説明

車両用制御装置

【課題】車両発進直後のブレーキ操作時には既に錆取りが行われていることを保証すること。
【解決手段】車両の主電源(イグニッションスイッチ43)オン時に、ディスクロータ15の摩擦面15Aの発錆が検出されている場合には、摩擦制動手段19が摩擦制動力を発生する制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関し、更に詳細には、車両発進時に摩擦制動用回転部材の摩擦面の錆取りを行う車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、車輪の回転に応じて回転するディスクロータ等の制動用回転部材の摩擦面に摩擦制動力を発生する摩擦制動装置(油圧ブレーキ)が設けられている。
【0003】
制動用回転部材は金属製であるため、摩擦制動が長期間に亘って行われないと、制動用回転部材の摩擦面に錆が発生する。この摩擦面の発錆は、制動性能を変動させたり、外観商品性を低下させたりする原因になる。
【0004】
このことに対して、車両の発進時に、ブレーキペダルの操作に関係なく摩擦制動手段が摩擦制動力を発生するよう制御し、制動用回転部材の摩擦面に生じた錆を車両発進時に除去する錆取り制動を行うことが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−132906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の車両発進時の錆取り制動では、車両発進後に、摩擦面の発錆を検出しているため、車両発進と同時に錆取り制動を行うことができず、車両発進直後のブレーキ操作時に錆取りが行われていない状態になることがある。また、従来の車両発進時の錆取り制動では、擦面の発錆量に応じて錆取り制動の実行時間を設定しているが、摩擦面の発錆量を考慮せずに、一義的に決められた押付力(摩擦制動力)をもって摩擦制動を行っているため、錆取りに時間を要し、発錆量が多い場合には、車両発進後の初回のブレーキ操作時に充分な錆取りが行われていない状態になることがなる。
【0007】
このことに対して、車両発進時の錆取り制動の摩擦制動力を大きくすると、錆取りの時間短縮が図られ、発錆量が多い場合でも、イグニッションスイッチ・オン後の初回のブレーキ操作時に充分な錆取りが行われていることを保証できる。しかし、車両発進時の錆取り制動の摩擦制動力を大きくすると、制動による引き摺り、つまり車両駆動抵抗が大きくなり、エネルギ経済性(燃料経済性)が悪化することになる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、車両発進直後のブレーキ操作時には既に錆取りが行われていることを保証し、更には、車両発進時に摩擦面の発錆度合いに応じて摩擦面の錆取りが早期に短時間で行われることを保証し、併せてエネルギ経済性(燃料経済性)の悪化を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による車両用制御装置は、車両の車輪の回転に応じて回転する制動用回転部材(15)の摩擦面(15A)に摩擦制動力を発生させる摩擦制動手段(19)を有する車両の制御装置において、車両の主電源オン時に前記制動用回転部材(15)の摩擦面(15A)の発錆を検知する摩擦面発錆検知手段(49)と、車両の主電源オン後の初回の発進時に前記摩擦面発錆検知手段(49)により前記摩擦面(15A)の発錆が検出されている場合には前記摩擦制動手段(19)が摩擦制動力を発生する制御を行う制動制御手段(47)とを有する。
【0010】
この構成によれば、摩擦面発錆検知手段(49)は車両発進に先立って車両の主電源オン時に制動用回転部材(15)の摩擦面(15A)の発錆を検知するから、制動用回転部材(15)の摩擦面(15A)が発錆していれば、車両の主電源オン後の初回の発進と同時に錆取りための制動が開始され、車両発進直後のブレーキ操作時には既に錆取りが行われていることを保証することができる。
