説明

薄膜形成装置、半導体装置の製造装置、及び薄膜形成方法

【課題】誘電体薄膜の組成比を容易に調整でき、その生産性を向上させた薄膜形成方法、薄膜形成装置、及び半導体装置の製造装置を提供するものである。
【解決手段】複合酸化物誘電体を主成分とするターゲット17をスパッタするとき、基板Sの表面をターゲット17に向けて配置し、接地電位に接続されて基板Sの周囲に位置する対向電極15の電極面15aを基板Sの法線方向に沿って昇降させる。そして、基板Sの法線方向における電極面15aの位置を、「目標組成比Rp」に対応する「目標電極位置」に変位させてターゲット17をスパッタする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成装置、半導体装置の製造装置、及び薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸ビスマス酸ストロンチウム(SBT:SrBi2Ta2O9 )やチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(ZrTi)O3 )などの強誘電体は、所定のレベルの電位が印加されるときに、構成原子の一部を電界の向きに移動させて分極状態を呈し、所定のレベルの電位を取り除いた後もこの分極状態を維持させる。SBTやPZTは、こうした分極状態に基づいて優れた誘電特性と圧電特性を示すため、不揮発性メモリ、アクチュエータ、光スイッチなどの各種のデバイスに広く用いられている。
【0003】
強誘電体においては、構成元素の陽イオン(Ti,Pb,Sr,Bi など)に欠損を生じる、あるいはこれに伴う酸素元素(O )の欠損を生じると、強誘電体の内部に空間電荷分極を形成してしまう。この空間電化分極は、強誘電体の分極に対して相反する電界を発現させて強誘電体が有するヒステリシスループを変形させ、強誘電体の誘電特性や圧電特性を劣化させてしまう。さらに、酸素元素の欠損は、強誘電体の結晶構造を変化させて、強誘電体のリーク電流を増大させてしまう。
【0004】
そこで、上記強誘電体を用いるデバイスの製造方法においては、従来から、構成元素の組成変動を回避させるための提案がなされている。特許文献1は、CVD法を用いて強誘電体を成膜するときに、特定の発火点を有する溶媒を成膜空間へ添加し、基板表面の過剰な酸素を燃焼し、CO2 などとして排気させる。これによれば、結晶中の酸素欠損と結晶成長中の過剰酸素による結晶性の低下とを解決させることができる。特許文献2は、強誘電体に対する上部電極の構成材料としてRu1- xOx (xは0.005以上かつ0.05以下
)を用いる。これによれば、強誘電体が酸素欠損構造を呈する場合、上部電極に含まれる酸素が強誘電体中へ供給されることから、強誘電体表面における欠陥を該酸素で補える。
【0005】
上記強誘電体の薄膜化技術としては、有機金属化合物を用いるMOCVD法(例えば、特許文献2)、有機金属化合物を基板上に塗布して熱分解するゾルゲル法、レーザーアブレーション法、マグネトロンスパッタ法(例えば、特許文献3)が知られている。マグネトロンスパッタ法は、MOCVD法やゾルゲル法などの他の成膜技術に比べて強誘電体中に含まれる不純物濃度を大幅に低減でき、また、強誘電体と電極との間の密着性を向上できる点において優れている。
【特許文献1】特開2004−273787号公報
【特許文献2】特開2003−332539号公報
【特許文献3】特開2002−38263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マグネトロンスパッタ法においては、ターゲットをスパッタして強誘電体層を形成するため、強誘電体の組成比がターゲット材料の組成比によって略一義的に規定されてしまい、強誘電体に含まれる各構成元素の濃度を選択的に調整させ難い。この結果、マグネトロンスパッタ法においては、強誘電体の組成比を変更させるたびに、ターゲットの交換や成膜条件の大幅な変更が必要になり、さらには膜厚均一性などの膜質劣化を余儀なく強いられて、生産管理を著しく煩雑にさせる問題があった。
【0007】
本願発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、誘電体薄膜の組成比を
容易に調整でき、その生産性を向上させた薄膜形成方法、薄膜形成装置、及び半導体装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
