説明

電力変換装置及び自動車システム

【課題】複数の電源間で電力移動を行う場合に、モータ駆動電圧を変化させることなく移動電力を増大させて、電力制御範囲を拡大することができる電力変換装置及び自動車システムを提供する。
【解決手段】電力変換器の駆動を制御する駆動制御装置13は、交流電動機の要求駆動電圧を演算する手段と、各入出力電圧の指令値を生成する電力制御・変調率演算部30と、入出力電圧指令値に基づき電力変換器を駆動する信号を生成するPWMパルス生成部31とを有し、電力制御・変調率演算部30は、各入出力電圧の和が要求駆動電圧となるように、電源11aの最大出力電圧と、要求駆動電圧指令値との差に基づいて算出した加算値を要求駆動電圧指令値に加算して、電源11aの出力電圧の指令値である第1出力電圧指令値を生成し、要求駆動電圧指令値と第1出力電圧指令値との差から電源11bの入力電圧の指令値である第2入力電圧指令値を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力変換装置及び自動車システムに関し、特に、複数の直流電圧源から出力された電力に基づき電動機を駆動する駆動電力を供給する電力変換装置、及びこの電力変換装置を備えた自動車システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数電源から出力された電力に基づき電動機を駆動する駆動電力を供給する電力変換器(D−EPC)が知られている。
このような電力変換器に関するものとして、例えば、複数電源の各電源から供給する電力を任意の値に制御可能とする「モータ駆動システムの制御装置」(特許文献1参照)があり、この「モータ駆動システムの制御装置」においては、正弦波の電圧指令値を用いて、電力変換器の駆動制御をしている。
【特許文献1】特開2006−129644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の「モータ駆動システムの制御装置」における正弦波の電圧指令値を用いた制御では、その電圧指令値(正弦波)の振幅が電源の最大出力電圧(±V/2)に達した状態が、電圧指令値の最大波形となる。これにより、複数の電源間で電力移動を行う場合、第1直流電圧源(例えば、燃料電池)から第2直流電圧源(例えば、バッテリ)への移動電力は、第1直流電圧源の電圧指令値(正弦波)の振幅が最大出力電圧(±V/2)に達した時が最大となり、交流電動機(モータ)の駆動電圧を変化させないという環境においては、これ以上、移動電力を増加することができなかった。
【0004】
この発明の目的は、複数の電源間で電力移動を行う場合に、モータ駆動電圧を変化させることなく移動電力を増大させて、電力制御範囲を拡大することができる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、この発明に係る電力変換装置は、複数の直流電圧源と接続し、前記複数の直流電圧源の各入出力電圧からそれぞれ入出力電圧パルスを生成し、複数の入出力電圧パルスを合成することによって交流電動機を駆動する電力変換器と、前記電力変換器の駆動を制御する駆動制御手段とを備える電力変換装置において、前記駆動制御手段は、前記交流電動機の要求駆動電圧を演算する手段と、記各入出力電圧の指令値を生成する入出力電圧指令値生成手段と、前記入出力電圧指令値に基づき、前記電力変換器を駆動する信号を生成する駆動信号生成手段とを有し、前記入出力電圧指令値生成手段は、前記各入出力電圧の和が前記要求駆動電圧となるように、前記第1直流電圧源の最大出力電圧と、前記要求駆動電圧の指令値である要求駆動電圧指令値との差に基づいて算出した加算値を前記要求駆動電圧指令値に加算して、前記第1直流電圧源の出力電圧の指令値である第1出力電圧指令値を生成し、前記要求駆動電圧指令値と前記第1出力電圧指令値との差から前記第2直流電圧源の入力電圧の指令値である第2入力電圧指令値を生成することを特徴としている。
【0006】
また、この発明に係る自動車システムは、この発明に係る電力変換装置を搭載し、前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源を燃料電池とバッテリにより構成して、前記電力変換装置から出力された供給電力を、駆動輪を駆動する駆動力発生源に供給することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、複数の直流電圧源と接続し、前記複数の直流電圧源の各入出力電圧からそれぞれ入出力電圧パルスを生成し、複数の入出力電圧パルスを合成することによって交流電動機を駆動する電力変換器と、前記電力変換器の駆動を制御する駆動制御手段とを備える電力変換装置において、前記駆動制御手段は、前記交流電動機の要求駆動電圧を演算する手段と、前記各入出力電圧の指令値を生成する入出力電圧指令値生成手段と、前記入出力電圧指令値に基づき、前記電力変換器を駆動する信号を生成する駆動信号生成手段とを有し、前記入出力電圧指令値生成手段は、前記各入出力電圧の和が前記要求駆動電圧となるように、前記第1直流電圧源の最大出力電圧と、前記要求駆動電圧の指令値である要求駆動電圧指令値との差に基づいて算出した加算値を前記要求駆動電圧指令値に加算して、前記第1直流電圧源の出力電圧の指令値である第1出力電圧指令値を生成し、前記要求駆動電圧指令値と前記第1出力電圧指令値との差から前記第2直流電圧源の入力電圧の指令値である第2入力電圧指令値が生成される。
【0008】
これにより、複数の電源間で電力移動を行う場合に、モータ駆動電圧を変化させることなく移動電力を増大させて、電力制御範囲を拡大することができる。
また、この発明に係る電力変換装置により、上記自動車システムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
(第1実施の形態)
図1は、この発明の第1実施の形態に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。図2は、図1の電力変換器の回路図である。
図1に示すように、電力変換装置10は、第1直流電圧源(電源a)11aと第2直流電圧源(電源b)11b、電力変換器12、及び駆動制御装置13を有しており、トルク指令Te*が駆動制御装置13に入力することにより電力変換器12からモータ(3相交流モータ)Mへ、モータ供給電力Pmを出力する。モータMは、モータ供給電力Pmの入力により駆動される。
【0010】
図2に示すように、電力変換器12は、モータMの各相(U相、V相、W相)毎に、複数組のスイッチ手段(半導体スイッチ)を有している。
第1直流電圧源11aと第2直流電圧源11bは、何れも負極側が、共通負極母線14に接続されており、共通負極母線14とモータMの各相端子間は、一般的なインバータの下アームと同様に、半導体スイッチ15a,16a,17aとダイオード15b,16b,17bのそれぞれの組を介して接続されている。
【0011】
