説明

車両用接触回避支援装置

【課題】自車と自車前方の障害物との位置関係に基づく接触余裕値を得、前記接触余裕値が閾値より小さく、かつ操向ハンドルの操作が検出されなかったとき、前記障害物に対する自車の接触回避支援を行う車両用接触回避支援装置において、バンク路の走行中に、接触回避支援処理が過剰に作動することを防止する。
【解決手段】自車10がバンクを有するカーブ路300を走行していると判断した場合には、接触回避ECUが、前方の障害物であるガードレール5との接触の可能性があると判断する接触余裕値の閾値を、より小さい値に設定するか、接触回避支援行わないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用接触回避支援装置に関し、特に、自車と自車前方の障害物との位置関係に基づく接触余裕値を得、前記接触余裕値が閾値より小さく、かつ操向ハンドルの操作が検出されなかったとき、前記障害物に対する自車の接触回避支援を行う車両用接触回避支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自車から自車前方の障害物(固定物あるいは前走車等)までの相対距離(車間距離)と相対速度をレーダにより検出するとともに、道路上に、それぞれ白線で表示された車道中央線と左側端近傍の車両通行帯最外側線との間を走行路としてCCDカメラにより検出し、自車前方の障害物が前記走行路内に位置するときに、接触回避支援を行う車両の安全装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−57182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図8に示すように、レーダ1により検出されている自車2前方の所定範囲3(図中、扇形の部分)内に障害物が存在する場合に接触回避支援を行うように構成されている車両用接触回避支援装置において、同図に示すように、自車2が、カーブ路(走行路)4を右旋回中等、道路(走行路)形状に沿った走行をしているにも拘わらず、道路沿いの左側のガードレール5が自車2の前方に存在するために、該ガードレール5が前記レーダ1により所定範囲3内の障害物として検出されてしまい、接触回避支援処理が過剰に作動する状況に至る場合がある。
【0005】
接触回避支援処理の過剰作動の状況を防止するために、自車2前方の所定範囲3内に障害物が存在していても、運転者により繰向ハンドルが所定角度以上操作(操舵)されている場合には、自車2がカーブ4の走行中であると判断し、接触回避支援処理の作動を停止することが考えられる。
【0006】
しかしながら、前記のカーブ路が、車幅方向に所定角度以上の傾斜角を持つ道路であるバンク路である場合、そのバンクを有するカーブ路上での走行では、道路沿いのガードレールが自車の前方に存在し、かつ傾斜角の存在により繰向ハンドルが、ほぼ中点位置(前記所定角度以下の操舵角)にあるため、結局、前方のガードレールを接触回避対象障害物と判断し、接触回避支援処理が過剰に作動する状況を防止することができないという課題がある。
【0007】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、バンク路、特にバンクを有するカーブ路を走行中においても、接触回避支援処理が過剰に作動することのない車両用接触回避支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る車両用接触回避支援装置は、自車と自車前方の障害物との位置関係に基づく接触余裕値を得、前記接触余裕値が閾値より小さい場合に、操向ハンドルの操作が検出されなかったとき、前記障害物に対する自車の接触回避支援を行う車両用接触回避支援装置において、現在走行中の道路が、車幅方向に所定角度以上の傾斜角を持つ道路であるバンク路であるか否かを判断するバンク路判断手段と、前記バンク路判断手段により自車が前記バンク路を走行していると判断した場合、前記接触余裕値の前記閾値を、より小さい値に設定するか、接触回避支援を行わないようにする接触回避支援手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
ここで、接触余裕値は、自車前方の障害物と自車との接触の可能性を判断するパラメータであり、接触余裕値が大きい程、接触の可能性が低くなり、逆に、接触余裕値が小さい程、接触の可能性が高くなるように設定される。接触余裕値としては、接触余裕時間TTC(Time To Contact)や車間距離とすることができる。
【0010】