マグネトロンスパッタ法では、プラズマ状態の安定化を図る技術として、基板の周囲に対向電極を配置して該対向電極を接地電位に接続する技術が知られている(例えば、特許文献3)。本発明者らは、誘電体薄膜の製造方法を検討するなかで、誘電体薄膜の組成比が、基板の法線方向における対向電極の位置によって規定されることを見出した。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の薄膜形成装置は、基板の上に誘電体薄膜を形成する薄膜形成装置であって、真空槽と、前記真空槽に配置されて複合酸化物誘電体を主成分とするターゲットと、前記真空槽に配置されて前記ターゲットの側に基板を保持する基板保持部と、前記基板保持部の周囲に配置されて接地電位に接続される対向電極と、前記対向電極を前記基板の略法線方向に沿って昇降して前記対向電極の前記ターゲットの側の一面を変位させる変位機構と、前記一面が前記誘電体薄膜の組成比に対応する目標位置に配置するように前記変位機構を駆動制御する制御部とを要旨とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、制御部が変位機構を介して対向電極の一面を目標位置に変位させる。したがって、誘電体薄膜の組成比を所定の組成比にさせることができ、同一のターゲットによって組成比の異なる複数の誘電体薄膜を形成させることができる。この結果、ターゲットの交換や大幅な成膜条件の変更を伴うことなく、誘電体薄膜の組成比を容易に調整させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項2に記載の薄膜形成装置であって、前記誘電体薄膜の組成比を前記一面の前記法線方向の位置に関連付ける位置データと、前記誘電体薄膜の目標組成比に関するデータとを記憶する記憶部を備え、前記制御部は、前記位置データを用いて前記目標組成比に対応する前記一面の位置を前記目標位置として設定し、前記一面が前記目標位置に配置するように前記変位機構を駆動制御することを要旨とする。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、目標組成比に対応する目標位置を位置データに基づいて設定させることができる。したがって、より高い再現性の下で、誘電体薄膜の組成比を調整させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の薄膜形成装置であって、前記位置データと前記目標組成比とを前記記憶部に入力する入力部を備えたことを要旨とする。
請求項3に記載の発明によれば、入力部から入力する位置データと目標組成比に基づいて誘電体薄膜の組成比を調整させることができる。したがって、異なるターゲットを使用する場合には、位置データと目標組成比とを入力するだけで誘電体薄膜の組成比を調整させることができる。よって、誘電体薄膜の組成比を、より容易に調整させることができる。
【0014】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の半導体装置の製造装置は、電極層と強誘電体層を有するメモリ素子を備えた半導体装置を製造する半導体装置の製造装置であって、前記電極層を形成する第一薄膜形成部と、前記強誘電体層を形成する第二薄膜形成部とを備え、前記第二薄膜形成部は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の薄膜形成装置であることを要旨とする。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、メモリ素子が有する強誘電体層の組成比を容易に調整させることができ、かつ、その強誘電体層と電極層とを連続的に形成させることができる。この結果、強誘電体層の上に形成する電極層によって強誘電体層の劣化を抑制させるこ
とができ、強誘電体層を有する半導体装置の生産性を向上させることができる。
【0016】
上記目的を達成するために、請求項5に記載の薄膜形成方法は、複合酸化物誘電体を主成分とするターゲットをスパッタして誘電体薄膜を製造する薄膜形成方法であって、前記ターゲットに向けて基板の表面を配置し、接地電位に接続される対向電極を前記基板の周囲に配置して前記対向電極の前記ターゲットの側の一面を前記基板の法線方向に沿って昇降させ、前記誘電体薄膜の組成比に対応する目標位置まで前記一面を変位させて前記ターゲットをスパッタすることを要旨とする。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、対向電極の一面を変位させるだけで、誘電体薄膜の組成比を所定の組成比にさせることができ、同一のターゲットによって組成比の異なる複数の誘電体薄膜を形成させることができる。したがって、ターゲットの交換や大幅な成膜条件の変更を伴うことなく、誘電体薄膜の組成比を容易に調整させることができる。
