説明

走行装置

【課題】懸架装置にストローク速度検出手段を別個に設けることなく、ばね下の振動を抑制すること。
【解決手段】 走行装置100は、左前側電動機10Lで左側前輪2Lを、右前側電動機10Rで右側前輪2Rを、左後側電動機11Lで左側後輪3Lを、右後側電動機11Rで右側後輪3Rを駆動する。そして、左前側電動機用レゾルバ40L、右前側電動機用レゾルバ40R、左後側電動機用レゾルバ41L、右後側電動機用レゾルバ41Rによって検出した左側前輪2L、右側前輪2R等の車輪回転速度変動に基づき、左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rの出力が制御される。また、車輪回転速度変動が誤って認識されるおそれがある場合、車輪回転速度変動に基づく左前側電動機10L、右前側電動機10R等の出力制御は停止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばね下の振動を抑制できる走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車やトラック等の車両においては、懸架装置を介して車輪を車体に取り付けて、路面から車輪を介して入力される衝撃を、懸架装置が備えるばねによって吸収し、緩和する。車輪を構成するタイヤやホイールは、懸架装置のばね下に取り付けられる構造物であり、ばね下の質量増加にともなって車輪の接地性能が悪化することは一般に知られている。特許文献1には、ストローク検出手段(センサ)を用い、懸架装置のストローク速度を演算して、制御懸架装置のストローク速度が閾値以下の場合には、前記ストローク速度に応じた駆動トルクを車輪に付与する懸架装置が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−119548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている懸架装置は、懸架装置のストローク速度を検出するためのストローク速度検出手段が別個に必要となる。その結果、懸架装置自体の質量増加、及びコスト増加を招く。これを回避するため、懸架装置に設けるストローク速度検出手段が検出する懸架装置のストローク速度とは異なる情報を用いて、車輪に付与する駆動トルクを制御することにより、懸架装置にストローク速度検出手段を設けることなくばね下の振動を抑制する手法が考えられる。この場合、誤った情報に基づいて車輪に付与する駆動トルクを制御すると、却ってばね下の振動を増加させるおそれがある。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、懸架装置にストローク速度検出手段を別個に設けることなく、ばね下の振動を抑制するとともに、ばね下の振動を増加させるおそれを低減できる走行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る走行装置は、懸架装置を介して車両に支持される車輪の回転速度を検出する車輪回転速度検出手段と、前記車輪の回転速度の変動に基づき、前記懸架装置のばね下の上下振動を抑制する振動抑制手段と、を含み、エイリアシングにより前記車輪の回転速度の変動として誤って認識されるおそれのある振動の周波数が、前記振動抑制手段によって抑制する前記上下振動の周波数の帯域に存在する場合には、前記振動抑制手段による上下振動の抑制を停止することを特徴とする。
【0007】
この走行装置は、懸架装置を介して車両に支持される車輪の回転速度の変動に基づき、懸架装置のばね下の上下振動を抑制する。また、エイリアシングにより車輪の回転速度の変動として誤って認識されるおそれのある振動の周波数が、振動抑制手段によって抑制するばね下の振動の周波数帯域に存在する場合、車輪の回転速度の変動が誤って認識されるおそれがあることから、ばね下の振動を抑制する制御を停止する。これによって、懸架装置にストローク速度検出手段を別個に設けることなく、ばね下の振動を抑制できるとともに、ばね下の振動を増加させるおそれを低減できる。
【0008】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪の回転速度の変動として誤って認識されるおそれのある振動の周波数は、前記上下振動を抑制する制御を行う際の演算を実行する振動抑制用制御装置が、前記制御に必要な情報を取得するときの周波数に基づいて設定されることが望ましい。
【0009】
本発明の好ましい態様としては、懸架装置を介して車両に支持される車輪の回転速度を検出する車輪回転速度検出手段と、前記車輪の回転速度の変動に基づき、前記懸架装置のばね下の上下振動を抑制する振動抑制手段と、を含んで構成されることが望ましい。
【0010】
本発明の好ましい態様としては、前記振動抑制手段は、前記車輪の回転速度の変動を抑制する駆動力を前記車輪に付与することが望ましい。
【0011】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪が回転する際の運動方程式により規定される前記車輪の回転速度の変動と、前記車輪に作用するトルクとの関係から、前記車輪の回転速度の変動を抑制する駆動力を決定することが望ましい。
【0012】
本発明の好ましい態様としては、前記振動抑制手段は、懸架装置に取り付けられて前記車輪の上下振動を減衰させる減衰力発生手段を備え、前記車輪の回転速度の変動に基づいて前記減衰力発生手段の減衰力を変更することが望ましい。
【0013】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪の回転速度の変動は、前記ばね下の共振周波数を中心とした所定の周波数帯域における前記車輪の回転速度の変動を抽出したものであることが望ましい。
【0014】
本発明の好ましい態様としては、前記所定の周波数帯域における前記車輪の回転速度の変動を、フィルタ手段により抽出することが望ましい。
【0015】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪の回転速度の変動は、前記車輪の回転速度と、前記車両の車体速度から求めた前記車輪の回転速度との偏差であることが望ましい。
【0016】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪の回転速度の変動は、現在における前記車輪の回転速度と、現在以前の所定期間内において検出した前記車輪の回転速度の平均値との偏差であることが望ましい。
【0017】
本発明の好ましい態様としては、前記車両の直進時においては、前記車輪の回転速度の変動を、前記車輪の回転速度と、前記車両の車体速度から求めた前記車輪の回転速度との偏差とし、前記車両の旋回中においては、前記車輪の回転速度の変動を、現在における前記車輪の回転速度と、現在以前の所定期間内において検出した前記車輪の回転速度の平均値との偏差とすることが望ましい。
【0018】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪の回転速度の変動は、前記ばね下の共振周波数を中心とした所定の周波数帯域における前記車輪の回転速度の変動と、前記車輪の回転速度と、前記車両の車体速度から求めた前記車輪の回転速度との偏差と、現在における前記車輪の回転速度と、現在以前の所定期間内において検出した前記車輪の回転速度の平均値との偏差とに、それぞれ所定の重み付けをしてから加算したものであることが望ましい。
【0019】
本発明の好ましい態様としては、前記所定の重み付けは、前記車両の車体速度、及び前記車両の旋回に関するパラメータに基づいて決定されることが望ましい。
【0020】
本発明の好ましい態様としては、前記車両の旋回に関するパラメータは、少なくとも前記車両の操舵角度及び前記車両のヨーレートであることが望ましい。
【0021】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪のロックを防止する制御又は前記車輪の駆動力制御のうち少なくとも一方を実行している場合には、前記振動抑制手段によるばね下の上下振動の抑制を停止することが望ましい。
【0022】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪の回転速度の変動を抑制する駆動力を前記車輪に付与する前後において、前記車輪に付与する最終的な駆動トルクが反転する場合には、前記車輪に付与する最終的な駆動力を修正することが望ましい。
【0023】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪に付与する最終的な駆動トルクが反転する場合には、前記車輪に付与する最終的な駆動力を0にすることが望ましい。
【0024】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪に付与する最終的な駆動トルクが反転する前後における所定のトルクの範囲内では、前記車輪に付与する最終的な駆動トルクの変化率を前記所定のトルクの範囲外における変化率よりも小さくすることが望ましい。
【0025】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪を駆動するために要求される駆動トルクが所定の閾値よりも小さい場合には、前記車輪に付与する最終的な駆動トルクを0にすることが望ましい。
【0026】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪の回転速度の変動が所定の条件を満たした場合に、前記振動抑制手段が作動することが望ましい。
【0027】
本発明の好ましい態様としては、前記車輪の回転速度の変動が、所定の回数連続して予め定めた閾値を超えた場合、又は前記車輪の回転速度の変動の絶対値を積算した値が、予め定めた所定の閾値を超えた場合には、前記振動抑制手段が作動することが望ましい。
【発明の効果】
【0028】