第1直流電圧源11aの正極母線18とモータMの各相端子間は、双方向の導通を制御することができる2個の半導体スイッチ19a/19b,20a/20b,21a/21bの組を介して接続されている。第2直流電圧源12bの正極母線22とモータMの各相端子間も同様に、双方向の導通を制御することができる2個の半導体スイッチ23a/23b、24a/24b、25a/25bの組を介して接続されている。
第1直流電圧源12aの正極母線18と共通負極母線14の間には平滑コンデンサ26が、第2直流電圧源12bの正極母線22と共通負極母線14の間には平滑コンデンサ27が、それぞれ接続されている。
【0012】
この電力変換器11は、共通負極母線14、第1直流電圧源12aの正極母線18、及び第2直流電圧源12bの正極母線22の3つの電位、つまり、GND電位、第1直流電圧源12aの電位Vdc_a、第2直流電圧源12bの電位Vdc_bをもとに、モータMに印加する電圧を生成する直流(DC)−交流(AC)電力変換器である。モータMの各相(U相、V相、W相)に設けられた半導体スイッチが、モータMの各相に出力する電圧を生成するスイッチ手段であり、GND電位、電位Vdc_a、Vdc_bの中から択一的に接続し、その接続する時間の割合を変化させることで、モータMに必要な電圧を供給する。
【0013】
次に、駆動制御装置13の構成を説明する。
図1に示すように、駆動制御装置13は、トルク制御部28、電流制御部29、電力制御・変調率演算部30、PWMパルス生成部31、及び3相/dq変換部32を有している。
トルク制御部28は、外部より与えられるトルク指令値Teとモータ回転速度ωから、モータMのd軸電流の指令値idとq軸電流の指令値iqを演算する。また、トルク制御部28は、予め作成されたトルク指令値Teとモータ回転速度ωを軸としたマップを参照し、モータMのd軸電流の指令値idとq軸電流の指令値iqを出力する。
【0014】
図3は、図1の電流制御部の構成を示すブロック図である。図3に示すように、電流制御部29は、電流制御処理部33とdq/3相変換処理部34を有しており、モータMのd軸電流指令値id、q軸電流指令値iqと、d軸電流値id、q軸電流値iqとから、これらを一致させるための電流制御を行う。この制御によって、三相交流の各相の電圧指令値vu,vv,vwを出力する。
【0015】
電流制御処理部33は、モータMのd軸電流の指令値idとq軸電流の指令値iq、及びd軸電流値idとq軸電流値iqが入力することにより、d軸電流指令値idとq軸電流指令値iqに、d軸電流値idとq軸電流値iqが追従するように、それぞれP(比例)I(積分)制御によるフィードバック制御を行って、d軸電圧指令値vd、q軸電圧指令値vqを出力する。d軸電流値idとq軸電流値iqは、3相/dq変換部32により、電流センサ(図示しない)で検出したU相電流iu、V相電流ivから求められる。
【0016】
dq/3相変換処理部34は、dq軸電圧を3相電圧指令に変換するdq/3相電圧変換手段であり、d軸電圧指令値vd、q軸電圧指令値vqを入力として、U相電圧指令値vu、V相電圧指令値vv、W相電圧指令値vwを出力する。
電力制御・変調率演算部30は、図1に示すように、第1直流電圧源(電源a)11aと第2直流電圧源(電源b)11bから供給される電力目標値(Pa,Pb)を用いて、電力制御を行うための瞬時変調率指令mu_a_c,mu_b_c,mv_a_c,mv_b_c,mw_a_c,mw_b_cを求める。
【0017】
先ず、電力制御・変調率演算部30における電力制御について説明する。
モータMに供給する電力をPmとし、電力変換器12の効率を100%とすれば、電力目標値(Pa,Pb)とモータ供給電力Pmには、以下のような関係が成立する。
Pa+Pb=Pm …(1)
また、第1直流電圧源11aと第2直流電圧源11bの電力比率を考え、第1直流電圧源11aの電力比率をrto_a、第2直流電圧源11bの電力比率をrto_bとすると、以下のような関係が成立する。
rto_pa+rto_pb=1 …(2)
【0018】
このため、一方の電力目標値が得られれば、式(1)の関係から、もう一方の電力目標値を求めることができる。なお、図1では、電力制御・変調率演算部30の入力として、電力目標値Paのみを記しており、電力制御・変調率演算部30内部での演算により、上式に基づき電力目標値Pbを演算する。
次に、電力制御・変調率演算部30について詳細に説明する。
図4は、図1の電力制御・変調率演算部の構成を示す説明図である。図4に示すように、電力制御・変調率演算部30は、電力制御手段35、変調率演算手段36、変調率補正手段37、及び加算器38a,38bを有している。
【0019】
ここでは、電力制御手段35について説明し、変調率演算手段36、変調率補正手段37、及び加算器38a,38bについては、後述する。
電力制御手段35は、減算器39a,39b、乗算器40、及び加算器41を有している。先ず、減算器39aにより、第1直流電圧源11a側の直流電圧値の半値Vdc_a/2から、モータ電圧指令値vu,vv,vwを減算する。また、モータ電圧指令値vu,vv,vwの符号が負の場合は、−Vdc_a/2とvu,vv,vwの差をとる。次に、乗算器40により、減算器39aからの出力である、Vdc_a/2とvu,vv,vwの差に電力係数KPaを乗算する。
【0020】
次に、加算器41により、乗算器40から出力された乗算結果に、モータ電圧指令値vu,vv,vwを加算することで、第1直流電圧源11a側が出力する電圧指令値vu_a,vv_a,vw_aを求める。
vu_a=vu+KPa(Vdc/2−vu
vv_a=vv+KPa(Vdc/2−vv) …(3)
vw_a=vw+KPa(Vdc/2−vw
【0021】
一方、第2直流電圧源11b側の電圧指令値vu_b,vv_b,vw_bは、減算器38で、モータ電圧指令値vu,vv,vwから、第1直流電圧源11a側の電圧指令値vu_a,vv_a,vw_aを減算して求める。
vu_b=vu−vu_a
vv_b=vv−vv_a …(4)
vw_b=vw−vw_a
なお、第2直流電圧源11b側が回生状態である場合は、第2直流電圧源11b側の電圧指令値vu_b,vv_b,vw_bの符号は負である。
【0022】
式(3)が示すように、電力係数KPaを可変することによって、第1直流電圧源11a側の電圧指令値vu_a,vv_a,vw_a、第2直流電圧源11b側の電圧指令値vu_b,vv_b,vw_bは、振幅が変化する。即ち、第2直流電圧源11b側が力行状態である場合は、
KPa→大のとき
vu_a,vv_a,vw_a→大、vu_b,vv_b,vw_b→小
KPa→小のとき
vu_a,vv_a,vw_a→小、vu_b,vv_b,vw_b→大
【0023】
となる。これは、モータ電圧指令値vu,vv,vwを一定にする条件の下で、第1直流電圧源11a側と第2直流電圧源11b側の双方が力行状態にある場合、一方の電源、例えば第1直流電圧源11a側の出力が大きくなれば、その分他方の電源の出力が小さくなることを意味する。