【発明の効果】
【0018】
上記したように、本発明によれば、誘電体薄膜の組成比を容易に調整でき、その生産性を向上させた薄膜形成方法、薄膜形成装置、及び半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態について説明する。図1は、薄膜形成装置としての半導体装置の製造装置を模式的に示す平面図である。
(薄膜形成装置)
図1は、半導体装置の製造装置10を模式的に示す平面図である。図1において、製造装置10は、ロードロックチャンバFL(以下単に、LLチャンバFLという。)と、LLチャンバFLに連結する搬送チャンバFTと、搬送チャンバFTに連結する下層チャンバF1、誘電体チャンバF2、及び上層チャンバF3を有する。
【0020】
LLチャンバFLは、減圧可能な内部空間(以下単に、収容室FLaという。)を有し、複数の基板Sを搬出及び搬入可能にする。LLチャンバFLは、基板Sの成膜処理を開始するとき、収容室FLaを減圧して、収容する基板Sを搬送チャンバFTに搬入する。LLチャンバFLは、基板Sの照射処理を終了するとき、収容室FLaを大気開放して、収容する基板Sを製造装置10の外部へ搬出する。
【0021】
搬送チャンバFTは、減圧可能な内部空間(以下単に、搬送室FTaという。)を有し、LLチャンバFL、下層チャンバF1、誘電体チャンバF2、及び上層チャンバF3と解除可能に連通して共通する真空系を形成可能にする。搬送室FTaは、基板Sを搬送するための搬送ロボットRBを搭載し、基板Sの成膜処理を開始するとき、成膜処理前の基板SをLLチャンバFLから搬送チャンバFTへ搬入する。搬送ロボットRBは、基板Sの処理順序に関するデータに基づいて、搬入する基板Sを、下層チャンバF1、誘電体チャンバF2、上層チャンバF3の順に搬送する。搬送ロボットRBは、基板Sの成膜処理を終了するとき、成膜処理後の基板Sを搬送チャンバFTからLLチャンバFLへ搬出する。
【0022】
下層チャンバF1は、下部電極などの下層を形成するためのチャンバである。下層としては、バリア層及び電極層からなる積層構造、あるいは電極層のみからなる単層構造を用いることができる。バリア層としては、窒化タンタル(TaN )、酸化チタン(TiO2 )、
酸化ルテニウム(RuO2 )、窒化チタンアルミニウム(TiAlN )などを用いることができ
、電極層としては白金(Pt )、ルテニウム(Ru )、イリジウム(Ir )などを用いるこ
とができる。下層チャンバF1としては、スパッタリング法を用いる公知のスパッタチャンバを用いることができる。
【0023】
誘電体チャンバF2は、基板Sの上に強誘電体層を形成するためのチャンバである。強誘電体層としては、タンタル酸ストロンチウムビスマス(SrBi2TaO9: SBT)、チタン
酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3: PZT)、チタン酸ビスマス(Bi4Ti3O12: BTO)、タンタル酸ストロンチウムビスマスニオブ(SrBi2(Ta,Nb)2O9: SBTN)、チタン酸ビス
マスランタン((Bi,La)4Ti3O12: BLTO)などの複合酸化物誘電体を用いることができる。誘電体チャンバF2としては、スパッタリング法を用いる公知のスパッタチャンバを用いることができる。
【0024】
上層チャンバF3は、上部電極などの上層を形成するためのチャンバである。上層としては、上記下層と同じく、白金(Pt )、ルテニウム(Ru )、イリジウム(Ir )などを
用いることができる。上層チャンバF3としては、スパッタリング法を用いる公知のスパッタチャンバを用いることができる。
【0025】
次に、上記誘電体チャンバF2について以下に説明する。図2は、誘電体チャンバF2を模式的に示す図である。
図2において、誘電体チャンバF2は、真空槽(以下単に、チャンバ本体11という。)を有し、チャンバ本体11の内部空間(以下単に、成膜空間Faという。)に基板Sを搬入する。チャンバ本体11は、供給配管12を介して、スパッタガスGsのマスフローコントローラMFCと、酸化ガスGoxのマスフローコントローラMFCに連結されている。各マスフローコントローラMFCは、それぞれ対応するガス種の供給元に接続され、成膜空間Faに所定の流量でスパッタガスGs又は酸化ガスGoxを導入する。スパッタガスGsとしては、例えばアルゴン(Ar )、ヘリウム(He )、キセノン(Xe )などの