この発明に係る走行装置は、懸架装置にストローク速度検出手段を別個に設けることなく、ばね下の振動を抑制するとともに、ばね下の振動を増加させるおそれを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0030】
以下においては、動力発生手段に電動機を用いる、いわゆる電気自動車に本発明を適用した場合について説明するが、本発明の適用対象はこれに限られるものではなく、車輪の回転速度の変動に基づいて、当該車輪の上下振動を抑制する振動抑制手段を備えるものであれば本発明を適用できる。動力発生手段は電動機に限られるものではなく、内燃機関でもよく、内燃機関と電動機とを組み合わせた、いわゆるハイブリッドの動力発生手段を用いてもよい。また、本発明においては、車両が備える車輪の個数は4個に限定されるものではなく、単輪に対するばね下振動を抑制する場合にも本発明は適用できる。以下において、必要に応じて車輪の回転速度を車輪回転速度といい、車輪の回転速度の変動を車輪回転速度変動という。なお、車輪の回転速度は、角速度ω及び周速ω×r(車輪の回転半径)の両方を含む。
【0031】
本発明は、ばね下の共振点と、車輪回転速度変動の周波数分布のピークとは一致することから、ばね下が振動することで車輪の接地荷重が変動し、これによって荷重方向における車輪の半径が変化する結果、車輪回転速度変動が発生するとの予測から、車輪回転速度変動に基づき、ばね下の振動を抑制するようにするものである。このとき、ばね下の振動を抑制する際に車輪回転速度変動の情報が必要になるが、車輪回転速度変動の情報を取得する際のサンプリング周波数によっては、いわゆるエイリアシング現象が発生し、車輪回転速度変動の情報が誤って認識されるおそれがある。
【0032】
ここで、エイリアシング現象とは、ある信号をサンプリングした場合、サンプリング情報から元の信号が正しく再現できなくなる現象をいう。そして、本発明においては、エイリアシング現象により、車輪回転速度変動の信号と、車輪回転速度変動以外の信号とが区別できなくなることにより、車輪回転速度変動の情報が誤って認識されるおそれがあることから、本発明では、車輪回転速度変動の情報が誤って認識されるおそれがある場合、車輪回転速度変動に基づき、ばね下の振動を抑制する制御を停止する。
【0033】
図1は、本実施形態に係る走行装置を備える車両の構成を示す概略図である。本実施形態は、懸架装置を介して車両に支持される車輪の回転速度の変動に基づき、懸架装置のばね下の上下振動を抑制するとともに、いわゆるエイリアシングによって、車輪の回転速度の変動を表す周波数を誤認するおそれがある場合には、振動を抑制する制御を停止する点に特徴がある。
【0034】
図1に示す車両1は、電動機のみを動力発生手段とする走行装置100を備える。走行装置100は、動力発生手段として、左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rを備えている。そして、左前側電動機10Lは左側前輪2Lを、右前側電動機10Rは右側前輪2Rを、左後側電動機11Lは左側後輪3Lを、右後側電動機11Rは右側後輪3Rを駆動する。このように、この走行装置100は、すべての車輪が駆動輪となる全輪駆動形式となっている。また、左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rは、左側前輪2L、右側前輪2R、左側後輪3L、右側後輪3Rのホイール内に配置される、いわゆるインホイールタイプの構成となっている。
【0035】
以下の説明において、4台の電動機を区別しない場合には、単に電動機Mといい、4輪を区別しない場合には、単に車輪Wという。また、4輪のうち車両1の前後に着目するときには前輪2、後輪3といい、4台の電動機のうち、車両1の前後に着目するときには、前側電動機10、後側電動機11という(以下同様)。ここで、左右の区別は、車両1(あるいは走行装置100)の前進する方向(図1の矢印X方向)を基準とする。すなわち、「左」とは、車両1(あるいは走行装置100)の前進する方向に向かって左側をいい、「右」とは、車両1(あるいは走行装置100)の前進する方向に向かって右側をいう。
【0036】
本実施形態において、電動機Mと車輪Wとは直結してある。すなわち、電動機Mのロータは、電動機Mの出力軸を介して車輪Wと連結されている。また、本実施形態において、左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rは、ECU(Engine Control Unit)50によってそれぞれ独立に制御される。これによって、左側前輪2L、右側前輪2R、左側後輪3L、右側後輪3Rそれぞれの駆動力が独立して制御される。また、左側前輪2Lの駆動力と、右側前輪2Rの駆動力と、左側後輪3Lの駆動力と、右側後輪3Rの駆動力との配分比は、必要に応じてECU50によって変更される。これによって、旋回時において内外輪回転数差を設けたり、トラクションコントロールを実行したりすることができる。
【0037】
なお、電動機Mと車輪Wとの間に減速機構を設け、電動機Mの回転数を減速して左右の車輪Wに伝達してもよい。一般に、電動機は小型化するとトルクが低下するが、減速機構を設けることによって電動機のトルクを増加させることができる。その結果、走行装置100が搭載する電動機Mを小型化することができる。
【0038】
左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rには、それぞれ左前側電動機用レゾルバ40L、右前側電動機用レゾルバ40R、左後側電動機用レゾルバ41L、右後側電動機用レゾルバ41Rによって回転角度や回転速度が検出される。左前側電動機用レゾルバ40L、右前側電動機用レゾルバ40R、左後側電動機用レゾルバ41L、右後側電動機用レゾルバ41Rの出力は、振動抑制手段用駆動制御装置である電動機用ECU8に取り込まれて、左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rの制御に用いられる。ここで、4輪を区別しない場合には、単にレゾルバQという。
【0039】
左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rは、電動機制御回路6に接続されている。電動機制御回路6には、図1に示す車両1が搭載する、例えばニッケル−水素電池や鉛蓄電池等の車載電源7が接続されており、必要に応じて、車載電源7から左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rを駆動するための電力が供給される。電動機制御回路6は、W、V、Uの三相電流を発生させるための3つのインバータ回路より構成されている。インバータ回路は、ECU50からの指令に基づいて電動機用ECU8が制御する。これによって、左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rが駆動制御される。
【0040】
本実施形態においては、アクセル開度センサ42によって検出されるアクセル5の開度によって、左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rの出力が制御され、その結果、走行装置100の総駆動力F_allが制御される。なお、本実施形態においては、一組のインバータ回路によって1台の電動機が制御される。走行装置100は4台の電動機、すなわち、左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rを備えるため、これらを制御するために、電動機制御回路6には4組のインバータ回路が備えられる。
【0041】
左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rが走行装置100の動力発生手段として用いられる場合、車載電源7の電力が電動機制御回路6を介して供給される。また、例えば車両1の減速時には、左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rが発電機として機能して回生発電を行い、これによって回収したエネルギーを車載電源7に蓄える。これは、ブレーキ信号やアクセルオフ等の信号に基づいて、ECU50が電動機制御回路6を制御することにより実現される。
【0042】
ECU50は、本実施形態に係る走行装置100の駆動力を制御したり、制動時には、電動機Mにより電力を回生したりする。また、後述するように、ECU50には振動抑制用制御装置である駆動制御装置30が備えられており、本実施形態に係る制振制御を実行する。なお、本実施形態において、駆動制御装置30は、ECU50の一機能として実現される。車両1が備える通信回線9には、レゾルバQ、アクセル開度センサ42、ヨーセンサ43、車速センサ44、操舵角センサ45等が接続されている。そして、ECU50は、通信回線9を介して、走行装置100の制御に必要な情報をこれらのセンサ類から取得する。次に、本実施形態に係る制振制御の考え方を説明する。
【0043】
図2−1は、ばね下の振動の周波数分布を示す説明図である。図2−2は、車輪回転速度の変動の周波数分布を示す説明図である。図2−1は、車両1が備える懸架装置のばね下、すなわち、懸架装置が備えるばねよりも下(路面側)に配置される車輪Wや電動機M等といった構造物の、上下方向における振動を示している。図2−2は、図2−1と同じ車輪の速度の変動(車輪回転速度変動)を示している。なお、以下の説明において、ばね下の振動というときには、ばね下に配置される構造物の上下方向における振動をいう。ここで、上下方向とは、車両1が水平に配置されている場合において、重力の作用方向と平行な方向をいう。
【0044】
