説明

車両およびその制御方法

【課題】後進方向に走行している際の制動時に十分な制動力を得ると共に車両の安定性を確保する。
【解決手段】車両の後進制動時には、前進制動時の前後比よりも後輪の比率が大きくなる荷重に応じた前後比をもって前後輪に制動力が付与されるよう、運転者の踏力に基づいて発生されたマスタシリンダ101のマスタシリンダ圧Pmcをポンプ115,125により加圧して後輪のホイールシリンダ109c,109dの油圧として供給すると共に減圧ソレノイドバルブ113a,123bのオン/オフ制御により減圧して前輪用のホイールシリンダ109a,109bの油圧として供給する。これにより、後進制動時には進行方向として前方に位置する後輪により大きな制動力を付与して十分な制動力を得ると共に前輪がロックするのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両としては、制動時に後輪のブレーキ液圧を減少させて制動力を付与するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この車両では、後輪のブレーキ液圧を減少させることにより、後輪に作用する制動力を小さくし、制動時に後輪がロックするの抑制している。
【特許文献1】特開2005−145430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の車両では、前進方向に走行している際の制動時ではよいが、後進方向に走行している際の制動時では、十分な制動力が得られなかったり、前輪がロックして車両の安定性が損なわれる場合が生じる。後進方向に走行している際の制動では、前輪と後輪とに作用する荷重は後輪の方が大きくなるため、後輪のブレーキ液圧を減少させれば十分な制動力を得ることができない。また、前輪に大きな制動力を付与すれば前輪がロックしてしまう。
【0004】
本発明の車両およびその制御方法は、後進方向に走行している際の制動時でも十分な制動力を得ることを目的の一つとする。また、本発明の車両およびその制御方法は、後進方向に走行している際の制動時における車両の安定性を確保することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両およびその制御方法は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の車両は、
作動流体を調圧可能な調圧手段を有し、運転者の制動要求操作に基づく作動流体の圧力である操作圧力に対しては所定の前後比をもって前後輪に制動力を付与し、該操作圧力と前記調圧手段に基づく作動流体の圧力である調圧圧力とに対しては前記所定の前後比とは異なる前後比をもって前後輪に制動力を付与可能な制動力付与手段と、
車両の進行方向を検出する進行方向検出手段と、
前記制動要求操作がなされたときに前記進行方向検出手段により進行方向として後進方向が検出された後進制動時には、前記調圧手段の作動を伴って前記所定の前後比より後輪の比率が大きくなる前後比をもって制動力が前後輪に付与されるよう前記制動力付与手段を制御する制動時制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0007】
この本発明の車両では、運転者により制動要求操作がなされたときに後進方向に走行している後進制動時には、作動流体を調圧可能な調圧手段の作動を伴って前進方向に走行している際の制動時における所定の前後比より後輪の比率が大きくなる前後比をもって制動力が前後輪に付与されるよう制動力付与手段を制御する。これにより、後進制動時には進行方向として前方に位置する後輪により大きな制動力を付与することができる。この結果、十分な制動力を得ることができる。
【0008】
こうした本発明の車両において、前記制動力付与手段は、前記後進制動時には前記所定の前後比の逆比に基づく前後比をもって制動力が前後輪に付与されるよう前記制動力付与手段を制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、後進制動時には前進の制動時と同様に車両に制動力を付与することができる。この結果、進行方向として後方に位置する前輪がロックするのを抑制することができ、車両の安定性を確保することができる。この場合、前記所定の前後比は、前後輪に付与する制動力が大きくなるほど前輪の比率が大きくなる傾向に設定されてなるものとすることもできる。
【0009】
また、本発明の車両において、前記制動時制御手段は、前記後進制動時には前輪と後輪とに作用する荷重に応じた前後比をもって制動力が前後輪に付与されるよう前記制動力付与手段を制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、後進制動時には荷重に応じた制動力を付与することができる。この結果、車両に十分な制動力を付与することができると共に前輪がロックするのを抑制することができる。
【0010】
さらに、本発明の車両において、前記制動時制御手段は、前記後進制動時には前記調圧手段による調圧を伴って前記後輪に付与する制動力が大きくなるよう制御する手段であるものとすることもできる。この場合、前記制動時制御手段は、前記後進制動時には前記調圧手段による調圧を伴って前記前輪に付与する制動力が小さくなるよう制御する手段であるものとすることもできる。また、本発明の車両において、前記制動力付与手段は、右前輪と左後輪とに制動力を付与する第1系統と、該第1系統における作動流体を調圧する第1調圧手段と、左前輪と右後輪とに制動力を付与する第2系統と、該第2系統における作動流体を調圧する第2調圧手段とを有する手段であるものとすることもできる。
【0011】
あるいは、本発明の車両において、前記後輪に動力を入出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な蓄電手段と、を備え、前記制動時制御手段は、前記後進制動時には前記電動機の回生制御を伴って制動力が前後輪に付与されるよう前記制動力付与手段と前記電動機とを制御可能な手段であるものとすることもできる。こすうれば、後進制動時には電動機の回生制御を用いて車両に制動力を付与することもできる。