希ガスを用いることができる。酸化ガスGoxとしては、例えば酸素(O2 )、亜酸化窒
素(N2O )などを用いることができる。
【0026】
チャンバ本体11は、排気配管13を介して排気ユニットPUに連結されている。排気ユニットPUは、成膜空間FaのスパッタガスGs又は酸化ガスGoxを排気して、成膜空間Faの圧力を所定の値に調整する。排気ユニットPUとしては、例えばターボ分子ポンプとドライポンプからなる排気系を用いることができる。
【0027】
チャンバ本体11は、成膜空間Faの底部に基板保持部14と対向電極15とを有している。基板保持部14は、成膜空間Faに搬入される基板Sを載置して成膜空間Faの所定の位置に基板Sを位置決め固定する。
【0028】
対向電極15は、アルミニウムなどの導電性材料からなる筒状を呈して、基板保持部14の外周全体を囲うように配置されている。対向電極15は、その上面(以下単に、電極面15aという。)から下方に向かう複数の孔を有し、チャンバ本体11を介して接地電位に接続されている。対向電極15は、電極面15aに強誘電体層が堆積される場合であっても、これら複数の孔の内部を介し、成膜空間Faで接地電位を維持できる。こうした対向電極15としては、例えば特許文献3に開示される技術を用いることができる。
【0029】
チャンバ本体11の下側には、変位機構を構成するリフトモータLMが搭載されている。対向電極15は、リフトモータLMの出力軸に駆動連結されて、リフトモータLMが正転あるいは逆転するとき、リフトモータLMの駆動力を受けて基板Sの法線方向、すなわち、鉛直方向に沿って昇降する。
【0030】
ここで、基板Sの法線方向に沿う座標系において、基板Sの表面の位置を基準位置(0(mm))とし、電極面15aの位置を「実電極位置Ha」という。「実電極位置Ha」は、基板Sの表面からターゲット17に向かう方向に正の値が規定され、基板Sの表面か
らターゲット17の反対側に向かう方向に負の値が規定される。
【0031】
対向電極15の上方には、対向電極15の上方外側を囲う筒状の防着板16が配設されている。防着板16は、成膜空間Faにて成膜処理が実行されるとき、チャンバ内壁に対するスパッタ粒子の付着を抑制する。基板保持部14の直上には、誘電体層を形成するためのターゲット17が配設されている。ターゲット17としては、例えばSBT、PZT、BTO、BLTOなどの複合酸化物を主成分として用いることができる。
【0032】
ターゲット17の上側には、バッキングプレート18と磁気回路19とが配設されている。バッキングプレート18は、ターゲット17を基板Sの直上に配置させて、ターゲット17と基板Sとの間を所定の距離に規定する。バッキングプレート18は、高周波電源Gに接続されて、高周波電源Gが所定の高周波電力を出力するとき、カソードとして機能して、成膜空間Faにプラズマを生成する。磁気回路19は、ターゲット17の内表面に沿ってマグネトロン磁場を形成して、高周波電源Gが所定の高周波電力を出力するとき、成膜空間Faのプラズマ密度を増大させる。
【0033】
誘電体チャンバF2は、基板Sが成膜空間Faへ搬入されるとき、マスフローコントローラMFCと排気ユニットPUとを駆動して、スパッタガスGsと酸化ガスGoxとからなる雰囲気を成膜空間Faに形成する。そして、誘電体チャンバF2は、所望する組成比の強誘電体層を形成するとき、リフトモータLMを駆動して、対向電極15の電極面15aを所望の組成比に対応した所定の「実電極位置Ha」まで変位させ、高周波電源Gを駆動してターゲット17をスパッタリングする。
【0034】
図3は、上記「実電極位置Ha」と強誘電体層の組成比との関係を示す図であって、ターゲット17の構成材料としてSBTを用いるものである。図3の縦軸は強誘電体層の組成比であって、タンタル(Ta )に対するビスマス(Bi )の組成比(組成比A:Bi/Ta )と、タンタル(Ta )に対するストロンチウム(Sr )の組成比(組成比B:Sr/Ta )とを示す。また、図3の横軸は「実電極位置Ha」を示す。
【0035】
組成比A(Bi/Ta )は、「実電極位置Ha」が0(mm)から−150(mm)へ変位するとき、「実電極位置Ha」の低下に伴い、その値を約1.1から約0.7へ低下させる。一方、組成比B(Sr/Ta )は、「実電極位置Ha」が0(mm)から−150(mm)へ変位するとき、「実電極位置Ha」の低下に関わらず、その値を略0.5で維持する。