図2−1から、ばね下の振動における共振点は、f0(Hz)近傍(図2−1のCで示す領域)であることがわかる。一方、図2−2から、車輪回転速度変動の周波数分布のピーク(図2−2のDで示す領域)もf0(Hz)近傍にあることがわかる。すなわち、ばね下の共振点と車輪回転速度変動の周波数分布のピークは一致することがわかる。これは、ばね下が振動することで、車輪Wの接地荷重が変動し、これによって荷重方向における車輪Wの半径が変化する結果、車輪Wの回転速度の変動が発生するためと予想される。
【0045】
本実施形態に係る制振制御(すなわちばね下の振動を抑制する制御)は、動力発生手段(電動機M)を振動抑制手段として用い、前記動力発生手段によって、車輪Wの回転速度の変動を抑える駆動トルクを当該車輪Wに付与することによって、ばね下の振動を抑制する。すなわち、等価的には、仮想的に車輪Wの接地荷重変動を抑制するものである。
【0046】
このように、本実施形態に係る制振制御は、車輪Wの回転速度の変動に基づき、懸架装置のばね下の上下振動を抑制する。電動機用ECU8は、レゾルバQから取得される電動機Mの回転速度や電動機Mの駆動電流値Idに基づき、電動機制御回路6を介して電動機Mの回転数及びトルクをフィードバック制御する。また、ECU50が備える駆動制御装置30は、車輪Wの回転速度の変動に基づき、懸架装置のばね下の上下振動を抑制するために電動機Mへ付与する駆動トルクの指令値を演算し、電動機用ECU8に前記指令値を発信する。
【0047】
このとき、駆動制御装置30は、通信回線9を介して、レゾルバQから電動機用ECU8が取得した電動機Mの回転速度を取得し、この回転速度から車輪Wの回転速度の変動を求める。このように、本実施形態において、電動機Mを駆動制御する制御装置と、本実施形態に係る制振制御を実行する制御装置とは異なる。この場合、本実施形態に係る制振制御に必要な情報を取得する際における駆動制御装置30のサンプリング周波数(演算周波数に相当する)が、前記情報を取得する際における電動機用ECU8のサンプリング周波数(演算周波数に相当する)よりも小さい場合、次のような問題が発生する。
【0048】
図3は、エイリアシングを説明する概念図である。本実施形態に係る制振制御を実行するため、駆動制御装置30は、通信回線9を介して、レゾルバQから電動機用ECU8が取得した電動機Mの回転速度を取得する。このとき、駆動制御装置30は、電動機MのコギングやレゾルバQの極数、あるいは通信の遅れ等によって電動機Mに発生する回転速度変動を表す周波数のうち、駆動制御装置30のサンプリング周波数よりも高い周波数を、いわゆるエイリアシングにより、見かけ上、前記回転速度変動を表す周波数よりも低い周波数として認識してしまう。
【0049】
図3に示す実線は、振動を抑制したいばね下の振動の周波数に相当する車輪Wの回転速度変動の周波数(制振対象周波数fd)を示す。また、図3に示す破線は、電動機用ECU8から出力されるレゾルバQの出力であり、電動機MのコギングやレゾルバQの極数に起因する電動機Mの回転速度変動を表す周波数(電動機周波数fm)を示す。また、Δts1は駆動制御装置30のサンプリング周波数であり、駆動制御装置30の演算周波数に相当し、Δts2は電動機用ECU8のサンプリング周波数であり、電動機用ECU8の演算周波数に相当する。
【0050】
駆動制御装置30の演算周期Δts1は、制振対象周波数fdの1周期(1/fd)よりも小さいため、制振対象周波数fdの振動を再現することができる。また、電動機用ECU8の演算周期Δts2は、電動機周波数fmの1周期(1/fm)よりも小さいため、電動機周波数fmの振動を再現することができる。一方、駆動制御装置30の演算周期Δts1は、電動機用ECU8の演算周期Δts2よりも大きく、また、電動機周波数fmの1周期(1/fm)よりも大きいので、駆動制御装置30は、図3に示すように電動機周波数fmを制振対象周波数fdと誤認することがある。この現象をエイリアシングといい、前記回転速度の変動を表す信号のサンプリング情報から、元の前記回転速度の変動を表す情報を正しく再現できなくなる現象である。
【0051】
このように、いわゆるエイリアシングによって、駆動制御装置30が、例えば電動機Mの回転速度の変動を正しく認識できない結果、電動機MのコギングやレゾルバQの極数等によって発生する回転速度変動を、振動を抑制したいばね下の振動の周波数に相当する車輪Wの回転速度の変動と誤認識することがある。この場合、駆動制御装置30は、実際には車輪Wの回転変動が存在しないのに、車輪Wに制振トルクを付与してしまうことがあり、その結果として、ばね下の振動を増幅させ、図1に示す車両1を加振してしまうことがある。
【0052】
本実施形態では、車両1の加振を回避するため、エイリアシングにより車輪Wの回転速度の変動として誤って認識されるおそれのある振動(例えば、コギング等に起因する電動機Mの回転速度の変動)の周波数が、駆動制御装置30によって抑制するばね下の振動の周波数の帯域に存在する場合には、振動抑制制御を停止する。これによって、ばね下の振動を増加させるおそれを低減し、車両1の加振を回避する。次に、本実施形態に係る制振制御を実行する駆動制御装置30及び電動機用ECU8の構成を説明する。
【0053】
図4は、本実施形態に係る駆動制御装置の構成例を示す説明図である。図4に示すように、駆動制御装置30は、ECU50に組み込まれて構成されている。ECU50は、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)50pと、記憶部50mと、入力及び出力ポート55、56とから構成される。
【0054】
なお、ECU50とは別個に、本実施形態に係る駆動制御装置30を用意し、これをECU50に接続してもよい。そして、本実施形態に係る振動抑制制御を実現するにあたっては、ECU50が備える走行装置100等に対する制御機能を、前記駆動制御装置30が利用できるように構成してもよい。
【0055】
駆動制御装置30は、運転条件判定部31と、車輪回転速度変動演算部32と、駆動トルク演算部33とを含んで構成される。これらが、本実施形態に係る制振制御を実行する部分となる。本実施形態において、駆動制御装置30は、ECU50を構成するCPU50pの一部として構成される。CPU50pには、電動機出力制御部50peが備えられており、車両1の走行時における電動機Mの出力や電力の回生を制御する他、駆動制御装置30が実行した制振制御の処理結果に基づいて電動機Mの出力(トルク)を制御する。また、CPU50pには、総合制御部50pcが備えられており、電動機Mの制御に必要な情報を演算する。また、CPU50pの駆動周波数がECU50及び駆動制御装置30の駆動周波数となり、CPU50pの駆動周波数によって、ECU50及び駆動制御装置30の演算周波数やサンプリング周波数が決定される。
【0056】
CPU50pと記憶部50mとは、バス541〜543を介して、入力ポート55及び出力ポート56を介して接続される。これにより、駆動制御装置30を構成する運転条件判定部31と車輪回転速度変動演算部32と駆動トルク演算部33とは、相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。また、駆動制御装置30は、ECU50が有する走行装置100の運転制御データを取得し、これを利用することができる。また、駆動制御装置30は、本実施形態に係る制振制御をECU50が予め備えている運転制御ルーチンに割り込ませたりすることができる。
【0057】
入力ポート55は、通信回線9と接続される。通信回線9には、アクセル開度センサ42、ヨーセンサ43、車速センサ44、操舵角センサ45その他の、走行装置100の運転制御に必要な情報を取得するセンサ類が接続されている。CPU50pは、通信回線9を介して、これらのセンサ類から出力される信号を取得する。これにより、CPU50pは、走行装置100の運転制御や、本実施形態に係る制振制御に必要な情報を取得することができる。また、出力ポート56は、通信回線9と接続されている。そして、CPU50pが演算した電動機M(左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11R)に対する駆動制御指令は、通信回線9を介して電動機用ECU8に発信される。これによって、電動機用ECU8を介して、電動機Mを制御することができる。
【0058】
記憶部50mには、本実施形態に係る制振制御の処理手順を含むコンピュータプログラムや制御マップ、あるいは本実施形態に係る制振制御に用いるデータ等が格納されている。ここで、記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
【0059】
上記コンピュータプログラムは、CPU50pへ既に記録されているコンピュータプログラムと組み合わせによって、本実施形態に係る制振制御の処理手順を実現できるものであってもよい。また、この駆動制御装置30は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、運転条件判定部31、車輪回転速度変動演算部32及び駆動トルク演算部33との機能を実現するものであってもよい。
【0060】
通信回線9に接続される電動機用ECU8は、入力ポート8iと、CPU8pと、プリドライバ8dとを備えている。入力ポート8iは通信回線9に接続されており、CPU8pは、通信回線9及び入力ポート8iを介して、ECU50から発信される電動機Mの駆動制御信指令を取得する。CPU8pは、取得した駆動制御指令に基づいて電動機Mに供給する電流の値、すなわち電流指令値を演算する。そして、CPU8pは、演算した電流指令値をプリドライバ8dに出力し、プリドライバ8d及びプリドライバ8dに接続される電動機制御回路6を介して、電動機Mを駆動制御する。
【0061】
また、CPU8pは、入力ポート8iに接続されるレゾルバQ(左前電動機用レゾルバ40L、右前電動機用レゾルバ40R、左後電動機用レゾルバ41L、右後電動機用レゾルバ41R)が検出する電動機回転速度や、入力ポート8iに接続される駆動電流検出回路46が検出する電動機Mの駆動電流値を取得する。そして、CPU8pは、取得した電動機回転速度や駆動電流値に基づいて、ECU50から発信される電動機Mの駆動制御指令の通りに電動機Mが駆動されるように、電動機Mをフィードバック制御する。