【0024】
また、第2直流電圧源11b側が回生状態である場合は、第2直流電圧源11b側の電圧指令値vu_b,vv_b,vw_bの符号は負であるので、
KPa→大のとき
vu_a,vv_a,vw_a→大、−vu_b,−vv_b,−vw_b→大
KPa→小のとき
vu_a,vv_a,vw_a→小、−vu_b,−vv_b,−vw_b→小
となる。
【0025】
これは、モータ電圧指令値vu,vv,vwを一定にする条件の下で、第1直流電圧源11a側が力行状態にあり、第2直流電圧源11b側が回生状態にある場合、力行側である第1直流電圧源11a側の出力が大きくなれば、その分回生側である他方の電源の回生量が大きくなることを意味する。
このようにして、第1直流電圧源11a及び第2直流電圧源11bから出力される電圧を変化させることができる。これにより、第1直流電圧源11a及び第2直流電圧源11bから出力される電力を制御する。
【0026】
上述した構成を有することにより、第1直流電圧源11aが出力できる瞬時最大電圧範囲を有効に使って電力を制御することができる。
図5は、図1の電力変換装置における電源が出力可能な出力電圧ベクトル範囲の説明図である。図5に示すように、第1直流電圧源11a側の電圧指令値が正弦波であることを前提とした場合、第1直流電圧源11a側が出力可能な電圧ベクトルの範囲は、図中の円内となるが、上記構成を有する電力変換装置10により電力係数KPaを可変とすることで、出力可能な電圧ベクトルの範囲を、図中の正6角形内にまで拡大することができる。
【0027】
従って、電力制御範囲を拡大することができ、或いは同一の電力制御システムを設計した場合でも直流の電圧をより低く設定することができるため、電力変換器の効率を向上させることができる。また、燃料電池とバッテリー等を用いた直流電圧が可変するシステムに対応した場合においても、バッテリーに回生する電力量を多くすることができるため、バッテリーの充電量(State of Charge:SOC)を柔軟に制御することができ、安定性を高めることができる。
また、電力指令値に応じて電圧指令値を生成することで、電力指令値が急峻に変化する場合であっても安定して電力を制御することができる。
【0028】
また、電力係数KPaは、複数の二次元マップを参照することにより求める。
図6は、電力係数KPaを生成するための複数の二次元マップを示す説明図である。図6に示す、モータ力率cosφ、モータ電流振幅I、電力指令値Paをパラメータとする複数の二次元マップを参照することによって、電力係数KPaを求める。
【0029】
上述の通り、モータ電圧指令値vu,vv,vwを一定にする条件の下で、第1直流電圧源11a側が力行状態にあり、第2直流電圧源11b側が回生状態にある場合、KPaを大きくすると、力行側である第1直流電圧源11a側の出力が大きくなり、その分回生側である他方の電源の回生量も大きくなるが、第1直流電圧源の出力電圧と第2直流電圧源の入力電圧とに大小がある場合、第1直流電圧源が出力する電力量から交流電動機が消費する電力量を引いた移動電力量と、第2直流電圧源に入力される電力量とが同量となる範囲内で、電力係数KPaを大きくする。また、第1直流電圧源の出力電圧と第2直流電圧源の入力電圧とに大小が無い場合、電力係数KPaは1/2を超えない値の範囲に設定される。
【0030】
一般に電力は、電圧と電流と通電時間の積から算出される。なお、この通電時間とは、後述する図13に示すような1キャリア周期中での各電圧源のON時間に相当する。つまり、上記電力係数を変化させると、このON時間が変化することになる。
ここでON時間と電力係数の関係を示すと、1キャリア周期中での第1直流電圧源のON時間は、モータ電力印加分時間と移動電力用時間(電力係数KPa)との和となり、第2直流電圧源源のON時間は、移動電力用時間(電力係数KPa)となる。
【0031】
つまり、各電圧源のON時間の和が、1キャリア周期となるときがON時間の増大上限、すなわち電力係数KPaの上限となる。この関係を考慮し、本願では、モータへの印加電圧分を引いた第1直流電圧源からの出力電圧と、第1直流電圧源に通電する電流と、そのON時間との積から得られる移動電力量と、第2直流電圧源の入力電圧と、第2直流電圧源に通電する電流と、そのON時間との積から得られる入力電力量とが、同量となるようにしつつ、電力係数KPaを増大操作(=ON時間を増大操作)することでモータへのトルク変動を生じさせずに、電力移動量を増大させることを可能とする。
このように構成することで、モータの運転状態に応じて係数をきめ細かく可変することにより、電源間の電力移動がモータの運転に及ぼす影響を抑制し、モータの運転を安定化させることができる。
【0032】
また、上記マップにより係数を求めることによって計算量を減らすことができるため、駆動制御装置を安価に構成することができる。更に、係数にリミットをかけることによって、簡単な計算で出力電圧のオーバーフロー等によるフェールを防止することができる。加えて、係数を徐々に可変することにより、急激な電力変化によるトルクショック等を抑制することができる。
次に、電力変換装置10の動作例について説明する。
【0033】
図7は、図1の電力変換装置における、第1直流電圧源側電圧指令値、第2直流電圧源側電圧指令値及びモータ電圧指令値と、第1直流電圧源及び第2直流電圧源の電力の関係(その1)をグラフで示し、(a)はKPa=1/2の場合の各電圧指令値の説明図、(b)は各電源の出力電力の説明図である。図8は、図1の電力変換装置における、第1直流電圧源側電圧指令値、第2直流電圧源側電圧指令値及びモータ電圧指令値と、第1直流電圧源及び第2直流電圧源の電力の関係(その2)をグラフで示し、(a)はモータ電圧指令値が電圧リミットに張り付いている場合の各電圧指令値の説明図、(b)は各電源の回生電力の説明図である。
【0034】
なお、図7及び図8において、(a)は横軸が時間(Time[msec])、縦軸が指令電圧[V]、(b)は横軸が時間(Time[msec])、縦軸がV1,V2電力[W]である。
【0035】
図7に示すように、上記構成を有する電力変換装置10により、電力係数KPa=1/2の場合、第1直流電圧源11aから出力される電圧指令値vu_aと第2直流電圧源11bから出力される電圧指令値vu_bの和が、モータ電圧指令値vuに等しく、第1直流電圧源11a側電圧指令値vu_aはモータ電圧指令値vuより大きく、第2直流電圧源11b側電圧指令値vu_bは負の電圧指令が生成される((a)参照)。これに対応する第1直流電圧源11a側の電力及び第2直流電圧源11b側の電力が、それぞれ出力される((b)参照)。
【0036】
また、図8に示すように、上記構成を有する電力変換装置10により、モータ電圧指令値が電圧リミットに張り付いている場合であっても、充電電力を発生させるための第1直流電圧源11a側電圧指令値vu_aが生成される((a)参照)。このように第1直流電圧源11a側電圧指令値vu_aを生成した場合、それに対応する第1直流電圧源11a側の回生電力及び第2直流電圧源11b側の回生電力が出力される((b)参照)。