【0011】
本発明による車両用制御装置は、好ましくは、前記摩擦面発錆検知手段(49)は前記制動用回転部材の摩擦面の発錆量を定量的に検知し、前記制動制御手段(47)は、前記摩擦面発錆検知手段(49)により検知される前記摩擦面(15A)の発錆量に応じて定量的に決められた量をもって、前記主電源オン後の初回の車両発進時に前記摩擦制動手段(19)が摩擦制動力を発生する制御を行う。
【0012】
この構成によれば、車両発進時に摩擦面(15A)の発錆度合いに応じて摩擦面(15A)の錆取りが早期に短時間で行われることが保証させ、併せてエネルギ経済性の悪化が低減する。
【0013】
本発明による車両用制御装置は、好ましくは、発進時の摩擦制動力による走行力の低減を、車両を走行駆動する原動機(9)の出力により補償する制御を行う。
【0014】
この構成によれば、発進時制動時にアクセルフィーリングが変動することが回避される。
【0015】
本発明による車両用制御装置は、好ましくは、前記車両の車速を検出する車速検出手段(41)を有し、前記制動制御手段(47)は、前記車速検出手段(41)により検出される車速が所定値以上になると、発進時の摩擦制動力の発生量をゼロにし、且つ前記摩擦制動力の発生量をゼロにする車速を前記摩擦面発錆検知手段(49)により検知される前記摩擦面(15A)の発錆が少ないほど低速側に設定する。
【0016】
この構成によれば、車両発進時に摩擦面(15A)の発錆度合いに応じて摩擦面(15A)の錆取りが短時間で行われることを保証した上で、エネルギ経済性の悪化を更に低減することができる。
【0017】
本発明による車両用制御装置は、好ましくは、前記摩擦面発錆検知手段(49)は、前記制動用回転部材(15)の摩擦面(15A)の発錆量を車両の放置時間より推定する。
【0018】
この構成によれば、摩擦面(15A)の発錆量を簡単に推定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明による車両用制御装置によれば、車両発進時に摩擦面の発錆度合いに応じて摩擦面の錆取りが早期に短時間で行われることが保証され、併せてエネルギ経済性の悪化が低減する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による車両用制御装置が適用される自動車の一つの実施形態を示す全体構成図。
【図2】本発明による車両用制御装置を含む電気自動車の駆動・制動系の一つの実施形態を示すブロック図。
【図3】本実施形態による車両用制御装置における発進時制御ルーチンを示すフローチャート。
【図4】本実施形態による車両用制御装置における発錆量推定ルーチンを示すフローチャート。
【図5】本実施形態による車両用制御装置における錆取り発進制御ルーチンを示すフローチャート。
【図6】本実施形態による車両用制御装置における車両放置時間と錆取り実行量との関係を示すグラフ。
【図7】本実施形態による車両用制御装置における車両放置時間と発進時摩擦制動力との関係を示すグラフ。
【図8】本実施形態による車両用制御装置における車両放置時間と発進時制動終了車速との関係を示すグラフ。
【図9】本発明による車両用制御装置における発錆量推定ルーチンの他の実施形態を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明による車両用制御装置を電気自動車に適用した一つの実施形態を、図1〜図9を参照して説明する。
【0022】
図1に示されているように、電気自動車1は、左右一対の前輪3と後輪5とを有する。左右の前輪3に連結された前輪車軸7にはモータ・ジェネレータ9がトルク伝達関係で連結されている。なお、前輪車軸7に設けられる差動機構の図示は省略する。
【0023】
モータ・ジェネレータ9は、車両走行用の電動機と回生用の発電機とを兼ねたものであり、二次電池であるバッテリ11を電源としてインバータ13によってバッテリ11よりの電力供給とバッテリ11に対する電力供給(充電)とを制御され、減速時には減速エネルギを電力に変換回生して回生制動力を発生する回生制動手段をなす。