【0036】
すなわち、誘電体チャンバF2においては、「実電極位置Ha」を0(mm)〜−150(mm)の範囲で変更することによって、ビスマス(Bi )の組成比のみを選択的に変
更させることができる。
【0037】
次に、上記製造装置10の電気的構成について以下に説明する。図4は、製造装置10の電気的構成を示す電気ブロック回路図である。
図4において、制御装置20は、製造装置10に各種の処理動作を実行させるものである。制御装置20は、各種の信号を入力するための入力I/F20Aと、各種の演算処理を実行するためのCPUなどからなる演算部20Bとを有する。また、制御装置20は、各種のデータや各種の制御プログラムを格納するための記憶部20Cと、各種の信号を出力するための出力I/F20Dとを有する。
【0038】
記憶部20Cには、強誘電体層の組成比と「実電極位置Ha」とを関連付けるデータ(以下単に、位置データIaという。)が格納されている。位置データIaは、予め試験等に基づいてターゲット17の種別ごとに規定される情報であり、強誘電体層の組成比に応
じて「実電極位置Ha」を一義的に規定するための情報である。位置データIaとしては、例えば、図3に示す組成比Aの直線式に関する情報やルックアップテーブルを用いることができる。
【0039】
制御装置20には、入力I/F20Aを介して、入力部21A、LLチャンバ検出部22A、搬送チャンバ検出部23A、下層チャンバ検出部24A、上層チャンバ検出部25A、及び誘電体チャンバ検出部26Aが接続されている。また、制御装置20には、出力I/F20Dを介して、出力部21B、LLチャンバ駆動部22B、搬送チャンバ駆動部23B、下層チャンバ駆動部24B、上層チャンバ駆動部25B、及び誘電体チャンバ駆動部26Bが接続されている。
【0040】
入力部21Aは、起動スイッチや停止スイッチなどの各種の操作スイッチを有し、製造装置10が各種の処理動作に利用するためのデータを制御装置20に入力する。例えば、入力部21Aは、各層を成膜するための処理順序に関するデータや下部電極及び上部電極の成膜条件に関するデータを制御装置20へ入力する。また、入力部21Aは、強誘電体層の成膜条件、すなわち、スパッタリングするときの目標圧力、目標時間、ターゲット17に印加する目標電力、及び所望する強誘電体層の組成比(以下単に、「目標組成比Rp」という。)に関するデータを制御装置20へ入力する。
【0041】
制御装置20は、入力部21Aから入力される各種データを受信して記憶部20Cに一旦格納し、各処理動作を実行するとき、それぞれ対応するデータを読み出して、対応する処理動作を実行させる。例えば、制御装置20は、「目標組成比Rp」を記憶部20Cに一旦格納し、強誘電体層の成膜処理を実行するときに、「目標組成比Rp」を読み出し、位置データIaを参照して、「目標組成比Rp」に対応する「実電極位置Ha」(以下単に、目標位置としての「目標電極位置」という。)を演算する。そして、制御装置20は、リフトモータLMを駆動制御して対向電極15を移動させ、対向電極15の電極面15aを「目標電極位置」へ変位させる。
【0042】
LLチャンバ検出部22Aは、LLチャンバFLの状態、例えば、収容室FLaの実圧力、収容する基板Sの枚数などを検出し、その検出結果を制御装置20に入力する。搬送チャンバ検出部23Aは、搬送チャンバFTの状態、例えば、搬送ロボットRBのアーム位置などを検出し、その検出結果を制御装置20へ入力する。下層チャンバ検出部24A及び上層チャンバ検出部25Aは、それぞれ下層チャンバF1及び上層チャンバF3の状態を検出し、その検出結果を制御装置20へ入力する。
【0043】
誘電体チャンバ検出部26Aは、誘電体チャンバF2の状態を検出し、その検出結果を制御装置20へ入力する。誘電体チャンバ検出部26Aは、例えば成膜空間Faの実圧力、スパッタガスGs、及び酸化ガスGoxの実流量、成膜時間、ターゲットに供給する実電力などを検出し、これらのパラメータに関する検出信号を制御装置20へ入力する。また、誘電体チャンバ検出部26Aは、リフトモータLMの回転方向と回転数とを検出するリフトエンコーダLEの検出信号を受け、「実電極位置Ha」に対応する信号を制御装置20へ入力する。
【0044】
出力部21Bは、液晶ディスプレイなどの各種表示装置を有して製造装置10の処理状況に関する各種のデータを出力する。例えば、出力部21Bは、誘電体チャンバ検出部26Aからの信号を受けて「実電極位置Ha」を表示する。