【0037】
図9は、図5の出力電圧ベクトル範囲の部分拡大図である。図5に示すように、第1直流電圧源11aが出力する電圧ベクトルをv_a、第2直流電圧源11bが出力する電圧ベクトルをv_b、モータMへの電圧ベクトルをvとすれば、v_aとv_bの和はvに等しくなる。また、v_aはvと同方向でv_bの分長いベクトルとなる。v_bはvの反対方向のベクトルを持つベクトルとなる。なお、図中、領域Aは、出力可能な電圧ベクトルの範囲が円内から正6角形内にまで拡大されたことによる拡大部分である(図5参照)。
【0038】
次に、変調率演算とPWMパルス生成について説明する。この説明は、U相についてのみ行うが、V相、W相についても全く同様の操作を行う。
変調率演算に際し、先ず、変調率を演算する。図4に示すように、変調率演算手段36は、乗算器42a,42bを有しており、乗算器42aに第1直流電圧源11aの電圧Vdc_a、乗算器42bに第2直流電圧源11bの電圧Vdc_bがそれぞれ入力することにより変調率を演算し、U,V,W各相の正規格化した電圧指令である瞬時変調率指令値mu_a,mu_b,mv_a,mv_b,mw_a,mw_bを生成する。
【0039】
ここでは、U相の第1直流電圧源11a分電圧指令vu_aと第2直流電圧源11b分電圧指令vu_bを、それぞれの直流電圧の半分の値(Vdc_a/2,Vdc_b/2)で正規化することにより、第1直流電圧源11a分瞬時変調率指令値mu_aと第2直流電圧源11b分瞬時変調率指令値mu_bを求める。
mu_a=vu_a/(Vdc_a/2)
mu_b=vu_b/(Vdc_b/2)…(5)
【0040】
次に、変調率を補正する。図4に示すように、変調率補正手段37は、変調率オフセット演算器37aを有しており、得られた変調率を出力するために、PWM周期の時間幅を配分し、最終的な変調率指令値の演算を行う。
変調率オフセット演算器37aで、第1直流電圧源11a電源電圧Vdc_a及び第2直流電圧源11b電源電圧Vdc_bと、電力比率の関係値rto_pa,rto_pbから、次の変調率オフセット値ma_offset0,mb_offset0を演算する。ここで、rto_pbは、前述の式(2)に基づき演算する。
rto_pb=1−rto_pa…(6)
【0041】
【数1】

【0042】
得られた変調率オフセット値ma_offset0,mb_offset0は、加算器38aと加算器38b(図4参照)で、それぞれ第1直流電圧源11a分瞬時変調率指令値mu_a、第2直流電圧源11b分瞬時変調率指令値mu_bと加算する。
mu_a_c=mu_a+ma_offset−1
mu_b_c=mu_b+mb_offset−1
PWMパルス生成に際し、第1直流電圧源11a用キャリア及び第2直流電圧源11b用キャリアとして三角波を設ける。
【0043】
図10は、PWMパルス生成に際し用いる三角波の説明図である。図10に示すように、第1直流電圧源11a用キャリア(電源a用キャリア)は、第1直流電圧源11aの電圧Vdc_aから電圧パルスを出力するため、各スイッチを駆動するPWMパルスを生成するための三角波キャリアである。第2直流電圧源11b用キャリア(電源b用キャリア)は、第2直流電圧源11bの電圧Vdc_bから電圧パルスを出力するため、各スイッチを駆動するPWMパルスを生成するための三角波キャリアである。これら二つの三角波キャリアは、上限+1、下限−1の値をとり、180度の位相差を持つ。
【0044】
次に、U相の各スイッチ手段(半導体スイッチ)の駆動について説明する。
図11は、図2のU相についての回路図である。図11に示す、U相の各スイッチ手段を駆動する信号A〜Eを、次のようにする。
A:第1直流電圧源11aから出力端子の方向へ導通するスイッチ手段の駆動信号
B:出力端子から負極の方向へ導通するスイッチ手段の駆動信号
C:出力端子から第1直流電圧源11aの方向へ導通するスイッチ手段の駆動信号
D:第2直流電圧源11bから出力端子の方向へ導通するスイッチ手段の駆動信号
E:出力端子から第2直流電圧源11bの方向へ導通するスイッチ手段を駆動信号
【0045】
先ず、第1直流電圧源11aから電圧パルスを出力する際のパルス生成方法について述べる。第1直流電圧源11aからPWMパルスを出力する際に、駆動信号Aをオン(ON)状態にする必要がある。第1直流電圧源11aの正極と第2直流電圧源11bの正極の間に電位差があり、第1直流電圧源11aの電源電圧Vdc_aが第2直流電圧源11bの電源電圧Vdc_bより大きい(Vdc_a>Vdc_b)とき、駆動信号Aと駆動信号Eが共にオン状態になると、両正極間を短絡する電流が流れることになる。
【0046】
例えば、同時に駆動信号Aをオン状態からオフ(OFF)状態へ、駆動信号Eをオフ状態からオン状態へ切り換えた場合、駆動信号Aが完全にオフ状態になる迄に時間を要するため、駆動信号Eのオン状態時と重なり、共にオン状態になる時間が生じて、短絡電流が流れ、この経路に設置された半導体スイッチの発熱量が増加する。
このような発熱の増加を予防するために、駆動信号Aと駆動信号Eが共にオフ状態になる時間を経過した後に、駆動信号Aと駆動信号Eをオフ状態からオン状態へ切り換えるようにする。このように駆動信号に短絡防止時間(デッドタイム)を付加したパルス生成を行う。
【0047】
この駆動信号Aと駆動信号Eにデッドタイムを付加するのと同様に、駆動信号Eと駆動信号Cにデッドタイムを付加し、更に、正極と負極の短絡防止のためには、駆動信号Aと駆動信号B、駆動信号Eと駆動信号Bにデッドタイムを付加する。
次に、駆動信号Aと駆動信号Eにデッドタイムを付加する方法を説明する。
【0048】
図12は、三角波比較による駆動信号生成の一例(その1)を示す説明図である。図12に示すように、デッドタイムを付加した駆動信号生成を行うため、変調率指令値mu_a_cからデッドタイム分オフセットした変調率指令値mu_a_c_up,mu_a_c_downを、次のように求める。
mu_a_c_up=mu_a_c+Hd
mu_a_c_down=mu_a_c−Hd
ここで、デッドタイム相当分Hdは、三角波の振幅(底辺から頂点まで)Htrと三角波周期Ttr、デッドタイムTdから次のように求める。
Hd=2Td・Htr/Ttr
【0049】
三角波キャリアと変調率指令値mu_a_c,mu_a_c_up,mu_a_c_downの比較を行って、半導体スイッチの駆動信号Aと駆動信号Eを、次のルールに従って求める。
mu_a_c_down≧第1直流電圧源11a用キャリア ならば、駆動信号A=ON
mu_a_c≦第1直流電圧源11a用キャリア ならば、駆動信号A=OFF
mu_a_c≧第1直流電圧源11a用キャリア ならば、駆動信号E=OFF
mu_a_c_up≦第1直流電圧源11a用キャリア ならば、駆動信号E=ON