この発明によれば、現在走行中の道路が、車幅方向に所定角度以上の傾斜角を持つ道路であるバンク路であるか否かを判断するバンク路判断手段により自車が前記バンク路を走行していると判断した場合、接触回避支援手段が、前記接触余裕値の前記閾値を、より小さい値に設定するか、接触回避支援を行わないようにしたので、バンク路、特にバンクを有するカーブ路を走行中においても、接触回避支援処理が過剰に作動することを防止することができる。
【0011】
この場合、さらに、ヨーレートを検出するヨーレート検出手段と、前記繰向ハンドルの操舵角を検出する操舵角検出手段と、車速を検出する車速検出手段と、前記操舵角と前記車速とから基準ヨーレートを算出する基準ヨーレート算出手段と、を備えることで、前記バンク路判断手段は、前記操舵角が所定角度以下であるにも拘わらず、前記ヨーレートと前記基準ヨーレートとの差が所定差以上の場合に、現在走行中の道路がバンク路であると判断することができる。
【0012】
あるいは、自車の車幅方向の傾斜角を検出する傾斜角検出手段を備えることで、前記バンク路判断手段は、前記傾斜角検出手段により検出された傾斜角が所定角度以上である場合に、現在走行中の道路が前記バンク路であると判断することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、自車と自車前方の障害物との位置関係に基づく接触余裕値を得、前記接触余裕値が閾値より小さく、かつ操向ハンドルの操作が検出されなかったとき、前記障害物に対する自車の接触回避支援を行う車両用接触回避支援装置において、自車がバンク路を走行していると判断した場合には、接触回避支援手段が、前方の障害物との接触の可能性を判断する接触余裕値の閾値を、より小さい値に設定するか、接触回避支援行わないようにしたので、バンク路、特にバンクを有するカーブ路を走行中においても、接触回避支援処理が過剰に作動することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の一実施形態に係る車両用接触回避支援装置が組み込まれた車両の模式的ブロック構成図である。
【図2】レーダにより検出される横距離等の相対位置説明図である。
【図3】バンクを有するカーブ路を走行中の車両の接触回避支援処理の説明図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】この実施形態に係る車両用接触回避支援装置が組み込まれた車両のバンク路での制御タイミング変更処理を含む接触回避支援動作の説明に供されるフローチャートである。
【図6】接触予定時間の閾値の変更設定の説明図である。
【図7】車両用接触回避支援装置が組み込まれた車両の接触回避支援動作の説明図である。
【図8】バンクを有しないカーブ路を走行中の車両の接触回避支援説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、この発明のー実施形態に係る車両用接触回避支援装置が組み込まれた車両10(自車ともいう。)の模式的ブロック構成図である。
【0017】
車両10は、CPUがメモリに格納されたプログラムを実行することで実現される各種機能部(各種機能手段)を有する電子制御ユニット(ECU)である接触回避ECU20(接触回避支援手段)を備え、この接触回避ECU20の機能部である操舵アシスト制御部90(操舵アシスト制御手段)及び自動ブレーキ制御部92(自動ブレーキ制御手段)により、それぞれ回避操舵アシスト制御及び自動ブレーキ制御が実行される。また、接触回避ECU20の機能部である基準ヨーレート算出部94(基準ヨーレート算出手段)により基準ヨーレートYrsが算出され、バンク路判断部96(バンク路判断手段)により自車10が現在走行中の道路がバンク路であるかどうかが判断される。
【0018】
車両10は、4輪の車輪22{前輪右輪(FRW)22R、前輪左輪(FLW)22L}、車輪24{後輪右輪(RRW)24R、後輪左輪(RLW)24L}を有し、4輪の車輪22、24には、それぞれ車輪速度センサ61〜64が取り付けられ、この車輪速度センサ61〜64から各車輪速度Vwが接触回避ECU20に取り込まれる。接触回避ECU20は、これら4つの車輪速度Vwの平均値を車両10の速度である車速Vsとして常に更新する。
【0019】
また、4輪の車輪22、24には、それぞれ制動力を発生するディスクブレーキ等により構成されるブレーキアクチュエータ51〜54が設けられている。ブレーキアクチュエータ51〜54の各制動力(制動油圧)は、油圧制御装置16内の4つの圧力調整器(不図示)によりそれぞれ独立に制御される。