【0045】
制御装置20は、LLチャンバ検出部22Aから入力される検出信号を利用して、LLチャンバ駆動部22Bに対応する駆動制御信号をLLチャンバ駆動部22Bへ出力する。LLチャンバ駆動部22Bは、制御装置20からの駆動制御信号に応答し、収容室FLa
を減圧あるいは大気開放して基板Sの搬入あるいは搬出を可能にする。
【0046】
制御装置20は、搬送チャンバ検出部23Aから入力される検出信号を利用し、入力部21Aから入力される処理順序に関するデータに基づいて、搬送チャンバ検出部23Aに対応する駆動制御信号を搬送チャンバ駆動部23Bへ出力する。搬送チャンバ駆動部23Bは、制御装置20からの駆動制御信号に応答し、処理順序に従って、基板Sを、LLチャンバFL、搬送チャンバFT、下層チャンバF1、誘電体チャンバF2、上層チャンバF3の順に搬送する。
【0047】
制御装置20は、下層チャンバ検出部24Aから入力される検出信号を利用し、入力部21Aから入力される下層の成膜条件に基づいて、下層チャンバ駆動部24Bに対応する駆動制御信号を下層チャンバ駆動部24Bへ出力する。下層チャンバ駆動部24Bは、制御装置20からの駆動制御信号に応答して、入力部21Aから入力される下層の成膜条件の下で下部電極などの成膜処理を実行する。
【0048】
制御装置20は、上層チャンバ検出部25Aから入力される検出信号を利用し、入力部21Aから入力される上層の成膜条件に基づいて、上層チャンバ駆動部25Bに対応する駆動制御信号を上層チャンバ駆動部25Bへ出力する。上層チャンバ駆動部25Bは、制御装置20からの駆動制御信号に応答して、入力部21Aから入力される上層の成膜条件の下で上部電極などの成膜処理を実行する。
【0049】
制御装置20は、誘電体チャンバ検出部26Aから入力される検出信号を利用し、入力部21Aから入力される強誘電体層の成膜条件に基づいて、誘電体チャンバ駆動部26Bに対応する駆動制御信号を誘電体チャンバ駆動部26Bへ入力する。誘電体チャンバ駆動部26Bは、制御装置20からの駆動制御信号に応答して入力部21Aから入力される強誘電体層の成膜条件の下で強誘電体層の成膜処理を実行する。
【0050】
すなわち、制御装置20は、入力部21Aからの「目標組成比Rp」及び記憶部20Cに格納する位置データIaに基づいて「目標電極位置」を演算する。そして、制御装置20は、誘電体チャンバ検出部26Aからの「実電極位置Ha」に関するデータを受け、「実電極位置Ha」を「目標電極位置」にするための駆動制御信号を生成し、該駆動制御信号を誘電体チャンバ駆動部26Bへ入力する。誘電体チャンバ駆動部26Bは、制御装置20からの駆動制御信号に応答してリフトモータLMを駆動制御し、対向電極15の電極面15aを「目標電極位置」へ変位させて強誘電体層の成膜処理を実行する。
【0051】
これによって、誘電体チャンバF2は、所望する組成比の強誘電体層を形成させることができる。
(薄膜形成方法)
次に、上記製造装置10を用いた薄膜形成方法について以下に説明する。
【0052】
まず、制御装置20は、LLチャンバFLに基板Sがセットされて、入力部21Aから各種のデータを受信する。次いで、制御装置20は、LLチャンバFLの状態と搬送チャンバFTの状態を検出し、処理順序に従って基板Sの搬送処理を開始させる。
【0053】
制御装置20は、LLチャンバFLから搬送チャンバFTに搬入される基板Sを下層チャンバF1へ搬送させて、下層の成膜条件に基づいて成膜処理を実行させる。制御装置20は、下層チャンバF1の状態を検出して、下層の成膜処理が終了したか否かを判断し、下層の成膜処理が終了すると、下層チャンバF1の基板Sを誘電体チャンバF2へ搬送させて、強誘電体層の成膜条件に基づく成膜処理を実行させる。
【0054】
すなわち、制御装置20は、強誘電体層の成膜条件に関するデータを読み出して「目標組成比Rp」に対応する「目標電極位置」を演算し、「実電極位置Ha」を「目標電極位置」にするための駆動制御信号を生成してリフトモータLMを駆動制御する。そして、制御装置20は、対向電極15の電極面15aを「目標電極位置」へ変位させて基板Sの上に強誘電体層を成膜させる。
【0055】
制御装置20は、誘電体チャンバF2の状態を検出して強誘電体層の成膜処理が終了したか否かを判断し、強誘電体層の成膜処理が終了すると、誘電体チャンバF2の基板Sを上層チャンバF3に搬送させて、上層の成膜条件に基づく成膜処理を実行させる。制御装置20は、上層チャンバF3の状態を検出して、上層の成膜処理が終了したか否かを判断し、上層の成膜処理が終了したと判断すると、上層チャンバF3の基板SをLLチャンバFLへ搬送させる。