【0050】
このように、駆動信号を生成することで、駆動信号Aと駆動信号Eの間にはデッドタイムTdを設けることができ、正極間の短絡を防止することができる。
図13は、三角波比較による駆動信号生成の一例(その2)を示す説明図である。図13に示すように、第2直流電圧源11bから電圧パルスを出力する際のパルス生成方法は、第1直流電圧源11aの場合と同様であり、変調率指令値mu_b_cからデッドタイム分オフセットした変調率指令値mu_b_c_up,mu_b_c_downを求める。
mu_b_c_up=mu_b_c+Hd
mu_b_c_down=mu_b_c−Hd
【0051】
更に、第2直流電圧源11b用キャリアとの比較を行った後、半導体スイッチの駆動信号Dと駆動信号Cを、次のルールに従って求める。
mu_b_c_down≧第2直流電圧源11b用キャリア ならば、駆動信号D=ON
mu_b_c≦第2直流電圧源11b用キャリア ならば、駆動信号D=OFF
mu_b_c≧第2直流電圧源11b用キャリア ならば、駆動信号C=OFF
mu_b_c_up≦第2直流電圧源11b用キャリア ならば、駆動信号C=ON
このようにして、駆動信号Dと駆動信号Cの間にもデッドタイムTdを設けることができ、正極間の短絡を防止することができる。
【0052】
また、駆動信号Bは、生成された駆動信号Eと駆動信号Cの論理積(AND)から生成する。
B=E・C
駆動信号Eは、駆動信号Aとの間にデッドタイムが付加した駆動信号であり、駆動信号Cは駆動信号Dとの間にデッドタイムが付加した駆動信号である。このため、駆動信号Bを駆動信号Eと駆動信号Cの論理積(AND)から生成することで、駆動信号Bと駆動信号A、駆動信号Bと駆動信号Eにも、デッドタイムを生成することができる。
【0053】
図14は、三角波比較による駆動信号生成においてデッドタイムが付加されたパルス生成の一例を示す説明図である。
このようにして生成されたPWMパルスに基づき、電力変換器12の各スイッチ手段をON・OFF駆動し、出力電圧パルスを生成する。周期毎に、第1直流電圧源11aの電圧Vdc_aから生成された電圧パルスと、第2直流電圧源11bの電圧Vdc_bから生成された電圧パルスとの平均をとると、元の3相電圧指令値vu,vv,vwを実現する電圧パルスが生成されていることになる。
(第2実施の形態)
【0054】
図15は、この発明の第2実施の形態に係る電力制御・変調率演算部の構成を概略して示す説明図である。図15に示すように、電力制御・変調率演算部43は、電力制御・変調率演算部30に電圧指令生成ブロック44と切替手段45を加えた構成を有しており、切替手段45により、電力制御手段35と電圧指令生成ブロック44を切り換えて使用する他は、電力変換器30と同様の構成及び作用を有している。以下の説明においては、第1実施の形態に係る電力制御・変調率演算部30との差異についてのみ説明する。
【0055】
電圧指令生成ブロック44は、乗算器46及び減算器47を有しており、第1直流電圧源11a側の電圧指令値vu_a,vv_a,vw_aに電力分配比率rto_paを乗じることで、電力配分を行うための第1直流電圧源11a側電圧指令、第2直流電圧源11b側電圧指令を生成する。
【0056】
乗算器46は、モータ電圧指令値vu,vv,vwに、それぞれ電力分配比率rto_paを乗じて、第1直流電圧源11a側の電圧指令値vu_a,vv_a,vw_aを演算する。
vu_a=vu・rto_pa
vv_a=vv・rto_pa
vw_a=vw・rto_pa
【0057】
一方、第2直流電圧源11b側の電圧指令値vu_b,vv_b,vw_bは、モータ電流制御の制御電圧から得られた電圧指令値(モータ電圧指令値)vu,vv,vwから、第1直流電圧源11a側の電圧指令値vu_a,vv_a,vw_aを減算器47で減算して求める。
vu_b=vu−vu_a
vv_b=vv−vv_a
vw_b=vw−vw_a
【0058】
そして、第2実施の形態に係る電力制御・変調率演算部43においては、切替手段45の切り換え操作により、電力制御手段35と電圧指令生成ブロック44を切り換えることで、第1直流電圧源11a側の電圧指令値vu_a,vv_a,vw_aと第2直流電圧源11b側の電圧指令値vu_b,vv_b,vw_bの生成方法を切り換えている。
このように構成することによって、電力の分配比率から第1直流電圧源11a側の電圧指令値を生成する手段(電圧指令生成ブロック44)と、第1直流電圧源11a側の直流電圧値とモータ電圧指令値との差に応じた電圧指令値を生成する手段(電力制御手段35)とを切り替えることができる。
【0059】
しかしながら、第1直流電圧源11a側の直流電圧値とモータ電圧指令値との差に応じた電圧指令値を生成する手段(電力制御手段35)では、前述のように電力制御範囲を拡大することができるが、出力電力が若干脈動することがある(図7参照)。
そこで、第1電圧指令値を生成する際に、電力制御手段35或いは電圧指令生成ブロック44のいずれかに切り替えることができるようにし、必要な場合にだけ、電圧指令生成ブロック44により第一電圧指令値を生成することで、電力制御範囲を拡大させつつ安定的に電力制御を行うことができる。
(第3実施の形態)
【0060】
図16は、この発明の第3実施の形態に係る電力変換装置の構成を概略して示す説明図である。図16に示すように、電力変換装置50は、第1直流電圧源11aとしてバッテリが、第2直流電圧源11bとして燃料電池が、それぞれ用いられている他は、電力変換装置10と同様の構成及び作用を有している。以下の説明においては、第1実施の形態に係る電力変換装置10との差異についてのみ説明する。
【0061】
図17は、図16の電力変換装置を適用した燃料電池自動車の一例を示す概略構成説明図である。図17に示すように、燃料電池自動車51には、第1直流電圧源11aをバッテリとし、第2直流電圧源11bを燃料電池とする電源構成と共に、電力変換器12、駆動制御装置13を有する電力変換装置50(図16参照)が適用されている。
そして、トルク指令Te*及び電力目標値Paが駆動制御装置13に入力することにより、バッテリからの電力Paと燃料電池からの電力Pbが入力する電力変換器12から、車輪駆動用のモータMへ、モータ供給電力Pmが出力される。モータ供給電力Pmが入力しモータMが駆動されることにより、モータMの駆動力が駆動軸(ドライブシャフト)を介して左右後輪52a,52bに伝達される。
【0062】
このような電力変換装置の電源構成を燃料電池とバッテリとするシステムでは、常にバッテリのSOC(充電量)を一定に保つ制御が要求されるが、モータの駆動電圧指令値vu*,vv*,vw*が大きい場合、バッテリの充電量を保つための充電電力を確保できない場合がある。このため、電源電圧を高める等の対策を行う必要があり、コスト高になってしまう。