【0062】
電動機用ECU8が備えるプリドライバ8dは、CPU8pで演算された電流指令値を、パルス幅変調されたデューティ指令値W、V、U、Wb、Vb、Ubに変換するためのものである。ここで、デューティ指令値W、V、Uは正相の三相信号を表し、デューティ指令値Wb、Vb、Ubは逆相の三相信号を表す。プリドライバ8dから出力されるデューティ指令値W、V、U、Wb、Vb、Ubは電動機制御回路6が備えるインバータ回路に送られて、左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11Rが駆動制御される。次に、本実施形態に係る制振制御を説明する。次の説明では、適宜図1〜図4を参照されたい。
【0063】
図5は、本実施形態に係る制振制御の処理手順を示すフローチャートである。図6は、本実施形態に係る制振制御に用いる制振制御停止判定マップを示す説明図である。図7−1〜図7−3は、本実施形態に係る制御停止判定マップの作成手順を示す説明図である。図8は、本実施形態に係る制振制御の処理ブロック図である。
【0064】
本実施形態に係る制振制御を実行するにあたり、駆動制御装置30が備える運転条件判定部31は、通信回線9を介して、電動機用ECU8から電動機Mの回転速度を受信して、電動機Mの回転速度を演算する(ステップS101)。本実施形態では、電動機Mのロータと車輪Wとが直結されているので、電動機Mの回転速度は車輪Wの回転速度と一致する。なお、減速機を介して車輪Wを電動機Mによって駆動する場合、車輪Wの回転速度は、電動機Mの回転速度と減速比ρとから一義的に決定することができる。ここで、電動機Mの回転速度は、レゾルバQから取得する。
【0065】
次に、運転条件判定部31は、ステップS101で演算した電動機Mの回転速度を、図6に示す制御停止判定マップ63に与え、駆動制御装置30が、制振対象周波数fdと誤認識するおそれのある周波数(誤認周波数)fxを取得する(ステップS102)。図6に示す制御停止判定マップ63は、誤認周波数fxが、電動機Mの回転速度(電動機回転速度)ωmに対して記述されている。制御停止判定マップ63に記述される誤認周波数fxは、電動機回転速度ωmの増加にともない、鋸波状に変化する。
【0066】
制御停止判定マップ63に記述される誤認周波数fxは、電動機Mの極数やレゾルバQの極数によって発生する、電動機Mの回転速度の変動(電動機回転速度変動)を表す周波数である。一般に、電動機回転速度変動を表す周波数は、電動機Mの回転速度の増加にともなって単調に増加する。
【0067】
制御停止判定マップ63において、誤認周波数fxは、周波数が0から検出可能周波数fe_maxまでは電動機回転速度ωmの上昇にしたがって単調に増加する。そして、誤認周波数fxは、周波数が検出可能周波数fe_maxになると単調減少に転じて、周波数が0になると再び単調増加に転じ、電動機回転速度ωmの増加にしたがってこれを繰り返す。ここで、検出可能周波数fe_maxは、レゾルバQによって検出される電動機Mあるいは車輪Wの回転速度の変動を表す周波数のうち、電動機用ECU8を介して駆動制御装置30が検出可能な最大値であり、駆動制御装置30のサンプリング周波数の1/2である。
【0068】
ここで、駆動制御装置30のサンプリング周波数は、電動機用ECU8から電動機回転速度ωmを取得する周波数である。電動機回転速度ωmは車輪回転速度を表すので、電動機回転速度ωmを取得するということは、本実施形態に係る制振制御を実行するために必要な情報である車輪回転速度を取得することになる。なお、本実施形態に係る制御停止判定マップ63は、単一の誤認周波数fxが記述されているが、誤認周波数fxが複数存在する場合は、すべての誤認周波数fxを記述してもよい。次に、制御停止判定マップ63の作成手法を説明する。
【0069】
図7−1に示すように、電動機回転速度ωmと、電動機回転速度変動を表す周波数(電動機回転速度変動周波数)fvとをプロットする。電動機回転速度変動周波数fvの直線式は、式(1)で表される。ここで、Aは係数である。また、電動機回転速度変動周波数fvは、電動機WやレゾルバQの仕様から定まる。
fv=A×ωm・・・(1)
【0070】
次に、図7−2に示すように、電動機回転速度変動周波数fvが検出可能周波数fe_maxを超えた部分を折り返す。折り返した状態の直線式は、式(2)で表される。ここで、ωaは、電動機回転速度変動周波数fvが検出可能周波数fe_maxと交差した部分における電動機回転速度である。
fv=−A×(ωm−ωa)+fe_max・・・(2)
【0071】
次に、図7−3に示すように、電動機回転速度変動周波数fvが0を下回る部分、すなわち横軸(電動機回転速度軸)を下回る部分を折り返す。折り返した状態の直線式は、式(3)で表される。ここで、ωbは、電動機回転速度変動周波数fvが横軸と交差した部分における電動機回転速度である。以後、最大電動機回転速度ωm_maxまで上記手順を繰り返し、図6に示す誤認周波数fxが記述された制御停止判定マップ63が完成する。このように、誤認周波数fxは、駆動制御装置30のサンプリング周波数の1/2に設定される検出可能周波数fe_maxで折り返されて設定されるので、駆動制御装置30のサンプリング周波数に基づいて設定されることになる。
fv=A×(ωm−ωb)・・・(3)
【0072】
上記手順によって作成された、図6に示す制御停止マップ63は、電動機回転速度が0〜ωaまでは誤認周波数fx=A×ωmであり、ωa〜ωbまではfx=−A×(ωm−ωa)+fe_maxであり、ωb〜ωcまではfx=A×(ωm−ωb)であり、ωc〜ωm_maxまではfx=−A×(ωm−ωc)+fe_maxである。
【0073】
制御停止判定マップ63に記述される誤認周波数fxが、本実施形態に係る振動抑制制御によって抑制する懸架装置のばね下における上下振動の周波数帯域(制振対象周波数fdの帯域)に存在する場合、駆動制御装置30は、レゾルバQによって検出された回転速度変動が、懸架装置のばね下における上下振動に起因する車輪回転速度の変動であるのか、電動機回転速度の変動であるのかを区別することはできない。
【0074】
これによって、懸架装置のばね下における上下振動が発生していない場合であっても、電動機回転速度の変動を、懸架装置のばね下における上下振動に起因する車輪回転速度の変動であると誤って認識して、本実施形態に係る制振制御を実行することがある。その結果、懸架装置のばね下における上下振動を増幅させてしまうことがある。これを回避するため、本実施形態では、次のように制御する。
【0075】
誤認周波数fxを取得したら、運転条件判定部31は、ステップS102で取得した誤認周波数fxが、制振対象周波数fdの帯域にあるか否かを判定する。ここで、制振対象周波数fdは、後述するように、ばね下の振動の共振点f0とし、誤認周波数fxが、制振対象周波数fdを中心とした所定の帯域に存在するときには、本実施形態に係る制振制御を停止する。
【0076】
制振対象周波数fdを中心とした所定の帯域を、(fd−fa)以上(fd+fb)以下とし、(fd−fa)≦fx≦(fd+fb)である場合、運転条件判定部31は、誤認周波数fxが制振対象周波数fdの帯域にあると判定する(ステップS103:Yes)。図6に示す制御停止判定マップ63では、電動機回転速度ωmがωm1以上ωm2以下、ωm3以上ωm4以下、及びωm5以上ωm6以下の範囲にある場合、誤認周波数fxが制振対象周波数fdの帯域にある。なお、ωm_maxは、最大電動機回転速度(すなわち最大車輪回転速度)である。
【0077】
この場合、運転条件判定部31は、本実施形態に係る制振制御を停止する(ステップS104)。すなわち、駆動制御装置30によるばね下の振動の抑制を停止する。これによって、車輪Wの回転速度が、振動を抑制したいばね下の振動の周波数に相当する車輪Wの回転速度の変動と誤認識するおそれのある範囲にある場合には、制振制御が実行されることによって車両1が加振されことを抑制する。
【0078】
(fd−fa)>fx又はfx>(fd+fb)である場合、運転条件判定部31は、誤認周波数fxが制振対象周波数fdの帯域にないと判定する(ステップS103:No)。この場合、本実施形態に係る制振制御が実行される。本実施形態に係る制振制御を実行するにあたり、運転条件判定部31は、車両1が備える車輪Wの回転速度の変動(車輪回転速度変動成分)を抽出する(ステップS105)。次に、車輪回転速度変動成分の抽出について詳細に説明する。
【0079】
(車輪回転速度変動成分の抽出)
図9は、本実施形態に係る制振制御における車輪回転速度変動成分の抽出手順を示すフローチャートである。図10は、バンドパスフィルタを用いた車輪回転速度変動成分の抽出を示す機能ブロック図である。図11は、推定車輪回転速度等を用いた場合車輪回転速度変動成分の抽出を示す機能ブロック図である。図12、図13は、車輪回転速度変動成分を抽出する際に用いる重み係数を決定するためのデータマップを示す説明図である。
【0080】
本実施形態に係る車両1が備える走行装置100は、電動機Mに取り付けられるレゾルバQから電動機Mの回転速度を知ることができる。本実施形態に係る走行装置100は、電動機Mと車輪Wとが直結されているため、電動機Mの回転速度が車輪Wの回転速度、すなわち車輪回転速度Viになる。ここで、iは、車輪番号である。図1に示す車両1において、左側前輪2L、右側前輪2R、左側後輪3L、右側後輪3Rの順に、車輪番号を1、2、3、4とする(以下同様)。
【0081】