【0024】
前輪3と後輪5には、摩擦制動を行う摩擦制動手段として、各車輪の回転に応じて回転する制動用回転部材であるディスクロータ15と、ディスクロータ15の摩擦面15Aに押し付けられて摩擦制動力を発生するブレーキパッドを備えたキャリパ17とを含む公知のディスクブレーキ19が各車輪毎に設けられている。
【0025】
各車輪のキャリパ17には油圧配管21によって共通のブレーキ液圧発生装置23が接続されている。ブレーキ液圧発生装置23は、電動モータによって駆動されてブレーキ液圧を定量的に発生するブレーキ用油圧シリンダを含む公知の電気−油圧式のものであり、後述する電子制御ユニット(以下、ECUと云う)31による回生協調制動制御のもとに、ブレーキ・バイ・ワイヤ方式の油圧ブレーキを構成する。
【0026】
ECU31は、マイクロコンピュータによるものであり、アクセルペダル33に設けられたアクセルペダル操作量センサ35よりアクセルペダル操作量(アクセルペダル踏込量)を示す信号を、ブレーキルペダル37に設けられたブレーキペダル操作量センサ39よりブレーキペダル操作量(ブレーキペダル踏込量)を示すセンサ信号を、前輪3と後輪5の各車輪に設けられた車輪速センサ(車速検出手段)41より車輪速を示すセンサ信号を、車両の主電源スイッチであるイグニッションスイッチ43よりイグニッションスイッチオン・オフに関するセンサ信号を入力する。なお、ECU31は、各車輪の車輪速センサ41により検出される車輪速の平均値演算を行い、車速を算出する。
【0027】
ECU31は、図2に示されているように、コンピュータプログラムを実行することにより、モータ・ジェネレータ制御部45と、制動制御部47と、発錆量推定部49とを具現化する。
【0028】
モータ・ジェネレータ制御部45は、予め定められた走行駆動・回生制御則のもとに、前述のセンサ信号、専らアクセルペダル操作量センサ35により検出されるアクセルペダル操作量と、モータ・ジェネレータ制御部45よりの指令信号に応じて走行駆動・回生制御の演算処理を行い、演算結果に基づく指令信号をインバータ13に出力する。インバータ13は、モータ・ジェネレータ制御部45よりの指令信号によってバッテリ11よりのモータ・ジェネレータ9に対する電力供給、つまり走行駆動と、モータ・ジェネレータ9よりのバッテリ11に対する電力供給(充電)、つまり回生とを制御する。
【0029】
制動制御部47は、ブレーキペダル操作量センサ39よりのセンサ信号によりブレーキルペダル37が踏み込まれたことが判別されることにより、つまり、ブレーキ操作時に起動し、予め定められた回生協調制動制御則のもとに、前述のセンサ信号、専らブレーキペダル操作量センサ39により検出されるブレーキペダル操作量に応じて制動制御の演算処理を行い、演算結果に基づいた回生制動の指令信号をモータ・ジェネレータ制御部45に、摩擦制動の指令信号をブレーキ液圧力発生装置23に各々出力する。
【0030】
発錆量推定部49は、摩擦面発錆検知手段であり、後述する錆取り発進制御のために、イグニッションスイッチ43がオンした時に、車両発進に先立って、制動用回転部材であるディスクロータ15の摩擦面15Aの発錆量を車両の放置時間より定量的に推定する。車両の放置時間は、イグニッションスイッチ43がオンからオフに変化した時点から、次にイグニッションスイッチ43がオフからオンに変化するまでの時間であり、この時間は、ECU31の内蔵タイマにより計時することができる。発錆量推定部49は、一つの実施形態として、車両の放置時間の長さに比例して摩擦面15Aの発錆量が増加すると推定する。
【0031】
前述の制動制御部47は、更に、イグニッションスイッチ43がオフからオンに変化した後の初回の車両発進時(初回発進時)に、発錆量推定部49によって推定されたディスクロータ15の摩擦面15Aの発錆量に応じて定量的に決められた量をもってディスクブレーキ19が摩擦制動力を発生する錆取りのための制動制御を行う。