しかしながら、電力変換器12が出力可能な瞬時最大電圧値とモータ電圧指令値との差に応じた第1直流電圧源11a側電圧指令値を生成することによって、充電電力を十分に確保することができるので、上記システムを安価に構成することができる。
(第4実施の形態)
【0063】
図18は、この発明の第4実施の形態に係る電力変換装置の構成を概略して示す説明図である。図18に示すように、電力変換装置55は、第1直流電圧源11aとして42Vバッテリが、第2直流電圧源11bとして14Vバッテリが、それぞれ用いられており、42Vバッテリからなる第1直流電圧源11aには、発電機56が接続されている。この42Vバッテリは、発電機56で発電された電力により充電される。その他の構成及び作用は、電力変換装置10と同様である。
【0064】
以下の説明においては、第1実施の形態に係る電力変換装置10との差異についてのみ説明する。
図19は、図18の電力変換装置を適用した自動車の一例を示す概略構成説明図である。図19に示すように、自動車57には、第1直流電圧源11aを42Vバッテリとし、第2直流電圧源11bを14Vバッテリとする電源構成と共に、電力変換器12、駆動制御装置13を有する電力変換装置55(図18参照)が適用されている。
【0065】
この自動車57は、電力変換装置55に加え、左右前輪58a,58bを駆動するエンジン59、オルタネータ60、後輪駆動用のモータM、及びワイパーやエアコン等の電装系61を有している。
そして、トルク指令Te*及び電力目標値Paが駆動制御装置13に入力することにより、42Vバッテリからの電力Paと14Vバッテリからの電力Pbが入力する電力変換器12からモータMへ、モータ供給電力Pmが出力される。モータ供給電力Pmが入力しモータMが駆動されることにより、モータMの駆動力が駆動軸(ドライブシャフト)を介して左右後輪62a,62bに伝達される。
【0066】
このような電力変換装置の電源構成を燃料電池とバッテリとするシステムでは、第2直流電圧源11bである14Vバッテリは、電装系61に電力を供給するが、モータMの駆動電圧が大きい場合、電力を賄うために更に追加のオルタネータ等を配置する必要がある。このため、オルタネータのレイアウトの分、車室が狭くなってしまう。
しかしながら、電力変換器12が出力可能な瞬時最大電圧値とモータ電圧指令値との差に応じた第1直流電圧源11a側電圧指令値を生成することによって、充電電力を十分に確保することができ、オルタネータ無しで上記システムを構成することができる。
【0067】
上述したように、この発明に係る電力変換装置は、複数の直流電圧源(第1直流電圧源11aと第2直流電圧源11b)と接続し、前記複数の直流電圧源の各入出力電圧からそれぞれ入出力電圧パルスを生成し、複数の入出力電圧パルスを合成することによって交流電動機を駆動する電力変換器(電力変換器12)と、前記電力変換器の駆動を制御する駆動制御手段(駆動制御装置13)とを備える電力変換装置において、前記駆動制御手段は、前記各入出力電圧の指令値(電圧指令値vu_aと電圧指令値vu_b、図7,8参照)を生成する入出力電圧指令値生成手段(電力制御・変調率演算部30)と、前記入出力電圧指令値に基づき、前記電力変換器を駆動する信号を生成する駆動信号生成手段(PWMパルス生成部31)とを有し、前記入出力電圧指令値生成手段は、前記複数の直流電圧源の内の第1直流電圧源から、電力を充放電可能な第2直流電圧源へ電力移動させる場合に、前記第1直流電圧源の出力電圧と前記第2直流電圧源の入力電圧との和である前記交流電動機の駆動電圧(モータ電圧指令値vu、図7,8参照)を変化させることなく、前記第1直流電圧源からの出力を増大させるように、前記第1直流電圧源の最大出力電圧(Vdc/2、図7,8参照)と前記交流電動機の駆動電圧との差に応じて、前記第1直流電圧源の出力電圧の指令値である第1出力電圧指令値(電圧指令値vu_a、図7,8参照)と、前記第2直流電圧源の入力電圧の指令値である第2入力電圧指令値(電圧指令値vu_b、図7,8参照)を生成することを特徴としている。
【0068】
上記構成を有することにより、電力制御範囲を拡大することができる。
複数の駆動電圧を合成して生成された電圧である最終駆動電圧とは異なる電圧波形を生成することによって、複数の電源それぞれから供給される各電力を大きくすることができる。従って、各電源からはモータの駆動電圧とは異なる電圧が出力されるため、各電源から出力される電力を調整でき、電力の絶対値を大きくすることができる。これにより、電力制御範囲を拡大することができるため、多様な制御システムで効率が良い。また、この制御システムを、簡単な構成で安価に実現することができる。
【0069】
また、電力指令の変化が大きくても制御することができる。つまり、第1、第2電圧指令値を第1、第2電力指令値から求めるため、電力指令値に応じて電圧指令値を生成することで、電力指令値が急峻に変化する場合であっても安定して電力を制御することができる。
【0070】
また、電力変換器が出力可能な瞬時最大電圧値とモータ電圧指令値との差に応じた第1の電圧指令値を生成することにより、第1の電源が出力できる瞬時最大電圧範囲を有効に使って電力を制御することができる。即ち、第1、第2電圧指令値が正弦波であることを前提とした場合、第1、第2電圧指令値が出力可能な電圧ベクトルは、正六角形の内接円となるが、この発明により、出力電圧のベクトル範囲を正六角形の範囲(領域A、図9参照)まで拡大することができる。
【0071】
従って、電力制御範囲を拡大することができ、或いは同一の電力制御システムを設計した場合でも、直流の電圧をより低く設定することができるため、電力変換器の効率を高くすることができる。また、燃料電池とバッテリー等を用いた直流電圧が可変するシステムに対応した場合においても、バッテリーに回生する電力量を多くすることができるため、バッテリーのSOCを柔軟に制御することができ、安定性を高めることができる。
【0072】
また、この発明において、前記入出力電圧指令値生成手段は、前記第1直流電圧源の最大出力電圧(Vdc/2、図7,8参照)と前記交流電動機の駆動電圧(モータ電圧指令値vu、図7,8参照)との差に、所定の係数(KPa)を乗じた値を、前記交流電動機の駆動電圧に加算して前記第1出力電圧指令値を生成し、前記交流電動機の駆動電圧から前記第1出力電圧指令値を減算し前記第2入力電圧指令値を生成することが好ましい。
【0073】
なお、上記生成方法に限定されることは無く、前記入出力電圧指令値生成手段は、前記第1直流電圧源の最大出力電圧(Vdc/2、図7,8参照)と前記交流電動機の駆動電圧(モータ電圧指令値vu、図7,8参照)との差に基づき、交流電動機の要求駆動電圧を変動させない範囲で加算値を算出し、その加算値を前記交流電動機の駆動電圧に加算して前記第1出力電圧指令値を生成し、前記交流電動機の駆動電圧から前記第1出力電圧指令値を減算し前記第2入力電圧指令値を生成するものであれば、本発明の効果を得ることができる。
【0074】