図10に示すように、レゾルバQによって検出された車輪回転速度Viは、フィルタ手段であるバンドパスフィルタ(Band Pass Filter:BPF)によって、ばね下の振動と相関の高い周波数成分における車輪回転速度Viが抽出される。より具体的には、ばね下の振動の共振点f0を中心とした所定の周波数帯域(例えば、±0Hz〜±5Hz程度)における車輪回転速度Viが抽出される。すなわち、ばね下の振動の共振点f0を中心として、例えば、(f0±0)Hz〜(f0±5)Hzの帯域における周波数成分を抽出する。なお、ばね下の振動の共振点f0を中心とした所定の周波数帯域は、±0Hz〜±5Hzに限定されるものではない。この抽出した周波数成分が車輪回転速度変動成分ΔΩiとなる。
【0082】
フィルタ手段は、コンデンサやコイルあるいはオペアンプ等のハードウェアを組み合わせて構成してもよいし、伝達関数を用いたソフトウェアとして構成してもよい。このように、フィルタ手段を用いることにより、ノイズ成分をできる限り排除して、ばね下の振動と相関の高い周波数成分における車輪回転速度Viを高い精度で抽出できるので、制振制御の精度が向上する。
【0083】
バンドパスフィルタは入力に対する出力に遅れが発生する。これによって、車両1の走行速度が高い場合、バンドパスフィルタを用いて車輪回転速度変動成分ΔΩiを抽出すると、前記位相遅れにより制御の応答性が悪化する等の影響が発生するおそれがある。このため、車両1の走行速度が高い場合(例えば、80km/h以上)には、次の手法で車輪回転速度変動成分ΔΩiを抽出する。
【0084】
図11に示すように、例えば、車両1の車速センサ44や加速度センサ、あるいは角車輪の回転数等からの情報に基づいて求められる車体速度(推定車体速度)を、各車輪の車輪回転速度に換算した推定車輪回転速度Vgiを用いて、車輪回転速度Viと推定車輪回転速度Vgiとの偏差を車輪回転速度変動成分ΔΩiとする手法がある。また、例えば、各輪の現在における車輪回転速度Viと現在以前の所定期間内において検出した車輪回転速度Viの平均値(平均車輪回転速度)Vmiを用いて、車輪回転速度Viと平均車輪回転速度Vmiとの偏差を車輪回転速度変動成分ΔΩiとする手法もある。これらの手法のように、バンドパスフィルタを用いなければ、前記位相遅れの問題は解消される。
【0085】
バンドパスフィルタを用いないで車輪回転速度変動成分ΔΩiを抽出する上記手法を用いる場合、車両1が直進していると判定された場合には、推定車輪回転速度Vgiを利用して車輪回転速度変動成分ΔΩiを抽出する。これに基づいて本実施形態に係る制振制御を実行すれば、各車輪の車輪回転速度変動を抑制することにより各車輪の車輪回転速度を同じ大きさとするように制御できる。その結果、例えば、路面傾斜(カント)による車両流れがある場合には、これを抑制して車両1の走行安定性を確保することもできる。
【0086】
また、車両1が旋回中であると判定された場合には、平均車輪回転速度Vmiを利用して車輪回転速度変動成分ΔΩiを抽出する。これによって、車両1が備える車輪Wの内外輪差を考慮することができ、また、車輪回転速度変動成分ΔΩiを抽出する際の応答性が高くなる。次に、図9に基づいて、本実施形態に係る制振制御における車輪回転速度変動成分ΔΩiの抽出手順を説明する。
【0087】
車輪回転速度変動成分ΔΩiを抽出するにあたり、本実施形態に係る駆動制御装置30の車輪回転速度変動演算部32は、レゾルバQから各輪の車輪回転速度Viを取得する(ステップS201)。ここで、レゾルバQとは、具体的には左前側電動機用レゾルバ40L、右前側電動機用レゾルバ40R、左後側電動機用レゾルバ41L、右後側電動機用レゾルバ41Rである(図1参照)。次に、車輪回転速度変動演算部32は、車速センサ44や加速度センサその他の情報に基づいて求められる推定車体速度Vcgを、ECU50の総合制御部50pcから取得する(ステップS202)。そして、車輪回転速度変動演算部32は、取得した推定車体速度Vcgから、それぞれの車輪の直径等を用いて、各輪の推定車輪回転速度Vgiを演算する(ステップS203)。
【0088】
なお、前輪と後輪とで車輪の直径が異なる場合、前輪の推定車輪回転速度Vg_lと後輪の推定車輪回転速度Vg_tとをそれぞれ求め、車輪回転速度Viとこれらとの偏差を前輪車輪回転速度変動成分ΔΩ_l、後輪車輪回転速度変動成分ΔΩ_tとしてもよい。前輪又は後輪にチェーン等が装着されており、前輪と後輪との外径が異なる場合も、前輪と後輪とで車輪の直径が異なる場合と同様に処理することができる。
【0089】
各輪の推定車輪回転速度Vgiを演算したら(ステップS203)、車輪回転速度変動演算部32は、各輪の平均車輪回転速度Vmiを演算する(ステップS204)。ここで、平均車輪回転速度Vmiは、例えば、Vmi=(ΣVik)/n{k=1〜n}で求めることができる。なお、nは、サンプリングの開始から現在までにおける車輪回転速度Viのサンプリング回数であり、自然数である。次に、車輪回転速度変動演算部32は、操舵角センサ45及びヨーセンサ43から、ハンドル4の操舵角度θと、車両1の現在におけるヨーレートYとを取得する(ステップS205)。
【0090】
次に、車輪回転速度変動演算部32は、ステップS201で取得した車輪回転速度Viをバンドパスフィルタ処理することにより、車輪回転速度変動成分(フィルタリング車輪回転速度変動成分)ΔViを得る(ステップS206)。また、車輪回転速度変動演算部32は、車輪回転速度Viと平均車輪回転速度Vmiとの偏差(平均車輪回転速度偏差)、及び車輪回転速度Viと推定車輪回転速度Vgiとの偏差(推定車輪回転速度偏差)を演算する(ステップS207、S208)。
【0091】
次に、車輪回転速度変動演算部32は、車体速度Vc(本実施形態では推定車体速度Vcgを用いる)を図12に示すデータマップ60に与え、重み係数aを取得する(ステップS209)。同時に、ハンドル4の操舵角度θと車両1の現在におけるヨーレートYとを図13に示すデータマップ61に与え、重み係数bを取得する(ステップS209)。
【0092】
そして、車輪回転速度変動演算部32は、式(4)によって車輪回転速度変動成分ΔΩiを決定する(ステップS210)。
ΔΩi=a×ΔVi+(1−a)×{b×(Vi−Vmi)+(1−b)×(Vi−Vgi)}・・・(4)
ここで、重み係数aは、車体速度Vcに応じて0〜1まで変化し、また、重み係数bは、操舵角度θとヨーレートYとに応じて0〜1まで変化する。なお、重み係数bは、操舵角度θとヨーレートYとに加え、さらに左右方向、すなわち車両1の進行方向と直交する方向における加速度Gyに応じて変化させてもよい。
【0093】
図12に示すように、重み係数aは、車体速度Vcの増加とともに小さくなる。これによって、車体速度Vcが増加すると、式(1)中におけるフィルタリング車輪回転速度変動成分ΔViの重みが小さくなる。その結果、バンドパスフィルタを用いて車輪回転速度変動成分ΔΩiを抽出した場合における前記位相遅れの影響を低減することができる。
【0094】
また、重み係数bは、操舵角度θ及びヨーレートYが増加するとともに、式(4)中における車輪回転速度Viと平均車輪回転速度Vmiとの偏差の項、すなわち平均車輪回転速度偏差(Vi−Vmi)の重みが大きくなるように設定される。これにより、旋回中における内外輪差を考慮して、車輪回転速度変動成分ΔΩiを抽出することができる。
【0095】
本実施形態では、車両1の走行条件(走行速度、直進時であるか、旋回中であるか)に応じて、車輪回転速度変動成分ΔΩiを求める際に用いる手法を切り替える。上述したように、フィルタリング車輪回転速度変動成分ΔVi、平均車輪回転速度偏差(Vi−Vmi)、推定車輪回転速度偏差(Vi−Vgi)それぞれに対して、車両1の走行条件に応じた重み付けをすることで、車輪回転速度変動成分ΔΩiを求める際に用いる手法を切り替える際のショックを抑制することができる。
【0096】
上記手順によって車輪回転速度変動成分ΔΩiを抽出したら、駆動制御装置30の運転条件判定部31は、ばね下の振動、すなわち車輪回転速度変動成分ΔΩiが所定の閾値ΔΩli以上であるか否かを判定する(ステップS106、図4参照)。ΔΩi<ΔΩliである場合(ステップS106:No)、STARTに戻り、駆動制御装置30は車輪回転速度変動成分ΔΩiの抽出を継続する。なお、所定の閾値ΔΩliは、車両1や走行装置100の仕様や運転条件によって適宜設定することができる。また、所定の閾値ΔΩliは、車両1の運転条件に応じて変化させてもよい。
【0097】
ΔΩi≧ΔΩliである場合(ステップS106:Yes)、駆動制御装置30の運転条件判定部31は、ばね下の振動抑制を開始する条件か否かを判定する(ステップS107)。制振制御を開始する条件にない場合(ステップS107:No)、STARTに戻り、駆動制御装置30が車輪回転速度変動成分ΔΩiの抽出を継続しつつ、制振制御を開始する条件を判定する。ここで、振動抑制を開始する条件か否かの判定方法を説明する。
【0098】
図14、図15は、車輪の振動状態を説明するための概念図である。図14、図15のA1、A2は、車輪Wの軌跡であり、上下方向における車輪Wの振動を表す。図14に示すように、車輪Wが路面上を矢印Bの方向に走行中、路面上の突起tに乗り上げ、車輪に対して大きな入力が一回あったような場合、応答遅れにより車輪Wの上下方向における振動が収束した後に制振制御が開始するおそれがある。そこで、図14に示すように、例えば、それぞれの車輪で、所定の閾値ΔΩli以上の車輪回転速度変動成分ΔΩiが所定期間内に所定回数(N回)以上連続して観測された場合に、駆動制御装置30の運転条件判定部31は制振制御を開始する。また、例えば、それぞれの車輪で、車輪回転速度変動成分ΔΩiの絶対値の積算値Σ|ΔΩi|が、所定の積算閾値ΣΔΩliを超えた場合に、駆動制御装置30の運転条件判定部31は制振制御を開始する。
【0099】
ここで、車両1が備える車輪のうち1の車輪のみ、所定の閾値ΔΩli以上の車輪回転速度変動成分ΔΩiが所定期間内に所定回数(N回)以上連続して観測された場合や、車輪回転速度変動成分ΔΩiの絶対値の積算値Σ|ΔΩi|が、所定の積算閾値ΣΔΩliを超えた場合は次のように判定する。このような場合には、当該車輪を構成するタイヤのパンクや当該車輪を構成するホイールの変形等のおそれがある。したがって、このような場合には制振制御を実行せず、駆動制御装置30の運転条件判定部31は警告を発したり、ECU50の記憶部50mに車輪の不具合を記録したりする。