【0012】
本発明の車両の制御方法は、
作動流体を調圧可能な調圧手段を有し、運転者の制動要求操作に基づく作動流体の圧力である操作圧力に対しては所定の前後比をもって前後輪に制動力を付与し、該操作圧力と前記調圧手段に基づく作動流体の圧力である調圧圧力とに対しては前記所定の前後比とは異なる前後比をもって前後輪に制動力を付与可能な制動力付与手段を備える車両の制御方法であって、
前記制動要求操作がなされたときに車両が後進方向に走行しているときには、前記調圧手段の作動を伴って前記所定の前後比より後輪の比率が大きくなる前後比をもって制動力が前後輪に付与されるよう前記制動力付与手段を制御する、
ことを特徴とする。
【0013】
この本発明の車両の制御方法では、運転者により制動要求操作がなされたときに後進方向に走行している後進制動時には、作動流体を調圧可能な調圧手段の作動を伴って前輪方向に走行している際の制動時における所定の前後比より後輪の比率が大きくなる前後比をもって制動力が前後輪に付与されるよう制動力付与手段を制御する。これにより、後進制動時には進行方向として前方に位置する後輪により大きな制動力を付与することができる。この結果、十分な制動力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、エンジン22からの動力をトルクコンバータ30や前後進切換機構35、ベルト式の無断変速機(以下「CVT」という)40、ギヤ機構61、デファレンシャルギヤ62を介して前輪65a,65bに出力する前輪駆動系21と、モータ50からの動力をギヤ機構63、デファレンシャルギヤ64および後軸66を介して後輪65c,65dに出力する後輪駆動系51と、前輪65a,65bおよび後輪65c,65dに制動力を付与するための電子制御式油圧ブレーキシステム(以下「HBS」という)100と、ハイブリッド自動車20の全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」という)70とを備える。
【0016】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油といった炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関として構成されており、その出力軸であるクランクシャフト23はトルクコンバータ30に接続されている。また、クランクシャフト23には、ギヤ列25を介してスタータモータ26が接続されると共に、ベルト27等を介してオルタネータ28や機械式オイルポンプ29が接続されている。そして、エンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下「エンジンECU」という)24により運転制御され、エンジンECU24は、クランクシャフト23に取り付けられたクランクポジションセンサ23aからのクランクポジション信号といったエンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号に基づいて燃料噴射量や点火時期,吸入空気量等の制御を行う。また、エンジンECU24は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号に従ってエンジン22を運転制御すると共に、エンジン22の運転状態に関するデータを必要に応じてハイブリッドECU70に出力する。
【0017】
トルクコンバータ30は、ロックアップクラッチ付きの流体式トルクコンバータとして構成されており、エンジン22のクランクシャフト23に接続されたタービンランナ31と前後進切換機構35を介してCVT40のインプットシャフト41に接続されたポンプインペラ32とロックアップクラッチ33とを有している。ロックアップクラッチ33は、後述するCVT用電子制御ユニット(以下「CVTECU」という)46により駆動制御される油圧回路47からの油圧により作動し、必要に応じてトルクコンバータ30のタービンランナ31とポンプインペラ32とをロックアップする。
【0018】
前後進切換機構35は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構とブレーキB1とクラッチC1とから構成されている。遊星歯車機構は、外歯歯車のサンギヤ36と、このサンギヤ36と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ37と、サンギヤ36と噛合する複数の第1ピニオンギヤ38aと、それぞれ対応する第1ピニオンギヤ38aと噛合すると共にリングギヤ37と噛合する複数の第2ピニオンギヤ38bと、複数の第1ピニオンギヤ38aおよび複数の第2ピニオンギヤ38bを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア39とを含む。そして、サンギヤ36にはトルクコンバータ30の出力軸34が、キャリア39にはCVT40のインプットシャフト41がそれぞれ連結されている。また、遊星歯車機構のリングギヤ37は、ブレーキB1を介して図示しないケースに固定可能であり、当該ブレーキB1をオン/オフすることにより、リングギヤ37を自由に回転させたり、その回転を禁止したりすることができる。更に、遊星歯車機構のサンギヤ36とキャリア39とは、クラッチC1を介して互いに連結されており、クラッチC1をオン/オフすることにより、サンギヤ36とキャリア39とを連結したり切り離したりすることができる。このような前後進切換機構35によれば、ブレーキB1をオフすると共にクラッチC1をオンすることによりトルクコンバータ30の出力軸34の回転をそのままCVT40のインプットシャフト41に伝達してハイブリッド自動車20を前進させることができる。また、ブレーキB1をオンすると共にクラッチC1をオフすることによりトルクコンバータ30の出力軸34の回転を逆方向に変換してCVT40のインプットシャフト41に伝達すればハイブリッド自動車20を後進させることができる。更に、ブレーキB1をオフすると共にクラッチC1をオフすることによりトルクコンバータ30の出力軸34とCVT40のインプットシャフト41とを切り離すこともできる。