【0032】
発錆量推定部49は車両発進に先立って、イグニッションスイッチ43がオンした時、つまり、車両の主電源オン時に、ディスクロータ15の摩擦面15Aの発錆量を検知しているから、ディスクロータ15の摩擦面15Aが発錆していれば、車両の主電源オン後の初回の発進と同時に錆取りための制動が開始される。これにより、車両発進直後のブレーキ操作時には既に錆取りが行われていることが保証される。
【0033】
この錆取りのための発進時制動は、発錆量推定部49によって推定された摩擦面15Aの発錆量が多いほど、実行時間を長くする制御が付け加えられてもよい。
【0034】
また、錆取りのための発進時制動は、ECU31によって算出される車速が所定値(発進時制動終了車速)に達すると、摩擦制動力の発生量をゼロにする速度リミット制御が付け加えられてもよい。この場合には、発錆量推定部49によって推定されるディスクロータ15の摩擦面15Aの発錆量が少ないほど発進時制動終了車速を低速側に設定することができる。
【0035】
モータ・ジェネレータ制御部45は、更に、車両発進時に錆取りのための制動制御が行われると、錆取り制動の摩擦制動力により生じる走行駆動抵抗を、モータ・ジェネレータ9のモータ出力により補償する制御、つまり、摩擦制動力により生じる走行力の低減分、モータ出力を増大する制御を行う。
【0036】
なお、車両の発進とはアクセルペダル33が踏み込まれたことであり、車両発進はアクセルペダル操作量センサ35のセンサ出力により検知できる。
【0037】
次に、ECU31により実行される発進時制御の手順を、図3〜図5に示されているフローチャートを参照して説明する。
【0038】
図3は発進時制御のゼネラルルーチンを示している。このルーチンは、アクセルペダル操作量センサ35によってアクセルペダル39の踏み込みが検出されることにより実行されるものであり、まず、イグニッションスイッチ43がオフからオンに変化した後の初回の発進であるか否かを判別する(ステップS10)。
【0039】
イグニッションスイッチ・オン後の初回の発進であれば(ステップS10肯定)、錆取り発進制御ルーチンを呼び出し、当該ルーチンを実行する(ステップS11)。
【0040】
これに対し、イグニッションスイッチ・オン後の初回の発進でなければ(ステップS10肯定)、通常の発進制御ルーチンを呼び出し、当該ルーチンを実行する(ステップS12)。通常の発進制御は、摩擦制動を行わず、走行のためだけにモータ・ジェネレータ9のモータ出力を制御する。
【0041】
次に、錆取り制動制御ルーチンの説明に先立って、発錆量推定部49による発錆量推定ルーチンを、図4に示されているフローチャートを参照して説明する。発錆量推定ルーチンは、イグニッションスイッチ・オフ時を含めて所定時間毎に繰り返し実行される。
【0042】
当該ルーチンでは、まず、イグニッションスイッチ43がオフであるか否かを判別する(ステップS20)。イグニッションスイッチ43がオフである場合(ステップS20肯定)、つまり、車両が放置状態であれば、ECU31のタイマ値Tをインクリメントする(ステップS21)。
【0043】
つぎに、タイマ値Tが、第1の所定値A1以上であるか、第2の所定値A2以上であるか、第3の所定値A3以上であるか否かを判別する(ステップS22〜S24)。これら所定値は、A1>A2>A3の関係にあり、放置時間に応じて段階的に摩擦面15Aの発錆量を推定することに用いられる。なお、発錆量の大小を段階的に推定することは、発錆量を定量的に推定することであり、段階数が増えることにより、発錆量の大小を連続的に推定することに近付くことになる。
【0044】