【0100】
また、車輪Wのロックを防止する制御又は車輪Wの駆動力制御の少なくとも一方が実行中である場合には、振動抑制手段(本実施形態では電動機M)によるばね下の上下振動の抑制は停止される。すなわち、制振制御が停止される。例えば、ABS(Antilock Braking System:ブレーキロック防止システム)制御又はトラクションコントロールの少なくとも一方が実行中である場合には、制振制御が実行されず、制振制御が実行中である場合には制振制御が中断される。
【0101】
通常、車両1の制動により車輪Wがロックするような状態や、車両1に横滑り等が発生している状態等、車両1が危険な走行状態に陥っていると判断された場合に、ABS制御やトラクションコントロールが介入する。本実施形態に係る制振制御は、振動が発生している車輪Wの駆動トルクを変更するため、当該車輪の前輪及び後輪の駆動力が変化する。このため、車両1のばね下の振動を抑制することよりも、危険な走行状態に陥っている車両1を回復させることを優先させるためである。また、車輪Wに発生する車輪回転速度変動が車輪Wのロックを防止する制御又は車輪Wの駆動力制御によるものか、ばね下振動によるものかを区別して、制振制御の信頼性を向上させるためである。
【0102】
上記判定方法により制振制御を開始する条件か否かを判定した結果、制振制御を開始する条件にある場合には(ステップS107:Yes)、駆動制御装置30の駆動トルク演算部33は、制御対象の車輪Wに与える付与トルクFsiを演算する(ステップS108)。次に、付与トルクFsiの求め方について説明する。
【0103】
図16は、単輪モデルを示す説明図である。図17は、単輪モデルの運動方程式から求めた付与トルクを与える場合の処理ブロック図である。図16に示す単輪モデルを考えると、車輪Wの運動方程式は式(5)、(6)のように表現できる。
(Ji+Mi×ri2)ωi'=Ti・・・(5)
ωi={1/(Ji+Mi×ri2)}×∫Tidt・・・(6)
ここで、Jiは車輪の慣性質量、Miは車輪の接地荷重、ωiは車輪の回転角速度、rは車輪の動荷重半径、Tiは車輪の駆動トルクである。
【0104】
ここで、車輪回転速度変動成分ΔΩiに対応する駆動トルクが付与トルクFsiとなる。式(5)、(6)から、
ΔΩi={1/(Ji+Mi×ri2)}×∫FsidF・・・(7)
Fsi=(Ji+Mi×ri2)×ΔΩi'・・・(8)
したがって、付与トルクFsiは、式(7)を微分して求めたΔΩi'を、式(8)の右辺に代入することによって求めることができる(図17に示す処理ブロック参照)。そして、求めた付与トルクFsiを制御対象の車輪に付与するフィードフォワード制御を行う。なお、この場合の車輪回転速度変動成分ΔΩiは、回転角速度(rad/sec.)である。
【0105】
図18は、フィードバック制御により車輪回転速度変動成分を抑制するための処理ブロック図である。フィードバック制御を実行するにあたっては、車輪回転速度変動成分ΔΩiと、制御目標値CPとの偏差が演算される。本実施形態における制振制御では、車輪振動を抑制するものなので、理想的には各輪の車輪回転速度変動成分ΔΩiが0となるようにフィードバック制御される。すなわち前記制御目標値CPは0となり、車輪回転速度変動成分ΔΩiが0になるように演算された制御値が付与トルクFsiとなる。ここで、図18に示すフィードバックの方式はPID制御であるが、PI、PD等、車両1や走行装置100等の仕様に応じて適切な方式を用いることができる。
【0106】
制御対象である車輪Wに与える付与トルクFsiが演算されたら(ステップS108)、駆動制御装置30の駆動トルク演算部33は、制御対象である車輪Wに与える制振トルクFiを演算する(ステップS109)。ここで、制振トルクFiは、アクセル開度から求まる各輪の要求駆動トルクFac_iに、ステップS108で求めた付与トルクFsiを加算した値(Fac_i+Fsi)である。制振トルクFiが演算されたら(ステップS109)、駆動制御装置30の駆動トルク演算部33は、車輪Wを駆動するための最終的な駆動トルク(最終駆動トルク)Fr_iを演算する(ステップS110)。次に、この最終駆動トルクFr_iを求める手順を説明する。
【0107】
図19は、車輪を駆動するための最終駆動トルクを求める手順の一例を示すフローチャートである。ステップS109で求めた制振トルクFiを、車輪を駆動するために要求される駆動トルクとともに車輪Wへ与えた結果、車輪Wの最終駆動トルクが正から負に反転したり、負から正に反転したりすることがある。このようなトルクの反転があった場合、最終駆動トルクの反転によって走行装置100を通じて車両1にショックが発生することがある。これは、電動機Mと車輪Wとの間に減速機構が介在する場合、顕著になる。このため、図19に示す最終駆動トルクの決定手順では、制振トルクFiを車輪Wに付与した結果、車輪Wに最終駆動トルクFr_iの反転が生じる場合には、最終駆動トルクFr_iを0とする。これによって、制振制御時において、車両1に発生するショックを抑制する。
【0108】
まず、駆動制御装置30の駆動トルク演算部33は、上記ステップS109で演算された制振トルクFiを取得する(ステップS301)。次に、駆動制御装置30の駆動トルク演算部33は、車輪を駆動するために要求される駆動トルク、すなわちアクセル開度から求まる各輪の要求駆動トルクFac_iが0よりも大きいか否かを判定する(ステップS302)。Fac_i>0である場合(ステップS302:Yes)、制御対象の車輪Wは力行の状態である。この場合、駆動トルク演算部33は、制振トルクFiが0よりも大きいか否かを判定する(ステップS303)。
【0109】
Fi>0である場合(ステップS303:Yes)、上記ステップS109で演算された制振トルクFiは力行トルクになるので、制御対象の車輪Wに前記制振トルクFiを付与しても、最終駆動トルクの反転は発生しない。したがって、駆動トルク演算部33は、上記ステップS109で演算された制振トルクFiを、車輪Wを駆動するための最終駆動トルクFr_iとする(ステップS305)。
【0110】
Fi≦0である場合(ステップS303:No)、上記ステップS109で演算された制振トルクFiは回生トルクになるので、制御対象の車輪Wに前記制振トルクFiを付与すると、最終駆動トルクの反転が発生する。したがって、駆動トルク演算部33は、車輪Wを駆動するための最終駆動トルクFr_iを0とする(ステップS306)。このとき、最終駆動トルクFr_iをただちに0にするのではなく、徐々に0まで変化させてもよい。これによって、最終駆動トルクFr_iを0にするときにショックが発生するおそれを抑制できる。
【0111】
Fac_i≦0である場合(ステップS302:No)、制御対象の車輪Wは回生の状態である。この場合、駆動トルク演算部33は、制振トルクFiが0以下であるか否かを判定する(ステップS304)。Fi≦0である場合(ステップS304:Yes)、上記ステップS109で演算された制振トルクFiは回生トルクになるので、制御対象の車輪Wに前記制振トルクFiを付与しても、最終駆動トルクの反転は発生しない。したがって、駆動トルク演算部33は、上記ステップS109で演算された制振トルクFiを、車輪Wを駆動するための最終駆動トルクFr_iとする(ステップS307)。
【0112】
Fi>0である場合(ステップS304:No)、上記ステップS109で演算された制振トルクFiは力行トルクになるので、制御対象の車輪Wに前記制振トルクFiを付与すると、最終駆動トルクの反転が発生する。したがって、駆動トルク演算部33は、車輪Wを駆動するための最終駆動トルクFr_iを0とする(ステップS308)。このとき、最終駆動トルクFr_iをただちに0にするのではなく、徐々に0まで変化させてもよい。これによって、最終駆動トルクFr_iを0にするときにショックが発生するおそれを抑制できる。上記手順により、制振制御時において、車両1に発生するショックを抑制することができる。
【0113】
図20は、車輪を駆動するための最終駆動トルクを求める手順の他の例を示すフローチャートである。図21は、図20に示す車輪を駆動するための最終駆動トルクを求める手順を説明するための説明図である。図20に示す最終駆動トルクの決定手順では、駆動トルクの反転が生じる前後における所定のトルクの範囲内において、前記車輪に付与する最終的な駆動トルクの変化率を所定のトルクの範囲外における変化率よりも小さくする。すなわち、駆動トルクが0になる前後における所定のトルクの範囲内において最終駆動トルクFr_iの平滑化処理を行う。このように、制振トルクFiが反転する前後で、車輪Wを駆動するための最終駆動トルクFr_iを徐々に増加又は減少させることによって、車両1に発生するショックを抑制する。
【0114】
まず、駆動制御装置30の駆動トルク演算部33は、上記ステップS109で演算された制振トルクFiを取得する(ステップS401)。次に、駆動制御装置30の駆動トルク演算部33は、前記制振トルクの絶対値|Fi|が、予め定めた閾値トルクFl_i以下であるか否かを判定する(ステップS402)。すなわち、閾値トルクFl_iを基準に、最終駆動トルクFr_iの平滑化処理を実行するか否かを判定する。閾値トルクFl_iは、実験や解析により予め定めておく。また、閾値トルクFl_iは、車両1や走行装置100の仕様、あるいは車両1の走行条件に応じて変更してもよい。
【0115】
最終駆動トルクFr_iが0に近い場合、すなわち、車両1が低負荷で走行している場合には、車輪Wにわずかな駆動トルクの変化が発生することによって、車両1の挙動に大きな影響を与えるおそれがある。しかし、|Fi|>Fl_iである場合は、最終駆動トルクFr_iがある程度大きいため、車輪Wに駆動トルクの変化が発生しても、車両1の挙動に与える影響は相対的に小さくなる。このため、|Fi|>Fl_iである場合(ステップS402:No)、駆動トルク演算部33は、上記ステップS109で演算された制振トルクFiを最終駆動トルクFr_iとする(ステップS411)。
