において、従来法で成膜したAlでは5MV/cmであり、本発明で成膜したSiNでは9−10MV/cmと十分な絶縁破壊特性を示した。
低温成膜及び高温成膜での比較をする為に、150℃及び110℃で有機レジストマスクを用いて形状比較を行ったところ、150℃では有機マスクの変形の為パターン形状に歪みが生じたが110℃では特に変形は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの強磁性層及び前記強磁性層の間に挟まれた中間層を含む多層磁性層を備えた磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
プラズマを生成可能なプラズマ生成空間と該プラズマ生成空間とは別個に設けられ、処理基板を搭載可能な基板保持部が配置された成膜処理空間との間に少なくとも1つの貫通孔を有する隔壁が設けられ、かつ前記プラズマ生成空間と前記成膜処理空間とが前記少なくとも1つの貫通孔により連結されており、前記プラズマ生成空間で第一の原料ガスから生成された活性種を前記少なくとも1つの貫通孔を通して前記成膜処理空間に導入し、該成膜処理空間で前記活性種と第二の原料ガスとを反応させ、前記基板保持部に搭載された処理基板に形成された多層磁性層上に絶縁性の保護層を形成することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項2】
前記保護層は、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びシリコン酸窒化膜のうちのいずれか一つ、あるいは、これらの積層膜、またはこれらの混合膜であることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項3】
有機マスク材料により加工された前記多層磁性層上に、成膜温度が150℃未満で前記保護層を成膜することを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項4】
前記多層磁性層上に、前記加工に用いた有機マスク材料を残した状態で、前記保護層の成膜を行うことを特徴とする請求項3に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】
前記保護層の成膜において、前記プラズマ生成空間で生成されたプラズマのうち、前記成膜処理空間に流入するプラズマの電子密度が1×10+7cm−3以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項6】
マスク材料を用いた前記多層磁性層の加工処理と、前記マスク材料により加工された多層磁性層上への前記保護層の成膜処理と、を真空下で連続的に実行することを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項7】
所定の形状の加工された多層磁性層であって、該多層磁性層上に前記加工に用いられたレジスト層が形成された多層磁性層を用意する工程と、
熱により前記レジスト層が変形しない温度で、前記加工によって露出した前記多層磁性層の面上、および前記多層磁性層の上に形成されたレジスト層上に保護層を形成する工程と、
前記レジスト層が少なくとも除去されるように、前記レジスト層および前記保護層の一部を除去する工程と
を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−238900(P2011−238900A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43861(P2011−43861)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】