【0020】
油圧制御装置44は、踏込量センサ18により検出されるブレーキペダル40の踏込量θbに応じた制動油圧を発生するとともに、接触回避ECU20を構成する自動ブレーキ制御部92から出力されるブレーキペダル40に依存しない制動力指令値Fb(いわゆるブレーキバイワイヤによる制動力指令値)に応じて上記の4つの圧力調整器(不図示)がそれぞれ制動油圧を発生し、ブレーキアクチュエータ51〜54に出力する構成とされている。
【0021】
なお、運転者によるブレーキペダル40の踏み込み操作に基づき踏込量センサ42から踏込量θbが入力され、かつ自動ブレーキ制御部92から制動力指令値Fbが入力された場合、油圧制御装置44は、両者のうち何れか大きい方に合わせて制動油圧を発生させる。
【0022】
従って、車両10の旋回時{例えば、車両10がスリップして転舵しているとき、又は操向ハンドル70の操作により操舵(転舵)しているときのいずれの場合も含む。}にブレーキアクチュエータ51〜54に伝達される制動油圧を制動力指令値Fbにより独立に制御すれば、左右の車輪22L、24L、22R、24Rの制動力に差を発生させて車両10のヨーモーメントを任意に制御し、旋回時におけるアンダーステアの発生の回避及びオーバーステアやスピンの発生を回避して、車両の挙動を安定させることができる。また、制動時(ブレーキペダル40を踏んでいない自動ブレーキ時又はブレーキペダル40を踏んでいるとき)にも、各ブレーキアクチュエータ51〜54伝達される制動油圧を独立に制御すれば、車輪22、24のロックを抑制するアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0023】
一方、この実施形態において、4輪の車輪22、24中、前輪22(22R、22L)には、エンジン34からトランスミッション(T/M)36を通じて駆動力が伝達される。後輪24(24R、24L)は車両10の走行によって回転する従動輪として機能する。
【0024】
エンジン34は、該エンジン34に設けられたスロットルバルブ33のスロットル開度を調整するスロットルアクチュエータ32を通じて回転数(エンジン回転数)が制御される。
【0025】
スロットルバルブ33のスロットル開度は、操作量センサ28により検出されるアクセルペダル26の操作角度(アクセル角度、操作量)θaに応じてエンジンECU30、及びスロットルアクチュエータ32を通じて調整される。
【0026】
車両10の操舵装置88は、基本的には、運転者により回転操作(操舵)される操向ハンドル70(ステアリングホイール)と、操向ハンドル70の操舵角θsを検出する操舵角センサ72と、電動パワーステアリング装置(EPS装置)を構成するステアリングアクチュエータ76と、前輪22(前輪左右輪)を操舵するラックアンドピニオン機構を有する操舵機構74とから構成される。
【0027】
この場合、操舵装置88は、運転者による操向ハンドル70の回転が、ステアリングシャフト及び連結軸を通じて操舵機構74を構成するピニオンに伝達され、ピニオンの回転によりラックが往復動し、ラックの往復動がタイロッドを通じて前輪22に伝達されることで、車両10の転舵が実行される通常の構成を有している。
【0028】
車両10の転舵が実行される際に、運転者による前記の操向ハンドル70の回転に伴う操舵角θsが、ステアリングアクチュエータ76に入力されることでステアリングアクチュエータ76の駆動力、すなわち操向ハンドル70の操作に依存する操舵アシストカが操舵機構74の前記ラックを通じて前輪22に伝達される。
【0029】
その一方、接触回避ECU20を構成する操舵アシスト制御部90から出力される操舵アシスト指令値Fs(ここでは、ステアバイワイヤによる操舵アシスト指令値で、回避操舵アシスト指令値Fsともいう。)がステアリングアクチュエータ76に入力されることで、操舵アシスト指令値Fsに応じた操舵アシストトルク(ステアトルクであって、回避操舵アシストトルクともいう。)が操舵機構74に出力される。なお、操舵アシストは、ステアバイワイヤによる処理に限らず、操舵機構74のギヤ比を変える処理、前記EPS装置のアシスト値を変える処理としてもよい。
【0030】
なお、回避操舵アシスト力を発生させる場合に、操舵アシスト指令値Fsをステアリングアクチュエータ76に出力するとき、併せてあるいは独立に自動ブレーキ制御部92からブレーキペダル40に依存しない制動力指令値Fbを油圧制御装置44に出力しブレーキアクチュエータ51〜54に伝達される制動油圧を独立に制御し、左右の車輪22L、24L、22R、24Rの制動力に差を発生させて車両10にヨーモーメントを発生させることで回避操舵アシスト力を発生させるようにしてもよい。