A2>T≧A3である場合(ステップS24肯定)は、摩擦面15Aが錆取りを必要とする発錆をしている可能が高いが、摩擦面15Aの発錆量がまだ小であると云う判定を行う(ステップS25)。A1>T≧A2である場合(ステップS23肯定)は、摩擦面15Aの発錆量が中程度であると云う判定を行う(ステップS26)。T≧A1である場合(ステップS22肯定)は、摩擦面15Aの発錆量が大であると云う判定を行う(ステップS26)。なお、T<A3である場合(ステップS24否定)、つまり、短時間の放置の場合は、摩擦面15Aが錆取りを必要とするほど発錆しないとして、発錆量判定を行わずに現在のタイマ値Tを保持したまま当該ルーチンを終了する。
【0045】
イグニッションスイッチ43がオンである場合(ステップS20否定)には、今回、イグニッションスイッチ43がオフからオンに変わってから、つまり、今回の車両再始動時から錆取り発進制御が実行されたか否かの判別を行う(ステップS28)。錆取り発進制御が実行されていれば(ステップS28肯定)、タイマ値Tをゼロにリセットする(ステップS29)。これに対し、錆取り発進制御が実行されていなければ(ステップS28否定)、現在のタイマ値Tを保持したまま当該ルーチンを終了する。
【0046】
この発錆量推定ルーチンにより、イグニッションスイッチ43のオン時には、摩擦面15Aの発錆量が定量的に検知されることになる。本実施形態では、摩擦面15Aの発錆量が大、中、小の3段階に判定される。
【0047】
次に、ゼネラルフローのステップS11で呼び出される錆取り発進制御ルーチンを、図5に示されているフローチャートを参照して説明する。
【0048】
このルーチンでは、まず、錆取り実行量Nが決定済みであるか否かの判別を行う(ステップS30)。錆取り実行量Nが決定済みでない場合(ステップS30否定)には、錆取り実行量Nを決定し、ECU31のカウンタ値Cを錆取り実行量Nにセットする。錆取り実行量Nは、錆取り制動を行う時間であり、図6に示されているように、タイマ値Tより分かる車両放置時間が長い程、大きい値に設定される。
【0049】
この錆取り実行時間の設定は、必須でないが、時間設定により、過不足なく摩擦面15Aの錆取りが更に確実に行われるようになる。
【0050】
錆取り実行量Nが決定済みである場合には、現在のカウンタ値Cが「1」以上であるか否かの判別を行う(ステップS32)。C≧1である場合(ステップS32肯定)には、発錆量推定で行われた発錆量の判定が、大、中、小、判定なしの何れで有るかを判定する(ステップS33〜S35)。
【0051】
発錆量の判定が大である場合(ステップS33肯定)には、ディスクブレーキ19が予め定められた発進時制動力の100%の摩擦制動力を発生する処理を行う(ステップS36)。 これにより、摩擦面15Aの発錆量が大である場合には、最大の発進時制動による摩擦による摩擦面15Aの錆取りが効率よく効果的に行われ、摩擦面15Aの発錆量が大であっても摩擦面15Aの錆取りが短時間で完了する。この最大の発進時制動により、摩擦面15Aの発錆量が大であっても車両発進後の初回のブレーキ操作時には充分な錆取りが短時間で行われていることが保証される。
【0052】
なお、発進時制動力とは、ブレーキペダル操作量が最大の時のディスクブレーキ19の摩擦制動力の数〜数十%に相当する摩擦制動力である。
【0053】
発錆量の判定が中である場合(ステップS34肯定)には、ディスクブレーキ19が発進時制動力のn%の摩擦制動力を発生する処理を行う(ステップS36)。n%は、0%と100%以外で、好ましくは75%〜25%から適正値が選定されればよい。また、発進時制動力のn%は、タイマ値Tより分かる車両放置時間に応じて段階的に可変設定されてもよい。
【0054】
摩擦面15Aの発錆量が中である場合には、大である場合に比して小さい発進時制動力による摩擦による摩擦面15Aの錆取りが規定時間内で行われ、この場合も車両発進後の初回のブレーキ操作時には充分な錆取りが短時間で行われていることが保証される。このように発進時制動力が最大値より低い値に制限されることにより、発進時制動が最大値で行われる場合に比して制動による引き摺り抵抗が少なくなり、エネルギ経済性の悪化が低減する。
【0055】