【0116】
|Fi|≦Fl_iである場合(ステップS402:Yes)、駆動トルク演算部33は、今回の制振トルクFi(N)を、一回前の制振トルクFi(N−1)と比較する(ステップS403)。ここで、Nは自然数である。Fi(N)>Fi(N−1)である場合(ステップS403:Yes)、制振トルクFiは増加傾向にある(図21のP1で示す部分)。この場合には、車両1の挙動に与える影響を抑制するため、徐々に最終駆動トルクFr_iを増加させる必要がある。駆動トルク演算部33は、一回前の制振トルクFi(N−1)に所定のなましトルクΔFを加算した値(Fi(N−1)+ΔF)を、新たな今回の制振トルクFi_(N)とする(ステップS404)。そして、駆動トルク演算部33は、Fi_(N)を最終駆動トルクFr_iとする(ステップS405)。
【0117】
ステップS403でNoと判定され、かつFi(N)<Fi(N−1)である場合(ステップS406)、制振トルクFiは減少傾向にある(図21のP2で示す部分)。この場合には、車両1の挙動に与える影響を抑制するため、徐々に最終駆動トルクFr_iを減少させる必要がある。駆動トルク演算部33は、一回前の制振トルクFi(N−1)から所定のなましトルクΔFを減算した値(Fi(N−1)−ΔF)を、新たな今回の制振トルクFi_(N)とする(ステップS407)。そして、駆動トルク演算部33は、Fi_(N)を最終駆動トルクFr_iとする(ステップS408)。
【0118】
ここで、最終駆動トルクを徐々に変化させるため、上記ステップS404、S407のなましトルクの絶対値|ΔF|は、|Fi(N)−Fi(N−1)|かつ0よりも大きくなるようにする。このようにするため、なましトルクΔFは、Fi(N)及びFi(N−1)の値に応じて変更してもよい。例えば、|ΔF|=α×|Fi(N)−Fi(N−1)|とする(0<α<1)。このようにすれば、決定した制振トルクの絶対値|Fi|が0に近い場合において、確実に最終駆動トルクFr_iを徐々に増加あるいは減少させることができる。なお、なましトルクΔFは一定としてもよいが、この場合、最終駆動トルクFr_iを徐々に増加させるときと減少させるときとで、なましトルクΔFの値を変更してもよい。
【0119】
ステップS403でNoと判定され、かつFi(N)=Fi(N−1)である場合(ステップS409)、制振トルクFiは変化しない(図21のP3で示す部分)。この場合、理論的には車両1の挙動に与える影響はない。駆動トルク演算部33は、上記ステップS109で演算された制振トルクFiを最終駆動トルクFr_iとする(ステップS410)。上記手順により、図22に示す最終駆動トルクの決定手順では、アクセル開度から決定される要求駆動トルクFac_iが低い場合において車輪Wの最終駆動トルクFr_iが反転するような場合にも、車両1の挙動に与えるショックを低減できる。
【0120】
図22は、車輪を駆動するための最終駆動トルクを求める手順の他の例を示すフローチャートである。車輪Wの最終駆動トルクFr_iが反転するような場合には、車両1の進行方向前後の加速度変化が懸念される。特に、アクセル開度から決定される要求駆動トルクFac_iが低い場合には前記加速度変化によるショックが顕著に現れる。このため、図22に示す最終駆動トルクの決定手順では、このような場合には、制振制御を中止する。
【0121】
まず、駆動制御装置30の駆動トルク演算部33は、上記ステップS109で演算された制振トルクFiを取得する(ステップS501)。次に、駆動制御装置30の駆動トルク演算部33は、アクセル開度から求まる各輪の要求駆動トルクFac_iが所定の閾値トルクFl_i以上であるか否かを判定する(ステップS502)。Fac_i≧Fl_iである場合(ステップS502:Yes)、アクセル開度から決定される要求駆動トルクFac_iがある程度の大きさになっているので、制振トルクFiを車輪Wに付与しても、加速度変化は相対的に小さくなり、車両1に与えるショックも目立たなくなる。したがって、この場合、駆動トルク演算部33は、車輪Wの最終駆動トルクFr_iを上記ステップS109で演算された制振トルクFiとする(ステップS503)。
【0122】
Fac_i<Fl_iである場合(ステップS502:No)、アクセル開度から決定される要求駆動トルクFac_iが低く、制振トルクFiを車輪Wに付与すると、加速度変化が顕著に現れて、車両1に与えるショックが大きくなるおそれがある。したがって、この場合、駆動トルク演算部33は、車輪Wの最終駆動トルクFr_iを0とする(ステップS504)。これによって、アクセル開度から決定される要求駆動トルクFac_iが低い場合における車両1の進行方向前後の加速度変化を抑制できる。
【0123】
上記手順により最終駆動トルクFr_iが決定されたら(ステップS110)、ECU50のCPU50pが備える電動機出力制御部50peは、決定された最終駆動トルクFr_i(Fr_1、Fr_2、Fr_3、Fr_4)で、各車輪W(左側前輪2L、右側前輪2R、左側後輪3L、右側後輪3R)が駆動されるように、各電動機M(左前側電動機10L、右前側電動機10R、左後側電動機11L、右後側電動機11R)の出力を制御する(ステップS111)。
【0124】
これによって、懸架装置にストローク速度検出手段を別個に設けることなく、ばね下の振動を抑制できる。また、車輪回転速度変動を打ち消すように駆動トルクを付与するので、車輪は、車輪回転速度を一定に保つように制御される。これによって、車両1の前後方向における加速度変化を抑えることができるので、制振制御を実行した場合において車両1の挙動変化に与える影響は極めて少ない。
【0125】
動力発生手段に内燃機関を用いる場合には内燃機関の出力を制御したり、駆動力配分が可能な場合には、駆動力配分比や内燃機関の出力を制御したりする。なお、上記説明では、動力発生手段の出力を制御したが、最終駆動トルクを低減する場合には、車両1の制動装置により車輪Wを制動してもよい。
【0126】
(変形例)
図23は、本実施形態の変形例に係る走行装置を示す説明図である。図24は、本実施形態の変形例の制振制御に用いるデータマップの一例を示す説明図である。この走行装置101では、懸架装置が備える減衰力発生手段であるダンパー70の減衰係数ηを変更することにより減衰力を変更することができる。上記実施形態に係る走行装置100(図1参照)では、電動機Mの駆動力を車輪Wの振動抑制手段として、車輪回転速度変動成分を打ち消すように駆動トルクを付与した。本実施形態では、減衰力発生手段であるダンパー70を振動抑制手段とし、車輪回転速度変動成分に応じてダンパー70の減衰係数ηを変更し、ダンパー70の減衰力を変化させる。
【0127】
ダンパー70は、車両1aと懸架装置との間に設けられ、油が充填されたシリンダ内部を、オリフィスを備えるピストンが往復運動する。ピストンは懸架装置の上下動とともにシリンダ内を往復運動し、このときに前記オリフィスを油が通過することにより減衰力を発生させる。このダンパー70は、ECU50内に備えられる駆動制御装置30によって制御される減衰力調整用アクチュエータ71によって、オリフィスの断面積が変更される。これによって、オリフィスを油が通過する際の抵抗が変化するため、ダンパー70の減衰力が変化する。
【0128】
この変形例に係る制振制御では、車輪回転速度変動成分ΔΩiに応じて、振動抑制手段であるダンパー70の減衰係数ηを変更する。例えば、図23に示すデータマップ62のように、レゾルバQから取得される車輪回転速度変動成分ΔΩiが大きくなるにしたがって減衰係数ηを大きし、これによってダンパー70の減衰力を大きくする。このように、ばね下の振動と相関の高い車輪回転速度変動成分ΔΩiに基づいて減衰力を調整するので、ばね下の振動を効果的に抑制することができる。なお、データマップ62を用いるフィードフォワード制御の他、車輪回転速度変動成分ΔΩiを0にするように減衰力を調整するフィードバック制御を行ってもよい。
【0129】
また、この変形例では、ダンパー70の減衰力を変更することによりばね下の振動を抑制するので、電動機Mの出力を調整する必要はない。これによって、駆動力を発生しない車輪(例えば、FF車の後輪のような従動輪)に対しても、効果的にばね下の振動を抑制することができる。なお、従動輪の場合には、例えば、従動輪の回転数を検出する回転数センサのような、車輪回転速度変動成分ΔΩiを検出する手段が必要となる。ABSが車両1に備えられている場合には、車輪回転速度変動成分ΔΩiを検出する手段として、車輪のロックを検出するABSセンサを用いることができる。
【0130】
以上、本実施形態及びその変形例では、懸架装置を介して車両に支持される車輪の回転速度の変動に基づき、懸架装置のばね下の上下振動を抑制する。これによって、懸架装置にストローク速度検出手段を別個に設けることなく、ばね下の振動を抑制できる。さらに、ばね下の振動と相関の高い車輪の回転速度の変動に応じてばね下の振動を抑制するので、ばね下の振動が変化した場合でも、これを効果的に抑制できる。その結果、車輪の接地性を改善できるので、車輪の初期スリップ抑制や、乗り心地の改善に寄与する。
【0131】
特に、ばね下に電動機等の動力発生手段を備える走行装置では、ばね下の質量が大きくなる結果、接地性が低下するおそれが大きくなるが、本実施形態及びその変形例では、ばね下の振動を効果的に抑制できる。また、振動抑制手段として電動機やダンパー等を用いるため、懸架装置の設計を変更することなく、ばね下の振動を効果的に抑制できる。なお、本実施形態及びその変形例で開示した構成を備えるものは、本実施形態及びその変形例と同様の作用、効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0132】