【0031】
操舵機構74は、操舵アシスト指令値Fsに応じた操舵アシストトルクに対応する操舵アシストカを前輪22に出力する。これにより、その操舵アシスト力に応じた転舵量だけ前輪22が転舵する。
【0032】
この操舵アシスト指令値Fsは、後述するように、基本的には、車両10の前方の障害物との接触を回避しようとする際に運転者の操向ハンドル70の回転操作を契機とし、回避操舵が十分でないと判断したときに、これをアシストするように発生する。
【0033】
また、車両10には、フロントグリル部等にレーダ80が設けられている。レーダ80は、車両10の前方に向けてミリ波等の電磁波を送信波として送信し、その反射波に基づいて障害物(例えば、前走車等)の大きさを検出するとともに障害物の車両10(自車)からの方向を検出し、同時に障害物と自車との間の相対距離L(障害物が車両である場合には、車間距離)、障害物と自車との相対速度Vr等を検出する相対位置検出手段等として動作する。なお、障害物との相対位置を検出する相対位置検出手段として、上記のミリ波レーダに代えて、レーザレーダあるいはステレオカメラ等を採用することができる。
【0034】
レーダ80により検出される相対位置等の内容について、図2を参照して説明する。なお、この実施形態では、障害物は、道路200上を矢印方向に走行する車両10(自車)の前方を走行している車両12(他車又は前走車)とするが、停止している障害物でも同様にこの発明を適用することができる。
【0035】
公知のように、レーダ80は、まず、車両10(自車であって、図2中、位置を変えて2箇所に描いている。)から前方の車両12までの相対距離Lを検出することができる。また、前方の車両12の車幅Woを検出することができる。なお、自車10の車幅Wmは、予め接触回避ECU20及びレーダ80の中のメモリ(記憶部)に記憶されている。次に、車両10の車両12に対する相対速度Vrを検出することができる。さらに、検出した車両10から前方の車両12までの相対距離Lと相対速度Vrとから接触余裕値としての接触余裕時間TTCを、TTC=L/Vrとして算出することができる。
【0036】
この場合、接触回避ECU20は、車両10(自車)自身の車幅Wmと、レーダ80により検出した前方の車両12の車幅Woと、所定の余裕幅α(余裕横距離)とから、例えば、車両10(自車)が、前方の車両12との接触を回避して追い越す際に必要な目標横回避距離Dtを、次の(1)式により算出する。
Dt=(Wo/2)+α+(Wm/2) …(1)
【0037】
車両10(自車)が前方の車両12との接触を回避して追い越すために最も横回避距離(横距離、オフセット又はオフセット量という。)Dが大きくなるのは、自車中心軸線10c上に前方の車両12の他車中心軸線12cが重なる場合、つまり車両10(自車)の真正面に前方の車両12が存在する場合である。
【0038】
車両10(自車)の真正面に前方の車両12が存在する場合でも、道路200上、車両10が同一の進路を走行していている他の車両12等に追いついたとき、その車両10がその進路を変えて前方の車両12の側方を通過し、その車両12の前方に出る追越しの際に、車両10が上記の目標横回避距離Dtだけ車幅方向(横方向)に移動すれば、余裕幅αに相当する横距離を残して、前方の車両12の側方をすり抜けることができる。なお、自車中心軸線10cと前方の車両12の車両中心軸線12cとの間の車幅方向の距離(偏差)を上述したように、オフセットDという。
【0039】
再び、図1において、車両10には、車両10に発生しているヨーレートYrを検出するヨーレートセンサ82と、車両10の車幅方向の傾斜角θwを検出する傾斜センサ83が設けられている。傾斜センサ83としては、静電容量型、3軸加速度センサ型、あるいは振り子・サーボモータ型のセンサを用いることができる。なお、車両10には、加速度センサであり車両10に発生している横G(横加速度)を検出する横Gセンサ84も設けられている。
【0040】
この発明の一実施形態に係る車両用接触回避支援装置が組み込まれた車両10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作について説明する。
【0041】
ここで、まず、自動ブレーキ制御部92による自動ブレーキ制御の作動条件の例と、操舵アシスト制御部90による回避操舵アシスト制御の作動条件の例について定性的に説明する。
【0042】