上記構成を有することにより、トルクショックを抑制することができる。つまり、第1電圧指令は、電力変換器が出力可能な瞬時最大電圧値とモータ電圧指令値との差に係数を乗じたものから求める。従って、係数を可変させるだけで第1直流電圧源、第2直流電圧源電源の電力を制御することができるため、制御系を安価に構成することができる。また、所定の係数を徐々に可変することにより、急激な電力変化によるトルクショック等を抑制することができる。
また、この発明において、前記出力電圧指令値生成手段は、前記第1直流電圧源からの出力増大要求が大きいほど前記所定の係数を大きくすることが好ましい。
【0075】
また、この発明において、前記所定の係数の上限値を1/2とすることが好ましい。
上記構成を有することにより、フェールを防止することができる。所定の係数は、1/2を超えない範囲で設定される、即ち、1/2を出力可能な最大値としてリミットをかけることにより、簡単な計算で出力電圧のオーバーフロー等によるフェールを防止することができる。
【0076】
また、この発明において、前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源との電力分配比率から、前記第1直流電圧源の出力電圧の指令値である第3出力電圧指令値と前記第2直流電圧源の入力電圧の指令値である第4入力電圧指令値とを生成し、前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源との使用状態に応じて、前記第1出力電圧指令値と前記第2入力電圧指令値とにより前記電力変換器を駆動する信号を生成する場合と、前記第3出力電圧指令値と前記第4入力電圧指令値とにより前記電力変換器を駆動する信号を生成する場合とを切り替える切替手段を有することが好ましい。
【0077】
上記構成を有することにより、電力制御範囲を拡大させつつ安定的に電力制御することができる。つまり、切替手段は、電力の分配比率から第1電圧指令値を生成する手段と、電力変換器が出力可能な瞬時最大電圧値とモータ電圧指令値との差に応じた第1の電圧指令値を生成する手段と、を切り替える。電力の分配比率から第1電圧指令値を生成する手段は、第1、第2電圧指令値が正弦波であることを前提とした制御方法であるため、出力電力が脈動せず一定となる。また、計算が簡単である。
【0078】
また、この発明において、前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源との使用状態が力行−回生時は、前記第1出力電圧指令値と前記第2入力電圧指令値とによって前記電力変換器を駆動する信号を生成し、前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源との使用状態が力行−力行時は、前記第3出力電圧指令値と前記第4入力電圧指令値とによって前記電力変換器を駆動する信号を生成することが好ましい。
【0079】
また、この発明に係る自動車システムは、この発明に係る電力変換装置を搭載し、前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源を燃料電池とバッテリにより構成して、前記電力変換装置から出力された供給電力を、駆動輪を駆動する駆動力発生源に供給することを特徴としている。
【0080】
上記構成を有することにより、燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle:FCV)システムにおいてコストを低くすることができる。つまり、燃料電池とバッテリのシステムでは、常にバッテリのSOC(充電量)を一定に保つ制御が要求されるが、モータの駆動電圧指令値vu,vv,vwが大きい場合、バッテリの充電量を保つための充電電力を確保できない場合があるため、電源電圧を高める等の対策を行う必要があり、コスト高となる。しかしながら、電力変換器が出力可能な瞬時最大電圧値とモータ電圧指令値との差に応じた第1の電圧指令値を生成することによって、充電電力を十分に確保することができ、システムを安価に構成することができる。
【0081】
また、この発明に係る自動車システムは、この発明に係る電力変換装置を搭載し、前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源を42Vバッテリと14Vバッテリにより構成して、前記電力変換装置から出力された供給電力を、駆動輪を駆動する駆動力発生源に供給することを特徴としている。
【0082】
上記構成を有することにより、二電源系自動車システムにおいてコストを低くすることができる。つまり、第1の電源と第2の電源は42Vバッテリと14Vバッテリであり、14Vバッテリは電装系に電力を供給するが、モータの駆動電圧が大きい場合、電力を賄うために更に追加のオルタネータ等を配置する必要があり、オルタネータのレイアウトの分、車室が狭くなる。しかしながら、電力変換器が出力可能な瞬時最大電圧値とモータ電圧指令値との差に応じた第1の電圧指令値を生成することによって、充電電力を十分に確保することができ、オルタネータを必要としないでシステムを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】この発明の第1実施の形態に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の電力変換器の回路図である。
【図3】図1の電流制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】図1の電力制御・変調率演算部の構成を示す説明図である。
【図5】図1の電力変換装置における電源が出力可能な出力電圧ベクトル範囲の説明図である。
【図6】電力係数KPaを生成するための複数の二次元マップを示す説明図である。
【図7】図1の電力変換装置における、第1直流電圧源側電圧指令値、第2直流電圧源側電圧指令値及びモータ電圧指令値と、第1直流電圧源及び第2直流電圧源の電力の関係(その1)をグラフで示し、(a)はKPa=1/2の場合の各電圧指令値の説明図、(b)は各電源の出力電力の説明図である。
【図8】図1の電力変換装置における、第1直流電圧源側電圧指令値、第2直流電圧源側電圧指令値及びモータ電圧指令値と、第1直流電圧源及び第2直流電圧源の電力の関係(その2)をグラフで示し、(a)はモータ電圧指令値が電圧リミットに張り付いている場合の各電圧指令値の説明図、(b)は各電源の回生電力の説明図である。
【図9】図5の出力電圧ベクトル範囲の部分拡大図である。
【図10】PWMパルス生成に際し用いる三角波の説明図である。
【図11】図2のU相についての回路図である。
【図12】三角波比較による駆動信号生成の一例(その1)を示す説明図である。
【図13】三角波比較による駆動信号生成の一例(その2)を示す説明図である。
【図14】三角波比較による駆動信号生成においてデッドタイムが付加されたパルス生成の一例を示す説明図である。
【図15】この発明の第2実施の形態に係る電力制御・変調率演算部の構成を概略して示す説明図である。