【0019】
CVT40は、インプットシャフト41に接続された溝幅を変更可能なプライマリプーリ43と、同様に溝幅を変更可能であって駆動軸としてのアウトプットシャフト42に接続されたセカンダリプーリ44と、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の溝に巻き掛けられたベルト45とを含む。プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の溝幅は、CVTECU46により駆動制御される油圧回路47からの油圧により変更され得るものであり、これにより、インプットシャフト41に入力した動力を無段階に変速してアウトプットシャフト42に出力することが可能となる。また、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の溝幅の変更は、上述のように変速比を変更する場合だけではなく、CVT40の伝達トルク容量を調節するためのベルト45の狭圧力を制御する際にも行なわれる。油圧回路47は、モータ60aにより駆動される電動オイルポンプ60とエンジン22により駆動される機械式オイルポンプ29とから供給される作動油の油圧や油量を調整してプライマリプーリ43やセカンダリプーリ44、トルクコンバータ30(ロックアップクラッチ33)、ブレーキB1、クラッチC1等に供給可能なものである。そして、CVTECU46には、インプットシャフト41に取り付けられた回転数センサ48からのインプットシャフト41の回転数Ninやアウトプットシャフト42に取り付けられた回転数センサ49からのアウトプットシャフト42の回転数Nout等が入力され、CVTECU46は、これらの情報に基づいて油圧回路47への駆動信号を生成、出力する。更に、CVTECU46は、前後進切換機構35のブレーキB1およびクラッチC1のオン/オフ制御やトルクコンバータ30のロックアップ制御をも実行する。更に、CVTECU46は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号に従ってCVT40の変速比を制御すると共に必要に応じてインプットシャフト41の回転数Ninやアウトプットシャフト42の回転数NoutといったCVT40の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0020】
モータ50は、発電機として機能すると共に電動機としても機能し得る同期発電電動機であり、インバータ52を介してエンジン22により駆動されるオルタネータ28や、当該オルタネータ28からの電力ラインに出力端子が接続された高圧バッテリ(例えば定格電圧42Vの二次電池)55に接続されている。これにより、モータ50は、オルタネータ28や高圧バッテリ55からの電力により駆動されたり、回生を行って発電した電力により高圧バッテリ55を充電したりすることができる。また、モータ50は、モータ用電子制御ユニット(以下「モータECU」という)53によって駆動制御される。モータECU53には、モータ50を駆動制御するために必要な信号、例えばモータ50の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ50aからの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータ50への相電流値等が入力されており、モータECU53は、これらの信号等に基づいてインバータ52のスイッチング素子へのスイッチング信号を生成、出力する。また、モータECU53は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号に従ってインバータ52へのスイッチング制御信号を出力することによりモータ50を駆動制御すると共にモータ50の運転状態に関するデータを必要に応じてハイブリッドECU70に出力する。なお、高圧バッテリ55には、電圧を変換するDC/DCコンバータ56を介して低圧バッテリ57が接続されており、高圧バッテリ55側からの電力が電圧変換されて低圧バッテリ57側へ供給されるようになっている。低圧バッテリ57は、上述の電動オイルポンプ60を始めとする各種補機類の電源として用いられる。そして、高圧バッテリ55と低圧バッテリ57とは、バッテリ用電子制御ユニット(以下「バッテリECU」という)58により管理されている。このバッテリECU58は、バッテリ55,57の出力端子(図示せず)に取り付けられた図示しない電圧センサからの端子間電圧や電流センサからの充放電電流、温度センサからの電池温度などに基づいて残容量SOCや入出力制限等を算出する。更に、バッテリECU58は、ハイブリッドECU70等と通信しており、必要に応じて残容量SOC等のデータをハイブリッドECU70等に出力する。
【0021】
続いて、ハイブリッド自動車20に備えられたHBS100について説明する。HBS100は、マスタシリンダ101やブレーキアクチュエータ102、前輪65a,65bや後輪65c,65dに設けられたホイールシリンダ109a〜109d等を含み、基本的に、ブレーキペダル85に作用する運転者の踏力に応じてマスタシリンダ101により発生された操作圧力としてのマスタシリンダ圧Pmcをブレーキアクチュエータ102を介して前輪65a,65bおよび後輪65c,65dのホイールシリンダ109a〜109dに供給することにより、前輪65a,65bおよび後輪65c,65dにマスタシリンダ圧Pmcに基づく制動力を付与するものである。実施例では、マスタシリンダ101に対して、運転者による制動要求操作をアシストするブレーキブースタ103が設けられており、運転者による踏力とブレーキブースタ圧とに応じたマスタシリンダ圧Pmcが発生されることになる。
【0022】