自動ブレーキ制御部92による自動ブレーキ制御の作動条件は、基本的には、車両10の前方の障害物に対する接触余裕値としての接触余裕時間TTC(TTC=L/Vr)に基づき判断される。車両10前方の障害物(前走車も含む)との相対距離Lに基づき判断してもよい。
【0043】
接触余裕時間TTCが小さいほど、障害物との接触可能性が高くなるので、接触余裕時間TTCが、予め定めた閾値時間Tthより小さいとき、接触を回避するために、自動ブレーキ制御及び(又は)操向ハンドル70が操作されている場合には回避操舵アシスト制御が作動される。
【0044】
具体的に、自動ブレーキ制御部92は、必要な減速度を発生するために、ブレーキアクチュエータ51〜54に対する適切な制動力を付与する制動力指令値Fbを算出し、油圧制御装置44に出力する。これにより制動力指令値Fbに応じた制動油圧が油圧制御装置44で発生され、発生された制動油圧によりブレーキアクチュエータ51〜54を通じて車輪22、24に対して制動力が加えられる。
【0045】
なお、自動ブレーキ制御部92は、アクセルペダル26の操作量θaからアクセルペダル26が踏まれていると判断した場合には、同時にスロットルアクチュエータ32を制御し、スロットルバルブ33を所定量閉方向に操作(スロットルバイワイヤ)させるようにしてもよい(図1中、接触回避ECU20からスロットルアクチュエータ32へ向かう点線の矢線参照)。
【0046】
この実施形態において、図2に示すように、自動ブレーキ制御領域Bca(自車前方の車幅方向の第1領域)は、車両10の前方の車幅方向の長さに設定される。すなわち、車両10(自車)の車幅Wmと同等の領域に設定される(Bca≒Wm)。車両10の前方の車両12が、この自動ブレーキ制御領域Bcaに入っているかどうかがレーダ80により検出され、入っていた場合には、自動ブレーキ制御フラグfbがオン(fb→ON)状態にされる。換言すれば、図2に示すように、前方の車両12の他車中心軸線12cと自車中心軸線10cとのオフセットD(偏差、ずれ量、横距離)が車幅Wmの半分以下{D≦(Wm/2)}であるときに自動ブレーキ制御フラグfbがオン(fb→ON)状態にされる。
【0047】
図2中、下側に描いた車両10の自動ブレーキ制御フラグfbはオン状態となり、上側に描いた車両10の自動ブレーキ制御フラグfbはオフ状態になる。
【0048】
この実施形態において、自動ブレーキ制御部92は、自動ブレーキ制御フラグfbがオン状態(fb=ON)になっている場合に、上記の接触余裕時間TTCが閾値(通常道路では閾値Tth1、バンク路では閾値Tth2)より小さい場合であって、かつ操向ハンドル70の操作が検出されなかったとき、例えば、操舵角センサ72から出力される操舵角θsの時間変化値、すなわち操舵角速度dθs/dt(時間微分値)がdθs/dt≒0であって、かつ操向ハンドル70が中点位置にあるとき、実際に自動ブレーキ制御が作動する。このとき、自動ブレーキ制御部92は、制動力指令値Fbを発生する(Fb>0)。
【0049】
一方、操舵アシスト制御部90による回避操舵アシスト制御の作動条件は、基本的には、上記の接触余裕時間TTCに加えて、操舵角センサ72より得られる中点(車両10が所定時間直線走行しているとみなしたときの操舵角θ)からの操舵角θs、この操舵角θsを時間微分した操舵角速度dθs/dt、横Gセンサ84で検出される横G、及びヨーレートセンサ82で検出されるヨーレート(実ヨーレート)Yrを考慮して判定される。
【0050】
操舵角θs、操舵角速度dθs/dt、横G、及びヨーレートYr等を変数として、運転者の回避操舵操作状況判断値SEが、予め定めた関数であるSE=SE(θs,dθs/dt,横G,Yr)として数値化され(SEが大きい値である程、運転者によりより大きく回避操舵操作がなされていると判断されるものとする。)、この値が、回避操舵アシスト制御が必要な値(閾値)あるいはこれを下回る値になっていると判定した場合、回避操舵アシスト制御が作動する。
【0051】
この場合、操舵角θsと車速Vsに応じて算出される基準ヨーレートYsがアシストヨーレートYaに変更される。
【0052】
アシストヨーレートYaを算出する際、上述した目標横回避距離Dtと、横距離D(自車中心軸線10cに対する他車中心軸線12cとの間のずれ量)との差に所定ゲインを乗算してアシスト横加速度を算出する。さらにこのアシスト横加速度を車速Vsで除算して上記のアシストヨーレートYaを算出する。
【0053】
操舵アシスト制御部90は、このようにして算出したアシストヨーレートYaを発生させる操舵アシスト指令値Fsをステアリングアクチュエータ76に出力する。