以上のように、本発明に係る走行装置は、ばね下の振動抑制に有用であり、特に、簡易な構成でばね下の振動を抑制することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本実施形態に係る走行装置を備える車両の構成を示す概略図である。
【図2−1】ばね下の振動の周波数分布を示す説明図である。
【図2−2】車輪回転速度の変動の周波数分布を示す説明図である。
【図3】エイリアシングを説明する概念図である。
【図4】本実施形態に係る駆動制御装置の構成例を示す説明図である。
【図5】本実施形態に係る制振制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】本実施形態に係る制振制御に用いる制振制御停止判定マップを示す説明図である。
【図7−1】本実施形態に係る制御停止判定マップの作成手順を示す説明図である。
【図7−2】本実施形態に係る制御停止判定マップの作成手順を示す説明図である。
【図7−3】本実施形態に係る制御停止判定マップの作成手順を示す説明図である。
【図8】本実施形態に係る制振制御の処理ブロック図である。
【図9】本実施形態に係る制振制御における車輪回転速度変動成分の抽出手順を示すフローチャートである。
【図10】バンドパスフィルタを用いた車輪回転速度変動成分の抽出を示す機能ブロック図である。
【図11】推定車輪回転速度等を用いた場合車輪回転速度変動成分の抽出を示す機能ブロック図である。
【図12】車輪回転速度変動成分を抽出する際に用いる重み係数を決定するためのデータマップを示す説明図である。
【図13】車輪回転速度変動成分を抽出する際に用いる重み係数を決定するためのデータマップを示す説明図である。
【図14】車輪の振動状態を説明するための概念図である。
【図15】車輪の振動状態を説明するための概念図である。
【図16】単輪モデルを示す説明図である。
【図17】単輪モデルの運動方程式から求めた付与トルクを与える場合の処理ブロック図である。
【図18】フィードバック制御により車輪回転速度変動成分を抑制するための処理ブロック図である。
【図19】車輪を駆動するための最終駆動トルクを求める手順の一例を示すフローチャートである。
【図20】車輪を駆動するための最終駆動トルクを求める手順の他の例を示すフローチャートである。
【図21】図20に示す車輪を駆動するための最終駆動トルクを求める手順を説明するための説明図である。
【図22】車輪を駆動するための最終駆動トルクを求める手順の他の例を示すフローチャートである。
【図23】本実施形態の変形例に係る走行装置を示す説明図である。
【図24】本実施形態の変形例の制振制御に用いるデータマップの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0134】
1、1a 車両
2R 右側前輪
2L 左側前輪
3L 左側後輪
3R 右側後輪
4 ハンドル
5 アクセル
6 電動機制御回路
7 車載電源
8 電動機用ECU
8d プリドライバ
8i 入力ポート
8p CPU
9 通信回線
10L 左前側電動機
10R 右前側電動機
11L 左後側電動機
11R 右後側電動機
30 駆動制御装置
31 運転条件判定部
32 車輪回転速度変動演算部
33 駆動トルク演算部
40L 左前側電動機用レゾルバ
40R 右前側電動機用レゾルバ
41L 左後側電動機用レゾルバ
41R 右後側電動機用レゾルバ
42 アクセル開度センサ
43 ヨーセンサ
44 車速センサ
45 操舵角センサ
46 駆動電流検出回路
50 ECU
60、61 62 データマップ
63 制御停止判定マップ
70 ダンパー
71 減衰力調整用アクチュエータ
100、101 走行装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸架装置を介して車両に支持される車輪の回転速度を検出する車輪回転速度検出手段と、
前記車輪の回転速度の変動に基づき、前記懸架装置のばね下の上下振動を抑制する振動抑制手段と、を含み、
エイリアシングにより前記車輪の回転速度の変動として誤って認識されるおそれのある振動の周波数が、前記振動抑制手段によって抑制する前記上下振動の周波数の帯域に存在する場合には、前記振動抑制手段による上下振動の抑制を停止することを特徴とする走行装置。
【請求項2】
前記車輪の回転速度の変動として誤って認識されるおそれのある振動の周波数は、
前記上下振動を抑制する制御を行う際の演算を実行する振動抑制用制御装置が、前記制御に必要な情報を取得するときの周波数に基づいて設定されることを特徴とする請求項1に記載の走行装置。
【請求項3】
前記振動抑制手段は、
前記車輪の回転速度の変動を抑制する駆動力を前記車輪に付与することを特徴とする請求項1又は2に記載の走行装置。
【請求項4】
前記車輪が回転する際の運動方程式により規定される前記車輪の回転速度の変動と、前記車輪に作用するトルクとの関係から、前記車輪の回転速度の変動を抑制する駆動力を決定することを特徴とする請求項3に記載の走行装置。
【請求項5】
前記振動抑制手段は、
懸架装置に取り付けられて前記車輪の上下振動を減衰させる減衰力発生手段を備え、前記車輪の回転速度の変動に基づいて前記減衰力発生手段の減衰力を変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の走行装置。
【請求項6】
前記車輪の回転速度の変動は、
前記ばね下の共振周波数を中心とした所定の周波数帯域における前記車輪の回転速度の変動を抽出したものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項7】
前記所定の周波数帯域における前記車輪の回転速度の変動を、フィルタ手段により抽出することを特徴とする請求項6に記載の走行装置。
【請求項8】
前記車輪の回転速度の変動は、
前記車輪の回転速度と、前記車両の車体速度から求めた前記車輪の回転速度との偏差であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項9】
前記車輪の回転速度の変動は、
現在における前記車輪の回転速度と、現在以前の所定期間内において検出した前記車輪の回転速度の平均値との偏差であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項10】
前記車両の直進時においては、前記車輪の回転速度の変動を、前記車輪の回転速度と、前記車両の車体速度から求めた前記車輪の回転速度との偏差とし、
前記車両の旋回中においては、前記車輪の回転速度の変動を、現在における前記車輪の回転速度と、現在以前の所定期間内において検出した前記車輪の回転速度の平均値との偏差とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項11】
前記車輪の回転速度の変動は、
前記ばね下の共振周波数を中心とした所定の周波数帯域における前記車輪の回転速度の変動と、
前記車輪の回転速度と、前記車両の車体速度から求めた前記車輪の回転速度との偏差と、
現在における前記車輪の回転速度と、現在以前の所定期間内において検出した前記車輪の回転速度の平均値との偏差とに、それぞれ所定の重み付けをしてから加算したものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項12】
前記所定の重み付けは、前記車両の車体速度、及び前記車両の旋回に関するパラメータに基づいて決定されることを特徴とする請求項11に記載の走行装置。
【請求項13】
前記車両の旋回に関するパラメータは、少なくとも前記車両の操舵角度及び前記車両のヨーレートであることを特徴とする請求項12に記載の走行装置。
【請求項14】
前記車輪のロックを防止する制御又は前記車輪の駆動力制御のうち少なくとも一方を実行している場合には、前記振動抑制手段によるばね下の上下振動の抑制を停止することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項15】
前記車輪の回転速度の変動を抑制する駆動力を前記車輪に付与する前後において、前記車輪に付与する最終的な駆動トルクが反転する場合には、前記車輪に付与する最終的な駆動力を修正することを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項16】
前記車輪に付与する最終的な駆動トルクが反転する場合には、前記車輪に付与する最終的な駆動力を0にすることを特徴とする請求項15に記載の走行装置。
【請求項17】
前記車輪に付与する最終的な駆動トルクが反転する前後における所定のトルクの範囲内では、前記車輪に付与する最終的な駆動トルクの変化率を前記所定のトルクの範囲外における変化率よりも小さくすることを特徴とする請求項15に記載の走行装置。
【請求項18】
前記車輪を駆動するために要求される駆動トルクが所定の閾値よりも小さい場合には、前記車輪に付与する最終的な駆動トルクを0にすることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項19】
前記車輪の回転速度の変動が所定の条件を満たした場合に、前記振動抑制手段が作動することを特徴とする請求項1〜18のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項20】
前記車輪の回転速度の変動が、所定の回数連続して予め定めた閾値を超えた場合、又は前記車輪の回転速度の変動の絶対値を積算した値が、予め定めた所定の閾値を超えた場合には、前記振動抑制手段が作動することを特徴とする請求項19に記載の走行装置。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−179196(P2008−179196A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12610(P2007−12610)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】