【図16】この発明の第3実施の形態に係る電力変換装置の構成を概略して示す説明図である。
【図17】図16の電力変換装置を適用した燃料電池自動車の一例を示す概略構成説明図である。
【図18】この発明の第4実施の形態に係る電力変換装置の構成を概略して示す説明図である。
【図19】図18の電力変換装置を適用した自動車の一例を示す概略構成説明図である。
【符号の説明】
【0084】
10,50,55 電力変換装置
11a 第1直流電圧源
11b 第2直流電圧源
12 電力変換器
13 駆動制御装置
14 共通負極母線
15a,16a,17a,19a,19b,20a,20b,21a,21b,23a,23b,24a,24b,25a,25b 半導体スイッチ
15b,16b,17b ダイオード
18,22 正極母線
26,27 平滑コンデンサ
28 トルク制御部
29 電流制御部
30,43 電力制御・変調率演算部
31 PWMパルス生成部
32 3相/dq変換部
33 電流制御処理部
34 dq/3相変換処理部
35 電力制御手段
36 変調率演算手段
37 変調率補正手段
37a 変調率オフセット演算器
38a,38b,41 加算器
39a,39b 減算器
40,42a,42b 乗算器
44 電圧指令生成ブロック
45 切替手段
51 燃料電池自動車
52a,52b 左右後輪
56 発電機
57 自動車
58a,58b 左右前輪
59 エンジン
60 オルタネータ
61 電装系
M モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の直流電圧源と接続し、前記複数の直流電圧源の各入出力電圧からそれぞれ入出力電圧パルスを生成し、複数の入出力電圧パルスを合成することによって交流電動機を駆動する電力変換器と、前記電力変換器の駆動を制御する駆動制御手段とを備える電力変換装置において、
前記駆動制御手段は、
前記交流電動機の要求駆動電圧を演算する手段と、
前記各入出力電圧のの指令値を生成する入出力電圧指令値生成手段と、
前記入出力電圧指令値に基づき、前記電力変換器を駆動する信号を生成する駆動信号生成手段とを有し、
前記入出力電圧指令値生成手段は、
前記各入出力電圧の和が前記要求駆動電圧となるように、
前記第1直流電圧源の最大出力電圧と、前記要求駆動電圧の指令値である要求駆動電圧指令値との差に基づいて算出した加算値を前記要求駆動電圧指令値に加算して、前記第1直流電圧源の出力電圧の指令値である第1出力電圧指令値を生成し、
前記要求駆動電圧指令値と前記第1出力電圧指令値との差から前記第2直流電圧源の入力電圧の指令値である第2入力電圧指令値を生成する
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記入出力電圧指令値生成手段は、
前記第1直流電圧源の最大出力電圧と、前記要求駆動電圧指令値との差に対して所定の比を維持するよう、前記第1出力電圧指令値を生成することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記出力電圧指令値生成手段は、
前記第1直流電圧源からの出力増大要求が大きいほど前記所定の比を大きくすることを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記入出力電圧指令値生成手段は、
前記第1直流電圧源の最大出力電圧と、前記要求駆動電圧指令値との差に、所定の係数を乗じた値を、前記要求駆動電圧指令値に加算して前記第1出力電圧指令値を生成し、前記要求駆動電圧指令値から前記第1出力電圧指令値を減算し前記第2入力電圧指令値を生成する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記出力電圧指令値生成手段は、
前記第1直流電圧源からの出力増大要求が大きいほど前記所定の係数を大きくすることを特徴とする請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記第1直流電圧源が出力する電力量から前記交流電動機が消費する電力量を引いた移動電力量と、前記第2直流電圧源に入力される電力量とが同量となる範囲内で、前記所定の係数を大きくすることを特徴とする請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源の電圧が等しい場合、前記所定の係数の上限値を1/2とすることを特徴とする請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源との電力分配比率から、前記第1直流電圧源の出力電圧の指令値である第3出力電圧指令値と前記第2直流電圧源の入力電圧の指令値である第4入力電圧指令値とを生成し、
前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源との使用状態に応じて、前記第1出力電圧指令値と前記第2入力電圧指令値とにより前記電力変換器を駆動する信号を生成する場合と、前記第3出力電圧指令値と前記第4入力電圧指令値とにより前記電力変換器を駆動する信号を生成する場合とを切り替える切替手段を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源との使用状態が力行−回生時は、前記第1出力電圧指令値と前記第2入力電圧指令値とによって前記電力変換器を駆動する信号を生成し、
前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源との使用状態が力行−力行時は、前記第3出力電圧指令値と前記第4入力電圧指令値とによって前記電力変換器を駆動する信号を生成することを特徴とする請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の電力変換装置を搭載し、前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源を燃料電池とバッテリにより構成して、前記電力変換装置から出力された供給電力を、駆動輪を駆動する駆動力発生源に供給することを特徴とする自動車システム。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の電力変換装置を搭載し、前記第1直流電圧源と前記第2直流電圧源を42Vバッテリと14Vバッテリにより構成して、前記電力変換装置から出力された供給電力を、駆動輪を駆動する駆動力発生源に供給することを特徴とする自動車システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−4719(P2010−4719A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163755(P2008−163755)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】