【0054】
これによりステアリングアクチュエータ76から操舵アシスト指令値Fsに応じた操舵アシストトルクが操舵機構74に加えられることで、車両10の旋回挙動が前記アシストヨーレートYaにより制御されアシストされる。
【0055】
この実施形態において、回避操舵アシスト制御領域は、車幅方向(道路200の幅方向)上、上述した自動ブレーキ制御領域Bca(自車前方の第1領域)と同等の領域に設定しているが、これより少し広い領域に設定してもよい。
【0056】
車両10の前方の車両12が、回避操舵アシスト制御領域Scaに入っているかどうかは、レーダ80により検出され、入っていた場合には、操舵アシストフラグfsがオン(fs→ON)状態にされる。
【0057】
操舵アシストフラグfsがオン状態になっているときに、上記の運転者の回避操舵操作状況判断値SEを判定し、この回避操舵操作状況判断値SEの値が、回避操舵アシスト制御が必要な値である閾値SEthあるいはこれを下回る値になっている判定した場合に(SE<SEth)、回避操舵アシスト制御が作動し、操舵アシスト指令値Fsを発生する(Fs>0)。
【0058】
なお、操舵アシストフラグfsがオン状態になっている場合であっても、上記の回避操舵操作状況判断値SEの値から、操舵アシスト操作が必要ではないと判定したとき、操舵アシスト指令値Fsが発生されない(Fs=0)。
【0059】
ところで、図8を参照して説明した道路が、図3及びそのIV−IV線模式的断面図である図4に示すように、傾斜角θw(バンク)を有するカーブ路300(バンク路)である場合、この傾斜角θwを有するカーブ路300の走行中には、操向ハンドル70の操舵角θsは、θs≒0[°]になっている。
【0060】
ところが、図8で説明した所定範囲3が、接触回避支援範囲であるとすると、レーダ80による接触回避支援範囲内にガードレール5が存在し、かつ操向ハンドル70の操舵角θsが略0[゜]であるので、実際には、車両10が傾斜角θwを有するカーブ路300を通常走行しているのに、上述した自動ブレーキ制御が作動する可能性がある。
【0061】
そこで、次に、このような傾斜角θを有するカーブ路300を走行中の車両10に対して、接触回避支援制御(自動ブレーキ制御と回避操舵アシスト制御)が、過剰に作動することを防止する接触回避支援制御(自動ブレーキ制御と回避操舵アシスト制御)の制御タイミングの変更動作について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0062】
車両10が走行中のステップS11において、操舵角センサ72により検出される操向ハンドル70の操舵角θsが略0[゜]、例えば、±0.1[rad]≒±5.7[゜]以内かどうかが判定され、このステップS11の判定が肯定的であるとき、ステップS12において、車両10がバンクを有するカーブ路300(バンク路)を走行中であるかどうかをバンク路判断部96により判断する。
【0063】
この場合、バンク路判断部96は、傾斜センサ83により検出されている自車10の車幅方向の傾斜角θwが、閾値角θwth以下である場合(θw≧θwth)、バンクを有するカーブ路300であると判断し、ステップS13において、制御タイミングを変更する。
【0064】
バンクを有するカーブ路300を走行している場合、接触余裕値である接触余裕時間TTCの閾値を、道路が平坦路である場合の閾値Tth1の、例えば1/2の閾値Tth2(Tth2=Tth1×1/2)にする。
【0065】
このようにすれば、図3に示すように、接触回避支援範囲が、接触余裕時間TTCの閾値Tth1に対応する所定範囲3{自動ブレーキ等の回避アシスト制御がかかる車軸方向前方の距離Lth1(第1閾値)}から、閾値Tth2の値に対応する所定範囲303(自動ブレーキ等の回避アシスト制御がかかる車軸方向前方の距離Lth2)に変更される(Lth2≒Lth×1/2)。なお、所定範囲3(距離Lth1)は、道路が平坦路である場合の閾値Tth1による制御タイミングデフォルト値である(ステップS14)。
【0066】
上記のように、バンクを有するカーブ路300での制御タイミングを変更することで、ガードレール5が、接触回避支援範囲である所定範囲303外に位置することになるので、自動ブレーキ制御又は回避操舵アシスト制御が過度に作動することを防止することができる。
【0067】