発錆量の判定が小である場合(ステップS35肯定)には、ディスクブレーキ19が発進時制動力のn%の摩擦制動力を発生し、且つ発進時制動を終了する車速を、発錆量の判定が大、中である場合の終了車速より低速側に変更する処理を行う(ステップS38)。
【0056】
このように、発錆量が少ない場合には、発進時制動力を最大値より低い値(n%)した上で、発進時制動が低車速で終了するので、初回のブレーキ操作時には充分な錆取りが短時間で行われていることを保証したうえで、エネルギ経済性の悪化が更に低減する。
【0057】
なお、図8に示されているように、車両放置時間が長い程、発進時制動終了車速を高車速に定量的に変更する制御が行われてもよい。
【0058】
上述の発進時制動が実行されている期間は、発進時制動(錆取り制動)の摩擦制動力により生じる走行駆動抵抗を、モータ・ジェネレータ9のモータ出力により補償する制御を行う(ステップS39)。この補償制御により、発進時制動時にアクセルフィーリングが変動することが回避される。
【0059】
そして発進時制動が実行されれば、カウント値Cをデクリメントして(ステップS40)、当該ルーチンを終了する。
【0060】
C≧1でない場合(ステップS32否定)、つまりC=0である場合、あるいは発錆量推定で判定なしの場合(ステップS35否定)には、現在の発錆量判定をリセットし(ステップS41)、錆取り発進制御完了処理を行い(ステップS42)、その後、当該ルーチンを終了する。これにより、発進時制動は、錆取り実行量Nにより決まる時間に制限される。
【0061】
ECU31のタイマによらずに、GPS衛星が出力する時刻情報等、ECU31が無線通信によって外部より現在時刻を取得できる環境にあれば、ECU31のタイマによらずに、車両放置時間を計時することがでできる。この場合、イグニッションスイッチ・オフ時にECU31を電断でき、省電力化を図ることができる。
【0062】
外部より現在時刻を取得して車両放置時間を演算する場合の発錆量推定ルーチンを、図9に示されているフローチャートを参照して説明する。この発錆量推定ルーチンは、イグニッションスイッチ43のオン・オフ状態が変化した時に実行される。
【0063】
ます、変化後のイグニッションスイッチ43がオフであるか否かの判別を行う(ステップS50)。イグニッションスイッチ43がオフであれば(ステップS50肯定)、イグニッションスイッチ43がオフした時点に取得した時刻をECU31のメモリに書き込む処理を行う(ステップS51)。そして、書き込みが完了すれば、その直後にECU31の電源をオフする(ステップS52)。なお、時刻を記憶するメモリは、ECU31の電源オフ時にも記憶内容を保持する自己保持型のメモリである。
【0064】
イグニッションスイッチ43がオンであれば(ステップS50否定)、ECU31の電源をオンし(ステップS53)、イグニッションスイッチ43がオンした時点に取得した時刻をECU31のメモリに書き込む処理を行う(ステップS54)。
【0065】
つぎに、イグニッションスイッチ・オフ時点の時刻記憶値とイグニッションスイッチ・オン時点の時刻記憶値との時間差より放置時間Lを演算する(ステップS55)。
【0066】
つぎに、演算した放置時間Lが、第1の所定値B1以上であるか、第2の所定値B2以上であるか、第3の所定値B3以上であるか否かを判別する(ステップS56〜S58)。これら所定値は、B1>B2>B3の関係にあり、放置時間Lに応じて段階的に摩擦面15Aの発錆量を推定することに用いられる。
【0067】
B2>L≧B3である場合(ステップS58肯定)は、摩擦面15Aが錆取りを必要とする発錆をしている可能が高いが、摩擦面15Aの発錆量がまだ小であると云う判定を行う(ステップS61)。B1>L≧B2である場合(ステップS57肯定)は、摩擦面15Aの発錆量が中程度であると云う判定を行う(ステップS60)。L≧B1である場合(ステップS56肯定)は、摩擦面15Aの発錆量が大であると云う判定を行う(ステップS59)。なお、L<B3である場合(ステップS58否定)、つまり、短時間の放置の場合は、摩擦面15Aが錆取りを必要とするほど発錆しないとして、発錆量判定を行わない。最後に、時刻記憶値をクリアし(ステップS62)、当該ルーチンを終了する。