ブレーキアクチュエータ102は、上述の低圧バッテリ57を電源として作動し、マスタシリンダ101により発生されるマスタシリンダ圧Pmcを調圧してホイールシリンダ109a〜109bに供給すると共に、運転者によるブレーキペダル85の踏み込みに拘わらず、前輪65a,65bや後輪65c,65dに制動力が付与されるようにホイールシリンダ109a〜109dにおける油圧を調整可能なものである。図2は、ブレーキアクチュエータ102の構成の概略を示す系統図である。同図に示すように、ブレーキアクチュエータ102は、いわゆるクロス(X)配管型のアクチュエータとして構成されており、右側の前輪65aおよび左側の後輪65dのための第1系統110と左側の前輪65bおよび右側の後輪65cのための第2系統120とから構成されている。すなわち、実施例のハイブリッド自動車20では、前輪65a,65bを駆動するためのエンジン22が車両前部に配置される関係上、重量バランスが前寄りとなることから、第1系統110と第2系統120との何れかが失陥しても、前輪65a,65bの何れかに制動力を付与し得るようにクロス配管型のブレーキアクチュエータ102が採用されている。
【0023】
第1系統110は、供給油路L10を介してマスタシリンダ101に接続されたマスタシリンダカットソレノイドバルブ(以下「MCカットソレノイドバルブ」という)111と、供給油路L11を介してそれぞれMCカットソレノイドバルブ111に接続されると共に加減圧油路L12aまたはL12dを介して右側の前輪65aのホイールシリンダ109aまたは左側の後輪65dのホイールシリンダ109dに接続された保持ソレノイドバルブ112a,112dと、同様に加減圧油路L12aまたはL12dを介して右側の前輪65aのホイールシリンダ109aまたは左側の後輪65dのホイールシリンダ109dに接続された減圧ソレノイドバルブ113a,113dと、減圧油路L13を介して減圧ソレノイドバルブ113a,113dと接続されると共に油路L14を介して供給油路L10と接続されたリザーバ114と、その吸入口が油路L15を介してリザーバ114と接続されると共にその吐出口が逆止弁116を有する油路L16を介して供給油路L11と接続されたポンプ115とを含む。同様に、第2系統120は、供給油路L20を介してマスタシリンダ101に接続されたMCカットソレノイドバルブ121と、供給油路L21を介してそれぞれMCカットソレノイドバルブ121に接続されると共に加減圧油路L22bまたはL22cを介して左側の前輪65bのホイールシリンダ109bまたは右側の後輪65cのホイールシリンダ109cに接続された保持ソレノイドバルブ122b,122cと、同様に加減圧油路L22bまたはL22cを介して左側の前輪65bのホイールシリンダ109bまたは右側の後輪65cのホイールシリンダ109cに接続された減圧ソレノイドバルブ123b,123cと、減圧油路L23を介して減圧ソレノイドバルブ123b,123cと接続されると共に油路L24を介して供給油路L20と接続されたリザーバ124と、その吸入口が油路L25を介してリザーバ124と接続されると共にその吐出口が逆止弁126を有する油路L26を介して供給油路L21と接続されたポンプ125とを含む。
【0024】
第1系統110のMCカットソレノイドバルブ111、保持ソレノイドバルブ112a,112d、減圧ソレノイドバルブ113a,113d、リザーバ114、ポンプ115、逆止弁116と、第2系統120のMCカットソレノイドバルブ121、保持ソレノイドバルブ122b,122c、減圧ソレノイドバルブ123b,123c、リザーバ124、ポンプ125、逆止弁126とは、対応するもの同士それぞれ同一のものとされている。MCカットソレノイドバルブ111,121は、何れも非通電時(オフ時)に全開しており、ソレノイドに供給される電流を制御することにより開度調整可能なリニアソレノイドバルブである。保持ソレノイドバルブ112a,112d,122b,122cは、通電時(オン時)に閉成される常開型ソレノイドバルブであり、オンされて閉成しているときにホイールシリンダ109a〜109dにおける油圧(ホイールシリンダ圧)が供給油路L11,L21における油圧よりも高ければブレーキオイルを供給油路L11,L21側に戻すように作動する逆止弁を有している。また、減圧ソレノイドバルブ113a,113d,123b,123cは、通電時(オン時)に開成される常閉型ソレノイドバルブである。更に、第1系統110のポンプ115と第2系統120のポンプ125とは、図示しない単一のまたはそれぞれの駆動用モータ(例えばデューティ制御されるブラシレスDCモータ)により駆動され、それぞれ対応するリザーバ114または124内のブレーキオイルを吸入・加圧して油路L16またはL26へと供給する。
【0025】
上述のように構成されるブレーキアクチュエータ102の動作について説明すると、MCカットソレノイドバルブ111,121、保持ソレノイドバルブ112a,112d,122b,122cおよび減圧ソレノイドバルブ113a,113d,123b,123cのすべてがオフされているブレーキアクチュエータ102の基本作動状態(図2に示す状態)で運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれると、マスタシリンダ101によって運転者による踏力とブレーキブースタ圧とに応じたマスタシリンダ圧Pmcが発生され、これによりブレーキオイルが供給油路L10,L20、MCカットソレノイドバルブ111,121、供給油路L11,L21、保持ソレノイドバルブ112a〜122c、加減圧油路L12a〜L22cを介してホイールシリンダ109a〜109dに供給されるので、マスタシリンダ圧Pmcに基づく制動力を前輪65a,65bや後輪65c,65dに付与することが可能となる。更に、前輪65a,65bや後輪65c,65dに制動力が付与されているときに、保持ソレノイドバルブ112a〜122cをオンして閉成させれば、ホイールシリンダ109a〜109dにおける油圧を保持することができる。また、減圧ソレノイドバルブ113a〜123cをオンして開成させれば、ホイールシリンダ109a〜109d内のブレーキオイルを加減圧油路L12a〜L22c、減圧ソレノイドバルブ113a〜123c、減圧油路L13,L23を介してリザーバ114,124へと導きホイールシリンダ109a〜109dにおけるホイールシリンダ圧を減少させることができる。これにより、ブレーキアクチュエータ102によれば、運転者がブレーキペダル85を踏み込んだときに前輪65a,65bや後輪65c,65dの何れかがロックしてスリップするのを防止するアンチロックブレーキ(ABS)制御を実行することが可能となる。