【0056】
以後同様に、制御装置20は、全ての基板Sの各々に対して、下層、強誘電体層、及び上層の順に成膜処理を実行させて、基板Sの上に所望する薄膜を形成させる。そして、制御装置20は、LLチャンバFLの状態を検出し、全ての基板Sに所望の薄膜を形成させると、LLチャンバFLを大気開放させて全ての基板Sを外部に搬出させる。
【0057】
(半導体装置)
次に、上記半導体装置の製造装置10を用いて製造する半導体装置について以下に説明する。図5は、半導体装置30を示す要部断面図である。
【0058】
図5において、半導体装置30の基板Sには、薄膜トランジスタTrが形成されている。薄膜トランジスタTrの拡散層LDは、コンタクトプラグPC及び配線MLを介して、メモリ素子としての強誘電体キャパシタ31に接続されている。
【0059】
強誘電体キャパシタ31は、下部電極層31aと、強誘電体層31bと、上部電極層31cとからなる容量素子であって、これら下部電極層31a、強誘電体層31b、及び上部電極層31cは、それぞれ上記半導体装置の製造装置10を用いて製造されている。すなわち、下部電極層31a及び上部電極層31cは、それぞれ下層チャンバF1及び上層チャンバF3を用いる成膜処理によって形成される。また、強誘電体層31bは、誘電体チャンバF2を用いる成膜処理によって形成されて、対向電極15の電極面15aを変位させることによって所望の組成比に制御されている。
【0060】
これによって、強誘電体層31bの組成比を容易に調整でき、ひいては、半導体装置30の生産性を向上させることができる。
上記実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0061】
(1)上記実施形態においては、複合酸化物誘電体を主成分とするターゲット17をスパッタするとき、基板Sの表面をターゲット17に向けて配置し、基板Sの周囲で接地電位に接続される対向電極15の電極面15aを、基板Sの法線方向に沿って昇降させる。そして、基板Sの法線方向における電極面15aの位置を、「目標組成比Rp」に対応する「目標電極位置」へ変位させ、ターゲット17をスパッタする。
【0062】
したがって、対向電極15の電極面15aを変位させるだけで、強誘電体層の組成比を「目標組成比Rp」に対応させることができ、組成比の異なる複数の強誘電体層を、同一のターゲット17を用いて形成させることができる。よって、ターゲット17の交換や大幅な成膜条件の変更を伴うことなく、誘電体薄膜の組成比を容易に調整させることができる。
【0063】
(2)上記実施形態においては、制御装置20が、目標組成比Rpと位置データIaに基づいて「目標電極位置」を演算し、リフトエンコーダLEの検出信号に基づいて、対向電極15の電極面15aを「目標電極位置」にまで変位させる。したがって、「目標組成比Rp」に対応する「目標電極位置」を、より確実に設定させることができ、より高い再現性の下で、強誘電体層の組成比を調整させることができる。
【0064】
(3)上記実施形態において、半導体装置の製造装置10は、位置データIaと「目標組成比Rp」を入力する入力部21Aを有し、制御装置20は、入力部21Aが入力する位置データIaと「目標組成比Rp」に基づいて「目標電極位置」を演算する。したがって、異なるターゲット17を使用する場合には、位置データIaと「目標組成比Rp」とを入力する簡単な操作によって、強誘電体層の組成比を所望の値に調整できる。この結果、誘電体薄膜の組成比を、より容易に調整させることができる。
【0065】
尚、上記実施形態は、以下の態様で実施してもよい。
・上記実施形態においては、半導体装置の製造装置10が、下層チャンバF1と上層チャンバF3とを搭載する。これに限らず、例えば、半導体装置の製造装置10は、下層チャンバF1又は上層チャンバF3を搭載しない構成であっても良く、誘電体チャンバF2を搭載する構成であれば良い。
【0066】
・上記実施形態においては、入力部21Aが「目標組成比Rp」に関するデータを入力する。これに限らず、例えば、入力部21Aが「目標電極位置」に関するデータを入力し、制御装置20が入力部21Aからの「目標電極位置」に関するデータに応じて対向電極15を昇降させ、電極面15aを「目標電極位置」に変位させる構成であっても良い。
【0067】