【0068】
なお、摩擦面15Aの発錆量の検知は、車両の放置時間に基づく推定以外に、摩擦面15Aの撮影画像の画像処理や反射光観察等によって直接的に検知することもできる。また、前回の車両始動時における電動サーボモータのトルク変動(電流値変動)が所定値以上であれば、摩擦面15Aが発錆しているとして、車両発進時から錆取り制動を行ってもよい。
【0069】
また、錆取りのための発進時制動時のトルク補償は、電気自動車の場合には電動機出力により行われることなるが、ハイブリット自動車の場合には電動機出力と内燃機関出力の少なくとも何れか一方、内燃機関のみを原動機とする自動車の場合には内燃機関出力により行うことができる。
【0070】
なお、車両の主電源オンとは、電気自動車の場合の場合には、電動機の電源回路がオンしたことを云い、ハイブリット自動車の場合には、電動機の電源回路と内燃機関のイグニッション回路がオンしたことを云い、内燃機関のみを原動機とする自動車の場合には、内燃機関のイグニッション回路がオンしたことを云う。
【符号の説明】
【0071】
1 電気自動車
3 前輪
5 後輪
9 モータ・ジェネレータ
15 ディスクロータ
17 キャリパ
19 ディスクブレーキ
23 ブレーキ液圧発生装置
31 電子制御ユニット(ECU)
35 アクセルペダル操作量センサ
39 ブレーキペダル操作量センサ
41 車輪速センサ(車速検出手段)
43 イグニッションスイッチ
45 モータ・ジェネレータ制御部
47 制動制御部
49 発錆量推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪の回転に応じて回転する制動用回転部材の摩擦面に摩擦制動力を発生させる摩擦制動手段を有する車両の制御装置において、
車両の主電源オン時に前記制動用回転部材の摩擦面の発錆を検知する摩擦面発錆検知手段と、
車両の主電源オン後の初回の発進時に前記摩擦面発錆検知手段により前記摩擦面の発錆が検出されている場合には前記摩擦制動手段が摩擦制動力を発生する制御を行う制動制御手段と、
を有する車両用制動装置。
【請求項2】
摩擦面発錆検知手段は前記制動用回転部材の摩擦面の発錆量を定量的に検知し、前記制動制御手段は、前記摩擦面発錆検知手段により検知される前記摩擦面の発錆量に応じて定量的に決められた量をもって、前記主電源オン後の初回の車両発進時に前記摩擦制動手段が摩擦制動力を発生する制御を行う請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
発進時の摩擦制動力による走行力の低減を、車両を走行駆動する原動機の出力により補償する制御を行う請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車両の車速を検出する車速検出手段を有し、
前記制動制御手段は、前記車速検出手段により検出される車速が所定値以上になると、発進時の摩擦制動力の発生量をゼロにし、且つ前記摩擦制動力の発生量をゼロにする車速を前記摩擦面発錆検知手段により検知される前記摩擦面の発錆が少ないほど低速側に設定する請求項1から3の何れか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記摩擦面発錆検知手段は、前記制動用回転部材の摩擦面の発錆量を車両の放置時間より推定する請求項1から4の何れか一項に記載の車両用制動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−126288(P2012−126288A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280480(P2010−280480)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】