【0026】
加えて、運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれたときに、MCカットソレノイドバルブ111,121の開度を小さくすると共にポンプ115,125を作動させれば、マスタシリンダ101のリザーバ106からのブレーキオイルがブレーキアクチュエータ102のリザーバ114,124へと導かれるようになり、ホイールシリンダ109a〜109dには、油路L16,L26、保持ソレノイドバルブ112a〜122c、加減圧油路L12a〜L22cを介して、マスタシリンダ101からリザーバ114,124へと導かれたブレーキオイルがポンプ115,125により増圧されて供給されることになる。すなわち、MCカットソレノイドバルブ111,121を開度調整しながらポンプ115,125を作動させれば、いわゆるブレーキアシストが実行され、マスタシリンダ圧Pmcとポンプ115,125の加圧により発生される圧力(ポンプ115,125による増圧分)との和に基づく制動力を得ることが可能となる。この際、更に保持ソレノイドバルブ112a〜122cや減圧ソレノイドバルブ113a〜123cを個別にオン/オフ制御すれば、ホイールシリンダ109a〜109dにおける油圧を個別かつ自在に調節することが可能となる。
【0027】
そして、上述のブレーキアクチュエータ102、すなわちMCカットソレノイドバルブ111,121、保持ソレノイドバルブ112a〜122c、減圧ソレノイドバルブ113a〜123c、ポンプ115,125等は、ブレーキ用電子制御ユニット(以下「ブレーキECU」という)105によって駆動制御される。ブレーキECU105には、マスタシリンダ101により発生されたマスタシリンダ圧Pmcを検出するマスタシリンダ圧センサ101aからのマスタシリンダ圧Pmc、主にブレーキアクチュエータ102の欠陥時に用いられるブレーキペダル85に設けられた踏力検出スイッチ86からの信号、更に前輪65a,65bや後輪65c,65dに設けられた図示しない車輪速センサからの車輪速等が入力される。また、ブレーキECU105は、ハイブリッドECU70やモータECU53、バッテリECU58と通信しており、上述のマスタシリンダ圧Pmcや高圧バッテリ55の残容量SOC、モータ50の回転数Nm、ハイブリッドECU70からの制御信号等に基づいてブレーキアクチュエータ102を駆動制御してブレーキアシスト、ABS制御等を実行すると共に必要に応じてブレーキアクチュエータ102等の作動状態に関するデータ等をハイブリッドECU70やモータECU53、バッテリECU58等に出力する。
【0028】
ハイブリッドECU70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポート等とを備える。ハイブリッドECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号や、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc、踏力検出スイッチ86からの信号、車速センサ87からの車速V、車両の前後方向の加速度を検出するGセンサ88からの加速度αなどが入力ポートを介して入力されている。そして、ハイブリッドECU70は、これらの信号等に基づいて各種制御信号等を生成し、上述のように、エンジンECU24やCVTECU46、モータECU53、バッテリECU58、ブレーキECU105等と、通信により各種制御信号やデータのやり取りを行う。また、ハイブリッドECU70からは、クランクシャフト23に連結されたスタータモータ26やオルタネータ28への駆動信号、電動オイルポンプ60のモータ60aへの制御信号等が出力ポートを介して出力される。
【0029】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、まず、車両が前進方向に走行している際の動作について説明し、その後、後進方向に走行している際の動作について説明する。前進方向に走行している際に運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれると、運転者の踏力とブレーキブースタ圧とに応じて発生されたマスタシリンダ圧Pmcを基本作動状態のブレーキアクチュエータ102を介してホイールシリンダ109a〜109dにおける油圧(ホイールシリンダ圧)として供給することにより、前輪65a,65bおよび後輪65c,65dにマスタシリンダ圧に応じた制動力を付与する。前進方向に走行している際の制動時には重量バランスが停車時よりも前寄りとなるため、実施例では、ブレーキアクチュエータ102が基本作動状態のときには前輪65a,65bのホイールシリンダ圧による摩擦制動力と後輪65c,65dのホイールシリンダ圧による摩擦制動力との前後比が停車時の荷重分配比よりも前輪側の比率が大きくなるよう予め調整されている。すなわち、マスタシリンダ101からのブレーキオイルをホイールシリンダ109a〜109dに供給する加減圧油路L12a〜L22cの配管径や摩擦制動力を発生するディスクブレーキやドラムブレーキといった摩擦ブレーキユニットのロータ外径やパッドの摩擦係数などの諸元が予め調整され、停車時の荷重分配比(例えば定員乗車時での前後比6対4など)よりも前輪側の比率が大きくなる前後比をもって前輪65a,65bおよび後輪65c,65dにマスタシリンダ圧に応じた制動力を付与する。
【0030】
続いて、車両が後進方向に走行している際の動作について説明する。図3は、ブレーキECU105により実行される後進制動時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、シフトポジションSPとしてリバースポジションを入力した状態でブレーキペダル85が踏み込まれたときに、所定時間毎(例えば数十msec毎)に繰り返し実行される。
【0031】