なお、バンクを有するカーブ路300を走行している場合、図6に示すように、傾斜角θwが閾値角θWthを上回った場合に、接触余裕値である接触余裕時間TTCを、道路が平坦路である場合の閾値Tth1の1/2の特性310(所定範囲303)を採用する他、図6の特性312に示すように、閾値Tthの値を0値にして、実質的に接触回避支援を行わないようにしてもよい。あるいは、傾斜角θwが閾値角度θwthを上回っている場合、上回っている角度に応じて、閾値Tthを徐々に小さな値にする特性314に変更してもよい。
【0068】
また、傾斜角θwの検出は、傾斜センサ83に限らず、基準ヨーレート算出部94により、車速Vsと操舵角θsとから車両10の運動モデルに基づく基準ヨーレートYs{Ys=Ys(Vs,θs)}を算出し、この基準ヨーレートYsとヨーレートセンサ82により検出されるヨーレートYrとを比較し、所定差以上であるときに、現在走行中の道路がバンクを有するカーブ路300であると推定するようにしてもよい。
【0069】
さらに、傾斜角θwの検出は、図4に示すように、重力加速度gの傾斜角θwに平行な成分g・sinθwと、遠心加速度Cの傾斜角θwに平行な成分A(A=車速Vs×ヨーレートYr)との差A−g・sinθwが、横Gセンサ84により検出される横Gに等しいことを考慮した次式(2)及び(3)から傾斜角θwを求めることもできる。
Vs×Yr−g・sinθw=横G …(2)
θw=sin-1{(Vs×Yr−横G)/g} …(3)
【0070】
実際の制御では、制御タイミングがデフォルト値(ステップS14)又は制御タイミングが変更(ステップS13)された後、ステップS15において、道路200上を走行中の車両10は、レーダ80により車両10(自車)の前方の車両12の相対位置(相対距離L、車幅Wo、相対速度Vr、接触余裕時間TTC)を検出する。このとき、接触回避支援ECU20は、目標横回避距離Dtを算出する。なお、相対位置の検出処理は、msオーダーでタイマ割り込みにより常に行われる。
【0071】
ステップS16において、車両12が自動ブレーキ制御領域Bca又は回避操舵アシスト制御領域内に位置するかどうかを判定し、両制御領域外である場合には、ステップS17において、自動ブレーキ制御フラグfb及び操舵アシストフラグfsをともにオフとして(fb→OFF、fs→OFF)、自動ブレーキ制御及び回避操舵アシスト制御を実行しない。
【0072】
その一方、ステップS16において、車両10(自車)の前方に位置する車両12が自動ブレーキ制御領域Bca又は回避操舵アシスト制御領域内に位置していた場合には、ステップS18において、自動ブレーキ制御フラグfb及び操舵アシストフラグfsをともにオンとして(fb→ON、fs→ON)、上述した接触余裕時間TTC及び回避操舵操作状況判断値SEに応じて自動ブレーキ制御及び回避操舵アシスト制御を実行する。
【0073】
図7を参照して自動ブレーキ制御及び操舵アシスト制御のバンク路走行時と平坦路走行時との間の差異を定性的に説明すると、レーダ80により車両10(自車)の前方の車両12の相対位置(相対距離L、車幅Wo、相対速度Vr、接触余裕時間TTC)を検出した場合に、車両10と前方の車両12との間の接触余裕時間TTCが、所定時間T1(図7参照)より離れているとき、平坦路走行時及びバンク路走行時ともに、フラグfb(fs)は、OFF(fb=OFF、fs=OFF)とされ(例えば、図7の時点t0〜t1間)、自動ブレーキ制御及び回避操舵アシスト制御が実行されることがない。
【0074】
平坦路走行時において、接触余裕時間TTCが、所定時間T1より短くなったとき(時点t1)に、フラグfb(fs)がON(fb=ON、fs=ON)とされ、自動ブレーキ制御及び回避操舵アシスト制御が待機状態とされる(時点t1〜t3)。
【0075】
その一方、バンク路走行時には、検出した接触余裕時間TTCが、所定時間T1より短い所定時間T2となったとき(時点t2)に、フラグfb(fs)がONとされ、自動ブレーキ制御及び回避操舵アシスト制御が待機状態とされる(時点t2〜t3)。
【0076】
実際上、平坦路走行時には、時点t1以降において、車両10の車両12に対する接触余裕時間TTCが閾値Tth1より小さくなった時点t1bで自動ブレーキ制御及び(又は)回避操舵アシスト制御が実行される。その一方、バンク路走行時には、接触余裕時間TTCが閾値Tth2より小さくなった時点t2bで自動ブレーキ制御及び(又は)回避操舵アシスト制御が実行される。
【0077】