・上記実施形態において、位置データIaは、強誘電体層の組成比を「実電極位置Ha」に関連付けるデータである。これに限らず、例えば、位置データIaは、基板Sの処理枚数を「実電極位置Ha」に関連付けるデータであっても良い。すなわち、制御装置20は、基板Sの処理枚数を計測し、処理枚数に応じた「目標電極位置」を演算する構成であっても良い。これによれば、強誘電体層の組成比が処理枚数に応じて変動する場合であっても、処理枚数に応じた「実電極位置Ha」で成膜処理を実行でき、組成比の変動を、電極面15aの変位によって補償できる。
【0068】
・上記実施形態においては、誘電体チャンバF2を交流マグネトロンスパッタ方式に具体化した。これに限らず、例えば誘電体チャンバF2を直流マグネトロンスパッタ方式、もしくは直流あるいは交流スパッタ方式に具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】半導体装置の製造装置を模式的に示す平面図。
【図2】誘電体チャンバを示す概略側断面図。
【図3】実電極位置と組成比との間の関係を示す図。
【図4】半導体装置の製造装置の電気的構成を示す電気ブロック回路図。
【図5】半導体装置を示す要部側断面図。
【符号の説明】
【0070】
A,B…組成比、F1…第一薄膜形成部を構成する下層チャンバ、F2…第二薄膜形成部を構成する誘電体チャンバ、F3…第一薄膜形成部を構成する上層チャンバ、LM…変位機構を構成するリフトモータ、Ia…位置データ、Rp…目標組成比、S…基板、11…真空槽としてのチャンバ本体、14…基板保持部、15…対向電極、17…ターゲット、20…制御部を構成する制御装置、21A…入力部、30…半導体装置、31…メモリ素子としての強誘電体キャパシタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に誘電体薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
真空槽と、
前記真空槽に配置されて複合酸化物誘電体を主成分とするターゲットと、
前記真空槽に配置されて前記ターゲットの側に基板を保持する基板保持部と、
前記基板保持部の周囲に配置されて接地電位に接続される対向電極と、
前記対向電極を前記基板の略法線方向に沿って昇降して前記対向電極の前記ターゲットの側の一面を変位させる変位機構と、
前記一面が前記誘電体薄膜の組成比に対応する目標位置に配置するように前記変位機構を駆動制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜形成装置であって、
前記誘電体薄膜の組成比と前記法線方向における前記一面の位置とを関連付ける位置データと、前記誘電体薄膜の目標組成比に関するデータとを記憶する記憶部を備え、
前記制御部は、
前記位置データを用いて前記目標組成比に対応する前記一面の位置を前記目標位置として設定し、前記一面が前記目標位置に配置するように前記変位機構を駆動制御すること、を特徴とする薄膜形成装置。
【請求項3】
請求項2に記載の薄膜形成装置であって、
前記位置データと前記目標組成比とを前記記憶部に入力する入力部を備えたことを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項4】
電極層と強誘電体層を有するメモリ素子を備えた半導体装置を製造する半導体装置の製造装置であって、
前記電極層を形成する第一薄膜形成部と、
前記強誘電体層を形成する第二薄膜形成部と、を備え、
前記第二薄膜形成部は、
請求項1〜3のいずれか1つに記載の薄膜形成装置であること、
を特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項5】
複合酸化物誘電体を主成分とするターゲットをスパッタして誘電体薄膜を製造する薄膜形成方法であって、
前記ターゲットに向けて基板の表面を配置し、接地電位に接続される対向電極を前記基板の周囲に配置して前記対向電極の前記ターゲットの側の一面を前記基板の法線方向に沿って昇降させ、前記誘電体薄膜の組成比に対応する目標位置まで前記一面を変位させて前記ターゲットをスパッタすること、
を特徴とする薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−130340(P2009−130340A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307328(P2007−307328)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】