後進制動時制御ルーチンが実行されると、ブレーキECU105の図示しないCPUは、まず、マスタシリンダ圧センサ101aからのマスタシリンダ圧PmcやGセンサ88からの加速度αなど制御に必要なデータを入力する処理を実行し(ステップS100)、次式(1)に示すように入力したマスタシリンダ圧Pmcにマスタシリンダ101のシリンダ面積Sを乗じたものをブレーキペダル85のペダル比Kpdとブレーキブースタ103のサーボ比Kbbとの積で除することによりブレーキペダル85に加えられたペダル踏力Fpdを計算して(ステップS110)、計算したペダル踏力Fpdに基づいて車両に要求される要求制動力T*を設定する(ステップS120)。ここで、シリンダ面積Sやペダル比Kpd,サーボ比Kbbについては、ブレーキECU105の図示しないROMに予め記憶したものを用いるものとした。また、要求制動力T*の設定は、実施例では、ペダル踏力Fpdと要求制動力T*との関係を予め定めて要求制動力設定用マップとしてROMに記憶しておき、ペダル踏力Fpdが与えられるとマップから対応する要求制動力T*を導出するよことにより設定するものとした。なお、ブレーキブースタ103がエンジン22により発生される負圧を用いる場合には、サーボ比Kbbについては、ブレーキブースタ103内の負圧とサーボ比との関係を予め定めてサーボ比導出用マップとしてROMに記憶しておきブレーキブースタ103内の圧力を検出する図示しない圧力センサからの負圧を与えてマップから対応するサーボ比Kbbを導出したものを用いるものとしてもよい。
【0032】
Fpd=(Pmc・S)/(Kpd・Kbb) (1)
【0033】
こうして要求制動力T*を設定すると、車両の質量Mと重力加速度gとの積として計算される車重Mgに前後輪の車軸間の長さであるホイールベース長Lに対する前輪65a,65bの車軸から車両の重心位置までの水平方向の長さLfの割合を乗じて停車時に後輪65c,65dに作用する荷重である停車時後輪荷重Mr(=Mg・Lf/L)を計算すると共に、車重Mgから停車時後輪荷重Mrを減じて停車時に前輪65a,65bに作用する荷重である停車時前輪荷重Mf(=Mg−Mr)を計算する(ステップS130)。ここで、車両の質量M,重力加速度g,ホイールベース長L,長さLfについては、予めROMに記憶したものを用いるものとしたが、車両の質量Mについては乗員や積載物の重量も含めた総重量としての車重Mgを検出可能なセンサにより検出された値により求めるものとしてもよい。
【0034】
続いて、計算した停車時後輪荷重Mrや停車時前輪荷重Mfと入力した加速度αと車両の質量Mと前後輪の車軸の高さから車両の重心位置の高さまでの垂直方向の長さである重心高Hとに基づいて次式(2)により走行時に後輪65c,65dに作用する荷重である走行時後輪荷重Mrdを計算すると共に、次式(3)により走行時に前輪65a,65bに作用する荷重である走行時前輪荷重Mfdを計算する(ステップS140)。ここで、重心高Hについては、予めROMに記憶したものを用いるものとした。いま、車両の後進制動時を考えているから加速度αは正の値となり、走行時後輪荷重Mrdは停車時後輪荷重Mrよりも大きな値となる。
【0035】
Mrd=Mr+α・M・H/L (2)
Mfd=Mf−α・M・H/L (3)
【0036】
次に、走行時前輪荷重Mfdと走行時後輪荷重Mrdとの和で走行時後輪荷重Mrdを除して後輪荷重分配比Dr(=Mrd/(Mfd+Mrd))を計算し(ステップS150)、計算した後輪荷重分配比Drに要求制動力T*を乗じて後輪65c,65dに要求される後輪要求制動力Tr*を設定すると共に値1から後輪荷重分配比Drを減じた前輪荷重分配比(=1−Dr)に要求制動力T*を乗じて前輪65a,65bに要求される前輪要求制動力Tf*を設定する(ステップS160)。
【0037】
こうして前輪要求制動力Tf*を設定すると、車両に要求される要求制動力T*に基づいてMCカットソレノイドバルブ111,121の開度を変化させるための指令電流値Iおよびポンプ115,125に対する指令デューティ比d1を設定すると共に設定した要求制動力T*と前輪要求制動力Tf*とに基づいて前輪用の減圧ソレノイドバルブ113a,123bに対する指令デューティ比d2を設定する(ステップS170)。ここで、指令電流値Iおよび指令デューティ比d1は、MCカットソレノイドバルブ111,121を開度調整しながらポンプ115,125を作動させることによりブレーキオイルのマスタシリンダ圧Pmcとポンプ115,125による加圧圧力との和に基づいて要求制動力T*を前後輪に付与するためのものであり、指令デューティ比d2は、前輪用の減圧ソレノイドバルブ113a,123bをオン/オフ制御することによりポンプ115,125によって加圧されたブレーキオイルを減圧して前輪要求制動力Tf*を前輪65a,65bに付与するためのものである。指令電流値I,指令デューティ比d1の設定は、実施例では、要求制動力T*と指令電流値I,指令デューティ比d1との関係を予め定めて指令電流値設定用マップ,ポンプ指令デューティ比設定用マップとしてROMに記憶しておき、要求制動力T*が与えられるとマップから対応する指令電流値I,指令デューティ比d1を導出するよことにより設定するものとした。また、指令デューティ比d2の設定は、実施例では、要求制動力T*と前輪要求制動力Tf*と指令デューティ比d2との関係を予め定めて減圧弁指令デューティ比設定用マップとしてROMに記憶しておき、要求制動力T*と前輪要求制動力Tf*とが与えられるとマップから対応する指令デューティ比d2を導出するよことにより設定するものとした。そして、設定した指令電流値Iに基づいてMCカットソレノイドバルブ111,121のソレノイドを駆動制御すると共に設定した指令デューティ比d1に基づいてポンプ115,125のモータを駆動制御し、設定した指令デューティ比d2に基づいて前輪用の減圧ソレノイドバルブ113a,123bのソレノイドを駆動制御して(ステップS180)、本ルーチンを終了する。このように、後進制動時には運転者の踏力に基づいて発生されたマスタシリンダ圧Pmcをポンプ115,125により加圧して後輪65c,65dのホイールシリンダ圧として供給すると共に減圧ソレノイドバルブ113a,123bのオン/オフ制御により減圧して前輪65a,65bのホイールシリンダ圧として供給する。これにより、後輪65c,65dには前進制動時に付与する制動力よりも大きな制動力としての後輪要求制動力Tr*を付与すると共に前輪65a,65bには前進制動時に付与する制動力よりも小さな制動力としての前輪要求制動力Tf*を付与することができる。この結果、後進制動時には進行方向として前方に位置する後輪65c,65dにより大きな制動力を付与するよう要求制動力T*を荷重に応じて前後輪に分配して付与することができるから、十分な制動力を得ることができると共に前輪65a,65bがロックするのを抑制することができる。