以上説明したように、上述した実施形態によれば、レーダ80により自車10と自車前方の障害物(この実施形態では、ガードレール5)との位置関係に基づく接触余裕値である接触予定時間TTCを得、前記接触予定時間TTCが閾値Tthより小さい場合に、操向ハンドル70の操作が検出されなかったとき、前記ガードレール5に対する自車10の接触回避支援を行う車両用接触回避支援装置において、現在走行中の道路が、車幅方向に所定角度θwth以上の傾斜角θwを持つ道路であるバンクを有するカーブ路300であるか否かを判断するバンク路判断部96と、バンク路判断部96により自車10がバンクを有するカーブ路300を走行していると判断した場合、接触余裕値としての接触予定時間TTCの閾値Tth1を、より小さい値であるTth2=Tth1×1/2に設定するか、接触回避支援を行わないようにする(Tth=0)接触回避支援手段としての接触回避ECU20と、を有する。
【0078】
このため、この実施形態によれば、現在走行中の道路が、車幅方向に所定角度θwth以上の傾斜角θwを持つ道路であるバンクを有するカーブ路300であるか否かを判断するバンク路判断部96により自車10がバンクを有するカーブ路300を走行していると判断した場合、接触回避支援ECU20が、接触予定時間TTCの閾値Tth1を、より小さい値Tth2に設定するか、接触回避支援行わないようにしたので、バンク路、特にバンクを有するカーブ路300を走行中においても、接触回避支援処理が過剰に作動することを防止することができる。
【0079】
この場合、さらに、ヨーレートYrを検出するヨーレートセンサ82と、操向ハンドル70の操舵角θsを検出する操舵角センサ72と、車速Vsを検出する車速検出手段としての車輪速度センサ61〜64と、操舵角θsと車速Vsとから基準ヨーレートYrsを算出する基準ヨーレート算出部94と、を備えることで、バンク路判断部96は、操舵角θsが所定角度θsth以下であり、かつヨーレートYrと基準ヨーレートYrsとの差が所定差以上の場合に、現在走行中の道路がバンク路であると判断することができる。
【0080】
あるいは、自車10の車幅方向の傾斜角θwを検出する傾斜センサ83を備えることで、バンク路判断部96は、傾斜センサ83により検出された傾斜角θwが所定角度θwth以上である場合に、現在走行中の道路がバンクを有するカーブ路300であると判断することができる。
【0081】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0082】
10…車両 20…接触回避ECU
22、24…車輪 80…レーダ
90…操舵アシスト制御部 92…自動ブレーキ制御部
94…基準ヨーレート算出部 96…バンク路判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車と自車前方の障害物との位置関係に基づく接触余裕値を得、前記接触余裕値が閾値より小さい場合に、操向ハンドルの操作が検出されなかったとき、前記障害物に対する自車の接触回避支援を行う車両用接触回避支援装置において、
現在走行中の道路が、車幅方向に所定角度以上の傾斜角を持つ道路であるバンク路であるか否かを判断するバンク路判断手段と、
前記バンク路判断手段により自車が前記バンク路を走行していると判断した場合、前記接触余裕値の前記閾値を、より小さい値に設定するか、接触回避支援を行わないようにする接触回避支援手段と、
を有することを特徴とする車両用接触回避支援装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用接触回避支援装置において、
ヨーレートを検出するヨーレート検出手段と、
前記繰向ハンドルの操舵角を検出する操舵角検出手段と、
車速を検出する車速検出手段と、
前記操舵角と前記車速とから基準ヨーレートを算出する基準ヨーレート算出手段と、をさらに備え、
前記バンク路判断手段は、
前記操舵角が所定角度以下であり、かつ前記ヨーレートと前記基準ヨーレートとの差が所定差以上の場合に、現在走行中の道路がバンク路であると判断する
ことを特徴とする車両用接触回避支援装置。
【請求項3】
請求項1記載の車両用接触回避支援装置において、
自車の車幅方向の傾斜角を検出する傾斜角検出手段をさらに備え、
前記バンク路判断手段は、
前記傾斜角検出手段により検出された傾斜角が所定角度以上である場合に、現在走行中の道路が前記バンク路であると判断する
ことを特徴とする車両用接触回避支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−51572(P2011−51572A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205054(P2009−205054)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】