【0038】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、車両の後進制動時には前進制動時の前後比よりも後輪側の比率が大きくなる前後比をもって前後輪に制動力が付与されるようMCカットソレノイドバルブ111,121やポンプ115,125,前輪用の減圧ソレノイドバルブ113a,123bを駆動制御するから、後進制動時には進行方向として前方に位置する後輪65c,65dにより大きな制動力を付与することができ、この結果、十分な制動力を得ることができる。しかも、後進制動時には後輪荷重分配比Drをもって前後輪に要求制動力T*が付与されるよう制御するから、荷重に応じた制動力を付与することができ、この結果、車両に十分な制動力を付与することができると共に前輪65a,65bがロックするのを抑制することができる。
【0039】
実施例のハイブリッド自動車20では、シフトポジションSPとしてリバースポジションを入力した状態でブレーキペダル85が踏み込まれたときの処理として説明したが、登り勾配をずり下がる場合などを含め検出された車速Vが値0未満のときに制動するときの処理としてもよい。
【0040】
実施例のハイブリッド自動車20では、ブレーキアクチュエータ102が基本作動状態のときには、停車時の荷重分配比よりも前輪側の比率が大きくなる前後比をもって制動力を前後輪に付与するよう予め調整されているものとしたが、荷重分配比に基づかずに所定の前後比をもって制動力を前後輪に付与するよう予め調整されているものとしてもよい。
【0041】
実施例のハイブリッド自動車20では、後進制動時には、停車時の荷重分配比よりも後輪側の比率が大きくなる前後比をもって前後輪に制動力が付与されるよう制御するものとしたが、前進制動時に前後輪に付与する制動力の前後比より後輪側の比率が大きくなる前後比をもって制動力が付与されるよう制御するものであれば、停車時の荷重分配比よりも前輪側の比率が大きくなる前後比をもって前後輪に制動力が付与されるよう制御するものとしてもよい。この場合、後進制動時には前進制動時に前後輪に付与する制動力の前後比の逆比に基づく前後比をもって制動力が付与されるようブレーキアクチュエータ102を制御するものとしてもよいし、さらに、ブレーキアクチュエータ102が基本作動状態のときには前後輪に付与する制動力が大きくなるほど前輪側の比率が大きくなる傾向に設定されてなる前後比をもってマスタシリンダ圧に応じた制動力を付与するものとしてもよい。この場合には、実施例の制動時制御ルーチンのステップS130〜S160に代えて、図4に例示する後進制動時の前後輪要求制動力設定用マップを用いて前後輪要求制動力Tf*,Tr*を設定するものとすればよく、図4の後進制動時の前後輪要求制動力設定用マップは、図5に例示するブレーキアクチュエータ102が基本作動状態のとき即ち前進制動時の前後輪制動力配分マップにおける前後比の逆比に基づくものとすればよい。こうすれば、後進制動時には前進制動時と同様に車両に制動力を付与することができる。この結果、後進制動時には進行方向として後方に位置する前輪65a,65bがロックするのを抑制することができ、車両の安定性を確保することができる。
【0042】
実施例のハイブリッド自動車20では、ブレーキアクチュエータ102は、いわゆるクロス配管型のブレーキアクチュエータとして構成されてなるものとしたが、前輪65a,65bに制動力を付与する前輪系統と後輪65c,65dに制動力を付与する後輪系統とを有するいわゆる前後配管型のブレーキアクチュエータとして構成されてなるものとしてもよい。
【0043】
実施例のハイブリッド自動車20では、後進制動時には要求制動力T*が前後輪に付与されるようブレーキアクチュエータ102を制御するものとしたが、後輪65c,65dに制動力を出力するモータ50の回生制御を伴って要求制動力T*が前後輪に付与されるようブレーキアクチュエータ102とモータ50とを制御するものとしてもよい。また、実施例のハイブリッド自動車20では、前輪駆動系21の動力源として内燃機関であるエンジン22を用いるものとしたが、前輪駆動系21の動力源としてモータなどの他の動力源を用いるものとしてもよい。
【0044】
実施例のハイブリッド自動車20では、変速機として無段変速機のCVT40を備えるものとしたが、こうしたCVT40に限定されるものではなく、トロイダル式などの他のタイプの無段変速機を用いるものとしても構わない。
【0045】
実施例では、ハイブリッド自動車20として説明したが、列車などの自動車以外の車両に適用するものとしてもよいし、自動車や列車を含む車両の制御方法の形態としても構わない。
【0046】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、車両の製造産業などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】実施例のハイブリッド自動車20が備えるHBS100のブレーキアクチュエータ102の構成の概略を示す系統図である。
【図3】ブレーキECU105により実行される後進制動時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】後進制動時の前後輪要求制動力設定用マップの一例を示す説明図である。
【図5】前進制動時の前後輪制動力配分マップの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
20 ハイブリッド自動車、21 前輪駆動系、22 エンジン、23 クランクシャフト、23a クランクポジションセンサ、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、25 ギヤ列、26 スタータモータ、27 ベルト、28 オルタネータ、29 機械式オイルポンプ、30 トルクコンバータ、31 タービンランナ、32 ポンプインペラ、33 ロックアップクラッチ、34 出力軸、35 前後進切換機構、36 サンギヤ、37 リングギヤ、38a 第1ピニオンギヤ、38b 第2ピニオンギヤ、39 キャリア、40 CVT、41 インプットシャフト、42 アウトプットシャフト、43 プライマリプーリ、44 セカンダリプーリ、45 ベルト、46 CVT用電子制御ユニット(CVTECU)、47 油圧回路、48,49 回転数センサ、50 モータ、50a 回転位置検出センサ、51 後輪駆動、52 インバータ、53 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、55 高圧バッテリ、56 DC/DCコンバータ、57 低圧バッテリ、58 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、60 電動オイルポンプ、60a モータ、61,63 ギヤ機構、62,64 デファレンシャルギヤ、65a,65b 前輪、65c,65d 後輪、66 後軸、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 踏力検出スイッチ、87 車速センサ、88 Gセンサ、100 電子制御式油圧ブレーキシステム(HBS)、101 マスタシリンダ、101a マスタシリンダ圧センサ、102 ブレーキアクチュエータ、103 ブレーキブースタ、105 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU)、106 リザーバ、109a,109b,109c,109d ホイールシリンダ、110 第1系統、111,121 MCカットソレノイドバルブ、112a,112d,122b,122c 保持ソレノイドバルブ、113a,113d,123b,123c 減圧ソレノイドバルブ、114,124 リザーバ、115,125 ポンプ、116,126 逆止弁、120 第2系統、B1 ブレーキ、C1 クラッチ、L10,L11,L20,L21 供給油路、L12a,L12d,L22b,L22c 加減圧油路、L13,L23 減圧油路、L14,L15,L16,L24,L25,L26 油路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を調圧可能な調圧手段を有し、運転者の制動要求操作に基づく作動流体の圧力である操作圧力に対しては所定の前後比をもって前後輪に制動力を付与し、該操作圧力と前記調圧手段に基づく作動流体の圧力である調圧圧力とに対しては前記所定の前後比とは異なる前後比をもって前後輪に制動力を付与可能な制動力付与手段と、
車両の進行方向を検出する進行方向検出手段と、
前記制動要求操作がなされたときに前記進行方向検出手段により進行方向として後進方向が検出された後進制動時には、前記調圧手段の作動を伴って前記所定の前後比より後輪の比率が大きくなる前後比をもって制動力が前後輪に付与されるよう前記制動力付与手段を制御する制動時制御手段と、
を備える車両。
【請求項2】
前記制動力付与手段は、前記後進制動時には前記所定の前後比の逆比に基づく前後比をもって制動力が前後輪に付与されるよう前記制動力付与手段を制御する手段である請求項1記載の車両。
【請求項3】
前記所定の前後比は、前後輪に付与する制動力が大きくなるほど前輪の比率が大きくなる傾向に設定されてなる請求項2記載の車両。
【請求項4】
前記制動時制御手段は、前記後進制動時には前輪と後輪とに作用する荷重に応じた前後比をもって制動力が前後輪に付与されるよう前記制動力付与手段を制御する手段である請求項1記載の車両。
【請求項5】
前記制動時制御手段は、前記後進制動時には前記調圧手段による調圧を伴って前記後輪に付与する制動力が大きくなるよう制御する手段である請求項1ないし4いずれか記載の車両。
【請求項6】
前記制動時制御手段は、前記後進制動時には前記調圧手段による調圧を伴って前記前輪に付与する制動力が小さくなるよう制御する手段である請求項5記載の車両。
【請求項7】
前記制動力付与手段は、右前輪と左後輪とに制動力を付与する第1系統と、該第1系統における作動流体を調圧する第1調圧手段と、左前輪と右後輪とに制動力を付与する第2系統と、該第2系統における作動流体を調圧する第2調圧手段とを有する手段である請求項1ないし6いずれか記載の車両。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれか記載の車両であって、
前記後輪に動力を入出力可能な電動機と、
前記電動機と電力のやりとりが可能な蓄電手段と、
を備え、
前記制動時制御手段は、前記後進制動時には前記電動機の回生制御を伴って制動力が前後輪に付与されるよう前記制動力付与手段と前記電動機とを制御可能な手段である
車両。
【請求項9】
作動流体を調圧可能な調圧手段を有し、運転者の制動要求操作に基づく作動流体の圧力である操作圧力に対しては所定の前後比をもって前後輪に制動力を付与し、該操作圧力と前記調圧手段に基づく作動流体の圧力である調圧圧力とに対しては前記所定の前後比とは異なる前後比をもって前後輪に制動力を付与可能な制動力付与手段を備える車両の制御方法であって、
前記制動要求操作がなされたときに車両が後進方向に走行しているときには、前記調圧手段の作動を伴って前記所定の前後比より後輪の比率が大きくなる前後比をもって制動力が前後輪に付与されるよう前記制動力付与手段を制御する、
ことを特徴とする車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−302064(P2007−302064A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130699(P2006−130699)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】